(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188807
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】アイソレータ及びその除染方法
(51)【国際特許分類】
F24F 7/06 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
F24F7/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097023
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】阿部 公揮
(72)【発明者】
【氏名】柿本 隆志
(72)【発明者】
【氏名】栗原 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 勲
【テーマコード(参考)】
3L058
【Fターム(参考)】
3L058BF03
(57)【要約】
【課題】クリーンルーム室内に除染剤及びその分解物を放出することがないアイソレータ及びその除染方法を提供する。
【解決手段】対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体11と、対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して作業空間に供給する吸気装置15と、作業空間を除染するための除染剤を作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置12と、作業空間内で循環させた除染剤を作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置13と、作業空間内の除染剤及び除染剤の分解物の濃度を測定するセンサ17と、作業空間内の空気中の除染剤及び除染剤の分解物を捕集する捕集装置16と、捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置14と、制御装置20と、を備える、アイソレータ1。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体と、
対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して前記作業空間に供給する吸気装置と、
前記作業空間を除染するための除染剤を前記作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置と、
前記作業空間内で循環させた除染剤を前記作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定するセンサと、
前記作業空間内の空気中の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置と、
前記吸気装置、前記除染装置、前記分解装置、前記センサ、前記捕集装置及び前記排気装置を制御するための制御装置と、
を備え、
前記作業空間で対象物を取り扱った後に、前記除染装置を作動させ、前記作業空間内の空気を除染剤とともに循環させて前記作業空間内を除染し、
前記作業空間内を除染した後に、前記分解装置を作動させ、前記作業空間内の除染剤を含む空気を循環させながら前記作業空間内の空気中の前記除染剤を分解し、
前記除染剤を分解した後に、前記センサを作動させ、前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定しながら、前記捕集装置を作動させ、前記センサで測定される前記濃度が基準値以下となるまで前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記分解物を捕集し
その後、前記排気装置で前記作業空間内の空気を外部に排気するとともに、前記吸気装置で外部から前記作業空間内に空気を吸気して、前記作業空間内の空気を置換する、
アイソレータ。
【請求項2】
対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体と、
対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して前記作業空間に供給する吸気装置と、
前記作業空間を除染するための除染剤を前記作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置と、
前記作業空間内で循環させた除染剤を前記作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を光触媒で分解する光触媒分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定するセンサと、
前記作業空間内の空気中の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置と、
前記吸気装置、前記除染装置、前記分解装置、前記光触媒分解装置、前記センサ、前記捕集装置及び前記排気装置を制御するための制御装置と、
を備え、
前記作業空間で対象物を取り扱った後に、前記除染装置を作動させ、前記作業空間内の空気を除染剤とともに循環させて前記作業空間内を除染し、
前記作業空間内を除染した後に、前記分解装置を作動させ、前記作業空間内の除染剤を含む空気を循環させながら前記作業空間内の空気中の前記除染剤を分解し、
前記除染剤を分解した後に、前記光触媒分解装置及び前記センサを作動させ、前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記除染剤の分解物を光触媒で分解して濃度を測定しながら、前記捕集装置を作動させ、前記センサで測定される前記濃度が基準値以下となるまで前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記分解物を捕集し、
その後、前記排気装置で前記作業空間内の空気を外部に排気するとともに、前記吸気装置で外部から前記作業空間内に空気を吸気して、前記作業空間内の空気を置換する、
アイソレータ。
【請求項3】
クリーンルーム内に設置される、請求項1又は2に記載のアイソレータ。
【請求項4】
対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体と、
対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して前記作業空間に供給する吸気装置と、
前記作業空間を除染するための除染剤を前記作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置と、
前記作業空間内で循環させた除染剤を前記作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定するセンサと、
前記作業空間内の空気中の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置と、
前記吸気装置、前記除染装置、前記分解装置、前記センサ、前記捕集装置及び前記排気装置を制御するための制御装置と、
を備えるアイソレータの除染方法であって、
前記作業空間で対象物を取り扱った後に、前記除染装置を作動させ、前記作業空間内の空気を除染剤とともに循環させて前記作業空間内を除染する除染工程と、
前記作業空間内を除染した後に、前記分解装置を作動させ、前記作業空間内の除染剤を含む空気を循環させながら前記作業空間内の空気中の前記除染剤を分解する分解工程と、
前記除染剤を分解した後に、前記センサを作動させ、前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定しながら、前記捕集装置を作動させ、前記センサで測定される前記濃度が基準値以下となるまで前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記分解物を捕集する捕集工程と、
その後、前記排気装置で前記作業空間内の空気を外部に排気するとともに、前記吸気装置で外部から前記作業空間内に空気を吸気して、前記作業空間内の空気を置換する、置換工程と、
を含む、アイソレータの除染方法。
【請求項5】
対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体と、
対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して前記作業空間に供給する吸気装置と、
前記作業空間を除染するための除染剤を前記作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置と、
前記作業空間内で循環させた除染剤を前記作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を光触媒で分解する光触媒分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定するセンサと、
前記作業空間内の空気中の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置と、
前記吸気装置、前記除染装置、前記分解装置、前記光触媒分解装置、前記センサ、前記捕集装置及び前記排気装置を制御するための制御装置と、
を備えるアイソレータの除染方法であって、
前記作業空間で対象物を取り扱った後に、前記除染装置を作動させ、前記作業空間内の空気を除染剤とともに循環させて前記作業空間内を除染する除染工程と、
前記作業空間内を除染した後に、前記分解装置を作動させ、前記作業空間内の除染剤を含む空気を循環させながら前記作業空間内の空気中の前記除染剤を分解する分解工程と、
前記除染剤を分解した後に、前記光触媒分解装置及び前記センサを作動させ、前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記除染剤の分解物を光触媒で分解して濃度を測定しながら、前記捕集装置を作動させ、前記センサで測定される前記濃度が基準値以下となるまで前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記分解物を捕集する、光触媒分解・捕集工程と、
その後、前記排気装置で前記作業空間内の空気を外部に排気するとともに、前記吸気装置で外部から前記作業空間内に空気を吸気して、前記作業空間内の空気を置換する、置換工程と、
を含む、アイソレータの除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータ及びその除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療における細胞培養において、培地交換等の作業は、ISO 14644-1:2015の清浄度クラス5相当のグレードA(EU-GMP 無菌医薬品製造区域の空気清浄度(2008年))の環境で実施される(非特許文献1)。このグレードAは、安全キャビネットやアイソレータにより微粒子や微生物が一定数以下に保たれた環境である。安全キャビネットは装置全面から作業エリアに直接手を入れて作業する開放系であり、アイソレータは、作業者が装置に据え付けられたグローブを介して作業する閉鎖系である。
【0003】
従来のアイソレータ(
図1)では、通常使用時には、クリーンルーム2内の空気を吸気装置15で吸気INし、作業空間10内の空気を排気装置14排気OUTする。作業終了後には、作業空間10及びアイソレータ本体11の内面を除染するため、排気装置14及び吸気装置15を停止し、除染装置12から作業空間10に除染剤を発生させ、除染装置12と作業空間10との間で除染剤を含む空気を循環させる(
図2)。除染後には、排気装置14及び吸気装置15を停止したまま、分解装置13を稼働させて、分解装置13と作業空間10との間で空気を循環させ、除染剤を分解する(
図3)。通常、分解装置13は、作業空間10の除染剤濃度が基準値を下回る時間(予め設定した時間)稼働させる。除染剤分解後、吸気装置15及び排気装置14を作動させて、クリーンルーム2内の空気を作業空間10に導入するとともに、作業空間10内の空気をクリーンルーム2に排出する。分解装置13で完全に分解しきれなかった除染剤及び除染剤の分解物が除染作業終了後に室内に放出されるため、アイソレータ1の除染作業終了後も、クリーンルーム2内に除染時に用いた除染剤及びその分解物が基準値(許容値)を超えて残留していることがある。通常、クリーンルーム2内の除染剤及びその分解物が基準値を下回るだけの十分な時間をおいて使用を開始する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】柿本隆志,阿部公揮,冨田賢吾,田中勲,栗原隆、「細胞培養環境に存在する残留化学薬剤の除去」、清水建設研究報告、2020年12月、第98号、p.143-150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のアイソレータ及びその除染方法には、次のような問題がある。
アイソレータ内の除染後に除染剤を分解装置で分解した後に、分解しきれなかった除染剤及び除染剤の分解物が作業空間内の空気中に存在する。また、除染作業終了後は、その作業空間内の空気がクリーンルーム室内に放出されるため、クリーンルーム室内も汚染される。
除染剤及びその分解物が作業者や細胞に影響を及ぼすことが懸念される場合は、クリーンルーム室内の換気により除染剤及びその分解物の濃度が基準値を下回るまで次の作業を開始することができないため、アイソレータ及びクリーンルームの稼働率を上げることが難しい。
【0006】
本発明は、クリーンルーム室内に除染剤及びその分解物を放出することがないアイソレータ及びその除染方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体と、
対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して前記作業空間に供給する吸気装置と、
前記作業空間を除染するための除染剤を前記作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置と、
前記作業空間内で循環させた除染剤を前記作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定するセンサと、
前記作業空間内の空気中の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置と、
前記吸気装置、前記除染装置、前記分解装置、前記センサ、前記捕集装置及び前記排気装置を制御するための制御装置と、
を備え、
前記作業空間で対象物を取り扱った後に、前記除染装置を作動させ、前記作業空間内の空気を除染剤とともに循環させて前記作業空間内を除染し、
前記作業空間内を除染した後に、前記分解装置を作動させ、前記作業空間内の除染剤を含む空気を循環させながら前記作業空間内の空気中の前記除染剤を分解し、
前記除染剤を分解した後に、前記センサを作動させ、前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定しながら、前記捕集装置を作動させ、前記センサで測定される前記濃度が基準値以下となるまで前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記分解物を捕集し
その後、前記排気装置で前記作業空間内の空気を外部に排気するとともに、前記吸気装置で外部から前記作業空間内に空気を吸気して、前記作業空間内の空気を置換する、
アイソレータ。
[2] 対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体と、
対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して前記作業空間に供給する吸気装置と、
前記作業空間を除染するための除染剤を前記作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置と、
前記作業空間内で循環させた除染剤を前記作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を光触媒で分解する光触媒分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定するセンサと、
前記作業空間内の空気中の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置と、
前記吸気装置、前記除染装置、前記分解装置、前記光触媒分解装置、前記センサ、前記捕集装置及び前記排気装置を制御するための制御装置と、
を備え、
前記作業空間で対象物を取り扱った後に、前記除染装置を作動させ、前記作業空間内の空気を除染剤とともに循環させて前記作業空間内を除染し、
前記作業空間内を除染した後に、前記分解装置を作動させ、前記作業空間内の除染剤を含む空気を循環させながら前記作業空間内の空気中の前記除染剤を分解し、
前記除染剤を分解した後に、前記光触媒分解装置及び前記センサを作動させ、前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記除染剤の分解物を光触媒で分解して濃度を測定しながら、前記捕集装置を作動させ、前記センサで測定される前記濃度が基準値以下となるまで前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記分解物を捕集し、
その後、前記排気装置で前記作業空間内の空気を外部に排気するとともに、前記吸気装置で外部から前記作業空間内に空気を吸気して、前記作業空間内の空気を置換する、
アイソレータ。
[3] クリーンルーム内に設置される、[1]又は[2]に記載のアイソレータ。
[4] 対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体と、
対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して前記作業空間に供給する吸気装置と、
前記作業空間を除染するための除染剤を前記作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置と、
前記作業空間内で循環させた除染剤を前記作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定するセンサと、
前記作業空間内の空気中の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置と、
前記吸気装置、前記除染装置、前記分解装置、前記センサ、前記捕集装置及び前記排気装置を制御するための制御装置と、
を備えるアイソレータの除染方法であって、
前記作業空間で対象物を取り扱った後に、前記除染装置を作動させ、前記作業空間内の空気を除染剤とともに循環させて前記作業空間内を除染する除染工程と、
前記作業空間内を除染した後に、前記分解装置を作動させ、前記作業空間内の除染剤を含む空気を循環させながら前記作業空間内の空気中の前記除染剤を分解する分解工程と、
前記除染剤を分解した後に、前記センサを作動させ、前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定しながら、前記捕集装置を作動させ、前記センサで測定される前記濃度が基準値以下となるまで前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記分解物を捕集する捕集工程と、
その後、前記排気装置で前記作業空間内の空気を外部に排気するとともに、前記吸気装置で外部から前記作業空間内に空気を吸気して、前記作業空間内の空気を置換する、置換工程と、
を含む、アイソレータの除染方法。
[5] 対象物を取り扱う作業空間を内部に有するアイソレータ本体と、
対象物に悪影響を及ぼすガス状の悪影響物質を除去し清浄空気を生成して前記作業空間に供給する吸気装置と、
前記作業空間を除染するための除染剤を前記作業空間内の空気とともに循環させるための除染装置と、
前記作業空間内で循環させた除染剤を前記作業空間内の空気を循環させながら分解するための分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を光触媒で分解する光触媒分解装置と、
前記作業空間内の前記除染剤及び前記除染剤の分解物の濃度を測定するセンサと、
前記作業空間内の空気中の前記除染剤及び前記除染剤の分解物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置を通過した空気を外部に排出する排気装置と、
前記吸気装置、前記除染装置、前記分解装置、前記光触媒分解装置、前記センサ、前記捕集装置及び前記排気装置を制御するための制御装置と、
を備えるアイソレータの除染方法であって、
前記作業空間で対象物を取り扱った後に、前記除染装置を作動させ、前記作業空間内の空気を除染剤とともに循環させて前記作業空間内を除染する除染工程と、
前記作業空間内を除染した後に、前記分解装置を作動させ、前記作業空間内の除染剤を含む空気を循環させながら前記作業空間内の空気中の前記除染剤を分解する分解工程と、
前記除染剤を分解した後に、前記光触媒分解装置及び前記センサを作動させ、前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記除染剤の分解物を光触媒で分解して濃度を測定しながら、前記捕集装置を作動させ、前記センサで測定される前記濃度が基準値以下となるまで前記作業空間内の空気中に残留する前記除染剤及び前記分解物を捕集する、光触媒分解・捕集工程と、
その後、前記排気装置で前記作業空間内の空気を外部に排気するとともに、前記吸気装置で外部から前記作業空間内に空気を吸気して、前記作業空間内の空気を置換する、置換工程と、
を含む、アイソレータの除染方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クリーンルーム室内に除染剤及びその分解物を放出することがないアイソレータ及びその除染方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、従来のアイソレータの一例を示す概要図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すアイソレータの除染中の状態を示す概要図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すアイソレータの除染剤分解中の状態を示す概要図である。
【
図4】
図4は、本発明の第一の実施形態に係るアイソレータの一例を示す概要図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すアイソレータの除染中の状態を示す概要図である。
【
図6】
図6は、
図4に示すアイソレータの除染剤分解中の状態を示す概要図である。
【
図7】
図7は、
図4に示すアイソレータの残留除染剤捕集中の状態を示す概要図である。
【
図8】
図8は、
図4に示すアイソレータの残留除染剤捕集後の作業空間換気中の状態を示す概要図である。
【
図9】
図9は、本発明の第二の実施形態に係るアイソレータの一例を示す概要図である。
【
図11】
図11は、
図9に示すアイソレータの除染剤分解中の状態を示す概要図である。
【
図12】
図12は、
図9に示すアイソレータの残留除染剤捕集中の状態を示す概要図である。
【
図13】
図13は、
図9に示すアイソレータの残留除染剤捕集後の作業空間換気中の状態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明のアイソレータ及びその除染方法の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0011】
[第一の実施形態]
図4~8に本発明の第一の実施形態に係るアイソレータの概要図を示す。
図4に示すアイソレータ1は、アイソレータ本体11と、除染装置12と、分解装置13と、吸気装置15と、センサ17と、捕集装置16と、排気装置14と、制御装置20と、を備えている。
アイソレータ本体11は、対象物を取り扱う作業空間10を内部に有する。
前記対象物は、培養細胞、微生物、ウイルス、化粧品、食品など、通常、無菌操作が必要とされる物である。
【0012】
作業空間10はアイソレータ1の外部とは隔離された空間であり、対象物の取扱い中は、ISO 14644-1:2015の清浄度クラス5相当のグレードA(EU-GMP 無菌医薬品製造区域の空気清浄度(2008年))の清浄度が維持される。作業空間内での作業中は、通常、吸気装置15及び排気装置14を作動させて、アイソレータ1外部から作業空間10内部に空気を吸入し、作業空間10内部の空気をアイソレータ1外部に排出する。
【0013】
アイソレータ本体11の内壁は、作業空間10内部を汚染せず、除染剤に対する耐性が高い材料で構成される。このような材料としては、ステンレス鋼が一般的である。
アイソレータ本体11には、除染装置12、分解装置13、吸気装置15、センサ17、捕集装置16、排気装置14、及び制御装置20を取り付けるベースとしての機能も有している。
【0014】
吸気装置15は、アイソレータ1外部から作業空間10内に空気を吸入するための装置であり、HEPA(High Efficiency Particulate Airfilter)フィルター等の粒子補足フィルターによって吸入する空気中の微粒子を除去し、ケミカルフィルタによって吸入する空気中の化学物質を除去する。
排気装置14は、作業空間10内からアイソレータ1外部に空気を排出するための装置である。
【0015】
なお、培養細胞、微生物などの無菌操作には、クリーンベンチが使用される場合があるが、クリーンベンチは作業空間が外部の空間とは隔離されておらず、対象物の取扱い中の無菌状態は作業空間内部からクリーンベンチ外部への気流によって外部からの侵入を防ぐことによって維持される。なお、クリーンベンチに供給される空気はHEPAフィルター等の粒子フィルターを通過させた清浄な空気が用いられる。
【0016】
(除染工程)
除染装置12は、作業空間10内での対象物の取扱い終了後に、作業空間10内の空気及びアイソレータ本体11の内壁を除染するための除染剤を、作業空間10内の空気と混合して、作業空間10と除染装置12とを循環させる装置である。
除染装置12は、除染剤を空気と混合させて作業空間10内に行き渡らせることにより、作業空間10内の空気とアイソレータ本体11の内壁の除染を行う(除染工程、
図5)。
【0017】
除染装置12の作動及び停止は、制御装置20によって制御される。
除染工程の開始は、作業空間10内での対象物の取扱い終了後、任意のタイミングで行われるが、例えば、作業を終えた作業者が除染工程の開始を制御装置20に指示することで行われる。
除染工程の終了は、作業空間10内の空気及びアイソレータ本体11の内壁の除染が完了したタイミングで行われるが、例えば、制御装置20に内蔵されたタイマーによって行われる。
【0018】
除染剤は、特に限定されないが、例えば、過酢酸、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、イソプロパノール、エタノール等のアルコール、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩等の界面活性剤、クロルヘキシジングルコン酸等のビグアナイド類が挙げられる。これらの中では、除染効果が高く、揮発性が高いこと、さらには人体に対する毒性が高過ぎないことから、過酢酸、過酸化水素が好ましい。
【0019】
(分解工程)
分解装置13は、除染装置12で除染工程を行った後の作業空間10内の空気を作業空間10と分解装置13との間で循環させながら、循環空気中に残留する除染剤及び除染剤の分解物を分解する装置である。分解装置13内には触媒が設置され、循環空気中に残留する除染剤及び除染剤の分解物と触媒とを接触させることでこれらの化合物の分解が行われる(分解工程、
図6)。
【0020】
分解装置13の作動及び停止は、制御装置20によって制御される。
分解工程の開始は、除染工程の終了後、任意のタイミングで行われるが、例えば、除染工程の終了後ただちに開始される。
分解工程の終了は、作業空間10内の空気中に残留する除染剤の分解が完了したタイミングで行われるが、例えば、制御装置20に内蔵されたタイマーによって行われる。
【0021】
触媒は、除染剤の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、除染剤が過酸化水素である場合は、二酸化マンガン等が用いられ、除染剤が過酢酸である場合は、活性炭等が用いられる。
なお、除染剤の分解により、除染剤の分解物が発生するが、当該分解物は人体、対象物にとって有害事象を引き起こす場合があるため、アイソレータ1の外部に放出しないようにする。
【0022】
(捕集工程)
センサ17は、作業空間10内の空気中に含まれる除染剤及び除染剤の分解物の濃度を測定する装置である。
捕集装置16は、作業空間10内の空気中に含まれる除染剤及び除染剤の分解物を捕集する装置である。除染剤及び除染剤の分解物の捕集は、通常、これらの化合物をケミカルフィルタやカートリッジに充填した吸着剤に吸着することにより行われる。
分解工程で除染剤を分解した後に、センサ17を作動させ、作業空間10内の空気中に残留する除染剤及び除染剤の分解物の濃度を測定しながら、捕集装置16を作動させ、捕集装置16と作業空間10の間で作業空間10内の空気を循環させつつ、センサ17で測定される濃度が基準値以下となるまで作業空間10内の空気中に残留する除染剤及び除染剤の分解物を捕集する(捕集工程、
図7)。
【0023】
センサ17、捕集装置16の作動及び停止は制御装置20によって制御される。
捕集装置16の作動及び停止は、センサ17の測定値に基づいて、制御装置20が制御する。センサ17の測定値が基準値(許容値)を超えていれば捕集装置16の作動を継続し、基準値(許容値)以下であれば捕集装置16を停止して、後述する置換工程を行う。
【0024】
(置換工程)
排気装置14は、捕集装置16で除染剤及び除染剤の分解物を捕集して除去した後の空気をアイソレータ1の外部に排出する装置である。
捕集工程でセンサ17の測定値が基準値(許容値)以下であれば捕集装置16を停止して、排気装置14で作業空間10内の空気を外部に排気するとともに、吸気装置15で外部から作業空間10内に空気を吸入して、作業空間10内の空気を置換する(置換工程、
図8)。
【0025】
(設置場所)
本実施形態のアイソレータは、クリーンルーム内に設置されることが好ましい。比較的クリーンな環境に設置することで、吸気装置15のフィルターの負担が減り、フィルターの交換頻度を下げることができ、コスト削減にもつながる。
【0026】
[第二の実施形態]
図9~13に本発明の第二の実施形態に係るアイソレータの概要図を示す。
図9に示すアイソレータ1は、アイソレータ本体11と、除染装置12と、分解装置13と、吸気装置15と、光触媒分解装置18と、センサ17と、捕集装置16と、排気装置14と、制御装置20と、を備えている。
第一の実施形態に係るアイソレータとは、センサ17の前段に光触媒分解装置18が配置され、センサ17の測定する対象が、第一の実施形態における作業空間10内の空気中の除染剤及びその分解物の濃度であるのに対し、第二の実施形態では光触媒分解装置18で作業空間10内の空気中の除染剤及びその分解物を光触媒分解した後の除染剤及びその分解物の濃度である点が相違する。
第二の実施形態に係るアイソレータでは、捕集装置16に導入される前の空気中の除染剤及びその分解物が光触媒分解されているので、捕集装置16の負担が少なく、長寿命化できる。
【0027】
第一の実施形態と同様に、除染工程(
図109)、分解工程(
図11)を行った後、捕集工程に代えて光触媒分解・捕集工程(
図12)を行い、その後、置換工程を行う。以下では、第一の実施形態と異なる、光触媒分解・捕集工程について説明する。
【0028】
(光触媒分解・捕集工程)
光触媒分解装置18は、作業空間10内の除染剤及び除染剤の分解物を光触媒で分解する装置である。
本実施形態では、光触媒分解装置18はセンサ17の前段に設置され、センサ17に導入される前の空気中に含まれる除染剤及び除染剤の分解物を光触媒で分解する。
光触媒は、特に限定されないが、例えば、酸化チタン(TiO2)が用いられる。酸化チタンの作用は、まず酸化チタンに光が当たって電子が励起(エネルギーの高い状態)され、この電子が他の分子に結合してこれを還元、電子が励起された跡の正電荷を持った「穴」(正孔)が分子から電子を奪って酸化する過程である。空気中でこの反応を行うと、酸素が電子と、水分子が正孔と反応するといずれも活性酸素を生じ、これは有機物や二酸化炭素にまでも分解する作用を持つ。
【0029】
分解工程で除染剤を分解した後に、光触媒分解装置18、センサ17を作動させ、光触媒分解装置18で作業空間10内の空気中に残留する除染剤及び除染剤の分解物を光触媒分解するとともに、センサ17でこれらの濃度を測定しながら、捕集装置16を作動させ、捕集装置16と作業空間10の間で作業空間10内の空気を循環させつつ、センサ17で測定される濃度が基準値以下となるまで作業空間10内の空気中に残留する除染剤及び除染剤の分解物を捕集する(光触媒分解・捕集工程、
図12)。
【0030】
センサ17、光触媒分解装置18、捕集装置16の作動及び停止は制御装置20によって制御される。
光触媒分解装置18、捕集装置16の作動及び停止は、センサ17の測定値に基づいて、制御装置20が制御する。センサ17の測定値が基準値(許容値)を超えていれば光触媒分解装置18、捕集装置16の作動を継続し、基準値(許容値)以下であれば光触媒分解装置18、捕集装置16を停止して、置換工程(
図13)を行う。
【0031】
(設置場所)
本実施形態のアイソレータは、クリーンルーム内に設置されることが好ましい。比較的クリーンな環境に設置することで、吸気装置15のフィルターの負担が減り、フィルターの交換頻度を下げることができ、コスト削減にもつながる。
【0032】
[作用効果]
本発明のアイソレータ及びアイソレータの除染方法では、除染剤及び除染剤の分解物がアイソレータの外部に放出されないため、アイソレータ及びクリーンルームの稼働率を上げることができる。
【符号の説明】
【0033】
1…アイソレータ、2…クリーンルーム、10…作業空間、11…アイソレータ本体、12…除染装置、13…分解装置、14…排気装置、15…吸気装置、16…捕集装置、17…センサ、18…光触媒分解装置、20…制御装置、OUT…排気、IN…吸気