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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188766
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】断熱材の製造方法及び断熱材
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20221214BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20221214BHJP
   D21H 13/40 20060101ALI20221214BHJP
   D21H 13/36 20060101ALI20221214BHJP
   D21H 17/54 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C08J5/04 CFG
F16L59/02
D21H13/40
D21H13/36 A
D21H17/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093562
(22)【出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021096583
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】松下 敏之
(72)【発明者】
【氏名】山下 宏央
(72)【発明者】
【氏名】深澤 駿
(72)【発明者】
【氏名】橋口 雄太
(72)【発明者】
【氏名】米倉 洸貴
(72)【発明者】
【氏名】平塚 紗瑛
【テーマコード(参考)】
3H036
4F072
4L055
【Fターム(参考)】
3H036AB18
3H036AB23
3H036AB24
3H036AC03
4F072AA02
4F072AB08
4F072AB09
4F072AB10
4F072AB11
4F072AB31
4F072AD45
4F072AF05
4F072AF06
4F072AG03
4F072AH02
4F072AH03
4F072AH22
4F072AH31
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL01
4F072AL11
4L055AF01
4L055AF04
4L055AG18
4L055AG83
4L055BE10
4L055EA20
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA13
4L055FA16
4L055FA30
4L055GA21
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】熱伝導率を維持しつつ、耐熱性、低粉塵、引張強度、柔軟性に優れる、断熱材の製造方法及び断熱材、又は、生産性に優れた、エアロゲルを含有する断熱材の製造方法及び断熱材を提供する。
【解決手段】本発明は、無機繊維と水とを混合して、混合物を得る第1工程と、第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る第2工程と、第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る第3工程とを含む、断熱材の製造方法であって、第1工程においてポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程、及び/又は、第2工程において抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含む、断熱材の製造方法、及び、無機繊維とポリイミド樹脂とを含む断熱材であって、当該ポリイミド樹脂に含まれる有機溶媒の含有量は、5μg/g以下である、断熱材に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維と水とを混合して、混合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る第2工程と、
第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る第3工程とを含む、
断熱材の製造方法であって、
第1工程においてポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程、及び/又は、第2工程において抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含む、
断熱材の製造方法。
【請求項2】
第1工程においてシリカエアロゲルを更に混合する工程を含む、請求項1に記載の断熱材の製造方法。
【請求項3】
第1工程において酸を更に混合する工程を含む、請求項1又は2に記載の断熱材の製造方法。
【請求項4】
第3工程における加熱温度は、150℃以上である、請求項1又は2に記載の断熱材の製造方法。
【請求項5】
第1工程は、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程を含み、第1工程における混合物の固形分中のポリイミド前駆体の割合は、0.1~20質量%である、請求項1又は2に記載の断熱材の製造方法。
【請求項6】
第2工程は、抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含み、第2工程における抄紙物の固形物に対するポリイミド前駆体の含浸割合は、0.1~20質量%である、請求項1又は2に記載の断熱材の製造方法。
【請求項7】
無機繊維とポリイミド樹脂とを含む断熱材であって、当該ポリイミド樹脂に含まれる有機溶媒の含有量は、5ppm以下である、断熱材。
【請求項8】
シリカエアロゲルを更に含む、請求項7に記載の断熱材。
【請求項9】
断熱材中のポリイミドの割合は、0.1~20質量%である、請求項7又は8に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材の製造方法及び断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
無機繊維は、断熱性を有するため、断熱材の基材として利用されている。また、多孔質材料であるシリカエアロゲルは、熱伝導率が小さいため、部材の断熱性を高めるのに有用な材料であり、断熱材への利用は熱い注目を集めている。
【0003】
エアロゲルの粒子あるいは粉末を繊維集合体に充填したシート状物は、エアロゲルの粒子あるいは粉末が飛散しやすいため、各種バインダーを用いてエアロゲルの脱落を防ぐ技術が開示されている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-139560号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/138212号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2に開示されたようなバインダーは、耐熱性が劣っていた。また、発明者らの知見によれば、断熱材の低粉塵、引張強度、柔軟性の改善の余地があった。また、発明者らの別の知見によれば、エアロゲルを含有する断熱材の製造方法において、生産性の改善の余地があった。
【0006】
本発明は、熱伝導率を維持しつつ、耐熱性、低粉塵、引張強度、柔軟性に優れる、断熱材の製造方法及び断熱材を提供することを目的とする。
また、別の本発明は、生産性に優れた、エアロゲルを含有する断熱材の製造方法及び断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明及び別の本発明は、以下に関する。
[1]無機繊維と水とを混合して、混合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る第2工程と、
第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る第3工程とを含む、
断熱材の製造方法であって、
第1工程においてポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程、及び/又は、第2工程において抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含む、
断熱材の製造方法。
[2]第1工程においてシリカエアロゲルを更に混合する工程を含む、[1]の断熱材の製造方法。
[3]第1工程において酸を更に混合する工程を含む、[1]又は[2]の断熱材の製造方法。
[4]第3工程における加熱温度は、150℃以上である、[1]~[3]のいずれかの断熱材の製造方法。
[5]第1工程は、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程を含み、第1工程における混合物の固形分中のポリイミド前駆体の割合は、0.1~20質量%である、[1]~[4]のいずれかの断熱材の製造方法。
[6]第2工程は、抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含み、第2工程における抄紙物の固形分に対するポリイミド前駆体の含浸割合は、0.1~20質量%である、[1]~[5]のいずれかの断熱材の製造方法。
[7]無機繊維とポリイミド樹脂とを含む断熱材であって、当該ポリイミド樹脂に含まれる有機溶媒の含有量は、5ppm以下である、断熱材。
[8]シリカエアロゲルを更に含む、[7]の断熱材。
[9]断熱材中のポリイミドの割合は、0.1~20質量%である、[7]又は[8]の断熱材。
[10]無機繊維と水とシリカエアロゲルとを混合して、混合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る第2工程と、
第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る第3工程とを含む、
断熱材の製造方法であって、
第1工程において、シリコーン系消泡剤及び/又はスルホン酸系界面活性剤を更に混合する工程を含む、断熱材の製造方法。
[11]無機繊維と水とシリカエアロゲルとを混合して、混合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る第2工程と、
第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る第3工程とを含む、
断熱材の製造方法であって、
第1工程において、当該シリカエアロゲルの平均粒径が30~50μmの範囲内である、断熱材の製造方法。
[12]無機繊維とシリカエアロゲルとを含む断熱材であって、当該断熱材は、有機溶媒の含有量が5ppm以下であり、かつシリカエアロゲルの平均粒径が30~50μmであるか、及び/又は、シリコーン系消泡剤及び/又はスルホン酸系界面活性剤を含有する、断熱材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱伝導率を維持しつつ、耐熱性、低粉塵、引張強度、柔軟性に優れる、断熱材の製造方法及び断熱材を提供することができる。
また、別の本発明によれば、生産性に優れた、エアロゲルを含有する断熱材の製造方法及び断熱材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[用語の定義]
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。更に、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
数値範囲に関して「~」は、その両端の値を含むことを意味する。また、「以下」は「同じ又は未満」を意味し、「以上」は「同じ又は超える」を意味する。
【0010】
[本発明及び別の本発明]
本発明は、第一の断熱材の製造方法、第一の断熱材、及び、第二の断熱材を包含する。また、別の本発明は、第二の断熱材の製造方法、第三の断熱材の製造方法、及び、第三の断熱材を包含する。本発明及び別の本発明は、重複する部分を有し得る。また、発明者らは、ろ水性、又は、発泡性及び/若しくは分散性に優れた混合物(スラリー)を見出し、別の本発明に至った。
【0011】
[断熱材の製造方法]
本発明の第一の断熱材の製造方法は、無機繊維と水とを混合して、混合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る第2工程と、
第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る第3工程とを含み、
第1工程においてポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程、及び/又は、第2工程において抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含む。
【0012】
第一の断熱材の製造方法は、無機繊維のバインダーとしてポリイミド樹脂を用いるため、耐熱性に優れる。また、断熱材の製造方法は、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を用いるため、水を使用する抄紙工程においても簡便に適用できる。
【0013】
(第1工程)
第1工程は、無機繊維と水とを混合して、混合物を得る工程である。
<無機繊維>
無機繊維は、断熱材の基材となる繊維である。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維等が挙げられ、断熱材の基材として用いられる成分から適宜選択できる。無機繊維は、耐熱性、低熱伝導率、価格等の観点から、ガラス繊維であることが好ましい。
無機繊維の繊維径(長径)は、引張強度、柔軟性等の観点から、0.1~30μmであることが好ましく、0.2~20μmであることがより好ましく、0.5~10μmであることが特に好ましい。
【0014】
<水>
水としては、限定されず、水道水、蒸留水、純水、イオン交換水、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0015】
≪更なる成分≫
無機繊維と水とを混合して混合物を得る工程において、更なる成分を混合することができる。更なる成分としては、エアロゲル、酸、有機繊維、赤外放射材料、界面活性剤、消泡剤、その他の製紙用添加剤が挙げられる。
【0016】
(エアロゲル)
エアロゲルとは、ナノメートル規模の孔が多数あり、そこから空気が分散される固体材料の連続マトリクスを持つ微粒子である。エアロゲルは、断熱材に断熱性を更に付与する成分である。エアロゲルは、無機エアロゲル、有機エアロゲル、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
無機エアロゲルの材料としては、疎水化等の修飾がされていてもよい金属酸化物が挙げられ、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ハフニア及びセリアからなる群より選択される1種又は2種以上の組合せであることが好ましく、シリカであることが特に好ましい。また、無機エアロゲルがシリカエアロゲルである場合、疎水化されたシリカエアロゲルであることが好ましい。疎水化されたシリカエアロゲルは、水を溶媒とする抄紙スラリー中で細孔構造が維持されやすいため、断熱性をより高めることができる。疎水化されたシリカエアロゲルは、アルコキシシラン化合物又はケイ酸ナトリウムと触媒とを含むゾルから得られるゲルに対して、疎水化処理(表面シラノール基を、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tertブチル基、オクチル基、フェニル基、又は当業者に公知な他の置換又は未置換の疎水性有機基とする処理)し、乾燥することにより、製造することができる。
【0018】
有機エアロゲルの材料としては、カーボン、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、リグニン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、メラミンホルムアルデヒド、レゾルシノールホルムアルデヒド、クレゾールホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド、ポリビニルアルコールジアルデヒド、ポリシアヌレート、ポリアクリルアミド、エポキシ等が挙げられる。
【0019】
エアロゲルの平均粒径は、1~100μmであることが好ましく、10~70μmであることがより好ましく、30~50μmであることが特に好ましい。エアロゲルの平均粒径を前記範囲とすることで、断熱材に十分な断熱性及び強度を与え、嵩の低い断熱材においても断熱性能を発揮させることができる。エアロゲルの比表面積(BET比表面積)は、300~800m/gであることが好ましい。エアロゲルの比表面積を前記範囲とすることで、より高い断熱性を断熱材に付与することができる。エアロゲルの平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等により測定することができる。また、エアロゲルの比表面積は、窒素ガス吸着法を用いて求めることができる。エアロゲルは、市販品を用いることができる。シリカエアロゲルの市販品としては、実施例に記載のものの他に、AeroVa(登録商標)(JIOS Aerogel Corporation製)、DOWSIL(商品名) VM-2270(ダウ・東レ株式会社製)等が挙げられる。
エアロゲルは、1種又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
(酸)
酸としては、特に制限されず、無機酸でも有機酸でもよい。無機酸としては、ヨウ化水素、臭化水素、塩化水素、フッ化水素酸、リン酸、塩素酸、硝酸、硫酸、亜塩素酸、亜硝酸、亜硫酸、臭化水素酸、過塩素酸等が挙げられる。有機酸としては、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラートルエンスルホン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、スルフィン酸等が挙げられる。また、酸は、後述する界面活性剤の機能を有する成分であってもよい。また、酸は、後述する界面活性剤を含まないものであってもよく、スルホン酸系界面活性剤及びアミノ酸系界面活性剤を含まないものであってもよく、ドデシルベンゼンスルホン酸を含まないものであってもよい。
第2工程における抄紙時のろ過速度向上及び断熱材の引張強度向上の観点から、酸は、無機酸であることが好ましく、硫酸、硝酸、塩酸であることがより好ましい。
酸は、1種又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0021】
(有機繊維)
有機繊維としては、特に限定されず、合成繊維であってもよく、天然繊維であってもよい。
合成繊維としては、不織布の原料として使用される合成繊維が挙げられる。合成繊維の具体例としては、ポリエステル繊維、ポリカーボネート繊維、炭素繊維、ポリアクリロニトリル繊維、酸化ポリアクリルニトリル繊維、ビニロン繊維、オレフィン繊維、ポリウレタン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、ポリ乳酸繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルサルフォン繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維等が挙げられる。
天然繊維としては、パルプを使用することができる。パルプの種類としては、特に限定されず、紙の原料として使用される木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプが挙げられ、ケミカルパルプ、セミケミカルパルプ、メカニカルパルプのいずれも使用可能である。天然繊維の具体例としては、ミクロフィブリル化されたパルプ(セルロースナノファイバー)が挙げられる。
有機繊維の種類及び量は、断熱材の所望の柔軟性、耐熱性、難燃性、不燃性、可撓性、強度、重量に応じて適宜変更することができる。
有機繊維は、1種又は2種以上の組合せであってよい。
【0022】
(赤外放射材料)
赤外放射材料は、赤外線を吸収又は反射することができる成分である。赤外放射材料を含むことで、熱源からの熱エネルギーを吸収、あるいは断熱材内での反射を繰り返すことにより熱エネルギーを低減させることができるので、断熱性を増大させることができる。赤外放射材料としては、炭化ケイ素、酸化チタン、カーボンブラック、ジルコン、(Fe,Mn)(Fe,Mn):CuO(アスペン社の「AX9912」)等が挙げられる。赤外放射材料は、断熱材の用途(断熱の対象となる熱源の温度)に応じて適宜選択できる。例えば、カーボンブラックのような炭素材料は、酸化劣化を防ぐ観点から、150℃以下での断熱材の用途に適している。炭化ケイ素、酸化チタン等の無機化合物は、輻射熱エネルギーの低減の観点から、200℃以上での断熱材の用途に適している。
赤外放射材料は、1種又は2種以上の組合せであってよい。
【0023】
(界面活性剤)
界面活性剤は、シリカエアロゲルが水性媒体中で安定的に分散できるように添加される成分である。すなわち、第1工程において、粒子表面が疎水化処理されたシリカエアロゲルが用いられる場合、界面活性剤の共存下で、水性媒体中にシリカエアロゲルを均一に分散させることができる。また、界面活性剤は、組成物で使用する水又は水溶媒に溶解する界面活性剤であることが好ましい。
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物、ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物、ポリシロキサン構造を含む化合物等が挙げられる。ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物としては、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体等が挙げられる。ポリシロキサン構造を含む化合物としては、ポリジメチルシロキサン構造を有する化合物等が挙げられる。ポリシロキサン構造を含む化合物は、後述する消泡剤の機能を有するものであってもよく、このような成分として信越化学工業社製のKM-73、KM-73A、KM―73E、KM-70、KM-71、KM-75、KM-7750D、KM―85、KM-89、KM-90,KM-98、KM―7752が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、カチオン性澱粉等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム等のスルホン酸系界面活性剤が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アミノ酸系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、アミンオキシド系界面活性剤等が挙げられる。アミノ酸系界面活性剤としては、アシルグルタミン酸等が挙げられる。ベタイン系界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。アミンオキシド系界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキシドが挙げられる。
第1工程で得られる混合物の混合状態(分散性)が優れる観点から、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤及びアニオン系界面活性剤からなる群より選択される1種又は2種以上の組合せであることが好ましく、スルホン酸系界面活性剤及びポリシロキサン構造を含む化合物を有効成分とする界面活性剤からなる群より選択される1種又は2種以上の組合せであることが特に好ましい。
界面活性剤は、1種又は2種以上の組合せであってよい。
【0024】
(消泡剤)
消泡剤は、界面活性剤の混合攪拌時に生じる気泡を除去するために添加する成分である。消泡剤としては、ビニルポリマーと活性剤、鉱油、ビニル系重合物、アクリルポリマーアミン塩、ポリシロキサン構造を含む化合物(但し、アクリルシリコーン系重合物を含まない)、アクリルシリコーン系重合物等が挙げられる。消泡剤の市販品としては、例えば、以下に示すものが入手可能である。
BYK製のBYK-011、BYK-012、BYK-014、BYK-017、BYK-018、BYK-019、BYK-021、BYK-022、BYK-023、BYK-024、BYK-025、BYK-028、BYK-038、BYK-044。また、BYK-093、BYK-094、BYK-1610、BYK-1615、BYK-1650、BYK-1711、BYK-1730、BYK-1740、BYK-1770、BYK-1798等。
楠本化成製のAQ-501、AQ-530、AQ-200、AQ-7120、AQ-7130等。信越化学工業社製のKM-73、KM-73A、KM-73E、KM-70、KM-72、KM-72F、KM-72S、KM-72FS、KM-71、KM-75、KM-7750、KM-85、KM-89、KM-90、KM-98、KM-7752等。
第1工程で得られる混合物の混合状態(分散性)と泡立ちの低さの両方が優れる観点から、消泡剤は、非イオン性界面活性剤としても機能する成分であることが好ましく、ポリシロキサン構造を含む化合物を有効成分として含むシリコーン系消泡剤であることが特に好ましい。
消泡剤は、1種又は2種以上の組合せであってよい。
【0025】
(その他の製紙用添加剤)
その他の製紙用添加剤としては、植物性ガム、水性セルロース誘導体、ケイ酸ソーダ、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン、ポリビニルアミン、カチオン性デンプン等の紙力増強剤、ロジン、カルボキシルメチルセルロース、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、ポリビニルアルコール等のサイズ剤、ポリアクリルアミド、ケイ酸ソーダ、硫酸アルミニウム、デンプン等の歩留まり向上剤、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、カチオン性デンプン等の濾水向上剤、染料、顔料等が挙げられる。
その他の製紙用添加剤は、1種又は2種以上の組合せであってよい。
【0026】
(断熱材の製造方法の好ましい実施態様)
第1工程においてシリカエアロゲルを更に混合する工程を含むことが好ましい。第1工程においてシリカエアロゲルを更に混合する工程を含む場合、得られる断熱材の断熱性がより優れる。また、シリカエアロゲルは、疎水化されたエアロゲルであることが好ましい。断熱材の製造方法においては、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物が用いられるため、ポリイミド前駆体組成物に含まれる水溶媒がシリカエアロゲルの細孔に侵入することが低減され、当該細孔構造を効率的に保持することができる。更に、断熱材の製造方法においては、ポリイミド樹脂が無機繊維のみならず、シリカエアロゲルについてのバインダーにもなり得るため、シリカエアロゲルの脱落を低減することができる。
また、第1工程において酸を更に混合する工程を含むことが好ましい。ポリイミド前駆体組成物を含む混合物に酸を添加することで、第2工程における抄紙時のろ過速度を向上させ、更に断熱材の引張強度を向上させることができる。
【0027】
<ポリイミド前駆体組成物を混合する工程>
第1工程は、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程を含んでいてもよく、含まなくてもよい。ただし、第2工程が、抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含まない場合は、第1工程は、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程を含む。
【0028】
≪ポリイミド前駆体組成物≫
ポリイミド前駆体組成物は、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含む。
【0029】
(ポリイミド前駆体)
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分から得られるポリアミック酸であれば特に限定されないが、下記式(1)で表される繰返し単位を含むポリアミック酸であることが好ましい。
【0030】
【化1】

式(1)において、Aは、4価の有機基であり、Bは、2価の有機基である。
【0031】
Aは、芳香族基を有する4価の基、脂肪族基を有する4価の有機基、脂環式構造を有する4価の有機基から選ばれる1種または2種以上であることが好ましく、芳香族基を有する4価の基であることが特に好ましい。Bは、芳香族基を有する2価の有機基、脂肪族基を有する2価の有機基、脂環式構造を有する2価の有機基から選ばれる1種または2種以上であることが好ましく、芳香族基を有する2価の有機基であることが特に好ましい。
【0032】
テトラカルボン酸成分は、特に限定するものではないが、反応性と揮発成分の観点からテトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、得られるポリイミドの特性から芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物であることが特に好ましい。芳香族テトラカルボン酸二無水物は、特に限定するものではないが、フッ素を含まない芳香族テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族酸二無水物であることが好ましい。フッ素を含まない芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。フッ素含有芳香族酸二無水物の具体例としては、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5,5’-[2,2,2-トリフルオロ-1-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]エチリデン]ジフタル酸無水物、5,5’-[2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-(トリフルオロメチル)プロピリデン]ジフタル酸無水物、1H-ジフルオロ[3,4-b:3’,4’-i]キサンテン-1,3,7,9(11H)-テトロン、5,5’-オキシビス[4,6,7-トリフルオロ-ピロメリット酸無水物]、3,6-ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、4-(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、1,4-ジフルオロピロメリット酸二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸-1,2:4,5-二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3;5,6-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸二無水物は、1種又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0033】
ジアミン成分は、特に限定するものではないが、得られるポリイミドの特性から芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンであることが好ましい。芳香族ジアミンとしては、フッ素を含まない芳香族ジアミン、フッ素含有芳香族ジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、脂環式ジアミン、脂肪族ジアミンが挙げられる。フッ素を含まない芳香族ジアミンの具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)メタン、2,4-TDA:2,4-ジアミノトルエン等が挙げられる。フッ素含有芳香族ジアミンの具体例としては、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-ジアミノベンゼン、2,4,5,6-テトラフルオロ-1,3-ジアミノベンゼン、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-ベンゼン(ジメタンアミン)、2,2’-ジフルオロ-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン、2,2’,6,6’-テトラフルオロ-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-オキシビス(2,3,5,6-テトラフルオロアニリン等が挙げられる。脂環式ジアミンの具体例としては、trans-1,4-ジアミノシクロへキサン、cis-1,4-ジアミノシクロへキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。脂肪族ジアミンの具体例としては、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、重量平均分子量が500以下のポリオキシプロピレンジアミン等が挙げられる。
【0034】
このようなテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略等モルで反応させることで本発明で使用できるポリイミド前駆体を得ることができる。略等モルとは、具体的にはモル比[テトラカルボン酸二無水物/ジアミン]で0.85~1.15程度、好ましくは0.95~1.05程度である。
【0035】
ポリイミド前駆体は、1種又は2種以上の組合せであってよい。
【0036】
(水溶媒)
水溶媒は、溶媒の主成分(溶媒全体に対して50質量%以上)が水である。水は、第1工程において前記した通りである。水溶媒は、水以外に有機溶媒を含んでいてもよい。水溶媒に含まれていてもよい有機溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m-クレゾール、フェノール、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。有機溶媒類は、1種又は2種以上の組合せであってよい。なお、水溶媒に含まれる有機溶媒には、テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸成分、ジアミン成分、ポリアミック酸等のポリイミド前駆体は含まれない。水溶媒は、溶媒全体に対して、水の含有量が70質量%以上であることが好ましく、90質量%であることがより好ましい。また、水溶媒は、前記した水の含有量であることに加えて、有機溶媒の含有量が5ppm以下であることが更に好ましく、1ppm以下であることがより更に好ましく、実質的に有機溶媒を含まないことが特に好ましい。なお、「実質的に有機溶媒を含まない」とは、水溶媒をGC-MS等の分析機器で測定した場合、検出下限値以下となる場合をいう。
【0037】
<ポリイミド前駆体組成物中の各成分の量>
ポリイミド前駆体組成物における各成分の量は以下であることが好ましい。
ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)に起因する固形分濃度は、ポリイミド前駆体と水溶媒との合計量に対して、5質量%~45質量%であることが好ましく、7質量%~40質量%であることがより好ましく、8質量%~30質量%であることが特に好ましい。
水溶媒中の水の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95~100質量%であることが特に好ましい。
【0038】
ポリイミド前駆体組成物は、特に限定されないが、たとえば、特開2012-36382号公報に記載された方法により製造することができる。この他に、ポリイミド前駆体組成物については、特開2012-36382号公報を一例として参考にすれば良い。
ポリイミド前駆体組成物は、1種又は2種以上の組合せであってよい。
【0039】
各成分の混合方法は、特に限定されず、抄紙用のミキサーを用いた混合方法が挙げられる。
【0040】
(各成分の使用量)
第1工程において、無機繊維と水の使用量は、所望の混合物が得られる限り特に限定されない。無機繊維の水への分散性、生産性等の観点から、無機繊維の混合量は、第1工程で得られる混合物の固形分中、20~100質量%であるであることが好ましく、30~80質量%であることが特に好ましい。第1工程で得られる混合物の固形分は、第1工程においてポリイミド前駆体組成物が用いられる場合は、ポリイミド前駆体組成物の固形分が加わる。
【0041】
第1工程が、ポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程を含む場合、ポリイミド前駆体組成物の使用量は、特に限定されない。断熱材の強度、製造コスト等の観点から、ポリイミド前駆体組成物の混合量は、第1工程で得られる混合物の固形分中、0.1~20質量%であるであることが好ましく、0.2~15質量%であることが特に好ましい。
【0042】
第1工程がエアロゲルを更に混合する工程を含む場合、エアロゲルの使用量は、特に限定されない。エアロゲルの水への分散性、生産性、断熱材の断熱性、強度等の観点から、エアロゲルの混合量は、第1工程で得られる混合物の固形分中、0~80質量%であるであることが好ましく、20~70質量%であることが特に好ましい。また、第1工程において、界面活性剤の使用量は、エアロゲル100質量部に対して、0.1~100質量部であることが好ましく、0.1~20質量部であることが特に好ましい。第1工程において、消泡剤の使用量は、エアロゲル100質量部に対して、0.1~100質量部であることが好ましく、30~90質量部であることが特に好ましい。ここで、界面活性剤が消泡剤としての機能を有する成分である場合は、当該成分の使用量は、消泡剤の使用量としてもよく、界面活性剤の使用量としてもよいが、界面活性剤の使用量とすることが好ましい。
【0043】
第1工程が酸を更に混合する工程を含む場合、酸の使用量は、特に限定されない。第2工程における抄紙時のろ過速度向上及び断熱材の引張強度向上の観点から、酸の混合量は、第1工程で得られる混合物の固形分中、0~20質量%であるであることが好ましく、0.01~15質量%であることが特に好ましい。
【0044】
第1工程において、赤外放射材料の使用量は、第1工程で得られる混合物の固形分中、~50質量%となるような量であることが好ましく、1~40質量%となるような量であることがより好ましく、2~35質量%となるような量であることが特に好ましい。
第1工程において、上記した以外の成分の使用量は、特に限定されないが、第1工程で得られる混合物の固形分中、10質量%以下であるであることが好ましい。
【0045】
(第2工程)
第2工程は、第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る工程である。
抄紙は、紙の製造において通常使用される公知の抄紙装置を用いて行うことができる。
抄紙装置のスリット幅(メッシュ穴径)は、濾水性、抄紙物の歩留まり等に応じて適宜設定できるが、10~500μmであるであることが好ましく、50~300μmであることが特に好ましい。
抄紙装置のドラム径、ドラム回転速度、プレス圧、ドライヤー温度等の諸条件は、断熱材の所望の性状によって、適宜設定できる。
【0046】
<ポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程>
第2工程は、更に、抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含んでいてもよく、含まなくてもよい。ただし、第1工程が、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程を含まない場合は、第2工程は、更に、抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含む。ポリイミド前駆体組成物は、第1工程において前記した通りである。
【0047】
第2工程が、抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含む場合、第2工程において、抄紙物の固形分に対するポリイミド前駆体の含浸割合は、断熱材の強度、製造コスト等の観点から、0.1~20質量%であることが好ましい。また、第2工程において、抄紙物(即ち、水を除去する前の抄紙物)に対するポリイミド前駆体の含浸割合は、前記した抄紙物の固形分に対するポリイミド前駆体の含浸割合となるような量であれば特に制限されないが、断熱材の強度、製造コスト等の観点から、0.005~5質量%であることが好ましく、0.01~2質量%であることが特に好ましい。第2工程において、ポリイミド前駆体組成物の使用量は、前記したポリイミド前駆体の含浸割合になるように、適宜設定することができる。
【0048】
(第3工程)
第3工程は、第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る工程である。第3工程において、抄紙物に含まれる水溶媒を除去するとともに、ポリイミド前駆体のイミド化(脱水閉環)が進行することによってポリイミド樹脂が形成され、無機繊維のバインダーとなる。
抄紙物の加熱温度は、ポリイミド前駆体のイミド化が効率的に進行する観点、シリカエアロゲルの疎水性の維持の観点、無機繊維の劣化を防ぐ観点等から、150℃以上であることが好ましく、180℃~500℃であることがより好ましく、200℃~400℃であることが特に好ましい。
抄紙物の加熱時間は、所望の性状を有する断熱材が得られる範囲であれば適宜設定できるが、0.01時間~30時間であることが好ましく、0.01~10時間であることが特に好ましい。
【0049】
(断熱材の製造方法によって得られる断熱材)
本発明の第一の断熱材の製造方法によって得られる断熱材(「第一の断熱材」という場合がある)の厚さは、所望の性質に応じて適宜設定できるが、0.01~20mmであることが好ましく、0.1~10mmであることが特に好ましい。
また、第一の断熱材の坪量は、1~500g/mであることが好ましく、10~400g/mであることが特に好ましい。
第一の断熱材の形状は特に限定されず、シート状、板状であることができる。
第一の断熱材は、後述する本発明の第二の断熱材の特性を有することが好ましい。
【0050】
(第一の断熱材の用途)
第一の断熱材は、食品、医薬品の容器や包装材、プラントの配管やタンク、自動車や航空機のボディ、電子材料、建築材等に用いることができる。断熱をすべき対象物と断熱材とを接触させること、例えば、断熱材を貼付する等の手段により、物品に対して断熱効果を奏することが可能である。ここで、断熱すべき対象物の素材としては、特に限定されず、紙、プラスチック、板材、金属等が挙げられる。
【0051】
[更なる態様の断熱材(1)]
本発明の第二の断熱材は、無機繊維とポリイミド樹脂とを含む断熱材であって、当該ポリイミド樹脂に含まれる有機溶媒の含有量は、5ppm以下である。ここで、無機繊維は、前記した通りである。また、ポリイミド樹脂は、下記式(2)で表される繰返し単位からなるポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0052】
【化2】

〔式(2)中、A及びBは、式(1)で定義された通りである。〕
【0053】
式(2)で表される繰返し単位を含むポリイミド樹脂は、ポリイミド前駆体組成物において前記した式(1)で表される繰返し単位を有するポリイミド前駆体が、イミド化して得られるポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0054】
第二の断熱材において、ポリイミド樹脂に含まれる有機溶媒の含有量は、5ppm(5質量ppm)以下である。ここで、有機溶媒は、水溶媒に含まれていてもよい有機溶媒として前記した通りである。有機溶媒の含有量が5ppmを超える場合、断熱性に劣る場合がある。有機溶媒の含有量は、3ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることがより好ましく、検出限界以下であることが特に好ましい。このように有機溶媒の含有量を極限まで低減させた断熱材を得るためには、有機溶媒の含有量が5ppm以下、好ましくは1ppm以下、特に好ましくは、有機溶媒を実質的に含まないポリイミド前駆体組成物を使用することで実現することができる。一方で、有機溶媒をある程度含むポリイミド前駆体組成物を使用した場合、上述のような有機溶媒の含有量とすることは困難である。第二の断熱材におけるポリイミド樹脂に含まれる有機溶媒の含有量は、例えば、熱抽出GC-TOFMSにより測定することができる。
【0055】
第二の断熱材は、更なる成分を含むことができる。更なる成分としては、断熱材の製造方法において前記した成分が挙げられる。第二の断熱材は、第一の断熱材で述べたのと同様の理由から、エアロゲルを更に含むことが好ましく、シリカエアロゲルを更に含むことが特に好ましい。
【0056】
第二の断熱材において、上記した以外については、第一の断熱材において前記した通りである。
【0057】
[更なる態様の断熱材(2)]
本発明の第三の断熱材は、無機繊維とシリカエアロゲルとを含む断熱材であって、当該断熱材は、有機溶媒の含有量が5ppm以下であり、かつシリカエアロゲルの平均粒径が30~50μmであるか、及び/又は、シリコーン系消泡剤及び/又はスルホン酸系界面活性剤を含有する、断熱材である。ここで、無機繊維、シリカエアロゲル、シリコーン系消泡剤、スルホン酸系界面活性剤は、前記した通りである。また、有機溶媒は、水溶媒に含まれていてもよい有機溶媒として前記した通りである。
【0058】
第三の断熱材において、有機溶媒の含有量が5ppmを超える場合、断熱性に劣る場合がある。有機溶媒の含有量は、3ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることがより好ましく、検出限界以下であることが特に好ましい。このように有機溶媒の含有量を極限まで低減させた断熱材を得るためには、有機溶媒の含有量が5ppm以下、好ましくは1ppm以下、特に好ましくは、有機溶媒を実質的に含まない原材料を使用することで実現することができる。一方で、有機溶媒をある程度含むポリイミド前駆体組成物等の原材料を使用した場合、上述のような有機溶媒の含有量とすることは困難である。第三の断熱材における有機溶媒の含有量は、例えば、熱抽出GC-TOFMSにより測定することができる。
【0059】
第三の断熱材は、ポリイミド樹脂を含んでいてもよく、含まなくてもよい。
第三の断熱材の製造方法としては、後述する第二、第三の断熱材の製造方法が挙げられる。
第三の断熱材が、無機繊維とシリカエアロゲルとを含み、当該断熱材が、有機溶媒の含有量が5ppm以下であり、かつシリカエアロゲルの平均粒径が30~50μmである場合は、当該断熱材は、後述する第二の断熱材の製造方法により製造することができる。
第三の断熱材が、無機繊維とシリカエアロゲルとを含み、当該断熱材が、有機溶媒の含有量が5ppm以下であり、かつシリコーン系消泡剤及び/又はスルホン酸系界面活性剤を含有する場合は、当該断熱材は、後述する第三の断熱材の製造方法により製造することができる。
第三の断熱材が、無機繊維とシリカエアロゲルとを含み、当該断熱材が、有機溶媒の含有量が5ppm以下であり、かつシリカエアロゲルの平均粒径が30~50μmであり、及び、シリコーン系消泡剤及び/又はスルホン酸系界面活性剤を含有する場合は、後述する第二の断熱材の製造方法において、シリカエアロゲルの平均粒径が30~50μmの範囲内とすることにより製造することができる。
【0060】
第三の断熱材において、上記した以外については、第一、第二の断熱材において前記した通りである。
【0061】
[更なる態様の断熱材の製造方法]
本発明の第二の断熱材の製造方法は、
無機繊維と水とシリカエアロゲルとを混合して、混合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る第2工程と、
第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る第3工程とを含み、
第1工程において、シリコーン系消泡剤及び/又はスルホン酸系界面活性剤を更に混合する工程を含む。
【0062】
無機繊維と水とシリカエアロゲルを含む断熱材を製造するにおいて、シリコーン系消泡剤及び/又はスルホン酸系界面活性剤とを選択して使用することにより、第1工程で得られる混合物(スラリー)は、分散性が優れる、及び/又は、発泡性が抑制されている。よって、本発明の第二の断熱材の製造方法は、断熱材の生産性を高めることができ、工業生産上優位な製造方法とすることができる。
【0063】
本発明の第三の断熱材の製造方法は、
無機繊維と水とシリカエアロゲルとを混合して、混合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた混合物を抄紙して、抄紙物を得る第2工程と、
第2工程で得られた抄紙物を加熱して、断熱材を得る第3工程とを含む、
断熱材の製造方法であって、
第1工程において、当該シリカエアロゲルの平均粒径が30~50μmの範囲内である。
【0064】
無機繊維と水とシリカエアロゲルを含む断熱材を製造するにおいて、シリカエアロゲルの平均粒径を30~50μmの範囲内とすることにより、第2工程でのろ水性を飛躍的に向上させることができる。よって、本発明の第三の断熱材の製造方法は、断熱材の生産性を高めることができ、工業生産上優位な製造方法とすることができる。
【0065】
第二及び第三の断熱材の製造方法において、無機繊維、水、シリカエアロゲル、シリコーン系消泡剤、スルホン酸系界面活性剤は前記のとおりである。さらに、第二及び第三の断熱材の製造方法において、第1工程、第2工程、第3工程は、前記[断熱材の製造方法]の方法に準じて行えばよい。また、前記した[断熱材の製造方法]と、[更なる態様の断熱材の製造方法]とを組み合わせることで、優れた性能を有する断熱材を生産性よく製造することが可能となり好ましい。
第二及び第三の断熱材の製造方法は、第1工程においてポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を更に混合する工程、及び/又は、第2工程において抄紙物にポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を含浸させる工程を含んでいてもよく、含まなくてもよい。ここで、ポリイミド前駆体組成物は前記のとおりである。
第二及び第三の断熱材の製造方法は、組み合わせてもよい。即ち、第二の断熱材の製造方法は、シリカエアロゲルの平均粒径が30~50μmの範囲内であってもよい。また、第三の断熱材の製造方法は、第1工程において、シリコーン系消泡剤及び/又はスルホン酸系界面活性剤を更に混合する工程を含んでいてもよい。
第二及び第三の断熱材の製造方法において、上記した以外については、第一の断熱材の製造方法において前記した通りである。
【実施例0066】
本発明を以下の例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。表における値は、特に断らない限り質量部である。例1~10は本発明の実施例に相当する。また、例9~12は、別の本発明の実施例に相当する。
【0067】
(断熱材の製造方法)
(例1)
ビーカーに水400mLを入れ、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物(以下、「水系ポリイミド前駆体含有ワニス」とも言う)(宇部興産製ユピア(登録商標)NF1001、固形分:ポリイミド換算で9.1質量%、溶媒:水)を4g、市販のガラス繊維(平均繊維径:1.3μm)を3g添加して、ミキサーを用いて全体が均一になるまで攪拌して、混合物(スラリー)を調製した。
次いで、得られた混合物を、メッシュ穴径:300μmのステンレス製メッシュの上にメッシュ穴径:149μmのナイロン製メッシュを載せた抄紙装置を使用し、10.5cm×15cm角サイズに手動で抄紙して、抄紙物を得た。
次いで、得られた抄紙物を、200℃で3時間加熱して、厚さ1.2mm、坪量168g/mのシート状の断熱材を得た。
【0068】
(例2)
市販のガラス繊維(平均繊維径:3.5μm)を使用した以外は、例1と同様の手法で、厚さ0.9mm、坪量144g/mのシート状の断熱材を得た。
【0069】
(例3)
水系ポリイミド前駆体含有ワニス(宇部興産製ユピア(登録商標)NF2001、固形分:ポリイミド換算で9.4質量%、溶媒:水)を使用した以外は、例1と同様の手法で、厚さ1.1mm、坪量165g/mのシート状の断熱材を得た。
【0070】
(例4)
市販のガラス繊維(平均繊維径:3.5μm)を使用した以外は、例3と同様の手法で、厚さ1.0mm、坪量160g/mのシート状の断熱材を得た。
【0071】
(例5)
ビーカーに水150mLを入れ、水系ポリイミド前駆体含有ワニス(宇部興産製ユピア(登録商標)NF1001、固形分:ポリイミド換算で9.1質量%)を4g、市販のガラス繊維(平均繊維径:0.6μm)を1g、シリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製IC-3100)を2g添加して、ミキサーを用いて全体が均一になるまで攪拌して、混合物(スラリー)を調製した。
次いで、得られた混合物を、例1と同様の手法で抄紙して、抄紙物を得た。
次いで、得られた抄紙物を、200℃で3時間加熱して、厚さ1.2mm、坪量144g/mのシート状の断熱材を得た。
【0072】
(例6)
水系ポリイミド前駆体含有ワニス(宇部興産製ユピア(登録商標)NF2001、固形分:ポリイミド換算で9.4質量%)を4g使用した以外は、例5と同様の手法で、厚さ1.1mm、坪量132g/mのシート状の断熱材を得た。
【0073】
(例7)
市販のガラス繊維(平均繊維径:1.3μm)を使用した以外は、例5と同様の手法で、厚さ1.0mm、坪量120g/mのシート状の断熱材を得た。
【0074】
(例8)
例7と同様の条件で、混合物(スラリー)を調製した。更に、6質量%塩酸水溶液を1.39g添加し、2分間攪拌した。
次いで、得られた混合物を、例1と同様の手法で抄紙して、抄紙物を得た。
次いで、得られた抄紙物を、200℃で3時間加熱して、厚さ0.8mm、坪量152g/mのシート状の断熱材を得た。
【0075】
(例9)
ビーカーに水150mLを入れ、ドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業製)50mgを溶解させた。市販のガラス繊維(平均繊維径:0.6μm)を1g、シリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製IC-3100)を2g添加して、ミキサーを用いて全体が均一になるまで攪拌して、混合物(スラリー)を調製した。
次いで、得られた混合物を、例1と同様の手法で抄紙して、抄紙物を得た。この抄紙物に、水系ポリイミド前駆体含有ワニス(宇部興産製ユピア(登録商標)NF1001、固形分:ポリイミド換算で9.1質量%)10gを水894gに溶解させた水溶液に浸漬させたのちに引き上げて、ポリイミド前駆体組成物を含浸させた抄紙物を得た。
次いで、得られた抄紙物を、200℃で3時間加熱して、厚さ1.2mm、坪量132g/mのシート状の断熱材を得た。
【0076】
(例10)
水系ポリイミド前駆体含有ワニス(宇部興産製ユピア(登録商標)NF1001、固形分:ポリイミド換算で9.1質量%)20gを水884gに溶解させた水溶液を使用した以外は、例9と同様の手法で、厚さ1.0mm、坪量140g/mのシート状の断熱材を得た。
【0077】
(例11)
水系ポリイミド前駆体含有ワニスを用いないこと以外は、例9と同様の手法で、抄紙物を得た。
次いで、得られた抄紙物を、150℃で3時間加熱して、厚さ1.3mm、坪量156g/mのシート状の断熱材を得た。
【0078】
(例12)
市販のガラス繊維(平均繊維径:1.3μm)を使用した以外は、例11と同様の手法で、厚さ1.1mm、坪量143g/mのシート状の断熱材を得た。
【0079】
(例13)
水系ポリイミド前駆体含有ワニスを用いないこと以外は、例1と同様の手法で、抄紙物を得た。
次いで、得られた抄紙物を、150℃で3時間加熱して、厚さ0.9mm、坪量162g/mのシート状の断熱材を得た。
【0080】
(例14)
水系ポリイミド前駆体含有ワニスを用いないこと以外は、例2と同様の手法で、厚さ0.9mm、坪量146g/mのシート状の断熱材を得た。
【0081】
(例15)
水系ポリイミド前駆体含有ワニスをポリビニルアルコール(富士フィルム和光純薬製、n=1,500~1,800)0.4gに変更した以外は、例5と同様の手法で、厚さ1.1mm、坪量132g/mのシート状の断熱材を得た。
【0082】
(例16)
水系ポリイミド前駆体含有ワニスをポリアクリルアミド樹脂(星光PMC製DS4433、不揮発分20質量%)1.6gに変更した以外は、例5と同様の手法で、厚さ1.3mm、坪量156g/mのシート状の断熱材を得た。
【0083】
(熱伝導率の評価)
カトーテック製KES-F7サーモラボを使用し、一定温度(30℃)の加熱板と、他の一定温度(20℃)に保たれた冷却板の間にシートを挟み、以下の式で定常熱伝導率測定を算出した。
【数1】
【0084】
W:加熱板の熱流量(mW)
D:シート厚さ(m)
A:加熱板の面積(m)
ΔT:加熱板と冷却板の温度差(K)
【0085】
(引張強度の評価)
インストロン社万能試験器(型式:5582)を使用し、2.5cm×10cmに切断したシートを用い、掴み具(チャック)間の距離7.5cm、引張速度25mm/分にて、シートの引張強度を測定した。
【0086】
(柔軟性及び粉塵の評価)
5cm×10cmに切断したシートを用い、シートの長辺が管の周囲に巻き付くようにして、直径3cmの管に巻き付ける操作を、一回毎にシートを裏返しながら計50回行い、シートが破断せず、且つ成分の脱落等による重量の現象が見られなかった場合は○、シートが破断、又は成分の脱落等による重量の減少が見られた場合は×とした。
【0087】
(耐熱試験)
例5、例15及び例16の条件で作成したシート状の断熱材を300℃で10時間加熱した。次に加熱後の断熱材について、引張強度及び柔軟性の評価を行った。加熱の前後で引張強度が低下しなかった場合は〇、加熱後の引張強度が低下した場合は×とした。
【0088】
(ろ過速度の測定)
例5と同様の条件で調製した混合物(スラリー)を、32面にひだ折りしたろ紙(アドバンテック社製 No.5C)を用いてろ過を行い、開始後5分後に6.6gのろ液が回収された。
【0089】
例5と同様の条件で調製した混合物(スラリー)に、6質量%塩酸水溶液1.39gを添加し、2分間攪拌した後、32面にひだ折りしたろ紙(アドバンテック社製 No.5C)を用いてろ過を行い、開始後5分後に16.5gのろ液が回収された。
上記の結果より、混合物(スラリー)に酸を添加することによって、ろ過速度を向上させることができることが分かる。
【0090】
結果を以下の表1、表2に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
表1に示すように、同等の厚さ、坪量を有する、ポリイミド前駆体及び水溶媒を含むポリイミド前駆体組成物をイミド化して得られるポリイミドを含まない例11~14のシートと比して、例1~10のシートは、同等の熱伝導率で、引張強度や柔軟性に優れることが判明した。また、例1~10のシートは、柔軟性及び粉塵の試験において成分の脱落等による重量の現象が見られなかったため、低粉塵であったことが判明した。
例1と7の比較により、第1工程においてシリカエアロゲルを更に混合する工程を含む場合、熱伝導率が低く、より断熱性が優れていた。
例7と8の比較により、第1工程において酸を更に混合する工程を含む場合、引張強度がより優れていた。
表2に示すように、例5のシートは、耐熱試験後の引張強度や柔軟性を維持しており、耐熱性に優れていた。一方で、水系ポリイミド前駆体含有ワニス以外の樹脂を用いた例15及び16のシートは、耐熱試験後の引張強度や柔軟性が劣っており、耐熱性に劣っていた。
【0094】
(参考例1)
ビーカーに、水を200mL、シリコーン系消泡剤(信越化学工業社製KM-73)を0.05g、市販のガラス繊維(平均繊維径:0.6μm、平均繊維長:40μm)を0.25g、シリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製IC-3100)を0.50g添加して、ミキサーを用いて全体が均一になるまで攪拌した。その後、総量が3000gとなるよう水を添加して混合物(スラリー)を調製した。
【0095】
(参考例2~4)
界面活性剤の種類と配合量を表3のとおりにした以外は、参考例1と同じ手法で混合物(スラリー)を調製した。各参考例の混合物(スラリー)について、混合性及び発泡性を評価した。なお、表3におけるDBSAは、ドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業製)である。
【0096】
[混合性]
容量10mLのビーカー(アズワン社製)に混合物(スラリー)を10g添加した。手動で撹拌した後に、静置した。以下の判断により、混合性を評価した。
○:混合時、粉末が確認できた。また、60秒以内でゲルが上昇又は分離した。
×:混合時、粉末が目視で確認できない。また、60秒以内でゲルが上昇しなかった。
【0097】
[発泡性]
容量5mLの試験管(アズワン社製)に混合物(スラリー)を3g添加した。手動で10秒間攪拌した後に、静置した。振とう前の液面の高さに対して、静置直後の液面の高さの上昇量を測定した。以下の判断により、発泡性を評価した。
○:液面の上昇量が10mm以下である。
×:液面の上昇量が10mm超である。
【0098】
【表3】
【0099】
表3に示すように、シリコーン系消泡剤又はスルホン酸系界面活性剤を用いた場合は、混合状態(分散性)を用いた場合は、混合性に優れるか、又は発泡を抑制することができた。特に、シリコーン系消泡剤を特定量使用すると、混合性能と発泡抑制能を両立することができることが判明した。また、カチオン性澱粉又はポリアミック酸を使用した場合も、シリコーン系消泡剤と同様の傾向を示し、混合性に優れかつ発泡を抑制できた。
【0100】
(参考例5)
ビーカーに、水を150mL、シリコーン系消泡剤(信越化学工業社製KM-73)を0.75g、市販のガラス繊維(平均繊維径:0.6μm、平均繊維長:40μm)を1.0g、シリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製IC-3100)を2.0g添加して、ミキサーを用いて全体が均一になるまで攪拌した。その後、総量が3000gとなるよう水を添加して混合物(スラリー)を調製した。
【0101】
(参考例6~9)
表4に示す平均繊維径(0.6μm又は1.3μm。いずれも平均繊維長は40μmである。)を有するガラス繊維と粒子径(11μm)を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製IC-3100)、又はシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製P―200)を粉砕した粒子径(30μm、又は40μm)を有するシリカエアロゲルを用いて、各参考例の混合物(スラリー)を調製した。
参考例5~9で得られた混合物(スラリー)について、ろ水性を測定した。
【0102】
[ろ水性]
ナイロン製メッシュ(メッシュ径:149μm)を備えた漏斗を用いて、混合物(スラリー)300gのろ過を行った。ろ過を開始してから300gのろ液が回収されるまでの時間を測定した。
【0103】
【表4】
【0104】
表4示すように、ガラス繊維径によらず、シリカエアロゲルの粒径が長くなれば、ろ水時間が短くなる傾向があった。また、例9~12について、シリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製IC-3100)に代えて、シリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製P―200)を粉砕した粒子径(30μm、又は40μm)を有するシリカエアロゲルを使用して得られた断熱材は、例9~12の断熱材と同等の熱伝導率(即ち、20~21mW/m・K)を有しており、例9~12の断熱材と同等の断熱性を有していた。