IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ピアス株式会社の特許一覧

特開2022-189086ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤
<>
  • 特開-ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤 図1
  • 特開-ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤 図2A
  • 特開-ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤 図2B
  • 特開-ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤 図3
  • 特開-ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤 図4A
  • 特開-ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤 図4B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189086
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20221215BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q19/00
A61Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097462
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000112266
【氏名又は名称】ピアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】國米 恵子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳典
(72)【発明者】
【氏名】情野 治良
(72)【発明者】
【氏名】久恒 幸也
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和彦
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AD321
4C083AD322
4C083CC02
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌の各バイオフィルム形成を好適にコントロールできるブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤は、アミノ基部分で化学修飾されているキトサン誘導体、及び、βキチン繊維のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基部分で化学修飾されているキトサン誘導体、及び、βキチン繊維のうち少なくとも一方を含む、ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤。
【請求項2】
前記キトサン誘導体と前記キチン繊維とを含む、請求項1に記載のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤。
【請求項3】
前記キトサン誘導体が部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサンである、請求項1又は2に記載のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤を含む、皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば皮膚に塗布されて使用される、ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚上には、様々な微生物が皮膚常在菌として存在している。皮膚常在菌としては、皮膚にとって有益な表皮ブドウ球菌、及び、有害な黄色ブドウ球菌などが挙げられる。表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌は、いずれも皮膚上でバイオフィルムをそれぞれ形成することが知られている。健常な皮膚上においては、黄色ブドウ球菌よりも表皮ブドウ球菌が優勢である一方で、疾患を有する皮膚においては、黄色ブドウ球菌が優勢であることが知られていることから、皮膚疾患を改善させるためには、黄色ブドウ球菌よりも表皮ブドウ球菌を優勢にすべきと考えられている。換言すると、表皮ブドウ球菌のバイオフィルムの形成を活発にさせる一方で、黄色ブドウ球菌のバイオフィルムの形成を抑制することが好ましいと考えられている。
【0003】
ところが、上記の2種のブドウ球菌は、分類学的に近い種類であるため、表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成のみを優勢にすることは、比較的困難である。例えば、従来のバイオフィルムコントロール剤を皮膚に塗布したとしても、表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成が同時に抑えられたり、同時に促進されたりする。従って、表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成のみを促進させたり、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成のみを抑えたりすることができる、ブドウ球菌のバイオフィルムコントロール剤が要望されている。
【0004】
これに対して、有益な表皮ブドウ球菌よりも、有害な黄色ブドウ球菌の生育をより大きく抑制できる皮膚常在菌制御用塗布剤が知られている(例えば特許文献1)。
特許文献1に記載の皮膚常在菌制御用塗布剤は、乳酸マグネシウム及び/又は乳酸カルシウムを有効成分として含む。
特許文献1に記載の皮膚常在菌制御用塗布剤は、皮膚に塗布されることによって、表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌の両方の生育を抑制してしまうものの、表皮ブドウ球菌よりも黄色ブドウ球菌の生育をより抑制できる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の皮膚常在菌制御用塗布剤は、表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌の両方の生育を抑制することから、表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成をあまり阻害せずに黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を抑制させる性能、又は、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成をほとんど促進させずに表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成を促進させるといった性能が必ずしも十分でないという問題がある。換言すると、2種類のブドウ球菌のバイオフィルム形成を好適にコントロールする性能を有しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-052891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点等に鑑み、2種類のブドウ球菌のバイオフィルム形成を好適にコントロールできる、ブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤は、アミノ基部分で化学修飾されているキトサン誘導体、及び、βキチン繊維のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。
上記のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤によれば、表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌の各バイオフィルム形成を好適にコントロールできる。
【0009】
本発明に係るブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤は、前記キトサン誘導体と前記βキチン繊維とを含むことが好ましい。
本発明に係るブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤において、前記キトサン誘導体が部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサンであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る皮膚外用剤は、上記のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤を含むことを特徴とする。
上記の皮膚外用剤を皮膚に塗布することによって、表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌の各バイオフィルム形成を好適にコントロールできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤及び皮膚外用剤は、2種類のブドウ球菌のバイオフィルム形成を好適にコントロールできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】キトサン誘導体を含む本実施形態の組成物がブドウ球菌のバイオフィルム形成に与える影響を表すグラフ。
図2A】βキチン繊維を含む本実施形態の組成物がブドウ球菌のバイオフィルム形成に与える影響を表すグラフ。
図2B】セルロース繊維を含む組成物がブドウ球菌のバイオフィルム形成に与える影響を表すグラフ。
図3】キトサン誘導体及びβキチン繊維を含む本実施形態の組成物がブドウ球菌のバイオフィルム形成に与える影響を表すグラフ。
図4A】キトサン誘導体を含む本実施形態の組成物がブドウ球菌のバイオフィルム形成及び増殖に与える影響を表すグラフ。
図4B】βキチン繊維を含む本実施形態の組成物がブドウ球菌のバイオフィルム形成及び増殖に与える影響を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤(皮膚外用組成物)の一実施形態について以下に説明する。以下、これら両方をそれぞれ単に組成物と称する場合がある。
【0014】
本実施形態の組成物は、アミノ基部分で化学修飾されているキトサン誘導体、及び、βキチン繊維のうち少なくとも一方を含む。
【0015】
上記のキトサン誘導体は、キトサンを構成するD-グルコサミン構造における2位の炭素に結合したアミノ基が化学修飾された化合物である。上記のキトサン誘導体は、水に溶解し得る。
上記のキトサン誘導体としては、例えば、上記のアミノ基に1価有機酸が部分的にアミド結合したアシル化キトサン誘導体が挙げられる。換言すると、キトサンにおけるアミノ基のうちの一部に1価有機酸がアミド結合したアシル化キトサン誘導体が挙げられる。上記のキトサン誘導体としては、例えば、上記のアミノ基の1つのHがアシル基に置換されたアシル化キトサン誘導体が挙げられる。
なお、上記のキトサン誘導体において、ピラノース環を構成する炭素(例えば3位の炭素)に結合したヒドロキシ基のHもアシル基に置換されていてもよい。
【0016】
上記のごとく部分的にアミド結合する有機酸としては、例えば、炭素数12以上22以下の脂肪酸が挙げられる。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などが挙げられる。換言すると、上記のごとき置換基としてのアシル基としては、炭素数12以上22以下の脂肪族アシル基が挙げられる。具体的には、脂肪族アシル基としては、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ベヘノイル基などが挙げられる。
換言すると、上記のキトサン誘導体としては、部分ラウロイル化キトサン誘導体、部分ミリストイル化キトサン誘導体、部分パルミトイル化キトサン誘導体、部分ステアロイル化キトサン誘導体といった脂肪族アシル化キトサン誘導体)が挙げられる。
【0017】
上記のキトサン誘導体において、通常、一部のアミノ基が化学修飾されている。
上記のキトサン誘導体としては、表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)のバイオフィルム形成をより十分に促進できるという点で、一部のアミノ基が有機基で化学修飾された部分アシル化キトサン誘導体が好ましく、一部のアミノ基が脂肪族有機基で化学修飾された部分脂肪族アシル化キトサン誘導体がより好ましい。
部分脂肪族アシル化キトサン誘導体としては、部分ラウロイル化キトサン誘導体、部分ミリストイル化キトサン誘導体、部分パルミトイル化キトサン誘導体、部分ステアロイル化キトサン誘導体、及び、部分ベヘノイル化キトサン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、部分ミリストイル化キトサン誘導体がさらに好ましい。
【0018】
上記のキトサン誘導体は、D-グルコサミン構造における6位の炭素と隣り合う酸素原子部分でさらに化学修飾されていてもよい。
斯かる化学修飾によって上記の酸素原子に結合している官能基としては、カルボキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、メチル基などが挙げられる。2種類のブドウ球菌のバイオフィルム形成を好適にコントロールできるという点では、上記の官能基は、カルボキシメチル基であることが好ましい。
【0019】
上記の部分脂肪族アシル化カルボキシメチルキトサンの平均分子量は、50万以上100万以下であることが好ましい。部分脂肪族アシル化カルボキシメチルキトサンの脂肪族基(例えばミリストイル基)の導入率は、0.10%以上50.0%以下であることが好ましい。
【0020】
部分脂肪族アシル化カルボキシメチルキトサンにおける脂肪族基の導入率(%)とは、カルボキシルメチルキトサンの構成単糖であるヘキソサミン100残基当りの導入率を示す。例えば、脂肪族基の導入率10.0%の部分脂肪族アシル化カルボキシメチルキトサンとは、構成単糖であるカルボキシメチルグルコサミン100残基にミリストイル基が10個導入されていることを示す。
部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサンとしては、平均分子量が50万~100万のカルボキシメチルキトサンにミリストイル基が0.10%~50.0%の導入率で導入されたものが好ましい。
【0021】
上記のキトサン誘導体としては、市販製品を用いることができる。例えば、部分脂肪族アシル化カルボキシメチルキトサン(部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン)として、製品名「MCキトサン」(ピアス社製)などを用いることができる。
【0022】
上記のキトサン誘導体は、組成物に例えば0.001質量%以上1.000質量%以下(固形物換算値)含まれる。
【0023】
本実施形態の組成物における、上記のキトサン誘導体の濃度(固形物換算値)は、0.002質量%以上0.500質量%以下であることが好ましく、0.003質量%以上0.100質量%以下であることがより好ましい。
上記の含有量であることによって、表皮の角化をより改善できるという利点がある。
【0024】
本実施形態の組成物は、上記のキトサン誘導体を含みβキチン繊維を含まない場合、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)の増殖抑制にあまり影響を及ぼさないが、バイオフィルムを形成しやすい黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を阻害することができる。これに対して、上記のキトサン誘導体を含む組成物は、表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)の増殖抑制にあまり影響を及ぼさないが、本来バイオフォルムをあまり形成しない表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成を促進する。従って、上記のキトサン誘導体を含む本実施形態の組成物は、皮膚等に塗布された後に、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)よりも表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)の方を皮膚上で優位に定着させることができる。換言すると、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)がバイオフィルムを形成して皮膚上に定着することを阻害しつつ、表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)がバイオフィルムを形成して皮膚上に定着することを促進できる。このように、2種類のブドウ球菌のバイオフィルム形成を好適にコントロールできることから、皮膚を良好な状態にすることができる。
【0025】
本実施形態の組成物が含み得るβキチン繊維は、ポリN-アセチルグルコサミンで形成された繊維状物を含む。斯かる繊維状物は、通常、水不溶性であるため、水を含む溶媒に分散し得る。βキチン繊維は、複数の繊維状物で形成され、各繊維状物では、束になった複数の糖鎖が、繊維状物の繊維長方向に延びている。
各繊維状物の太さは、通常、1nm以上100nm以下である。
【0026】
βキチン繊維は、複数の繊維状物で形成され、各繊維状物では、ポリβ-1,4-N-アセチル-D-グルコサミンの複数の糖鎖が、繊維状物の繊維長方向に延びつつ繊維径方向に隣り合っている。
【0027】
βキチン繊維は、例えばイカの中骨(軟骨)由来のβキチンから調製される。βキチンはαキチンに比べ、分子中の水素結合が少なく結晶構造が弱いことから、水への膨潤性や均一分散性、生体や細胞への親和性、酵素分解性等がより高まる特性を有する。βキチン繊維は、複数の繊維状物で形成され、各繊維状物では、ポリβ-1,4-N-アセチル-D-グルコサミンの複数の糖鎖が、繊維状物の繊維長方向に延びつつ繊維径方向に隣り合っている。βキチン繊維のβキチンは、上記の隣り合う糖鎖のβ-1,4結合の向きが、糖鎖長方向において互いに同じ向きである。一方、例えばカニやエビ等の甲殻類の外骨格(殻)から得ることができるαキチンから調製されるαキチン繊維は、隣り合うポリβ-1,4-N-アセチル-D-グルコサミンの糖鎖のβ-1,4結合の向きが、糖鎖長方向において互いに逆向きである。
【0028】
αキチン繊維の繊維状物では、隣り合うポリβ-1,4-N-アセチル-D-グルコサミンの糖鎖のβ-1,4結合の向きが、糖鎖長方向において互いに逆向きである。一方、βキチン繊維の繊維状物では、上記の隣り合う糖鎖のβ-1,4結合の向きが、糖鎖長方向において互いに同じ向きである。
【0029】
上記のβキチン繊維としては、例えば、原料名「βキチンナノファイバー液(βキチンNF)」(ヤヱガキ醗酵技研社製)などを用いることができる。
【0030】
上記のβキチン繊維は、組成物に例えば0.001質量%以上1.000質量%以下(固形物換算値)含まれる。
【0031】
本実施形態の組成物における、βキチン繊維の濃度(固形物換算値)は、0.002質量%以上0.500質量%以下であることが好ましく、0.003質量%以上0.100質量%以下であることがより好ましい。
上記の含有量であることによって、表皮の角化をより改善できるという利点がある。
【0032】
本実施形態の組成物は、βキチン繊維を含みキトサン誘導体を含まない場合、表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)の増殖抑制にあまり影響を及ぼさず、バイオフィルム形成にもあまり影響を及ぼさない。これに対して、βキチン繊維を含む本実施形態の組成物は、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)の増殖抑制にあまり影響を及ぼさないが、本来バイオフィルムを形成しやすい黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を抑制することができる。従って、βキチン繊維を含む本実施形態の組成物は、皮膚等に塗布された後に、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)よりも、表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)を皮膚上で優位に定着させることができる。換言すると、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)がバイオフィルムを形成して皮膚上に定着することを阻害することにより、表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)が皮膚上に定着することを促進できる。このように、2種類のブドウ球菌のバイオフィルム形成を好適にコントロールできることから、皮膚を良好な状態にすることができる。
【0033】
本実施形態の組成物は、上記のキトサン誘導体及びβキチン繊維の両方を含むことが好ましい。特に、上記の部分脂肪族アシル化カルボキシメチルキトサンをキトサン誘導体として含むことが好ましい。
本実施形態の組成物が上記のキトサン誘導体及びβキチン繊維の両方を含む場合、βキチン繊維によって黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)のバイオフィルム形成を抑制しつつ、キトサン誘導体によって表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)のバイオフィルム形成を促進できる。これにより、皮膚等に塗布された組成物は、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)よりも表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)を皮膚上でより優位に定着させることができる。このように2種類のブドウ球菌のバイオフィルム形成をより好適にコントロールできることから、皮膚をより良好な状態にすることができる。
【0034】
本実施形態の組成物では、固形物換算値で、βキチン繊維(Y)に対する、上記のキトサン誘導体(X)の質量比(X/Y)が、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、質量比(X/Y)が、200以下であることが好ましく、150以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましい。
斯かる質量比(X/Y)が上記の数値範囲内であることにより、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成をより抑制しつつ表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成をより促進させることができる。よって、組成物を皮膚に塗布したときに皮膚をより良好な状態にすることができる。
【0035】
本実施形態の組成物は、通常、水を含む。本実施形態の組成物は、上述した成分以外にも、一般的な化粧料や皮膚外用剤等に配合される成分を含んでもよい。本実施形態の組成物が含み得る成分としては、例えば、ジプロピレングリコール、グリセリン、ペンチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール類が挙げられる。また、例えば、防腐剤、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン類、酵素等の成分が挙げられる。本実施形態の組成物は、医薬部外品原料規格、化粧品種別配合成分規格、化粧品原料基準、日本薬局方、食品添加物公定書規格等に記載の成分で構成される。
【0036】
本実施形態の組成物の性状は、特に限定されないが、通常、液状である。
【0037】
本実施形態の組成物は、上述したキトサン誘導体又はβキチン繊維と、その他の成分とを一般的な方法によって混合撹拌することによって製造できる。
【0038】
本実施形態の上記組成物は、例えば、皮膚などに塗布されて使用される。上記の組成物は、例えば、顔の皮膚、首の皮膚、四肢の皮膚、頭皮、毛髪、鼻孔・唇・耳・生殖器・肛門などにおける粘膜に塗布されることが可能な人体への外用剤である。上記の組成物は、薬機法上の化粧料、医薬部外品、医薬品等の分類には特に拘束されず、さまざま用途に適用される。
【0039】
本発明のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤、及び、皮膚外用剤は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の実施形態に限定されるものではない。また、本発明では、一般の皮膚外用剤等において採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例0040】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<試験で使用した物質>
[アミノ基部分で化学修飾されているキトサン誘導体含有液]
部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン(カルボキシメチルキトサンミリスタミド)製品名「MCキトサン」(ピアス社製)固形分1.0質量%の液
[βキチン繊維含有液]
原料名「βキチンナノファイバー液(βキチンNF)」(ヤヱガキ醗酵技研社製)
イカ中骨に対してアルカリ処理及び酸処理を施して得られたβキチンの粉末を水に分散させた。この分散液同士を高圧で衝突させる処理によって得られた、太さ2~8nmの繊維状物を含む分散液。固形分1.6質量%の液。
[参考:セルロース繊維含有液]
(製品名「レオクリスタ」第一工業製薬社製)固形分濃度2質量%
20%濃度に希釈(5倍希釈)した液(固形分0.4質量%)を試験液として使用
【0042】
<試験1>上記キトサン誘導体のバイオフィルム形成
[試験液Aの調製]
TSB(Tryptone Soya Broth)培地を用いて、上記キトサン誘導体含有液を10質量%濃度から2倍希釈系列で0.02質量%濃度まで濃度調整した(10濃度)。
[細菌含有液Bの調製]
皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌(ア)及び表皮ブドウ球菌(イ)を製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC)からそれぞれ購入した。
(ア)黄色ブドウ球菌(悪玉菌)
Staphylococcus aureus : NBRC 13276
(イ)表皮ブドウ球菌(善玉菌)
Staphylococcus epidermidis : NBRC 12993
TSB(Tryptone Soya Broth)培地を用いて、上記の試験菌を37℃で好気的に定常状態に達するまで前培養した。この前培養菌を等量混合し、1×10cfu/mLとなるようにTSB培地で濃度調整して、細菌含有液を調製した。
[バイオフィルムの形成/定量]
1.96wellマイクロプレート(IWAKI ポリスチレン製)に、TSB培地を用いて調製した試験液A(上記キトサン誘導体を含有)を各wellに100μLずつ分注した(10質量%濃度から2倍希釈系列で0.01質量%濃度まで11濃度(各濃度 n=4))。
2.上記の細菌含有液Bを各wellに10μLずつ接種した。
3.上記キトサン誘導体を含まないTSB培地をコントロールとした。
4.37℃、好気的条件下で24時間培養し、wellの底に皮膚常在菌のバイオフィルム(以下BF)を形成させた。
5.BFの形成が完了した後、滅菌水を用いて洗浄しwellを乾燥させた。
6.0.1%(w/v)のクリスタルバイオレット溶液100μLを各wellに加えて30分間染色処理を行った。
7.染色処理が終了したプレートを滅菌水で3回洗浄した。
8.各wellにエタノール100μLを加えて、バイオフィルム中のクリスタルバイオレットを抽出し、吸光度(OD570)を測定した。
【0043】
試験1の結果を図1に示す。図1から把握されるように、キトサン誘導体(部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン)によって、黄色ブドウ球菌のBF形成を抑制できる一方で、表皮ブドウ球菌のBF形成を促進できた。
【0044】
<試験2>βキチン繊維のバイオフィルム形成
[試験液C及び試験液Dの調製]
TSB(Tryptone Soya Broth)培地を用いて、βキチン繊維及びセルロース繊維の各含有液を10質量%濃度から2倍希釈系列で0.01質量%濃度まで濃度調整した(11濃度)。
- 試験液C(βキチン繊維含有)
- 試験液D(セルロース繊維含有)
[細菌含有液Bの調製]
上記の皮膚常在菌(ア)及び皮膚常在菌(イ)を用いた。各試験菌を、TSB(Tryptone Soya Broth)培地を用いて、37℃で好気的に定常状態に達するまで前培養した。この前培養菌を等量混合し、1×10cfu/mLとなるようにTSB培地で濃度調整して、細菌含有液Bを調製した。
[バイオフィルムの形成/定量]
1.96wellマイクロプレート(IWAKI ポリスチレン製)に、TSB培地を用いて調製したβキチン繊維又はセルロース繊維を含む試験液C、Dを各wellに100μLずつ分注した(10質量%濃度から2倍希釈系列で0.01質量%濃度まで11濃度(各濃度 n=4))。
2.上記の細菌含有液Bを各wellに10μLずつ接種した。
3.上記βキチン繊維及びセルロース繊維のいずれも含まないTSB培地をコントロールとした。
4.37℃、好気的条件下で24時間培養し、wellの底に皮膚常在菌のバイオフィルム(以下BF)を形成させた。
5.BFの形成が完了した後、滅菌水を用いて洗浄しwellを乾燥させた。
6.0.1%(w/v)のクリスタルバイオレット溶液100μLを各wellに加えて30分間染色処理を行った。
7.染色処理が終了したプレートを滅菌水で3回洗浄した。
8.各wellにエタノール100μLを加えて、バイオフィルム中のクリスタルバイオレットを抽出し、吸光度(OD570)を測定した。
【0045】
試験2の結果を図2A(βキチン繊維)及び図2B(セルロース繊維)に示す。図2Aから把握されるように、所定の濃度ではβキチン繊維によって、黄色ブドウ球菌のBF形成を抑制できる一方で、表皮ブドウ球菌のBF形成を促進できた。また、図2Bから把握されるように、セルロース繊維を培地に添加しても、悪玉菌である黄色ブドウ球菌のBF形成よりも、善玉菌である表皮ブドウ球菌のBF形成をより強く抑制してしまった。
【0046】
<試験3>上記キトサン誘導体と上記βキチン繊維との組み合わせた場合のバイオフィルム形成
[試験液Eの調製]
上記キトサン誘導体含有液及び上記βキチン繊維含有液の各試料を、TSB培地を用いて、終末の濃度が下記の組み合わせになるように希釈した。
【0047】
【表1】
[細菌含有液Bの調製]
上記の皮膚常在菌(ア)及び皮膚常在菌(イ)を用いた。各試験菌を、TSB(Tryptone Soya Broth)培地を用いて、37℃で好気的に定常状態に達するまで前培養した。この前培養菌を等量混合し、1×10cfu/mLとなるようにTSB培地で濃度調整して、細菌含有液Bを調製した。
[バイオフィルムの形成/定量]
1.96wellマイクロプレート(IWAKI ポリスチレン製)に、TSB培地を用いて調製した試験液Eを各wellに100μLずつ分注した(各濃度 n=4)。
2.上記の細菌含有液Bを各wellに10μLずつ接種した。
3.上記βキチン繊維を含まない、上記キトサン誘導体5質量%添加TSB培地をコントロールとした。
4.37℃、好気的条件下で24時間培養し、wellの底に皮膚常在菌のバイオフィルム(以下BF)を形成させた。
5.BFの形成が完了した後、滅菌水を用いて洗浄しwellを乾燥させた。
6.0.1%(w/v)のクリスタルバイオレット溶液100μLを各wellに加えて30分間染色処理を行った。
7.染色処理が終了したプレートを滅菌水で3回洗浄した。
8.各wellにエタノール100μLを加えて、バイオフィルム中のクリスタルバイオレットを抽出し、吸光度(OD570)を測定した。
【0048】
試験3の結果を図3に示す。図3から把握されるように、上記のキトサン誘導体とβキチン繊維とを組み合わせることによって、黄色ブドウ球菌のBF形成を抑制しつつ、表皮ブドウ球菌のBF形成を促進できた。
【0049】
<試験4>バイオフィルム形成量及び増殖生菌数の各測定
・キトサン誘導体のバイオフィルムの形成促進作用と生菌増殖促進作用との関係性
・βキチン繊維のバイオフィルムの形成阻害作用と生菌増殖促進作用との関係性
[試験液F及び試験液Gの調製]
TSB(Tryptone Soya Broth)培地を用いて、上記キトサン誘導体含有液を10質量%濃度から2倍希釈で濃度調整し(5濃度)、試験液Fを調製した。
TSB(Tryptone Soya Broth)培地を用いて、上記βキチン繊維含有液を10質量%濃度から2倍希釈で濃度調整し(5濃度)、試験液Gを調製した。
[細菌含有液Bの調製]
上述した皮膚常在菌(ア)及び(イ)の各試験菌を、TSB(Tryptone Soya Broth)培地を用いて、37℃で好気的に定常状態に達するまで前培養した。この前培養菌を等量混合し、1×10cfu/mLとなるようにTSB培地で濃度調整して、細菌含有液Bを調製した。
[バイオフィルムの形成](マイクロプレート2枚に同様の操作)
1.96wellマイクロプレート(IWAKI ポリスチレン製)に、TSB培地を用いて調製したβキチン繊維を含む試験液F及びGを各wellに100μLずつ分注した。
2.上記の細菌含有液Bを各wellに10μLずつ接種した。
3.有効成分を含まないTSB培地をコントロールとした。
4.37℃、好気的条件下で24時間培養し、wellの底に皮膚常在菌のバイオフィルム(以下BF)を形成させた。
[バイオフィルムの定量](1枚目のマイクロプレート)
5.BFの形成が完了した後、滅菌水を用いて洗浄しwellを乾燥させた。
6.0.1%(w/v)のクリスタルバイオレット溶液100μLを各wellに加えて30分間染色処理を行った。
7.染色処理が終了したプレートを滅菌水で3回洗浄した。
8.各wellにエタノール100μLを加えて、バイオフィルム中のクリスタルバイオレットを抽出し、吸光度(OD570)を測定した。
[well中のバイオフィルム形成量及び浮遊菌の総生菌の測定](2枚目のマイクロプレート)
9.2枚目のマイクロプレートの各Wellに細胞外ATPの消去試薬を添加した。
10.細胞外ATP消去処理が終了した後、ATP抽出試薬を添加し、各Wellの底部のバイオフィルムを剥がすようにピペットにて撹拌した。
11.測定用チューブにwell中の試料を移した。
12.ATP発光試薬を添加して撹拌した後、ATP量を測定した。
13.このATP発光量は、well中のバイオフィルム形成量、及び、浮遊菌の総生菌に相当する。
[ATP測定]
測定装置 : マイクロテックニチオン ルミノメーター
測定試薬 : キッコーマンバイオケミファ
【0050】
試験4の結果を図4A及び図4Bに示す。図4Aに示すように、キトサン誘導体によって、皮膚常在菌の増殖が必ずしも強く抑制されていないにも関わらず、表皮ブドウ球菌のBF形成が促進され、黄色ブドウ球菌のBF形成が抑制された。また、図4Bに示すように、βキチン繊維についても同様であったが、比較的高濃度のβキチン繊維によって、黄色ブドウ球菌の増殖が抑制される傾向があった。
換言すると、キトサン誘導体、及び、キチン繊維は、皮膚常在菌の増殖をあまり阻害しないにも関わらず、バイオフィルムの形成を促進したり抑制したりできるといえる。よって、キトサン誘導体、及び、キチン繊維によるバイオフィルムの形成阻害又は形成促進の作用機序は、皮膚常在菌の増殖促進又は増殖抑制の作用機序とは異なると考えられる。
【0051】
なお、参考試験として、αキチン繊維を用いて同様の試験を実施したところ、αキチン繊維は、上記のセルロース繊維と同様に、悪玉菌である黄色ブドウ球菌のBF形成よりも、善玉菌である表皮ブドウ球菌のBF形成をより強く抑制してしまった。
【0052】
上記の結果から、実施例に相当する試験サンプル(組成物)を皮膚に塗布することによって、表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成を促進させつつ黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を抑制できると考えられる。皮膚における表皮ブドウ球菌数が増えるほど、経表皮水分蒸散量(TEWL)が減少することを別途試験によって確認した。経表皮水分蒸散量(TEWL)の値が低いほど、皮膚から蒸散する水分量が少ないため、皮膚の状態が良好になるといえる。よって、皮膚をより健常な状態にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤及び皮膚外用剤は、例えば、健常な皮膚等の状態を維持させるために、皮膚などに塗布されて使用される。また、本発明のブドウ球菌のバイオフィルム形成コントロール剤及び皮膚外用剤は、例えば、炎症などによって悪化した皮膚等の状態を改善させるために、皮膚などに塗布されて使用される。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B