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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189009
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】絶縁通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04L 25/02 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
H04L25/02 303Z
H04L25/02 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097332
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一央
【テーマコード(参考)】
5K029
【Fターム(参考)】
5K029DD24
5K029HH08
5K029JJ00
5K029LL02
5K029LL15
(57)【要約】
【課題】正しく送信されているか誤送信であるかを正確に判断できるようにした絶縁通信システムを提供する。
【解決手段】送信部2は、非反転バッファ5及び反転バッファ6を並列接続して構成され差動パルスを差動伝送路Kに送信する。絶縁伝送部4は、キャパシタ8、9によるカップリングを含む微分回路15を差動伝送路Kに構成すると共に差動パルスを微分回路15により成形した微分信号を伝送する。受信部3は、絶縁伝送部4を通じて差動伝送路Kから信号を受信する。RSフリップフロップ20は、一対のコンパレータ16、17の出力パルスをそれぞれ復調パルスのセット・リセットとして入力し送信部2から送信された差動パルスを復調する。クランプ回路24、25は、一対のコンパレータ16、17の入力にそれぞれ接続され当該一対のコンパレータ16、17の入力電圧を同相入力電圧範囲Vhに抑制する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非反転バッファ(5)及び反転バッファ(6)を並列接続して構成され差動パルスを差動伝送路に送信する送信部(2)と、
キャパシタ(8、9)によるカップリングを含む微分回路(15)を前記差動伝送路に構成すると共に前記差動パルスを前記微分回路により成形された微分信号を伝送する絶縁伝送部(4)と、
前記絶縁伝送部を通じて前記差動伝送路から信号を受信する受信部(3;203;303;403;603;703;803)と、を備え、
前記受信部は、前記差動伝送路から信号を入力して一方から他方及び他方から一方の差分が所定値に達するか否かを判定する一対のコンパレータ(16、17)と、前記微分信号を受信すると前記一対のコンパレータにより前記所定値に達したと判定されたパルスをそれぞれ復調パルスのセット・リセットとして前記送信部から送信された前記差動パルスを復調する復調部(20)と、を備え、
前記一対のコンパレータの入力にそれぞれ接続され当該一対のコンパレータの入力電圧を同相入力電圧範囲内に抑制するクランプ回路(24、25)を備える絶縁通信システム。
【請求項2】
前記クランプ回路は、
前記一対のコンパレータの同相入力電圧範囲に基づいて設定されたクランプ電圧をそれぞれ出力する定電圧回路(40、43)と、
前記定電圧回路のクランプ電圧出力ノードと前記一対のコンパレータの入力との間にそれぞれ接続された一方向通電部(41、42、44、45;50~53;60~63)と、
を備える請求項1記載の絶縁通信システム。
【請求項3】
前記一方向通電部(41、42、44、45)は、ダイオードにより構成される請求項2記載の絶縁通信システム。
【請求項4】
前記一方向通電部(50~53)は、ダイオード接続されたバイポーラトランジスタにより構成される請求項2記載の絶縁通信システム。
【請求項5】
前記一方向通電部(60~63)は、ダイオード接続されたMOSトランジスタにより構成される請求項2記載の絶縁通信システム。
【請求項6】
前記定電圧回路(540、543)は、バンドギャップリファレンス回路により構成される請求項2から5の何れか一項に記載の絶縁通信システム。
【請求項7】
前記受信部は、前記一対のコンパレータの入力に抵抗(13、14)を備えると共に、前記微分回路は前記キャパシタ及び前記抵抗を接続して構成され、
前記差動伝送路に前記一方向通電部を介して接続される前記定電圧回路の出力インピーダンスは、前記抵抗の抵抗値に基づいて定められた所定インピーダンス以上に設定されている請求項2から6の何れか一項に記載の絶縁通信システム。
【請求項8】
前記コンパレータの入力電圧を検出する検出部(80、81)と、
前記検出部により前記コンパレータの同相入力電圧範囲を逸脱する電圧が検出されると外部に通知する通知部(82)を備える請求項1から7の何れか一項に記載の絶縁通信システム。
【請求項9】
前記受信部により前記復調パルスを受信できていない非受信経過時間を計測し、前記非受信経過時間が予め定められた所定時間に達したか否かを判定し、前記所定時間に達した場合に前記差動パルスの通信を停止する停止制御部(82)を備える請求項1記載の絶縁通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の絶縁容量通信回路として特許文献1記載の技術が提供されている。特許文献1記載の高電圧絶縁デュアルキャパシタ通信システムは、2つの独立した装置の中に形成される通信駆動電極及び通信センス電極と、対応する第1及び第2のキャパシタとを備えている。この技術は、通信経路に対して直列にキャパシタを2つ設けているため、絶縁破壊電圧を高くできる。
【0003】
さらに特許文献1記載の技術によれば、受信機回路の中で利得増幅器回路により受信信号を増幅しRSフリップフロップにより信号を受信している。コモンモード電圧がCMR回路内の増幅器に入力されると、コモンモード電流が増幅器の出力端子にてプッシュ又はプルされるようになっている。CMR回路の出力には利得増幅器が接続されている。利得増幅器は、CMR回路の出力を利得増幅し、この増幅信号をRSフリップフロップに入力するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-206798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コモンモード電圧が絶縁通信システムに大きく印加されてしまうと、コンパレータが同相入力電圧範囲を逸脱した電圧を入力してしまい、コンパレータの後段に接続されたフリップフロップに禁止入力されてしまう虞がある。フリップフロップが発振してしまうと、正しい送信か誤送信か判断できない。
【0006】
本発明の目的は、正しく送信されているか誤送信であるかを正確に判断できるようにした絶縁通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、送信部、絶縁伝送部、及び受信部を備える。送信部は、非反転バッファ及び反転バッファを並列接続して構成され差動パルスを差動伝送路に送信する。絶縁伝送部は、キャパシタによるカップリングを含む微分回路を差動伝送路に構成すると共に差動パルスを微分回路により成形した微分信号を伝送する。受信部は、絶縁伝送部を通じて差動伝送路から信号を受信する。
【0008】
受信部は、一対のコンパレータ及びフリップフロップを備える。一対のコンパレータは、差動伝送路から信号を入力して一方から他方及び他方から一方の差分が所定値に達するか否かを判定する。
【0009】
フリップフロップは、一対のコンパレータにより所定値に達したと判定出力されたパルスをそれぞれ復調パルスのセット・リセットとして入力し送信部から送信された差動パルスを復調する。クランプ回路は、一対のコンパレータの入力にそれぞれ接続され当該一対のコンパレータの入力電圧を同相入力電圧範囲に抑制する。
【0010】
差動伝送路の一方及び他方にコモンモード電圧を生じた場合、コンパレータの入力電圧が同相入力電圧範囲を超えてしまう虞がある。しかし、コンパレータの入力にクランプ回路を設けているため、一対のコンパレータの入力電圧を同相入力電圧範囲に抑制できる。
【0011】
したがって、コンパレータがその同相入力電圧範囲を超えた大きな電圧を入力したとしても、クランプ回路がコンパレータの同相電圧入力範囲内に抑制するため、コンパレータは正常動作する。これにより、フリップフロップには、一対のコンパレータによる正常な比較結果が入力されるようになり、正しく送信されているか誤送信であるか正確に判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態における絶縁通信システムの電気的構成図
図2】第1実施形態におけるRSフリップフロップの真理値表
図3】第1実施形態を説明する各部の波形例
図4】第1実施形態について示すクランプした場合の各部の波形例
図5】第1実施形態の比較例を示す絶縁通信システムの電気的構成図
図6】第1実施形態の比較例を適用した場合の各部の波形例
図7】第2実施形態における絶縁通信システムの電気的構成図
図8】第3実施形態における絶縁通信システムの電気的構成図
図9】第4実施形態における絶縁通信システムの電気的構成図
図10】第5実施形態における絶縁通信システムの電気的構成図
図11】第6実施形態における絶縁通信システムの電気的構成図
図12】第7実施形態における絶縁通信システムの電気的構成図
図13】第8実施形態における絶縁通信システムの電気的構成図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。複数の実施形態について同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略することがある。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について図1から図6を参照しながら説明する。本実施形態における絶縁通信システム1は、送信部2と、当該送信部2とは絶縁された受信部3と、送信部2と受信部3との間でパルス送受信を実現する絶縁伝送部4とを含んで構成されている。
【0015】
送信部2は、非反転バッファ5及び反転バッファ6の入力を入力端子7に並列接続して構成され、入力端子7に入力される入力デジタル信号に応じて、Hレベル又はLレベルを差動伝送路Kに出力する。非反転バッファ5の出力を信号Aとし、反転バッファ6の出力を信号/Aと称する。信号/Aは信号Aの反転を表している。
【0016】
絶縁伝送部4は、差動伝送路Kに一対のキャパシタ8、9をカップリング接続して送信部2と受信部3とを絶縁するブロックである。具体的には、非反転バッファ5及び反転バッファ6から送信される差動伝送路Kに介在してキャパシタ8、9がそれぞれ直列接続されており、送信部2と受信部3との間で一対のキャパシタ8、9を通じて差動伝送可能に構成されている。差動伝送路Kは、一対の通信経路10、11により構成される。
【0017】
また、絶縁通信システム1には基準電圧生成回路12が構成されている。基準電圧生成回路12は安定した基準電圧Vrefを生成する。受信部3は、その受信端に一対の抵抗13、14が設けられている。一対の抵抗13、14は、一対の通信経路10、11の間に直列接続されると共に、その共通接続ノードに基準電圧生成回路12の基準電圧Vrefを入力している。
【0018】
一対の抵抗13、14は、受信部3の受信入力ノードと基準電圧Vrefの生成ノードとの間に接続されている。受信部3のキャパシタ8、9と一対の抵抗13、14とにより微分回路15が構成されている。抵抗13、14の後段には一対のコンパレータ16、17が並列接続されている。これらの一対のコンパレータ16、17は、差動伝送路Kから信号を入力して一方から他方及び他方から一方の差分が所定値に達するか否かを判定する。
【0019】
コンパレータ16は、非反転バッファ5の出力信号Aの微分結果を非反転入力端子に信号Bとして入力すると共に、反転バッファ6の出力信号/Aの微分信号を反転入力端子に信号/Bとして入力する。コンパレータ16は、これらの信号B、/Bを比較した結果を出力する。
【0020】
コンパレータ17は、反転バッファ6の出力信号/Aの微分信号を非反転入力端子に信号/Bとして入力すると共に、非反転バッファ5の出力信号Aの微分信号を反転入力端子に信号Bとして入力する。コンパレータ17は、これらの信号/B、Bを比較した結果を出力する。
【0021】
コンパレータ16、17の後段にはNOTゲート18、19を介してRSフリップフロップ20が復調部として接続されている。RSフリップフロップ20は、微分回路15を通じて微分信号を受信すると一対のコンパレータ16、17により所定値に達したと判定されたパルスをそれぞれ復調パルスのセット、リセットとし送信部2から送信された差動パルスを復調する。
【0022】
RSフリップフロップ20は、例えば一対のNANDゲート21、22を用いて構成され、当該NANDゲート21、22のそれぞれの出力を入力に接続して構成される。一対のNANDゲート21、22は、それぞれ信号C、/Cを入力すると共に、一方のNANDゲート21の出力を出力端子23に接続して構成している。
【0023】
図2にはRSフリップフロップ20の真理値表を示している。信号C、/CがそれぞれHレベル、Lレベルであるとき、出力Oはリセットされる。信号C、/CがそれぞれLレベル、Hレベルであるとき、出力Oはセットされる。信号C、/CがそれぞれHレベル、Hレベルであるとき、出力Oは保持される。RSフリップフロップ20は、信号C、/CをLレベルとすると発振するため禁止入力とされている。
【0024】
他方、受信部3は、コンパレータ16、17の入力にそれぞれクランプ回路24、25を接続している。クランプ回路24、25は、一対のコンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vh内に信号B、/Bの電圧を抑制するために設けられている。クランプ回路24のクランプ電圧は、コンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vhの上限電圧に設定されている。クランプ回路25のクランプ電圧は、コンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vhの下限電圧に設定されている。
【0025】
上記構成の作用を説明する。図3に示すように、送信部2には0Vを基準とした数kHz~数百MHzのデジタル信号が入力される。送信部2は、入力されたデジタル信号を波形成形し、絶縁伝送部4を通じて受信部3に送信する。
【0026】
受信部3は、絶縁伝送部4を通じて信号を受信すると微分回路15の作用により入力デジタル信号の微分信号を検出する。具体的には、入力端子7に入力デジタル信号の立上りが入力され急峻に電圧変化すると、微分回路15の作用により受信部3の抵抗13に正パルスを生じると共に、抵抗14に負パルスを生じる。すなわち、一対の抵抗13、14には正負対称の電圧を生じる。このため、受信部3の一対のコンパレータ16、17はその正負対称の電圧の差に応じたHレベル又はLレベルを出力する。
【0027】
コンパレータ16は、一方から他方の信号の差分B-/Bがゼロを超える予め定められた所定値に達するとHレベルを出力する。このため、図3の期間T0中のタイミングt1、t3に示すように、コンパレータ16は、入力デジタル信号の立ち上がり時にHレベルを出力することになり、NOTゲート18を通じてRSフリップフロップ20のセット端子にセット出力する。これにより、RSフリップフロップ20は、Hレベル状態を出力端子23に保持し続ける。
【0028】
コンパレータ17は、他方から一方の差分/B-Bがゼロを超える予め定められた所定値に達するとHレベルを出力する。このため、図3の期間T0中のタイミングt2、t4に示すように、コンパレータ17は、入力デジタル信号の立ち下がり時にHレベルを出力することになり、NOTゲート19を通じてRSフリップフロップ20のリセット端子にリセット出力する。この結果、RSフリップフロップ20はLレベルを出力端子23に保持し続け、受信部3のRSフリップフロップ20は、送信部2から送信された差動パルスを復調パルスとして復元できる。
【0029】
図1に示したように、例えば外来ノイズや出力側から入力側への回り込みノイズに起因したノイズ30がコモンモードにより発生すると、絶縁通信システム1にノイズが混入しコモンモード電圧を発生させる。ここでは、図3に示すように、ノイズ30が時間経過に伴い、入力デジタル信号よりも長い周期で徐々に上昇する場合を考慮する。
【0030】
通常のコモンモードノイズ過渡耐量(CMTI)未満しかノイズ30が混入しない場合、非反転バッファ5、反転バッファ6、微分回路15、コンパレータ16、17、RSフリップフロップ20は通常動作する。コンパレータ16、17には、微分回路15の作用によりノイズ30の変化勾配に応じたオフセット電圧分だけ上昇した電圧が入力される。
【0031】
これらのコンパレータ16、17の入力電圧が共に同相入力電圧範囲Vhである場合には、コンパレータ16、17は正常動作する。コンパレータ16、17は、それぞれ一方から他方の差分B-/B、他方から一方の差分/B-Bの結果を出力するため、前述のオフセット電圧分を相殺できる。このため、図3の期間T1中のタイミングt5、t6、t7、t8に示すように、受信部3は、送信部2から送信される差動パルスを通常通り復調できる。
【0032】
また、所定以上のノイズ30を生じた場合、図4に示すように、クランプ回路24、25は、コンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vhに収まるようにコンパレータ16、17の入力電圧をクランプする。これにより、コモンモードのノイズ30の影響が生じる期間T1内であっても、コンパレータ16、17は、NOTゲート18、19を通じて常時Hレベルを出力し続けることになる。タイミングt5a、t6a参照。この結果、後段のRSフリップフロップ20は不定状態に陥ることはない。
【0033】
コモンモードのノイズ30の影響により、絶縁通信システム1による通信が停止されていることを出力端子23に接続された後段装置へ通知できる。出力端子23に例えば電子制御装置(ECU)が接続されていれば、異常を電子制御装置へ通知でき、電子制御装置が絶縁通信システム1の誤動作を判断できる。その後、ノイズ30の変化の影響がなくなると、オフセット電圧も生じることがなくなり、受信部3は、送信部2から送信される差動パルスを通常通り復調できる。
【0034】
図5に比較例を示すように、クランプ回路24、25が接続されていない絶縁通信システム1aの場合、微分回路15の出力電圧の差分がコンパレータ16、17に入力される。このため、コモンモードのノイズ30が発生しても通常と同じようにコンパレータ16、17が動作する。RSフリップフロップ20の入力が同時にLレベルにならないため、不定状態に陥ることはない。
【0035】
図6に示すように、コモンモードノイズ耐量を超えるノイズ30を生じた場合、微分回路15の出力電圧がコンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vhを超えてしまう。図6の期間T1中には、コンパレータ16、17は何れもHレベルを出力することから、RSフリップフロップ20は不定状態に陥る。図6のタイミングt5b~t6b参照。RSフリップフロップ20が不定状態に陥っている間、絶縁通信システム1の誤送信を判断できず、異常信号を送信し続けてしまう。
【0036】
これに対し、本実施形態によれば、クランプ回路24、25を用いてコンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vh内に入力電圧を抑制しているため、簡素に回路構成しながら絶縁通信システム1における誤送信を防止できる。一般に、差動データの雷や静電気からの保護のために、差動伝送路Kにクランプ回路を設けことがあるが、本実施形態では静電気や雷から差動データを保護するのではない。
【0037】
第1実施形態によれば、コンパレータ16、17の入力にクランプ回路24、25を設けているため、コンパレータ16、17の入力信号をコンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vh内に抑制できる。この結果、コンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vhを超える電圧が入力される虞があったとしても、絶縁通信システム1による誤送信を防止できる。
【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態について図7を参照しながら説明する。本実施形態の第2絶縁通信システム201は受信部203を備え、受信部203はクランプ回路24、25を備える。この第2実施形態では、クランプ回路24、25の具体例を説明する。
【0039】
図7に示すように、クランプ回路24は定電圧回路40を備えると共にクランプ回路25は定電圧回路43を備え、クランプ回路24、25は、一方向通電部としてのダイオード41、42、44、45を組み合わせて構成される。定電圧回路40、43のクランプ電圧出力ノードと、コンパレータ16の入力との間にはダイオード41、42が構成されている。定電圧回路40、43のクランプ電圧出力ノードと、コンパレータ17の入力との間にはダイオード44、45が構成されている。
【0040】
抵抗13とコンパレータ16との共通接続点には、ダイオード41のアノード側及びダイオード42のカソード側が接続されている。抵抗14とコンパレータ17との共通接続点には、ダイオード44のアノード側及びダイオード45のカソード側が接続されている。ダイオード41及び44のカソード側は定電圧回路40の出力に接続されている。ダイオード42及び45のアノード側は定電圧回路43の出力に接続されている。
【0041】
定電圧回路40の出力電圧は、コンパレータ16の同相入力電圧範囲Vhの最大値+ダイオード41の順方向電圧Vfに設定されている。また定電圧回路43の出力電圧は、コンパレータ17の同相入力電圧範囲Vhの最小値-ダイオード45の順方向電圧Vfに設定されている。
【0042】
コンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vhを超えた電圧が微分回路15の出力に生じると、ダイオード41及び定電圧回路40により、抵抗13及びコンパレータ16の共通接続ノードの電圧がクランプされる。同様に、抵抗14及びコンパレータ17の共通接続ノードの電圧もクランプされる。これにより、コンパレータ16、17は同相入力電圧範囲Vhを超えた電圧を入力しなくなる。コンパレータ16、17は正常動作することで、RSフリップフロップ20の出力状態を保持できる。
【0043】
コンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vhを下回る電圧が微分回路15の出力に生じると、ダイオード45及び定電圧回路43により、抵抗13及びコンパレータ16の共通接続ノードの電圧がクランプされる。同様に抵抗14及びコンパレータ17の共通接続ノードの電圧もクランプされる。これにより、コンパレータ16、17は同相入力電圧範囲Vhを下回る電圧を入力しなくなる。コンパレータ16、17は正常動作することで、RSフリップフロップ20の出力状態を保持できる。
【0044】
本実施形態においても絶縁通信システム1は誤送信を防止できる。本実施形態の構成は、定電圧回路40、43及びダイオード41、42、44、45による簡素な回路構成により実現できる。
【0045】
(第3実施形態)
第3実施形態について図8を参照しながら説明する。本実施形態の第3絶縁通信システム301は受信部303を備え、受信部303はクランプ回路24、25を備えるが、本実施形態ではクランプ回路24、25の具体例を説明する。第3実施形態が、第2実施形態と異なるところは、図8に示すように、ダイオード41、42、44、45に代えて、ダイオード接続されたバイポーラトランジスタ50~53を構成したところにある。その他の構成は第2実施形態と同様であるため説明を省略する。第3実施形態によっても簡素な回路構成によって実現できる。
【0046】
(第4実施形態)
第4実施形態について図9を参照しながら説明する。本実施形態の第4絶縁通信システム401は受信部403を備え、受信部403はクランプ回路24、25を備えるが、本実施形態ではクランプ回路24、25の具体例を説明する。第4実施形態が、第2実施形態と異なるところは、ダイオード41、42、44、45に代えて、ダイオード接続されたMOSトランジスタ60~63を構成したところにある。その他の構成は第2実施形態と同様であるため説明を省略する。第4実施形態によっても簡素な回路構成によって実現できる。
【0047】
(第5実施形態)
第5実施形態について図10を参照しながら説明する。本実施形態の第5絶縁通信システム501は受信部503を備え、受信部503はクランプ回路24、25を備えるが、本実施形態ではクランプ回路24、25の具体例を説明する。第5実施形態が、第2実施形態と異なるところは、定電圧回路40、43に代えて、温度補償機能を備えたバンドギャップリファレンス回路540、543が構成されているところにある。
【0048】
バンドギャップリファレンス回路540は、オペアンプ70、抵抗71、72、ダイオード接続されたNPN形トランジスタ73、74を図示形態に接続して構成され、温度変化に依存することなく安定的な定電圧を出力できる。バンドギャップリファレンス回路543は、オペアンプ75、抵抗76、77、ダイオード接続されたNPN形トランジスタ78、79を図示形態に接続して構成され、温度変化に依存することなく安定的な定電圧を出力できる。バンドギャップリファレンス回路540、543が構成されているため、環境温度の変化の影響を受けにくくできる。
【0049】
(第6実施形態)
第6実施形態について図11を参照しながら説明する。本実施形態では、クランプ回路24、25を構成する定電圧回路640、643の出力インピーダンスZoが、所定インピーダンスZth以上に設定されているところにある。
【0050】
受信部603は、一対のコンパレータ16、17の入力に抵抗13、14及びキャパシタ8、9による微分回路15を接続している。一対の通信経路10、11には、ダイオード41、42、44,45を介して定電圧回路640、643が接続されている。
【0051】
ダイオード41、42、44、45には寄生容量が存在している。定電圧回路640、643の出力インピーダンスZoが低いと、微分回路15による微分パルス電流が各ダイオード41、42、44、45の寄生容量を通過し定電圧回路640、643の出力から吸収されてしまう。このとき、入力デジタル信号を微分した微分信号を、コンパレータ16、17の入力電圧として検出できず、コンパレータ16、17に微分パルス電圧を入力させることができない虞がある。
【0052】
このため、定電圧回路640、643の出力インピーダンスZoは、抵抗13、14の抵抗値に基づいて定められた所定インピーダンスZth以上に設定されていることが望ましい。一対のコンパレータ16、17は、定電圧回路640、643の出力インピーダンスZoを負荷として微分パルス電圧を入力でき、微分回路15の微分パルス電圧に応じた結果を正常出力できる。本実施形態によれば、出力インピーダンスZoが所定インピーダンスZth以上に設定されているため、送信部2から送信されたパルスを正常に復元できる。
【0053】
(第7実施形態)
第7実施形態について図12を参照しながら説明する。本実施形態の第7絶縁通信システム701は受信部703を備える。第7実施形態が前述実施形態と異なるところは、コンパレータ16、17の入力にCMTI以上のコモンモードのノイズ30が発生したことを検出するためのコンパレータ80及び81を備えているところである。また、それらのコンパレータ80及び81に接続されたマイコン82を備えている。
【0054】
コンパレータ80は、コンパレータ16の非反転入力端子にCMTI以上のコモンモードのノイズ30を生じるとクランプ回路24のクランプ上限電圧Vtを検出しHレベルをマイコン82に出力する検出部として機能する。
【0055】
コンパレータ81は、コンパレータ81の非反転入力端子にCMTI以上のコモンモードのノイズ30を生じると、クランプ回路25のクランプ上限電圧Vtを検出し、Hレベルをマイコン82に出力する検出部として機能する。
【0056】
マイコン82は、コンパレータ80又は81からHレベルをI/Oから入力すると、CMTI以上のコモンモードのノイズ30を生じたことを、表示装置や警告灯点灯などの手段(図示せず)を用いて外部のユーザに通知する通知部として用いられる。これにより、コンパレータ16、17の入力電圧が同相入力電圧範囲Vhを逸脱したことを検出でき、誤通信を生じたことを外部のユーザに通知できる。
【0057】
(第8実施形態)
第8実施形態について図13を参照しながら説明する。本実施形態の第8絶縁通信システム801は受信部803を備える。第8実施形態が前述実施形態と異なるところは、RSフリップフロップ20の出力に接続されたカウンタ83と、そのカウンタ83に接続されたマイコン82とを備えているところにある。
【0058】
カウンタ83にはクロック信号CLKが入力される。クロック信号CLKは、デジタル信号のデータ通信に用いられるパルスの周期よりも短い周期に設定されたクロックである。カウンタ83は、RSフリップフロップ20の出力がHレベルとなっている最中、クロック信号CLKの立上り又は立下りをカウントする。カウンタ83がカウントすることで、RSフリップフロップ20の出力がHレベルに維持されている経過時間を復調パルスの非受信経過時間として計測する。これによりRSフリップフロップ20の出力がHレベルに固着している経過時間を計測しこの結果をマイコン82に出力する。
【0059】
マイコン82は、カウント結果を参照しユーザにより予め定められた回数以上連続でHレベルを検知していれば、ノイズ30が同相入力電圧範囲Vhを超え送信部2から受信していない非受信経過時間が所定時間に達したと判断する。マイコン82は、警告灯点灯などの手段を用いて外部のユーザに通知する。
【0060】
これにより、コンパレータ16、17の同相入力電圧範囲Vhを超えたことを外部のユーザに通知でき、誤通信を生じたことをユーザ通知できる。マイコン82は、停止制御部として機能することで非受信経過時間が予め定められた所定時間に達した場合に差動パルスの通信を停止すると良い。
【0061】
ここでは、RSフリップフロップ20の出力がHレベルに固着しているか否かを判定することを検知する形態を示したが、これに限定されるものではない。回路構成を変更することで、RSフリップフロップ20の出力がLレベルに固着していることをカウンタ83により検知するようにしても良い。これにより、前述同様に誤通信を生じたことを外部のユーザに通知できる。
【0062】
カウンタ83が、所定回数以上連続してHレベル又はLレベルを検出することで、マイコン82がHレベル又はLレベルの何れか一方に固着していることを検知すれば、絶縁通信システム1が動作停止していると判断できる。マイコン82は、警告灯点灯などの手段を用いてユーザに通知することで、絶縁通信システム1が動作停止していることをユーザに通知できる。
【0063】
(他の実施形態)
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができ、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【0064】
また本発明は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本発明は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0065】
図面中、1は絶縁通信システム、2は送信部、3、203、303、403、603、703、803は受信部、4は絶縁伝送部、5は非反転バッファ、6は反転バッファ、8、9はキャパシタ、15は微分回路、16、17はコンパレータ、20はRSフリップフロップ(復調部)、24、25はクランプ回路、40、43は定電圧回路、540、543はバンドギャップリファレンス回路(定電圧回路)、41、42、44、45はダイオード、50~53はダイオード接続されたバイポーラトランジスタ、60~63はダイオード接続されたMOSトランジスタ、80、81はコンパレータ(検出部)、82はマイコン(通知部、停止制御部)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13