(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188809
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】銅合金粉末、および、積層造形物
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20221215BHJP
C22C 9/05 20060101ALI20221215BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20221215BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20221215BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20221215BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20221215BHJP
C22F 1/16 20060101ALI20221215BHJP
C22C 30/04 20060101ALI20221215BHJP
C22C 30/06 20060101ALI20221215BHJP
B22F 10/20 20210101ALN20221215BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
B22F1/00 L
C22C9/05
C22C9/06
C22C9/02
C22C30/02
C22F1/08 N
C22F1/08 P
C22F1/08 J
C22F1/16 Z
C22C30/04
C22C30/06
B22F10/20
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 640A
C22F1/00 687
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097026
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 純
(72)【発明者】
【氏名】岡田 恒輝
(72)【発明者】
【氏名】和田 正弘
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018BA02
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
(57)【要約】
【課題】耐酸化性に優れ、特に金属AMに好適な積層造形物を製造可能な銅合金粉末を提供する。
【解決手段】Mnを3質量%以上50質量%以下の範囲で含有する銅合金からなることを特徴とする。銅合金粉末におけるCuの含有量が45質量%以上であることが好ましい。Sn,In,Niから選択される一種又は二種以上の合計含有量が1質量%以上40質量%以下の範囲内であってもよい。Si,Al,Tiから選択される一種又は二種以上の合計含有量が0.5質量%以上10質量%以下の範囲内であってもよい。Zn,Pから選択される一種又は二種の合計含有量が10質量%以下であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnを3質量%以上50質量%以下の範囲で含有する銅合金からなることを特徴とする銅合金粉末。
【請求項2】
前記銅合金粉末におけるCuの含有量が45質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅合金粉末。
【請求項3】
Sn,In,Niから選択される一種又は二種以上の合計含有量が1質量%以上40質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅合金粉末。
【請求項4】
Si,Al,Tiから選択される一種又は二種以上の合計含有量が0.5質量%以上10質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項5】
Zn,Pから選択される一種又は二種の合計含有量が10質量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項6】
粉末表面のXPS分析におけるCuとOのピークから求めたそれぞれの元素の存在比率Cu/Oが0.10以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項7】
粉末表面のXPS分析におけるCuのピークのうち、CuとCu2Oの合計(Cu+Cu2O)とCuOの比率(Cu+Cu2O)/CuOが1以上であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項8】
粉末表面のXPS分析におけるCuのピークのうちCuOの比率が40%以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項9】
表面に形成された表面酸化生成物皮膜の厚みが3μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項10】
体積平均粒径が10μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項11】
粉末ゆるみかさ密度Daと粉末真密度Dtとの比Da/Dtが0.4以上であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項12】
積層造形用であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項13】
抗菌性を有することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の銅合金粉末。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の銅合金粉末を用いて形成されたことを特徴とする積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金粉末、および、この銅合金粉末を用いた積層造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銅及び銅合金の抗菌作用に注目が集まっているなかで、様々な立体形状を有する製品の造形や、既存部品へのコーティングを容易にするために、抗菌作用を有する銅及び銅合金の金属AM(Additive Manufactuaring)への適用が期待されている。この金属AMのうち、レーザーを用いたSLM(セレクティブレーザーメルティング)法が広く用いられている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1に開示されているような、クロムと珪素のいずれかを有する銅合金粉末、特許文献2に開示されているような、CrとZrを有する銅合金粉末を用いて、金属AMによる積層造形物を作成する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-211062号公報
【特許文献2】特開2019-070169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の技術による積層造形物には、銅の耐酸化性を向上させる元素は含まれていない。このため、例えば抗菌作用が求められるドアノブとして利用した場合には、積層造形時の酸化反応、大気との反応や使用者の皮脂や水分との接触により、ドアノブが容易に変色するという問題を抱えている。
【0006】
さらに、酸化しやすい銅合金粉末においては、大気との反応等により粉末自体の変色(酸化皮膜形成)が起きてしまうことが懸念される。その際、レーザー溶融式の積層造形を行う場合に、酸化皮膜の有無や形態、厚さによりレーザーの吸収性が粉末間で変動してしまい、溶融挙動が安定せず、安定した品質の造形物を得られないという問題があった。
また、粉末床溶融結合方式(PBF)においては、銅合金粉末の耐酸化性が低い場合、未溶融の銅合金粉末も溶融部からの伝熱によって大気と反応して酸化してしまうという問題があり、未溶融粉末のリサイクル性を低下させる一因となっている。
【0007】
そのため、銅合金粉末においては、耐酸化性に優れている、つまり、表面酸化生成物皮膜の状態が安定していることが、レーザー溶融式の積層造形を行う上ではレーザーによる溶融挙動を安定化できるという観点、および、粉末のリサイクル性を向上させるという観点で求められている。
【0008】
本発明は前記の問題に鑑み創案されたものであり、耐酸化性に優れ、特に金属AMに好適な積層造形物を製造可能な銅合金粉末、および、この銅合金粉末によって形成された積層造形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の銅合金粉末は、Mnを3質量%以上50質量%以下含有する銅合金からなることを特徴としている。
【0010】
本発明の銅合金粉末によれば、適切な量のMnを含有することで、耐酸化性に優れた銅合金粉末を提供できる。また、容易に変色しないことにより、積層造形物を形成する場合のレーザーの照射時におけるレーザー吸収性の変動を引き起こしにくい。このため、レーザーの照射に伴い、安定した状態で発熱を得ることができ、溶融挙動の安定した状態で積層造形物を製造可能とする。つまり、Mnを上述の範囲含む銅合金粉末は、レーザー吸収率の変化率が少なく、積層造形などの用途に望ましい。
また、積層造形物が使用者の手に触れるもの、使用者の目視可能なものである場合、表面にCuの酸化反応に起因して生成される変色相が存在すると意匠性が著しく低下し、酸化の程度によっては手触り性も低下するので、Mnを上述の範囲で含有することが望ましい。
【0011】
ここで、本発明の銅合金粉末においては、前記Cuを45質量%以上含有することが好ましい。
この場合、Cuを45質量%以上含有することで、抗菌性に優れた銅合金粉末を提供できる。また、積層造形物とした場合に積層造形物の表面に充分な量のCuを含む相を露出することが可能となり、Cuが本来有する抗菌作用により抗菌性に優れた積層造形物を提供できる。
【0012】
また、本発明の銅合金粉末においては、Sn,In,Niから選択される一種又は二種以上の合計含有量が1質量%以上40質量%以下の範囲内であってもよい。
Sn,In,Niの元素は、酸化性が低く、かつ、Cuに対し比較的固溶範囲が広いため、Cuの置き換えとして比較的多くの量を含有させることができ、銅合金粉末の耐酸化性が確保され、レーザー吸収率の変化率も小さくなる。
【0013】
さらに、本発明の銅合金粉末においては、Si,Al,Tiから選択される一種又は二種以上の合計含有量が0.5質量%以上10質量%以下の範囲内であってもよい。
Si,Al,Tiは、酸化性が高く、銅合金粉末の表面に薄く強固な酸化皮膜が形成される。このため、積層造形時や使用時に、さらに酸化が進行することが抑制され、耐酸化性が向上する。これにより、レーザー吸収率が安定するとともに使用時の変色を抑制することができる。また、Si,Al,Tiから選択される一種又は二種以上の合計含有量を10質量%以下とすることで、酸化皮膜が必要以上に厚く形成されることを抑制でき、銅合金粉末および積層造形物における銅の抗菌性を確保することができる。
【0014】
また、本発明の銅合金粉末においては、Zn,Pから選択される一種又は二種の合計含有量が10質量%以下であってもよい。
ZnやPは、Cuに対し広い範囲で固溶する元素であり、耐変色性を向上させることができる。また、銅に比べて安価であるため、コストを低減する事ができる。しかし、蒸気圧が高く、粉末製造時やレーザー照射時にヒュームが多量に発生し、生産性に悪影響を及ぼしてしまう。そのため、Zn,Pから選択される一種又は二種の合計含有量は10質量%以下であることが好ましい。また、Pは含有酸素と結合することで銅合金を脱酸する効果を有していることから、上述の範囲で含有していてもよい。
【0015】
さらに、本発明の銅合金粉末においては、粉末表面のXPS分析におけるCuとOのピークから求めたそれぞれの元素の存在比率Cu/Oが0.10以上であることが好ましい。
XPS分析によるCuとOのピークから求めた元素の存在比率Cu/Oが0.10以上であるならば、表面酸化の程度の低い銅合金粉末を提供でき、積層造形用途とした場合に酸化の程度の低い積層造形物を提供できる。また、銅合金粉末および積層造形物の抗菌性を確保することができる。
【0016】
また、本発明の銅合金粉末においては、粉末表面のXPS分析におけるCuのピークのうち、CuとCu2Oの合計(Cu+Cu2O)とCuOの比率(Cu+Cu2O)/CuOが1以上であることが好ましい。
XPS分析によるCuのピークのうち、(Cu+Cu2O)/CuOが1以上であるならば、表面酸化の程度の低い銅合金粉末を提供でき、積層造形用途とした場合に酸化の程度の低い積層造形物を提供できる。また、銅合金粉末および積層造形物の抗菌性を確保することができる。
【0017】
さらに、本発明の銅合金粉末においては、粉末表面のXPS分析におけるCuのピークのうちCuOの比率が40%以下であることが好ましい。
XPS分析によるCuのピークのうち、CuOの比率が40%以下であるならば、表面酸化の割合の少ない銅合金粉末を提供でき、積層造形用途とした場合に酸化の割合の少ない積層造形物を提供できる。また、銅合金粉末および積層造形物の抗菌性を確保することができる。
【0018】
また、本発明の銅合金粉末においては、表面に形成された表面酸化生成物皮膜の厚みが3μm以下であることが好ましい。
表面酸化生成物皮膜の厚みが3μm以下であるならば、銅合金粉末の抗菌性が確保でき、表面酸化生成物皮膜の厚みが少ないので積層造形用途とした場合に酸化物の割合の少ない積層造形物を提供できる。
なお、表面酸化生成物皮膜の厚みは、FIB(Focused Ion Beam)法を用いて粉末の断面を観察用に加工し、その後、断面をSEMにて観察することによって確認することができる。EDS(エネルギー分散型X線分析)を用いて、O(酸素)に由来するピークを深さ方向で測定し、O濃度(酸素濃度)が0.5at%以下になるまでの深さを表面酸化生成物皮膜の厚みとすることができる。
【0019】
さらに、本発明の銅合金粉末においては、体積平均粒径が10μm以上150μm以下であることが好ましい。
体積平均粒径が上述の範囲であれば、積層造形用途とした場合に粉末凝集が生じ難く、流動性の低下を生じ難い。また、粉末粒径が適切な大きさであるため、均一な粉末積層が可能となり、造形不良を生じない。
【0020】
また、本発明の銅合金粉末においては、粉末ゆるみかさ密度Daと粉末真密度Dtとの比Da/Dtが0.4以上であることが好ましい。
Da/Dtを0.4以上にすることにより、粉末積層時の空隙を小さくすることができ、レーザーによる溶融後において積層造形物の密度低下を防止できる。
【0021】
さらに、本発明の銅合金粉末においては、積層造形用であることが好ましい。
上述の銅合金粉末は、レーザー吸収性および耐変色性に優れており、積層造形用の粉末として特に適している。
【0022】
また、本発明の銅合金粉末においては、抗菌性を有することが好ましい。
銅合金粉末が抗菌性を有することにより、この銅合金粉末を用いて、抗菌性が要求される各種部材を構成することが可能となる。
【0023】
本発明に係る一形態に係る積層造形物は、上述の銅合金粉末を用いて形成されたことを特徴とする。
本発明の積層造形物によれば、上述のように耐酸化性に優れた銅合金粉末で形成されているので、積層造形物を形成する場合のレーザーの照射時におけるレーザー吸収性の変動が少なく、品質に優れている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、耐変色性に優れ、特に金属AMに好適な積層造形物を製造可能な銅合金粉末、および、この銅合金粉末によって形成された積層造形物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銅合金粉末の一例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
図1は本発明の一実施形態である積層造形用の銅合金粉末の一部を破断して示した側面図である。
【0027】
本実施形態の銅合金粉末1は、銅合金からなる粉末本体2と、この粉末本体2の外周面に形成された表面酸化生成物皮膜3とを有している。本実施形態の銅合金粉末1は、一例として球形状あるいはそれに類似する形状の粉末本体2とその外周面全体を薄く覆っている表面酸化生成物皮膜3を有する。なお、表面酸化生成物皮膜3については、備えてない構造が望ましいが、形成されていたとして、できる限り薄いことが望ましく、後述する膜厚範囲程度とすることが望ましい。
【0028】
粉末本体2は、Mnを3質量%以上50質量%以下含有する銅合金からなる。一例として、Mnを3質量%以上50質量%以下含有し、残部Cuと不可避不純物の組成を有する銅合金であっても良い。
ここで、本実施形態の銅合金粉末1においては、粉末本体2を構成する銅合金は、Cuを45質量%以上含有することが好ましい。
【0029】
また、本実施形態の銅合金粉末1においては、粉末本体2を構成する銅合金は、Sn,In,Niから選択される一種又は二種以上の合計含有量が1質量%以上40質量%以下の範囲内であってもよい。
さらに、本実施形態の銅合金粉末1においては、粉末本体2を構成する銅合金は、Si,Al,Tiから選択される一種又は二種以上の合計含有量が0.5質量%以上10質量%以下の範囲内であってもよい。
また、本実施形態の銅合金粉末1においては、粉末本体2を構成する銅合金は、Zn,Pから選択される一種又は二種の合計含有量が10質量%以下であってもよい。
【0030】
さらに、本実施形態の銅合金粉末1においては、粉末表面のXPS分析におけるCuとOのピークから求めたそれぞれの元素の存在比率Cu/Oが0.10以上であることが好ましい。
また、本実施形態の銅合金粉末1においては、粉末表面のXPS分析におけるCuのピークのうちCuOの比率が40%以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態の銅合金粉末1においては、表面に形成された表面酸化生成物皮膜の厚みが3μm以下であることが好ましい。
【0031】
また、本実施形態の銅合金粉末1においては、体積平均粒径が10μm以上150μm以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態の銅合金粉末1においては、粉末ゆるみかさ密度Daと粉末真密度Dtとの比Da/Dtが0.4以上であることが好ましい。
【0032】
以下に、本実施形態である銅合金粉末1の組成、表面のXPS分析、表面酸化生成物皮膜の厚み、体積平均粒径、粉末ゆるみかさ密度Daと粉末真密度Dtとの比Da/Dt、について、上述のように規定した理由について説明する。
【0033】
(Mn:3質量%以上50質量%以下)
Mnは、Cuに含有させて銅合金とした場合、銅合金粉末1の耐酸化性の向上に寄与する元素である。上述の範囲の適切な量のMnを含有することで、耐酸化性に優れた銅合金粉末を提供できる。また、容易に変色しないことにより、積層造形物を形成する場合のレーザーの照射時におけるレーザー吸収性の変動を引き起こしにくい。このため、レーザーの照射に伴い、安定した状態で発熱を得ることができ、溶融挙動の安定した状態で積層造形物を製造可能とする。また、Mnを上述の範囲含む銅合金粉末は、耐熱試験後のレーザー吸収率の変化率が少ないことからも、積層造形などの用途に望ましいことが分かる。
【0034】
また、銅合金粉末1によって形成された積層造形物が、使用者の手に触れるもの、および、使用者の目視可能なものである場合、表面にCuの酸化反応に起因して生成される変色相が存在すると意匠性が著しく低下し、酸化の程度によっては手触り性も低下するので、Mnを上述の範囲で含有することが望ましい。また、Mnの濃度が高すぎると粉末の抗菌性が低下するおそれがある。
なお、Mnの含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、Mnの含有量は、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
(Cu:45質量%以上)
Cuは主成分であり、銅合金粉末1の抗菌性を確保するためには45質量%以上含有することが好ましい。Cuを45質量%以上含有することで、抗菌性に優れた銅合金粉末を提供できる。また、積層造形物とした場合に積層造形物の表面に充分な量のCuを含む相を露出することが可能となり、Cuが本来有する抗菌作用により抗菌性に優れた積層造形物を提供できる。
なお、Cuの含有量は、50質量%以上であることがさらに好ましく、55質量%以上であることがより好ましい。Cuの含有量に特に制限はないが、97質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
(Sn,In,Niの合計含有量:1質量%以上40質量%以下)
Sn,In,Niの元素は、酸化性が低く、かつ、Cuに対し比較的固溶範囲が広いため、Cuの置き換えとして比較的多くのSn,In,Niを含有させることができ、銅合金粉末の耐酸化性が確保され、レーザー吸収率の変化率も小さくなる。
よって、銅合金粉末1の耐酸化性、レーザー吸収の安定性向上を図る場合には、Sn,In,Niを合計で1質量%以上40質量%以下の範囲で含有させることが望ましい。
なお、Sn,In,Niの合計含有量は、1.5質量%以上であることがさらに好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましい。Sn,In,Niの合計含有量に特に制限はないが、37質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
(Si,Al,Tiの合計含有量:0.5質量%以上10質量%以下)
Si,Al,Tiは、MnとともにCuに対し広い範囲で固溶する元素であり、上述の範囲で添加しても、Cuが本来有する抗菌性を損なわず、Mnを上述の範囲含有することにより得られる耐酸化性を損なうことはない。
また、Si,Al,Tiは、酸化性が高く、銅合金粉末の表面に薄く強固な酸化皮膜が形成される。このため、積層造形時や使用時に、さらに酸化が進行することが抑制され、耐酸化性が向上する。これにより、レーザー吸収率が安定するとともに使用時の変色を抑制することができる。なお、Si,Al,Tiの含有量が多いと、酸化皮膜が必要以上に厚く形成されるおそれがある。
よって、Si,Al,Tiの合計含有量を0.5質量%以上10質量%以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、Si,Al,Tiの合計含有量は、1.0質量%以上であることがさらに好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。Si,Al,Tiの合計含有量に特に制限はないが、9質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
(Zn,Pの合計含有量:10質量%以下)
ZnやPは、Cuに対し広い範囲で固溶する元素であり、耐変色性を向上させることができる。また、銅に比べて安価であるため、コストを低減する事ができる。しかし、蒸気圧が高く、粉末製造時やレーザー照射時にヒュームが多量に発生し、生産性に悪影響を及ぼしてしまう。なお、Pは含有酸素と結合することで銅合金を脱酸する効果を有している。
本実施形態では、ZnやPを含む場合には、10質量%以下と有することが好ましい。
なお、Zn,Pの合計含有量は、8質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
(その他の元素)
本実施形態である銅合金粉末1には、その他の元素として、C,N,Sc,V,Sr,H,Li,B,O,Mg,S,Ca,Cr,Fe,Co,Ga,Ge,Se,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sb,Te,Ba,Ce,La,Hf,Ta,Pb,Biから選択される一種または二種以上を合計で0.1質量%以上10質量%以下程度含有していても良い。
また、その他の元素は、0.1質量%以下程度、不純物として含有していても良い。本形態の合金を溶製から製造する場合、原料に不可避不純物として混入することがある、Ag、Sなどの元素を上述の範囲不純物として含有していても差し支えない。勿論、その他の不純物元素を上述の範囲で含有していても差し支えない。
【0040】
(表面のXPS分析)
本実施形態の銅合金粉末1において、表面のXPS分析(表面酸化生成物皮膜3のXPS分析)の結果、CuとOのピークから求めたそれぞれの元素の存在比率Cu/Oが0.10以上である場合には、表面酸化の割合の少ない銅合金粉末を提供でき、積層造形用途とした場合に酸化の割合の少ない積層造形物を提供できる。
なお、CuとOのピークから求めたそれぞれの元素の存在比率Cu/Oは、0.15以上であることがさらに好ましく、0.20以上であることがより好ましい。存在比率Cu/Oの上限に特に制限はないが、0.9以下が好ましく、0.8以下であることがより好ましい。
【0041】
また、本実施形態の銅合金粉末1において、表面のXPS分析(表面酸化生成物皮膜3のXPS分析)の結果、Cuのピークのうち、CuとCu2Oの合計(Cu+Cu2O)とCuOの比率(Cu+Cu2O)/CuOが1以上である場合には、表面におけるCuOの比率が少なく、表面酸化の程度の低い銅合金粉末を提供でき、積層造形用途とした場合に、酸化の程度の低い積層造形物を提供でき、抗菌性に優れた積層造形物を提供することが可能となる。
なお、CuとCu2Oの合計(Cu+Cu2O)とCuOの比率(Cu+Cu2O)/CuOは、1.5以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることがより好ましい。(Cu+Cu2O)/CuOの上限に特に制限はないが、20以下が好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0042】
さらに、本実施形態の銅合金粉末1において、表面のXPS分析(表面酸化生成物皮膜3のXPS分析)の結果、CuのピークのうちCuOの比率が40%以下である場合には、表面におけるCuOの比率が少なく、積層造形用途とした場合に、抗菌性に優れた積層造形物を提供することが可能となる。
なお、CuのピークのうちCuOの比率は、35%以下であることがさらに好ましく、30%以下であることがより好ましい。CuのピークのうちCuOの比率の下限に特に制限はないが、1%以上が好ましく、2.5%以上であることがより好ましい。
【0043】
(表面酸化生成物皮膜の厚み:3μm以下)
本実施形態の銅合金粉末1において、表面に形成された表面酸化生成物皮膜3の厚みが厚くなると、抗菌性を確保できなくなるおそれがある。
このため、抗菌性を確保するためには、表面酸化生成物皮膜3の厚みを3μm以下とすることが好ましい。
なお、表面酸化生成物皮膜3の厚みは、2.0μm以下であることがさらに好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、さらに表面酸化生成物皮膜3が存在しなくてもよい。
【0044】
(体積平均粒径)
本実施形態の銅合金粉末1において、積層造形用途とした場合には、体積平均粒径を10μm以上150μm以下の範囲内とすることが好ましい。
銅合金粉末1の体積平均粒径が10μm以上の場合には、粉末の凝集による流動性の低下を抑制することができる。また、銅合金粉末1の体積平均粒径が150μm以下である場合には、均一な粉末積層や供給が可能となり、造形を安定して行うことができる。
なお、より好ましい銅合金粉末1の体積平均粒径は、積層造形の手法や装置構成によって異なるが、PBF方式(Powder Bed Fusion)においては10μm以上60μm以下の範囲内、DED方式(Directed Energy Deposition)においては50μm以上150μm以下の範囲内である。
【0045】
(銅合金粉末のゆるみかさ密度と真密度の比)
本実施形態の銅合金粉末1において、積層造形用途とした場合には、粉末ゆるみかさ密度Daと粉末真密度Dtとの比Da/Dtが0.4以上であることが好ましい。
銅合金粉末1のDa/Dtが0.4以上の場合には、粉末積層時の空隙が少なくなり、レーザー溶融後の積層造形物において造形物の密度を向上させることができる。
なお、銅合金粉末1のDa/Dtは、0.45以上であることがさらに好ましく、0.50以上であることがより好ましい。
【0046】
次に、本実施形態である銅合金粉末1の製造方法の一例について説明する。
本実施形態の銅合金粉末1を製造する方法としては、一例として、銅合金母材を溶解して得た銅合金溶湯を用い、高圧ガス噴霧により球状または球状に類似する形状の粉末を得る手法として知られているガスアトマイズ法を採用できる。
ここで用いる銅合金母材として、前述の組成の銅合金母材を用いるか、前述の成分元素が前述の組成比となるように複数の母材を用いて合金溶湯とすることができる。また、合金母材には不可避不純物が前述の範囲含まれていても良い。
【0047】
また、銅合金母材の基となる高純度銅として、純度99.99質量%以上99.9999質量%未満の高純度銅を用い、この高純度銅に必要量の単体金属あるいは合金を添加して溶解することにより上述の組成比の銅合金溶湯を得ることもできる。
銅合金粉末1におけるこれら微量元素の含有量測定は、高周波誘導プラズマ発光分析法などにより実施することができる。
【0048】
本実施形態においては、銅合金粉末1の製造方法について、ガスアトマイズ法を用いた例を説明したが、粉末製造方法については、この他、水アトマイズ法や遠心力アトマイズ法、誘導結合プラズマ法やプラズマアトマイズ法などによって、銅合金粉末を製造してもよい。あるいは、その他一般的に知られている積層造形用粉末の製造方法を適用しても良い。上述のように得られた銅合金粉末1に対し、適宜熱処理を施して組織の安定化などを図ってもよい。
【0049】
上述のように得られた銅合金粉末1の流動調整および凝集分離を行うために、銅合金粉末1の体積平均粒径が、10μm以上150μm以下の範囲内となるように、分級工程を行うことが望ましい。分級工程には、篩分法や重力分級、遠心分級などを利用することが出来る。
【0050】
上述のように得られた本実施形態の銅合金粉末1を用い、例えば、EOS社のM280(ドイツ、エレクトロオプティカルシステムズ(EOS)社商品名)を用いて積層造形を実施できる。
この積層造形物において、適切な粒径とかさ密度の銅合金粉末1を用いるならば、形成精度に優れ、緻密な積層造形物を提供できる。
【0051】
また、本実施形態の銅合金粉末1において、Cuを45質量%以上含有する場合には、抗菌性に優れた銅合金粉末を提供できる。また、積層造形物とした場合に積層造形物の表面に充分な量のCuを含む相を露出することが可能となり、Cuが本来有する抗菌作用により抗菌性に優れた積層造形物を提供できる。
【0052】
また、本実施形態の銅合金粉末1において、Sn,In,Niから選択される一種又は二種以上を合計で1質量%以上40質量%以下含有している場合には、Cuの置き換えとして比較的多くの量を含有させることができ、耐酸化性が確保され、レーザー吸収率の変化率も小さくなる。
【0053】
さらに、本実施形態の銅合金粉末1において、Si,Al,Tiから選択される一種又は二種以上を合計で0.5質量%以上10質量%以下含有している場合には、銅合金粉末1の表面に薄く強固な酸化皮膜(表面酸化生成物皮膜3)が形成され、積層造形時や使用時に、さらに酸化が進行することが抑制され、耐酸化性が向上する。これにより、レーザー吸収率が安定するとともに使用時の変色を抑制することができる。また、酸化皮膜(表面酸化生成物皮膜3)が必要以上に厚く形成されることを抑制でき、銅の抗菌性を確保することができる。
【0054】
また、本実施形態の銅合金粉末1において、Zn、Pを合計で10質量%以下含有している場合には、耐変色性を向上させことができる。
【0055】
さらに、本実施形態の銅合金粉末1において、粉末表面のXPS分析におけるCuとOのピークから求めたそれぞれの元素の存在比率Cu/Oが0.10以上である場合には、表面酸化の程度の低い銅合金粉末1を提供でき、積層造形用途とした場合に酸化の程度の低い積層造形物を提供できる。また、銅合金粉末1および積層造形物の抗菌性を確保することができる。
【0056】
また、本実施形態の銅合金粉末1において、粉末表面のXPS分析におけるCuのピークのうち、CuとCu2Oの合計(Cu+Cu2O)とCuOの比率(Cu+Cu2O)/CuOが1以上である場合には、表面酸化の程度の低い銅合金粉末1を提供でき、積層造形用途とした場合に酸化の程度の低い積層造形物を提供できる。また、銅合金粉末1および積層造形物の抗菌性を確保することができる。
【0057】
さらに、本実施形態の銅合金粉末1において、粉末表面のXPS分析におけるCuのピークのうちCuOの比率が40%以下である場合には、表面酸化の割合の少ない銅合金粉末を提供でき、積層造形用途とした場合に酸化の割合の少ない積層造形物を提供できる。また、銅合金粉末1および積層造形物の抗菌性を確保することができる。
【0058】
また、本実施形態の銅合金粉末1において、表面に形成された表面酸化生成物皮膜の厚みが3μm以下である場合には、表面酸化生成物皮膜の厚みが少ないので積層造形用途とした場合に酸化物の割合の少ない積層造形物を提供できる。また、銅合金粉末1および積層造形物の抗菌性を確保することができる。
【0059】
さらに、本実施形態の銅合金粉末1において、体積平均粒径が10μm以上150μm以下の範囲内である場合には、積層造形用途とした場合に粉末凝集が生じ難く、流動性の低下を生じ難い。また、粉末粒径が適切な大きさであるため、均一な粉末積層が可能となり、造形不良を生じない。
【0060】
また、本実施形態の銅合金粉末1において、粉末ゆるみかさ密度Daと粉末真密度Dtとの比Da/Dtが0.4以上である場合には、粉末積層時の空隙を小さくすることができ、レーザーによる溶融後において積層造形物の密度低下を防止できる。
【0061】
さらに、本実施形態の銅合金粉末1を積層造形用として用いた場合には、レーザー吸収性および耐変色性に優れており、積層造形物を安定して作製することができる。
【0062】
また、本実施形態の銅合金粉末1が抗菌性を有する場合には、この銅合金粉末1を用いて、抗菌性が要求される各種部材を構成することが可能となる。
【0063】
本実施形態の積層造形物は、上述した本実施形態である銅合金粉末1を用いて形成されているので、耐酸化性に優れた銅合金粉末1で形成されることになり、積層造形物を形成する場合のレーザーの照射時におけるレーザー吸収性の変動が少なく、品質に優れている。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0065】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0066】
純度99.999質量%の高純度銅に必要量の母合金を添加して溶解炉に投入し、銅合金溶湯を作製し、この銅合金溶湯からガスアトマイズ法により各銅合金粉末を作成した。得られた各銅合金粉末は、粗大な粉末やヒュームなどからなる微細な粉末を篩分けや洗浄で除去したうえ、必要に応じて目的粒度に応じた篩分けを実施することで、表1に示す組成の銅合金粉末を得た。
【0067】
それぞれの組成比の銅合金粉末について、体積平均粒径、粉末ゆるみかさ密度Daと粉末真密度Dtとの比Da/Dt、表面のXPS分析、表面酸化生成物皮膜の厚み、レーザー吸収率の変化率を評価した。
【0068】
また、得られた銅合金粉末を用い、EOS社のM280(3Dプリンタ)を用いて、10mm角キューブ状の積層造形物を作製した。
得られた積層造形物について、抗菌性、耐変色性の測定について以下に説明する方法で求めた。
【0069】
(銅合金粉末の体積平均粒径)
マイクロトラック社製 MT3300EXIIを用い、湿式による粒径分布の測定を行い、得られた結果の体積基準の50%累積粒径を体積平均粒径とした。
【0070】
(粉末ゆるみかさ密度Da/Dtと粉末真密度Dtの比Da/Dt)
銅合金粉末のゆるみかさ密度Daは、日本粉体工業技術協会規格 SAP05-98:2013に準じて、ホソカワミクロン社製パウダテスターPT-Xを用いて測定した。粉末のゆるみかさ密度Daの算出においては3回の測定の単純平均値を用いた。
銅合金粉末の真密度Dtは、QURNTACHROME INSTRUMENTS社製 ウルトラピクノメータ 1000型を用い、気体置換法によって真密度を測定した。
得られた粉末ゆるみかさ密度Daと粉末真密度Dtの値から粉末ゆるみかさ密度と粉末真密度の比Da/Dtを算出した。
【0071】
(XPS分析)
対象の試料のうち本発明例2と本発明例7に対し、XPS(X線光電分光法)にて表面分析を行った。試料はカーボンテープに張り付けてから測定した。XPSの測定結果を表2に示す。
なお、XPSの測定結果は、同一組成の試料について、複数回測定した時の最小値と最大値を記載した。
表面のCuおよびOのピークについてそれぞれ積分強度値を取得し、相対感度係数法による濃度換算を実施し、CuとOの存在比率を求めて、Cu/Oの比率を算出した。
【0072】
表面のCu、Cu2O、CuOの比率については、Cuのピークを用い、化学状態分離をして求めた。具体的には、まずCu2p3/2ピークについて、CuO由来の933.7eV、およびCuまたはCu2O由来の932.5~932.7eVの二つのピークに分離した。そして各ピークの積分強度値の比をそれぞれの存在量比とした。なお、CuとCu2Oは932.5~932.7eVのエネルギー帯にそれぞれにピークを持ち、原理的にピーク分離が難しいため、CuとCu2Oを合わせた形での存在量として算出した。また、CuのピークのうちCuOの比率は、CuO/(Cu+Cu2O+CuO)の値とした。
【0073】
また、表面酸化生成物皮膜の厚みは、FIB(Focused Ion Beam)法を用いて表面近傍の断面を観察用に加工し、その後、断面をSEMにて観察することによって確認した。EDS(エネルギー分散型X線分析)を用いて、O(酸素)に由来するピークを測定し、O濃度(酸素濃度)が0.5at%以下になるまでの深さを表面酸化生成物皮膜の膜厚として評価した。
なお、XPSによる測定およびSEM-EDSによる表面酸化生成物皮膜の厚みは積層造形物に対しても測定し、粒子と同程度であることを確認した。
【0074】
(抗菌性の評価方法)
抗菌性評価に用いる簡易抗菌性試験法はJIS Z 2801に倣い、フィルム法にて試料上に菌を播種し積層造形物に対して試験を行った。積層造形物は、銅合金粉末試料を用い、EOS社のM280(3Dプリンタ)を用いて、50×50mm、厚み1mmの積層造形物を作製した。試験時間は10、20、30、40、50、60、70、80、90、100minの条件で試験を行い、それぞれ一定時間経過後、菌を回収し、生菌数を測定した。菌種としてはJIS指定の大腸菌(ATCC8739株)を用いた。
その結果から菌数が1/10になる時間(T1/10)の測定を行った。なお、それぞれの測定点でn5の結果から平均値を求め、値を導出している。
T1/10が10分以下の場合に抗菌性「◎」、10分超え20分以下の場合に「○」、20分超え100分以下の場合に「△」、100分で1/10にならなかった場合に「×」と評価した。なお、積層造形物と同じ組成である粒子にも同等の抗菌性があると考えられる。
【0075】
(耐変色性の評価方法)
耐変色性を評価する耐変色性試験は、銅合金粉末試料を用い、EOS社のM280(3Dプリンタ)を用いて作成した、15mm角キューブ状の積層造形物に対して、表面をエメリー紙#1000にて研磨を行った後に、研磨面を上部となる様に配置し、恒温恒湿槽を用いて温度60℃、相対湿度95%の雰囲気中に各サンプルを暴露した。試験時間は144時間とし、試験後に試料を取り出し、研磨面である上部の面の外観の変化を色差計にて確認した。
耐変色性評価として外観上の変化が全面にわたって確認されないものを「◎」、外観の変色が全面の半分以下にのみ発生した場合を「○」、全面の半分超にわたって外観の変色が見られた場合を「×」と判断し、表1に記載した。
ここでいう外観の変色は、コニカミノルタ製の分光測色計「CM-700d」を使用し、SCI(正反射光込み)方式でJIS 8781-4に従い色差ΔEで示される色差10以上を基準とした。
【0076】
(レーザー吸収率の変化率)
各試料について、株式会社日立ハイテクサイエンス社製紫外可視近赤外分光光度計「UH4150」を使用し、波長1064nmの光に対する耐久試験前後のレーザー吸収率の変化率について求めた。吸収率については、「吸収率=1-全反射率」として算出した。耐久試験とは、大気雰囲気中において200℃に加熱し、60分間保持する試験を行うことである。
耐久試験前後でのレーザー吸収率の変化率の絶対値が20%未満の場合に「◎」、20%以上50%未満の場合に「〇」、50%以上の場合に「×」と評価した。例えば、耐久試験前のレーザー吸収率が50%で、耐久試験後のレーザー吸収率が55%の場合、レーザー吸収率の変化率の絶対値は(55-50)/50=10%となる。
【0077】
【0078】
【0079】
純銅粉末の比較例1においては、抗菌性には優れるものの、耐変色性に劣っていた。
Mnの含有量が75質量%とされた比較例2においては、耐変色性には優れていたが、抗菌性が不十分であった。
銅の含有量が5質量%でMnの含有量が82質量%とされた比較例3においては、耐変色性には優れていたが、抗菌性が不十分であった。
【0080】
これらに対し、本発明例1~21は、耐変色性に優れ、レーザー吸収率の変化率も少なかった。また、抗菌性にも優れていた。
本発明例1~21は、粉末ゆるみかさ密度Da、粉末真密度Dtの比、Da/Dtが0.4以上であった。
これらの結果から、本発明に係る銅合金粉末であれば、耐変色性と抗菌性に優れ、200℃高温加熱後のレーザー吸収率の変化も少ない銅合金粉末を提供できることが明らかである。
【0081】
また、表2に示すように本発明例2、7では、XPS分析におけるCuとOのピークから求めたそれぞれの元素の存在比率Cu/Oが0.10以上、具体的には0.10~0.45であった。
表2に示すように本発明例2、7では、XPS分析におけるCuのピークのうち、CuとCu2Oの合計(Cu+Cu2O)とCuOの比率(Cu+Cu2O)/CuOが1以上、具体的には、1.5~7.5であった。
表2に示すように本発明例2、7では、XPS分析におけるCuのピークのうちCuOの比率が40%以下、具体的には、12~40%であった。
表2に示すように本発明例2、7では、表面酸化生成物皮膜の厚みは、0.7μm、1.6μmであった。