(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189051
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】接合方法及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 50/536 20210101AFI20221215BHJP
H01M 50/533 20210101ALI20221215BHJP
H01M 50/534 20210101ALI20221215BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20221215BHJP
H01G 11/66 20130101ALI20221215BHJP
H01G 11/74 20130101ALI20221215BHJP
【FI】
H01M50/536
H01M50/533
H01M50/534
H01G11/84
H01G11/66
H01G11/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097397
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】能登 健一
(72)【発明者】
【氏名】河合 良
(72)【発明者】
【氏名】森川 志門
(72)【発明者】
【氏名】笠間 亮太
(72)【発明者】
【氏名】水上 裕之
(72)【発明者】
【氏名】松木 康彦
【テーマコード(参考)】
5E078
5H043
【Fターム(参考)】
5E078FA23
5E078KA02
5E078KA08
5H043AA19
5H043BA11
5H043CA03
5H043CA12
5H043EA07
5H043EA22
5H043HA17E
5H043JA01E
5H043JA06E
5H043KA01E
5H043LA02E
5H043LA22E
5H043LA41E
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接強度を確保しつつスパッタの発生やセパレータの溶融を抑制できる接合方法、および蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】接合方法は、電極箔とセパレータとを交互に積層するとともに、前記積層された電極箔を延長するように延びる突出部を形成する工程と、前記突出部に集電板4の内側面を接触させた状態で、前記集電板4の外側面28にレーザー光を照射して前記突出部と前記集電板4とをワブリング溶接する工程と、を含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極箔とセパレータとを交互に積層するとともに、前記積層された電極箔を延長するように延びる突出部を形成する工程と、
前記突出部に集電板の内側面を接触させた状態で、前記集電板の外側面にレーザー光を照射して前記突出部と前記集電板とをワブリング溶接する工程と、を含む接合方法。
【請求項2】
前記突出部を形成する工程では、
前記突出部のうちの少なくとも一部を前記電極箔に交差する第一方向に屈曲させて前記第一方向に延びる平坦部を形成し、
前記ワブリング溶接する工程では、
前記集電板の内側面を前記平坦部に接触させた状態で前記ワブリング溶接を行う
請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記ワブリング溶接する工程では、
1000℃以上の融点を有した材料からなる前記突出部と前記集電板とをワブリング溶接する
請求項1又は2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記ワブリング溶接する工程では、
前記ワブリング溶接の溶接始点から溶接終点に向かって前記レーザー光の出力を漸次減少させる
請求項1から3の何れか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記レーザー光の出力を線形に減少させる
請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記電極箔に含まれる金属箔の厚さは6~20μm、前記集電板の厚さは0.3~1.0mmである
請求項1から5の何れか一項に記載の接合方法。
【請求項7】
前記ワブリング溶接する工程では、
溶接進行方向と交差する方向に振幅を有したサインカーブ状に前記レーザー光を照射してワブリング溶接を行う
請求項1から6の何れか一項に記載の接合方法。
【請求項8】
交互に積層された電極箔とセパレータとを有する積層部と、
前記電極箔と一体に形成されて前記電極箔を延長する方向に延びる突出部と、
溶接部を介して前記突出部に固定された内側面を有する集電板と、
を備え、
前記集電板は、前記内側面とは反対側を向く外側面のうち前記溶接部に対応する位置にワブリング溶接痕を有する蓄電デバイス。
【請求項9】
前記突出部は、前記電極箔と交差する第一方向に延びる平坦部を備え、
前記集電板の前記内側面は、前記溶接部を介して前記平坦部に固定されている
請求項8に記載の蓄電デバイス。
【請求項10】
前記電極箔と前記集電板とは、1000℃以上の融点を有した材料である
請求項8又は9に記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
前記電極箔に含まれる金属箔の厚さは6~20μm、前記集電板の厚さは0.3~1.0mmである
請求項8から10の何れか一項に記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
前記ワブリング溶接痕は、該ワブリング溶接痕の溶接進行方向に交差する方向に振幅を有するサインカーブ状の溶接痕を含む
請求項8から11の何れか一項に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合方法及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、正極板と負極板とをセパレータを介して積層して渦巻き状に巻いた極板群を形成し、この極板群の渦巻中心軸方向の一端に突出した正極集電体の突出部と、他端に突出した負極集電体の突出部とにそれぞれレーザー溶接により集電板を接合する接合方法が開示されている。この特許文献1では、極板群の渦巻中心軸方向の一端を押圧することで、渦巻中心軸方向の一端の正極集電体の突出部と、他端の負極集電体の突出部とをそれぞれ渦巻の径方向に折り曲げて平坦部を形成している。さらに、特許文献1では、これら平坦部と平行に正極側の集電板及び負極側の集電板を押し付けた状態で、集電板の渦巻中心軸方向外側の外側面からレーザーを照射して正極集電体の突出部と集電板とをレーザー溶接すると共に、負極集電体の突出部と集電板とをレーザー溶接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような接合方法では、レーザーの出力が低すぎると十分な溶接強度が確保できず、溶接不良が生じる可能性が有る。その一方で、レーザーの出力が高すぎると、集電板からのスパッタの発生や、熱によるセパレータの溶融が生じて、内部微短絡や自己放電不良等が発生する可能性が有る。
本開示の目的は、溶接強度を確保しつつスパッタの発生やセパレータの溶融を抑制できる接合方法及び蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、接合方法は、電極箔とセパレータとを交互に積層するとともに、前記積層された電極箔を延長するように延びる突出部を形成する工程と、前記突出部に集電板の内側面を接触させた状態で、前記集電板の外側面にレーザー光を照射して前記突出部と前記集電板とをワブリング溶接する工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0006】
上記態様によれば、溶接強度を確保しつつスパッタの発生やセパレータの溶融を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係る蓄電デバイスの概略構成を示す断面図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る素子を展開した積層体の断面図である。
【
図4】
図2の積層体を、渦巻状に巻いた状態を示す側面図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る負極突出部と負極集電板との接合部近傍の断面図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る集電板のワブリング溶接痕を示す平面図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る接合方法のフローチャートである。
【
図9】本開示の一実施形態に係る素子の中心軸aに沿う断面図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係る平坦部を形成する工程を示す側面図である。
【
図11】本開示の実施形態に係るワブリング溶接の溶接位置(横軸)に対するレーザー光の出力(縦軸)の遷移を示すグラフである。
【
図12】本開示の実施形態の第一変形例に係る
図5に相当する断面図である。
【
図13】本開示の実施形態の第二変形例に係る
図6に相当する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈実施形態〉
《蓄電デバイスの構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る蓄電デバイス1としては、リチウムイオンキャパシタ(LIC)を一例に説明する。つまり、本実施形態の蓄電デバイス1は、正極に電気二重層キャパシタ、負極にリチウムイオンバッテリーの構造を有している。
【0009】
蓄電デバイス1は、ケーシング2と、素子3と、集電板4と、端子板5と、電解液6と、を備えている。
ケーシング2は、アルミニウム合金等の金属により形成され、有底筒状をなしている。ケーシング2は、素子3、集電板4、電解液6を収容する収容空間7を形成している。本実施形態のケーシング2の開口部8には、絞り加工等により端子板5が取り付けられており、この端子板5により開口部8が閉塞されている。
【0010】
図1~
図4に示すように、素子3は、複数の電極箔9と、複数のセパレータ10と、複数の突出部11と、を備えている。本実施形態の素子3は、ケーシング2の収容空間7に収容可能な円筒状に形成されている。この円筒状に形成された素子3は、電解液6と共に収容空間7に収容される。素子3の中心軸a(
図1参照)は、ケーシング2の収容空間7に収容された状態で、ケーシング2の収容空間7の中心軸に沿って延びている。
【0011】
図2に示すように、本実施形態の素子3は、電極箔9として正極箔9Pと負極箔9Nとを備え、突出部11として正極突出部11Pと負極突出部11Nとを備えている。なお、以下の説明においては、素子3の中心軸a(
図1参照)の延びる方向を中心軸方向Daと称し、中心軸方向Daにおいてケーシング2の開口部8が配置される側を中心軸方向第一側Da1、その反対側を中心軸方向第二側Da2と称する。
【0012】
図3に示すように、本実施形態の正極箔9Pは、アルミニウム合金からなるアルミニウム層12と、このアルミニウム層12の表裏面にそれぞれ炭素材料を塗布してなる正極炭素材層13と、を備えている。本実施形態の負極箔9Nは、1000℃以上の融点を有する金属である銅からなる銅層14と、この銅層14の表裏面にそれぞれ炭素材料を塗布してなる負極炭素材層15と、を備えている。これらアルミニウム層12および銅層14は、例えば6~20μmの厚さを有している。本実施形態の正極箔9P及び負極箔9Nは、
図3に示す展開した状態の平面視でそれぞれ長方形をなしており、これら長方形の短辺16,17が中心軸方向Daに延びている。なお、本実施形態では、正極箔9Pの長辺18の寸法が、負極箔9Nの長辺19の寸法よりも小さく、正極箔9Pの短辺16の寸法が、負極箔9Nの短辺17の寸法と同等(具体的には、僅かに小さい)の場合を例示している。
【0013】
セパレータ10は、少なくとも蓄電デバイス1の電極間の電気絶縁性を保つ電気絶縁材料からなり、シート状をなしている。セパレータ10は、正極箔9Pと負極箔9Nとの間に配置されている。本実施形態のセパレータ10は、負極箔9Nを挟み込むように配置されている。本実施形態のセパレータ10は、
図3に示す展開した状態の平面視で長方形状をなしており、この長方形状の短辺20が中心軸方向Daに延びている。セパレータ10の長辺21の寸法は、それぞれ正極箔9Pの長辺18の寸法や負極箔9Nの長辺19の寸法よりも大きい。さらに、セパレータ10の短辺20の寸法は、正極箔9Pの短辺16の寸法や負極箔9Nの短辺17の寸法よりも大きい。セパレータ10は、例えば、18~22μmの厚さを有している。
【0014】
突出部11は、電極箔9と一体に形成されて電極箔9を延長する方向に延びている。
図2及び
図4に示すように、本実施形態の素子3は、複数の突出部11として、中心軸方向第一側Da1に負極突出部11Nを備え、中心軸方向第二側Da2に正極突出部11Pを備えている。
【0015】
正極突出部11Pは、正極箔9Pを延長する方向に延びて、セパレータ10よりも中心軸方向第二側Da2に突出している。本実施形態における素子3は、例えば、正極箔9Pのアルミニウム層12と正極突出部11Pとを一体に形成したアルミニウム合金からなる正極シート22をセパレータ10に対して中心軸方向第二側Da2にずらして配置することで正極突出部11Pを中心軸方向第二側Da2に突出させている。
【0016】
負極突出部11Nは、負極箔9Nを延長する方向に延びて、セパレータ10よりも中心軸方向第一側Da1に突出している。負極箔9Nの銅層14と負極突出部11Nとを一体に形成した銅からなる負極シート23をセパレータ10に対して中心軸方向第一側Da1にずらして配置することで負極突出部11Nを中心軸方向第一側Da1に突出させている。
【0017】
図5に示すように、本実施形態の負極突出部11Nは、その中心軸方向第一側Da1の縁部に平坦部24Nを備えている。この平坦部24Nは、中心軸方向Daと交差する方向、言い換えれば負極箔9Nと交差する方向である第一方向Dhに延びている。なお、図示は省略しているが、正極突出部11Pも、負極突出部11Nと同様に、その中心軸方向第二側Da2の縁部に平坦部24を備えている。この正極突出部11Pの平坦部24Pも、中心軸方向Daと交差する方向、言い換えれば正極箔9Pと交差する方向である第一方向Dhに延びている。なお、
図5は平坦部24Nを模式的に示しており、負極箔9Nに対する負極突出部11Nの平坦部24Nの延びる角度が全て同じ角度になっている。しかし、実際の負極突出部11Nでは、例えば、製造上の理由などにより、平坦部24Nの角度が全域で一定とならず、中心軸方向Daから見て凹凸をなす場合がある。
【0018】
図3に示すように、素子3は、複数の電極箔9と複数のセパレータ10とが積層された状態で、例えば円柱状のローラーRに巻きつける等により、中心軸a周りに渦巻状に形成される。すなわち、素子3を構成する正極箔9P、負極箔9N、セパレータ10、正極突出部11P、及び負極突出部11Nは、それぞれ中心軸方向Daから見て渦巻状をなしている。
図4に示すように、このように形成された円筒状の素子3は、その外周面にセパレータ10を備えている。本実施形態では、この外周面の中心軸方向第一側Da1の縁部と中心軸方向第二側Da2の縁部とに、それぞれ粘着テープT等が巻かれており、セパレータ10の端部25が中心軸aを中心とした径方向外側に広がらないようになっている。
【0019】
図5に示すように、負極集電板4Nは、溶接部26Nを介して負極突出部11Nに固定されている。正極集電板4Pも同様である。
図4に示すように、本実施形態では、複数の集電板4として、正極集電板4Pと負極集電板4Nとの二つの集電板4を備えている。これら正極集電板4Pと負極集電板4Nとは、中心軸aを中心とした円形の外縁を有した概略平板状に形成され、中心軸方向Daで突出部11側を向く内側面27と、中心軸方向Daで内側面27の反対側を向いて背合わせとなる外側面28とを有している。
【0020】
正極集電板4Pは、正極突出部11Pと同一の金属を含む金属により形成されている。すなわち、本実施形態の正極集電板4Pは、アルミニウム合金により形成されている。負極集電板4Nは、負極突出部11Nと同一の金属を含む金属により形成されている。負極集電板4Nは、1000℃以上の融点を有する材料によって形成されている。本実施形態の負極集電板4Nは、銅により形成されている。なお、
図1に示すように、本実施形態における集電板4の中央部には、中心軸方向Daの突出部11側に向かって突出する凸部29が形成されている。さらに、集電板4の凸部29には、貫通孔30が形成されている。凸部29は、素子3の中央部に形成され中心軸方向Daに延びる断面円形の空洞部31に挿入されている。
【0021】
図5に示すように、負極集電板4Nの内側面27Nは、負極突出部11Nの平坦部24Nに、溶接部26Nを介して固定されている。負極集電板4Nの外側面28Nには、内側面27N側に形成された溶接部26Nに対応する位置に、ワブリング溶接痕40が形成されている。言い換えれば、負極集電板4Nの内側面27Nは、負極集電板4Nの外側面28Nにレーザー光を照射するワブリング溶接によって形成された溶接部26Nを介して平坦部24Nに固定されている。正極集電板4Pも同様である。
【0022】
図6、
図7に示すように、ワブリング溶接痕40は、複数設けられている。本実施形態のワブリング溶接痕40は、中心軸aを中心とした径方向(言い換えれば放射方向)Drを溶接進行方向としたワブリング溶接によって形成される。ここで、溶接進行方向とは、ワブリング溶接を開始する溶接始点からワブリング溶接を終了する溶接終点に向かう方向である。
【0023】
本実施形態では、互いに平行に延びる二つのワブリング溶接痕40が組をなし、このワブリング溶接痕40の組が、中心軸aを中心とした周方向Dcに間隔をあけて複数設けられている。これら複数のワブリング溶接痕40は、それぞれ溶接進行方向に交差する方向に振幅を有するサインカーブ状の溶接痕Sc(
図7参照)を含んでいる。本実施形態における溶接進行方向(言い換えれば径方向Dr)に交差する方向(言い換えれば周方向Dc)のワブリング溶接痕40の幅寸法Lwは、例えば、0.4~0.8mmとされ、サインカーブ状の溶接痕Scの太さは、100~200μm程度とされている。また、サインカーブ状の溶接痕Scは、単位距離(10mm)当たり20~30周期とされている。
【0024】
本実施形態では、ワブリング溶接痕40として、複数の第一ワブリング溶接痕40Lと、第一ワブリング溶接痕40Lよりも溶接進行方向の寸法が短い複数の第二ワブリング溶接痕40Sと、を有している。本実施形態で例示する第一ワブリング溶接痕40Lは、周方向Dcに等間隔で6組設けられ、第二ワブリング溶接痕40Sは、周方向Dcに等間隔で3組設けられている。
【0025】
中心軸方向Daから見て、集電板4の径方向Drにおける第一ワブリング溶接痕40Lの外側端部40toは、最も外周側に配置された突出部11の位置よりも僅かに外周側に位置している。さらに、中心軸方向Daから見て、集電板4の径方向Dr内側における第一ワブリング溶接痕40Lの内側端部40tiは、最も内周側に配置された突出部11の位置よりも僅かに内周側に位置している。なお、本実施形態で例示する集電板4には、剛性を確保するために周方向Dcで隣り合う第一ワブリング溶接痕40Lの間のうちの径方向Dr外側の位置に、周方向Dcに延びる溝部41が形成されている。また、周方向Dcにおける第一ワブリング溶接痕40L同士の間のうち、第二ワブリング溶接痕40Sの形成されていない箇所には、円形孔42が形成されている場合を例示している。
【0026】
本実施形態における第二ワブリング溶接痕40Sは、これら溝部41よりも径方向Dr内側にのみ形成されている。本実施形態の第二ワブリング溶接痕40Sは、第一ワブリング溶接痕40Lの1/2程度の長さとなっている。上述した溶接部26は、ワブリング溶接するために外側面28へレーザー光を照射することで、このレーザー光の照射位置の反対側に位置する集電板4の内側面27の一部およびレーザー光が照射された集電板4の一部が溶融して固まることで形成される。
【0027】
図1に示すように、端子板5は、ケーシング2の開口部8を閉塞している。本実施形態の端子板5は、端子板本体35と、圧力調整弁36と、封口ゴム37と、を少なくとも備えている。端子板本体35は、中心軸方向Daから見て円形をなしており、その中央部に孔35hを有している。圧力調整弁36は、端子板本体35の中央部に配置され、孔35hを介して収容空間7の圧力を調整する。封口ゴム37は、端子板本体35とケーシング2の開口部8の内周面との隙間をシールしている。圧力調整弁36は、端子板本体35の孔35hから収容空間7に電解液6を注入したあとに孔35hを塞ぐように取り付けられる。
【0028】
《接合方法》
本実施形態の蓄電デバイス1は、上述した構成を備えている。次に、上記蓄電デバイス1を組み立てる組立方法のうち、とりわけ素子3と端子板5との接合方法について図面を参照しながら説明する。
図8に示すように、本実施形態の接合方法は、突出部を形成する工程(ステップS01)と、ワブリング溶接する工程(ステップS02)と、を含んでいる。
【0029】
突出部を形成する工程(ステップS01)では、
図2に示すように、電極箔9とセパレータ10とを交互に積層するとともに、積層された電極箔9を延長するように延びる突出部11を形成する。本実施形態においては、上述したように、正極箔9Pのアルミニウム層12と正極突出部11Pとを一体に形成した正極シート22を、セパレータ10に対して中心軸方向第二側Da2にずらして配置することで中心軸方向第二側Da2に突出した正極突出部11Pを形成している。また、負極箔9Nの銅層14と負極突出部11Nとを一体に形成した負極シート23を、セパレータ10に対して中心軸方向第一側Da1にずらして配置することで中心軸方向第一側Da1に突出した負極突出部11Nを形成している。
【0030】
突出部を形成する工程(ステップS01)では、更に、上記積層された積層体を、
図3に示す矢印方向に渦巻状に巻いて円筒状とし、この円筒状の外周面に露出するセパレータ10の中心軸方向Daの両端部に粘着テープTを巻き回す。この突出部を形成する工程(ステップS01)では、さらに、
図9に示すように、円筒状に形成された素子3の正極突出部11Pと、負極突出部11Nとに対して、それぞれ
図10に示すように中心軸方向Daから押圧治具50を押し当てて、正極突出部11Pの縁部を正極箔9Pと交差する第一方向へ屈曲させると共に、負極突出部11Nの縁部を負極箔9Nと交差する第一方向へ屈曲させて、正極突出部11P及び負極突出部11Nのそれぞれに平坦部24Nおよび24P(図示せず)を形成する。
【0031】
ワブリング溶接する工程(ステップS02)では、突出部11と集電板4とをワブリング溶接により接合する。より具体的には、このワブリング溶接する工程(ステップS02)では、
図5に示すように、負極集電板4Nを負極突出部11Nの平坦部24Nと平行な姿勢にして、負極集電板4Nの内側面27Nを負極突出部11Nの平坦部24Nに接触させる。そして、負極集電板4Nの外側面28Nにレーザー光を照射してワブリング溶接する。同様に、このワブリング溶接する工程(ステップS02)では、正極集電板4P(図示せず)を正極突出部11P(図示せず)の平坦部24P(図示せず)と平行な姿勢にして、正極集電板4Pの内側面27Pを正極突出部11Pの平坦部24Pに接触させる。そして、正極集電板4Pの外側面28Nにレーザー光を照射してワブリング溶接する。ここで、ワブリング溶接では、
図7に示すように、上述した溶接進行方向に対して交差する方向に振幅を有するサインカーブを描くようにレーザー光を照射する。このレーザー光の照射は、上述したように正極集電板4Pの外側面28Pと負極集電板4Nの外側面28Nとのそれぞれに対し、径方向Drに複数回行う。本実施形態では、上述した第一ワブリング溶接痕40Lと第二ワブリング溶接痕40Sとが形成されるように、ワブリング溶接を行っている。
【0032】
ワブリング溶接する工程(ステップS02)では、更に、ワブリング溶接の溶接始点から溶接終点に向かって、レーザー光の出力を漸次減少させる。本実施形態では、
図11に示すように、ワブリング溶接の溶接始点から溶接終点に向かって、レーザー光の出力を線形に漸次減少させている。つまり、本実施形態のワブリング溶接では、溶接距離に対するレーザー光の出力低下率が一定となっている。なお、溶接距離に対するレーザー光の出力減少は線形に遷移させる場合に限られず、例えば曲線状に遷移させるようにしてもよい。なお、溶接始点と溶接終点におけるレーザー出力の一例としては、溶接始点のレーザー出力を800W、溶接終点のレーザー出力を700Wにする場合を例示できる。また、他の一例として、溶接始点のレーザー出力を750W、溶接終点のレーザー出力を600Wにする場合を例示できる。
【0033】
上記の接合方法により突出部11と集電板4とが接合された構造体は、端子板本体35を集電板4に溶接後、ケーシング2に収容される。その後、ケーシング2の開口部8が端子板5の封口ゴム37により閉塞され、端子板本体35の孔35hから電解液6が注入されて、圧力調整弁36が取り付けられる。
【0034】
《作用効果》
以上のように、本実施形態では、突出部11に集電板4の内側面27を接触させた状態で、集電板4の外側面28にレーザー光を照射して突出部11と集電板4とをワブリング溶接している。このようにワブリング溶接により突出部11と集電板4とを接合する場合、溶接進行方向にレーザー光を直線状に照射する場合と比較して、溶接面積を確保すると共に、溶接による入熱を安定させることができる。したがって、集電板4への入熱量が低下して突出部11と集電板4との溶接強度が不足することを抑制できる。さらに、ワブリング溶接により溶接による入熱を安定させることで、集電板4への入熱量を増加させ過ぎて、スパッタが発生したり、セパレータ10の溶融が発生したりすることを抑制できる。そのため、正極箔9Pと負極箔9Nとの間に短絡や、正極箔9Pと負極箔9Nとの間での微短絡に起因する自己放電不良等が生じることを抑制することができる。
【0035】
本実施形態の接合方法によれば、更に、ワブリング溶接によりセパレータ10の溶融を抑制できるため、電極箔9と集電板4との距離を短縮できる。したがって、ケーシング2の大きさを一定とした場合、電極箔9とセパレータ10との積層部分の面積をより広くすることができるため、蓄電デバイス1としてより大きな容量を確保することが可能となる。
【0036】
本実施形態では、更に、突出部11に平坦部24を形成して、この平坦部24に集電板4をワブリング溶接している。この場合、突出部11と集電板4との接触面積を増大することができるので、より容易に溶接強度を得ることが可能となる。
【0037】
本実施形態の負極突出部11Nと負極集電板4Nとは、1000℃以上の融点を有し、且つレーザー光の反射率の高い金属である銅により形成されている。このような1000℃以上の融点を有する金属は、直線状にレーザー溶接を行おうとすると入熱が安定せずに、十分な溶接強度が得られない場合がある。しかし、本実施形態の接合方法では、ワブリング溶接により負極突出部11Nと負極集電板4Nとを溶接しているため、レーザー溶接による負極集電板4Nへの入熱量が過大になることを抑制でき、安定した溶接を行うことが可能となる。
【0038】
本実施形態では、溶接始点から溶接終点に向かってレーザー光の出力を漸次減少させている。この場合、集電板4への入熱がなされていない溶接初期には、相対的に高いレーザー出力により迅速に入熱することができる。また、集電板4への入熱が進むにつれてレーザー出力を漸次減少させることができるため、集電板4への入熱が過大になることを抑制できる。したがって、スパッタが発生したりセパレータ10の溶融が発生したりすることを、より一層抑制できる。
【0039】
本実施形態では、レーザー光の出力を漸次線形に減少させている。したがって、レーザー光の出力制御が複雑化せずに、容易にワブリング溶接を行うことができる。
【0040】
本実施形態では、溶接進行方向と交差する方向に振幅を有したサインカーブ状にレーザー光を照射してワブリング溶接を行っている。この場合、レーザー光の照射軌跡(言い換えれば、サインカーブ状の溶接痕Sc)が交差したり角部を形成したりしない。したがって、レーザー光照射による入熱が特定の箇所に集中することを抑制できる。
【0041】
本実施形態では、電極箔9のアルミニウム層12および銅層14の厚さが6~20μm、集電板4の厚さが0.3~1.0mmである場合に、これら電極箔9と集電板4とをワブリング溶接により接合している。したがって、このように集電板4の厚さに対して電極箔9のアルミニウム層12および銅層14の厚さが極めて小さい場合であっても、必要な溶接強度を確保して蓄電デバイス1の信頼性を向上することが可能となる。
【0042】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
上述した実施形態では、サインカーブ状の溶接痕Scを含むワブリング溶接痕40を形成する場合について説明した。しかし、ワブリング溶接痕40は、サインカーブ状の溶接痕Scを含む場合に限られない。ワブリング溶接痕40に含まれる溶接痕としては、例えば、円形や算用数字の8の字等の形状であってもよい。また、上記溶接痕としては、サインカーブ、円形、及び算用数字の8の字等、ワブリング溶接で使用可能な複数の形状を組み合わせてもよい。
【0043】
上述した実施形態では、正極突出部11Pと正極集電板4Pとをワブリング溶接するとともに、負極突出部11Nと負極集電板4Nとをワブリング溶接する場合について説明したが、例えば、正極突出部11Pと正極集電板4Pとをワブリング溶接以外の他の溶接により接合し、負極突出部11Nと負極集電板4Nとをワブリング溶接により接合するようにしてもよい。
【0044】
上述した実施形態では、負極突出部11Nと負極集電板4Nとが銅により形成される場合について説明した。しかし、負極突出部11Nと負極集電板4Nとは、1000℃以上の融点を有した材料であればよく、銅に限られない。さらに、正極突出部11Pと正極集電板4Pとを、アルミニウム合金により形成する場合について説明したが、1000℃以上の融点を有した、例えば、銅等の材料で形成するようにしてもよい。
【0045】
上述した実施形態では、突出部11に平坦部24を形成する場合について説明したが、例えば、
図12に示す第一変形例のように、突出部11の平坦部24を省略して、中心軸方向Daに延びる突出部11の端縁に集電板4の内側面27を突き当てて溶接部26を介して突出部11を集電板4に固定するようにしてもよい。
【0046】
上述した実施形態では、集電板4の外側面28に第一ワブリング溶接痕40Lと第二ワブリング溶接痕40Sとが形成されている場合について説明した。しかし、例えば、
図13に示す第二変形例のように、第二ワブリング溶接痕40Sを省略して、第一ワブリング溶接痕40Lのみを設けるようにしてもよい。また、ワブリング溶接痕40の径方向Drにおける長さは、上述した実施形態の長さに限られず、適宜変更してもよい。
【0047】
上述した実施形態では、複数の電極箔9と複数のセパレータ10とが交互に積層された後に、渦巻状に巻いて素子3を円筒状に形成する場合について説明したが、渦巻状に巻かれていない素子3に対しても本開示の接合方法は適用可能である。
【0048】
上述した実施形態では、蓄電デバイス1としてリチウムイオンキャパシタを一例にして説明したが、リチウムイオンキャパシタとは異なる他のキャパシタや二次電池であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…蓄電デバイス 2…ケーシング 3…素子 4…集電板 5…端子板 6…電解液 7…収容空間 8…開口部 9…電極箔 9P…正極箔 9N…負極箔 10…セパレータ 11…突出部 11P…正極突出部 11N…負極突出部 12…アルミニウム層 13…正極炭素材層 14…銅層 15…負極炭素材層 16,17,20…短辺 18,19,21…長辺 22…正極シート 23…負極シート 24…平坦部 25…端部 26…溶接部 27…内側面 28…外側面 29…凸部 30…貫通孔 31…空洞部 35…端子板本体 36…圧力調整弁 37…封口ゴム 40…ワブリング溶接痕 41…溝部 R…ローラー T…粘着テープ Sc…溶接痕