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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189019
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】水熱処理ステビア組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20221215BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20221215BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20221215BHJP
   B01J 3/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
A23L27/00 101A
A61P3/02
A61K36/28
A23L33/105
B01J3/00 J
A61K127:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097345
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】三井 亮輝
(72)【発明者】
【氏名】吉田 惇紀
(72)【発明者】
【氏名】横尾 芳明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸明
(72)【発明者】
【氏名】山本 典男
(72)【発明者】
【氏名】槇島 聡
【テーマコード(参考)】
4B018
4B047
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD28
4B018MD42
4B018MD61
4B018MF01
4B018MF04
4B047LB03
4B047LB09
4B047LE01
4B047LG06
4B047LG22
4B047LG32
4B047LG37
4B047LP01
4B047LP05
4C088AB26
4C088AC05
4C088BA09
4C088BA12
4C088BA13
4C088CA05
4C088CA10
4C088MA52
4C088NA20
4C088ZC21
(57)【要約】
【課題】高温高圧流体に対するステビア葉構成成分の水熱反応挙動を明らかにして、材料利用効率を向上させる反応制御理論を構築し、産業上有用な水熱処理ステビア組成物の製造方法を提供する。また、食品機能性成分の新規な回収方法も提供する。
【解決手段】水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉粉砕物を固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で連続または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含む、製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉粉砕物を固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で連続または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含む、製造方法。
【請求項2】
水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉に対し、あらかじめ溶媒で甘味成分を抽出した後の残渣を出発原料として、原料固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度160℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~7000の制御条件下で連続的または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含む、製造方法。
【請求項3】
前記反応過酷度が600以上3000未満である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
反応時間が1~120分である、請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記亜臨界水熱処理後の水熱処理ステビア組成物が、ポリフェノール画分を含む、請求項1~4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記亜臨界水熱処理後の水熱処理ステビア組成物が、ラムノース、リボース、フコース、キシロース、グルクロン酸、アラビノース、フルクトース、ガラクツロン酸、マンノース、グルコース、およびガラクトースを含む単糖、前記単糖とアグリコンとしてアセチル基を含む多糖、並びにグルコース、ラムノース、および/またはキシロースを含むステビオール配糖体からなる群から選択される1または複数の糖質を含む、請求項1~5に記載の製造方法。
【請求項7】
食品機能性成分であるステビオール配糖体、糖質、ポリフェノールの回収率の反応過酷度依存性を利用して、前記食品機能性成分に応じて反応過酷度を選択し、水熱反応場を制御することを含む、食品機能性成分の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱処理ステビア組成物の製造方法、および食品機能性成分の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステビア(Stevia rebaudiana)は、南アメリカを原産とするキク科ステビア属の多年草であり、その葉にはステビオシドやレバウジオシドAといったテルペノイドの配糖体を含んでいる。ステビオシドはショ糖の約300倍の甘味度を有し、経口投与された場合、小腸で吸収されにくく、腸内細菌によってステビオールに分解される性質があるため、低カロリー性の天然甘味料として用いられてきた。ステビアから甘味料である配糖体を抽出するためには100℃以下の温水で抽出する方法が一般的である。また、近年の環境問題を背景に、高温高圧流体を利用したバイオマスの利用技術が注目を集めている。
【0003】
水熱反応は、高温高圧の水の反応を総称して用いられており、100℃以上の温度下で飽和蒸気圧以上の圧力制御下で発生する亜臨界水の他に、加圧熱水、過熱水蒸気、水蒸気爆砕などのプロセスで発生する水の反応についても水熱反応と記載されることが多い。高温の水は溶媒としての性質を持っているが、飽和蒸気圧以上の亜臨界状態になると触媒としての性質が顕著に現れ、バイオマス構成成分の抽出だけではなく、植物細胞壁を構成する糖質とその関連物質に作用し、加水分解することができる。圧力容器を適切に利用すれば、亜臨界水を実験スケールで発生させることは容易であるが、工業スケールとなると圧力の損失が発生するため、亜臨界状態を維持するための圧力制御が難しくなる。そこで、特許文献1では、反応圧力を液圧で制御する連続式チューブ型反応機が開示されている。
【0004】
特許文献2および非特許文献1では、コーンコブに代表されるキシラン含有のソフトバイオマスに、新たに考案された連続式プラグフロー反応器を用い修飾キシロポリサッカライドを高効率で回収する方法が開示されている。特許文献2では、バイオマス中のキシランに対して、水熱反応エネルギーを表す反応過酷度とキシロポリサッカライドの生成に強い相関関係があることが見出されており、工業スケールでの水熱反応制御に不可欠な知見が提供されている。
【0005】
特許文献3は、ビートパルプに代表されるペクチン含有のバイオマスに対して制御された水熱反応を与えるとフェルラ酸などのアグリコンが結合したフェルロイルアラビノオリゴ糖が回収できることを開示している。また非特許文献2および3ではステビアに対して高圧温水を作用させて抗酸化性の生理活性物質を回収する試みがなされている。
【0006】
水熱反応は、主にバイオエタノールなどの発酵用の糖原料を得るために、酵素反応との組み合わせを想定したバイオマスの部分糖化を主眼に開発されてきた歴史があり、植物細胞に存在する多種多様な有用構成成分の回収については、工業生産プロセスを設計するために十分な知見が示さていなかった。水熱反応を利用してバイオマスから機能性の高い有用構成成分を工業的に生産していくためには、特許文献2に一部開示されたような、生産プロセスの制御に資するデータの取得が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-253861号公報
【特許文献2】特開2016-216552号公報
【特許文献3】特開2012-187099号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Makishima, M. Mizuno, N. Sato, K. Shinji, M. Suzuki, K. Nozaki, F. Takahashi, T. Kanda and Y. Amano: Development of continuous flow type hydrothermal reactor for hemicellulose fraction recovery from corncob, Bioresource Technology, 100, 2842 (2009)
【非特許文献2】D. B. Kovacevic, F. J. Barba, D. Granato, C. M. Galanakis, Z. Herceg, V. Dragovic-Uzelac, P. Puntnik: Pressurized hot wate extraction (PHWE) for the green recovery of bioactive compounds and steviol glycosides from Stevia rebaudiana Bertoni Leaves, Food Chemistry, 254 (2018), 150-157
【非特許文献3】Z. Yang, B. Uhler1, and T. Lipkie1: Microwave-Assisted Subcritical Water Extraction of Steviol Glycosides From Stevia rebaudiana Leaves, Natural Product Communication, Vol. 14(6), 2019, 1-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ステビア葉には、前記配糖体の他にも茶葉のような良質な香味成分や、植物細胞壁を構成している希少糖質、ポリフェノール類などの食品有効成分が含まれているが、これらは十分な材料利用がなされていないのが現状である。
先行文献のように、植物細胞壁を構成する糖質を回収するために高温高圧流体を利用する研究が顕著な成果を収めている。また、ステビアのような細胞壁内外に配糖体を多く含んだ植物に水熱反応を与えてポリフェノール類を回収する研究も見られるが(非特許文献2)、水熱反応場では水の溶媒(抽出)と触媒(分解)の機能が同時に競争的に働くための、反応挙動については不明な点が多く、工業的に活用がされていない。
本発明は、これまで不明であった、高温高圧流体に対するステビア葉構成成分の水熱反応挙動を明らかにして、材料利用効率を向上させる反応制御理論を構築し、産業上有用な水熱処理ステビア組成物の製造方法を提供する。また、本発明は、食品機能性成分の新規な回収方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ステビア葉に含まれる有用物質の効率的な回収と環境性を考慮して、無触媒の水を用いる高温高圧流体技術を選択した。検証には、小スケールのバッチ式反応器をベースに、工業スケールでの生産技術が確立している連続式水熱反応器を用い、反応温度130℃以上かつ反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる亜臨界領域での水熱反応を試み、ステビアからの物質回収を試みた。
そして、水熱反応エネルギーの指標である反応過酷度(Severity Parameter)と物質回収率の関係性を見出し、工業生産をするときの反応制御方法を確立した。
具体的には、ステビア葉粉砕物を固形分として10~30wt%含むスラリーに反応液が液圧として確実に飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で連続または非連続的な亜臨界水熱処理を施した。
また、前記ステビア葉に対し、あらかじめ溶媒で甘味成分を抽出した後の残渣を出発原料として、原料固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度160℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~7000の制御条件下で連続的または非連続的な亜臨界水熱処理を施した。
すなわち、本発明には以下の態様が含まれる。
[1]
水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉粉砕物を固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で連続または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含む、製造方法。
[2]
水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉に対し、あらかじめ溶媒で甘味成分を抽出した後の残渣を出発原料として、原料固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度160℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~7000の制御条件下で連続的または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含む、製造方法。
[3]
前記反応過酷度が600以上3000未満である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]
反応時間が1~120分である、[1]~[3]の何れか一項に記載の製造方法。
[5]
前記亜臨界水熱処理後の水熱処理ステビア組成物が、ポリフェノール画分を含む、[1]~[4]の何れか一項に記載の製造方法。
[6]
前記亜臨界水熱処理後の水熱処理ステビア組成物が、ラムノース、リボース、フコース、キシロース、グルクロン酸、アラビノース、フルクトース、ガラクツロン酸、マンノース、グルコース、およびガラクトースを含む単糖、前記単糖とアグリコンとしてアセチル基を含む多糖、並びにグルコース、ラムノース、および/またはキシロースを含むステビオール配糖体からなる群から選択される1または複数の糖質を含む、[1]~[5]に記載の製造方法。
[7]
食品機能性成分であるステビオール配糖体、糖質、ポリフェノールの回収率の反応過酷度依存性を利用して、前記食品機能性成分に応じて反応過酷度を選択し、水熱反応場を制御することを含む、食品機能性成分の回収方法。
【発明の効果】
【0011】
ステビア葉粉砕物に反応過酷度500~4000の水熱反応を与えると、温水抽出同様にレバウジオシドA、レバウジオシドD、レバウジオシドMなどのステビオール配糖体が回収できる。しかし、反応過酷度が高くなるにつれて、配糖体中のグルコピラノシル結合に反応が生じて配糖体が分解し単糖やアグリコンが生成する。
一方、この反応過酷度領域では植物細胞壁を構成する有用物質が生成し、ラムノース、リボース、フコース、キシロース、グルクロン酸、アラビノース、フルクトース、ガラクツロン酸、マンノース、グルコース、ガラクトースを含む単糖、また前記単糖とアセチル基を有する多糖類、およびグルコース、ラムノース、キシロースによって構成されるステビオール配糖体と、ポリフェノール類を高収率で回収することができる。
生成または分解する配糖体、糖質およびポリフェノール類は顕著な反応過酷度依存性が見られることから、反応過酷度はステビアに含まれる有用物質の加水分解物を含む水熱処理ステビア組成物を製造するプロセスを制御するために有効な制御パラメータである。反応過酷度の制御によって香味成分や目的の物質回収の収率バランスを最適化することができるようになり、連続式水熱反応器へ適用することによって工業生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ステビア葉の反応過酷度に対するステビオール配糖体回収率を示す図である。
図2】ステビア葉の反応過酷度に対するステビオール配糖体回収率を示す図である(片対数表示)。
図3】ステビア葉の反応過酷度に対するポリフェノール回収量を示す図である。
図4】ステビア葉温水抽出残渣の反応過酷度に対するポリフェノール回収量を示す図である。
図5】ステビア葉温水抽出残渣の反応過酷度に対するポリフェノール回収量を示す図である(片対数表示)。
図6】ステビア葉の反応過酷度に対する糖質回収率を示す図である。
図7】ステビア葉温水抽出残渣の反応過酷度に対する糖質回収率を示す図である。
図8】ステビア葉温水抽出残渣の反応過酷度に対する糖質回収率を示す図である(片対数表示)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。なお、本明細書において引用した全ての文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
【0014】
本明細書において、「Reb」および「Reb.」は同じ意味を表すものであり、いずれも「レバウジオシド(rebaudioside)」を意味するものである。また、本明細書において、「wt%」および「重量%」は同じ意味を表す。
【0015】
本明細書において「ppm」とは、特に明記しない限り、「質量ppm」を意味する。また、通常飲料の比重は1であるため、「質量ppm」は「mg/L」と同視し得る。本明細書において、「約」との文言は、主体が「約」に続く数値の±10%、の範囲に存在することを意味する。
【0016】
本明細書において、「水熱処理ステビア組成物」とは、ステビア植物に水熱処理を施すことで得られる組成物を指し、当該組成物にはステビア植物中に含まれる食品機能性成分の水熱処理による加水分解物が含まれ得る。
【0017】
本明細書において、「ステビア植物」には、ステビア植物の植物全体および植物の部分が包含される。「植物の部分」には、ステビア植物の葉、茎、花、根およびこれらを任意に切断したもの、並びにステビア植物の細胞および組織が包含される。また、「ステビア植物」には、前記ステビア植物の植物全体および植物の部分を溶媒で抽出した後の残渣も包含される。
【0018】
本明細書において、「水熱処理」とは、水等の溶媒を所定の温度および圧力の条件下で亜臨界状態にした流体(亜臨界流体)を用いて対象物を処理(例えば、抽出)することを意味する。例えば、水は、温度374.15℃以上および圧力22.12MPa以上の条件下で液体でも気体でもない状態を示す。この状態を示す点を臨界点といい、一般に、臨界点より低い近傍の温度および圧力の熱水を亜臨界水という。本明細書中、「亜臨界」はより広義に解され、例えば、水の場合、大気圧下での沸点である100℃から臨界温度である374.15℃までの温度域で加圧することにより液体状態を保った水はすべて亜臨界水に含まれる。また、本明細書において、「水熱処理」および「亜臨界水熱処理」は同義である。本発明の一態様における製造方法は、亜臨界水を反応場として、ステビア植物の抽出を行う。
【0019】
本明細書において、「食品機能性成分」には、レバウジオシドA、レバウジオシドB、レバウジオシドC、レバウジオシドD、レバウジオシドE、レバウジオシドF、レバウジオシドI、レバウジオシドM、レバウジオシドNおよびステビオシド等のステビオール配糖体、ラムノース、リボース、フコース、キシロース、グルクロン酸、アラビノース、フルクトース、ガラクツロン酸、マンノース、グルコースおよびガラクトース等の糖質、アントシアニン、カテキン、クロロゲン酸、タンニン、クルクミンおよびイソフラボン等のポリフェノールが包含される。本明細書中、食品機能性成分を適宜有用成分または有用物質などと称することがある。
【0020】
1.ステビア葉粉砕物を原料とする水熱処理ステビア組成物の製造方法
本発明は、水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉粉砕物を固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で連続または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含む、製造方法に関する。
【0021】
本発明の一態様において、水熱処理に供する原料はステビア植物である。ステビア植物は、例えば、ステビアの乾燥葉(茎や他の組織が含まれていてもよい)を使用することができる。ステビアの乾燥葉とは、ステビア植物の新鮮葉を乾燥させることにより含水量を減らしたものをいう。ステビア植物の乾燥葉の含水率は、好ましくは1~10重量%、より好ましくは、2~8重量%、特に好ましくは3~4重量%である。
【0022】
いくつかの態様では、水熱処理による食品機能性成分の回収率を高める観点から、前処理として、原料に機械的処理を施していてもよい。機械的処理としては、切断、裁断、破砕、粉砕、磨砕等の機械的手段が挙げられる。使用する機械装置については特に限定されないが、例えば、切出し装置、一軸破砕機、二軸破砕機、ハンマークラッシャー、ニーダー、ボールミル等が挙げられる。なお、一般に、「破砕」と「粉砕」は、処理物の粒子径の大きさによって用語が使い分けられることがあるが、本明細書においては、いずれの用語を用いる場合も、処理物の粒子径が概ね5.6mm以下、好ましくは1mm以下であることを意味する。当該粒子径は、必ずしも分析機器を用いて粒度分布を測定して得たものである必要はなく、所定の径(例えば、目開き5.6mmや1mm)のメッシュ(篩)でふるって得られたものであってもよい。すなわち、ここでいう「粒子径」は、メッシュの網目の大きさにより定義することができる。
【0023】
本発明の一態様における製造方法は、原料であるステビア植物をスラリーにすることをさらに含んでいてもよい。スラリー濃度は、流動性や処理効率などを考慮すると、固形分として、5~40重量%であることが好ましく、7~35重量%がより好ましく、10~30重量%がさらに好ましい。スラリーに使用する溶媒としては、水やアルコール、あるいはそれらの混合溶液等が挙げられる。好ましい溶媒としては、イオン交換水、純水(例えば、ミリQ水)およびエタノール水溶液などが挙げられる。
【0024】
水熱処理に用いる装置は、亜臨界流体を反応場とすることが可能なものであれば特に制限されず、ラボスケールで比較的小容量かつ非連続的なバッチ式水熱反応器であってもよいし、工業スケールの連続式水熱反応装置であってもよい。水熱反応に用いる装置は、市販品を使用することができ、市販品としては、例えば、TRP2~3型(耐圧硝子工業株式会社製)等が挙げられる。
【0025】
本発明の一態様における製造方法は、反応液を液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で水熱処理を行う。反応過酷度は、下記式(1)により算出することができる。なお、本明細書中、「反応液」とは、水熱処理装置の反応槽内に存在する液を指し、例えば、原料であるステビア植物、反応溶媒、生成物、および任意の触媒が含まれ得る。
【数1】
本発明の一態様において、上記式(1)で算出される反応過酷度は、500~4000とすることができるが、それ以外にも、例えば、600~4000、700~4000、800~4000、900~4000、1000~4000、1200~4000、1400~4000、1600~4000、1800~4000、2000~4000、500~3800、600~3800、700~3800、800~3800、900~3800、1000~3800、1200~3800、1400~3800、1600~3800、1800~3800、2000~3800、500~3600、600~3600、700~3600、800~3600、900~3600、1000~3600、1200~3600、1400~3600、1600~3600、1800~3600、2000~3600、500~3400、600~3400、700~3400、800~3400、900~3400、1000~3400、1200~3400、1400~3400、1600~3400、1800~3400、2000~3400、500~3200、600~3200、700~3200、800~3200、900~3200、1000~3200、1200~3200、1400~3200、1600~3200、1800~3200、2000~3200、500~3000、600~3000、700~3000、800~3000、900~3000、1000~3000、1200~3000、1400~3000、1600~3000、1800~3000、2000~3000、500以上3000未満、600以上3000未満、700以上3000未満、800以上3000未満、900以上3000未満、1000以上3000未満、1200以上3000未満、1400以上3000未満、1600以上3000未満、1800以上3000未満、2000以上3000未満、500~2800、600~2800、700~2800、800~2800、900~2800、1000~2800、1200~2800、1400~2800、1600~2800、1800~2800、2000~2800、500~2600、600~2600、700~2600、800~2600、900~2600、1000~2600、1200~2600、1400~2600、1600~2600、1800~2600、2000~2600、500~2400、600~2400、700~2400、800~2400、900~2400、1000~2400、1200~2400、1400~2400、1600~2400、1800~2400、2000~2400、500~2200、600~2200、700~2200、800~2200、900~2200、1000~2200、1200~2200、1400~2200、1600~2200、1800~2200、2000~2200、500~2000、600~2000、700~2000、800~2000、900~2000、1000~2000、1200~2000、1400~2000、1600~2000または1800~2000等であってもよい。
【0026】
本発明の一態様において、反応温度は、反応過酷度が上記範囲に制御できる範囲であれば特に制限されず、例えば、130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、150℃以上、155℃以上、160℃以上、165℃以上、170℃以上、175℃以上、180℃以上、185℃以上、190℃以上、195℃以上または200℃以上等であってもよい。
反応温度の上限は、目安として、250℃以下、230℃以下または210℃以下等とすることができる。
【0027】
本発明の一態様において、飽和蒸気圧は、反応温度に依って異なるが、例えば、日本機械学会の「蒸気表」(1968年)等を参照して決定することができる。
【0028】
本発明の一態様において、反応時間は、1~120分、1~60分、1~30分、1~20分、5~120分、5~60分、5~30分または5~20分等であってもよい。
【0029】
本発明の一態様における製造方法は、上記方法によって得られた水熱処理ステビア組成物をそのまま実用に供することができるが、必要に応じて追加の工程を含んでいてもよい。追加の工程としては、例えば、水熱処理後に固液分離することが挙げられる。固液分離の方法は、固体と液体が十分に分離されれば特に限定されないが、例えば、遠心分離器やフィルタープレスを用いた処理や、フィルターやメッシュを用いた重力ろ過が挙げられる。
【0030】
本発明の一態様における製造方法は、固液分離された水熱処理ステビア組成物をさらに濃縮、乾燥、造粒等の処理を施すことを含んでいてもよい。濃縮、乾燥、造粒等の処理は、公知の方法を用いて実施することができる。
【0031】
2.ステビア葉の抽出残渣を原料とする水熱処理ステビア組成物の製造方法
本発明は、水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉に対し、あらかじめ溶媒で甘味成分を抽出した後の残渣を出発原料として、原料固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度160℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~7000の制御条件下で連続的または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含む、製造方法に関する。
【0032】
本発明の一態様において、水熱処理に供する原料は、ステビア植物(ステビア葉を含む)に対し、あらかじめ溶媒で甘味成分を抽出した後の残渣である。ここでいう「抽出」は、水熱処理によるものとは区別される。例えば、水熱処理に先立って行われる抽出は、溶媒としてイオン交換水を用いた温水抽出が挙げられる。温水抽出の温度は、例えば、10~80℃、25~80℃、30~75℃、35~70℃、40~65℃、45~70℃であってもよく、好ましくは45~70℃である。抽出は、1回だけでなく、複数回行ってもよい。複数回抽出を行うことで、葉に含まれているステビオール配糖体等の甘味成分がより多く抽出される。また、抽出する際には、ステビア植物を破砕してもよく、破砕しなくてもよい。破砕する場合は、ボールミルなどを用いて破砕してもよい。あるいは、カラム抽出機(GEヘルスケア製)やニーダー抽出器(SKN-R100、三友機器株式会社製)等を用いて抽出処理をしてもよい。また、抽出後の残渣を破砕してもよい。
【0033】
本発明の一態様における製造方法は、このように、事前に甘味成分を抽出した後の残渣を原料とし、当該残渣をスラリーにすることをさらに含んでいてもよい。スラリー濃度は、流動性や処理効率などを考慮すると、固形分として、5~40重量%であることが好ましく、7~35重量%がより好ましく、10~30重量%がさらに好ましい。スラリーに使用する溶媒としては、水やアルコール、あるいはそれらの混合溶液等が挙げられる。好ましい溶媒としては、イオン交換水、純水(例えば、ミリQ水)およびエタノール水溶液などが挙げられる。
【0034】
水熱処理に用いる装置は、亜臨界流体を反応場とすることが可能なものであれば特に制限されず、ラボスケールで比較的小容量かつ非連続的なバッチ式水熱反応器であってもよいし、工業スケールの連続式水熱反応装置であってもよい。水熱反応に用いる装置は、市販品を使用することができ、市販品としては、例えば、TRP2~3型(耐圧硝子工業株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
本発明の一態様における製造方法は、反応液を液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度160℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~7000の制御条件下で水熱処理を行う。反応過酷度は、上記式(1)により算出することができる。なお、本明細書中、「反応液」とは、水熱処理装置の反応槽内に存在する液を指し、例えば、原料であるステビア植物の抽出残渣、反応溶媒、生成物、および任意の触媒が含まれ得る。
【0036】
本発明の一態様において、上記式(1)で算出される反応過酷度は、500~7000とすることができるが、それ以外にも、例えば、600~7000、700~7000、800~7000、900~7000、1000~7000、1200~7000、1400~7000、1600~7000、1800~7000、2000~7000、2200~7000、2400~7000、2600~7000、2800~7000、3000~7000、3500~7000、4000~7000、4500~7000、5000~7000、500~6500、600~6500、700~6500、800~6500、900~6500、1000~6500、1200~6500、1400~6500、1600~6500、1800~6500、2000~6500、2200~6500、2400~6500、2600~6500、2800~6500、3000~6500、3500~6500、4000~6500、4500~6500、500~6000、600~6000、700~6000、800~6000、900~6000、1000~6000、1200~6000、1400~6000、1600~6000、1800~6000、2000~6000、2200~6000、2400~6000、2600~6000、2800~6000、3000~6000、3500~6000、4000~6000、500~5500、600~5500、700~5500、800~5500、900~5500、1000~5500、1200~5500、1400~5500、1600~5500、1800~5500、2000~5500、2200~5500、2400~5500、2600~5500、2800~5500、3000~5500、3500~5500、500~5000、600~5000、700~5000、800~5000、900~5000、1000~5000、1200~5000、1400~5000、1600~5000、1800~5000、2000~5000、2200~5000、2400~5000、2600~5000、2800~5000、3000~5000、500~4500、600~4500、700~4500、800~4500、900~4500、1000~4500、1200~4500、1400~4500、1600~4500、1800~4500、2000~4500、2200~4500、2400~4500、2600~4500、2800~4500または3000~4500等であってもよい。
【0037】
また、上記式(1)で算出される反応過酷度は、500~4000、600~4000、700~4000、800~4000、900~4000、1000~4000、1200~4000、1400~4000、1600~4000、1800~4000、2000~4000、500~3800、600~3800、700~3800、800~3800、900~3800、1000~3800、1200~3800、1400~3800、1600~3800、1800~3800、2000~3800、500~3600、600~3600、700~3600、800~3600、900~3600、1000~3600、1200~3600、1400~3600、1600~3600、1800~3600、2000~3600、500~3400、600~3400、700~3400、800~3400、900~3400、1000~3400、1200~3400、1400~3400、1600~3400、1800~3400、2000~3400、500~3200、600~3200、700~3200、800~3200、900~3200、1000~3200、1200~3200、1400~3200、1600~3200、1800~3200、2000~3200、500~3000、600~3000、700~3000、800~3000、900~3000、1000~3000、1200~3000、1400~3000、1600~3000、1800~3000、2000~3000、500以上3000未満、600以上3000未満、700以上3000未満、800以上3000未満、900以上3000未満、1000以上3000未満、1200以上3000未満、1400以上3000未満、1600以上3000未満、1800以上3000未満、2000以上3000未満、500~2800、600~2800、700~2800、800~2800、900~2800、1000~2800、1200~2800、1400~2800、1600~2800、1800~2800、2000~2800、500~2600、600~2600、700~2600、800~2600、900~2600、1000~2600、1200~2600、1400~2600、1600~2600、1800~2600、2000~2600、500~2400、600~2400、700~2400、800~2400、900~2400、1000~2400、1200~2400、1400~2400、1600~2400、1800~2400、2000~2400、500~2200、600~2200、700~2200、800~2200、900~2200、1000~2200、1200~2200、1400~2200、1600~2200、1800~2200、2000~2200、500~2000、600~2000、700~2000、800~2000、900~2000、1000~2000、1200~2000、1400~2000、1600~2000または1800~2000等であってもよい。
【0038】
本発明の一態様において、反応温度は、反応過酷度が上記範囲に制御できる範囲であれば特に制限されず、例えば、160℃以上、165℃以上、170℃以上、175℃以上、180℃以上、185℃以上、190℃以上、195℃以上または200℃以上等であってもよい。
反応温度の上限は、目安として、250℃以下、230℃以下または210℃以下等とすることができる。
【0039】
本発明の一態様において、飽和蒸気圧は、反応温度に依って異なるが、例えば、日本機械学会の「蒸気表」(1968年)等を参照して決定することができる。
【0040】
本発明の一態様において、反応時間は、1~120分、1~60分、1~30分、1~20分、5~120分、5~60分、5~30分または5~20分等であってもよい。
【0041】
本発明の一態様における製造方法は、上記方法によって得られた水熱処理ステビア組成物をそのまま実用に供することができるが、必要に応じて追加の工程を含んでいてもよい。追加の工程としては、例えば、水熱処理後に固液分離することが挙げられる。固液分離の方法は、固体と液体が十分に分離されれば特に限定されないが、例えば、遠心分離器やフィルタープレスを用いた処理や、フィルターやメッシュを用いた重力ろ過が挙げられる。
【0042】
本発明の一態様における製造方法は、固液分離された水熱処理ステビア組成物をさらに濃縮、乾燥、造粒等の処理を施すことを含んでいてもよい。濃縮、乾燥、造粒等の処理は、公知の方法を用いて実施することができる。
【0043】
3.ステビア葉を原料とする水熱処理ステビア組成物
上記「1.ステビア葉粉砕物を原料とする水熱処理ステビア組成物の製造方法」で説明した方法によって製造された水熱処理ステビア組成物は、ポリフェノール画分を含む。ポリフェノールは、例えば、アントシアニン、カテキン、クロロゲン酸、タンニン、クルクミンおよびイソフラボン等が挙げられる。
【0044】
本発明の一態様において、水熱処理ステビア組成物に含まれるポリフェノール量は、フォーリン・チオカルト法を用い、没食子酸を標準物質とした総ポリフェノール量として算出することができる。上記方法で算出した本発明の一態様における水熱処理ステビア組成物中のポリフェノール量は、5,000~15,000ppm、6,000~14,000ppmまたは9,000~12,000ppm等であり得る。
また、上記方法で算出した本発明の一態様における水熱処理ステビア組成物中のポリフェノール量は、原料(g)に対して、20~150mg、40~100mg、50~80mgまたは50~70mg等であり得る。
【0045】
また、上記「1.ステビア葉粉砕物を原料とする水熱処理ステビア組成物の製造方法」で説明した方法によって製造された水熱処理ステビア組成物は、ラムノース、リボース、フコース、キシロース、グルクロン酸、アラビノース、フルクトース、ガラクツロン酸、マンノース、グルコース、およびガラクトースを含む単糖、前記単糖とアグリコンとしてアセチル基を含む多糖、並びにグルコース、ラムノース、および/またはキシロースを含むステビオール配糖体からなる群から選択される1または複数の糖質を含む。
【0046】
グルコース、ラムノース、および/またはキシロースを含むステビオール配糖体としては、例えば、レバウジオシドA、レバウジオシドB、レバウジオシドC、レバウジオシドD、レバウジオシドE、レバウジオシドF、レバウジオシドI、レバウジオシドM、レバウジオシドNおよびステビオシド等が挙げられる。また、前記のステビオール配糖体以外にも、例えば、レバウジオシドG、レバウジオシドJ、レバウジオシドK、レバウジオシドO、レバウジオシドQ、レバウジオシドR、ズルコシドA、ズルコシドC、ルブソシド、ステビオール、ステビオールモノシドおよびステビオールビオシド等も挙げられる。
【0047】
本発明の一態様における水熱処理ステビア組成物は、甘味料や食品添加剤として、任意に目的成分の分離や精製を行って飲食品に適用することができる。食品は、例えば、製菓、製パン類、穀粉、麺類、飯類、農産・林産加工食品、畜産加工品、水産加工品、乳・乳製品、油脂・油脂加工品、調味料またはその他の食品素材等が挙げられる。飲料は、例えば、炭酸飲料、スポーツドリンク、フレーバーウォーター、果汁飲料、アルコール飲料、非アルコール飲料、ビールやノンアルコールビール等のビールテイスト飲料、コーヒー飲料、茶飲料、ココア飲料、栄養飲料、機能性飲料等が挙げられる。また、炭酸飲料としては、スパークリング飲料、コーラ、ダイエットコーラ、ジンジャーエール、サイダー、果汁フレーバー炭酸飲料および果汁風味が付与された炭酸水等が挙げられる。目的成分の分離や精製は、公知の方法を用いて行うことができる。また、飲食品への配合量は、飲食品の種類や飲食品に付加する機能(例えば、甘味、香味、抗酸化作用の付与)等の目的に応じて適宜設定することができる。
【0048】
4.ステビア葉抽出残渣を原料とする水熱処理ステビア組成物
上記「2.ステビア葉の抽出残渣を原料とする水熱処理ステビア組成物の製造方法」で説明した方法によって製造された水熱処理ステビア組成物は、ポリフェノール画分を含む。ポリフェノールは、例えば、アントシアニン、カテキン、クロロゲン酸、タンニン、クルクミンおよびイソフラボン等が挙げられる。
【0049】
本発明の一態様において、水熱処理ステビア組成物に含まれるポリフェノール量は、フォーリン・チオカルト法を用い、没食子酸を標準物質とした総ポリフェノール量として算出することができる。上記方法で算出した本発明の一態様における水熱処理ステビア組成物中のポリフェノール量は、100~5,000ppm、400~4,000pp、1,000~3,500ppmまたは1,500~3,200ppm等であり得る。
また、上記方法で算出した本発明の一態様における水熱処理ステビア組成物中のポリフェノール量は、原料(g)に対して、1~50mg、4~30mg、5~20mgまたは7~13mg等であり得る。
【0050】
また、上記「2.ステビア葉の抽出残渣を原料とする水熱処理ステビア組成物の製造方法」で説明した方法によって製造された水熱処理ステビア組成物は、ラムノース、リボース、フコース、キシロース、グルクロン酸、アラビノース、フルクトース、ガラクツロン酸、マンノース、グルコース、およびガラクトースを含む単糖、前記単糖とアグリコンとしてアセチル基を含む多糖、並びにグルコース、ラムノース、および/またはキシロースを含むステビオール配糖体からなる群から選択される1または複数の糖質を含む。
【0051】
グルコース、ラムノース、および/またはキシロースを含むステビオール配糖体としては、例えば、レバウジオシドA、レバウジオシドB、レバウジオシドC、レバウジオシドD、レバウジオシドE、レバウジオシドF、レバウジオシドI、レバウジオシドM、レバウジオシドNおよびステビオシド等が挙げられる。また、前記のステビオール配糖体以外にも、例えば、レバウジオシドG、レバウジオシドJ、レバウジオシドK、レバウジオシドO、レバウジオシドQ、レバウジオシドR、ズルコシドA、ズルコシドC、ルブソシド、ステビオール、ステビオールモノシドおよびステビオールビオシド等も挙げられる。
【0052】
本発明の一態様における水熱処理ステビア組成物は、甘味料や食品添加剤として、任意に目的成分の分離や精製を行って飲食品に適用することができる。食品は、例えば、製菓、製パン類、穀粉、麺類、飯類、農産・林産加工食品、畜産加工品、水産加工品、乳・乳製品、油脂・油脂加工品、調味料またはその他の食品素材等が挙げられる。飲料は、例えば、炭酸飲料、スポーツドリンク、フレーバーウォーター、果汁飲料、アルコール飲料、非アルコール飲料、ビールやノンアルコールビール等のビールテイスト飲料、コーヒー飲料、茶飲料、ココア飲料、栄養飲料、機能性飲料等が挙げられる。また、炭酸飲料としては、スパークリング飲料、コーラ、ダイエットコーラ、ジンジャーエール、サイダー、果汁フレーバー炭酸飲料および果汁風味が付与された炭酸水等が挙げられる。目的成分の分離や精製は、公知の方法を用いて行うことができる。また、飲食品への配合量は、飲食品の種類や飲食品に付加する機能(例えば、甘味、香味、抗酸化作用の付与)等の目的に応じて適宜設定することができる。
【0053】
5.食品機能性成分の回収方法
本発明は、食品機能性成分であるステビオール配糖体、糖質、ポリフェノールの回収率の反応過酷度依存性を利用して、前記食品機能性成分に応じて反応過酷度を選択し、水熱反応場を制御することを含む、食品機能性成分の回収方法にも関する。本発明の方法は、前記食品機能性成分を回収する対象物および/または目的とする食品機能性成分の種類に応じて反応過酷度を選択することができる。以下、想定される場合に分けて説明する。
【0054】
5-1.ステビア葉から食品機能性成分を回収する方法
本発明の一態様において、ステビア葉を食品機能性成分の回収対象物とする場合、上記「1.ステビア葉粉砕物を原料とする水熱処理ステビア組成物の製造方法」で説明した方法に準じてステビア葉に水熱処理を施すことを含む。水熱処理における反応過酷度は、目的とする食品機能性成分の種類に応じて選択することができる。
【0055】
(ステビオール配糖体)
本発明の一態様において、ステビオール配糖体を回収目的物とする場合、反応過酷度は、1~4000、5~4000、50~4000、100~4000、300~4000、500~4000、700~4000、1000~4000、1~3000、5~3000、50~3000、100~3000、300~3000、500~3000、700~3000、1000~3000、1~2500、5~2500、50~2500、100~2500、300~2500、500~2500、700~2500、1000~2500、1~2000、5~2000、50~2000、100~2000、300~2000、500~2000、700~2000、1000~2000、1~1500、5~1500、50~1500、100~1500、300~1500、500~1500、700~1500、1000~1500または500~1000等であってもよい。
【0056】
(糖質)
本発明の一態様において、糖質を回収目的物とする場合、反応過酷度は、1~3000、100~3000、300~3000、500~3000、600~3000、700~3000、1000~3000、1~1500、100~1500、300~1500、500~1500、600~1500、700~1500、1000~1500、1~1000、100~1000、300~1000、500~1000、600~1000または700~1000等であってもよい。
【0057】
(ポリフェノール)
本発明の一態様において、ポリフェノールを回収目的物とする場合、反応過酷度は、1~4000、5~4000、50~4000、100~4000、300~4000、500~4000、700~4000、1000~4000、1~3000、5~3000、50~3000、100~3000、300~3000、500~3000、700~3000、1000~3000、1~2500、5~2500、50~2500、100~2500、300~2500、500~2500、700~2500、1000~2500、1~2000、5~2000、50~2000、100~2000、300~2000、500~2000、700~2000、1000~2000、1~1500、5~1500、50~1500、100~1500、300~1500、500~1500、700~1500または1000~1500等であってもよい。
【0058】
5-2.ステビア葉抽出残渣から食品機能性成分を回収する方法
本発明の一態様において、ステビア葉抽出残渣を食品機能性成分の回収対象物とする場合、上記「2.ステビア葉の抽出残渣を原料とする水熱処理ステビア組成物の製造方法」で説明した方法に準じてステビア葉抽出残渣に水熱処理を施すことを含む。水熱処理における反応過酷度は、目的とする食品機能性成分の種類に応じて選択することができる。
【0059】
(ステビオール配糖体)
本発明の一態様において、ステビオール配糖体を回収目的物とする場合、反応過酷度は、1~7000、5~7000、50~7000、100~7000、300~7000、500~7000、700~7000、1000~7000、1~5000、5~5000、50~5000、100~5000、300~5000、500~5000、700~5000、1000~5000、1~4000、5~4000、50~4000、100~4000、300~4000、500~4000、700~4000、1000~4000、1~3000、5~3000、50~3000、100~3000、300~3000、500~3000、700~3000、1000~3000、1~2500、5~2500、50~2500、100~2500、300~2500、500~2500、700~2500、1000~2500、1~2000、5~2000、50~2000、100~2000、300~2000、500~2000、700~2000、1000~2000、1~1500、5~1500、50~1500、100~1500、300~1500、500~1500、700~1500、1000~1500または500~1000等であってもよい。
【0060】
(糖質)
本発明の一態様において、糖質を回収目的物とする場合、反応過酷度は、1~7000、5~7000、50~7000、100~7000、300~7000、500~7000、700~7000、1000~7000、2000~7000、1~5000、5~5000、50~5000、100~5000、300~5000、500~5000、700~5000、1000~5000、2000~5000、1~4500、5~4500、50~4500、100~4500、300~4500、500~4500、700~4500、1000~4500または2000~4500等であってもよい。
【0061】
(ポリフェノール)
本発明の一態様において、ポリフェノールを回収目的物とする場合、反応過酷度は、1~7000、5~7000、50~7000、100~7000、300~7000、500~7000、700~7000、1000~7000、2000~7000、1~5000、5~5000、50~5000、100~5000、300~5000、500~5000、700~5000、1000~5000、2000~5000、1~4500、5~4500、50~4500、100~4500、300~4500、500~4500、700~4500、1000~4500または2000~4500等であってもよい。
【0062】
[例示的態様]
本発明の一態様において、水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉粉砕物を固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で連続または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含み、前記亜臨界水熱処理後の水熱処理ステビア組成物が、ポリフェノールを5,000~15,000ppm含む、製造方法が提供される。本態様において、反応過酷度は、600以上3000未満、800以上3000未満または1000以上3000未満等であってもよい。また、本態様において、ポリフェノール量は、6,000~14,000ppmまたは9,000~12,000ppm等であってもよい。
【0063】
本発明の一態様において、水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉に対し、あらかじめ溶媒で甘味成分を抽出した後の残渣を出発原料として、原料固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度160℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~7000の制御条件下で連続的または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含み、前記亜臨界水熱処理後の水熱処理ステビア組成物が、ポリフェノールを100~5,000ppm含む、製造方法が提供される。本態様において、反応過酷度は、600~5000、800~5000、1000~5000、600以上3000未満、800以上3000未満または1000以上3000未満等であってもよい。また、本態様において、ポリフェノール量は、400~4,000pp、1,000~3,500ppmまたは1,500~3,200ppm等であってもよい。
【0064】
本発明の一態様において、水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉粉砕物を固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で連続または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含み、
前記亜臨界水熱処理後の水熱処理ステビア組成物が、ポリフェノールを5,000~15,000ppm含み、かつ
ラムノース、リボース、フコース、キシロース、グルクロン酸、アラビノース、フルクトース、ガラクツロン酸、マンノース、グルコース、およびガラクトースを含む単糖、前記単糖とアグリコンとしてアセチル基を含む多糖、並びにグルコース、ラムノース、および/またはキシロースを含むステビオール配糖体からなる群から選択される1または複数の糖質を含む、製造方法が提供される。
本態様において、反応過酷度は、600以上3000未満、800以上3000未満または1000以上3000未満等であってもよい。また、本態様において、ポリフェノール量は、6,000~14,000ppmまたは9,000~12,000ppm等であってもよい。
【0065】
本発明の一態様において、水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉に対し、あらかじめ溶媒で甘味成分を抽出した後の残渣を出発原料として、原料固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度160℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~7000の制御条件下で連続的または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことを含み、
前記亜臨界水熱処理後の水熱処理ステビア組成物が、ポリフェノールを100~5,000ppm含み、かつ
ラムノース、リボース、フコース、キシロース、グルクロン酸、アラビノース、フルクトース、ガラクツロン酸、マンノース、グルコース、およびガラクトースを含む単糖、前記単糖とアグリコンとしてアセチル基を含む多糖、並びにグルコース、ラムノース、および/またはキシロースを含むステビオール配糖体からなる群から選択される1または複数の糖質を含む、製造方法が提供される。
本態様において、反応過酷度は、600~5000、800~5000、1000~5000、600以上3000未満、800以上3000未満または1000以上3000未満等であってもよい。また、本態様において、ポリフェノール量は、400~4,000pp、1,000~3,500ppmまたは1,500~3,200ppm等であってもよい。
【0066】
本発明の一態様において、水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉粉砕物を固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度130℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~4000の制御条件下で連続または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことと、
前記亜臨界水熱処理後に固液分離することと、を含む、製造方法が提供される。本態様において、反応過酷度は、600以上3000未満、800以上3000未満または1000以上3000未満等であってもよい。
【0067】
本発明の一態様において、水熱処理ステビア組成物の製造方法であって、ステビア葉に対し、あらかじめ溶媒で甘味成分を抽出した後の残渣を出発原料として、原料固形分として10~30wt%含むスラリーを、反応液が液圧として飽和蒸気圧以上となる圧力制御下で、反応温度160℃以上かつ反応過酷度(Severity Parameter)を500~7000の制御条件下で連続的または非連続的な亜臨界水熱処理を施すことと、
前記亜臨界水熱処理後に固液分離することと、を含む、製造方法が提供される。本態様において、反応過酷度は、600~5000、800~5000、1000~5000、600以上3000未満、800以上3000未満または1000以上3000未満等であってもよい。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
【0069】
[製造例]
原料としてステビア乾燥葉(含水率:10重量%以下)の粉砕物およびステビア葉温水抽出残渣の2種類を用い、それぞれについて以下の手順および条件で水熱反応を与えた。なお、ステビア葉温水抽出残渣は、ステビア乾燥葉(含水率:10重量%以下)の温水処理(60℃、1時間)および処理物のメッシュによる固液分離を2回繰り返し、得られた残渣を凍結乾燥し、乾燥させた残渣を粉砕することで得た。
一般に、水熱反応の条件については反応温度および反応時間を設定するが、工業プロセスに適用する場合、実際の反応場における反応温度及び反応時間を外部から精密に管理することが困難になるため、上記式(1)で算出される反応過酷度(R0, Severity Parameter)を制御パラメータとして使用した。
【0070】
反応過酷度は、100℃以上の水熱反応条件において原料が受けた熱および時間の履歴をエネルギー値に換算したパラメータである。反応過酷度が一定ならば、反応温度の変動を反応時間で、反応時間の変動を反応温度で相互に調整することができる。反応過酷度の導入に成功した場合、ラボレベルで精密な反応条件を与えることができる小容量のバッチ式水熱反応器で得られたデータを工業用の連続式水熱反応装置の反応制御に適用することができる。
【0071】
SUS316製バッチ式水熱反応器(内容積:35ml)にステビア葉粉砕物を3.4g、およびステビア葉温水抽出残渣の粉砕物を3.4g仕込み、25gのイオン交換水を加え温度センサーをとともに反応機に仕込んだ。これを130、160、170、180、190℃の温度水準反応処理行い、反応容器ごと冷水で急速冷却したのち分取して、生成物を分析した。反応器内部の温度履歴は挿入された温度センサーで実測し、試料の受けた反応過酷度を市販のデータロガーを用いてリアルタイムでモニタリングした。
【0072】
[実施例A]ステビオール配糖体の回収
水熱反応によって得られる各ステビオール配糖体の濃度を液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MSMS)法によって求めた。測定には、島津製作所社製M8050 (UPLC:Nexsera)に、Phenomenex社製SecurityGurdTM Ultra AJ0-9502 C18 for 2.1 mm ID ガードカラムおよび島津製作所社製Shim-pack XR-ODSII(2.0 x 150 mm)カラムを適用した。
サンプル希釈には30%(v/v)アセトニトリルを用い、注入量を1μLとして、カラムオーブン温度40℃の条件下で送液モードisocraticを選択し、移動相Aとして超純水0.1%(v/v)ギ酸混液を0.34 ml/min、移動相Bとしてアセトニトリルを0.16 ml/minで送液した。検出時間は13分であった。図1に、例2を除くサンプルについて反応過酷度に対するステビオール配糖体の回収率を示した。また、図2に、例1および2を除くサンプルについて図1の反応過酷度を対数で表示したグラフを示した。表1~4に、測定した各水準に係る反応条件およびステビオール配糖体の分析結果を示した。なお、図1および2において、縦軸の「配糖体回収率」は、ステビア植物を温水抽出した場合の回収率を100%とした際の回収率である。また、例1は、水熱処理を行わずにイオン交換水を用いて温水抽出を行ったサンプルである。例14は、水熱処理を行わずにイオン交換水を用いて温水抽出を2回行った後の抽出残渣を凍結乾燥し、粉砕したものをもう一度温水抽出したサンプルである。
【0073】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0074】
図1に示すように、原料がステビア葉の場合、RebA、RebDおよびRebMの回収率は、反応温度がどのような水準であっても、反応過酷度に依存することが分かった。また、図2に示すように、各ステビオール配糖体の収率は反応過酷度に対して直線関係にあり、反応温度に依らず、反応エネルギーに対して線形の関係を示すことが分かった。
この結果から、反応過酷度の上昇に伴ってステビア植物から溶出したステビオール配糖体が加水分解されることが示唆された。また、対数近似されたように、ステビオール配糖体の収率は、反応過酷度(対数)に対してリニアな関係にあり、反応温度の水準に依らず、反応エネルギーに対して線形の関係が保たれていた。
【0075】
[実施例B]ポリフェノールの回収
ステビア葉およびステビア葉温水抽出残渣の水熱処理液にそれぞれフェノール試薬および炭酸ナトリウム溶液を加え、30分の反応後、分光光度計(島津製作所製UV 1800)を用いて、760nmの吸光度を測定した。ポリフェノール量の測定は、没食子酸一水和物(ナカライテスク社製)で作成した検量線により、総ポリフェノール量を算出するフォーリン・チオカルト法を採用した。
図3に、反応過酷度に対するステビア葉から溶出したポリフェノール量を、図4に、反応過酷度に対するステビア葉温水抽出残渣から溶出したポリフェノール量を、没食子酸換算値としてそれぞれ示した。
【0076】
図3および4から、ポリフェノールの回収についても反応温度に依らず、反応過酷度に依存することが分かった。
ステビア葉を出発原料とした場合、反応過酷度1000近傍に最大収率が見られ、反応過酷度がさらに上昇すると生成物がやや分解する傾向が見られた。これは、図1および図2に示されるステビオール配糖体由来のポリフェノール類の分解によるものと考えられる。一方、あらかじめ温水抽出によりステビオール配糖体が除去されているステビア葉温水抽出残渣は、反応過酷度が高くなるほど回収されるポリフェノール量は上昇した。
また、図5に示されるように、ステビア葉温水抽出残渣から溶出したポリフェノールの収率は、ステビオール配糖体の回収率と同じく、対数で表示される反応過酷度に対して直線関係にあり、反応エネルギーに対して線形の関係が保たれていた。なお、各サンプルのポリフェノール量を表5および6に示した。
【0077】
【表5】
【表6】
【0078】
[実施例C]糖質の回収
ステビア葉およびステビア葉温水抽出残渣を所定の反応過酷度で水熱反応を与え、可溶化してくる糖質の分析を行った。
まず水熱処理物をポリプロピレン製遠沈管に回収し、遠心分離(12000rpm,10min)し、上清液および水熱処理後の残渣を濾紙(GS-25)に通して全量を回収した。水熱処理後の残渣に関しては、Brixが0.1以下になるまで温水で洗浄して濾紙上で捕捉した。回収した残渣は105℃で重量変化がなくなるまで乾燥し、重量を測定した後、以下の式で可溶化率を求めた。
可溶化率(w/w%)=((原料の仕込量)-(残渣の回収量))/(原料の仕込量)×100
【0079】
次に、水熱処理により可溶化した全糖質を測定した。
上記方法により得た可溶化液2gをねじ口試験管に分取し、4N-硫酸2mLを加えて密封し、沸騰水浴中で3時間の加熱処理を行った。反応液を遠沈管に全量回収し、飽和水酸化バリウム液で中和後、遠心分離して上清液を回収した。回収液はメンブレンフィルターで濾過し、高性能陰イオン交換クロマトグラフィー-パルスドアンペロメトリー検出法(HPAEC-PAD)により全糖質を求めた。なお、本明細書中、「全糖質」とは、実際に分析したすべての糖質の総称であり、水熱処理ステビア組成物には、分析した糖質以外の糖質も含まれ得る。
【0080】
次に、可溶化液を希釈後、メンブレンフィルターで濾過しHPAEC-PADにより遊離単糖を測定した。HPAEC-PAD分析については、Thermo Fisher Scientific: Application Note 280. “Carbohydrate in Coffee: AOAC Method 995.13 vs a New Fast Ion Chromatography Method”の記載に準拠して行った。また、結合糖質(二糖以上、オリゴ糖・多糖、一部ステビオール配糖体も含む)については、全糖質より遊離単糖の測定値を減算し求めた。デンプンは可溶化液をアミログルコシダーゼを用いる選択的定量キット(Cell BioLbs Inc. , Starch Assay Kit [MET-5025])により別途測定し、HPAEC-PAD分析で算出した結合糖質の値から減算することでデンプンと非デンプンを分別した。以上の分析結果を図6~10に示す。
【0081】
図6は、ステビア葉の反応過酷度に対する糖質回収率を表したものである。
水熱処理による可溶化率は反応過酷度1000まで急激に上昇し、それ以降は緩やかになり、収率76~78wt%に収束した。温水抽出(例1)における可溶化率が57wt%だったのに比べ、水熱処理したサンプルでは、水が溶媒としての性質以外に植物細胞を分解する触媒としても働くため、材料の利用率を約20%向上することができた。
全糖質および結合糖質については、反応過酷度600近傍に収率のピークが観察され反応過酷度1000以降に緩やかな減少が見られた。反応過酷度が上昇しても単糖の生成量は変化が見られなかったことから、結合糖質の減少は主に糖鎖を修飾しているアグリコンの離脱が反映されたもと考えられる。
【0082】
図7は、ステビア葉の温水抽出残渣の反応過酷度に対する糖質回収率を表したものである。図7に示されるように、あらかじめステビオール配糖体を除去した抽出残渣を原料に用いた場合にも、水熱処理によって約20wt%の糖質回収に成功した。反応過酷度2200~2300に糖質の回収率の緩やかなピークが見られた。その後、反応過酷度をさらに上昇させても回収率の向上は見られなかったが、単糖生成量も大きく上昇していないため、ここで回収される結合糖質は反応過酷度2000を超える領域でも安定した構造を保っていたと予想できる。なお、図8に、ステビア葉温水抽出残渣の反応過酷度に対する糖質回収率を片対数で表示したグラフを示した。図8は、例14の反応過酷度を「4」と仮定して作成したものである。
【0083】
これらの結果から、ステビア葉を原料とした図6では、ステビオール配糖体の抽出と、抽出された同配糖体自体の分解、細胞壁の分解による糖質生成の過程が同時に示され、ステビア葉温水抽出残渣を原料とした図7では、ステビア葉の細胞壁の分解挙動が優先的に表現されていると考えることができる。
【0084】
また、通常の温水抽出とは異なり、ステビア葉およびステビア葉温水抽出残渣に水熱反応を与えると、いずれも原料からも20wt%を超える収率で、極めて多様な糖質が回収された。表7には、ステビア葉を水熱処理した際の全糖質の回収率を示した。また、表8には、ステビア葉温水抽出残渣を水熱処理した際の全糖質の回収率を示した。
ここで観察された糖質は、以下のとおりである。
単糖類:ガラクツロン酸(GalA)、フコース(Fuc)、ラムノース(Rha)、ガラクトース(Gal)、アラビノース(Ara)、キシロース(Xyl)、グルクロン酸(GlcA)、マンノース(Man)、グルコース(Glc)、フルクトース(Fru)、リボース(Rib)
以下の修飾基をもつ多糖またはオリゴ糖類:アセチル基(-AcO基)
以下の単糖類で構成される多糖またはオリゴ糖類:ガラクツロン酸(-GalA)、フコース(-Fuc)、ラムノース(-Rha)、ガラクトース(-Gal)、アラビノース(-Ara)、キシロース(-Xyl)、グルクロン酸(GlcA)、マンノース(an)、グルコース(βグルカン系-Glc・αデンプン系-Glc)、フルクトース(-Fru)、リボース(-Rib)
ステビオール配糖体由来糖質:グルコース(-Glu)、ラムノース(-Rha)、キシロース(-Xyl)
【0085】
【表7】
【表8】
【0086】
ステビア葉よりもっとも多く回収されるのはグルコース、キシロースまたはガラクトースで構成される多糖であった。これは、植物細胞壁を構成するヘミセルロースの主要糖鎖が分解して生成したものでありであり、βグルカン、セロオリゴ、キシロオリゴ、キシログルカン、ガラクトオリゴ、アラビノオリゴなどの形態で可溶化してきたものと考えられる。グルコースで構成される多糖の一部には、アミラーゼ活性が認められた。表8中に「デンプン-Glu」と記載したように、ステビア葉から分画されるグルカンのうち約20%はデンプンとして貯蔵されていることも発見され、本発明の反応過酷度領域で効率良く回収することができた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
ステビア葉を原料として水熱処理を行うと、単なる甘味物質の抽出にとどまらず、植物の細胞壁を構成するポリフェノール類および糖質を高収率で回収することができ、材料利用率を飛躍的に向上させることができた。
本発明により、回収目的成分の収率は反応過酷度に依存することが証明された。この反応過酷度依存性を利用すると、水熱反応工程における反応温度と反応時間の変動を相互に調整することで、水熱処理ステビア組成物の生産工程を精密に制御することが可能となる。これは、バッチ式精密水熱反応器を用いたデータをもとに連続式水熱反応器へのスケールアップを可能とし、工業生産の道を開く成果である。
回収されるポリフェノール類は、抗酸化活性や抗糖化活性などの健康機能を持つ物質で、難消化性の多糖類は腸内細菌叢の正常化や免疫賦活の機能も報告されている有用物質である。また、今回発見したリボースは、国際希少糖学会では希少糖質に分類されており、新たな機能解明が進められている物質である。
反応過酷度依存性を利用して目的の反応過酷度が達成されるように反応器を制御すれば、工業スケールにおいても収率の再現性は確保され、特許文献1~3に示される連続式反応器への適用が十分可能になると考えられる。
以上のように、本発明によると、ステビア葉またはステビア葉温水抽出残渣を原料として最適な水熱反応を作用させることにより、材料利用率の向上、有用物質の回収、反応過酷度依存性を利用した目的物質の収率の極大化と工業スケールでの反応工程制御を同時に実現することが可能になり、産業上の意義は大きいと言える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8