(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188796
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20221215BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G02B27/01
B60R11/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097006
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江塚 敏晴
【テーマコード(参考)】
2H199
3D020
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA12
2H199DA15
2H199DA18
2H199DA26
2H199DA28
2H199DA29
2H199DA30
2H199DA42
2H199DA43
3D020BA05
3D020BB01
3D020BC03
3D020BD03
(57)【要約】
【課題】 ヘッドアップディスプレイの虚像の表示品位の低下を抑制する。
【解決手段】 本開示のヘッドアップディスプレイHは、レーザ光SLを出射する光源部11と、前記レーザ光SLの光軸に対して第1角度θで傾斜する様態で配置され前記レーザ光SLで照明されるスクリーン13と、前記光源部11と前記スクリーン13の間の前記レーザ光SLの光路上に配置される光学部12と、を備え、前記スクリーン13から出射された表示光PLをホログラフィック光学素子HOEに投射して虚像Vを表示するヘッドアップディスプレイHである。また、前記光学部12は、前記第1角度θに対応する非球面係数の非球面レンズ126を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射する光源部と、
前記レーザ光の光軸に対して第1角度で傾斜する様態で配置され前記レーザ光で照明されるスクリーンと、
前記光源部と前記スクリーンの間の前記レーザ光の光路上に配置される光学部と、
を備え、前記スクリーンから出射された表示光をホログラフィック光学素子に投射して虚像を表示するヘッドアップディスプレイであって、
前記光学部は、前記第1角度に対応する非球面係数の非球面レンズを有する、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記非球面レンズは、前記第1角度の大きさに反比例して前記非球面係数が小さく設定された奇数次の非球面レンズである、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記非球面レンズは、前記第1角度の大きさに比例して前記非球面係数が大きく設定された偶数次の非球面レンズを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記スクリーンから出射される前記表示光は、
散乱角が±3degの範囲にある光の強度が前記レーザ光の強度の80%以上であり、
散乱角が±4.5degの範囲外にある光の強度が前記レーザ光の強度の40%未満である、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項5】
前記スクリーンは、液晶パネルであり、
前記非球面レンズは、レンチキュラレンズである、
ことを特徴とする請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両情報を表示するヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック光学素子(HOE:Holographic Optical Element)で回折された光の虚像によって、車両情報を表示するヘッドアップディスプレイが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホログラフィック光学素子は、干渉縞が形成されており、設定再生光(干渉縞に対応する波長の光)を照射することで所望の回折光を得るものである。従って、設定再生光の波長から外れた光がホログラフィック光学素子に照射されると、迷光(不必要な光の反射や散乱)が生じて、ヘッドアップディスプレイの虚像の表示品位が低下する。
【0005】
本開示は、ヘッドアップディスプレイの虚像の表示品位の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の構成のヘッドアップディスプレイによって、上記目的を達成する。
本開示のヘッドアップディスプレイは、
レーザ光を出射する光源部と、
前記レーザ光の光軸に対して第1角度で傾斜する様態で配置され前記レーザ光で照明されるスクリーンと、
前記光源部と前記スクリーンの間の前記レーザ光の光路上に配置される光学部と、
を備え、前記スクリーンから出射された表示光をホログラフィック光学素子に投射して虚像を表示するヘッドアップディスプレイであって、
前記光学部は、前記第1角度に対応する非球面係数の非球面レンズを有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ヘッドアップディスプレイの虚像の表示品位の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】異なる傾き角度θで配置された液晶パネルの配光特性の比較図。
【
図4】非球面レンズを適用前(Before)と適用後(After)の画像表示部の配光特性の比較図。
【
図5】「液晶パネルの傾き角度θ」と「非球面レンズの非球面係数」との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して本開示のヘッドアップディスプレイHを以下に説明する。このヘッドアップディスプレイHは、車両のインストルメントパネルに内蔵されており、車両の走行速度や経路案内情報などの各種車両情報を表示する車載計器である。
【0010】
添付図面の説明を補足する。符号Yで図示された方向は、車両の上下方向(鉛直方向)に対応する。符号Zで図示された方向は、車両の前後方向に対応する。
【0011】
図1を参照する。ヘッドアップディスプレイHは、画像表示部1、反射鏡2、ハウジング3、を備える。ヘッドアップディスプレイHは、画像表示部1が出力した表示光PLを車両のウインドシールドWSに設けられたホログラフィック光学素子HOEに投射する。ホログラフィック光学素子HOEは、車両の搭乗者Pに向けて表示光PLを回折した回折光を反射する。これにより、搭乗者PはウインドシールドWSの前方に車両情報を示す虚像Vを視認することができる。
【0012】
画像表示部1は、車両情報を数値や図などによって表した画像を表示し、この画像から表示光PLを出射する表示器である。画像表示部1の詳細構成については、後述する。
【0013】
反射鏡2は、例えば、凹面鏡である。反射鏡2は、画像表示部1が出射する表示光PLを反射して光をハウジング3内で折り返して表示光PLの光路長を長くし、その結果として虚像VをウインドシールドWSの遠方に結像することができる。また、反射鏡2は、ウインドシールドWSの湾曲形状による虚像Vの歪みを相殺する自由曲面形状を有し、ウインドシールドWSの湾曲形状による虚像Vの歪みの影響を抑制する。尚、反射鏡2は、1つの凹面鏡に限らず、平面鏡と凹面鏡の2つの鏡によって光を折り返すようにしてもよい。
【0014】
ハウジング3は、表示光PLを出射する出射口が形成されたケースである。ハウジング3は、画像表示部1、反射鏡2、制御回路基板を収容する。ハウジング3は、例えば、黒色の不透明な樹脂や金属で成形されている。ハウジング3の出射口は、厚さ0.5~2mm(ミリメートル)の透光性防塵カバー31で覆われている。透光性防塵カバー31は、例えば、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などの樹脂製のフィルムである。また、ハウジング3の出射口近傍の内部には、出射口から入射した外光(主に太陽光)ELが直接画像表示部1に直接的に入射することを防ぐ遮光壁32が形成されている。
【0015】
ホログラフィック光学素子HOEは、特定の波長に対応する干渉縞が記録された反射型のホログラフィックフィルムである。ホログラフィック光学素子HOEは、ウインドシールドWSに設けられている。特定の波長とは、青色、赤色、緑色の光の3原色の波長である。以降、青色とは、中心波長が約632nmの光を指す。赤色とは、中心波長が約488nmの光を指す。緑色とは、中心波長が約532nmの光を指す。
【0016】
(画像表示部1の構成)
図2を参照する。画像表示部1は、光源部11と、光学部12と、液晶パネル(スクリーン)13と、を備える。
【0017】
光源部11は、液晶パネル13を照明するバックライトである。光源部11は、レーザ光源111~113と、合成部と、を備える。合成部は、後述する第1合成部114、第2合成部115、第3合成部116から構成される。
【0018】
レーザ光源111は、青色レーザ光Bを出射するレーザダイオードである。レーザ光源111は、第1合成部114に向けて青色レーザ光Bを出射する。
【0019】
レーザ光源112は、赤色レーザ光Rを出射するレーザダイオードである。レーザ光源112は、第2合成部115に向けて赤色レーザ光Rを出射する。
【0020】
レーザ光源113は、緑色レーザ光Gを出射するレーザダイオードである。レーザ光源113は、第3合成部116に向けて緑色レーザ光Gを出射する。
【0021】
第1合成部114は、青色光のみを反射するダイクロイックミラーである。第1合成部114は、レーザ光源111が出射した青色レーザ光Bを第2合成部114に向けて反射する。
【0022】
第2合成部115は、赤色光を反射し青色光を透過するダイクロイックミラーである。第2合成部115は、第1合成部114が反射した青色レーザ光Bを第3合成部116に向けて透過し、レーザ光源112が出射した赤色レーザ光Rを第3合成部に向けて反射する。
【0023】
第3合成部116は、緑色光を反射し、赤色光及び青色光を透過するダイクロイックミラーである。第3合成部116は、第2合成部が透過した青色レーザ光Bと第2合成部が反射した赤色レーザ光Rを透過し、レーザ光源113が出射した緑色レーザ光Gを反射する。
【0024】
光源部11は、以上の構成により、レーザ光源111~113が出射したレーザ光R、G、Bを合成部114~116によって合成したレーザ光である合成光SLを光学部12に向けて出射する。
【0025】
光学部12は、光源部11が出射した合成光SLが液晶パネル13に至る過程で、合成光SLを反射、屈折、収斂、発散する光学部材である。光学部12は、光源部11側に配置された順に述べると、走査ミラー121と、ビームステアリング部122と、フライアイレンズ113と、コンデンサレンズ114と、フィールドレンズ115と、レンチキュラレンズ116と、拡散板117と、から構成される。
【0026】
走査ミラー121は、光源部11が出射した合成光SLをビームステアリング部122に向けて二次元走査するように反射するミラーである。走査ミラー121は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラーや、VCM(Voice Coil Mirror)などの二次元走査ミラーである。
【0027】
ビームステアリング部122は、入射した合成光SLを屈折してフライアイレンズ113に照射するレンズである。ビームステアリング部122は、一対のウェッジプリズムと、これらウェッジプリズムを回転させる回転機構から構成される。ウェッジプリズムを回転させることにより、合成光SLの屈折角を制御する。
【0028】
フライアイレンズ(インテグレータレンズ)123は、複数のレンズをマトリクス状に配列したレンズである。フライアイレンズ123は、構成するレンズの数だけ多重像を生じさせることにより、光源部11の点光源の光を均一な面照明の照度分布に近づける。
【0029】
コンデンサレンズ124及びフィールドレンズ125は、ケーラー照明を構成する対となるレンズである。これらコンデンサレンズ124及びフィールドレンズ125も、フライアイレンズ123と同様に、均一な面照明の照度分布に近づけるためのレンズである。
【0030】
レンチキュラレンズ126は、所定の非球面レンズを有するレンズであり、後述する液晶パネルの傾斜角θによる配光特性の悪影響を抑制する。非球面レンズの詳細は、後述する。
【0031】
拡散板127は、レンチキュラレンズ126を通過した合成光SLの光を分散させ、光のホットスポットが生じることを防ぐ。
【0032】
液晶パネル13は、TFT(Thin Film Transistor)型の液晶パネルである。液晶パネル13は、車両情報を表す図形や数字を画像として表示し、背面から合成光SLで照明されることにより、表示した画像から表示光PLを出射する。
【0033】
液晶パネル13は、光源部11が出射する合成光SLの絞りの中心をとおる主光線に対しY方向に傾いて配置される。この傾き角を第1角度θと定義する。
【0034】
第1角度θは、反射鏡2に反射された外光ELが液晶パネル13で反射した後にハウジング3の遮光壁の裏面に向かうように設定されている。これにより、反射鏡2に反射された外光ELが液晶パネル13で反射した後に、再び反射鏡2に反射されてハウジング3の出射口から出射されることを防ぐ。液晶パネル13が傾斜配置されていない(第1角度θが0°)場合、反射鏡2に反射された外光ELが液晶パネル13で反射した後に、再び反射鏡2に反射されてハウジング3の出射口から出射されて迷光となる。この迷光は、表示光PLと共にホログラフィック光学素子HOEに照射されるため、虚像Vの表示品位の低下を招く。
【0035】
上述したように、液晶パネル13は、外光ELを起因とする迷光を防ぐために傾斜配置されている。
【0036】
第1角度θ=0°の例示Aと、第1角度θ=30°の例示Bの配光特性を比較したものを
図3に示す。
図3において、縦軸は光源部11が出射した合成光SLの強度を100%としたときの液晶パネル13が出射する表示光PLの強度比を示し、横軸は散乱角を示すものである。
【0037】
図3に示すように、本開示の発明者は、第1角度θが大きいほど液晶パネル13が出射する表示光PLの強度の低下と散乱角の増加が生じることを発見した。特に、本開示の発明者は、散乱角が増加すると、ホログラフィック光学素子HOEに形成された干渉縞に対応する波長の光から外れた光を表示光PLが多く含むようになるため、ホログラフィック光学素子HOEから出射する回折光に迷光(不必要な光の反射や散乱)が生じて、ヘッドアップディスプレイの虚像の表示品位が低下するという課題を発見した。
【0038】
上述した液晶パネル13の傾斜配置に起因する迷光を抑制するために、液晶パネル13の第1角度θに基づいて、レンチキュラレンズ126の非球面レンズの非球面係数を設定した。尚、この非球面レンズの非球面係数は、液晶パネル13の傾き方向と直交する方向におけるレンズのレンズ形状に関するものである。この非球面レンズは、出射面が液晶パネル13の傾斜と逆方向になるように面全体を非対称になる様態となる。
【0039】
上述した非球面レンズにより、
図4に示すように、非球面レンズを適用する前の構成(Before)に対し、液晶パネル13の第1角度θに基づいてレンチキュラレンズ126の非球面レンズの非球面係数を設定した構成(After)の配光特性は改善した。具体的には、光源部11が出射した合成光SLの強度を100%としたときの液晶パネル13が出射する表示光PLの強度比(Relative Power)が上昇した。また、液晶パネル13が出射する表示光PLの散乱角が小さくなった。
【0040】
レンチキュラレンズ126の非球面レンズの非球面係数は、液晶パネル13の第1角度θに応じて
図5に示すような非球面係数とすることで、液晶パネル13の傾斜配置に起因する迷光を抑制できる。
【0041】
図5のAC(3th)に示すように、三次非球面とする場合は、第1角度θに反比例して三次非球面係数が小さくなるように設定することで配光特性が改善できる。つまり、奇数次の非球面係数を第1角度θに反比例して小さく設定することが好ましい。
【0042】
図5のAC(4th)に示すように、四次非球面とする場合は、第1角度θに比例して四次非球面係数が大きくなるように設定することで配光特性が改善できる。つまり、偶数次の非球面係数を第1角度θに比例して大きく設定することが好ましい。
【0043】
レンチキュラレンズ126の非球面レンズの非球面係数は、光源部11が出射した合成光SLの強度を100%としたときの液晶パネル13が出射する表示光PLの強度比が、散乱角が±3degの範囲内であるときに80%以上、散乱角が±4.5degの範囲外であるときに40%未満であることが好ましい。このような条件を満たす非球面係数とすることで、液晶パネル13の傾斜配置に起因する迷光を抑制できる。
【0044】
以上が、本開示のヘッドアップディスプレイHの実施形態の説明である。本開示のヘッドアップディスプレイHは上述した形態に限定されず、以下の変形をしてもよい。
【0045】
本実施形態では、レンチキュラレンズ126が第1角度θに基づく非球面レンズを有した構成であるが、これに限定されない。例えば、フライアイレンズ123などのレンズがこのような非球面レンズを有する構成としてもよい。好ましくは、光学部12のレンズ群のうち、本実施形態のように液晶パネル13の背面に最も近いレンズに適用することが好ましい。
【0046】
また、レンチキュラレンズ126は、液晶パネル13と同様に、光源部11が出射する合成光SLの絞りの中心をとおる主光線に対しY方向に第1角度θ傾いて配置されていてもよい。つまり、液晶パネル13と略平行に配置されていてもよい。この場合、レンチキュラレンズ126の第1角度θに基づく非球面レンズの設計において、液晶パネル13を均一に照明しやすくなる。
【符号の説明】
【0047】
H …ヘッドアップディスプレイ
1 …画像表示部
11 …光源部
12 …光学部
121 …走査ミラー
122 …ビームステアリング部
123 …フライアイレンズ
124 …コンデンサレンズ
125 …フィールドレンズ
126 …非球面レンズを有するレンチキュラレンズ
127 …拡散板
13 …液晶パネル(スクリーン)
2 …反射鏡
3 …ハウジング
31 …透光性防塵カバー
32 …遮光壁
WS …ウインドシールド
HOE…ホログラフィック光学素子
P …搭乗者
PL …表示光
SL …合成光(合成したレーザ光)
V …虚像