IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図1
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図2
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図3
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図4
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図5
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図6
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図7
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図8
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図9
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図10
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図11
  • 特開-像加熱装置、画像形成装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189068
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】像加熱装置、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20221215BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G03G15/20 510
F16C13/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097422
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 光
(72)【発明者】
【氏名】田中 正志
【テーマコード(参考)】
2H033
3J103
【Fターム(参考)】
2H033AA06
2H033AA23
2H033AA30
2H033BA25
2H033BA26
2H033BA31
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB21
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BB36
2H033BB39
2H033BE03
2H033CA02
2H033CA07
2H033CA27
3J103AA02
3J103AA13
3J103AA23
3J103CA78
3J103FA12
3J103GA02
3J103GA57
3J103GA66
3J103HA03
3J103HA18
3J103HA53
(57)【要約】
【課題】フィルムに発生する寄り力を低減し、フィルム端部の破損を抑制する像加熱装置を提供する。
【解決手段】フィルムと、ヒータと、ニップ部を、フィルムとの間に形成する回転可能なローラ117と、バックアップ部材と、フィルムの長手方向の両端に対向して配設され、長手方向におけるフィルムの移動を規制すると共に、バックアップ部材と一体的に移動する規制部材120と、規制部材120とローラ117の軸を挿入するガイド部を有する装置のフレーム130と、加圧機構と、を有し、ニップ部で画像を加熱する像加熱装置において、ローラ117は、フィルムの側から押圧されるとローラ117の回転軸とニップ部の距離が縮まるとともに体積が減少するように変形する弾性層を含み、ガイド部は、規制部材120がローラ117の回転軸に近づくほど、規制部材120を記録材の搬送方向の下流側に移動するようにガイドする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な筒状のフィルムと、
前記フィルムを加熱するヒータと、
前記フィルムの外周面に接触し、記録材を搬送するためのニップ部を、前記フィルムとの間に形成する回転可能なローラと、
前記フィルムの内部空間に前記フィルムの長手方向に亘って設けられており、回転する前記フィルムの内周面を支持するバックアップ部材と、
前記フィルムの前記長手方向の両端に対向して配設され、前記長手方向における前記フィルムの移動を規制すると共に、前記バックアップ部材と一体的に移動する規制部材と、
前記規制部材と前記ローラの軸を挿入するガイド部を有する装置のフレームと、
前記規制部材に力を付与して、前記ニップ部に圧力を付与する加圧機構と、
を有し、
画像が形成された前記記録材を搬送しながら加熱することで、前記ニップ部で前記画像を加熱する像加熱装置において、
前記ローラは、前記フィルムの側から押圧されると前記ローラの回転軸と前記ニップ部の距離が縮まるとともに体積が減少するように変形する弾性層を含み、
前記ガイド部は、前記規制部材が前記ローラの回転軸に近づくほど、前記規制部材を前記記録材の搬送方向の下流側に移動するようにガイドすることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記弾性層は、気泡を内包するスポンジゴムで形成されることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記弾性層の体積が減少するほど前記ニップ部が前記搬送方向の下流側に形成されるように、前記搬送方向と直交する面に対して傾斜しているガイド面を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記ヒータは、前記バックアップ部材に設けられていることを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載の像加熱装置。
【請求項5】
回転可能な筒状のフィルムと、
前記フィルムを加熱するヒータと、
前記フィルムの外周面に接触し、記録材を搬送するためのニップ部を、前記フィルムとの間に形成する回転可能なローラと、
前記フィルムの内部空間に前記フィルムの長手方向に亘って設けられており、回転する前記フィルムの内周面を支持するバックアップ部材と、
前記フィルムの前記長手方向の両端に対向して配設され、前記長手方向における前記フィルムの移動を規制すると共に、前記バックアップ部材と一体的に移動する規制部材と、
前記規制部材と前記ローラの軸を挿入するガイド部を有する装置のフレームと、
前記規制部材に力を付与して、前記ニップ部に圧力を付与する加圧機構と、
を有し、
画像が形成された前記記録材を搬送しながら加熱することで、前記ニップ部で前記画像を加熱する像加熱装置において、
前記ローラは、前記フィルムの側から押圧されると前記ローラの回転軸と前記ニップ部の距離が縮まるとともに体積一定のまま変形する弾性層を含み、
前記ガイド部は、前記規制部材が前記ローラの回転軸に近づくほど、前記規制部材を前記記録材の搬送方向の上流側に移動するようにガイドすることを特徴とする像加熱装置。
【請求項6】
前記弾性層は、ソリッドゴムで形成されることを特徴とする請求項5に記載の像加熱装置。
【請求項7】
前記ガイド部は、前記バックアップ部材が前記ローラに近づくほど前記ニップ部が前記搬送方向の上流側に形成されるように、前記搬送方向と直交する面に対して傾斜しているガイド面を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の像加熱装置。
【請求項8】
前記ヒータは、前記バックアップ部材に設けられていることを特徴とする請求項5~7いずれか1項に記載の像加熱装置。
【請求項9】
前記ガイド面が前記搬送方向と直交する面となす角度は、5°以上45°以下であることを特徴とする請求項3又は7に記載の像加熱装置。
【請求項10】
記録材に画像を形成する画像形成部と、
記録材に形成された画像を記録材に定着する定着部と、
を有する画像形成装置において、
前記定着部が請求項1~9のいずれか1項に記載の像加熱装置であることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真方式を利用したプリンタ、複写機等の画像形成装置に関する。また、画像形成装置に搭載されている定着器や記録材に定着されたトナー画像を再度加熱することにより、トナー画像の光沢度を向上させる光沢付与装置等の像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置で用いられるトナーの定着装置として、フィルム加熱方式の定着装置が知られている。フィルム加熱方式の定着装置は一般的に、筒状のフィルムと、フィルムの内面と接触するニップ部形成部材と、フィルムを介してニップ部形成部材と共にニップ部を形成するローラと、を有する。トナー像を担持した記録材をニップ部で挟持搬送しながら加熱し、トナー像を記録材に定着する。
【0003】
ところで、フィルム加熱方式の定着装置において、トナー像定着のためフィルムを回転させると、フィルムがローラの回転軸方向に移動してしまう、所謂フィルムの寄りが発生する場合がある。特許文献1のように、定着装置にはフィルムの寄り移動を規制する規制部材が設けられているが、フィルムに対してフィルムの回転軸方向へ作用する力が大き過ぎると、フィルム端部の破損や定着時の加圧力のバランス不均一などの問題を招きうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-044080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィルムが長期間にわたってフィルムの寄りを規制している規制部材と摺擦すると、規制部材と接するフィルムの端部が折れ曲がるなど破損する可能性がある。特に、近年では画像形成装置、ひいては定着装置の長寿命化、高速化が求められている。定着装置の長寿命化に伴いフィルムと規制部材が摺擦する時間が長くなり、かつ高速化に伴いフィルムが寄りやすくなるため、フィルムの端部の破損防止が課題となる。
【0006】
そこで本発明は、フィルムに発生する寄り力を低減し、フィルム端部の破損を抑制する像加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の像加熱装置は、
回転可能な筒状のフィルムと、
前記フィルムを加熱するヒータと、
前記フィルムの外周面に接触し、記録材を搬送するためのニップ部を、前記フィルムとの間に形成する回転可能なローラと、
前記フィルムの内部空間に前記フィルムの長手方向に亘って設けられており、回転する前記フィルムの内周面を支持するバックアップ部材と、
前記フィルムの前記長手方向の両端に対向して配設され、前記長手方向における前記フィルムの移動を規制すると共に、前記バックアップ部材と一体的に移動する規制部材と、
前記規制部材と前記ローラの軸を挿入するガイド部を有する装置のフレームと、
前記規制部材に力を付与して、前記ニップ部に圧力を付与する加圧機構と、
を有し、
画像が形成された前記記録材を搬送しながら加熱することで、前記ニップ部で前記画像
を加熱する像加熱装置において、
前記ローラは、前記フィルムの側から押圧されると前記ローラの回転軸と前記ニップ部の距離が縮まるとともに体積が減少するように変形する弾性層を含み、
前記ガイド部は、前記規制部材が前記ローラの回転軸に近づくほど、前記規制部材を前記記録材の搬送方向の下流側に移動するようにガイドすることを特徴とする。
また、本発明の像加熱装置は、
回転可能な筒状のフィルムと、
前記フィルムを加熱するヒータと、
前記フィルムの外周面に接触し、記録材を搬送するためのニップ部を、前記フィルムとの間に形成する回転可能なローラと、
前記フィルムの内部空間に前記フィルムの長手方向に亘って設けられており、回転する前記フィルムの内周面を支持するバックアップ部材と、
前記フィルムの前記長手方向の両端に対向して配設され、前記長手方向における前記フィルムの移動を規制すると共に、前記バックアップ部材と一体的に移動する規制部材と、
前記規制部材と前記ローラの軸を挿入するガイド部を有する装置のフレームと、
前記規制部材に力を付与して、前記ニップ部に圧力を付与する加圧機構と、
を有し、
画像が形成された前記記録材を搬送しながら加熱することで、前記ニップ部で前記画像を加熱する像加熱装置において、
前記ローラは、前記フィルムの側から押圧されると前記ローラの回転軸と前記ニップ部の距離が縮まるとともに体積一定のまま変形する弾性層を含み、
前記ガイド部は、前記規制部材が前記ローラの回転軸に近づくほど、前記規制部材を前記記録材の搬送方向の上流側に移動するようにガイドすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルムに発生する寄り力を低減し、フィルム端部の破損を抑制する像加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係る定着装置を搭載した画像形成装置の断面模式図である。
図2】実施例1に係る定着装置の構成を示す図である。
図3】実施例1に係る画像形成装置の温度制御系を示すブロック図である。
図4】実施例1に係る定着装置の構成部材の詳細を示す図である。
図5】実施例1に係る定着装置の側面図である。
図6】比較例における定着装置の側面図である。
図7】定着フィルムの寄りが発生するメカニズムを示した図である。
図8】定着フィルムの回転軸の傾きと寄り力の関係を示した図である。
図9】実施例1に係る定着装置のA-A面およびB-B面の断面図である。
図10】加圧ローラの長手方向での搬送速度差と寄り力の関係を示した図である。
図11】実施例2に係る定着装置のA-A面およびB-B面の断面図である。
図12】実施例2に係る定着装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0011】
<実施例1>
図1は、電子写真記録技術を用いた、本発明の実施例に係る画像形成装置100の模式的断面図である。本発明が適用可能な画像形成装置としては、電子写真方式や静電記録方式を利用した複写機、プリンタなどが挙げられ、ここでは電子写真方式を利用して記録紙等の記録材P上に画像を形成するレーザプリンタに適用した場合について説明する。
【0012】
(1)画像形成装置100
図1は、本実施例の実施例1に係る定着装置を搭載する画像形成装置の模式断面図である。画像形成装置100は、積載された記録材Pを1枚ずつ分離し搬送する給紙部102、外部装置より提供された画像データに基づき変調して発光したレーザ光を画像形成部に照射するレーザスキャナユニット103を有する。画像形成装置100は、更に、レーザスキャナユニット103のレーザ光照射により画像形成を為す画像形成部104、熱の供給及び圧力の付与により記録材Pへの定着を行う定着装置105、上述の各部、各装置のシーケンスを制御する制御装置106を有する。レーザスキャナユニット103は、外部装置より提供された画像データに基づきレーザ光を変調し発光するレーザユニット122を有する。レーザスキャナユニット103は更に、レーザユニットからのレーザ光を走査するためのポリゴンミラー124、ポリゴンミラー124を回転するためのモータ123、結像レンズ群125、折り返しミラー126を有する。
【0013】
(2)画像形成動作
画像形成装置100における画像形成の手順について、図1を用いて説明する。図1に示す画像形成装置100の給紙部102では、外部装置より画像情報が画像形成装置100へ転送されると、給紙トレイ107より記録材Pが1枚ずつ分離して繰り出される。給紙トレイ107より繰り出された記録材Pは、搬送ローラと搬送ローラに対向して設置された搬送コロとの当接部(搬送ニップ部)によって画像形成部104に搬送される。画像形成部104内に回動可能に軸支された感光ドラム110は、同じく回動可能な帯電ローラ108により一様に帯電され、更に上記画像情報に基づきレーザスキャナユニット103から照射されたレーザ光により潜像が形成される。感光ドラム110は、トナーを担持した現像スリーブ109に対峙する位置を通過する際に、感光ドラム110と現像スリーブ109間に印加されたバイアスによって感光ドラム110の表面上の帯電域にトナーが付与され、トナー像が形成される。感光ドラム110の表面上の帯電域に形成されたトナー像は、感光ドラム110と転写ローラ111が形成する転写ニップ部N2を通過する際に、感光ドラム110と転写ローラ111の間に印加された転写バイアスにより記録材Pへと転写される。記録材Pに担持されたトナー像は、定着装置105において熱の供給と圧力の付与により定着画像となる。そして、記録材Pが定着装置105の搬送力によって排紙ローラ119へと送られ、排紙ローラ119によって画像形成装置100の排紙部へ排紙されることで(図1中M矢印方向)、一連の画像形成過程が終了する。
【0014】
図2に示す本実施例の定着装置105はフィルム加熱方式の定着装置であり、その構成の詳細については後述する。定着部としての定着装置105による定着処理は以下のように行われる。加圧ローラ117の芯金117aの端部に設けられた駆動ギアGがモータ(不図示)により回転駆動されることによって、加圧ローラ117は図中の矢印方向に回転する。加圧ローラ117が回転すると、定着ニップ部Nにおいて発生する加圧ローラ117の外周面と定着フィルム114の外周面との摩擦力により、定着フィルム114に回転力が作用する。定着フィルム114は、加圧ローラ117の回転によって、その内面がヒータ112と摺動するとともに、フィルムガイド115に内面を案内されながら矢印方向に回転する。フィルムガイド115はヒータ112を保持している。なお、本例の定着装置105の定着フィルム114の内部空間に設けられるバックアップ部材は、フィルムガイド115とヒータ112を有する。定着フィルム114とヒータ112の間及び定着フィルム114とフィルムガイド115との間には、耐熱性グリスが塗布されている。耐熱性グリスは、基油であるパーフロロポリエーテルや、増稠剤としてのポリテトラフルオロ
エチレン(PTFE)等から構成されているフッ素グリスを用いた。
【0015】
更に、図3に示すCPU10が通電制御部としてのトライアック12をオンにすると、ヒータ112の表面に形成された電気抵抗層に通電され、ヒータ112が発熱し昇温する。ヒータ112の温度は、その裏面に設けられたサーミスタ113(図9参照)の出力信号(温度検知信号)として、A/D変換機11を通してCPU10に送られる。CPU10は、温度検知信号に基づいて、トライアック12によりヒータ112に通電する電力を位相制御あるいは波数制御等により制御して、ヒータ112の電力制御を行う。所定の設定温度(目標温度)より低い場合にはヒータ112を昇温させ、設定温度より高い場合にはヒータ112を降温させるようにトライアック12を制御し、ヒータ112を設定温度に保つ。
【0016】
ヒータ112の温度が設定温度まで上昇し、かつ加圧ローラ117の回転による定着フィルム114の回転速度が定常化した状態において、未定着トナー画像を担持する記録材Pが定着ニップ部Nに導入される。その記録材Pは定着ニップ部Nにて定着フィルム114と加圧ローラ117とにより挟持搬送される。その搬送過程において記録材Pの未定着トナー画像にヒータ112の熱が定着フィルム114を介して付与されるとともにニップ部による圧力が付与されることによって、未定着トナー画像は記録材Pの面に加熱定着される。
【0017】
(3)定着装置105
図2~5を用いて、本実施例に係る像加熱装置としての定着装置105の詳細構成について説明する。本実施例の定着装置105は、高速化と長寿命化のため、立ち上げ時間の短縮や低消費電力化を目的としたフィルム加熱方式の定着装置である。図2は定着装置105の構成を示す図である。図2(a)は定着装置105を記録材の搬送方向上流側から見た図で、図2(b)は定着装置105を加圧ローラ117の回転軸方向と記録材の搬送方向の双方と直交する方向で、定着フィルム114側から見た図である。図2(a)、(b)においては、定着装置105の内部の様子が判別できるように定着フィルム114を透過させて示すため、定着フィルム114の外形線を破線で、定着フィルム114の内部に配置されている部品類を実線で示した。
【0018】
定着装置105は、筒状の定着フィルム114、定着フィルム114の内面に接触しニップ部形成部材としての役割も有する板状のヒータ112(図9参照)、定着フィルム114を介してヒータ112と共にニップ部Nを形成する加圧ローラ117を有する。定着装置105は更に、加圧機構としての加圧バネ140と、加圧ローラ117を回転可能に支持する支持板金(フレーム)130と、を有する。以後、加圧ローラ117の回転軸の方向を回転軸方向と記す。なお、回転軸方向は、記録材Pの搬送方向と直交する記録材の幅方向と平行である。本実施例において、定着フィルム114、ヒータ112、及び加圧ローラ117は、回転軸方向に長い部材である。定着装置105は、その他に、フィルムガイド115の曲げ剛性を高めて補強するステー116を有する。ステー116の長手方向は、回転軸方向と平行である。また、ステー116の両端部にはフランジ120L、120Rが設けられている。加圧バネ140の加圧力Sがフランジ120L、120Rに作用すると、ステー116、フィルムガイド115、及びヒータ112が一体的に後述する支持板金130のガイド面130aに沿って移動する。
【0019】
続いて、個々の構成部品について詳細を説明する。ヒータ112は、基板と、電気抵抗層と、保護層と、を有する。基板は、アルミナや窒化アルミニウムなどの良熱伝導性、高耐熱性、及び絶縁性を有する部材である。発熱抵抗層は、基板の表面にスクリーン印刷などにより厚み約10[μm]、幅1~3[mm]の大きさで形成される。発熱抵抗層の材料は、Ag/Pd(銀パラジウム)などが用いられる。保護層は、発熱抵抗層の上にガラ
スやフッ素樹脂などで形成された層である。ヒータ112の裏面には温度検知手段としてのサーミスタ113が配置されている。このサーミスタ113は、図3に示すように、A/D変換機11を介して温度制御手段としてのCPU10に接続されている。
【0020】
定着フィルム114は、内周長がヒータ112及びフィルムガイド115の外周に対して余裕を持った状態で、それらに外嵌されている。従って、定着フィルム114はヒータ112とフィルムガイド115に内周面をガイドされながら回転する。図4(a)は、定着フィルム114の層構成模式図である。定着フィルム114は、厚み方向に多層構成となっており、厚さ20~100[μm]のポリイミド樹脂からなる基体114aと、この基体の上に設けられた導電プライマ層114bと、を有する。定着フィルム114は、更に導電プライマ層114bの上に形成されたPFA、PTFE、FEPなどのフッ素樹脂からなる離型層114cを有する。離型層114cが定着フィルム114の最外層であり、加圧ローラ117と接してニップ部Nを形成する。また、定着フィルム114の一方の端部には、導電プライマ層114bが露出する導電層露出部114dが設けられる。導電層露出部114dは、不図示の導電ゴム輪を介して設置され、フィルム電位の安定化に寄与する。本実施例において、定着フィルム114は外径18.0[mm]で総膜厚64[μm]としたフィルムを用いた。
【0021】
図4(b)は、加圧ローラ117を回転軸方向からみた図である。加圧ローラ117は、芯金(ローラの軸)117aと、芯金117aの周囲に設けられた耐熱性の弾性層117bと、弾性層117bの上に形成された離型層117cと、を有する。弾性層117bの材質はシリコーンゴムである。芯金117aはφ8.5[mm]のSUS等の金属で形成されている。本実施例で使用した加圧ローラ117は、圧縮によりその弾性層の体積が減少する特性を有する加圧ローラである。このような特性をもつ具体的な加圧ローラとしては、弾性層が連続する気泡を内包したスポンジ状ゴム、または独立した気泡が内包されたゴムであるが気泡の占める割合が多いゴム等で形成されたローラが含まれる。本実施例では、気泡が隣同士連なっている連泡スポンジゴムで形成された弾性層117bを有する加圧ローラ117を用いた。弾性層117bの外周にはPFA、PTFE、FEPなどのフッ素樹脂で形成される離型層117cが設けられている。本実施例では、加圧ローラ117として外径14.0[mm]、硬度47°(Asker-C600[g]荷重)としたローラを用いている。加圧ローラ117は、軸受け118を介して支持板金130に回転可能に支持されている。
【0022】
図2に示したフィルムガイド115は、ヒータ112の定着フィルム114と接触する面と反対側の面からヒータ112を支持する機能も有する。更に、フィルムガイド115は定着フィルム114の内周面に沿って延び、定着フィルム114の回転移動をヒータ112と共に案内する。
【0023】
図4(c)はステー116を示す図である。耐熱樹脂で成形された部品であるフィルムガイド115の曲げ剛性を高める補強部材としてのステー116は、加圧ローラ117の回転軸方向に長く、加圧ローラ117の回転軸方向と直交する断面がU字形状に形成されている。ステー116は、加圧ローラ117の回転軸方向に見ると、U字形状の開口部がヒータ112に対向する向きで設けられている。図2(a)、(b)に示すように、ステー116はフランジ120L、120R、それぞれと係合しており、定着装置105に保持された加圧バネ140からの加圧力Sをフランジ120L及び120Rを介して受ける。加圧力Sは記録材搬送面に対して略垂直に付勢されるように構成されている。ステー116に伝えられた加圧力Sはフィルムガイド115を介してヒータ112へと伝えられる。すなわち加圧バネ140からの付勢力により、ヒータ112とフィルムガイド115に外嵌された定着フィルム114が加圧ローラ側に付勢され、定着フィルム114を介してヒータ112と加圧ローラ117との間に長手方向に渡って均一なニップ部Nを形成する
【0024】
フランジ120Rは、定着フィルム114の内周面をガイドする回転ガイド部120Raと、定着フィルム114がその長手方向へ移動するのを規制する規制部120Rbと、支持板金130のガイド面130aと摺動する溝部120Rgと、を有する。回転ガイド部120Raは定着フィルム114の内周面に沿うように外周面が曲線で形成され、規制部120Rbから延びている。回転ガイド部120Raは定着フィルム114と嵌合し、フィルムガイド115と共に、回転する定着フィルム114の内周面を案内する。溝部120Rgは、詳細を後述するガイド面130aに沿うように、ガイド面130aの傾斜角度にあわせた角度で傾斜して設けられている。フランジ120Lも、フランジ120Rと同様の構成であり、回転ガイド部120La、規制部120Lb、及び溝部120Lgを有する。すなわち、フランジ120R,120Lは定着フィルム114の両端に対向して配設され、規制部材として定着フィルム114の長手方向への移動を規制するとともに、定着フィルム114の回転を案内する。以降、フランジ120Rと120Lを区別して記載する必要がない場合には、RとLの添え字を省略して記載する。
【0025】
支持板金130は厚さ1.2mmの板金であり、軸受け118を介して加圧ローラ117を支持する。軸受け118には、加圧ローラ117の軸が挿入される。また、支持板金130は、フランジ120が加圧バネ140によって加圧力Sをうけた際にフランジ120の移動をガイドするためのガイド面(ガイド部)130aを有する。本実施例のガイド面130aは平面状であり、図2(b)に示すように、溝120gが支持板金130と係合することで、フランジ120が支持板金130のガイド面130aに沿って移動可能に構成されている。ガイド面130aは、記録材搬送方向と直交する面に対して30°の傾きを有して延びるよう形成されている。従って、加圧ローラ117の弾性層117bの体積が減少するほどニップ部は記録材搬送方向の下流側に形成されるように、ガイド面130aは傾斜している。ガイド面130aは支持板金130の互いに対向する側板に夫々配設されており、フランジ120は加圧ローラ117に近づくほど、記録材搬送方向下流側に移動する構成となっている。加圧バネ140からの付勢力によって、フランジ120はガイド面130aに沿って、ステー116、フィルムガイド115、及びヒータ112と一体的に移動する。
【0026】
本実施例の定着装置105における、フランジ120が加圧力Sを受けたときの挙動について詳細を説明する。図5は、本実施例の定着装置105について、加圧ローラ117、軸受け118と支持板金130の位置関係や形状について示した加圧ローラ117の回転軸方向に見た模式図である(図2(a)の矢印X方向から見た図)。図5(a)は、支持板金130に対して、加圧ローラ117と軸受け118のみが取りついたときの状態を示す。図5(b)は、支持板金130に更にフランジ120が取りつき、フランジ120がガイド面130aに沿って移動する様子を示す。先述の通り、本実施例の定着装置105のガイド面130aは、記録材搬送方向と直交する面に対して30°の傾きを有している。なお、図5を用いてフランジ120Rの側から見た構成でガイド面130aについて説明したが、ガイド面130aは回転軸方向で一様に形成されている。すなわち、フランジ120Lも120Rと同様に支持板金130と係合してガイド面130aに沿って移動するように構成されている。従って、フランジ120が加圧バネ140から加圧力Sを受けて、加圧ローラ117に近づくほど、又は加圧ローラ117がより大きく圧縮するほど、フランジ120は搬送方向下流側へも移動する構成となっている。つまり、加圧ローラ117の弾性層117bの圧縮量に回転軸方向で差が生じた場合には、フランジ120Lと120Rの移動量にも差が生じる。ガイド面130aが記録材搬送面に対して垂直ではない角度で設けられている構成は、本発明の特徴的な構成であり、後述する寄り力の低減に寄与する。
【0027】
本実施例においては、加圧ローラ117が変形し、加圧ローラ117の中心軸とニップ部Nの距離が設計値通りに所定の値縮んだとき、記録材Pの搬送方向において、ヒータ112の中心が加圧ローラ117の回転軸と一致するように構成されている。すなわち、押圧力や加圧ローラ117の硬度等が設計値通りでなかった場合でも、ヒータ112は加圧ローラ117に対して大きく位置がずれることなく、定着フィルム114を介して加圧ローラ117を適切に押圧することができる。
【0028】
(4)加圧ローラと定着フィルムの回転軸の交差角と寄り力の関係
加圧ローラ117の回転軸と定着フィルム114の回転軸に交差角が生じた場合に定着フィルム114を回転軸方向に移動させる寄り力Yが発生するメカニズムについて、図7を用いて説明する。図7は加圧ローラ117の加圧ローラ117の回転軸方向と記録材Pの搬送方向の双方と直交する方向で、定着フィルム114(破線)と定着ニップ部Nを見た図である。加圧ローラ117の回転軸と定着フィルム114の回転軸に交差角が生じた場合とは、定着フィルム114の回転軸が加圧ローラ117の回転軸に対して平行ではなく、傾きを有している場合である。図7では、定着フィルム114のR側(紙面右側)がL側(紙面左側)に対して記録材Pの搬送方向下流側に位置するように傾き角度α°を有する場合の状態を示している。ここで、加圧ローラ117の回転軸は、ニップ部Nの中心線であるニップ部中心線Naと平行である。
【0029】
定着フィルム114は、フィルムガイド115にルーズに外嵌されており、回転する加圧ローラ117との接触により、定着フィルム114は矢印a方向に回転して、加圧ローラ117とともに記録材Pを搬送する。すなわち、定着フィルム114が回転する加圧ローラ117と定着ニップ部Nで接触すると、定着フィルム114には駆動力Fが働く。図7に示すように、定着フィルム114が加圧ローラ117に対して交差角が生じた状態で接する場合、駆動力Fは定着フィルム114の長手方向に垂直な回転力Wと、加圧ローラ117の回転軸方向の寄り力Yと、に分解して定着フィルム114に作用する。回転力Wは定着フィルム114を回転させる力として働き、寄り力Yは定着フィルム114をR側に移動させる力として働く。加圧ローラ117の回転軸方向に対する定着フィルム114の長手方向の傾きがα°である場合、定着フィルム114に作用する回転力WはFcosα、寄り力YはFsinαと表せる。寄り力Yが定着フィルム114に作用すると、定着フィルム114の長手端部の任意点Aは、図7の右側「Aの軌跡」に示すような軌道を描きつつ、回転しながらR側に移動する。このように、加圧ローラ117の回転軸と定着フィルム114の回転軸が平行でない場合、回転する加圧ローラ117に定着フィルム114が接触することで、定着フィルム114には回転力Wだけでなく、寄り力Yが作用する。
【0030】
図8は、前述の寄り力発生メカニズムに基づいて、加圧ローラ117の回転軸と定着フィルム114の回転軸に生じる交差角の状態を場合分けして、寄り力Yが発生する方向を示した図である。図8(a)は、加圧ローラ117の回転軸に対して、定着フィルム114のR側がL側よりも相対的に記録材搬送方向の下流側に位置する場合を示す。このとき、前述した原理により定着フィルム114がR側へ寄る力が発生する。一方、図8(b)は、加圧ローラ117の回転軸に対して、定着フィルム114のR側がL側よりも相対的に記録材搬送方向の上流側に位置する場合を示す。この時、同様の原理により定着フィルム114がL側へ寄る寄り力Yが発生する。
【0031】
(5)加圧ローラの長手方向での搬送速度の差と寄り力の関係
ここまで定着フィルム114が加圧ローラ117に対して傾いた状態で接触することで寄り力Yが発生するメカニズムについて説明した。次に、実際にどういった場合に加圧ローラ117と定着フィルム114の回転軸に交差角が生じ、定着フィルム114に寄り力Yが作用するかについて説明する。そこで、加圧ローラ117の硬度が長手方向で一定で
ない場合を例として、以下、加圧ローラ117の長手方向での搬送速度の差と寄り力の関係について説明する。
【0032】
図9は、加圧ローラ117の硬度に加圧ローラ117の長手方向の両端で差がある場合の定着フィルム114と加圧ローラ117の関係を示した断面図である。図9(a)は、図2(a)に示す記録材搬送方向上流側から定着装置105をみたときの左側(L側)を示すA-A断面図であり、図9(b)は右側(R側)を示すB-B断面図である。本実施例では、図9(b)で示すR側の硬度が図9(a)で示すL側の硬度よりも相対的に低い。従って、図9に示すように、L側、R側それぞれの加圧ローラ中心から定着ニップ部Nまでの距離をL1、L2とすると、加圧ローラ117の硬度の低いR側の方がより圧縮されて潰れるため、L1>L2となる。本実施例で用いている加圧ローラ117は、弾性層117bが連泡スポンジゴムで形成されているため、加圧ローラ117は押圧され圧縮すると、弾性層117bに存在する気泡内の空気が外に出て気泡が潰れるため、外周長が小さくなるように変形する。この状態で加圧ローラを回転させるとR側とL側で回転数が同一で外周長が異なるため、周長速度、ひいては搬送速度に差が生じる。L側は回転半径L1で回転するのに対して、R側はL1よりも小さい回転半径L2で回転することになるため、相対的にL側よりもR側の搬送速度が遅くなる。
【0033】
図10を用いて、加圧ローラの硬さに回転軸方向で差が生じた場合の、寄り力発生方向を示す図である。上述の通り、加圧ローラのR側の硬さがL側よりも低いため、図10(a)に示すように、R側の搬送速度S2はL側の搬送速度L1よりも小さくなる。このとき、加圧ローラ117と平行に設けられている定着フィルム114が加圧ローラ117と接触すると、図10(b)に示すように、搬送速度の大きいL側の方が相対的に搬送方向下流側に移動するように定着フィルム114の回転軸が傾く。そして、加圧ローラ117の回転軸と定着フィルム114の回転軸に交差角が生じた状態で定着フィルム114は回転し続けることになる。その結果、上記(4)において説明した原理によってL側へ寄り力が発生するようになる。このように定着フィルム114の回転軸が加圧ローラ117の回転軸と交差角が生じ、定着フィルム114に寄り力Yが発生する要因として、加圧ローラの硬度に回転軸方向で差がある場合が考えられる。その他、加圧力Sの大きさがL側とR側で差がある場合、L側とR側で定着フィルム114の外周長に差がある場合なども、長手方向で搬送速度に差が生じうる。つまり、実際の定着装置においては、部品の公差等を含めると少なからず定着フィルム114の回転軸と加圧ローラ117の回転軸とに交差角が生じると考えられるため、いずれかの方向に寄り力が発生する。
【0034】
(6)寄り力を低減する原理
本実施例の定着装置における、寄り力を低減するメカニズムについて説明する。また、説明においては図6に示す寄り力低減機構を備えていない比較例の定着装置と比較して説明する。加圧ローラ117については、加圧ローラ硬度:L側48.0°、中央47.0°、R側45.0°(アスカーC:600g荷重)とした長手方向に硬度差がある加圧ローラを使用した。このとき、加圧ローラ117の半径(加圧ローラの回転中心とヒータ表面との距離)は、本実施例の定着装置、比較例の定着装置共にL側:6.57mm(L1)、R側:6.29mm(L2)であった。半径は周長、ひいては搬送速度に影響するため、L側はR側よりも4.45%速い搬送速度で定着フィルム114を回転させる。
【0035】
(比較例の定着装置の構成と寄り力発生状態)
比較例の定着装置と本実施例の定着装置の相違点は、定着装置を構成する支持板金130、130hの形状と、それに嵌合するフランジの形状のみである。比較例の定着装置105hについて、加圧ローラ117の回転軸方向から見た加圧ローラ117、軸受け118と支持板金130hについて、その位置関係、形状を図6に示す(図2(a)において矢印Xの方向から見た図)。比較例の定着装置の支持板金130hはガイド面ahが記録
材搬送面に対して従来通り垂直に形成されており、フランジ120hにはこれに対応するような溝が設けられている。すなわち、フランジ120hは記録材搬送面に対して略垂直に移動するように支持板金130hに保持されている。このような構成の装置において回転軸方向で搬送速度に差が生じると、図8(b)に示したように、加圧ローラ117の回転軸と定着フィルム114の回転軸が交差角を有し、L側への寄り力のみが発生する。
【0036】
(本実施例の定着装置における寄り力の発生状態)
本実施例の定着装置においても、比較例の定着装置と同様に、加圧ローラ117の硬度差によって搬送速度に長手方向で差が生じるため、定着フィルム114にL側への寄り力が発生する(図8(b))。一方で、本実施例の支持板金130は、図5に示したように加圧ローラ117がより圧縮された場合に、フランジ120が記録材搬送方向の下流側に移動するよう保持していることを特徴としており、本構成によって定着フィルム114に働く寄り力を低減する。以下、その低減メカニズムを説明する。
【0037】
本実施例の定着装置にて上記の長手方向で硬度差を有する加圧ローラ117を用いると、R側のほうがL側よりも0.28mm(=6.57mm-6.29mm)圧縮された状態となる。本実施例の支持板金130はガイド面130aが、加圧方向に対して30°の傾きを有しており、フランジ120はガイド面130aに沿って移動する。従って、定着フィルム114のR側はL側に対して、搬送方向と直交する方向において0.28mm加圧ローラ117の中心軸側に位置し、0.16mm記録材搬送方向下流側に位置することになる。なお、定着フィルム114の記録材搬送方向におけるR側とL側の間の距離は0.16mm=0.28mm×sin(90°-30°)/cos(90°-30°)と算出した。定着フィルムのR側が記録材搬送方向下流側に位置するということはすなわち、定着フィルム114と加圧ローラ117が図8(a)に示すような方向で交差角を有する状態となることから、上記(4)で説明したようにR側への寄り力が発生する。このように、本実施例の定着装置は、加圧ローラ117の長手方向での搬送速度差によってL側方向への寄り力が発生するが、同時にR側方向への寄り力が発生するため、総和としての寄り力が比較例の定着装置の寄り力に対して小さい値となる。いいかえると、本実施例の定着装置は、加圧ローラ117の硬度差によって生じた寄り力を打ち消す方向に寄り力が発生するようにガイド面130aが構成されているため、寄り力を低減することができる。
【0038】
(7)耐久試験による効果検証結果
本発明の寄り力低減効果を確認するために、本実施例の定着装置と、比較例の定着装置を用いて通紙耐久試験を行った。加圧ローラについては、加圧ローラ硬度:L側48.0°、中央47.0°、R側45.0°(アスカーC:600g荷重)とした長手方向に硬度差がある加圧ローラを使用した。更に、加圧バネについてもL側を100%とした場合のR側のバネ定数を120%として、R側の加圧ローラがより圧縮される構成として耐久試験を行った。通紙耐久試験は、A4サイズの80g/m紙を1,000,000枚連続通紙し、所定の通紙枚数ごとに定着フィルム114の状態を確認した。表1に定着フィルム114の確認を行った通紙枚数とその時点での定着フィルム114の状態を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
評価結果において、表中の記号は以下の評価結果であったことを意味する。
○:定着フィルム端部に異常なし。
×:定着フィルム端部に軽微な折れが発生。
【0041】
比較例の定着装置においては750,000枚通紙後の確認の際に、定着フィルムのL側において軽微な折れが見られた。一方で、本実施例の定着装置の場合、1,000,000枚通紙後であっても、定着フィルム端部にダメージは見られなかった。従って、比較例とした従来の定着装置に対して、本実施例の定着装置の方が定着フィルム114の寄り力が低減され、フィルム端部がダメージを受けにくい構成であるといえる。
【0042】
以上より、定着フィルム114が加圧ローラ117に対して傾くように、交差角が生じることによって発生する寄り力は、交差角を自律的に相殺する方向にフランジを移動させる本実施例の構成により低減することが可能である。すなわち、加圧ローラ117の回転軸方向の硬度差や加圧バネの左右差を起因として、加圧ローラ117と定着フィルム114に交差角が生じる場合において、定着装置を長寿命化することができる。
【0043】
なお、本実施例では記録材搬送面に直交する方向に対する支持板金のガイド面の角度を30°と設定したが、本発明はこれに限らず、適用する定着装置の加圧力、加圧ローラの外径や硬度、また、定着フィルムの外径などに応じて、適宜調整すればよい。特に、各種構成部品の寸法や材質等に合わせて、ガイド面が記録材搬送方向と直交する面となす角度を5°以上45°以下の範囲内で設定することで、寄り力低減効果がより効果的に得られる。
【0044】
<実施例2>
続いて、弾性層の材料を変更した実施例2について説明する。実施例2で使用した加圧ローラは、圧縮により体積が変化しない特性を有する材料を弾性層に用いた加圧ローラである。このような特性をもつ具体的な材料としては、ソリッドゴムや、気泡が内包されるが気泡の占める割合が少ないゴムなどがある。本実施例は、ソリッドゴムを弾性層として用いた加圧ローラを有する定着装置である。加圧ローラは実施例1と同様に回転軸方向に硬度差を有し、その硬度はL側48.0°、中央47.0°、R側45.0°(アスカーC:600g荷重)である。実施例2の定着装置を記録材搬送上流側からみた図は、実施例1と同様である(図2(a)参照)。以下、ソリッドゴムを弾性層に用いた実施例2の寄り力を低減する構成とメカニズムについて説明する。なお、実施例1と同様の構成については同一の符号を用いて説明を省略し、相違点について重点的に説明する。
【0045】
図11(a)、(b)は実施例2の定着装置(弾性層にソリッドゴムを用いた加圧ローラ217を使用した定着装置)の断面図であり、実施例1と同様、L側がA-A断面図、R側がB-B断面図である。図11(a)(b)に示すように、それぞれの加圧ローラ217中心から定着ニップ部Nまでの距離をL1、L2とすると、硬度の低い側がより圧縮されてつぶれるため、L1>L2となる。
【0046】
ソリッドゴムを弾性層に用いた加圧ローラ217の場合、ゴムがより圧縮されると、ゴムが図11(b)に示す矢印Kの方向に伸びるように体積一定のまま変形する。そのため、ゴムは潰せば潰すほど伸ばされて、加圧ローラ217の外周長が大きくなり、記録材の搬送速度は速くなる。よって、弾性層がソリッドゴムで形成され、上述の硬さを有するローラを使用すると、実施例1の(5)において説明した原理に基づいて、図8(a)に示す状態となり、定着フィルム114にはR側へ寄る力が発生する。実施例2においても、この寄り力を相殺するように加圧ローラ217のつぶれ量に応じて、フランジ220を記録材搬送方向に対して移動するようにしている。
【0047】
図12(a)、(b)は実施例2の定着装置について、加圧ローラ217の回転軸方向から見た加圧ローラ217、軸受け118、及び支持板金230について、その位置関係と形状を示した図である。実施例1と同様に、支持板金230のガイド面230aは記録材搬送方向と直交する面に対して30°の傾きを有しているが、その傾き方向は実施例1と反対方向である。つまり、フィルムガイド115が加圧ローラ217に近づくほどニップ部は記録材搬送方向の上流側に形成されるように、ガイド面230aは傾斜している。すなわち、フランジ220が加圧バネ140から加圧力Sを受けて、加圧ローラ217に近づくほど、又は加圧ローラ217がより大きく圧縮するほど、フランジ220は搬送方向上流側へ移動する構成となっている。実施例2において、加圧ローラ217のR側の方がより圧縮されるため、図8(b)に示すように、定着フィルム114はR側がL側よりも搬送方向下流側に位置するように移動する。このとき、寄り力は定着フィルムをL側へ移動させるように生じるため、搬送速度差によって生じたR側への寄り力を低減させる。以上の構成により、弾性層がソリッドゴムなどで形成された場合においても、実施例1と同様に定着フィルム114に強い寄り力が発生することを防止することができ、定着装置を長寿命化することが可能となる。
【0048】
<変形例>
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、回転軸方向でローラの硬さが予め明らかであるときは、記録材の搬送速度差によって発生する寄り力を打ち消す方向に寄り力を生じさせるため、記録材の搬送面と直交した2つのガイド面を左右でずらして設けてもよい。
【符号の説明】
【0049】
112…ヒータ、114…定着フィルム(フィルム)、115…フィルムガイド、117…加圧ローラ(ローラ)、117b…弾性層、120…フランジ(規制部材)、130…支持板金(フレーム)、140…加圧バネ(加圧機構)、N…ニップ部、P…記録材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12