(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188749
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】加熱装置、及び糸加工機
(51)【国際特許分類】
D02J 1/22 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
D02J1/22 301C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079960
(22)【出願日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2021096626
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】堀本 尭幸
(72)【発明者】
【氏名】北川 重樹
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036MA33
4L036MA37
4L036PA05
4L036PA18
4L036PA28
4L036PA42
4L036PA49
(57)【要約】
【課題】外乱による糸走行空間等の温度低下を抑制し、且つ、糸走行空間等の温度が低下してしまっても糸走行空間等を速やかに昇温させる。
【解決手段】糸走行空間Sを走行する糸Yを加熱する第1加熱装置13(加熱装置)は、熱源51と、加熱部52とを備える。加熱部52は、熱源51によって加熱されるように構成され、且つ、少なくとも所定の第1方向に延びた糸走行空間Sを形成するように構成されている。加熱部52は、第1材料からなる第1加熱部材53と、第2材料からなる第2加熱部材54と、を有する。第2加熱部材54は、第1方向と直交する断面において、少なくとも熱源51と糸走行空間Sとの間に配置されている。第2材料の体積比熱は、第1材料の体積比熱よりも低い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源と、
前記熱源によって加熱されるように構成され、且つ、少なくとも所定の第1方向に延びた糸走行空間を形成するように構成された加熱部と、を備える、前記糸走行空間を走行する糸を加熱する加熱装置であって、
前記加熱部は、
前記糸走行空間を走行している前記糸と接触しないように配置された、第1材料からなる第1加熱部材と、
前記第1方向と直交する断面において、少なくとも前記熱源と前記糸走行空間との間に配置され、且つ前記糸走行空間を走行している前記糸と接触しないように配置された、前記第1材料よりも体積比熱が低い第2材料からなる第2加熱部材と、を有することを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記第2加熱部材は、前記熱源に接触していることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記第2加熱部材は、前記第1加熱部材に接触していることを特徴とする請求項1又は2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記第2加熱部材の熱容量の、前記第1加熱部材の熱容量に対する比率は、20%以上40%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項5】
前記第2材料は、繊維材料を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項6】
前記繊維材料は、炭素繊維であることを特徴とする請求項5に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記炭素繊維は、ピッチ系繊維であることを特徴とする請求項6に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記第2材料は、前記炭素繊維と黒鉛との複合材料であることを特徴とする請求項6又は7に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記第2材料は、前記炭素繊維と樹脂との複合材料であることを特徴とする請求項6又は7に記載の加熱装置。
【請求項10】
前記第2加熱部材は、少なくとも前記第1方向に延びるように配置され、
前記第2材料は、前記第1材料と比べて、少なくとも前記第1方向における熱伝導率が高いことを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項11】
前記第1方向と直交する断面において、前記熱源から前記糸走行空間に向かう所定の仮想直線が延びる方向を第2方向としたとき、
前記第2材料は、前記第1材料と比べて、少なくとも前記第2方向における熱伝導率が高いことを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項12】
前記加熱部は、
少なくとも前記第1方向に延びた、前記糸を接触させるための接触部材を有することを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項13】
前記接触部材は、前記第2加熱部材と接触していることを特徴とする請求項12に記載の加熱装置。
【請求項14】
前記接触部材は、前記加熱部に着脱可能に構成されていることを特徴とする請求項12又は13に記載の加熱装置。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の加熱装置と、
前記糸に変形を付与する糸変形付与装置と、
前記加熱装置及び前記糸変形付与装置に前記糸を送るように構成された、前記糸を走行させるための糸送り装置と、を備え、
前記糸を走行させながら加工するように構成されていることを特徴とする糸加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を加熱する加熱装置、及び、加熱装置を備える糸加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、仮撚加工等の糸加工時に糸を加熱する熱処理装置(加熱装置)が開示されている。加熱装置は、シーズヒータ(熱源)と、ヒータ本体(加熱部)とを備える。加熱部は、熱源によって加熱されるように構成されており、且つ、糸が走行する所定の糸走行空間を形成するように構成されている。より詳細には、加熱部は、銅合金からなる加熱板を有する。一般的に、銅合金はある程度大きな熱容量を有する。したがって、外乱(例えば、何らかの原因により外気が糸走行空間に入る等)によって加熱部が冷やされてしまうことをある程度抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、外乱による加熱部の温度変動を確実に抑えるためには、加熱部の熱容量を非常に大きくすれば良い。しかしながら、その場合、加熱装置が非常に大型化してしまうおそれがある。したがって、装置の大型化抑制と外乱による温度変動の抑制とのバランスを考慮して、一般的に、加熱部は、ある程度の大きさの熱容量を有するように設計される。しかしながら、このような構成において、加熱部の温度が外乱によってひとたび低下すると、糸走行空間及び/又は糸走行空間を形成する部材(以下、糸走行空間等)の温度も低下してしまう。この場合、加熱部及び糸走行空間等の温度を設定温度に戻すまで時間がかかるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、外乱による糸走行空間等の温度低下を抑制し、且つ、糸走行空間等の温度が低下してしまっても糸走行空間等を速やかに昇温させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の加熱装置は、熱源と、前記熱源によって加熱されるように構成され、且つ、少なくとも所定の第1方向に延びた糸走行空間を形成するように構成された加熱部と、を備える、前記糸走行空間を走行する糸を加熱する加熱装置であって、前記加熱部は、前記糸走行空間を走行している前記糸と接触しないように配置された、第1材料からなる第1加熱部材と、前記第1方向と直交する断面において、少なくとも前記熱源と前記糸走行空間との間に配置され、且つ前記糸走行空間を走行している前記糸と接触しないように配置された、前記第1材料よりも体積比熱が低い第2材料からなる第2加熱部材と、を有することを特徴とする。
【0007】
第1加熱部材を構成する第1材料として、体積比熱がある程度高い材料を用いることにより、外乱による加熱部の温度低下をある程度抑制できる。さらに、本発明では、体積比熱が低い第2材料からなる第2加熱部材を、第1加熱部材と比べて速やかに昇温させることができる。これにより、熱源と糸走行空間との間(詳細な定義については後述する)に配置された第2加熱部材を介して糸走行空間等を速やかに加熱できる。したがって、このような速やかな加熱によって、外乱による糸走行空間等の温度低下を抑制できる。また、外乱によって糸走行空間等の温度が低下してしまっても、糸走行空間等を速やかに昇温させることができる。
【0008】
第2の発明の加熱装置は、前記第1の発明において、前記第2加熱部材は、前記熱源に接触していることを特徴とする。
【0009】
本発明では、熱源によって生成された熱を第2加熱部材に速やかに伝えることができる。したがって、第2加熱部材を効果的に昇温させることができる。
【0010】
第3の発明の加熱装置は、前記第1又は第2の発明において、前記第2加熱部材は、前記第1加熱部材に接触していることを特徴とする。
【0011】
例えば、第1加熱部材を加熱する熱源と第2加熱部材を加熱する熱源とを別々に設け、第2加熱部材を第1加熱部材と離して配置しても良い。但し、その場合、熱源の部品コストの増大により、加熱装置の製造コストが増大する。本発明では、第2加熱部材が第1加熱部材に接触している。したがって、製造コストの増大を抑制しつつ、第2加熱部材を介して第1加熱部材を速やかに加熱することができる。
【0012】
第4の発明の加熱装置は、前記第1~第3のいずれかの発明において、前記第2加熱部材の熱容量の、前記第1加熱部材の熱容量に対する比率は、20%以上40%以下であることを特徴とする。
【0013】
第2加熱部材の熱容量が相対的に小さすぎると、外乱によって加熱部の温度が低下したときに、糸走行空間等が再び昇温されるまでに時間がかかるおそれがある。しかしながら、第2加熱部材の熱容量が相対的に大きすぎると、小さな外乱によっても加熱部の温度が変動しやすくなるおそれがあり、却って糸走行空間等の温度が不安定になりうる。本発明では、第2加熱部材の熱容量は、第1加熱部材の熱容量に対して大きすぎず、且つ小さすぎない。したがって、加熱部を外乱に対してある程度強くすることができ、且つ、糸走行空間等を速やかに昇温させることができる。
【0014】
第5の発明の加熱装置は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記第2材料は、繊維材料を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明では、繊維材料を特定の方向に配向させることによって、第2材料の熱伝導率に異方性を持たせることができる。したがって、特に熱を伝えたい方向において、非常に速やかに熱を伝えることができる。
【0016】
第6の発明の加熱装置は、前記第5の発明において、前記繊維材料は、炭素繊維であることを特徴とする。
【0017】
炭素繊維は、高い熱伝導率を有する軽量の素材である。したがって、熱を伝えたい方向において、非常に速やかに熱を伝えることができる。また、加熱装置を軽量化できる。
【0018】
第7の発明の加熱装置は、前記第6の発明において、前記炭素繊維は、ピッチ系繊維であることを特徴とする。
【0019】
炭素繊維として、一般的に、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維とが知られている。一般的に、ピッチ系炭素繊維の方がPAN系炭素繊維よりも高い熱伝導率を有する。本発明では、炭素繊維としてピッチ系炭素繊維を用いることにより、熱伝導率をより高めることができる。
【0020】
第8の発明の加熱装置は、前記第6又は第7の発明において、前記第2材料は、前記炭素繊維と黒鉛との複合材料であることを特徴とする。
【0021】
炭素繊維と黒鉛との複合材料は、非常に高い熱伝導率を有する。したがって、第2材料として炭素繊維と黒鉛との複合材料を用いることにより、熱伝導率をより高めることができる。
【0022】
第9の発明の加熱装置は、前記第6又は第7の発明において、前記第2材料は、前記炭素繊維と樹脂との複合材料であることを特徴とする。
【0023】
炭素繊維と樹脂との複合材料は、炭素繊維と黒鉛との複合材料と比べて安価である。したがって、第2材料として炭素繊維と樹脂との複合材料を用いることにより、加熱装置の製造コストの増大を抑制できる。
【0024】
第10の発明の加熱装置は、前記第1~第9のいずれかの発明において、前記第2加熱部材は、少なくとも前記第1方向に延びるように配置され、前記第2材料は、前記第1材料と比べて、少なくとも前記第1方向における熱伝導率が高いことを特徴とする。
【0025】
本発明では、第2加熱部材を介して、第1方向において熱を速やかに伝えることができる。したがって、第1方向における糸走行空間等の温度ばらつきを抑制できる。
【0026】
第11の発明の加熱装置は、前記第1~第10のいずれかの発明において、前記第1方向と直交する断面において、前記熱源から前記糸走行空間に向かう所定の仮想直線が延びる方向を第2方向としたとき、前記第2材料は、前記第1材料と比べて、少なくとも前記第2方向における熱伝導率が高いことを特徴とする。
【0027】
本発明では、第2加熱部材を介して、熱源から糸走行空間等へ熱を速やかに伝えることができる。したがって、糸走行空間等を速やかに昇温させることができる。
【0028】
第12の発明の加熱装置は、前記第1~第11のいずれかの発明において、前記加熱部は、少なくとも前記第1方向に延びた、前記糸を接触させるための接触部材を有することを特徴とする。
【0029】
本発明のように接触部材が設けられた構成においては、第2加熱部材を速やかに昇温させることにより、接触部材を効果的に昇温させることができる。
【0030】
第13の発明の加熱装置は、前記第12の発明において、前記接触部材は、前記第2加熱部材と接触していることを特徴とする。
【0031】
本発明では、接触部材と、速やかに昇温される第2加熱部材との間の熱伝導によって、接触部材を効果的に昇温させることができる。
【0032】
第14の発明の加熱装置は、前記第12又は第13の発明において、前記接触部材は、前記加熱部に着脱可能に構成されていることを特徴とする。
【0033】
一般的に、糸を走行させながら加工する場合、糸をスムーズに走行させるために、糸に油剤が付与される。このような油剤及び/又はスカムが接触部材に堆積すると、糸の正常な走行が妨げられるおそれがあるため、接触部材を定期的に清掃する必要がある。本発明では、接触部材を加熱部から一時的に取り外すことができるので、接触部材の清掃(油剤等の除去)等のメンテナンスの効率を大幅に向上させることができる。
【0034】
第15の発明の糸加工機は、前記第1~第14のいずれかの発明の加熱装置と、前記糸に変形を付与する糸変形付与装置と、前記加熱装置及び前記糸変形付与装置に前記糸を送るように構成された、前記糸を走行させるための糸送り装置と、を備え、前記糸を走行させながら加工するように構成されていることを特徴とする。
【0035】
本発明では、糸を加工するために必要な加熱温度が外乱によって変動することを抑制できる。したがって、糸加工機によって加工される糸の品質の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本実施形態の加工糸の製造方法を実施するための仮撚加工機の側面図である。
【
図2】糸の経路に沿って仮撚加工機を展開した模式図である。
【
図3】(a)~(d)は、第1加熱装置を示す説明図である。
【
図5】第1加熱部材及び第2加熱部材の物性値を示す表である。
【
図6】変形例に係る第1加熱部材及び第2加熱部材の物性値を示す表である。
【
図7】別の変形例に係る、第1加熱装置の第1方向と直交する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
図1の紙面垂直方向を機台長手方向とし、紙面左右方向を機台幅方向とする。機台長手方向及び機台幅方向の両方と直交する方向を、重力の作用する上下方向(鉛直方向)とする。機台長手方向及び機台幅方向は、水平方向と略平行な方向である。
【0038】
(仮撚加工機の全体構成)
まず、本実施形態の加工糸の製造方法を実施するための仮撚加工機1(本発明の糸加工機)の全体構成について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
図1は、仮撚加工機1の側面図である。
図2は、糸Yの経路(糸道)に沿って仮撚加工機1を展開した模式図である。
【0039】
仮撚加工機1は、合成繊維からなる糸Yを仮撚加工可能に構成されている。糸Yは、例えば複数のフィラメントからなるマルチフィラメント糸である。或いは、糸Yは、1本のフィラメントによって構成されていても良い。仮撚加工機1は、給糸部2と、加工部3と、巻取部4とを備える。給糸部2は、糸Yを供給可能に構成されている。加工部3は、給糸部2から糸Yを引き出して仮撚加工するように構成されている。巻取部4は、加工部3によって加工された糸Yを巻取ボビンBwに巻き取るように構成されている。給糸部2、加工部3及び巻取部4が有する各構成要素は、機台長手方向において複数配列されている(
図2参照)。機台長手方向は、給糸部2から加工部3を通って巻取部4に至る糸道によって形成される、糸Yの走行面(
図1の紙面)と直交する方向である。
【0040】
給糸部2は、複数の給糸パッケージPsを保持するクリールスタンド7を有し、加工部3に複数の糸Yを供給する。加工部3は、給糸部2から複数の糸Yを引き出して加工するように構成されている。加工部3は、糸走行方向における上流側から順に、例えば、第1フィードローラ11(本発明の糸送り装置)、撚止ガイド12、第1加熱装置13(本発明の加熱装置)、冷却装置14、仮撚装置15(本発明の糸変形付与装置)、第2フィードローラ16、交絡装置17、第3フィードローラ18、第2加熱装置19、第4フィードローラ20が配置された構成となっている。巻取部4は、複数の巻取装置21を有する。各巻取装置21は、加工部3で仮撚加工された糸Yを巻取ボビンBwに巻き取って巻取パッケージPwを形成する。
【0041】
仮撚加工機1は、機台幅方向に間隔を置いて配置された主機台8及び巻取台9を有する。主機台8及び巻取台9は、機台長手方向に略同じ長さに延びるように設けられている。主機台8及び巻取台9は、機台幅方向において互いに対向するように配置されている。仮撚加工機1は、1組の主機台8及び巻取台9を含む、スパンと呼ばれる単位ユニットを有する。1つのスパンにおいては、機台長手方向に並んだ状態で走行する複数の糸Yに対して、同時に仮撚加工を施すことができるように各装置が配置されている。仮撚加工機1は、このスパンが、主機台8の機台幅方向の中心線Cを対称軸として、紙面左右対称に配置されている(主機台8は、左右のスパンで共通のものとなっている)。また、複数のスパンが、機台長手方向に配列されている。
【0042】
(加工部の構成)
加工部3の構成について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。第1フィードローラ11は、給糸部2に装着された給糸パッケージPsから糸Yを解舒して第1加熱装置13へ送るように構成されている。第1フィードローラ11は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを第1加熱装置13へ送るように構成されている。或いは、第1フィードローラ11は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。撚止ガイド12は、仮撚装置15で糸Yに付与された撚りが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側に伝播しないように構成されている。
【0043】
第1加熱装置13は、第1フィードローラ11から送られてきた糸Yを加熱するように構成されている。第1加熱装置13は、例えば、
図2に示すように、2本の糸Yを加熱可能に構成されている。第1加熱装置13のより詳細については後述する。
【0044】
冷却装置14は、第1加熱装置13で加熱された糸Yを冷却するように構成されている。冷却装置14は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを冷却するように構成されている。或いは、冷却装置14は、複数の糸Yを同時に冷却可能に構成されていても良い。仮撚装置15は、冷却装置14の糸走行方向下流側に配置され、糸Yに撚りを付与するように構成されている。仮撚装置15は、例えば、いわゆるディスクフリクション方式の仮撚装置であるが、これには限られない。第2フィードローラ16は、仮撚装置15で処理された糸Yを交絡装置17へ送るように構成されている。第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度は、第1フィードローラ11による糸Yの搬送速度よりも速い。これにより、糸Yは、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸仮撚される。
【0045】
交絡装置17は、糸Yに交絡を付与するように構成されている。交絡装置17は、例えば、空気流によって糸Yに交絡を付与する公知のインターレースノズルを有する。
【0046】
第3フィードローラ18は、交絡装置17よりも糸走行方向における下流側を走行している糸Yを第2加熱装置19へ送るように構成されている。第3フィードローラ18は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを第2加熱装置19へ送るように構成されている。或いは、第3フィードローラ18は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。なお、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度は、第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩される。第2加熱装置19は、第3フィードローラ18から送られてきた糸Yを加熱するように構成されている。第2加熱装置19は、鉛直方向に沿って延びており、1つのスパンに1つずつ設けられている。第4フィードローラ20は、第2加熱装置19によって加熱された糸Yを巻取装置21へ送るように構成されている。第4フィードローラ20は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを巻取装置21へ送るように構成されている。或いは、第4フィードローラ20は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。第4フィードローラ20による糸Yの搬送速度は、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩される。
【0047】
以上のように構成された加工部3では、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸された糸Yが、仮撚装置15によって撚られる。仮撚装置15により形成される撚りは、撚止ガイド12までは伝播するが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側には伝播しない。延伸されつつ撚りが付与された糸Yは、第1加熱装置13で加熱されて熱固定された後、冷却装置14で冷却される。仮撚装置15よりも糸走行方向下流側では糸Yは解撚されるが、上記の熱固定によって糸Yが波状に仮撚りされた状態が維持される(すなわち、糸Yの捲縮が維持される)。
【0048】
仮撚りが施された糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩されながら、交絡装置17によって交絡が付与された後、又は、合糸されずにそのまま、糸走行方向下流側へ案内される。さらに、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩されながら、第2加熱装置19で熱処理される。最後に、第4フィードローラ20から送られた糸Yは、巻取装置21によって巻き取られる。
【0049】
(巻取部の構成)
巻取部4の構成について、
図2を参照しつつ説明する。巻取部4は、複数の巻取装置21を有する。各巻取装置21は、1つの巻取ボビンBwに糸Yを巻取可能に構成されている。巻取装置21は、支点ガイド41と、トラバース装置42と、クレードル43とを有する。支点ガイド41は、糸Yが綾振りされる際の支点となるガイドである。トラバース装置42は、トラバースガイド45によって糸Yを綾振りすることが可能に構成されている。クレードル43は、巻取ボビンBwを回転自在に支持するように構成されている。クレードル43の近傍には、接触ローラ46が配置されている。接触ローラ46は、巻取パッケージPwの表面に接触して接圧を付与する。以上のように構成された巻取部4では、上述した第4フィードローラ20から送られた糸Yが各巻取装置21によって巻取ボビンBwに巻き取られ、巻取パッケージPwが形成される。
【0050】
(第1加熱装置)
次に、第1加熱装置13のより具体的な構成について、
図3(a)~(d)を参照しつつ説明する。
図3(a)は、第1加熱装置13を機台長手方向から見た図であり、且つ、第1加熱装置13が延びる方向(後述の第1方向)が紙面左右方向を向くように第1加熱装置13を記載した図である。
図3(b)は、
図3(a)のAb-Ab線断面図である。
図3(c)は、
図3(b)のAc-Ac線断面図である。
図3(d)は、
図3(b)のAd-Ad線断面図である。機台長手方向及び第1方向の両方と直交する方向を高さ方向とする(
図3(b)参照)。
図3(a)~(d)において、紙面上側を高さ方向における一方側とし、紙面下側を高さ方向における他方側とする。
【0051】
第1加熱装置13は、走行する糸Yを加熱するように構成されている。本実施形態では、第1加熱装置13は、2本の糸Y(糸Ya、Yb)を加熱可能に構成されている。第1加熱装置13は、機台長手方向と直交する所定の第1方向に延びている(
図3(a)等参照)。第1加熱装置13は、熱源51と、加熱部52とを有する。第1加熱装置13は、熱源51によって加熱された加熱部52によって、走行中の糸Ya、Ybを同時に加熱する。
【0052】
熱源51は、例えば公知のシーズヒータ(電熱ヒータ)を有する。シーズヒータは、電熱線(例えばコイル)と、電熱線を囲むパイプとを有する装置である。シーズヒータは、電熱線に電流が流れているときにジュール熱を発生させる。熱源51は、第1方向に延びている(
図3(c)参照)。熱源51は、例えば、第1方向と直交する断面において略円形状である(
図3(b)参照)が、これに限られるものではない。熱源51は、加熱温度(加熱部52の温度)を制御する制御装置100(
図3(c)参照)と電気的に接続されている。制御装置100は、第1加熱装置13の加熱温度を設定可能に構成されている。制御装置100は、設定された加熱温度の値に基づいて第1加熱装置13を制御する。制御装置100は、例えば、上記設定された加熱温度と、加熱部52の実際の温度を検知する温度センサ(不図示)による検知結果と、を考慮して第1加熱装置13を制御しても良い。
【0053】
加熱部52は、熱源51が生成する熱によって加熱されるように構成されている。加熱部52は、熱源51に沿って第1方向に延びている(
図3(c)参照)。加熱部52には、少なくとも第1方向に延びた、糸Yを走行させるための糸走行空間S(
図3(b)、(d)参照)が形成されている。本実施形態では、
図3(b)に示すように、2本の糸Ya、Ybがそれぞれ走行する2つの糸走行空間S(糸走行空間Sa、Sb)が形成されている。熱源51によって加熱された加熱部52によって、糸走行空間Saを走行する糸Ya及び糸走行空間Sbを走行する糸Ybが加熱される。加熱部52のより詳細については後述する。
【0054】
ここで、一般的に、外乱(例えば、加熱部52に外気が突発的に吹き付けられる等)による加熱部52の温度変動を確実に抑えるためには、加熱部52を構成する部材の熱容量を非常に大きくすれば良い。しかしながら、その場合、第1加熱装置13が非常に大型化してしまうおそれがある。したがって、第1加熱装置13の大型化抑制と外乱による温度変動の抑制とのバランスを考慮して、一般的に、加熱部52は、ある程度の大きさの熱容量を有するように設計される。しかしながら、このような構成において、加熱部52の温度が外乱によってひとたび低下すると、糸走行空間S及び/又は糸走行空間Sを形成する部材(以下、糸走行空間S等)の温度も低下してしまう。この場合、加熱部52及び糸走行空間S等の温度を設定温度に戻すまで時間がかかるおそれがある。そこで、外乱による糸走行空間S等の温度低下を抑制し、且つ、糸走行空間S等の温度が低下してしまっても糸走行空間S等を速やかに昇温させるため、第1加熱装置13は、さらに以下の構成を有する。
【0055】
(第1加熱装置の詳細構成)
第1加熱装置13の詳細構成について、
図3(a)~
図5を参照しつつ説明する。
図4は、
図3(b)の拡大図である。
図5は、後述する第1加熱部材53を構成する材料及び第2加熱部材54を構成する材料の物性値を示す表である。
図4において、紙面左側を機台長手方向における一方側とし、紙面右側を機台長手方向における他方側とする。
【0056】
図3(b)及び
図4に示すように、加熱部52は、例えば、2つの第1加熱部材53と、2つの第2加熱部材54と、2つの接触ブロック55(本発明の接触部材)とを有する。2つの第1加熱部材53は、第1加熱部材53a、53bを含む。2つの第2加熱部材54は、第2加熱部材54a、54bを含む。2つの接触ブロック55は、接触ブロック55a、55bを含む。第1加熱部材53a、第2加熱部材54a及び接触ブロック55aは、糸Yaを加熱するための部材である。第1加熱部材53b、第2加熱部材54b及び接触ブロック55bは、糸Ybを加熱するための部材である。糸Yaを加熱するための部材と糸Ybを加熱するための部材は、例えば、機台長手方向において、熱源51を挟んで互いに反対側の位置に配置されている。
【0057】
糸Yaを加熱するための部材について説明する。第1加熱部材53aは、熱源51に沿って第1方向に延びた長尺の部材である。第1加熱部材53を構成する材料(第1材料)は、例えば黄銅などの、体積比熱が大きい金属材料である。体積比熱とは、ある材料の比熱(単位質量あたりの熱容量)に当該材料の密度(単位体積あたりの質量)を掛けて得られる値である。
図4に示すように、第1加熱部材53aは、例えば、第1方向と直交する断面が略L字状である。但し、第1加熱部材53aの形状はこれには限られない。第1加熱部材53aは、熱源51の機台長手方向における一方側に配置されている。第1加熱部材53aは、例えば、熱源51から離隔して配置されている。
【0058】
第2加熱部材54aは、第1加熱部材53aと同様、熱源51に沿って第1方向に延びた長尺の部材である。第2加熱部材54は、第1材料と比べて体積比熱が小さい第2材料(詳細は後述する)によって構成されている。
図4に示すように、第2加熱部材54aは、例えば、第1方向と直交する断面が概ね長方形状である。第2加熱部材54aは、熱源51の機台長手方向における一方側に配置されている。第2加熱部材54aは、熱源51に接触するように配置されている。また、第2加熱部材54aは、第1加熱部材53aに接触するように配置されている。第1方向と直交する断面において、第2加熱部材54aは、第2加熱部材54bとともに、熱源51を囲うように配置されている。第2加熱部材54aは、例えば、機台長手方向において熱源51と第1加熱部材53aとの間に配置されている。第2加熱部材54aの配置のより詳細については後述する。
【0059】
第2加熱部材54aは、例えば、第1加熱部材53aとともに、逆U字状のスリット56(スリット56a)を形成している。スリット56aは、高さ方向における他方側が開口している。スリット56a内には、接触ブロック55aが収容されている。スリット56aは、接触ブロック55aを収容する収容空間として機能するとともに、糸Yaが走行する糸走行空間Saとしても機能する。言い換えると、本実施形態において、第2加熱部材54aは、第1加熱部材53aとともに糸走行空間Saを形成している。
【0060】
接触ブロック55aは、例えばSUS製の長尺の部材である。接触ブロック55aは、少なくとも第1方向に延びている。接触ブロック55aは、例えば切削加工されている。接触ブロック55aは、糸Yaが走行する糸走行空間S(糸走行空間Sa)内に配置されている。接触ブロック55aは、糸Yaが接触する、少なくとも高さ方向における他方側を向いた接触面57(接触面57a)を有する。言い換えれば、第1加熱部材53a及び第2加熱部材54aは、走行中の糸Yaと接触しないように(すなわち、走行中の糸Yaと離隔するように)配置されている(
図4参照)。接触面57aは、少なくとも第1方向に延びている(
図3(d)参照)。接触面57aは、例えば、機台長手方向と直交する断面において、略U字状に緩やかに湾曲している(
図3(d)参照)。接触ブロック55aは、スリット56aに嵌め込まれている。つまり、接触ブロック55aは、例えば、第1加熱部材53a及び第2加熱部材54aの少なくとも一方と接触している。接触ブロック55aは、少なくとも第2加熱部材54aと接触していると良い。より厳密には、接触ブロック55aは、機台長手方向において、スリット56aよりも例えば0.1mm~0.5mm短い。このため、機台長手方向において、接触ブロック55aと第1加熱部材53a又は第2加熱部材54aとの間にわずかな隙間が形成されうる。接触ブロック55aは、第1方向における全長に亘って第2加熱部材54aと接触していると最も好ましい。接触ブロック55aは、第1加熱部材53a及び第2加熱部材54aを介して伝導される熱によって昇温される。
【0061】
また、糸Ybを加熱するための部材について説明する。第1加熱部材53bは、第1加熱部材53aと同様、第1材料からなる。第1加熱部材53bは、熱源51の機台長手方向における他方側に配置されている。第1加熱部材53bは、例えば、熱源51から離隔して配置されている。第2加熱部材54bは、第2加熱部材54aと同様、第2材料からなる。第2加熱部材54bは、熱源51の機台長手方向における他方側に配置されている。第2加熱部材54bは、熱源51に接触するように配置されている。また、第2加熱部材54bは、第1加熱部材53bに接触するように配置されている。第2加熱部材54bは、第2加熱部材54aとともに、例えば、機台長手方向において第1加熱部材53aと第1加熱部材53bとの間に挟まれるように配置されている。第2加熱部材54bは、例えば、第1加熱部材53bとともに、スリット56aと同様のスリット56bを形成している。スリット56b内には、接触ブロック55bが収容されている。スリット56bは、接触ブロック55bの収容空間として機能するとともに、糸Ybが走行する糸走行空間Sbとしても機能する。接触ブロック55bは、例えばSUS製の長尺の部材である。接触ブロック55bは、接触ブロック55aと同様に切削加工されている。接触ブロック55bは、接触面57aと同様の、糸Ybを接触させるための接触面57bを有する。言い換えれば、第1加熱部材53b及び第2加熱部材54bは、走行中の糸Ybと接触しないように(すなわち、走行中の糸Ybと離隔するように)配置されている(
図4参照)。接触ブロック55bは、スリット56bに嵌め込まれている。つまり、接触ブロック55bは、第1加熱部材53b及び第2加熱部材54bの少なくとも一方と接触している。
【0062】
(第2加熱部材の詳細)
次に、第2加熱部材54(ここでは、代表して第2加熱部材54a)のより詳細について、
図3(b)及び
図4を参照しつつ説明する。第2加熱部材54aは、例えば、第1方向と直交する断面において、熱源51と糸走行空間Saとの間に挟まれるように配置されている。「熱源51と糸走行空間Saとの間」とは、例えば、以下のようにして定義される。すなわち、第1方向と直交する所定の断面(例えば
図4参照)において、接触面57aのうち高さ方向における最も一方側の(つまり、
図4に示す断面において、高さ方向においてスリット56aの入口から最も遠い)点Paと、熱源51の外表面51sとを結ぶように、複数の仮想的な線分を描くことができる(例えば線分L1、L2、L3等)。これらの線分のうち少なくとも1つが第2加熱部材54aを通過するとき、「第2加熱部材54aが熱源51と糸走行空間Saとの間に配置されている」と定義される。「熱源51と糸走行空間Sbとの間」についても、同様の定義をすることができる。
【0063】
第2加熱部材54は、本実施形態のように、熱源51、第1加熱部材53及び接触ブロック55と接触していると良い。また、第2加熱部材54の熱容量の、第1加熱部材53の熱容量に対する比率は、例えば20%以上40%以下であると良い。
【0064】
第2加熱部材54を構成する第2材料の詳細について説明する。上述したように、第2材料の体積比熱は、第1材料の体積比熱よりも小さい。より具体的には、第2材料としてC/Cコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材料)が適している。C/Cコンポジットは、炭素繊維と黒鉛との複合材料である。炭素繊維として、例えば、公知のピッチ系炭素繊維が用いられている。
図5に示すように、本実施形態では、第1材料として用いられる黄銅の体積比熱は、例えば20℃において3.35J/(cm
3・K)である。これに対し、第2材料として用いられるC/Cコンポジットの体積比熱は、例えば20℃において1.12J/(cm
3・K)である。このため、第2加熱部材54を第1加熱部材53と比べて速やかに昇温させることができる。つまり、外乱によって糸走行空間S等の温度が低下してしまった場合には、第2加熱部材54を介して糸走行空間S等を速やかに昇温させることができる。したがって、糸走行空間S等の温度が低下してしまっても、糸走行空間S等の温度を速やかに上昇させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、第2材料として用いられるC/Cコンポジットは、配向性を有している。より具体的には、多数の炭素繊維が所定のX方向に配向している。X方向とは、例えば、本実施形態においては第1方向である。これにより、第2材料の熱伝導率は異方性を有する。
図5に示すように、C/Cコンポジットの第1方向(X方向)における熱伝導率は、例えば20℃において180W/(m・K)である。一方、X方向と直交するY方向(例えば機台長手方向、高さ方向等)におけるC/Cコンポジットの熱伝導率は、例えば20℃において80W/(m・K)であり、X方向における熱伝導率よりも低い。なお、本実施形態においては、少なくとも、C/Cコンポジットの第1方向における熱伝導率が、黄銅の熱伝導率(例えば20℃において60W/(m・K))よりも高い。このような第2材料からなる第2加熱部材54によって、第1方向における加熱温度を均一化できる。
【0066】
さらに、本実施形態では、第1方向と直交する任意の方向においても、C/Cコンポジットの熱伝導率(上述した80W/(m・K))は、黄銅の熱伝導率(上述した60W/(m・K))よりも高い。言い換えると、以下のようになる。第1方向と直交する断面図(
図4参照)において、例えば、点Paと熱源51の外表面51sとを最短距離で結ぶ線分L3が延びる方向を第2方向と定義する。線分L3は、本発明の「熱源から糸走行空間に向かう所定の仮想直線」に相当する。このような構成により、熱源51から糸走行空間Sa等へ熱を速やかに伝えることができる。したがって、糸走行空間Sa等を速やかに昇温させることができる。同様に、糸走行空間Sb等も速やかに昇温させることができる。
【0067】
なお、本実施形態の第1加熱装置13は、例えば、加熱温度が230℃以上350℃以下の所定温度に設定されている状態で、走行中の糸Yを接触面57に接触させながら加熱すると、特に好ましい。このような温度範囲においては、従来の加熱装置(不図示)と比較して、糸Yの加熱効率を向上させることができる。もちろん、第1加熱装置13の加熱温度は230℃よりも低い温度に設定されても良く、350℃よりも高い温度に設定されても良い。
【0068】
以上のように、第1加熱部材53を構成する第1材料として、体積比熱がある程度高い材料を用いることにより、外乱による加熱部52の温度低下をある程度抑制できる。さらに、本実施形態では、体積比熱が低い第2加熱部材54を、第1加熱部材53と比べて速やかに昇温させることができる。これにより、熱源51と糸走行空間Sとの間に配置された第2加熱部材54を介して糸走行空間S等を速やかに加熱できる。したがって、このような速やかな加熱によって、外乱による糸走行空間S等の温度低下を抑制できる。また、外乱によって糸走行空間S等の温度が低下してしまっても、糸走行空間S等を速やかに昇温させることができる。
【0069】
また、第2加熱部材54は、熱源51に接触している。これにより、熱源51によって生成された熱を第2加熱部材54に速やかに伝えることができる。したがって、第2加熱部材54を効果的に昇温させることができる。
【0070】
また、第2加熱部材54は、第1加熱部材53とともに糸走行空間Sを形成している。したがって、第2加熱部材54によって糸走行空間S等を効果的に昇温させることができる。
【0071】
また、第2加熱部材54は第1加熱部材53に接触している。したがって、第2加熱部材54を介して第1加熱部材53を速やかに加熱することができる。また、この場合、例えば、第1加熱部材53を加熱する熱源(不図示)を熱源51とは別に設け且つ第2加熱部材54を第1加熱部材53と離して配置する場合と比べて、製造コストの増大を抑制できる。
【0072】
また、第2加熱部材54の熱容量の、第1加熱部材53の熱容量に対する比率は、20%以上40%以下である。このように、第2加熱部材54の熱容量が第1加熱部材53の熱容量に対して大きすぎず、且つ小さすぎない。したがって、加熱部52を外乱に対してある程度強くすることができ、且つ、糸走行空間S等を速やかに昇温させることができる。
【0073】
また、第2加熱部材54を構成する第2材料は、繊維材料を含む。これにより、第2材料の熱伝導率に異方性を持たせることができる。したがって、特に熱を伝えたい方向において、非常に速やかに熱を伝えることができる。
【0074】
また、前記繊維材料は、炭素繊維である。炭素繊維は、高い熱伝導率を有する軽量の素材である。したがって、熱を伝えたい方向において、非常に速やかに熱を伝えることができる。また、第1加熱装置13を軽量化できる。
【0075】
また、前記炭素繊維は、ピッチ系繊維である。炭素繊維として、一般的に、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維とが知られている。一般的に、ピッチ系炭素繊維の方がPAN系炭素繊維よりも高い熱伝導率を有する。したがって、炭素繊維としてピッチ系炭素繊維を用いることにより、第2材料の熱伝導率をより高めることができる。
【0076】
また、第2材料として炭素繊維と黒鉛との複合材料を用いることにより、第2材料の熱伝導率をより高めることができる。
【0077】
また、第2材料は、第1材料と比べて、第1方向における熱伝導率が高い。これにより、第2加熱部材54を介して、第1方向において熱を速やかに伝えることができる。したがって、第1方向における糸走行空間S等の温度ばらつきを抑制できる。
【0078】
また、第2材料は、第1材料と比べて、第2方向における熱伝導率が高い。これにより、第2加熱部材54を介して、熱源51から糸走行空間S等へ熱を速やかに伝えることができる。したがって、糸走行空間S等を速やかに昇温させることができる。
【0079】
また、加熱部52は、接触ブロック55を有する。本実施形態のように接触ブロック55が設けられた構成においては、第2加熱部材54を速やかに昇温させることにより、接触ブロック55を効果的に昇温させることができる。
【0080】
また、接触ブロック55が第2加熱部材54と接触している。したがって、接触ブロック55と、速やかに昇温される第2加熱部材54との間の熱伝導によって、接触ブロック55を効果的に昇温させることができる。
【0081】
また、第1加熱装置13を備える仮撚加工機1において仮撚加工を行うことにより、糸Yを加工するために必要な加熱温度が外乱によって変動することを抑制できる。したがって、仮撚加工機1によって加工される糸Yの品質の変動を抑制できる。
【0082】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0083】
(1)前記実施形態においては、第2材料であるC/Cコンポジットに含まれる炭素繊維が第1方向に配向しているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、第2加熱部材54aにおいて、炭素繊維は第2方向に配向していても良い。また、第2加熱部材54bにおいて、熱源51から糸走行空間Sb等へ向かう方向に炭素繊維が配向していても良い。この場合、熱源51から糸走行空間S等へ熱を非常に速やかに伝えることができる。
【0084】
(2)前記までの実施形態において、第2材料に含まれる炭素繊維がピッチ系繊維であるものとした。しかしながら、これには限られない。炭素繊維は、例えば、公知のPAN系炭素繊維であっても良い。
【0085】
(3)前記までの実施形態において、第2材料はC/Cコンポジット(炭素繊維と黒鉛との複合材料)であるものとした。しかしながら、これには限られない。第2材料は、例えば、炭素繊維と樹脂(例えばエポキシ樹脂)との複合材料であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)であっても良い。CFRPはC/Cコンポジットと比べて安価であるため、CFRPを第2材料として用いることにより、第1加熱装置13の製造コストの増大を抑制できる。
【0086】
(4)前記までの実施形態において、第2材料には繊維材料として炭素繊維が含まれているものとした。しかしながら、これには限られない。繊維材料として炭素繊維以外の材料が用いられていても良い。
【0087】
(5)前記までの実施形態において、C/Cコンポジットに含まれる炭素繊維は所定のX方向に配向されているものとした。しかしながら、これには限られない。炭素繊維は、特定の方向に配向されていなくても良い(すなわち、ランダムに配向されていても良い)。
【0088】
(6)前記までの実施形態において、第2材料の熱伝導率が第1方向及び第2方向の両方において第1材料の熱伝導率よりも高いものとした。しかしながら、これには限られない。第2材料の熱伝導率は、例えば、第1方向及び第2方向のうち一方のみにおいて第1材料の熱伝導率よりも高くても良い。或いは、第2材料の熱伝導率は、第1材料の熱伝導率以下でも良い。第2材料は、第1材料と比べて体積比熱が小さいという特性のみを有していても良い。一例として、第1加熱部材53は、例えばアルミニウムで構成されていても良い。
図6(a)に示すように、アルミニウム(第1材料)の体積比熱は20℃において2.43J/(cm
3・K)である。この場合においても、C/Cコンポジット(第2材料)の体積比熱は、アルミニウムの体積比熱よりも小さい。一方、アルミニウム(第1材料)の熱伝導率は20℃において204W/(m・K)であり、いずれの方向においても、C/Cコンポジット(第2材料)の熱伝導率よりも高い。
【0089】
(7)第1材料及び第2材料の組み合わせは、上述したものに限られない。例えば、
図6(b)に示すように、第1材料が黄銅であり、第2材料がアルミニウムであっても良い。この場合、第2材料の体積比熱が第1材料の体積比熱よりも低く、第2材料の熱伝導率が第1材料の熱伝導率よりも高い。なお、アルミニウムは、C/Cコンポジットと比べて耐熱性が優れている。このように優れた耐熱性を有する材料が加熱部52に適用される場合、加熱温度を高く設定することができる。この場合、第1加熱装置13は、例えば特開2002-146640号公報に記載されているような非接触式の加熱装置(不図示)であっても良い。非接触式の加熱装置においては、接触ブロック55の代わりに、第1方向に互いに離れて配置された複数の糸ガイド(不図示)が設けられている。各糸ガイドは、糸Yを直接加熱するための部材ではなく、単に糸Yを案内するための部材である。非接触式の加熱装置においては、主に、糸走行空間S内の温められた空気によって糸Yが加熱される。
【0090】
(8)前記までの実施形態において、第1加熱装置13は2本の糸Yを加熱するように構成されているものとした。しかしながら、これには限られない。3本以上の糸Yを加熱可能に構成された第1加熱装置(不図示)が設けられていても良い。或いは、例えば
図7に示すように、1本の糸Yを加熱するように構成された第1加熱装置13Aが設けられていても良い。第1加熱装置13Aの加熱部52Aは、加熱部52(
図4等参照)と比較して、例えば単に第1加熱部材53b及び接触ブロック55bが取り除かれた構成であっても良い。或いは、第1加熱装置13Aにおいて、第2加熱部材54bの代わりに、第1材料からなる第1加熱部材61が設けられていても良い。
【0091】
(9)前記までの実施形態において、第2加熱部材54が熱源51及び接触ブロック55と接触しているものとした。しかしながら、これには限られない。第2加熱部材54は、熱源51及び接触ブロック55のうち一方にのみ接触していても良く、熱源51及び接触ブロック55のいずれにも接触していなくても良い。この場合、第1加熱部材53のみが熱源51及び/又は接触ブロック55に接触するように設けられていても良い。また、前記までの実施形態において、第2加熱部材54が第1加熱部材53に接触しているものとしたが、これには限られない。例えば、第1加熱部材53を加熱する熱源(不図示)が熱源51とは別に設けられ、且つ、第2加熱部材54が第1加熱部材53と離れて配置されていても良い。
【0092】
また、例えば、接触ブロック55の第1方向における一部のみが第2加熱部材54と接触していても良い。ただし、この場合、接触ブロック55が第1方向における全長に亘って第2加熱部材54と接触している構成と比べると、接触ブロック55の加熱効率は低い。
【0093】
或いは、第1加熱部材53及び第2加熱部材54のいずれも接触ブロック55に接触していなくても良い。但し、この場合、接触ブロック55の加熱効率は低い。なお、以下の順で接触ブロック55の加熱効率が高い。第1の構成として、少なくとも第2加熱部材54が接触ブロック55に接触している構成において、最も加熱効率が高い。第2の構成として、第1加熱部材53のみが接触ブロック55に接触している構成において、2番目に加熱効率が高い。第3の構成として、第1加熱部材53及び第2加熱部材54のいずれも接触ブロック55に接触していない構成において、最も加熱効率が低い。複数の加熱部52において、第1~第3の構成のうち2つ以上の構成が意図せず混在している場合、複数の加熱部52間で接触ブロック55の加熱効率にバラツキが生じうる。このため、複数の加熱部52及び複数の第1加熱装置13において、第1~第3のいずれかの構成にできる限り統一されることが望ましい。
【0094】
(10)前記までの実施形態において、第2加熱部材54の熱容量の、第1加熱部材53の熱容量に対する比率が、20%以上40%以下であるものとした。しかしながら、これには限られない。当該比率は、例えば20%未満でも良く、或いは40%よりも大きくても良い。
【0095】
(11)前記までの実施形態において、機台長手方向と直交する断面において、接触面57が湾曲しているものとした。しかしながら、これには限られない。接触面57は、機台長手方向と直交する断面において、例えば略直線状であっても良い。
【0096】
(12)前記までの実施形態において、第1加熱装置13及び第1加熱装置13Aは、接触ブロック55を有するものとした。しかしながら、これには限られない。接触ブロック55の代わりに、第1方向と直交する断面において逆U字状になるように板金加工された不図示のSUSプレートが、接触部材として設けられていても良い(例えば、特開2002-194631号公報参照)。
【0097】
(13)接触部材(接触ブロック55又は上述したSUSプレート)は、加熱部52に対して着脱可能に構成されていても良い。これにより、接触部材を加熱部52から一時的に取り外すことができるので、接触部材の清掃等のメンテナンスの効率を大幅に向上させることができる。
【0098】
(14)前記までの実施形態において、スリット56は第1加熱部材53及び第2加熱部材54の両方によって形成されているものとした。しかしながら、これには限られない。スリット56は、第1加熱部材53及び第2加熱部材54のうち一方のみによって形成されていても良い。つまり、第1加熱部材53がスリット56全体を形成していても良い。或いは、第2加熱部材54がスリット56全体を形成していても良い。
【0099】
(15)前記までの実施形態において、熱源51はシーズヒータを有するものとした。しかしながら、これには限られない。熱源51の代わりに、例えば熱媒によって加熱部52を加熱するように構成された熱源(不図示)が設けられていても良い。
【0100】
(16)上述した第1加熱装置13の構成は、第2加熱装置19に適用されても良い。また、上述した第1加熱装置13は、仮撚加工機1に限らず、他の構成を有する公知の仮撚加工機(不図示)にも適用可能である。例えば、本発明は、特開2009-74219号公報に記載の仮撚加工機(不図示)に適用されても良い。当該仮撚加工機は、2本の糸を合糸して1本の糸を形成することが可能に構成されている。当該仮撚加工機は、合糸された1本の糸又は合糸されていない2本の糸を単一のクレードルに巻き取ることが可能に構成されている。例として、このような仮撚加工機に本発明が適用されても良い。或いは、第1加熱装置13は、仮撚加工機の他に、例えば公知のエア加工機(不図示)等、糸(不図示)を走行させながら加工する糸加工機にも適用可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 仮撚加工機(糸加工機)
11 第1フィードローラ(糸送り装置)
13 第1加熱装置(加熱装置)
15 仮撚装置(糸変形付与装置)
51 熱源
52 加熱部
53 第1加熱部材
54 第2加熱部材
55 接触ブロック(接触部材)
S 糸走行空間
Y 糸