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特開2022-188995金属樹脂複合体を製造するための金型、装置、および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188995
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】金属樹脂複合体を製造するための金型、装置、および方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/36 20060101AFI20221215BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20221215BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B29C43/36
B29C43/18
B29C43/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097316
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 憲一
(72)【発明者】
【氏名】伊原 涼平
(72)【発明者】
【氏名】山口 善三
【テーマコード(参考)】
4F202
4F204
【Fターム(参考)】
4F202AC03
4F202AD03
4F202AD08
4F202AD16
4F202AG03
4F202AR12
4F202CA09
4F202CB01
4F202CB12
4F202CK12
4F202CK83
4F202CQ05
4F204AA36
4F204AC03
4F204AD03
4F204AD08
4F204AD16
4F204AG03
4F204AG28
4F204AJ08
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB11
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F204FN17
(57)【要約】
【課題】1組の金型により金属樹脂複合体を製造するための金型、装置、および方法において、金属部材の成形精度を向上する。
【解決手段】金属部材10をプレス成形し、プレス成形された金属部材10と樹脂材とを一体成形して金属樹脂複合体を製造するための金型100は、金属部材10および樹脂材を挟み込む上型110および下型120を備える。上型110は、金属部材10をプレス成形するための第1プレス面111aと、金属部材10と樹脂材とを一体成形するための第2プレス面111bとを備える。第1プレス面111aと下型120との間の距離d11は、第2プレス面111bと下型120との間の距離d12よりも短い。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材をプレス成形し、プレス成形された前記金属部材と樹脂材とを一体成形して金属樹脂複合体を製造するための金型であって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備え、
前記上型は、
前記金属部材をプレス成形するための第1プレス面と、
前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面と
を備え、
前記金属部材をプレス成形するときに、前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、金型。
【請求項2】
前記上型と前記下型が閉じられた状態において、前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、少なくとも部分的に前記金属部材の厚みと等しく設定されている、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記金属樹脂複合体は、長手方向に垂直な断面において、水平方向に延びた底壁部と、前記底壁部の両端から立ち上がる側壁部とを有し、
前記上型は、
前記第1プレス面と前記第2プレス面とを含み、前記底壁部を成形する第1成形上面と、
前記側壁部を成形する第2成形上面と
を備え、
前記第1プレス面は、前記第2成形上面と連なって設けられている、請求項1又は2に記載の金型。
【請求項4】
前記第1プレス面は、前記長手方向に沿って断続的に複数配置されている、請求項3に記載の金型。
【請求項5】
前記上型は、
前記第2プレス面が形成された上型本体と、
前記第1プレス面が形成され、前記上型本体に対して移動可能に取り付けられた可動部と
を備え、
前記可動部は、前記第1プレス面が前記第2プレス面よりも前記下型に近い突出位置と、前記第1プレス面と前記第2プレス面とが面一である退避位置とに移動可能である、請求項1から4のいずれか1項に記載の金型。
【請求項6】
金属部材をプレス成形し、プレス成形された前記金属部材と樹脂材とを一体成形して金属樹脂複合体を製造するための装置であって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型と、
前記上型および前記下型の少なくとも一方を鉛直方向に移動させる駆動部と
を備え、
前記上型は、
前記金属部材をプレス成形するための第1プレス面と、
前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面と
を備え、
前記金属部材をプレス成形するときに、前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、装置。
【請求項7】
金属部材をプレス成形し、プレス成形された前記金属部材と樹脂材とを一体成形して金属樹脂複合体を製造するための方法であって、
前記金属部材をプレス成形するための第1プレス面と、前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面とを有する上型と、下型とを準備し、
前記上型と前記下型とを閉じて、前記上型の前記第1プレス面と前記下型とによって前記金属部材をプレス成形し、
前記上型と前記下型とを開いて、プレス成形された前記金属部材の上に前記樹脂材を配置し、
前記上型と前記下型とを閉じて、前記上型の前記第2プレス面と前記下型とによって前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形する
ことを含み、
前記金属部材をプレス成形するときに、前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属樹脂複合体を製造するための金型、装置、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材および熱硬化性を有する樹脂材をプレス成形して金属樹脂複合体を製造するための装置が知られている(例えば特許文献1)。上記金属樹脂複合体は、上記装置とは別のプレス装置によって予めプレス成形された金属部材と、樹脂材とを上記装置によりプレス成形することで一体に成形される。つまり、上記金属樹脂複合体の製造には、金属部材をプレス成形するための金型と、金属部材と樹脂材とを一体に成形するための金型とを使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-104411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記金属樹脂複合体を1組の金型を用いて成形する場合、金属部材を所定の形状にプレス成形した後、金属部材のプレス成形に用いた金型を使用して金属部材と樹脂材とをプレス成形する。この場合、金型のキャビティは、金属樹脂複合体の形状、つまり金属部材と樹脂材とが一体成形された最終形状に合わせて設計されるため、下型に沿った金属部材のプレス成形が難しく、金属部材の成形精度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、1組の金型により金属樹脂複合体を製造するための金型、装置、および方法において、金属部材の成形精度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
金属部材をプレス成形し、プレス成形された前記金属部材と樹脂材とを一体成形して金属樹脂複合体を製造するための金型であって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型を備え、
前記上型は、
前記金属部材をプレス成形するための第1プレス面と、
前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面と
を備え、
前記金属部材をプレス成形するときに、前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、金型を提供する
【0007】
金属部材のプレス成形と、金属部材と樹脂材との一体成形とを1組の金型で行う場合において、上型の成形面と下型の成形面とが、上型と下型とが閉じた状態で、金属部材と樹脂材との厚みの分だけ離間している金型を用いると、金属部材を上型の成形面と下型の成形面により押圧することができず、金属部材を下型の成形面の形状に沿わせて成形できない。これに対して、この構成によれば、金属部材を成形するための第1プレス面と下型との間の距離が、金属部材と樹脂材とを一体成形するための第2プレス面と下型との間の距離よりも短いため、金属部材のプレス成形時に金属部材が下型の形状に沿いやすくなる。その結果、金属部材の成形精度を向上できる。
【0008】
前記上型と前記下型が閉じられた状態において、前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、少なくとも部分的に前記金属部材の厚みと等しく設定されてもよい。
【0009】
ここで、「等しく」とは設計上の設定である。また、「等しく」とは、厳密な意味で等しい場合に限定されない。つまり、第1プレス面と下型との間の距離が金属部材の厚みと厳密に等しくなっている必要はない。「等しく」とは、厳密な意味での「等しく」と、金属部材の成形精度が許容される範囲内で厳密な意味での「等しく」から若干ずれた形態とを含む。
【0010】
この構成によれば、第1プレス面と下型との間の距離が少なくとも部分的に金属部材の厚みと等しく設定されるので、金属部材を下型の成形面の形状に沿って成形できる。その結果、金属部材の成形精度を向上できる。
【0011】
前記金属樹脂複合体は、長手方向に垂直な断面において、水平方向に延びた底壁部と、前記底壁部の両端から立ち上がる側壁部とを有し、前記上型は、前記第1プレス面と前記第2プレス面とを含み、前記底壁部を成形する第1成形上面と、前記側壁部を成形する第2成形上面とを備え、前記第1プレス面は、前記第2成形上面と連なって設けられていてもよい。
【0012】
この構成によれば、金属樹脂複合体の底壁部と側壁部とが形成する角部の周辺を第1プレス面により押圧できるので、前記角部の成形精度を向上できる。
【0013】
前記第1プレス面は、前記長手方向に沿って断続的に複数配置されていてもよい。
【0014】
この構成によれば、第1プレス面が長手方向に沿って断続的に複数配置されているので、金属部材と樹脂材とを一体成形するときに、樹脂材は、第1プレス面が配置されていない部分を通って第2成形上面と金属部材との間に流れ込む。これにより、金属部材と樹脂材とが一体成形された側壁部を成形できる。
【0015】
前記上型は、前記第2プレス面が形成された上型本体と、前記第1プレス面が形成され、前記上型本体に対して移動可能に取り付けられた可動部とを備え、前記可動部は、前記第1プレス面が前記第2プレス面よりも前記下型に近い突出位置と、前記第1プレス面と前記第2プレス面とが面一である退避位置とに移動可能であってもよい。
【0016】
この構成によれば、可動部が突出位置にある状態で金属部材をプレス成形し、可動部が退避位置にある状態で金属部材と樹脂材とを一体成形することで、成形された金属樹脂複合体において樹脂材が除去された部分が形成されず、金属樹脂複合体の強度の低下を抑制できる。
【0017】
本発明の第2の態様は、
金属部材をプレス成形し、プレス成形された前記金属部材と樹脂材とを一体成形して金属樹脂複合体を製造するための装置であって、
前記金属部材および前記樹脂材を挟み込む上型および下型と、
前記上型および前記下型の少なくとも一方を鉛直方向に移動させる駆動部と
を備え、
前記上型は、
前記金属部材をプレス成形するための第1プレス面と、
前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面と
を備え、
前記金属部材をプレス成形するときに、前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、装置を提供する。
【0018】
金属部材のプレス成形と、金属部材と樹脂材との一体成形とを1組の金型で行う場合において、上型の成形面と下型の成形面とが、上型と下型とが閉じた状態で、金属部材と樹脂材との厚みの分だけ離間している金型を用いると、金属部材を上型の成形面と下型の成形面により押圧することができず、金属部材を下型の成形面の形状に沿わせて成形できない。これに対して、この構成によれば、金属部材を成形するための第1プレス面と下型との間の距離が、金属部材と樹脂材とを一体成形するための第2プレス面と下型との間の距離よりも短いため、金属部材のプレス成形時に金属部材が下型の形状に沿いやすくなる。その結果、金属部材の成形精度を向上できる。
【0019】
本発明の第3の態様は、
金属部材をプレス成形し、プレス成形された前記金属部材と樹脂材とを一体成形して金属樹脂複合体を製造するための方法であって、
前記金属部材をプレス成形するための第1プレス面と、前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形するための第2プレス面とを有する上型と、下型とを準備し、
前記上型と前記下型とを閉じて、前記上型の前記第1プレス面と前記下型とによって前記金属部材をプレス成形し、
前記上型と前記下型とを開いて、プレス成形された前記金属部材の上に前記樹脂材を配置し、
前記上型と前記下型とを閉じて、前記上型の前記第2プレス面と前記下型とによって前記金属部材と前記樹脂材とを一体成形する
ことを含み、
前記金属部材をプレス成形するときに、前記第1プレス面と前記下型との間の距離は、前記第2プレス面と前記下型との間の距離よりも短い、方法を提供する。
【0020】
金属部材のプレス成形と、金属部材と樹脂材との一体成形とを1組の金型で行う場合において、上型の成形面と下型の成形面とが、上型と下型とが閉じた状態で、金属部材と樹脂材との厚みの分だけ離間している金型を用いると、金属部材を上型の成形面と下型の成形面により押圧することができず、金属部材を下型の成形面の形状に沿わせて成形できない。これに対して、この構成によれば、金属部材を成形するための第1プレス面と下型との間の距離が、金属部材と樹脂材とを一体成形するための第2プレス面と下型との間の距離よりも短いため、金属部材のプレス成形時に金属部材が下型の形状に沿いやすくなる。その結果、金属部材の成形精度を向上できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、1組の金型により金属樹脂複合体を製造するための金型、装置、および方法において、金属部材の成形精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係る金属樹脂複合体の斜視図。
図2図1のII-II線に沿った断面図。
図3】第1実施形態に係る上型の斜視図。
図4】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第1工程を示す断面図。
図5】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第2工程を示す断面図。
図6】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第3工程を示す断面図。
図7】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第4工程を示す断面図。
図8】第1実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第5工程を示す断面図。
図9】第2実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第1工程を示す断面図。
図10】第2実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第2工程を示す断面図。
図11】第2実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第3工程を示す断面図。
図12】第2実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第4工程を示す断面図。
図13】第2実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第5工程を示す断面図。
図14】第2実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第6工程を示す断面図。
図15】第2実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第7工程を示す断面図。
図16】第3実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第1工程を示す断面図。
図17】第3実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第2工程を示す断面図。
図18】第3実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第3工程を示す断面図。
図19】第3実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第4工程を示す断面図。
図20】第3実施形態における金属樹脂複合体を製造するための方法の第5工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態として、金属樹脂複合体を製造するための金型、装置、および方法について説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1及び図2を参照して、本実施形態で製造される金属樹脂複合体1は、金属板(金属部材)10と、樹脂材20とを含んでいる。図2に示すように、金属樹脂複合体1は、長手方向に垂直な断面においてハット形をしている。詳細には、ハット形状を有する金属板10の内面(凹面)に樹脂材20が固着されることによって金属樹脂複合体1が構成されている。ただし、金属樹脂複合体1の形状は、ハット形に限定されず、任意の形状であり得る。
【0025】
金属樹脂複合体1は、水平方向に延びる底壁部2と、底壁部2の両端から立ち上がる側壁部3と、側壁部3から水平方向外側に延びるフランジ部4とを有している。また、側壁部3では、底壁部2からフランジ部4に向かって樹脂材20の厚みが減少する段差部3aが設けられている。底壁部2は金属板10と樹脂材20とからなり、側壁部3は金属板10と樹脂材20とからなり、フランジ部4は金属板10のみからなる。より詳細には、側壁部3は、段差部3aよりも底壁部2側では、金属板10と樹脂材20とからなり、段差部3aよりもフランジ部4側では、金属板10のみからなる。
【0026】
図1に示すように、底壁部2には、8つ(図1では5つのみ示す)の穴2aが設けられている。穴2aは、樹脂材20が存在しない空間である。穴2aは、底壁部2の短手方向の両端に4つずつ設けられている。また、穴2aは、底壁部2の長手方向に沿って断続的に並んでいる。より詳細には、穴2aは、底壁部2の長手方向に沿って等間隔に並んで配置されている。
【0027】
図3~8を参照して、本実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための金型100、装置50、および方法について説明する。図面では、水平方向をX方向として示し、鉛直方向(上下方向)をY方向として示す。
【0028】
本実施形態では、図4~8に示す第1~5工程を順に実行する中で2回のプレス成形を実行する。図4~6に示す第1~3工程で1回目のプレスを実行し、図6~8に示す第3~5工程で2回目のプレスを実行する。
【0029】
図4を参照すると、本実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための装置50は、金型100と、金型100を駆動する駆動部130と、金型を加熱する加熱部140とを有している。なお、駆動部130および加熱部140は、プレス成形を実行可能な公知のものを使用でき、詳細を図示することなく概念図として図4にのみ示し、図5以降での図示を省略する。
【0030】
金型100は、金属板10および樹脂材20をプレス成形して金属樹脂複合体1を製造するものである。金型100は、金属板10および樹脂材20を挟み込む上型110と下型120とを有している。本実施形態では、上型110がパンチとして構成され、下型120がダイとして構成されている。上型110は駆動部130によって鉛直方向に移動可能であり、即ち下型120に対して接近および離反可能に構成されている。ただし、駆動部130による金型100の駆動態様については特に限定されず、駆動部130は上型110および下型120の少なくとも一方を鉛直方向に移動させるものであり得る。
【0031】
図3及び図4を併せて参照すると、上型110は、底壁部2(図1参照)を成形する第1成形上面111と、側壁部3(図1参照)を成形する第2成形上面112と、フランジ部4(図1参照)を成形する第3成形上面113とを有している。本実施形態では、第1成形上面111および第3成形上面113は水平面として構成されており、第2成形上面112は第1成形上面111および第3成形上面113を接続するとともに鉛直方向から傾斜して構成されている。
【0032】
本実施形態では、上型110には、第1成形上面111から下方に突出した8つの突起部114が設けられている。突起部114は、第1成形上面111の短手方向の両端に4つずつ設けられている。また、突起部114は、上型110の長手方向に沿って断続的に並んでいる。より詳細には、突起部114は、上型110の長手方向に沿って等間隔に並んで配置されている。
【0033】
第1成形上面111は、突起部114の下側の端部に設けられた第1プレス面111aと、突起部114よりも上方に設けられた第2プレス面111bとを備える。第1プレス面111aおよび第2プレス面111bは、水平面として構成されている。また、第1プレス面111aおよび第2プレス面111bはともに第2成形上面112と連なって設けられている。
【0034】
本実施形態では、第2成形上面112に段差112aが設けられている。段差112aは、第1成形上面111から第3成形上面113に向かって一段上がるように設けられている。
【0035】
下型120は、底壁部2(図1参照)を成形する第1成形下面121と、側壁部3(図1参照)を成形する第2成形下面122と、フランジ部4(図1参照)を成形する第3成形下面123とを有している。本実施形態では、第1成形下面121および第3成形下面123は水平面として構成されており、第2成形下面122は第1成形下面121および第3成形下面123を接続するとともに鉛直方向から傾斜して構成されている。第1成形下面121は第1成形上面111と対向して配置され、第2成形下面122は第2成形上面112と対向して配置され、第3成形下面123は第3成形上面113と対向して配置されている。
【0036】
図4に示す第1工程では、成形前の平板状の金属板10を下型120の上に載置する。
【0037】
図5に示す第2工程では、上型110を下降させ、金属板10を上型110と下型120とによって挟み込んで概ねハット形にプレス成形する。上型110と下型120が閉じられた状態において、第1成形上面111の第1プレス面111aと第1成形下面121との間の距離d11は、金属板10の厚みtに対して、等しい(d11=t)。距離d11を金属板10の厚みtに対して等しく設定することで、金属板10の成形精度を向上できる。また、第1成形上面111の第2プレス面111bと第1成形下面121との間の距離d12は金属板10の厚みtよりも大きく(d1>t)、第3成形上面113と第3成形下面123との間の距離d3は金属板10の厚みtと概略等しい(d3=t)。また、段差112aの下方における第2成形上面112と第2成形下面122との間の距離d21は金属板10の厚みtよりも大きく(d21>t)、段差112aの上方における第2成形上面112と第2成形下面122との間の距離d22は金属板10の厚みtに対して概略等しいかまたはわずかに大きい(d22=tまたはd22>t)。特に、距離d22を金属板10の厚みtに対して等しく設定することで、後工程における樹脂材20の充填圧を高めることができる。なお、本工程では、樹脂材20(図4~7参照)は未だ充填されておらず、金属板10のみを上型110と下型120とによって挟み込む。第1~2成形上面111~112と第1~2成形下面121~122(詳細には金属板10)との間には、樹脂材20を充填するためのキャビティCが設けられている。
【0038】
図6に示す第3工程では、上型110を上昇させる。このとき、金属板10は最終形状(本実施形態ではハット形)に近い形状に成形されている。そして、金属板10上には必要な寸法に裁断したシート状の樹脂材20(プリプレグともいう。)を載置する。本実施形態では、SMC(Sheet Molding Compound)法と称される成形法によって、当該樹脂材20を高温高圧下で硬化させる(後述する第4工程参照)。本実施形態では、樹脂材20として、樹脂にガラス繊維や炭素繊維を含侵させた繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastic)を使用する。また、本実施形態では、樹脂材20は、熱硬化性を有している。本工程では、樹脂材20は未だ加熱されておらず、即ち硬化していない。なお、樹脂材20は、シート状である必要はなく、任意の形状をとり得る。
【0039】
図7に示す第4工程では、上型110を下降させ、金属板10と樹脂材20とを上型110と下型120とによって挟み込んでハット形にプレス成形する。このとき、キャビティCには樹脂材20が充填される。即ち、SMC法によって、必要な寸法に裁断した樹脂材20を金型100に投入し、高温高圧下で硬化させる。本実施形態では、キャビティCは、上型110と下型120(詳細には金属板10)とによって挟み込まれて形成される段差112aより下方の空間をいう。
【0040】
キャビティCに樹脂材20が充填されるとき、樹脂材20は、上型110の突起部114(図3に示す)と突起部114との間を通って、第2成形上面112と第2成形下面122との間の空間に流れ込む。これにより、側壁部3(図2に示す)に樹脂材20が含まれるとともに、底壁部2(図1に示す)には、突起部114に対応する位置に穴2a(図1に示す)が形成される。
【0041】
図8に示す第5工程では、上型110を上昇させる。金属板10は、最終形状(本実施形態ではハット形)に成形され、金属板10の上面(ハット形の凹面)には樹脂材20が固着され、金属樹脂複合体1が形成されている。このようにして、製品としてのハット形の金属樹脂複合体1が製造される。
【0042】
金属板10のプレス成形と、金属板10と樹脂材20との一体成形とを1組の金型で行う場合において、上型の成形面と下型の成形面とが、上型と下型とが閉じた状態で、金属板10と樹脂材20との厚みの分だけ離間している金型を用いると、金属板10を上型の成形面と下型の成形面とより押圧することができず、金属板10を下型の成形面の形状に沿わせて成形できない。これに対して、本実施形態によれば、金属板10を成形するための第1プレス面111aが、金属板10と樹脂材20とを一体成形するための第2プレス面111bよりも下型に近いので、金属板10のプレス成形時に金属板10が下型120の形状に沿いやすくなる。その結果、金属板10の成形精度を向上できる。
【0043】
第1プレス面111aと下型120の第1成形下面121との間の距離d11が少なくとも部分的に金属板10の厚みtと等しく設定されるので、金属板10を下型120の第1成形下面121の形状に沿って成形できる。その結果、金属板10の成形精度を向上できる。
【0044】
第1プレス面111aが第2成形上面112と連なって設けられているため、金属樹脂複合体1の底壁部2と側壁部3とが形成する角部の周辺を第1プレス面111aにより押圧できるので、前記角部の成形精度を向上できる。
【0045】
第1プレス面111aが長手方向に沿って断続的に複数配置されているので、金属板10と樹脂材20とを一体成形するときに、樹脂材20は、第1プレス面111aが配置されていない部分を通って第2成形上面112と金属板10との間に流れ込む。これにより、金属板10と樹脂材20とが一体成形された側壁部3を成形できる。
【0046】
本実施形態の金型100で製造された金属樹脂複合体1の底壁部2には、突起部114に対応する位置に穴2aが形成されるため、金属樹脂複合体1の軽量化を図れる。また、底壁部2において穴2aが形成された部分では、樹脂材20を排除することなく金属板10に対して穴開け加工等を施すことができる。
【0047】
(第2実施形態)
図9~15を参照して、第2実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための金型100、装置50、および方法について説明する。
【0048】
図9~15に示す本実施形態では、上型110が分離したパンチ110aおよびホルダー110bを有している。これに関する以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
【0049】
本実施形態では、上型110は、金属板10を押さえるためのホルダー110bと、成形するためのパンチ110aとを有している。ホルダー110bおよびパンチ110aは、駆動部130(図2参照)によって独立して鉛直方向に移動可能となっている。
【0050】
本実施形態では、図9~15に示す第1~7工程を順に実行する中で2回のプレス成形を実行する。図9~12に示す第1~4工程で1回目のプレスを実行し、図12~15に示す第4~7工程で2回目のプレスを実行する。
【0051】
図9~12に示す第1~4工程の1回目のプレスにおいて、第1実施形態と異なり、ホルダー110bがパンチ110aよりも先に下降して金属板10を押さえる。次いで、パンチ110aが下降して金属板10をプレス成形する。本実施形態の第1~4工程は、このようにパンチ110aとホルダー110bの独立駆動以外については第1実施形態の第1~3工程と実質的に同じである。
【0052】
図12~15に示す第4~7工程の2回目のプレスにおいても第1実施形態と異なり、ホルダー110bがパンチ110aよりも先に下降して金属板10を押さえる。次いで、パンチ110aが下降して金属板10をプレス成形する。本実施形態の第4~7工程は、このようにパンチ110aとホルダー110bの独立駆動以外については第1実施形態の第3~5工程と実質的に同じである。
【0053】
(第3実施形態)
図16~20を参照して、第3実施形態における金属樹脂複合体1を製造するための金型100、装置50、および方法について説明する。
【0054】
図16~20に示す本実施形態では、上型110が上型本体115および可動部116有している。これに関する以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
【0055】
本実施形態では、上型110は、第2プレス面111bが形成された上型本体115と、第1プレス面111aが形成され、上型本体115に対して移動可能に取り付けられた可動部116とを有している。可動部116は、図示しないシリンダによって、第1プレス面111aが第2プレス面111bよりも下型120に近い突出位置と、第1プレス面111aと第2プレス面111bとが面一である退避位置とに移動可能である。
【0056】
本実施形態では、図16~20に示す第1~5工程を順に実行する中で2回のプレス成形を実行する。図16~18に示す第1~3工程で1回目のプレスを実行し、図18~20に示す第3~5工程で2回目のプレスを実行する。
【0057】
図16~18に示す第1~4工程の1回目のプレスにおいて、本実施形態では、可動部116が突出位置にある状態で、金属板10をプレス成形する。本実施形態の第1~3工程は、第1実施形態の第1~3工程と実質的に同じである。
【0058】
図18~20に示す第3~5工程の2回目のプレスにおいて、第1実施形態と異なり、可動部116が退避位置にある状態で、金属板10および樹脂材20をプレス成形する。本実施形態の第2~5工程は、可動部116の移動以外については第1実施形態の第3~5工程と実質的に同じである。
【0059】
本実施形態によれば、可動部116が突出位置にある状態で金属板10をプレス成形し、可動部116が退避位置にある状態で金属板10と樹脂材20とを一体成形することで、成形された金属樹脂複合体1において樹脂材20が除去された部分が形成されず、金属樹脂複合体1の強度の低下を抑制できる。
【0060】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態や変形例の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【0061】
また、樹脂材20として熱可塑性樹脂にガラス繊維または炭素繊維を含侵させたものを使用してもよい。この場合、樹脂材20を加熱して軟化させた状態で金型100に投入する。そして、金型100内において金属板10上で冷却して硬化させることで金属樹脂複合体1を製造する。
【0062】
上型110の第1プレス面111aは、第1成形上面111の短手方向の両端に設けられていたが、これに限定されない。例えば、第1プレス面111aは、第1成形上面111の中央部に設けられてもよい。この場合、底壁部2の中央部における成形精度を向上できる。また、例えば、第1プレス面111aは、金属樹脂複合体1の一体成形後に金属板10への穴開け加工等が必要になる部分に対応する箇所に設けられてもよい。この場合、当該部分において、樹脂材20を排除することなく、金属板10に穴開け加工等を施すことができる。
【0063】
金属樹脂複合体1において、金属板10と樹脂材20との間に接着層を設けてもよい。この場合、接着層を設けることで、金属部材10と樹脂材20とを強固に一体成形することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 金属樹脂複合体
2 底壁部
3 側壁部
3a 段差部
4 フランジ部
10 金属板(金属部材)
20 樹脂材
50 装置
100 金型
110 上型
110a パンチ
110b ホルダー
111 第1成形上面
111a 第1プレス面
111b 第2プレス面
112 第2成形上面
112a 段差
113 第3成形上面
115 上型本体
116 可動部
120 下型
121 第1成形下面
122 第2成形下面
123 第3成形下面
130 駆動部
140 加熱部
C キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20