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特開2022-188907放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子
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  • 特開-放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子 図1
  • 特開-放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子 図2
  • 特開-放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188907
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子
(51)【国際特許分類】
   G21C 19/307 20060101AFI20221215BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G21C19/307 200
G21D1/00 X
G21D1/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097191
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 孝次
(72)【発明者】
【氏名】原 宇広
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠二
(57)【要約】
【課題】原子炉内への注入時には分散ゾルの微粒子の粒径を小さい状態に維持することができ、かつ、原子炉内への注入後には微粒子の凝集が生じ、付着速度を向上させることのできる、放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子を提供する。
【解決手段】微粒子をゾルとして原子炉の炉水中に注入し、原子炉構造物及び配管に付着させる方法であって、前記微粒子よりもHamaker定数が小さく、放射線の照射により劣化する有機物層を表面に形成した前記微粒子を、ゾルとして原子炉の炉水中に注入し、原子炉内の放射線によって前記有機物層少なくとも一部を劣化させて前記微粒子の表面から離脱させ、前記微粒子を凝集させて前記原子炉構造物及び配管に付着させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子をゾルとして原子炉の炉水中に注入し、原子炉構造物及び配管に付着させる方法であって、
前記微粒子よりもHamaker定数が小さく、放射線の照射により劣化する有機物層を表面に形成した前記微粒子を、ゾルとして原子炉の炉水中に注入し、原子炉内の放射線によって前記有機物層少なくとも一部を劣化させて前記微粒子の表面から離脱させ、前記微粒子を凝集させて前記原子炉構造物及び配管に付着させる
ことを特徴とする放射線場の高温水中での微粒子の付着方法。
【請求項2】
請求項1記載の放射線場の高温水中での微粒子の付着方法であって、
前記放射線がγ線およびX線であることを特徴とする放射線場の高温水中での微粒子の付着方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の放射線場の高温水中での微粒子の付着方法であって、
前記微粒子が、酸化チタン微粒子であることを特徴とする放射線場の高温水中での微粒子の付着方法。
【請求項4】
ゾルとして原子炉の炉水中に注入し、原子炉構造物及び配管に付着させる微粒子であって、
前記微粒子よりもHamaker定数が小さく、放射線の照射により劣化する有機物層を表面に形成した
ことを特徴とする微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水冷却型原子炉は、冷却材として水を使用している。冷却材は、炉心より熱を得て加熱されるため、高温水として原子炉内部を循環している。高温水に曝露される材料として、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、ニッケル基合金、コバルト基合金およびジルコニウム合金などが使用されている。これら材料は、高温水という過酷な使用環境にも十分耐えうるように設計されたものであるにもかかわらず、応力腐食割れ(SCC)、すき間腐食、流れ加速型腐食、圧力逃がし弁の固着、およびガンマ線を放射するコバルト60同位体の蓄積といった様々な問題が生じている。
【0003】
このような諸問題を低減させるため、冷却材中に特殊な機能を持った微粒子を注入し原子炉材料に付着させる技術がある。例えば、SCCを抑制する技術としてPtやRh等の貴金属を付着させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、酸化チタンに代表される光触媒物質を付着させる技術も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-148674号公報
【特許文献2】特開2010-4789号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.K.Beal,“Deposition of Particles in Turbulent Flow on Channel or Pipe Walls” Nuclear Science and Engineering, 40, 1970, pp.1-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の技術では、付着させる微粒子を液体中に分散させたゾルを高圧ポンプで原子炉内に注入する。これによって付着させる微粒子が冷却材と混ざり、冷却材の流れの影響により構造材料表面に付着する。付着し易さの指標である付着速度係数は、微粒子の粒径に依存し、数μm程度で極小値を持つような挙動を示す(例えば、非特許文献1参照。)。
【0007】
すなわち、縦軸を付着速度係数、横軸を微粒子の粒径とした図3の両対数のグラフに示すように、有る粒径の値を閾値とし、それ以下であれば粒径が小さいほどブラウン運動が激しくなることで付着し易く、それ以上であれば粒径が大きいほど流体からの慣性力の影響により付着し易くなる。
【0008】
付着させる微粒子を液体中に分散させたゾルを高圧ポンプで原子炉内に注入する場合、注入配管や高圧ポンプへの目詰まり等を防止するため、分散ゾルの微粒子の粒径は、1μm以下と小さい状態とする場合が多い。しかしながらこのような粒径の微粒子は付着速度係数があまり大きくなく、付着速度をさらに向上させることが望まれている。
【0009】
本発明は、このような従来の事情を考慮してなされたもので、原子炉内への注入時には分散ゾルの微粒子の粒径を小さい状態に維持することができ、かつ、原子炉内への注入後には微粒子の凝集が生じ、付着速度を向上させることのできる、放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の放射線場の高温水中での微粒子の付着方法は、微粒子をゾルとして原子炉の炉水中に注入し、原子炉構造物及び配管に付着させる方法であって、前記微粒子よりもHamaker定数が小さく、放射線の照射により劣化する有機物層を表面に形成した前記微粒子を、ゾルとして原子炉の炉水中に注入し、原子炉内の放射線によって前記有機物層の少なくとも一部を劣化させて前記微粒子の表面から離脱させ、前記微粒子を凝集させて前記原子炉構造物及び配管に付着させることを特徴とする。
【0011】
実施形態の微粒子は、ゾルとして原子炉の炉水中に注入し、原子炉構造物及び配管に付着させる微粒子であって、前記微粒子よりもHamaker定数が小さく、放射線の照射により劣化する有機物層を表面に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
実施形態の放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子によれば、原子炉内への注入時には分散ゾルの微粒子の粒径を小さい状態に維持することができ、かつ、原子炉内への注入後には微粒子の凝集が生じ、付着速度を向上させることのできる、放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態を説明するための、有機物層を形成した微粒子に放射線が照射されることで微粒子が凝集する様子を模式的に示した図。
図2】沸騰水型軽水炉の一次冷却系の炉水の流れを模式的に示す図。
図3】微粒子の粒径と付着速度係数との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態に係る放射線場の高温水中での微粒子の付着方法を、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は実施形態に係る放射線場の高温水中での微粒子の付着方法を説明するための図であり、有機物層2を表面に形成した微粒子1に、γ線およびX線(放射線)3が照射されることで、微粒子1が凝集する様子を模式的に示した図である。
【0016】
微粒子1は、沸騰水型軽水炉の一次冷却系の原子炉構造物及び配管に付着させることにより防食効果、被ばく低減効果などの有益な効果を及ぼす物質から構成されている。本実施形態では、この微粒子1として、酸化チタン(TiO)を例にして説明する。酸化チタン粒子は、光触媒物質であり、原子炉内においてチェレンコフ光の照射により光触媒として作用し、ニッケル基合金や鉄基合金等の金属の腐食電位を低下させることができる。なお、微粒子1としては、例えば、酸化チタン以外の光触媒物質例えばジルコニア(ZrO)等、酸化チタンやジルコニア等の光触媒物質の表面に、Pt、Rh、Ru、Pd等の貴金属を1種以上付着させたもの等を使用することができる。
【0017】
微粒子1の表面には、有機物層2が形成されている。有機物層2を構成する有機物は、γ線およびX線(放射線)3が照射されることによって劣化する有機物であり、使用する分散媒中において微粒子1よりもHamaker定数が小さい有機物を使用する。
【0018】
微粒子1が酸化チタンの場合、Hamaker定数が26程度(水中の理論値)であるので、それよりHamaker定数が小さい有機物を使用する。なお、前述したジルコニア(ZrO)の場合Hamaker定数は13程度(水中の理論値)である。これに対して、例えば有機物の樹脂等は、一般的に上記した金属酸化物よりもHamaker定数が小さく、例えば、PTFEはHamaker定数が0.33程度(水中の理論値)、ポリスチレンでは0.95~1.3程度(水中の理論値)である。
【0019】
また、上記した樹脂等の有機物は、一般的にγ線およびX線(放射線)3に対する耐性が低く、γ線およびX線(放射線)3の照射を受けると劣化するものが多い。特に、二重結合を有する有機物は、γ線およびX線(放射線)3の照射により劣化する傾向が高いとされている。
【0020】
上記のように、微粒子1の表面に、微粒子1よりもHamaker定数が小さい有機物からなる有機物層2が形成されているものは、分散媒中に分散させてゾルとした場合に、凝集が進むことが抑制されて粒径が小さい状態が維持される。したがって、この状態で原子炉の炉水内に注入すれば、注入のための配管や、注入のための高圧ポンプが目詰まり等を起こすことを防止することができる。
【0021】
図2、は沸騰水型軽水炉の一次冷却系の流れを模式的に示す図である。図2に示すように、この沸騰水型軽水炉100は、保管タンク7を具備しており、表面に有機物層2が形成された微粒子1は、均一に分散媒中にゾルとして分散され、常温常圧で保管タンク7に保管される。
【0022】
また、沸騰水型軽水炉100は、一次冷却水を供給するための給水系統9を具備しており、この給水系統9には、保管タンク7内に保管されたゾル状の有機物層2が形成された微粒子1を給水系統9内に注入するための高圧ポンプ8が設けられている。
【0023】
保管タンク7内に保管されたゾル状の有機物層2が形成された微粒子1は、分散媒とともに、高圧ポンプ8により、沸騰水型軽水炉の一次冷却系の給水系統9から注入され、炉水流れ10により原子炉内全体に輸送される。上記注入の時期は、例えば、定格運転中や、起動、停止操作時、燃料は装荷されているがプラントの熱出力を伴わない停止時、又は燃料を取り出した時等に行い、冷却水を循環させながら所定の原子炉構造材及び配管の表面に付与させることができる。
【0024】
有機物層2が形成された微粒子1は、冷却材に混入して希釈されたあと、原子炉内等においてγ線およびX線3に曝される。そして、表面にγ線およびX線(放射線)3が照射されることで有機物層2が劣化し、Hamaker定数が小さい有機物層2の少なくとも一部が微粒子1から脱離する。これによって、Hamaker定数が大きい微粒子1の表面が露出し、表面電荷が変化することでファンデルワールス力4が作用し、著しく凝集する。
【0025】
そして、このファンデルワールス力4による凝集の影響で粒径が大きくなることで、付着速度係数5が増加し、構造材料6に付着し易くなる。付着速度係数5は、有機物層2の付着量およびその種類と、γ線およびX線(放射線)3の強度に依存するため、各部位のγ線およびX線(放射線)3の強度を把握することで、有機物層2の量および種類により、付着速度係数5を制御することが可能である。また微粒子1から外れた有機物層2に関しては、浄化系統11により捕集される。
【0026】
以上のように、本実施形態の放射線場の高温水中での微粒子の付着方法及び微粒子によれば、原子炉内への注入時には分散ゾルの微粒子の粒径を小さい状態に維持することができ、かつ、原子炉内への注入後には微粒子の凝集が生じ、付着速度を向上させることができる。
【0027】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1……微粒子、2……有機物層、3……γ線およびX線、4……ファンデルワールス力、5……付着速度係数、6……構造材料、7……保管タンク、8……高圧ポンプ、9……給水系統、10……炉水流れ、11……浄化系統、100……沸騰水型軽水炉。
図1
図2
図3