(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189046
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/19 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
B62D1/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097389
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】白石 善紀
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC16
3D030DC17
3D030DD18
3D030DD19
3D030DD26
3D030DD65
3D030DD76
3D030DE05
3D030DE13
(57)【要約】
【課題】小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に安定したエネルギー吸収性能を得ることができるステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置は、インナコラム、アウタコラム、ハンガブラケット、固定部材を備える。ハンガブラケットは、前後方向に沿って延び固定部材の軸部が貫通するガイド孔を有する。ガイド孔の縁部には、固定部材の座部が当接してハンガブラケットをインナコラムに固定する第1領域と、第1領域の前方側に配置され、二次衝突荷重の入力によって座部がインナコラムとともに前方に変位したときに座部と対向する第2領域が設けられている。座部が第2領域と対向する位置に変位した状態での座部とガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力は、座部が第1領域と対向する位置での座部とガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力よりも小さく設定されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、
車体に前後方向の変位を規制された状態で支持されるとともに、前記インナコラムが前後方向に位置調整可能に挿入されるアウタコラムと、
前記インナコラムに取り付けられ、かつ、前記インナコラムの前後方向の変位時に、前記アウタコラム側の変位規制部と当接することで前記インナコラムの過大な変位を規制するストッパ部を有するハンガブラケットと、
前記ハンガブラケットを貫通して一端側が前記インナコラムに結合される軸部、及び、前記軸部の他端側に設けられて前記ハンガブラケットを前記インナコラムに押し付けて固定する座部、を有する固定部材と、を備え、
前記ハンガブラケットは、前後方向に沿って延び前記固定部材の前記軸部が貫通するガイド孔を有し、
前記ハンガブラケットの前記ガイド孔の縁部には、
前記固定部材の前記座部が当接して前記ハンガブラケットを前記インナコラムに固定する第1領域と、
前記第1領域の前方側に隣接して配置され、前記ステアリングシャフトに対する二次衝突荷重の入力によって前記座部が前記インナコラムとともに前方に変位したときに前記座部と対向する第2領域が設けられ、
前記座部が前記第2領域と対向する位置に変位した状態での前記座部と前記ガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力は、前記座部が前記第1領域と対向する位置での前記座部と前記ガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力よりも小さく設定されていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記第2領域は、前記第1領域よりも、前記座部に対向する方向の突出高さが低く設定されていることを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記第1領域と前記第2領域は、一体の金属部材によって形成されていることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記第1領域には、前記座部に対向する方向の高さが前記第2領域よりも高くなるように、スペーサ部材が配置されていることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記固定部材は、締め込みトルクの管理が可能な締結部材であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記固定部材は、前記インナコラムの軸方向に離間した位置に複数配置され、
前記ハンガブラケットは、各前記固定部材によって前記インナコラムの軸方向に離間した複数位置に固定され、
前記ハンガブラケットには、各前記固定部材に対応するように前記第1領域と前記第2領域が夫々設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
一部の前記固定部材に対応する前記第2領域は、当該固定部材の前記座部が当該第2領域と対向する位置に変位した状態での前記座部と前記ガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力が、前記第1領域での前記座部と前記ガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力と同じになるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記第2領域は、前記座部に対向する方向の突出高さが後端部から前方側に向かって漸減していることを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置では、運転者の体格や運転姿勢に応じてステアリングホイールの前後位置を調整するテレスコピック機能を備えたものがある。この種のステアリング装置は、ステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、インナコラムを前後方向に移動可能に支持するアウタコラムと、を備えている。
【0003】
ステアリング装置では、二次衝突時において、所定の荷重が乗員からステアリングホイールに作用した場合に、インナコラムがアウタコラムに対して前方に移動する過程(コラプスストローク)で運転者に加わる衝撃荷重を緩和する機構が搭載されている。
【0004】
ここで、例えば下記特許文献1には、ステアリングコラムの左右両側に設けられたチルトプレートを介してステアリングコラムがブラケットに支持された構成が開示されている。具体的には、下記特許文献1の構成では、ブラケットから突出したチルトピンが、チルトプレートに形成された孔部に保持されることで、ステアリングコラムが支持されている。チルトプレートには、孔部の後方側に連続するようにガイド用の長孔が形成されている。また、ステアリングコラムの前記ブラケットによる支持位置の前部側の下面には、膨出高さが後方側に向かって漸増する膨出部が固定されている。
【0005】
特許文献1に記載のステアリング装置は、コラプスストロークの際に、インナコラムの前方側への移動とともにチルトピンが孔部から抜け、長孔内を相対移動する。このとき、長孔による案内機能によりステアリングコラムの姿勢が安定し、かつ、ブラケットが膨出部に当接することで、膨出部を漸次押し潰し衝撃荷重のエネルギーを吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したステアリング装置にあっては、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に安定したエネルギー吸収性能を得ることについて未だ改善の余地があった。
【0008】
そこで本発明は、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に安定したエネルギー吸収性能を得ることができるステアリング装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るステアリング装置は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
即ち、本発明に係るステアリング装置は、ステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、車体に前後方向の変位を規制された状態で支持されるとともに、前記インナコラムが前後方向に位置調整可能に挿入されるアウタコラムと、前記インナコラムに取り付けられ、かつ、前記インナコラムの前後方向の変位時に、前記アウタコラム側の変位規制部と当接することで前記インナコラムの過大な変位を規制するストッパ部を有するハンガブラケットと、前記ハンガブラケットを貫通して一端側が前記インナコラムに結合される軸部、及び、前記軸部の他端側に設けられて前記ハンガブラケットを前記インナコラムに押し付けて固定する座部、を有する固定部材と、を備え、前記ハンガブラケットは、前後方向に沿って延び前記固定部材の前記軸部が貫通するガイド孔を有し、前記ハンガブラケットの前記ガイド孔の縁部には、前記固定部材の前記座部が当接して前記ハンガブラケットを前記インナコラムに固定する第1領域と、前記第1領域の前方側に隣接して配置され、前記ステアリングシャフトに対する二次衝突荷重の入力によって前記座部が前記インナコラムとともに前方に変位したときに前記座部と対向する第2領域が設けられ、前記座部が前記第2領域と対向する位置に変位した状態での前記座部と前記ガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力は、前記座部が前記第1領域と対向する位置での前記座部と前記ガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力よりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0010】
上記の構成により、インナコラムの前後位置を調整する際には、ハンガブラケットのストッパ部がアウタコラム側の変位規制部と当接することにより、インナコラムの過大な変位が規制される。このとき、ハンガブラケットは、固定部材によってインナコラムに一体に固定されているため、インナコラムの前後方向の過大な変位はハンガブラケットを介して規制される。
一方、インナコラムの前後位置が任意の位置に固定された状態で、乗員からの二次衝突荷重がステアリングシャフトに入力されると、アウタコラムによるインナコラムの拘束力に抗してインナコラムが前方に変位し、インナコラムが設定量前方に変位したところで、ハンガブラケットのストッパ部がアウタコラム側の変位規制部に当接する。このとき、ステアリングシャフトに対する二次衝突荷重の入力がさらに続くと、ハンガブラケットがアウタコラム側の変位規制部から受ける反力が増大する。これにより、固定部材の座部によるハンガブラケットの第1領域(ガイド孔の縁部)に対する摩擦拘束力に抗して、固定部材がインナコラムとともに前方に変位する。このとき、第1領域の前方側に隣接して配置されている第2領域は、固定部材の座部とガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力が相対的に小さいため、固定部材は座部が第2領域に対向する領域までスムーズに変位する。すなわち、固定部材は、比較的小さな作動初期荷重でハンガブラケット対する相対変位を開始する。この後、固定部材の軸部がガイド孔に案内されつつ、インナコラムがハンガブラケットによる拘束力とアウタコラムによる拘束力に抗してさらに前方にスムーズに変位する。乗員からテアリングシャフトに入力された二次衝突荷重のエネルギーはこの間に安定して吸収される。
【0011】
前記第2領域は、前記第1領域よりも、前記座部に対向する方向の突出高さが低く設定されるようにしても良い。
【0012】
この場合、固定部材の座部に対向する第2領域の突出高さが第1領域よりも低いため、第2領域において座部とガイド孔の縁部の間に作用する摩擦力が、第1領域において座部とガイド孔の縁部の間に作用する摩擦力よりも小さくなる。本構成では、固定部材の座部に対向する方向の第2領域の突出高さを第1領域の突出高さよりも低くするだけの簡単な構成でありながら、二次衝突荷重の入力時における作動初期荷重を比較的小さく抑え、二次衝突荷重のエネルギーをスムーズに吸収することができる。
また、本構成では、固定部材の座部に対向する方向の第2領域の突出高さが第1領域の突出高さよりも低いため、二次衝突荷重の入力時に固定部材の座部が第2領域に対向する位置まで相対変位すると、座部によるインナコラムに対するハンガブラケットの押し付け荷重も小さくなる。この結果、ハンガブラケットとインナコラムの間の摩擦抵抗がより小さくなる。したがって、本構成を採用した場合には、二次衝突荷重の入力時におけるコラプスストロークの後期の作動をよりスムーズし、エネルギー吸収性能をより高めることができる。
【0013】
前記第1領域と前記第2領域は、一体の金属部材によって形成されるようにしても良い。
【0014】
この場合、突出高さの異なる第1領域と第2領域をプレス成形等によって容易に造形することができるとともに、部品点数の削減を図ることができる。
【0015】
前記第1領域には、前記座部に対向する方向の高さが前記第2領域よりも高くなるように、スペーサ部材が配置されるようにしても良い。
【0016】
この場合、ハンガブラケットの第1領域に別体のスペーサ部材を配置するだけで、第1領域と第2領域の高さを容易に変えることができる。したがって、本構成を採用した場合には、ハンガブラケットの本体部(スペーサ部材以外の部分)の構造を簡素化し、生産性をより高めることができる。
【0017】
前記固定部材は、締め込みトルクの管理が可能な締結部材によって構成するようにしても良い。
【0018】
この場合、固定部材として締結部材を採用して締結部材の締め込みトルクを管理することにより、固定部材の座部によるハンガブラケットに対する摩擦拘束力を正確に設定調整することができる。したがって、本構成を採用した場合には、通常使用時におけるインナコラムに対するハンガブラケットの固定を確実なものにすることができるとともに、二次衝突荷重の入力時に設定通りの安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。
【0019】
前記固定部材は、前記インナコラムの軸方向に離間した位置に複数配置され、前記ハンガブラケットは、各前記固定部材によって前記インナコラムの軸方向に離間した複数位置に固定され、前記ハンガブラケットには、各前記固定部材に対応するように前記第1領域と前記第2領域が夫々設けられるようにしても良い。
【0020】
この場合、二次衝突荷重の入力時に、固定部材の軸部とガイド孔による案内作用と、固定部材の座部とガイド孔の縁部での固定及び摺動を複数の固定部材で分担して担うことが可能になる。このため、二次衝突荷重の入力時におけるインナコラムの挙動(コラプスストローク)をより安定させることができる。
また、本構成では、ハンガブラケットが前後方向に離間した位置で複数の固定部材によってインナコラムに固定されるため、ハンガブラケットのストッパ部がアウタコラム側の変位規制部に当接したときに、ハンガブラケットの前後方向の端部がインナコラムから離間する(浮き上がる)のを抑制することができる。したがって、本構成を採用した場合には、インナコラムの前後位置調整時におけるステアリング装置の商品性を高めることができるとともに、二次衝突荷重の入力時におけるハンガブラケットやインナコラムの作動を安定させることができる。
【0021】
一部の前記固定部材に対応する前記第2領域は、当該固定部材の前記座部が当該第2領域と対向する位置に変位した状態での前記座部と前記ガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力が、前記第1領域での前記座部と前記ガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力と同じになるように構成しても良い。
【0022】
この場合、一部の前記固定部材の座部は、二次衝突荷重の入力時における作動開始初期と作動後期でハンガブラケットに対する摩擦拘束力が変化しない。このため、二次衝突荷重の入力時の作動後期における摺動抵抗をより大きくし、コラプスストロークの間のエネルギー吸収量を増大させることができる。
【0023】
前記第2領域は、前記座部に対向する方向の突出高さが後端部から前方側に向かって漸減するようにしても良い。
【0024】
この場合、二次衝突荷重の入力時に、固定部材の座部が第1領域に対向する位置から第2領域に対向する位置まで変位すると、固定部材の座部によるガイド孔の縁部に対する摩擦拘束力が固定部材(インナコラム)の前方変位に応じて次第に減少する。この結果、コラスプストロークの後期におけるインナコラムの変位がよりスムーズになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るステアリング装置は、二次衝突荷重の入力時には、ハンガブラケットのガイド孔と固定部材の軸部による案内作用によってインナコラムの姿勢が安定して維持されるとともに、固定部材の座部がハンガブラケットの第1領域に対向する位置から第2領域に対向する位置にスムーズに変位し、二次衝突荷重のエネルギーをスムーズに吸収することができる。したがって、本発明に係るステアリング装置は、大型化やコストの高騰を招かない簡単な構造でありながら、二次衝突荷重の入力時に安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図8】第1実施形態のステアリング装置の二次衝突荷重の入力時におけるインナコラムの前方ストロークと、インナコラム、アウタコラム間に作用する荷重の関係を示す特性図。
【
図9】第2実施形態のステアリング装置の
図7に対応する断面図。
【
図10】第2実施形態のステアリング装置の二次衝突荷重の入力時におけるインナコラムの前方ストロークと、インナコラム、アウタコラム間に作用する荷重の関係を示す特性図。
【
図11】第2実施形態の変形例を示す
図9(a)と同様の断面図。
【
図12】第3実施形態のステアリング装置のハンガブラケットの取付部の縦断面図。
【
図14】第4実施形態のステアリング装置のハンガブラケットの取付部の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態では、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
【0028】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態のステアリング装置1の斜視図であり、
図2は、ステアリング装置1の下面図である。また、
図3は、
図1のIII-III線に沿う断面図である。
ステアリング装置1は、車両の運転席の前方に配置されている。ステアリング装置1は、運転者よるステアリングホイール2の回転操作によって車両の前輪の舵角を調整する。また、ステアリング装置1は、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイール2の前後位置を調整するテレスコピック機能と、ステアリングホイール2の上下方向の傾斜角度を調整するチルト機能と、を備えている。以下では、テレスコピック機能によるステアリング装置1の動作を「テレスコ動作」と称する。
【0029】
ステアリング装置1は、コラムユニット11と、ステアリングシャフト12と、フロントブラケット13及びリヤブラケット14と、ロック機構15と、を備えている。コラムユニット11及びステアリングシャフト12は、それぞれ軸線o1に沿って形成されている。以下の説明では、コラムユニット11及びステアリングシャフト12の軸線o1の延びる方向を単にシャフト軸方向と称し、軸線o1に直交する方向をシャフト径方向と称し、軸線o1回りの方向をシャフト周方向と称する場合がある。
【0030】
本実施形態のステアリング装置1は、軸線o1が車両の前後方向に対して上下方向に傾斜した状態で車両に搭載される。具体的には、ステアリング装置1の軸線o1は、後方に向かうに従って高さが高くなるように傾斜している。ただし、以下では、説明の便宜上、ステアリング装置1において、シャフト軸方向でステアリングホイール2に向かう方向を単に後方とし、ステアリングホイール2とは反対側に向かう方向を単に前方とする。シャフト径方向のうち、ステアリング装置1が車両に取り付けられた状態での上下方向を単に上下方向とし、左右方向を単に左右方向とする。
図中には、「前方」を向く矢印FRと、「上方」を向く矢印UPと、「左側方」を向く矢印LHが記されている。
【0031】
<コラムユニット11>
コラムユニット11は、アウタコラム21と、インナコラム22と、ハンガブラケット23と、を備えている。
【0032】
図4は、
図1のIV-IV線に沿う断面図である。
アウタコラム21は、フロントブラケット13及びリヤブラケット14を介して車体に固定されている。アウタコラム21は、保持筒部24と、一対の締付部25と、を備えている。
【0033】
保持筒部24は、前後方向に沿って延びる筒状に形成されている。保持筒部24内における前端部には、
図3に示すように、前側軸受27が嵌合(圧入)されている。保持筒部24の前端部を除く領域には、前後方向に沿って延びるスリット28が形成されている。スリット28は、本実施形態の場合、アウタコラム21の下部側に設けられている。スリット28は、アウタコラム21をシャフト径方向に貫通するとともに、アウタコラム21の後端側に開放されている。
【0034】
図4に示すように、締付部25は、保持筒部24のうち、スリット28を間に挟んで左右方向で対向する位置からそれぞれ下方に延びている。各締付部25には、当該締付部25を左右方向に貫通する貫通孔29が形成されている。
【0035】
図1,
図3に示すように、インナコラム22は、円筒状に形成され、前後方向に延びている。インナコラム22の外径は、保持筒部24の内径よりも小さくなっている。インナコラム22は、保持筒部24内に後方から挿入されている。インナコラム22は、アウタコラム21に対して前後方向に移動可能に構成されている。インナコラム22内の後端部には、
図3に示すように、後側軸受30が嵌合(圧入)されている。
【0036】
図5は、
図3の要部拡大図である。
図4、
図5に示すように、ハンガブラケット23は、インナコラム22の前部寄りの下面に下向きで固定されている。本実施形態では、ハンガブラケット23は金属材料によって一体に形成されている。ハンガブラケット23は、例えば金属板に対してプレス加工を施すことで形成することができる。ハンガブラケット23は、
図2に示すように、保持筒部24のスリット28を通して保持筒部24の外部(下方)に露出している。また、ハンガブラケット23は、
図4に示すように、前後方向から見た正面視で下方に開口する略U字形状に形成されている。
【0037】
図6は、
図5のVI矢視図である。なお、
図6では、後述するカラー56とロックボルト53が仮想線で描かれている。
ハンガブラケット23は、インナコラム22の軸方向に沿って配置される取付板部31と、取付板部31における左右方向の両端部から下方に延びる一対の側壁32と、を備えている。
【0038】
取付板部31は、上下方向を板厚方向とし、インナコラム22の下面に沿って前後方向に延びている。取付板部31は、下面視で前後方向に長い略長方形状に形成されている。取付板部31には、取付板部31を上下方向に貫通するガイド孔34が形成されている。ガイド孔34は、左右方向の幅に比較して前後方向に長く延びるスリット状の孔によって構成されている。ガイド孔34の詳細な形状については後述する。
【0039】
ハンガブラケット23は、締結部材(固定部材)である二つのボルト39F,39Rによってインナコラム22の下面の前後方向に離間した二位置に固定されている。各ボルト39F,39Rは、
図5に示すように、ハンガブラケット23の取付板部31(ガイド孔34部分)を上下に貫通して一端側(上端側)がインナコラム22に結合される軸部39aと、軸部39aの他端側(下端側)に一体に設けられた頭部39bと、を有する。頭部39bは、ハンガブラケット23の取付板部31(ガイド孔34の縁部)に当接し、取付板部31をインナコラム22の下面に押し付けることでハンガブラケット23をインナコラム22に固定する。後側のボルト39Rの軸部39aは、インナコラム22の軸方向のほぼ中央位置の下面に結合され、前側のボルト39Fの軸部39aは、インナコラム22の中央位置よりも前方側の下面に結合される。
本実施形態では、ボルト39F,39Rの頭部39bが締結部材(固定部材)における座部を構成している。
【0040】
なお、本実施形態では、締結部材(固定部材)として、ボルト39F,39Rがインナコラム22に直接固定された構成について説明したが、この構成に限られない。例えば、ボルト39F,39Rがインナコラム22の内側に設けられたナットに螺着されることで、インナコラム22に締結されていても良い。また、締結部材(固定部材)は、インナコラム22に突設されたスタッドボルトと、スタッドボルトに螺合されるナットによって構成するようにしても良い。この場合には、ナットが座部を構成することになる。
さらに、固定部材は、締結部材に限らず、螺合手段を持たないリベット等を用いることも可能である。固定部材がリベットによって構成される場合には、リベットの頭部が座部を構成することになる。
【0041】
ハンガブラケット23の側壁32は、取付板部31の前後方向の全域に亘って形成されている。側壁32は、下方側への突出高さが一定のテレスコガイド部32aと、テレスコガイド部32aよりも突出高さの高い一対のストッパ部32b,32cと、を備えている。
テレスコガイド部32aは、側壁32における前後両端部を除く領域に形成されている。テレスコガイド部32aの下端縁は、前後方向に沿って直線状に形成されている。ストッパ部32b,32cは、一方(32b)がテレスコガイド部32aの前端部に一体に形成され、他方(32c)がテレスコガイド部32aの後端部に一体に形成されている。前後のストッパ部32b,32cは、テレスコガイド部32aに対して下方に突出している。
【0042】
前側のストッパ部32bは、テレスコ動作の際に、後述するロックボルト53にカラー56を介して当接することにより、アウタコラム21に対するインナコラム22の後方変位を規制する。後側のストッパ部32cは、テレスコ動作の際に、後述するロックボルト53にカラー56を介して当接することにより、アウタコラム21に対するインナコラム22の前方変位を規制する。なお、前側のストッパ部32bの後縁部と後側のストッパ部32cの前縁部は、カラー56の外周面の円弧形状に略合致する円弧形状に形成されている。
【0043】
<ステアリングシャフト12>
図3に示すように、ステアリングシャフト12は、アウタシャフト37及びインナシャフト38を備えている。
アウタシャフト37は、前後方向に沿って延びる中空円筒状に形成されている。アウタシャフト37は、コラムユニット11内に挿入されている。アウタシャフト37の前端部は、アウタコラム21内で前側軸受27に圧入されている。これにより、アウタシャフト37は、軸線o1回りに回転可能にアウタコラム21に支持されている。アウタシャフト37の前端部(前側軸受27よりも前方に突出した部分)は、自在継手(不図示)等を介して例えばステアリングギヤボックス(不図示)に連結される。
【0044】
インナシャフト38は、アウタシャフト37と同様に、前後方向に沿って延びる中空円筒状に形成されている。インナシャフト38は、インナコラム22内に挿入されている。インナシャフト38の後端部は、インナコラム22内で後側軸受30に圧入されている。これにより、インナシャフト38は、軸線o1回りに回転可能にインナコラム22に支持されている。インナシャフト38のうち、インナコラム22よりも後方に突出した部分には、ステアリングホイール2(
図1参照)が一体回転可能に連結される。
【0045】
インナシャフト38の前端部は、インナコラム22内でアウタシャフト37に挿入されている。インナシャフト38は、アウタコラム21に対するインナコラム22の前後方向の移動に伴い、インナコラム22とともにアウタシャフト37に対して前後方向に変位可能に構成されている。
【0046】
本実施形態において、アウタシャフト37の内周面には、雌スプラインが形成されている。雌スプラインは、インナシャフト38の外周面に形成された雄スプラインに係合している。これにより、インナシャフト38は、アウタシャフト37に対する相対回転が規制された上で、アウタシャフト37に対して前後方向に変位する。ただし、ステアリングシャフト12の伸縮構造や回転規制の構造は、適宜変更が可能である。
なお、本実施形態では、アウタシャフト37がインナシャフト38に対して前方に配置された構成について説明したが、この構成のみに限らず、アウタシャフト37がインナシャフト38に対して後方に配置された構成であっても良い。
【0047】
<フロントブラケット13>
フロントブラケット13は、
図1に示すように、正面視で下方に開口するU字状に形成されている。フロントブラケット13は、アウタコラム21の後端部を上方及び左右方向の両側から取り囲んでいる。フロントブラケット13のうち、左右方向の両側に位置するフロント側壁13aは、ピボット軸40を介してアウタコラム21の前端部に回動可能に連結されている。これにより、アウタコラム21は、ピボット軸40の左右方向に延びる軸線o2回りに回動可能にフロントブラケット13に支持されている。したがって、アウタコラム21の前端部は、軸線o2回りに回動可能に、かつ、前後方向の変位を規制された状態で車体に支持されている。
【0048】
<リヤブラケット14>
リヤブラケット14は、正面視で下方に開口する略U字形状(略コ字形状)に形成されている。リヤブラケット14は、アウタコラム21の後部領域の上方及び左右両側を取り囲んでいる。リヤブラケット14は、後述するロック機構15を介して、アウタコラム21の後部領域を保持している。リヤブラケット14はボルト締結等によって車体側に固定されるため、アウタコラム21の後部領域は、ロック機構15とリヤブラケット14を介して車体に支持されている。
【0049】
本実施形態のリヤブラケット14は、所定形状に切り抜かれた一枚の金属板がプレス加工等によって所定の形状に造形されている。リヤブラケット14は、コラムユニット11の左右両側に配置されるリヤ側壁14aと、左右の各リヤ側壁14aの上端部から左右方向の外側に屈曲して延びる固定フランジ14cと、左右のリヤ側壁14aの後部同士を連結する連結壁14dと、を備えている。連結壁14dは、左右の固定フランジ14c及び左右のリヤ側壁14aよりも前方側に配置され、アウタコラム21の保持筒部24の上方を左右に跨ぐように略U字状(略コ字状)に折り曲げられて造形されている。
【0050】
左右のリヤ側壁14aには、
図4に示すように、当該リヤ側壁14aを左右方向に貫通するチルトガイド孔14bが形成されている。チルトガイド孔14bは、ピボット軸40の軸線o2を中心とする円弧形状に形成されている。
【0051】
左右の各リヤ側壁14aのチルトガイド孔14bには、後述するロック機構15のロックボルト53の軸部が挿通されている。ロックボルト53の軸部は、左右方向に沿って延びている。チルトガイド孔14bは、コラムユニット11がピボット軸40を中心として上下に揺動するチルト動作時に、コラムユニット11と一体に変位するロックボルト53の上下方向の揺動動作を許容する。
【0052】
フロントブラケット13とリヤブラケット14は、連結片100によって相互に連結されている。連結片100は、左右方向を厚さ方向として前後方向に延びており、フロントブラケット13の右側のフロント側壁13aとリヤブラケット14の右側のリヤ側壁14aを連結している。ただし、連結片100は、必須の構成ではない。
【0053】
<ロック機構15>
図4に示すように、ロック機構15は、ロックボルト53と、操作レバー54と、締結カム55と、を備えている。
ロックボルト53は、リヤブラケット14の左右のリヤ側壁14aのチルトガイド孔14bと、アウタコラム21の左右の締付部25の貫通孔29を左右方向に貫通している。ロックボルト53の中央領域(アウタコラム21の左右の締付部25の間に位置する部分)には、カラー56が装着されている。カラー56は、ロックボルト53と同軸の筒状に形成されている。カラー56は、ロックボルト53よりも軟質な材料(例えば、ゴムや樹脂材料等の弾性変形可能な材料)により形成されている。
【0054】
図5に示すように、テレスコ動作時において、インナコラム22が最前端位置にあるとき(コラムユニット11が最縮状態のとき)には、ハンガブラケット23の後側のストッパ部32cが後方側からカラー56に当接する。また、テレスコ動作時において、インナコラム22が最後端位置にあるとき(コラムユニット11が最伸状態のとき)には、ハンガブラケット23の前側のストッパ部32bが前方側からカラー56に当接する。すなわち、テレスコ動作時にハンガブラケット23がインナコラム22とともに前後方向に変位するときには、ハンガブラケット23の前後いずれかのストッパ部32b,32cがカラー56を介してロックボルト53に当接することにより、インナコラム22の前後方向の過大な変位が規制される。また、テレスコ動作時には、ハンガブラケット23のテレスコガイド部32aの下縁部がカラー56(ロックボルト53)の前後方向の相対変位をガイドする。
なお、本実施形態では、ロックボルト53がアウタコラム21側の変位規制部を構成している。また、本実施形態では、テレスコ動作時等に、ストッパ部32b,32cがカラー56を介してロックボルト53に当接する構成を採用しているが、カラー56を廃止してストッパ部32b,32cがロックボルト53に直接当接する構成としても良い。
【0055】
図1,
図2に示すように、ロックボルト53の左右の端部と、リヤブラケット14の固定フランジ14cの間には、コイルスプリング等の付勢部材60が介装されている。付勢部材60は、車体側に固定されるリヤブラケット14の固定フランジ14cを起点としてロックボルト53を上方側に向けて付勢する。ここで、ロックボルト53は、
図4に示すようにアウタコラム21の締付部25に貫通状態で係合されているため、付勢部材60の付勢力はアウタコラム21の後部領域を上方側に向けて付勢する。したがって、付勢部材60は、ロック解除時(チルト動作時)にコラムユニット11が自重によって下方に下がることを抑制する。
【0056】
操作レバー54は、ロックボルト53の軸部の左側の端部に支持されている。締結カム55は、
図4に示すように、相互に回転可能な二枚のカム板55a,55bを備えている。ロックボルト53の軸部は、二枚のカム板55a,55bを貫通している。一方のカム板55aは、操作レバー54の基部に連結され、他方のカム板55bは、フロントブラケット13の左側のリヤ側壁14aの側面に当接している。一方のカム板55aは操作レバー54の基部と一体に回転し、他方のカム板55bは左側のリヤ側壁14aのチルトガイド孔14b等に回り止めされている。二枚のカム板55a,55bは、相互に対向する面に図示しないカム突起を有している。二枚のカム板55a,55bは、両者のカム突起が対向する回転位置にあるときに、両者の総厚み(ロックボルト53の軸方向に沿う軸方向幅)が増加し、両者のカム突起が対向しない回転位置にあるときに、両者の総厚み(ロックボルト53の軸方向に沿う軸方向幅)が減少する。
【0057】
ロック機構15は、操作レバー54の回動操作によって締結カム55の総厚みを変化させ、それによってアウタコラム21の左右の締付部25同士を接近離反させる。具体的には、締結カム55の総厚みが増加するように操作レバー54が回動操作されると、左右の締付部25同士がアウタコラム21の金属弾性に抗して接近するように変形する。これにより、アウタコラム21の保持筒部24の内径が縮小し、保持筒部24がインナコラム22を挟持固定する。この結果、アウタコラム21に対するインナコラム22のシャフト軸方向の変位が規制される(ロック状態)。なお、このときチルトガイド孔14bの縁部が締結カム55とアウタコラム21の締付部25によって挟持固定され、アウタコラム21(コラムユニット11)のチルト動作もロックされる。
【0058】
一方、ロック状態において、締結カム55の総厚みが減少するように操作レバー54が回動操作されると、左右の締付部25同士が離反するように弾性復帰する。これにより、アウタコラム21の保持筒部24の内径が拡大し、保持筒部24によるインナコラム22の挟持固定が解除される。この結果、アウタコラム21に対するインナコラム22のシャフト軸方向への移動が許容される(ロック解除状態)。このとき、締結カム55とアウタコラム21の締付部25によるチルトガイド孔14bの側縁部の挟持固定が解除され、アウタコラム21(コラムユニット11)のチルト動作も許容される。
【0059】
<ハンガブラケット23の詳細構造>
本実施形態のステアリング装置1は、ハンガブラケット23が一対のボルト39F,39Rによってインナコラム22に一体に固定されている。このボルト39F,39Rによるハンガブラケット23の固定は、二次衝突荷重の入力時に、ステアリングホイール2を通して乗員からステアリングシャフト12とインナコラム22に前方側に向かう過大な荷重が作用したときに外れる。
【0060】
具体的には、二次衝突荷重の入力時に、ステアリングホイール2とステアリングシャフト12を通して乗員からインナコラム22に前方側に向かう過大な荷重が作用すると、インナコラム22がアウタコラム21による拘束力(ロック機構15による拘束力)に抗して前方側に変位する。このとき、インナコラム22が所定量前方側に変位すると、インナコラム22に固定されたハンガブラケット23のストッパ部32cがカラー56を介してロックボルト53に当接し、ロックボルト53から反力を受ける。こうして、さらに二次衝突荷重の入力が続くと、インナコラム22と一体のボルト39F,39Rが、当該ボルト39F,39Rの頭部39bとガイド孔34の縁部の間の摩擦拘束力に打ち勝ち、ハンガブラケット23を残したまま前方側に変位する。このとき、各ボルト39F,39Rの軸部39aは、ハンガブラケット23のガイド孔34に沿って前方側に移動する。
【0061】
図7は、
図5の一部を拡大して示した断面図である。
図7(a)は、ボルト39F,39Rによるハンガブラケット23とインナコラム22の固定状態を示し、
図7(b)は、二次衝突荷重の入力時おけるハンガブラケット23とボルト39F,39Rの相対的な変位挙動を示している。
図6に示すように、ハンガブラケット23の取付板部31に形成されたガイド孔34は、後方側の端部に配置される拡幅部34aと、拡幅部34aから前方側に延び左右方向の幅が拡幅部34aの幅よりも狭い狭幅部34bと、を有する。ハンガブラケット23をインナコラム22の下面に締結固定する際には、
図5,
図7(a)に示すように、後側のボルト39Rの軸部39aがガイド孔34の拡幅部34aを上下方向に貫通する。また、前側のボルト39Fの軸部39aは、ガイド孔34の狭幅部34bを上下方向に貫通する。このとき、ボルト39R,39Fの軸部39aがインナコラム22に締め込まれると、各ボルト39R,39Fの頭部39b(座部)は、拡幅部34aと狭幅部34bの左右の各縁部に下面側から押し付けられ、その結果、ハンガブラケット23がインナコラム22の下面に締結固定される。
【0062】
ハンガブラケット23の取付板部31のうちの、ガイド孔34の拡幅部34aの左右の縁部は、インナコラム22に対するハンガブラケット23の固定時に、後側のボルト39Rの頭部39bが当接する第1対向面41とされている。取付板部31のうちの、ガイド孔34の狭幅部34bの後部領域(拡幅部34a前端部に隣接する領域)の左右の縁部は、インナコラム22に対するハンガブラケット23の固定時に、前側のボルト39Fの頭部39bが当接する第2対向面42とされている。第2対向面42は、
図7(a)に示すように、第1対向面41よりもボルト39Fの頭部39bに対向する方向の突出高さ(下方側に向かう突出高さ)が設定高さh1だけ低くなっている。後側のボルト39Rの頭部39bは、ハンガブラケット23がインナコラム22に固定される状態において、第1対向面41の前端部(第2対向面42と隣接する位置)に配置される。
【0063】
また、取付板部31のうちの、ガイド孔34の狭幅部34bの前部領域(拡幅部34aから前方側に離間した領域)の左右の縁部は、第2対向面42よりもボルト39Fの頭部39bに対向する方向の突出高さ(下方側に向かう突出高さ)が設定高さh2だけ低い第3対向面43とされている。前側のボルト39Fの頭部39bは、ハンガブラケット23がインナコラム22に固定される状態において、第2対向面42の前端部(第3対向面43と隣接する位置)に配置される。
【0064】
本実施形態の場合、ガイド孔34の縁部のうちの第1対向面41は、後側のボルト39Rによる締結部に関して、ボルト39R(固定部材)の頭部39b(座部)が当接してハンガブラケット23をインナコラム22に固定する第1領域A1を構成している。ガイド孔34の縁部のうちの第2対向面42は、後側のボルト39Rによる締結部に関して、二次衝突荷重の入力に伴うインナコラム22の変位によってボルト39R(固定部材)の頭部39b(座部)が下方側で対向する第2領域A2を構成している。
【0065】
また、ガイド孔34の縁部のうちの第2対向面42は、前側のボルト39Fによる締結部に関して、ボルト39F(固定部材)の頭部39b(座部)が当接してハンガブラケット23をインナコラム22に固定する第1領域A1を構成している。ガイド孔34の縁部のうちの第3対向面43は、前側のボルト39Fによる締結部に関して、二次衝突荷重の入力に伴うインナコラム22の変位によってボルト39F(固定部材)の頭部39b(座部)が下方側で対向する第2領域A2を構成している。
【0066】
ここで、後側のボルト39Rによるハンガブラケット23とインナコラム22の固定に関しては、ボルト39Rの軸部39aがインナコラム22に締め込まれることで、ボルト39Rの頭部39bが締め込みトルクに応じた力で第1対向面41に押し付けられる。このとき、ハンガブラケット23の第1対向面41とボルト39Rの頭部39bの間には、ボルト39Rの締め込みに応じた摩擦拘束力が働き、ハンガブラケット23の取付板部31とインナコラム22の下面の間にもボルト39Rの締め込みに応じた摩擦拘束力が働く。
【0067】
二次衝突荷重の入力時に、インナコラム22と一体に前方に移動するハンガブラケット23が、ストッパ部32cでロックボルト53に当接すると、停止したハンガブラケット23に対してボルト39Rが前方に変位しようとする。このとき、ハンガブラケット23の第1対向面41の前方側には、第1対向面41よりも突出高さの低い第2対向面42が配置されている。このため、ボルト39Rをインナコラム22とともに前方に移動させようとする二次衝突荷重が所定値を超えると、
図7(b)に示すように、ボルト39Rが前方に速やかに変位して、ボルト39Rの頭部39bが第2対向面42に対向するようになる。第2対向面42は、第1対向面41に比較してボルト39Rの頭部39bに対する摩擦拘束力が小さいため、頭部39bが第2対向面42に対向する位置まで変位した後には、ボルト39Rはガイド孔34に沿ってさらに前方側にスムーズに変位する。
【0068】
また、前側のボルト39Fによるハンガブラケット23とインナコラム22の固定に関しては、ボルト39Fの軸部39aがインナコラム22に締め込まれることで、ボルト39Fの頭部39bが締め込みトルクに応じた力でガイド孔34の縁部の第2対向面42に押し付けられる。このとき、ハンガブラケット23は、第2対向面42に押し付けられたボルト39Fの頭部39bから摩擦拘束力を受け、かつ、インナコラム22の下面からも摩擦拘束力を受ける。
【0069】
二次衝突荷重の入力時に、前方に移動するハンガブラケット23が、ストッパ部32cでロックボルト53に当接すると、停止したハンガブラケット23に対して前側のボルト39Fが後側のボルト39Rと同様に前方に変位しようとする。このとき、第2対向面42の前方側には、第2対向面42よりも突出高さの低い第3対向面43が配置されている。このため、二次衝突荷重が所定値を超えると、
図7(b)に示すように、前側のボルト39Fが前方に速やかに変位し、ボルト39Fの頭部39bが第3対向面43に対向するようになる。第3対向面43は、第2対向面42に比較してボルト39Fの頭部39bに対する摩擦拘束力が小さいため、頭部39bが第3対向面43に対向する位置まで変位した後には、ボルト39Fはガイド孔34に沿ってさらに前方側にスムーズに変位する。
【0070】
図8は、本実施形態のステアリング装置1の二次衝突荷重の入力時におけるインナコラム22の前方ストロークと、インナコラム22、アウタコラム21間に作用する荷重との関係を示す特性図である。
図8中のL1は、二次衝突荷重の入力によってインナコラム22がアウタコラム21の拘束力(ロック機構15の拘束力)に抗して前方に変位し始める作動荷重であり、S1からS2は、インナコラム22がアウタコラム21に対してテレスコ作動範囲で変位するストローク(ストッパ部32cがロックボルト53に当接するまでのストローク)である。また、L2は、ストッパ部32cがロックボルト53に当接した荷重及び当接後に、ハンガブラケット23を残してボルト39R,39Fがインナコラム22とともに前方に変位し始める作動初期荷重である。S3からS4は、後側のボルト39Rの頭部39bが第1対向面41と対向する位置から第2対向面42と対向する位置に移行し、前側のボルト39Fの頭部39bが第2対向面42と対向する位置から第3対向面43と対向する位置に移行する間のストロークである。
【0071】
図8に示すように、二次衝突荷重の入力時には、作動初期荷重L2が比較的低く抑えられるため、入力衝撃に対する減衰荷重がほぼ一定となるS4を超えるストローク域にスムーズに移行することができる。S4を超えるストローク域では、二次衝突加重のエネルギーを安定して吸収することができる。
【0072】
<実施形態の効果>
本実施形態のステアリング装置1は、前後方向に沿って延びボルト39R,39Fの軸部39aが貫通するガイド孔34がハンガブラケット23に形成され、ガイド孔34の縁部に、ボルト39R,39Fの頭部39b(座部)の押付けによってハンガブラケット23をインナコラム22に固定する第1領域A1と、二次衝突荷重の入力時にボルト39R,39Fの頭部39bが対向する第2領域A2と、が設けられている。そして、二次衝突荷重の入力時にボルト39R,39Fの頭部39bが第2領域A2と対向する位置に変位した状態での頭部39bとガイド孔34の縁部の間の摩擦拘束力は、ボルト39R,39Fの頭部39bが第1領域A1でハンガブラケットに押し付けられた状態での頭部39bとガイド孔34の縁部の間の摩擦拘束力よりも小さく設定されている。
このため、二次衝突荷重の入力時には、ハンガブラケット23のガイド孔34とボルト39R,39Fの軸部39aによる案内作用によってインナコラム22の姿勢を安定して維持することができるとともに、頭部39bがハンガブラケット23の第1領域A1に対向する位置から第2領域A2に対向する位置にボルト39R,39Fをスムーズに変位させることができる。したがって、本実施形態のステアリング装置1を採用した場合には、大型化やコストの高騰を招かない簡単な構造でありながら、二次衝突荷重の入力時に安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。
【0073】
特に、本実施形態のステアリング装置1では、第2領域A2での摩擦拘束力を第1領域A1での摩擦拘束力よりも小さく設定する手段として、第2領域A2の突出高さ(固定部材の座部に対向する方向の突出高さ)を第1領域A1の突出高さよりも低くしている。これにより、第2領域A2においてボルト39R,39Fの頭部39bとガイド孔34の縁部の間に作用する摩擦力が、第1領域A1においてボルト39R,39Fの頭部39bとガイド孔34の縁部の間に作用する摩擦力よりも小さなっている。したがって、本構成のステアリング装置1は、第2領域A2の突出高さを第1領域A1の突出高さよりも低くするだけの簡単な構成でありながら、二次衝突荷重の入力時における作動初期荷重を比較的小さく抑え、二次衝突荷重のエネルギーをスムーズに吸収することができる。
【0074】
また、本構成のステアリング装置1は、ハンガブラケット23の第2領域A2の突出高さが第1領域A1の突出高さよりも低いため、二次衝突荷重の入力時にボルト39R,39Fの頭部39bが第2領域A2に対向する位置まで相対変位すると、頭部39bによるインナコラム22に対するハンガブラケット23の押し付け荷重も小さくなる。これにより、ハンガブラケット23とインナコラム22の当接面における摩擦抵抗がより小さくなる。したがって、本構成を採用した場合には、二次衝突荷重の入力時におけるコラプスストロークの後期の作動をよりスムーズし、エネルギー吸収性能をより高めることができる。
【0075】
なお、本実施形態では、第2領域A2の突出高さを第1領域A1の突出高さよりも低くすることで、第2領域A2での摩擦拘束力を第1領域A1での摩擦拘束力よりも小さく設定しているが、第2領域A2での摩擦拘束力を第1領域A1での摩擦拘束力よりも小さく設定するための手段はこれに限るものではない。例えば、第2領域A2の下面の表面粗さを第1領域A1の下面の表面粗さよりも滑らかに設定するようにしても良い。表面粗さを滑らかにする手段としては、例えば、摩擦領域の下面に適宜のコーティング剤を塗布するようにしても良い。
【0076】
さらに、本実施形態のステアリング装置1は、ハンガブラケット23の第1領域A1と第2領域A2(第1対向面41、第2対向面42、第3対向面43)が一体の金属部材(金属板)によって形成されている。このため、本構成を採用した場合には、突出高さの異なる第1領域A1と第2領域A2をプレス成形等によってハンガブラケット23に容易に造形することができるとともに、部品点数の削減を図ることができる。
【0077】
また、本実施形態のステアリング装置1は、ハンガブラケット23をインナコラム22の下面に固定するための固定部材として、締結部材の一形態であるボルト39R,39Fを採用している。ボルト39R,39F等の締結部材は、相手部材に締め込むときのトルクを把握することができる工具を用いれば、締め込みトルクを正確に管理することができる。このため、本構成のステアリング装置1では、ボルト39R,39Fの締め込みトルクを管理することにより、ハンガブラケット23に対する摩擦拘束力を正確に設定調整することができる。したがって、本構成を採用した場合には、通常使用時におけるインナコラム22に対するハンガブラケット23の固定を確実なものにすることができるとともに、二次衝突荷重の入力時に安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。
【0078】
また、本実施形態のステアリング装置1では、固定部材であるボルト39R,39Fが、インナコラム22の軸方向に離間した位置に複数配置され、ハンガブラケット23が各ボルト39R,39Fによってインナコラム22の軸方向に離間した複数位置に固定されている。そして、ハンガブラケット23のガイド孔34の縁部には、各ボルト39R,39Fに対応するように第1領域A1と第2領域A2が夫々設けられている。このため、二次衝突荷重の入力時には、固定部材の軸部39aとガイド孔34による案内作用と、固定部材の座部(頭部39b)とガイド孔34の縁部での固定及び摺動を複数のボルト39R,39Fで分担して担うことができる。したがって、本構成を採用した場合には、二次衝突荷重の入力時におけるインナコラム22の挙動(コラプスストローク)をより安定させることができる。
【0079】
また、本実施形態のステアリング装置1は、ハンガブラケット23が前後方向に離間した位置で複数のボルト39R,39によってインナコラム22に固定されるため、ハンガブラケット23のストッパ部32c,32bがロックボルト53(変位規制部)に当接したときに、ハンガブラケット23の前後方向の端部がインナコラム22から離間する(浮き上がる)のを抑制することができる。したがって、本構成を採用した場合には、インナコラム22の前後位置調整時におけるステアリング装置1の商品性を高めることができるとともに、二次衝突荷重の入力時におけるハンガブラケット23やインナコラム22の作動を安定させることができる。
【0080】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態のステアリング装置の第1実施形態の
図7に対応する断面図である。
図9(a)は、ボルト39F,39Rによるハンガブラケット123とインナコラム22の固定状態を示し、
図9(b)は、二次衝突荷重の入力時おけるハンガブラケット123とボルト39F,39Rの相対的な変位挙動を示している。
本実施形態のステアリング装置は、インナコラム22の下面に取り付けられるハンガブラケット123の構造のみが第1実施形態のものと異なっている。
【0081】
ハンガブラケット123は、第1実施形態と同様に、取付板部31に前後方向に沿うようにガイド孔34が形成されている。ガイド孔34の左右の縁部は、後部側に配置される第1対向面141と、前部側に配置され第1対向面141よりも突出高さが所定高さh2だけ低い第2対向面142と、を有している。
【0082】
図9(a)に示すように、インナコラム22にハンガブラケット123を固定する際には、前後のボルト39F,39Rの頭部39bは、いずれもガイド孔34の縁部のうちの、第1対向面141に締め付けトルクに応じた力で押し付けられる。このとき、前側のボルト39Fの頭部39bは、第1対向面141の前端部(第2対向面142と隣接する位置)に配置される。
【0083】
これに対し、二次衝突荷重の入力時に、ボルト39F,39Rがインナコラム22とともにハンガブラケット123を残して前方に変位するときには、
図9(b)に示すように、前側のボルト39Fの頭部39bが第2対向面142に対向するようになる。このとき、後側のボルト39Rの頭部39bは第1対向面141に対向したままとなる。したがって、前側のボルト39Fの頭部39bによるハンガブラケット123の摩擦拘束力は低下するが、後側のボルト39Rの頭部39bによるハンガブラケット123の摩擦拘束力は低下しない。
【0084】
なお、本実施形態の場合、ガイド孔34の縁部のうちの第1対向面141の後部領域は、後側のボルト39Rによる締結部に関して、ボルト39R(固定部材)の頭部39b(座部)が当接してハンガブラケット123をインナコラム22に固定する第1領域A1を構成している。第1対向面141の前部領域は、後側のボルト39Rによる締結部に関して、二次衝突荷重の入力に伴うインナコラム22の変位によってボルト39R(固定部材)の頭部39b(座部)が下方側で対向する第2領域A2を構成している。
また、第1対向面141の前部領域は、前側のボルト39Fによる締結部に関して、ボルト39F(固定部材)の頭部39b(座部)が当接してハンガブラケット123をインナコラム22に固定する第1領域A1を構成している。第2対向面142は、前側のボルト39Fによる締結部に関して、二次衝突荷重の入力に伴うインナコラム22の変位によってボルト39F(固定部材)の頭部39b(座部)が下方側で対向する第2領域A2を構成している。
【0085】
図10は、本実施形態のステアリング装置1の二次衝突荷重の入力時におけるインナコラム22の前方ストロークと、インナコラム22、アウタコラム21間に作用する荷重との関係を示す特性図である。
図10に示すように、二次衝突荷重の入力時には、最初にインナコラム22がテレスコ作動範囲で前方に変位(S1~S2)し、その後にハンガブラケット123がロックボルト(アウタコラム側の変位規制部)に当接すると、ハンガブラケット123を残してボルト39R,39Fがインナコラム22とともに前方に変位し始める。
図10中のL2は、このときの作動初期荷重である。
【0086】
この後、前側のボルト39Fの頭部39bが第1対向面141と対向する位置から第2対向面142と対向する位置に変位し(S3~S4)、この間に作動荷重が次第に低下する。この後、前側のボルト39Fの頭部39bが第2対向面142と完全に対向するようになると、入力衝撃に対する減衰荷重(L3)がほぼ一定(L3)となる。本実施形態の場合、後側のボルト39Rの頭部39bは、インナコラム22の前方変位に拘らず、常に第1対向面141と対向しているため、後側のボルト39Rの頭部39bによる摩擦抵抗は変化しない。このため、ハンガブラケット123を残してボルト39R,39Fがインナコラム22とともに前方に変位し始めた後の減衰荷重(L3)は、第1実施形態のものに比較して高くなる。
図10中のL4は、第1実施形態の場合における、ボルト39R,39Fが前方に変位し始めた後の減衰荷重である。
【0087】
本実施形態のステアリング装置は、基本的な構成は第1実施形態とほぼ同様であるため、第1実施形態と同様の基本的な効果を得ることができる。
【0088】
ただし、本実施形態のステアリング装置は、後側のボルト39Rによる締結部に関しては、ボルト39Rの頭部39bが固定位置にあるときと前方変位状態にあるときとで、ボルト39Rの頭部39bによる摩擦拘束力が変化しない。つまり、後側のボルト39Rの頭部39bが第2領域A2と対向する位置に変位した状態での頭部39bとガイド孔34の縁部の摩擦拘束力は、第1領域A1での頭部39bとガイド孔34の縁部の間の摩擦拘束力と同じになる。このため、後側のボルト39Rの頭部39bは、二次衝突荷重の入力時における作動初期と作動後期でハンガブラケット123に対する摩擦拘束力が変化しない。したがって、本実施形態の構成を採用した場合には、二次衝突荷重の入力時の作動後期における摺動抵抗をより大きくし、コラプスストロークの間のエネルギー吸収量を増大させることができる。
【0089】
[変形例]
図11は、第2実施形態の変形例を示す
図9(a)と同様の断面図である。
本変形例のステアリング装置は、ハンガブラケット123Aの構成が
図9に示す基本実施形態と若干異なっている。
【0090】
本変形例のハンガブラケット123Aは、
図9に示す基本実施形態のものと同様に、ガイド孔34の左右の縁部に、第1対向面141と、第1対向面141よりも突出高さが所定高さh2だけ低い第2対向面142が設けられている。ただし、本変形例のハンガブラケット123Aは、後側のボルト39Rの頭部39bが第1対向面141に当接し、かつ、前側のボルト39Fの頭部39bが第2対向面142に当接した状態で、ボルト39R,39によってインナコラム22に固定されている。
【0091】
二次衝突荷重の入力時に、ボルト39F,39Rがインナコラム22とともに前方に変位するときには、後側のボルト39Rの頭部39bが第2対向面142に対向するようになる。このとき、前側のボルト39Fの頭部39bは第2対向面142に対向したままとなる。このため、後側のボルト39Rの頭部39bによるハンガブラケット123の摩擦拘束力は低下するが、前側のボルト39Fの頭部39bによるハンガブラケット123の摩擦拘束力は低下しない。
【0092】
本変形例の場合、後側のボルト39Rによる締結部に関しては、第1対向面141が第1領域A1を構成し、第2対向面142が第2領域A2を構成している。また、前側のボルト39Fによる締結部に関しては、第2対向面142の後部領域が第1領域A1を構成し、第2対向面142の前部領域が第2領域A2を構成している。
【0093】
本変形例では、前側のボルト39Fの頭部39bは、二次衝突荷重の入力時における作動初期と作動後期でハンガブラケット123Aに対する摩擦拘束力が変化しない。したがって、本変形の場合にも、二次衝突荷重の入力時の作動後期における摺動抵抗をより大きくし、コラプスストロークの間のエネルギー吸収量を増大させることができる。
【0094】
[第3実施形態]
図12は、第3実施形態のステアリング装置のハンガブラケット223の取付部の縦断面図である。
図13は、ボルト39の軸部39aを断面にした
図12のXIII矢視図である。
本実施形態のステアリング装置は、インナコラム22の下面に取り付けられるハンガブラケット223の構造が第1,第2実施形態のものと異なっている。
【0095】
本実施形態のハンガブラケット223は、ガイド孔34を有する取付板部31の下面の一部に一定厚みのスペーサ部材45が配置されている。スペーサ部材45は、前方側に向かって開口する略U字状のガイド孔46を有し、そのガイド孔46が取付板部31のガイド孔34と上下方向で合致するように取付板部31の下面側に配置されている。スペーサ部材45は、例えば、外形が略円形状のワッシャ状の金属板等によって構成することができる。
【0096】
スペーサ部材45は、ハンガブラケット223をインナコラム22にボルト39によって固定する際に、ボルト39の頭部39bと取付板部31の下面の間に介装される。このとき、ボルト39の軸部39aは、スペーサ部材45と取付板部31の各ガイド孔46,34を上下に貫通し、先端部がインナコラム22の下面に締め込まれる。
【0097】
本実施形態では、スペーサ部材45のガイド孔46の下面側の縁部が第1領域A1を構成している。つまり、スペーサ部材45のガイド孔46の下面側の縁部は、ボルト39の頭部39b(座部)が当接して押し付けられることにより、ハンガブラケット223をインナコラム22に固定する。また、本実施形態では、取付板部31のガイド孔34の下面側の縁部のうちの、スペーサ部材45の前方側部分が第2領域A2を構成している。つまり、ガイド孔34の下面側の縁部のうちの、スペーサ部材45よりも前方側部分は、第1領域A1の前方側に隣接して配置され、二次衝突加重の入力時にボルト39の頭部39bがインナコラム22とともに前方に変位したときに頭部39bと対向する。
【0098】
第2領域A2の下面は、第1領域A1の下面よりもスペーサ部材45の厚み分の高さh1だけ低くなっている。本実施形態では、第1領域A1を構成する部分がハンガブラケット223の本体部(取付板部31)と別体のスペーサ部材45によって構成されている。
なお、
図12,
図13では、ハンガブラケット223をインナコラム22に固定するためのボルト39が一つのみ示されているが、ボルト39は第1,第2実施形態と同様に複数用いることも可能である。この場合、当接面の突出高さが後方側に向かって段差状に高くなる階段状のスペーサ部材を用いることができる。また、当接面の突出高さの異なる複数のスペーサを用いるようにしても良い。
【0099】
本実施形態のステアリング装置は、第1領域A1を構成する部分がスペーサ部材45によって構成されている点以外は、第1実施形態とほぼ同様の構成とされている。このため、本実施形態のステアリング装置を採用した場合には、上述した第1実施形態とほぼ同様の基本的な効果を得ることができる。
【0100】
ただし、本実施形態のステアリング装置は、ハンガブラケット223の第1領域A1を構成する部分が別体のスペーサ部材45によって構成されているため、ハンガブラケット223の第1領域A1に別体のスペーサ部材45を配置するだけで、第1領域A1と第2領域A2の高さを容易に変えることができる。したがって、本構成を採用した場合には、ハンガブラケット223の本体部(スペーサ部材45以外の部分)の構造を簡素化し、生産性をより高めることができる。
【0101】
[第4実施形態]
図14は、第4実施形態のステアリング装置のハンガブラケット323の取付部の縦断面図である。
図14(a)は、ボルト39によるハンガブラケット323とインナコラム22の固定状態を示し、
図14(b)は、二次衝突荷重の入力時おけるハンガブラケット323とボルト39の相対的な変位挙動を示している。
本実施形態のステアリング装置は、インナコラム22の下面に取り付けられるハンガブラケット323の構造が第1~第3実施形態のものと異なっている。
【0102】
本実施形体のハンガブラケット323は、取付板部31のガイド孔34の縁部に、ハンガブラケット323をボルト39によってインナコラム22に固定する第1領域A1と、二次衝突加重の入力時にボルト39の頭部39bが対向するようになる第2領域A2と、が設けられている。第2領域A2は、第1領域の前側に隣接して配置されている。第1領域A1は、ボルト39の頭部39bに対向する方向の突出高さが前後方向で一定高さとされている。これに対し、第2領域A2は、ボルト39の頭部39bに対向する方向の突出高さが前方側に向かって漸減している。
【0103】
本実施形態のステアリング装置は、二次衝突荷重の入力時に、ボルト39の頭部39bが第1領域A1に対向する位置から第2領域A2に対向する位置まで変位すると、ボルト39の頭部39bによるガイド孔34の縁部に対する摩擦拘束力がボルト39(インナコラム22)の前方変位に応じて次第に減少する。したがって、本実施形態のステアリング装置を採用した場合には、コラスプストロークの後期におけるインナコラム22の変位がよりスムーズになる。
【0104】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、ハンガブラケットが二つ、若しくは、一つのボルトによってインナコラムに固定されているが、ハンガブラケットをインナコラムに固定するための固定部材の数は三つ以上であっても良い。
【符号の説明】
【0105】
1…ステアリング装置
12…ステアリングシャフト
21…アウタコラム
22…インナコラム
23,123,123A,223,323…ハンガブラケット
32b,32c…ストッパ部
34…ガイド孔
39,39F,39R…ボルト(締結部材、固定部材)
39a…軸部
39b…頭部(座部)
53…ロックボルト(変位規制部)
45…スペーサ部材
46…ガイド孔
A1…第1領域
A2…第2領域