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  • 特開-鋼板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189053
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20221215BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20221215BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C21D9/46 S
C21D9/46 F
C21D9/46 J
C22C38/58
C22C38/00 301W
C22C38/00 301T
C22C38/00 301U
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097399
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】原田 寛
(72)【発明者】
【氏名】山田 健二
(72)【発明者】
【氏名】阪本 真士
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA22
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FC03
4K037FE02
4K037FG00
4K037GA05
(57)【要約】
【課題】一般的なスラブ厚み(厚さ150mm以上)を持つ連続鋳造で製造されるスラブにおいて長時間熱処理することなくミクロ偏析を改善することのできる、鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】連続鋳造により製造された厚さ150mm以上のスラブを、分塊圧延した後に、加熱を施し熱延して鋼板を製造するにあたり、分塊圧延時の総圧下率Rが15%以上50%未満で、熱延前加熱において、スラブの1/4厚み部の温度Tが1150℃以上1300℃以下の温度範囲で、所定の前記総圧下率Rと所定の前記温度Tの範囲内において所定の加熱時間を確保して熱延前加熱を行うことを特徴とする鋼板の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造により製造された厚さ150mm以上のスラブを、分塊圧延した後に、加熱を施し熱延して鋼板を製造するにあたり、分塊圧延時の総圧下率Rと、熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tに基づいて、前記熱延前加熱時の当該温度Tを含む温度範囲での加熱時間を決定することを特徴とする鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記分塊圧延時の総圧下率Rと、前記熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tと、前記熱延前加熱時の当該温度Tを含む温度範囲での加熱時間との関係が、前記温度Tのうちの最高加熱温度Tmaxを1300℃以下とするとともに、下記(A)、(B)、(C)のいずれか1つ以上を満たすことを特徴とする請求項1に記載の鋼板の製造方法。
(A)前記分塊圧延時の総圧下率Rが15%以上50%未満で、かつ、
前記温度Tが1150℃以上1300℃以下の温度範囲で1.5時間以上2.0時間以下の加熱を行う。
(B)前記総圧下率Rが20%以上50%未満で、かつ、
前記温度Tが1200℃以上1300℃以下の温度範囲で1.0時間超2.0時間以下の加熱を行う。
(C)前記総圧下率Rが25%以上50%未満で、かつ、
前記温度Tが1260℃以上1300℃以下の温度範囲で0.5時間以上2.0時間以下の加熱を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含有成分のミクロ偏析の少ない鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車用鋼板は軽量化のため、高強度化が求められており、また高張力鋼板において、耐衝撃特性をさらに向上させる要求が高まっている。また、自動車などに用いられる高張力鋼板においては、複雑な部品形状を得るために、延性、穴拡げ性といった成形性も必要とされている。特許文献1には、優れた成形性および耐衝撃特性が得られる高強度鋼板および高強度亜鉛めっき鋼板が開示されている。
【0003】
高張力鋼板として、多量のC、Si、Mnなどの合金が添加された高張力鋼板が開発されている。このような高張力鋼板では、成分の高合金化に伴い、偏析起因による材質特性の低下が課題となっている。特に、スラブの中間部(厚みtのスラブの1/4t部付近)に形成されるスラブ中のミクロ偏析が起因となって、鋼板断面にバンド上組織が形成され、このバンド状組織によって組織が不均一となり、鋼板の特性が低下する原因となっていた。めっき鋼板においても、鋼板成分のミクロ偏析に起因してめっき筋模様が生じることがある。
【0004】
特許文献2においては、厚み200mm程度の連続鋳造鋳片から製造する通常の場合には、鋳造中の平均冷却速度が低速であるため、スラブの厚み中間部におけるMnのミクロ偏析が大きいものであったとして、連続鋳造で鋳造するスラブの厚さを100~30mmと薄くすることにより、鋳造時の冷却速度を高速化し、Mnのミクロ偏析を改善している。しかし、一般的な連続鋳造のスラブ厚みは200mm~600mm程度であることから、これら薄肉スラブを鋳造する場合に得られる、凝固時の冷却速度を速める効果を得ることはできない。
【0005】
また、スラブのミクロ偏析の拡散を促進させるために、スラブを高温かつ長時間の熱処理を行う方法もある。しかしこの方法は、スケール生成による歩留まり落ちや、スケール起因の表面欠陥、加熱コスト増、低生産性のため好ましくない。
【0006】
スラブを所定の圧下率で分塊圧延し、その後にスラブを加熱保持することにより、スラブの偏析を低減する方法が知られている。例えば特許文献3においては、スラブを断面減少率20%以上の一次熱間加工を行い、その後1000~1300℃範囲内の所定の温度かつ所定の時間内において再加熱を行う方法が開示されている。これによりスラブの厚み中央部の中心偏析を改善し、鋼板を溶接したときの熱影響部(HAZ)の割れを低減できるとしている。対象は厚板向け鋼板である。しかし、薄鋼板においてこの方法を適用しても、鋼板の1/4t部付近に形成されるミクロ偏析によってもたらされるバンド状組織の不均一に起因する鋼板の特性低下を改善するには至らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2017/164346号
【特許文献2】特開2007-070659号公報
【特許文献3】特開昭57-120614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、一般的なスラブ厚み(厚さ150mm以上)を持つ連続鋳造で製造されるスラブにおいて長時間熱処理することなくミクロ偏析を改善することのできる、鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]連続鋳造により製造された厚さ150mm以上のスラブを、分塊圧延した後に、加熱を施し熱延して鋼板を製造するにあたり、分塊圧延時の総圧下率Rと、熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tに基づいて、前記熱延前加熱時の当該温度Tを含む温度範囲での加熱時間を決定することを特徴とする鋼板の製造方法。
[2]前記分塊圧延時の総圧下率Rと、前記熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tと、前記熱延前加熱時の当該温度Tを含む温度範囲での加熱時間との関係が、前記温度Tのうちの最高加熱温度Tmaxを1300℃以下とするとともに、下記(A)、(B)、(C)のいずれか1つ以上を満たすことを特徴とする請求項1に記載の鋼板の製造方法。
(A)前記分塊圧延時の総圧下率Rが15%以上50%未満で、かつ、
前記温度Tが1150℃以上1300℃以下の温度範囲で1.5時間以上2.0時間以下の加熱を行う。
(B)前記総圧下率Rが20%以上50%未満で、かつ、
前記温度Tが1200℃以上1300℃以下の温度範囲で1.0時間超2.0時間以下の加熱を行う。
(C)前記総圧下率Rが25%以上50%未満で、かつ、
前記温度Tが1260℃以上1300℃以下の温度範囲で0.5時間以上2.0時間以下の加熱を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、一般的なスラブ厚み(厚さ150mm以上)を持つ連続鋳造で製造されるスラブであっても、長時間熱処理することなくミクロ偏析を改善する、鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スラブへの分塊圧延有無と、その後の1200℃熱処理時間とがMn偏析度に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、熱延前加熱時のスラブの温度については、熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tとして定める。スラブの1/4厚み部の温度Tを評価することにより、鋼板の1/4t部付近に形成されるミクロ偏析の挙動について正確に評価することができる。熱延前加熱において通常に用いられる加熱温度(加熱炉均熱帯における炉内温度)に比較して、上記温度Tはすぐさま加熱温度にはならず、時間をかけて加熱温度に加熱される。スラブ厚みや加熱条件によって温度Tの熱履歴は変わるが、温度Tは、伝熱シミュレーションで求めることができる。
【0013】
厚みが200mm、主要成分組成が0.20%C-2.60%Mnである連続鋳造スラブを対象として、分塊圧延で総圧下率40.8%で圧延した。分塊圧延後の鋳片サンプル、及び分塊圧延を行わなかった鋳片サンプル(いずれも25mm長さ×25mm幅×全厚)を試験加熱炉に装入し、鋳片サンプルの1/4厚み部の温度Tが1200℃となるように加熱し、試験加熱炉内における当該温度付近でのスラブの滞在時間(熱処理時間)を0時間(加熱なし)、1~20時間としたときの、加熱終了後鋳片サンプルのMnミクロ偏析挙動を評価した。鋳片サンプルの厚み1/4t部について、測定領域3mm長さ×3mm厚さ部分を評価面として、EPMA(ビーム径5μm)で成分分析を行った。EPMAでのMn分析値を試料の平均Mn濃度で除した値をもってMn偏析度とし、Mn偏析度が1.1以上となる領域の面積率を評価した。
【0014】
結果を図1に示す。熱処理時間1時間において、分塊圧延なしに比較して分塊圧延を行うことによってMn偏析度が顕著に低減していることがわかった。ミクロ偏析の挙動を評価する検査断面として、鋳造方向に垂直な断面(C断面)であっても、鋳片幅方向に垂直な断面(L断面)のいずれを用いても同じ結果が得られた。このことから、圧下を受けた組織は短時間・低温の加熱でもMnが十分に拡散しミクロ偏析が低減することがわかった。加えて、導入されたひずみを介した高速拡散が生じていると考えられる。よって、鋳造後スラブを熱延の加熱前に分塊圧延することで、熱延前に高温・長時間の加熱をしなくてもミクロ偏析を低減することができる本発明に至った。
【0015】
次に、厚さ280mm、成分組成が0.18%C-2.6%Mn鋼である連続鋳造スラブを用い、分塊圧延の総圧下率を15%以上50%未満として分塊圧延を行い、その後に熱延前加熱を施し、熱間圧延で鋼板の製造を行った。熱延前加熱条件として、熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tが1150~1300℃の範囲の種々の温度となるように調整し、当該温度T付近での加熱時間を0.5~2時間の範囲で種々変更した。加熱後の鋳片について熱間圧延を行い、板厚2.0mmの鋼板とした。EPMA分析(ビーム径1μm)により、鋼板の1/4t部のMn濃度分布を測定してMn濃度分布の標準偏差σ(質量%)を算出し、当該σを鋼板のMn濃度(質量%)で除した値をミクロ偏析指数(「σ/Mn」と表記)とした。σ/Mnの値が0.10以下であればミクロ偏析状況が良好であるとした。
【0016】
その結果、下記(A)、(B)、(C)のいずれか1つ以上の条件を満たすように分塊圧延と熱延前加熱を行えば、熱延後の鋼板のσ/Mnの値が0.10以下となることがわかった。
(A)分塊圧延時の総圧下率Rが15%以上50%未満で、かつ、
熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tが1150℃以上1300℃以下の温度範囲で1.5時間以上2.0時間以下の加熱を行う。
(B)前記総圧下率Rが20%以上50%未満で、かつ、
前記温度Tが1200℃以上1300℃以下の温度範囲で1.0時間超2.0時間以下の加熱を行う。
(C)前記総圧下率Rが25%以上50%未満で、かつ、
前記温度Tが1260℃以上1300℃以下の温度範囲で0.5時間以上2.0時間以下の加熱を行う。
【0017】
分塊圧延は、連続鋳造が完了して切断後に鋳片とした上で実施する。連続鋳造後に再加熱を行わずに分塊圧延を行っても良く、あるいは再加熱後に分塊圧延を行っても良い。再加熱を行う場合、再加熱温度は800℃以上1200℃以下の温度範囲とすると好ましい。800℃未満であれば分塊圧延時の負荷が増えることに加え、割れなどが発生する。1200℃超では、スケール生成による歩留まり落ちや、スケール起因の表面欠陥、加熱コスト増、低生産性のため好ましくない。
【0018】
なお、分塊圧延の総圧下率が15%未満の場合は、分塊圧延後のスラブにおいて偏析間隔が細かくなっておらず、Mnの拡散に影響しない。また総圧下率が50%以上となると、分塊圧延時の負荷が高く生産性を落とす必要が生じる。また、その後の熱延工程での粗圧延時の圧下比が取れず、材質不良が起きる。
【0019】
熱延前加熱において、前記温度Tのうちの最高加熱温度Tmaxには下限と上限が存する。最高加熱温度Tmaxが1150℃未満であると、前記(A)~(C)の条件を達することができず、十分なMnの拡散が生じない。最高加熱温度Tmaxが1300℃を超えると、スケール成長による表面疵に繋がる。
【0020】
熱延前加熱において、加熱時間が2時間を超えると熱延の生産量が下がりコスト増加を招く。
【0021】
上記本発明により、鋼板の1/4t部のMnのミクロ偏析指数σ/Mnの値が0.10以下となるので、鋼板使用時における、ミクロ偏析起因の表面欠陥を防止することができる。
【0022】
本発明において連続鋳造する際には、中心偏析対策用として軽圧下セグメントを用いると好ましい。これにより、鋼板の1/4t部のMnのミクロ偏析のみならず、1/2t部の中心偏析をも改善することができる。
【0023】
本発明の鋼板は、鋼板の1/4t部のMnのミクロ偏析が改善されているので、鋼板の伸びと穴拡げ性を向上することができる。また、プレス成形時の表面欠陥を抑えることができる。鋼板にめっき処理を施しためっき鋼板においても、ミクロ偏析起因の表面欠陥を抑えることができる。
【0024】
本発明は、高張力薄鋼板において特に優れた効果を発揮することができる。高張力鋼板とは、引張強度が340MPa以上の鋼板を意味する。また、薄鋼板とは、連続熱延及び必要に応じて冷間圧延を経て製造される鋼板またはさらにめっき処理を施した鋼板を意味する。
【0025】
本発明の鋼板の製造方法が対象とする鋼板の成分組成については特に限定するものではなく、すべての鋼板において適用することができる。好ましくは、質量%で、C:0.075~0.400%、Si:0.01~2.50%、Mn:0.50~3.50%、P:0.1000%以下、S:0.0100%以下、Al:2.000%以下、N:0.0100%以下、O:0.0100%以下、Ti:0.000~0.200%、Nb:0.000~0.100%、V:0.000~0.500%、Zr:0.000~0.100%、Cr:0.00~2.00%、Ni:0.00~2.00%、Cu:0.00~2.00%、Mo:0.00~1.00%、B:0.0000~0.0100%、W:0.00~2.00%、Ca:0.0000~0.0100%、Mg:0.0000~0.0100%、REM(Sc、Y及び原子番号57から71の元素)中の1種または2種以上:合計で0.0000~0.0100%、残部:Feおよび不純物からなる成分組成の鋼板において用いることができる。成分組成範囲の下限がゼロである元素は、選択成分であることを意味する。
【実施例0026】
試験は表1に示す鋼種成分を有し、表2に示すスラブ厚のスラブを連続鋳造で製造した。表2において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
連続鋳造条件は、例えばスラブ厚みが280mmの場合、スラブ幅が1600mm、鋳造速度が1.2m/minであった。表2の参考例18を除き、スラブは熱延前に分塊圧延を用いて表2に示す総圧下率Rで分塊圧延した。連続鋳造で鋳造した鋳片を凝固後に切断しそのまま、もしくは再加熱後に分塊圧延を行った。分塊圧延前のスラブ表面温度は900~1150℃であった。分塊圧延の後に、熱延前加熱炉へと搬送した。
【0030】
熱延前加熱炉において、スラブの1/4厚み部の温度Tについて種々の温度パターンで加熱を行った。熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tは、伝熱シミュレーションによって求めた。表2の「熱延前加熱」の欄の「最高加熱温度Tmax」には、熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tのうちの最高温度の値を示した。また、「熱延前加熱」の欄の「各領域加熱時間」欄には、分塊圧延時の総圧下率Rが15%以上50%未満の場合、熱延前加熱時のスラブの1/4厚み部の温度Tが1150℃以上1300℃以下の温度範囲での加熱時間を(A)欄に記載した。総圧下率Rが20%以上50%未満の場合、温度Tが1200℃以上1300℃以下の温度範囲での加熱時間を(B)欄に記載した。総圧下率Rが25%以上50%未満の場合、温度Tが1260℃以上1300℃以下の温度範囲での加熱時間を(C)欄に記載した。
【0031】
上記熱延前加熱の後、熱間圧延を行った。熱間圧延は、仕上げ温度を850℃、巻取り温度600℃とし、2.0mmtまで熱延された。得られた鋼板は、引張強度が590MPa以上の高張力鋼板となる。
【0032】
鋼板のミクロ偏析状態について、EPMAを用いて調査した。測定は鋼板の幅中央、圧延方向に平行かつ鋼板幅方向に垂直な断面の板厚1/4部における500μm×500μmの領域のMn濃度分布をビーム径1μmで測定した。得られたMn濃度分布の標準偏差σ(質量%)を鋼材のMn濃度(質量%)で除した値をミクロ偏析指標(σ/Mn)とした。
【0033】
本発明例(試験番号1~8)は、熱延前に行った分塊圧延時の総圧下率Rとスラブ1/4厚部における温度Tとの関係が前記(A)~(C)の1つ以上の条件を満たしている。これら条件で製造された熱延鋼板のミクロ偏析の指標σ/Mnは全て0.10以下であった。
【0034】
一方、比較例である試験番号9(総圧下率R:15%)、試験番号13(R:18%)は領域(A)での加熱時間が不足し、試験番号10、14(いずれもR:20%)は領域(A)(B)いずれも加熱時間が不足し、試験番号11(R:25%)は領域(A)(B)(C)いずれも加熱時間が不足し、ミクロ偏析の低減が不十分であった。
【0035】
試験番号12は分塊の総圧下率Rが不足し、ミクロ偏析の低減が不十分であった。
【0036】
試験番号15はミクロ偏析の低減ができたが、分塊の総圧下率Rが55%と高く、分塊圧延時の負荷が高く生産性を落とす必要があった。試験番号16はミクロ偏析の低減はできたが、最高加熱温度Tmaxが1310℃と高く、スケール起因の表面欠陥が生じた。
【0037】
試験番号17は140mm厚のスラブを用いた。総圧下率R:15%で分塊圧延したところ、分塊圧延後のスラブ厚が119mmと薄く、熱延加熱炉のスキッド間でスラブ垂れによるスラブ形状の変形が生じたころから、熱延することができなかった。スキッド間を狭くするなどの対応はできるが、設備費増に加えて、スキッドマーク(スキッドが接したスラブ部分が冷えること)が多くなる等の影響があることから望ましくない。
【0038】
参考例として、試験番号18は分塊圧延を用いずに、熱延前加熱で1260℃での加熱時間を2.3時間と長時間にした条件である。この条件であれば偏析指標を0.10以下にすることはできるものの、長時間加熱は熱延の生産性悪化やスケール性欠陥発生などを引き起こすことから、製造コストの増大を招く。
【0039】
本発明例(試験番号1~8)で製造した鋼板をプレス成形処理したところ、鋼板のミクロ偏析に起因する表面欠陥の発生を抑えることができた。これはミクロ偏析の低減が鋼板内部組織の均一化に繋がり、プレス成形処理による変形が均一にできたためと考えられる。また、鋼板の伸びおよび穴拡げ性を改善することができた。
【0040】
従来の高延性鋼板を用いためっき鋼板においては、鋼板中のMnミクロ偏析に起因する濃度むらによってめっきの合金加速度が異なり、めっき表面に筋状の模様が形成されるめっき筋模様が生じることがあった。本発明例(試験番号1~8)で製造した鋼板にめっきを施してめっき鋼板としたところ、鋼板のミクロ偏析に起因するめっき筋模様を解消することができた。
図1