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特開2022-188992マスクブランク、反射型マスク及び半導体デバイスの製造方法
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  • 特開-マスクブランク、反射型マスク及び半導体デバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188992
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】マスクブランク、反射型マスク及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20221215BHJP
   G03F 1/80 20120101ALI20221215BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/80
C23C14/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097311
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】池邊 洋平
【テーマコード(参考)】
2H195
4K029
【Fターム(参考)】
2H195BA02
2H195BA10
2H195BB16
2H195BB31
2H195BC04
2H195BC05
2H195CA01
2H195CA15
2H195CA24
4K029HA02
(57)【要約】
【課題】エッチング速度が十分に速い薄膜を備えたマスクブランクを提供する。
【解決手段】基板の主表面上に、多層反射膜およびパターン形成用の薄膜をこの順に備えるマスクブランクであって、前記薄膜は、タンタル、モリブデン、および窒素を含み、前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、0.15以上であるマスクブランクである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の主表面上に、多層反射膜およびパターン形成用の薄膜をこの順に備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は、タンタル、モリブデン、および窒素を含み、
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、0.15以上である
マスクブランク。
【請求項2】
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、1.0以下である
請求項1に記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対するモリブデン含有量[原子%]の比率は、0.5以下である
請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記薄膜におけるタンタル、モリブデン、および窒素の合計含有量は、90原子%以上である
請求項1から3のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記薄膜の極端紫外線の波長における屈折率nは、0.955以下である
請求項1から4のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記薄膜の極端紫外線の波長における消衰係数kは、0.02以上である
請求項1から5のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項7】
基板の主表面上に、多層反射膜および転写パターンが形成された薄膜をこの順に備える反射型マスクであって、
前記薄膜は、タンタル、モリブデン、および窒素を含み、
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、0.15以上である
反射型マスク。
【請求項8】
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、1.0以下である
請求項7に記載の反射型マスク。
【請求項9】
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対するモリブデン含有量[原子%]の比率は、0.5以下である
請求項7または8に記載の反射型マスク。
【請求項10】
前記薄膜におけるタンタル、モリブデン、および窒素の合計含有量は、90原子%以上である
請求項7から9のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【請求項11】
前記薄膜の極端紫外線の波長における屈折率nは、0.955以下である
請求項7から10のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【請求項12】
前記薄膜の極端紫外線の波長における消衰係数kは、以下0.02以上である
請求項7から11のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【請求項13】
請求項7から12のうちの何れか1項に記載の反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備える
半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスなどの製造に用いられる露光マスク用のマスクブランク、このマスクブランクを用いた反射型の露光マスクである反射型マスク、およびこの反射型マスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造の製造技術として、波長が13.5nm近傍の極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet)を用いたEUVリソグラフィーが開発されている。EUVリソグラフィーでは、EUV光に対して透明な材料が少ないことから反射型マスクが用いられる。反射型マスクに対しては、露光光であるEUV光が斜めから入射される。このため、シャドーイング効果と呼ばれる固有の問題が発生する。シャドーイング効果とは、立体構造を持つ吸収体パターンに対して露光光(EUV光)が斜めから入射されることにより影ができ、転写されるパターンの寸法や位置が変わる現象のことである。このシャドーイング効果を抑制するためには、反射型マスクの原版となるマスクブランクにおいて、吸収体パターンを構成する吸収体膜を薄膜化する必要がある。
【0003】
吸収体膜の薄膜化の手法の一つとして、低屈折率材料を用いて吸収体膜を構成することにより、反射型マスクを反射型位相シフトマスク(反射型のハーフトーン位相シフトマスク)として使用する手法がある。その技術として、下記特許文献1,2には、ハーフトーン膜を構成する材料として、TaMoなどの合金を用いることが例示されている。
【0004】
また、反射型マスクに関する技術として、下記特許文献3には、吸収体膜が、EUV光の吸収体で構成する吸収体層を下層とし、マスクパターンの検査に使用する検査光の吸収体で構成する低反射層を上層としたマスクブランクスが記載されている。吸収体層における下層の露光光の吸収体は、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、モリブデン、パラジウム、銀、カドミウム、錫、アンチモン、テルル、沃素、ハフニウム、タンタル、タングステン、チタン、金及びこれらの元素を含む合金、並びに、これらの元素又はこれらの元素を含む合金と窒素及び/又は酸素を含む物質から選ばれる少なくとも1種の物質で構成することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-228766号公報
【特許文献2】特開2018-146945号公報
【特許文献3】特開2004-6798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで反射型マスクの吸収体パターンは、吸収体膜をエッチングによってパターニングすることで得られる。このため、吸収体膜のエッチング速度が速ければ、反射型マスクの生産性の向上、およびエッチングマスクや下地層に対するエッチング選択比の向上が見込まれる。しかしながら、上述したTaMoなどの合金はエッチング速度が遅く、エッチングマスクや下地層に対するエッチング選択比が十分ではない。
【0007】
そこで本発明は、エッチング速度が十分に速い薄膜を備えたマスクブランク、このマスクブランクを用いて形成される反射型マスク、およびこの反射型マスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0009】
(構成1)
基板の主表面上に、多層反射膜およびパターン形成用の薄膜をこの順に備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は、タンタル、モリブデン、および窒素を含み、
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、0.15以上である
マスクブランク。
【0010】
(構成2)
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、1.0以下である
構成1に記載のマスクブランク。
【0011】
(構成3)
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対するモリブデン含有量[原子%]の比率は、0.5以下である
構成1または2に記載のマスクブランク。
【0012】
(構成4)
前記薄膜におけるタンタル、モリブデン、および窒素の合計含有量は、90原子%以上である
構成1から3のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【0013】
(構成5)
前記薄膜の極端紫外線の波長における屈折率nは、0.955以下である
構成1から4のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【0014】
(構成6)
前記薄膜の極端紫外線の波長における消衰係数kは、0.02以上である
構成1から5のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【0015】
(構成7)
基板の主表面上に、多層反射膜および転写パターンが形成された薄膜をこの順に備える反射型マスクであって、
前記薄膜は、タンタル、モリブデン、および窒素を含み、
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、0.15以上である
反射型マスク。
【0016】
(構成8)
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対する窒素含有量[原子%]の比率は、1.0以下である
構成7に記載の反射型マスク。
【0017】
(構成9)
前記薄膜のタンタルとモリブデンの合計含有量[原子%]に対するモリブデン含有量[原子%]の比率は、0.5以下である
構成7または8に記載の反射型マスク。
【0018】
(構成10)
前記薄膜におけるタンタル、モリブデン、および窒素の合計含有量は、90原子%以上である
構成7から9のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【0019】
(構成11)
前記薄膜のEUVの波長における屈折率nは、0.955以下である
構成7から10のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【0020】
(構成12)
前記薄膜の極端紫外線の波長における消衰係数kは、以下0.02以上である
構成7から11のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【0021】
(構成13)
構成7から12のうちの何れか1項に記載の反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備える
半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、エッチング速度が十分に速い薄膜を備えたマスクブランク、このマスクブランクを用いて形成される反射型マスク、およびこの反射型マスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るマスクブランクの構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る反射型マスクの構成を示す断面図である。
図3】TaMoN薄膜における窒素含有比[N]/[Ta+Mo]とエッチングレート比を示すグラフである。
図4】TaMoN薄膜におけるモリブデン含有比[Mo]/[Ta+Mo]と屈折率[n]および消衰係数[k]との関係を示すグラフである。
図5】本発明の反射型マスクの製造方法を示す製造工程図である。
図6】実施例の薄膜の組成および薄膜の物性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪マスクブランクおよび反射型マスク≫
図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。この図に示すマスクブランク100は、極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet、以下EUV光と記す)を露光光とするEUVリソグラフィー用の反射型マスクの原版である。また図2は、本発明の実施形態に係る反射型マスク200の構成を示す断面図であって、図1に示したマスクブランク100を加工して製造されたものである。以下、これらの図1および図2を用いて、実施形態に係るマスクブランク100および反射型マスク200の構成を説明する。
【0025】
図1に示すマスクブランク100は、基板1と、基板1の一方側の主表面1a上に基板1側から順に積層された、多層反射膜2、保護膜3、および薄膜4とを有している。薄膜4は、加工によって転写パターンが形成される膜である。またマスクブランク100は、薄膜4上に、必要に応じてエッチングマスク膜5を設けた構成であってもよい。このマスクブランク100は、基板1の他方側の主表面(以下、裏面1bと記す)上に、導電膜10を有している。
【0026】
また図2に示す反射型マスク200は、図1に示すマスクブランク100における薄膜4を転写パターン4aとしてパターニングしたものである。以下、マスクブランク100および反射型マスク200を構成する各部の詳細を、図1および図2に基づいて説明する。
【0027】
<基板1>
基板1は、反射型マスク200を用いたEUV光による露光(EUV露光)時の発熱による転写パターン4aの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO-TiO系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。なお、転写パターン4aとは、上述したように薄膜4の加工によって形成されたパターンである。
【0028】
基板1の主表面1aは、反射型マスク200を用いたEUV露光においてのパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光の場合、基板1の主表面1aにおける132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。
【0029】
また基板1の裏面1bは、露光装置に反射型マスク200をセットするときに静電チャックされる面であって、132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、マスクブランク100における裏面1bは、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下である。
【0030】
また、基板1の表面平滑度の高さも極めて重要な項目である。基板1の主表面1aの表面粗さは、一辺が1μmの四角形の領域内で算出される二乗平均平方根粗さ[Sq]で0.1nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑度は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0031】
さらに基板1は、主表面1aおよび裏面1bに形成される膜の膜応力による変形を抑制するために、高い剛性を有していることが好ましい。特に、基板1は、65GPa以上の高いヤング率を有していることが好ましい。
【0032】
<多層反射膜2>
多層反射膜2は、主表面1aに形成され、露光光であるEUV光を高い反射率で反射する。この多層反射膜2は、このマスクブランク100を用いて形成される反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものであり、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。
【0033】
一般的には、高屈折率材料である軽元素またはその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素またはその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期程度積層された多層膜が、多層反射膜2として用いられる。多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。また、多層膜は、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。なお、多層反射膜2の最表面の層、すなわち多層反射膜2の基板1と反対側の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、基板1から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜2の最表面を構成すると容易に酸化されてしまい、反射型マスク200の反射率が減少する。そのため、最上層の低屈折率層上に、高屈折率層を更に形成して多層反射膜2とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となるので、そのままでよい。
【0034】
本実施形態において、高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層が採用される。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、および酸素(O)を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィー用の反射型マスク200が得られる。また、本実施形態において基板1としてはガラス基板が好ましく用いられる。Siはガラス基板との密着性においても優れている。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、および白金(Pt)から選ばれる金属単体、またはこれらの合金が用いられる。例えば波長13nmから14nmのEUV光に対する多層反射膜2としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。なお、多層反射膜2の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成してもよい。
【0035】
多層反射膜2の単独での反射率は、通常65%以上であり、上限は通常73%である。なお、多層反射膜2の各構成層の膜厚および周期は、露光波長により適宜選択すればよく、ブラッグ反射の法則を満たすように選択される。多層反射膜2において高屈折率層および低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層同士、そして低屈折率層同士の膜厚が同じでなくてもよい。また、多層反射膜2の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi層(高屈折率層)の膜厚は、3nmから10nmの範囲にすることができる。
【0036】
多層反射膜2の形成方法は当該技術分野において公知である。例えばイオンビームスパッタリング法により、多層反射膜2の各層を成膜することで形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、先ずSiターゲットを用いて厚さ4.2nm程度のSi膜を基板1上に成膜する。その後Moターゲットを用いて厚さ2.8nm程度のMo膜を成膜する。このSi膜/Mo膜を1周期として、40から60周期積層して、多層反射膜2を形成する(最表面の層はSi層とする)。なお、例えば、多層反射膜2を60周期とした場合、40周期より工程数は増えるが、EUV光に対する反射率を高めることができる。また、多層反射膜2の成膜の際に、イオン源からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して、イオンビームスパッタリングを行うことにより多層反射膜2を形成することが好ましい。
【0037】
<保護膜3>
保護膜3は、このマスクブランク100を加工してEUVリソグラフィー用の反射型マスク200を製造する際に、エッチングおよび洗浄から多層反射膜2を保護するために設けられた膜である。この保護膜3は、多層反射膜2の上に、多層反射膜2に接してまたは他の膜を介して設けられる。また、保護膜3は、反射型マスク200において、電子線(EB)を用いて転写パターン4aの黒欠陥を修正する際に多層反射膜2を保護する役割も兼ね備える。
【0038】
ここで、図1および図2では、保護膜3が1層の場合を示しているが、保護膜3を2層以上の積層構造とすることもできる。保護膜3は、薄膜4をパターニングする際に使用するエッチャント、および洗浄液に対して耐性を有する材料で形成される。多層反射膜2の上に保護膜3が形成されていることにより、多層反射膜2および保護膜3を有する基板1を用いて反射型マスク200を製造する際の、多層反射膜2の表面へのダメージを抑制することができる。そのため、多層反射膜2のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0039】
以下では、保護膜3が、1層の場合を例に説明する。なお、保護膜3が複数層含む場合には、薄膜4との関係において、保護膜3の最上層(薄膜4に接する層)の材料の性質が重要になる。
【0040】
本実施形態のマスクブランク100では、保護膜3の材料として、保護膜3の上に形成される薄膜4をパターニングするためのドライエッチングに用いられるエッチングガスに対して、耐性のある材料を選択することができる。
【0041】
保護膜3は、ルテニウム(Ru)を含有することが好ましい。保護膜3の材料は、Ru金属単体でもよいし、ルテニウム(Ru)にチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及びレニウム(Re)などから選択される少なくとも1種の金属を含有したRu合金であってよく、窒素を含んでいても構わない。一方、保護膜3は、ケイ素(Si)、ケイ素(Si)および酸素(O)を含む材料、ケイ素(Si)および窒素(N)を含む材料、ケイ素(Si)、酸素(O)および窒素(N)を含む材料などのケイ素系材料から選択した材料を使用することもできる。
【0042】
EUVリソグラフィーでは、露光光であるEUV光に対して透明な物質が少ない。このため、反射型マスク200における転写パターン4aの形成面側に、異物付着を防止する防塵マスク(EUVペリクル)を配置することが技術的に困難である。このことから、防塵マスクを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィーでは、EUV露光によって反射型マスク200にカーボン膜が堆積する、あるいは酸化膜が成長するといった露光コンタミネーションが起こる。そのため、反射型マスク200を半導体デバイスの製造に使用している段階で、度々洗浄を行ってマスク上の異物やコンタミネーションを除去する必要がある。このため、反射型マスク200では、通常の光リソグラフィー用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されており、反射型マスク200が保護膜3を有することにより、洗浄液に対する洗浄耐性を高くすることができるのである。
【0043】
保護膜3の膜厚は、多層反射膜2を保護するという機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜3の膜厚は、好ましくは1.0nm以上8.0nm以下、より好ましくは1.5nm以上6.0nm以下である。
【0044】
保護膜3の形成方法としては、公知の膜形成方法と同様のものを特に制限なく採用することができる。具体例としては、各種スパッタリング法、例えば、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、およびイオンビームスパッタリング法のほか、原子層堆積法(atomic layer deposition:ALD)法などが挙げられる。
【0045】
<薄膜4および転写パターン4a>
薄膜4は、EUV光を吸収する吸収体膜として用いられる膜であって、このマスクブランク100を用いて構成される反射型マスク200の転写パターン4aの形成用の膜となる。転写パターン4aは、この薄膜4をパターニングしてなる。本実施形態において、この薄膜4は、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、および窒素(N)を含むTaMoN薄膜である。
【0046】
-窒素含有比[N]/[Ta+Mo]-
この薄膜4において、タンタル(Ta)とモリブデン(Mo)の合計含有量[原子%]に対する窒素(N)の含有量[原子%]の比率(窒素含有比[N]/[Ta+Mo])は、0.15以上である。
【0047】
ここで図3は、TaMoN薄膜における窒素含有比[N]/[Ta+Mo]とエッチングレート比を示すグラフである。エッチングレート比は、窒素(N)を含有しないタンタル(Ta)-モリブデン(Mo)合金(Ta:Mo=7:3)のエッチングレートを1とした場合の値である。タンタル(Ta)-モリブデン(Mo)合金は、位相シフトマスク用の薄膜として好適な屈折率を有する合金である。
【0048】
また、エッチングは、反射型マスク200の製造において広く用いられている、塩素ガス(Cl)をエッチングガスとして用いたドライエッチングと、四フッ化炭素(CF)をエッチングガスとして用いたドライエッチングである。なお、図3に示す薄膜の詳細な組成は、後の実施例で示す。
【0049】
図3のグラフに示すように、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]が0.15以上のTaMoN薄膜は、塩素ガス(Cl)をエッチングガスとして用いたドライエッチングにおけるエッチングレート比が1.5以上である。また、このエッチングレート比は、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]の増加にともなって増加する。これより、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]≧0.15とすることにより、塩素ガス(Cl)をエッチングガスとして用いたドライエッチングにおいての薄膜4のエッチングレートが、タンタル(Ta)-モリブデン(Mo)合金のエッチングレートの1.5倍以上となることがわかる。
【0050】
さらに図3のグラフに示すように、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]が0.3以上のTaMoN薄膜は、塩素ガス(Cl)をエッチングガスとして用いたドライエッチングにおけるエッチングレート比が2以上である。一方、タンタル(Ta)と窒素(N)からなる薄膜(TaN薄膜)の場合、窒素含有比[N]/[Ta]が大きくなるにつれて、塩素ガス(Cl)をエッチングガスとして用いたドライエッチングにおけるエッチングレート比が小さくなる傾向がある。すなわち、モリブデン(Mo)を含有しないタンタル(Ta)系材料に窒素(N)を含有させる場合と、タンタル(Ta)とモリブデン(Mo)を含有する材料に窒素(N)を含有させる場合で、窒素含有比と塩素ガス(Cl)をエッチングガスとして用いたドライエッチングにおけるエッチングレート比との関係は大きく異なる。なお、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]の上限値は、薄膜4の表面粗さを小さく抑える観点から、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]≦1.0とする。
【0051】
-モリブデン含有比[Mo]/[Ta+Mo]-
またこの薄膜4において、タンタル(Ta)とモリブデン(Mo)との合計含有量[原子%]に対するモリブデン(Mo)の含有量[原子%]の比率(モリブデン含有比[Mo]/[Ta+Mo])は、0.5以下であることが好ましい。
【0052】
また図4は、TaMoN薄膜におけるモリブデン含有比[Mo]/[Ta+Mo]と屈折率および消衰係数との関係を示すグラフである。屈折率[n]および消衰係数[k]は、EUV波長に対する屈折率[n]および消衰係数[k]である。なお、図4に示す薄膜の詳細な組成は、後の実施例で示す。
【0053】
図4のグラフに示すように、モリブデン含有比[Mo]/[Ta+Mo]が0.5以下のTaMoN薄膜は、EUV光の波長に対する消衰係数[k]が、0.02以上に保たれることがわかる。一方、図4のグラフが示すように、薄膜4にモリブデンを含有させることによってEUV光の波長に対する屈折率[n]が0.955以下に保たれることがわかる。さらに、TaMoN膜の[Mo]/[Ta+Mo]を0.15以上とすることにより、EUV光の波長に対する屈折率[n]が0.95以下とすることができることがわかる。
【0054】
このような消衰係数[k]および屈折率[n]を有するTaMoN薄膜は、より薄い範囲に膜厚を設定することができる。したがって、反射型マスク200が位相シフトマスクである場合に、位相シフトパターンである転写パターン4aが薄型化され、反射型マスク200のシャドウイング効果の発生を抑えることができる。
【0055】
-全体組成-
なお、以上のような薄膜4は、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、および窒素(N)の合計含有量が90原子%以上であることが好ましく、95原子%以上であるとより好ましく、合計含有量が100原子%であるとさらに好ましい。なお、この薄膜4が、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、および窒素(N)以外の材料を含有する場合、薄膜4に対して含有されていてもよい、その他材料は、例えばホウ素(B)、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)である。
【0056】
以上のような組成の薄膜4は、以降の実施例で説明するように、表面粗さおよび膜応力が小さく抑えられ、かつ耐洗浄性および紫外光および可視光に対するコントラストが十分であることが分かった。
【0057】
例えば、薄膜4は、膜厚50nm程度のものにおいて、表面粗さ[Sq](二乗平均平方根粗さ)=0.3[nm]未満のものとなる。この二乗平均平方根粗さ[Sq]は、テスト基板上に形成した薄膜に関し、原子間力顕微鏡(atomic force microscope:AFM)で一辺が1[μm]の四角形の領域を測定領域として測定した値である。なお、二乗平均平方根粗さ[Sq]は、ISO25178で規定されている面粗さを評価するパラメータであり、これまでISO4287、JIS B0601で規定されていた二次元的な表面性状を表す線方向の二乗平均平方根粗さ[Rq]を三次元(面)に拡張したパラメータである。このように表面粗さが小さい薄膜4は、結晶性が非晶質であり、エッチングによって薄膜4にパターンを形成したときのエッジラフネスを小さくすることができる。
【0058】
さらに薄膜4の膜応力は、この薄膜4を形成することによって生じるテスト基板の変形量が150[nm]以下となる。テスト基板の変形量は、薄膜4の表面形状と薄膜4を形成する前のテスト基板の表面形状との差分形状を算出し、その差分形状のテスト基板の中心を基準とする一辺が142[mm]の四角形の内側領域での最大高さと最小高さの差で表現されたものである。なお、テスト基板は、マスクブランク100の基板1と同様のSiO-TiO系ガラスからなるもので、両側の主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)のものである。このように膜応力が低い薄膜4をパターニングして得られる反射型マスク200の転写パターン4aは、形成位置精度が良好なパターンとなる。
【0059】
薄膜4の形成方法としては、公知の膜形成方法と同様のものを特に制限なく採用することができる。具体例としては、各種スパッタリング法、例えば、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、およびイオンビームスパッタリング法のほか、原子層堆積法(atomic layer deposition:ALD)法などが挙げられる。例えば、薄膜4をDCスパッタリング法で形成する場合、タンタル(Ta)とモリブデン(Mo)の混合ターゲットを用い、窒素ガス(N)をスパッタリングガスに用いたスパッタリング法によって成膜される。この際、ターゲットにおけるタンタル(Ta)とモリブデン(Mo)との比率、およびスパッタリングガスの流量、スパッタリングガス圧力等を調整した成膜により、上述した組成範囲を満たす薄膜4が得られる。なお、タンタル(Ta)ターゲットとモリブデン(Mo)ターゲットを成膜室内に設置し、両方のターゲットに同時に電圧を印加する、いわゆるコ・スパッタによって薄膜4を形成してもよい。
【0060】
ここで薄膜4が位相シフト膜として用いられる場合、薄膜4の膜厚は以下のような反射率となるように調整される。すなわち、反射型マスク200の転写パターン4aが位相シフトパターンである場合、この薄膜4は、位相シフト膜として構成される。このような薄膜4は、EUV光を吸収しつつ、パターン転写に悪影響がないレベルで一部のEUV光を反射させる。また、反射型マスク200における転写パターン4aの形成部においては、薄膜4が除去された開口部において保護膜3が露出した状態になっている。このため、反射型マスク200に照射されたEUV光は、薄膜4の表面と、薄膜4から露出している保護膜3を介して多層反射膜2とで反射される。
【0061】
そして、転写パターン4aが位相シフトパターンである場合、薄膜4は、薄膜4の表面におけるEUV光の反射光と、薄膜4が除去された開口部におけるEUV光の反射光とが、所望の位相差となるように、材質および膜厚が設定されている。この位相差は、130度から230度程度であり、180度近傍または220度近傍の反転した位相差の反射光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上にともなって解像度が上がり、露光量裕度、および焦点裕度等の露光に関する各種の裕度が拡がる。
【0062】
このような位相シフト効果を得るためには、パターンや露光条件にもよるが、薄膜4の表面におけるEUV光に対する相対反射率は、2%~40%であることが好ましく、6%~35%であることがより好ましく、15%~35%であることがさらに好ましく、15%~25%であることが特に好ましい。ここで転写パターン4aの相対反射率とは、薄膜4のない部分で反射されるEUV光を反射率100%としたときの、薄膜4から反射されるEUV光の反射率である。
【0063】
パターンや露光条件にもよるが、位相シフト効果を得るために、薄膜4(または位相シフトパターンとなる転写パターン4a)のEUV光に対する絶対反射率は、1%~30%であることが好ましく、2%~25%であることがより好ましく、このような絶対反射率が得られるように、膜厚が設定されていることとする。
【0064】
薄膜4の膜厚は、100nm未満が好ましく、90nm以下であることが好ましい。また、薄膜4の膜厚は、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であるとより好ましい。なお、以上のような薄膜4は、膜厚を調整することにより、バイナリーマスク用の吸収体膜としても用いることができる。さらに、薄膜4の上または下に1以上の別の薄膜を形成し、薄膜4と1以上の別の薄膜との積層構造で位相シフト膜やバイナリーマスク用の吸収体膜を構成してもよい。この場合、位相シフト膜や吸収体膜の全体膜厚に対する薄膜4の比率は、0.5以上であることが好ましい。
【0065】
<エッチングマスク膜5>
エッチングマスク膜5は、マスクブランク100における薄膜4の上に、または薄膜4の表面に接して設けられた層であって、薄膜4をパターニングする際にマスクパターンとなる膜である。このエッチングマスク膜5は、反射型マスク200が完成した段階においては除去されていてもよい。
【0066】
このようなエッチングマスク膜5の材料としては、エッチングマスク膜5に対する薄膜4のエッチング選択比が十分に高くなるような材料を用いる。エッチングマスク膜5に対する薄膜4のエッチング選択比は、1.5以上が好ましく、3以上が更に好ましい。
【0067】
本実施形態における薄膜4は、タンタル(Ta)-モリブデン(Mo)-窒素(N)を含むTaMoN薄膜であり、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]が0.15以上であって、塩素ガス(Cl)をエッチングガスとしたドライエッチングに対してエッチングレートが高い膜である。このため、エッチングマスク膜5の材料としては、塩素ガス(Cl)をエッチングガスとしたドライエッチングに対してエッチングレートが低い材料を用いることが好ましい。このような材料としては、クロム(Cr)を含有する材料を例示することができる。クロム(Cr)を含有する材料の具体例としては、例えば、クロムに、窒素、酸素、炭素およびホウ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料等が挙げられる。例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCNおよびCrBOCN等が挙げられる。クロムを含有する材料で形成されたエッチングマスク膜5は、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O)の混合ガスによるドライエッチングでパターニングできる。エッチングマスク膜5を除去するときのドライエッチングで薄膜4に与えるダメージを小さくすることができる。これらの材料については、本発明の効果が得られる範囲で、クロム以外の金属を含有させてもよい。このようなエッチングマスク膜5の成膜方法は、例えばマグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法により、クロム(Cr)のターゲットを使用して形成することができる。
【0068】
なお、反射型マスク200が完成した段階でエッチングマスク膜5のパターンが残存し、位相シフトパターンの一部または吸収体パターンの一部を構成する場合、エッチングマスク膜5は、ケイ素と酸素を含有する材料や、タンタルと酸素を含有する材料で形成してもよい。
【0069】
エッチングマスク膜5の膜厚は、転写パターンを精度よく薄膜4に形成するエッチングマスクとしての機能を得る観点から、2nm以上であることが望ましい。また、エッチングマスク膜5の膜厚は、マスクブランク100を加工して反射型マスク200を製造する際に、エッチングマスク膜5の上部に形成されるレジスト膜の膜厚を薄くする観点から、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であるとより好ましい。
【0070】
<導電膜10>
導電膜10は、露光装置に対して反射型マスク200を静電チャック方式によって取り付けるための膜である。このような静電チャック用の導電膜10に求められる電気的特性(シート抵抗)は通常100Ω/□(Ω/Square)以下である。導電膜10の形成方法は、例えばマグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法により、クロム(Cr)およびタンタル(Ta)等の金属および合金のターゲットを使用して形成することができる。
【0071】
導電膜10のクロム(Cr)を含む材料は、Crを含有し、更にホウ素(B)、窒素(N)、酸素(O)、および炭素(C)から選択した少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。
【0072】
導電膜10のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、またはこれらの何れかにホウ素、窒素、酸素および炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。
【0073】
導電膜10の厚さは、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されない。導電膜10の厚さは、通常10nmから200nmである。また、この導電膜10はマスクブランク100の裏面1b側の応力調整も兼ね備えている。すなわち、導電膜10は、主表面1a側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦なマスクブランク100および反射型マスク200が得られるように調整されている。
【0074】
<反射型マスクの製造方法>
図5は、本発明の反射型マスクの製造方法を示す製造工程図であって、図1に示したマスクブランク100を用いて図2に示した反射型マスク200を製造する手順を示す図である。以下、図5に基づいて反射型マスクの製造方法を説明する。
【0075】
先ず、図5(1)に示すように、マスクブランク100を用意する。このマスクブランク100は、図1を用いて説明したマスクブランク100であり、例えば薄膜4上に、エッチングマスク膜5が形成されたものである。ただし、マスクブランク100がエッチングマスク膜5を有していないものであれば、薄膜4上にエッチングマスク膜5を成膜する。その後、エッチングマスク膜5上に、例えばスピン塗布によってレジスト膜20を成膜する。なお、マスクブランク100は、レジスト膜20を備えている場合もあり、この場合にはレジスト膜20の成膜手順は不要である。
【0076】
次に、図5(2)に示すように、レジスト膜20に対してリソグラフィー処理を施すことにより、レジスト膜20をパターニングしてなるレジストパターン20aを形成する。このリソグラフィー処理においては、例えば電子線描画による露光と、現像処理、およびリンス処理を実施する。
【0077】
次に、図5(3)に示すように、レジストパターン20aをマスクとしてエッチングマスク膜5をエッチングし、エッチングマスクパターン5aを形成する。その後、レジストパターン20aをアッシングやレジスト剥離液などで除去する。
【0078】
次に、図5(4)に示すように、このエッチングマスクパターン5aをマスクとして、薄膜4をエッチングして転写パターン4aを形成する。この際、薄膜4は、窒素含有率[N]/[Ta+Mo]が0.15以上の、TaMoN薄膜である。そこで、エッチングガスとして塩素ガス(Cl)をエッチングガスに用いたドライエッチングを行う。このエッチングにおいては、ルテニウム(Ru)を含む材料または酸化シリコン(SiO)からなる保護膜3がエッチングストッパーとなり、多層反射膜2にエッチングダメージが加わることが防止される。
【0079】
以上の後には、エッチングマスクパターン5aを除去することにより、図2に示した反射型マスク200が得られる。なお、エッチングマスクパターン5aの除去には、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行う。このウェット洗浄においても、保護膜3によって多層反射膜2にダメージが加わることが防止される。
【0080】
以上の反射型マスク200の製造方法においては、エッチングレートが速い薄膜4のエッチングによって転写パターン4aが形成されるため、生産性の向上を図ることができる。また、薄膜4は、エッチングマスクパターン5aおよび保護膜3に対するエッチング選択比が高く保たれたエッチングによってパターニングされる。このため、エッチングマスクパターン5aの薄膜化による形状精度の向上、および微細化を図ることができる。さらに保護膜3の表面荒れを防止することも可能である。
【0081】
≪半導体デバイスの製造方法≫
本発明の半導体デバイスの製造方法は、先に説明した反射型マスク200を用い、基板上のレジスト膜に対して反射型マスク200の転写パターン4aを露光転写することを特徴としている。このような半導体デバイスの製造方法は、次のように行う。
【0082】
先ず、半導体デバイスを形成する基板を用意する。この基板は、例えば半導体基板であっても良いし、半導体薄膜を有する基板であっても良いし、さらにこれらの上部に微細加工膜が成膜されたものであっても良い。用意した基板上にレジスト膜を成膜し、このレジスト膜に対して、本発明の反射型マスク200を用いたパターン露光を行ない、反射型マスク200に形成された転写パターン4aをレジスト膜に露光転写する。この際、露光光としては、EUV光を用いることとする。
【0083】
以上の後、転写パターン4aが露光転写されたレジスト膜を現像処理してレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクにして基板の表層に対してエッチング加工を施したり不純物を導入する処理を行う。処理が終了した後には、レジストパターンを除去する。
【0084】
以上のような処理を実施し、さらに必要な加工処理を行うことにより、半導体デバイスを完成させる。
【0085】
以上のような半導体デバイスの製造においては、形状精度が良好な転写パターン4aを有する反射型マスク200を用いてEUV光を露光光としたパターン露光を行うことにより、基板上に初期の設計仕様を十分に満たす精度のレジストパターンを形成することができる。また、この反射型マスク200が、反射型位相シフトマスクである場合には、シャドウイング効果の発生が抑えられることにより、形状精度および位置精度の良好なレジストパターンを形成することができる。以上より、このレジスト膜のパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングして回路パターンを形成した場合、精度不足に起因する配線短絡や断線のない高精度の回路パターンを形成することができる。
【実施例0086】
次に、本発明を適用した実施例を説明する。図6は、実施例の薄膜の組成および薄膜の物性を示す図である。以下、先の図1および図6を参照しつつ実施例No.1-13を説明する。
【0087】
<実施例No.1-12>
実施例No.1-12のマスクブランク100を以下のように作成した。先ず両側の主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板であるSiO-TiO系ガラス基板を準備し基板1とした。基板1の両側主表面が平坦で平滑となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、およびタッチ研磨加工工程よりなる研磨を行った。
【0088】
次に、基板1における一方側の主表面を裏面1bとし、この裏面1b側にCrN膜からなる導電膜10をマグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により形成した。導電膜10は、Crターゲットを用いて、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスの混合ガス雰囲気で、20nmの膜厚となるように成膜した。
【0089】
次に、導電膜10が形成された裏面1b側と反対側を基板1の主表面1aとし、この主表面1a上に、多層反射膜2を形成した。基板1上に形成される多層反射膜2は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜2とするために、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)からなる周期多層反射膜とした。多層反射膜2は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、クリプトン(Kr)ガス雰囲気中でイオンビームスパッタリング法により基板1上にMo層およびSi層を交互に積層して形成した。先ず、Si膜を4.2nmの膜厚で成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの膜厚で成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜2を形成した。
【0090】
引き続き、Arガス雰囲気中で、RuRhターゲット(Ru:Rh=8:2 原子%比)を使用したRFスパッタリング法により、多層反射膜2の表面にRuRh膜からなる保護膜3を、2.6nmの膜厚となるように成膜した。
【0091】
次に、薄膜4として、TaMoN膜を形成した。この際、タンタル(Ta)ターゲットとモリブデン(Mo)ターゲットを用いたPVD装置において、窒素ガス(N)をスパッタリングガスに用いた反応性スパッタリング(コ・スパッタリング)により、50nmの膜厚となるように薄膜4を成膜した。また、実施例No.1-12の各薄膜4の成膜においては、ターゲットにおけるタンタル(Ta)とモリブデン(Mo)との比率、窒素ガス(N)の流量およびガス圧力を調整することにより、図6に示した各組成の薄膜4を得た。なお、各薄膜4の組成は、RBS(Rutherford Backscattering Spectrometry)による元素分析によって得た値である。
【0092】
<実施例No.13>
実施例No.1-12のマスクブランク100の製造手順に対し、薄膜4としてタンタル(Ta)-モリブデン(Mo)合金の薄膜を成膜したことのみが異なる。この際、アルゴンガス雰囲気中においてタンタル(Ta)ターゲットとモリブデン(Mo)ターゲットを用いたコ・スパッタリングにより、膜厚50nmのタンタル(Ta)-モリブデン(Mo)合金の薄膜を成膜した。タンタル(Ta)-モリブデン(Mo)合金の薄膜の組成は、RBSによる元素分析によって得た値である。
【0093】
≪各マスクブランクにおける薄膜の評価≫
実施例No.1-13で作成したマスクブランクの薄膜を、基板上に直接成膜し、成膜した各薄膜の物性を評価した。基板は、マスクブランクの作成に用いた基板と同様の基板を用いた。
【0094】
<エッチングレート>
実施例No.1-13の各薄膜について、各薄膜のエッチングレートを測定した。エッチングレートは、マスクブランクを加工して反射型マスクを作成する場合に、薄膜4のエッチャントとして用いられる塩素ガス(Cl)雰囲気に薄膜4を晒した状態においての薄膜のエッチング速度を測定した。その結果は、実施例No.13のタンタル(Ta)-モリブデン(Mo)合金の薄膜のエッチングレートを1とした場合のエッチングレート比として、図3に示した通りである。
【0095】
先に図3を用いて説明したように、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]が0.15以上の実施例No.3-12(図6参照)のTaMoN薄膜は、塩素ガス(Cl)をエッチングガスとして用いたドライエッチングにおけるエッチングレート比が1.5以上であり、TaMo合金のエッチングレートの1.5倍以上となることがわかる。
【0096】
<屈折率および消衰係数>
実施例No.1-12の各薄膜について、屈折率[n]および消衰係数[k]を算出した。また、参考例として、基板上にスパッタ法でTaBN膜(原子%比で、Ta:B:N=70:15:15の薄膜(すなわち、[Mo]/[Ta+Mo]=0の薄膜)を形成し、屈折率[n]と消衰係数[k]を算出した。その結果は、実施例No.1-12および参考例の各薄膜におけるモリブデン含有比[Mo]/[Ta+Mo]と、屈折率および消衰係数との関係として、図4に示した通りである。
【0097】
図4に示したように、モリブデン含有比[Mo]/[Ta+Mo]が0.5以下の実施例No.1-12(図6参照)のTaMoN膜は、EUV光の波長に対する消衰係数[k]が0.02以上に保たれることがわかる。また、参考例のTaBN膜([Mo]/[Ta+Mo]=0の薄膜)以外の実施例No.1-12のTaMoN膜は、EUV光の波長に対する屈折率[n]が0.955以下に保たれている。このようなTaMoN薄膜は、より薄い範囲に膜厚を設定することができ、反射型マスク200が位相シフトマスクである場合に、位相シフトパターンである転写パターン4aを薄型化できるため、反射型マスク200のシャドウイング効果の発生を抑えることができる。
【0098】
<表面粗さ>
実施例No.1-13の各薄膜について表面粗さを測定し、その結果を図6に合わせて示した。表面粗さ[Sq](二乗平均平方根粗さ)は、先にも説明したようにAFMにより一辺が1[μm]の四角形の領域を測定領域として測定した値である。図6に示すように、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]≧0.15である実施例No.3-12のTaMoN薄膜は、表面粗さ[Sq](二乗平均平方根粗さ)が0.3[nm]未満に抑えられていることが確認された。
【0099】
<結晶性>
実施例No.1-13の各薄膜についてXRD(X‐ray diffraction)による結晶性の評価を実施し、その結果を図6に合わせて示した。図6に示すように、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]≧0.15である実施例No.3-12のTaMoN薄膜は、非晶質であることが確認された。
【0100】
<膜応力>
実施例No.1-No.13の各薄膜について膜応力を測定し、その結果を図6に合わせて示した。膜応力は、薄膜の表面形状と薄膜を形成する前の基板の表面形状との差分形状を算出し、その差分形状の基板の中心を基準とする一辺が142[mm]の四角形の内側領域での最大高さと最小高さの差(基板そり量)として表現した。なお、各表面形状の測定は、表面形状測定装置 UltraFLAT200M(Corning TROPEL社製)を用いた。
【0101】
図6に示すように、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]≧0.15である実施例No.3-12のTaMoN薄膜は、膜応力(基板反り量)が150[nm]以下に抑えられていることが確認された。
【0102】
<SPM減膜速度>
実施例No.1-3,7-11,13の各薄膜のSPM減膜速度を、洗浄耐性として2回の洗浄について測定し、その結果を図6に合わせて示した。この場合、SPM洗浄液に対し、薄膜を所定時間だけ晒して洗浄した後の薄膜の減膜量(SPM減膜量)を測定し、2回の洗浄についての各SPM減膜速度を算出した。
【0103】
図6に示すように、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]≧0.15である実施例No.3-12のTaMoN薄膜のSPM減膜速度は、1回目および2回目の洗浄とも、実施例No.13のTaMo合金薄膜の1回目の洗浄におけるSPM減膜速度よりも遅かった。これにより、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]≧0.15のTaMoN薄膜が、十分なSPM耐性を有することが確認された。
【0104】
<コントラスト>
実施例No.2,7-11,13の各薄膜について、波長193nmの紫外光および波長405nmの可視光に対するコントラストを評価した。ここでは、保護膜3を備える多層反射膜2と各薄膜とのコントラストを測定した。この結果、窒素含有比[N]/[Ta+Mo]≧0.15である実施例No.7-11のTaMoN薄膜のコントラストは、実施例No.13のTaMo合金薄膜のコントラストより高く、紫外光および可視光を検査光とした正確な検査が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0105】
1…基板
1a…主表面
2…多層反射膜
3…保護膜
4…薄膜
4a…転写パターン
100 マスクブランク
200 反射型マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6