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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188963
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】インクジェット用赤色インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20221215BHJP
【FI】
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097271
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 範晃
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD10
4J039BC09
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE28
4J039CA06
4J039EA15
4J039EA37
4J039EA44
(57)【要約】
【課題】発色性、耐熱性及び保存安定性に優れるインクジェット用赤色インクを提供する。
【解決手段】インクジェット用赤色インクは、顔料と、特定有機溶媒とを含有し、波長545nm以上555nm以下の範囲に吸収極大波長を有する。前記特定有機溶媒は、1,5-ペンタンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含む。前記顔料は、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、又はC.I.ピグメントレッド188を含むとよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、特定有機溶媒とを含有し、
波長545nm以上555nm以下の範囲に吸収極大波長を有し、
前記特定有機溶媒は、1,5-ペンタンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含む、インクジェット用赤色インク。
【請求項2】
前記顔料は、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、又はC.I.ピグメントレッド188を含む、請求項1に記載のインクジェット用赤色インク。
【請求項3】
前記特定有機溶媒の含有割合は、5.0質量%以上40.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット用赤色インク。
【請求項4】
グリコールエーテル化合物を更に含有し、
前記グリコールエーテル化合物の含有割合は、0.5質量%以上10.0質量%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載のインクジェット用赤色インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用赤色インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置は急速に進歩している。例えば、インクジェット記録装置は、記録媒体として写真用紙を用いる場合、銀塩写真に匹敵する高画質の画像を形成することができる。
【0003】
これに伴い、インクジェット記録装置に用いるインクジェット用インクには様々な性能が要求されるようになっている。具体的には、インクジェット用インクには、従来から要求されている発色性及び保存安定性に加え、形成された画像を高温に晒しても変色しない性能(耐熱性)が要求されている。画像が高温に晒された際の変色は、例えば、インクジェット用インクに含まれる樹脂成分が炭化することで生じる。樹脂成分が炭化した画像は、本来の色相に黄色が加わる。
【0004】
樹脂成分の炭化による画像の変色は、色相環において黄色から離れた色相のインクジェット用インクほど影響を受け易い。具体的には、樹脂成分の炭化は、インクジェット用黄色インクにはあまり影響を与えないが、インクジェット用赤色インクには比較的強い影響を与え、インクジェット用青色インクには極めて強い影響を与える。当面は、耐熱性に優れ、樹脂成分の炭化による画像の変色が生じ難いインクジェット用赤色インクの開発が進められている。
【0005】
発色性及び保存安定性に優れるインクジェット用赤色インクとして、例えば、C.I.ピグメントレッド150を含む顔料と、水溶性有機溶媒と、ラジカル重合体とを含有するインクジェット用赤色インクが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/088222号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット用赤色インクによっても、樹脂成分の炭化による画像の変色を十分に抑制することは困難である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、発色性、耐熱性及び保存安定性に優れるインクジェット用赤色インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るインクジェット用赤色インクは、顔料と、特定有機溶媒とを含有し、波長545nm以上555nm以下の範囲に吸収極大波長を有する。前記特定有機溶媒は、1,5-ペンタンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るインクジェット用赤色インクは、発色性、耐熱性及び保存安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。
【0012】
以下において、酸価の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本産業規格)K0070:1992」に従い測定した値である。また、質量平均分子量(Mw)の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0013】
本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0014】
<赤色インク>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット用赤色インク(以下、単に赤色インクと記載することがある)を説明する。本発明の赤色インクは、顔料と、特定有機溶媒とを含有し、波長545nm以上555nm以下の範囲に吸収極大波長を有する。特定有機溶媒は、1,5-ペンタンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含む。
【0015】
なお、本発明の赤色インクの吸収極大波長は、分光光度計を用いて波長300nm~800nmの範囲における吸収スペクトルを測定することにより求めることができる。吸収スペクトルにおいて吸光度が最大となる波長が吸収極大波長である。
【0016】
本発明の赤色インクの用途としては、特に限定されないが、ラインヘッドを備えるインクジェット記録装置に用いる赤色インクとして好適である。
【0017】
本発明の赤色インクは、上述の構成を備えることにより、発色性、耐熱性及び保存安定性に優れる。その理由は以下のように推察される。公知の赤色インクは、通常、波長530nm付近に吸収極大波長を有する。このような公知の赤色インクにより形成される画像は、樹脂成分が炭化し、色相に黄色が加わった際に視覚的に変化を感じ易い。これに対して、本発明の赤色インクは、波長545nm以上555nm以下の範囲に吸収極大波長を有する。本発明の赤色インクは、上述の吸収極大波長を有することにより、形成される画像の色相に黄色が加わったとしても視覚的に変化を感じ難い。このため、本発明の赤色インクは、耐熱性に優れる。
【0018】
一方、一般的な組成の赤色インクの吸収極大波長を上述の範囲に調整しただけでは、形成される画像の明度(Lab値におけるL値)が高くなり、視覚的な画像濃度が低くなる傾向(即ち、十分な発色性が得られない傾向)がある。発色性を向上させるためには、赤色インクに疎水性の高い保湿剤を添加することが有効である。疎水性の高い保湿剤を添加した赤色インクは、記録媒体の表面に吐出された後、顔料が記録媒体の内部に浸透せずに記録媒体の表面に留まり易くなるため、明度の高い画像を形成できる。一方、上述の吸収極大波長を実現するために必要な顔料は、赤色インクの保存安定性を低下させ易い。このような赤色インクに疎水性の高い保湿剤を添加すると、赤色インクの保存安定性が更に低下する。このように、一般的な組成の赤色インクの吸収極大波長を上述の範囲に調整しただけでは、赤色インクの発色性及び保存安定性を両立することは困難である。これに対して、本発明の赤色インクは、保湿剤として、1,5-ペンタンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含む特定有機溶媒を含有する。特定有機溶媒は、適度な疎水性を有するため、本発明の赤色インクの保存安定性を低下させずに、発色性を向上させる。このように、本発明の赤色インクは、上述の吸収極大波長を有し、かつ適度な疎水性の特定有機溶媒を含有することにより、耐熱性、発色性及び保存安定性に優れる。
【0019】
以下、本発明の赤色インクについて、更に詳細に説明する。なお、以下に説明する各成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
[顔料]
本発明の赤色インクにおいて、顔料は、例えば、顔料分散樹脂と共に顔料粒子を構成する。顔料粒子は、例えば、顔料を含むコアと、コアを被覆する顔料分散樹脂とにより構成される。顔料分散樹脂は、例えば、溶媒に分散して存在する。本発明の赤色インクの色濃度、色相、又は安定性を向上させる観点から、顔料粒子のD50としては、30nm以上200nm以下が好ましく、70nm以上130nm以下がより好ましい。
【0021】
本発明の赤色インクは、赤色顔料を含有することが好ましい。本発明の赤色インクが含有する顔料としては、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、又はC.I.ピグメントレッド188が好ましい。これらの顔料を用いることで、本発明の赤色インクの吸収極大波長を波長545nm以上555nm以下の範囲に調整し易くなる。
【0022】
本発明の赤色インクにおいて、顔料の含有割合としては、1.0質量%以上12.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましい。顔料の含有割合を1.0質量%以上とすることで、本発明の赤色インクにより、所望の画像濃度を有する画像を得ることができる。また、顔料の含有割合を12.0質量%以下とすることで、本発明の赤色インクの流動性を向上できる。
【0023】
[顔料分散樹脂]
顔料分散樹脂は、水溶性を有し、顔料の表面に付着することで顔料の凝集を抑制する。
【0024】
顔料分散樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン及びビニルナフタレンのうち少なくとも1種のモノマーと、(メタ)アクリル酸及びマレイン酸のうち少なくとも1種のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0025】
顔料分散樹脂としては、(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位((メタ)アクリル酸単位)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位((メタ)アクリル酸アルキルエステル単位)と、スチレン単位とを有する樹脂が好ましい。この場合、顔料分散樹脂の有する全繰り返し単位のうち、(メタ)アクリル酸単位の割合としては、4.5質量%以上8.0質量%以下が好ましい。顔料分散樹脂の有する全繰り返し単位のうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位の割合としては、35質量%以上70質量%以下が好ましい。顔料分散樹脂の有する全繰り返し単位のうち、スチレン単位の割合としては、27質量%以上60質量%以下が好ましい。顔料分散樹脂としては、メタクリル酸に由来する繰り返し単位と、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位と、アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位と、スチレン単位とを有する樹脂がより好ましい。
【0026】
本発明の赤色インクにおいて、顔料分散樹脂の含有割合としては、0.5質量%以上8.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上4.0質量%以下がより好ましい。顔料分散樹脂の含有割合を0.5質量%以上とすることで、顔料の凝集をより効果的に抑制できる。顔料分散樹脂の含有割合を8.0質量%以下とすることで、ノズル詰まりが発生することを抑制できる。
【0027】
顔料被覆樹脂の酸価としては、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下が好ましい。顔料被覆樹脂の酸価を50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下とすることで、顔料の分散性を向上させつつ、本発明の赤色インクの保存安定性を更に向上できる。
【0028】
顔料分散樹脂の酸価は、顔料分散樹脂を合成する際に使用するモノマーを変更することで調整できる。例えば、顔料分散樹脂を合成する際に、酸性の官能基(例えば、カルボキシ基)を有するモノマー(例えば、アクリル酸及びメタクリル酸)を使用することで、顔料分散樹脂の酸価を増大させることができる。
【0029】
顔料分散樹脂の質量平均分子量としては、10000以上50000以下が好ましく、15000以上30000以下がより好ましい。顔料分散樹脂の質量平均分子量を10000以上50000以下とすることで、本発明の赤色インクの粘度の増大を抑制しつつ、所望の画像濃度を有する画像を得ることができる。
【0030】
顔料分散樹脂の質量平均分子量は、顔料分散樹脂の重合条件(例えば、重合開始剤の使用量、重合温度、及び重合時間)を変えることによって調整できる。なお、顔料分散樹脂は、塩基(例えば、KOH又はNaOH)で等量中和されていることが好ましい。
【0031】
[特定有機溶媒]
特定有機溶媒は、1,5-ペンタンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含む。本発明の赤色インクにおいて、特定有機溶媒は、保湿剤として機能する。
【0032】
本発明の赤色インクにおいて、特定有機溶媒の含有割合としては、5.0質量%以上40.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以上25.0質量%以下がより好ましい。特定有機溶媒の含有割合を5.0質量%以上とすることで、本発明の赤色インクの発色性を更に向上できる。特定有機溶媒の含有割合を40.0質量%以下とすることで、本発明の赤色インクの保存安定性を更に向上できる。
【0033】
[水]
本発明の赤色インクは、溶媒として、水を含有することが好ましい。本発明の赤色インクが水を含有する場合、本発明の赤色インクにおける水の含有割合としては、例えば、40.0質量%以上65.0質量%以下である。
【0034】
[他の水溶性有機溶媒]
本発明の赤色インクは、特定有機溶媒以外の他の水溶性有機溶媒を更に含有することが好ましい。他の水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコールエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、グリセリン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0035】
グリコールエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。グリコールエーテル化合物は、ブチルエーテル構造を有することが好ましい。具体的なグリコールエーテル化合物としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0036】
ラクタム化合物としては、例えば、2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0037】
含窒素化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0038】
アセテート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0039】
本発明の赤色インクは、グリコールエーテル化合物を更に含有することが好ましい。本発明の赤色インクがグリコールエーテル化合物を更に含有することで、記録媒体の表面に吐出された後、顔料が記録媒体の内部に浸透することを更に効果的に抑制できる。その結果、本発明の赤色インクの発色性を更に向上できる。
【0040】
本発明の赤色インクにおけるグリコールエーテル化合物の含有割合としては、0.5質量%以上10.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以上6.0質量%以下がより好ましい。グリコールエーテル化合物の含有割合を0.5質量%以上10.0質量%以下とすることで、本発明の赤色インクの発色性を更に向上できる。
【0041】
また、本発明の赤色インクは、グリセリンを更に含有することが好ましい。本発明の赤色インクがグリセリンを更に含有することで、赤色インクの吐出性を向上できる。本発明の赤色インクにおけるグリセリンの含有割合としては、0.5質量%以上15.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましい。グリセリンの含有割合を0.5質量%以上15.0質量%以下とすることで、本発明の赤色インクの吐出性を更に向上できる。
【0042】
[界面活性剤]
本発明の赤色インクは、界面活性剤を更に含有することが好ましい。界面活性剤は、記録媒体に対する本発明の赤色インクの浸透性(濡れ性)を向上させる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0043】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が好ましい。
【0044】
本発明の赤色インクが界面活性剤を含有する場合、本発明の赤色インクにおける界面活性剤の含有割合としては、0.05質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。
【0045】
[他の成分]
本発明の赤色インクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0046】
[赤色インクの製造方法]
本発明の赤色インクは、例えば、顔料及び顔料分散樹脂を含む顔料分散液と、特定有機溶媒と、必要に応じて配合される他の成分(例えば、水、グリコールエーテル化合物、グリセリン及び界面活性剤)とを攪拌機により均一に混合することにより製造できる。本発明の赤色インクの製造では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0047】
(顔料分散液)
顔料分散液は、顔料及び顔料分散樹脂を含む分散液である。顔料分散液の分散媒としては、水が好ましい。顔料分散液は、顔料粒子の分散性を向上させるため、界面活性剤を更に含有することが好ましい。
【0048】
顔料分散液において、顔料及び顔料分散樹脂により構成される顔料粒子のD50としては、50nm以上200nm以下が好ましく、70nm以上130nm以下がより好ましい。
【0049】
顔料粒子のD50は、例えば、顔料分散液をイオン交換水で300倍に希釈した溶液を試料として、動的光散乱式粒径分布測定装置(例えば、マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定することができる。
【0050】
顔料分散液における顔料の含有割合としては、5.0質量%以上25.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上20.0質量%以下がより好ましい。顔料分散液における顔料分散樹脂の含有割合としては、2.0質量%以上10.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましい。顔料分散液が界面活性剤を含有する場合、顔料分散液における界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。
【0051】
顔料分散液は、顔料と、顔料分散樹脂と、分散媒(例えば、水)と、必要に応じて添加される成分(例えば、界面活性剤)とをメディア型湿式分散機により湿式分散することで調製できる。メディア型湿式分散機による湿式分散では、メディアとして、例えば、小粒径ビーズ(例えば、D50が0.5mm以上1.0mm以下のビーズ)を用いることができる。ビーズの材質としては、特に限定されないが、硬質の材料(例えば、ガラス及びジルコニア)が好ましい。
【0052】
本発明の赤色インクの製造において顔料分散液を添加する場合、赤色インクの全原料に対する顔料分散液の割合としては、例えば、25.0質量%以上60.0質量%以下である。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0054】
実施例において、顔料分散樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC-8020GPC」)を用いて下記条件により測定した。検量線は、東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンであるF-40、F-20、F-4、F-1、A-5000、A-2500、及びA-1000と、n-プロピルベンゼンとを用いて作成した。
【0055】
(質量平均分子量の測定条件)
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」(4.6mmI.D.×15cmのセミミクロカラム)
・カラム本数:3本
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.35mL/分
・サンプル注入量:10μL
・測定温度:40℃
・検出器:IR検出器
【0056】
<検討1:顔料の種類>
まず、顔料の種類について検討した。以下、赤色インクの製造に用いた各原料の調製方法を示す。
【0057】
(顔料分散樹脂の準備)
メタクリル酸に由来する繰り返し単位(MAA単位)と、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位(MMA単位)と、アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位(BA単位)と、スチレンに由来する繰り返し単位(ST単位)とを有する顔料分散樹脂(R-1)を準備した。この顔料分散樹脂(R-1)は、質量平均分子量(Mw)が20000、酸価が100mgKOH/gであった。この顔料分散樹脂(R-1)における各繰り返し単位の質量比は、「MAA単位:MMA単位:BA単位:ST単位=6.5:30.0:30.0:33.5」であった。この顔料分散樹脂(R-1)と、水酸化ナトリウムを含有する水酸化ナトリウム水溶液とを混合した。水酸化ナトリウム水溶液には、顔料分散樹脂(R-1)の等量中和に必要な量の1.05倍量の水酸化ナトリウムが含まれていた。これにより、顔料分散樹脂(R-1)を、等量(厳密には、105%量)のKOHで中和した。その結果、顔料分散樹脂(R-1)及び水を含有する顔料分散樹脂溶液を得た。
【0058】
(顔料分散液(D-1)~(D-7)の調製)
下記表1に示す組成となるように、顔料(顔料の種類は下記表2参照)と、上述の顔料分散樹脂溶液と、ノニオン界面活性剤としての日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」(アセチレンジオールのエチレンオキサイド付加物)と、イオン交換水とをベッセルに投入した。
【0059】
なお、下記表1の「水」の含有割合は、上述のベッセルに投入したイオン交換水と、顔料分散樹脂溶液に含まれていた水(詳しくは、顔料分散樹脂の中和に用いた水酸化ナトリウム水溶液に含まれていた水、並びに顔料分散樹脂及び水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水)との合計含有割合を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
続けて、メディアとしてのジルコニアビーズ(粒子径0.5mm)と、湿式分散機(浅田鉄工株式会社製「ナノグレンミル」)とを用いて、上述のベッセルの内容物を分散処理した。分散条件は、温度10℃、周速8m/秒、吐出量300g/分とした。これにより、顔料分散液(D-1)~(D-7)を得た。
【0063】
[実施例1~5及び比較例1~2]
攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター(登録商標)BL-600」)を装備したフラスコにイオン交換水を投入した。上述の攪拌機で内容物を攪拌(攪拌速度:400rpm)しながら、上述の顔料分散液(顔料分散液の種類は下記表4参照)と、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)420」、アセチレングリコール界面活性剤)と、グリコール化合物であるトリエチレングリコールモノブチルエーテルと、特定有機溶媒である3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、グリセリンとを、この順番で投入した。各原料の種類及び投入量の割合は、下記表3に示す通りとした。
【0064】
【表3】
【0065】
得られた混合液から異物及び粗大粒子を除去するため、孔径5μmのフィルターを用いて混合液をろ過した。これにより、実施例1~5及び比較例1~2の赤色インクを得た。
【0066】
(吸収極大波長の測定)
イオン交換水を用いて、測定対象となるインク(詳しくは、実施例1~5及び比較例1~2のインクの何れか)を1000倍に希釈した。得られた希釈液を測定セルに充填し、測定セルを分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス「U-3010」)のサンプル室にセットした。分光光度計を用いて、波長300nm~800nmの範囲における希釈液の吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルに基づいて、各インクの吸収極大波長を求めた。得られた吸収極大波長を下記表4に示す。
【0067】
[評価]
実施例1~5及び比較例1~2の赤色インクについて、それぞれ、以下の方法により、発色性、耐熱性及び保存安定性を評価した。評価結果を下記表4に示す。評価は、特に断りのない限り、温度25℃かつ湿度60%RHの環境下で行った。
【0068】
(発色性)
評価機として、インクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作機)を使用した。評価機は、ノズル(開口部の孔径:10μm)を有するピエゾ方式のラインヘッドを備えていた。評価機のラインヘッドに、評価対象(詳しくは、実施例1~5及び比較例1~2の赤色インクの何れか)をセットした。続いて、評価機を用いてA4の普通紙(APRIL社製「Paper One(登録商標)」)に、1cm×1cmのソリッド画像を形成した(インク載せ量0.55mg/cm2)。この際、ラインヘッドの個々のノズルから吐出される赤色インクの1ドット当たりの体積(1滴当たりの体積)は、9.5pLに設定した。次に、ソリッド画像が形成された普通紙(評価用紙)を12時間乾燥させた。次に、蛍光分光濃度計(コニカミノルタ株式会社製「FD-5」)を用いて、上述の評価用紙に形成されたソリッド画像のLab値(L値、a値及びb値)を測定した。赤色インクの発色性は、L値が60.0以下の場合を良好(A)と判定し、L値が60.0超である場合を不良(B)と判定した。
【0069】
(耐熱性)
発色性の評価に用いた評価用紙を、105℃で72時間加熱処理した。次に、加熱処理後の評価用紙について、上述の蛍光分光濃度計を用いて、上述の評価用紙に形成されたソリッド画像のLab値(L値、a値及びb値)を測定した。加熱処理の前後におけるL値の変化量(ΔL)、a値の変化量(Δa)、b値の変化量(Δb)をそれぞれ求めた。ΔL、Δa及びΔbを下記数式に当てはめることにより、加熱処理によるLab値の変化量(ΔE)を算出した。赤色インクの耐熱性は、ΔEが5.0未満の場合を良好(A)と判定し、Δ3が5.0以上である場合を不良(B)と判定した。
ΔE=〔(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)21/2
【0070】
(保存安定性)
評価対象(詳しくは、実施例1~5及び比較例1~2の赤色インクの何れか)の粘度を、落球式自動マイクロ粘度計(アントンパール社製「AMVn」)を用いて測定した。粘度の測定においては、直径1.6mmのキャピラリーと、直径1.5mmかつ比重7.63のスチール球とを用い、落球角度を70度、温度を25℃とした。測定後、上述のアントンパール社製「AMVn」の専用ソフトウェアにて各評価対象の粘度(初期粘度)を算出した。
【0071】
次に、評価対象をプラスチック製広口瓶(アズワン株式会社販売「アイボーイ」)に投入した後にプラスチック製広口瓶の蓋を閉め、60℃で2週間加熱処理した。加熱処理後の評価対象の粘度(加熱後粘度)を、初期粘度の測定と同様の方法により測定した。初期粘度及び加熱後粘度を下記数式に当てはめることにより、加熱処理による粘度の変化率を算出した。評価対象の保存安定性は、粘度の変化率の絶対値が5%以内である場合を良好(A)と判定し、粘度の変化率の絶対値が5%超である場合を不良(B)と判定した。
粘度の変化率=100×(加熱後粘度-初期粘度)/初期粘度
【0072】
【表4】
【0073】
表1~4に示す通り、実施例1~5の赤色インクは、波長545nm以上555nm以下の範囲に吸収極大波長を有していた。実施例1~5の赤色インクは、発色性、耐熱性及び保存安定性に優れていた。
【0074】
一方、比較例1~2の赤色インクは、555nm超の範囲に吸収極大波長を有していた。比較例1~2の赤色インクは、耐熱性が不十分であった。これは、比較例1~2の赤色インクは、樹脂の炭化による影響を受けやすい色相の画像を形成するためであると判断される。
【0075】
<検討2:有機溶媒の種類>
次に、保湿剤として使用する有機溶媒の種類について検討した。検討に用いる有機溶媒としては、下記表5に示す化合物を用いた。下記表5に示す化合物の疎水性の高さを以下に示す。
1,4BD<1,5PD<MPD<1,6HD
【0076】
【表5】
【0077】
[実施例6~9及び比較例3~4]
各原料の種類及び投入量の割合を下記表6に示す通りとした以外は、実施例1~5及び比較例1~2のインクの調製と同様の方法により、実施例6~9及び比較例3~4の赤色インクを調製した。
【0078】
【表6】
【0079】
得られた混合液から異物及び粗大粒子を除去するため、孔径5μmのフィルターを用いて混合液をろ過した。これにより、実施例6~9及び比較例3~4の赤色インクを得た。
【0080】
実施例1~5及び比較例1~2の赤色インクの吸収極大波長の測定と同様の方法により、実施例6~9及び比較例3~4の赤色インクの吸収極大波長を測定した。得られた吸収極大波長を下記表7に示す。
【0081】
[評価]
実施例1~5及び比較例1~2の赤色インクの評価と同様の方法により、実施例6~9及び比較例3~4の赤色インクの発色性、耐熱性及び保存安定性を評価した。評価結果を下記表7に示す。
【0082】
【表7】
【0083】
表7に示す通り、実施例6~9の赤色インクは、保湿剤として、適度に疎水性の高い特定有機溶媒である1,5-ペンタンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含んでいた。実施例6~9の赤色インクは、発色性、耐熱性及び保存安定性に優れていた。
【0084】
一方、比較例3の赤色インクは、保湿剤として、比較的親水性の高い有機溶媒である1,4-ブタンジオールを含有していた。比較例3の赤色インクは、記録媒体の表面に吐出された後、顔料を記録媒体の表面に留めることができなかったと判断される。そのため、比較例3の赤色インクは、発色性が不良であり、L値が比較的大きい画像を形成したと判断される。また、比較例3の赤色インクは、耐熱性も不良であった。
【0085】
比較例4の赤色インクは、保湿剤として、過度に疎水性の高い有機溶媒である1,6-ヘキサンジオールを含有していた。比較例4の赤色インクは、過度に疎水性の高い有機溶媒を含有するため、保存安定性が不良であったと判断される。
【0086】
以上をまとめると、顔料と、特定有機溶媒とを含有し、波長545nm以上555nm以下の範囲に吸収極大波長を有し、特定有機溶媒が1,5-ペンタンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含む赤色インクは、発色性、耐熱性及び保存安定性に優れていると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の赤色インクは、画像を形成するために用いることができる。