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  • 特開-圧粉磁心および電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188939
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】圧粉磁心および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20221215BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20221215BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20221215BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F1/24
H01F1/33
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097234
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土田 歩実
(72)【発明者】
【氏名】中澤 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】島村 淳一
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041BB05
5E041BC01
(57)【要約】
【課題】高い初透磁率と高い耐錆性とを兼ね備える圧粉磁心と、当該圧粉磁心を用いた電子部品と、を提供すること。
【解決手段】軟磁性粒子と、エポキシ樹脂と、添加材と、を含む圧粉磁心である。エポキシ樹脂は、分子鎖に沿って近接している2つのエポキシ結合間において、少なくとも2以上のメソゲン骨格を有する。添加材は、Li,Ba,Mg,およびCaから選択される1種以上の金属元素を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粒子と、エポキシ樹脂と、添加材と、を含み、
前記エポキシ樹脂は、分子鎖に沿って近接している2つのエポキシ結合間において、少なくとも2以上のメソゲン骨格を有しており、
前記添加材は、Li,Ba,Mg,およびCaから選択される1種以上の金属元素を含む圧粉磁心。
【請求項2】
前記添加材がLiを含んでおり、
前記軟磁性粒子と前記エポキシ樹脂と前記添加材との合計重量に対するLiの重量比率が、10ppm以上、100ppm以下である請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記添加材がBaを含んでおり、
前記軟磁性粒子と前記エポキシ樹脂と前記添加材との合計重量に対するBaの重量比率が、190ppm以上、600ppm以下である請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記添加材がMgを含んでおり、
前記軟磁性粒子と前記エポキシ樹脂と前記添加材との合計重量に対するMgの重量比率が、30ppm以上、130ppm以下である請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記添加材がCaを含んでおり、
前記軟磁性粒子と前記エポキシ樹脂と前記添加材との合計重量に対するCaの重量比率が、60ppm以上、200ppm以下である請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記軟磁性粒子が、Feを主成分とする金属粒子である請求項1~5のいずれかに記載の圧粉磁心。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の圧粉磁心を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心、および、当該圧粉磁心を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタやリアクトルなどの磁気応用電子部品で用いられる圧粉磁心は、一般的に、磁性粒子をバインダ(結着材)と共に混練し、圧縮成形することで製造される。この圧粉磁心では、成形性や耐食性などの特性を改善するために、潤滑剤や防腐剤、分散剤などの添加材を用いることが知られている。たとえば、特許文献1,2では、潤滑剤として金属石鹸粉末を添加した圧粉磁心を開示している。
【0003】
ただし、上記のような添加材は、非磁性材料である。そのため、圧粉磁心中に上記のような添加材を加えると、成形性や耐食性の改善が期待できるものの、反って透磁率などの磁気特性が悪化することがある。すなわち、添加材による成形性や耐食性の向上効果と、圧粉磁心の磁気特性とは、相反する関係にあり、特に、高い透磁率と高い耐錆性とを両立させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-199049号公報
【特許文献2】特開2014-086672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされ、その目的は、高い透磁率と高い耐錆性とを兼ね備える圧粉磁心と、当該圧粉磁心を用いた電子部品と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る圧粉磁心は、
軟磁性粒子と、エポキシ樹脂と、添加材と、を含み、
前記エポキシ樹脂は、分子鎖に沿って近接している2つのエポキシ結合間において、少なくとも2以上のメソゲン骨格を有しており、
前記添加材は、Li,Ba,Mg,およびCaから選択される1種以上の金属元素Mを含む。
【0007】
本発明者等は、鋭意検討した結果、エポキシ樹脂におけるメソゲン骨格の数と添加材の特性との間に特異な関係性があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
具体的に、本発明者等の実験によれば、バインダとしてエポキシ結合間のメソゲン骨格数が0または1である樹脂を使用した場合、上記の金属元素M(Li,Ba,Mg,およびCaから選択される少なくとも1種)を含む添加材を圧粉磁心中に加えたとしても、効果的な耐錆性の向上が図れない。また、この場合において、添加材の含有率を増やして、耐錆性を向上させたとしても、透磁率が低下し、高耐錆性と高透磁率とを両立させることはできない。一方で、バインダとしてエポキシ結合間のメソゲン骨格数が2以上であるエポキシ樹脂を使用した場合には、金属元素Mを含む添加材を圧粉磁心中に加えることで、高い透磁率と高い耐錆性とを両立して実現することができる。
【0009】
前記添加材がLiを含む場合、好ましくは、前記軟磁性粒子と前記エポキシ樹脂と前記添加材との合計重量に対するLiの重量比率が、10ppm以上、100ppm以下である。
【0010】
前記添加材がBaを含む場合、好ましくは、前記軟磁性粒子と前記エポキシ樹脂と前記添加材との合計重量に対するBaの重量比率が、190ppm以上、600ppm以下である。
【0011】
前記添加材がMgを含む場合、好ましくは、前記軟磁性粒子と前記エポキシ樹脂と前記添加材との合計重量に対するMgの重量比率が、30ppm以上、130ppm以下である。
【0012】
前記添加材がCaを含む場合、好ましくは、前記軟磁性粒子と前記エポキシ樹脂と前記添加材との合計重量に対するCaの重量比率が、60ppm以上、200ppm以下である。
【0013】
上記のように、圧粉磁心における金属元素Mの含有率を、所定の範囲内に制御することで、より高い透磁率とより高い耐錆性とを両立して満足することができる。
【0014】
好ましくは、前記軟磁性粒子が、Feを主成分とする金属粒子である。
【0015】
本発明の圧粉磁心は、インダクタ、リアクトル、トランス、非接触給電コイル、磁気シールド部品等の各種電子部品に適用することができ、特に、インダクタの磁心として利用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るインダクタ素子を示す概略断面図である。
図2図2は、図1に示す圧粉磁心の一部を拡大した断面図である。
図3図3は、表3~表11に示す実施例の評価結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るインダクタ素子100は、圧粉磁心110と、当該圧粉磁心110の内部に埋設してあるコイル120と、を有する。
【0019】
圧粉磁心110の形状は、特に限定されず、たとえば、円柱状、楕円柱状、角柱状等の形状とすることができる。そして、圧粉磁心110は、図2に示すように、結着材としてのバインダ2と、バインダ2中に分散している磁性粒子4と、所定の添加材6(図示しない)と、を含んでおり、その他、非磁性の無機粒子などが含まれていてもよい。すなわち、圧粉磁心110は、複数の磁性粒子4がバインダ2を介して結合することにより、所定の形状に成形されている。以下、圧粉磁心110を構成しているバインダ2と、磁性粒子4と、添加材6とについて詳述する。
【0020】
バインダ2は、主として硬化したエポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなり、その他、微量の有機成分が含まれ得る。ここで、「微量の有機成分」とは、潤滑剤、硬化促進剤、可撓化剤、可塑剤、分散剤、着色剤、沈降防止剤等に起因する成分であって、バインダ2の主成分であるエポキシ樹脂100質量部に対して、1.0質量部以下程度含まれていてもよい。
【0021】
本実施形態では、バインダ2のエポキシ樹脂が、所定の分子構造を有することを特徴とする。具体的に、バインダ2のエポキシ樹脂は、分子鎖に沿って近接している2つのエポキシ結合間において、複数のメソゲン骨格を有する。
【0022】
ここで、本実施形態における「エポキシ結合」とは、プレポリマーに存在するエポキシ基が重合反応(硬化反応)によって開環することで形成される分子配列を意味する。また、「メソゲン骨格」とは、多環芳香族炭化水素または2つ以上の芳香環を含むと共に、剛直性および配向性を有する原子団の総称である。
【0023】
より具体的に、メソゲン骨格は、以下の式(J)式に示す部分構造であることが好ましい。
【化1】
上記の(J)式において、Xは、単結合、または、下記の群(A)より選択される少なくとも1種の連結基である。
【化2】
また、上記の(J)式において、Yは、-H(水素)、アルキル基(炭素数が4以下の脂肪族炭化水素)、アセチル基およびハロゲンの中から選ばれ、メソゲン骨格中のYが全て同一でも異なっていてもよい。さらに、(J)式における*は、隣接する原子との結合部位を表す。
【0024】
特に、本実施形態では、メソゲン骨格が、以下の(I)式に示す部分構造であることがより好ましい。
【化3】
上記の(I)式におけるYおよび*は、(J)式と同様である。すなわち、(I)示すメソゲン骨格では、(J)式におけるXを単結合としており、官能基(アルキル基、アセチル基、ハロゲンなどの側鎖)が配置可能なYの数を(J)式よりも限定している。
【0025】
上記のようなメソゲン骨格は、成形過程において磁性粒子4間の潤滑性を高め、磁性粒子4の再配列を効率的に促す働きを示すと考えられる。また、硬化後のメソゲン骨格間にはスタッキング(分子重なり)が形成されやすく、このスタッキングがバインダ2および圧粉磁心110の機械的強度の向上に寄与すると考えられる。さらに、メソゲン骨格は、磁性粒子4間の熱抵抗を低減する働きも示すと考えられる。そのため、メソゲン骨格を含むエポキシ樹脂で圧粉磁心110を形成することで、密度、強度、比透磁率、熱伝導率などの向上が期待できる。なお、上記において「磁性粒子4の再配列」とは、粒子が加圧により動き最密充填状態に近づくことを意味する。
【0026】
本実施形態におけるバインダ2のエポキシ樹脂では、上述したようなメソゲン骨格が、分子鎖に沿って近接している2つのエポキシ結合間において、少なくとも2以上(好ましくは10以下、より好ましくは3以下)存在する。エポキシ結合間に存在するメソゲン骨格の上限値は、特に限定されず、たとえば100個以下とすることができる。なお、近接するエポキシ結合間に存在する複数のメソゲン骨格は、それぞれ異なっていてもよいし、全て同一の構造であってもよい。また、近接する2つのエポキシ結合間において、複数のメソゲン骨格は、単結合で連なり連続して存在していてもよいし、単数または複数の連結基を介して連なっていてもよい。
【0027】
ここで、「近接している2つのエポキシ結合」について、より詳細に説明しておく。上述したような複数のメソゲン骨格を有する分子構造は、たとえば、以下の(K)式に示すようなプレポリマーを有するエポキシ樹脂を硬化させることで実現できる。
【化4】
(K)式に示すプレポリマーにおいて、端部に位置するE1およびE2は、いずれも、エポキシ基である。また、(K)式におけるM1,M3が、メソゲン骨格である。(K)式のプレポリマーを有するエポキシ樹脂を硬化させると、E1およびE2のエポキシ基が開環して高分子鎖が形成される。この場合、開環したE1とE2の間が、「分子鎖に沿って近接している2つのエポキシ結合間」に該当し、このエポキシ結合間に、「1個(M1)+n個(M3)」のメソゲン骨格が存在することとなる。
【0028】
なお、エポキシ結合間に存在するメソゲン骨格の数は、バインダ2の分子構造を解析することで特定できる。たとえば、核磁気共鳴スペクトル測定(NMR)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)などを適宜併用してバインダ2の分子構造を解析すればよい。また、測定用サンプルは、図1に示す圧粉磁心110からバインダ2を採取することで準備すればよい。
【0029】
本実施形態において、磁性粒子4は、ソフトフェライトなどの酸化物磁性粒子であってもよいが、主成分としてFeを含む軟磁性金属粒子であることが好ましい。ここで、「主成分としてFeを含む」とは、単位質量あたりの軟磁性金属粒子に含まれるFeの含有率が60wt%以上であることを意味する。このような、軟磁性金属粒子としては、たとえば、純鉄、Fe-Si系合金(鉄-シリコン)、Fe-Al系合金(鉄-アルミニウム)、パーマロイ系合金(Fe-Ni)、センダスト系合金(Fe-Si-Al)、Fe-Si-Cr系合金(鉄-シリコン-クロム)、Fe-Si-Al-Ni系合金、Fe-Ni-Si-Co系合金、Fe系アモルファス合金、Fe系ナノ結晶合金等が例示される。
【0030】
なお、軟磁性金属粒子である磁性粒子4には、添加材6に含まれるLi,Ba,Mg,Caなどの金属元素Mが実質的に含まれていないことが好ましい。「実質的に含まない」とは、単位質量あたりの軟磁性金属粒子に含まれる金属元素Mの含有率が100ppm未満であることを意味する。
【0031】
また、磁性粒子4としての軟磁性金属粒子の表面には、絶縁被覆を形成することが好ましい。絶縁被覆としては、たとえば、粒子表層の酸化による被膜(酸化物膜)、リン酸塩被膜、ケイ酸塩被膜、ガラスコーティング、BN、SiO、MgO、Alなどを含む無機物系被膜、もしくは有機物被膜などが挙げられる。これらの絶縁被覆は、熱処理、リン酸塩処理、メカニカルアロイング処理、シランカップリング処理、水熱合成などの表面処理により形成できる。金属磁性粒子に絶縁被覆を形成することで、圧粉磁心110の高周波損失を抑制することができる。
【0032】
磁性粒子4の平均粒径(D50)は、特に限定されず、たとえば、50μm以下とすることができ、20μm~40μmの範囲内とすることが好ましい。なお、磁性粒子4の平均粒径は、図2に示すような圧粉磁心110の断面を画像解析することで測定すればよい。具体的に、図2に示すような断面に含まれる各粒子の面積を測定し、当該面積値から各粒子の円相当径を算出することで、磁性粒子4の粒度分布が得られる。当該測定において、測定視野の寸法は、観測される磁性粒子4の粒度に合わせて適宜調整すればよく、少なくとも5視野以上で解析を実施して粒度分布を得ることが好ましい。
【0033】
なお、圧粉磁心110に含まれる磁性粒子4は、全て同一の材質で構成してもよく、材質が異なる複数の粒子群で構成してもよい。また、図2に示すように、粒度の異なる複数の粒子群で磁性粒子4を構成してもよい。たとえば、Fe-Si系合金からなる大粒子4aと、当該大粒子4aよりも平均粒径が小さい純鉄からなる小粒子4bと、を混ぜ合わせて磁性粒子4を構成することができる。
【0034】
また、磁性粒子4が軟磁性金属粒子である場合、圧粉磁心110におけるバインダ2の含有量は、磁性粒子100質量部に対して、4.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部~4.0質量部とすることがより好ましい。本実施形態の圧粉磁心110では、エポキシ結合間に複数のメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂を使用することで、磁性粒子4に対するバインダ2の比率を少なくしても保形性を確保でき、高い強度を得ることができる。
【0035】
なお、バインダの含有量は、圧粉磁心を誘導結合プラズマ発光分光解析装置(ICP-AES)で解析することで概算することができる。この際、圧粉磁心を、たとえば塩酸などで溶解させて分析用サンプルを作製し、ICP-AESで検出された元素の強度を概算することでバインダ含有量を算出する。
【0036】
添加材6は、Li,Ba,Mg,およびCaから選択される1種以上の金属元素Mを含む有機金属化合物である。ここで、有機金属化合物とは、たとえば、金属アルコキシド、金属錯体、脂肪酸塩などが挙げられ、好ましくは脂肪酸塩である。添加材6が脂肪酸塩である場合、添加材6を構成する脂肪酸としては、たとえば、ステアリン酸、モンタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リシノール酸、ベヘン酸、パルミチン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられ、より好ましくは、ステアリン酸、モンタン酸、ラウリン酸である。
【0037】
圧粉磁心110における添加材6の存在状態は、特に限定されず、添加材6は、バインダ2中に分散していてもよく、磁性粒子の表面に付着していてもよい。この添加材6は、圧粉磁心110の製造過程では、潤滑剤として機能し、成形不良を抑制する。また、金属元素Mを擁する添加材6が圧粉磁心110に含まれることで、透磁率の低下を抑制しつつ耐錆性の向上を図ることができる。
【0038】
また、圧粉磁心110における金属元素Mの含有率を所定の範囲に制御することで、より高い透磁率とより高い耐食性が得られる。具体的に、添加材6がLiを含む場合、バインダ2(エポキシ樹脂)と磁性粒子4と添加材6との合計重量(100wt%)に対するLiの重量比率RLiは、2ppm~500ppmの範囲内とすることができ、10ppm以上、100ppm以下であること好ましい。
【0039】
添加材6がBaを含む場合、バインダ2と磁性粒子4と添加材6との合計重量に対するBaの重量比率はRBa、15ppm~4000ppmの範囲内とすることができ、100ppm以上、2000ppm以下であることが好ましく、190ppm以上、600ppm以下であることがより好ましい。
【0040】
添加材6がMgを含む場合、バインダ2と磁性粒子4と添加材6との合計重量に対するMgの重量比率RMgは、4ppm~900ppmの範囲内とすることができ、30ppm以上、400ppm以下であることが好ましく、30ppm以上、130ppm以下であることがより好ましく、40ppm以上であることがさらに好ましい。
【0041】
また、添加材6がCaを含む場合、バインダ2と磁性粒子4と添加材6との合計重量に対するCaの重量比率RCaは、5ppm~1400ppmの範囲内とすることができ、50ppm以上、700ppm以下であることが好ましく、60ppm以上、200ppm以下であることがより好ましい。
【0042】
圧粉磁心110の主要な構成要素が上述したバインダ2、磁性粒子4、および、添加材6であり、非磁性セラミック粒子などのその他の要素が含まれない場合、上記の金属元素Mの重量比率R(RLi,RBa,RMg,RCa)は、単位質量あたりの圧粉磁心110に含まれる金属元素Mの含有率に相当する。そして、この金属元素Mの重量比率Rは、圧粉磁心110を塩酸などで溶かして測定試料を得た後、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)により測定すればよい。
【0043】
また、上記の金属元素Mの重量比率Rは、添加材6に起因して圧粉磁心110に含まれる金属元素Mの質量に基づく。本実施形態では、磁性粒子4などの添加材6以外の構成要素には、金属元素Mが実質的に含まれておらず、圧粉磁心110から採取した測定試料に含まれる金属元素Mの質量に基づいて、重量比率Rを算出すればよい。仮に、磁性粒子4に金属元素Mが含まれる場合には、圧粉磁心110から採取した磁性粒子4の組成をICPや蛍光X線分析(XRF)などにより分析し、磁性粒子4に起因して検出される金属元素Mの質量を差し引いて、重量比率Rを算出すればよい。
【0044】
なお、圧粉磁心110には、2種以上の金属元素Mが含まれていてもよい。すなわち、複数種の添加材6が含まれていてもよく、たとえば、添加材6として、ステアリン酸リチウムとステアリン酸マグネシウムとを組み合わせて添加してもよい。
【0045】
また、圧粉磁心110には、金属元素Mを含まないその他の有機金属化合物が実質的に含まれていないことが好ましく、特に、Znを含む有機金属化合物は実質的に含まないことが好ましい。すなわち、単位質量あたりの圧粉磁心110に含まれるZnの含有率が、50ppm以下であることが好ましい。Znを構成元素として有する有機金属化合物の含有率を上記範囲内とすることで、透磁率の低下を抑制できる。
【0046】
次に、図1に示すインダクタ素子100の製造方法の一例について説明する。
【0047】
まず、バインダ2の原料である樹脂材料と、磁性粒子4の原料粉末と、添加材6と、を準備する。磁性粒子4の原料粉末は、公知の粉末製造方法により作製できる。粉末製造方法としては、たとえば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法、カルボニル法などが挙げられる。もしくは、単ロール法により得られる薄帯を機械的に粉砕して、原料粉末を製造してもよい。なお、上記の製法で磁性粒子4の原料粉末を得た後、篩分級や気流分級などを実施することで、磁性粒子4の粒度を制御することができる。また、磁性粒子4の表面に絶縁被覆を形成する場合には、上記で得られた原料粉末に、熱処理、もしくは、リン酸塩処理、メカニカルアロイング処理、シランカップリング処理、水熱合成などの表面処理を施せばよい。
【0048】
バインダ2の樹脂原料としては、硬化前のプレポリマーからなるエポキシ樹脂を準備する。このエポキシ樹脂は、プレポリマーの端部に位置する2つのエポキシ基間に、少なくとも2以上のメソゲン骨格を有する。
【0049】
そして、上記エポキシ樹脂と、硬化剤であるフェノール樹脂とを、溶媒に溶解させることで塗料を作製する。この際、分子量が500~10000程度の硬化剤を使用することが好ましい。また、溶媒についても、特に限定されず、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、ブチルジグリコールアセテート(BCA)、メタノールなどを用いることができる。さらに、上記塗料には、硬化促進剤(硬化触媒)、可撓化剤、可塑剤、分散剤、着色剤、沈降防止剤等を適宜添加してもよい。なお、硬化剤の添加量は、エポキシ樹脂の配合量に応じて適宜決定すればよい。
【0050】
添加材6としては、金属元素Mを含む有機金属化合物の粉末を準備する。この有機金属化合物粉末の平均粒径(D50)は、2μm~15μm程度であることが好ましく、磁性粒子4の原料粉末の平均粒径よりも小さいことが好ましい。
【0051】
次に、磁性粒子4の原料粉末と、エポキシ樹脂を含む塗料と、添加材6とを、ニーダや二軸押出機などの各種混練機に投入し、混練することで、圧粉磁心用の前駆体を作製する。この際、磁性粒子100質量部に対してバインダ2が1~4質量部となるように、原料粉末と塗料とを配合することが好ましい。また、添加材6の配合比は、圧粉磁心110における金属元素Mの重量比率Rが上述した所定範囲内となるように制御することが好ましい。なお、添加材6は、当該混練工程の前に、磁性粒子4の原料粉末に添加し、混合しておいてもよい。また、当該混練工程では、インダクタ素子の用途に応じて、適宜、非磁性セラミック粒子などを添加してもよい。
【0052】
次に、上記の前駆体を用いて圧粉磁心を製造する。図1に示すインダクタ素子100の場合、前駆体を、インサート部材としての空芯コイルとともに金型内に充填し、圧縮成形する。これにより作製すべき圧粉磁心の形状を有する成形体が得られ、この成形体に適宜熱処理を施すことで、成形体中のエポキシ樹脂を硬化させる。この際の熱処理条件は、特に限定されず、エポキシ樹脂が十分に硬化する条件とすればよい。たとえば、熱処理温度を150℃~200℃とし、処理時間を1時間~5時間とする。熱処理時の雰囲気は特に限定されず大気雰囲気(air)でもよい。
【0053】
以上の工程により、圧粉磁心110の内部にコイル120が埋設してあるインダクタ素子100が得られる。
【0054】
(本実施形態のまとめ)
本実施形態の圧粉磁心110は、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含むバインダ2と、バインダ2中に分散した磁性粒子4と、添加材6と、を有する。バインダ2に含まれるエポキシ樹脂は、分子鎖に沿って近接している2つのエポキシ結合間において、少なくとも2以上のメソゲン骨格を有する。また、添加材6は、Li,Ba,Mg,およびCaから選択される1種以上の金属元素Mを含む。
【0055】
本発明者等は、鋭意検討した結果、エポキシ樹脂におけるメソゲン骨格の数と添加材の特性との間に特異な関係性があることを見出した。具体的に、本発明者等の実験によれば、バインダとしてエポキシ結合間のメソゲン骨格数が0または1である樹脂を使用した場合、上記の金属元素Mを含む添加材6を圧粉磁心中に加えたとしても、効果的な耐錆性の向上が図れない。また、この場合において、添加材の含有率を増やして、耐錆性を向上させたとしても、透磁率が低下し、高耐錆性と高透磁率とを両立させることはできない。一方で、バインダ2としてエポキシ結合間のメソゲン骨格数が2以上であるエポキシ樹脂を使用した場合には、金属元素Mを含む添加材6を圧粉磁心110に加えることで、高い透磁率と高い耐錆性とを両立して実現することができる。
【0056】
また、本実施形態の圧粉磁心110では、エポキシ樹脂(バインダ2)と磁性粒子4と添加材6との合計重量に対する金属元素Mの重量比率Rを、所定の範囲内に制御することで、より高い透磁率とより高い耐錆性とが得られる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0058】
たとえば、インダクタ素子などの電子部品は、複数の圧粉磁心を組み合わせて構成してもよい。また、圧粉磁心の形状も特に限定されず、たとえば、トロイダル型、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、ポット型、カップ型の形状としてもよい。さらに、上記実施形態では、圧粉磁心中にコイルが埋設してあるが、コイルの配置は図1に示す構成に限定されず、圧粉磁心の外側に導線を巻回することでコイルを形成してもよい。
【0059】
圧粉磁心の製造方法についても、上述した実施形態に限定されず、シート法や射出成型により圧粉磁心を製造してもよく、2段階圧縮により圧粉磁心を製造してもよい。2段階圧縮による製造方法では、たとえば、前駆体を仮圧縮して複数の予備成形体を作製した後、これら予備成形体と空芯コイルとを組み合わせて本圧縮する。
【0060】
また、上記実施形態では、インダクタ素子100について説明したが、本発明の圧粉磁心は、リアクトル、トランス、非接触給電デバイス、磁気シールド部品などの電子部品にも適用可能である。
【実施例0061】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実験1)
実験1では、バインダと添加材中の金属元素との関係性を評価するために、実施例1~4と比較例1~17に係る圧粉磁心サンプルを作製した。
【0063】
実施例1
まず、磁性粒子4の原料粉末として、平均粒径が25μmのFe-Si系合金粉末を、ガスアトマイズ法にて作製した。この原料粉末の表面には、熱処理により平均厚み100nm程度のSiO膜を形成した。
【0064】
次に、プレポリマーからなるビフェニル型のエポキシ樹脂を準備した。当該エポキシ樹脂は、プレポリマーの端部に位置するエポキシ基間に(I)式に示す3つのメソゲン骨格を有していた。そして、エポキシ樹脂および硬化剤を、アセトン溶媒に溶解させることで塗料を得た。この際、硬化剤の添加量は、エポキシ樹脂100質量部に対して50質量部とし、その他、硬化促進剤をエポキシ樹脂100質量部に対して1質量部添加した。
【0065】
次に、上記の塗料とFe-Si系合金粉末とを、ニーダで混練し、実施例1に係る圧粉磁心用前駆体を得た。この際、添加材6として、Liを含むステアリン酸リチウムを添加した。また、磁性粒子100質量部に対するバインダ2の含有量が3質量部となるように、塗料と合金粉末との配合比を調整した。
【0066】
次に、上記の前駆体を金型に投入し、成形圧力8MPaで加圧してトロイダル形状の成形体を得た。また、圧縮成形後は、成形体を180℃で3時間加熱することで、成形体中のエポキシ樹脂を硬化させて、実施例1に係る圧粉磁心サンプルを得た。なお、作製したトロイダル形状の圧粉磁心サンプルは、いずれも、外径:17.5mm、内径:10mm、厚み(高さ):5mm前後であった。
【0067】
実施例2
実施例2では、添加材6として、Baを含むステアリン酸バリウムを使用した。添加材の種類以外の実験条件は、実施例1と同様として、実施例2に係る圧粉磁心サンプルを作製した。
【0068】
実施例3
実施例3では、添加材6として、Mgを含むステアリン酸マグネシウムを使用した。添加材の種類以外の実験条件は、実施例1と同様として、実施例3に係る圧粉磁心サンプルを作製した。
【0069】
実施例4
実施例4では、添加材6として、Caを含むステアリン酸カルシウムを使用した。添加材の種類以外の実験条件は、実施例1と同様として、実施例4に係る圧粉磁心サンプルを作製した。
【0070】
比較例1~5
比較例1~5では、バインダとして、メソゲン骨格を有していないポリイミド樹脂を使用した。そのうえで、比較例2~5では、それぞれ、異なる種類の添加材を使用して圧粉磁心サンプルを作製した。具体的に、比較例1~5における添加材は、比較例1:添加材を使用せず、比較例2:ステアリン酸リチウム、比較例3:ステアリン酸バリウム、比較例4:ステアリン酸マグネシウム、比較例5:ステアリン酸カルシウム、とした。比較例1~5における上記以外の実験条件は、実施例1と同様とした。
【0071】
比較例6~10
比較例6~10では、バインダとして、エポキシ結合間のメソゲン骨格数が0であるクレゾールノボラック型のエポキシ樹脂を使用した。そのうえで、比較例7~10では、それぞれ、異なる種類の添加材を使用して圧粉磁心サンプルを作製した。具体的に、比較例6~10における添加材は、比較例6:添加材を使用せず、比較例7:ステアリン酸リチウム、比較例8:ステアリン酸バリウム、比較例9:ステアリン酸マグネシウム、比較例10:ステアリン酸カルシウム、とした。比較例6~10における上記以外の実験条件は、実施例1と同様とした。
【0072】
比較例11~15
比較例11~15では、バインダとして、エポキシ結合間のメソゲン骨格数が1であるビフェニル型のエポキシ樹脂を使用した。そのうえで、比較例12~15では、それぞれ、異なる種類の添加材を使用して圧粉磁心サンプルを作製した。具体的に、比較例11~15における添加材は、比較例11:添加材を使用せず、比較例12:ステアリン酸リチウム、比較例13:ステアリン酸バリウム、比較例14:ステアリン酸マグネシウム、比較例15:ステアリン酸カルシウム、とした。比較例11~15における上記以外の実験条件は、実施例1と同様とした。
【0073】
比較例16~17
比較例16~17では、実施例1と同様に、エポキシ結合間のメソゲン骨格数が3であるビフェニル型のエポキシ樹脂を用いた。ただし、比較例16では、添加材6を使用せずに圧粉磁心サンプルを作製した。また、比較例17では、金属元素Mを含む添加材ではなく、ステアリン酸亜鉛を添加した。比較例16,17における上記以外の実験条件は、実施例1と同様とした。
【0074】
実験1における各実施例および各比較例については、以下に示す評価を実施した。
【0075】
(メソゲン骨格数の計測)
作製した圧粉磁心サンプルから分子構造解析用の分析サンプルを採取した。そして、NMR、FT-IR、GC/MS、LC/MSを実施することで、バインダの分子構造を解析し、近接する2つのエポキシ結合間に存在するメソゲン骨格の数を特定した。
【0076】
(金属元素Mの重量比率Rの測定)
各実施例および各比較例で使用した添加材に含まれる金属元素をMとして、圧粉磁心の単位質量当たりに含まれる金属元素Mの含有率を、ICPにより測定した。ここで測定した金属元素Mの含有率とは、磁性粒子とバインダと添加材の合計重量100%中に含まれる金属元素Mの重量比率Rである。
【0077】
(透磁率の測定)
各実施例および各比較例の圧粉磁心サンプルについて、初透磁率μiを測定した。初透磁率μiは、トロイダル形状の圧粉磁心に導線を30ターン巻回した後、LCRメータ(HP社LCR428A)によって測定した。
【0078】
(耐錆性の評価)
圧粉磁心サンプルの耐錆性を評価するために、塩水噴霧試験を行った。塩水噴霧試験はW900mm、D600mm、H350mmの塩水噴霧試験器中で行った。塩水噴霧量は、1.5±0.5mL/hat80cmとした。本条件の下35℃で24時間塩水噴霧試験を行った。塩水噴霧後、3mm×3mmの測定部位をランダムに 10か所設定した。各測定部位を、光学顕微鏡(倍率50倍)に備え付けたカメラにより撮影し、各測定部位の錆面積比率を算出した。そして、10か所の測定部位の平均の錆面積比率を算出した。錆面積比率が低いほど、圧粉磁心サンプルの耐錆性が良好であると判断する。
【0079】
本実施例では、初透磁率μiが27未満で、かつ、錆面積比率が20%以上である場合を、「不合格:F」と判断した。また、初透磁率μiが27以上で、かつ、錆面積比率が20%未満である場合を、「良好:G」と判断し、初透磁率μiが28.5以上で、かつ、錆面積比率が12.5%未満である場合を、「特に良好:VG」と判断した。各実施例および各比較例の評価結果を、表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、メソゲン骨格数が0または1であるバインダを使用した比較例1~15では、Li,Ba,Mg,またはCaを含む添加材を加えても、耐錆性が十分に向上しなかった。また、比較例12のように、一部の比較例で、耐錆性の向上が見受けられたが、耐錆性の向上に伴って初透磁率μiが低下しており、高耐錆性と高透磁率とを両立することができなかった。
【0082】
また、メソゲン骨格数が2以上のバインダを使用した比較例17においては、Znを含む添加材を使用したが、この比較例でも、高耐錆性と高透磁率とを両立することができなかった。一方、メソゲン骨格数が2以上のバインダを使用し、かつ、Li,Ba,Mg,またはCaを含む添加材を使用した実施例1~4では、初透磁率μiを低下させることなく錆面積比率を低減することができた。この結果から、エポキシ結合間のメソゲン骨格数が2以上であるエポキシ樹脂をバインダとして使用する場合は、Li,Ba,Mg,およびCaから選択される金属元素を含む添加材を圧粉磁心中に加えることで、高耐錆性と高透磁率とを両立できることが立証できた。
【0083】
(実験2)
実施例5~8
実施例5~8では、それぞれ、エポキシ結合間のメソゲン骨格数が実施例1とは異なるビフェニル型のエポキシ樹脂を用いて圧粉磁心サンプルを作製した。なお、実施例5~8では、添加材6としてステアリン酸リチウムを使用した。実施例5~8におけるメソゲン骨格数以外の実験条件は、実施例1と共通であり、実施例1と同様の評価を実施した。
【0084】
実施例9~10
実施例9~10では、脂肪酸が実施例1とは異なる添加材6を使用して圧粉磁心サンプルを作製した。具体的に、実施例9では、ラウリン酸リチウムを使用し、実施例10では、モンタン酸リチウムを使用した。実施例9~10における上記以外の実験条件は、実施例1と共通であり、実施例1と同様の評価を実施した。
【0085】
実験2の評価結果を表2に示す。
【表2】
【0086】
表2に示すように、メソゲン骨格数を変更した実施例5~8でも、実施例1と同様に、初透磁率μiを低下させることなく錆面積比率を低減することができた。また、脂肪酸の種類を変更した実施例9~10でも、実施例1と同様に、初透磁率μiを低下させることなく錆面積比率を低減することができた。なお、実験2では、代表例としてLiを含む添加材を使用したが、Ba,Mg,またはCaを含む添加材を使用する場合においても、メソゲン骨格数や脂肪酸の種類を変更した実験を実施した。その結果、Ba,Mg,またはCaの場合においても、表2に示すLiの結果と同様の評価結果が得られた。
【0087】
(実験3)
実験3では、圧粉磁心における添加材由来の金属元素含有率の影響を評価した。
【0088】
実施例1-1~1-8
Liの重量比率RLiの影響を評価するために、ステアリン酸リチウムの添加量を変更して実施例1と関連する8種の圧粉磁心サンプル(実施例1-1~実施例1-8)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の実施例1と同様である。評価結果を、表3に示す。
【0089】
実施例2-1~2-8
Baの重量比率RBaの影響を評価するために、ステアリン酸バリウムの添加量を変更して実施例2と関連する8種の圧粉磁心サンプル(実施例2-1~実施例2-8)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の実施例2と同様である。評価結果を、表4に示す。
【0090】
実施例3-1~3-8
Mgの重量比率RMgの影響を評価するために、ステアリン酸マグネシウムの添加量を変更して実施例3と関連する8種の圧粉磁心サンプル(実施例3-1~実施例3-8)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の実施例3と同様である。評価結果を、表5に示す。
【0091】
実施例4-1~4-8
Caの重量比率RCaの影響を評価するために、ステアリン酸カルシウムの添加量を変更して実施例4と関連する8種の圧粉磁心サンプル(実施例4-1~実施例4-8)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の実施例4と同様である。評価結果を、表6に示す。
【0092】
比較例2-1~比較例2-5
ポリイミド樹脂を用いた比較例2についても、ステアリン酸リチウムの添加量を変更して、比較例2と関連する5種の圧粉磁心サンプル(比較例2-1~2-5)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の比較例2と同様である。評価結果を、表7に示す。
【0093】
比較例4-1~比較例4-5
ポリイミド樹脂を用いた比較例4についても、ステアリン酸バリウムの添加量を変更して、比較例4と関連する5種の圧粉磁心サンプル(比較例4-1~4-5)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の比較例4と同様である。評価結果を、表8に示す。
【0094】
比較例7-1~比較例7-5
メソゲン骨格数が0であるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用いた比較例7についても、ステアリン酸リチウムの添加量を変更して、比較例7と関連する5種の圧粉磁心サンプル(比較例7-1~7-5)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の比較例7と同様である。評価結果を、表9に示す。
【0095】
比較例14-1~比較例14-5
メソゲン骨格数が1であるビフェニル型エポキシ樹脂を用いた比較例14についても、ステアリン酸マグネシウムの添加量を変更して、比較例14と関連する5種の圧粉磁心サンプル(比較例14-1~14-5)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の比較例14と同様である。評価結果を、表10に示す。
【0096】
比較例17-1~比較例17-5
メソゲン骨格数が3であるビフェニル型エポキシ樹脂を用いた比較例17についても、ステアリン酸亜鉛の添加量を変更して、比較例17と関連する5種の圧粉磁心サンプル(比較例17-1~17-5)を作製した。上記以外の実験条件は、実験1の比較例17と同様である。評価結果を、表11に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
【表7】
【0102】
【表8】
【0103】
【表9】
【0104】
【表10】
【0105】
【表11】
【0106】
表3~表11に示す評価結果を、図3のグラフにまとめた。図3のグラフでは、横軸を初透磁率μiとし、縦軸を錆面積比率として、表3~表11の測定結果をプロットした。図3のグラフでは、グラフの右下側にプロットが近いほど、透磁率が高く、耐錆性が良好であることを意味しており、破線で囲まれた範囲が良好、一点鎖線で囲まれた範囲が特に良好である。
【0107】
表3~表11および図3に示すように、比較例2,4,7,14,17では、脂肪酸塩(添加材)の添加量を増やすと錆面積比率が低下する傾向が見受けられるものの、初透磁率も低下してしまった。すなわち、メソゲン骨格数が0または1である樹脂を使用する場合は、金属元素M(Li,Ba,Mg,またはCa)を含む脂肪酸塩の添加量を調整しても、高耐錆性と高透磁率とを両立させることは困難である。これに対して、メソゲン骨格数が2以上のエポキシ樹脂を使用した実施例1~4では、圧粉磁心に含まれる金属元素Mの重量比率Rを調整することで、より高い耐錆性と、より高い透磁率とが得られた。
【0108】
具体的に、表3に示す結果から、圧粉磁心に含まれるLiの重量比率RLiは、10ppm~100ppmであることが好ましいことがわかった。表4に示す結果から、圧粉磁心に含まれるBaの重量比率RBaは、190ppm~600ppmであることが好ましいことがわかった。表5に示す結果から、圧粉磁心に含まれるMgの重量比率RMgは、30ppm~130ppmであることが好ましいことがわかった。また、表6に示す結果から、圧粉磁心に含まれるCaの重量比率RCaは、60ppm~200ppmであることが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0109】
100 … インダクタ素子
110 … 圧粉磁心
2 … バインダ
4 … 磁性粒子
4a … 大粒子
4b … 小粒子
120 … コイル
図1
図2
図3