IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

特開2022-188702半導体装置および半導体装置の製造方法
<>
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図1
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図2
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図3
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図4
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図5
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図6
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図7
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図8
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図9
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図10
  • 特開-半導体装置および半導体装置の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188702
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
H01L21/60 311Q
H01L21/92 602H
H01L21/92 603B
H01L21/92 603E
H01L21/92 604M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096947
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 靖
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大島 隆文
(72)【発明者】
【氏名】白頭 拓真
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044RR18
5F044RR19
(57)【要約】
【課題】接合信頼性を向上させた半導体装置および半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】
Ni-V電極を有する半導体素子と導体とがSn系鉛フリーはんだを介して接合されている半導体装置は、前記半導体素子と前記Sn系鉛フリーはんだとの界面に隣接して、Sn-V化合物層と、前記Sn-V化合物に隣接した(Ni,Cu)3Sn4化合物層と、がそれぞれ形成されている。
また、本発明の半導体装置の製造方法は、前記Sn系鉛フリーはんだと前記Ni-V電極とを反応させることで、Sn-V層と、(Ni,Cu)3Sn4化合物層と、を形成し、前記Sn-V層が形成された後、前記Ni-V電極において前記Sn系鉛フリーはんだと反応していない未反応の層を残存させる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni-V電極を有する半導体素子と導体とがSn系鉛フリーはんだを介して接合されている半導体装置であって、
前記半導体素子と前記Sn系鉛フリーはんだとの界面に隣接して、Sn-V化合物層と、前記Sn-V化合物に隣接した(Ni,Cu)3Sn4化合物層あるいはNi3Sn4化合物層と、がそれぞれ形成されている
半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記Sn-V化合物層は、前記Ni-V電極の一部が前記Sn系鉛フリーはんだと反応して形成された層である
半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置であって、
前記(Ni,Cu)3Sn4化合物層あるいは前記Ni3Sn4化合物層が、前記Sn-V化合物層の全域において前記界面と隣接して配置されている
半導体装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の半導体装置であって、
前記(Ni,Cu)3Sn4化合物層あるいは前記Ni3Sn4化合物層の平均厚さが2μm以上である
半導体装置。
【請求項5】
請求項2記載の半導体装置であって、
前記Ni-V電極のうち前記Sn系鉛フリーはんだと反応していない未反応の層の平均厚さが300nm以上である
半導体装置。
【請求項6】
Ni-V電極を有する半導体素子と導体とをSn系鉛フリーはんだで接合する半導体装置の製造方法であって、
前記Sn系鉛フリーはんだと前記Ni-V電極とを反応させることで、前記半導体素子と前記Sn系鉛フリーはんだとの界面に隣接して、Sn-V層と、(Ni,Cu)3Sn4化合物層あるいはNi3Sn4化合物層と、を形成し、
前記Sn-V層が形成された後、前記Ni-V電極において前記Sn系鉛フリーはんだと反応していない未反応の層を残存させる
半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RoHS指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)やELV指令(End-of Life Vehicles Directive)により、自動車に搭載される電子制御装置は、鉛の使用が規制されている。これに伴い、装置に関連した接合に用いるはんだは、鉛フリー化が進められており、例えば、Sn(スズ)・Ag(銀)・Cu(銅)を用いたSn-3Ag-0.5Cuの組成を主とした鉛フリーはんだが使用されている。
【0003】
電子制御装置の半導体素子の電極には、はんだとの接合を担うNi(ニッケル)電極が用いられているが、スパッタリングにより形成されることが多い。これについて、近年では、高速で高効率に膜を成膜できるマグネトロンスパッタリングが主流になりつつある。このマグネトロンスパッタリングによりNi電極が形成される場合、純Niでは磁性が強く制御が難しいため、V(バナジウム)を加えたNi-Vが電極膜を生成するものとして用いられる。これに伴い、インバータにおいて、Ni-V電極に対して高信頼である鉛フリーはんだによる接合が求められている。
【0004】
本願発明の背景技術として、下記の特許文献1では、Ni-V電極上にCu膜を形成し、Sn系鉛フリーはんだで接合し、その際に、CuをSnと完全に反応させて、Ni-V電極上に(Cu,Ni)6Sn5化合物を析出させることで、Ni-V電極とSn系鉛フリーはんだとの反応を抑制し、使用環境下における温度変化に対して接合界面の経時変化を少なくさせている技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4656275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、Sn-V化合物層が形成されないために、接合部界面の強度が低くなるため、半導体装置の信頼性を損なう恐れがあり、また、こうした接合部において大きなせん断応力が生じた場合に、接合部界面近傍にクリープボイドが生成され、さらに装置の信頼性を損なう恐れがある。これを鑑みて本発明は、接合信頼性を向上させた半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体装置は、Ni-V電極を有する半導体素子と導体とがSn系鉛フリーはんだを介して接合されている半導体装置であって、前記半導体素子と前記Sn系鉛フリーはんだとの界面に隣接して、Sn-V化合物層と、前記Sn-V化合物に隣接した(Ni,Cu)3Sn4化合物層あるいはNi3Sn4化合物層と、がそれぞれ形成されている。
また、本発明の半導体装置の製造方法は、Ni-V電極を有する半導体素子と導体とをSn系鉛フリーはんだで接合する半導体装置の製造方法であって、前記Sn系鉛フリーはんだと前記Ni-V電極とを反応させることで、前記半導体素子と前記Sn系鉛フリーはんだとの界面に隣接して、Sn-V層と、(Ni,Cu)3Sn4化合物層あるいはNi3Sn4化合物層と、を形成し、前記Sn-V層が形成された後、前記Ni-V電極において前記Sn系鉛フリーはんだと反応していない未反応の層を残存させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、接合信頼性を向上させた半導体装置および半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】半導体素子とSn系鉛フリーはんだとの反応部界面における金属間化合物の遊離の模式図である。
図2】半導体素子とSn系鉛フリーはんだとの反応部界面におけるクリープボイドの模式図である。
図3】従来技術での析出型の金属間化合物層の形成機構の模式図である。
図4】Ni電極とSn系鉛フリーはんだ間の反応による金属間化合物の形成機構の模式図である。
図5】Ni-V電極とSn系鉛フリーはんだとの間の反応推移の模式図である。
図6】反応部界面の(Ni,Cu)-Sn化合物とクリープボイド率の関係を表す図である。
図7】150℃保持による保持時間とNi-V電極の消失する厚さの関係を表す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る、半導体装置の模式図である。
図9図8の変形例である。
図10】本発明の一実施形態に係る、条件別の実施例の表である。
図11】本発明の一実施形態に係る、条件別の比較例の表である。
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0011】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0012】
(従来技術との比較、本発明の一実施形態)
図1は、Ni電極を有する半導体素子とSn-3Ag-0.5Cuはんだ(Sn系鉛フリーはんだ)との反応部における金属間化合物の遊離の模式図である。また、図2は、半導体素子とSn系鉛フリーはんだとの接合部におけるクリープボイドの模式図である。
【0013】
半導体素子1とSn-3Ag-0.5Cuはんだ5とが良好に反応させるためには、はんだ5と半導体素子1にスパッタリングされているNi系電極とを反応させる必要がある。ところが、半導体素子1とSn-3Ag-0.5Cuはんだ5とが反応した際に、このはんだ5とNi系電極との反応が進み過ぎてしまうと、図1に示すように、半導体素子1に形成されていたNi系電極とはんだ5とが反応して生成された(Ni,Cu)3Sn4化合物4が、反応部界面(Al系電極2とTi系電極3の層)から剥離する。
【0014】
このような界面構造は、Ni-V電極チップ採用時の150℃の使用環境下において半導体装置を使用する際に、界面部分が剥離するリスクが高まり、装置の接合状態を維持することが困難になり、信頼性を損なう恐れがある。
【0015】
図2に示すように、Ni-V電極7を用いての接合を行う場合、Ni系電極6を用いての接合を行う場合に比べてSn系鉛フリーはんだ9との反応が速いため、より接合剥離のリスクが高まることが懸念される。また、150℃の使用環境下においては、Ni系電極6は半導体素子1の接合部に大きなせん断応力がかかる場合に、接合部界面の化合物4の近傍にクリープボイド21が発生し、150℃以上の使用環境下においてボイド21は生成が進みやすくなることで、装置の信頼性を損なう恐れがある。
【0016】
なお、はんだ5と金属間化合物4との界面近傍にできるボイド21は、金属間化合物4の厚さが薄い場合、そこに加わるせん断応力が大きいことで生成されやすい傾向がある。つまり、こうしたボイド21の発生、装置の接合剥離は、金属間化合物4の形状に依存して決まることがわかる。
【0017】
図3は、従来技術での析出型の金属間化合物層の形成機構の模式図である。
【0018】
従来では、Ni-V電極7に隣接してCu膜8が形成されており(図3(a))、Cu膜8とSn系鉛フリーはんだ9が反応すると、Cu6Sn5系化合物10が形成される(図3(b))。その化合物10がNi-V電極7上に析出することで、反応部界面に金属間化合物10の層が形成される(図3(c))。図3の金属化合物層10は、後述の図4の金属化合物層11に比べて、装置の接合強度が低くなるため、信頼性を損なう恐れがある。
【0019】
図4は、Ni-V電極とSn系鉛フリーはんだ間の反応による金属間化合物の形成機構の模式図である。なお、図4は、Cuを含有していないSn系鉛フリーはんだで説明している。
【0020】
図4に示すように、Ni-V電極7とSn系鉛フリーはんだ9との反応により、反応層であるNi3Sn4系化合物11の層(図4(b))およびSn-V化合物12の層(図4(c))が形成される。図4図3と異なる点は、Ni3Sn4系化合物11およびSn-V化合物層12を形成しながら成長させた金属間化合物層である点である。この形成方法を本発明に採用している。
【0021】
図5は、Ni-V電極とSn系鉛フリーはんだとの間の反応推移の模式図である。
【0022】
図5の(a)~(d)の反応推移に示すように、電極2,3を間にしてNi-V電極7を有する半導体素子1とSn系鉛フリーはんだ9とを反応させて、反応部界面にSn-V化合物層12を形成させ、Sn-V化合物12に隣接して(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層が形成されることにより、良好な装置の接合強度が得られる。これにより、150℃の使用環境下においての装置の信頼性を確保できる。なお、Sn系鉛フリーはんだは、Cuを含有していないSn系鉛フリーはんだであれば、(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層は、Ni3Sn4系化合物の層となる。
【0023】
ただし、図5の(e)に示すように、半導体素子1とSn系鉛フリーはんだ9との反応が進み過ぎると、反応部界面のSn-V化合物12から、(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層が剥がれてしまい、150℃での使用環境下において、Sn-V化合物12とSn系鉛フリーはんだ9との界面で剥離が生じたり、熱衝撃によるクラックが界面を直進したりする可能性がある。この状態では、装置としての寿命が短くなり、装置の信頼性が損なわれる。そのため、図5(d)の段階を維持しておくことが本発明の特徴になる。
【0024】
つまり、図5の(c)のように、Sn系鉛フリーはんだ9と未反応のNi-V層7を残存させることで、隣接するTi層3との接合を維持しやすくなり、150℃の使用環境下において、より接合信頼性の高い装置が得られる。
【0025】
なお、(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層は、Sn-V化合物12の層の全域に隣接することで、一部に隣接するよりも高い信頼性を得ることができる。
【0026】
図6は、反応部界面の(Ni,Cu)-Sn化合物とクリープボイド率の関係を表す図である。
【0027】
反応部界面近傍に生じるボイド21は、反応部界面に形成された(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層の厚さに依存する。図6では、5mm×5mm×1mmの面積にSn-3Ag-0.5Cuはんだ5を用いて、NiめっきCu板に接合したサンプルに、600gのウェイトを付けて150℃でクリープ試験を実施した結果を示す。
【0028】
試験結果の図6で示すように、接合部界面に形成したNi3Sn4化合物層の平均厚さが2μmより薄い場合は多数のボイド21が生成されたが、平均厚さが2μm以上ではボイド21が抑制されることがわかった。このことから、(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層の厚さを2μm以上にすることで、150度の使用環境下での装置の信頼性確保ができる。
【0029】
図7は、150℃の使用環境下における接合部の保持時間とNi-V電極の消失する厚さの関係を表す図である。
【0030】
図7のグラフは、Ni-V電極を有する半導体素子をNiめっきしたCuリードに、Sn-3Ag-0.5Cuはんだを用いたサンプルについて、150℃高温保持試験を1000h(時間)まで実施したときにNi-V電極が消失する厚さを示している。なお、グラフの横軸は時間の0.5乗としており、1000hという基準は自動車の10年保証分に相当する。
【0031】
試験結果では、150℃の使用環境下で1000h保持した時に、Ni-V電極は300nm消失している。つまり、より高い信頼性を得るためには、反応させた時点で最低でも未反応のNi-V電極を300nm残存させる構造が望ましいと考えられる。300nmの未反応のNi-V電極を残すためには、反応前に700nm以上の厚さを持ったNi-V電極を有する半導体素子を用いることが望ましい。
【0032】
図8は、本発明の一実施形態に係る、半導体装置の模式図である。また、図9は、図8の変形例である。図10の表は本発明の一実施形態に係る条件別の実施例の表、図11の表は本発明の一実施形態に係る条件別の比較例の表である。
【0033】
本発明を適用した図10の表の実施例1-4について、図8を用いて説明する。なお、図10の表の実施例1-4は、Sn系鉛フリーはんだ9の組成をそれぞれ変えて、(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層の界面から遊離なし・Sn-V化合物層あり・未反応のNi-V層なしの条件で、本発明に適用したものである。Sn系鉛フリーはんだ9にCuを含有しない場合は、(Ni,Cu)3Sn4化合物はNi3Sn4系化合物になる。
【0034】
粗化Niめっきを有するCu製のコレクタ側リードフレーム31,32のはんだ搭載位置に、Sn系鉛フリーはんだ9を供給する(拡大図A)。その上に、厚さ800nmのNi-V電極7を両面に有する半導体素子1を搭載し、半導体素子1とリードフレーム31,32を接合する。さらに、接合した半導体素子1の上面の電極上にSn系鉛フリーはんだ9を供給する。
【0035】
このようにすると、半導体素子1の接合部において、未反応のNi-V層7を300nm以上の平均厚さで残存させつつ、反応により形成したSn-V層12に隣接した平均厚さ2μm以上の(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層を有する構造になる。その後、トランスファーモールドによりレジン封止33を行い、半導体装置を作製した。
【0036】
このように作製した半導体装置について、150℃高温保持試験1000h、Tjmax150℃、ΔTj100℃の条件でパワーサイクル試験50000サイクルを実施した(図10)。その際に、試験後の装置の接合面積の低下が10%以内の場合は○、装置の接合面積が10%より劣化した場合は×と判定した。この接合の劣化は、超音波像の観察および断面観察により確認を行った。
【0037】
その結果、実施例1-4の全てにおいて、信頼性試験後に反応部に剥離等の劣化やクリープボイド等の生成は確認されず、十分な接合信頼性を有することを確認できた。
【0038】
次に、本発明を適用した図10の表の実施例5-8について、図9を用いて説明する。なお、図10の表の実施例5-8は、実施例1―4と同様にSn系鉛フリーはんだ9の組成をそれぞれ変えて、(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層の界面から遊離なし・Sn-V化合物層あり・未反応のNi-V層なしの条件で、本発明に適用したものである。Sn系鉛フリーはんだ9にCuを含有しない場合は、(Ni,Cu)3Sn4化合物はNi3Sn4系化合物になる。
【0039】
放熱ベース45の上にSn系鉛フリーはんだ44のシートを置き、その上にセラミックス基板43を積層させ、その基板43の上にSn系鉛フリーはんだ9のシートを置き、そこに半導体素子1を設置して加熱することで、接合を行う。接合後にアルミワイヤ42および端子41を接合し、その後ケース47を取り付けて、ゲル46で封止を行い、半導体装置を作製した。
【0040】
このようにして作製された半導体装置について、150℃高温保持試験1000h、Tjmax150℃、ΔTj100℃の条件でパワーサイクル試験50000サイクルを実施した。その際に、試験後の装置の接合面積の低下が10%以内の場合を○、装置の接合面積が10%より劣化した場合は×と判定した(図10)。なお、この接合の劣化は、超音波像の観察および断面観察により確認を行った。
【0041】
その結果、実施例5-8の全てにおいて、信頼性試験後に反応部に剥離等の劣化は確認されなかった。クリープボイドについては僅かに確認されたものの、十分な装置の接合信頼性を有することが確認できた。
【0042】
次に、図11の表の比較例1-2では、Sn系鉛フリーはんだ9の組成をSn-3Ag-0.5Cuに統一させ、(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層の界面から遊離あり・Sn-V化合物層あり・未反応のNi-V層なしの条件と、その逆の条件とで、半導体装置を作製し信頼性試験を行った。図11の比較例1は、高温保持試験およびパワーサイクル試験ともに装置の接合部に剥離が生じてしまい×となった。図11の比較例2は、高温保持試験は○となったが、パワーサイクル試験では反応部界面に剥離が生じて×となった。これにより、図8の実施形態では、Sn-V化合物12と未反応のNi-V層7の両方が残存していないと信頼性を損なうことがわかった。
【0043】
図11の表の比較例3-4は、図10の実施例5-8と同じ方法で半導体装置を作製し信頼性試験を行った。図11の比較例3は、高温保持試験およびパワーサイクル試験ともに装置の接合部に剥離が生じてしまい×となった。図11の比較例4は、高温保持試験は○となったが、パワーサイクル試験では反応部界面に剥離が生じて×となった。これにより、図9の実施形態では、Sn-V化合物12と未反応のNi-V層7の両方が残存していないと信頼性を損なうことがわかった。
【0044】
以上、図10図11の実験結果では、半導体素子と導体とがSn系鉛フリーはんだによって接合されている状態では、Sn-V化合物12と未反応のNi-V層7の両方が残存していることで、150℃の高温使用環境下での接合保持およびパワーサイクルのどちらにおいても、装置の信頼性を確保できることが分かった。
【0045】
なお、本発明は、Sn系鉛フリーはんだにCuを含有しているものを使用することで、(Ni,Cu)3Sn4化合物13の層を形成している例を説明したが、Sn系鉛フリーはんだにCuを含有していないものを使用した場合は、Ni3Sn4系化合物の層が形成され、同様の効果を奏することができる。
【0046】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0047】
(1)Ni-V電極7を有する半導体素子1と導体31,32とがSn系鉛フリーはんだ9を介して接合されている半導体装置であって、半導体素子1とSn系鉛フリーはんだ9との界面に隣接して、Sn-V化合物層13と、Sn-V化合物13に隣接した(Ni,Cu)3Sn4化合物層4あるいはNi3Sn4化合物層と、がそれぞれ形成されている。このようにしたことで、接合信頼性を向上させた半導体装置を提供できる。
【0048】
(2)半導体装置は、Sn-V化合物層13は、Ni-V電極7の一部がSn系鉛フリーはんだ9と反応して形成された層である。よって、装置の接合信頼性を向上させられる。
【0049】
(3)半導体装置は、(Ni,Cu)3Sn4化合物層4あるいはNi3Sn4化合物層が、Sn-V化合物層13の全域において界面と隣接して配置されている。このようにしたことで、装置の接合強度を向上させることができる。
【0050】
(4)半導体装置の(Ni,Cu)3Sn4化合物層4あるいはNi3Sn4化合物層の平均厚さが2μm以上である。このようにしたことで、接合信頼性を向上させた半導体装置を提供できる。
【0051】
(5)半導体装置のNi-V電極7のうちSn系鉛フリーはんだ9と反応していない未反応の層の平均厚さが300nm以上である。このようにしたことで、自動車の10年保証分に相当した接合信頼性を向上させた半導体装置を提供できる。
【0052】
(6)半導体装置は、Ni-V電極7を有する半導体素子1と導体31,32とをSn系鉛フリーはんだ9とで接合する場合において、Sn系鉛フリーはんだ9とNi-V電極7とを反応させることで半導体素子1とSn系鉛フリーはんだ9との界面に隣接して、Sn-V層12と、(Ni,Cu)3Sn4化合物層4あるいはNi3Sn4化合物層と、を形成し、Sn-V層12が形成された後、Ni-V電極7においてSn系鉛フリーはんだ9と反応していない未反応の層を残存させる。このようにしたことで、本発明の半導体装置を実現できる。
【0053】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や他の構成を組み合わせることができる。また本発明は、上記の実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 半導体素子
2 Al系電極
3 Ti系電極、Ti層
4 (Ni,Cu)3Sn4化合物
5 Sn-3Ag-0.5Cuはんだ
6 Ni系電極
7 Ni-V電極
8 Cu膜
9 Sn系鉛フリーはんだ
10 Cu6Sn5系化合物
11 Ni3Sn4系化合物
12 Sn-V化合物
13 (Ni,Cu)3Sn4化合物
21 クリープボイド
31 エミッタ側リード
32 コレクタ側リード
33 レジン
41 端子
42 アルミワイヤ
43 セラミックス基板
44 Sn系鉛フリーはんだ
45 放熱ベース
46 ゲル
47 ケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11