(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188902
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】締結構造、光学装置、成形装置、及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 7/00 20210101AFI20221215BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G02B7/00 F
F16B5/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097174
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩平
【テーマコード(参考)】
2H043
3J001
【Fターム(参考)】
2H043AE07
3J001FA02
3J001GA03
3J001GA09
3J001HA02
3J001HA07
3J001JA03
3J001KA25
3J001KA26
3J001KB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】温度変化による緩みや破損の問題を低減することができる締結構造を提供する。
【解決手段】被締結部材1と螺合可能に構成され、第2の材料より成る締結部材31と、第1の部材2と共に被締結部材1に締結され、第1の材料構成部分321と第1の材料とは異なる第2の材料構成部分322とを含む第2の部材32から構成され、第2の材料構成部分322の締結に有効な長さB322と、締結具3を被締結部材1に締結した際に締結部材31の締結に有効な長さB31との差が所定の閾値以下であって、第1の部材2の締結に有効な長さA2と、締結具3を被締結部材1に締結した際に第1の材料構成部分321の締結に有効な長さA321との差が所定の閾値以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材の所定の面に配置される第1の部材を、締結具を用いて前記被締結部材に締結する締結構造であって、
前記締結具は、前記被締結部材と螺合可能に構成される締結部材と、前記締結部材を前記被締結部材に螺合した際に前記第1の部材と共に前記被締結部材に締結される第2の部材と、を含み、
前記第2の部材は、第1の材料で構成される部分と、前記第1の材料とは異なる第2の材料で構成される部分とを含み、
前記締結部材は、前記第2の材料で構成され、
前記締結部材を前記被締結部材に対して螺合する方向における前記第2の部材の前記第2の材料で構成される部分の締結に有効な長さと、前記締結具を前記被締結部材に締結した際に前記締結部材の前記第2の材料で構成される部分の締結に有効な長さとの差が、所定の閾値以下であって、
前記締結部材を前記被締結部材に対して螺合する方向における前記第1の部材の締結に有効な長さと、前記締結具を前記被締結部材に締結した際に前記第2の部材の前記第1の材料で構成される部分の締結に有効な長さとの差が、前記所定の閾値以下である、
ことを特徴とする締結構造。
【請求項2】
前記締結部材は、雄ねじ部を有し、
前記締結部材の前記雄ねじ部を前記被締結部材に形成された雌ねじ部に螺合することで、前記第1の部材と前記第2の部材を前記被締結部材に締結する請求項1に記載の締結構造。
【請求項3】
前記締結部材はナットに螺合することで、前記被締結部材と前記第1の部材と前記第2の部材とを締結する請求項1または2に記載の締結構造。
【請求項4】
前記締結部材は、前記第1の材料で構成される部分と前記第2の材料で構成される部分を一体的に含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の締結構造。
【請求項5】
前記被締結部材と前記第1の部材は、互いに異なる材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載の締結構造。
【請求項6】
前記第1の部材は、前記被締結部材の前記所定の面とは反対側の面にも配置されていることを特徴とする請求項1に記載の締結構造。
【請求項7】
前記閾値は誤差の許容値であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の締結構造。
【請求項8】
光学系と、
前記光学系を他の部材と締結するための請求項1~7のいずれか1項に記載の締結構造と、
を有することを特徴とする光学装置。
【請求項9】
基板上の組成物を成形する成形装置であって、
前記基板上の組成物に対して露光を行う光学系と、
前記光学系を他の部材と締結するための請求項1~7のいずれか1項に記載の締結構造を有することを特徴とする成形装置。
【請求項10】
請求項9に記載の成形装置を用いて前記基板上の組成物を成形する成形工程と、
前記成形工程を経た前記基板を加工する加工工程と、
前記加工工程で加工された前記基板から物品を製造する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結構造、光学装置、成形装置、及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部材と部材の締結においては、締結の簡便性、高い締結力、締結力の管理性、着脱・微調整が可能、小型などの利点からボルト締結が広く用いられている。ボルト締結は溶接や接着と異なり部材の材質を限定することが少なく、アルミと鉄、セラミックスと金属など異種材の締結も容易である。
【0003】
ボルト(締結部材)による高い締結力は重量物の締結や高い力を受ける構造体の締結などに有効である。ボルト締結の更なる利点は軸力を管理することが可能な点である。このような利点から、精密光学機器にとってボルト締結は有用であり、光学系を構成する部品の高い取付け精度を満足できる締結手段としてはボルト締結が優位である。
【0004】
一方で、ボルト締結においてもボルトと被締結部材とを異種材料によって構成すると、温度差によって軸力が変化し、締結の緩みや部材の破損をまねく危険が生じる。使用する装置等によっては稼働又は動作に際し、一部の部品の温度が数百℃にまで昇温する場合もある。このような高温下における部品の形状・位置関係の劣化を最小限にすべく、各種部品の部材やその配置が工夫されているが、異種材料の部材締結は避けられず、微小変形や部材破損の懸念がある。
【0005】
このような課題に対して、特許文献1では、異種材料同士の熱膨張を補完することで軸力を一定に保つ構造を提案している。
図8は特許文献1の構成を例示した図である。特許文献1の構造では、膨張係数の大きなボルト803で線膨張係数の小さい鋼製部材(被締結部材)802を母材801に締結する構造としている。そして、ボルトよりも線膨張係数の大きなスリーブ座金804を介して鋼製部材802を締結している。この構造によって温度上昇時のボルト803と鋼製部材802の膨張差をスリーブ座金804の大きな膨張で補うことでボルト軸力を一定に保っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、材料の線膨張係数の温度依存性を回避できない問題がある。例えば、アルミなどの材料では温度によって線膨張係数が異なる温度依存性を示すことが知られている。金属の種類によって線膨張係数の温度依存特性が異なるため、特許文献1の方法では広い温度範囲で膨張を補う関係を保つことが難しい。
【0008】
また、特許文献1では各材料の寸法と線膨張係数を正確に求める必要があるが、線膨張係数の測定オーダーは以下の例のように寸法管理(計測・加工)オーダーの1桁上であり、厳密な管理が難しい。
線膨張係数 : 20ppm/K 測定精度 ±0.2ppm
寸法 : 20mm 管理精度 ±0.02mm
【0009】
さらに、特許文献1の構成では、使用する各部材の材料についてもボルト803と鋼製部材802以外の線膨張係数の部材が必要となり、材料選択において制約を受ける。これにより、材料の線膨張係数の温度依存性のために、広い温度範囲で膨張を補う関係を実現することは困難となり、ボルト等の締結に用いる部材の緩みや破損が生じる問題がある。
【0010】
そこで本発明は、例えば、温度変化による緩みや破損の問題を低減できる締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての締結構造は、被締結部材の所定の面に配置される第1の部材を、締結具を用いて被締結部材に締結する締結構造であって、締結具は、被締結部材と螺合可能に構成される締結部材と、締結部材を被締結部材に螺合した際に第1の部材と共に被締結部材に締結される第2の部材と、を含み、第2の部材は、第1の材料で構成される部分と、第1の材料とは異なる第2の材料で構成される部分とを含み、締結部材は、第2の材料で構成され、締結部材を被締結部材に対して螺合する方向における第2の部材の第2の材料で構成される部分の締結に有効な長さと、締結具を被締結部材に締結した際に締結部材の第2の材料で構成される部分の締結に有効な長さとの差が、所定の閾値以下であって、締結部材を被締結部材に対して螺合する方向における第1の部材の締結に有効な長さと、締結具を被締結部材に締結した際に第2の部材の第1の材料で構成される部分の締結に有効な長さとの差が、所定の閾値以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、温度変化による緩みや破損の問題を低減できる締結構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の締結構造を例示する断面図である。
【
図2】実施例1の締結構造における温度変化を説明する断面図である。
【
図3】実施例2の締結構造を例示する断面図である。
【
図4】実施例3の締結構造を例示する断面図である。
【
図5】実施例4の締結構造を例示する断面図である。
【
図6】実施例5の締結構造を例示する断面図である。
【
図7】実施例6の締結構造を例示する断面図である。
【
図8】従来のボルト軸力を一定に保つ締結構造を示した一例の図である。
【
図9】実施例7の締結構造を例示する断面図である。
【
図11】物品の製造方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について実施例や図を用いて説明する。尚、以下の実施例及び各図において、重複する説明は省略ないし簡略化する。
【0015】
<実施例1>
温度変化によってもボルトの締結力が増減することなく、緩みや破損の危険を低減できる実施例1の締結構造を、
図1を参照して、以下に説明する。
図1は、実施例1における締結構造を説明する図であって、ボルト31の中心軸に平行な断面図である。なお、実施例1で説明する材料は一例であり、鉄、アルミ、銅、ステンレス、その他金属や合金、セラミックス、複合材料など、一般の構造材料のいずれを用いてもよい。また、他の材料に置き換えても同等の効果が得られる。以下では、後述するボルト31の軸方向をZ軸方向(Z方向)とし、Z軸方向に垂直な平面内で互いに直交する2方向をX軸方向(X方向)及びY軸方向(Y方向)とする。さらに、ボルト31を母材1またはナット11に対して螺合する方向を-Z方向とし、その反対を+Z方向とする。
【0016】
実施例1のような締結構造では、締結の簡便性、高い締結力、締結力の管理性、着脱・微調整が可能、小型などの利点から、広く用いられているボルト締結で部材と部材とを締結している。ボルト締結は溶接や接着と異なり部材の材質を限定することが少なく、アルミと鉄、セラミックスと金属など異種材の締結も容易である。また、ボルトによる高い締結力は重量物の締結や高い力を受ける構造体の締結などに有効である。ボルト締結はボルトのねじを締め込むことによって生じる軸力によって行われ、一般的な条件では、例えば、M10ボルト1本で約12kNもの軸力を生じる。
【0017】
ボルト締結の更なる利点は軸力を管理することが可能な点である。軸力を管理する方法としてはトルクレンチによって軸力を管理する手法が知られている。また、ボルト締付け時のボルトの伸びから軸力を求める方法があり、ボルト締付け時の長さ変化を超音波で計測することによって軸力を求める軸力計などがある。
【0018】
締結において軸力が管理できることの利点は、部品同士の高精度な位置決めや位置調整が可能になることや、ガラスやセラミックスのような脆性材料の締結における過度な軸力による破損を防止できることにある。軸力が管理できるボルト締結はガラスなどの脆性材料を用いる光学精密機器にとっては非常に有用な締結方法である。
【0019】
次に、例えば鉄素材のボルトによるアルミ材の締結や、鉄素材のボルトによるセラミック材の締結といった異種材料の締結構造の問題を以下で紹介する。例えば、光学系や種々の装置、機械等などでは軽量化のためアルミ材を多用する。アルミ板をフレーム等で締結する場合、一般に引張り強度が高くネジ部の加工性・信頼性の高い鉄素材のボルトを用いて締結する。そして、ボルト締結後に温度が低下すると鉄よりも線膨張係数の大きいアルミ板がより多く収縮することでボルトの軸力が低下し、高精度な位置関係が変化したり、ボルトに緩みが生じる危険性がある。
【0020】
上記のアルミ材と同様に、軽量・高剛性なセラミックスも例えば、光学系や種々の装置、機械等に使用されうる。セラミックスを鉄系ボルトにて母材に締結する場合では、ボルト締結後に温度が低下するとセラミックスよりも線膨張係数の大きい鉄系ボルトがより多く収縮することでボルトの軸力が増加し、セラミックスを破損する危険性がある。
【0021】
アルミ材をフレーム等に締結する際に、一例としてM10ボルトを使用する場合を考える。この場合、M10ボルトの初期軸力を12kNとすると20℃の温度低下によってボルトの軸力は9.5kNにまで減少する。このようにボルトの軸力は温度変化-20℃で79%程度まで減少し、-40℃で58%程度にまで減少する。逆に、温度上昇の場合にあっては、温度変化+20℃で121%程度、+40℃で142%程度にまで増加する。つまり、ボルト締結においても異種材料による締結で、且つ、温度変化がある環境においては精度が維持できなかったり、破損する危険性がある。
【0022】
実施例1の締結構造では、母材(被締結部材)1の所定の面に配置される被締結部材(第1の部材)2を、複数の部材から構成される締結具3を用いて母材1に締結する構造である。実施例1の締結具3は、ボルト(締結部材)31、補助部材(第2の部材)32から構成される。なお、実施例1では、被締結部材2も締結具3に含みうる。補助部材32は更に、段付きワッシャ321と、ワッシャ322から構成される。
【0023】
被締結部材2は、締結具3により母材1と締結する部材であって、実施例1における被締結部材2はアルミ素材(第1の材料)で構成される。
【0024】
ボルト31は、頭部、雄ねじ部の順に軸方向に連なって一体に形成される。なお、実施例1では、母材1にボルト31の雄ねじ部と螺合可能な雌ねじ部が形成されている穴部が備えられている。そして、ボルト31の雄ねじ部を母材1の雌ねじ部に螺合することで、被締結部材2と補助部材32を母材1に締結することができる。実施例1におけるボルト31は、鉄素材(第2の材料)で構成される。
【0025】
段付きワッシャ321は上下で2つのフランジを有している。段付きワッシャ321は、
図1に例示しているように、Z方向に所定の長さで形成される接続部材に一方のフランジの一端と、他方のフランジの他端とがそれぞれ接合しており、いわゆるハット型に形成される。また、母材1に被締結部材2と締結具を用いて締結した際に、一方のフランジの下面はワッシャ322の上面と当接し、他方のフランジの上面はボルト31の頭部下面と当接し、当該フランジの下面は母材1の所定の面と当接する。実施例1における段付きワッシャ321は、アルミ素材で構成される。
【0026】
段付きワッシャ321は、少なくとも1つの貫通孔をボルト31の雄ネジ部が挿入される位置に備える。なお、当該貫通孔は、ボルト31の雄ネジ部の径より大きい径で形成される。また、当該貫通孔について雄ネジ部の径と同様の径とし、この雄ネジ部に螺合可能となるようにねじ切り加工を施してもよい。
【0027】
ワッシャ322は、所定の厚さで円形または多角形状に形成され、ワッシャ322の中央には貫通孔が形成される。当該貫通孔は、段付きワッシャ321の接続部材の外径より大きい径で形成される。実施例1におけるワッシャ322は、鉄素材で構成される。
【0028】
実施例1においては、上記のように被締結部材2は第1の材料であるアルミ素材で構成される。さらに、段付きワッシャ321も被締結部材2と同様に第1の材料であるアルミ素材で構成される。また、実施例1においては、ボルト31は、第2の材料である鉄素材で構成される。さらに、ワッシャ322もボルト31と同様に第2の材料である鉄素材で構成される。また、段付きワッシャ321とワッシャ322はそれぞれ分離して構成されるが、補助部材32は、アルミ素材で構成される部分と、鉄素材で構成される部分とを有する部分を一体的に含むように構成してもよい。なお、このように構成する場合であっても、段付きワッシャ321とワッシャ322とをそれぞれ分離可能に構成するようしてもよい
【0029】
なお、母材1の材質は実施例1において、鉄、アルミ、銅、ステンレス、その他金属や合金、セラミックス、複合材料など、一般の構造材料のいずれを用いてもよい。即ち、母材1の材質は実施例1における効果に影響しないためである。
【0030】
被締結部材2の母材1への締結は、ワッシャ322と段付きワッシャ321とを介したボルト31によって行う。そして、ボルト31の中心軸(Z方向)における方向、即ちボルト31を母材1に対して螺合する方向をボルト31の締結方向とする。この締結方向について実施例1の締結構造における各部品の寸法の関係を以下に説明する。以下、実施例1のボルト31の締結方向において、ボルト31による締結軸力が作用する部位の寸法を、締結に有効な寸法とする。
【0031】
また、この構造において温度変化によるボルト締結軸と直行する方向(X方向、Y方向)の膨張・収縮はボルト31の締付け力(締結力)にほとんど影響しないため無視することができる。従って、実施例1においては、以下に例示する温度変化の想定ではボルト31の締結軸方向(Z方向)の膨張及び収縮のみで考えるものとする。
【0032】
被締結部材2の締結に有効な寸法は、
図1のA2で示す部位である。ボルト31の締結に有効な寸法は、
図1のB31で示す部位である。段付きワッシャ321の締結に有効な寸法は、
図1のA321で示す部位である。ワッシャ322の締結に有効な寸法は、
図1のB322で示す部位である。
【0033】
また、各部材の寸法の関係は、以下の式(1)と式(2)で示される。
(数1)
A2=A321 (1)
B322=B31 (2)
即ち、ボルト31を母材1に対して螺合する方向における被締結部材2の締結に有効な長さA2と、締結具3を母材1に締結した際に段付きワッシャ321の締結に有効な長さA321とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のA2とA321との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。
【0034】
また、ボルト31を母材1に対して螺合する方向におけるワッシャ322の締結に有効な長さB322と、締結具3を母材1に締結した際にボルト31の締結に有効な長さB31とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のB322とB31との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。なお、所定の閾値については実施例1の締結構造に使用する各部材の製造等における加工誤差(公差)の許容値である。
【0035】
ここで、実施例1で示す被締結部材2、締結具3のそれぞれに温度変化が生じた場合の各部品の温度変化の関係を
図2を参照して以下に説明する。
図2は、実施例1の締結構造における温度変化を説明する断面図である。
図2では、温度の変化量をΔT、被締結部材2のアルミ素材の線膨張係数をα2、ボルト31の鉄素材の線膨張係数をα31としている。ここで、被締結部材2の締結に有効な方向の寸法変化(距離の変化)は、以下の式(3)で示される。
(数2)
A2×α2×ΔT=A2’ (3)
【0036】
また、ボルト31の締結に有効な方向の寸法変化は、以下の式(4)で示される。
(数3)
B31×α31×ΔT=B31’ (4)
【0037】
段付きワッシャ321の締結に有効な方向の寸法変化は、段付きワッシャ321の線膨張係数が被締結部材2の締結の線膨張係数と同じとなるので、以下の式(5)で示される。
(数4)
A321×α2×ΔT=A321’ (5)
そして、上記式(1)の関係から以下の式(6)を導ける。
(数5)
A2’= A321’ (6)
上記式(6)によって、ΔTの温度変化が生じた場合の被締結部材2の寸法変化と段付きワッシャ321の寸法変化は一致する。
【0038】
ワッシャ322の締結に有効な方向の寸法変化は、ワッシャ322の線膨張係数がボルト31の締結の線膨張係数と同じとなるので、以下の式(7)で示される。
(数6)
B322×α31×ΔT=B322’ (7)
そして、上記式(2)の関係から、以下の式(8)が導き出せる。
【0039】
(数7)
B322’=B31’ (8)
上記式(8)によって、ΔTの温度変化が生じた場合のボルト31の寸法変化とワッシャ322の寸法変化は一致する。
【0040】
次に、被締結部材2と母材1との当接面を基準に、各部材の寸法関係を足し合わせていくと以下の式(9)が導き出せる。
(数8)
A2+B322-A321-B31=0 (9)
さらに、上記式(6)および上記式(8)の関係から、上記した式(9)を変形すると以下の式(10)が導き出せる。
【0041】
(数9)
A2’+B322’-A321’-B31’=0 (10)
上記式(10)によって、ΔTの温度変化が生じても各部品の寸法変化が相殺されるため、締結具3による締結力は変化することがない。
【0042】
以上、実施例1の締結構造では、温度変化による被締結部材2と締結具3のそれぞれの膨張・収縮をそれぞれに対応する部材同士で相殺するため、温度変化が生じても締結力が変化しない。また、膨張・収縮の相殺作用は同じ材質に対して行われるため、材料の線膨張係数の大小や温度依存性の影響を受けることがない。そのため、絶対零度から部材の融点まで本効果を維持することが可能である。従って、温度変化による被締結部材や締結具の緩み、破損の問題を低減できる締結構造を提供することができる。
【0043】
<実施例2>
実施例2の締結構造では、被締結部材21の所定の面に配置される被締結部材(第1の部材)2を、締結具3とナット11を用いてによって締結する。締結具3は、鉄系素材のボルト(締結部材)31、補助部材(第2の部材)32から構成され、被締結部材2を含みうる。補助部材32は、アルミ素材の段付きワッシャ321と、鉄素材のワッシャ322から構成される。以下に、実施例2における締結構造について、
図3を参照して説明する。
図3は、実施例2の締結構造を例示する断面図であり、ボルト31の中心軸に平行な断面図である。
【0044】
ナット11の材質は実施例2において、鉄、アルミ、銅、その他金属や合金、セラミックス、複合材料など、一般の構造材料のいずれを用いても効果に影響しない。よってここではナット11について特に材質については言及しない。また、ナット11にはボルト31の雄ねじ部と螺合可能な雌ねじ部が形成されている。
【0045】
実施例2における被締結部材21の所定の面に配置される被締結部材2の締結は、ワッシャ322と段付きワッシャ321とを介したボルト31とナット11によって行う。なお、締結具3の構成と各材質等は実施例1と同様であるため重複する箇所は説明を省略する。実施例2では、
図3に示しているように被締結部材2の所定の面とは反対側の面に被締結部材21が配置されている。そして、被締結部材2の所定の面と被締結部材21の所定の面とは当接している。実施例2では、締結具3のボルト31をナット11に螺合することで、被締結部材2と補助部材32を被締結部材21に締結することができる。締結した際には、ナット11の所定の面と、被締結部材21の所定の面と反対側の面とが当接する。
【0046】
以下に実施例2における、締結に有効な寸法関係を述べる。被締結部材2と被締結部材21とは同じアルミ素材で構成される。そして、被締結部材2、21の締結に有効な寸法は
図3に示す被締結部材2、21を2枚を重ねた際の寸法A21となる。ボルト31の締結に有効な寸法は、
図3のB31で示す部位である。段付きワッシャ321の締結に有効な寸法は、
図3のA321で示す部位である。ワッシャ322の締結に有効な寸法は、
図3のB322で示す部位である。
【0047】
各部材の寸法の関係は、以下の式(11)と式(12)で示される。
(数10)
A21=A321 (11)
B322=B31 (12)
即ち、ボルト31をナット11に対して螺合する方向における被締結部材2、21の締結に有効な長さA21と、締結具3を被締結部材21に締結した際に段付きワッシャ321の締結に有効な長さA321とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のA21とA321との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。
【0048】
また、ボルト31をナット11に対して螺合する方向におけるワッシャ322の締結に有効な長さB322と、締結具3を被締結部材21に締結した際にボルト31の締結に有効な長さB31とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のB322とB31との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。なお、所定の閾値については実施例2の締結構造に使用する各部材の加工誤差の許容値である。また、ボルト31をナット11に対して螺合する際には被締結部材21を介している。
【0049】
ここで、実施例1の寸法A2をA21と置き換え、上記式(9)を変形すると以下の式(13)が導き出せる。
A21+B322-A321-B31=0 (13)
上記式(13)では、上記式(10)と同様にΔTの温度変化が生じても各部品の寸法変化が相殺されるため、締結具3による締結力は変化することがない。
【0050】
以上、実施例2の締結構造では、実施例1と同様に温度変化による被締結部材や締結具の緩み、破損の問題を低減できる締結構造を提供することができる。
【0051】
<実施例3>
実施例3の締結構造では、2つの被締結部材である被締結部材22と被締結部材23の素材をそれぞれ異なるように構成をしている。実施例3における締結構造について
図4を参照して以下に説明する。
図4は、実施例3の締結構造を例示する断面図であり、ボルト31の中心軸に平行な断面図である。なお、上記各実施例と同様の箇所や構成については説明を省略する。
【0052】
実施例3における締結構造は、銅素材製の被締結部材23の所定の面に配置されるアルミ素材製の被締結部材22を、締結具3とナット11を用いて締結する構造である。締結具3は、鉄系素材のボルト(締結部材)31、補助部材(第2の部材)32から構成される。補助部材32は、アルミ素材の段付きワッシャ321と、銅素材の段付きワッシャ321と、鉄素材のワッシャ322、324から構成される。なお、実施例3では、被締結部材22と被締結部材23は所定の面がそれぞれ当接している。被締結部材22と被締結部材23との当接面を界面として、界面に対して所定の方向を上側方向とし、その反対側の方向を下側方向とする。そして、上側方向及び下側方向のそれぞれが独立して実施例1の構成と同様と考えることができる。なお、この際の上側方向は被締結部材22の界面より+Z方向側であり、下側方向は、被締結部材22の所定の面から見て-Z方向側である。
【0053】
それぞれの部品と締結に有効な寸法関係を実施例1を参考にして以下に説明する。被締結部材22はアルミ素材製であるため被締結部材22の締結に有効な寸法は
図4のA22で示す部位であり、実施例1のA2に相当する。ボルト31において2枚の被締結部材22、23の界面から上側の締結に有効な寸法は
図4のB311で示す部位であり、これは実施例1のB31に相当する。段付きワッシャ321は被締結部材22と同じアルミ素材製であるため段付きワッシャ321の締結に有効な寸法は
図4のA321で示す部位であり、これは実施例1のA321に相当する。ワッシャ322はボルト31と同じ鉄素材であるためワッシャ322の締結に有効な寸法は
図4のB322で示す部位であり、これは実施例1のB322に相当する。
【0054】
さらに、被締結部材23は銅素材製であるため、被締結部材23の締結に有効な寸法は
図4のA23で示す部位であり、これは、実施例1のA2に相当する。ボルト31は鉄素材であるため、ボルト31において2枚の被締結部材22、23の界面から下側の締結に有効な寸法は
図4のB312に示す部位であり、これは実施例1のB31に相当する。段付きワッシャ323は被締結部材23と同じ銅素材製であるため、段付きワッシャ323の締結に有効な寸法は
図4のA323に示す部位であり、これは実施例1のA321に相当する。ワッシャ324はボルト31と同じ鉄素材であるため、ワッシャ324の締結に有効な寸法は
図4のB324で示す部位であり、これは実施例1のB322に相当する。
【0055】
また、各部材の寸法の関係は、2枚の被締結部材の界面から上側においては、以下の式(14)と式(15)で示される。
(数11)
A22=A321 (14)
B322=B311 (15)
即ち、ボルト31をナット11に対して螺合する方向における被締結部材22の締結に有効な長さA22と、締結具3を被締結部材23に締結した際に段付きワッシャ321の締結に有効な長さA321とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のA22とA321との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。
【0056】
また、ボルト31をナット11に対して螺合する方向におけるワッシャ322の締結に有効な長さB322と、締結具3を被締結部材23に締結した際に2枚の被締結部材22、23の界面から上側の締結に有効な長さB311とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のB322とB311との長さ差が、所定の閾値以下であればよい。なお、所定の閾値については実施例3の締結構造に使用する各部材の加工誤差の許容値である。
【0057】
さらに、2枚の被締結部材の界面から下側においては、以下の式(16)と式(17)で示される。
(数12)
A23=A323 (16)
B324=B312 (17)
即ち、ボルト31をナット11に対して螺合する方向における被締結部材23の締結に有効な長さA23と、締結具3を被締結部材23に締結した際に段付きワッシャ323の締結に有効な長さA323とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のA23とA323との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。
【0058】
また、ボルト31をナット11に対して螺合する方向におけるワッシャ324の締結に有効な長さB324と、締結具3を被締結部材23に締結した際に2枚の被締結部材22、23の界面から下側の締結に有効な長さB312とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のB324とB312との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。なお、所定の閾値については実施例3の締結構造に使用する各部材の加工誤差の許容値である。また、ボルト31をナット11に対して螺合する際には被締結部材23を介している。
【0059】
このように、2枚の被締結部材22、23の界面から上側及び下側それぞれで、実施例1で示した上記式(9)、上記式(10)の関係を満足することができる。従って、ΔTの温度変化が生じても各部品の寸法変化が相殺されるため、締結具3による締結力は変化することがない。
【0060】
以上、実施例3の締結構造では、実施例1と同様に温度変化による被締結部材や締結具の緩み、破損の問題を低減できる締結構造を提供することができる。
【0061】
<実施例4>
実施例2の構成では、ワッシャ322の寸法が高くなるため実装する際寸法の制約が生じる。これを解決するために、実施例4の締結構造では、実施例2の締結構造のワッシャ322を締結に有効な寸法を維持して2つに分割する。これにより、片側に大きくなる寸法を2枚の被締結部材2、21の界面から見て所定の方向と、所定の方向とは反対方向(上下方向)に振り分けることができる。実施例4における締結構造について
図5を参照して以下に説明する。
図5は、実施例4の締結構造を例示する断面図であり、ボルト31の中心軸に平行な断面図である。なお、実施例4の説明に際し、実施例2の構成を参考に説明する。また、上記各実施例と同様の箇所や構成については説明を省略する。
【0062】
実施例4の締結構造では、実施例2と同様に、被締結部材21の所定の面に配置される被締結部材(第1の部材)2を、締結具3とナット11を用いて締結する。締結具3は、鉄系素材のボルト(締結部材)31、補助部材(第2の部材)32から構成され、被締結部材2を含みうる。補助部材32は、アルミ素材の段付きワッシャ321と、鉄素材のワッシャ3221、3222から構成される。被締結部材2、21はアルミ素材で構成される。
【0063】
実施例4における、被締結部材21の所定の面に配置される被締結部材2の締結は、ワッシャ3221と段付きワッシャ321とを介したボルト31と、ワッシャ3222を介したナット11によって行う。そして、、締結具3のボルト31をナット11に螺合することで、被締結部材2と補助部材32を被締結部材21に締結することができる。締結した際には、ワッシャ3222の所定の面と、被締結部材21の所定の面と反対側の面とが当接し、ナット11の所定の面とワッシャ3222の所定の面と反対側の面とが当接する。
【0064】
以下に締結に有効な寸法関係を述べる。被締結部材2と被締結部材21とは同じアルミ素材で構成されるため、被締結部材2、21の締結に有効な寸法は
図5に示す被締結部材2、21を2枚を重ねた際の寸法A2となる。ボルト31は鉄素材であるため、ボルト31の締結に有効な寸法は
図5のB31に示す部位である。段付きワッシャ321は被締結部材2と同じアルミ素材であるため、段付きワッシャ321の締結に有効な寸法は
図5のA321に示す部位である。ワッシャ3221はボルト31と同じ鉄素材であるため、ワッシャ3221の締結に有効な寸法は
図5のB3221に示す部位である。ワッシャ3222はボルト31と同じ鉄素材であるため、ワッシャ3222の締結に有効な寸法は
図5のB3222で示す部位である。
【0065】
また、各部材の寸法の関係は、以下の式(18)と式(19)で示される。
(数13)
A2=A321 (18)
B3221+B3222=B31 (19)
即ち、ボルト31をナット11に対して螺合する方向における被締結部材2の締結に有効な長さA2と、締結具3を被締結部材21に締結した際に段付きワッシャ321の締結に有効な長さA321とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のA2とA321との差が、所定の閾値以下であればよい。
【0066】
また、ボルト31をナット11に対して螺合する方向におけるワッシャ3211とワッシャ3222の締結に有効な長さB3211とB3222の合計長さと、締結具3を被締結部材21に締結した際にボルト31の締結に有効な長さB31とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のB3211とB3222の合計長さとB31との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。なお、所定の閾値については実施例4の締結構造に使用する各部材の加工誤差の許容値である。また、ボルト31をナット11に対して螺合する際には被締結部材21を介している。
【0067】
そして、ワッシャ3222とナット11との当接面を基準に、各部材の寸法関係を足し合わせていくと、以下の式(20)が導き出せる。
(数14)
A2+B3221+B3222-A321-B31=0 (20)
上記式(20)によれば、上記式(18)と上記式(19)から上記式(10)と同様にΔTの温度変化が生じても各部品の寸法変化が相殺されるため、締結具3による締結力は変化することがない。
【0068】
以上、実施例4の締結構造では、実施例1と同様に温度変化による被締結部材や締結具の緩み、破損の問題を低減できる締結構造を提供することができる。
【0069】
<実施例5>
実施例5の締結構造では、ボルト31と異なる金属同士で接合した一体ボルト311を使用する。実施例5の締結構造について、
図6を参照して以下に説明する。
図6は、実施例5の締結構造を例示する断面図であり、一体ボルト311の中心軸に平行な断面図である。また、上記各実施例と同様の箇所や構成については説明を省略する。
【0070】
実施例5の締結構造では、母材(被締結部材)1の所定の面に配置される被締結部材(第1の部材)2を、締結具3を用いて母材1へ締結する構造である。実施例5の締結具3は、異なる金属同士を接合して構成させる一体ボルト311、補助部材(第2の部材)32から構成される。なお、実施例5では、被締結部材2も締結具3に含みうる。実施例5の補助部材32は、鉄素材のワッシャ322である。また、被締結部材2はアルミ素材で構成される。
【0071】
ここで、一体ボルト311は、被締結部材2と同じアルミ素材からなる一体ボルト・アルミ部3111と鉄素材からなる一体ボルト・鉄部3112からなり、一体ボルト・アルミ部3111と一体ボルト・鉄部3112とは融着によって接合されている。上記接合の方法は、接着や機械的な結合などのような他の接合手段を用いてもよい。
【0072】
各部品の締結に有効な寸法関係を以下に説明する。一体ボルト・アルミ部3111と一体ボルト・鉄部3112との接合面から寸法を分ける。そして。被締結部材2の締結に有効な寸法は
図6のA2で示す部位ある。一体ボルト・アルミ部3111の締結に有効な寸法は
図6のA3111で示す部位ある。一体ボルト・鉄部3112の締結に有効な寸法は
図6のB3112で示す部位である。ワッシャ322の締結に有効な寸法は
図6のB322で示す部位ある。
【0073】
各部材の寸法の関係は、以下の式(21)と式(22)で示される。
(数15)
A2=A3111 (21)
B322=B3112 (22)
即ち、一体ボルト311を母材1に対して螺合する方向における被締結部材2の締結に有効な長さA2と、締結具3を母材1に締結した際に一体ボルト・アルミ部3111の締結に有効な長さA3111とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のA2とA3111との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。
【0074】
また、一体ボルト311を母材1に対して螺合する方向におけるワッシャ322の締結に有効な長さB322と、締結具3を母材1に締結した際に一体ボルト・鉄部3112の締結に有効な長さB3112とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のB322とB3112との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。なお、所定の閾値については実施例5の締結構造に使用する各部材の加工誤差の許容値である。
【0075】
上記式(21)と上記式(22)によれば、実施例1で示した式(10)と同様にΔTの温度変化が生じても各部品の寸法変化が相殺されるため、一体ボルト311による締結力は変化することがない。
【0076】
以上、実施例5の締結構造では、実施例1と同様に温度変化による被締結部材や締結具の緩み、破損の問題を低減できる締結構造を提供することができる。
【0077】
<実施例6>
実施例6の締結構造では、被締結部材21の所定の面に配置される被締結部材(第1の部材)2を、締結具3とナット11を用いて締結する。以下に、実施例6における締結構造について
図7を参照して説明する。
図7は、実施例6の締結構造を例示する断面図であり、一体ボルト311の中心軸に平行な断面図である。また、上記各実施例と同様の箇所や構成については説明を省略する。
【0078】
実施例6の締結具3は、実施例5と同様の異なる金属同士を接合して構成させる一体ボルト311、補助部材(第2の部材)32から構成される。なお、実施例6では、被締結部材2も締結具3に含みうる。また、実施例6の補助部材32は、鉄素材のワッシャ322である。また、被締結部材2、21はそれぞれアルミ素材で構成される。
【0079】
一体ボルト311は、実施例5と同様に、被締結部材2と同じアルミ素材からなる一体ボルト・アルミ部3111と鉄素材からなる一体ボルト-・鉄部3112からなる。そして、一体ボルト・アルミ部3111と一体ボルト・鉄部3112とは融着によって接合されている。
【0080】
各部品の締結に有効な寸法関係を以下に説明する。被締結部材2と被締結部材21とは同じアルミ素材なので、被締結部材2、21の締結に有効な寸法は
図7に示す被締結部材2、21を2重ねた際の寸法A21である。なお、実施例5と同様に、一体ボルト・アルミ部3111と一体ボルト・鉄部3112との接合面から寸法を分ける。一体ボルト・アルミ部3111の締結に有効な寸法は
図6のA3111で示す部位である。一体ボルト・鉄部3112の締結に有効な寸法は
図6のB3112で示す部位である。ワッシャ322の締結に有効な寸法は
図6のB322で示す部位である。
【0081】
各部材の寸法の関係は、以下の式(23)と式(24)で示される。
(数16)
A21=A3111 (23)
B322=B3112 (24)
即ち、一体ボルト311をナット11に対して螺合する方向における被締結部材2、21の締結に有効な長さA21と、締結具3を被締結部材21に締結した際に一体ボルト・アルミ部3111の締結に有効な長さA3111とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のA21とA3111との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。
【0082】
また、一体ボルト311をナット11に対して螺合する方向におけるワッシャ322の締結に有効な長さB322と、締結具3を被締結部材21に締結した際に一体ボルト・鉄部3112の締結に有効な長さB3112とが一致している。なお、それぞれの長さが一致していなくてもよく、上記のB322とB3112との長さの差が、所定の閾値以下であればよい。なお、所定の閾値については実施例6の締結構造に使用する各部材の加工誤差の許容値である。また、一体ボルト311をナット11に対して螺合する際には被締結部材23を介している。
【0083】
上記式(23)と上記式(24)によれば、実施例1で示した上記式(10)と同様にΔTの温度変化が生じても各部品の寸法変化が相殺されるため、一体ボルト311による締結力は変化することがない。
【0084】
以上、実施例6の締結構造では、実施例1と同様に温度変化による被締結部材や締結具の緩み、破損の問題を低減できる締結構造を提供することができる。
【0085】
<実施例7>
実施例7は、実施例1の締結構造をインプリント装置(リソグラフィ装置)及び平坦化処理装置等の、基板上の組成物を成形する成形装置に適用したものである。インプリント装置は、凹凸パターンを有するモールド(型)を用いて基板上に供給された組成物(インプリント材)に光を照射(露光)硬化させることで、基板上に当該組成物のパターンを形成する装置である。また、平坦化装置は、平面形状を有するモールド(テンプレート)を基板上の組成物に接触させることにより当該組成物の表面を平坦にする装置である。以下に、実施例7の締結構造を
図9を参照して説明する。
図9は、実施例7の締結構造を例示する断面図である。さらに、
図9ではレンズ保持フランジ24を締結する2本のボルト31の中央を結ぶ断面を表している。また、上記各実施例と同様の箇所や構成については説明を省略する。
【0086】
高温に晒される一方で部材の高精度な位置決め、部材変形を抑制しなければならない成形装置においても、実施例1と同様にボルト締結は重用している。例えば、インプリント装置を例にすると、基板上の組成物を硬化させるために、不図示の照射部(照明部)から照射する高強度の紫外線等の光(例えば、レーザー光)を凹凸パターンを有するモールドを介し、組成物に照射する。また、不図示の照射部は、例えば、光源と、光源から射出された光を、組成物を望ましい硬度で硬化させるために最適な光の強度となるように調整するための光学系(照明光学系)とを含む。当該光学系は、レンズ等の光学素子、アパーチャ(開口)、照射と遮光とを切り替えるシャッタ等を含みうる。
【0087】
光学系はこの時照射される光のエネルギーによって昇温する。特に照明光学系等の部品では数百℃にまで昇温する場合もある。このような高温下における光学系及び光学素子の形状及び位置関係の劣化を最小限にすべく、各種部品の部材に対してやその配置方法が工夫されている。しかし、異種材料間の部材締結は避けられず、上記した温度変化によって、微小変形や部材破損が生じる可能性がある。さらに、実施例1の締結構造を適用できるのは上記の成形装置に限らず、光学素子であるレンズを備えた光学系を有する交換レンズ(光学装置)にも適用できる。この場合は、当該光学系を他の部材と締結する際に実施例1の締結構造を適用することができる。また、例えば、半導体露光装置や搬送装置等のボルト締結を採用している各種装置等にも適用することができる。
【0088】
実施例7の締結構造では、母材(ベース)1の所定の面に配置され、光学素子を保持するレンズ保持フランジ24を、締結具3を用いて母材1に締結する。実施例7の締結具3の構成は実施例1と同様である
【0089】
レンズ保持フランジ24の中央にはレンズ(光学素子)が挿入されており、不図示の別のレンズと光学的な位置関係に保持されている。レンズ保持フランジ24は高出力の光を集光することによって温度が上昇する。この時の温度上昇として、レンズ保持フランジ24及びその周囲、締結具3等の部材は、200℃程度にまで温度が上昇することもある。なお、一例として
図9に示すボルト31はM5六角穴付きボルト(クロムモリブデン鋼:SCM435)とする。そして、当該ボルト31は初期状態に室温にて10000[N]の軸力で締結している。レンズ保持フランジ24はアルミ(5000系アルミ:A5052)で構成される。また、各種物性を以下の表1に示す。
【0090】
【0091】
上記の表1によれば、実施例1と同様に、段付きワッシャ321の材料と寸法はレンズ保持フランジ24と同様であり、ワッシャ322の材料と寸法も同様にボルト31と同様である。
【0092】
実施例7における成形装置の照射部から照射される光によってレンズ保持フランジ24が加熱され、例えば200℃まで温度が上昇する場合を想定する。この場合であっても、実施例1と同様に温度変化によるレンズ保持フランジ24と締結具3のそれぞれの膨張・収縮をそれぞれに対応する部材同士で相殺できるため、ボルト31の初期軸力10000[N]は変わらない。
【0093】
以上、実施例7の締結構造では、実施例1の締結構造を成形装置等の装置における光学系や他の部材との締結に用いることで、実施例1と同様に温度変化による被締結部材や締結具の緩み、破損の問題を低減することができる。
【0094】
また、実施例1と同様に、締結構造に使用する各部材について、加工誤差の許容値であればよいが、しかしながら実際には、レンズ保持フランジ24、ボルト31、段付きワッシャ寸法A321、ワッシャA322の締結に有効な寸法に誤差が生じる場合がある。この寸法誤差によって生じる軸力の変化の一例を以下に示す。
【0095】
例として、段付きワッシャ321の締結に有効な寸法が加工誤差の許容値として最大4mmを想定していたが、製造における加工によって1mm長い5mmだった場合を考える。この際、ボルト31を締め付けると締結に有効な寸法は6mmから5mmに短くなる。そして、この場合の状態(初期状態)から一例として上記のように200℃に温度が上昇すると、ボルトの軸力は約2000N低下する。そのため、初期軸力100000[N]の場合にあっては20%ボルトの軸力が減少する。
【0096】
レンズ保持フランジ24の締結力が約10%程度低下することでレンズ保持フランジ24または締結しているいずれかの部材のズレが懸念される。更にレンズ保持フランジ24にズレが生じるまたは変形してしまうことで光学素子も変形や位置ズレを生じ、実施例7における装置の性能が劣化してしまうことが考えられる。そのため、温度変化や加工誤差の許容値を超えるような場合を考慮して、ボルトの軸力の変動は1%以下とすることが好ましい。
【0097】
例えば、上記した一例のように200℃の温度変化の環境を想定する。この場合、ボルトの軸力の変動を1%以下に抑える場合には、レンズ保持フランジ24、ボルト31、段付きワッシャ321、ワッシャ322の締結に有効な寸法の誤差は0.05mm以下であることが望ましい。この際は加工誤差(公差)を考慮する。なお、上記したボルトの軸力の変動については実施例7に限らず、上記各実施例でも同様である。
【0098】
また、材料の線膨張係数の違い(誤差)も軸力の変動要因となるため、対応する部材同士の線膨張係数を合わせることが好ましい。しかし、設計上の制約等のため、ワッシャ322と同様の炭素鋼ではあるもののボルト材料の強度区分からSMC440を採用する場合が考えられる。この場合を例とすると上記表1の寸法において、ボルト31の材質の型式をSCM440(線膨張係数:12.5[ppm])とすると、200℃において軸力は1208[N]増え、100000[N]の初期軸力に対して12%軸力が増加してしまう。このことから上記したボルトの軸力の変動を1%以下に抑える場合には、同材料であるレンズ保持フランジ24と段付きワッシャ321、またはボルト31とワッシャ322の材質の線膨張係数の差は0.12[ppm]以下であることが望ましい。言い換えると線膨張係数の違いが所望の値以下であれば材料の型式、JIS規格等における鋼種番号、または成分が異なってもよい。
【0099】
<実施例8>
実施例8は、実施例1の締結構造を衛星光学系に適用したものである。
図10は、
図10を正面から見て右側から入射した光線を集光する衛星光学系6の概念図である。また、上記各実施例と同様の箇所や構成については説明を省略する。
【0100】
衛星に搭載される精密光学機器にとってボルト締結は有用であり、衛星打ち上げ時の大きな振動・加速度に耐え、光学系を構成する部品の高い取付け精度を満足できる締結手段としてはボルト締結が優位である。一方で、ボルト締結においてもボルトと被締結部材とを異種材料によって構成すると、宇宙空間での大きな温度差によって軸力が変化し、締結の緩みや部材の破損をまねく危険が生じる。宇宙空間での温度変化幅は大きく、太陽光を受けているときと影になっているときとでは100℃以上の温度差が生じる。
【0101】
そこで、実施例7と同様に、実施例1の締結構造を衛星光学系の光学素子の締結に用いることで、高温から極低温まで温度変化の影響を受ける光学系の性能劣化の抑制、破損リスクの低減が可能である。
【0102】
光学素子61は入射光に対して精密に位置決めされ、温度変化時のミラー形状変化の影響を最小限にするよう配置されている。上記した一例と同様に、一般的なボルト締結では100℃の温度変化で10%もの軸力変化があり、温度が100℃低下することによるフランジの微小変形は光学素子の位置ズレや変形となり、光学性能を劣化させる要因となる。そこで、実施例1の締結構造を用いることで、軸力が変化しないことで光学性能劣化の要因となる光学素子への応力発生や、光学素子配置の微小なズレの影響を低減することができる。
【0103】
以上、実施例8の締結構造では、実施例1の結構造を衛星光学系の光学系や他の部材との締結に用いることで、高温から極低温まで温度変化による締結具の緩みや破損の危険を低減できる締結構造を提供することができる。
【0104】
<物品製造方法に係る実施例>
成形装置を用いて成形した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、モールド(型)等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。モールドとしては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0105】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0106】
次に、物品の具体的な製造方法について、
図11を参照して説明する。なお、
図11に示す成形装置は、成形装置の1つであるインプリント装置を例としており、当該成形装置は光学系を他の部部材と締結するための上記実施例に示す締結構造を有している。
図11(A)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に成形されたシリコンウエハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材(光硬化性材料)3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0107】
図11(B)に示すように、インプリント用のモールド4zを、その凹凸パターンが成形された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図11(C)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zとモールド4zとを接触させ、圧力を加える(接触工程)。インプリント材3zはモールド4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を、モールド4zを透して照射するとインプリント材3zは硬化する(硬化工程)。
【0108】
図11(D)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、モールド4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが成形される(パターン成形工程)。この硬化物のパターンは、モールドの凹部が硬化物の凸部に、モールドの凹部が硬化物の凸部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zにモールド4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0109】
図11(E)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる(加工工程)。
図11(F)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが成形された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0110】
<その他の実施例>
以上、本発明をその好適な実施例に基づいて詳述してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨に基づき種々の変形が可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【符号の説明】
【0111】
1 母材
2 被締結部材
3 締結具
31 ボルト
32 補助部材
321 段付きワッシャ
322 ワッシャ