(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188912
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイス、マイクロ流体デバイスの製造方法、及びマイクロ流体デバイスの使用方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20221215BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20221215BHJP
C12N 5/0793 20100101ALN20221215BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12Q1/04
C12N5/0793
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097200
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】山中 誠
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA08
4B029GB04
4B029GB09
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR90
4B063QS39
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】細胞体と細胞体から延びる突起状の細胞構成部位とを効率よく分離して培養することができるマイクロ流体デバイス、マイクロ流体デバイスの製造方法、及びマイクロ流体デバイスの使用方法を提供する。
【解決手段】細胞体と前記細胞体から延びる突起状の細胞構成部位とを分離した状態で培養可能なマイクロ流体デバイスであって、細胞体を培養可能な第一培養空間と、第一培養空間から延設されて細胞構成部位を培養可能な第二培養空間と、を備え、第二培養空間は、延設方向に見たとき、扁平な形状であって細胞体から延びる細胞構成部位の培養が可能な幅を持つと共に、細胞体が侵入しない高さを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞体と前記細胞体から延びる突起状の細胞構成部位とを分離した状態で培養可能なマイクロ流体デバイスであって、
前記細胞体を培養可能な第一培養空間と、前記第一培養空間から延設されて前記細胞構成部位を培養可能な第二培養空間と、を備え、
前記第二培養空間は、延設方向に見たとき、扁平な形状であって前記細胞体から延びる前記細胞構成部位の培養が可能な幅を持つと共に、前記細胞体が侵入しない高さを有することを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項2】
前記第二培養空間は、扁平な形状であって前記細胞体から延びる前記細胞構成部位の直径の7倍以上の幅を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項3】
前記第二培養空間は、幅が高さの10倍以上の大きさであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項4】
前記第二培養空間の高さは、5μm以上80μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記第一培養空間及び/又は前記第二培養空間は外部から観察可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記マイクロ流体デバイスは、熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂は、シクロオレフィンポリマー(COP)であることを特徴とする請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記細胞体は、神経細胞であり、前記細胞構成部位は、前記神経細胞から延びる神経突起であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
請求項1に記載のマイクロ流体デバイスを製造する方法であって、
第一基板に、前記第一基板の第一主面から第二主面に向かって延びる貫通孔と、前記第二主面に設けられて前記貫通孔に連通する凹部と、を形成する工程と、
第二基板を前記第一基板の前記第二主面に当接させて前記貫通孔及び前記凹部を覆う工程と、
前記第一基板と前記第二基板を光接合により接合する工程と、を有することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のマイクロ流体デバイスの使用方法であって、
前記細胞体を前記第一培養空間で培養し、前記細胞体から延びる前記細胞構成部位を前記第二培養空間で培養するステップと、
前記第二培養空間内に薬剤を投与して、前記細胞構成部位に対する前記薬剤の薬効及び/又は毒性を評価するステップと、を有することを特徴とするマイクロ流体デバイスの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイス、マイクロ流体デバイスの製造方法、及びマイクロ流体デバイスの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経毒性を評価する従来の方法として、実験動物を利用する方法では反射運動を見る観察試験がある。また、培養細胞を用いた培養試験ではマルチ電極アレイを用いた電気生理計測法がある。
【0003】
しかし、実験動物を利用する方法では、動物は人体との種差があるため、人体向けの検証には信頼性が低い。また、細胞電気生理の方法では、計測と分析に非常に高度な専門知識を要する。また、測定器が高価であり多数の試験に対応できないという問題がある。
【0004】
さらに、神経毒性を評価する方法として、マイクロ流体デバイスを用いて神経細胞から神経突起を形成させて薬剤刺激とその応答を観察する方法が知られている(例えば、下記特許文献1及び2)。特許文献1では、細胞体から延びた神経突起(軸索ともいう)を培養可能なチャネルを有するマイクロ流体デバイスが開示されている。特許文献2では、細胞体から延びた神経突起を培養可能な流路を有するマイクロ流体デバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6430680号公報
【特許文献2】特許第5904789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のチャネルは、幅100~150μm及び高さ100~200μmであり、幅と高さが神経突起の太さに比べて大きく、且つ幅と高さの大きさが近いため、神経突起が集合して束状構造を形成する。神経突起の束状構造を生成させる流路構造では、神経突起の個別の成長を観察して分析することができない。
【0007】
特許文献2の流路は、内径が10μmであり、神経突起は非常に微小な流路を通過する必要があるため、神経突起が成長しにくく、試験の効率が低下する。また、神経突起を覆って保護するミエリンを構成する細胞が流路を通過できないため、神経突起の成長や機能が不完全となる。結果、生体を再現した薬剤試験とならない。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑み、細胞体と細胞体から延びる突起状の細胞構成部位とを効率よく分離して培養することができるマイクロ流体デバイス、マイクロ流体デバイスの製造方法、及びマイクロ流体デバイスの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマイクロ流体デバイスは、細胞体と前記細胞体から延びる突起状の細胞構成部位とを分離した状態で培養可能なマイクロ流体デバイスであって、
前記細胞体を培養可能な第一培養空間と、前記第一培養空間から延設されて前記細胞構成部位を培養可能な第二培養空間と、を備え、前記第二培養空間は、延設方向に見たとき、扁平な形状であって前記細胞体から延びる前記細胞構成部位の培養が可能な幅を持つと共に、前記細胞体が侵入しない高さを有するように構成されているものである。
また、前記第二培養空間は、扁平な形状であって前記細胞体から延びる前記細胞構成部位の直径の7倍以上の幅を有するように構成されているものである。
更には、前記第二培養空間は、幅が高さの10倍以上の大きさとなるように構成されているものである。
【0010】
この構成によれば、第一培養空間は、細胞体を培養することができ、第二培養空間は、細胞体から延びる細胞構成部位を培養することができる。このとき、第二培養空間は、扁平な形状であって前記細胞体から延びる前記細胞構成部位の直径の7倍以上の幅を有する。更には、幅が高さの10倍以上となるように扁平な断面形状に構成されている。このため、複数の神経突起が束状構造をとらず、それぞれの神経突起が幅方向に並ぶように培養される。その結果、本発明のマイクロ流体デバイスによれば、細胞体と細胞体から延びる突起状の細胞構成部位とを効率よく分離して培養することができる。
【0011】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記第二培養空間の高さは、5μm以上80μm以下である、という構成でもよい。この構成によれば、細胞構成部位を第二培養空間にて適切に培養することができる。
【0012】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記第一培養空間及び/又は前記第二培養空間は外部から観察可能に構成されている、という構成でもよい。この構成によれば、培養から観察評価までの一連の操作を一つのマイクロ流体デバイス内で実施することができる。
【0013】
本発明に係るマイクロ流体デバイスは、熱可塑性樹脂により構成されている、という構成でもよい。この構成によれば、射出成形により容易にマイクロ流体デバイスを成形することができる。
【0014】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記熱可塑性樹脂は、シクロオレフィンポリマー(COP)である、という構成でもよい。COPは、低薬剤吸着性を有するため、薬剤吸着が少なく正確な薬剤評価を行うことができる。また、COPは、高透明性を有するため、外部から細胞を観察しやすい。
【0015】
本発明に係るマイクロ流体デバイスの製造方法は、
第一基板に、前記第一基板の第一主面から第二主面に向かって延びる貫通孔と、前記第二主面に設けられて前記貫通孔に連通する凹部と、を形成する工程と、
第二基板を前記第一基板の前記第二主面に当接させて前記貫通孔及び前記凹部を覆う工程と、
前記第一基板と前記第二基板を光接合により接合する工程と、を有するものである。
【0016】
この構成によれば、第一基板と第二基板とが接合されることにより、貫通孔が第一培養空間として機能し、凹部が第二培養空間として機能する。また、第一基板と第二基板を光接合により接合することで、薬剤の評価に悪影響を与えたり、細胞を傷害したりする溶出物が発生しないマイクロ流体デバイスとすることができる。
【0017】
本発明に係るマイクロ流体デバイスの使用方法は、
前記細胞体を前記第一培養空間で培養し、前記細胞体から延びる前記細胞構成部位を前記第二培養空間で培養するステップと、
前記第二培養空間内に薬剤を投与して、前記細胞構成部位に対する前記薬剤の薬効及び/又は毒性を評価するステップと、を有するものである。
【0018】
本発明のマイクロ流体デバイスの使用方法によれば、細胞体と細胞体から延びる突起状の細胞構成部位とを効率よく分離して培養することができるため、生体環境に近い状態を再現した薬剤評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係るマイクロ流体デバイスを製造する前の状態における斜視図
【
図3】
図2に示すマイクロ流体デバイスのIII-III線断面図
【
図4】マイクロ流体デバイスで神経細胞を培養した様子を模式的に示す平面図
【
図5】
図4に示すマイクロ流体デバイス1のV-V線断面図
【
図6A】別実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図6B】別実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
【
図7A】別実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図7B】別実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
【
図8A】別実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図8B】別実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
【
図9A】別実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図9B】別実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
[マイクロ流体デバイスの構造]
本発明に係るマイクロ流体デバイスにつき、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0021】
図1は、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1を製造する前の状態における斜視図である。マイクロ流体デバイス1は、第一基板10と第二基板20とを有し、これらが接合されることで製造される。
図1は、第一基板10に第二基板20を接合する直前の、両基板を示した斜視図に対応する。
【0022】
マイクロ流体デバイス1は、第二基板20の一つの主面20a上に、第一基板10の一つの主面10b(本発明の第二主面に相当する)が部分的に接触するように積層し、接合されて形成される。主面とは、基板10,20を構成する面のうち他の面よりもはるかに面積の大きい面を指す。基板10,20にはそれぞれ二つの主面があり、この二つの主面は互いに対向配置される。第二基板20に部分的に接触する第一基板10の主面10bは凹部(後述する)を有する。第一基板10のもう一つの主面10a(本発明の第一主面に相当する)は、第二基板20とは反対側に位置し、ポート11,12(後述する)を有する。
【0023】
以下の説明では、第一基板10と第二基板20とが接合された状態において、第一基板10の主面10a,10b及び第二基板20の主面20a,20bに平行な面をXY平面とし、このXY平面に直交する方向をZ方向とする、XYZ座標系が適宜参照される。
【0024】
また、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。なお、マイクロ流体デバイス1は、通常、Z方向を上下方向として使用され、-Z方向が上方向に相当する。
【0025】
図2は、マイクロ流体デバイス1の平面図である。
図3は、第二基板20上に第一基板10が接合されたマイクロ流体デバイス1の断面模式図を示し、当該断面模式図は、
図2に示すマイクロ流体デバイス1のIII-III線断面図である。
図3の断面模式図は、図の理解を容易にするために、両基板の外形線のうち断面上に表れる線のみを示している。後述する
図5についても同様である。
【0026】
第一基板10及び第二基板20は、それぞれ同一形状の主面を有する矩形基板である。第一基板10及び第二基板20の主面の縦と横は、例えば10mmと20mmである。また、第一基板10の厚みは第二基板20の厚みよりも大きい。第一基板10の厚みは、例えば、0.2~10mmであり、本実施形態では3mmである。また、第二基板20の厚みは、例えば0.1~2mmであり、本実施形態では1mmである。
【0027】
第一基板10には、
図1に示すように、第一主面10aから第二主面10bへ向かって延びる貫通孔11a及び貫通孔12aが形成されている。貫通孔11a及び貫通孔12aは、X方向に並べて配置されている。第一主面10aにおける貫通孔11aの開口部がポート11であり、第一主面10aにおける貫通孔12aの開口部がポート12である。
【0028】
ポート11,12は、液体をマイクロ流体デバイス1に注入する目的と、液体をマイクロ流体デバイス1から排出する目的と、の少なくとも一方の目的を有する。例えば、ポート11が液体注入口として使用され、ポート12が液体排出口として使用されてもよい。
【0029】
貫通孔11aは、第一基板10と第二基板20とが接合されることにより、第一培養空間31として機能する。ただし、本実施形態では貫通孔11aが第一培養空間31として機能する例を示すが、貫通孔12aが第一培養空間31として機能するようにしてもよい。また、貫通孔11aと貫通孔12aの両方がそれぞれ第一培養空間31として機能するようにしてもよい。
【0030】
本実施形態の貫通孔11a及び貫通孔12aは、何れもZ方向に延びる円孔である。貫通孔11a及び貫通孔12aの直径d(
図2参照)は、例えば0.05~5mmであり、本実施形態では2mmである。また、貫通孔11aと貫通孔12aの間の距離L(
図2参照)は、例えば1~100mmであり、本実施形態では7mmである。
【0031】
第一基板10の第二主面10bは、
図1に示すように、凹部13aを備える。凹部13aは、第二主面10bのY方向中央部にX方向へ延びるように形成されている。凹部13aの延設方向(X方向)に垂直な断面(YZ平面に平行な断面)は扁平な矩形状である。
【0032】
凹部13aは、貫通孔11a及び貫通孔12aに連通する。凹部13aは、第一基板10と第二基板20とが接合されることにより、両基板10,20に挟まれた中空状の第二培養空間32として機能する。
【0033】
凹部13aは、一定の幅及び深さでX方向に延びるスリット状である。凹部13aは、幅が深さの10倍以上の大きさとなっている。すなわち、第二培養空間32は、延設方向に見たとき、幅W(
図2参照)が高さH(
図3参照)の10倍以上の大きさとなるように構成されている。第二培養空間32は、幅Wが高さHの好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上の大きさとなるように構成される。また、幅Wは高さHの100倍以下の大きさとするのが好ましい。なお、シリコーンゴムで形成された従来のマイクロ流体デバイスにおいては、幅が高さの10倍以上となる扁平な流路は、重力等の影響で高さを維持することが困難であった。
【0034】
以上のように、本実施形態のマイクロ流体デバイス1は、第一培養空間31と第一培養空間31から延設された第二培養空間32と、を備え、第二培養空間32は、延設方向に見たとき、幅Wが高さHの10倍以上の大きさとなるように構成されている。第一培養空間31は、細胞体を培養することができ、第二培養空間32は、細胞体から延びる突起状の細胞構成部位を培養することができる。その結果、マイクロ流体デバイス1は、細胞体と細胞構成部位とを分離した状態で培養することができる。
【0035】
図4及び
図5は、マイクロ流体デバイス1で神経細胞を培養した様子を模式的に示す平面図及び断面図である。
図5は、
図4に示すマイクロ流体デバイス1のV-V線断面図である。
【0036】
神経細胞C1(細胞体の一例)は、第一培養空間31にて培養され、一方、神経細胞C1から延びる突起状の神経突起C2(細胞構成部位の一例)は、第二培養空間32で培養されている。このとき、第二培養空間32は、
図4、
図5に示すように神経細胞C1が第二培養空間32に入り込むことが無く、神経突起C2が培養可能な扁平な形状と成っている。
また、神経細胞C1は髄鞘の有無,直径,伝導速度などにより分類されるが、髄鞘を有するAタイプでは、それぞれ直径がAα(13~22μm)、Aβ(8~13μm)、Aγ(4~8μm)、Aδ(1~4μm)である。また、髄鞘を有する場合でも自立神経はBタイプと呼ばれ、その直径は1~3μmである。更には、髄鞘を有さないCタイプ(C線維)では、直径は0.2~1.0μmである。
更には、第二培養空間32は、幅Wが高さHの10倍以上となるように扁平な断面形状に構成されているため、
図4に示すように、複数の神経突起C2が束状構造をとらず、それぞれの神経突起C2が幅方向(Y方向)に並ぶように培養される。
【0037】
神経突起C2が軸索のみで構成される場合(ミエリンがない場合)、神経突起C2の直径は0.2~1.5μmであり、神経突起C2がミエリンで覆われた軸索で構成される場合、神経突起C2の直径は1~22μmである。この神経突起C2が、その直径の7倍以上の幅を第二培養空間32に持たせることで第二培養空間32の側壁に接触することなく神経突起C2を複数に分割しながら成長させることができる。神経突起C2の直径に対して第二培養空間32の幅が7倍以下であれば、神経突起C2の培養時に隣接する神経突起C2自身や第二培養空間32の側壁に接触し、成長が抑制されてしまう。
【0038】
第二培養空間32において、幅Wは、50μm以上8000μm以下が好ましく、500μm以上1000μm以下がより好ましい。幅Wが50μmより狭いと、十分な観察範囲を得ることが難しくなる。一方、幅Wが8000μmよりも広いと、分離可能な流路高さと流路幅を共に満たすことができない。本実施形態では、幅Wは800μmである。
【0039】
第二培養空間32において、高さHは、5μm以上80μm以下が好ましく、20μm以上80μm以下がより好ましい。高さHが5μmより低いと、神経突起C2が侵入しにくく、また、神経突起C2が侵入しても成長が阻害される。一方、高さHが80μmより高いと、神経細胞C1も第二培養空間32に侵入してしまい、神経細胞C1と神経突起C2を分離することができない。本実施形態では、高さHは40μmである。
【0040】
ミエリン(髄鞘)を持たない神経突起(無髄神経)を培養する場合やその他の細胞を用いる場合、高さHは、無髄神経の直径より大きい5μm以上が好ましい。また、ミエリン(髄鞘)を持つ神経突起(有髄神経)を培養する場合、高さHは、有髄神経の太さの20μm以上が好ましい。
【0041】
個々の細胞に分離して、分散した細胞を播種する場合、浮遊した細胞が第二培養空間32に流れ込むのを防ぐ必要がある。単一細胞に分散した時の細胞の大きさは、細胞種にもよるが、直径10~30μmの大きさとなるため、高さHは20μm以下が好ましい。また、細胞凝集塊の状態で細胞を播種する場合、高さHは、細胞凝集塊より小さい高さ80μm以下が好ましい。
【0042】
[マイクロ流体デバイスの製造方法]
次に、マイクロ流体デバイス1の製造方法について詳細に説明する。
【0043】
(基板の準備工程)
マイクロ流体デバイス1を構成する第一基板10と第二基板20とを準備する。
【0044】
基板10,20を構成する材料は、透明な熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂の例としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリスチレン(PS)が挙げられる。基板10,20を構成する熱可塑性樹脂としては、医療用グレードのCOPが特に好ましい。COPは、高透明性、低自家蛍光、低薬剤吸着性の熱可塑性樹脂である。
【0045】
本実施形態における基板10,20の形状について説明する。第一基板10及び第二基板20は、それぞれ同一形状の主面を有する矩形基板を使用している。また、第一基板10の厚みは第二基板20の厚みよりも大きい。しかしながら、第一基板10及び第二基板20の主面は、同一形状でなくてもよい。例えば、第一基板10の主面の縦と横の寸法が、第二基板20の主面の縦と横の寸法より大きくてもよく、第二基板20の主面の縦と横の寸法が、第一基板10の主面の縦と横の寸法より大きくてもよい。また、第一基板10の厚みは第二基板20の厚みと同じでもよく、第一基板10の厚みは第二基板20の厚みよりも小さくてもよい。
【0046】
本実施形態における第二基板20の二つの主面20a,20bは共に平坦である。第一基板10の第一主面10aは、ポート11,12を有する。ポート11,12は、第一基板10に形成された貫通孔11a,12aの開口部である。また、第一基板10の第二主面10bは、第二基板20と接合された後に中空状の第二培養空間32を形成するための凹部13aを有する。
【0047】
第一基板10に貫通孔11a,12a及び凹部13aを設けるには、例えば、射出成形、フォトリソグラフィ工程とエッチング工程との組合せ、鋳造、切削加工等の手段があるが、基板を構成する材料に応じて最適な手段を選択するとよい。一例として、第一基板10を、上述したような熱可塑性樹脂で構成することで、射出成形により容易に貫通孔11a,12a及び凹部13aを形成することができる。
【0048】
(基板の接合工程)
作製された第一基板10の主面10bと第二基板20の主面20aとを接合する。以下に示す接合方法は、基板上に接着剤となる薄膜の形成が不要となる方法であり、以下の手順で実行される。
【0049】
まず、両基板の接合面(10b,20a)に対して、表面を活性化する処理を行う。表面活性化処理の方法としては、紫外線を照射する方法が利用できる。
【0050】
紫外線を照射する方法には、例えば、波長172nmの光を照射するキセノンエキシマランプなどの紫外線光源から、第一基板10の主面10b、及び第二基板20の主面20aに対して、波長200nm以下の真空紫外線(VUV)を照射することで実行される。紫外線光源の他の例としては、185nmに輝線を有する低圧水銀ランプ、波長120~200nmの範囲に輝線を有する重水素ランプを好適に用いることができる。真空紫外線の照度は、例えば10~500mW/cm2であり、照射時間は樹脂に応じて適宜設定されるが、例えば5~6秒間である。
【0051】
次に、表面活性化処理が施された両基板の接合面(10b,20a)を接触させるように第一基板10と第二基板20とを重ね合わせ、プレス機を使用して両基板を押圧し接合する接合工程を行う。接合工程は、表面活性化状態を維持するために、紫外線照射工程が完了してから所定時間内、例えば10分以内に行うとよい。
【0052】
この接合工程は、接合を強固にするために、必要に応じて加熱された環境において行われる。接合工程において、加熱温度や押圧力等の接合条件は、第一基板10の構成材料及び第二基板20の構成材料に応じて設定される。具体的な条件を挙げると、押圧する際の温度は、例えば40~130℃であり、接合するための押圧力は、例えば、0.1~10MPaである。
【0053】
第一基板10と第二基板20とが接合された基板(以下、「接合基板」と呼ぶ場合がある。)を所定時間加圧した後、必要に応じてさらに所定時間加熱してもよい。接合基板を加圧した後に加熱することにより、加圧後の積層基板における接合界面に、十分な接合状態が得られている部分と、十分な接合状態が得られていない部分とが混在している場合であっても、加熱により、十分な接合状態が得られていない部分において、その接合状態を、所期の状態とすることができる。
【0054】
接合基板の加圧状態を所定時間にわたって維持し、その後、その加圧状態を解除し、接合基板の温度を所定温度まで上昇させ、その温度を、所期の接合状態が得られるまで維持するようにしてもよい。ここに、所定温度とは、接合基板に変形が生じることのない温度である。例えば、加熱温度が例えば40~130℃であり、加熱時間が例えば60~600秒間である。
【0055】
その後、冷却工程を経て、第二基板20の主面20a上に第一基板10が接合されたマイクロ流体デバイス1が作製される。
【0056】
[マイクロ流体デバイスの使用方法]
次に、マイクロ流体デバイス1の使用方法について説明する。具体的には、マイクロ流体デバイス1を用いて薬剤の評価を行う方法である。
【0057】
初めに、ポート11から第一培養空間31に神経細胞C1を播種する。第一培養空間31及び第二培養空間32は、適切な培地で満たされる。神経細胞C1が第一培養空間31にて数日間培養されることで、神経細胞C1から神経突起C2が伸長し、第二培養空間32へ侵入していく。これにより、神経細胞C1と神経突起C2とを分離した状態で培養するこができる。第二培養空間32にて培養された神経突起C2は、外部から観察することができる。神経突起C2は、例えば、第二基板20の主面20b側から蛍光顕微鏡等を使って観察される。神経突起C2を外部から適切に観察可能とするため、第一基板10及び第二基板20を透明な熱可塑性樹脂で形成し、かつ第一基板10及び第二基板20の主面を平坦とするのが好ましい。
【0058】
次いで、第二培養空間32内に薬剤を投与して、神経突起C2に対する薬剤の薬効及び/又は毒性を評価する。以上のように、本発明のマイクロ流体デバイス1によれば、培養から薬剤試験、観察評価までの一連の操作を一つのデバイス内で実施することができる。
【0059】
なお、薬剤を投与するタイミングとして、神経突起C2が第二培養空間32内で十分に伸長した後に第二培養空間32内に薬剤を投与し、薬効及び/又は毒性を評価する方法と、第二培養空間32(第一培養空間31も)の培地に予め薬剤を投与した状態で神経突起C2を培養させ、薬効及び/又は毒性を評価する方法とがある。
【0060】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0061】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0062】
(1)マイクロ流体デバイス1は、培地を貯留するリザーバをさらに備えていてもよい。
図6A及び
図6Bは、マイクロ流体デバイス1がリザーバ33を備える例を示す平面図及び断面図である。リザーバ33は、第一培養空間31に連接されている。リザーバ33及び第一培養空間31と、第二培養空間32との容積比率は、例えば2000:1である。
【0063】
なお、
図6A及び
図6Bでは、リザーバ33は第一培養空間31と別の構成として示しているが、一体の構成としてもよい。すなわち、第一培養空間31をリザーバ33の一部として構成してもよい。
【0064】
(2)
図7A及び
図7Bは、第二培養空間32の構成が上記の実施形態と異なる別例を示す。この例では、第二培養空間32は、一部が外部に露出している。
【0065】
(3)
図8A及び
図8Bは、第二培養空間32の構成が上記の実施形態と異なるさらなる別例を示す。この例では、第二培養空間32は、第二基板20に形成された凹部により構成されている。また、第二培養空間32は、一部が外部に露出している。
【0066】
(4)
図9A及び
図9Bは、第二培養空間32に連通する薬液導入ポート14を設けた例を示す。薬液導入ポート14から第二培養空間32に薬剤を投与することができる。
【0067】
(5)上記の実施形態では、細胞体として神経細胞の例を示したが、これに限定されない。細胞体としては、リンパ組織内にいる免疫機構を構成する抗原提示細胞である濾胞樹状細胞(follicular dendritic cell)、皮膚等に存在してメラニンを生成する細胞であるメラノサイト(melanocyte)が挙げられる。
【符号の説明】
【0068】
1 :マイクロ流体デバイス
10 :第一基板
10a :第一主面
10b :第二主面
11 :ポート
11a :貫通孔
12 :ポート
12a :貫通孔
13a :凹部
14 :薬液導入ポート
20 :第二基板
20a :主面
20b :主面
31 :第一培養空間
32 :第二培養空間
33 :リザーバ
C1 :神経細胞
C2 :神経突起
W :第二培養空間の幅
H :第二培養空間の高さ