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特開2022-188742液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188742
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20221214BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069489
(22)【出願日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2021096698
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】西村 達哉
(72)【発明者】
【氏名】藤下 翔平
(72)【発明者】
【氏名】石部 徹
【テーマコード(参考)】
2H290
4J043
【Fターム(参考)】
2H290AA15
2H290AA33
2H290AA53
2H290AA72
2H290BD01
2H290BF13
2H290BF23
2H290BF52
2H290DA01
2H290DA03
4J043PA01
4J043PA04
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA21
4J043SA47
4J043SA63
4J043SB01
4J043SB02
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB01
4J043TB02
4J043UA022
4J043UA032
4J043UA131
4J043UA132
4J043UB161
4J043VA021
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA02
4J043ZA31
4J043ZA55
4J043ZB23
(57)【要約】
【課題】液晶配向性、力学強度、基板に対する密着性及び高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を得ること。
【解決手段】式(1)で表される部分構造を有する構造単位(I)と、炭素数5以上のアルキレン構造又は炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR-、-NR-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一若しくは異なる基で置き換えられてなる部分構造を有する構造単位(II)(ただし、構造単位(I)を除く。)と、を含むポリイミドを液晶配向剤に含有させる。式(1)中、Ar及びArは2価の芳香環基である。X及びXは-NR-、-O-、-S-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。「*」は、Ar又はArとの結合手を表す。Rは炭素数2以上のアルカンジイル基等である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造を有する構造単位(I)と、炭素数5以上のアルキレン構造又は炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR-、-NR-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一若しくは異なる基で置き換えられてなる部分構造(Rは、水素原子又は1価の有機基である。)を有する構造単位(II)(ただし、前記構造単位(I)を除く。)と、を含むポリイミドを含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar及びArは、それぞれ独立して、2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、-O-、-S-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。「*」は、Ar又はArに結合する結合手であることを表す。Rは、炭素数2以上のアルカンジイル基又は炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素結合間に-NR-、-O-、-S-、-CO-NR-、-NR-CO-、-COO-又は-OCO-を含む2価の基である。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。「*」は結合手であることを表す。)
【請求項2】
前記ポリイミドのイミド化率が30%以上である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記構造単位(II)は、炭素数5以上のアルキレン構造又は炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR4a-、-NR4a-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一若しくは異なる基で置き換えられてなる部分構造(Rは、水素原子又は1価の有機基である。R4aは、1価の熱脱離性基である。)を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
下記式(3)で表される部分構造を有する構造単位を含む重合体であって、前記ポリイミドとは異なる重合体を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(3)中、Ar、Ar及びRは、以下の(i)、(ii)又は(iii)を満たす。
(i)Ar及びArは、それぞれ独立して2価の芳香環基である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。
(ii)Ar及びArは、これらが互いに合わせられて、Arが有する芳香環、-NR-及びArが有する芳香環と共に構成される窒素含有縮合環構造を表す。Rは、水素原子又は1価の有機基である。
(iii)Ar及びRは、これらが互いに合わせられて、Arが有する芳香環、R及びRが結合する窒素原子と共に構成される窒素含有縮合環構造を表す。Arは2価の芳香環基である。
「*」は結合手であることを表す。)
【請求項5】
ポリアミック酸及びポリアミック酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体(Q)を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体(Q)として、下記式(3)で表される部分構造を有する構造単位を含む重合体を含有する、請求項5に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(3)中、Ar、Ar及びRは、以下の(i)、(ii)又は(iii)を満たす。
(i)Ar及びArは、それぞれ独立して2価の芳香環基である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。
(ii)Ar及びArは、これらが互いに合わせられて、Arが有する芳香環、-NR-及びArが有する芳香環と共に構成される窒素含有縮合環構造を表す。Rは、水素原子又は1価の有機基である。
(iii)Ar及びRは、これらが互いに合わせられて、Arが有する芳香環、R及びRが結合する窒素原子と共に構成される窒素含有縮合環構造を表す。Arは2価の芳香環基である。
「*」は結合手であることを表す。)
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、テレビやモバイル機器、各種モニター等に広く利用されている。このような多用途化に伴い、液晶素子には更なる高品質化が求められている。そこで、液晶素子の駆動方式や素子構造の改良とともに、液晶素子の構成成分の1つである液晶配向膜の改良が進められている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、ウレア結合とアルキレン構造とが結合した部分構造を主鎖に有するポリアミック酸を用いて液晶配向膜を形成することにより、液晶配向性、透明性及び耐ラビング性を改善することが開示されている。また、特許文献2には、ウレア結合やアミノ基等を主鎖に有する重合体と、カルバゾール構造を主鎖に有する重合体とをブレンドすることにより、残像の発生が少なく、高い透過性、コントラスト及び電圧保持特性を有し、リワーク性が良好な液晶配向膜を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-98887号公報
【特許文献2】国際公開第2020/218331号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶素子の更なる高品質化を図るべく本発明者らは検討し、芳香環と特定のヘテロ原子含有基と短鎖のアルキレン構造とが結合した部分構造を有するジアミンを用いてポリアミック酸を製造することにより、ラビング処理及び光配向処理のいずれを用いて液晶配向膜を作製した場合にも、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができるという知見を得た。その一方で、ポリアミック酸をイミド化すると、液晶配向膜の力学特性が低下したり、液晶配向膜の基板に対する密着性が低下したりしてしまう。ラビング処理によって液晶配向膜を作製する場合や、歩留まり低下を抑制すること等を考慮すると、液晶配向剤を用いて形成される膜には高い力学強度が求められる。
【0006】
また近年では、液晶素子の多用途化に伴い、液晶素子が種々の環境下において使用されることが想定される。そのため、液晶素子は高温高湿耐性に優れていることも要求される。しかしながら、液晶配向性や力学強度、基板に対する密着性、高温高湿耐性といった複数の特性を同時に満たすようにすることは困難であり、液晶配向膜においては更なる改善の余地がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、液晶配向性、力学強度、基板に対する密着性及び高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0009】
<1> 下記式(1)で表される部分構造を有する構造単位(I)と、炭素数5以上のアルキレン構造又は炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR-、-NR-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一若しくは異なる基で置き換えられてなる部分構造(Rは、水素原子又は1価の有機基である。)を有する構造単位(II)(ただし、前記構造単位(I)を除く。)と、を含むポリイミドを含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar及びArは、それぞれ独立して、2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、-O-、-S-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。「*」は、Ar又はArに結合する結合手であることを表す。Rは、炭素数2以上のアルカンジイル基又は炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素結合間に-NR-、-O-、-S-、-CO-NR-、-NR-CO-、-COO-又は-OCO-を含む2価の基である。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0010】
<2> 上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<3> 上記<2>の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶配向剤によれば、液晶配向性、力学強度、基板に対する密着性及び高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の態様に関連する事項について詳細に説明する。なお、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。重合体の「主鎖」とは、重合体の原子鎖のうち最も長い「幹」の部分をいう。重合体の「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0013】
《液晶配向剤》
本開示の液晶配向剤は、以下の構造単位(I)及び構造単位(II)を含むポリイミド(以下、「ポリイミド(P)」ともいう)を含有する。
・構造単位(I):下記式(1)で表される部分構造(A)を有する構造単位
【化2】
(式(1)中、Ar及びArは、それぞれ独立して、2価の芳香環基である。X及びXは、それぞれ独立して、-NR-、-O-、-S-、*-NR-CO-又は*-O-CO-である。「*」は、Ar又はArに結合する結合手であることを表す。Rは、炭素数2以上のアルカンジイル基又は炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素結合間に-NR-、-O-、-S-、-CO-NR-、-NR-CO-、-COO-又は-OCO-を含む2価の基である。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。「*」は結合手であることを表す。)
・構造単位(II):炭素数5以上のアルキレン構造又は炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR-、-NR-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一若しくは異なる基で置き換えられてなる部分構造(B)を有する構造単位(ただし、構造単位(I)を除く。Rは、水素原子又は1価の有機基である。)
以下、本開示の液晶配向剤に含まれるポリイミド(P)及び任意に配合されるその他の成分について詳述する。
【0014】
<ポリイミド(P)>
・構造単位(I)
上記式(1)において、Ar及びArで表される2価の芳香環基は、置換又は無置換の芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いてなる基である。2価の芳香環基としては、置換又は無置換の2価の芳香族炭化水素基及び置換又は無置換の2価の芳香族複素環基が挙げられる。芳香族複素環基としては、窒素含有芳香族複素環基、酸素含有芳香族複素環基、硫黄含有芳香族複素環基等が挙げられる。これらのうち、窒素含有芳香族複素環基が好ましい。なお、Ar及びArは、芳香環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。
【0015】
Ar、Arの具体例としては、2価の芳香族炭化水素基として、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環又はアントラセン環を有する2価の基を;2価の窒素含有芳香族複素環基として、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環を有する2価の基を;2価の酸素含有芳香族複素環基として、フラン環を有する2価の基を;2価の硫黄含有芳香族複素環基として、チオフェン環を有する2価の基を、それぞれ挙げることができる。液晶配向膜の高密度化による力学強度の向上、及び高透過率化を図る観点から、Ar及びArの2価の芳香環基は、置換若しくは無置換の2価の芳香族炭化水素基又は置換若しくは無置換の2価の窒素含有芳香族複素環基が好ましく、置換又は無置換のフェニレン基、ビフェニレン基又はピリジンジイル基がより好ましい。液晶配向膜の膜強度の改善効果がより高い点で、置換又は無置換のフェニレン基又はビフェニレン基が更に好ましい。置換基は、好ましくはメチル基又はハロゲン原子である。
【0016】
及びXで表される基が-NR-又は*-NR-CO-である場合、Rで表される1価の有機基としては、炭素数1~5のアルキル基、又は熱及び光のうち少なくともいずれかにより脱離する脱離性基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基又は熱脱離性基であることがより好ましい。液晶配向剤を基板に塗布し加熱して液晶配向膜を形成する過程において基Rを脱離させ、これによりプロセスの簡略化を図る観点から、熱脱離性基は、120~300℃の温度において分解し、水素原子に置き換わる基であることが好ましい。具体的には、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)又は9-フルオレニルメトキシカルボニル基が好ましく、tert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。Rは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基が好ましい。
【0017】
及びXは、液晶配向性をより良好にできる点で、中でも、-NR-、-O-又は-S-であることが好ましい。
【0018】
バックライトを長時間照射した場合にもリタデーションの変化が小さく、液晶配向性が良好な液晶素子を得ることができる点で、X及びXが-NR-又は*-NR-CO-である場合、Ar及びArの少なくとも一方は置換又は無置換の2価の窒素含有芳香族複素環基であることが好ましく、Ar及びArの両方が置換又は無置換の2価の窒素含有芳香族複素環基であることがより好ましく、Ar及びArの両方が置換又は無置換のピリジンジイル基であることが更に好ましい。また、同様の観点から、X及びXが-O-又は-S-である場合、Ar及びArの少なくとも一方は置換又は無置換の2価の芳香族炭化水素基であることが好ましく、Ar及びArの両方が置換又は無置換の2価の芳香族炭化水素基であることがより好ましく、Ar及びArの両方が置換又は無置換のフェニレン基であることが更に好ましい。
【0019】
で表される炭素数2以上のアルカンジイル基は、直鎖状であることが好ましい。当該アルカンジイル基の炭素数は、基板に対する密着性と膜強度とをバランス良く改善できる点で、2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4が更に好ましく、2又は3がより更に好ましい。
【0020】
で表される基が、炭素数2以上のアルカンジイル基の炭素-炭素結合間に-NR-、-O-、-S-、-CO-NR-、-NR-CO-、-COO-又は-OCO-を含む2価の基である場合、炭素数2以上のアルカンジイル基は直鎖状であることが好ましい。当該アルカンジイル基の炭素数は、基板に対する密着性と膜強度とをバランス良く改善できる点で、2~7が好ましく、2~5がより好ましく、2又は3が更に好ましい。
の具体例及び好ましい例については、Rの説明が適用される。
【0021】
ラビング処理において重合体の分子鎖の延伸を促すことができる点、及び光配向処理において露光後の熱処理によって重合体の分子鎖の再配列を促すことができる点で、Rは、上記のうち、炭素数2以上のアルカンジイル基が好ましく、炭素数2~8の直鎖状のアルカンジイル基がより好ましく、炭素数2~6の直鎖状のアルカンジイル基が更に好ましく、炭素数2~4の直鎖状のアルカンジイル基がより更に好ましく、炭素数2又は3の直鎖状のアルカンジイル基が特に好ましい。
【0022】
上記式(1)で表される部分構造(A)の具体例としては、下記式(1-1)~式(1-24)のそれぞれで表される部分構造等が挙げられる。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(式(1-1)~式(1-24)中、「*」は結合手であることを表す。)
【0023】
ポリイミド(P)において、構造単位(I)の含有量は、ポリイミド(P)を構成する単量体に由来する全構造単位に対して、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましく、15モル%以上がより更に好ましい。また、構造単位(I)の含有量は、ポリイミド(P)を構成する単量体に由来する全構造単位に対して、49モル%以下が好ましく、45モル%以下がより好ましく、40モル%以下が更に好ましい。構造単位(I)の含有量が1モル%以上であると、構造単位(I)に由来する芳香環-特定のヘテロ原子含有基-アルキレン構造の導入により力学特性を良化できる効果を十分に得ることができる点で好適である。また、構造単位(I)の含有量が49モル%以下であると、十分な量の構造単位(II)、すなわち構造単位(II)に由来する比較的長鎖の単位をポリイミド(P)に導入でき、基板に対する密着性及び高温高湿耐性の改善効果を高くできる点で好適である。なお、ポリイミド(P)が有する構造単位(I)は、1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
【0024】
・構造単位(II)
構造単位(II)は、上記部分構造(B)を有する構造単位である。すなわち、構造単位(II)は、炭素数5以上のアルキレン構造を有する構造単位(IIa)、又は、炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR-、-NR-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一又は異なる基(以下、「官能基F1」ともいう)で置き換えられてなる部分構造を有する構造単位(IIb)である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。なお、構造単位(II)は、構造単位(I)とは異なる構造単位である。
【0025】
構造単位(II)は、液晶素子の高温高湿耐性を改善する効果が高い点において、中でも、炭素数5以上のアルキレン構造、又は炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR4a-、-NR4a-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一若しくは異なる基で置き換えられてなる部分構造(Rは、水素原子又は1価の有機基である。R4aは、1価の熱脱離性基である。)を有することが好ましい。
【0026】
構造単位(IIa)が有するアルキレン構造は直鎖状であることが好ましい。当該アルキレン構造の炭素数は、基板との密着性の改善効果を高くできる点で、6以上が好ましく、7以上がより好ましく、8以上が更に好ましい。また、アルキレン構造の炭素数は、膜の力学強度の低下を抑制する観点から、15以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
【0027】
構造単位(IIb)は、膜の力学強度及び密着性を良好にする観点から、炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、-COO-*、*-OCO-、-O-、-CO-NR-*、*-NR-CO-、-NR-及び-CO-(ただし、「*」は、芳香環基とは異なる基(好ましくはアルカンジイル基)に結合する結合手であることを表す。)よりなる群から選択される同一又は異なる基によって置き換えられてなる部分構造を有することが好ましい。構造単位(IIb)において、アルキレン構造は直鎖状であることが好ましい。アルキレン構造の炭素数は、基板との密着性をより高くする観点から、6以上が好ましく、7以上がより好ましく、8以上が更に好ましい。また、アルキレン構造の炭素数は、膜の力学強度の低下を抑制する観点から、15以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
【0028】
構造単位(IIb)が有する官能基F1の数、すなわち、炭素数5以上のアルキレン構造が有するメチレン基を置き換えている官能基F1の数は、特に限定されないが、1~4個が好ましく、1又は2個がより好ましい。なお、構造単位(II)が官能基F1を2個以上有する場合、それら2個以上の官能基F1は、互いに隣り合わない条件によって構造単位(IIb)中に導入されている。
【0029】
で表される1価の有機基としては、Rの説明において例示した1価の有機基と同様の基が挙げられる。Rと同様の理由から、Rで表される1価の有機基は、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)又は9-フルオレニルメトキシカルボニル基が好ましく、tert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。Rは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基がより好ましく、熱脱離性基が更に好ましい。
【0030】
構造単位(IIb)は、高温高湿耐性により優れた液晶素子を得ることができる点で、中でも、-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR4a-、-NR4a-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一又は異なる基で置き換えられてなる部分構造(Rは、水素原子又は1価の有機基である。R4aは、1価の熱脱離性基である。)であることが好ましく、-COO-*、*-OCO-、-O-、-CO-NR4a-*、*-NR4a-CO-及び-CO-のうち少なくともいずれかであることがより好ましい。なお、「*」は上記と同義である。
【0031】
構造単位(II)が有する部分構造(B)の具体例としては、下記式(2-1)~式(2-22)のそれぞれで表される部分構造等が挙げられる。
【化7】
【化8】
【0032】
ポリイミド(P)において、構造単位(II)の含有量は、ポリイミド(P)を構成する単量体に由来する全構造単位に対して、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位(II)の含有量は、ポリイミド(P)を構成する単量体に由来する全構造単位に対して、49モル%以下が好ましく、45モル%以下がより好ましく、40モル%以下が更に好ましい。構造単位(II)の含有量が1モル%以上であると、構造単位(II)に由来する比較的長鎖の単位の導入により基板に対する密着性及び高温高湿耐性の改善効果を高くできる点で好適である。また、構造単位(II)の含有量が49モル%以下であると、十分な量の構造単位(I)をポリイミド(P)に導入でき、芳香環-特定のヘテロ原子含有基-アルキレン構造の導入による力学特性の改善効果を高くできる点で好適である。なお、ポリイミド(P)が有する構造単位(II)は、1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
【0033】
ポリイミド(P)において、構造単位(II)に対する構造単位(I)の割合(構造単位(I)/構造単位(II))は、モル比で、1/10~10/1が好ましく、1/4~4/1がより好ましく、1/3~3/1が更に好ましく、1/2~2/1がより更に好ましい。構造単位(II)に対する構造単位(I)の割合が上記範囲であると、膜の力学強度の改善効果と、基板に対する密着性及び高温高湿耐性の改善効果(特に、膜の力学強度の改善効果)をより高くできる点で好適である。
【0034】
・ポリイミド(P)の製造
ポリイミド(P)を製造する方法は特に限定されない。ポリイミド(P)は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより、構造単位(I)と構造単位(II)とを有するポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(P)」ともいう)を得て、次いで、ポリアミック酸(P)を脱水閉環してイミド化することにより製造することができる。
【0035】
ポリアミック酸(P)を製造する方法についても同じく、特に限定されない。モノマーの選択の自由度が高い点からすると、部分構造(A)を有するジアミン(以下、「特定ジアミンA」ともいう)により重合体中に構造単位(I)が導入されることが好ましい。また、部分構造(B)を有するジアミン(以下、「特定ジアミンB」ともいう)により重合体中に構造単位(II)が導入されることが好ましい。ポリイミド(P)の好ましい一態様は、部分構造(A)を有するジアミンに由来する構造単位と、部分構造(B)を有するジアミンに由来する構造単位とを有するポリイミドである。
【0036】
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物を;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0037】
ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、溶解性が高く、かつ良好な電気特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが更に好ましい。
【0038】
光配向法により液晶配向膜を形成する場合、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、シクロブタン構造を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、「特定酸二無水物」ともいう)を好ましく使用できる。特定酸二無水物は、下記式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【化9】
(式(4)中、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のハロゲン化アルキル基、又は炭素数1~3のアルコキシ基である。)
【0039】
特定酸二無水物は、中でも、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物及び1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の一方又は両方であることが特に好ましい。なお、特定酸二無水物としては、1種のみを使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0040】
ポリアミック酸(P)の合成に際し特定酸二無水物を使用する場合、特定酸二無水物の使用割合は、光照射により良好な液晶配向性を付与する観点から、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更に好ましい。
【0041】
(特定ジアミンA)
特定ジアミンAは、上記式(1)で表される部分構造(A)を有していればよく、特に限定されない。特定ジアミンAの具体例としては、例えば下記式(5-1)~式(5-24)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0042】
ポリイミド(P)の合成に際し、特定ジアミンAの使用量は、ポリイミド(P)の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、2モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上が更に好ましく、30モル%以上がより更に好ましい。また、特定ジアミンAの使用量は、ポリイミド(P)の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、98モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、80モル%以下が更に好ましく、70モル%以下がより更に好ましい。特定ジアミンAの使用量が2モル%以上であると、芳香環-特定のヘテロ原子含有基-アルキレン構造の導入による力学特性の改善効果を高くできる点で好ましい。また、特定ジアミンAの使用量が98モル%以下であると、特定ジアミンBに由来する構造単位、すなわち比較的長鎖の単位をポリイミド(P)中に十分量導入でき、基板に対する密着性及び高温高湿耐性の改善効果を高くできる点で好適である。特定ジアミンAとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
(特定ジアミンB)
特定ジアミンBは、部分構造(B)を有する限り特に限定されない。特定ジアミンBは芳香族ジアミンであることが好ましく、例えば下記式(6)で表される化合物が挙げられる。
【化14】
(式(6)中、Ar及びArは、それぞれ独立して、2価の芳香環基である。Rは、炭素数5以上のアルカンジイル基、又は炭素数5以上のアルカンジイル基が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR-、-NR-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一若しくは異なる基で置き換えられてなる2価の基である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。)
【0044】
上記式(6)において、Ar及びArで表される2価の芳香環基としては、上記式(1)中のAr及びArで表される2価の芳香環基として例示した基が挙げられる。なお、Ar及びArは、芳香環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。Ar及びArで表される2価の芳香環基は、液晶配向膜の高密度化、及び高透過率化を図る観点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環又はピリミジン環を有する2価の基であることが好ましく、ベンゼン環又はピリジン環を有する2価の基であることがより好ましい。
【0045】
で表される2価の基の説明については、部分構造(B)の説明が適用される。Rで表される2価の基としては、上記式(2-1)~式(2-22)のそれぞれで表される基等が挙げられる。
【0046】
特定ジアミンBの具体例としては、例えば下記式(6-1)~式(6-23)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0047】
ポリイミド(P)において、特定ジアミンBの使用量は、ポリイミド(P)の合成に使用するジアミンの全量に対して、2モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上が更に好ましく、30モル%以上がより更に好ましい。また、特定ジアミンBの使用量は、ポリイミド(P)の合成に使用するジアミンの全量に対して、98モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、80モル%以下が更に好ましく、70モル%以下がより更に好ましい。特定ジアミンBの使用量が2モル%以上であると、特定ジアミンBに由来する比較的長鎖の単位の導入により基板に対する密着性及び高温高湿耐性の改善効果を高くできる点で好適である。また、特定ジアミンBの使用量が98モル%以下であると、十分な量の構造単位(I)をポリイミド(P)に導入でき、芳香環-特定のヘテロ原子含有基-アルキレン構造の導入による力学特性の改善効果を高くできる点で好適である。特定ジアミンBとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
ポリイミド(P)において、特定ジアミンBに対する特定ジアミンAの割合(特定ジアミンA/特定ジアミンB)は、モル比で、1/10~10/1が好ましく、1/4~4/1がより好ましく、1/3~3/1が更に好ましく、1/2~2/1がより更に好ましい。特定ジアミンBに対する特定ジアミンAの割合が上記範囲であると、膜の力学強度の改善効果と、基板に対する密着性及び高温高湿耐性の改善効果とをより高くできる点で好適である。
【0049】
(その他のジアミン)
ポリイミド(P)の合成に使用するジアミンは、特定ジアミンA及び特定ジアミンBのみであってもよいが、特定ジアミンA及び特定ジアミンBとともに、部分構造(A)及び部分構造(B)をいずれも有しないジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう)を含んでいてもよい。その他のジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0050】
その他のジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、p-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;ジアミノオルガノシロキサンとして、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を挙げることができる。
【0051】
芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4-(4-アミノフェノキシカルボニル)-1-(4-アミノフェニル)ピペリジン、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、2,5-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン、下記式(7-1)~式(7-5)
【化19】
のそれぞれで表される化合物(ただし、式(7-1)~式(7-4)中、nは1~20の整数)等が挙げられる。また、その他のジアミンとしては、上記のほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。なお、その他のジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
(ポリイミド(P)の合成)
ポリアミック酸(P)のイミド化によりポリイミド(P)を得る場合、まず、上述したテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによりポリアミック酸(P)を得る。
【0053】
ポリアミック酸(P)の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン等のモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0054】
ポリアミック酸(P)の合成反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらのうち、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を反応溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量が、反応溶液の全量に対して0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0055】
続いて、得られたポリアミック酸(P)を脱水閉環させる。ポリアミック酸(P)の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸(P)を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸(P)のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。
【0056】
こうしてポリイミド(P)を含有する溶液が得られる。ポリイミド(P)を含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミド(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0057】
ポリイミド(P)は、イミド化率が30%以上であることが好ましい。ここで、部分構造(A)をポリイミドの主鎖に導入することにより、ラビング処理及び光配向処理のいずれを用いた場合にも、液晶配向剤を用いて形成された有機膜に良好な液晶配向性を与えることができる。その一方で、部分構造(A)を有するポリアミック酸をイミド化すると、力学特性の低下や基板との密着性の低下が生じやすいことが分かった。部分構造(A)を有するポリアミック酸のイミド化による液晶配向膜の力学特性の低下や基板との密着性の低下は、イミド化率を高くするほどその影響が大きくなる傾向がある。
【0058】
このような点に鑑み、ポリイミドの主鎖に部分構造(A)及び部分構造(B)を導入することにより、ポリイミド(P)のイミド化率が高くても、力学特性の低下及び基板との密着性の低下を抑制でき、更には高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を形成することができる。ポリイミド(P)のイミド化率は、液晶配向膜の高温高湿耐性を向上させる観点から、より好ましくは40%以上であり、更に好ましくは45%以上であり、より更に好ましくは60%以上であり、特に好ましくは80%以上である。また、ポリイミド(P)のイミド化率は、膜強度を十分に高くする観点から、好ましくは99%以下であり、より好ましくは90%以下である。
【0059】
なお、イミド化率は、ポリイミド(P)のアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。なお、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0060】
ポリイミド(P)の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、ポリイミド(P)の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0061】
ポリイミド(P)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0062】
液晶配向剤中におけるポリイミド(P)の含有割合は、液晶配向剤中の固形成分(すなわち、溶剤以外の成分)の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上であり、更に好ましくは15質量部以上である。なお、液晶配向剤の調製に際し、ポリイミド(P)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、ポリイミド(P)以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう)を更に含有していてもよい。以下、その他の成分について説明する。
【0064】
(その他の重合体)
本開示の液晶配向剤は、当該液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜の液晶配向性及び電気特性等を更に改善する目的で、ポリイミド(P)とは異なる重合体(以下、「その他の重合体」ともいう)を更に含有していてもよい。
【0065】
その他の重合体の主骨格は特に限定されないが、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド(ポリイミド(P)を除く)、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール等が挙げられる。その他の重合体は、構造単位(I)及び構造単位(II)のいずれも有しない重合体であることが好ましい。
【0066】
その他の重合体としては、これらのうち、ポリアミック酸及びポリアミック酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体(以下、「重合体(Q)」ともいう)を好ましく使用できる。ポリイミド(P)と重合体(Q)とがブレンドされた液晶配向剤によれば、液晶配向膜中においてポリイミド(P)と重合体(Q)との相分離が生じやすく、ポリイミド(P)が上層に偏在されやすいことにより、液晶配向膜の液晶配向性及びラビング耐性の改善効果が高く、しかも基板との密着性に優れた液晶配向膜を得ることができると考えられる。
【0067】
その他の重合体としては、下記式(3)で表される部分構造を有する構造単位(以下、「構造単位(III)」ともいう)を含む重合体を使用することが好ましい。構造単位(III)を含む重合体をポリイミド(P)と共に液晶配向剤に含有させることにより、液晶配向膜中の蓄積電荷を十分に低減でき、得られる液晶素子において残像の発生を抑制できる点で好適である。
【化20】
(式(3)中、Ar、Ar及びRは、以下の(i)、(ii)又は(iii)を満たす。
(i)Ar及びArは、それぞれ独立して2価の芳香環基である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。
(ii)Ar及びArは、これらが互いに合わせられて、Arが有する芳香環、-NR-及びArが有する芳香環と共に構成される窒素含有縮合環構造を表す。Rは、水素原子又は1価の有機基である。
(iii)Ar及びRは、これらが互いに合わせられて、Arが有する芳香環、R及びRが結合する窒素原子と共に構成される窒素含有縮合環構造を表す。Arは2価の芳香環基である。
「*」は結合手であることを表す。)
【0068】
上記式(3)において、Ar及びArで表される2価の芳香環基としては、置換又は無置換の2価の芳香族炭化水素基及び置換又は無置換の2価の芳香族複素環基が挙げられる。2価の芳香族複素環基の具体例としては、上記式(1)中のAr及びArで表される2価の芳香環基として説明した基と同様のものが挙げられる。液晶配向膜の高密度化、及び高透過率化を図る観点から、Ar及びArの2価の芳香環基は、置換又は無置換の2価の芳香族炭化水素基が好ましく、置換又は無置換のフェニレン基がより好ましい。
【0069】
ArとArとが互いに合わせられてArが有する芳香環、-NR-及びArが有する芳香環と共に構成される窒素含有縮合環構造としては、カルバゾール構造、9-メチルカルバゾール構造及び9-エチルカルバゾール構造等が挙げられる。ArとRとが互いに合わせられてArが有する芳香環及びRが結合する窒素原子と共に構成される窒素含有縮合環構造としては、インドリン構造、イソインドリン構造及びカルバゾール構造等が挙げられる。
【0070】
で表される1価の有機基としては、上記Rの説明において例示した1価の有機基と同様の基が挙げられる。Rと同様の理由から、Rで表される1価の有機基は、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)又は9-フルオレニルメトキシカルボニル基が好ましく、tert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。Rは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基が好ましく、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基がより好ましい。
【0071】
その他の重合体において、上記式(3)で表される部分構造は重合体の主鎖中に導入されていることが好ましい。上記式(3)で表される部分構造の具体例としては、下記式(3-1)~式(3-9)のそれぞれで表される部分構造等が挙げられる。
【化21】
(式(3-1)~式(3-9)中、「*」は結合手であることを表す。)
【0072】
構造単位(III)を有する重合体は、中でも、ポリアミック酸及びポリアミック酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体(すなわち重合体(Q))であることが好ましい。構造単位(III)を有する重合体(Q)をポリイミド(P)と共に液晶配向剤に含有させることにより、液晶配向性及び基板に対する密着性の改善効果を十分に得ながら、液晶配向膜中の蓄積電荷を緩和する機能を付与することができる。構造単位(III)を有する重合体(Q)は、例えば、上記式(3)で表される部分構造を有するジアミン(以下、「特定ジアミンC」ともいう)を用いて重合することにより得ることができる。
【0073】
特定ジアミンCの具体例としては、下記式(8-1)~式(8-17)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化22】
【化23】
【0074】
重合体(Q)は、従来公知の方法に従って合成することができる。例えばポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、ポリイミド(P)の合成に使用することができるテトラカルボン酸二無水物として例示した化合物と同様のものが挙げられる。ジアミンとしては、特定ジアミンCのみを用いてもよいし、特定ジアミンCと共に、ポリイミド(P)の合成に使用することができるジアミンとして例示したその他のジアミンを用いてもよい。
【0075】
重合体[Q]がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステルは、例えば、上記で得られたポリアミック酸と、エステル化剤(例えばメタノールやエタノール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール等)とを反応させる方法、テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを適当な脱水触媒の存在下で反応させる方法、テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミンとを適当な塩基の存在下で反応させる方法、等により得ることができる。
【0076】
重合体(Q)の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体(Q)の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0077】
重合体(Q)のGPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは5,000~100,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。なお、液晶配向剤に含有させる重合体(Q)は1種のみでもよく、又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0078】
本開示の液晶配向剤に重合体(Q)を配合する場合、ポリイミド(P)と重合体(Q)との含有量に対するポリイミド(P)の割合は、ポリイミド(P)と重合体(Q)との合計量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上が更に好ましい。また、重合体(Q)を配合する場合、ポリイミド(P)の含有量は、ポリイミド(P)と重合体(Q)との合計量100質量部に対して、95質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましい。ポリイミド(P)の含有量を上記範囲とすることにより、液晶配向膜中の蓄積電荷を緩和することができ、かつ膜の基板に対する密着性、力学特性及び高温高湿耐性を優れたものとすることができる点で好適である。
【0079】
本開示の液晶配向剤が含有していてもよいその他の成分としては、重合体(Q)のほか、例えば、分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物、分子内に2個以上のメチロール基を有する化合物、官能性シラン化合物、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。これらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0080】
(溶剤)
液晶配向剤は、通常、ポリイミド(P)及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは、適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0081】
使用する有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(ジアセトンアルコール)、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0082】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶剤以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。すなわち、液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。このとき、固形分濃度が1質量%以上であると塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向膜を得やすい点で好適である。また、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜の膜厚が過大となりすぎず良好な液晶配向膜を得ることができるとともに、液晶配向剤の粘性を適度に確保でき、塗布性を良好にすることができる。
【0083】
《液晶配向膜及び液晶素子》
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を備える。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等といった種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0084】
(工程1:塗膜の形成)
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜等を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0085】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~150℃であり、より好ましくは40~120℃である。プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。
【0086】
その後、溶剤を除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、280℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。また、膜中に残存した溶剤成分の影響によって液晶配向性や信頼性が低下することを抑制する観点から、ポストベーク温度は、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。ポストベーク時間は、好ましくは5~150分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、液晶配向膜、又は液晶配向膜となる膜が形成される。
【0087】
(工程2:配向処理)
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、又は基板上に形成した膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能を更に高めるために膜に対し配向処理を施してもよい。
【0088】
光配向処理により液晶配向膜を製造する場合、膜に対する光照射は、ポストベーク工程後の膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて膜の加熱中に照射する方法、等により行うことができる。光配向処理において、塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。また、用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は斜め方向とする。
【0089】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。放射線の照射量は、好ましくは400~20,000J/mであり、より好ましくは1,000~5,000J/mである。膜に対する光照射は、反応性を高めるために膜を加温しながら行ってもよい。
【0090】
液晶配向膜の製造に際し、光照射処理が施された膜を更に加熱してもよい。また、光照射処理が施された膜を、水、水溶性有機溶媒、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒に接触させる接触工程を更に含んでいてもよい。水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンが挙げられる。接触工程の後には膜の加熱処理を行ってもよい。
【0091】
(工程3:液晶セルの構築)
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、(1)液晶配向膜が対向するように間隙(スペーサー)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止する方法、(2)液晶配向膜を形成した一方の基板上の所定の場所にシール剤を塗布し、更に液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げる方法(ODF方式)等が挙げられる。製造した液晶セルに対しては更に、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷する処理を行うことにより、液晶充填時の流動配向を除去することが好ましい。
【0092】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。スペーサーとしては、フォトスペーサー、ビーズスペーサー等を用いることができる。
【0093】
液晶としては、ポジ型及びネガ型のいずれを用いてもよい。IPS型及びFFS型の液晶素子においてネガ型液晶を用いた場合、電極上部での透過損失を小さくでき、コントラスト向上を図ることができる点で好ましい。使用する液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。ネマチック液晶としては、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶等を用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレステリック液晶、カイラル剤、強誘電性液晶などを添加して使用してもよい。
【0094】
PSAモードでは、液晶とともに重合性化合物(例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物等)をセルギャップ内に充填するとともに、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。PSAモードの液晶素子の製造に際し、重合性化合物の使用割合は、液晶の合計100質量部に対して、0.01~3質量部、好ましくは0.1~1質量部である。
【0095】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。これにより液晶素子が得られる。
【0096】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光フィルム等に用いることができる。また、本開示の液晶配向剤を用いて形成された液晶素子は、位相差フィルム等の光学フィルムに適用することもできる。
【0097】
以上説明した本開示によれば、次の手段が提供される。
〔手段1〕 上記式(1)で表される部分構造を有する構造単位(I)と、炭素数5以上のアルキレン構造又は炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR-、-NR-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一又は異なる基で置き換えられてなる部分構造(Rは、水素原子又は1価の有機基である。)を有する構造単位(II)(ただし、前記構造単位(I)を除く。)と、を含むポリイミドを含有する、液晶配向剤。
〔手段2〕 前記ポリイミドのイミド化率が30%以上である、〔手段1〕に記載の液晶配向剤。
〔手段3〕 前記構造単位(II)は、炭素数5以上のアルキレン構造又は炭素数5以上のアルキレン構造が有する少なくとも1個のメチレン基が、互いに隣り合わない条件によって-COO-、-OCO-、-O-、-CO-NR4a-、-NR4a-CO-、-NR-及び-CO-よりなる群から選択される同一又は異なる基で置き換えられてなる部分構造(Rは、水素原子又は1価の有機基である。R4aは、1価の熱脱離性基である。)を有する、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の液晶配向剤。
〔手段4〕 上記式(3)で表される部分構造を有する構造単位を含む重合体であって、前記ポリイミドとは異なる重合体を更に含有する、〔手段1〕~〔手段3〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段5〕 ポリアミック酸及びポリアミック酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を更に含有する、〔手段1〕~〔手段4〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段6〕 〔手段1〕~〔手段5〕のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
〔手段7〕 〔手段6〕に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【実施例0098】
以下、実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
<測定方法>
以下の例において、重合体の溶液粘度及びポリイミドのイミド化率は以下の方法により測定した。
【0100】
[重合体の溶液粘度]
重合体の溶液粘度は、E型粘度計を用いて25℃において測定した。
【0101】
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルから、下記数式(a)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(β/(β×α)))×100 …(a)
(数式(a)中、βは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、βはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0102】
<化合物の略称>
下記の例で使用した化合物の略称を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」(Xは符号)を単に「化合物(X)」と示すことがある。
【0103】
[テトラカルボン酸二無水物]
【化24】
【0104】
[ジアミン]
・特定ジアミンB
【化25】
【化26】
【0105】
・特定ジアミンA
【化27】
【0106】
・その他のジアミン
【化28】
【化29】
【0107】
<重合体の合成>
1.ポリイミドの合成
[合成例2]
ジアミンとして化合物(DB-1)50モル部及び化合物(DC-11)50モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-1)100モル部加え、40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加し、ピリジン及び無水酢酸を、ポリアミック酸が有するテトラカルボン酸二無水物由来のカルボキシル基に対して1.80モル当量ずつ添加して、80℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換し、更に濃縮することにより、イミド化率80%のポリイミド(これを重合体(PI-1)とする)を15質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は100mPa・sであった。
【0108】
[合成例3~11、13~17]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を表1に記載のとおり変更した点以外は合成例2と同様に重合を行い、ポリイミドである重合体(PI-2)~(PI-10)、(PI-12)~(PI-16)を含有する溶液をそれぞれ得た。なお、重合は、重合体濃度10質量%のNMP溶液の粘度が40~100mPa・sとなるように、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とのモル比(ジアミン/テトラカルボン酸二無水物)を0.85~1.0に合わせて実施した。表1中、酸二無水物の数値は、合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。ジアミンの数値は、合成に使用したジアミンの全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。
【0109】
[合成例12]
ジアミンとして化合物(DA-6)20モル部及び化合物(DB-4)80モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-1)80モル部及び化合物(TA-3)20モル部を加え、40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液を180℃で2時間、脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換し、更に濃縮することにより、イミド化率100%のポリイミド(これを重合体(PI-11)とする)を15質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は80mPa・sであった。
【0110】
2.ポリアミック酸の合成
[合成例1]
ジアミンとして化合物(DA-1)50モル部及び化合物(DB-1)50モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-1)100モル部を加え40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸(これを重合体(PA-1)とする)を15質量%含有する溶液を得た。
【0111】
[合成例18~25]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を表2に記載のとおり変更した点以外は合成例1と同様に重合を行い、ポリアミック酸である重合体(PA-2)~(PA-9)を含有する溶液をそれぞれ得た。なお、重合は、重合体濃度10質量%のNMP溶液の粘度が40~100mPa・sとなるように、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とのモル比(ジアミン/テトラカルボン酸二無水物)を0.85~1.0に合わせて実施した。表2中、酸二無水物の数値は、合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。ジアミンの数値は、合成に使用したジアミンの全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
<液晶素子の製造及び評価>
[実施例1:FFS型液晶表示素子]
1.液晶配向剤の調製
合成例9で得た重合体(PI-8)の溶液を用いて、NMP及びブチルセロソルブ(BC)により希釈して、溶媒組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0115】
2.密着性の評価
液晶配向剤(AL-1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで2分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成した。これと同様の操作を繰り返すことにより、塗膜が形成されたガラス基板を2枚作製した。塗膜を形成した1枚のガラス基板の塗膜上に、ODFシール剤(積水化学社製、S-WB42)を幅が1mmになるように塗布し、もう一枚のガラス基板の塗膜とODFシール剤とが接触するように貼り合わせた。その後、メタルハライドランプを用いて30,000J/m(365nm換算)の光を照射した後、120℃のオーブンで1時間加熱した。その後、今田製作所の引張圧縮試験機(型番:SDWS-0201-100SL)を用いて密着力を測定することにより、基板に対する膜の密着性を評価した。評価は、密着力が175N/cm以上であった場合を「良好(◎)」、125N/cm以上175N/cm未満であった場合を「「可(○)」、125N/cm未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では密着力160N/cmであり、密着性「可(○)」の評価であった。
【0116】
3.高温高湿耐性の評価
(1)評価用液晶セルの製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL-1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷し、評価用液晶セルを得た。
【0117】
(2)電圧保持率(VHR)の測定
上記(1)で製造した直後の評価用液晶セルに、60℃の温度下において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率(初期電圧保持率VH1)を測定した。測定装置は(株)東陽テクニカ製の品名「VHR-1」を使用した。次いで、初期電圧保持率VH1を測定した後の評価用液晶セルを、85℃、湿度85%に設定されたオーブンで300時間保管した後、初期電圧保持率VH1と同様にして電圧保持率を測定した。この値をストレス付与後電圧保持率VH2とした。下記数式(b)により求めた電圧保持率の減少割合をΔVHR(%)とし、ΔVHRにより高温高湿耐性を評価した。
ΔVHR=(VH2/VH1)×100 …(b)
評価は、ΔVHRが80%以上であった場合を「良好(◎)」、60%以上80%未満であった場合を「可(○)」、60%未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例1ではΔVHR=80%であり、「良好(◎)」の評価であった。
【0118】
4.膜強度(ラビング耐性)の評価
上記1.で調製した液晶配向剤(AL-1)をガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成し、ヘイズメーター(hazemeter)を用いて塗膜のヘイズ値を測定した。次いで、この塗膜に対し、コットン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を5回実施した。その後、ヘイズメーターを用いて液晶配向膜のヘイズ値を測定し、ラビング処理前のヘイズ値との差(ヘイズ変化値)を計算した。ラビング処理前の膜のヘイズ値をHz1(%)、ラビング処理後の膜のヘイズ値をHz2(%)とした場合、ヘイズ変化値は下記数式(c)で表される。
ヘイズ変化値(%)=Hz2-Hz1 …(c)
液晶配向膜におけるヘイズ変化値が1.0未満であった場合を「良好(◎)」、1.0以上1.5以下であった場合を「可(○)」、1.5よりも大きかった場合を「不良(×)」と評価した。ヘイズ変化値が1.5以下(より好ましくは1.0未満)であれば膜強度が十分に高くラビング耐性が高い、すなわち膜の力学特性が良好であるといえる。その結果、この実施例では膜強度「良好(◎)」の評価であった。
【0119】
5.ラビング法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の片面のそれぞれに液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ね合わせる際には、それぞれの基板のラビング方法が反平行となるようにした。次に、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、ラビングFFS型液晶表示素子を得た。
【0120】
6.電荷蓄積量(RDC)の評価
上記5.で製造したラビングFFS型液晶表示素子を用い、71℃で2Vの直流電圧を10分間印加した後、0.2秒の間ショートし、その後に10分間、開放状態に保ったときに液晶表示素子内に蓄積した電圧を誘電吸収法により測定した。評価は、電荷蓄積量が0.1V以下である場合を「良好(◎)」、電荷蓄積量が0.1Vよりも大きく0.2V以下の場合を「可(○)」、電荷蓄積量が0.2Vよりも大きい場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では電荷蓄積量「可(○)」の評価であった。
【0121】
7.液晶配向性の評価
上記5.で製造したラビングFFS型液晶表示素子を、27,000cd/mの高輝度バックライト上で500時間静置し、バックライトの照射前後におけるリタデーション変化率により液晶配向性を評価した。まず、上記5.で製造したFFS型液晶表示素子につき、オプトサイエンス社製Axoscanによりリタデーションを測定し、下記数式(d)によりバックライト照射前後のリタデーションの変化率αを算出した。変化率αが小さいほど、液晶配向性が良好であるといえる。変化率αが1%以下であった場合を「良好(◎)」、1%よりも大きく2%以下であった場合を「可(○)」、2%よりも大きかった場合を「不良(×)」とした。
α=(Δθ/θ1)×100 …(d)
(式(d)中、Δθは照射前後のリタデーション差を表し、θ1は照射前のリタデーション値を表す。)
その結果、この実施例の液晶配向性は「良好(◎)」の評価であった。
【0122】
8.光配向法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
上記5.と同様の第1基板及び第2基板を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/mを基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
次に、液晶配向膜を形成した一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。その後、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、光配向FFS型液晶表示素子を得た。また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/mの範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶表示素子を製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶表示素子を、以下の評価に用いた。
【0123】
9.電荷蓄積量(RDC)の評価
上記8.で製造した光配向FFS型液晶表示素子につき、上記6.と同様にしてRDC測定を行い評価した。その結果、この実施例では「可(○)」の評価であった。
【0124】
10.液晶配向性の評価
上記8.で製造した光配向FFS型液晶表示素子につき、上記7.と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では「良好(◎)」の評価であった。
【0125】
[実施例2~13及び比較例1~6]
液晶配向剤の組成を表3のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてFFS型液晶セル及びFFS型液晶表示素子を製造し、各種評価を行った。それらの結果を表3に示した。なお、実施例5~12及び比較例3では、重合体成分として2種類の重合体を使用した。実施例13では、重合体成分として3種類の重合体を使用した。実施例4、6では、ラビング法によりFFS型液晶表示素子を製造し、光配向法によるFFS型液晶表示素子の製造は行わなかった。表3中、重合体欄の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量100質量部に対する、各重合体の固形分での配合割合(質量部)を表す。
【0126】
【表3】
【0127】
表3に示すように、実施例1~13の液晶配向剤はいずれも、膜の密着性、高温高湿耐性及び膜強度の評価が良好又は可であり、各種特性のバランスが取れていた。また、実施例1~13の液晶配向剤を用いて形成した液晶配向膜は、蓄積電荷も少なく、液晶配向性も良好であった。
【0128】
これに対し、ポリイミド(P)に代えてポリアミック酸(P)を用いた比較例1は、膜の高温高湿耐性が不良であった。また、構造単位(I)及び構造単位(II)の一方又は両方を有しないポリイミドを用いた比較例2~6は、膜の密着性、高温高湿耐性及び膜強度において、少なくともいずれかの特性が不良であった。