(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188813
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】スタータ
(51)【国際特許分類】
F02N 11/08 20060101AFI20221215BHJP
F02N 11/00 20060101ALI20221215BHJP
H02K 7/10 20060101ALI20221215BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20221215BHJP
H02K 23/08 20060101ALI20221215BHJP
H02K 23/68 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
F02N11/08 L
F02N11/00 U
H02K7/10 E
H02K7/116
H02K23/08
H02K23/68
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097032
(22)【出願日】2021-06-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐
(72)【発明者】
【氏名】亀井 光一郎
【テーマコード(参考)】
5H607
5H623
【Fターム(参考)】
5H607BB01
5H607BB04
5H607BB14
5H607CC01
5H607DD03
5H607EE31
5H607FF02
5H607GG01
5H623BB07
5H623GG03
5H623HH10
(57)【要約】
【課題】大型化とコスト増大を伴うことなく、電源の高電圧化に対応できるスタータを提供する。
【解決手段】内燃機関を始動させるスタータで会って、複数の界磁コイル単体を組合わせて構成した界磁コイル(2a)と電機子(2c)とが、電気的に直列に接続された直流直巻モータを備え、界磁コイル(2a)は、電機子(2c)と電源(5)の正極端子との間に配置され、界磁コイル(2a)の合成抵抗をRf[Ω]、電機子(2c)の電機子抵抗をRa[Ω]、電源(5)の出力電圧をVb[V]としたとき、[Vb×Ra/(Rf+Ra)≦12] の関係が成り立つように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電圧が30[V]以上の電源により付勢されて回転力を発生するモータと、前記モータの回転力をエンジンに伝達して始動させる機構部と、を有するスタータであって、
前記モータは、複数の界磁コイル単体を組合わせて構成した界磁コイルと、電機子と、が電気的に直列に接続された直流直巻モータであり、
前記界磁コイルは、前記電機子と前記電源の正極端子との間に配置されており、
前記界磁コイルの合成抵抗をRf[Ω]、前記電機子の電機子抵抗をRa[Ω]、前記電源の出力電圧をVb[V]としたとき、[Vb×Ra/(Rf+Ra)≦12] の関係が成り立つように構成されている、
ことを特徴とするスタータ。
【請求項2】
前記界磁コイルは、少なくとも2つの界磁コイル単体が直列に接続された界磁コイル直列体を備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載のスタータ。
【請求項3】
前記界磁コイルは、並列接続された複数の前記界磁コイル直列体を備えている、
ことを特徴とする請求項2に記載のスタータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、スタータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両において、バッテリなどの電源の高電圧化、たとえば48[V]電源化が進められている。この電源の高電圧化は、電源を従来の12[V]電源より高電圧にすることで、多くの車載電装品の高出力化、小電流化による損失低減、発電効率の向上などが図れること、および、万一接触したとしても人体に致命的な影響を及ぼす程の高電圧ではないことから、人体に対する保護対策に要するコストの増加を抑制できることが主な理由である。
【0003】
しかしながら、48[V]電源に対応していない一部車載電装品のために従来の12[V]電圧の電源も併載される場合が多く、内燃機関を始動させるためのスタータも従来電圧で動作する電装品の一つである場合が多い。一つの車両に電圧の異なる2系統の回路を持つことは、部品点数の増加を招き、コスト面で不利である。
【0004】
これに対し、たとえば特許文献1に開示されている車両では、電源は高電圧のもののみとして低電圧電源を廃し、コスト低減を図るようにしている。低電圧電源に対応したスタータへの電力供給時には、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって12[V]に降圧させることで電源の共用化を実現している。
【0005】
一方、スタータを48[V]電源に対応させる例として、特許文献2に開示された技術では、電機子コイルの巻き数を、12[V]電源用スタータに対して4倍とすることで、電気抵抗を4倍、電流量を1/4とし、電機子コイルの巻き数と電流量の積で決まるモータ出力を12[V]電源用スタータと同等としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-65791号公報
【特許文献2】特開平6-33853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された従来の装置の場合、降圧用の回路が別途必要となる。特に、スタータは車載電装品の中で最も大きな電流を必要とするので、その回路も大電流に耐え得るものが必要となるのでコストがかさみ、低電圧電源廃止のメリットが薄れてしまうという課題があった。したがって、スタータを48[V]電源に対応させるのが望ましいといえる。
【0008】
しかし、特許文献2に開示された従来の装置のように電機子コイルの巻き数を増大させることは、設計、製造の両面において難易度が高く、電機子のサイズアップが必要となり、これに合わせてスタータ自体の大型化が必要となる。また、電機子抵抗を大きくすると、正極側ブラシと負極側ブラシとの電位差が大きくなるため、整流時に火花放電が生じてブラシ、電機子などに損傷を与える可能性が高くなり、その対策をブラシあるいは整流子に織り込む必要があり、結果としてコスト増となる、などの課題があった。
【0009】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、大型化とコスト増大を伴うことなく、電源の高電圧化に対応できるスタータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示されるスタータは、
出力電圧が30[V]以上の電源により付勢されて回転力を発生するモータと、前記モータの回転力をエンジンに伝達して始動させる機構部と、を有するスタータであって、
前記モータは、複数の界磁コイル単体を組合わせて構成した界磁コイルと電機子とが、電気的に直列に接続された直流直巻モータであり、
前記界磁コイルは、前記電機子と前記電源の正極端子との間に配置されており、
前記界磁コイルの合成抵抗をRf[Ω]、前記電機子の電機子抵抗をRa[Ω]、前記電源の出力電圧をVb[V]としたとき、[Vb×Ra/(Rf+Ra)≦12] の関係が成り立つようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示されるスタータによれば、大型化とコスト増大を伴うことなく、電源の高電圧化に対応できるスタータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1によるスタータの断面図である。
【
図2】実施の形態1によるスタータの電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、実施の形態1によるスタータについて説明する。
図1は、実施の形態1によるスタータの断面図、
図2は、実施の形態1によるスタータの電気回路図である。
図1、
図2において、車両の内燃機関を始動させるスタータ1は、回転力を発生するモータ2と、モータ2の回転力をエンジンのリングギヤ3に伝達する機構部4と、電源としてのバッテリ5からモータ2への電力供給をオン/オフし、かつ機構部4を動作させる電磁スイッチ6と、を備えている。バッテリ5の出力電圧は48[V]である。
【0014】
エンジン(図示せず)を始動する際は、イグニッションスイッチ61を閉じることで電磁スイッチ6が作動し、機構部4のピニオン4aをリングギヤ3の方向に押し出してリングギヤ3に結合させるとともに、バッテリ5からモータ2への電力供給経路を形成する。すなわち、イグニッションスイッチ61をオンにすると、バッテリ5からの電流は、まず電磁スイッチ6のメインコイル62を介してモータ2の界磁コイル2aを通り、正極側ブラシ2bから回転子を構成する電機子2cを経て、負極側ブラシ2dに至り、さらにスタータ1の筐体、エンジンの筐体等を経て、バッテリ5のアース端子に流れる。これによりモータ2に回転力が発生し、その回転力が機構部4のピニオン4aを介してリングギヤ3に伝達されることで、エンジンが始動する。
【0015】
また、イグニッションスイッチ61が閉じられることで、同時に、電磁スイッチ6の補助コイル63にもバッテリ5からの電流が流れ、電磁スイッチ6の接点64は閉じた状態で自己保持される。これによりイグニッションスイッチ61がオフとなっても、モータ2は回転を続け、エンジンを始動させる。エンジンが始動すると、周知のように機構部4のピニオン4aは元の位置に引き戻され、リングギヤ3との結合が外されるとともに、電磁スイッチ6の接点64がオフとされ、モータ2は停止する。
【0016】
スタータ1を搭載する車両における電気回路のうち、スタータ1に関連する部位を
図2に示す。モータ2は、界磁コイル2aと電機子2cが直列に配置された、いわゆる直流直巻モータであり、界磁コイル2aは、電機子2cとバッテリ5の正極端子との間に配置されている。
【0017】
界磁コイル2aは、極数の数だけ必要であり、一般的に4個以上の偶数個であるが、これらの少なくとも一部を直列に接続すれば、界磁コイル2aの電気抵抗を大きくすることが容易となる。
図2においては、界磁コイル2aは、複数の界磁コイル単体を組合わせて構成されており、
図1においても明示していないが、実施の形態1においては、4極のモータ2を使用しており、4個の界磁コイル単体を備えている。そして、2個の界磁コイル単体を直列に接続した2個の界磁コイル直列体を設け、これらの2個の界磁コイル直列体を、並列接続して界磁コイル2aが構成されている。
【0018】
これにより、界磁極に永久磁石を用いる場合、あるいは界磁コイルと電機子を並列に配置する場合に比べて、モータ2の電気抵抗を大きくすることが容易となる。電機子コイルの巻き数とモータ電流を従来の12[V]の電源に合わせることで、モータ出力を従来の12[V]の電源に対応させたスタータと同等に設定することも可能となる。
【0019】
また、仮に界磁コイル2aの合成抵抗Rf[Ω]を電機子抵抗Ra[Ω]の3倍以上とすれば、正極側ブラシ2bの電位は12[V]以下となり、12[V]の電源に対応させたスタータの電機子をそのまま48[V]の電源用のスタータとして使用して、部品の共通化によるコスト低減を図ることが可能となる。
【0020】
さらに、界磁コイル2aの合成抵抗Rf[Ω]と電機子抵抗Raとの比率[Rf/Ra]を大きくすることで、正極側ブラシ2bの電位を下げることができる。負極側ブラシ2dの電位は0[V]で変わらないので、整流子片間の電位差が小さくなり、火花放電が生じ難くなる。
【0021】
以上述べた実施の形態1によるスタータでは、電源としてのバッテリ5の出力電圧を48[V]としたが、実際にはバッテリ5の状態によってその出力電圧の値は変動する。バッテリ5の充電不足によっては30[V]近くに低下する可能性もあるし、大容量バッテリの満充電時には60[V]近くにも達する場合がある。これはバッテリ5の種類の選択、あるいは充電制御方法の相違などによるため、車両の仕様を考慮した実際のバッテリ5の出力電圧に応じて、界磁コイル2aの合成抵抗Rf[Ω]と電機子抵抗Ra[Ω]との比率[Rf/Ra]を設定すればよい。
【0022】
ここで、電源としてのバッテリ5の出力電圧をVb[V]、正極側ブラシ2bの電位をVp[V]としたとき、[Vp=Vb×Ra/(Rf+Ra)]となる。したがって、仮に電源としてのバッテリ5の出力電圧が60[V]に達しても、正極側ブラシ2bの電位を12[V]以下に抑えるのであれば、[60×Ra/(Rf+Ra)≦12]とし、これを解くと[Rf≧4Ra]となり、界磁コイル2aの合成抵抗Rfを電機子抵抗Raの4倍以上に設定すればよいことになる。
【0023】
本願は、例示的な実施の形態を記載しているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0024】
1 スタータ、2 モータ、2a 界磁コイル、2b 正極側ブラシ、2c 電機子、2d 負極側ブラシ、3 リングギヤ、4 機構部、4a ピニオン、5 バッテリ、6 電磁スイッチ、61 イグニッションスイッチ、62 メインコイル、63 補助コイル