(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188859
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】光フィルター
(51)【国際特許分類】
G02B 5/00 20060101AFI20221215BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G02B5/00 Z
G02F1/1335 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097110
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】308034095
【氏名又は名称】株式会社オプティックス
(71)【出願人】
【識別番号】594162537
【氏名又は名称】株式会社ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】庄野 裕夫
【テーマコード(参考)】
2H042
2H291
【Fターム(参考)】
2H042AA02
2H042AA03
2H042AA18
2H042AA19
2H042AA26
2H291FA96X
2H291FB02
2H291LA25
2H291LA26
(57)【要約】
【課題】特定方向では良好な視野を保持しつつも、他の方向からは見えにくくし、かつ、光フィルターによる明るさの低減を抑制できる光フィルターを提供する。
【解決手段】本発明の光フィルター10は、光透過性基材11と、光透過性基材11の一方の面上に形成された光透過性を有する複数の帯状凸部12と、を有し、隣り合う複数の帯状凸部12は、互いに離間している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材と、
前記光透過性基材の一方または両方の面上に形成された光透過性を有する複数の帯状凸部と、
を有し、
隣り合う前記複数の帯状凸部は、互いに離間している、光フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の光フィルターにおいて、
前記帯状凸部の短手方向における断面形状が四角形である、光フィルター。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光フィルターにおいて、
前記帯状凸部は直線状である、光フィルター。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
平面視において、前記複数の帯状凸部が格子状に配置されている、光フィルター。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記帯状凸部の高さをTr(mm)、隣り合う前記帯状凸部の離間距離をWb(mm)としたとき、Tr/Wbが1.0~2.0である、光フィルター。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記帯状凸部の上面の幅をWt(mm)、隣り合う前記帯状凸部の離間距離をWb(mm)としたとき、Wt/Wbが0.7~1.4である、光フィルター。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記光透過性基材の一方の面に対する、前記帯状凸部の側壁の傾斜角度が90~100°である、光フィルター。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記光透過性基材の両方の面上に前記複数の帯状凸部を有する、光フィルター。
【請求項9】
請求項8に記載の光フィルターにおいて、
前記光透過性基材の一方の面上の前記複数の帯状凸部と、前記光透過性基材の他方の面上の前記複数の帯状凸部とが互いに交差する、光フィルター。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記光透過性基材が複数であって、
前記複数の帯状凸部から構成される層と、前記光透過性基材とが、交互に積層した、光フィルター。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記光フィルターの厚みが0.1~2.0(mm)である、光フィルター。
【請求項12】
請求項1乃至11いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記光透過性基材が、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、シクロオレフィン樹脂、およびポリスチレン樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、光フィルター。
【請求項13】
請求項1乃至12いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記帯状凸部は、光硬化性樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、光フィルター。
【請求項14】
請求項1乃至13いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
前記複数の帯状凸部を覆うように光透過性フィルムが積層されている、光フィルター。
【請求項15】
請求項1乃至14いずれか一項に記載の光フィルターにおいて、
窓ガラスおよび/または液晶画面に貼り付けられるように構成された、光フィルター。
【請求項16】
請求項1乃至15いずれか一項に記載の光フィルターが窓ガラスに貼り付けられた、窓材。
【請求項17】
請求項1乃至15いずれか一項に記載の光フィルターが液晶画面に貼り付けられた、液晶画面表示機材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プライバシー保護等の観点から、パソコンなどの電子機器の液晶表示画面や窓ガラスに光を選択的に透過させる光フィルターが用いられている。
【0003】
例えば、窓ガラス等を通して、太陽光を選択的に制御する技術として特許文献1,2に記載のものが知られている。具体的には、特許文献1には、光透過性を有する樹脂基材の両面に櫛型の遮光層を備える視野角制御フィルムが開示されている。かかる遮光層としては、光吸収剤を含むもの、または光反射材を含むものが挙げられている。また、特許文献1によれば、視野角制御フィルムは、鉛直方向または水平方向に対する目隠し機能を有するものとして用いられている。
【0004】
また、特許文献2には、エンボス加工された面を有する透明樹脂フィルムと、エンボス加工された面をガラス板などに貼着し、ガラス板の端面からガラス板に向けて光を照射させる、光ブラインド装置が開示されている。そして、光を照射した光を透明樹脂フィルムのエンボス加工の溝(凹部)に反射させることで、反射した光をみた人が、ガラス板の向こう側を透過してみることができなくなるブラインド効果が得られることが開示されている。
【0005】
一方、液晶表示画面に有用な光フィルターとして、例えば、特許文献3には、一方の面に凸部を有する樹脂シートによる視野角制御フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-182052号公報
【特許文献2】特開2018-178409号公報
【特許文献3】特開2016-95393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される技術は、プライバシー保護のため水平方向に対する光を遮断することに着目したものであった。そして、光透過性を有する樹脂基材の両面に遮光層を備えるため、モアレが生じやすく、水平方向での良好な視野を得る点で十分ではなかった。また、上記の光吸収剤を用いた場合、光が吸収され、明るさが低減するという問題があった。加えて、溝を形成したのちに光吸収剤または光反射剤を充填するものであるため、製造効率、生産性の点で、改善の余地があった。
【0008】
特許文献2に開示される技術は、エンボス加工によりガラス板の端部から入射する光を散乱させるものであり、ガラス板の一方の面側の光が他方の面側に透過する場合の光の選択的透過性に着目したものではなかった。
また、特許文献3に開示される技術は、三角形の凸部によりある特定の入射角の範囲の光を全反射させて透過光の方向を選択するものであり、左傾斜面と右傾斜面で選択範囲が異なり良好な視野を得ることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者は、特定方向では良好な視野を保持しつつも、他の方向からは見えにくくし、かつ、光フィルターによる明るさの低減を抑制することに新たに着目し検討を行った。その結果、光フィルターの表面形状を四角形の凹凸とすることで、四角形の平行な2辺を介して特定方向の良好な視野を得つつも、凹凸の側壁において光を反射・屈折させることで、光が散乱でき明るさを保持できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、
光透過性基材と、
前記光透過性基材の一方の面上に形成された光透過性を有する複数の帯状凸部と、
を有し、
隣り合う前記複数の帯状凸部は、互いに離間している、光フィルターを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定方向では良好な視野を保持しつつも、他の方向からは見えにくくし、かつ、光フィルターによる明るさの低減を抑制できる光フィルターを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の光フィルターを模式的に示した斜視図である。
【
図2】本実施形態の光フィルターを模式的に示した断面図である。
【
図3】本実施形態の光フィルターでの光路を説明するための模式断面図である。
【
図4】本実施形態の光フィルターの変形例を示す模式断面図である。
【
図5】本実施形態の光フィルターで変形例を示す模式斜視図である
【
図6】本実施形態の光フィルターで変形例を示す模式斜視図である
【
図7】本実施形態の光フィルターで変形例を示す模式斜視図である
【
図8】光フィルターについてのシミュレーションを説明するための図である。
【
図9】光フィルターについてのシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0014】
本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差や組立て上のばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0015】
<光フィルター>
図1は、本実施形態の光フィルター10を模式的に示した斜視図であり、
図2は、本実施形態の光フィルター10を模式的に示した断面図である。
光フィルター10は、光透過性基材11と、光透過性基材11の一方の面上に形成された光透過性を有する複数の帯状凸部12と、を有し、隣り合う複数の帯状凸部12は、互いに離間している。言い換えると、光フィルター10は、一方の面側に、断面形状が四角形の連続する凹部(溝)を有している。すなわち、隣り合う複数の帯状凸部12の間には光透過性基材11の少なくとも一方の面が露出している。
また、
図1に示すように、本実施形態において、帯状凸部12は直線状である。これにより、光の過度な散乱を抑制し、明瞭や視野を得られやすくなる。直線状とは、直線を意図して製造した場合であっても製造過程において生じる微細な凹凸や曲線等が含まれてもよいことを意図する。
【0016】
図1,2に示すように、本実施形態の光フィルター10は、帯状凸部12の短手方向における断面形状は台形となっている。言い換えると、帯状凸部12の短手方向における断面形状が台形であることから、帯状凸部12の上面は平坦になる。その結果、フィルター10の一方の面は、帯状の台形が組み合わされた凹凸形状となる。
なお、本実施形態では帯状凸部12の短手方向における断面形状が台形である場合について説明するが、長方形、正方形、平行四辺形であってもよい。いずれであっても、帯状凸部12の上面は平坦であり、光透過性基材11の面と平行になる。
【0017】
本実施形態の光フィルター10によれば、離間した帯状凸部12の間に露出した光透過性基材11と台形部平行面を介して光が透過できるため良好な視野が得られるとともに、帯状凸部12側面により視野が制御されつつ、帯状凸部12が光透過性を有することから明るさを保持できる。一方で、帯状凸部12の断面が台形であることから、平坦な上面を介して光が透過できるため良好な視野が得られるとともに、帯状凸部12により視野が制御されつつ、帯状凸部12が光透過性を有することから明るさを保持できる。
【0018】
より詳細には、本実施形態の光フィルター10は、
図3に示すような光路となっている。
まず、光透過性基材11上に複数の帯状凸部12が形成されている。帯状凸部12の各頂点を順に、コーナーA1、B1、C1、D1、A2、B2、C2、D2、A3、B3、C3、D3、A4、B4、C4、およびD4とする。
次に、光フィルター10の底面に、視認する画像、図面等が接しているとする。
この場合、
図3に示されたP1から出射した光線がコーナーD1、B2を通過し、Q1方向へ、P2から出射しA2、C1を通過しQ2へ至るとする。このとき、方向Q1、Q2の間にヒトの瞳が存在すれば、P1~P2の間の領域が視認できる。
また、P3およびP4からから出射した光線がQ3方向およびQ4方向へ出射するとする。このとき、方向Q3、Q4の間に瞳が存在すれば、P3~P4の間の領域が視認できる。
そのほかの光線の進行方向は場合によって異なり複雑になる。例えば、(i)の光線のように最終的に水平方向に近くになったり、(ii)の光線のように帯状凸部12の内部で全反射を繰り返し迷光となる。
一方で、光フィルター10から瞳が存在する空間へ出射する光線も多くあるが、画像からの光線とは出射位置や出射方向が大きくずれているので、その場合、元の図面上の画像に対する雑音光として観察される。
したがって、瞳に入ってくるQ1、Q2またはQ3、Q4の方向内に対応する領域の元の画像は明瞭に視認可能である。
また、帯状凸部12の側壁に入射した光線は、元の画像に重畳される雑音光となり、その光量は正視方向からずれるにしたがって大きくなる。
【0019】
本実施形態の光フィルター10の厚みは、0.1mm以上、2.0mm以下であり、好ましくは0.3mm以上、1.5mm以下である。光フィルター10の厚みを、上記下限値以上とすることにより、光の視野角制御特性が良好になり、上記上限値以下とすることにより、窓や液晶画面に貼着して使用しやすくなる。
なお、
図2に示すように、光フィルター10の厚み(Tf)とは、光透過性基材11の厚みと帯状凸部12の高さの合計値である。
【0020】
以下、本実施形態の光フィルター10の各構成について、説明する。
【0021】
[光透過性基材]
光透過性基材11は、本実施形態の光フィルター10の基材であり、板状またはフィルム状である。光透過性基材11は、可視光透過率が80%以上のものが好ましく、90%以上のものがより好ましい。これにより、鮮明で、明るい視野を得ることができる。
【0022】
光透過性基材11の材料としては、透明樹脂であることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、シクロオレフィン樹脂、およびポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらは、光フィルター10の用途、目的に応じ、強度や屈折率などを考慮して、適宜選択することができる。良好な視野を得つつ、視野角制御を行う観点から、アクリル樹脂、またはポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0023】
光透過性基材11の厚みは、好ましくは0.10mm以上、2.0mm以下であり、より好ましくは0.15mm以上、1.5mm以下である。光透過性基材11の厚みは、光フィルター10全体の厚みと、視野角制御性を鑑みて、適宜、設計される。
光透過性基材11の厚みを、上記下限値以上とすることにより、光透過の選択性を保持しつつ、後述する隣り合う前記複数の帯状凸部の離間距離Wbを大きくすることができる。一方、光透過性基材11の厚みを、上記上限値以下とすることにより、光フィルター10全体の厚みを低くし、窓や液晶画面に貼着して使用しやすくなる。
【0024】
[帯状凸部]
帯状凸部12は、複数であって、凹凸形状を付与し光の選択的透過性、視野角制御性を得るために用いられる。本実施形態の帯状凸部12は光透過性を有する。具体的には、可視光透過率が80%以上のものが好ましく、90%以上のものがより好ましい。これにより、鮮明で、明るい視野を得ることができる。
【0025】
隣り合う帯状凸部12は、互いに離間している。
図2に示すように、帯状凸部12の高さをTr(mm)、隣り合う帯状凸部12の離間距離をWb(mm)としたとき、Tr/Wbが1.0~2.0であることが好ましく、1.2~1.6であることがより好ましい。これにより、光の透過を制御しつつ、良好な視野を確保できるようになる。
なお、隣り合う帯状凸部12の離間距離は、光透過性基材11に接する辺同士の距離を意図する。すなわち、隣り合う帯状凸部12の離間距離とは、帯状凸部12が形成されず露出し光透過性基材11の幅である。
また、隣り合う帯状凸部12の離間距離Wbは、平均値であり、隣り合う帯状凸部12の離間距離が均一であってもよく、また製造上のばらつきがあってもよい。
【0026】
また、
図2に示すように、帯状凸部12の上面の幅をWt(mm)、隣り合う複数の帯状凸部12の離間距離をWb(mm)としたとき、Wt/Wbが0.7~1.5であることが好ましく、0.8~1.2であることがより好ましい。
これにより、光の透過を制御しつつ、良好な視野を確保できるようになる。
【0027】
本実施形態において、帯状凸部12の短手方向における断面形状が台形である。断面形状は、四角形であれば、正方形、長方形、台形、平行四辺形のいずれであってもよいが、帯状凸部12の上面は、光透過性基材11の面と平行にすることが好ましい。
【0028】
なお、
図2に示すように、光透過性基材11の一方の面に対する、帯状凸部12の側壁の傾斜角度(θw)は90~100°であることが好ましく、92~96°であることがより好ましい。すなわち、帯状凸部12の短手方向における断面形状は、正方形、長方形、または上に向かうテーパーを有する台形が好ましい。
側壁の傾斜角度(θw)を上記下限値以上とすることにより、帯状凸部12の成形精度を高めることができ、安定した光の透過制御を得つつ、良好な視野が確保しやすくなる。一方、側壁の傾斜角度(θw)を上記下限値以上とすることにより、視野角制御性を向上できる。
【0029】
帯状凸部12の材料としては、透明樹脂であることが好ましく、光硬化性樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含むことが好ましい。なかでも、後述するように、安定した品質の光フィルター10を効率よく生産する観点から、光硬化性樹脂であることが好ましい。光硬化性樹脂とは、紫外線、電子線、ガンマ線などの活性エネルギー線によって光ラジカル重合開始剤から発生するラジカル種により互いに重合する、モノマーである。具体的には、光硬化性樹脂は、分子内にビニル基、アクリル基、メタクリル基等の光硬化性官能基を1以上有する化合物である。本実施形態において、光硬化性樹脂としては公知のものを用いることができる。
また、帯状凸部12の材料は、光透過性基材11と同じものであってもよく、異なるものであってもよいが、光透過性基材11への良好な密着性と得つつ、光透過性基材11との接着面(界面)における光の屈折を低減するため、光透過性基材11の屈折率と同様になるように調製することが好ましい。
また、後述する光フィルター10の製造方法において、帯状凸部12の樹脂材料を硬化させるため、熱硬化または光硬化性を有する材料であることが好ましく、光硬化性を有することがより好ましい。
また、帯状凸部12は、硬化性を促進するための触媒または硬化促進剤を用いてもよいが、光吸収剤または光反射剤を含まないことが好適である。
【0030】
[用途、応用]
本実施形態の光フィルター10は、窓ガラス、液晶画面に貼り付けられるように構成されることにより、窓ガラスを通じた光の制御、液晶画面に表示されたプライバシー情報の保護等に利用することができる。光フィルター10は、光透過性基材11側の面を窓ガラス、液晶画面に貼り付けてもよく、帯状凸部12側の面を窓ガラス、液晶画面に貼り付けてもよい。
例えば、コンビニエンスストア等の店舗の多くは、道路側が全面的にガラス窓となっているため、本実施形態の光フィルター10をかかるガラス窓に使用することにより、夜間の街並みでも店内の照明により店舗があることが分かり易くなり、店内の様子が外から確認しやすくなり、さらには、昼間は、太陽光が店内に入り込み、商品等が劣化しやすくなることを抑制できるようになる。
なお、貼り付け方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0031】
<光フィルターの製造方法>
本実施形態の光フィルター10の製造方法としては、公知の方法を用いることができるが、たとえば、以下の方法を用いることができる。
まず、帯状凸部12となる所定の凹部を有する金型を準備し、金型上に帯状凸部12の原料となる樹脂材料を流しこむ。その上に、光透過性基材11を配置した状態で樹脂材料を硬化させ帯状凸部12と光透過性基材11とを一体化する。その後、金型から帯状凸部12が形成された光透過性基材11を引き剥がすことで光フィルター10が得られる。
帯状凸部12の原料が光硬化性樹脂である場合は、光透過性基材11の一方の面を樹脂材料上に配置したあと、光透過性基材11の他方の面側から紫外線等の光を照射することで、光透過性基材11を介して樹脂材料を硬化し、帯状凸部12とすることができる。
【0032】
[変形例]
なお、本発明は、上記実施形態以外の他の構成を採用することもできる。
上記実施形態においては、帯状凸部12が露出した例について説明したが、
図4に示すように、光フィルター20は帯状凸部12上にさらに透明基材13を有するものであってもよい。透明基材13としては、透明であれば公知のものを用いることができ、光透過性基材11と同じものであってもよく異なるものであってもよい。
また、
図5に示すように、光フィルター21は、光透過性基材11の上面と下面にそれぞれ帯状凸部12を形成する構造としてもよい。
図5では、上面と下面の帯状凸部12が格子状に配置されていている。なお、上面と下面の帯状凸部12同士がなす角度は、90°である場合に限られず、30°~90°であってもよい。
また、
図6、7に示すように、帯状凸部12を有する光透過性基材11が2つ重なった、光フィルター22、23としてもよい。すなわち、光透過性基材11が複数であって、複数の帯状凸部12から構成される層と、光透過性基材11とが、交互に積層した、光フィルター22であってもよい。言い換えると、光透過性基材11の一方の面上に複数の帯状凸部12が配置された積層体が2つ、厚み方向に積層している。さらに、
図7に示すように、一方の帯状凸部12を有する光透過性基材11を90°回転させることで、光フィルター23の平面視において、複数の帯状凸部12が交差するように配置されているものとしてもよい。なお、
図7のように、帯状凸部が厚み方向に2層以上積層した場合、一の帯状凸部に対する他の帯状凸部の回転(旋回)の程度は、90°に限られず、30~90°の範囲内で回転させることが望ましい。また
図6、7では、光透過性基材11が2つ重なった例について説明したが、帯状凸部12を有する光透過性基材11の積層数はこれに限られない、
なお、
図4に示される透明基材13や
図6,7に示される複数の光透過性基材11同士は、例えば、接着層を介して積層されてもよい。接着層としては、例えば、接着剤、接着テープ等であって、光透過性を阻害するものでなければ、特に限定されず用いることができる。接着層の厚みは、1~40μmとすることが好ましい。
【0033】
また、例えば、帯状凸部12は直線状ではなく、全体に亘って波状であったり、一部に曲線部を有すものであってもよい。
【0034】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0035】
次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0036】
<シミュレーションによる効果の確認>
以下の条件で本発明の光フィルターの効果についてシミュレーションを行った。具体的には、
図1~3に示すような、光透過性基材の一方の面上に複数の直線状の帯状凸部を有する光フィルターを用いて、帯状凸部とは反対側から光フィルターに光を照射した。
(1) 光フィルター
帯状凸部の上面の幅 Wt=0.1mm
帯状凸部の離間距離 Wb=0.1mm
帯状凸部の高さ T=0.15mm
帯状凸部の側壁の傾斜角度 θw=95°
光フィルターの厚み Tf= 0.3mm
(2)チャート(縦並列黒線)
黒線ピッチ=2mm
黒線幅=0.5mm
チャート画面全幅:300mm ⇒ 黒線本数=150本
図8に、チャートをXY軸上に示す。ただし、
図8では、全チャートの右半部(X=0~X=150mm)までを示した。
(3) 明るさ分布の計算
チャート上に光フィルターを配置し、チャートから中央直上201.3mmの距離を瞳の位置として、視認される、光フィルター越しのチャートの明るさ分布を計算した。
結果を
図9に示した。なお、
図9中、(a)は瞳から直下方向の0°から1.8°の範囲すなわちチャート中央位置0mmから6.25mmまでの領域の明るさ分布を示す。(b)は直下方向から10.6°から12.4°まですなわちチャート上で37.5mmから43.75mmまでの領域の明るさ分布を示す。(c)は直下方向から20.4°から22°すなわちチャート上で75mmから81.25mmまでの領域の明るさ分布を示す。(d)は直下方向から29.2°から30.5°すなわち112.5mmから118.75mmまでの領域の明るさ分布を示す。
【0037】
図9より、(a)はチャート中央の直上に瞳を位置させ、直下の位置から6.25mm幅のチャート領域の明るさ分布を示す。黒線部が黒く、間の地の領域が明るく、コントラスト良く明瞭に見えることが分かった。(b)より、黒線部に雑音が生じていることが分かるが、黒線としての認識は十分可能であることが分かった。(c)より、黒線部および地の部分にかなり雑音が生じており、黒線としての認識がほとんど困難になってきていることが分かった。(d)より、チャートへの雑音重畳が激しく、チャートとしての認識はできない状態になっていることが分かった。
以上より、本発明の光フィルターは、特定方向では良好な視野を保持しつつも、他の方向からは見えにくくし、かつ、光フィルターによる明るさの低減を抑制できることが確認された。