(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189062
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20221215BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
F16H25/22 Z
F16H25/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097410
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 諒
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA02
3J062AA17
3J062AA22
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA11
3J062CD04
3J062CD23
3J062CD45
3J062CD64
(57)【要約】
【課題】直線運動要素であるねじ軸の回り止めを低コストで実現できる、ボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ねじ軸2の係合軸部10を、外周面に互いに平行な1対の平坦外面13を備えた二面幅形状を有するものとし、回り止め部材6の係合孔31を、内周面に互いに平行な1対の平坦内面32を有する二面幅形状を有するものとする。そして、係合軸部10に対して、回り止め部材6の係合孔31を相対回転不能に係合させる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ部と、係合軸部とを有し、使用時に直線運動する、ねじ軸と、
内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有し、使用時に回転運動する、ナットと、
前記軸側ボールねじ溝と前記ナット側ボールねじ溝との間に配置された、複数のボールと、
前記ねじ軸を軸方向に挿通可能な挿通孔を有する、ハウジングと、
前記係合軸部に対して相対回転不能に固定され、前記ハウジングに対する前記ねじ軸の相対回転を阻止する、回り止め部材と、を備え、
前記係合軸部は、非円形軸部であり、外周面に少なくとも1つの平坦外面と少なくとも1つの部分円筒面とを有し、
前記挿通孔は、内周面に、前記回り止め部材と円周方向に係合可能で、かつ、軸方向に伸長した案内凹溝を有し、
前記回り止め部材は、前記係合軸部と円周方向に係合可能な非円形孔で、内周面に少なくとも1つの平坦内面と少なくとも1つの部分円筒面とを備えた係合孔を有し、かつ、前記案内凹溝の内側に軸方向に摺動可能に配置された係合凸部を有する、
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記係合軸部は、外周面に互いに平行な1対の平坦外面と1対の部分円筒面とを備えた二面幅形状を有し、
前記係合孔は、内周面に互いに平行な1対の平坦内面と1対の部分円筒面とを備えた二面幅形状を有する、
請求項1に記載したボールねじ装置。
【請求項3】
前記係合軸部は、断面D字形状で、外周面に1つの平坦外面と1つの部分円筒面とを有し、
前記係合孔は、断面D字形状で、内周面に1つの平坦内面と1つの部分円筒面とを有する、
請求項1に記載したボールねじ装置。
【請求項4】
前記回り止め部材が前記ねじ軸に対して軸方向に変位するのを防止するための変位規制部材を備える、請求項1~3のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【請求項5】
前記変位規制部材が、前記ねじ軸に係止した止め輪である、請求項4に記載したボールねじ装置。
【請求項6】
前記変位規制部材が、前記ねじ軸に螺合した止めナットである、請求項4に記載したボールねじ装置。
【請求項7】
前記ナットは、軸方向に突出した回転側係合部を有し、
前記回り止め部材は、前記回転側係合部と円周方向に係合可能な非回転側係合部を有する、
請求項1~6のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【請求項8】
前記挿通孔は、前記案内凹溝を複数有しており、
前記回り止め部材は、前記係合凸部を前記案内凹溝と同数有している、
請求項1~7のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットとの間でボールを転がり運動させるため、ねじ軸とナットとを直接接触させる滑りねじ装置に比べて、高い効率が得られる。このため、ボールねじ装置は、たとえば電動モータ等の駆動源の回転運動を直線運動に変換するために、自動車の電動ブレーキ装置やオートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、工作機械の位置決め装置等、各種機械装置に組み込まれている。
【0003】
ボールねじ装置は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有するナットと、軸側ボールねじ溝とナット側ボールねじ溝との間に配置された複数のボールとを有する。ボールねじ装置は、用途に応じて、ねじ軸とナットとのうちの一方を回転運動要素とし、ねじ軸とナットとのうちの他方を直線運動要素として用いられる。
【0004】
ボールねじ装置においては、直線運動要素が回転運動要素と供回りすることを防止するために、直線運動要素の回転を阻止することが行われている。
図27及び
図28は、特開2016-53417号公報(特許文献1)に記載された、直線運動要素の回転を阻止する構造を備えた従来構造のボールねじ装置100を示している。
【0005】
ボールねじ装置100は、ねじ軸101と、ナット102と、複数のボール103と、ハウジング104と、回り止め部材105とを備える。
【0006】
ねじ軸101は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝106を有しており、使用時に直線運動する。このため、ねじ軸101は、直線運動要素であり、後述するようにハウジング104に対する相対回転が阻止されている。
【0007】
ナット102は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝107を有しており、使用時に回転運動する。このため、ナット102は、回転運動要素であり、1対の転がり軸受108a、108bによりハウジング104の内側に回転自在に支持されている。ナット102には、駆動歯車109が外嵌固定されている。駆動歯車109には、電動モータ110の出力軸に備えられた図示しない出力歯車が噛合している。したがって、ナット102は、電動モータ110への通電に基づいて回転駆動される。
【0008】
ねじ軸101は、ナット102の内側に挿通され、ナット102と同軸に配置されている。軸側ボールねじ溝106とナット側ボールねじ溝107とは、径方向に互いに対向するように配置され、螺旋状の負荷路111を構成している。
【0009】
負荷路111の始点と終点とは、ナット102の内周面に形成された循環溝112により接続されている。負荷路111の終点にまで達したボール103は、循環溝112を介して、負荷路111の始点にまで戻される。なお、負荷路111の始点と終点とは、ねじ軸101とナット102との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)に応じて入れ替わる。
【0010】
ハウジング104は、ねじ軸101を軸方向に挿通可能な挿通孔113を有する。挿通孔113は、内周面の径方向反対側2個所に、軸方向に伸長した案内凹溝114を有する。
【0011】
回り止め部材105は、円環形状を有するボス部115と、ボス部115の外周面から径方向に突出した1対の係合凸部116とを有する。ボス部115は、中心部に軸方向に貫通した嵌合孔117を有する。嵌合孔117は、内周面に雌スプライン歯118が全周にわたり形成されている。
【0012】
回り止め部材105は、ボス部115をねじ軸101に対して外嵌し、嵌合孔117の内周面に形成された雌スプライン歯118を、ねじ軸101の外周面に形成された雄スプライン歯119に対して係合させることで、ねじ軸101に対して相対回転不能に固定されている。
【0013】
また、回り止め部材105は、1対の係合凸部116を、ハウジング104の内周面に備えられた1対の案内凹溝114の内側に配置している。これにより、係合凸部116を、案内凹溝114に対して軸方向に摺動可能に係合させている。このような構成により、ねじ軸101が、ハウジング104に対して相対回転することを阻止し、ねじ軸101の直線運動を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特開2016-53417号公報に記載された従来構造のボールねじ装置100においては、嵌合孔117の内周面に形成された雌スプライン歯118を、ねじ軸101の外周面に形成された雄スプライン歯119に対してスプライン係合している。このため、嵌合孔117の内周面及びねじ軸101の外周面に、スプライン歯を形成するためのスプライン加工や研削加工を施す必要がある。したがって、ボールねじ装置100の製造コストが嵩みやすくなる。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、直線運動要素であるねじ軸の回り止めを低コストで実現できる、ボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールと、ハウジングと、回り止め部材とを備える。
前記ねじ軸は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ部と、係合軸部とを有し、使用時に直線運動する。
前記ナットは、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有し、使用時に回転運動する。
前記複数のボールは、前記軸側ボールねじ溝と前記ナット側ボールねじ溝との間に配置される。
前記ハウジングは、前記ねじ軸を軸方向に挿通可能な挿通孔を有する。
前記回り止め部材は、前記係合軸部に対して相対回転不能に固定され、前記ハウジングに対する前記ねじ軸の相対回転を阻止する。
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記係合軸部は、非円形軸部であり、外周面に少なくとも1つの平坦外面と少なくとも1つの部分円筒面とを有する。
前記挿通孔は、内周面に、前記回り止め部材と円周方向に係合可能で、かつ、軸方向に伸長した案内凹溝を有する。
前記回り止め部材は、前記係合軸部と円周方向に係合可能な非円形孔で、内周面に少なくとも1つの平坦内面と少なくとも1つの部分円筒面とを備えた係合孔を有し、かつ、前記案内凹溝の内側に軸方向に摺動可能に配置された係合凸部を有する。
【0018】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記係合軸部を、外周面に互いに平行な1対の平坦外面と1対の部分円筒面とを備えた二面幅形状を有するものとし、前記係合孔を、内周面に互いに平行な1対の平坦内面と1対の部分円筒面とを備えた二面幅形状を有するものとすることができる。
あるいは、前記係合軸部を、断面D字形状で、外周面に1つの平坦外面と1つの部分円筒面とを有するものとし、前記係合孔を、断面D字形状で、内周面に1つの平坦内面と1つの部分円筒面とを有するものとすることができる。
【0019】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記回り止め部材が前記ねじ軸に対して軸方向に変位するのを防止するための、変位規制部材を備えることができる。
この場合には、前記変位規制部材を、前記ねじ軸に係止した止め輪とすることができる。
あるいは、前記変位規制部材を、前記ねじ軸に螺合した止めナットとすることができる。
【0020】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記ナットを、軸方向に突出した回転側係合部を有するものとし、前記回り止め部材を、前記回転側係合部と円周方向に係合可能な非回転側係合部を有するものとすることができる。
【0021】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記挿通孔を、複数の前記案内凹溝を有するものとし、前記回り止め部材を、前記案内凹溝と同数の前記係合凸部を有するものとすることができる。
【0022】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記回り止め部材を、前記係合軸部を径方向両側から挟持する二つ割れの半体である第1回り止め片及び第2回り止め片を含んで構成することができる。
この場合には、前記第1回り止め片及び前記第2回り止め片の接合面と、前記1対の平坦内面とを、平行又は直交する方向に配置することができる。
また、この場合には、前記係合凸部を、前記第1回り止め片に備えられた第1係合片と、前記第2回り止め片に備えられた第2係合片との組み合わせにより構成することができる。
また、この場合には、前記回り止め部材を、前記第1回り止め片と前記第2回り止め片とを連結する、連結環、連結ボルト、連結ピン等の連結部材を有するものとすることができる。あるいは、前記第1回り止め片と前記第2回り止め片とを、接着剤により結合することもできる。
あるいは、本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記第1回り止め片に備えられた前記第1係合片と前記第2回り止め片に備えられた前記第2係合片とからなる前記係合凸部を、前記案内凹溝の内側にがたつきなく配置することで、前記第1回り止め片と前記第2回り止め片との分離防止を図ることもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のボールねじ装置によれば、直線運動要素であるねじ軸の回り止めを、低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を軸方向他方側から見た図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を、ハウジングを省略して示す斜視図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を、ハウジングを省略し、軸方向一方側から見た図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を、ハウジングを省略して示す分解斜視図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を、ハウジングを省略して示す断面図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置から回り止め部材を取り出し、軸方向一方側から見た斜視図である。
【
図11】
図11は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置から回り止め部材を取り出し、軸方向他方側から見た斜視図である。
【
図18】
図18は、実施の形態の第2例かかるボールねじ装置から回り止め部材を取り出し、軸方向一方側から見た分解斜視図である。
【
図19】
図19は、実施の形態の第2例かかるボールねじ装置から回り止め部材を取り出し、軸方向他方側から見た分解斜視図である。
【
図27】
図27は、従来構造のボールねじ装置を示す断面図である。
【
図28】
図28は、従来構造のボールねじ装置から回り止め部材を取り出して示す斜視図である。
【0025】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図11を用いて説明する。
【0026】
〔ボールねじ装置の全体構成〕
本例のボールねじ装置1は、たとえば電動ブレーキブースター装置に組み込まれ、駆動源である図示しない電動モータの回転運動を直線運動に変換し、ピストン24を動作させる等の用途で使用される。
【0027】
ボールねじ装置1は、ねじ軸2と、ナット3と、複数のボール4と、ハウジング5と、回り止め部材6とを備える。
【0028】
ねじ軸2は、回り止め部材6により、ハウジング5に対する相対回転が阻止されており、ハウジング5に備えられた挿通孔7の内側を直線運動する、直線運動要素である。ねじ軸2は、ナット3の内側に挿通され、ナット3と同軸に配置されている。ナット3は、図示しない電動モータにより回転駆動され、使用時に回転運動する回転運動要素である。このため、本例のボールねじ装置1は、ナット3を回転駆動し、ねじ軸2を直線運動させる態様で使用する。
【0029】
ねじ軸2の外周面とナット3の内周面との間には、螺旋状の負荷路8が備えられている。負荷路8には、複数のボール4が転動可能に配置されている。ねじ軸2とナット3とを相対回転させると、負荷路8の終点に達したボール4は、ナット3の内周面に形成された図示しない循環溝を通じて、負荷路8の始点へと戻される。以下、ボールねじ装置1の各構成部品の構造について説明する。
以下の説明において、軸方向、径方向及び円周方向とは、特に断らない限り、ねじ軸2に関する軸方向、径方向及び円周方向をいう。また、軸方向一方側とは、
図1、
図3~
図5、
図7及び
図8の右側を指し、軸方向他方側とは、
図1、
図3~
図5、
図7及び
図8の左側を指す。
【0030】
〈ねじ軸〉
ねじ軸2は、金属製で、ねじ部9と係合軸部10とを有する。ねじ部9と係合軸部10とは、同軸に配置されており、一体に構成されている。
【0031】
ねじ部9は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝11を有する。軸側ボールねじ溝11は、ねじ部9の外周面に、研削加工(切削加工)又は転造加工を施すことにより形成されている。本例では、軸側ボールねじ溝11の条数を1条としている。軸側ボールねじ溝11の断面の溝形状(溝底形状)は、ゴシックアーチ溝又はサーキュラアーク溝である。
【0032】
係合軸部10は、ねじ部9の軸方向一方側に隣接配置されており、ねじ部9よりも小径である。すなわち、係合軸部10は、軸側ボールねじ溝11の溝底径よりも小さい外接円直径を有する。このため、ねじ軸2は、ねじ部9と係合軸部10との間に、軸方向一方側を向いた段差面12を有する。別の言い方をすれば、ねじ部9の軸方向一方側の側面を、段差面12としている。段差面12は、ねじ軸2の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面である。
【0033】
係合軸部10は、
図9に示すように、断面長円形(小判形)で、外周面に互いに平行な1対の平坦外面13を有する二面幅形状の非円形軸部である。1対の平坦外面13は、1対の部分円筒面14により接続されている。つまり、係合軸部10の外周面は、1対の平坦外面13と1対の部分円筒面14とにより構成されている。
【0034】
さらに、ねじ軸2は、係合軸部10の軸方向一方側に隣接配置された中径軸部15と、中径軸部15の軸方向一方側に隣接配置された小径軸部16とを備える。中径軸部15は、係合軸部10の外接円直径よりも小径であり、円筒面状の外周面を有する。また、小径軸部16は、中径軸部15よりも小径であり、円筒面状の外周面を有する。中径軸部15は、外周面の軸方向他方側の端部に、係止凹溝17を有する。係止凹溝17には、回り止め部材6が係合軸部10から軸方向一方側に抜け出ることを防止するための、止め輪30が係止される。
【0035】
ねじ軸2は、ねじ部9をナット3の内側に挿通した状態で、ナット3と同軸に配置されている。
【0036】
〈ナット〉
ナット3は、金属製で、全体が円筒状に構成されている。ナット3は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝18及び図示しない循環溝を有する。
【0037】
ナット側ボールねじ溝18は、螺旋形状を有しており、ナット3の内周面に、たとえば研削加工(切削加工)又は転造タップ加工(切削タップ加工)を施すことにより形成されている。ナット側ボールねじ溝18は、軸側ボールねじ溝11と同じリードを有する。このため、ねじ軸2のねじ部9をナット3の内側に挿通配置した状態で、軸側ボールねじ溝11とナット側ボールねじ溝18とは径方向に対向するように配置され、螺旋状の負荷路8を構成する。ナット側ボールねじ溝18の条数は、軸側ボールねじ溝11と同様に1条である。ナット側ボールねじ溝18の断面の溝形状も、軸側ボールねじ溝11と同様に、ゴシックアーチ溝又はサーキュラアーク溝である。
【0038】
循環溝は、略S字形状を有しており、ナット3の内周面に、たとえば鍛造加工(冷間鍛造加工)によって形成されている。循環溝は、ナット側ボールねじ溝18のうち、軸方向に隣り合う部分同士をなめらかに接続し、負荷路8の始点と終点とをつないでいる。このため、負荷路8の終点にまで達したボール4は、循環溝を通じて、負荷路8の始点にまで戻される。なお、負荷路8の始点と終点とは、ねじ軸2とナット3との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)に応じて入れ替わる。
【0039】
循環溝は、ボール4の直径よりもわずかに大きな溝幅を有し、循環溝を移動するボール4が、軸側ボールねじ溝11のねじ山を乗り越えることができる溝深さを有している。なお、本例のボールねじ装置1では、循環溝をナット3の内周面に直接形成しているが、循環溝をナットとは別体の循環部品(たとえばコマ)に形成し、該循環部品をナットに対して固定することもできる。
【0040】
本例のボールねじ装置1は、ナット3を回転運動要素として用いる。そこで、本例では、ナット3を、ハウジング5に固定される図示しない固定部材(たとえばモータハウジング)に対して、図示しない転がり軸受により回転自在に支持している。また、ナット3の周囲に電動モータを配置している。具体的には、ナット3の外周面にロータを外嵌固定し、かつ、ロータの周囲にステータを配置している。このため、本例では、ステータへの通電に基づいてロータを回転駆動することで、ナット3を回転駆動することが可能となる。
【0041】
ナット3は、軸方向一方側の端部に、回転側係合部19を有する。回転側係合部19は、ナット3の軸方向一方側の側面の円周方向一部に備えられており、軸方向一方側に向けて突出している。回転側係合部19は、扇柱形状を有している。回転側係合部19は、円周方向一方側(
図5の上側)の側面に、平坦面状の回転側ストッパ面20を備える。回転側ストッパ面20は、ナット3の中心軸と平行に配置されている。図示の例では、ナット3は、回転側係合部19を含め全体を一体に構成されているが、本発明を実施する場合には、ナットを、内周面にナット側ボールねじ溝を有する円筒部材と、別体に構成された回転側係合部とを結合固定することで構成することもできる。
【0042】
〈ボール〉
ボール4は、所定の直径を有する鋼球であり、負荷路8及び循環溝に転動可能に配置されている。負荷路8に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けながら転動するのに対し、循環溝に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けることなく、後続のボール4に押されて転動する。
【0043】
〈ハウジング〉
ハウジング5は、有底円筒形状を有しており、内部に、段付き孔である挿通孔7を備える。挿通孔7の中心軸は、ねじ軸2の中心軸と同軸に配置されている。
【0044】
挿通孔7は、軸方向他方側部(開口側)に大径孔部21を有し、軸方向一方側部(奥側)に小径孔部22を有する。大径孔部21は、ハウジング5の軸方向他方側の側面に開口している。これに対し、小径孔部22の軸方向一方側の端部は、底面23により塞がれている。小径孔部22の内側には、略円柱形状を有するピストン24が軸方向の移動を可能に嵌装されている。ピストン24と底面23との間には、図示しないコイルばねが配置されている。コイルばねは、ピストン24を軸方向他方側に向けて押圧し、ピストン24及びねじ軸2を所定の位置に(たとえば初期位置)に戻す機能を有する。
【0045】
大径孔部21は、内周面に、回り止め部材6を軸方向に摺動可能に係合させるための案内凹溝25a、25bを有する。案内凹溝25a、25bは、軸方向にそれぞれ伸長しており、大径孔部21の内周面の径方向反対側の2個所に備えられている。案内凹溝25a、25bは、大径孔部21の軸方向の全長にわたり備えられている。このため、案内凹溝25a、25bの軸方向他方側の端部は、ハウジング5の軸方向他方側の側面に開口している。
【0046】
案内凹溝25a、25bのそれぞれの中心軸は、挿通孔7の中心軸と平行に配置されている。案内凹溝25a、25bのそれぞれの軸方向寸法は、回り止め部材6を構成する後述の係合凸部28a、28bの軸方向寸法よりも十分に大きく、ねじ軸2及びピストン24に求められるストロークに応じて決定される。
【0047】
案内凹溝25a、25bは、回り止め部材6を構成する係合凸部28a、28bと円周方向に係合可能な断面形状を有する。本例では、後述するように、係合凸部28a、28bを略矩形柱状に構成しているため、挿通孔7の中心軸に直交する仮想平面に関する案内凹溝25a、25bの断面形状を、略矩形状としている。このため、案内凹溝25a、25bの内面は、互いに平行な1対の内側面を有している。なお、案内凹溝の断面形状は、矩形に限らず、略台形状や部分円弧形等により構成することもできる。
【0048】
なお、本例では、ハウジング5を有底円筒形状に構成しているが、本発明を実施する場合には、ハウジングの形状は適宜変更することができる。また、本例では、ハウジング5は、内部に挿通孔7のみを備えた構成としているが、本発明を実施する場合には、ハウジングの内部に、電動モータを収容するモータ収容部やギヤを収容するギヤ収容部等を備えることもできる。
【0049】
〈回り止め部材〉
回り止め部材6は、ハウジング5に対するねじ軸2の相対回転を阻止する機能を有し、金属により構成されている。回り止め部材6は、円環形状を有するボス部27と、複数(図示の例では2つ)の係合凸部28a、28bと、非回転側係合部29とを備える。
【0050】
回り止め部材6は、ボス部27をねじ軸2の係合軸部10に対して相対回転不能に外嵌し、かつ、係合凸部28a、28bを、ハウジング5の案内凹溝25a、25bに係合させることにより、ハウジング5に対してねじ軸2が相対回転するのを阻止している。
【0051】
ボス部27は、中心部に、軸方向に貫通し、かつ、係合軸部10と円周方向に係合可能な非円形孔である、係合孔31を有する。本例では、
図9に示すように、係合孔31を、長円形孔(小判形孔)とし、内周面に互いに平行な1対の平坦内面32を有する二面幅形状としている。1対の平坦内面32は、1対の部分円筒面33により接続されている。つまり、係合孔31の内周面は、1対の平坦内面32と1対の部分円筒面33とにより構成されている。
【0052】
本例では、ねじ軸2の係合軸部10を、回り止め部材6の係合孔31の内側に緩く挿通(遊嵌)した状態で、係合孔31の内周面に備えられた1対の平坦内面32のそれぞれと、係合軸部10の外周面に備えられた1対の平坦外面13のそれぞれとを係合(面接触)させている。また、係合孔31の内周面に備えられた1対の部分円筒面33のそれぞれと、係合軸部10の外周面に備えられた1対の部分円筒面14のそれぞれとを近接対向又は当接させている。これにより、ボス部27を係合軸部10に対して非円形嵌合させている。なお、ボス部27は、係合軸部10に対して圧入状態で非円形嵌合させても良い。
【0053】
1対の係合凸部28a、28bは、ボス部27の外周面の径方向反対側から径方向外側に向けて突出しており、ハウジング5に備えられた案内凹溝25a、25bの内側に配置されている。係合凸部28a、28bのそれぞれは、略矩形柱形状を有する。このため、係合凸部28a、28bのそれぞれは、互いに平行で、かつ、ボス部27の中心軸に平行な、平坦面状の1対の外側面を有している。また、係合凸部28a、28bのそれぞれの円周方向(幅方向)中央部を通る中心線は、1対の平坦内面32のそれぞれと平行に配置されている。案内凹溝25a、25bの軸方向寸法は、係合凸部28a、28bの軸方向寸法よりも十分に大きく設定されているため、係合凸部28a、28bは、案内凹溝25a、25bの内側に軸方向に摺動可能に配置される。なお、係合凸部28a、28bは、略矩形柱形状に限らず、案内凹溝25a、25bと係合可能であれば、種々の形状を採用することができる。
【0054】
非回転側係合部29は、ボス部27の軸方向他方側の側面から軸方向他方側に突出している。非回転側係合部29は、扇柱形状を有し、かつ、円周方向他方側(
図5の下側)の側面に、平坦面状の非回転側ストッパ面35を有する。非回転側ストッパ面35は、ねじ軸2がナット3に対して軸方向他方側に相対移動してストロークエンドに達した状態で、回転側ストッパ面20と面接触する。このために本例では、非回転側ストッパ面35は、ボス部27の中心軸と略平行に配置されている。
【0055】
回り止め部材6のボス部27を係合軸部10に外嵌した状態で、ボス部27の軸方向他方側の側面の径方向内側部分を、ねじ軸2の段差面12に当接させている(突き当てている)。また、回り止め部材6がねじ軸2に対して軸方向一方側に変位することを防止するために、中径軸部15の外周面に備えられた係止凹溝17に対して止め輪30を係止し、止め輪30の軸方向他方側の側面を、回り止め部材6の軸方向一方側の側面に対して当接させている。これにより、回り止め部材6を、ねじ軸2の段差面12と止め輪30とにより軸方向両側から挟持している。
【0056】
〈ボールねじ装置の動作説明〉
本例のボールねじ装置1は、図示しない電動モータによりナット3を回転駆動すると、回り止め部材6によりハウジング5に対する相対回転が阻止されたねじ軸2が、挿通孔7の内側を直線運動する。具体的には、ねじ軸2を構成する係合軸部10、中径軸部15及び小径軸部16が、挿通孔7を構成する大径孔部21の内側を直線運動する。ピストン24は、ねじ軸2の小径軸部16により軸方向一方側に向けて押圧され、挿通孔7を構成する小径孔部22の内側を直線運動する。これにより、小径孔部22の内側に充填した液体又は気体を、たとえば底面23に形成した図示しない連通孔を通じて排出又は吸入する。また、ねじ軸2及びピストン24を直線運動させる際には、図示しないコイルばねを弾性変形させる。
【0057】
ねじ軸2がナット3に対して軸方向他方側に相対移動してストロークエンドに達すると、ナット3に備えられた回転側係合部19と、回り止め部材6に備えられた非回転側係合部29とが円周方向に係合する。これにより、ナット3の回転が阻止される。このように、本例のボールねじ装置1は、回り止め部材6により、ねじ軸2がナット3に対して軸方向他方側に相対移動することに関するストロークエンドを規制することができる。なお、ねじ軸2がナット3に対して軸方向一方側に相対移動することに関するストロークエンドは、ねじ軸2の軸方向一方側の端面を、ハウジング5の軸方向他方側を向いた面に突き当てることで規制することもできるし、あるいは、従来から知られた各種のストローク制限機構を利用して規制することもできる。
【0058】
以上のような本例のボールねじ装置1によれば、直線運動要素であるねじ軸2の回り止めを低コストで実現することができる。
【0059】
すなわち、本例では、係合軸部10を、外周面に互いに平行な1対の平坦外面13を有する二面幅形状を有するものとし、かつ、係合孔31を、内周面に互いに平行な1対の平坦内面32を有する二面幅形状を有するものとしている。このため、係合軸部10及び係合孔31を形成するために、スプライン加工や研削加工を施す必要がない。したがって、ねじ軸2の回り止めを低コストで実現できる。この結果、ボールねじ装置1の製造コストを抑えることができる。
【0060】
また、本例では、係合孔31を係合軸部10に対して緩く嵌合(係合)させているため、係合孔31及び係合軸部10の形状精度を高くする必要がない。したがって、係合孔31及び係合軸部10の加工コストを抑えることができる。
【0061】
さらに本例では、係合軸部10及び係合孔31のそれぞれを二面幅形状としているため、平坦外面13及び平坦内面32の長さ寸法を確保しやすい。このため、係合軸部10の外周面及び係合孔31の内周面に、応力が集中することを抑制できる。また、平坦外面13及び平坦内面32は、フライス加工により形成することができるため、係合軸部10と係合孔31との同軸度を確保しやすくなる。
【0062】
また、回り止め部材6がねじ軸2から軸方向一方側に変位するのを、ねじ軸2に係止した止め輪30により防止することができる。このため、回り止め部材6の抜け止めを低コストで実現することができる。また、ボールねじ装置1の組立コストの低減を図れる。
【0063】
本例では、回り止め部材6は、係合凸部28a、28bを2つ備え、かつ、ハウジング5は、案内凹溝25a、25bを2つ備えているが、本発明を実施する場合、回り止め部材の係合凸部と、ハウジングの案内凹溝とを、1つずつ設けることもできるし、3つ以上ずつ設けることもできる。また、複数個の係合凸部及び複数個の案内凹溝は、円周方向等間隔に配置することもできるし、円周方向不等間隔に配置することもできる。
【0064】
なお、本例を実施する場合に、ねじ軸2に対して、ナット3のストロークエンドを規制するための専用のストッパ部材を設けることもできる。この場合には、
図12に示すように、回り止め部材6aとして、非回転側係合部29(
図11参照)を備えないものを使用することができる。
【0065】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図13~
図19を用いて説明する。
【0066】
本例では、実施の形態の第1例の構造に対して、回り止め部材6bの構造のみを変更している。
【0067】
すなわち、本例では、回り止め部材6bの全体を一体に構成していない。本例では、回り止め部材6bを、係合軸部10を径方向両側から挟持する二つ割れの半体である、第1回り止め片36及び第2回り止め片37と、これら第1回り止め片36と第2回り止め片37とを連結する連結環38とから構成している。
【0068】
《回り止め片》
第1回り止め片36及び第2回り止め片37は、ボス部27の中心軸を含み、かつ、1対の係合凸部28a、28bのそれぞれの円周方向中央部を通る仮想平面にて、回り止め部材6bを2分割した如き形状を有している。このため、第1回り止め片36及び第2回り止め片37のそれぞれは、略Ω字形状を有している。第1回り止め片36及び第2回り止め片37は、金属製の素材にプレス加工等の塑性加工のみを施すことによって形成されている。
【0069】
第1回り止め片36は、半円環形状を有する第1基部39aと、それぞれが矩形柱形状を有する1対の第1係合片40a、40bと、非回転側係合部29と、第1接合面41aとを有する。第1接合面41aは、平坦面状で、第1回り止め片36の径方向内側の側面により構成されている。
【0070】
これに対し、第2回り止め片37は、半円環形状を有する第2基部39bと、それぞれが矩形柱形状を有する1対の第2係合片40c、40dと、第2接合面41bとを有する。第2接合面41bは、平坦面状で、第2回り止め片37の径方向内側の側面により構成されている。
【0071】
第1回り止め片36と第2回り止め片37とは、第1接合面41aと第2接合面41bとを隙間なく重ね合わせるようにして、組み合わされている。このように第1回り止め片36と第2回り止め片37とを組み合わせることで、第1基部39aと第2基部39bとからボス部27が構成され、第1係合片40aと第2係合片40cとの組から係合凸部28aが構成され、第1係合片40bと第2係合片40dとの組から係合凸部28bが構成される。
【0072】
第1基部39aは、径方向内側に、略台形状の第1係合凹部42aを有している。また、第2基部39bは、径方向内側に、略台形状の第2係合凹部42bを有している。本例では、第1係合凹部42aと第2係合凹部42bとから係合孔31が構成される。第1係合凹部42a及び第2係合凹部42bのそれぞれは、第1回り止め片36及び第2回り止め片37を塑性加工により製造する際に同時に形成することができる。したがって、本例では、係合孔31を、加工コストの嵩む穴あけ加工(切削加工)ではなく、加工コストを抑えられる塑性加工により形成することができる。
【0073】
第1係合凹部42a及び第2係合凹部42bのそれぞれの底面は、平坦内面32から構成されている。第1回り止め片36に備えられた第1接合面41aと、第1係合凹部42aの底面を構成する平坦内面32とは、互いに平行に配置されている。また、第2回り止め片37に備えられた第2接合面41bと、第2係合凹部42bの底面を構成する平坦内面32とは、互いに平行に配置されている。このため、第1回り止め片36と第2回り止め片37とを組み合わせた状態で、第1接合面41a及び第2接合面41bと1対の平坦内面32とは、互いに平行に配置されている。
【0074】
第1基部39aは、軸方向一方側の側面のうち、第1係合片40a、40bの伸長方向に関して第1係合凹部42aの開口部の両側に、それぞれが軸方向一方側に伸長した部分円筒形状の第1嵌合片43a、43bを有する。
【0075】
また、第2基部39bは、軸方向一方側の側面のうち、第2係合片40c、40dの伸長方向に関して第2係合凹部42bの開口部の両側に、それぞれが軸方向一方側に伸長した部分円筒形状の第2嵌合片43c、43dを有する。
【0076】
第1回り止め片36と第2回り止め片37とを組み合わせた状態で、第1嵌合片43aと第2嵌合片43cとから嵌合筒部44aが構成され、第1嵌合片43bと第2嵌合片43dとから嵌合筒部44bが構成される。
【0077】
《連結環》
連結環38は、L字形の断面形状を有し、全体が円環状に構成されている。連結環38は、回り止め部材6bを構成するボス部27の軸方向一方側に隣接配置され、嵌合筒部44a、44bに対して締り嵌めにより外嵌されている。これにより、連結環38は、第1回り止め片36と第2回り止め片37とを連結し、これら第1回り止め片36と第2回り止め片37とが、径方向に分離することを防止している。なお、本発明を実施する場合には、連結環を、嵌合筒部に対して隙間嵌めで外嵌することもできる。
【0078】
本例の回り止め部材6bをねじ軸2に対して相対回転不能に固定するには、第1回り止め片36と第2回り止め片37とにより係合軸部10を径方向両側から挟持する。これにより、第1係合凹部42aと第2係合凹部42bとから構成される係合孔31を、係合軸部10に対して相対回転不能に非円形係合させる。その後、第1嵌合片43aと第2嵌合片43cとから構成される嵌合筒部44a、及び、第1嵌合片43bと第2嵌合片43dとから構成される嵌合筒部44bに対して、連結環38を軸方向一方側から締り嵌めで外嵌する。これにより、回り止め部材6bを、ねじ軸2の係合軸部10に対して相対回転不能に固定することができる。
【0079】
以上のような構成を有する本例では、回り止め部材6bの全体を一体に構成せずに、回り止め部材6bを、係合軸部10を径方向両側から挟持する二つ割れの半体である、第1回り止め片36及び第2回り止め片37と、これら第1回り止め片36と第2回り止め片37とを連結する連結環38とから構成している。そして、係合孔31を第1係合凹部42a及び第2係合凹部42bとから構成している。このため本例では、係合孔31を形成するために、ボス部27に対して穴あけ加工を施す必要がない。第1係合凹部42a及び第2係合凹部42bは、プレス加工等の塑性加工のみを施すことで形成することができるため、穴あけ加工を行う場合に比べて、加工コストを低減することができる。
【0080】
また、第1接合面41a及び第2接合面41bと1対の平坦内面32とを、互いに平行に配置している。このため、第1係合凹部42a及び第2係合凹部42bをプレス加工等の塑性加工により形成する際に、第1接合面41a及び第2接合面41bを基準面として利用できる。したがって、加工性を向上することが可能となり、加工コストの低減を図れる。
【0081】
また、嵌合筒部44a、44bに対して、連結環38を軸方向一方側から締り嵌めで外嵌することで、第1回り止め片36と第2回り止め片37とを連結することができる(径方向の分離を防止できる)ため、回り止め部材6bの組立作業工数の低減を図れる。このため、回り止め部材6bの組立コストの低減を図れる。また、回り止め部材6bの組立作業の自動化を図る上で有利になる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0082】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図20を用いて説明する。
【0083】
本例では、実施の形態の第2例の構造に対して、回り止め部材6cを構成する第1回り止め片36aと第2回り止め片37aとの連結構造のみを変更している。
【0084】
すなわち、本例では、回り止め部材6cを構成する第1回り止め片36aと第2回り止め片37aとを、2本の連結ボルト45により連結している。このため、本例の回り止め部材6cは、実施の形態の第2例の回り止め部材6bとは異なり、連結環38(
図15等参照)、及び、嵌合筒部44a、44b(第1嵌合片43a、43b及び第2嵌合片43c、43d)を備えていない。
【0085】
本例では、第1回り止め片36aを構成する第1係合片40aと第2回り止め片37aを構成する第2係合片40cとを連結ボルト45により連結し、かつ、第1回り止め片36aを構成する第1係合片40bと第2回り止め片37aを構成する第2係合片40dとを、連結ボルト45により連結している。
【0086】
このために、係合凸部28aを構成する第1係合片40aと第2係合片40cには、一方にボルト挿通孔を形成し、他方に雌ねじ孔を形成している。また、係合凸部28bを構成する第1係合片40bと第2係合片40dには、一方にボルト挿通孔を形成し、他方に雌ねじ孔を形成している。
【0087】
2本の連結ボルト45のそれぞれは、外周面に雄ねじ部を有しており、第1接合面41a及び第2接合面41bに対して直交する方向に配置されている。一方の連結ボルト45は、第1係合片40aと第2係合片40cとのうち、一方に備えられたボルト挿通孔を挿通した状態で、他方に備えられた雌ねじ孔に雄ねじ部を螺合させている。他方の連結ボルト45は、第1係合片40bと第2係合片40dとのうち、一方に備えられたボルト挿通孔を挿通した状態で、他方に備えられた雌ねじ孔に雄ねじ部を螺合させている。
【0088】
なお、本発明を実施する場合には、連結ボルトに代えて連結ピンを使用することもできる。この場合には、第1係合片40a、40b及び第2係合片40c、40dのそれぞれに貫通孔を形成し、連結ピンの軸方向一方側の端部又は両側の端部にかしめ部を形成することで、第1回り止め片と第2回り止め片とを連結することができる。
【0089】
以上のような構成を有する本例では、回り止め部材6cの軸方向寸法を、実施の形態の第2例の回り止め部材6bに比べて短くすることができる。このため、ボールねじ装置1(
図1等参照)の小型化を図ることができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第2例と同じである。
【0090】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、
図21を用いて説明する。
【0091】
本例では、実施の形態の第3例の構造から、回り止め部材6cがねじ軸2に対して軸方向一方側に変位するのを防止するための構造のみを変更している。すなわち、本例では、止め輪30(
図20等参照)に代えて、止めナット46を用いて、回り止め部材6cが、ねじ軸2に対して軸方向一方側に変位するのを防止している。
【0092】
このために、ねじ軸2を構成する中径軸部15aの外周面に、図示しない雄ねじ部を形成している。そして、止めナット46を中径軸部15aの雄ねじ部に螺合し、止めナット46の軸方向他方側の側面を、ボス部27の軸方向一方側の側面に対して当接させている。これにより、回り止め部材6cを、ねじ軸2の段差面12(
図8等参照)と止めナット46とにより軸方向両側から挟持している。
【0093】
以上のような構成を有する本例では、回り止め部材6cがねじ軸2に対して軸方向一方側に変位することを、より有効に防止することができる。このため、回り止め部材6cが係合軸部10から軸方向一方側に抜け出ることで、ハウジング5に対するねじ軸2の回り止めが図れなくなることを有効に防止できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例~第3例と同じである。
【0094】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、
図22を用いて説明する。
【0095】
本例では、ねじ軸2を構成する係合軸部10aの形状を、実施の形態の第3例の構造から異ならせている。
【0096】
本例では、係合軸部10aの外周面に、1対の平坦外面13を軸方向の全幅にわたり形成するのではなく、軸方向他方側部にのみ形成している。別の言い方をすれば、係合軸部10aのうち、軸方向他方側部に1対の平坦外面13を備えた非円形軸部47を設け、軸方向一方側部に円形軸部48を設けている。そして、このうちの非円形軸部47のみを、第1回り止め片36aと第2回り止め片37aとにより径方向両側から挟持している。
【0097】
また、円形軸部48のうち、1対の平坦外面13と位相が一致する部分に備えられた、軸方向他方側を向いた段差面49を、ボス部27の軸方向一方側の側面に対して当接(係合)させている。そして、段差面49を利用して、回り止め部材6cがねじ軸2に対して軸方向一方側に変位することを防止している。このため、本例では、ねじ軸2から中径軸部15(
図20等参照)を省略している。
【0098】
以上のような構成を有する本例では、回り止め部材6cが軸方向一方側に変位するのを防止するために、止め輪30(
図20等参照)や止めナット46(
図21参照)等の専用の部材を使用しなくて済む。このため、ボールねじ装置1(
図1等参照)のコスト低減を図れるとともに、ボールねじ装置1の小型化を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例~第3例と同じである。
【0099】
本例の変形例として、第1回り止め片36aと第2回り止め片37aとを、連結ボルトなどの連結部材により連結せずに、第1係合片40aと第2係合片40cからなる係合凸部28a、及び、第1係合片40bと第2係合片40dからなる係合凸部28bのそれぞれを、ハウジング5に備えられた案内凹溝25a、25b(
図2参照)の内側にがたつきなく配置することで、第1回り止め片36aと第2回り止め片37aとの分離防止を図ることもできる。この場合には、第1回り止め片36a及び第2回り止め片37aから、ボルト挿通孔及び雌ねじ孔を省略することができるとともに、連結部材を省略できるため、部品点数の低減を図れるとともに、加工工数及び組立工数の低減を図ることもできる。
【0100】
[実施の形態の第6例~第8例]
実施の形態の第6例~第8例について、
図23~
図25を用いて説明する。
【0101】
図23は、実施の形態の第6例の構造を示している。本例は、実施の形態の第2例の回り止め部材6bに対し、回り止め部材6dの分割方向を90度異ならせている。
【0102】
すなわち、本例では、回り止め部材6dを、ボス部27の中心軸を含みかつ1対の係合凸部28a、28bの伸長方向に直交する仮想平面にて2分割し、第1回り止め片36b及び第2回り止め片37bのそれぞれを略Y字形状に構成している。
【0103】
図24は、実施の形態の第7例の構造を示している。本例は、実施の形態の第2例の回り止め部材6bに対し、回り止め部材6eを構成する1対の係合凸部28a、28bの配置の位相を90度異ならせている。これにより、1対の係合凸部28a、28bのそれぞれの円周方向中央部を通る中心線を、1対の平坦内面32のそれぞれに対して直交する方向に配置している。
【0104】
また、本例では、回り止め部材6eを、ボス部27の中心軸を含みかつ1対の係合凸部28a、28bの円周方向中央部を通る仮想平面にて2分割し、第1回り止め片36c及び第2回り止め片37cのそれぞれを略Ω字形状に構成している。
【0105】
図25は、実施の形態の第8例の構造を示している。本例の場合にも、実施の形態の第2例の回り止め部材6bに対し、回り止め部材6fを構成する1対の係合凸部28a、28bの配置の位相を90度異ならせている。これにより、1対の係合凸部28a、28bのそれぞれの円周方向中央部を通る中心線を、1対の平坦内面32のそれぞれに対して直交する方向に配置している。
【0106】
また、本例では、回り止め部材6fを、ボス部27の中心軸を含みかつ1対の係合凸部28a、28bの伸長方向に直交する仮想平面にて2分割し、第1回り止め片36d及び第2回り止め片37dのそれぞれを略Y字形状に構成している。
【0107】
以上のような構成を有する実施の形態の第6例~第8例の場合にも、直線運動要素であるねじ軸2の回り止めを低コストで実現することができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第2例と同じである。
【0108】
[実施の形態の第9例]
実施の形態の第9例について、
図26を用いて説明する。
【0109】
本例では、ねじ軸2を構成する係合軸部10bの形状、及び、回り止め部材6を構成するボス部27の係合孔31aの形状を、実施の形態の第1例の構造から異ならせている。
【0110】
すなわち、本例では、係合軸部10bを、断面D字形の非円形軸部としている。そして、係合軸部10bの外周面を、1つの平坦外面13と1つの部分円筒面14とにより構成している。
【0111】
また、係合孔31aを、断面D字形の非円形孔としている。そして、係合孔31aの内周面を、1つの平坦内面32と1つの部分円筒面33とにより構成している。
【0112】
以上のような構成を有する本例の場合にも、回り止め部材6の係合孔31aをねじ軸2の係合軸部10bに対して相対回転不能に係合させることができる。また、係合軸部10b及び係合孔31aを、断面D字形としているため、二面幅形状とする場合に比べて、加工量及び加工工数を低減することができ、加工コストの低減を図れる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同じである。
【0113】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 ボールねじ装置
2 ねじ軸
3 ナット
4 ボール
5 ハウジング
6、6a~6f 回り止め部材
7 挿通孔
8 負荷路
9 ねじ部
10、10a、10b 係合軸部
11 軸側ボールねじ溝
12 段差面
13 平坦外面
14 部分円筒面
15、15a 中径軸部
16 小径軸部
17 係止凹溝
18 ナット側ボールねじ溝
19 回転側係合部
20 回転側ストッパ面
21 大径孔部
22 小径孔部
23 底面
24 ピストン
25a、25b 案内凹溝
27 ボス部
28a、28b 係合凸部
29 非回転側係合部
30 止め輪
31、31a 係合孔
32 平坦内面
33 部分円筒面
35 非回転側ストッパ面
36、36a~36d 第1回り止め片
37、37a~37d 第2回り止め片
38 連結環
39a 第1基部
39b 第2基部
40a、40b 第1係合片
40c、40d 第2係合片
41a 第1接合面
41b 第2接合面
42a 第1係合凹部
42b 第2係合凹部
43a、43b 第1嵌合片
43c、43d 第2嵌合片
44a、44b 嵌合筒部
45 連結ボルト
46 止めナット
47 非円形軸部
48 円形軸部
49 段差面
100 ボールねじ装置
101 ねじ軸
102 ナット
103 ボール
104 ハウジング
105 回り止め部材
106 軸側ボールねじ溝
107 ナット側ボールねじ溝
108a、108b 転がり軸受
109 駆動歯車
110 電動モータ
111 負荷路
112 循環溝
113 挿通孔
114 案内凹溝
115 ボス部
116 係合凸部
117 嵌合孔
118 雌スプライン歯
119 雄スプライン歯