(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188971
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20221215BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20221215BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097284
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 瑞絵
(72)【発明者】
【氏名】石田 暁
(72)【発明者】
【氏名】小野 達也
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 保夫
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA06
5H126BB06
5H126DD05
5H126EE11
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】電解質層と、それに隣接する層(例えば空気極や中間層)との界面において特定箇所に応力が集中することを抑制すること。
【解決手段】電気化学反応単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える。電気化学反応単セルにおいて、第1の方向に沿った少なくとも1つの断面である特定断面で見たときに、電解質層のうち、空気極側の界面において、互いに隣り合う2つの粒界点の間に位置する粒子の表面は、隣り合う2つの粒界点を結ぶ仮想直線に対して当該仮想直線と直交する方向に±0.2μm以下の範囲内に位置する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記第1の方向に沿った少なくとも1つの断面である特定断面で見たときに、前記電解質層のうち、前記空気極側の界面において、互いに隣り合う2つの粒界点の間に位置する粒子の表面は、前記隣り合う2つの粒界点を結ぶ仮想直線に対して当該仮想直線と直交する方向に±0.2μm以下の範囲内に位置する、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記特定断面で見たときに、前記電解質層のうち、前記燃料極側の界面の少なくとも一部において、互いに隣り合う2つの粒界点の間に位置する粒子の表面は、前記隣り合う2つの粒界点を結ぶ仮想直線に対して当該仮想直線と直交する方向に±0.2μm以下の範囲外に位置する、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項3】
複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単セルの少なくとも1つは、請求項1または請求項2に記載の電気化学反応単セルである、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物を含む電解質層を備える固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という)が知られている。SOFCの最小構成単位である燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という)は、電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向(以下、「第1の方向」という)に互いに対向する空気極および燃料極とを含む。
【0003】
電解質層は、複数の電解質粒子と、それらの複数の電解質粒子の間に存在する粒界とを有している。従来、電解質層のうち、第1の方向に沿った断面における粒界の数に基づき、電解質層の高い曲げ強度と高いイオン伝導性とを両立させようとした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単セルでは、電解質層と、それに空気極側において隣接する層(例えば空気極や中間層)との熱膨張差に起因して電解質層に応力が生じ、その結果、例えば電解質層と隣接する層との剥離や電解質層の損傷(例えばクラックの発生および進展)などが生じることがある。従来、電解質層への応力集中の抑制と、電解質層における粒界との関係について検討されていなかった。
【0006】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解単セルにも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼ぶ。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、前記第1の方向に沿った少なくとも1つの断面である特定断面で見たときに、前記電解質層のうち、前記空気極側の界面において、互いに隣り合う2つの粒界点の間に位置する粒子の表面は、前記隣り合う2つの粒界点を結ぶ仮想直線に対して当該仮想直線と直交する方向に±0.2μm以下の範囲内に位置する。本電気化学反応単セルによれば、2つの粒界点同士の間に位置する粒子の表面の凹凸が所定の範囲を超える構成に比べて、電解質層と、それに隣接する層(例えば空気極や中間層)との界面において特定箇所に応力が集中することを抑制することができる。
【0009】
(2)上記電気化学反応単セルにおいて、前記特定断面で見たときに、前記電解質層のうち、前記燃料極側の界面の少なくとも一部において、互いに隣り合う2つの粒界点の間に位置する粒子の表面は、前記隣り合う2つの粒界点を結ぶ仮想直線に対して当該仮想直線と直交する方向に±0.2μm以下の範囲外に位置する構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、電解質層の空気極側の界面では応力集中を抑制しつつ、燃料極側の界面では電解質層と燃料極との接触面積の増大により、燃料極から電解質層への燃料ガスの拡散性の向上を図ることができる。特に、電解質層と燃料極とが共通の成分(例えば、共通の酸素イオン伝導性酸化物)を含む場合には、電解質層と燃料極との間の熱膨張差を小さくすることができるため、電解質層の燃料極側の界面における粒子の凹凸を大きくしたとしても、電解質層と燃料極との界面の特定箇所に応力が集中することを抑制することができる。
【0010】
(3)複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタックにおいて、前記複数の電気化学反応単セルの少なくとも1つは、(1)または(2)の電気化学反応単セルである構成としてもよい。本電気化学反応セルスタックによれば、電解質層と、それに隣接する層との界面において特定箇所に応力が集中することを抑制することができる。
【0011】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)、電気化学反応単セルを有する電気化学反応単位を複数備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
【
図4】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図5】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
【
図6】
図4における単セル110のX1部分の断面構成を示す説明図
【
図7】
図6における単セル110のX2部分の断面構成を示す説明図
【
図8】
図6における単セル110のX3部分の断面構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。なお、上下方向は、特許請求の範囲における第1の方向の一例である。
【0014】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。
【0015】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0016】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0017】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0018】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0019】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0020】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向視で略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0021】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0022】
図4および
図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0023】
インターコネクタ150は、Z軸方向視で略矩形の平板形状の導電性部材であり、Crを含む材料、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0024】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112に対して上側に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112に対して下側に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116によって単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0025】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な(気孔率が低い)層である。電解質層112は、固体酸化物(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、CSZ(カルシア安定化ジルコニア))を含んでいる。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0026】
空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、気孔率が電解質層112の気孔率よりも高い多孔質な層である。空気極114は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物(例えば、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンニッケル鉄酸化物(LNF)等)を含有している。
【0027】
燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、気孔率が電解質層112の気孔率よりも高い多孔質な層である。なお図示しないが、本実施形態では、燃料極116は、燃料極116における下方側の表面を構成する基板層と、基板層と電解質層112との間に位置する機能層とを備える。燃料極116の機能層は、主として、電解質層112から供給される酸素イオンと燃料ガスFGに含まれる水素等とを反応させて、電子と水蒸気とを生成する機能を発揮する層であり、電子伝導性物質であるNiと、酸素イオン伝導性酸化物(例えば、YSZ)とを含んでいる。また、燃料極116の基板層は、主として、機能層と電解質層112と空気極114とを支持する機能を発揮する層であり、電子伝導性物質であるNiと、酸素イオン伝導性酸化物(例えば、YSZ)とを含んでいる。
【0028】
中間層(反応防止層)180は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材である。中間層180は、例えば、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、LDC(ランタンドープセリア)、YDC(イットリウムドープセリア)等のイオン伝導性を有する固体酸化物により形成されている。
【0029】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0030】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0031】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0032】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0033】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、Crを含む材料、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。空気極114と空気極側集電体134との間に、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されてもよい。
【0034】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0035】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0036】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、
図3および
図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0037】
A-3.電解質層112の界面の詳細構成:
次に、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する単セル110における電解質層112の界面の詳細構成について説明する。
図6は、
図4における単セル110のX1部分の断面構成を示す説明図である。
図6には、単セル110のうち、互いに上下方向に隣接して配置された中間層180と電解質層112と燃料極116とを含む部分について、上下方向に沿ったXZ断面構成が示されている。
図6は、例えば、X1部分について、上下方向に沿った断面が写ったFIB-SEM(加速電圧 1.0kV)におけるSEM画像(例えば5000倍)を模式的に示したものである。
【0038】
図6には、電解質層112のうち、中間層180(空気極114)側の第1の界面M1(電解質層112と中間層180との界面)付近の構成と、電解質層112のうち、燃料極116側の第2の界面M2(電解質層112と燃料極116との界面)付近の構成とが示されている。なお、
図6に示された単セル110のXZ断面は、特許請求の範囲における特定断面の一例である。以下、電解質層112のうち、第1の界面M1付近の構成と、第2の界面M2付近の構成とに分けて説明する。
【0039】
(第1の界面M1付近の構成)
図7は、
図6における単セル110のX2部分の断面構成を示す説明図である。
図7には、電解質層112のうち、第1の界面M1付近の構成が示されている。なお、
図7では、後述する仮想直線L等を見やすくするため、各層の断面ハッチングが省略されている。
【0040】
図7に示すように、単セル110のXZ断面で見たときに、電解質層112を構成する粒子Rのうち、第1の界面M1を構成する粒子R(以下、「第1の粒子R1」という)は、次の第1の表面条件を満たしている。
第1の表面条件:互いに隣り合う2つの粒界点Pの間に位置する第1の粒子R1の表面は、該隣り合う2つの粒界点Pを結ぶ仮想直線Lに対して上下方向に±所定距離以下の範囲内に位置する。
【0041】
具体的には、全ての第1の粒子R1の表面の輪郭線(第1の界面M1を構成する輪郭線)は、仮想直線Lに対して上下方向に±所定距離以下の範囲内に位置する。ここで、粒界点Pは、互いに隣り合う第1の粒子R1同士の間に存在する粒界と第1の界面M1との交点である。仮想直線Lは、互いに隣り合う2つの粒界点P同士を結ぶ線である。上限仮想直線LUは、仮想直線Lに平行であり、かつ、仮想直線Lに対して上方向(Z軸正側方向)に所定距離だけ離間した直線である。下限仮想直線LDは、仮想直線Lに平行であり、かつ、仮想直線Lに対して下方向(Z軸負側方向)に所定距離だけ離間した直線である。所定距離は、0.2μm以下でもよいし、0.15μm以下でもよいし、0.1μm以下でもよい。
【0042】
図7の例では、第1の界面M1を構成する全ての第1の粒子R1について、上記第1の表面条件が満たされている。例えば、2つの粒界点P1,P2の間に位置する第1の粒子R1の表面の輪郭線は、仮想直線L1に対して±所定距離以下の範囲内に位置している。2つの粒界点P2,P3の間に位置する第1の粒子R1の表面の輪郭線は、仮想直線L2に対して±所定距離以下の範囲内に位置している。2つの粒界点P3,P4の間に位置する第1の粒子R1の表面の輪郭線は、仮想直線L3に対して±所定距離以下の範囲内に位置している。2つの粒界点P4,P5の間に位置する第1の粒子R1の表面の輪郭線は、仮想直線L4に対して±所定距離以下の範囲内に位置している。
【0043】
(第2の界面M2付近の構成)
図8は、
図6における単セル110のX3部分の断面構成を示す説明図である。
図8には、電解質層112のうち、第2の界面M2付近の構成が示されている。なお、
図8では、後述する仮想直線N等を見やすくするため、各層の断面ハッチングが省略されている。
【0044】
図8に示すように、単セル110のXZ断面で見たときに、電解質層112を構成する粒子Rのうち、第2の界面M2を構成する粒子R(以下、「第2の粒子R2」という)は、次の第2の表面条件を満たしている。
第2の表面条件:互いに隣り合う2つの粒界点Qの間に位置する第2の粒子R2の表面は、該隣り合う2つの粒界点Qを結ぶ仮想直線Nに対して上下方向に±所定距離以下の範囲外に位置する。なお、所定距離は、上記第1の表面条件における所定距離と同じである。
【0045】
具体的には、少なくとも一部の第2の粒子R2の表面の輪郭線(第2の界面M2を構成する輪郭線)は、仮想直線Nに対して上下方向に±所定距離以下の範囲外に位置する。ここで、粒界点Qは、互いに隣り合う第2の粒子R2同士の間に存在する粒界と第2の界面M2との交点である。仮想直線Nは、互いに隣り合う2つの粒界点Q同士を結ぶ線である。上限仮想直線NUは、仮想直線Nに平行であり、かつ、仮想直線Nに対して上方向(Z軸正側方向)に所定距離だけ離間した直線である。下限仮想直線NDは、仮想直線Nに平行であり、かつ、仮想直線Nに対して下方向(Z軸負側方向)に所定距離だけ離間した直線である。
【0046】
図8の例では、第2の界面M2を構成する一部の第2の粒子R2について、上記第2の表面条件が満たされている。例えば、2つの粒界点Q1,Q2の間に位置する第2の粒子R2の表面の輪郭線は、仮想直線N1に対して±所定距離以下の範囲外に位置している。2つの粒界点Q2,Q3の間に位置する第2の粒子R2の表面の輪郭線は、仮想直線N2に対して±所定距離以下の範囲外に位置している。2つの粒界点Q3,Q4の間に位置する第2の粒子R2の表面の輪郭線は、仮想直線N3に対して±所定距離以下の範囲内に位置している。2つの粒界点Q4,Q5の間に位置する第2の粒子R2の表面の輪郭線は、仮想直線L4に対して±所定距離以下の範囲外に位置している。
【0047】
電解質層112の厚みは、3μm以上、20μm以下であることが好ましい。電解質層112の厚みを3μm以上とすることによって電解質層112の十分な強度を確保でき、電解質層112の厚みを20μm以下とすることによって単セル110の優れた初期性能が得られる。
【0048】
A-4.燃料電池スタック100の製造方法:
本実施形態の燃料電池スタック100の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0049】
(電解質層112と燃料極116との積層体の形成)
YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるフタル酸ジオクチル(DOP)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約6μm)の電解質層用グリーンシートを得る。また、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、造孔材である有機ビーズと、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約400μm)の燃料極基板層用グリーンシートを得る。また、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約11μm)の燃料極機能層用グリーンシートを得る。各グリーンシートを貼り付けて圧着することにより、燃料極基板層用グリーンシートと燃料極機能層用グリーンシートと電解質層用グリーンシートとがこの順で積層された成形体を得る。
【0050】
ここで、後述するように、燃料極基板層用グリーンシートと燃料極機能層用グリーンシートと電解質層用グリーンシートとを圧着する際の圧力(以下、「圧着圧力」という)と、温度(以下、「圧着温度」という)と、圧力を付与した時間(以下「圧着時間」という)との少なくとも1つを調整することにより、上記第1の表面条件および第2の表面条件を満たす単セル110を作製することが可能になる。また、燃料極基板層用グリーンシートと燃料極機能層用グリーンシートと電解質層用グリーンシートとを圧着する際、金属体(図示しない)の平面を、電解質層用グリーンシート側から押し付ける。これにより、上述したように、電解質層112のうち、第1の界面M1側の表面が平坦状となり、第1の表面条件を満たし、第2の界面M2側の表面が第2の表面条件を満たすようになる。
【0051】
次に、上記成形体を、所定の温度(例えば約280℃)で脱脂した後、所定の温度(例えば約1350℃)で所定の時間(例えば約1時間)焼成を行う。これにより、電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0052】
(中間層180の形成)
GDC粉末に、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを加えて混合し、粘度を調整して中間層用ペーストを調製する。得られた中間層用ペーストを、上述した積層体における電解質層112の表面に、例えばスクリーン印刷によって塗布し、所定の温度(例えば1200℃)で焼成を行う。これにより、中間層180が形成され、中間層180と電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0053】
(空気極114の形成)
ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF)の粉末と硫酸塩(例えばSrSO4)の粉末との混合粉末を準備し、該混合粉末に対し、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを加えて混合し、粘度を調整することにより、空気極用ペーストを調製する。得られた空気極用ペーストを、上述した中間層180と電解質層112と燃料極116との積層体における中間層180の表面に、例えばスクリーン印刷によって塗布して乾燥させ、空気極用ペーストが塗布された積層体を所定の温度(例えば約1100℃)で焼成する。これにより、空気極114が形成され、燃料極116と電解質層112と中間層180と空気極114とを備える単セル110が作製される。
【0054】
上述した方法に従い複数の単セル110を作製した後、組み立て工程(例えば、各単セル110にセパレータ120等の他の部材を取り付ける工程、複数の単セル110を積層する工程、ボルト22により締結する工程等)を行う。以上により、燃料電池スタック100の製造が完了する。
【0055】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで互いに対向する空気極114および燃料極116とを備える。さらに、空気極114と燃料極116との間には中間層180が形成されている。
【0056】
ここで、本発明者は、鋭意研究を重ねることにより、単セル110では、電解質層112のうち、空気極114側の第1の界面M1を構成する第1の粒子R1が、第1の表面条件を満たす場合、電解質層112と中間層180との界面において特定箇所に応力が集中することを抑制できる、ことを新たに見出した。この第1の表面条件は、互いに隣り合う2つの粒界点Pの間に位置する第1の粒子R1の表面が、該隣り合う2つの粒界点Pを結ぶ仮想直線Lに対して上下方向に±所定距離以下の範囲内に位置することである。すなわち、第1の界面M1を構成する第1の粒子R1が第1の表面条件を満たすことは、第1の界面M1を構成する第1の粒子R1の表面形状が比較的に緩やかな凹凸を構成することを意味する。その結果、第1の界面M1において特定箇所に応力が集中することが抑制されると考えられる。
【0057】
さらに、後述するように、本実施形態では、第1の界面M1を構成する第1の粒子R1が第1の表面条件を満たすことにより、単セル110の電気化学反応特性(例えば単セルの初期電圧)を向上させることができる。これは、本実施形態によれば、電解質層112と中間層180との接合性が高くなることで、電解質層112と中間層180との間のイオン伝導性が向上し、その結果、単セル110の電気化学反応特性が向上すると考えられる。
【0058】
本実施形態では、電解質層112のうち、燃料極116側の第2の界面M2を構成する第2の粒子R2は、第2の表面条件を満たしている。この第2の表面条件は、互いに隣り合う2つの粒界点Qの間に位置する第2の粒子R2の表面は、該隣り合う2つの粒界点Qを結ぶ仮想直線Nに対して上下方向に±所定距離以下の範囲外に位置することである。すなわち、第2の界面M2を構成する第2の粒子R2の少なくとも一部は、第1の表面条件を満たさない。これにより、空気極114側の第1の界面M1では応力集中を抑制しつつ、燃料極側の第2の界面M2では電解質層112と燃料極116との接触面積の増大により、燃料極116から電解質層112への燃料ガスFGの拡散性の向上を図ることができる。
【0059】
A-6.性能評価:
複数の単セル110のサンプルを用いて行った性能評価について、以下説明する。
図9は、性能評価結果を示す説明図である。
図9に示すように、各サンプルS1~S4は、単セル110の製造過程において、燃料極基板層用グリーンシートと燃料極機能層用グリーンシートと電解質層用グリーンシートとを圧着する際の圧着条件のうち、圧着圧力と圧着温度と圧着時間との少なくとも1つが互いに異なる。
【0060】
具体的には、サンプルS1では、圧着圧力が46MPaであり、圧着温度が65℃であり、圧着時間が15秒である。サンプルS2では、サンプルS1に対して、圧着圧力が20MPaである点で異なるが、圧着温度および圧着時間は同じである。サンプルS3では、サンプルS1に対して、圧着温度が30℃である点で異なるが、圧着圧力および圧着時間は同じである。サンプルS4では、サンプルS1に対して、圧着時間が30秒である点で異なるが、圧着圧力および圧着温度は同じである。なお、サンプルS1~S4の電解質層112の厚みは、10μmである。
【0061】
このように圧着条件が互いに異なるサンプルS1~S4のそれぞれの断面について、FIB-SEM(加速電圧 1.0kV)により例えば5000倍の倍率で断面観察することにより、電解質層112を構成する第1の粒子R1について第1の表面条件および第2の表面条件のそれぞれを満たすか否かを確認する。その断面観察の結果、
図6に示すように、サンプルS1,S4では、第1の表面条件が満たされ、サンプルS2,S3では、第1の表面条件が満たされなかった。また、サンプルS1~S3では、第2の表面条件が満たされ、サンプルS4では、第2の表面条件が満たされなかった。
【0062】
次に、サンプルS1~S4のそれぞれについて、熱サイクル試験を行った。熱サイクル試験では、ボタンセルとして作製したサンプルS1~S4に対して、1.5時間で昇温(室温~700℃)し、その後、700℃を3時間維持し、13時間で降温(700℃~室温)することを1サイクルとして、10サイクルだけ行った。熱サイクル試験の前後で、約700(℃)で空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFGを供給し、電流密度が0.55(A/cm2)のときのボタンセルの出力電圧を測定した。そして、各サンプルについて、熱サイクル試験の前後での出力電圧の低下量がサンプルS1以下である場合「○」とし、サンプルS1よりも大きい場合「×」とした。
【0063】
その結果、第1の表面条件を満たすサンプルS1,S4では、合格(〇)と評価された。一方、第1の表面条件を満たさないサンプルS2,S3では、不合格(×)と評価された。サンプルS2,S3において、熱サイクル試験の前後での出力電圧が大きく低下した要因は、電解質層112と中間層180との界面における特定箇所への応力集中により電解質層112等にクラックや割れが生じたことであると推定される。
【0064】
また、サンプルS1~S4のそれぞれについて、初期特性評価を行った。初期特性評価では、各サンプルを用いた燃料電池スタック100について、約700(℃)で空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFGを供給し、電流密度が0.55(A/cm2)のときの単セル110の出力電圧を測定し、その測定値を、初期電圧(定格発電運転前の出力電圧)とした。そして、各サンプルについて、初期電圧が判定電圧(例えば940(mV))より大きい場合「○」とし、判定電圧以下である場合「×」とした。
【0065】
その結果、第2の表面条件を満たすサンプルS1~S3では、初期電圧が判定電圧よりも大きくなり、合格(〇)と評価された。一方、第2の表面条件を満たさないサンプルS4では、初期電圧が判定電圧よりも小さくなり、不合格(×)と評価された。サンプルS4では、電解質層112と燃料極116との接触面積が他のサンプルよりも小さいため、電解質層112の燃料極116側の界面における反応場が減少して初期電圧評価が低くなったと推定される。なお、総合評価では、第1の表面条件および第2の表面条件の両方を満たすサンプルS1では「○」とされ、第1の表面条件および第2の表面条件のいずれか一方を満たさないサンプルS2~S4では「×」とされた。
【0066】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0067】
上記実施形態における単セル110または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、単セル110が中間層180を含んでいるが、単セル110が中間層180を含んでいなくてもよい。このように中間層180を備えない構成では、本発明を適用することにより、電解質層112と空気極114との界面において特定箇所に応力が集中することを抑制することができる。
【0068】
上記実施形態において、電解質層112のうち、燃料極116側の第2の界面M2を構成する第2の粒子R2の全てが、第2の表面条件を満たさなくてもよい。
【0069】
上記実施形態では、燃料極116が基板層と機能層との2層構成であるとしているが、燃料極116が単層構成であってもよいし、3層以上の構成であってもよい。また、燃料極116と電解質層112との間に中間層が形成されていてもよい。また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
【0070】
また、上記実施形態では、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間の空間を各マニホールドとして利用しているが、これに代えて、各ボルト22の軸部に軸方向の孔を形成し、その孔を各マニホールドとして利用してもよい。また、各マニホールドを各ボルト22が挿入される各連通孔108とは別に設けてもよい。
【0071】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0072】
また、上記実施形態において、必ずしも燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110について、第1の界面M1を構成する第1の粒子R1が第1の表面条件を満たす必要は無く、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの単セル110について、第1の粒子R1が第1の表面条件を満たす構成が実現されていれば、電解質層112と空気極114との界面において特定箇所に応力が集中することを抑制することができる。また、上記実施形態では、単セル110の上下方向に沿った任意の断面において、第1の粒子R1が第1の表面条件を満たす構成であったが、これに限らず、単セル110の上下方向に沿った少なくとも1つの断面において、第1の粒子R1が第1の表面条件を満たす構成であれば本発明の効果を得ることができる。
【0073】
また、上記実施形態では、平板形の単セル110を対象としているが、本明細書に開示される技術は、平板形以外の他の単セルにも同様に適用可能である。
【0074】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルや、複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルおよび電解セルスタックにおいても、上記実施形態と同様に第1の表面条件が満たされた構成を採用すれば、同様の効果を奏する。
【0075】
上記実施形態における燃料電池スタック100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0076】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104,106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121,131,141:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 140:燃料極側フレーム 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:中間層