(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188980
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】歯車製造装置及び歯車製造方法
(51)【国際特許分類】
B23F 23/12 20060101AFI20221215BHJP
B23F 5/06 20060101ALI20221215BHJP
B23F 5/04 20060101ALI20221215BHJP
B23F 5/22 20060101ALI20221215BHJP
B23F 5/26 20060101ALI20221215BHJP
B23Q 15/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B23F23/12
B23F5/06
B23F5/04
B23F5/22
B23F5/26
B23Q15/00 303Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097297
(22)【出願日】2021-06-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】591092615
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトギヤシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】特許業務法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 良樹
(72)【発明者】
【氏名】澤田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】丸山 健一
(72)【発明者】
【氏名】村上 亮太
【テーマコード(参考)】
3C025
【Fターム(参考)】
3C025AA03
3C025AA05
3C025HH07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】製造効率の低下と製造コストの増大とを抑制しつつ、歯にエンドリリーフを精度良く形成することができる歯車製造装置及び歯車製造方法を提供する。
【解決手段】歯車ワーク9と研削工具8とがかみ合った状態でのX軸直交断面において、中央部81の厚さ方向の中心点81aを通り且つZ軸方向に平行な仮想直線L1と工具8の外縁線との交点を通常加工点82とすると、制御装置は、少なくともエンド領域を加工するにあたり、通常加工点82を加工基準位置に設定して加工する場合と比較して、エンド領域を加工する際のX軸直交断面における工具8の中心と歯車ワーク9の中心との距離が大きくなるように、X軸直交断面における工具8の外縁線上の通常加工点82とは異なる位置を加工基準位置に設定して算出された工具8の相対位置に基づいて、工具8の相対位置を調整する特定加工制御を実行するように構成されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車ワークを保持する第1スピンドルと、
前記第1スピンドルを、前記第1スピンドルの軸線である第1軸線のまわりに回転可能に保持する第1保持台と、
外周面にねじ状又は円盤状の歯を備えた研削用又は切削用の工具を保持する第2スピンドルと、
前記第2スピンドルを、前記第2スピンドルの軸線である第2軸線のまわりに回転可能に保持する第2保持台と、
前記第2スピンドルを前記第2軸線まわりに回転させ、前記第1保持台及び前記第2保持台の少なくとも一方を移動させる駆動装置と、
前記駆動装置を制御し、前記歯車ワークに対する前記工具の相対位置を調整する制御装置と、
を備え、前記歯車ワークと前記工具とを当接させ且つ回転させて、全周にわたって前記歯車ワークを加工する歯車製造装置であって、
前記制御装置は、前記歯車ワークの歯の目標形状に関する目標形状データと前記工具の形状に関する工具形状データとを記憶する記憶部を備え、
前記第2軸線を含み且つ前記第1軸線に平行な仮想平面に直交する方向をX軸方向とし、
前記目標形状データ及び前記工具形状データにおいて、前記X軸方向に直交する所定の平面で前記歯車ワークの歯を含むように前記工具の歯を切断した断面をX軸直交断面とし、
前記X軸直交断面において、歯すじ方向に対して直交する方向を厚さ方向とし、
前記X軸直交断面において、前記第1軸線に平行な直線に直交する方向をZ軸方向とすると、
前記X軸直交断面における前記工具の歯の形状は、前記歯すじ方向の中央部から前記歯すじ方向の端部に向かうほど前記厚さ方向の長さが小さくなる形状であり、
前記X軸直交断面において、前記中央部の前記厚さ方向の中心点を通り且つ前記Z軸方向に平行な仮想直線と前記工具の外縁線との交点を通常加工点とし、
前記工具が前記歯車ワークを加工する演算上の位置を加工基準位置とし、
前記歯車ワークの歯のうち前記歯すじ方向の端部をエンド領域とすると、
前記制御装置は、少なくとも前記エンド領域を加工するにあたり、前記通常加工点を前記加工基準位置に設定して加工する場合と比較して、前記エンド領域を加工する際の前記X軸直交断面における前記工具の中心と前記歯車ワークの中心との距離が大きくなるように、前記X軸直交断面における前記工具の外縁線上の前記通常加工点とは異なる位置を前記加工基準位置に設定して算出された前記相対位置に基づいて、前記相対位置を調整する特定加工制御を実行するように構成されている、歯車製造装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記特定加工制御において、
前記X軸直交断面において、前記目標形状のうち加工対象部分の外縁線上で目標点を設定し、前記目標点における前記目標形状の接線である目標接線を算出する第1演算処理と、
前記X軸直交断面において、前記工具の外縁線のうち前記工具の接線が前記目標接線と一致する部分である特定位置を算出する第2演算処理と、
前記加工対象部分の加工後に前記目標点と前記特定位置とが一致するように、前記相対位置を設定する位置設定処理と、
を実行して設定した前記相対位置に基づいて前記相対位置を調整する、請求項1に記載の歯車製造装置。
【請求項3】
歯車ワークと工具とを当接させ且つ回転させることで、全周にわたって前記歯車ワークを加工する歯車製造装置を用いた歯車製造方法であって、
前記歯車ワークの回転軸線である第1軸線に平行で且つ前記工具の回転軸線である第2軸線を含む仮想平面に直交する方向をX軸方向とし、
前記歯車製造装置に記憶された前記歯車ワークの歯の目標形状に関する目標形状データ及び前記工具の形状に関する工具形状データにおいて、前記X軸方向に直交する所定の平面で前記歯車ワークの歯を含むように前記工具の歯を切断した断面をX軸直交断面とし、
前記X軸直交断面において、歯すじ方向に対して直交する方向を厚さ方向とすると、
前記X軸直交断面における前記工具の歯の形状は、前記歯すじ方向の中央部から前記歯すじ方向の端部に向かうほど前記厚さ方向の長さが小さくなる形状であり、
前記X軸直交断面において、前記第1軸線に平行な直線に直交する方向をZ軸方向とし、
前記X軸直交断面において、前記中央部の前記厚さ方向の中心点を通り且つ前記Z軸方向に平行な仮想直線と、前記工具の外縁線との交点を通常加工点とし、
前記工具が前記歯車ワークを加工する演算上の位置を加工基準位置とし、
前記歯車ワークの歯のうち前記歯すじ方向の端部をエンド領域とすると、
前記歯車製造装置が、少なくとも前記エンド領域を加工するにあたり、前記通常加工点を前記加工基準位置に設定して加工する場合と比較して、前記エンド領域を加工する際の前記X軸直交断面における前記工具の中心と前記歯車ワークの中心との距離が大きくなるように、前記X軸直交断面における前記工具の外縁線上の前記通常加工点とは異なる位置を前記加工基準位置に設定して算出された前記工具の前記歯車ワークに対する相対位置に基づいて、前記相対位置を調整する特定加工工程を含む、歯車製造方法。
【請求項4】
前記特定加工工程は、
前記X軸直交断面において、前記目標形状のうち加工対象部分の外縁線上で目標点を設定し、前記目標点における前記目標形状の接線である目標接線を算出する第1演算処理と、
前記X軸直交断面において、前記工具の外縁線のうち前記工具の接線が前記目標接線と一致する部分である特定位置を算出する第2演算処理と、
前記加工対象部分の加工後に前記目標点と前記特定位置とが一致するように、前記歯車ワークに対する前記工具の相対位置を設定する位置設定処理と、
により設定された前記相対位置に基づいて前記相対位置を調整する、請求項3に記載の歯車製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車製造装置及び歯車製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車を製造する方法としては、例えば特開2017-205871号公報に開示されている。歯車の研削加工は、歯車ワークと研削工具とをかみ合わせて回転させることで行われる。円滑な歯のかみ合いを目的として、歯面にクラウニングやエンドリリーフを形成することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯車ワークの歯の加工は、例えばねじ状砥石を用いて行われる。歯車製造装置は、歯車ワークの歯と工具の歯とを噛み合わせて回転させることで、歯車ワークを加工する。ここで、歯車ワークの歯にクラウニングやエンドリリーフを形成するにあたり、例えばねじ状砥石を用いると、狙いと異なる位置で砥石と歯面とが干渉し、歯面の狙いでない部分が研削される現象が発生する。ただし、例えばクラウニングの形成では、そもそも歯面の加工量が少量であるため、狙いでない部分が加工されてもその加工量はごく少量であり、無視できる量であった。
【0005】
昨今では、歯車が収容されるケースの軽量化(薄肉化)が進んでいる。これにより、ケースのたわみが歯車のかみ合い(面圧)に影響を及ぼす可能性が高くなる。例えば、ケースのたわみや歯車自身のたわみにより、歯の歯すじ方向の端部において当接面の面圧が高くなり、歯が損傷するおそれがある。これに対して、歯の歯すじ方向の端部を大きく研削し、従来よりも大きなエンドリリーフ(大きな逃げ形状)を形成することが考えられる。これにより、ケースのたわみによる面圧上昇は抑制される。
【0006】
しかし、大きなエンドリリーフ(以下「大エンドリリーフ」という)を形成しようとすると、加工量が大きくなり、上記のような狙いでない部分の加工量も増えてしまう。つまり、歯面形状が目標形状から大きくずれた形状となりやすい。この対策として、細部を加工できる小径工具を用いることが考えられるが、小径工具では工具の寿命が短く、コスト抑制の面で課題がある。また、大径工具に替えて小径工具を用いると、工具の周速を維持するためには装置の回転数を上げる必要があり、高機能の装置が必要となる。このように、小径工具を用いて大エンドリリーフを形成する方策では、工具を頻繁に替える必要があり、また高機能の装置が必要となり、製造効率及び製造コストの面で課題がある。
【0007】
本発明の目的は、製造効率の低下と製造コストの増大とを抑制しつつ、歯にエンドリリーフを精度良く形成することができる歯車製造装置及び歯車製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の歯車製造装置は、歯車ワークを保持する第1スピンドルと、前記第1スピンドルを、前記第1スピンドルの軸線である第1軸線のまわりに回転可能に保持する第1保持台と、外周面にねじ状又は円盤状の歯を備えた研削用又は切削用の工具を保持する第2スピンドルと、前記第2スピンドルを、前記第2スピンドルの軸線である第2軸線のまわりに回転可能に保持する第2保持台と、前記第2スピンドルを前記第2軸線まわりに回転させ、前記第1保持台及び前記第2保持台の少なくとも一方を移動させる駆動装置と、前記駆動装置を制御し、前記歯車ワークに対する前記工具の相対位置を調整する制御装置と、を備え、前記歯車ワークと前記工具とを当接させ且つ回転させて、全周にわたって前記歯車ワークを加工する歯車製造装置であって、前記制御装置は、前記歯車ワークの歯の目標形状に関する目標形状データと前記工具の形状に関する工具形状データとを記憶する記憶部を備え、前記第2軸線を含み且つ前記第1軸線に平行な仮想平面に直交する方向をX軸方向とし、前記目標形状データ及び前記工具形状データにおいて、前記X軸方向に直交する所定の平面で前記歯車ワークの歯を含むように前記工具の歯を切断した断面をX軸直交断面とし、前記X軸直交断面において、歯すじ方向に対して直交する方向を厚さ方向とし、前記X軸直交断面において、前記第1軸線に平行な直線に直交する方向をZ軸方向とすると、前記X軸直交断面における前記工具の歯の形状は、前記歯すじ方向の中央部から前記歯すじ方向の端部に向かうほど前記厚さ方向の長さが小さくなる形状であり、前記X軸直交断面において、前記中央部の前記厚さ方向の中心点を通り且つ前記Z軸方向に平行な仮想直線と前記工具の外縁線との交点を通常加工点とし、前記工具が前記歯車ワークを加工する演算上の位置を加工基準位置とし、前記歯車ワークの歯のうち前記歯すじ方向の端部をエンド領域とすると、前記制御装置は、少なくとも前記エンド領域を加工するにあたり、前記通常加工点を前記加工基準位置に設定して加工する場合と比較して、前記エンド領域を加工する際の前記X軸直交断面における前記工具の中心と前記歯車ワークの中心との距離が大きくなるように、前記X軸直交断面における前記工具の外縁線上の前記通常加工点とは異なる位置を前記加工基準位置に設定して算出された前記相対位置に基づいて、前記相対位置を調整する特定加工制御を実行するように構成されている。
【0009】
本発明の歯車製造方法は、歯車ワークと工具とを当接させ且つ回転させることで、全周にわたって前記歯車ワークを加工する歯車製造装置を用いた歯車製造方法であって、前記歯車ワークの回転軸線である第1軸線に平行で且つ前記工具の回転軸線である第2軸線を含む仮想平面に直交する方向をX軸方向とし、前記歯車製造装置に記憶された前記歯車ワークの歯の目標形状に関する目標形状データ及び前記工具の形状に関する工具形状データにおいて、前記X軸方向に直交する所定の平面で前記歯車ワークの歯を含むように前記工具の歯を切断した断面をX軸直交断面とし、前記X軸直交断面において、歯すじ方向に対して直交する方向を厚さ方向とすると、前記X軸直交断面における前記工具の歯の形状は、前記歯すじ方向の中央部から前記歯すじ方向の端部に向かうほど前記厚さ方向の長さが小さくなる形状であり、前記X軸直交断面において、前記第1軸線に平行な直線に直交する方向をZ軸方向とし、前記X軸直交断面において、前記中央部の前記厚さ方向の中心点を通り且つ前記Z軸方向に平行な仮想直線と、前記工具の外縁線との交点を通常加工点とし、前記工具が前記歯車ワークを加工する演算上の位置を加工基準位置とし、前記歯車ワークの歯のうち前記歯すじ方向の端部をエンド領域とすると、前記歯車製造装置が、少なくとも前記エンド領域を加工するにあたり、前記通常加工点を前記加工基準位置に設定して加工する場合と比較して、前記エンド領域を加工する際の前記X軸直交断面における前記工具の中心と前記歯車ワークの中心との距離が大きくなるように、前記X軸直交断面における前記工具の外縁線上の前記通常加工点とは異なる位置を前記加工基準位置に設定して算出された前記工具の前記歯車ワークに対する相対位置に基づいて、前記相対位置を調整する特定加工工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
従来の装置では、例えば工具の歯の中心を工具の歯の位置として把握し、工具の形状データと歯車ワークの目標形状とに基づいて、工具の位置を制御していた。この加工制御によれば、実質的には、通常加工点を加工基準位置に設定して加工するのと同等の結果となる。つまり、従来の装置では、通常加工点を加工基準位置に設定して加工していたといえる。
【0011】
一方、本発明の歯車製造装置によれば、特定加工制御が実行されることで、通常加工点を加工基準位置に設定して行う加工と比較して、歯車ワークと工具との中心間距離が大きくなり、エンド領域での工具の食い込み量(切込み量)が小さくなる。これにより、エンド領域での余分な加工が抑制されるため、エンドリリーフの形成においても、より歯車ワークの目標形状に沿ったリリーフ量の実現が可能となる。つまり、本発明によれば、エンド領域の加工において加工精度の向上が可能となり、歯にエンドリリーフを精度良く形成することができる。また、この構成によれば、工具を小径のものに交換する必要がなく、例えば1つの大径工具で足り、製造効率の低下と製造コストの増大とが抑制される。これらの効果は、本発明の歯車製造方法によっても同様に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の歯車製造装置の構成図(歯車ワーク設置前の状態)である。
【
図2】歯車ワークの各歯における方向の定義を説明するための概念図である。
【
図3】本実施形態の研削加工における歯車ワークと研削工具との位置関係を説明するための概念図である。
【
図4】歯車ワークと研削工具とがかみ合った状態を示す概念図である。
【
図6】
図5の断面(X軸直交断面)に対応する概念図である。
【
図7】
図5の断面(X軸直交断面)に対応する概念図である。
【
図8】
図5の断面(X軸直交断面)に対応する概念図である。
【
図9】研削工具の加工動作軌跡を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。本実施形態の歯車製造装置1は、
図1に示すように、第1スピンドル2と、第1保持台3と、第2スピンドル4と、第2保持台5と、駆動装置6と、制御装置7と、研削工具8と、を備えている。歯車製造装置1は、歯車ワーク9と研削工具8とをかみ合わせて回転させることで全周にわたって歯車ワーク9の歯を加工する装置である。歯車製造装置1は、ドレッサ等も備えている。なお、
図1では、歯車ワーク9が設置されていない状態の歯車製造装置1が表されている。
【0014】
第1スピンドル2は、複数の歯が形成された歯車ワーク9を保持する主軸部材である。本例の歯車ワーク9は、研削加工によってはすば歯車(インボリュート歯車)となる円筒歯車状のワークである。つまり、本実施形態の歯車ワーク9の外周面には、別途の加工により、予め複数の歯が形成されている。本例の研削制御は、例えば仕上げ加工である。
【0015】
第1保持台3は、第1スピンドル2を、第1スピンドル2の軸線である第1軸線A1のまわりに回転可能に保持する主軸台である。第1軸線A1は、歯車ワーク9の回転軸線である。第2スピンドル4は、外周面にねじ状の歯を備えた研削工具8を保持する主軸部材である。本例の研削工具8は、全体として円筒状であって、多条のねじ状砥石である。なお、研削工具8は、1条のねじ状砥石であってもよいし、円盤状の歯を備えた砥石であってもよいし、あるいは砥石でなくてもよい。第2保持台5は、第2スピンドル4を、第2スピンドル4の軸線である第2軸線A2のまわりに回転可能に保持する主軸台である。第2軸線A2は、研削工具8の回転軸線である。第1保持台3及び第2保持台5は、歯車製造装置1のベッド10上に配置されている。第2保持台5は、第2スピンドル4がベッド10上で移動できるように、第2スピンドル4を保持している。
【0016】
駆動装置6は、第2スピンドル4を第2軸線A2まわりに回転させ、第1保持台3及び第2保持台5の少なくとも一方を移動させる装置である。駆動装置6は、複数のモータ等の駆動源(図示略)を備えている。例えば、駆動装置6の一部として、第1保持台3には、第1スピンドル2を第1軸線A1まわりに回転させる駆動源が設けられている。また、駆動装置6の一部として、第2保持台5には、第2スピンドル4を第2軸線A2まわりに回転させる駆動源が設けられている。また、駆動装置6の一部として、例えばベッド10又は第2保持台5とベッド10とを接続する部分には、第2保持台5を移動させる駆動源が設けられている。本実施形態の駆動装置6は、第2スピンドル4だけでなく、第1スピンドル2も第1軸線A1まわりに回転させることができる。駆動装置6は、研削時には、歯車ワーク9と研削工具8とが回転するように、第1スピンドル2の回転と第2スピンドル4の回転とを同期させる。駆動装置6は、第2スピンドル4の角度を変更することができる。本実施形態において、駆動装置6は、歯車ワーク9に対する研削工具8の相対位置を調整するにあたり、第2保持台5(第2スピンドル4)のみを移動させる。つまり、本実施形態の第1保持台3は、ベッド10に固定されている。
【0017】
制御装置7は、例えば、1又は複数のプロセッサ71及びメモリ等を備える電子制御ユニット(ECU)である。制御装置7は、歯車ワーク9の目標形状に関する目標形状データ及び研削工具8の形状に関する工具形状データを記憶する記憶部72を備えている。記憶部72は、内部メモリ、外部メモリ、又は記憶媒体であってもよい。工具形状データは、例えば3次元の形状データであって、例えば研削工具8の使用時間(消耗度合い)により更新される。制御装置7は、駆動装置6に対して通信可能に接続されている。制御装置7は、ベッド10と一体的に配置されてもよいし、ベッド10とは別体であってもよい。
【0018】
制御装置7は、駆動装置6を制御し、歯車ワーク9に対する研削工具8の相対位置を調整する。換言すると、制御装置7は、第1スピンドル2に対する第2スピンドル4の相対位置を制御する。制御装置7は、記憶部72に予め設定された研削プログラム及び/又はユーザの操作に応じて、研削工具8(第2スピンドル4)の位置・角度を制御(例えば数値制御)する。また、制御装置7は、第1スピンドル2及び第2スピンドル4の回転数を制御する。
【0019】
以下、座標軸として、第1軸線A1に平行な軸をY軸とし、Y軸に直交し且つ第2軸線A2の水平成分に平行な軸をZ軸とし、Y軸及びZ軸に直交する軸をX軸とする。例えば第2軸線A2が水平面に平行である場合、第2軸線A2とZ軸とは平行である。歯車製造装置1の設置の一例において、Y軸方向が鉛直方向(上下方向)に相当し、X軸方向が前後方向(又は左右方向)に相当し、Z軸方向が左右方向(又は前後方向)に相当する。X軸方向は、歯車ワーク9と研削工具8との離間方向(接近方向)ともいえる。X軸方向は、第2軸線A2を含み且つ第1軸線A1に平行な仮想平面に直交する方向である。
【0020】
図2に示すように、説明において、歯車ワーク9の径方向を「ワーク径方向」とする。歯車ワーク9が平歯車のワークである場合、歯すじ方向は歯車ワーク9の軸方向と平行となり、本実施形態のように歯車ワーク9がはすば歯車である場合、歯すじ方向は歯車ワーク9の軸方向(第1軸線A1)に対して傾斜する。歯すじ方向は、歯車ワーク9の軸方向一端から軸方向他端に向けて延びる歯の延伸方向といえる。歯車ワーク9の各歯は、歯車ワーク9のベース部分(環状部分)から、互いに間隔をあけてワーク径方向に突出している。
【0021】
図3に示すように、はすば歯車のワークである歯車ワーク9を、ねじ状の歯をもつ研削工具8で研削するにあたり、第2スピンドル4及び第2保持台5は、第2軸線A2がZ軸に対して傾いた状態で維持される。第2スピンドル4の当該傾きが固定された状態で、後述する通常研削制御及び特定研削制御が実行される。本例の研削加工において、第1軸線A1と第2軸線A2とは直交しない。歯車ワーク9が第1スピンドル2に保持された状態で、歯車ワーク9の回転軸(第1軸線A1)はY軸方向に延び、歯車ワーク9の各歯はY軸に対して傾斜する方向(歯すじ方向)に延びている。研削前の状態では、研削工具8と歯車ワーク9とは、X軸方向に離れている。歯車ワーク9の歯において、エンドリリーフを形成する部分、すなわち歯すじ方向の両端部を「エンド領域」と称する(
図7参照)。
【0022】
(通常加工制御と特定加工制御)
制御装置7は、歯車ワーク9の歯のエンド領域以外の部分を加工する通常加工制御と、歯車ワーク9の歯のエンド領域を加工する特定加工制御とを実行可能に構成されている。つまり、歯車製造装置1は、歯車ワーク9の歯を加工するにあたり、通常加工制御によって歯の歯すじ方向中央付近を加工し、特定加工制御によって歯のエンド領域を加工する。本実施形態では、より加工精度が要求される部分(ここではエンドリリーフを形成するエンド領域)に対して、特定加工制御が実行される。
【0023】
研削工具8の加工動作軌跡(座標の時系列)の演算方法について説明する。
図4及び
図5に示すように、歯車ワーク9と研削工具8とがかみ合った状態で、X軸方向に直交する所定の(任意の)平面で歯車ワーク9の歯を含むように研削工具8の歯を切断した断面(以下「X軸直交断面」という)が、演算上の基本図となる。X軸直交断面は、複数設定されてもよい。X軸直交断面は、YZ平面(Y軸に平行な直線とZ軸に平行な直線を含む平面)ともいえる。Z軸方向は、X軸直交断面において、第1軸線A1に平行な直線に直交する方向といえる。
【0024】
図6に示すように、X軸直交断面において、歯すじ方向に対して直交する方向を「厚さ方向」とする。X軸直交断面における研削工具8の歯の形状は、歯すじ方向の中央部81から歯すじ方向の端部(各端部)に向かうほど厚さ方向の長さが小さくなる形状(例えば葉巻形状)である。X軸直交断面において、中央部81の厚さ方向の中心点81aを通り且つZ軸方向に平行な仮想直線L1と、研削工具8の外縁線との交点を通常加工点82とする。研削工具8の歯の厚さ方向の長さが最大となる部分は、研削工具8の長手方向中央の部分である。
【0025】
従来の装置では、目標形状、目標形状の歯と歯の間隔、工具の形状、及び工具の中心点に基づいて、工具の加工動作軌跡が設定されている。従来の装置では、実質的には通常加工点82が歯車ワーク9と当接する点(加工する点)であると仮定して、工具の加工動作軌跡が設定されている。本実施形態の通常加工制御は、従来の加工動作軌跡と同等の加工動作軌跡が設定される。通常加工制御は、研削工具8の中心点81aと研削工具8の形状とに基づいて設定される加工動作軌跡により加工する制御(中心点81aの位置を調整する制御)であり、実質的には通常加工点82を加工基準位置に設定して加工する制御である。加工基準位置とは、X軸直交断面において、演算上、研削工具8が歯車ワーク9を加工する位置と仮定(設定)される研削工具8上の位置である。
【0026】
制御装置7は、加工基準位置を、研削工具8と歯車ワーク9とが当接する位置(すなわち研削工具8が歯車ワーク9を研削する位置)として認識する。制御装置7は、工具形状データに基づいて加工基準位置を設定し、目標形状データ及び加工基準位置に基づいて、研削工具8の加工動作軌跡を演算する。
【0027】
図6、
図7、及び
図8は、歯車ワーク9の歯と研削工具8の歯とのかみ合い位置におけるX軸直交断面の模式図である。研削工具8の歯のX軸直交断面における面積は、研削工具8の径方向内側に向かうほど大きくなる。
【0028】
図6には、X軸直交断面において、歯車ワーク9にクラウニング付き歯面を形成する際の研削工具8の位置・大きさが表されている。エンド領域での研削工具8の位置は、歯すじ方向中央部での研削工具8の位置よりも、X軸方向の歯車ワーク9に接近する側に移動している。これにより、X軸直交断面における研削工具8の断面積は、エンド領域のほうが歯すじ方向中央部よりも大きくなる。つまり、研削工具8が歯すじ方向中央部からエンド領域に向かうほど、研削工具8の厚さ方向の長さが大きくなり、加工基準位置が歯車ワーク9の歯に食い込む側に移動する。これにより、歯車ワーク9の歯の歯すじ方向両端部の歯厚が小さくなり、クラウニングが形成される。
【0029】
エンド領域にクラウニング又はエンドリリーフ(特には大エンドリリーフ)を形成する場合、制御装置7は、エンド領域の加工において特定加工制御を実行する。特定加工制御では、加工基準位置が通常加工制御とは別の位置に設定される。特定加工制御における加工基準位置の設定方法は、以下の通りである。
【0030】
制御装置7は、例えば、目標形状データ(歯車ワーク9の歯の目標形状)を複数のエリアに分割する。制御装置7は、複数のエリアのうちエンド領域に対応するエリア(以下「特定エリア」という)に対して、以下の演算を行う。制御装置7は、複数の特定エリアのうち1つの特定エリアを選択し、さらに、選択された特定エリア(以下「選択特定エリア」という)内における歯の目標形状の外縁線上の1点(例えばエリア中央部分に位置する1点)を選択する。制御装置7は、選択特定エリア内で選択された1点(以下「目標点」という)における接線の関数式を演算する。制御装置7(記憶部72)は、目標点における接線の関数式(以下「目標接線」という)を記憶する。
【0031】
研削工具8の歯の接線の関数式を「工具接線」とすると、制御装置7は、研削工具8の形状データに基づいて、研削工具8が目標点に到達した際に工具接線と目標接線とが一致するような研削工具8の歯の位置(以下「特定位置」という)を演算する。演算では、基本図における研削工具8の位置を変化させて、目標接線と一致する工具接線を検出する。制御装置7は、目標接線と工具形状データに基づき、特定位置を算出することができる。なお、制御装置7は、例えば、研削工具8の歯において、互いに切断位置がX軸方向に異なる複数のX軸直交断面を記憶し、各X軸直交断面をチェックして、工具接線が目標接線と一致する位置を検出してもよい。また、接線の関数式は、例えば外縁線の微分値(傾き)だけでもよい。この場合、接線の傾きが目標点における接線の傾きと一致する研削工具8の外縁線上の位置が特定位置となる。
【0032】
制御装置7は、研削工具8の特定位置を検出すると、当該特定位置を選択特定エリアの加工における加工基準位置に設定する。制御装置7は、目標形状データに基づいて、研削工具8の特定位置により選択特定エリア内の歯車ワーク9を研削するように、加工動作軌跡を算出する。制御装置7は、このような演算を他の特定エリアに対しても行い、エンド領域全域で特定加工制御を実行する。なお、特定位置は、例えば、研削工具8の歯の厚さ方向の一方側の歯面に設定され、他方側の歯面には設定されてもされなくてもよい。これについては後述する。
【0033】
図7に示すように、エンド領域の加工において、実質的に従来工法と同様になるように、研削工具8の通常加工点82を加工基準位置に設定して加工動作軌跡が演算されると、特定加工制御で演算された加工動作軌跡と比較して、研削工具8は歯すじ方向の中央側に位置する。これによれば、エンドリリーフのリリーフ量を大きくするほど目標外の研削量が増えてしまい、目標形状と実際の形状とのズレが大きくなる。従来の工法(例えば通常加工制御)だけで大きなエンドリリーフを形成する場合、当該ズレが無視できない大きさとなる。
【0034】
一方、エンド領域において特定加工制御が実行されると、
図7及び
図8に示すように、加工基準位置が特定位置83となり、研削工具8の位置が通常加工制御の時と比べて歯すじ方向の端部側に移動する。これにより、余分な研削量が抑制され、目標形状に応じた歯面形状を形成することができる。目標接線と工具接線とが一致しているため、加工基準位置以外の位置で、目標形状(目標の外縁線)よりも内側で研削工具8が歯車ワーク9の歯を研削することが抑制される。つまり、目標形状よりも深く研削することが抑制され、目標形状に近い歯面形状が形成される。
【0035】
図9に示すように、エンドリリーフをもつ歯面を形成するにあたり、XY平面において、本実施形態の研削工具8の中心の軌跡は、通常加工制御のみで加工を行った場合と比較して大回りとなる。つまり、特定加工制御では、通常加工点82を加工基準位置に設定して行う加工(通常加工制御)と比較して、研削工具8の中心と歯車ワーク9の中心との距離が大きくなるように、加工基準位置が設定される。なお、この例において、位置制御は、研削工具8のX軸方向及びY軸方向の位置のみが制御されている。ただし、研削工具8の位置は、X軸方向及びY軸方向に加えて、Z軸方向にも(同時に)制御されてもよい。
【0036】
特定加工制御が実行されることで、研削工具8の中心の軌跡は、通常加工制御よりも小さな曲率で湾曲する。つまり、特定加工制御により、研削工具8のX軸方向への位置変化(切込み量)が緩やか(少量)となる。さらに換言すると、本実施形態の特定加工制御によれば、XY平面における研削工具8の中心の曲線状(弧状)の軌跡は、通常加工制御のみで加工する場合と比較して膨らむ。また、加工動作軌跡の終端(Y軸方向の端部)におけるX軸方向の位置は、特定加工制御のほうが通常加工制御よりも歯車ワーク9に近い側となる。このような加工動作軌跡が設定されることで、上記のように、目標形状よりも深く研削することが抑制され、目標形状に近い歯面形状が形成される。
【0037】
1つの演算例として、制御装置7は、ユーザの操作に応じて決定された歯車ワーク9の歯面形状(歯すじ形状)を数式化する。制御装置7は、歯面形状の任意の位置での接線を算出する。制御装置7は、ユーザの操作に応じて決定された研削工具8の断面形状を数式化する。制御装置7は、上記のように歯面形状の接線と研削工具8の接線とが一致する研削工具8の外縁位置(特定位置83)を算出し、機械動作の座標を算出する。外縁位置は、X軸直交断面における研削工具8の歯の外縁線上の点である。
【0038】
歯車ワーク9の歯の両歯面(厚さ方向に対向する歯面)の目標形状が互いに同様である場合、特定加工制御において、研削工具8の歯の両歯面に加工基準位置が設定されてもよい。
図8に示すように、一方側の歯面の特定位置83を通る厚さ方向に延びる直線と、他方側の歯面との交点も加工基準位置として設定してもよい。この場合、一方側の歯面のみが目標接線と工具接線とが一致することになり得るが、この場合でも他方側の歯面での加工による誤差は僅かであり、加工精度への影響は小さい。研削工具8の両歯面を加工基準位置に設定する場合、上記のように一方側の歯面を基準として設定してもよいし、両方の歯面で目標接線と工具接線とが一致する点を検出し、その間の位置(平均した位置)を加工基準位置に設定してもよい。また、歯車ワーク9の歯の両歯面の目標形状が大きく異なる場合、例えば、歯面毎に加工基準位置を設定し、一方の歯面ずつ加工することができる。
【0039】
(まとめ)
このように、本実施形態の制御装置7は、歯車ワーク9の歯が目標形状となるように、歯車ワーク9の歯のうち歯すじ方向の端部であるエンド領域を加工するにあたり特定加工制御を実行し、歯車ワーク9の歯のエンド領域以外の部分を加工するにあたり通常加工制御を実行するように構成されている。制御装置7は、通常加工制御において、研削工具8の中心点81a及び工具形状データに基づいて、実質的には通常加工点82を加工基準位置として、研削工具8の位置を調整する。制御装置7は、特定加工制御において、通常加工制御でエンド領域を加工した場合よりも研削工具8の中心と歯車ワーク9の中心との距離が大きくなるように、X軸直交断面において、研削工具8の歯の通常加工点82とは異なる位置を加工基準位置として相対位置を調整する。
【0040】
なお、制御装置7は、歯車ワーク9の歯のエンド領域以外の部分に対しても、特定加工制御を実行してもよい。つまり、制御装置7は、少なくともエンド領域に対して特定加工制御を実行するように構成されればよく、例えば歯すじ方向全域に対して特定加工制御を実行してもよい。制御装置7は、例えば、エンド領域以外の部分に対して、目標接線と工具接線とが一致する特定位置を算出し、特定位置を加工基準位置に設定して加工動作軌跡を算出してもよい。このように、制御装置7は、少なくともエンド領域を加工するにあたり、X軸直交断面における研削工具8の外縁線上の通常加工点82とは異なる位置を加工基準位置に設定して、研削工具8の位置を調整する。外縁線は、外形線ともいえる。
【0041】
また、制御装置7は、特定加工制御において、第1演算処理、第2演算処理、及び位置設定処理を実行して設定した加工動作軌跡(相対位置の情報)に基づいて研削工具8の位置を調整する。第1演算処理は、歯車ワーク9の目標形状のX軸直交断面において、加工対象部分(例えば選択特定エリア)の外縁線上に目標点を設定し、前記目標点における前記目標形状の接線である目標接線を算出する処理である。第2演算処理は、X軸直交断面において、研削工具8の外縁線のうち研削工具8の接線(工具接線)が目標接線と一致する位置である特定位置83を算出する処理である。位置設定処理は、加工対象部分の加工後に目標点と特定位置とが一致するように、歯車ワーク9に対する研削工具8の相対位置を設定する処理である。位置設定処理は、加工動作軌跡を算出し設定する処理ともいえる。各処理を他のコンピュータで行った場合、当該コンピュータも制御装置7の一部といえる。
【0042】
研削工具8のうち目標接線と工具接線とが一致する外縁線上の特定位置83を加工基準位置に設定することで、加工基準位置以外での加工が抑制され、より精度よく目標形状に応じた歯面を形成することができる。なお、研削工具8のうち目標形状と工具接線とが一致しない位置が加工基準位置に設定されたとしても、X軸直交断面におけるエンド領域での研削工具8の中心と歯車ワーク9の中心との距離が大きくなるように(すなわち切込み量が小さくなるように)、加工基準位置を通常加工点82からずらした位置に設定することで、余分なリリーフ量の発生を抑制することができる。なお、
図9に示すように、XY平面(断面)において、研削工具8の中心は第2軸線A2に対応する位置であり、歯車ワーク9の中心は第1軸線A1上の中央位置である。
【0043】
本実施形態の歯車製造方法は、歯車ワーク9と研削工具8とをかみ合わせて回転させることで、全周にわたって歯車ワーク9の歯を加工する歯車製造装置を用いた歯車製造方法であって、特定加工制御に相当する特定加工工程を含んでいる。特定加工工程は、少なくともエンド領域を加工するにあたり、通常加工点82を加工基準位置に設定して加工する場合と比較して、エンド領域を加工する際のX軸直交断面における研削工具8の中心と歯車ワーク9の中心との距離が大きくなるように、X軸直交断面における研削工具8の外縁線上の通常加工点82とは異なる位置を加工基準位置に設定して、研削工具8の歯車ワーク9に対する相対位置を調整する工程である。
【0044】
(本実施形態の効果)
従来の装置では、例えば工具の歯の中心を工具の歯の位置として把握し、工具の形状データと歯車ワークの目標形状とに基づいて、工具の位置(加工動作軌跡)が設定されていた。この加工制御によれば、実質的には、通常加工点82を加工基準位置に設定して加工するのと同等の結果となる。つまり、従来の装置では、通常加工制御のように、通常加工点82を加工基準位置に設定して加工していたといえる。
【0045】
一方、本実施形態の歯車製造装置1によれば、特定加工制御が実行されることで、通常加工点82を加工基準位置に設定して行う加工と比較して、歯車ワーク9と研削工具8との中心間距離が大きくなり、エンド領域での工具の食い込み量(切込み量)が小さくなる。これにより、エンド領域での余分な加工が抑制されるため、エンドリリーフの形成においても、より歯車ワークの目標形状に沿ったリリーフ量の実現が可能となる。つまり、本実施形態によれば、エンド領域の加工において加工精度の向上が可能となり、歯にエンドリリーフを精度良く形成することができる。また、この構成によれば、工具を小径のものに交換する必要がなく、例えば1つの大径工具で足り、製造効率の低下と製造コストの増大とが抑制される。また、目標形状に近いエンドリリーフが形成されることで、ギヤノイズの低減すなわち歯車の静粛性の向上も可能となる。
【0046】
さらに、目標接線と工具接線とが一致するように、歯車ワーク9を加工することで、より高精度にエンドリリーフ等を形成することができる。これらの効果は、特定加工工程を含む本実施形態の歯車製造方法によっても同様に発揮される。なお、特定加工制御(特定加工工程)は、クラウニングを形成する場合にも適用できる。
【0047】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、歯車ワーク9は、はすば歯車のワークに限らず、平歯車のワークであってもよい。また、本発明の適用対象の工具は、ねじ状又は円盤状の歯をもつ研削工具に限らず、ねじ状の歯をもつ切削工具(例えばホブカッタ等)又は円盤状の歯をもつ切削工具であってもよい。つまり、特定加工制御は、切削加工に対しても適用できる。また、本発明は、歯が形成されていない状態の(円筒状の)歯車ワーク9を切削する歯切り加工でも適用できる。この場合、歯車ワーク9と切削工具とは、かみ合った状態でなく、当接した状態で回転することで加工が行われる。また、この場合、制御装置7は、歯車ワーク9の目標形状における歯と切削工具の歯とがかみ合うように、互いの相対位置を調整するともいえる。歯切り加工の場合でも、加工基準位置を通常加工点82とは異なる位置に設定して特定加工制御を実行することができる。また、例えば歯車ワーク9の歯の目標形状(切削加工における目標形状)に基づく目標接線と、切削工具の歯の工具接線とを一致させるようにも制御可能である。以下の説明では、研削用又は切削用の工具を工具8とする。
【0048】
このように、本発明の歯車製造装置1は、歯車ワーク9と研削用又は切削用の工具8とを当接させ且つ回転させて、全周にわたって歯車ワーク9を加工する歯車製造装置であって、制御装置7は、歯車ワーク9の歯の目標形状に関する目標形状データと工具8の形状に関する工具形状データとを記憶する記憶部72を備えている。第2軸線A2を含み且つ第1軸線A1に平行な仮想平面に直交する方向をX軸方向とする。工具8が歯車ワーク9を加工する演算上の位置を加工基準位置とする。目標形状データ及び工具形状データにおいて、X軸方向に直交する所定の平面で歯車ワーク9の歯を含むように工具8の歯を切断した断面をX軸直交断面とする。X軸直交断面において、歯すじ方向に対して直交する方向を厚さ方向とする。X軸直交断面において、第1軸線A1に平行な直線に直交する方向をZ軸方向とする。X軸直交断面において、中央部81の厚さ方向の中心点81aを通り且つZ軸方向に平行な仮想直線と工具8の外縁線との交点を通常加工点82とする。工具8が歯車ワーク9を加工する演算上の位置を加工基準位置とする。歯車ワーク9の歯のうち歯すじ方向の端部をエンド領域とする。制御装置7は、少なくともエンド領域を加工するにあたり、通常加工点82を加工基準位置に設定して加工する場合と比較して、エンド領域を加工する際のX軸直交断面における工具8の中心と歯車ワーク9の中心との距離が大きくなるように、X軸直交断面における工具8の外縁線上の通常加工点82とは異なる位置を加工基準位置に設定して算出された工具8の相対位置に基づいて、工具8の相対位置を調整する特定加工制御を実行するように構成されている。
【0049】
制御装置7は、特定加工制御において、予め演算により求められた特定位置を加工基準位置に設定してもよい。本発明は、実際の加工時に特定位置を演算する場合に限らず、予め演算された特定位置に基づいて設定された加工動作軌跡(例えば数値制御プログラム)により動作するように構成されてもよい。例えば、予め目標接線と工具接線とが一致する特定位置83に基づいて加工動作軌跡を予め算出し、制御装置7は、それを例えば記憶部72に記憶して特定加工制御を実行してもよい。本発明の特定加工制御は、通常加工点82とは異なる位置(例えば特定位置83)を加工基準位置に設定して予め算出された加工動作軌跡に基づいて行う加工制御も含んでいる。本発明の歯車製造装置及び歯車製造方法によれば、従来の工法よりも大回りの工具8の加工動作軌跡が実現され、従来の工法よりも目標形状に近い歯車形状が実現可能となる。
【0050】
また、歯車製造装置1は、クラウニングを形成した後にエンドリリーフを形成してもよい。この場合、制御装置7は、例えば通常加工制御によって歯車ワーク9全体を加工することでクラウニングを形成し、クラウニング形成後、エンド領域に対して特定加工制御によりエンドリリーフを形成してもよい。
【0051】
また、駆動装置6は、第1保持台3を移動させるように構成されてもよい。また、駆動装置6は、第1保持台3及び第2保持台5の両方を移動させるように構成されてもよい。また、加工時、上記実施形態では駆動装置6の駆動力により第1スピンドル2(歯車ワーク9)が回転するが、駆動装置6が第1スピンドル2に駆動力を付与せずに、第1スピンドル2が自由に回転可能である状態を維持してもよい。この場合、歯車ワーク9は、駆動装置6の駆動力ではなく、かみ合った研削工具8の回転によって回転する。
【符号の説明】
【0052】
1…歯車製造装置、2…第1スピンドル、3…第1保持台、4…第2スピンドル、5…第2保持台、6…駆動装置、7…制御装置、8…研削工具、81…中央部、81a…中心点、82…通常加工点、83…特定位置、9…歯車ワーク、A1…第1軸線、A2…第2軸線、L1…仮想直線。