(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188700
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】鉛筆
(51)【国際特許分類】
B43K 19/02 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
B43K19/02 Z ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096937
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(72)【発明者】
【氏名】早尾 栄
(72)【発明者】
【氏名】市川 秀寿
(72)【発明者】
【氏名】鎌形 忠
(72)【発明者】
【氏名】岡田 都美子
(57)【要約】
【課題】
木基材からなる軸のリサイクルが可能な鉛筆を提供し、持続可能な社会への実現に貢献する。
【解決手段】
木基材から形成された軸と、前記軸の中心部に設けられる筆記芯とを備えた鉛筆において、前記軸の中心部に、前記軸の長手方向の一端から筆記芯の端部までに5cm以上の前記軸とは別体の木基材からなる部材を設け、軸の外面に天然由来の材料が含まれた塗料を塗布する鉛筆である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木基材から形成された軸と、前記軸の中心部に設けられる筆記芯とを備えた鉛筆において、前記軸の中心部に、前記軸の長手方向の一端から筆記芯の端部までに5cm以上の前記軸とは別体の木基材からなる部材を設けたことを特徴とする鉛筆。
【請求項2】
軸の外面に前記筆記芯と前記部材との当接面から前記部材の端部方向1cm未満に境界線を設けたことを特徴とする請求項1に記載の鉛筆。
【請求項3】
軸の外面に天然由来の材料が含まれた塗料を塗布したことを特徴とする請求項1又は2記載の鉛筆。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛筆に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉛筆においては、端部を削り筆記芯を露出させて使用し筆記芯が短くなった際には、木材で構成された軸の端部の切削を繰り返し続け、切削することが困難な長さになった場合には、廃棄することが通常の使用方法である。しかし、この廃棄処分される鉛筆には、通常軸と筆記芯とが一体となっているため、両者を分離回収してリサイクルすることができず、木材の使用量が増加し、森林の伐採量が増加し、自然環境の破壊に繋がっていた。そこで筆記芯を軸の両端に配置しない鉛筆が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-170697
【特許文献2】特開2002-254886
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された鉛筆は、特許文献2で示された通常の鉛筆の製造方法を用いる際、筆記芯の位置を安定させることが困難となり、使用においての廃棄する際の目安が不明瞭となることが想定される。そこで、鉛筆の筆記芯の位置を安定させることで、リサイクルとなる目安が容易に可能であって、木材の使用量を減少させることができ、持続可能な開発目標に貢献することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本件発明は、木基材から形成された軸と、前記軸の中心部に設けられる筆記芯とを備えた鉛筆において、前記軸の中心部に前記軸の長手方向の一端から筆記芯の端部までに5cm以上の前記軸とは別体の木基材からなる部材を設けた鉛筆である。5cm以上とすることで子供などの手の小さい使用者でも筆記芯の終わりの際に持ちづらくならないものとなる。
【0006】
また、軸の外面に前記筆記芯と前記部材との当接面から前記部材の端部方向1cm未満に境界線を設けることが好適である。
また、軸の外面に天然由来の材料が含まれた塗料を塗布することが好適である。
【発明の効果】
【0007】
本件発明により、筆記芯の位置を安定させることが可能となり、リサイクルとなる目安が容易に判別でき、木材の使用量を減少させることができ、持続可能な開発目標、社会に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】
図1の筆記終了の状態の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、鉛筆の筆記芯が位置する方の側を「先端」と称し、その反対側を「後端」と称する。また、ある構造に対して先端へ向かう方向を「前方」と称し、その反対方向を「後方」と称する。
【0010】
本発明の実施形態に係る鉛筆1は、
図1(a)の斜視図、
図1(b)の正面図及び
図1(c)の
図1(b)の縦断面図である。
図1に示すように、断面六角形の木製の軸20に、筆記芯10が軸の断面の中心部に配置された外観を呈している。筆記芯10の後端には木基材からなる部材30が配設されている。筆記芯10と部材30との当接面にあたる木製の軸20の外面には境界線40が形成されている。木製の軸20の断面は、六角形のみならず、円形、三角形、四角形、八角形等としてもよい。
【0011】
筆記芯10は、焼成前の配合組成物として無機顔料、有機顔料、染料から選ばれる少なくとも1種の微粒子(但し、ガラス粉体を除く)を分散又は内包させた平均厚さ0.1~2μm、アスペクト比5~150であり、かつ、平面度が200nm以下のフレーク状であるガラス粉体又は平均粒径0.1~50μm、真球度0.1~50μmの粒状であるガラス粉体を全量に対して、3~80重量%含有する鉛筆芯で構成されている。平面度の測定は、任意の縦横面が直角となって電子顕微鏡で観察されるような粒子に接し、且つ粒子長軸端部同士を結ぶ線分に平行な線の最大値を測定する。(n=10)。アスペクト比は電子顕微鏡による観察画像からc軸長を測定し、任意の縦横面を観察画像から計測し、その比により算出した。真球度は、電子顕微鏡の画面上で観察される粒子10個の最小外接円から粒子表面までの半径方向の距離の最大の値として求めた。
【0012】
軸20の材質として用いられる木基材としては、気乾比重1未満とした木材であり、檜、檜葉、桐、チーク、マホガニー、杉、松、桜、竹、アオダモ、ホワイトアッシュ、ホワイトファー、ハードメープル、インセンスシダー、リンデン、バルサなどが挙げられる。また、無垢の木材だけではなく、間伐材、廃材チップや木粉等を集めて固めた圧縮加工材料のような木質材を使用することも可能である。また、その際の含水率は20%未満である。なお、含水率は、電気式水分計MR-200II(サンコウ電子研究所)を用いて測定することができる。
【0013】
筆記芯10の当接し鉛筆1の後方に位置する部材30は、天然由来の材料で形成されている。特に軸20と同種の材料である木基材とすることが好ましい。実施形態では竹を好適に用いられている。部材30の長さは5cm以上とすることで子供などの手の小さい使用者でも筆記芯の終わりの際に持ちづらくならないものとなる。
【0014】
軸20の外面には天然由来の材料が含まれた塗料を塗布することが好ましい。天然由来の材料としてはタンニンが好ましい。分子量が大きくフェノール性水酸基を多く有するため消臭機能を付与し、鉛筆を衛生的に保つことができる。なお、タンニンは、縮合型タンニン、加水分解型タンニンのいずれでもよい。また、タンニンのなかでも、柿由来の柿タンニンは、天然由来の材料であり、分子量が非常に大きく、消臭効果に極めて優れるため、本発明に係る消臭剤成分として、この柿タンニン及び柿タンニン誘導体の少なくとも一方を含むようにするのがよい。柿タンニンを含ませる場合には、さらに茶カテキンをともに含ませるのがよい。
【0015】
また、上記タンニン以外の成分としては、アマニ油、サフラワー油、ヒバ油、綿実油、ヒマワリ油などの天然植物油、シェラック、コーパル、ロジンなどの食品添加物として認められている天然由来の材料が含まれた物質を用いることが好適である。
【0016】
軸20の表面には、前述の天然由来の材料以外の塗布以外は好ましくなく、文字情報や模様は、レーザー照射等による表面の熱処理による刻印が好ましい。特に筆記芯10と部材30との当接面から距離Lである後方1cm未満の位置に境界線40を形成することが好ましい。
【0017】
図2は、鉛筆1の筆記可能な使用状態を示したものである。
図2(a)の斜視図、
図2(b)の正面図及び
図2(c)の
図2(b)の縦断面図である。使用状態においては、軸20の先端は先細に切削されたテーパ部21となっている。
【0018】
図3は、鉛筆1の筆記不能な使用済み状態を示したものである。
図3(a)の斜視図、
図3(b)の正面図及び
図3(c)の
図3(b)の縦断面図である。筆記芯10が見られず、筆記不能な使用済み状態により、環境に大きな負荷をかけることなく、回収、破砕による再利用への処理をすることができる。また、使用済み状態は、筆記芯10の視認がされない状態以外にも、軸20の表面に形成された境界線40が、視認できない状態により、使用中でも軸20内部に位置する筆記芯10の残芯長さを確認することができる。
【0019】
図4は、
図1のJ-J断面を示したものである。なお、軸20を構成する木軸A28、木軸B29は、これらを貼り合わせる固着剤55を介して全体として六角形の断面を呈している。また、軸20の装着孔23の内側面と、部材30の外側面との間には、固着剤50が介在している。固着剤50と固着剤55とは、別工程にて貼り合わせられるが、同種の天然由来の材料とすることが好ましい。筆記芯10と軸20との貼り合わせ関係は、部材30を筆記芯10に置換したものと同様である。なお、筆記芯10と部材30との当接面の間には、固着剤50又は固着剤55が介在しても良い。
【0020】
固着剤50及び固着剤55は、生分解性樹脂系エマルジョン型接着剤とすることが好ましい。生分解性樹脂系エマルジョン型接着剤とすることで、廃棄、回収、再利用時での環境に大きな負荷をかけることなく提供することができる。
具体的には、生分解性樹脂及び天然の産業廃棄物の粒子が分散し、前記生分解性樹脂がヒドロキシアルカノエート単位を60モル%以上含有する樹脂であり、天然の産業廃棄物が産業廃棄物の粒子の含有量が10~20質量%の範囲にあり、米ぬか又はふすまであることが好ましい。
【0021】
上記生分解性樹脂は、ポリ乳酸、乳酸単位が60モル%以上の乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、乳酸単位が60モル%以上の乳酸、脂肪族多価カルボン酸及び脂肪族グリコールからなる脂肪族ポリエステル共重合体などのポリ乳酸系樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂などが挙げられる。前記ポリ乳酸としては、具体的にL-乳酸、D-乳酸、あるいはL-乳酸とD-乳酸の混合物を脱水縮合した樹脂が挙げられ、特に物性、耐熱性が要求される場合にはL体が85モル%、好ましくは95モル%のポリ乳酸がよい。前記ポリ乳酸は、乳酸の環状二量体であるラクチドを開環重合するなどの方法で製造され、その数平均分子量は20,000~1,000,000、好ましくは50,000~500、000の範囲がよく、数平均分子量が20,000未満では、実用的な水分散液が得られず、また、1,000,000を超えると塗布性が悪く好ましくない。
【0022】
乳酸と共重合する他のヒドロキシカルボン酸としては、例えばグリコール酸、ジメチルグリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシプロパン酸、3-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシ吉草酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、2-ヒドロキシカプロン酸、3-ヒドロキシカプロン酸、4-ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
【0023】
脂肪族ポリエステル共重合体を形成する脂肪族多価カルボン酸としては、例えばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸及びこれらの無水物などが、また脂肪族グリコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンチルジオール、1.6-ペンチルジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0024】
また、脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリラクチドなどのポリ(α-ヒドロキシカルボン酸)、ポリ-ε-カプトラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ-β-プロピオラクトンなどが挙げられる。
【0025】
上記天然の産業廃棄物としては、米ぬか又はふすまが用いられる。天然の産業廃棄物は10~20質量%の範囲で含有するのがよく、この範囲で含有量を変えることで生分解性速度を適宜制御できる。天然の産業廃棄物が20質量%を超えると乳化が良好に行われず、接着強度などの力学的性質が低下して好ましくなく、天然の産業廃棄物が10質量%未満では生分解能の制御が困難となる上に、製品コストが高くなり好ましくない。
【0026】
上記生分解性樹脂及び天然の産業廃棄物の粒子を分散する乳化剤としては、界面活性剤や水溶性高分子物質が挙げられるが、前記界面活性剤としては、炭素数4~18の脂肪酸塩を含む陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが挙げられ、また、水溶性高分子物質としてはアラビアゴム、寒天、結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸またはそれらの陰イオン性あるいは陽イオン性、さらには疎水性の構造単位をもつように共重合ないし変性されたもの、さらにまたアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどが挙げられ、好ましくはポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸またはそれらの陰イオン性あるいは陽イオン性、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、カルボキシメチルセルロースなどがよい。
【0027】
実施形態の生分解性樹脂系エマルジョン型接着剤は、上記生分解性樹脂及び天然の産業破棄物に加えて、さらに必要に応じて各種の添加剤、例えば安定剤、ぬれ調整剤、充填剤などを含有することができる。また、使用する溶剤としては、水、クロロホルム、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、ジオキサン、シクロヘキサン等が挙げられ、中でも水、クロロホルム、ジオキサンが好適である。さらに、可塑剤としては、生分解性樹脂と相溶性がよく、かつ環境面で問題のない可塑剤であれば特に限定されないが、例えばエーテルエステル誘導体、グリセリン誘導体、グリコール誘導体、クエン酸誘導体から選ばれた単一又は複数の混合物が挙げられる。さらに、ぬれ調整剤としては、平均分子量が20,000以下の乳酸系オリゴマーがよい。
【0028】
実施形態の生分解性樹脂系エマルジョン型接着剤の製造については、生分解性樹脂を溶剤に溶解し、その溶液に天然の産業廃棄物を配合しそれらをミキサーで懸濁させたのち、乳化剤を加え、ハンドミキサーで乳化させる方法などで調製される。
【符号の説明】
【0029】
1 鉛筆
10 筆記芯
20 軸
21 テーパ部
23 装着孔
28 木軸A
29 木軸B
30 部材
40 境界線
50 固着剤
55 固着剤