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特開2022-188828複数のエーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188828
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】複数のエーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/30 20060101AFI20221215BHJP
   C07C 43/215 20060101ALI20221215BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C07C41/30
C07C43/215
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097053
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】和田 佳奈子
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC24
4H006BA19
4H006BA21
4H006BA39
4H006BA48
4H006GP03
4H039CD20
4H039CD90
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安価かつ簡便な工程で、複数のエーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】芳香族ハロゲン化合物と金属マグネシウムとを、アミンの存在下で反応させ、得られた式(2)

で表される化合物とビニルハライドとを、遷移金属触媒の存在下で反応させる、式(3)

で表されるオキシスチレン誘導体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化5】
(式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、酸不安定基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化合物と金属マグネシウムとを、第3級アミンの存在下で反応させて、下記一般式(2)
【化6】
(式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、酸不安定基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。)で表される化合物を得た後、前記一般式(2)で表される化合物とビニルハライドとを、遷移金属触媒の存在下で反応させる工程を含むことを特徴とする、下記一般式(3)
【化7】
(式(3)中、RおよびRはそれぞれ独立して、酸不安定基を示す。)
で表されるオキシスチレン誘導体の製造方法。
【請求項2】
遷移金属触媒に含まれる遷移金属が、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
遷移金属触媒に含まれる遷移金属が、鉄及び/又はニッケルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
第3級アミンが、脂肪族第3級アミンであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
ビニルハライドが、塩化ビニル及び/又は臭化ビニルであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立に、下記一般式(4)
【化8】
(式(4)中、
およびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す、
または、
もしくはRとRとは、結合して炭素数3~20の環構造を形成し、環内に酸素原子を含んでいてよく、Rと結合しないRもしくはRは水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、
*は酸素原子との結合位置を表す。)
で表される基であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立に、1-メトキシエチル基、1-エトキシエチル基、1-iso-プロポキシエチル基、1-n-ブトキシエチル基、1-tert-ブトキシエチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、iso-プロポキシメチル基、n-ブトキシメチル基、tert-ブトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、(2-アダマンチル)オキシメチル基、または1-(1-アダマンチル)オキシエチル基であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立に、1-エトキシエチル基であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のエーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物の新規な製造方法に関する。さらに詳しくは、エーテル性置換基を複数有するハロゲン化アリールから有機金属化合物を調製し、当該有機金属化合物とハロゲン化ビニルとのクロスカップリング反応によるオキシスチレン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシスチレンをはじめとするオキシスチレン系重合体は、各種の産業分野で機能性高分子材料として使用されている。例えば、電子材料の分野、特に半導体レジスト用樹脂成分の原料としての使用を挙げることができる。また、半導体素子などの層間絶縁膜や表面保護膜に用いられる感光性樹脂成分としての利用も検討されている。
【0003】
そこで、オキシスチレン系重合体の原料となるオキシスチレン化合物を高純度で製造することができる方法の開発が必要とされている。この問題を解決するため、ハロゲン化アリールを原料として、クロスカップリング反応により製造される方法が提案されている。
例えば、特許文献1においては、p-(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼンと金属マグネシウムとからグリニャール試薬を調製し、ニッケル触媒下、臭化ビニルとクロスカップリング反応させて、p-(1-エトキシエトキシ)スチレンを製造する方法が提案されている。
また、特許文献2においては、芳香族ハロゲン化合物と、ターボグリニャール試薬として知られているイソプロピルマグネシウムクロリドの塩化リチウム複合体とを、非環式脂肪族アミン化合物の存在下で反応させ、次いで得られた反応生成物と塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させて、多置換オキシスチレン化合物を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-194842号公報
【特許文献2】特開2021-38196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が特許文献1に記載された製造方法を用いて、複数のエーテル性置換基を有するオキシスチレンの合成を試みたところ、グリニャール化合物と溶媒との反応が主として進行し、目的の化合物を得ることが困難だった。
また、特許文献2に記載された製造方法で使用されるターボグリニャール試薬は高価であり、さらにクロスカップリング反応においてビニル基ではなくターボグリニャール試薬由来のイソプロピル基が導入された化合物が副生するという問題がある。この副生物は、目的のオキシスチレン化合物との分離が困難であるため、副生を抑制する必要がある。加えて、この方法は多量の溶媒を必要とすることも課題となっていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来公知の製造方法よりも経済的かつ簡便な方法で多置換オキシスチレン化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決を図るべく、芳香族ハロゲン化合物をグリニャール化する工程において、金属マグネシウムと第3級アミンを用いることにより、多置換オキシスチレンを工業的規模で経済性良く製造することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に係る。
[1]下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、酸不安定基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化合物と金属マグネシウムとを、第3級アミンの存在下で反応させて、下記一般式(2)
【化2】
(式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、酸不安定基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。)で表される化合物を得た後、前記一般式(2)で表される化合物とビニルハライドとを、遷移金属触媒の存在下で反応させる、下記一般式(3)
【化3】
(式(3)中、RおよびRはそれぞれ独立して、酸不安定基を示す。)
で表されるオキシスチレン誘導体の製造方法。
[2]遷移金属触媒に含まれる遷移金属が、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の製造方法。
[3]遷移金属触媒に含まれる遷移金属が、鉄及び/又はニッケルである、[1]に記載の製造方法。
[4]第3級アミンが、脂肪族第3級アミンであることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか一項に記載の製造方法。
[5]ビニルハライドが、塩化ビニル及び/又は臭化ビニルであることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか一項に記載の製造方法。
[6][1]に記載の一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立して、下記一般式(4)
【化4】
(式(4)中、
およびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す、
または、
もしくはRとRとは、結合して炭素数3~20の環構造を形成し、環内に酸素原子を含んでいてよく、Rと結合しないRもしくはRは水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、
*は酸素原子との結合位置を表す。)
で表される基であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか一項に記載の製造方法。
[7][1]に記載の一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立して、1-メトキシエチル基、1-エトキシエチル基、1-iso-プロポキシエチル基、1-n-ブトキシエチル基、1-tert-ブトキシエチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、iso-プロポキシメチル基、n-ブトキシメチル基、tert-ブトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、(2-アダマンチル)オキシメチル基、または1-(1-アダマンチル)オキシエチル基であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれか一項に記載の製造方法。
[8][1]に記載の一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立して、1-エトキシエチル基であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
上述の通り、本発明によれば、従来処方と比較し安価かつ簡便な方法で、副反応を抑制でき、目的とする複数のエーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で製造した化合物のGC測定チャートであり、X軸(横軸)は保持時間(単位は分(min))を示し、Y軸(縦軸)はピークの相対強度(Intensity、単位は任意)を示す。図中の数字は、ピークの保持時間(単位は分(min))を示す。
図2図1の拡大図を示す図である。
図3】比較例2で製造した化合物のGC測定チャートであり、X軸(横軸)は保持時間(単位は分(min))を示し、Y軸(縦軸)はピークの相対強度(Intensity、単位は任意)を示す。図中の数字は、ピークの保持時間(単位は分(min))を示す。
図4図3の拡大図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物と金属マグネシウムとを、アミンの存在下で反応させて上記一般式(2)で表される化合物を得る工程をグリニャール化工程またはグリニャール化反応と定義する。
さらに、上記一般式(2)で表される化合物とビニルハライドとを、遷移金属触媒の存在下で反応させて、上記一般式(3)で表されるオキシスチレン誘導体を得る工程をクロスカップリング工程またはクロスカップリング反応と定義する。
【0011】
上記一般式(1)において、ベンゼン環にRO基およびRO基が結合しているが、その結合位置は限定されず、RO基およびRO基のそれぞれが、Xで表される基に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。
上記一般式(2)において、ベンゼン環にRO基およびRO基が結合しているが、その結合位置は限定されず、RO基およびRO基のそれぞれが、MgXで表される基に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。
上記一般式(3)において、ベンゼン環にRO基およびRO基が結合しているが、その結合位置は限定されず、RO基およびRO基のそれぞれが、ビニル基に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。
【0012】
およびRの酸不安定基とは、酸と接触するとRおよびRで表される基が脱離して、ヒドロキシ基を形成する基を意味する。
上記一般式(4)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。または、RもしくはRとRとは、結合して炭素数3~20の環構造を形成し、環内に酸素原子を含んでいてよく、Rと結合しないRもしくはR、すなわちRがRと結合する場合はRであり、RがRと結合する場合はRであり、このときのRもしくはRは水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表す。
なお、上記一般式(4)において、「*」は酸素原子との結合位置を表す。すなわち、一般式(4)の構造は、上記一般式(1)であれば、RO基および/又はRO基において、RO、ROの「O」に結合する位置を意味する。
酸不安定基の具体例としては、例えば、1-メトキシエチル基、1-エトキシエチル基、1-iso-プロポキシエチル基、1-n-ブトキシエチル基、1-tert-ブトキシエチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、iso-プロポキシメチル基、n-ブトキシメチル基、tert-ブトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、(2-アダマンチル)オキシメチル基、1-(1-アダマンチル)オキシエチル基等が挙げられる。これらの中でも、特に1-エトキシエチル基が好ましい。
【0013】
本発明の方法において使用される金属マグネシウムは、グリニャール反応において通常使用される公知の形状のマグネシウムをそのまま使用できる。具体的には、粉末、薄片、顆粒、チップ、塊状、削片などの形態を挙げることができる。
金属マグネシウムの使用量としては、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、1.0倍モル以上であれば良い。さらに、経済的な点及び後処理の容易さから1.0倍モル~2.0倍モルの範囲が好ましく、1.0倍モル~1.4倍モルの範囲であることがより好ましい。
【0014】
本発明において、活性化した金属マグネシウムを用いた場合、特に良好な結果が得られる。金属マグネシウムの活性化法としては、特に限定するものではないが、溶媒に懸濁させた金属マグネシウムを加熱撹拌する方法や、これに微量のヨウ素、ヨウ化メチルのようなヨウ化物、ブロモエタン、ジブロモエタンのような臭化物等を添加して撹拌する方法が有効である。
添加するヨウ化物または臭化物の使用量に格別の限定はないが、金属マグネシウムに対し、0.01倍モル量~0.5倍モル量の範囲が選ばれる。
【0015】
本発明において使用される第3級アミンとしては、脂肪族第3級アミンであることが好ましい。
具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-ヘキサメチルトリエチレンテトラミンなどを挙げることができる。これらの内でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンはグリニャール化反応およびクロスカップリング反応の反応性、選択性を両立する上で好ましく用いられ、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンがより好ましく用いられる。
アミンの使用量としては、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、1.0倍モル以上であれば良い。さらに、経済的な点及び、アミンが金属触媒に配位してクロスカップリング反応の反応性が低下する可能性があることから、1.0倍モル~3.0倍モルの範囲であることが好ましく、1.0倍モル~2.0倍モルの範囲がより好ましい。
【0016】
本発明の方法において使用されるビニルハライドは、フッ化ビニル、塩化ビニル、臭化ビニル、ヨウ化ビニルであり、これらを単独に又は混合物として使用することができる。これらのうち通常は、反応性、経済性及び入手の容易さを考慮して塩化ビニル及び/又は臭化ビニルが選ばれる。
ビニルハライドの使用量としては、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、1.0倍モル以上であればよく、経済性や後処理工程での煩雑さを考慮すると、1.4倍モル以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の方法において使用される遷移金属触媒は、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、パラジウム及びロジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種類の金属を含有する触媒の使用が特に有効である。
【0018】
本発明において、鉄を含有する触媒とは、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(II)、ヨウ化鉄(III)、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、酢酸鉄(II)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、鉄(III)アセチルアセトナート、硝酸鉄(III)、リン酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)等の化合物や鉄粉、それらの化合物の水和物、又はそれらの化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0019】
本発明において、コバルトを含有する触媒とは、例えば、塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、ヨウ化コバルト(II)、フッ化コバルト(II)、酢酸コバルト(II)、酢酸コバルト(III)、ギ酸コバルト(II)、シュウ酸コバルト(II)、安息香酸コバルト(II)、ステアリン酸コバルト(II)、ホウ酸コバルト(II)、コバルト(II)アセチルアセトナート、炭酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、リン酸コバルト(II)等の化合物やコバルト粉末、それらの化合物の水和物、又はそれら化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0020】
本発明において、マンガンを含有する触媒とは、例えば、塩化マンガン(II)、臭化マンガン(II)、ヨウ化マンガン(II)、フッ化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、ギ酸マンガン(II)、シュウ酸マンガン(II)、安息香酸マンガン(II)、ステアリン酸マンガン(II)、ホウ酸マンガン(II)、マンガン(II)アセチルアセトナート、マンガン(III)アセチルアセトナート、炭酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、リン酸マンガン(II)等の化合物やマンガン粉末、それら化合物の水和物、又はそれら化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0021】
本発明において、ニッケルを含有する触媒とは、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、フッ化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、ニッケル(II)アセチルアセトナート等の化合物やニッケル粉末、それら化合物の水和物、又はそれら化合物から誘導される各種錯体触媒が挙げられる。
【0022】
本発明において、パラジウムを含有する触媒とは、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウム(II)アセチルアセトナート等の化合物やパラジウム粉末、それら化合物の水和物、又はそれら化合物から誘導される各種錯体触媒が挙げられる。
【0023】
本発明において、ロジウムを含有する触媒とは、例えば、塩化ロジウム(II)、臭化ロジウム(II)、酢酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(III)、ロジウム(II)アセチルアセトナート、ロジウム(III)アセチルアセトナート等の化合物や、ロジウム粉末、ロジウム-カーボン、それら化合物の水和物、又はそれら化合物から誘導される各種錯体触媒等が挙げられる。
【0024】
また、各種の配位子を併用しても良く、配位子の添加方法としては、上記の遷移金属化合物と配位子を予め系外で反応させてから添加する方法、反応系に上記の遷移金属化合物と配位子を添加し、系内で調製する方法がとられる。配位子としては、上記の遷移金属化合物に配位するものであれば何れでも良く、リン系化合物、窒素系化合物、オレフィン系化合物等が選ばれる。特にリン系化合物が配位子として好ましい。
配位子の具体的な例としては、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン[dppe]、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン[dppp]、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン[dppb]、トリフェニルホスフィン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン[dppf]、1,1’-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセン、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1-ビナフチル[BINAP]、ビス(2-ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル[DPEphos]、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ザンテン[XANTphos]、トリ-tert-ブチルホスフィン、1,5-シクロオクタジエン[COD]、2,2’-ビピリジル等が例示される。
【0025】
錯体触媒の具体的な例としては、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)ジクロリド、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド、[1,1’-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド等が例示される。
【0026】
本発明の方法における遷移金属触媒の使用量に格別の限定はないが、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対し、0.001モル%~20.0モル%の範囲であり、好ましくは0.01モル%~10.0モル%の範囲であり、より好ましくは0.01モル%~1.0モル%の範囲である。また、配位子の使用量は特に限定されないが、遷移金属化合物に対し、0.5倍モル量~10倍モル量の範囲が選ばれる。
【0027】
本発明の方法は、通常、窒素及び/又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下に、溶媒中で実施される。本発明の方法において使用されるグリニャール反応およびその後のクロスカップリング反応の溶媒としては格別の限定はないが、エーテル系溶媒、含酸素系溶媒、含窒素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられる。好ましくはエーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒が用いられ、具体的には、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,4-ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が例示される。また、溶媒は単一で用いても混合して用いても良い。
本発明の方法における溶媒の使用量に格別の限定はないが、グリニャール化反応時の溶媒量は、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対し、0.5重量倍量~20.0重量倍量の範囲であり、1.0重量倍量以下でも実施可能なほど溶媒の使用量が減らせる点で有用である。また、カップリング時に加える溶媒量は、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対し、0.5重量倍量~20.0重量倍量の範囲であり、溶媒の使用量が少量になる点で有用である。
【0028】
本発明の方法におけるグリニャール化反応の温度は、-20℃~70℃の範囲であり、好ましくは0℃~40℃の範囲である。また、カップリング反応の温度は、-40℃~90℃の範囲であり、好ましくは-20℃~40℃の範囲である。
本発明の方法におけるカップリング反応の実施形態としては、製造したグリニャール試薬の溶液中に、ビニルハライドを添加する反応で実施しても良いし、ビニルハライド中にグリニャール試薬を添加して反応を実施しても良い。
【0029】
反応終了後は、常法に従い反応液を中和処理した後、有機層を分離する。続いて、有機層を水洗処理し、溶媒を留去した後、通常の精製操作、例えば、蒸留、再結晶などの操作により、目的とするオキシスチレン誘導体を得る。
【実施例0030】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0031】
なお、クロスカップリング反応により取得した化合物の純度については、以下の条件により、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析した。
・装置:GC-2025(株式会社島津製作所製)
・カラム:キャピラリーカラムNB-5(ジーエルサイエンス株式会社製)
また、収率については、核磁気共鳴分析で下記条件により求めた値である。
・装置:AVANCE II 400(BRUKER製)
・溶媒:重アセトン
・内部標準:1,3,5-トリメトキシベンゼン
【0032】
合成例1
温度計を装着した200mL四つ口フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、4-ブロモカテコール 113.41g(600mmol)、トリフルオロ酢酸 0.68g(6.0mmol)、トルエン 466.67gを加え、エチルビニルエーテル 103.84g(1.44mol)を25℃で3時間かけて滴下した。同温にて3日間熟成した。
反応終了後、得られた反応液を10℃まで冷却し、20%水酸化ナトリウム水溶液 137gを加え、30分間撹拌した。分液後、溶媒を減圧留去し、赤褐色液体として3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼンを198.07g(収率99%)を得た。
【0033】
実施例1 3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレン(以下、「化合物1」とする。)の合成
温度計を装着した50mL四つ口丸底フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、金属マグネシウム 0.46g(18.8mmol)、テトラヒドロフラン 5.41g、ブロモエタン 0.10g(0.90mmol)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン 2.09g(18.0mmol)を加え、撹拌下に10℃まで冷却し、合成例1で取得した3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼン 5.81g(15.0mmol)を同温にて30分かけて滴下した。滴下後、10℃で3時間熟成してグリニャール試薬を得た。
上記の操作によって得られたグリニャール試薬に、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド 0.053g(0.10mmol)とトルエン 6.08gを加えた後、0℃まで冷却し、塩化ビニルガス 1.03g(16.5mmmol)を30分かけて吹き込んだ。
反応終了後、反応液に20%塩化アンモニウム水溶液 15.0gを加えて生成した塩を溶解し、有機層を分離した。得られた有機層を2%水酸化ナトリウム水溶液 10.0gで2回洗浄後、溶媒を減圧留去した。
【0034】
取得した化合物を核磁気共鳴分析、質量分析により分析し、その結果、当該化合物は3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレンであることを確認した。また、核磁気共鳴分析により定量した収率は73%であった。
得られた化合物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、溶媒との反応物である3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)ベンゼンブタノール(以下、「化合物2」とする。)は検出されなかった。すなわち図1及び図2に示すGCチャートから分かるように、化合物1を検出したが、化合物2はGCピーク面積で0.1%未満であり、ターボグリニャール試薬由来のイソプロピル基が導入された1,2-ビス(1-エトキシエトキシ)-4-(1-メチルエチル)-ベンゼン(以下、「化合物3」とする。)は未検出であった。この結果を他の例と共に表1に示す。
【0035】
実施例2 3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレン(化合物1)の合成
実施例1において、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンの代わりにN,N-ジメチルシクロヘキシルアミンを使用し、グリニャール試薬調製時を20℃、熟成時間を18時間で行った以外は、実施例1と同様に行った。上記の通り取得した化合物を分析した結果を表1に示す。
【0036】
実施例3 3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレン(化合物1)の合成
実施例1において、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンの代わりにトリエチルアミンを使用し、グリニャール試薬調製時の熟成時間を22時間に延ばした以外は、実施例1と同様に行った。上記の通り取得した化合物を分析した結果を表1に示す。
【0037】
実施例4 3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレン(化合物1)の合成
実施例1において、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリドの代わりに塩化鉄(III)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。上記の通り取得した化合物を分析した結果を表1に示す。
【0038】
比較例1 アミンを使用しない場合
実施例1において、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを使用せず、グリニャール試薬調製を25℃、熟成時間を18時間で行い、塩化ビニルガス吹き込みを20℃で行った以外は、実施例1と同様に行った。得られた化合物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、化合物2を61%含んでいた。結果を表1に示す。
【0039】
比較例2 ターボグリニャール試薬を使用した場合
温度計を装着した200mL四つ口丸底フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼン 5.81g(15.0mmol)、テトラヒドロフラン 15.00g、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン 3.12g(18.0mmol)を加え、撹拌下に0℃まで冷却し、イソプロピルマグネシウムクロリド 塩化リチウム錯体・テトラヒドロフラン溶液(濃度14%) 17.13g(16.5mmol)を同温にて1時間かけて滴下した。滴下後、10℃で24時間熟成してグリニャール試薬を得た。
上記の操作によって得られたグリニャール試薬に、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド 0.053g(0.10mmol)とトルエン 10.00gを加えた後、15℃まで昇温し、塩化ビニルガス 1.03g(16.5mmol)を30分かけて吹き込んだ。
反応終了後、反応液に20%塩化アンモニウム水溶液 40.0gを加えて生成した塩を溶解し、有機層を分離した。得られた有機層を2%水酸化ナトリウム水溶液 35.0gで2回洗浄後、溶媒を減圧留去した。
上記の通り取得した化合物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、ターボグリニャール試薬由来のイソプロピル基が導入された1,2-ビス(1-エトキシエトキシ)-4-(1-メチルエチル)-ベンゼン(化合物3)を6%含んでいた。すなわち図3及び図4に示すGCチャートから分かるように、化合物1を検出した。さらに、化合物2はGCピーク面積で1%、化合物3は6%検出した。この結果を他の例と共に表1に示す。
【0040】
以上の実施例1~4および比較例1~2の結果を表1に示した。
【表1】
【0041】
上記の通り、本発明の製造方法によれば、目的の化合物1を経済的かつ簡便に合成できる。また、溶媒との副反応によって生成する化合物2や、化合物1との分離が困難な化合物3の副生を抑制できる点で有用である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の多置換オキシスチレン化合物を製造する方法は、経済的かつ簡便な工程で、複数のエーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物を製造することが可能である。従って本発明は、産業上非常に有用である。
図1
図2
図3
図4