(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188820
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】深部温度測定方法と深部温度計
(51)【国際特許分類】
G01K 13/20 20210101AFI20221215BHJP
G01K 7/42 20060101ALI20221215BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G01K13/20 341P
G01K7/42 A
A61B5/01 250
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097044
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】399064766
【氏名又は名称】アイフォーコムホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100102923
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】吉村拓巳
(72)【発明者】
【氏名】田村俊世
(72)【発明者】
【氏名】常田文克
(72)【発明者】
【氏名】黒澤仁博
(72)【発明者】
【氏名】広川正和
(72)【発明者】
【氏名】小嶋隆則
【テーマコード(参考)】
2F056
4C117
【Fターム(参考)】
2F056HX06
4C117XB01
4C117XE03
4C117XE23
(57)【要約】
【課題】精度が高い深部温度の測定方法と、その方法により作動する実用的な深部温度計を提供する。
【解決手段】第1の熱流ルートの熱抵抗Raと、第2の熱流ルートの熱抵抗Rbの比をパラメータKとおいた時の深部温度Tcを求める理論式を利用して、深部温度が既知のTcである場合に、このTcと、実測により得られた温度センサ6、8、20、22による測定値T1とT2とT3とT4とを上記の理論式に代入して、パラメータKを逆算して、この新たに求められたパラメータKを、深部温度の測定用演算式に使用する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物側に配置した複数の熱流の上流側の温度センサの測定した温度と、測定対象物から離れた位置に配置された上記複数の熱流の下流側の温度センサの測定した温度と、環境温度センサにより測定した温度と、いずれかの上流側の温度センサと、いずれかの下流側の温度センサの間の複数の熱流路の熱抵抗の比との関係を示す理論式を生成して、
深部温度が既知である場合に、この深部温度と上記温度センサにより測定した温度とを上記理論式に代入して、上記の複数の熱流路の熱抵抗の比を示すパラメータKを逆算する演算をして、この新たに求められたパラメータKを、その後の深部温度の測定用演算式に使用することを特徴とする深部温度の測定方法。
【請求項2】
測定対象物の表面に伝熱体を密着させて、深部温度を測定するための方法であって、
上記伝熱体に覆われた測定対象物の表面上の2個所に第1の温度センサと第2の温度センサを配置し、
伝熱体中を、第1の温度センサから測定対象物の表面に対して垂直方向に熱流が伝わった時の、第1の熱流ルート上の熱流到達点に第3の温度センサを配置し、
伝熱体中を、第2の温度センサから測定対象物の表面に対して垂直方向に熱流が伝わった時の、第2の熱流ルート上の熱流到達点に第4の温度センサを配置し、
第1の熱流ルートの熱抵抗をRaとし、第2の熱流ルートの熱抵抗をRbに設定したプローブを使用し、
このプローブの伝熱体を測定対象物の表面に密着させて、各温度センサの検出温度が定常状態に達した後の、第1の温度センサの検出温度T1と、第2の温度センサの検出温度T2と、第3の温度センサの検出温度T3と、第4の温度センサの検出温度T4とを取得して、第1の熱流ルートの熱抵抗Raと、第2の熱流ルートの熱抵抗Rbの比をパラメータKとおいた時の深部温度Tcを求める理論式を生成して、
深部温度が既知のTcである場合に、このTcと、実測により得られた上記T1とT2とT3とT4とを上記の深部温度Tcを求める理論式に代入して、上記のパラメータKを逆算して、この新たに求められたパラメータKを、深部温度の測定用演算式に使用することを特徴とする深部温度の測定方法。
【請求項3】
測定対象物の表面に伝熱体を密着させて、深部温度を測定するための方法であって、
上記伝熱体に覆われた測定対象物の表面上の2個所に第1の温度センサと第2の温度センサを配置し、
伝熱体中を、第1の温度センサから測定対象物の表面に対して垂直方向に熱流が伝わった時の、第1の熱流ルート上の熱流到達点に第3の温度センサを配置し、
伝熱体中を、第2の温度センサから測定対象物の表面に対して垂直方向に熱流が伝わった時の、第2の熱流ルート上の熱流到達点に第4の温度センサを配置し、
第1の熱流ルートの熱抵抗をRaとし、第2の熱流ルートの熱抵抗をRbに設定したプローブを使用し、
このプローブの伝熱体を測定対象物の表面に密着させて、各温度センサの検出温度が定常状態に達した後の、第1の温度センサの検出温度T1と、第2の温度センサの検出温度T2と、第3の温度センサの検出温度T3と、第4の温度センサの検出温度T4とを取得して、第1の熱流ルートの熱抵抗Raと、第2の熱流ルートの熱抵抗Rbの比をパラメータKとおいた時の深部温度Tcを求める理論式を下式(A)としたときに、
深部温度が既知のTcである場合に、このTcと、実測により得られた上記T1とT2とT3とT4とを上記の理論式に代入して、上記のパラメータKを下式(B)により逆算して、この新たに求められたパラメータKを、深部温度の測定用演算式に使用することを特徴とする深部温度の測定方法。
【数1】
【請求項4】
環境温度TeごとにパラメータKを求めておき、環境温度に応じて選択したパラメータKを、深部温度の測定用演算式に使用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の深部温度の測定方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法によりパラメータKを求める手段と、そのパラメータKを使用して、深部温度の測定用演算を実行する手段とを備えたことを特徴とする深部温度計。
【請求項6】
環境温度Teを測定する温度センサを備え、請求項5に記載の方法により複数種類のパラメータKを求める手段と、それらのパラメータKを使用して、環境温度に応じた深部温度の測定用演算を実行する手段を備えたことを特徴とする深部温度計。
【請求項7】
深部温度計のコンピュータを請求項5または6に記載の手段として機能させるコンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のコンピュータプログラムを記録したコンピュータで読取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人や動物等の生物や様々な物体の内部の温度を測定する深部温度測定方法と深部温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者や脊髄損傷患者は体温調節機能が低下するので、熱中症や低体温症の危険が高くなる。従って、常時体温計測をする環境が望まれる。しかし、一般の体温計は体温を計測する部位によって測定値がばらつく傾向にある。一方、体内の深い部分の体温は外気温に影響されにくい。このために、各種の深部温度計が開発された(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-308538
【特許文献2】特開2007-212407
【特許文献3】特許6395176号
【特許文献4】特公平5-65090
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知の従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
従来の深部温度計には、後で説明する様々な要因から、測定誤差が生じることがある。上記の特許文献にもその問題を解決する手法が記載されている。本発明はさらに精度が高い深部温度の測定方法と、その方法により作動する実用的な深部温度計を提供することを目的とする。これに加えて、人の体温のみならず動物等の生物や様々な物体の内部の温度を測定するために利用できる深部温度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
<構成1>
測定対象物側に配置した複数の熱流の上流側の温度センサの測定した温度と、測定対象物から離れた位置に配置された上記複数の熱流の下流側の温度センサの測定した温度と、環境温度センサにより測定した温度と、いずれかの上流側の温度センサと、いずれかの下流側の温度センサの間の複数の熱流路の熱抵抗の比との関係を示す理論式を生成して、
深部温度が既知である場合に、この深部温度と上記温度センサにより測定した温度とを上記理論式に代入して、上記の複数の熱流路の熱抵抗の比を示すパラメータKを逆算する演算をして、この新たに求められたパラメータKを、その後の深部温度の測定用演算式に使用することを特徴とする深部温度の測定方法。
【0006】
<構成2>
測定対象物の表面に伝熱体を密着させて、深部温度を測定するための方法であって、
上記伝熱体に覆われた測定対象物の表面上の2個所に第1の温度センサと第2の温度センサを配置し、
伝熱体中を、第1の温度センサから測定対象物の表面に対して垂直方向に熱流が伝わった時の、第1の熱流ルート上の熱流到達点に第3の温度センサを配置し、
伝熱体中を、第2の温度センサから測定対象物の表面に対して垂直方向に熱流が伝わった時の、第2の熱流ルート上の熱流到達点に第4の温度センサを配置し、
第1の熱流ルートの熱抵抗をRaとし、第2の熱流ルートの熱抵抗をRbに設定したプローブを使用し、
このプローブの伝熱体を測定対象物の表面に密着させて、各温度センサの検出温度が定常状態に達した後の、第1の温度センサの検出温度T1と、第2の温度センサの検出温度T2と、第3の温度センサの検出温度T3と、第4の温度センサの検出温度T4とを取得して、第1の熱流ルートの熱抵抗Raと、第2の熱流ルートの熱抵抗Rbの比をパラメータKとおいた時の深部温度Tcを求める理論式を生成して、
深部温度が既知のTcである場合に、このTcと、実測により得られた上記T1とT2とT3とT4とを上記の深部温度Tcを求める理論式に代入して、上記のパラメータKを逆算して、この新たに求められたパラメータKを、深部温度の測定用演算式に使用することを特徴とする深部温度の測定方法。
【0007】
<構成3>
測定対象物の表面に伝熱体を密着させて、深部温度を測定するための方法であって、
上記伝熱体に覆われた測定対象物の表面上の2個所に第1の温度センサと第2の温度センサを配置し、
伝熱体中を、第1の温度センサから測定対象物の表面に対して垂直方向に熱流が伝わった時の、第1の熱流ルート上の熱流到達点に第3の温度センサを配置し、
伝熱体中を、第2の温度センサから測定対象物の表面に対して垂直方向に熱流が伝わった時の、第2の熱流ルート上の熱流到達点に第4の温度センサを配置し、
第1の熱流ルートの熱抵抗をRaとし、第2の熱流ルートの熱抵抗をRbに設定したプローブを使用し、
このプローブの伝熱体を測定対象物の表面に密着させて、各温度センサの検出温度が定常状態に達した後の、第1の温度センサの検出温度T1と、第2の温度センサの検出温度T2と、第3の温度センサの検出温度T3と、第4の温度センサの検出温度T4とを取得して、第1の熱流ルートの熱抵抗Raと、第2の熱流ルートの熱抵抗Rbの比をパラメータKとおいた時の深部温度Tcを求める理論式を下式(A)としたときに、
深部温度が既知のTcである場合に、このTcと、実測により得られた上記T1とT2とT3とT4とを上記の理論式に代入して、上記のパラメータKを下式(B)により逆算して、この新たに求められたパラメータKを、深部温度の測定用演算式に使用することを特徴とする深部温度の測定方法。
【数1】
【0008】
<構成4>
環境温度TeごとにパラメータKを求めておき、環境温度に応じて選択したパラメータKを、深部温度の測定用演算式に使用することを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の深部温度の測定方法。
【0009】
<構成5>
構成1乃至3のいずれかに記載の方法によりパラメータKを求める手段と、そのパラメータKを使用して、深部温度の測定用演算を実行する手段とを備えたことを特徴とする深部温度計。
【0010】
<構成6>
環境温度Teを測定する温度センサを備え、構成5に記載の方法により複数種類のパラメータKを求める手段と、それらのパラメータKを使用して、環境温度に応じた深部温度の測定用演算を実行する手段を備えたことを特徴とする深部温度計。
【0011】
<構成7>
深部温度計のコンピュータを構成5または6に記載の手段として機能させるコンピュータプログラム。
【0012】
<構成8>
構成7に記載のコンピュータプログラムを記録したコンピュータで読取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0013】
第1の熱流ルートの熱抵抗Raと、第2の熱流ルートの熱抵抗Rbの比をパラメータKとおいた時の深部温度Tcを求める理論式のパラメータKの値を書き直すことにより、高い精度で深部温度の測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は既知の深部温度計の原理と課題の説明図である。
【
図2】
図2は理論的な深部温度の算出方法の説明図である。
【
図3】
図3はパラメータKの算出式を示す説明図である。
【
図5】
図5は実測のための装置と温度計の演算装置のブロック図である。
【
図6】
図6は実測結果の一例を示すデータ説明図である。
【
図7】
図7は実測結果の一例を示す別のデータ説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、例えば、
図1(a)に示したような形状のプローブ10を使用して深部温度を測定する。
図1に示すように、このプローブ10を、例えば、患者の額等の体表面12に密着させて、深部温度を測定する。体表面12に密着させる伝熱体14には、皮膚よりも熱伝導率が低いスポンジ等の材料を使用する。プローブ10の上面は例えば、伝熱体14よりも熱伝導率が高いアルミニウム板で覆う。全体の形状は後で説明する
図4(a)に例示した。
【0016】
伝熱体14に覆われた体表面12上の2個所に、第1の温度センサ16と第2の温度センサ18を配置する。第1の温度センサ16と第2の温度センサ18の間の距離は例えば、数ミリメートル程度である。この伝熱体14には、垂直方向(体表面に対して垂直方向)の温度差により、矢印A方向(第1の熱流ルート)と矢印B方向(第2の熱流ルート)にそれぞれ熱流が生じる。
【0017】
この伝熱体14中を、第1の温度センサ16から体表面12に対して矢印A方向に熱流が伝わった時の第1の到達点に、第3の温度センサ20を配置する。
【0018】
矢印B方向の熱流は矢印Aの周りの環状の熱流である。この伝熱体14中を、第2の温度センサ18から体表面12に対して矢印B方向に熱流が伝わった時の第2の到達点に第4の温度センサ22を配置する。
【0019】
深部温度の測定を開始後、この状態で各温度センサの検出温度が定常状態に達するまで待機する。時間が経過すると、各部の温度が上昇して、矢印A上の温度分布と矢印B上の温度分布が、
図1(b)に示すようになる。
【0020】
このとき、第1の温度センサ16の検出温度T1と、第2の温度センサ18の検出温度T2と、第3の温度センサ20の検出温度T3と第4の温度センサ22の検出温度T4との大小関係は、Tc>T1>T3、Tc>T2>T4、のようになる。
【0021】
図2では、この深部温度計を使用したときの深部温度を理論的に算出する手順を示している。第1の熱流ルート上の熱流Ia、第2の熱流ルート上の熱流Ib、皮下組織の熱抵抗Rm、第1の熱流ルートの熱抵抗Ra、第2の熱流ルートの熱抵抗Rb、としたときに、第1の熱流ルート上の熱流と各部の温度の関係と、第2の熱流ルート上の熱流と各部の温度の関係は
図2に示すようになる。
【0022】
その結果、
図2のように、皮下組織の熱抵抗Rmを求める2種類の関係式(1)と(2)を得ることができる。ここで、第1の温度センサ16から第3の温度センサ20までの伝熱体14の熱抵抗Raと、第2の温度センサ18から第4の温度センサ22までの伝熱体14の熱抵抗Rbとの比を、K=Ra/Rb(関係式(3))とする。上記の関係式(1)(2)(3)から、深部温度Tcを求めるための関係式(4)が得られる。
【0023】
従来はこの関係式により理論的に深部温度を求めるようにしていた。しかしながら、これは、
図1(b)に示すように、矢印A上の温度分布と矢印B上の温度分布の関係から、
図1(c)に示すように、横方向の温度差に応じた横方向の熱流が生じるために、プローブの素材や構造によって、測定誤差が生じていた。
【0024】
そこで、本発明では、まず、
図3に示すように、深部温度Tcを求めるための関係式(A)をつくる。この関係式(A)は、
図2の関係式(4)の(T1-T3)の項を(T1-T2)に置き換えたものである。これは、
図3に示した矢印XやY方向の熱流による誤差を最小にするように、T1とT2の温度差が計算結果に強く反映するように、理論式を変形したものである。
【0025】
このほかにも、横方向の熱流を考慮して、上記T1とT2とT3とT4とパラメータKとを使用して理論的に深部温度Tcを求めるための変形した関係式をつくることができる。上記の関係式(A)は、本発明への適用に特に有効なことが明らかになったので、以下にその関係式を使用した実施例を示す。
【0026】
まず、関係式(A)からパラメータKを逆算する関係式(B)をつくる。深部温度が既知のTcである試験装置を使用して、このTcと、実測により得られた上記T1とT2とT3とT4とを使用して、関係式(B)により新たなパラメータKを求める。即ち、パラメータKを上記の関係式(3)の内容にかかわらず、新たな数値に置き換えてしまう。
【0027】
図4の(a)と(b)には、2種類のプローブの斜視図を例示した。(a)は、大径の円板と小径の円板を重ねた構造をしており、円柱状の柱28と鍔状部30を備える。(b)は鍔状部30の一部だけを残したように、円柱状の柱28と張出し部31を備える。いずれも上記の熱抵抗Raと熱抵抗Rbの比は等しく設計されている。上記の関係式(4)により理論的に深部温度を求めるといずれも同じ結果が得られる。しかし、これらのプローブにより、さらに高い精度で深部温度を測定することができる。それを以下の実施例で説明する。
【実施例0028】
まず、
図5に示すように深部温度の測定のための試験装置を準備した。これは、プローブを額に当てて、頭蓋骨の内側の体温を測定する場合を想定している。まず、恒温槽に温水を満たし、その水面にアルミ板と石膏板を重ねて配置する。石膏板の上には上記の構造のプローブを配置する。このプローブは、上記のように、スポンジの上面をアルミニウム板で被った構造をしている。
【0029】
温水の温度Tcは深部温度である。これを摂氏37度に設定した。この温水に接するように熱伝導率の良いアルミニウム板等を配置し、頭部の骨や皮膚を模擬した石膏板を配置した。石膏板の厚みも実際の生体に合わせてある。これらは装着部位に合わせた形状にするとよい。人間の皮膚や頭蓋骨の熱伝導率に近いものとして石膏板を使用した。温水以外に電気ヒータその他の熱源を用いてもよい。頭部を模擬する石膏板は、例えば装着部位に合わせて模擬した他の素材を用いても良い。
【0030】
(a)に示すように、体表面に相当する部分(石膏板上)に2カ所温度センサが配置されている。さらに体表面から一定距離垂直に離れた2カ所に温度センサが配置されている。これらにより、上記のように、温度T1とT2とT3とT4とを測定する。上記の熱抵抗Raと熱抵抗Rbの比は2に設定してある。
【0031】
図5(b)には本発明の深部温度計全体の実施例ブロック図を示す。4個の温度センサ16、18、20、22の検出信号は、インタフェース32を介して演算処理部34に入力する。さらに、このインタフェース32には、環境温度センサ38が接続されており、その出力信号も演算処理部34に入力する。演算処理部34は、後で説明する演算処理を実行し、その演算処理結果は表示部36に出力される。表示部36には、深部温度TcとパラメータKとが表示される。即ち、プローブの検出信号はコンピュータにより自動的に演算処理されてパラメータKが記憶され設定されて、これが初期設定処理になる。その後はこのパラメータKにより深部温度の算出が行なわれて測定結果として表示される。
【0032】
図6は、
図4(a)に示した構造のプローブを使用した深部温度計の実測値である。
図5(a)に示した試験装置で、深部温度を摂氏37度に設定し、摂氏15度から摂氏40度の付近まで、外気温Teを変えながら試験を行った。各外気温において、それぞれ全ての温度センサで測定した温度が安定してからそれらの測定値を取得した。約10分間で10秒間ごとに60回のデータ取得を行って、その平均値を記録したものが
図6(a)の表である。
【0033】
ここで、
図3に示した関係式(B)に、深部温度Tcと各温度センサの測定値T1とT2とT3とT4を代入して、パラメータKを算出した。その結果、パラメータKの値は、外気温が摂氏15度から摂氏40度の範囲で、1.42~1.46の範囲になることがわかった。理論的な計算によるパラメータKの値は2である。
【0034】
図6(b)は、縦軸に深部温度の真の値との誤差を-1.2~+1.2の範囲で示し、横軸に環境温度を示したグラフである。パラメータKの値を1.44に設定して深部温度を計算すると、環境温度にかかわらず誤差が最小であった。一方、パラメータKの値を2に設定すると、環境温度が摂氏35度付近では高い精度で深部温度を算出できるが、環境温度が低くなると誤差が大きくなることがわかった。
【0035】
即ち、深部温度が既知のTcである場合に、このTcと、実測により得られた上記T1とT2とT3とT4とを使用して上記の関係式によりパラメータKを逆算して、この新たに求められたパラメータKを、深部温度の測定用演算式に使用することで、高い精度で深部温度を測定することができる。
【0036】
このことから、
図5(b)に示した演算処理部34が、プローブを試験装置にセットしたときに所定時間待機して、TcとT1とT2とT3とT4を取得し、自動的に
図3(b)に示した関係式を使用してパラメータKを逆算して、深部温度の測定用演算のための演算式に組み込む処理を実行すれば、自動的に深部温度計の校正ができる。実際の使用時には、そのパラメータKを使用して
図3(A)に示した関係式を用いて深部温度を算出する。
なお、上記の4個の温度センサ16、18、20、22のうちのいずれかが、環境温度に近い温度を測定できるようであれば、その温度センサが環境温度センサを兼用しても構わない。
第1と第2の温度センサは測定対象物側に配置されていればよい。また、第3と第4の温度センサも、測定対象物から離れた位置に配置されていればよい。複数の熱流路上の上流側の温度センサの測定した温度と下流側の温度センサの測定した温度が取得できればよい。2本以上の熱流路が設けられていればよいが、3本以上の熱流路がある場合には、そのつど適切な測定値を示す熱流路を2本選択して理論式を求めてもよい。物理的に近似している熱流路があれば、温度センサによる温度測定値の平均値を利用して1本分の熱流路上の温度測定値にするとよい。いずれの場合も、2本の熱流路を選択して、上流側温度センサと下流側温度センサの間の熱抵抗の比をKとして、環境温度を計算する理論式を求めるとよい。
例えば、熱流路ごとに理論式を変えて、上記のKを求める複数種類の関係式を生成できる。これらの関係式を使用して、別々のパラメータKを求めて、平均値を使用したり、いずれか一方を選択するようにしてもよい。また、同じ関係式を使用しても、熱流路ごとに温度センサの測定値がそれぞれ相違するので、例えば、3本以上の熱流路の中から2本の熱流路の組合せを選んで、それぞれの組合せについて複数種類のパラメータKを求めるようにしてもよい。この場合も、パラメータKの平均値を採用したり、いずれか一方を採用するようにするとよい。
上記の試験装置からわかるように、本発明の深部温度測定方法や深部温度計は、人の体温のみならずペットや家畜等の各種生き物はもとより、様々な対象物の深部温度を間接的に測定する用途に広く利用することができる。