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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018893
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/06 20060101AFI20220120BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20220120BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20220120BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
C08L63/06
C08G59/42
C08G59/32
H01L23/30 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122322
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 弘世
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4J002CD02X
4J002CD13W
4J002CD14W
4J002CD15X
4J002EF126
4J002EJ028
4J002EJ038
4J002EJ048
4J002EN087
4J002EU078
4J002EU117
4J002EW017
4J002EW068
4J002EW177
4J002FD078
4J002FD146
4J002FD157
4J002GJ02
4J002GQ05
4J036AB07
4J036AB08
4J036AJ18
4J036AJ21
4J036DA05
4J036DB15
4J036DB21
4J036DC41
4J036FA10
4J036GA04
4J036HA12
4J036JA07
4J036KA01
4M109AA01
4M109EA03
4M109EB02
4M109EB04
4M109EC09
4M109EC11
4M109GA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い耐熱性、透明性を有する硬化物を形成でき、低粘度で、かつ、粘度変化が小さい熱硬化性組成物及び該熱硬化性組成物の硬化物の提供。
【解決手段】トリグリシジルイソシアヌレート等のイソシアヌレート基含有トリエポキシ化合物及びその他のエポキシ化合物を含有するエポキシ混合物(A)と、シクロヘキサン基含有酸無水物を含有する酸無水物硬化剤(B)と、硬化促進剤(C)と、を含み、粘度が25℃で1Pa・s以下である熱硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるエポキシ化合物及びその他のエポキシ化合物を含有するエポキシ混合物(A)と、
下記式(2)で表される酸無水物を含有する酸無水物硬化剤(B)と、
硬化促進剤(C)と、を含み、
粘度が25℃で1Pa・s以下である、熱硬化性組成物。
【化1】
[式中、R1は、炭素数1~18のアルキレン基を示し、各R1は同一又は異なっていてもよい。]
【化2】
[式中、R2は、式(2)で表される酸無水物におけるシクロヘキサン環のいずれの炭素原子上を示す。R2は、カルボキシル基を含む基を示し、R2は、一つ又は複数である。]
【請求項2】
前記硬化促進剤(C)は、リン系酸化促進剤及び有機酸金属塩からなる化合物より選択される1以上の硬化促進剤を含む、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
前記その他のエポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物を含む、請求項1または2に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
前記脂環式エポキシ化合物は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物を含む、請求項3に記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
前記脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物は、分子内に2以上のエポキシ基を有するシロキサン誘導体、または下記式(1-1)で表される脂環式エポキシ化合物を少なくとも含む、請求項4に記載の熱硬化性組成物。
【化3】
[式中、R3は単結合又は連結基を示す。前記連結基は、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部若しくは全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、又はこれらが複数個連結した基である。]
【請求項6】
前記酸無水物硬化剤(B)は、前記式(2)で表される酸無水物以外の酸無水物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
さらに、酸化防止剤(D)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
前記酸無水物硬化剤(B)の含有量は、前記エポキシ混合物(A)1当量に対して0.4~0.8当量である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項9】
光半導体封止用である、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の熱硬化性組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱硬化性組成物及び該熱硬化性組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光半導体装置の小型化が進んでおり、このような光半導体装置において光半導体素子を被覆する樹脂(封止材)には、高い耐熱性や透明性が求められている。従来、耐熱性が高い封止材を形成するための封止剤として、例えば、イソシアヌル環を有するエポキシ樹脂及び多価カルボン酸樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、調合後の粘度が低い封止剤として、例えば、酸無水物及びエポキシ樹脂を含む熱硬化性組成物が知られている(特許文献2)。該熱硬化性組成物は、酸無水物中のシクロヘキサン-1,2,4-トリカルボン酸-1,2-無水物の含有量と、エポキシ樹脂中の脂環式エポキシ樹脂の含有量とを調節することにより、調合後の粘度を低下させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-37507号公報
【特許文献2】特開2008-81596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、上記エポキシ樹脂組成物の粘度は高い。このため、光半導体用の封止剤として細密な隙間に流し込むのが困難であるという問題が生じていた。また、特許文献2において、熱硬化性組成物を調合した直後の30℃における粘度は、5Pa・s以下であるが、熱硬化性組成物を調合して7時間放置した後の増粘倍率は、調合後の5倍以下となるように熱硬化性組成物を調合している。すなわち、特許文献2における熱硬化性組成物は、熱硬化性組成物を調合して7時間放置した後の粘度が25Pa・sに近い組成物も含みうる。粘度が25Pa・sに近い熱硬化性組成物は、粘度が高く十分な低さの粘度を有していない。従って、熱硬化性組成物を光半導体用の封止剤として細密な隙間に流し込む際に、作業性が低下するおそれがある。また、上記熱硬化性組成物の粘度が高いと、ディスペンサー等を用いて光半導体を封止する際にボイドの発生等が生じ、透明性又は信頼性等が低下するという問題が生じ得た。
【0006】
従って、本開示の目的は、高い耐熱性、透明性を有する硬化物を形成でき、低粘度で、かつ、粘度変化が小さい熱硬化性組成物、及び該熱硬化性組成物の硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、柔軟鎖が導入されたトリグリシジルイソシアネートを含有するエポキシ混合物と、所定の酸無水物を含有する酸無水物硬化剤とを含む熱硬化性組成物が、高い耐熱性、透明性を有する硬化物を形成し、低粘度で、かつ、粘度変化を小さく維持できることを見出した。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本開示は、下記式(1)で表されるエポキシ化合物及びその他のエポキシ化合物を含有するエポキシ混合物(A)と、下記式(2)で表される酸無水物を含有する酸無水物硬化剤(B)と、硬化促進剤(C)と、を含み、粘度が25℃で1Pa・s以下である熱硬化性組成物を提供する。
【化1】
[式中、R1は、炭素数1~18のアルキレン基を示し、各R1は同一又は異なっていてもよい。]
【化2】
[式中、R2は、式(2)で表される酸無水物におけるシクロヘキサン環のいずれの炭素原子上を示す。R2は、カルボキシル基を含む基を示し、R2は、一つ又は複数である。]
【0009】
上記硬化促進剤(C)は、リン系酸化促進剤及び有機酸金属塩からなる化合物より選択される1以上の硬化促進剤を含んでいてもよい。
【0010】
上記その他のエポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物を含んでいてもよい。
【0011】
上記脂環式エポキシ化合物は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物を含んでいてもよい。
【0012】
上記脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物は、分子内に2以上のエポキシ基を有するシロキサン誘導体、または下記式(1-1)で表される脂環式エポキシ化合物を少なくとも含んでいてもよい。
【化3】
[式中、R3は単結合又は連結基を示す。上記連結基は、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部若しくは全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、又はこれらが複数個連結した基である。]
【0013】
上記酸無水物硬化剤(B)は、前記式(2)で表される酸無水物以外の酸無水物を含んでいてもよい。
【0014】
上記熱硬化性組成物は、さらに、酸化防止剤(D)を含んでいてもよい。
【0015】
上記酸無水物硬化剤(B)の含有量は、上記エポキシ混合物(A)1当量に対して0.4~0.8当量であってもよい。
【0016】
上記熱硬化性組成物は、光半導体封止用であってもよい。
【0017】
本開示は、上記の熱硬化性組成物の硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本開示の熱硬化性組成物は、上記構成を有するため、該熱硬化性組成物を硬化させることにより、高い耐熱性、及び透明性を有する硬化物を形成することができる。また、本開示の熱硬化性組成物は上記構成を有するため、低粘度で、かつ、粘度変化を小さく維持できる。これにより、光半導体を封止する際に、ボイドの発生等が抑制され、かつ作業性が向上する。また、本開示の熱硬化性組成物は、光半導体封止用組成物として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示を実施するための形態について説明する。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0020】
<熱硬化性組成物>
本開示の熱硬化性組成物は、エポキシ混合物(A)と、酸無水物硬化剤(B)と、硬化促進剤(C)と、を含む。以下、熱硬化性組成物の粘度、エポキシ混合物(A)、酸無水物硬化剤(B)、硬化促進剤(C)、及びその他の熱硬化性組成物に含まれうる成分(添加剤)について詳細に説明する。
【0021】
本開示の熱硬化性組成物の25℃における粘度(熱硬化性組成物における全成分を混合した直後の粘度)は、1Pa・s以下であり、60~800mPa・sが好ましく、より好ましくは100~650mPa・s、さらに好ましくは150~500mPa・sである。25℃における粘度を60mPa・s以上とすることにより、注型時の作業性が向上し、かつ硬化物の耐熱性がより向上する傾向がある。一方、25℃における粘度を1Pa・s以下とすることにより、注型時の作業性が向上し、硬化物に注型不良に由来する不具合が生じにくくなる傾向がある。なお、本開示の熱硬化性組成物の25℃における粘度は、E型粘度計(商品名「TV-25typeH」、東機産業株式会社製)を用いて、ローター:標準1°34’×R24、温度:25℃、回転数:0.5~10rpmの条件で測定される。
【0022】
また、本開示の熱硬化性組成物の25℃における粘度は、粘度変化が小さい。例えば、本開示の熱硬化性組成物を調製した直後の粘度(熱硬化性組成物における全成分を混合した直後の粘度)を初期粘度とする。熱硬化性組成物を調製後、25℃で8時間保管した後の25℃における粘度を8時間保管後の粘度とする。粘度変化は、以下の式で求められる。
粘度変化=(8時間保管後の粘度)/(初期粘度)
本開示の熱硬化性組成物の粘度変化は2倍以下であることが好ましい。本開示の熱硬化性組成物の粘度変化が2倍以下であると、本開示の熱硬化性組成物は安定性が高く、低粘度を長時間維持できる。したがって、本開示の熱硬化性組成物は狭い隙間等に流し込むことができるため、後で述べるように特に細密な光半導体装置を被覆する樹脂(封止材)として利用できる。
【0023】
[エポキシ混合物(A)]
(イソシアヌル酸誘導体(A1))
本開示のエポキシ混合物(A)は、下記式(1)で表されるエポキシ化合物(以下、単に「イソシアヌル酸誘導体(A1)」と称する場合がある。)と、その他のエポキシ化合物とを含有するエポキシ化合物の混合物である。
【化1】
【0024】
上記式(1)中、R1は、連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。各R1は互いに同一又は異なっていてもよい。R1は、例えば、二価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、これらが複数個連結した基等を有する連結基が挙げられる。
【0025】
また、上記二価の炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、脂環式構造を有していてもよい。上記二価の炭化水素基は、柔軟鎖として効果的に機能するために、直鎖状であることが好ましい。
【0026】
上記二価の炭化水素基としては、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。上記二価の炭化水素基は、柔軟鎖として効果的に機能するために、飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0027】
上記二価の飽和炭化水素基としては、炭素数1~18のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2~10のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数2~7のアルキレン基であることがさらに好ましい。
【0028】
炭素数2~18のアルキレン基としては、例えばメチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等の直鎖状、分岐鎖状の二価の飽和炭化水素基、又は1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基等の脂環式構造を有する二価の飽和炭化水素基が挙げられる。
【0029】
イソシアヌル酸誘導体(A1)は、イソシアヌル酸の誘導体であって、分子内に3個のオキシラン環を有する化合物である。イソシアヌル酸誘導体(A1)は、柔軟鎖としてのR1を有する。このため、熱硬化性組成物の粘度を低く抑えることができる。また、本開示の熱硬化性組成物がイソシアヌル酸誘導体(A1)を含むことにより、得られる硬化物の靭性及び耐熱衝撃性を向上させることができる。
【0030】
上記式(1)で表される化合物の代表的なイソシアヌル酸誘導体(A1)の例としては、入手し易さ、及び粘度低下の観点で、下記式(1-2)又は(1-3)で表される化合物がさらに好ましい。
【化4】
【化5】
【0031】
上記式(1-2)で表される化合物は、1,3,5-トリス(4,5-エポキシペンチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンである。上記式(1-3)で表される化合物は、1,3,5-トリス(6-オキシラニルヘキシル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンである。
【0032】
なお、本開示の熱硬化性組成物においてイソシアヌル酸誘導体(A1)は、一種を単独で使用することもでき、又は二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、イソシアヌル酸誘導体(A1)としては、例えば、商品名「TEPIC-VL」、商品名「TEPIC-FL」(以上、日産化学株式会社製)等の市販品を使用することもできる。
【0033】
本開示の熱硬化性組成物におけるイソシアヌル酸誘導体(A1)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、エポキシ混合物(A)の全量(100質量%)に対して、1~50質量%が好ましく、より好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。イソシアヌル酸誘導体(A1)の含有量を1質量%以上とすることにより、熱硬化性組成物の粘度をより低くすることができる。一方、イソシアヌル酸誘導体(A1)の含有量が50質量%以下であると、熱硬化性組成物における溶解性が向上し、均一な性状の硬化物が得られる。
【0034】
本開示の熱硬化性組成物におけるイソシアヌル酸誘導体(A1)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、熱硬化性組成物の全量(100質量%)に対して、0.5~40質量%が好ましく、より好ましくは2~25質量%、さらに好ましくは5~13質量%である。イソシアヌル酸誘導体(A1)の含有量を0.5質量%以上とすることにより、熱硬化性組成物の粘度をより低くすることができる。一方、イソシアヌル酸誘導体(A1)の含有量が40質量%以下であると、熱硬化性組成物における溶解性が向上し、均一な性状の硬化物が得られる。
【0035】
以下、エポキシ混合物(A)に含まれるイソシアヌル酸誘導体(A1)以外のその他のエポキシ化合物について説明する。その他のエポキシ化合物としては、例えば、脂環式エポキシ化合物等が挙げられる。なお、その他のエポキシ化合物として、脂環式エポキシ化合物を例示するが、その他のエポキシ化合物はこれには限定されず、また2種類以上のエポキシ化合物を含んでいてもよい。
【0036】
(脂環式エポキシ化合物(A2))
エポキシ混合物(A)は、イソシアヌル酸誘導体(A1)以外の脂環式エポキシ化合物を含んでいてもよい。イソシアヌル酸誘導体(A1)以外の脂環式エポキシ化合物(以下、脂環式エポキシ化合物(A2)と称する場合がある。)は、分子内(一分子中)に脂環(脂肪族環)構造とエポキシ基(オキシラニル基)とを少なくとも有する化合物である。なお、分子内(一分子中)のエポキシ基は、二個以上が好ましい。
【0037】
脂環式エポキシ化合物(A2)は、安定性及び透明性に優れる。このため、本開示の熱硬化性組成物は、イソシアヌル酸誘導体(A1)と脂環式エポキシ化合物(A2)とを組み合わせた配合であることにより、粘度の上昇を抑制しつつも、安定性及び透明性に優れた組成物となる。また、本開示の熱硬化性組成物は、イソシアヌル酸誘導体(A1)と脂環式エポキシ化合物(A2)とを組み合わせた配合であることにより、熱硬化性組成物における溶解性が向上し、硬化時の相分離が抑制されるものと推測される。従って、均一に溶解した熱硬化性組成物から均一な性状の硬化物が得られるため、硬化物のクラック発生が抑制されるものと推測される。
【0038】
脂環式エポキシ化合物(A2)としては、具体的には、(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(脂環エポキシ基)を有する化合物、(ii)脂環に直接単結合で結合しているエポキシ基を有する化合物、(iii)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物(グリシジルエーテル型エポキシ化合物)等が挙げられる。
【0039】
≪脂環式エポキシ化合物(A21)≫
上述の(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(脂環エポキシ基)を有する化合物としては、公知乃至慣用のものの中から任意に選択して使用することができる。中でも、上述の(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物としては、硬化物の透明性、耐熱性の観点で、シクロヘキセンオキシド基を有する化合物が好ましく、特に、下記式(1-1)で表される化合物((以下、単に「脂環式エポキシ化合物(A21)」と称する場合がある。)が好ましい。
【化3】
【0040】
上記式(1-1)中、R3は単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、これらが複数個連結した基等が挙げられる。上記式(1-1)中のR3が単結合である化合物としては、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル等が挙げられる。なお、脂環式エポキシ化合物(A21)は、シクロヘキサン環上に置換基を有する化合物であってもよい。
【0041】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数が1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基、二価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数が1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。上記二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等の二価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0042】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8の直鎖又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2~4のアルケニレン基である。
【0043】
上記連結基R3としては、特に、酸素原子を含有する連結基が好ましく、具体的には、-CO-、-O-CO-O-、-COO-、-O-、-CONH-、エポキシ化アルケニレン基;これらの基が複数個連結した基;これらの基の1又は2以上と二価の炭化水素基の1又は2以上とが連結した基等が挙げられる。二価の炭化水素基としては上記で例示したものが挙げられる。
【0044】
脂環式エポキシ化合物(A21)の代表的な例としては、例えば下記式(1-4)で表される分子内に2以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート)等が挙げられる。下記式(1-4)で表される化合物としては、例えば、商品名「CELLOXIDE2021P」(株式会社ダイセル製)等の市販品を用いることもできる。
【化6】
【0045】
本開示の熱硬化性組成物が脂環式エポキシ化合物(A21)を含む場合、脂環式エポキシ化合物(A21)の含有量は特に限定されないが、エポキシ混合物(A)の全量(100質量%)に対する脂環式エポキシ化合物(A21)の割合は、1~40質量%が好ましく、より好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは4~15質量%である。脂環式エポキシ化合物(A21)の割合を1質量%以上とすることにより、熱硬化性組成物の安定性及び透明性がより向上する傾向がある。一方、例えば、脂環式エポキシ化合物(A21)の割合を40質量%以下とすることにより、硬化物の耐熱衝撃性や耐湿性がより向上する傾向がある。
【0046】
本開示の熱硬化性組成物が脂環式エポキシ化合物(A21)を含む場合、脂環式エポキシ化合物(A21)の含有量は特に限定されないが、熱硬化性組成物の全量(100質量%)に対する脂環式エポキシ化合物(A21)の割合は、0.5~30質量%が好ましく、より好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。脂環式エポキシ化合物(A21)の割合を0.5質量%以上とすることにより、熱硬化性組成物の安定性及び透明性がより向上する傾向がある。一方、例えば、脂環式エポキシ化合物(A21)の割合を30質量%以下とすることにより、硬化物の耐熱衝撃性や耐湿性がより向上する傾向がある。
【0047】
脂環式エポキシ化合物(A2)が脂環式エポキシ化合物(A21)を含む場合、脂環式エポキシ化合物(A21)の含有量は特に限定されないが、脂環式エポキシ化合物(A2)の全量(100質量%)に対する脂環式エポキシ化合物(A21)の割合は、1~30質量%が好ましく、より好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは4~15質量%である。脂環式エポキシ化合物(A21)の割合を1質量%以上とすることにより、熱硬化性組成物の安定性及び透明性がより向上する傾向がある。一方、例えば、脂環式エポキシ化合物(A21)の割合を30質量%以下とすることにより、硬化物の耐熱衝撃性や耐湿性がより向上する傾向がある。
【0048】
≪シロキサン誘導体(A22)≫
また、(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物としては、上記脂環式エポキシ化合物(A21)以外に、分子内(一分子中)に2以上のエポキシ基を有するシロキサン誘導体(以下、単に「シロキサン誘導体(A22)」と称する場合がある。)を含んでいてもよい。熱硬化性組成物はシロキサン誘導体(A22)を含有することにより、特に、硬化物の耐熱性、耐光性をより高いレベルにまで向上させることができる。
【0049】
シロキサン誘導体(A22)におけるシロキサン骨格(Si-O-Si骨格)としては、特に限定されないが、例えば、環状シロキサン骨格;直鎖状のシリコーンや、かご型やラダー型のポリシルセスキオキサン等のポリシロキサン骨格等が挙げられる。中でも、上記シロキサン骨格としては、硬化物の耐熱性、耐光性を向上させて光度低下を抑制する観点で、環状シロキサン骨格、直鎖状シリコーン骨格が好ましい。即ち、シロキサン誘導体(A22)としては、分子内に2以上のエポキシ基を有する環状シロキサン、分子内に2以上のエポキシ基を有する直鎖状シリコーンが好ましい。なお、シロキサン誘導体(A22)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
シロキサン誘導体(A22)が、2以上のエポキシ基を有する環状シロキサンである場合、シロキサン環を形成するSi-O単位の数(シロキサン環を形成するケイ素原子の数に等しい)は、特に限定されないが、硬化物の耐熱性、耐光性を向上させる観点で、2~12が好ましく、より好ましくは4~8である。
【0051】
シロキサン誘導体(A22)の質量平均分子量は、特に限定されないが、硬化物の耐熱性、耐光性を向上させる観点で、100~3000が好ましく、より好ましくは180~2000である。
【0052】
シロキサン誘導体(A22)の1分子中のエポキシ基の数は、2個以上であれば特に限定されないが、硬化物の耐熱性、耐光性を向上させる観点で、2~4個が好ましい。
【0053】
シロキサン誘導体(A22)のエポキシ当量(JIS K7236に準拠)は、特に限定されないが、硬化物の耐熱性、耐光性を向上させる観点で、180~400が好ましく、より好ましくは240~400、さらに好ましくは240~350である。
【0054】
シロキサン誘導体(A22)におけるエポキシ基は、特に限定されないが、硬化物の耐熱性、耐光性を向上させる観点で、脂肪族環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基であり、中でもシクロヘキセンオキシド基であることが特に好ましい。
【0055】
シロキサン誘導体(A22)としては、具体的には、例えば、2,4-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,6,8,8-ヘキサメチル-シクロテトラシロキサン、4,8-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,2,4,6,6,8-ヘキサメチル-シクロテトラシロキサン、2,4-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-6,8-ジプロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、4,8-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,6-ジプロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,8-トリ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,6,8-ペンタメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,8-トリ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-6-プロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、分子内に2以上のエポキシ基を有するシルセスキオキサン等が挙げられる。より具体的には、例えば、下記式で表される分子内に2以上のエポキシ基を有する環状シロキサン等が挙げられる。
【化7】
【0056】
また、シロキサン誘導体(A22)としては、例えば、特開2008-248169号公報に記載の脂環エポキシ基含有シリコーン樹脂や、特開2008-19422号公報に記載の一分子中に少なくとも2個のエポキシ官能性基を有するオルガノポリシルセスキオキサン樹脂等を用いることもできる。
【0057】
シロキサン誘導体(A22)としては、例えば、分子内に2以上のエポキシ基を有する環状シロキサンである商品名「X-40-2678」(信越化学工業株式会社製)、商品名「X-40-2670」(信越化学工業株式会社製)、商品名「X-40-2720」(信越化学工業株式会社製)等の市販品を用いることもできる。
【0058】
本開示の熱硬化性組成物がシロキサン誘導体(A22)を含む場合、シロキサン誘導体(A22)の含有量(配合量)は特に限定されないが、エポキシ混合物(A)の全量(100質量%)に対して、40~95質量%が好ましく、より好ましくは50~90質量%、さらに好ましくは60~85質量%である。シロキサン誘導体(A22)の含有量が40質量%以上であると、耐熱性、耐光性に優れた硬化物が得られ、また熱硬化性組成物の粘度を低く調節することができる。一方、シロキサン誘導体(A22)の含有量が95質量%以下であると、硬化物の透明性がより向上する傾向にある。
【0059】
本開示の熱硬化性組成物がシロキサン誘導体(A22)を含む場合、シロキサン誘導体(A22)の含有量(配合量)は特に限定されないが、熱硬化性組成物の全量(100質量%)に対して、20~85質量%が好ましく、より好ましくは30~80質量%、さらに好ましくは40~70質量%である。シロキサン誘導体(A22)の含有量が20質量%以上であると、耐熱性、耐光性に優れた硬化物が得られ、また熱硬化性組成物の粘度を低く調節することができる。一方、シロキサン誘導体(A22)の含有量が85質量%以下であると、硬化物の透明性がより向上する傾向にある。
【0060】
本開示の熱硬化性組成物がシロキサン誘導体(A22)を含む場合、脂環式エポキシ化合物(A22)の含有量(配合量)は特に限定されないが、脂環式エポキシ化合物(A2)の全量(100質量%)に対する脂環式エポキシ化合物(A22)の割合は、70~99質量%が好ましく、より好ましくは80~98質量%、さらに好ましくは85~96質量%である。脂環式エポキシ化合物(A22)の割合を70質量%以上であると、耐熱性、耐光性に優れた硬化物が得られ、また熱硬化性組成物の粘度を低く調節することができる。一方、シロキサン誘導体(A22)の含有量が99質量%以下であると、硬化物の透明性がより向上する傾向にある。
【0061】
脂環式エポキシ化合物(A2)がシロキサン誘導体(A22)を含む場合、脂環式エポキシ化合物(A2)の含有量(配合量)は特に限定されないが、エポキシ混合物(A)の全量(100質量%)に対する脂環式エポキシ化合物(A2)の割合は1~98質量%が好ましく、より好ましくは3~95質量%、さらに好ましくは4~92質量%である。脂環式エポキシ化合物(A2)の割合を1質量%以上とすることにより、熱硬化性組成物の安定性及び透明性がより向上し、熱硬化性組成物の粘度を低く調節することができる。一方、例えば、脂環式エポキシ化合物(A2)の割合を98質量%以下とすることにより、硬化物の耐熱衝撃性がより向上する傾向がある。
【0062】
脂環式エポキシ化合物(A2)がシロキサン誘導体(A22)を含む場合、脂環式エポキシ化合物(A2)の含有量(配合量)は特に限定されないが、熱硬化性組成物の全量(100質量%)に対して、0.5~90質量%が好ましく、より好ましくは2~80質量%、さらに好ましくは3~70質量%である。脂環式エポキシ化合物(A2)の割合を0.5質量%以上とすることにより、熱硬化性組成物の安定性及び透明性がより向上する傾向がある。一方、例えば、脂環式エポキシ化合物(A2)の割合を90質量%以下とすることにより、硬化物の耐熱衝撃性がより向上する傾向がある。
【0063】
上述の(ii)脂環に直接単結合で結合しているエポキシ基を有する化合物としては、例えば、下記式(1-5)で表される化合物等が挙げられる。
【化8】
【0064】
式(1-5)中、R4は、構造式上、p価のアルコールからp個の水酸基(-OH)を除いた基(p価の有機基)であり、p、nはそれぞれ自然数を表す。p価のアルコール[R4(OH)p]としては、例えば、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノール等の多価アルコール(炭素数1~15のアルコール等)等が挙げられる。pは1~6が好ましく、nは1~30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの( )内(外側の括弧内)の基におけるnは同一でもよいし、異なっていてもよい。上記式(1-5)で表される化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」株式会社ダイセル製)等]等が挙げられる。
【0065】
上記(iii)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物としては、例えば、脂環式アルコール(特に、脂環式多価アルコール)のグリシジルエーテルが挙げられる。より詳しくは、例えば、2,2-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、2,2-ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン等のビスフェノールA型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物);ビス[o,o-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[o,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[p,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン等のビスフェノールF型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物);水素化ビフェノール型エポキシ化合物;水素化フェノールノボラック型エポキシ化合物;水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;ビスフェノールAの水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;水素化ナフタレン型エポキシ化合物;トリスフェノールメタンから得られるエポキシ化合物の水素化エポキシ化合物;下記芳香族エポキシ化合物の水素化エポキシ化合物等が挙げられる。
【0066】
上記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等]と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;これらのエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノール類とさらに付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール類[例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等]とアルデヒド[例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等]とを縮合反応させて得られる多価アルコール類を、さらにエピハロヒドリンと縮合反応させることにより得られるノボラック・アルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フルオレン環の9位に2つのフェノール骨格が結合し、かつこれらフェノール骨格のヒドロキシ基から水素原子を除いた酸素原子に、それぞれ、直接又はアルキレンオキシ基を介してグリシジル基が結合しているエポキシ化合物等が挙げられる。
【0067】
本開示の熱硬化性組成物において脂環式エポキシ化合物(A2)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
イソシアヌル酸誘導体(A1)の含有量に対する、脂環式エポキシ化合物(A2)の含有量の割合は、特に限定されないが、イソシアヌル酸誘導体(A1)の全量(100質量部)に対して、10~150質量部が好ましく、より好ましくは20~120質量部、さらに好ましくは30~100質量部である。イソシアヌル酸誘導体(A1)の含有量に対する、脂環式エポキシ化合物(A2)の含有量の割合を上記範囲に制御することにより、粘度の上昇を抑制しつつも、安定性及び透明性に優れた熱硬化性組成物が得られる。
【0069】
本開示の熱硬化性組成物におけるエポキシ混合物(A)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、熱硬化性組成物の全量(100質量%)に対して、50~95質量%が好ましく、より好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは70~85質量%である。
【0070】
[酸無水物硬化剤(B)]
本開示の熱硬化性組成物における酸無水物硬化剤(B)は、前述のイソシアヌル酸誘導体(A1)、脂環式エポキシ化合物(A2)等のエポキシ基を有する化合物と反応することにより、熱硬化性組成物を硬化させる働きを有する。酸無水物硬化剤(B)を用いることにより、耐熱性、透明性に優れる硬化物が得られる。
【0071】
本開示の酸無水物硬化剤(B)は、下記式(2)で表される酸無水物を含有する。
【化2】
【0072】
式中、R2の位置は、式(2)で表される酸無水物におけるシクロヘキサン環のいずれの炭素原子上を示す。R2は、カルボキシル基を含む基を示し、好ましくはカルボキシル基である。R2は、一つ以上であればよく、複数でもよいが、1個であることが好ましい。R2がカルボキシル基を含む基であると、本開示の熱硬化性組成物の耐熱性及び透明性を向上させることができる。酸無水物硬化剤(B)に含まれる酸無水物としては、例えば、無水トリメリット酸等が挙げられる。
【0073】
なお、式(2)で表される酸無水物は、シクロヘキサン環のいずれの炭素原子上にさらに置換基を有していてもよい。上記置換基としては、メチル基等の炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。上記置換基は、一種のみであってもよく、二種以上であってもよい。
【0074】
なお、本開示の熱硬化性組成物において酸無水物硬化剤(B)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。例えば、上記式(2)で表される酸無水物を複数用いてもよい。また、酸無水物硬化剤(B)に含まれる酸無水物としては、本開示の効果を損なわない範囲において、上記以外の他の酸無水物を用いることができる。
【0075】
その他の酸無水物としては、公知乃至慣用の酸無水物系硬化剤を使用でき、特に限定されないが、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(4-メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3-メチルテトラヒドロ無水フタル酸等)、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、水素化メチルナジック酸無水物、4-(4-メチル-3-ペンテニル)テトラヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、無水アジピン酸、無水セバシン酸、無水ドデカン二酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、ビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、アルキルスチレン-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。中でも、取り扱い性の観点で、25℃で液状の酸無水物(例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等)が好ましい。一方、25℃で固体状の酸無水物については、例えば、25℃で液状の酸無水物に溶解させて液状の混合物とすることで、本開示の熱硬化性組成物における酸無水物硬化剤(B)としての取り扱い性が向上する傾向がある。酸無水物硬化剤(B)としては、硬化物の耐熱性、透明性の観点で、飽和単環炭化水素ジカルボン酸の無水物(環にアルキル基等の置換基が結合したものも含む)が好ましく、より好ましくはヘキサヒドロ無水フタル酸骨格を有する化合物である。
【0076】
また、酸無水物硬化剤(B)としては、市販品を使用することもできる。例えば、酸無水物類の市販品としては、商品名「リカシッド MH-700」、「リカシッド MH-700F」(以上、新日本理化株式会社製);商品名「HN-5500」(日立化成工業株式会社製)、シクロヘキサン-1,2,4-トリカルボン酸-1,2-無水物である商品名「H-TMAn」(三菱瓦斯化学株式会社製)等が挙げられる。
【0077】
本開示の熱硬化性組成物における酸無水物硬化剤(B)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、エポキシ混合物(A)(例えば、イソシアヌル酸誘導体(A1)及び脂環式エポキシ化合物(A2))の全量100質量部に対して、5~60質量部が好ましく、より好ましくは10~45質量部であり、さらに好ましくは15~40質量部である。酸無水物硬化剤(B)の含有量を5質量部以上とすることにより、硬化を十分に進行させることができ、硬化物の強靭性がより向上する傾向がある。一方、酸無水物硬化剤(B)の含有量を60質量部以下とすることにより、粘度が低く、かつ粘度変化の少ない熱硬化性組成物が得られる。また、酸無水物硬化剤(B)の含有量が60質量部以下であると、より着色が抑制され、色相に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0078】
また、本開示の熱硬化性組成物における酸無水物硬化剤(B)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、熱硬化性組成物の全量(100質量%)に対して、3~40質量%が好ましく、より好ましくは10~37質量%であり、さらに好ましくは20~35質量%である。酸無水物硬化剤(B)の含有量を3質量%以上とすることにより、硬化を十分に進行させることができ、硬化物の強靭性がより向上する傾向がある。一方、酸無水物硬化剤(B)の含有量を40質量%以下とすることにより、粘度が低く、かつ粘度変化の少ない熱硬化性組成物が得られる。また、酸無水物硬化剤(B)の含有量が40質量%以下であると、より着色が抑制され、色相に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0079】
本開示の熱硬化性組成物における酸無水物硬化剤(B)は、エポキシ混合物(A)1当量に対して0.4~0.8当量が好ましく、より好ましくは0.5~0.7当量であり、さらに好ましくは0.5~0.6当量である。エポキシ混合物(A)1当量とは、本開示の熱硬化性組成物に含まれる全てのエポキシ基を有する化合物におけるエポキシ基1当量を示す。酸無水物硬化剤(B)1当量は、酸無水物硬化剤(B)に含まれる酸無水物及びカルボキシル基1当量を示す。酸無水物硬化剤(B)の含有量をエポキシ混合物(A)1当量に対して0.4当量以上とすることにより、硬化を十分に進行させることができ、硬化物の強靭性がより向上する傾向がある。一方、酸無水物硬化剤(B)の含有量をエポキシ混合物(A)1当量に対して0.8当量以下とすることにより、粘度が低く、かつ粘度変化の少ない熱硬化性組成物が得られる。また、未反応の酸無水物は、本開示の熱硬化性組成物を着色しやすい。このため、エポキシ混合物(A)のエポキシ基の量は、酸無水物硬化剤(B)の酸無水物及びカルボキシル基より過剰であることが好ましい。たとえば、エポキシ混合物(A)中に含まれるエポキシ基の数に対して、酸無水物硬化剤(B)中に含まれる酸無水物及びカルボキシル基の数が少ないと、未反応の酸無水物の残存を抑制する。これにより、本開示の熱硬化性組成物の着色が抑制され、色相に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0080】
なお、本開示の熱硬化性組成物における硬化剤としては、本開示の効果を損なわない範囲において、他の公知乃至慣用の硬化剤を含有していてもよい。例えば、硬化剤は、酸無水物類(酸無水物系硬化剤)、アミン類(アミン系硬化剤)、ポリアミド樹脂、イミダゾール類(イミダゾール系硬化剤)、ポリメルカプタン類(ポリメルカプタン系硬化剤)、フェノール類(フェノール系硬化剤)、ポリカルボン酸類、ジシアンジアミド類、有機酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0081】
また、硬化剤における酸無水物硬化剤(B)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、硬化剤の全量(100質量%)に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0082】
[硬化促進剤(C)]
本開示の熱硬化性組成物における硬化促進剤(C)は、エポキシ基を有する化合物が硬化剤である酸無水物硬化剤(B)と反応する際に、その反応速度を促進する機能を有する化合物である。硬化促進剤(C)としては、公知乃至慣用の硬化促進剤を使用でき、特に限定されないが、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)又はその塩(例えば、フェノール塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ギ酸塩、テトラフェニルボレート塩等);1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)又はその塩(例えば、フェノール塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ギ酸塩、テトラフェニルボレート塩等);ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン等の3級アミン;2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール;リン酸エステル;トリフェニルホスフィン、トリス(ジメトキシ)ホスフィン等のホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラ(p-トリル)ボレート等のホスホニウム化合物;オクチル酸亜鉛、オクチル酸スズ、ステアリン酸亜鉛等の有機金属塩;アルミニウムアセチルアセトン錯体等の金属キレート等が挙げられる。
【0083】
上記硬化促進剤(C)は、リン系酸化促進剤及び有機酸金属塩からなる化合物より選択される1以上の硬化促進剤を含んでいることが好ましい。硬化促進剤(C)は、リン系酸化促進剤又は有機酸金属塩を含んでいると、塩基性が強い硬化促進剤と比べて、本開示の熱硬化性組成物の硬化を容易に促進することができる。
【0084】
なお、本開示の熱硬化性組成物において硬化促進剤(C)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、硬化促進剤(C)としては、商品名「U-CAT SA 506」、「U-CAT SA 102」、「U-CAT 5003」、「U-CAT 18X」、「U-CAT 12XD」(開発品)(以上、サンアプロ株式会社製);商品名「TPP-K」、「TPP-MK」(以上、北興化学工業株式会社製);商品名「PX-4ET」、「PX-4MP」(日本化学工業株式会社製)等の市販品を使用することもできる。
【0085】
本開示の熱硬化性組成物における硬化促進剤(C)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、熱硬化性組成物に含まれるエポキシ混合物(A)の全量100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、より好ましくは0.03~4質量部、さらに好ましくは0.03~3質量部である。硬化促進剤(C)の含有量を0.01質量部以上とすることで、いっそう効率的な硬化促進効果が得られる傾向がある。一方、硬化促進剤(C)の含有量を5質量部以下とすることで、より着色が抑制され、色相に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0086】
[酸化防止剤(D)]
本開示の熱硬化性組成物は、酸化防止剤(D)を含んでいてもよい。酸化防止剤(D)を含むことにより、いっそう耐熱性(特に、耐黄変性)に優れた硬化物を製造することが可能となる。酸化防止剤(D)としては、公知乃至慣用の酸化防止剤を使用することができ、特に限定されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤(フェノール系化合物)、ヒンダードアミン系酸化防止剤(ヒンダードアミン系化合物)、リン系酸化防止剤(リン系化合物)、イオウ系酸化防止剤(イオウ系化合物)等が挙げられる。
【0087】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-p-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール類;2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のビスフェノール類;1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、トコフェノール等の高分子型フェノール類等が挙げられる。
【0088】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0089】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2、4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、ビス[2-t-ブチル-6-メチル-4-{2-(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイト等のホスファイト類;9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド等のオキサホスファフェナントレンオキサイド類等が挙げられる。
【0090】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ドデカンチオール、ジラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3'-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3'-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0091】
本開示の熱硬化性組成物において酸化防止剤(D)は、1種を単独で使用することもでき、又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、酸化防止剤(D)は、公知乃至慣用の方法により製造することもでき、例えば、商品名「Irganox1010」(BASF製、フェノール系酸化防止剤)、商品名「AO-60」、「AO-80」(株式会社ADEKA製、フェノール系酸化防止剤)、商品名「Irgafos168」(BASF製、リン系酸化防止剤)、商品名「アデカスタブHP-10」、「アデカスタブPEP-36」(株式会社ADEKA製、リン系酸化防止剤)、商品名「HCA」(三光株式会社製、リン系酸化防止剤)等の市販品を使用することもできる。
【0092】
本開示の熱硬化性組成物が酸化防止剤(D)を含有する場合、酸化防止剤(D)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、熱硬化性組成物に含まれるエポキシ混合物(A)の全量(100質量部)に対して、0.1~5質量部が好ましく、より好ましくは0.3~3質量部である。酸化防止剤(D)の含有量を0.1質量部以上とすることにより、硬化物の酸化が効率的に防止され、耐熱性、耐黄変性がより向上する傾向がある。一方、酸化防止剤(D)の含有量を5質量部以下とすることにより、着色が抑制され、色相がより良好な硬化物が得られやすい傾向がある。
【0093】
[添加剤]
本開示の熱硬化性組成物は、上記以外にも、本開示の効果を損なわない範囲内で各種添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のヒドロキシ基を有する化合物を含有させると、反応を緩やかに進行させることができる。その他にも、粘度や透明性を損なわない範囲内で、シリコーン系やフッ素系消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、イオン吸着体、顔料、蛍光体(例えば、YAG系の蛍光体微粒子、シリケート系蛍光体微粒子等の無機蛍光体微粒子等)、離型剤等の慣用の添加剤を使用することができる。例えば、本開示の熱硬化性組成物は、酸化防止剤を含むことにより、熱硬化性組成物に含まれるエポキシ基の酸化を防ぐため、熱硬化性組成物の変質が抑制でき、安定性が向上する。
【0094】
(熱硬化性組成物の調製)
本開示の熱硬化性組成物は、特に限定されないが、上記の各成分を、必要に応じて加熱した状態で撹拌・混合することにより調製することができる。なお、本開示の熱硬化性組成物は、各成分があらかじめ混合されたものをそのまま使用する1液系の組成物として使用することもできるし、例えば、別々に保管しておいた2以上の成分を使用前に所定の割合で混合して使用する多液系(例えば、2液系)の組成物として使用することもできる。上記撹拌・混合の方法は、特に限定されず、例えば、ディゾルバー、ホモジナイザー等の各種ミキサー、ニーダー、ロール、ビーズミル、自公転式撹拌装置等の公知乃至慣用の撹拌・混合手段を使用できる。また、撹拌・混合後、真空下にて脱泡してもよい。
【0095】
<光半導体封止用組成物>
本開示の熱硬化性組成物は、光半導体装置における光半導体素子を封止するための組成物、即ち、光半導体封止用組成物(光半導体装置における光半導体素子の封止剤)として好ましく使用できる。本開示の熱硬化性組成物を光半導体封止用組成物として用いることにより、高い耐熱性、及び透明性に優れた硬化物により光半導体素子が封止された光半導体装置が得られる。また、本開示の熱硬化性組成物は、粘度が低く維持できるため、微細な隙間に流し込みやすい。このため、本開示の熱硬化性組成物は、特に細密な構造の光半導体装置用の封止材として利用できる。
【0096】
本開示の熱硬化性組成物は、上述の光半導体素子の封止用途に限定されず、例えば、接着剤、電気絶縁材、積層板、コーティング、インク、塗料、シーラント、レジスト、複合材料、透明基材、透明シート、透明フィルム、光学素子、光学レンズ、光学部材、光造形、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池基板、光導波路、導光板、ホログラフィックメモリ、光ピックアップセンサー等の各種用途に使用することができる。
【0097】
<硬化物>
本開示の熱硬化性組成物を硬化させることにより、高い耐熱性、透明性を有し、特に細密な構造の光半導体装置の封止材として利用できる硬化物を得ることができる。
【0098】
本開示の熱硬化性組成物の硬化の手段としては、加熱処理や光照射処理等の公知乃至慣用の手段を利用できる。加熱により硬化させる際の温度(硬化温度)は、特に限定されないが、45~200℃が好ましく、より好ましくは50~190℃、さらに好ましくは55~180℃である。また、硬化の際に加熱する時間(硬化時間)は、特に限定されないが、30~600分が好ましく、より好ましくは45~540分、さらに好ましくは60~480分である。硬化温度と硬化時間が上記範囲の下限値より低い場合は硬化が不十分となり、逆に上記範囲の上限値より高い場合は樹脂成分の分解が起きる場合があるので、いずれも好ましくない。硬化条件は種々の条件に依存するが、例えば、硬化温度を高くした場合は硬化時間を短く、硬化温度を低くした場合は硬化時間を長くする等により、適宜調整することができる。また、硬化は、一段階で行うこともできるし、二段階以上の多段階で行うこともできる。
【0099】
また、光照射により硬化させる場合は、例えば、i-線(365nm)、h-線(405nm)、g-線(436nm)等を含む光(放射線)を、照度10~1200mW/cm2、照射光量20~2500mJ/cm2で照射することにより本開示の反射防止材を得ることができる。放射線による硬化物の劣化を抑える観点と、生産性の観点から、好ましくは放射線の照射光量20~600mJ/cm2、より好ましくは照射光量20~300mJ/cm2が望ましい。照射には、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、レーザー光等を照射源として使用することができる。
【0100】
また、本開示の硬化物の光透過率(厚み方向)は、エージングによる変化が小さい。例えば、本開示の硬化物の光透過率(厚み方向)を、分光光度計(株式会社島津製作所製、商品名「UV-2400」)を用いて測定(測定波長:450nm)する。光透過率測定後の硬化物を120℃のオーブンで500時間エージングする。エージング後の硬化物の、光透過率(厚み方向)を再度測定(測定波長:450nm)する。光透過率の変化(光透過率の維持率)は、以下の式で求められる。
透過率維持率(%)=(500時間エージング後の光透過率)/(初期の光透過率)×100
本開示の硬化物の透過率維持率(%)は95%以上であることが好ましい。本開示の硬化物の透過率維持率(%)が95%以上であると、本開示の硬化物は熱に対して安定性が高い。したがって、本開示の硬化物は以下に述べるように高熱に晒される光半導体装置を被覆する樹脂(封止材)として利用できる。
【実施例0101】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本開示に含まれるものである。なお、表1における「-」は、当該成分の配合を行わなかったこと又は測定をしていないことを意味する。また、表1に示す成分の量(割合)の単位は質量部である。
【0102】
<実施例1~4,比較例1~8>
エポキシ化合物として商品名「TEPIC-VL 」(粘度7500mPa・s:日産化学株式会社製)、商品名「TEPIC-FL」(粘度800mPa・s:日産化学株式会社製)、商品名「CELLOXIDE2021P」(粘度240mPa・s:株式会社ダイセル製)、及び商品名「X-40-2678」(粘度120mPa・s:信越化学工業株式会社製)を用意した。酸無水物として商品名「H-TMAn」(三菱瓦斯化学株式会社製)、及び商品名「リカシッド MH-700」(新日本理化株式会社製)を用意した。硬化促進剤として商品名「PX-4MP」(日本化学工業株式会社製)、及びオクチル酸亜鉛の商品名「ニッカオクチックス亜鉛(15%)」(日本化学産業株式会社製)を用意した。酸化防止剤として商品名「アデカスタブPEP-36」、3,9?ビス(株式会社ADEKA製)を用意した。また、比較例5のエポキシ化合物として、商品名「YX8000」(粘度120mPa・s:三菱ケミカル株式会社製)を用意した。
【0103】
表1に記載の処方(単位:質量部)に従って、各エポキシ化合物と酸化防止剤とを混合し、80℃で1時間攪拌してエポキシ混合物を得た。次に、エポキシ混合物、各酸無水物、及び硬化促進剤を表1に示す配合割合となるように、自公転式攪拌装置(商品名「あわとり練太郎AR-250」、株式会社シンキー製)内に投入し、撹拌して均一に混合した後に脱泡して、熱硬化性組成物を得た。
【0104】
得られた熱硬化性組成物を型に充填し、120℃のオーブン(樹脂硬化オーブン)で5時間加熱した。得られた硬化物の厚みは、3mmであった。
【0105】
[評価]
<粘度測定>
調製直後の熱硬化性組成物の粘度をE型粘度計(商品名「TV-25typeH」、東機産業株式会社製)で測定した。測定条件は、ローター:標準1°34’×R24、温度:25℃、及び回転数:0.5~10rpmである。その後、熱硬化性組成物を25℃で8時間保管した後再度粘度を測定し、粘度変化を以下のように算出した。
粘度変化=(8時間保管後の粘度)/(初期粘度)
粘度変化の評価基準は以下の通りである。
○:粘度変化が2倍未満
×:粘度変化が2倍以上または分離
【0106】
<硬化物外観>
得られた硬化物を目視にて確認した。硬化物外観の評価基準は以下の通りである。
○:クラックがなく表面が滑らかである
×:硬化物にクラックが発生している
【0107】
<透過率測定>
得られた硬化物の光透過率(厚み方向)を、分光光度計(株式会社島津製作所製、商品名「UV-2400」)を用いて測定(測定波長:450nm)した。光透過率測定後の硬化物を120℃のオーブンで500時間エージングした。エージング後の硬化物の、光透過率(厚み方向)を再度測定(測定波長:450nm)した。光透過率の維持率を以下のように算出した。
透過率維持率(%)=(500時間エージング後の光透過率)/(初期の光透過率)×100
【0108】
上記結果を下記表1にまとめて示す。
【表1】
【0109】
なお、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本開示の熱硬化性組成物は、高い耐熱性、及び透明性に優れた硬化物を提供する。また本開示の熱硬化性組成物は、粘度が低く、かつ経時的に粘度を低く維持できる。このため、本開示の熱硬化性組成物は、微細な隙間に流し込みやすく、細密な構造の光半導体装置用の封止材として利用できる。さらに光半導体装置光半導体素子の封止用途に限定されず、例えば、接着剤、電気絶縁材、積層板、コーティング、インク、塗料、シーラント、レジスト、複合材料、透明基材、透明シート、透明フィルム、光学素子、光学レンズ、光学部材、光造形、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池基板、光導波路、導光板、ホログラフィックメモリ、光ピックアップセンサー等の各種用途に使用することができる。