(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188693
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】1,3-ブタンジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/132 20060101AFI20221214BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20221214BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
C07C29/132
C07C31/20 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096928
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 玄
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA21
4H006BC10
4H006BD81
4H006BE20
4H006FE11
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】
【課題】パラアルドールの水素化反応により1,3-ブタンジオールを製造する方法において、収率が高く、経済的な、1,3-ブタンジオールの製造方法を提供すること。
【解決手段】パラアルドールを水素化触媒の存在下で水素化して1,3-ブタンジオールを得るにあたり、第1反応器としてトリクルベッド型反応器を使用した後に、第2反応器として液相流通反応器を使用する。水素化触媒としては、ニッケルを含む触媒が挙げられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラアルドールを水素化触媒の存在下で水素化して1,3-ブタンジオールを得る方法であって、第1反応器としてトリクルベッド型反応器を使用した後に、第2反応器として液相流通反応器を使用する、1,3-ブタンジオールの製造方法。
【請求項2】
前記第1反応器及び前記第2反応器における水素化触媒は、ニッケルを含む触媒である、請求項1に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【請求項3】
前記水素化触媒のニッケル含有量は、5~90質量%である、請求項2に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【請求項4】
前記液相流通反応器の温度を120℃以下とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3-ブタンジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-ブタンジオールは、沸点207℃の粘稠な無色透明及び無臭の水溶性液体であり、様々な誘導体の原料として用いられている。例えば、長鎖のカルボン酸と1,3-ブタンジオールから形成されるエステルは、可塑剤として利用されている。また、1,3-ブタンジオールは、生体毒性の低さ及び安定性から、化粧品原料にも用いられている。1,3-ブタンジオールは、化粧品原料としては、保湿効果、抗菌性、べたつきが少ない等の特徴を有しているため、例えば、シャンプー、乳液などの幅広い製品に用いられている。
【0003】
1,3-ブタンジオールの主たる製造方法の一つは、アセトアルデヒドを縮合させてアセトアルドール(3-ヒドロキシブタナール)を得て、これを水素化する方法である。しかし、アセトアルドール自身は不安定であり、単一物質としての取扱いが困難であった。
【0004】
そこで、実際には、アセトアルデヒドを塩基性触媒の存在下で縮合させてアルドキサン(2,6-ジメチル-1,3-ジオキサン-4-オールの慣用名)を取得して、アルドキサンを加熱分解して生じるアセトアルデヒドを留去することで、アセトアルドールの二量体であるパラアルドール(4-ヒドロキシ-α,6-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-エタノールの慣用名)を得る(特許文献1)。
【0005】
そして、このパラアルドールを水素化反応の原料として用いて、1,3-ブタンジオールを製造する。また、アルドキサンを水素化反応の原料として用いてもよく、この場合には、エタノールが副生するものの1,3-ブタンジオールを製造することができる。
【0006】
したがって、本開示では、パラアルドール、及びアルドキサンは、アセトアルドールの等価体とみなし、これらを含めて「アセトアルドール類」と総称する。
【0007】
アセトアルドール類の水素化反応には、触媒として、一般的にスポンジニッケル触媒が用いられる。反応器としては、流動床である、連続懸濁気泡塔などが用いられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62-212384号公報
【特許文献2】特開2001-213822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、パラアルドールの水素化反応により1,3-ブタンジオールを製造する方法において、収率が高く、経済的な、1,3-ブタンジオールの製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、パラアルドールの水素化反応を少なくとも2種類の反応器を用いて実施し、第1反応器としてトリクルベッド型反応器を用い、第2反応器として液相流通反応器を使用することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の[1]から[4]を包含する。
[1]
パラアルドールを水素化触媒の存在下で水素化して1,3-ブタンジオールを得る方法であって、第1反応器としてトリクルベッド型反応器を使用した後に、第2反応器として液相流通反応器を使用する、1,3-ブタンジオールの製造方法。
[2]
前記第1反応器及び前記第2反応器における水素化触媒は、ニッケルを含む触媒である、[1]に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
[3]
前記水素化触媒のニッケル含有量は、5~90質量%である、[2]に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
[4]
前記液相流通反応器の温度を120℃以下とする、[1]~[3]のいずれか一項に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、収率が高く、経済的に、1,3-ブタンジオールを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能であることを理解されたい。
【0014】
一実施形態の1,3-ブタンジオールの製造方法では、下記反応式に示すように、アセトアルデヒドを出発原料とし、アセトアルドール類を水素化して、1,3-ブタンジオールを得ることができる。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
1.縮合工程
縮合工程は、アセトアルデヒドから、アセトアルドール、又は更にアルドキサンを得る工程である。アセトアルドール類は、水素化反応の原料となり、その製造方法は特に限定されるものではない。例えば、以下の方法により調製される。
【0019】
アセトアルデヒドに触媒量の塩基を作用させることで、アセトアルデヒド2分子が反応し、アセトアルドール1分子を得る。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いることができる。生成したアセトアルドールは不安定であるため、速やかに、アセトアルドール1分子とアセトアルデヒド1分子とが反応して、アルドキサン1分子を生ずる。本開示では、このような、アセトアルデヒドからアセトアルドールを、更にはアルドキサンを得る反応のことを縮合反応と呼び、縮合反応を行う工程を縮合工程と称することとする。
【0020】
縮合反応は平衡反応であるため、平衡組成に近付くと、反応の進行が遅くなる。その状態で塩基が存在すると、アセトアルドールから、更に縮合が進んだ三量体などの高沸成分が生成したり、アセトアルドールが脱水してクロトンアルデヒドが生成したりする。そこで、必要に応じて酸を加えて塩基を中和して、反応を停止する。酸としては、例えば、酢酸などの有機酸を用いることができる。
【0021】
縮合反応は、液相にて、温度20~50℃、圧力0.1~0.2MPaG(ゲージ圧)、反応時間2~20分で行うことができる。反応雰囲気は、窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガス下であることが好ましい。縮合反応に用いる反応器には制限はなく、例えば、槽型反応器が用いられる。
【0022】
2.熱分解工程
縮合工程で得られたアルドキサンを水素化することでも1,3-ブタンジオールを得ることはできるが、アルドキサン1分子からは、1,3-ブタンジオール1分子とともにエタノール1分子が生ずる。このため、エタノールの併産が好ましくない場合には、必要に応じて、アルドキサンの熱分解反応によりアルドキサンをパラアルドールに変換し、得られたパラアルドールを水素化する。これにより、エタノールを副生させることなく、1,3-ブタンジオールを得ることができる。
【0023】
アルドキサンを加熱すると、平衡反応により、アルドキサン1分子はアセトアルドール1分子とアセトアルデヒド1分子とに分解する。そして、ある温度及び圧力条件下では、アセトアルデヒドは気化し、系内から除去される。このとき残ったアセトアルドール2分子が会合することで、パラアルドール1分子が生成する。副生したアセトアルデヒドは、出発原料として再利用することができる。本開示では、このような、アルドキサンからパラアルドールとアセトアルデヒドとを得る反応のことを熱分解反応と呼び、熱分解反応を行う工程を熱分解工程と称することとする。
【0024】
パラアルドール1分子を水素化すると、1,3-ブタンジオール2分子を得ることができる。このため、熱分解反応を進めて、アルドキサンを完全にパラアルドールに転化してから水素化反応を行えば、エタノールは全く併産しない。しかしながら、アルドキサンをパラアルドールに転化する過程では、アセトアルドールの脱水によるクロトンアルデヒドの生成や、アセトアルドール、クロトンアルデヒド等の重合による高沸成分の生成が起こる。このため、実際には、アルドキサンの熱分解反応は適当な転化率で止められ、熱分解反応液として、アルドキサンとパラアルドールの混合物を取得する。
【0025】
熱分解反応は、液相にて、温度60~80℃、圧力0.01~0.1MPaG、反応時間20~90分で行うことができる。反応雰囲気は、窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガス下であることが好ましい。
【0026】
次工程となる水素化工程においては、熱分解反応液中のパラアルドールとアルドキサンとを分離したのち、パラアルドールのみを水素化反応の原料として用いてもよい。あるいは、蒸留などの一般的な分離法では両者の分離は困難であるため、分離せずに混合物のまま水素化反応の原料として用いてもよい。水素化反応の原料は、熱分解工程で生成したクロトンアルデヒド又は高沸成分だけでなく、縮合工程で使用した塩基の中和によって生成した塩を含んでいてもよい。
【0027】
3.水素化工程
熱分解工程で得られたアセトアルドール類は、水素ガス(H2)の存在下にて水素化触媒と接触させることで水素化され、1,3-ブタンジオールに転化される。本開示では、水素化反応を行う工程を水素化工程と呼ぶ。
【0028】
水素化触媒としては、任意のものを使用することができる。一般的に有効な水素化触媒は、ニッケル系の触媒である。ニッケル系の触媒は、ニッケルを5~90質量%含有するものが好ましい。特に、アルミナ、シリカなどの担体にニッケルを担持させた安定化ニッケル、及びニッケルとアルミとの合金からアルミを溶出させたスポンジニッケルが有効である。
【0029】
水素化工程には2種類の反応器を用いる。具体的には、第1反応器としてトリクルベッド型反応器を用い、第2反応器として液相流通反応器を用いる。
【0030】
トリクルベッド型反応器とは、固体触媒が充填された固定床に、気体及び液体を流通させて反応を行う反応器である。トリクルベッド型反応器では、気液固3相での反応が進行するため、水素ガス及びアセトアルドール類と触媒との接触効率が高まり、効率的にアセトアルドール類の水素化反応が進行する。一方で、トリクルベッド型反応器では、液の保持量が少ないため、微量に残る未反応原料を完全に反応させるには不十分な場合がある。
【0031】
液相流通反応器とは、液体、又は気体を溶解させた液体を、充填されている触媒に流通させて反応を行う反応器である。液相流通反応器では、水素ガスを溶解させた反応原料液と触媒の2相での反応が進行するため、トリクルベッド型反応器と比較して反応の効率は低下する。一方で、液相流通反応器では、トリクルベッド型反応器よりも反応器体積当たりの液の保持量を多くすることができるため、反応原料と触媒との接触時間を増大させ、微少量の反応原料を十分に反応させることができる。
【0032】
トリクルベッド型反応器を使用した後に、液相流通反応器を使用することで、効率的に反応を進行させることができ、トリクルベッド型反応器及び液相流通反応器のそれぞれを単独で使用する場合と比べて、必要な触媒量を削減することができる。
【0033】
トリクルベッド型反応器を使用して水素化反応を実施する温度は、50~150℃とすることができ、好ましくは100~120℃である。反応温度を50℃以上とすることで、水素化反応を確実に進行させることができ、150℃以下とすることで、水素化分解反応などの副反応を抑制して、目的生成物である1,3-ブタンジオールの収率を高めることができる。
【0034】
トリクルベッド流通反応器において、水素化反応を実施する圧力は、1~4MPaGとすることができ、好ましくは2~3MPaGである。圧力を1MPaG以上とすることで、水素化反応を促進することができ、4MPa以下とすることで水素の昇圧にかかるコスト及び設備コストを低減することができる。
【0035】
液相流通反応器を使用して水素化反応を実施する温度は、120℃以下が好ましい。具体的には50~120℃とすることができ、好ましくは70~100℃である。
【0036】
反応温度を50℃以上とすることで、水素化反応を確実に進行させることができ、120℃以下とすることで、水素化分解反応などの副反応を抑制して、目的生成物である1,3-ブタンジオールの収率を高めることができる。
【0037】
液相流通反応器において、水素化反応を実施する圧力は、1~15MPaGとすることができ、好ましくは2~12MPaGである。圧力を1MPaG以上とすることで、水素化反応を促進することができ、15MPa以下とすることで、水素の昇圧にかかるコスト及び設備コストを低減することができる。
【実施例0038】
以下において本発明の実施の形態を具体的な形で記載するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
各組成成分の測定は、ガスクロマトグラフィー分析装置、NMR分光器を用いて、同定及び定量を行った。分析条件は次のとおりである。
【0040】
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
GC装置:Agilent 6850(Agilent社製)
カラム:Agilent DB-WAX(0.32mm、30m)
インジェクション温度:200℃
カラム温度:40℃→200℃
ディテクタ一温度:200℃
キャリアガス:He
検出器:FID
【0041】
(NMR分析条件)
核磁気共鳴装置:JNM-ECS400(日本電子株式会社製)
【0042】
<実施例1>
スポンジニッケル触媒(D-2311L、日興リカ株式会社製)8.4kgが充填されたトリクルベッド型反応器(第1反応器、内容積:6L)に、H2ガスを1000NL/hで流通させて圧力を2.5MPaGとし、反応器温度を120℃とした。水素化原料液として、パラアルドールを5質量%、エタノールを8質量%、水を12質量%含んだ1,3-ブタンジオール液を準備し、トリクルベッド型反応器に60L/hで流通させて、水素化反応を定常状態となるまで行った。
【0043】
定常状態時に得られた反応液に、H2ガスを、圧力8.0MPaG、温度80℃で溶解させ、得られた液をスポンジニッケル触媒(D-2311L、日興リカ株式会社製)14gが充填された液相流通反応器(第2反応器、内容積10mL)に40mL/hで流通させ、滞留時間15min、反応器温度80℃にて、水素化反応を行った。
【0044】
<比較例1>、
実施例1における、トリクルベッド型反応器(第1反応器)による水素化反応のみを実施した。
【0045】
<比較例2>
スポンジニッケル触媒(D-2311L、日興リカ株式会社製)8.4kgが充填されたトリクルベッド型反応器(第1反応器、内容積:6L)に、H2ガスを1000NL/hで流通させて圧力を2.5MPaGとし、反応器温度を120℃とした。水素化原料液として、パラアルドールを5質量%、エタノールを8質量%、水を12質量%含んだ1,3-ブタンジオール液を準備し、トリクルベッド型反応器に60L/hで流通させて、水素化反応を定常状態となるまで行い、反応液を得た。
【0046】
次いで、スポンジニッケル触媒(D-2311L、日興リカ株式会社製)8.4kgが充填されたトリクルベッド型反応器(第2反応器、内容積:6L)に、H2ガスを1000NL/hで流通させて圧力を2.5MPaGとし、反応器温度を120℃とした後、第1反応器で得られた反応液を60L/hで流通させて、水素化反応を行った。
【0047】
すなわち、比較例2では、二段目の水素化反応についてもトリクルベッド型反応器を用い、一段目と同一の条件で、水素化反応を行った。
【0048】
実施例及び比較例の結果を、表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示された結果から明らかなように、比較例2と比べて実施例1では、同モルの1,3-ブタンジオール収率を得るのに必要な、パラアルドール質量あたりの触媒質量(第1反応器+第2反応器)を低減することができる。