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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189047
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/19 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
B62D1/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097390
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】白石 善紀
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC16
3D030DC17
3D030DD18
3D030DD19
3D030DD26
3D030DD65
3D030DD76
3D030DE05
3D030DE13
(57)【要約】
【課題】小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に衝突加重のエネルギーを効率良く吸収することができるステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置は、インナコラム、アウタコラム、ハンガブラケット、固定部材を備える。ハンガブラケットは、前後方向に沿って延び固定部材の軸部が貫通するガイド孔を有する。ハンガブラケットのガイド孔の縁部には、固定部と抵抗漸増部が設けられている。固定部は、固定部材の座部が当接してハンガブラケットをインナコラムに固定する。抵抗漸増部は、固定部の前方側に配置され、ステアリングシャフトに対する二次衝突加重の入力によって固定部材がインナコラムとともに前方に変位したときに、固定部材の前方変位に応じて固定部材とハンガブラケットの間の摩擦抵抗を漸増させる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、
車体に前後方向の変位を規制された状態で支持されるとともに、前記インナコラムが前後方向に位置調整可能に挿入されるアウタコラムと、
前記インナコラムに取り付けられ、かつ、前記インナコラムの前後方向の変位時に、前記アウタコラム側の変位規制部と当接することで前記インナコラムの過大な変位を規制するストッパ部を有するハンガブラケットと、
前記ハンガブラケットを貫通して一端側が前記インナコラムに結合される軸部、及び、前記軸部の他端側に設けられて前記ハンガブラケットを前記インナコラムに押し付けて固定する座部、を有する固定部材と、を備え、
前記ハンガブラケットは、前後方向に沿って延び前記固定部材の前記軸部が貫通するガイド孔を有し、
前記ハンガブラケットの前記ガイド孔の縁部には、
前記固定部材の前記座部が当接して前記ハンガブラケットを前記インナコラムに固定する固定部と、
前記固定部の前方側に配置され、前記ステアリングシャフトに対する二次衝突加重の入力によって前記固定部材が前記インナコラムとともに前方に変位したときに、前記固定部材の前方変位に応じて前記固定部材と前記ハンガブラケットの間の摩擦抵抗を漸増させる抵抗漸増部が設けられていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記ガイド孔の縁部のうちの前記固定部の前方側には、前記固定部材の前記座部に対向する方向の突出高さが前方に向かって漸次増加し、二次衝突加重の入力時に、前記固定部材の前方変位に応じて前記座部との当接荷重が漸増する傾斜面が設けられ、
前記抵抗漸増部は、前記傾斜面によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記固定部材は、前記インナコラムの軸方向に離間した位置に複数配置され、
前記ハンガブラケットは、各前記固定部材によって前記インナコラムの軸方向に離間した複数位置に固定され、
前記ハンガブラケットには、各前記固定部材に対応するように前記固定部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記ガイド孔の縁部のうちの少なくとも一つの前記固定部の前側に隣接する位置には、前記固定部材の前記座部に対向する方向の突出高さが前記固定部よりも低い低位領域が配置されていることを特徴とする請求項3に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記固定部材は、締め込みトルクの管理が可能な締結部材であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置では、運転者の体格や運転姿勢に応じてステアリングホイールの前後位置を調整するテレスコピック機能を備えたものがある。この種のステアリング装置は、ステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、インナコラムを前後方向に移動可能に支持するアウタコラムと、を備えている。
【0003】
ステアリング装置では、二次衝突時において、所定の荷重が乗員からステアリングホイールに作用した場合に、インナコラムがアウタコラムに対して前方に移動する過程(コラプスストローク)で運転者に加わる衝撃荷重を緩和する機構が搭載されている。
【0004】
ここで、例えば下記特許文献1には、ステアリングコラムの左右両側に設けられたチルトプレートを介してステアリングコラムがブラケットに支持された構成が開示されている。具体的には、下記特許文献1の構成では、ブラケットから突出したチルトピンが、チルトプレートに形成された孔部に保持されることで、ステアリングコラムが支持されている。チルトプレートには、孔部の後方側に連続するようにガイド用の長孔が形成されている。また、ステアリングコラムの前記ブラケットによる支持位置の前部側の下面には、膨出高さが後方側に向かって漸増する膨出部が固定されている。
【0005】
特許文献1に記載のステアリング装置は、コラプスストロークの際に、インナコラムの前方側への移動とともにチルトピンが孔部から抜け、長孔内を相対移動する。このとき、長孔による案内機能によりステアリングコラムの姿勢が安定し、かつ、ブラケットが膨出部に当接することで、膨出部を漸次押し潰し衝撃荷重のエネルギーを吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-338551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したステアリング装置にあっては、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に衝突加重のエネルギーを効率良く吸収することについて未だ改善の余地があった。
【0008】
そこで本発明は、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に衝突加重のエネルギーを効率良く吸収することができるステアリング装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るステアリング装置は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
即ち、本発明に係るステアリング装置は、ステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、車体に前後方向の変位を規制された状態で支持されるとともに、前記インナコラムが前後方向に位置調整可能に挿入されるアウタコラムと、前記インナコラムに取り付けられ、かつ、前記インナコラムの前後方向の変位時に、前記アウタコラム側の変位規制部と当接することで前記インナコラムの過大な変位を規制するストッパ部を有するハンガブラケットと、前記ハンガブラケットを貫通して一端側が前記インナコラムに結合される軸部、及び、前記軸部の他端側に設けられて前記ハンガブラケットを前記インナコラムに押し付けて固定する座部、を有する固定部材と、を備え、前記ハンガブラケットは、前後方向に沿って延び前記固定部材の前記軸部が貫通するガイド孔を有し、前記ハンガブラケットの前記ガイド孔の縁部には、前記固定部材の前記座部が当接して前記ハンガブラケットを前記インナコラムに固定する固定部と、前記固定部の前方側に配置され、前記ステアリングシャフトに対する二次衝突加重の入力によって前記固定部材が前記インナコラムとともに前方に変位したときに、前記固定部材の前方変位に応じて前記固定部材と前記ハンガブラケットの間の摩擦抵抗を漸増させる抵抗漸増部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記の構成により、インナコラムの前後位置を調整する際には、ハンガブラケットのストッパ部がアウタコラム側の変位規制部と当接することにより、インナコラムの過大な変位が規制される。このとき、ハンガブラケットは、固定部材によってインナコラムに一体に固定されているため、インナコラムの前後方向の過大な変位はハンガブラケットを介して規制される。
一方、インナコラムの前後位置が任意の位置に固定された状態で、乗員からの二次衝突荷重がステアリングシャフトに入力されると、アウタコラムによるインナコラムの拘束力に抗してインナコラムが前方に変位し、インナコラムが設定量前方に変位したところで、ハンガブラケットのストッパ部がアウタコラム側の変位規制部に当接する。このとき、ステアリングシャフトに対する二次衝突荷重の入力がさらに続くと、ハンガブラケットがアウタコラム側の変位規制部から受ける反力が増大する。これにより、固定部材の座部によるハンガブラケットに対する摩擦拘束力に抗して、固定部材がインナコラムとともに前方に変位する。このとき、固定部材の軸部がガイド孔に案内されつつ、抵抗漸増部が固定部材の前方変位に応じて、固定部材とハンガブラケットの間の摩擦抵抗を漸増させる。この間、固定部材の軸部とガイド孔による案内作用によってインナコラムの姿勢が安定して保持されるとともに、インナコラムがアウタコラムやハンガブラケットと摺動することによって二次衝突荷重のエネルギーが吸収される。また、インナコラムの前方変位が進むと、固定部材とハンガブラケットの間の摩擦抵抗が漸増するようになるため、インナコラムの前方側のストローク端付近で急激に反力が増大するのを抑制しつつ、衝撃荷重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
【0011】
前記ガイド孔の縁部のうちの前記固定部の前方側には、前記固定部材の前記座部に対向する方向の突出高さが前方に向かって漸次増加し、二次衝突加重の入力時に、前記固定部材の前方変位に応じて前記座部との当接荷重が漸増する傾斜面が設けられ、前記抵抗漸増部は、前記傾斜面によって構成されるようにしても良い。
【0012】
この場合、固定部の前方側に突出高さが前方に向かって漸次増加する傾斜面が設けられているため、二次衝突加重の入力時に、固定部材がインナコラムとともに前方に変位すると、固定部材の前方変位に応じて固定部材の座部と傾斜面の間の当接荷重が漸増する。この結果、固定部材とハンガブラケットの間の摩擦抵抗が漸増し、ストローク端付近での急激な反力増加を抑制しつつ、衝撃荷重のエネルギーを効率良く吸収することが可能になる。
【0013】
前記固定部材は、前記インナコラムの軸方向に離間した位置に複数配置され、前記ハンガブラケットは、各前記固定部材によって前記インナコラムの軸方向に離間した複数位置に固定され、前記ハンガブラケットには、各前記固定部材に対応するように前記固定部が設けられるようにしても良い。
【0014】
この場合、二次衝突荷重の入力時に、固定部材の軸部とガイド孔による案内作用と、固定部材の座部とガイド孔の縁部での固定及び摺動を複数の固定部材で分担して担うことが可能になる。このため、二次衝突荷重の入力時におけるインナコラムの挙動(コラプスストローク)をより安定させることができる。
また、本構成では、ハンガブラケットが前後方向に離間した位置で複数の固定部材によってインナコラムに固定されるため、ハンガブラケットのストッパ部がアウタコラム側の変位規制部に当接したときに、ハンガブラケットの前後方向の端部がインナコラムから離間する(浮き上がる)のを抑制することができる。したがって、本構成を採用した場合には、インナコラムの前後位置調整時におけるステアリング装置の商品性を高めることができるとともに、二次衝突荷重の入力時におけるハンガブラケットやインナコラムの作動を安定させることができる。
【0015】
前記ガイド孔の縁部のうちの少なくとも一つの前記固定部の前側に隣接する位置には、前記固定部材の前記座部に対向する方向の突出高さが前記固定部よりも低い低位領域が配置されるようにしても良い。
【0016】
この場合、固定部材の座部が低位領域と対向する位置では、座部とガイド孔の縁部の間の摩擦拘束力が小さくなる。このため、二次衝突荷重の入力時における作動初期荷重を比較的小さく抑え、二次衝突荷重のエネルギーをスムーズに吸収することができる。
【0017】
前記固定部材は、締め込みトルクの管理が可能な締結部材によって構成するようにしても良い。
【0018】
この場合、固定部材として締結部材を採用して締結部材の締め込みトルクを管理することにより、固定部材の座部によるハンガブラケットに対する摩擦拘束力を正確に設定調整することができる。したがって、本構成を採用した場合には、通常使用時におけるインナコラムに対するハンガブラケットの固定を確実なものにすることができるとともに、二次衝突荷重の入力時に設定通りの安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るステアリング装置は、二次衝突荷重の入力時には、ハンガブラケットのガイド孔と固定部材の軸部による案内作用によってインナコラムの姿勢が安定して維持されるとともに、抵抗漸増部が固定部材の前方変位に応じて固定部材とハンガブラケットの間の摩擦抵抗を漸増させる。これにより、インナコラムの前方側のストローク端付近で急激に反力が増大するのを抑制しつつ、衝撃荷重のエネルギーを効率良く吸収することができる。したがって、本発明に係るステアリング装置を採用した場合には、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に衝突加重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態のステアリング装置の斜視図。
図2】第1実施形態のステアリング装置の下面図。
図3図1のIII-III線に沿う断面図。
図4図1のIV-IV線に沿う断面図。
図5図3の要部拡大図。
図6図5のVI矢視図。
図7図5の一部を拡大して示した断面図。
図8】第1実施形態のステアリング装置の二次衝突荷重の入力時におけるインナコラムの前方ストロークと、インナコラム、アウタコラム間に作用する荷重の関係を示す特性図。
図9】第2実施形態のステアリング装置の第1実施形態の図6に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態では、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態のステアリング装置1の斜視図であり、図2は、ステアリング装置1の下面図である。また、図3は、図1のIII-III線に沿う断面図である。
ステアリング装置1は、車両の運転席の前方に配置されている。ステアリング装置1は、運転者よるステアリングホイール2の回転操作によって車両の前輪の舵角を調整する。また、ステアリング装置1は、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイール2の前後位置を調整するテレスコピック機能と、ステアリングホイール2の上下方向の傾斜角度を調整するチルト機能と、を備えている。以下では、テレスコピック機能によるステアリング装置1の動作を「テレスコ動作」と称する。
【0023】
ステアリング装置1は、コラムユニット11と、ステアリングシャフト12と、フロントブラケット13及びリヤブラケット14と、ロック機構15と、を備えている。コラムユニット11及びステアリングシャフト12は、それぞれ軸線o1に沿って形成されている。以下の説明では、コラムユニット11及びステアリングシャフト12の軸線o1の延びる方向を単にシャフト軸方向と称し、軸線o1に直交する方向をシャフト径方向と称し、軸線o1回りの方向をシャフト周方向と称する場合がある。
【0024】
本実施形態のステアリング装置1は、軸線o1が車両の前後方向に対して上下方向に傾斜した状態で車両に搭載される。具体的には、ステアリング装置1の軸線o1は、後方に向かうに従って高さが高くなるように傾斜している。ただし、以下では、説明の便宜上、ステアリング装置1において、シャフト軸方向でステアリングホイール2に向かう方向を単に後方とし、ステアリングホイール2とは反対側に向かう方向を単に前方とする。シャフト径方向のうち、ステアリング装置1が車両に取り付けられた状態での上下方向を単に上下方向とし、左右方向を単に左右方向とする。
図中には、「前方」を向く矢印FRと、「上方」を向く矢印UPと、「左側方」を向く矢印LHが記されている。
【0025】
<コラムユニット11>
コラムユニット11は、アウタコラム21と、インナコラム22と、ハンガブラケット23と、を備えている。
【0026】
図4は、図1のIV-IV線に沿う断面図である。
アウタコラム21は、フロントブラケット13及びリヤブラケット14を介して車体に固定されている。アウタコラム21は、保持筒部24と、一対の締付部25と、を備えている。
【0027】
保持筒部24は、前後方向に沿って延びる筒状に形成されている。保持筒部24内における前端部には、図3に示すように、前側軸受27が嵌合(圧入)されている。保持筒部24の前端部を除く領域には、前後方向に沿って延びるスリット28が形成されている。スリット28は、本実施形態の場合、アウタコラム21の下部側に設けられている。スリット28は、アウタコラム21をシャフト径方向に貫通するとともに、アウタコラム21の後端側に開放されている。
【0028】
図4に示すように、締付部25は、保持筒部24のうち、スリット28を間に挟んで左右方向で対向する位置からそれぞれ下方に延びている。各締付部25には、当該締付部25を左右方向に貫通する貫通孔29が形成されている。
【0029】
図1図3に示すように、インナコラム22は、円筒状に形成され、前後方向に延びている。インナコラム22の外径は、保持筒部24の内径よりも小さくなっている。インナコラム22は、保持筒部24内に後方から挿入されている。インナコラム22は、アウタコラム21に対して前後方向に移動可能に構成されている。インナコラム22内の後端部には、図3に示すように、後側軸受30が嵌合(圧入)されている。
【0030】
図5は、図3の要部拡大図である。
図4図5に示すように、ハンガブラケット23は、インナコラム22の前部寄りの下面に下向きで固定されている。本実施形態では、ハンガブラケット23は金属材料によって一体に形成されている。ハンガブラケット23は、例えば金属板に対してプレス加工を施すことで形成することができる。ハンガブラケット23は、図2に示すように、保持筒部24のスリット28を通して保持筒部24の外部(下方)に露出している。また、ハンガブラケット23は、図4に示すように、前後方向から見た正面視で下方に開口する略U字形状に形成されている。
【0031】
図6は、図5のVI矢視図である。なお、図6では、後述するカラー56とロックボルト53が仮想線で描かれている。
ハンガブラケット23は、インナコラム22の軸方向に沿って配置される取付板部31と、取付板部31における左右方向の両端部から下方に延びる一対の側壁32と、を備えている。
【0032】
取付板部31は、上下方向を板厚方向とし、インナコラム22の下面に沿って前後方向に延びている。取付板部31は、下面視で前後方向に長い略長方形状に形成されている。取付板部31には、取付板部31を上下方向に貫通するガイド孔34が形成されている。ガイド孔34は、左右方向の幅に比較して前後方向に長く延びるスリット状の孔によって構成されている。ガイド孔34の詳細な形状については後述する。
【0033】
ハンガブラケット23は、締結部材(固定部材)である二つのボルト39F,39Rによってインナコラム22の下面の前後方向に離間した二位置に固定されている。各ボルト39F,39Rは、図5に示すように、ハンガブラケット23の取付板部31(ガイド孔34部分)を上下に貫通して一端側(上端側)がインナコラム22に結合される軸部39aと、軸部39aの他端側(下端側)に一体に設けられた頭部39bと、を有する。頭部39bは、ハンガブラケット23の取付板部31(ガイド孔34の縁部)に当接し、取付板部31をインナコラム22の下面に押し付けることでハンガブラケット23をインナコラム22に固定する。後側のボルト39Rの軸部39aは、インナコラム22の軸方向のほぼ中央位置の下面に結合され、前側のボルト39Fの軸部39aは、インナコラム22の中央位置よりも前方側の下面に結合される。
本実施形態では、ボルト39F,39Rの頭部39bが締結部材(固定部材)における座部を構成している。
【0034】
なお、本実施形態では、締結部材(固定部材)として、ボルト39F,39Rがインナコラム22に直接固定された構成について説明したが、この構成に限られない。例えば、ボルト39F,39Rがインナコラム22の内側に設けられたナットに螺着されることで、インナコラム22に締結されていても良い。また、締結部材(固定部材)は、インナコラム22に突設されたスタッドボルトと、スタッドボルトに螺合されるナットによって構成するようにしても良い。この場合には、ナットが座部を構成することになる。
さらに、固定部材は、締結部材に限らず、螺合手段を持たないリベット等を用いることも可能である。固定部材がリベットによって構成される場合には、リベットの頭部が座部を構成することになる。
【0035】
ハンガブラケット23の側壁32は、取付板部31の前後方向の全域に亘って形成されている。側壁32は、下方側への突出高さが一定のテレスコガイド部32aと、テレスコガイド部32aよりも突出高さの高い一対のストッパ部32b,32cと、を備えている。
テレスコガイド部32aは、側壁32における前後両端部を除く領域に形成されている。テレスコガイド部32aの下端縁は、前後方向に沿って直線状に形成されている。ストッパ部32b,32cは、一方(32b)がテレスコガイド部32aの前端部に一体に形成され、他方(32c)がテレスコガイド部32aの後端部に一体に形成されている。前後のストッパ部32b,32cは、テレスコガイド部32aに対して下方に突出している。
【0036】
前側のストッパ部32bは、テレスコ動作の際に、後述するロックボルト53にカラー56を介して当接することにより、アウタコラム21に対するインナコラム22の後方変位を規制する。後側のストッパ部32cは、テレスコ動作の際に、後述するロックボルト53にカラー56を介して当接することにより、アウタコラム21に対するインナコラム22の前方変位を規制する。なお、前側のストッパ部32bの後縁部と後側のストッパ部32cの前縁部は、カラー56の外周面の円弧形状に略合致する円弧形状に形成されている。
【0037】
<ステアリングシャフト12>
図3に示すように、ステアリングシャフト12は、アウタシャフト37及びインナシャフト38を備えている。
アウタシャフト37は、前後方向に沿って延びる中空円筒状に形成されている。アウタシャフト37は、コラムユニット11内に挿入されている。アウタシャフト37の前端部は、アウタコラム21内で前側軸受27に圧入されている。これにより、アウタシャフト37は、軸線o1回りに回転可能にアウタコラム21に支持されている。アウタシャフト37の前端部(前側軸受27よりも前方に突出した部分)は、自在継手(不図示)等を介して例えばステアリングギヤボックス(不図示)に連結される。
【0038】
インナシャフト38は、アウタシャフト37と同様に、前後方向に沿って延びる中空円筒状に形成されている。インナシャフト38は、インナコラム22内に挿入されている。インナシャフト38の後端部は、インナコラム22内で後側軸受30に圧入されている。これにより、インナシャフト38は、軸線o1回りに回転可能にインナコラム22に支持されている。インナシャフト38のうち、インナコラム22よりも後方に突出した部分には、ステアリングホイール2(図1参照)が一体回転可能に連結される。
【0039】
インナシャフト38の前端部は、インナコラム22内でアウタシャフト37に挿入されている。インナシャフト38は、アウタコラム21に対するインナコラム22の前後方向の移動に伴い、インナコラム22とともにアウタシャフト37に対して前後方向に変位可能に構成されている。
【0040】
本実施形態において、アウタシャフト37の内周面には、雌スプラインが形成されている。雌スプラインは、インナシャフト38の外周面に形成された雄スプラインに係合している。これにより、インナシャフト38は、アウタシャフト37に対する相対回転が規制された上で、アウタシャフト37に対して前後方向に変位する。ただし、ステアリングシャフト12の伸縮構造や回転規制の構造は、適宜変更が可能である。
なお、本実施形態では、アウタシャフト37がインナシャフト38に対して前方に配置された構成について説明したが、この構成のみに限らず、アウタシャフト37がインナシャフト38に対して後方に配置された構成であっても良い。
【0041】
<フロントブラケット13>
フロントブラケット13は、図1に示すように、正面視で下方に開口するU字状に形成されている。フロントブラケット13は、アウタコラム21の後端部を上方及び左右方向の両側から取り囲んでいる。フロントブラケット13のうち、左右方向の両側に位置するフロント側壁13aは、ピボット軸40を介してアウタコラム21の前端部に回動可能に連結されている。これにより、アウタコラム21は、ピボット軸40の左右方向に延びる軸線o2回りに回動可能にフロントブラケット13に支持されている。したがって、アウタコラム21の前端部は、軸線o2回りに回動可能に、かつ、前後方向の変位を規制された状態で車体に支持されている。
【0042】
<リヤブラケット14>
リヤブラケット14は、正面視で下方に開口する略U字形状(略コ字形状)に形成されている。リヤブラケット14は、アウタコラム21の後部領域の上方及び左右両側を取り囲んでいる。リヤブラケット14は、後述するロック機構15を介して、アウタコラム21の後部領域を保持している。リヤブラケット14はボルト締結等によって車体側に固定されるため、アウタコラム21の後部領域は、ロック機構15とリヤブラケット14を介して車体に支持されている。
【0043】
本実施形態のリヤブラケット14は、所定形状に切り抜かれた一枚の金属板がプレス加工等によって所定の形状に造形されている。リヤブラケット14は、コラムユニット11の左右両側に配置されるリヤ側壁14aと、左右の各リヤ側壁14aの上端部から左右方向の外側に屈曲して延びる固定フランジ14cと、左右のリヤ側壁14aの後部同士を連結する連結壁14dと、を備えている。連結壁14dは、左右の固定フランジ14c及び左右のリヤ側壁14aよりも前方側に配置され、アウタコラム21の保持筒部24の上方を左右に跨ぐように略U字状(略コ字状)に折り曲げられて造形されている。
【0044】
左右のリヤ側壁14aには、図4に示すように、当該リヤ側壁14aを左右方向に貫通するチルトガイド孔14bが形成されている。チルトガイド孔14bは、ピボット軸40の軸線o2を中心とする円弧形状に形成されている。
【0045】
左右の各リヤ側壁14aのチルトガイド孔14bには、後述するロック機構15のロックボルト53の軸部が挿通されている。ロックボルト53の軸部は、左右方向に沿って延びている。チルトガイド孔14bは、コラムユニット11がピボット軸40を中心として上下に揺動するチルト動作時に、コラムユニット11と一体に変位するロックボルト53の上下方向の揺動動作を許容する。
【0046】
フロントブラケット13とリヤブラケット14は、連結片100によって相互に連結されている。連結片100は、左右方向を厚さ方向として前後方向に延びており、フロントブラケット13の右側のフロント側壁13aとリヤブラケット14の右側のリヤ側壁14aを連結している。ただし、連結片100は、必須の構成ではない。
【0047】
<ロック機構15>
図4に示すように、ロック機構15は、ロックボルト53と、操作レバー54と、締結カム55と、を備えている。
ロックボルト53は、リヤブラケット14の左右のリヤ側壁14aのチルトガイド孔14bと、アウタコラム21の左右の締付部25の貫通孔29を左右方向に貫通している。ロックボルト53の中央領域(アウタコラム21の左右の締付部25の間に位置する部分)には、カラー56が装着されている。カラー56は、ロックボルト53と同軸の筒状に形成されている。カラー56は、ロックボルト53よりも軟質な材料(例えば、ゴムや樹脂材料等の弾性変形可能な材料)により形成されている。
【0048】
図5に示すように、テレスコ動作時において、インナコラム22が最前端位置にあるとき(コラムユニット11が最縮状態のとき)には、ハンガブラケット23の後側のストッパ部32cが後方側からカラー56に当接する。また、テレスコ動作時において、インナコラム22が最後端位置にあるとき(コラムユニット11が最伸状態のとき)には、ハンガブラケット23の前側のストッパ部32bが前方側からカラー56に当接する。すなわち、テレスコ動作時にハンガブラケット23がインナコラム22とともに前後方向に変位するときには、ハンガブラケット23の前後いずれかのストッパ部32b,32cがカラー56を介してロックボルト53に当接することにより、インナコラム22の前後方向の過大な変位が規制される。また、テレスコ動作時には、ハンガブラケット23のテレスコガイド部32aの下縁部がカラー56(ロックボルト53)の前後方向の相対変位をガイドする。
なお、本実施形態では、ロックボルト53がアウタコラム21側の変位規制部を構成している。また、本実施形態では、テレスコ動作時等に、ストッパ部32b,32cがカラー56を介してロックボルト53に当接する構成を採用しているが、カラー56を廃止してストッパ部32b,32cがロックボルト53に直接当接する構成としても良い。
【0049】
図1図2に示すように、ロックボルト53の左右の端部と、リヤブラケット14の固定フランジ14cの間には、コイルスプリング等の付勢部材60が介装されている。付勢部材60は、車体側に固定されるリヤブラケット14の固定フランジ14cを起点としてロックボルト53を上方側に向けて付勢する。ここで、ロックボルト53は、図4に示すようにアウタコラム21の締付部25に貫通状態で係合されているため、付勢部材60の付勢力はアウタコラム21の後部領域を上方側に向けて付勢する。したがって、付勢部材60は、ロック解除時(チルト動作時)にコラムユニット11が自重によって下方に下がることを抑制する。
【0050】
操作レバー54は、ロックボルト53の軸部の左側の端部に支持されている。締結カム55は、図4に示すように、相互に回転可能な二枚のカム板55a,55bを備えている。ロックボルト53の軸部は、二枚のカム板55a,55bを貫通している。一方のカム板55aは、操作レバー54の基部に連結され、他方のカム板55bは、フロントブラケット13の左側のリヤ側壁14aの側面に当接している。一方のカム板55aは操作レバー54の基部と一体に回転し、他方のカム板55bは左側のリヤ側壁14aのチルトガイド孔14b等に回り止めされている。二枚のカム板55a,55bは、相互に対向する面に図示しないカム突起を有している。二枚のカム板55a,55bは、両者のカム突起が対向する回転位置にあるときに、両者の総厚み(ロックボルト53の軸方向に沿う軸方向幅)が増加し、両者のカム突起が対向しない回転位置にあるときに、両者の総厚み(ロックボルト53の軸方向に沿う軸方向幅)が減少する。
【0051】
ロック機構15は、操作レバー54の回動操作によって締結カム55の総厚みを変化させ、それによってアウタコラム21の左右の締付部25同士を接近離反させる。具体的には、締結カム55の総厚みが増加するように操作レバー54が回動操作されると、左右の締付部25同士がアウタコラム21の金属弾性に抗して接近するように変形する。これにより、アウタコラム21の保持筒部24の内径が縮小し、保持筒部24がインナコラム22を挟持固定する。この結果、アウタコラム21に対するインナコラム22のシャフト軸方向の変位が規制される(ロック状態)。なお、このときチルトガイド孔14bの縁部が締結カム55とアウタコラム21の締付部25によって挟持固定され、アウタコラム21(コラムユニット11)のチルト動作もロックされる。
【0052】
一方、ロック状態において、締結カム55の総厚みが減少するように操作レバー54が回動操作されると、左右の締付部25同士が離反するように弾性復帰する。これにより、アウタコラム21の保持筒部24の内径が拡大し、保持筒部24によるインナコラム22の挟持固定が解除される。この結果、アウタコラム21に対するインナコラム22のシャフト軸方向への移動が許容される(ロック解除状態)。このとき、締結カム55とアウタコラム21の締付部25によるチルトガイド孔14bの側縁部の挟持固定が解除され、アウタコラム21(コラムユニット11)のチルト動作も許容される。
【0053】
<ハンガブラケット23の詳細構造>
本実施形態のステアリング装置1は、ハンガブラケット23が一対のボルト39F,39Rによってインナコラム22に一体に固定されている。このボルト39F,39Rによるハンガブラケット23の固定は、二次衝突荷重の入力時に、ステアリングホイール2を通して乗員からステアリングシャフト12とインナコラム22に前方側に向かう過大な荷重が作用したときに外れる。
【0054】
具体的には、二次衝突荷重の入力時に、ステアリングホイール2とステアリングシャフト12を通して乗員からインナコラム22に前方側に向かう過大な荷重が作用すると、インナコラム22がアウタコラム21による拘束力(ロック機構15による拘束力)に抗して前方側に変位する。このとき、インナコラム22が所定量前方側に変位すると、インナコラム22に固定されたハンガブラケット23のストッパ部32cがカラー56を介してロックボルト53に当接し、ロックボルト53から反力を受ける。こうして、さらに二次衝突荷重の入力が続くと、インナコラム22と一体のボルト39F,39Rが、当該ボルト39F,39Rの頭部39bとガイド孔34の縁部の間の摩擦拘束力に打ち勝ち、ハンガブラケット23を残したまま前方側に変位する。このとき、各ボルト39F,39Rの軸部39aは、ハンガブラケット23のガイド孔34に沿って前方側に移動する。
【0055】
図7は、図5の一部を拡大して示した断面図である。図7(a)は、ボルト39F,39Rによるハンガブラケット23とインナコラム22の固定状態を示し、図7(b)は、二次衝突荷重の入力時おけるハンガブラケット23とボルト39F,39Rの相対的な変位挙動を示している。
図6に示すように、ハンガブラケット23の取付板部31に形成されたガイド孔34は、後方側の端部に配置される拡幅部34aと、拡幅部34aから前方側に延び左右方向の幅が拡幅部34aの幅よりも狭い狭幅部34bと、を有する。ハンガブラケット23をインナコラム22の下面に締結固定する際には、図5図7(a)に示すように、後側のボルト39Rの軸部39aがガイド孔34の拡幅部34aを上下方向に貫通する。また、前側のボルト39Fの軸部39aは、ガイド孔34の狭幅部34bを上下方向に貫通する。このとき、ボルト39R,39Fの軸部39aがインナコラム22に締め込まれると、各ボルト39R,39Fの頭部39b(座部)は、拡幅部34aと狭幅部34bの左右の各縁部に下面側から押し付けられ、その結果、ハンガブラケット23がインナコラム22の下面に締結固定される。
【0056】
ハンガブラケット23の取付板部31のうちの、ガイド孔34の拡幅部34aの左右の縁部は、インナコラム22に対するハンガブラケット23の固定時に、後側のボルト39Rの頭部39bが当接する第1対向面41とされている。取付板部31のうちの、ガイド孔34の狭幅部34bの後部領域(拡幅部34a前端部に隣接する領域)の左右の縁部は、インナコラム22に対するハンガブラケット23の固定時に、前側のボルト39Fの頭部39bが当接する第2対向面42とされている。第2対向面42は、図7(a)に示すように、第1対向面41よりもボルト39Fの頭部39bに対向する方向の突出高さが設定高さh1だけ低くなっている。
【0057】
後側のボルト39Rの頭部39bは、ハンガブラケット23がインナコラム22に固定される状態において、第1対向面41の前端部(第2対向面42と隣接する位置)に配置される。また、前側のボルト39Fの頭部39bは、ハンガブラケット23がインナコラム22に固定される状態において、第2対向面42の前端部(後述する傾斜面45と隣接する位置)に配置される。
本実施形態では、ガイド孔34の縁部のうちの第1対向面41が後側のボルト39Rに対応する固定部を構成し、第2対向面42が前側のボルト39Fに対応する固定部を構成している。また、第2対向面42は、第1対向面41の前側に隣接する位置に配置され、下方への突出高さ(固定部材の座部に対向する方向の突出高さ)が第1対向面41よりも低い低位領域を構成している。
【0058】
また、ガイド孔34の狭幅部34bの前部領域(拡幅部34aから前方側に離間した領域)の左右の縁部は、下方への突出高さ(固定部材の座部に対向する方向の突出高さ)が前方側に向かって漸次増加する傾斜面45とされている。傾斜面45は、第2対向面42の前端側に滑らかに連続するように形成されている。本実施形態の傾斜面45は、前方側に向かって直線状に高さが変化する平面形状とされている。ただし、傾斜面は、前方側に向かって湾曲状に高さが増加する湾曲面形状であっても良い。
【0059】
二次衝突加重の入力時に、インナコラム22の前方変位に伴ってボルト39Fの頭部39bが第2対向面42と対向する位置から傾斜面45に対向する位置に変位すると、ボルト39Fの前方変位に応じて当該ボルト39Fの頭部39bと傾斜面45の間の当接荷重が漸増するようになる。こうして、頭部39bと傾斜面45の間の当接荷重が漸増すると、ボルト39Fの頭部39bとハンガブラケット23の間の摩擦抵抗が漸増するとともに、ハンガブラケット23とインナコラム22の間の摩擦抵抗も漸増する。
本実施形態では、傾斜面45が抵抗漸増部を構成している。
なお、ガイド孔34の縁部の傾斜面45は、二次衝突加重の入力時に、後側のボルト39Rの頭部39bが第2対向面42に対向する位置に変位した後に、前側のボルト39Fの頭部39bが乗り上がる(対向するようになる)位置に配置することが望ましい。
【0060】
ここで、前後のボルト39F,39Rによるハンガブラケット23とインナコラム22の固定に関しては、各ボルト39F,39Rの軸部39aがインナコラム22に締め込まれることにより、各ボルト39F,39Rの頭部39bが締め込みトルクに応じた力でガイド孔34の縁部(第2対向面42、及び、第1対向面41)に押し付けられる。このとき、ハンガブラケット23のガイド孔34の縁部と各ボルト39F,39Rの頭部39bの間には、ボルト39F,39Rの締め込みトルクに応じた摩擦拘束力が働き、ハンガブラケット23の取付板部31とインナコラム22の下面の間にもボルト39F,39Rの締め込みトルクに応じた摩擦拘束力が働く。
【0061】
二次衝突荷重の入力時に、インナコラム22とともに前方に変位するハンガブラケット23が、ストッパ部32cでカラー56(ロックボルト53)に当接すると、停止したハンガブラケット23に対してボルト39F,39Rが前方に変位しようとする。このとき、二次衝突荷重が所定値を超えると、図7(b)に示すように、ボルト39F,39Rの頭部39bの摩擦拘束力に抗してボルト39F,39Rが前方側に変位するようになる。
【0062】
このとき、第2対向面42は第1対向面41よりも突出高さが低く、後側のボルト39Rの頭部39bに対する摩擦拘束力か小さいため、後側のボルト39Rは、第2対向面42に対向する位置までスムーズに変位する。一方、第2対向面42の前方側に位置される傾斜面45は突出高さが前方に向かって漸次増加しているため、前側のボルト39Fの頭部39bが傾斜面45と対向する位置まで変位すると、ボルト39Fの頭部39bの前方変位に応じて頭部39bと傾斜面45の間の当接荷重が漸増する。この結果、ボルト39Fやインナコラム22がハンガブラケット23から受ける摩擦拘束力も漸増する。
【0063】
図8は、本実施形態のステアリング装置1の二次衝突荷重の入力時におけるインナコラム22の前方ストロークと、インナコラム22、アウタコラム21間に作用する荷重との関係を示す特性図である。
図8中のL1は、二次衝突荷重の入力によってインナコラム22がアウタコラム21の拘束力(ロック機構15の拘束力)に抗して前方に変位し始める作動荷重であり、S1からS2は、インナコラム22がアウタコラム21に対してテレスコ作動範囲で変位するストローク(ストッパ部32cがカラー56(ロックボルト53)に当接するまでのストローク)である。また、L2は、ストッパ部32cがカラー56(ロックボルト53)に当接した荷重及び当接後に、ハンガブラケット23を残してボルト39R,39Fがインナコラム22とともに前方に変位し始める作動初期荷重である。S3からS4は、後側のボルト39Rの頭部39bが第1対向面41と対向する位置から第2対向面42と対向する位置に移行する間のストロークである。S4以降は、前側のボルト39Fの頭部39bが傾斜面45に当接して摩擦荷重が漸増するストロークである。
【0064】
図8に示すように、二次衝突荷重の入力時には、後側のボルト39Rの頭部39bが突出高さの高い第1当接面と対向する位置から突出高さの低い第2当接面と対向する位置に変位するため、作動初期荷重L2を比較的低く抑えることができる。そして、前側のボルト39Fの頭部39bが傾斜面45に対向するようになるS4を超えるストローク域になると、ボルト39Fの前方変位に応じて頭部39bと傾斜面45の間の当接荷重が漸増するようになる。この結果、インナコラム22の前方側のストローク端付近で急激に反力が増大するのを抑制しつつ、衝撃荷重のエネルギーを効率良く吸収することが可能になる。
【0065】
<実施形態の効果>
本実施形態のステアリング装置1は、ハンガブラケット23のガイド孔34の縁部に、ボルト39R,39Fの頭部39bの押付けによってハンガブラケット23をインナコラム22に固定する固定部(第1対向面41、及び、第2対向面42)と、二次衝突加重の入力に伴うインナコラム22の前方変位時に、ボルト39Fとハンガブラケット23の間の摩擦抵抗を漸増させる抵抗漸増部(傾斜面45)が設けられている。このため、二次衝突荷重の入力時には、ハンガブラケット23のガイド孔34とボルト39R,39Fの軸部39aによる案内作用によってインナコラム22の姿勢を安定して維持することができるとともに、インナコラム22の前方側のストローク端付近で急激に反力が増大するのを抑制しつつ、衝撃荷重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
したがって、本実施形態のステアリング装置1を採用した場合には、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に衝突加重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
【0066】
特に、本実施形態のステアリング装置1では、インナコラム22の前方変位時に、ボルト39Fとハンガブラケット23の間の摩擦抵抗を漸増させる手段(抵抗漸増部)として、突出高さが前方に向かって漸次増加する傾斜面45がハンガブラケット23のガイド孔34の縁部に設けられている。このため、二次衝突荷重の入力時には、ボルト39Fの頭部39bが傾斜面45に当接することにより、ボルト39Fとハンガブラケット23の間の摩擦抵抗を漸増させることができる。したがって、本実施形態のステアリング装置1を採用した場合には、極めて簡単な構造でありながら、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に衝突加重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
【0067】
また、本実施形態のステアリング装置1では、固定部材であるボルト39R,39Fが、インナコラム22の軸方向に離間した位置に複数配置され、ハンガブラケット23が各ボルト39R,39Fによってインナコラム22の軸方向に離間した複数位置に固定されている。そして、ハンガブラケット23のガイド孔34の縁部には、各ボルト39R,39Fに対応するように固定部である第1対向面41と第2対向面42が設けられている。このため、二次衝突荷重の入力時には、固定部材の軸部39aとガイド孔34による案内作用と、固定部材の座部(頭部39b)とガイド孔34の縁部での固定及び摺動を複数のボルト39R,39Fで分担して担うことができる。したがって、本構成を採用した場合には、二次衝突荷重の入力時におけるインナコラム22の挙動(コラプスストローク)をより安定させることができる。
【0068】
また、本構成では、ハンガブラケット23が前後方向に離間した位置で複数のボルト39F,39Rによってインナコラム22に固定されるため、ハンガブラケット23のストッパ部32b,32cがアウタコラム21側の変位規制部に当接したときに、ハンガブラケット23の前後方向の端部がインナコラム22から離間する(浮き上がる)のを抑制することができる。したがって、本実施形態のステアリング装置1を採用した場合には、インナコラム22の前後位置調整時におけるステアリング装置1の商品性を高めることができるとともに、二次衝突荷重の入力時におけるハンガブラケット23やインナコラム22の作動を安定させることができる。
【0069】
さらに、本実施形態のステアリング装置1は、ガイド孔34の縁部の第1対向面41の前側で隣接する位置に、第1対向面41よりも突出高さの低い低位領域(第2対向面42)が配置されている。このため、二次衝突荷重の入力時に後側のボルト39Rの頭部39bが第1対向面41に対向する位置から第2対向面42に対向する位置に変位する際の摩擦拘束力を小さくすることができる。したがって、本構成を採用した場合には、二次衝突荷重の入力時における作動初期荷重を比較的小さく抑え、二次衝突荷重のエネルギーをスムーズに吸収することができる。
【0070】
また、本実施形態のステアリング装置1は、ハンガブラケット23をインナコラム22の下面に固定するための固定部材として、締結部材の一形態であるボルト39R,39Fを採用している。ボルト39R,39F等の締結部材は、相手部材に締め込むときのトルクを把握することができる工具を用いれば、締め込みトルクを正確に管理することができる。このため、本構成のステアリング装置1では、ボルト39R,39Fの締め込みトルクを管理することにより、ハンガブラケット23に対する摩擦拘束力を正確に設定調整することができる。したがって、本構成を採用した場合には、通常使用時におけるインナコラム22に対するハンガブラケット23の固定を確実なものにすることができるとともに、二次衝突荷重の入力時に安定したエネルギー吸収性能を得ることができる。
【0071】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態のステアリング装置の第1実施形態の図7に対応する断面図である。
本実施形態のステアリング装置は、インナコラム22の下面に取り付けられるハンガブラケット123の構造のみが第1実施形態のものと異なっている。
【0072】
本実施形態のハンガブラケット123は、第1実施形態と同様に、取付板部31にガイド孔134が形成されており、ボルト39F,39Rの軸部39aがそのガイド孔134を貫通している。ガイド孔134は、拡幅部34aと、当該拡幅部34aから前方に延びる狭幅部34bと、を有する。拡幅部34aの左右の縁部は、後側のボルト39Rの頭部39bが当接する第1対向面41(固定部)とされている。後側のボルト39Rは、頭部39bを第1対向面41に当接させた状態で、軸部39aがインナコラム22の下面に締め込み固定される。
【0073】
狭幅部34bは、拡幅部34aの前端部から前方に延びる直線孔部70sと、直線孔部70sの前端部からさらに前方側に延びる徐変孔部70cと、を備えている。直線孔部70sは、ボルト39Fの軸部39aと略同幅(軸部39aの外径よりも若干広い幅)で、その幅が一定のまま前方側に連続している。直線孔部70sの左右の縁部は、前側のボルト39Fの頭部39bが当接する第2対向面42(固定部)とされている。前側のボルト39Fは、頭部39bを第2対向面42に当接させた状態で、軸部39aがインナコラム22の下面に締め込み固定される。前側のボルト39Fは、このとき直線孔部70sの前端部に配置される。
なお、本実施形態では、第2対向面42の突出高さは第1対向面41の突出高さよりも低くなっている。第2対向面42は、低位領域を構成している。
【0074】
徐変孔部70cは、左右方向の幅(ガイド孔134の前後方向と交差する方向の幅)が前方側に向かって漸減している。具体的には、徐変孔部70cの左右の側辺は、前方側に向かって左右方向の幅中心に近接する側に傾斜するように直線状に延びている。徐変孔部70cの後端部は、直線孔部70sと同幅(ボルト39Fの軸部39aの外径よりも若干広い幅)となっている。前側のボルト39Fは、二次衝突加重の入力時に、ハンガブラケット123のストッパ部32cがロックボルト53に当接することで前方変位を規制されると、その軸部39aが徐変孔部70cに沿って前方に変位する。このとき、軸部39aは、徐変孔部70cの縁部を塑性変形させつつ前方に変位し、その前方変位に応じて徐変孔部70cとの間の当接荷重を漸増させる。
本実施形態では、徐変孔部70cが抵抗漸増部を構成している。
【0075】
本実施形態のステアリング装置は、ハンガブラケット123のガイド孔134の縁部に、ボルト39R,39Fの頭部39bの押付けによってハンガブラケット123をインナコラム22に固定する固定部(第1対向面41、及び、第2対向面42)と、二次衝突加重の入力に伴うインナコラム22の前方変位時に、ボルト39Fとハンガブラケット123の間の摩擦抵抗を漸増させる抵抗漸増部(徐変孔部70c)が設けられている。このため、本実施形態の場合も、二次衝突荷重の入力時には、ハンガブラケット123のガイド孔134とボルト39R,39Fの軸部39aによる案内作用によってインナコラム22の姿勢を安定して維持することができるとともに、インナコラム22の前方側のストローク端付近で急激に反力が増大するのを抑制しつつ、衝撃荷重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
したがって、本実施形態のステアリング装置を採用した場合にも、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に衝突加重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
【0076】
特に、本実施形態のステアリング装置では、インナコラム22の前方変位時に、ボルト39Fとハンガブラケット123の間の摩擦抵抗を漸増させる手段(抵抗漸増部)として、ガイド孔134の直線孔部70sの前方側に、左右方向の幅が前方に向かって漸次減少する徐変孔45が設けられている。このため、二次衝突加重の入力時には、ボルト39Fの前方変位に応じて軸部39aと徐変孔45の間の当接荷重が漸増し、ボルト39Fとハンガブラケット123の間の摩擦抵抗が次第に増大する。したがって、本実施形態のステアリング装置1を採用した場合には、極めて簡単な構造でありながら、小型化や低コスト化を図った上で、二次衝突荷重の入力時に衝突加重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
【0077】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、ハンガブラケットが二つのボルトによってインナコラムに固定されているが、ハンガブラケットをインナコラムに固定するための固定部材の数は二つの限らず、一つでも三つ以上であっても良い。
【符号の説明】
【0078】
1…ステアリング装置
12…ステアリングシャフト
21…アウタコラム
22…インナコラム
23,123…ハンガブラケット
32b,32c…ストッパ部
34,134…ガイド孔
39F,39R…ボルト(締結部材、固定部材)
39a…軸部
39b…頭部(座部)
41…第1対向面(固定部)
42…第2対向面(固定部、低位領域)
45…傾斜面(抵抗漸増部)
53…ロックボルト(変位規制部)
80c…徐変孔部(抵抗漸増部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9