IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

特開2022-188817積層造形物の製造方法及び積層造形装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188817
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法及び積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/85 20210101AFI20221215BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221215BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221215BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20221215BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20221215BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20221215BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20221215BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20221215BHJP
   B22F 12/90 20210101ALI20221215BHJP
【FI】
B22F10/85
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B22F3/105
B22F3/16
B22F10/28
B22F10/64
B22F12/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097041
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川中 啓嗣
(72)【発明者】
【氏名】松下 慎二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇
(72)【発明者】
【氏名】保田 雄亮
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】意図しない積層造形装置の停止を抑制可能な積層造形物の製造方法を提供する。
【解決手段】積層造形物の製造方法は、金属材料の粉末床への光ビームの照射により、金属層である所定層を形成するステップS1と、ステップS1を経て得られた造形物中間体の表面温度を決定するステップS3と、前記表面温度と、前記造形物中間体の過熱状態を示す所定閾値とに基づいて前記造形物中間体が過熱状態であるか否かを判断するステップS4と、ステップS4での判断の結果、前記過熱状態ではないと判断されたときに、前記所定層上への前記粉末床の形成を行うステップS5と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の粉末床への光ビームの照射により、金属層である所定層を形成する所定層形成ステップと、
前記所定層形成ステップを経て得られた造形物中間体の表面温度を決定する表面温度決定ステップと、
前記表面温度と、前記造形物中間体の過熱状態を示す所定閾値とに基づいて前記造形物中間体が過熱状態であるか否かを判断する判断ステップと、
前記判断ステップでの判断の結果、前記過熱状態ではないと判断されたときに、前記所定層上への前記粉末床の形成を行う粉末床形成ステップと、を含む
ことを特徴とする積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記判断ステップでは、前記表面温度が前記所定閾値以下になったときに、前記過熱状態ではないと判断される
ことを特徴とする請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記表面温度は、少なくとも、造形対象となる積層造形物の構造に基づき予め決定された、熱が溜まり易い部分の表面温度である
ことを特徴とする請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記部分は、前記積層造形物において、前記所定層のうちの下方に空間が存在する部分、又は、積層造形時の前記光ビームの移動方向への断面積が所定面積以下の部分、の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項3に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
前記表面温度は、前記造形物中間体の上面全域の表面温度である
ことを特徴とする請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項6】
前記造形物中間体を支持する支持部材の温度を決定する支持部材温度決定ステップを更に含み、
前記判断ステップでは、前記表面温度と前記支持部材の温度との差が前記所定閾値以下になったときに、前記過熱状態ではないと判断される
ことを特徴とする請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項7】
前記判断ステップにおいて前記造形物中間体が過熱状態であると判断されたときに、前記造形物中間体が過熱状態でなくなるまで待機する待機ステップを更に含む
ことを特徴とする請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項8】
前記待機ステップは、前記造形物中間体を収容した収容部内の前記所定層上に供給される前記金属材料の粉末を、前記収容部の側方に保持した状態で行われる
ことを特徴とする請求項7に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項9】
前記待機ステップは、
前記判断ステップで過熱状態であるとの判断後に、前記造形物中間体を収容した収容部に前記金属材料の粉末を供給する粉末供給機構の駆動を開始する駆動開始ステップと、
前記粉末供給機構が駆動開始し、かつ過熱状態ではないとの判断後に、前記粉末供給機構によって前記収容部内の前記所定層上に前記粉末を供給する供給ステップとを含む
ことを特徴とする請求項8に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項10】
前記粉末供給機構の駆動速度は、決定した前記表面温度と前記所定閾値との差に基づき決定される
ことを特徴とする請求項9に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項11】
前記判断ステップから前記粉末床形成ステップまでの少なくとも一部の時間で、前記造形物中間体の冷却により前記表面温度を降温させる冷却ステップを更に含む
ことを特徴とする請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項12】
前記冷却は、前記金属材料及び前記造形物中間体を収容した収容部の側壁、又は、前記造形物中間体を支持する支持部材、の少なくとも一方の冷却により行われる
ことを特徴とする請求項11に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項13】
前記冷却は、前記側壁又は前記支持部材の少なくとも一方に対し、水冷装置、空冷装置、又はヒートシンクの少なくとも1つを含む冷却機構の設置により行われる
ことを特徴とする請求項12に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項14】
前記所定閾値は、前記造形物中間体における前記金属層毎に異なる
ことを特徴とする請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項15】
前記造形物中間体の表面に光を照射しながら撮像することで凹凸を検出する凹凸検出ステップを更に含み、
前記判断ステップでは、前記凹凸検出ステップで検出された凹凸の発生場所において前記表面温度が前記所定閾値以下になったときに、前記過熱状態ではないと判断される
ことを特徴とする請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項16】
前記判断ステップにおいて過熱状態であると判断された場合に、過熱状態にある時間が所定時間を超えたときに報知する報知ステップを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項17】
金属材料の粉末床への光ビームの照射により金属層である所定層を形成する造形装置本体と、
前記金属層の形成により得られた造形物中間体の表面温度を決定する温度センサと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記表面温度と、前記造形物中間体の過熱状態を示す所定閾値とに基づいて前記造形物中間体が過熱状態であるか否かを判断する判断部と、
前記判断部による判断の結果、前記過熱状態ではないと判断されたときに、前記所定層上への前記粉末床の形成を行うように前記造形装置本体を制御する造形制御部と、
を備える
ことを特徴とする積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は積層造形物の製造方法及び積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形技術(金属付加製造)には、例えば、粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion)方式、指向性エネルギ堆積(Directed Energy Deposition)方式等があることが知られている。粉末床溶融結合方式は、平らに敷き詰められた金属粉末に対して、光ビーム(レーザビーム、電子ビーム等)を照射することで積層造形を行う。粉末床溶融結合方式には、SLM(Selective Laser Melting)、EBM(Electron Beam Melting)等が含まれる。指向性エネルギ堆積方式は、光ビームの照射及び粉末材料の吐出を行うヘッドの位置を制御することで積層造形を行う。指向性エネルギ堆積方式には、LMD(Laser Metal Deposition)、DMP(Direct Metal Deposition)等が含まれる。
【0003】
特許文献1の要約書には、「三次元積層造形装置は、ベースプレート上に粉末を敷設して形成されたパウダーベッドにビームを照射することで、パウダーベッドを選択的に固化する。パウダーベッドの表面又は造形面の形状又は温度がセンサによって検知され、その検出結果に基づいて、粉末の敷設の不具合、又は、ビームの照射の不具合を次層の造形完了前に修正するように構成される」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/030839号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層造形(付加製造)では、光ビームの照射に起因した造形物の過熱(目標温度以上への加熱)により、膨張、変形等の構造異常が生じ得る。構造異常の発生により、積層造形装置での例えば粉末床形成時に積層造形装置が意図せず停止し得る。特許文献1に記載の技術では、検出した凹凸に応じ、その上に粉末床が形成されるに過ぎない(段落0068)。このため、粉末床形成時、凹凸等の構造異常に起因した積層造形装置の停止が依然生じ得る。
本開示が解決しようとする課題は、意図しない積層造形装置の停止を抑制可能な積層造形物の製造方法及び積層造形装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の積層造形物の製造方法は、金属材料の粉末床への光ビームの照射により、金属層である所定層を形成する所定層形成ステップと、前記所定層形成ステップを経て得られた造形物中間体の表面温度を決定する表面温度決定ステップと、前記表面温度と、前記造形物中間体の過熱状態を示す所定閾値とに基づいて前記造形物中間体が過熱状態であるか否かを判断する判断ステップと、前記判断ステップでの判断の結果、前記過熱状態ではないと判断されたときに、前記所定層上への前記粉末床の形成を行う粉末床形成ステップと、を含む。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、意図しない積層造形装置の停止を抑制可能な積層造形物の製造方法及び積層造形装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の積層造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図2】第1実施形態の積層造形装置を示す構造図である。
図3】第1実施形態の積層造形装置を示すブロック図である。
図4A】造形物において熱が溜まり易い部分を説明する斜視図である。
図4B図4AのA-A線断面図である。
図4C図4BのB-B線断面図であり、積層造形時の光ビームの移動方向への断面図である。
図5】第2実施形態の積層造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図6】第3実施形態の積層造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図7】第3実施形態の積層造形装置を示す構造図である。
図8】第3実施形態の積層造形装置を示すブロック図である。
図9】第4実施形態の積層造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図10】第4実施形態の積層造形装置を示す構造図である。
図11】第4実施形態の積層造形装置を示すブロック図である。
図12】第5実施形態の積層造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図13】第5実施形態の積層造形装置を示す構造図である。
図14】第5実施形態の積層造形装置を示すブロック図である。
図15】第6実施形態の積層造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図16】第6実施形態の製造方法の使用時におけるリコータの動作を説明する図である。
図17】第7実施形態の積層造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図18】第8実施形態の積層造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図19】第8実施形態の積層造形装置を示すブロック図である。
図20】制御装置のハードウェア構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0010】
図1は、第1実施形態の積層造形物R(図4)の製造方法(以下、第1実施形態の製造方法)を示すフローチャートである。第1実施形態の製造方法は、金属材料の粉末Pを層状に配置した(敷き詰めた)粉末床PB(図2)への光ビームL(図2)の照射により積層造形物R(図4A)を製造する方法である。第1実施形態の製造方法は、ステップS1~S6を含む。まず、便宜のため、第1実施形態の製造方法を実行可能な積層造形装置300について、図2及び図3を参照して説明する。
【0011】
図2は、第1実施形態の積層造形装置300を示す構造図である。積層造形装置300は、積層造形(付加製造)により積層造形物Rを製造する装置であり、造形装置本体100と、温度センサ13と、制御装置200とを備える。
【0012】
造形装置本体100は、金属材料の粉末床PBへの光ビームLの照射により金属層507(図4B)を形成するものであり、粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion)方式の造形装置である。造形装置本体100は、粉末床PBに光ビームL(レーザビーム、電子ビーム等)を照射し、粉末Pを加熱することで溶融凝固させる。粉末Pの敷設及び光ビームLの照射を繰り返すことで金属層が形成される。
【0013】
本開示では、金属層507の形成を繰り替えして製造されたものが、造形対象となる積層造形物Rであり、積層造形物Rの製造途中(積層造形物Rを構成する複数の金属層のうちの一部の金属層507のみが形成)が、中間体S(造形物中間体)である。本開示では、主に中間体Sを例示して、積層造形装置300を説明する。
【0014】
粉末Pとしては、特に限定されないが、例えば、熱間工具鋼、銅、チタン合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼等の金属材料の粉末等が挙げられる。本開示では、粉末Pとして、例えば、平均粒径が約30μm程度で、粒径の範囲が約15μmから約45μmの金属材料が使用される。粉末Pの平均粒径は、上記した範囲に限定されない。
【0015】
造形装置本体100は、粉末床PBへの光ビームLの照射により金属層507である所定層を形成するものである。造形装置本体100は、例えば、チャンバ10と、ガス供給部20と、排気機構30と、材料供給部40と、造形部50と、回収部60と、リコータ(スキージ)70と、ビーム源80とを備える。また、積層造形装置300に備えられる温度センサ13は、図示の例では、造形装置本体100に備えられる。
【0016】
チャンバ10は、例えば、ビーム源80及び排気機構30を除く造形装置本体100の各部を収容する。チャンバ10は、例えば、保護ガラス12gを嵌めた透過窓12を有する。透過窓12は、チャンバ10の外部に配置されたビーム源80から照射される光ビームLを透過させ、チャンバ10の内部の造形部50のステージ51に載置された粉末床PBに到達させる。
【0017】
造形装置本体100には、温度センサ13、圧力センサ14、及び酸素センサ15が設置される。温度センサ13は、中間体Sの表面温度を決定するものである。表面温度は、例えば、光ビームLの照射面である中間体Sの上面の温度である。温度センサ13は、例えば非接触式の温度センサであり、具体的には例えば、赤外線放射温度計等である。圧力センサ14及び酸素センサ15は、それぞれ、チャンバ10内の減圧環境の圧力及び酸素量(酸素濃度)を測定する。
【0018】
ガス供給部20は、チャンバ10に接続され、チャンバ10の内部に不活性ガスを供給する。ガス供給部20は、例えば、ガス供給源及び制御弁(何れも不図示)を備える。ガス供給源は、不活性ガスを充填した高圧タンク(不図示)によって構成される。制御弁は、制御装置200によって制御され、ガス供給源からチャンバ10に供給される不活性ガスの流量を制御する。不活性ガスは、例えば、窒素又はアルゴンを使用できる。
【0019】
排気機構30は、例えば、真空ポンプによって構成され、真空引き用の配管31を介してチャンバ10に接続される。排気機構30は、例えば、制御装置200によって制御される。排気機構30によりチャンバ10内の気体を排出することで、チャンバ10の内部を大気圧よりも減圧された真空圧にして、チャンバ10内を減圧環境にしても良い。
【0020】
材料供給部40は、例えば、粉末Pを収容可能な凹状に設けられ、上部が開放されて上端に開口部を有する。材料供給部40は、粉末Pを載置して供給するための上下に移動可能なステージ41を有する。ステージ41は、材料供給部40の底壁を構成する。ステージ41は、例えば、適宜の昇降機構(不図示)によって、所定のピッチで昇降可能に設けられる。ステージ41の昇降機構は、例えば制御装置200に接続され、制御装置200によって制御される。材料供給部40は、図示のような昇降式でなく、粉末Pを落下させて供給する方式でもよい。
【0021】
造形部50は、例えば、材料供給部40と同様に、粉末P(金属材料)及び中間体Sを収容可能な凹状の収容部であり、上部が開放されて上端に開口部を有する。造形部50は、粉末Pを敷いて粉末床PBを形成するためのステージ51を有する。ステージ51は、例えば金属製であり、造形部50の底壁を構成する。ステージ51(支持部材)には、材料供給部40から供給される粉末Pが載置され、積層造形により製造される中間体Sが金属結合を介して支持される。
【0022】
造形部50の開口部及び材料供給部40の開口部は、例えば、鉛直方向の高さがおおむね等しく、おおむね水平方向に並ぶ。ステージ51は、ステージ41と同様に、例えば、適宜の昇降機構(不図示)によって、所定のピッチで昇降可能に設けられる。ステージ51は、例えば、ステージ51を予熱するヒータを含む予熱機構(不図示)を備えても良い。ステージ51の昇降機構及び予熱機構は、例えば制御装置200に接続され、制御装置200によって制御される。
【0023】
回収部60は、例えば、材料供給部40と同様に、粉末Pを収容可能な凹状に設けられ、上部が開放されて上端に開口部を有する。図示の例において、回収部60の底壁は、下端部に固定されているが、材料供給部40及び造形部50と同様に、昇降可能なステージ(不図示)によって構成されてよい。回収部60の開口部と、造形部50の開口部とは、鉛直方向の高さがおおむね等しく、おおむね水平方向に並ぶ。回収部60は、例えば、リコータ70によって材料供給部40から造形部50に供給された余分な粉末Pを収容して回収する。
【0024】
リコータ70(粉末供給機構)は、材料供給部40から供給される粉末Pを造形部50のステージ51上に運んで均しながら敷き詰めることで、ステージ51上に粉末床PBを形成する。リコータ70は、例えば、移動機構75(粉末供給機構)を備える。移動機構75は、例えばリニアモータであり、材料供給部40から造形部50へ向かうおおむね水平な進行方向Dに沿って、リコータ70を移動させる。
【0025】
ビーム源80は、例えば、数Wから数kW程度の出力の光ビームLを発生させるレーザ光源を使用できる。本開示では、例えば、波長が1080nm、出力が500Wのシングルモードファイバーレーザ、即ちエネルギ強度がガウス分布のレーザを発生させるレーザ光源が使用される。また、ビーム源80は、例えば、粉末床PB上で光ビームLを走査させるためのガルバノスキャナ(不図示)を備える。
【0026】
図3は、第1実施形態の積層造形装置300を示すブロック図である。制御装置200は、判断部21と造形制御部22とを備える。なお、制御装置200の具体的なハードウェア構成は図20を参照して後記する。
【0027】
判断部21は、温度センサ13(図1)により決定される中間体Sの表面温度と、中間体Sの過熱状態を示す所定閾値とに基づいて中間体Sが過熱状態であるか否かを判断するものである。また、造形制御部22は、判断部21による判断の結果、過熱状態ではないと判断されたときに、次の金属層507(図4B)の形成を開始するように造形装置本体100を制御するものである。形成は、中間体Sの最上面である金属層507上の粉末床PBへの光ビームLの照射により行われる。判断部21及び造形制御部22の具体的な機能について、図1を再度参照しながら説明する。
【0028】
ステップS1(所定層形成ステップ)は、粉末床PBへの光ビームLの照射により、金属層507である所定層を形成するステップである。照射は、金属層507を1層形成するごとに停止する。ステップS1は、造形制御部22(図2)によって実行できる。1層目の形成の場合、所定層はステージ51(図2)の上面に形成される。2層目以降の形成の場合、所定層は、直前に形成された金属層507の1層上に形成される。
【0029】
造形制御部22(図2)は、所定層の形成後、造形を継続するか否かを判断する(ステップS2)。中間体Sは、通常は複数層を有するため、上記ステップS1で1層目が形成された場合には、2層目以降の形成のため、造形が継続される(Y)。一方で、上記ステップS1で、造形目標となる中間体Sが得られた場合、即ち、最後の金属層507(図4B)が形成された場合には、造形が終了する(N)。
【0030】
ステップS3(表面温度決定ステップ)は、ステップS1を経て得られた中間体Sの表面温度を決定するステップである。ステップS3は、判断部21(図2)によって実行できる。第1実施形態では、決定される表面温度は、少なくとも、造形対象となる積層造形物R(図4A)の構造に基づき予め決定された、熱が溜まり易い部分の表面温度である。熱が溜まりやすい部分では過熱が生じ易く、過熱に起因する膨張、変形等の構造異常が生じ易い。そこで、熱が溜まり易い部分の表面温度を少なくとも決定することで、そのような部分での過熱を抑制でき、構造異常の発生を抑制できる。なお、ここでいう過熱の抑制は、過熱を全く生じさせないという限定的な意味ではなく、過熱が生じて構造異常が生じても降温に伴ってその構造異常が緩和される(好ましくは元に戻る)程度の過熱を許容する意味である。
【0031】
図4Aは、積層造形物Rにおいて熱が溜まり易い部分を説明する斜視図である。図4Aに示す積層造形物Rは、積層造形装置300により積層造形可能な積層造形物の一例であり、積層造形物Rの構造は図示の例に限定されない。なお、図4A及び後記の図4Bでは、図示の簡略化のために、積層造形により形成される一部の金属層507のみが図示される。積層造形物Rは、図示の例では、空間501,504,506,508,509を有する積層造形物である。
【0032】
図4Bは、図4AのA-A線断面図である。積層造形物Rは、z方向への金属層507の連続的な配置構造を有する。図4Bに示す断面視において、空間501,504は平行四辺形の形状を有する。また、空間506,508は円形状を有する。積層造形中、空間501,504,506,508の内部には、金属材料の粉末Pが残存する。積層造形中、例えば、空間501を区画する上辺502(C部)を含む金属層503(所定層。金属層507の一例)の下方には、粉末床PB(図2)が存在する。このような形状は、オーバーハング形状といわれる。
【0033】
過熱は、熱の滞留によって生じる。このため、金属層507において、例えば下方のステージ51への伝熱経路が確保されていれば、熱は溜まり難い。しかし、粉末P(図2)により構成される粉末床PBでは、固体のみで構成された積層造形物Rと比べて、粉末P同士の間に隙間が存在するため、伝熱が生じ難い。従って、所定層503の伝熱経路が制限され熱が溜まり易い。このため、第1実施形態では、積層造形物Rにおいて、金属層503の下方に空間(積層造形時の粉末床PB)が存在する部分の表面温度が決定される。
【0034】
図4Cは、図4BのB-B線断面図であり、積層造形時の光ビームLの移動方向への断面図である。図4Cは、図4Bにおいて金属層505の真上で切断し、-z方向に視た断面図である。積層造形物Rは、x方向に延在する空間509を有する。上記の図4B及び図4Cに示すように、例えば空間501は右上から左下に延在するため、D部に示すように、造形積層物R外面と空間501との間に形成され伝熱経路が小さくなる。このため、熱が溜まり易く、過熱が生じ易い。そこで、第1実施形態では、更に、図4Cに示す断面積が所定面積以下となる金属層505(所定層。金属層507の一例)の部分について、表面温度が決定される。
【0035】
これらのように、熱が溜まり易い部分は、本開示の例では、積層造形物Rにおいて、金属層503のうちの下方に空間が存在する部分(例えば積層造形物Rでの縁の部分)、又は、金属層505のうち、積層造形時の光ビームLの移動方向(図示の例ではxy方向)への断面積が所定面積以下となる部分、の少なくとも一方を含む。これにより、過熱が生じ易い部分の表面温度を集中的に決定でき、過熱に起因する構造異常を特に効果的に抑制できる。
【0036】
図1に戻って、ステップS3(判断ステップ)は、ステップS2で決定した表面温度と、中間体Sの過熱状態を示す所定閾値とに基づいて、中間体Sが過熱状態であるか否かを判断するステップである。ステップS3は、判断部21(図2)によって実行できる。所定閾値は、例えば、使用する金属材料の熱膨張係数に基づいて決定できる。具体的には、あくまで一例ではあるが、熱膨張係数から、所定上昇温度での膨張量(例えば長さ)を決定できる。そこで、過熱時に許容できない膨張量を決定し、その膨張量に対応する温度を所定閾値として決定できる。
【0037】
所定閾値は、例えば、中間体Sにおける金属層507(図4B)毎に異なる。金属層507毎では許容可能な膨張量であっても、その膨張の蓄積によって許容できない膨張量が全体として生じ得る。しかし、そのような場合でも、金属層507毎に所定閾値を変えることで、全体しても許容可能な膨張量に抑制できる。
【0038】
第1実施形態のステップS3では、過熱が生じ易い部分の表面温度が上記所定閾値以下になったときに、過熱状態ではないと判断される。即ち、表面温度が所定閾値以下に降温すれば、過熱が生じ易い部分での膨張量が緩和され、構造異常の発生が抑制される。そこで、この場合には、表面温度が所定閾値を超えることで過熱状態と判断された場合でも、所定閾値以下になることで過熱状態ではないと判断でき、その後の金属層507形成時の構造異常の発生を抑制できる。
【0039】
ステップS4での判断の結果、過熱状態ではないと判断されたとき(Y)、ステップS5が行われ、過熱状態であると判断されたとき(N)、ステップS6が行われる。
【0040】
ステップS5(粉末床形成ステップ)は、表面温度を決定した所定層上への粉末床PB(図2)の形成を行うステップである。粉末床PBの形成は、例えばリコータ70(図2)の駆動による粉末Pの造形部50への供給により実行できる。ステップS5は、例えば造形制御部22(図3)により実行できる。粉末床PBの形成後、再度上記のステップS1が行われる。
【0041】
ステップS6(待機ステップ)は、ステップS4において中間体Sが過熱状態であると判断されたとき、中間体Sが過熱状態でなくなるまで待機するステップである。ステップS6により、中間体Sの表面温度を降温でき、過熱状態でない状態にできる。第1実施形態のステップS6は、例えば自然冷却により行われ、自然冷却によって中間体Sを放熱させることで、表面温度を降下できる。
【0042】
ステップS6での待機は、上記ステップS3及びステップS4と同様にして表面温度の決定及び過熱状態の判断を例えば所定時間毎に繰り返すことで、行われる。待機中、光ビームLの照射は行われない。そして、過熱状態ではないと判断されたときに、ステップS5が行われる。
【0043】
以上の第1実施形態によれば、中間体S(特に最上面の金属層507である所定層)が過熱状態にある場合でも、過熱状態でなくなるまで待機した後に粉末床PBを形成することで、過熱状態に起因する構造異常の発生を抑制できる。これにより、例えば粉末床形成時の意図しない積層造形装置300(図2)の停止を抑制できる。このため、積層造形装置300の連続使用時間を長くでき、製造効率を向上できる。
【0044】
図5は、第2実施形態の積層造形物R(図4A)の製造方法(以下、第2実施形態の製造方法という)を示すフローチャートである。第2実施形態の製造方法は、上記ステップS3(図1)に代えてステップS31を含むこと以外は、第1実施形態の製造方法と同様である。ステップS31は、表面温度の決定対象が異なること以外はステップS3と同様である。
【0045】
ステップS31(表面温度決定ステップ)で決定される表面温度は、中間体Sの上面全域の表面温度である。上面全域は、例えば、最上面に形成された金属層507(所定層の一例)全体である。上面全域の表面温度に基づくことで、第1実施形態のような熱が溜まり易い部分の決定作業を省略でき、制御を簡便にできる。なお、上記のように、中間体Sでは、積層造形物R(図4A)での縁の部分(粉末Pとの境界部分)には熱が溜まり易い。このため、縁に沿って温度が上がり易いため、温度センサ13によって中間体Sの上面全域の領域を判断できる。
【0046】
過熱状態であるか否かの判断は、表面温度が上面全域で所定閾値以下になったときとしてもよいし、上面全域の表面温度の平均値と所定閾値とを比較することで行ってもよい。平均値と比較する場合、平均値との比較のために所定閾値を変更することが好ましい。
【0047】
図6は、第3実施形態の積層造形物R(図4A)の製造方法(以下、第3実施形態の製造方法という)を示すフローチャートである。第3実施形態の製造方法は、上記ステップS6(図1)に代えてステップS61を含むこと以外は、第1実施形態の製造方法と同様である。
【0048】
ステップS61(冷却ステップ)は、ステップS4(判断ステップ)からステップS5(粉末床形成ステップ)までの少なくとも一部の時間(好ましくは全部)で、中間体Sの冷却により表面温度を降温させるステップである。冷却の具体的方法は、図7及び図8を参照して後記する。ステップS61により、自然冷却よりも速やかに表面温度を降温でき、積層造形装置301(図7)による製造効率を向上できる。ステップS61を実行可能な積層造形装置301について、図7及び図8を参照して説明する。
【0049】
図7は、第3実施形態の積層造形装置301を示す構造図である。積層造形装置301は、造形装置本体100(図2)に代えて造形装置本体101を備えること以外は、積層造形装置300(図2)と同様である。造形装置本体101は、冷却機構52を更に備えること以外は、造形装置本体100(図2)と同様である。
【0050】
冷却機構52は、造形部50の側壁53、又は、ステージ51(支持部材)の少なくとも一方に設置され、冷却は、側壁53、又は、ステージ51の少なくとも一方に対し、冷却機構52の設置により行われる。図示の例では、冷却機構52は、側壁53及びステージ51の双方に設置される。冷却機構52は、例えば、水冷装置、空冷装置又はヒートシンクの少なくとも1つを含む。図示の例では、冷却機構52は水冷装置であり、側壁53及びステージ51の内部に、冷却水(不図示)を流す通水空間54が備えられる。通水空間54は例えば通水管である。
【0051】
図8は、第3実施形態の積層造形装置301を示すブロック図である。図8は、水冷装置又は空冷装置の少なくとも一方の冷却機構52を使用する場合である。ステップS61(図6)は、造形制御部22による冷却機構52の制御により実行できる。
【0052】
冷却機構52が例えば水冷装置の場合、冷却機構52は、例えば、通水空間54(図7)と、通水空間54への水流を生じさせるポンプ(不図示)とを備える。造形制御部22は、例えば、中間体Sの表面温度に応じてポンプによる通水量を制御することで、特に効率的に冷却できる。なお、ポンプの制御に代えて、又はポンプの制御とともに、冷却水の温度を制御してもよい。
【0053】
冷却機構52が例えば空冷装置の場合、冷却機構52は、例えば、気体(空気等)を流す通風空間(不図示。例えば配管)と、通風空間への気流を生じさせるファン(不図示)とを備える。造形制御部22は、例えば、中間体Sの表面温度に応じてファンによる通気量を制御することで、特に効率的に冷却できる。なお、ファンの制御に代えて、又はファンの制御とともに、通風空間に流す気体の温度を制御してもよい。
【0054】
図6に戻って、ステップS61での冷却は、上記のように、側壁53(図7)又はステージ51(図7)の少なくとも一方(図示の例では双方)の冷却により行われる。側壁53及びステージ51は造形部50(図7)を区画するように配置されるため、これらの少なくとも一方の冷却により、造形部50に収容した中間体Sを効果的に冷却できる。中でも、ステージ51の冷却により、ステージ51と金属結合する中間体Sの熱を、当該金属結合を介してステージ51に放熱し易くできる。また、側壁53の冷却により、中間体Sの幅(図4Aに示すxy平面内での長さ)が大きくなり側壁53に近づいた場合に、ステージ51から離れている場合であっても効果的に冷却できる。
【0055】
図9は、第4実施形態の積層造形物R(図4A)の製造方法(以下、第4実施形態の製造方法という)を示すフローチャートである。第4実施形態の製造方法は、更にステップS7を含むこと以外は、第1実施形態の製造方法と同様である。
【0056】
ステップS7(支持部材温度決定ステップ)は、ステージ51(支持部材)の温度を決定するステップである。ステップS7により、ステージ51の温度を決定でき、後記する制御にステージ51の温度を使用できる。ステップS7は、例えば、ステップS2とステップS4との間に行われ、図示の例ではステップS3と同じタイミングで行われる。ただし、ステップS7は、ステップS3の前、又はステップS3の後に行われてもよい。ステップS7を実行可能な積層造形装置302について、図10及び図11を参照して説明する。
【0057】
図10は、第4実施形態の積層造形装置302を示す構造図である。積層造形装置302は、造形装置本体100(図2)に代えて造形装置本体102を備えること以外は、積層造形装置300(図2)と同様である。造形装置本体102は、温度センサ55を更に備えること以外は、造形装置本体100(図2)と同様である。
【0058】
温度センサ55は、ステージ51の温度を測定するものであり、例えば熱電対である。温度センサ55は、例えば金属製のステージ51の下面に接触して設置される。
【0059】
図11は、第4実施形態の積層造形装置302を示すブロック図である。判断部21は、温度センサ13による中間体Sの表面温度と、温度センサ55によるステージ51の温度に基づいて、過熱状態であるか否かを判断する。具体的な判断方法について、図9に戻って説明する。
【0060】
ステップS4(判断ステップ)では、中間体Sの表面温度とステージ51の温度との差が、中間体Sの過熱状態を示す所定閾値以下になったときに、中間体Sが過熱状態ではないと判断される。上記のように、中間体Sはステージ51に放熱し易い。また、ステージ51には光ビームLは照射されず、光ビームLによる加熱の影響を直接受け難いので、温度はある程度一定である。従って、光ビームLの照射によって昇温した中間体Sの熱は、ステージ51に伝熱し易い。そして、伝熱により中間体Sの表面温度とステージ51の温度との差は小さくなる。このため、当該差と当該閾値とを比較し、差が所定閾値以下になったときに中間体Sが降温したとして、中間体Sは過熱状態ではないと判断される。このようにしても、過熱に起因する構造異常を抑制できる。
【0061】
図12は、第5実施形態の積層造形物R(図4A)の製造方法(以下、第5実施形態の製造方法という)を示すフローチャートである。第5実施形態の製造方法は、ステップS3の後に更にステップS8を含むこと以外は、第1実施形態の製造方法と同様である。
【0062】
ステップS8(凹凸検出ステップ)は、中間体Sの表面に光を照射しながら撮像することで凹凸を検出するステップである。ステップS8により、中間体Sの表面に存在し得る凹凸を検出でき、後記する制御に検出結果を使用できる。ステップS8を実行可能な積層造形装置303について、図13及び図14を参照して説明する。
【0063】
図13は、第5実施形態の積層造形装置303を示す構造図である。積層造形装置303は、造形装置本体100(図2)に代えて造形装置本体103を備えること以外は、積層造形装置300(図2)と同様である。造形装置本体103は、凹凸検出装置56を更に備えること以外は、造形装置本体100(図2)と同様である。
【0064】
凹凸検出装置56は、撮像装置57と、照明装置58とを備える。撮像装置57は、例えば中間体Sの上方に、中間体Sの表面(例えば金属層507(図4B)である所定層の上面)を撮像可能な位置に備えられる。撮像装置57は例えばカメラである。照明装置58は、中間体Sの表面に対して例えば0°より大きく90°未満の角度の光軸Eを有するように、配置される。このような配置により、中間体Sの葉面に凹凸が存在する場合、凹凸に起因して生じる影を撮像装置57が撮像でき、凹凸を検出できる。
【0065】
図14は、第5実施形態の積層造形装置302を示すブロック図である。判断部21は、温度センサ13による中間体Sの表面温度と、凹凸検出装置56による検出結果に基づいて、過熱状態であるか否かを判断する。具体的な判断方法について、図12に戻って説明する。
【0066】
ステップS4(判断ステップ)では、ステップS8(凹凸検出ステップ)で検出された凹凸の発生場所において、中間体Sの表面温度が所定閾値以下になったときに、中間体Sが過熱状態ではないと判断される。中間体Sで凹凸が生じている部分は、過熱に起因した膨張により生じた凹凸での可能性がある。そこで、凹凸の発生場所での表面温度を所定閾値と比較することで、過熱が生じた部位を把握できるとともに、その部位での降温により過熱状態ではないことを判断できる。これにより、実際に構造異常が生じた場合でも、その構造異常の部分の表面温度に基づくことで、特に効果的に意図しない積層造形装置302の停止を抑制できる。
【0067】
図15は、第6実施形態の積層造形物R(図4A)の製造方法(以下、第6実施形態の製造方法という)を示すフローチャートである。第6実施形態の製造方法は、ステップS6(図1)に代えて更にステップS62を含むこと以外は、第1実施形態の製造方法と同様である。ステップS62は、ステップS6と同様に待機するとともに、待機時にリコータ70(図2)が駆動する。
【0068】
図16は、第6実施形態の製造方法の使用時におけるリコータ70の動作を説明する図である。本開示では、リコータ70は、紙面左右方向(図4Aに示すx方向。いずれか一方でよい)への移動(スライド)により、材料供給部40から造形部50に粉末Pを供給する粉末供給機構の一例である。ただし、粉末供給機構はリコータ70に限定されない。
【0069】
二点鎖線で示すリコータ70の位置は、初期状態(第1実施形態での待機位置を含む)の位置である。一方で、ステップS62(図15)での待機は、図16に示す実線で示すリコータ70の位置で行われる。即ち、ステップS4(図15)で過熱状態と判断された場合、造形制御部22(図3)は、ステージ41(図2)を上昇させた後、初期状態の位置に配置されたリコータ70を造形部50に向けて駆動させる。これにより、材料供給部40(図2)の粉末Pが、リコータ70の駆動によって、造形部50の側方にまで移動させる。そして、粉末Pを造形部50の側方で保持した状態で、過熱状態ではなくなるまで待機が行われる。
【0070】
図15に戻って、ステップS62(待機ステップ)は、造形部50内の所定層上に供給される粉末Pを、造形部50の側方に保持した状態で行われる。これにより、ステップS62の後にステップS5で粉末床PBの形成が行われる際、造形部50の側方に保持した粉末Pを速やかに造形部50に供給でき、粉末床PBの形成時間を短くできる。
【0071】
図17は、第7実施形態の積層造形物R(図4A)の製造方法(以下、第7実施形態の製造方法という)を示すフローチャートである。第7実施形態の製造方法は、ステップS6(図1)に代えてステップS63を含むこと以外は、第1実施形態の製造方法と同様である。ステップS63(待機ステップ)は、ステップS6と同様に待機するステップ(待機ステップ)であり、ステップS631~S633を含む。
【0072】
ステップS631(駆動開始ステップ)は、ステップS4(判断ステップ)で過熱状態であるとの判断後に、造形部50に粉末Pを供給するリコータ70の駆動を開始するステップである。リコータ70の駆動は、造形制御部22(図2)により実行される。リコータ70の駆動により、材料供給部40(図2)の粉末Pが造形部50に向けて移動する。
【0073】
駆動開始後、ステップS4と同様に過熱状態の成否について判断が行われる(ステップS632)。過熱状態ではないとの判断後、ステップS633が行われる。ステップS633(供給ステップ)は、リコータ70の駆動が開始し、かつステップS632で過熱状態ではないとの判断後、リコータ70によって造形部50内の所定層上に粉末Pを供給するステップである。特にステップS631,S633を含むことで、粉末床PBの形成時、予め駆動させていたリコータ70によって、リコータ70の初期状態位置(図16)よりは造形部50に近い粉末Pを速やかに造形部50に供給でき、粉末床PBの形成時間を短くできる。
【0074】
リコータ70の駆動速度は、例えば、ステップS3で決定した表面温度と上記所定閾値との差に基づき決定される。これにより、リコータ70が停止している時間を短くできる。駆動速度の決定方法について、例えば、差が大きければ、過熱状態でなくなるまでの時間が長いため、駆動速度は遅めに決定される。一方で、例えば、差が小さければ、過熱状態でなくなるまでの時間が短いため、駆動速度は速めに決定される。駆動速度と差との関係は、例えば実験等によって決定できる。
【0075】
なお、このような関係を用いない場合に、過熱状態が解消する前にリコータ70が造形部50の側方に到達したときには、第6実施形態と同様に、リコータ70を側方で停止させればよい。
【0076】
図18は、第8実施形態の積層造形物の製造方法(以下、第8実施形態の製造方法という)を示すフローチャートである。第8実施形態の製造方法は、更にステップS64,S65を含むこと以外は、第1実施形態の製造方法と同様である。
【0077】
ステップS64(報知ステップ)は、ステップS4(判断ステップ)において過熱状態であると判断された場合に、過熱状態にある時間が所定時間を超えたときに報知するステップである。ここでいう所定時間は、例えば実験等により決定できる。ステップS64は、図示の例では、ステップS6と並行して行われる。
【0078】
中間体Sは上記のようにステージ51(図2)への伝熱経路を有するため、降温速度に違いはあっても降温する。しかし、例えば積層造形中に中間体Sの破損等が生じた場合、その破損等に起因して中間体Sから分離した部分は伝熱経路を有さないため、中間体Sより降温速度が遅い。従って、分離した部分は、過熱状態にある時間(例えば所定閾値を超えている時間)が、中間体Sよりも長い。そこで、ステップS8では、報知部23(図19)は、過熱状態にある時間が所定時間を超えたときに、そのような破損等が生じているとして、ユーザに報知する。なお、ステップS5が開始された時点で、ステップS64は終了する。
【0079】
図19は、第8実施形態の積層造形装置304を示すブロック図である。積層造形装置304は、造形装置本体100(図2)及び制御装置200(図2)に代えて、それぞれ、造形装置本体104及び制御装置204を備えること以外は、積層造形装置300(図2)と同様である。制御装置204の具体的なハードウェア構成は図20を参照して後記する。造形装置本体104は、造形装置本体100の構成に加え、更に報知装置59を備える。制御装置204は、制御装置200の構成に加え、更に報知部23を備える。
【0080】
報知装置59は、報知部23からの指示により、ユーザに対して報知するものである。報知装置59は、例えば、報知音を発するスピーカ、報知画面を表示するディスプレイ、発光により報知する発光装置等を含む。報知部23は、ステップS8(図18)を実行するものである。即ち、報知部23は、温度センサ13により決定された表面温度と、あらかじめ定められた所定時間とに基づき、報知装置59を通じて報知する。報知装置59により、ユーザが中間体Sの破損等を知ることができる。
【0081】
図20は、制御装置200,204のハードウェア構成を説明するブロック図である。制御装置200,204は、CPU901と、RAM902と、ROM903と、HDD904と、通信I/F905と、入出力I/F906と、メディアI/F907とを備える。通信I/F905は、外部の通信装置915に接続される。入出力I/F906は、入出力装置916に接続される。メディアI/F907は、記録媒体917からデータを読み書きする。さらに、CPU901は、RAM902に読み込んだプログラム(アプリケーション、その略のアプリとも呼ばれる)を実行することにより、上記制御装置200,204が具現化される。そして、このプログラムは、通信回線を介して配布したり、CD-ROM等の記録媒体917に記録して配布できる。
【符号の説明】
【0082】
10 チャンバ
100 造形装置本体
101 造形装置本体
102 造形装置本体
103 造形装置本体
104 造形装置本体
12 透過窓
12g 保護ガラス
13 温度センサ
14 圧力センサ
15 酸素センサ
20 ガス供給部
200 制御装置
204 制御装置
21 判断部
22 造形制御部
23 報知部
30 排気機構
300 積層造形装置
301 積層造形装置
302 積層造形装置
303 積層造形装置
304 積層造形装置
31 配管
4 ステップ
40 材料供給部
41 ステージ
50 造形部
501 空間
502 上辺
503 金属層
505 金属層
507 金属層
51 ステージ
52 冷却機構
53 側壁
54 通水空間
55 温度センサ
56 凹凸検出装置
57 撮像装置
58 照明装置
59 報知装置
60 回収部
70 リコータ(粉末供給機構)
75 移動機構(粉末供給機構)
80 ビーム源
D 進行方向
E 光軸
L 光ビーム
P 粉末
PB 粉末床
R 積層造形物
S 中間体
S1 ステップ(所定層形成ステップ)
S2 ステップ
S3 ステップ(表面温度決定ステップ)
S31 ステップ
S4 ステップ(判断ステップ)
S5 ステップ(粉末床形成ステップ)
S6 ステップ(待機ステップ)
S61 ステップ(冷却ステップ)
S62 ステップ
S63 ステップ
S631 ステップ(駆動開始ステップ)
S632 ステップ
S633 ステップ(供給ステップ)
S65 ステップ(報知ステップ)
S7 ステップ(支持部材温度決定ステップ)
S8 ステップ(凹凸検出ステップ)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20