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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188712
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】発電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20221214BHJP
   H02N 99/00 20060101ALI20221214BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20221214BHJP
【FI】
H01M8/16
H02N99/00
H01M8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096966
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】田口 耕造
(72)【発明者】
【氏名】グエン トラン ダン
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】アノード電極を容易に取り換え可能な発電装置を提供する。
【解決手段】発電装置100は、微生物の代謝反応を利用して発電する発電装置であって、アノード電極Aを取り付け可能なアノードホルダ12と、アノードホルダに取り付けられたアノード電極に電気的に接続されるようにカソード電極Cを取り付け可能なカソードホルダ13と、を備え、アノードホルダは、アノード電極を着脱自在に構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の代謝反応を利用して発電する発電装置であって、
アノード電極を取り付け可能なアノードホルダと、
前記アノードホルダに取り付けられた前記アノード電極に電気的に接続されるようにカソード電極を取り付け可能なカソードホルダと、を備え、
前記アノードホルダは、前記アノード電極を着脱自在に構成されている
発電装置。
【請求項2】
微生物が存在する環境に差し込むための差込部材をさらに備え、
前記アノードホルダは、前記差込部材に設けられている
請求項1に記載の発電装置。
【請求項3】
前記カソードホルダは、前記差込部材に対して相対位置が可変に前記カソード電極を取り付け可能である
請求項2に記載の発電装置。
【請求項4】
前記差込部材は、内部に、前記カソードホルダに取り付けられた前記カソード電極に供給される排水を貯水するための貯水部を有する
請求項2に記載の発電装置。
【請求項5】
前記貯水部は、前記アノードホルダに取り付けられた前記アノード電極を通過して前記排水を外部に排水する排水口を有し、
前記カソードホルダは、前記貯水部の前記外部に設けられている
請求項4に記載の発電装置。
【請求項6】
前記貯水部には、前記カソードホルダの位置に基づく目印が設けられている
請求項4又は5に記載の発電装置。
【請求項7】
前記カソードホルダは、フロート部材を有する
請求項3に記載の発電装置。
【請求項8】
前記カソードホルダに取り付けられた前記カソード電極の移動を規制する規制部材をさらに備える
請求項7に記載の発電装置。
【請求項9】
前記差込部材は、1又は複数の、前記環境に差し込む方向に徐々に幅が狭くなるテーパー形状の凸部分を有する
請求項2~8のいずれか一項に記載の発電装置。
【請求項10】
前記差込部材は、複数の前記凸部分を有し、
前記複数の前記凸部分それぞれに、前記アノードホルダが設けられている
請求項9に記載の発電装置。
【請求項11】
前記差込部材には、前記アノード電極の挿入用スリットが設けられている
請求項2~10のいずれか一項に記載の発電装置。
【請求項12】
前記差込部材には、前記アノードホルダに取り付けられた前記アノード電極と前記カソードホルダに取り付けられた前記カソード電極とを電気的に接続するための配線が配置されている
請求項2~11のいずれか一項に記載の発電装置。
【請求項13】
生成した電力を供給する機器を支持する支持部材をさらに備える
請求項1~12のいずれか一項に記載の発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換し、発電する発電装置がある。この発電装置は微生物燃料電池とも呼ばれる。微生物燃料電池は、アノード電極とカソード電極とを備えている。アノード電極は、燃料としての有機物が微生物によって分解されるときに発生する電子を回収する。回収された電子は、アノード電極から外部回路を経由してカソード電極へ移動される。また、アノード電極ではプロトンが発生する。アノード電極で発生したプロトンは、カソード電極へ移動した電子、及び、酸素と反応して、水を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-181581号公報
【発明の概要】
【0004】
微生物燃料電池では、アノード電極表面で電子の受け渡しがされるため、発電が進むとアノード電極表面が劣化する場合がある。その場合、発電効率が低下する。そこで、アノード電極を容易に取り換え可能な発電装置が望まれる。
【0005】
ある実施の形態に従うと、発電装置は、微生物の代謝反応を利用して発電する発電装置であって、アノード電極を取り付け可能なアノードホルダと、アノードホルダに取り付けられたアノード電極に電気的に接続されるようにカソード電極を取り付け可能なカソードホルダと、を備え、アノードホルダは、アノード電極を着脱自在に構成されている。
【0006】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施の形態に係る発電装置の斜め上方からの概略斜視図である。
図2図2は、図1の発電装置に、アノード電極及びカソード電極を取り付けた状態を表す概略斜視図である。
図3図3は、第1の実施の形態に係る発電装置に含まれる差込部材の正面図である。
図4図4は、図3の差込部材の側面図である。
図5図5は、図3の差込部材の平面図である。
図6図6は、図5のA-A断面図である。
図7図7は、第1の実施の形態に係る発電装置に含まれるカソードホルダの正面図である。
図8図8は、図7のカソードホルダの平面図である。
図9図9は、図8のB-B断面図である。
図10図10は、第1の実施の形態に係る発電装置の用いられ方を説明するための図である。
図11図11は、第1の実施の形態に係る発電装置についての第1の実験の結果であって、測定された開回路電圧(ОCV)の時間変化を表した図である。
図12図12は、第1の実施の形態に係る発電装置についての第1の実験の結果であって、第1の実験における第1、第2の条件それぞれでの最大電力密度の時間変化を表した図である。
図13図13は、第1の実施の形態に係る発電装置についての第2の実験の結果であって、測定された開回路電圧(ОCV)の時間変化を表した図である。
図14図14は、第1の実施の形態に係る発電装置についての第2の実験の結果であって、第2の実験における第1、第2の条件それぞれでの最大電力密度の時間変化を表した図である。
図15図15は、第2の実施の形態に係る発電装置の斜め上方からの概略斜視図である。
図16図16は、図15の発電装置への、アノード電極及びカソード電極の取り付け方を表す概略斜視図である。
図17図17は、図15の発電装置に、アノード電極及びカソード電極を取り付けた状態を表す概略斜視図である。
図18図18は、第2の実施の形態に係る発電装置の平面図である。
図19図19は、アノード電極及びカソード電極それぞれからの導線が配線された状態の第2の実施の形態に係る発電装置の平面図である。
図20図20は、第2の実施の形態に係る発電装置の側面図である。
図21図21は、第2の実施の形態に係る発電装置の正面図である。
図22図22は、図18のC-C断面図であって、発電装置の有するアノードホルダ部分のみの断面図である。
図23図23は、第2の実施の形態に係る発電装置の用いられ方を説明するための図である。
図24図24は、第2の実施の形態に係る発電装置についての第1の実験の結果であって、第1のアノード電極を用いて各サイクルで測定された開回路電圧(ОCV)の時間変化を表している。
図25図25は、第2の実施の形態に係る発電装置についての第1の実験の結果であって、第2のアノード電極を用いて各サイクルで測定された開回路電圧(ОCV)の時間変化を表している。
図26図26は、第2の実施の形態に係る発電装置についての第1の実験の結果であって、第1のアノード電極を用いて各サイクルで測定された最大電力密度の時間変化を表している。
図27図27は、第2の実施の形態に係る発電装置についての第1の実験の結果であって、第2のアノード電極を用いて各サイクルで測定された最大電力密度の時間変化を表している。
図28図28は、第2の実施の形態に係る発電装置についての第2の実験の結果であって、第1のカソード電極及び第2のカソード電極を用いて測定されたそれぞれの開回路電圧(ОCV)の時間変化を表している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<1.発電装置の概要>
【0009】
(1)実施の形態に係る発電装置は、微生物の代謝反応を利用して発電する発電装置であって、アノード電極を取り付け可能なアノードホルダと、アノードホルダに取り付けられたアノード電極に電気的に接続されるようにカソード電極を取り付け可能なカソードホルダと、を備え、アノードホルダは、アノード電極を着脱自在に構成されている。
【0010】
アノードホルダがアノード電極を着脱自在に構成されていることによって、発電装置では、アノード電極を容易に取り換え可能となる。これにより、発電が進んでアノード電極表面が劣化した場合などにもアノード電極を容易に取り換えることができる。そのため、発電効率の低下を抑えることができる。
【0011】
(2)好ましくは、発電装置は、微生物が存在する環境に差し込むための差込部材をさらに備え、アノードホルダは、差込部材に設けられている。微生物が存在する環境は、一例として、微生物が存在する土壌である。その場合、差込部材は土壌に差し込んで用いられる。これにより、発電装置での微生物の代謝反応を利用しての発電がしやすくなる。
【0012】
(3)好ましくは、カソードホルダは、差込部材に対して相対位置が可変にカソード電極を取り付け可能である。これにより、カソード電極の位置を適した位置にしやすくなる。
【0013】
(4)好ましくは、差込部材は、内部に、カソードホルダに取り付けられたカソード電極に供給される排水を貯水するための貯水部を有する。排水は微生物が分解する有機物を含む液体であって、例えば、台所の廃液などであってもよい。これにより、発電装置では、排水に含まれる有機物を用いて発電が行われる。
【0014】
(5)好ましくは、貯水部は、アノードホルダに取り付けられたアノード電極を通過して排水を外部に排水する排水口を有し、カソードホルダは、貯水部の外部に設けられている。これにより、貯水部に貯水された排水は、アノード電極を通過して土壌などの微生物が存在する環境に排出される。そのため、有機物が微生物によって分解されるときに発生する電子が、アノード電極で回収されやすくなる。また、カソードホルダが貯水部の外部に設けられていることによって、カソード電極が排水に水没しないようにできる。それにより、カソード電極をエアカソードとして用いることができる。
【0015】
(6)好ましくは、貯水部には、カソードホルダの位置に基づく目印が設けられている。これにより、貯水部に注入する排水の量の目安とすることができ、カソード電極を排水に水没させないようにできる。
【0016】
(7)好ましくは、カソードホルダは、フロート部材を有する。これにより、カソード電極を水面に浮かせた状態とすることができ、カソード電極に空気を供給することができる。
【0017】
(8)好ましくは、発電装置は、カソードホルダに取り付けられたカソード電極の移動を規制する規制部材をさらに備える。移動の規制は、例えば、上下位置の規制、水平位置の規制などである。これにより、カソード電極の位置が水流や水量によって不適切な位置となることを防ぐことができる。
【0018】
(9)好ましくは、差込部材は、1又は複数の、環境に差し込む方向に徐々に幅が狭くなるテーパー形状の凸部分を有する。これにより、発電装置は、差し込で用いやすくなる。
【0019】
(10)好ましくは、差込部材は、複数の凸部分を有し、複数の凸部分それぞれに、アノードホルダが設けられている。これにより、発電装置に複数のアノード電極を取り付けることができる。なお、複数のアノード電極は、並列に接続されても直列に接続されてもよい。
【0020】
(11)好ましくは、差込部材には、アノード電極の挿入用スリットが設けられている。これにより、アノード電極を容易に取り付け、取り外しすることができる。
【0021】
(12)好ましくは、差込部材には、アノードホルダに取り付けられたアノード電極とカソードホルダに取り付けられたカソード電極とを電気的に接続するための配線が配置されている。これにより、発電装置においてアノード電極とカソード電極とが電気的に接続され、発電が可能になる。また、装置内で配線されることで、発電装置の携帯性が増し、外部環境など使用可能な環境が広がる。
【0022】
(13)好ましくは、発電装置は、生成した電力を供給する機器を支持する支持部材をさらに備える。これにより、発電装置は生成した電力を機器に供給しやすくなる。
【0023】
<2.発電装置の例>
【0024】
[第1の実施の形態]
【0025】
図1は、第1の実施の形態に係る発電装置100の斜め上方からの概略斜視図である。図2は、図1の発電装置100に、アノード電極A及びカソード電極Cを取り付けた状態を表す概略斜視図である。
【0026】
図3図6は、発電装置100の有する、差込部材14を説明するための図である。図3は、差込部材14の正面図である。図4は、差込部材14の側面図である。図5は、差込部材14の平面図である。図6は、図5のA-A断面図である。
【0027】
図7図9は、発電装置100の有する、カソードホルダ13を説明するための図である。図7は、カソードホルダ13の正面図である。図8は、カソードホルダ13の平面図である。図9は、図8のB-B断面図である。
【0028】
図10は、発電装置100の用いられ方を説明するための図である。発電装置100は、微生物20が有機物である燃料を分解する代謝反応を利用して発電を行う、いわゆる微生物電量電池であって、土壌Sを電解質(バイオ燃料)として使用する発電装置である。
【0029】
図1及び図2を参照して、発電装置100は、アノード電極Aを取り付け可能なアノードホルダ12と、カソード電極Cを取り付け可能なカソードホルダ13と、備えている。アノードホルダ12及びカソードホルダ13は、それぞれ、アノード電極A及びカソード電極Cを脱着可能であって、アノード電極A及びカソード電極Cを挿入するための挿入用スリット121,131を有している。
【0030】
アノード電極Aは挿入用スリット121から挿入されることによってアノードホルダ12に取り付けられ、挿入用スリット121から引き出されることによって取り外される。カソード電極Cは挿入用スリット131から挿入されることによってカソードホルダ13に取り付けられ、挿入用スリット131から引き出されることによって取り外される。
【0031】
発電装置100は、図10のように、微生物20が存在する環境に差し込んで用いられる。微生物20が存在する環境は、一例として、微生物が存在する土壌Sである。すなわち、発電装置100は、図1図2の矢印Rの方向に、土壌Sに差し込んで用いられる。そこで、発電装置100は、発電装置100を微生物20が存在する環境に差し込むための差込部材14をさらに備える。矢印Rは、発電装置100を土壌Sに差し込む方向を表す。
【0032】
差込部材14は、筐体141を有する。筐体141は、高分子体によって形成され、例えば、3Dプリンタなどを用いて形成される。これにより、後述する凸部分14Aなどの複雑な形状も容易に形成される。
【0033】
好ましくは、筐体141は、生分解性の高分子体で形成される。生分解性の高分子体は、例えば、ポリラクチドなどである。これにより、微生物などにより分解され、発電装置100を外部環境に設置した場合にも、外部環境への影響を抑えることができる。
【0034】
筐体141の内部は貯水部142を構成している。貯水部142は、排水(廃液)30を貯水するために用いられる。排水30は微生物20が分解する有機物を含む液体であって、一例として、台所の廃液などが想定される。排水30は、後述するように、カソードホルダ13に取り付けられたカソード電極Cに供給される。
【0035】
貯水部142、つまり、筐体141の内部には、第1スティック144及び第2スティック145が設けられている。スティック144,145は、筐体141の内面から棒状に突出した部分であって、一例として、反対側の面までつなぐ棒状部材である。
【0036】
第1スティック144は、差込部材14に連結するカソードホルダ13の最下端の位置又は、それよりも低い位置に設けられている。第1スティック144が示す位置T2は、貯水部142に排水30を注入する際の目印であって、位置T2まで排水30が注入する目印として用いられる。
【0037】
第2スティック145は、アノードホルダ12に取り付けたアノード電極Aよりも上方となる位置に設けられている。第2スティック145が示す位置T1は、貯水部142の排水が減少し、追加する際の目印であって、位置T1まで減少すると排水を注入する目印として用いられる。これにより、位置T1より上方まで排水の液面が維持されるようになり、アノード電極Aの前面が排水に接触した状態が維持される。その結果、発電効率を向上させることができる。
【0038】
差込部材14は、矢印Rの方向に徐々に幅が狭くなるテーパー形状の凸部分14Aを有する。矢印Rの方向は、正面図に対して下向きである。これにより、発電装置100は、土壌Sに下向きに差し込みやすくなる。
【0039】
アノードホルダ12は、差込部材14に設けられている。好ましくは、アノードホルダ12は、凸部分14Aに設けられている。これにより、アノードホルダ12に取り付けられたアノード電極Aが土壌Sに接しやすくなる。
【0040】
好ましくは、差込部材14は複数の凸部分14Aを有し、複数の凸部分14Aそれぞれにアノードホルダ12が設けられている。図示された発電装置100では、差込部材14は2つの凸部分14Aを有し、2つの凸部分14Aそれぞれにアノードホルダ12が設けられている。これにより、発電装置100には、複数のアノード電極Aを取り付けることが可能になる。また、発電装置100では、複数のアノード電極Aを土壌Sに差し込むことができ、アノード電極Aの土壌Sに対する接触がより多く得られる。
【0041】
凸部分14Aに挿入用スリット121が形成されている。好ましくは、挿入用スリット121は、各凸部分14Aに縦方向に設けられている。正面側の挿入用スリット121と背面側の挿入用スリット121とは、上端及び下端が、それぞれ、筐体141の内部において、下方縁部123及び上方縁部124で接続されている。
【0042】
下方縁部123及び上方縁部124は、挿入用スリット121から挿入されたアノード電極Aを、それぞれ、下方及び上方から支持する。これにより、アノード電極Aはアノードホルダ12に取り付けられる。アノード電極Aが筐体141の内部の貯水部142に取り付けられることによって、アノード電極Aを貯水部142に貯水された排水に接触させることができる。
【0043】
凸部分14Aの側方には、排水口122が設けられている。これにより、貯水部142に貯水された排水は、排水口122から筐体141の外に排水され、発電装置100が土壌Sに差し込まれていると、土壌S中の微生物20に供給される。このとき、アノードホルダ12にアノード電極Aが取り付けられていると、排水は、アノード電極Aを通過して土壌S中の微生物20に供給される。また、アノードホルダ12に取り付けられたアノード電極Aを、土壌S中の微生物20と接触させることができる。
【0044】
筐体141の上方には、カソードホルダ13の後述する連結部材134を差し込むための連結口143が設けられている。連結部材134を連結口143に差し込むことで、カソードホルダ13が差込部材14に連結される。
【0045】
連結口143は、カソードホルダ13を差込部材14に対して相対位置を可変として連結させる機構を有する。連結させる機構の一例は、連結口143の高さ方向の長さを、連結部材134の厚みよりも長く構成することである。これにより、連結部材134の連結口143の高さ方向の位置が可変となり、その結果、カソードホルダ13を差込部材14に対して相対位置が可変に設けることができる。
【0046】
アノードホルダ12に取り付けられたアノード電極Aは、カソードホルダ13に取り付けられたカソード電極Cに電気的に接続される。そのため、差込部材14は、アノード電極Aに接続された導線LAを、アノードホルダ12からカソードホルダ13まで配線するための配線部146を有する。配線部146は、一例として、筐体141の内側にアノードホルダ12からカソードホルダ13まで連続して配置されて、内空146Aを有する。これにより、内空146Aに導線LAを配置することで、アノードホルダ12からカソードホルダ13まで導線LAを配線できる。
【0047】
カソードホルダ13は、カソード電極Cの縁を保持する枠部132を有し、その正面側に挿入用スリット131が形成されている。これにより、枠部132の内部にカソード電極Cが挿入される。
【0048】
枠部132の、挿入用スリット131が形成されていない辺の内側には溝132Bが形成されている。挿入用スリット131から挿入されたカソード電極Cは、溝132Bに嵌まることによって、枠部132に保持される。カソード電極Cが枠部132に保持されることで、カソード電極Cの上面及び下面の枠部132に保持されていない部分はカソードホルダ13から外部に露出させることができる。そのため、後述するように、上面は空気に接触させ、下面は排水に接触させることができる。
【0049】
枠部132は連結部材134に接続されている。好ましくは、カソードホルダ13は2つの枠部132を有し、連結部材134はそれらの間をつなぐ。これにより、発電装置100には2つのカソード電極Cが取り付けられる。その結果、発電効率を向上させることができる。
【0050】
枠部132は、連結部材134との境界位置に、引出口132Aが形成されている。引出口132Aは、枠部132に保持されたカソード電極Cに接続された導線LCを枠部132から引き出すための部分であって、一例として、切り欠きである。これにより、枠部132に保持されたカソード電極Cから、接続された導線LCを枠部132の外に引き出すことができる。
【0051】
連結部材134が差込部材14の連結口143に差し込まれることで、2つの枠部132はいずれも差込部材14から左右に張り出し、貯水部142の外部に設けられるようになる。
【0052】
好ましくは、連結部材134は、カソードホルダ13の移動を規制する規制部材を有する。規制部材は、一例として、連結部材134の連結口143に接する面に設けられ、連結口143との間の摩擦を増加させる部材である。規制部材は、例えば、ゴム部材134Aなどである。これにより、連結部材134は、連結口143に差し込まれた後、ゴム部材134Aによって連結口143との間に生じる摩擦力によって移動が規制される。
【0053】
カソードホルダ13に取り付けられたカソード電極Cは、アノードホルダ12に取り付けられたアノード電極Aに電気的に接続される。そのため、カソードホルダ13は、カソード電極Cに接続された導線LCを、アノードホルダ12から配線された導線LAに接続するための配線部135を有する。
【0054】
配線部135は、内空を有し、左右に連結された枠部132それぞれに向く面に、内空への挿入口135Aを有する。左右の枠部132それぞれの引出口132Aから引き出された導線LCは、それぞれ、挿入口135Aから配線部135の内空に挿入される。
【0055】
配線部135は、正面に内空への挿入口135Bを有する。配線部146の内空146Aに配線され、上端から引き出された導線LAは、挿入口135Bから配線部135の内空に挿入される。
【0056】
配線部135は、上面に引出口135Cを有する。配線部135の内空において導線LA及び導線LCは結線されて、導線LSが引出口135Cから上方に引き出される。
【0057】
配線部135は、生成した電力を供給する機器を支持する支持部材としても機能する。一例として、配線部135は、上面に生成した電力を供給する機器を固定可能なように構成されている。固定は、例えば、クリップなどである。生成した電力を供給する機器は、例えば、LED(Light Emitting Diode)電球などである。
【0058】
導線LSが引出口135Cから上方に引き出されることによって、配線部135に支持された、生成した電力を供給する機器に導線LSを容易に接続できる。これにより、生成した電力を容易に供給することができる。
【0059】
アノード電極Aは、土壌S中の微生物20が、排水30中の有機物を取り込んで放出する電子を収集する電極体である。カソード電極Cは、炭素などの導電性を有する材料によって形成された電極体であればよい。
【0060】
アノード電極A及びカソード電極Cは、一例として、活性炭シートで構成された電極シートであって、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)複合紙から形成される。CNT複合紙は、紙の成分であるパルプ繊維にCNTを分散させたものである。
【0061】
好ましくは、アノード電極A及びカソード電極Cは、それぞれ、板状部材の導線LA,LCの端部と、CNT複合紙と、が積層された電極シートである。板状部材の導線LA,LCの端部は、一例として、ステンレスメッシュである。アノード電極A及びカソード電極Cは、一例として、ステンレスメッシュを間に挟んだ2層の活性炭シートからなる。導線LA,LCの端部としてステンレスメッシュなどの板状部材を用いることで、導線LA,LCの端部を層構造の電極に挟みやすくなる。導線LA,LCの端部を層構造の電極に挟むことによって、導線LA,LCの電極との接続を容易にする。
【0062】
アノード電極A及びカソード電極Cは、一例として、ステンレスメッシュを6重量%の多層CNT溶液に浸漬させて結合させ、その後、平らな容器に入れて乾燥させることによって生成される。6重量%の多層CNT溶液は、例えば、6mlの多層CNT6%溶液に0.5gの炭素繊維、0.5gの活性炭粉末、及び、0.5gのセルロース繊維を加え、マグネチックスターラなどのスターラで回転数600rpmを20時間動作させること、などにより生成される。乾燥は、例えば、40℃で20時間程度、行われる。
【0063】
カソード電極Cには、エアカソードが用いられる。エアカソードは空気中の酸素を利用する。そのため、カソード電極Cは、カソードホルダ13に、排水と外気との両方に触れるように取り付けられる。具体的には、図10に表されたように、発電装置100を、カソードホルダ13の位置まで土壌Sに差し込み、かつ、貯水部142に排水30をカソードホルダ13の位置を超えない高さまで注入する。これにより、カソードホルダ13に取り付けられたカソード電極Cの下面は排水30に接し、上面は空気に接するようになる。その結果、カソード電極Cがエアカソードとして機能するようになる。
【0064】
発電装置100は、図10のように用いられ、発電する。すなわち、図10を参照して、アノードホルダ12にアノード電極Aを取り付け、カソードホルダ13にカソード電極Cを取り付け、微生物20の存在する土壌Sに差込部材14を差し込む。カソードホルダ13は、カソード電極Cが土壌Sの上面と一致するように差込部材14に連結され、位置が固定されている。
【0065】
土壌Sに差し込まれた発電装置100の貯水部142に、位置T2まで排水30を注入する。貯水部142に注入された排水30は、図10の矢印Tに示されたように、アノード電極Aを通過して排水口122から筐体141の外に排水され、土壌S中の微生物20に供給される。
【0066】
微生物20は、排水30に含まれる有機物31を分解する。有機物31が微生物20によって分解されるときに発生する電子e-は、アノード電極Aで回収される。回収された電子e-は、アノード電極Aから導線LAを経由してカソード電極Cへ移動される。なお、アノード電極Aではプロトン(H+)が発生する。プロトンは、アノード電極Aからカソード電極Cへ移動した電子e-、及び、酸素と反応して、水を生じさせる。
【0067】
発電装置100では、電子e-の移動と反対方向に、カソード電極Cからアノード電極Aに向かう電流が生じる。この電流をデジタル電圧信号に変換することにより、発電装置100では、電気エネルギーが得られる。
【0068】
発明者らは、発電装置100の発電能力を実証するための実証実験を行った。第1の実験では、注入する排水30を下の第1の条件と第2の条件として、インキュベータ内で30~31℃に保った状態で、開回路電圧(ОCV:Open Circuit Voltage)及び電力密度を測定した。開回路電圧は、時間変化を測定した。電力密度は、10Ω~0.15kΩの範囲で外部抵抗を変化させて測定した。
第1の条件:土壌Sに差し込み後、24時間経過後に水道水を追加。その後、72時間ごとに水道水を20mlずつ追加した。
第2の条件:土壌Sに差し込み後、24時間経過後に米洗浄廃水を追加。その後、72時間ごとに米洗浄廃水を20mlずつ追加した。
【0069】
土壌Sは、水田近くの排水路から採取した土を用い、そのパラメータは、pH:4.5、電気伝導率(EC:Electric Conductivity):1.36dS/m、総炭素量(TC:Total Carbon):85,200mg/kgである。
【0070】
第1の実験によって、図11図12の結果が得られた。図11は、測定された開回路電圧(ОCV)の時間変化を表している。図12は、第1、第2の条件それぞれでの最大電力密度の時間変化を表している。
【0071】
図11の結果より、排水30として水道水を用いた場合(第1の条件)の最大開回路電圧は0.57V、米洗浄廃水を用いた場合(第2の条件)の最大開回路電圧は0.83Vが得られた。図11の結果より、排水30として米洗浄廃水を用いた方(第2の条件)が水道水を用いた方(第1の条件)よりも全体に開回路電圧が高く、時間が経過しても電圧の低下が少ないことが分かった。
【0072】
図12の結果より、排水30として水道水を用いた場合(第1の条件)、開始直後より徐々に最大電力密度が上昇して240時間経過後程度で変化がなくなるのに対して、排水30として米洗浄廃水を用いた場合(第2の条件)、開始直後から最大開回路電圧が大きく増加し、190時間経過後程度に最大電力密度が低下することが分かった。米洗浄廃水を用いた場合(第2の条件)の最大力密度の最大は490mW/m2程度得られた。
【0073】
第1の実験の結果より、発電装置100においては、排水30として水道水よりも米洗浄廃水を用いた方が発電効率が高いことが分かった。これは、水道水より米洗浄廃水の方が有機物31が多く含まれるためと考えられる。
【0074】
排水30として米洗浄廃水を用いた場合であっても、連続した発電は、開始後、190時間以内程度であることが分かった。これは、有機物31の発酵によってアノード電極A表面のpHが上昇し、それによって微生物20の活性が低下する可能性が考えられる。
【0075】
第2の実験では、土壌Sとして砂質土を用い、注入する排水30を下の第1の条件と第2の条件として、他は第1の実験と同条件にして開回路電圧(ОCV:Open Circuit Voltage)及び電力密度を測定した。
第1の条件:土壌Sに差し込み後、48時間経過後に水道水を追加。その後、電力密度測定ごとに水道水を追加した。
第2の条件:土壌Sに差し込み後、48時間経過後に米洗浄廃水を追加。その後、電力密度測定ごとに米洗浄廃水を追加した。
【0076】
第2の実験によって、図13図14の結果が得られた。図13は、測定された開回路電圧の時間変化を表している。図14は、第1、第2の条件それぞれでの最大電力密度の時間変化を表している。
【0077】
図13の結果より、排水30として水道水を用いた場合(第1の条件)の最大開回路電圧は―0.1V、米洗浄廃水を用いた場合(第2の条件)の最大開回路電圧は0.62Vが得られた。図13の結果より、排水30として水道水を用いた場合(第1の条件)には最大開回路電圧はほぼ0V付近で変化がないのに対して、米洗浄廃水を用いた場合(第2の条件)は開始から48時間程度後に上昇し、高い電圧を維持することが分かった。
【0078】
図14の結果より、排水30として水道水を用いた場合(第1の条件)、最大力密度はほぼ0V付近で変化がないのに対して、米洗浄廃水を用いた場合(第2の条件)は開始から70時間程度後に上昇し、240時間程度後に徐々に低下することが分かった。米洗浄廃水を用いた場合(第2の条件)の最大力密度の最大は110mW/m2程度得られた。
【0079】
第1の実験と第2の実験との結果を比較して、土壌Sとして砂質土を用いるよりも水田近くの排水路から採取した土を用いた方が発電効率が高いことが分かった。これは、土壌S中の微生物20が砂質土より水田近くの排水路から採取した土の方が多く含まれるためと考えられる。
【0080】
発電装置100の筐体141は凸部分14Aを有することから、土壌Sに差し込みやすい。また、アノード電極A及びカソード電極Cはそれぞれのホルダに容易に装着され、導線LA,LCも容易に配線されることから持ち運びがしやすい。そのため、例えば、水田近くの排水路にも容易に持ち運び、土にも差し込んで用いることができる。
【0081】
発電装置100では、アノードホルダ12にアノード電極Aが着脱可能に取り付けられるため、図12の実験結果のように発電効率が低下してきた場合にも、アノード電極Aを容易に取り換えることができる。そのため、高い発電効率を容易に維持させることができる。
【0082】
発電装置100では、排水30として米洗浄廃水が適している。同様に、台所廃水が適していると考えられる。そのため、米洗浄廃水などの排水のリサイクルが可能になり、環境への影響をよいものとすることができる。また、発電に係るコストを抑えることができる。
【0083】
[第2の実施の形態]
【0084】
図15は、第2の実施の形態に係る発電装置300の斜め上方からの概略斜視図である。図16は、図15の発電装置300への、アノード電極A及びカソード電極Cの取り付け方を表す概略斜視図である。図17は、図15の発電装置300に、アノード電極A及びカソード電極Cを取り付けた状態を表す概略斜視図である。
【0085】
図18は、発電装置300の平面図である。図19は、アノード電極A及びカソード電極Cそれぞれからの導線LA,LCが配線された状態の発電装置300の平面図である。図20は、発電装置300の側面図である。図21は、発電装置300の正面図である。図22は、図18のC-C断面図で あって、発電装置300の有するアノードホルダ34部分のみの断面図である。
【0086】
図23は、発電装置300の用いられ方を説明するための図である。発電装置300は、微生物20が有機物である燃料を分解する代謝反応を利用して発電を行う、いわゆる微生物電量電池であって、土壌Sを電解質(バイオ燃料)として使用する発電装置である。
【0087】
発電装置300は、アノード電極Aを取り付け可能なアノードホルダ32と、カソード電極Cを取り付け可能なカソードホルダ33と、備えている。アノードホルダ32及びカソードホルダ33は、それぞれ、アノード電極A及びカソード電極Cを脱着可能であって、アノードホルダ32は、アノード電極Aを挿入するための挿入用スリット321を有している。アノード電極Aは挿入用スリット321から挿入されることによってアノードホルダ32に取り付けられ、挿入用スリット321から引き出されることによって取り外される。
【0088】
発電装置300は、図23のように、微生物20が存在する環境に差し込んで用いられる。微生物20が存在する環境は、一例として、微生物が存在する土壌Sである。すなわち、発電装置300は、図15図17の矢印Rの方向に、土壌Sに差し込んで用いられる。そこで、発電装置300は、発電装置300を微生物20が存在する環境に差し込むための差込部材34をさらに備える。矢印Rは、発電装置300を土壌Sに差し込む方向を表す。
【0089】
差込部材34は、構造体341を有する。構造体341は、一例として、縦方向及び横方向の棒状部材の組み合わせによる格子形状である。詳しくは、構造体341は、側面方向に開口322を有する複数のフレーム341A,341B,341C、及び、それらを上方で接続する連結部材341Dを有する。この例では、構造体341は、3つのフレーム341A,341B,341Cを有する。構造体341は、高分子体によって形成され、例えば、3Dプリンタなどを用いて形成される。これにより、複雑な形状も容易に形成される。
【0090】
好ましくは、構造体341は、生分解性の高分子体で形成される。生分解性の高分子体は、例えば、ポリラクチドなどである。これにより、微生物などにより分解され、発電装置300を外部環境に設置した場合にも、外部環境への影響を抑えることができる。
【0091】
各フレーム341A,341B,341Cは、矢印Rの方向に徐々に幅が狭くなるテーパー形状の凸部分34Aを有する。矢印Rの方向は、正面図に対して下向きである。これにより、発電装置300は、土壌Sに下向きに差し込みやすくなる。
【0092】
アノードホルダ32は、差込部材34に設けられている。好ましくは、アノードホルダ32は、各フレーム341A,341B,341Cの凸部分34Aに設けられている。これにより、アノードホルダ32に取り付けられたアノード電極Aが土壌Sに接しやすくなる。
【0093】
また、各フレーム341A,341B,341Cの凸部分34Aにアノードホルダ32が設けられていることにより、発電装置300には、複数のアノード電極Aを取り付けることが可能になる。また、発電装置300では、複数のアノード電極Aを土壌Sに差し込むことができ、アノード電極Aの土壌Sに対する接触がより多く得られる。
【0094】
各フレーム341A,341B,341Cの凸部分34Aには、挿入用スリット321が形成されている。好ましくは、挿入用スリット321は、各凸部分34Aに縦方向に設けられている。正面側の挿入用スリット321と背面側の挿入用スリット321とは、下端が下方縁部323で接続されている。下方縁部323には溝323Aが形成されている。これにより、アノード電極Aは、正面及び背面では各フレーム341A,341B,341Cに保持されて左右及び上下方向が固定され、開口322では下方縁部323によって下方向への落下が防がれるとともに、溝323Aによって左右方向が固定される。
【0095】
各フレーム341A,341B,341Cの凸部分34Aの側方に開口322が形成されているため、アノードホルダ32にアノード電極Aを取り付け、発電装置300を土壌Sに差し込むと、アノードホルダ32に取り付けられたアノード電極Aを、土壌S中の微生物20と接触させることができる。
【0096】
アノードホルダ32に取り付けられたアノード電極Aは、カソードホルダ33に取り付けられたカソード電極Cに電気的に接続される。そのため、差込部材34の各フレーム341A,341B,341Cには、アノード電極Aに接続された導線LAを、アノードホルダ32からカソードホルダ33まで配線するための配線溝342、及び、アノード電極Aから導線LAを引き出すための引出穴343が形成されている。
【0097】
引出穴343は、各フレーム341A,341B,341Cの正面側に開口し、開口322と連通した穴である。配線溝342は、引出穴343からカソードホルダ13まで連続して各フレーム341A,341B,341Cの正面側に設けられた溝である。これにより、アノードホルダ32に取り付けられたアノード電極Aからは、引出穴343を通って導線LAが各フレーム341A,341B,341Cに引き出される。引き出された導線LAは、引出穴343からカソードホルダ13まで配線溝342内に配置される。
【0098】
カソードホルダ33は、カソード電極Cの周囲を保持する複数の脚部331と、複数の脚部331の上端が接続された上板部332と、を有する。複数の脚部331の下端は接続されていない。そのため、カソード電極Cを、複数の脚部331の下端側から内側に挿入することができる。
【0099】
複数の脚部331の少なくとも1つに、差込部材34の連結部材341Dに連結するための連結部337が設けられている。連結部337は、例えば爪であって、連結部材341Dを連結部材341Dにかけることで、カソードホルダ33を差込部材34に対して着脱可能とする。カソードホルダ33が差込部材34に対して着脱可能であることによって、カソードホルダ33に対してカソード電極Cが着脱可能となる。
【0100】
複数の脚部331のうちの、少なくとも正面側の脚部331の正面側の面に、下端から上端まで連続した配線溝333が形成されている。配線溝333は、カソードホルダ33を差込部材34に対して取り付けたときに、差込部材34に形成されている配線溝342と連続する位置に設けられている。これにより、アノード電極Aからの導線LAが配線溝342内に配置されてカソードホルダ33に到達し、配線溝333内に配置されて脚部331の上端まで達する。
【0101】
上板部332の上面には、生成した電力を供給する機器を支持する支持部336が形成されている。支持部336は、例えば、上板部332の上面に設けられた凹部であって、その中に機器をセットして用いる。
【0102】
配線溝333の上端付近には、脚部331の正面側の面から上板部332の上面まで貫通する引出口334が設けられている。これにより、配線溝333の上端まで配線された導線LAは引出口334から上板部332の上面に引き出される。
【0103】
複数の脚部331のうちの、少なくとも1つの脚部331に、内側から上板部332の上面まで貫通する引出口335が設けられている。これにより、カソードホルダ33に取り付けられたカソード電極Cからの導線LCは引出口335から上板部332の上面に引き出される。
【0104】
上板部332の上面に導線LA,LCが引き出されることによって、支持部336にセットされた機器に導線LA,LCを容易に接続することができる。それにより、支持部336にセットされた機器に生成した電力を容易に供給することができる。
【0105】
アノード電極Aは、第1の実施の形態に係る発電装置100と同じ電極シートの多層構造である。一例として、アノード電極Aは、6mlの多層CNT6%溶液によって付着された2層の電極シートからなる構造であってよい。なお、導線LAは銅電線であってよい。
【0106】
カソード電極Cは、エアカソードが用いられる。カソード電極Cもまた、第1の実施の形態に係る発電装置100と同じ電極シートの多層構造である。また、カソード電極Cは、イオン交換膜を含む。一例として、カソード電極Cは、1.5mlの多層CNT6%溶液と10%のナフィオン(登録商標)との2対1の比率の混合物によって付着された3層の電極シートからなる構造であってよい。なお、導線LCは、第1の実施の形態で用いられた電極と同様にステンレスメッシュであってよく、3層の電極シートの間に挟まれていてよい。
【0107】
カソード電極Cは、さらに、フロート部材Fに積層されて用いられる。一例として、カソード電極Cはフロート部材Fの下面に貼り付けて用いられる。フロート部材Fは、水に浮く部材であって、例えば、ポリエチレンフォームなどによって形成されている。
【0108】
フロート部材Fに貼り付けられたカソード電極Cをカソードホルダ33に取り付け、図23に示されたように発電装置300を用いると、カソード電極Cは、フロート部材Fに生じる浮力によって水面に浮上する。そのため、カソードホルダ33は、カソード電極Cを差込部材34に対して相対位置が可変に取り付け可能である。
【0109】
カソード電極Cがフロート部材Fに生じる浮力によって水面に浮上し、上板部332に達すると、上板部332によってそれ以上の浮上が規制される。そのため、カソードホルダ33の上板部332は、カソード電極Cの移動を規制する規制部材として機能する。
【0110】
カソード電極Cがフロート部材Fが受ける水流によって左右方向に移動し、カソード電極Cの周囲を保持する複数の脚部331のいずれかに達すると、脚部331によってそれ以上の左右方向の移動が規制される。そのため、カソードホルダ33の複数の脚部331もまた、カソード電極Cの移動を規制する規制部材として機能する。これにより、カソード電極Cの位置が水流や水量によって不適切な位置となることを防ぐことができる。
【0111】
発電装置300は、図23のように用いられ、発電する。すなわち、図23を参照して、アノードホルダ32にアノード電極Aを取り付け、カソードホルダ33にカソード電極Cを取り付け、微生物20の存在する、湿った土壌Sに差込部材34を差し込む。差込部材34は、アノードホルダ32に取り付けられたアノード電極Aが完全に土壌Sに埋まり、かつ、土壌S中の水30Aの水面がカソードホルダ33の上板部332を越えない位置まで、土壌Sに差し込まれる。これにより、アノード電極Aがより多く土壌Sと接触し、発電効率を向上させることができる。また、土壌S中の水30Aによって、フロート部材Fは水面まで浮き上がり、カソード電極Cが空気に触れるようになる。
【0112】
アノード電極Aの表面に有機物31が付着しているとき、土壌S中の微生物20は、有機物31を分解する。分解時に発生する電子e-は、アノード電極Aで回収される。回収された電子e-は、アノード電極Aから導線LAを経由してカソード電極Cへ移動される。なお、アノード電極Aではプロトン(H+)が発生する。プロトンは、アノード電極Aからカソード電極Cへ移動した電子e-、及び、酸素と反応して、水を生じさせる。
【0113】
発電装置300では、電子e-の移動と反対方向に、カソード電極Cからアノード電極Aに向かう電流が生じる。この電流をデジタル電圧信号に変換することにより、発電装置100では、電気エネルギーが得られる。
【0114】
発明者らは、発電装置300の発電能力を実証するための実証実験を行った。第1の実験では、用いるアノード電極Aを下の第1のアノード電極Aと第2のアノード電極Aとして、水で飽和した土壌Sを用い、インキュベータ内で30~33℃に保った状態で、第1の実施の形態と同様に開回路電圧(ОCV)及び電力密度を測定した。
第1のアノード電極A:0.5mlのLB培地をコーティングし、自然乾燥させたアノード電極A
第2のアノード電極A:LB培地をコーティングなしのアノード電極A
【0115】
なお、LB培地は、一例として、10g/lのグルコース、10g/lのトリプトン、5g/lの酵母エキス、10g/lの塩化ナトリウム、及び、10g/lの水酸化ナトリウムを混合してpH=7.0に調整した、一般的なLB培地が用いられた。LB培地は、有機物31に相当し、第1のアノード電極Aが有機物31あり、第2のアノード電極Aが有機物31なしの条件となる。
【0116】
土壌Sは、水田近くの排水路から採取した土を用い、そのパラメータは、pH:4.5、電気伝導率(EC:Electric Conductivity):1.36dS/m、総炭素量(TC:Total Carbon):85,200mg/kgである。
【0117】
第1の実験では、第1のアノード電極A及び第2のアノード電極Aそれぞれを用いて、土壌Sを交換し、第1のアノード電極A及び第2のアノード電極Aのいずれも交換することなく、1サイクルを312時間として、3サイクル(R0,R1,R2)、連続して開回路電圧(ОCV)及び電力密度を測定した。
【0118】
第1の実験によって、図24図27の結果が得られた。図24は、第1のアノード電極Aを用いて各サイクルで測定された開回路電圧(ОCV)の時間変化を表している。図25は、第2のアノード電極Aを用いて各サイクルで測定された開回路電圧(ОCV)の時間変化を表している。図24及び図25において、グレーの時間帯は放電していない時間帯、白の時間帯は放電している時間帯を表している。図26は、第1のアノード電極Aを用いて各サイクルで測定された最大電力密度の時間変化を表している。図27は、第2のアノード電極Aを用いて各サイクルで測定された最大電力密度の時間変化を表している。
【0119】
図24及び図25より、LB培地をコーティングしたアノード電極A(第1のアノード電極A)を用いた場合もLB培地のコーティングのないアノード電極A(第2のアノード電極A)を用いた場合も、開回路電圧の最大出力と安定した状態には開始から概ね5日後に到達した。これは、開始から概ね5日くらいでアノード電極Aの表面に微生物のフィルムが形成されるためと考えられる。
【0120】
図24の結果より、LB培地をコーティングしたアノード電極A(第1のアノード電極A)を用いた場合、開回路電圧の最大値は、1回目のサイクル(R0)で得られた0.6Vであった。これに対して、図25の結果より、LB培地のコーティングのないアノード電極A(第2のアノード電極A)を用いた場合、開回路電圧の最大値は、1回目のサイクル(R0)で得られた0.48Vであった。
【0121】
図26の結果より、LB培地をコーティングしたアノード電極A(第1のアノード電極A)を用いた場合、1回目のサイクル(R0)において開始から1週間後に最大電力密度が130mW/m2が得られ、最大値となった。その後、2回目のサイクル(R1)、及び、3回目のサイクル(R2)では、最大電力密度の最大値が50%程度、低下した。
【0122】
これに対して、図27の結果より、LB培地のコーティングのないアノード電極A(第2のアノード電極A)を用いた場合には、各サイクルで得られた最大電力密度の最大値は60~70130mW/m2程度であって、値が全体として第1のアノード電極Aを用いた場合よりも低い。また、各サイクルで得られた最大電力密度の最大値に大きな変化がない。
【0123】
第1の実験より、アノード電極AにLB培地をコーティングするなどの有機物31の添加が発電効率を上昇させると考察される。また、有機物31の添加したアノード電極Aを交換しながら用いることが有効であると考察される。なお、実験後のアノード電極Aの表面は、土壌Sに含まれるカルシウム、鉄、その他のミネラルが原因であると考えられる、硬い褐色の層で覆われていた。発電効率の低下は、有機物31の不足に加えて、電極表面の劣化も考えられる。
【0124】
発電装置300では、アノードホルダ32にアノード電極Aが着脱可能に取り付けられるため、アノード電極Aを容易に取り換えることができる。そのため、高い発電効率を容易に維持させることができる。
【0125】
第2の実験では、用いるカソード電極Cを、フロート部材Fに取り付けられたカソード電極C(第1のカソード電極C)と、フロート部材Fに取り付けられず固定されたカソード電極C(第2のカソード電極C)として、第1の実験と同様の条件にて1サイクルのみ発電させて開回路電圧(ОCV)を測定した。第2のカソード電極Cを用いたときは、カソード電極Cが土壌Sの表面より下に沈み、完全に水没した状態とした。
【0126】
第2の実験によって、図28の結果が得られた。図28は、第1のカソード電極C及び第2のカソード電極Cを用いて測定されたそれぞれの開回路電圧(ОCV)の時間変化を表している。図28において、グレーの時間帯は放電していない時間帯、白の時間帯は放電している時間帯を表している。
【0127】
図28の結果より、カソード電極Cがフロート部材Fに取り付けられていた方が格段に開回路電圧が高いことが分かる。これは、カソード電極Cが水没することによってカソード電極に空気が供給されないためと考えられる。
【0128】
発電装置300では、カソード電極Cがフロート部材Fに取り付けられているため、高い発電効率が得られることが実証された。
【0129】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0130】
12 :アノードホルダ
13 :カソードホルダ
14 :差込部材
14A :凸部分
20 :微生物
30 :排水
30A :水
31 :有機物
32 :アノードホルダ
33 :カソードホルダ
34 :差込部材
34A :凸部分
100 :発電装置
121 :挿入用スリット
122 :排水口
123 :下方縁部
124 :上方縁部
131 :挿入用スリット
132 :枠部
132A :引出口
132B :溝
134 :連結部材
134A :ゴム部材
135 :配線部
135A :挿入口
135B :挿入口
135C :引出口
141 :筐体
142 :貯水部
143 :連結口
144 :第1スティック
145 :第2スティック
146 :配線部
146A :内空
300 :発電装置
321 :挿入用スリット
322 :開口
323 :下方縁部
323A :溝
331 :脚部
332 :上板部
333 :配線溝
334 :引出口
335 :引出口
336 :支持部
337 :連結部
341 :構造体
341A :フレーム
341B :フレーム
341C :フレーム
341D :連結部材
342 :配線溝
343 :引出穴
A :アノード電極
C :カソード電極
F :フロート部材
LA :導線
LC :導線
LS :導線
R :矢印
S :土壌
T :矢印
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