IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188969
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】車両用ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/18 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
B62D1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097281
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】本橋 祐也
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DD02
3D030DD12
3D030DD15
3D030DD63
3D030DD64
(57)【要約】
【課題】装置の大型化を招くことなく、ステアリングホイールに加えられた荷重に応じてステアリングホイールの位置調整を行うことができる車両用ステアリングコラム装置を提供すること。
【解決手段】車両用ステアリングコラム装置は、ステアリングホイールに加えられた荷重を推定する荷重推定部17と、推定した荷重に応じて、ステアリングホイールを少なくとも前後方向及び上下方向の何れかに移動させる位置調節機構と、位置調節機構を駆動するモータと、推定した荷重Fh_est、及び、ステアリングホイールの移動量Xactに基づき、モータに供給する目標電流値Irefを生成する制御部10と、目標電流値Irefに基づき、モータを駆動制御する駆動部20と、を備える。荷重推定部17は、モータの電流値及びステアリングホイールの移動量Xactに基づき、荷重の推定値Fh_estを算出する。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに加えられた荷重を推定する荷重推定部と、
前記推定した荷重に応じて、前記ステアリングホイールを少なくとも前後方向及び上下方向の何れかに移動させる位置調節機構と、
前記位置調節機構を駆動するモータと、
前記推定した荷重、及び、前記ステアリングホイールの移動量に基づき、前記モータに供給する目標電流値を生成する制御部と、
前記目標電流値に基づき、前記モータを駆動制御する駆動部と、
を備え、
前記荷重推定部は、
前記モータの電流値及び前記移動量に基づき、前記荷重を推定する、
車両用ステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記荷重をFh、前記電流値をIact、前記移動量をXact、前記位置調節機構を含む慣性系の質量をM、前記位置調節機構を含む慣性系の粘性係数をD、前記モータのトルク定数及び比ストロークで決まる係数をKとしたとき、前記荷重Fhは、下記(1)式で表される、
請求項1に記載の車両用ステアリングコラム装置。
Fh=(Ms+Ds)×Xact-Iact×K・・・(1)
【請求項3】
前記荷重推定部は、
前記(1)式に対し、前記移動量Xactの高域成分を除去するLPF項1/(Ts+1)を乗じた下記(2)式を用いて、前記荷重の推定値Fh_estを算出する、
請求項2に記載の車両用ステアリングコラム装置。
Fh_est={(Ms+Ds)×Xact-Iact×K}×{1/(Ts+1)}・・・(2)
【請求項4】
前記制御部は、
前記荷重が第1値未満である第1領域において、前記ステアリングホイールの移動速度がゼロをなるように制御し、
前記荷重が前記第1値以上であり、且つ、前記荷重が前記第1値よりも大きい第2値未満である第2領域において、前記荷重の増加に伴い前記移動速度が大きくなるように制御する、
請求項1から3の何れか一項に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第2領域において、前記荷重の増加に応じて前記移動速度が所定の傾きで大きくなるように制御する、
請求項4に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第2領域において、前記荷重の増加に応じて前記移動速度の傾きが大きくなるように制御する、
請求項4に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記第2領域において、車速の増加に伴い、前記移動速度の傾きが小さくなるように制御する、
請求項5又は6に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記第2領域において、前記荷重の時間変化率の増加に伴い、前記移動速度の傾きが大きくなるように制御する、
請求項5又は6に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記荷重が所定期間内に2回以上連続して所定の閾値を超えた場合に、第2領域において前記移動速度の傾きが大きくなるように制御する、
請求項5又は6に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記荷重が前記第2値以上である第3領域において、前記移動速度が一定の移動速度制限値となるように制御する、
請求項4から9の何れか一項に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項11】
前記制御部は、
車速の増加に伴い、前記移動速度制限値が小さくなるように制御する、
請求項10に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項12】
前記制御部は、
前記荷重の時間変化率の増加に伴い、前記移動速度制限値が大きくなるように制御する、
請求項10に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項13】
前記制御部は、
前記荷重が所定期間内に2回以上連続して所定値を超えた場合に、前記移動速度制限値が大きくなるように制御する、
請求項10に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項14】
前記位置調節機構は、前記モータの駆動力によって前記ステアリングホイールを前後方向に移動させるテレスコピック機構であって、
前記制御部は、
引き方向の荷重に対する前記第1値が押し方向の荷重に対する前記第1値よりも小さくなるように制御する、
請求項4から13の何れか一項に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項15】
前記位置調節機構は、前記モータの駆動力によって前記ステアリングホイールを上下方向に移動させるチルト機構であって、
前記制御部は、
上げ方向の荷重に対する前記第1値が下げ方向の荷重に対する前記第1値よりも小さくなるように制御する、
請求項4から13の何れか一項に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【請求項16】
前記制御部は、
前記モータ及び前記位置調節機構を含む慣性系の摩擦を補償する摩擦補償部をさらに備える、
請求項1から15の何れか一項に記載の車両用ステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用ステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリングコラム装置として、ステアリングホイールの角度(高さ)を調整可能とするチルト機構や、ステアリングホイールの前後位置を調整可能とするテレスコピック機構を具備した車両用ステアリングコラム装置が知られている。例えば、下記特許文献1には、ステアリングホイールに加えられた上下方向および前後方向の荷重を検出する圧力センサを設け、これらの圧力センサの検出出力に基づき、チルト機構用のモータやテレスコピック機構用のモータをそれぞれ駆動して、荷重作用方向に沿ってステアリングホイールの位置調整を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-98189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、ステアリングホイールに加えられた上下方向および前後方向の荷重を検出する圧力センサを設ける必要がある。このため、装置が大型化する要因となる場合がある。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、装置の大型化を招くことなく、ステアリングホイールに加えられた荷重に応じてステアリングホイールの位置調整を行うことができる車両用ステアリングコラム装置を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係る車両用ステアリングコラム装置は、
ステアリングホイールに加えられた荷重を推定する荷重推定部と、前記推定した荷重に応じて、前記ステアリングホイールを少なくとも前後方向及び上下方向の何れかに移動させる位置調節機構と、前記位置調節機構を駆動するモータと、前記推定した荷重、及び、前記ステアリングホイールの移動量に基づき、前記モータに供給する目標電流値を生成する制御部と、前記目標電流値に基づき、前記モータを駆動制御する駆動部と、を備え、前記荷重推定部は、前記モータの電流値及び前記移動量に基づき、前記荷重を推定する。
【0007】
上記構成によれば、モータの電流値及び位置調節機構の移動量を用いて、ステアリングホイールに加えられた荷重を推定することができる。これにより、ステアリングホイールに加えられた荷重を検出する圧力センサを設けることなく、推定した荷重を用いて、ステアリングホイールの位置調整を行うことができる。
【0008】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記荷重をFh、前記電流値をIact、前記移動量をXact、前記位置調節機構を含む慣性系の質量をM、前記位置調節機構を含む慣性系の粘性係数をD、前記モータのトルク定数及び比ストロークで決まる係数をKとしたとき、前記荷重Fhは、下記(1)式で表される。
【0009】
Fh=-(Ms+Ds)×Xact+Iact×K・・・(1)
【0010】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記荷重推定部は、前記(1)式に対し、前記移動量Xactの高域成分を除去するLPF項1/(Ts+1)を乗じた下記(2)式を用いて、前記荷重の推定値Fh_estを算出する。
【0011】
Fh_est={-(Ms+Ds)×Xact+Iact×K}×{1/(Ts+1)}・・・(2)
【0012】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、前記荷重が第1値未満である第1領域において、前記ステアリングホイールの移動速度がゼロをなるように制御し、前記荷重が前記第1値以上であり、且つ、前記荷重が前記第1値よりも大きい第2値未満である第2領域において、前記荷重の増加に伴い前記移動速度が大きくなるように制御する。
【0013】
上記構成によれば、荷重が第1値未満である第1領域を、ステアリングホイールが移動しない不感帯領域とし、荷重が第1値以上であり、且つ、第2値未満である第2領域を、荷重の増加に伴いステアリングホイールの移動速度が増加する遷移領域とすることができる。これにより、ステアリング操作による誤動作や、走行中のロードノイズ等の微振動による誤動作を防ぐことができる。また、運転者が意図しない位置調整動作を抑制することができ、直感的にステアリングホイールの位置調整を行うことができる。
【0014】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、第2領域において、前記荷重の増加に応じて前記移動速度が所定の傾きで大きくなるように制御することが好ましい。
【0015】
これにより、第2領域(遷移領域)では、荷重の増加に応じて、ステアリングホイールの移動速度が線形に増加する。
【0016】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、第2領域において、前記荷重の増加に応じて前記移動速度の傾きが大きくなるように制御することが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、第2領域(遷移領域)では、荷重の増加に応じて徐々にステアリングホイールの移動速度の増加率が上昇する。これにより、第1領域(不感帯領域)と第2領域(遷移領域)との境界(第1値)を意識することなく、最適なステアリングポジションが得られる。
【0018】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、第2領域において、車速の増加に伴い、前記移動速度の傾きが小さくなるように制御しても良い。
【0019】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、前記第2領域において、前記荷重の時間変化率の増加に伴い、前記移動速度の傾きが大きくなるように制御しても良い。
【0020】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、前記荷重が所定期間内に2回以上連続して所定の閾値を超えた場合に、前記第2領域において前記移動速度の傾きが大きくなるように制御しても良い。
【0021】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、前記荷重が前記第2値以上である第3領域において、前記移動速度が一定の移動速度制限値となるように制御することが好ましい。
【0022】
これにより、荷重が第2値以上である第3領域を、ステアリングホイールが一定の移動速度制限値となる制限領域とすることができる。これにより、第3領域(制限領域)では、ステアリングホイールの移動速度が移動速度制限値よりも大きくなることを防止することができる。
【0023】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、車速の増加に伴い、前記移動速度制限値が小さくなるように制御しても良い。
【0024】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、前記荷重の時間変化率の増加に伴い、前記移動速度制限値が大きくなるように制御しても良い。
【0025】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記制御部は、前記荷重が所定期間内に2回以上連続して所定値を超えた場合に、前記移動速度制限値が大きくなるように制御しても良い。
【0026】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記位置調節機構は、前記モータの駆動力によって前記ステアリングホイールを前後方向に移動させるテレスコピック機構であって、前記制御部は、引き方向の荷重に対する前記第1値が押し方向の荷重に対する前記第1値よりも小さくなるように制御することが好ましい。
【0027】
これにより、小さな荷重となり易い引き方向の第1領域(不感帯領域)を小さくすることができる。
【0028】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記位置調節機構は、前記モータの駆動力によって前記ステアリングホイールを上下方向に移動させるチルト機構であって、前記制御部は、上げ方向の荷重に対する前記第1値が下げ方向の荷重に対する前記第1値よりも小さくなるように制御することが好ましい。
【0029】
これにより、小さな荷重となり易い上げ方向の第1領域(不感帯領域)を小さくすることができる。
【0030】
車両用ステアリングコラム装置の望ましい態様として、前記モータ及び前記位置調節機構を含む慣性系の摩擦を補償する摩擦補償部をさらに備えることが好ましい。
【0031】
これにより、モータ及び位置調節機構を含む慣性系の摩擦を補償することができる。
【発明の効果】
【0032】
本開示によれば、運転者が意図しない位置調整動作を抑制することができ、直感的にステアリングホイールの位置調整を行うことができる車両用ステアリングコラム装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の全体構成を示す図である。
図2図2は、コントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
図3A図3Aは、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の制御系の第1例を示す図である。
図3B図3Bは、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の制御系の第2例を示す図である。
図3C図3Cは、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の制御系の第3例を示す図である。
図4図4は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第1例を示す図である。
図5図5は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第2例を示す図である。
図6図6は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第3例を示す図である。
図7A図7Aは、第2領域における目標速度の傾き変更の第1例を示すタイミングチャートである。
図7B図7Bは、第2領域における目標速度の傾き変更の第1例を示すタイミングチャートである。
図7C図7Cは、第2領域における目標速度の傾き変更の第1例を示すタイミングチャートである。
図8A図8Aは、第2領域における目標速度の傾き変更の第2例を示すタイミングチャートである。
図8B図8Bは、第2領域における目標速度の傾き変更の第2例を示すタイミングチャートである。
図9図9は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第3例を示す図である。
図10図10は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第4例を示す図である。
図11図11は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第5例を示す図である。
図12図12は、実施形態2に係る車両用ステアリングコラム装置の制御系の一例を示す図である。
図13図13は、摩擦補償部の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0035】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の全体構成を示す図である。図1に示されるように、車両用ステアリングコラム装置100は、ステアリングシャフト2を回動自在に支持するステアリングコラム3を有する。ステアリングコラム3には、その端部にステアリングホイール1が装着されている。
【0036】
本開示において、車両用ステアリングコラム装置100は、ステアリングホイール1に加えられた荷重を推定し、当該推定した荷重に応じて、ステアリングホイール1を少なくとも前後方向(図中の実線矢示方向)及び上下方向(図中の破線矢示方向)の何れかに移動させる位置調節機構4を備えている。
【0037】
本開示において、「前後方向」「上下方向」とは、運転者が車両の運転席にステアリングホイール1に相対して着座し、ステアリングホイール1を見た状態を基準として定義する。すなわち、運転者がステアリングホイール1を前方に押し出す方向を「押し方向」と称し、運転者がステアリングホイール1を手前に引く方向を「引き方向」と称する。また、運転者がステアリングホイール1を押し上げる方向を「上げ方向」と称し、運転者がステアリングホイール1を押し下げる方向を「下げ方向」と称する。
【0038】
位置調節機構4は、モータ5の駆動力によって駆動される。本開示において、モータ5は、アクチュエータの一例として例示される。位置調節機構4は、例えば、ステアリングホイール1を前後方向に移動させるテレスコピック機構であっても良いし、ステアリングホイール1を上下方向に移動させるチルト機構であっても良い。あるいは、位置調節機構4は、テレスコピック機構及びチルト機構の双方の機能を有する構成であっても良い。ここでは、ステアリングホイール1を前後方向(図中の実線矢示方向)あるいは上下方向(図中の破線矢示方向)に移動させるとしたが、位置調節機構4は、ステアリングコラム3を前後方向あるいは上下方向に移動させ、結果としてステアリングホイール1が前後方向あるいは上下方向に移動する態様であっても良い。なお、位置調整機構4として、モータ5の回転運動を直線運動に変換することができる公知の機構を採用することができる。例えば、滑りねじ機構、ボールねじ機構などを採用することができる。
【0039】
本開示では、図1に示すように、ステアリングホイール1に加えられる押し方向の荷重を「荷重Fh_Push」、ステアリングホイール1に加えられる引き方向の荷重を「荷重Fh_Pull」、ステアリングホイール1に加えられる下げ方向の荷重を「荷重Fh_Down」、ステアリングホイール1に加えられる上げ方向の荷重を「荷重Fh_Up」とも称する。なお、荷重Fh_Push、荷重Fh_Pull、荷重Fh_Down、荷重Fh_Upを区別しない場合には、単に「荷重Fh」とも称する。
【0040】
モータ5には、角度センサ5aが設けられている。角度センサ5aは、モータ5の回転角を検出して電気信号θm(以下、単に「モータ回転角θm」とも称する)に変換する。
【0041】
また、モータ5には、電流センサ5bが設けられている。電流センサ5bは、モータ5に流れる実電流値を検出して電気信号Iact(以下、単に「実電流値Iact」とも称する)に変換する。
【0042】
車両用ステアリングコラム装置100は、位置調節機構4の制御主体として、コントロールユニット10(以下、「ECU10」とも称する)と、モータドライバ20とを備えている。本開示において、ECU10は、「制御部」に対応する。また、本開示において、モータドライバ20は、「駆動部」に対応する。ECU10は、車両用ステアリングコラム装置100の他に、例えばパワーステアリング装置を制御する態様であっても良い。
【0043】
ECU10は、後述する荷重推定部によって推定した荷重、及び、ステアリングホイール1の移動量に基づき、モータ5に供給する目標電流値Irefを生成する。ステアリングホイール1の移動量とは、例えば、テレスコピック機構におけるステアリングホイール1の前後方向(図中の実線矢示方向)の移動量である。また、ステアリングホイール1の移動量とは、例えば、チルト機構におけるステアリングホイール1の上下方向(図中の破線矢示方向)の移動量である。ステアリングホイール1の移動量は、モータ5の角度センサ5aにより検出されるモータ回転角θmから算出される。
【0044】
モータドライバ20は、ECU10から出力される目標電流値Irefに基づき、モータ5を駆動制御する。具体的に、モータドライバ20は、モータ5に流れる実電流値Iactが目標電流値Irefに近づくようなPWM信号を生成してモータ5に供給する。
【0045】
ECU10は、主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成される。図2は、コントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
【0046】
ECU10を構成する制御用コンピュータ1100は、CPU(Central Processing Unit)1001、ROM(Read Only Memory)1002、RAM(Random Access Memory)1003、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)1004等を備え、これらがバスに接続されている。
【0047】
CPU1001は、車両用ステアリングコラム装置100の制御用コンピュータプログラム(以下、制御プログラムという)を実行して、車両用ステアリングコラム装置100を制御する処理装置である。
【0048】
ROM1002は、車両用ステアリングコラム装置100を制御するための制御プログラムを格納する。また、RAM1003は、制御プログラムを動作させるためのワークメモリとして使用される。EEPROM1004には、制御プログラムが入出力する制御データ等が格納される。制御データは、ECU10に電源が投入された後にRAM1003に展開された制御用コンピュータプログラム上で使用され、所定のタイミングでEEPROM1004に上書きされる。
【0049】
ROM1002、RAM1003、及びEEPROM1004等は情報を格納する記憶装置であって、CPU1001が直接アクセスできる記憶装置(一次記憶装置)である。
【0050】
図3Aは、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の制御系の第1例を示す図である。
【0051】
ECU10は、内部ブロック構成として、目標速度生成部11、変換部13,14、制限部16、荷重推定部17、変換部21、制限部22、及びDuty比変換部26を備えている。変換部13は、例えば微分器である。なお、微分器として、純粋微分器を用いることに代えて、近似的な微分器、例えば、純微分と1次遅れの伝達関数を組み合わせた疑似微分器を用いることができる。変換部14は、例えばPID制御器である。変換部21は、例えばPI制御器である。Duty比変換部26は、制限部22から出力される入力される入力値に応じたPWM指令値を出力する。
【0052】
モータドライバ20は、内部ブロック構成として、PWM生成部23を備えている。
【0053】
目標速度生成部11には、荷重推定部17により推定される荷重の推定値Fh_est(以下、単に「荷重Fh_est」とも称する)が入力される。目標速度生成部11は、後述する速度変換マップを用いて、位置調節機構4がステアリングホイール1を移動させる際の移動速度の目標値である目標速度Vrefを生成する。変換部13は、ステアリングホイール1の移動量Xactを時間微分して実速度Vactを算出する。速度変換マップは、例えばROM1002に格納されている。なお、目標速度生成部11は、速度変換マップを用いず、例えばROM1002に格納された数式を用いて、の目標速度Vrefを算出する態様であっても良い。
【0054】
目標速度Vrefは、実速度Vactが減算されて変換部14に入力される。変換部14は、入力値をPID制御して電流値に変換し、制限部16に出力する。
【0055】
制限部16は、変換部14の出力値に対する上限値及び下限値が予め設定されている。制限部16は、変換部14の出力値に対する上下限値を制限して、目標電流値Irefを出力する。
【0056】
ECU10から出力された目標電流値Irefは、実電流値Iactが減算されてモータドライバ20の変換部21に入力される。変換部21は、入力値をPI制御して電圧値に変換し、制限部22に出力する。
【0057】
制限部22は、変換部21の出力値に対する上限値及び下限値が予め設定されている。制限部22は、変換部21の出力値に対する上下限値を制限して、電圧指令値を出力する。Duty比変換部26は、あらかじめ定められた変換マップや数式に基づき、電圧指令値をPWM指令値のDuty比に変換して、PWM生成部23に出力する。PWM生成部23は、Duty比変換部26から出力されるPWM指令値に基づき、モータ5に出力するPWM制御信号を生成する。
【0058】
モータ5は、モータドライバ20から出力されたPWM制御信号によって駆動される。図3Aに示すLは、モータ5の巻線のインダクタ成分を示し、Rは、モータ5の巻線の抵抗成分を示している。
【0059】
位置調節機構4は、モータ5の実電流値Iactに所定の係数Kを乗じたモータ駆動力Fmと、ステアリングホイール1に加えられた荷重Fhとが加えられる。係数Kは、モータ5のトルク定数及び比ストロークで決まる定数であり、例えばROM1002に格納されている。
【0060】
ここで、本開示における荷重Fh_estの推定概念について説明する。慣性系の質量をM、粘性係数をDとすると、ニュートンの運動方程式から下記(1)式に示す関係式が得られる。慣性系の質量M及び粘性係数Dは、位置調節機構4を含む慣性系固有の値である。
【0061】
図3A図3B図3Cにおいては、後述前述の通り、ステアリングホイール1に荷重Fhを付与した場合に生じる、実電流値Iactと移動力Xactの変化を利用して、荷重Fhを推定する。
【0062】
具体的には、ステアリングホイール1に荷重Fhを付与した場合に、モータ5に対して、モータ出力軸側からトルクが付与されることにより、逆起電力が生じ、結果として、実電流値Iactが変化する。また、このモータ5の回転に従い、位置調整機構4を介して、ステアリングホイール1の移動量Xactが変化する。
【0063】
位置調整機構4が、モータ5とボールねじ機構から構成される場合について、詳細に説明する。ボールねじ機構は、外周に雄ねじが形成されたシャフトと、内周に雌ねじが形成されたナットと、シャフトの雄ねじとナットの雌ねじとの間にボールを備えている。
【0064】
ボールねじ機構においては、ナットとシャフトとの間がボールにより転がり支持されており、両者の間に摩擦が生じづらいため、シャフトの回転運動とナットの並進運動の相互変換が行われやすい。すなわち、シャフトをモータ5に接続するとともに、ナットをステアリングホイールに接続した場合、モータ5の回転運動を容易にステアリングホイール1の並進運動に変換される一方で、ステアリングホイール1の並進運動が容易にモータ5の回転運動に変換される。したがって、ステアリングホイール1に荷重を加えた場合、モータ5が出力軸方向から回転させられることとなり、ステアリングホイール1の移動量移動量Xactが変化すると共に、モータ5に生じる逆起電力により実電流値Iactが変化することとなる。
【0065】
M(dx/dt)=-D(dx/dt)+Fm+Fh・・・(1)
【0066】
上記(1)式は、下記(2)式に変形できる。
【0067】
Fh=M(dx/dt)+D(dx/dt)-Fm・・・(2)
【0068】
上記(2)式をラプラス変換すると、下記(3)式が得られる。
【0069】
Fh(s)=(Ms+Ds)×X(s)-Fm(s)・・・(3)
【0070】
上記(3)式において、X(s)は、ステアリングホイール1の移動量Xactに相当する。
【0071】
ここでは、電流センサ5bにより検出される実電流値Iactを用いて、荷重Fh_estを算出する。図3Aに示す制御系において、モータ駆動力Fmは、実電流値Iactを用いて、下記(4)式で示される。
【0072】
Fm=Iact×K・・・(4)
【0073】
上記(3)式及び(4)式により、下記(5)式に示す関係式が導出される。
【0074】
Fh=(Ms+Ds)×Xact-Iact×K・・・(5)
【0075】
移動量Xactには、高域ノイズ成分が含まれている。上記(5)式に対し、この高域ノイズ成分を除去するLPF(ローパスフィルタ)項1/(Ts+1)を乗じることで、下記(6)式に示す荷重Fh_estを算出することができる。
【0076】
Fh_est={(Ms+Ds)×Xact-Iact×K}×{1/(Ts+1)}・・・(6)
【0077】
上述したように、本開示において、係数Kは、モータ5のトルク定数及び比ストロークで決まる定数であり、慣性系の質量M及び粘性係数Dは、位置調節機構4を含む慣性系固有の値である。これらの係数K、慣性系の質量M及び粘性係数Dを、例えばROM1002に格納しておくことで、ECU10は、モータ5の実電流値Iact及びステアリングホイール1の移動量Xactを用いて、ステアリングホイール1に加えられた荷重の推定値Fh_estを算出することが可能である。
【0078】
図3Aに示すECU10の荷重推定部17は、ステアリングホイール1の移動量Xactに対して慣性系の質量M及び粘性係数Dから導出されるMs+Dsを乗じた値から、モータ5の実電流値Iactに上述した係数Kを乗じた値を減算し、LPF項1/(Ts+1)を乗じることにより、荷重Fh_estを推定する。位置調節機構4を含む慣性系の質量M及び粘性係数Dは、例えばROM1002に格納されている。
【0079】
図3Bは、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の制御系の第2例を示す図である。
【0080】
上記(6)式は、下記(7)式に示すように変形することができる。
【0081】
Fh_est=[(Ms+Ds)/(Ts+1)]×Xact-K×[1/(Ts+1)]×Iact・・・(7)
【0082】
図3Bに示すECU10aの荷重推定部17aは、ステアリングホイール1の移動量Xactに対して慣性系の質量M及び粘性係数Dから導出されるMs+Ds及びLPF項1/(Ts+1)を乗じた値から、モータ5の実電流値Iactに上述した係数K及びLPF項1/(Ts+1)を乗じた値を減算することにより、荷重Fh_estを推定する。
【0083】
図3Cは、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の制御系の第3例を示す図である。
【0084】
図3Cに示すように、モータ5の実電流値Iactに代えて、モータ5に供給する目標電流値Irefを用いて荷重Fh_estを算出することも可能である。この場合、荷重推定部17(17a)に入力する目標電流値Irefは、後段のモータドライバ20における処理の遅れを補償(Z-1)した値であることが望ましい。具体的に、荷重推定部17(17a)に入力する目標電流値Irefは、モータドライバ20における処理の遅れを想定して、例えばRAM1003に一時記憶された値とすれば良い。
【0085】
図4は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第1例を示す図である。以下の説明では、荷重推定部17,17aにより推定した荷重Fh_estを「荷重Fh」としている。
【0086】
図4において、横軸はステアリングホイール1に加えられた荷重Fhを示し、縦軸は目標速度Vrefを示している。また、図4に示す速度変換マップの第1例では、引き方向の荷重Fh_Pullに対する第1値Fh_Pull_th1と、押し方向の荷重Fh_Push対する第1値Fh_Pull_th1とが等しい。また、図4に示す例では、引き方向の荷重Fh_Pullに対する第2値Fh_Pull_th2と、押し方向の荷重Fh_Push対する第2値Fh_Pull_th2とが等しい。ここでは、ステアリングホイール1を前後方向(図1の実線矢示方向)に移動させるテレスコピック機構について説明する。
【0087】
本開示において、押し方向の荷重Fh_Pushが第1値Fh_Push_th1未満の第1領域では、目標速度Vrefがゼロとなる。また、引き方向の荷重Fh_Pullが第1値Fh_Pull_th1未満の第1領域では、目標速度Vrefがゼロとなる。換言すれば、押し方向の荷重Fh_Pushが第1値Fh_Push_th1未満の第1領域、及び、引き方向の荷重Fh_Pullが第1値Fh_Pull_th1未満の第1領域を不感帯領域としている。この第1領域(不感帯領域)では、ステアリングホイール1は移動しない。
【0088】
また、本開示において、押し方向の荷重Fh_Pushが第1値Fh_Push_th1よりも大きい第2値Fh_Push_th2以上の第3領域では、目標速度Vref_Pushが目標速度制限値Vref_Push_limで一定となる。また、引き方向の荷重Fh_Pullが第1値Fh_Pull_th1よりも大きい第2値Fh_Pull_th2以上の第3領域では、目標速度Vref_Pullが目標速度制限値Vref_Pull_limで一定となる。換言すれば、押し方向の荷重Fh_Pushが第2値Fh_Push_th2以上の第3領域を、目標速度Vref_Pushが目標速度制限値Vref_Push_limで一定となる制限領域としている。また、引き方向の荷重Fh_Pullが第2値Fh_Pull_th2以上の第3領域を、目標速度Vref_Pullが目標速度制限値Vref_Pull_limで一定となる制限領域としている。この第3領域(制限領域)では、ステアリングホイール1は一定の速度で移動する。このように、押し方向の荷重Fh_Push、及び、引き方向の荷重Fh_Pullに対して制限領域を設けることで、押し方向の荷重Fh_Pushが第2値Fh_Push_th2以上となる第3領域(制限領域)において、目標速度Vref_Pushが目標速度制限値Vref_Push_limよりも大きくなることを防止することができる。また、引き方向の荷重Fh_Pullが第2値Fh_Pull_th2以上となる第3領域(制限領域)において、目標速度Vref_Pullが目標速度制限値Vref_Pull_limよりも大きくなることを防止することができる。
【0089】
図4に示す例では、押し方向の荷重Fh_Pushが第1値Fh_Push_th1以上、且つ第2値Fh_Push_th2未満の第2領域では、押し方向の荷重Fh_Pushの増加に応じて目標速度Vref_Pushが所定の傾きで大きくなる。換言すれば、押し方向の荷重Fh_Pushが第1値Fh_Push_th1以上、且つ第2値Fh_Push_th2未満の第2領域を、押し方向の荷重Fh_Pushの増加に応じて目標速度Vref_Pushが所定の傾きで大きくなる遷移領域としている。また、引き方向の荷重Fh_Pullが第1値Fh_Pull_th1以上、且つ第2値Fh_Pull_th2未満の第2領域では、引き方向の荷重Fh_Pullの増加に応じて目標速度Vref_Pullが所定の傾きで大きくなる。換言すれば、引き方向の荷重Fh_Pullが第1値Fh_Pull_th1以上、且つ第2値Fh_Pull_th2未満の第2領域を、引き方向の荷重Fh_Pullの増加に応じて目標速度Vref_Pullが所定の傾きで大きくなる遷移領域としている。すなわち、図4に示す例において、第2領域(遷移領域)では、押し方向の荷重Fh_Pushの増加に応じて、目標速度Vref_Pushが線形に増加し、引き方向の荷重Fh_Pullの増加に応じて、目標速度Vref_Pullが線形に増加する。
【0090】
本開示では、図4に示すように、押し方向の荷重Fh_Push、及び、引き方向の荷重Fh_Pullに対して不感帯領域を設けることで、例えば、ステアリング操作による誤動作や、走行中のロードノイズ等の微振動による誤動作を防ぐことができる。不感帯領域の閾値は、ロードノイズ等の微振動よりも大きく、かつ、運転者が過剰と感じる荷重よりも小さく設定することが望ましい。具体的には、後述する第1値Fh_Push_th1、第1値Fh_Pull_th1の絶対値を10N程度に設定することができる。
【0091】
また、運転者は、第1値Fh_Push_th1以上の押し方向の荷重Fh_Pushを加える、あるいは、第1値Fh_Pull_th1以上の引き方向の荷重Fh_Pullを加えることで、意図的にテレスコピック機構(位置調節機構4)を動作させることができる。これにより、停車中に位置調整を行うことを基本としつつ、運転中においても、ステアリングポジションに違和感を覚えた場合に、調整始動スイッチを操作する等の追加操作を必要とせず、直感的にステアリングホイール1の位置調節を行うことができる。
【0092】
図5は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第2例を示す図である。
【0093】
図5に示す例において、第2領域(遷移領域)では、押し方向の荷重Fh_Pushの増加に応じて目標速度Vref_Pushの傾きが大きくなる。また、引き方向の荷重Fh_Pullの増加に応じて、目標速度Vref_Pushの傾きが大きくなる。換言すれば、第2領域(遷移領域)では、押し方向の荷重Fh_Pushの増加に応じて、目標速度Vref_Pushが非線形に増加し、引き方向の荷重Fh_Pullの増加に応じて、目標速度Vref_Pullが非線形に増加する。具体的に、第2領域(遷移領域)では、図5に示すように、押し方向の荷重Fh_Pushが第1値Fh_Push_th1以上となると、押し方向の荷重Fh_Pushの増加に応じて徐々に目標速度Vref_Pushの増加率が上昇する。また、引き方向の荷重Fh_Pullが第1値Fh_Push_th1以上となると、引き方向の荷重Fh_Pullの増加に応じて徐々に目標速度Vref_Pullの増加率が上昇する。これにより、第1領域(不感帯領域)と第2領域(遷移領域)との境界(第1値Fh_Push_th1,Fh_Pull_th1)を意識することなく、最適なステアリングポジションが得られる。
【0094】
図6は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第3例を示す図である。
【0095】
図6に示す例において、遷移領域では、所定の条件により目標速度Vref_Push,Vref_Pullの傾きを変更する。
【0096】
例えば、車速センサ6から出力される車速Sに応じて、目標速度Vref_Push,Vref_Pullの傾きを変更する態様であっても良い。具体的には、例えば、車速Sの増加に伴って、目標速度Vref_Push,Vref_Pullの傾きを小さくする態様であっても良い。
【0097】
また、例えば、荷重Fhの時間変化率(時間微分値)に応じて、目標速度Vref_Push,Vref_Pullの傾きを変更する態様であっても良い。具体的には、例えば、荷重Fhの時間変化率(時間微分値)の増加に伴って、目標速度Vref_Push,Vref_Pullの傾きを大きくする態様であっても良い。
【0098】
図7A図7B図7Cは、第2領域における目標速度の傾き変更の第1例を示すタイミングチャートである。図7Aは、荷重Fhの時間遷移を示し、図7Bは、荷重Fhを時間微分した値dFh/dtの時間遷移を示し、図7Cは、目標速度Vrefの時間遷移を示している。図7Cに示す破線は、図4に示す速度変換マップの第1例を適用した場合の目標速度Vrefを示している。図7A図7B図7Cに示す例において、荷重Fhの時間微分値dFh/dtに対する閾値dFh/dt_thは、例えばROM1002に格納されている。なお、図7A図7B図7Cでは、第1値Fh_Push_th1,Fh_Pull_th1を第1値Fh_th1としている。
【0099】
図7A図7B図7Cに示す第1例では、荷重Fhの時間微分値dFh/dtが閾値dFh/dt_th以上となった場合に、目標速度Vrefの傾きを変更し、荷重Fhが第1値Fh_Push_th1,Fh_Pull_th1未満となるまで、変更した傾きを維持する。具体的に、図7A図7B図7Cでは、時刻t1において荷重Fhの時間微分値dFh/dtが閾値dFh/dt_th以上となった例を示している。この場合、荷重Fhの時間微分値dFh/dtが閾値dFh/dt_th以上となった時刻t1において、目標速度Vrefの傾きを変更し、荷重Fhが第1値Fh_Push_th1,Fh_Pull_th1未満となる時刻t2までの期間Tにおいて、変更した傾きを維持する。これにより、荷重Fhの時間微分値dFh/dtが閾値dFh/dt_th以上となった時刻t1から、荷重Fhが第1値Fh_Push_th1,Fh_Pull_th1未満となる時刻t2までの期間Tにおいて、目標速度Vrefは、実線で示すように、破線で示す速度変換マップの第1例(図4)を適用した場合の目標速度Vrefよりも大きくなる。
【0100】
また、例えば、荷重Fhが所定期間内に2回以上連続して所定の閾値を超えた場合に、目標速度Vref_Push,Vref_Pullの傾きを変更する態様であっても良い。具体的には、例えば、荷重Fhが所定期間内に2回以上連続して所定の閾値を超えた場合に、目標速度Vref_Push,Vref_Pullの傾きを大きくする態様であっても良い。
【0101】
図8A図8Bは、第2領域における目標速度の傾き変更の第2例を示すタイミングチャートである。図8Aは、荷重Fhの時間遷移を示し、図8Bは、目標速度Vrefの時間遷移を示している。図8Bに示す破線は、図4に示す速度変換マップの第1例を適用した場合の目標速度Vrefを示している。図8A図8Bに示す例において、荷重Fhに対する閾値Fh_th、及び、荷重Fhが連続して閾値Fh_thを超えたと判断する期間Tthは、例えばROM1002に格納されている。荷重Fhに対する閾値Fh_thは、上述した第1値Fh_Push_th1,Fh_Pull_th1と等値であっても良い。なお、図8A図8Bでは、第1値Fh_Push_th1,Fh_Pull_th1を第1値Fh_th1としている。
【0102】
図8A図8Bに示す第2例では、荷重Fhが閾値Fh_th以上となってから、次に荷重Fhが閾値Fh_th以上となるまでの期間が期間Tth以下である場合に、目標速度Vrefの傾きを変更し、荷重Fhが閾値Fh_th未満となるまで、変更した傾きを維持する。具体的に、図8A図8Bに示す例では、荷重Fhが閾値Fh_th以上となった時刻t1から、次に荷重Fhが閾値Fh_th以上となった時刻t2までの期間T1は、期間Tthよりも大きい(T1>Tth)。この場合には、目標速度Vrefの傾きを変更しない。また、図8A図8Bに示す例では、荷重Fhが閾値Fh_th以上となった時刻t2から、次に荷重Fhが閾値Fh_th以上となった時刻t3までの期間T3は、期間Tth以下である。(T2≦Tth)。この場合、時刻t3において目標速度Vrefの傾きを変更し、荷重Fhが閾値Fh_th未満となる時刻t4までの期間t3において、変更した傾きを維持する。これにより、荷重Fhが閾値Fh_th以上となった時刻t3から、荷重Fhが第1値Fh_th1未満となる時刻t4までの期間T3において、目標速度Vrefは、実線で示すように、破線で示す速度変換マップの第1例(図4)を適用した場合の目標速度Vrefよりも大きくなる。
【0103】
図9は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第3例を示す図である。
【0104】
図9に示す例において、第2領域(遷移領域)では、所定の条件により目標速度制限値Vref_Push_lim,Vref_Pull_limを変更する。
【0105】
例えば、車速センサ6から出力される車速Sに応じて、目標速度制限値Vref_Push_lim,Vref_Pull_limを変更する態様であっても良い。具体的には、例えば、車速Sの増加に伴って、目標速度制限値Vref_Push_lim,Vref_Pull_limを小さくする態様であっても良い。
【0106】
また、例えば、荷重Fhの時間変化率(時間微分値)に応じて、目標速度制限値Vref_Push_lim,Vref_Pull_limを変更する態様であっても良い。具体的には、例えば、荷重Fhの時間変化率(時間微分値)の増加に伴って、目標速度制限値Vref_Push_lim,Vref_Pull_limを大きくする態様であっても良い。
【0107】
また、例えば、荷重Fhが所定期間内に2回以上連続して所定の閾値を超えた場合に、目標速度制限値Vref_Push_lim,Vref_Pull_limを変更する態様であっても良い。具体的には、例えば、荷重Fhが所定期間内に2回以上連続して所定の閾値を超えた場合に、目標速度制限値Vref_Push_lim,Vref_Pull_limを大きくする態様であっても良い。
【0108】
図10は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第4例を示す図である。図10において、第3象限に示す破線は、速度変換マップの第1例(図4)の第3象限と同様である。すなわち、第3象限に示す破線上の引き方向の荷重Fh_Pullに対する第1値Fh_Pull_th1と、第1象限に示す実線上の押し方向の荷重Fh_Pushに対する第1値Fh_Push_th1とが等しい。また、第3象限に示す破線上の引き方向の荷重Fh_Pullに対する第2値Fh_Pull_th2と、第1象限に示す実線上の押し方向の荷重Fh_Pushに対する第2値Fh_Push_th2とが等しい。
【0109】
ステアリングホイール1を前後方向(図1の実線矢示方向)に移動させるテレスコピック機構では、押し方向の荷重Fh_Pushよりも引き方向の荷重Fh_Pullの方が小さな荷重となり易い。このため、例えば、図10に示すように、引き方向の荷重Fh_Pullに対する第1値Fh_Pull_th1を、押し方向の荷重Fh_Pushに対する第1値Fh_Push_th1よりも小さくすることが望ましい。具体的に、図10に示す例では、第3象限に示す実線上の引き方向の荷重Fh_Pullに対する第1値Fh_Pull_th1を、破線上の速度変換マップの第1例(図4)における引き方向の荷重Fh_Pullに対する第1値Fh_Pull_th1よりも小さくしている。また、同様に、引き方向の荷重Fh_Pullに対する第2値Fh_Pull_th2を、押し方向の荷重Fh_Pushに対する第2値Fh_Push_th2よりも小さくすることが望ましい。具体的に、図10に示す例では、第3象限に示す実線上の引き方向の荷重Fh_Pullに対する第2値Fh_Pull_th2を、破線上の速度変換マップの第1例(図4)における引き方向の荷重Fh_Pullに対する第2値Fh_Pull_th2よりも小さくしている。これにより、小さな荷重となり易い引き方向の第1領域(不感帯領域)を小さくすることができる。
【0110】
上記した図4,5,6,9,10に示す速度変換マップの第1例、第2例、第3例、第4例では、ステアリングホイール1を前後方向(図1の実線矢示方向)に移動させるテレスコピック機構について説明したが、ステアリングホイール1を上下方向(図1の破線矢示方向)に移動させるチルト機構に適用することも可能である。ここでは、ステアリングホイール1を前後方向(図1の実線矢示方向)に移動させるテレスコピック機構について説明した図10に示す第4例に対比させて、ステアリングホイール1を上下方向(図1の破線矢示方向)に移動させるチルト機構について説明する。
【0111】
図11は、実施形態1に係る車両用ステアリングコラム装置の速度変換マップの第5例を示す図である。図11において、第3象限に示す破線は、速度変換マップの第4例(図10)の第3象限に示す破線に対応する。すなわち、第3象限に仮想的に示す破線上の上げ方向の荷重Fh_Upに対する第1値Fh_Up_th1と、第1象限に示す実線上の下げ方向の荷重Fh_Downに対する第1値Fh_Down_th1とが等しい。また、第3象限に仮想的に示す破線上の上げ方向の荷重Fh_Upに対する第2値Fh_Up_th2と、第1象限に示す実線上の下げ方向の荷重Fh_Downに対する第2値Fh_Down_th2とが等しい。
【0112】
ステアリングホイール1を上下方向(図1の破線矢示方向)に移動させるチルト機構では、下げ方向の荷重Fh_Downよりも上げ方向の荷重Fh_Upの方が小さな荷重となり易い。このため、例えば、図11に示すように、上げ方向の荷重Fh_Upに対する第1値Fh_Up_th1を、下げ方向の荷重Fh_Downに対する第1値Fh_Down_th1よりも小さくすることが望ましい。具体的に、図11に示す例では、第3象限に示す実線上の上げ方向の荷重Fh_Upに対する第1値Fh_Up_th1を、第1象限に示す実線上の下げ方向の荷重Fh_Downに対する第1値Fh_Down_th1と等しい破線上の上げ方向の荷重Fh_Upに対する仮想的な第1値Fh_Up_th1よりも小さくしている。また、同様に、上げ方向の荷重Fh_Upに対する第2値Fh_Up_th2を、下げ方向の荷重Fh_Downに対する第2値Fh_Down_th2よりも小さくすることが望ましい。具体的に、図11に示す例では、第3象限に示す実線上の上げ方向の荷重Fh_Upに対する第2値Fh_Up_th2を、第1象限に示す実線上の下げ方向の荷重Fh_Downに対する第2値Fh_Down_th2と等しい破線上の上げ方向の荷重Fh_Upに対する仮想的な第2値Fh_Up_th2よりも小さくしている。これにより、小さな荷重となり易い上げ方向の第1領域(不感帯領域)を小さくすることができる。
【0113】
以上説明したように、実施形態1の車両用ステアリングコラム装置100は、モータ5の電流値及びステアリングホイール1の移動量を用いて、ステアリングホイール1に加えられた荷重の推定値Fh_estを算出することができる。これにより、ステアリングホイール1に加えられた荷重を検出する圧力センサを設けることなく、算出した荷重の推定値Fh_estを用いて、ステアリングホイール1の位置調整を行うことができる。
【0114】
(実施形態2)
図12は、実施形態2に係る車両用ステアリングコラム装置の制御系の一例を示す図である。なお、上述した実施形態1と同一の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0115】
ECU10cは、内部ブロック構成として、摩擦補償部15をさらに備える。これにより、車両用ステアリングコラム装置100の駆動部品が有する摩擦によってステアリングホイール1の滑らかな移動が妨げられることを防止することができる。
【0116】
図13は、摩擦補償部の一例を示す図である。図13に示すように、ECU10cの摩擦補償部15は、目標速度生成部11から出力される目標速度Vrefの高域成分を除去し、図中に示す電流変換マップを用いて、圧縮電流指令値Iref_compを生成し、所定のゲインGを乗じて、変換部14の出力と加算する。電流変換マップは、例えばROM1002に格納されている。なお、摩擦補償部15は、電流変換マップを用いず、例えばROM1002に格納された数式を用いて、圧縮電流指令値Iref_compを算出する態様であっても良い。圧縮電流指令値Iref_compを算出する数式は、例えば、下記(8)式や(9)式に示すように、目標速度Vrefを無限大に変化させたときに収束する態様であれば良い。これにより、モータ5及び位置調節機構4を含む慣性系の摩擦を補償することができる。
【0117】
Iref_comp=arctan(Vref)・・・(8)
【0118】
Iref_comp=tanh(Vref)・・・(9)
【0119】
なお、上述で使用した図は、本開示に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本開示の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0120】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 ステアリングコラム
4 位置調節機構
5 モータ
6 車速センサ
10,10a,10c コントロールユニット(ECU)
11 目標速度生成部
13 変換部
14 変換部
15 摩擦補償部
16 制限部
17,17a 荷重推定部
20 モータドライバ
21 変換部
22 制限部
23 PWM生成部
100 車両用ステアリングコラム装置
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13