(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189147
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】蓄電素子及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20221215BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221215BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20221215BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20221215BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0566
H01M4/133
H01M50/491
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097550
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】上平 健太
(72)【発明者】
【氏名】山口 和輝
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE02
5H021HH00
5H021HH02
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ07
5H029HJ17
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA19
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大を抑制できる蓄電素子を提供する。
【解決手段】負極活物質層を有する負極と、上記負極活物質層の表面に重ねられたセパレータと、非水電解液とを備えており、上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が0.6μm以下であり、上記セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上である蓄電素子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質層を有する負極と、
上記負極活物質層の表面に重ねられたセパレータと、
非水電解液と
を備えており、
上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が0.6μm以下であり、
上記セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上である蓄電素子。
【請求項2】
上記負極活物質層が負極活物質を含有し、
上記負極活物質が黒鉛である請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
上記セパレータの透気度が150秒/100cm3以下である請求項1又は請求項2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
上記セパレータの空孔率が55体積%以上70体積%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の蓄電素子。
【請求項5】
ハイブリッド自動車電源用である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蓄電素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蓄電素子と、
上記蓄電素子の充放電の制御を行う制御部と
を備え、
上記制御部により制御される上記蓄電素子における充放電の最大電流密度が6mA/cm2以上である蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。また、非水電解液二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタ、非水電解液以外の電解液が用いられた蓄電素子等も広く普及している。
【0003】
上記蓄電素子としては、例えば正極板としての第1電極板、負極板としての第2電極板、及びセパレータを捲回してなる電極体であって、第1電極板の活物質塗工部と第2電極板の活物質塗工部とセパレータとが重なり合う発電部を有する電極体と、これを収容する電池ケースとを備えるリチウムイオン二次電池が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、蓄電素子は、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車といった自動車分野に適用されており、上記自動車等のエネルギー源としては、急速充電性能を有する蓄電素子が求められている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、以下の知見が得られた。充放電の繰り返しに伴って負極活物質層が膨張及び収縮することによりセパレータが繰り返し加圧及び解放され、セパレータの空孔から電解液が押し出されたり、セパレータの空孔へ再度含浸されたりする。特に、圧迫に対する厚さの変化量が大きいセパレータを使用した場合、セパレータの空孔から押し出される電解液の量は多くなる。高電流密度で充放電が繰り返される場合、セパレータの空孔から押し出された電解液がセパレータの空孔へ再度含浸する速度が追い付かず、セパレータの空孔において電解液が枯渇した状態となり、蓄電素子の抵抗が増大するという現象が生じやすくなる。
【0006】
本発明の目的は、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大を抑制できる蓄電素子を提供することである。また、高電流密度で充放電を行うことができ、かつ高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大を抑制できる蓄電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、負極活物質層を有する負極と、上記負極活物質層の表面に重ねられたセパレータと、非水電解液とを備えており、上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が0.6μm以下であり、上記セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上である蓄電素子である。
【0008】
本発明の他の一側面は、当該蓄電素子と、上記蓄電素子の充放電の制御を行う制御部とを備え、上記制御部により制御される上記蓄電素子における充放電の最大電流密度が6mA/cm2以上である蓄電装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大を抑制できる蓄電素子を提供することができる。また、本発明の他の一側面によれば、高電流密度で充放電を行うことができ、かつ高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大を抑制できる蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る蓄電装置及びこれを車両に搭載した状態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本明細書によって開示される蓄電素子及び蓄電装置の概要について説明する。
【0012】
本発明の一側面は、負極活物質層を有する負極と、上記負極活物質層の表面に重ねられたセパレータと、非水電解液とを備えており、上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が0.6μm以下であり、上記セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上である蓄電素子である。
【0013】
当該蓄電素子は、高温での圧縮下における厚さの変化量が大きいセパレータを用いた場合においても、上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が特定の範囲以下であることで、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大を抑制できる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。一般的に蓄電素子においては、充放電に伴う負極活物質へのイオンの出入り等により、負極活物質層が膨張すると、セパレータが圧縮され、セパレータの空孔に含浸されている電解液は電極体外へ押し出される。特に、上記セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上である場合、セパレータが厚さ方向に圧縮されやすいため、上記のような現象が顕著に生じる。これに対し当該蓄電素子においては、上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が0.6μm以下であるため、高温での圧縮下における厚さの変化量が大きいセパレータを用いても、充放電に伴って負極活物質層が膨張することによるセパレータの圧縮が生じにくく、電解液が電極体外へ押し出されにくい。従って、当該蓄電素子によれば、高電流密度で充放電が繰り返されても、セパレータの空孔において電解液の枯渇が生じにくくなるため、抵抗の増大を抑制できると推測される。
【0014】
上記負極活物質層が負極活物質を含有し、上記負極活物質が黒鉛であることが好ましい。上記負極活物質が黒鉛であることで、高容量化及び高率充放電性能の向上を図ることができる。また、黒鉛は炭素材料の中では充電に伴う膨張率が高い負極活物質であるため、負極活物質として黒鉛が用いられている場合、セパレータから押し出される電解液の量は多くなる。従って、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大が抑制されるという効果が顕著に表れる。
【0015】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電された状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛等の炭素材料の「放電された状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウム等のイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属リチウム(Li)を対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0016】
上記セパレータの透気度が150秒/100cm3以下であることが好ましい。セパレータの透気度が150秒/100cm3以下であることで、高電流密度での充放電時に負極に対して十分なリチウム等のイオンを供給することができるため、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大の抑制効果及び出力をより高めることができる。ここで、「透気度」は、ガーレ値ともいい、一定圧力差のもとで100cm3の空気が一定面積の試料を通過する時間を示し、JIS-P8117(2009)に準拠して測定される値である。
【0017】
上記セパレータの空孔率が55体積%以上70体積%以下であることが好ましい。上記セパレータの空孔率が上記範囲であることで、セパレータの強度を維持しつつ、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大の抑制効果をより高めることができる。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0018】
当該蓄電素子は、ハイブリッド自動車電源用であることが好ましい。ハイブリッド自動車電源は、一般的に高電流密度で充放電が行われ、抵抗の増大を抑制することが特に重要となる。従って、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大が抑制されている当該蓄電素子は、ハイブリッド自動車電源用として特に有用である。
【0019】
「ハイブリッド自動車」とは、2つ以上の動力源(原動機)を有する自動車であり、通常、内燃機関(エンジン)と電動機(モーター)とを動力源として有する。
【0020】
本発明の他の一側面は、当該蓄電素子と、上記蓄電素子の充放電の制御を行う制御部とを備え、上記制御部により制御される上記蓄電素子における充放電の最大電流密度が6mA/cm2以上である蓄電装置である。
【0021】
当該蓄電装置は、高電流密度で充放電を行うことができ、かつ高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大を抑制できる。
【0022】
「最大電流密度」とは、蓄電素子の充放電を行う際に制御部により制御される最大電流(制御される電流の上限値)を、正極活物質層と負極活物質層とが対向している面積で除した値をいう。
【0023】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、及び蓄電素子の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0024】
<蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解液と、上記電極体及び非水電解液を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して重ねられた積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して重ねられた状態で巻回された巻回型である。非水電解液は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。蓄電素子の一例として、非水電解液二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0025】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。
【0026】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0027】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0028】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0029】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0030】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
上記負極活物質は、黒鉛であることが好ましい。上記負極活物質が黒鉛であることで、高容量化及び高率充放電性能の向上を図ることができる。また、黒鉛は炭素材料の中では充電に伴う膨張率が高い負極活物質であるため、負極活物質として黒鉛が用いられている場合、セパレータから押し出される電解液の量は多くなる。従って、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大が抑制されるという効果が顕著に表れる。
【0032】
上記黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。当該蓄電素子の負極活物質としては、天然黒鉛が好ましく、中実天然黒鉛がより好ましい。負極活物質が天然黒鉛を含むことにより、蓄電素子の高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大の抑制効果をより高めることができる。天然黒鉛とは、天然の資源から採れる黒鉛の総称である。天然黒鉛としては、具体的には、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛(鱗状黒鉛)、土状黒鉛等が例示される。天然黒鉛は、鱗片状黒鉛等を球状化した球状化天然黒鉛粒子であってもよい。天然黒鉛は、充放電前又は放電された状態において測定されるCuKα線を用いたエックス線回折パターンにおいて、回折角2θが40°から50°の範囲に4つのピークが現れるものであってもよい。これらの4つのピークは、六方晶系の構造に由来する2つのピークと、菱面体晶系の構造に由来する2つのピークとであるとされている。人造黒鉛の場合、一般的に、六方晶系の構造に由来する2つのピークのみが現れるとされている。エックス線回折パターンにおいて、(100)面に由来するピーク強度に対する(012)面に由来するピーク強度の比((012)/(100))は0.3以上が好ましく、0.4以上がさらに好ましい。上記ピーク強度の比((012)/(100))は0.6以下が好ましい。ここで、(100)面は六方晶系の構造に由来し、(012)面は菱面体晶系の構造に由来する。
【0033】
中実天然黒鉛における「中実」とは、天然黒鉛の粒子内部が詰まっていて実質的に空隙が存在しないことを意味する。より具体的には、「中実」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得されるSEM像において観察される粒子の断面において、粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)が2%以下であることをいう。好ましい一態様では、中実天然黒鉛の上記空隙の面積率は、1%以下であってもよい。
黒鉛粒子における「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)」は、以下の手順で決定することができる。
(1)測定用試料の準備
測定対象とする負極を熱硬化性の樹脂で固定する。樹脂で固定された負極について、クロスセクション・ポリッシャを用いることで、断面を露出させ、測定用試料を作製する。なお、測定対象とする負極は、下記の手順により準備する。蓄電素子を、0.1Cの電流で、通常使用時の放電終止電圧まで放電する。ついで、蓄電素子を解体し、負極を取り出して、ジメチルカーボネートにより充分に洗浄した後、室温にて減圧乾燥を行い、所定の面積に切り出して測定用試料とする。蓄電素子の解体から測定用試料の作製までの作業は、露点-40℃以下の乾燥空気雰囲気中で行う。
(2)SEM像の取得
SEM像の取得には、走査型電子顕微鏡としてJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いる。SEM像は、二次電子像を観察するものとする。加速電圧は、15kVとする。観察倍率は、一視野に現れる黒鉛粒子が3個以上15個以内となる倍率に設定する。得られたSEM像は、画像ファイルとして保存する。その他、スポット径、ワーキングディスタンス、照射電流、輝度、フォーカス等の諸条件は、黒鉛粒子の輪郭が明瞭になるように適宜設定する。
(3)黒鉛粒子の輪郭の切り抜き
画像編集ソフトAdobe Photoshop Elements 11の画像切り抜き機能を用いて、取得したSEM像から黒鉛粒子の輪郭を切り抜く。この輪郭の切り抜きは、クイック選択ツールを用いて黒鉛粒子の輪郭より外側を選択し、黒鉛粒子以外を黒背景へと編集して行う。このとき、輪郭を切り抜くことができた黒鉛粒子が3個未満であった場合は、再度、SEM像を取得し、輪郭を切り抜くことができた黒鉛粒子が3個以上になるまで行う。
(4)二値化処理
切り抜いた黒鉛粒子のうち1つ目の黒鉛粒子の画像について、画像解析ソフトPopImaging 6.00を用い、強度が最大となる濃度から20%分小さい濃度を閾値に設定して二値化処理を行う。二値化処理により、濃度の高い側の面積を算出することで「粒子内の空隙の面積S1」とする。
ついで、先ほどと同じ1つ目の黒鉛粒子の画像について、濃度10を閾値として二値化処理を行う。二値化処理により、黒鉛粒子の外縁を決定し、当該外縁の内側の面積を算出することで、「粒子全体の面積S0」とする。
上記算出したS1及びS0を用いて、S0に対するS1の比(S1/S0)を算出することにより、一つ目の黒鉛粒子における「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率R1」を算出する。
切り抜いた黒鉛粒子のうち2つ目以降の黒鉛粒子の画像についても、それぞれ、上記の二値化処理を行い、面積S1、面積S0を算出する。この算出した面積S1、面積S0に基づいて、それぞれの黒鉛粒子の空隙の面積率R2、R3、・・・を算出する。
(5)空隙の面積率の決定
二値化処理により算出した全ての空隙の面積率R1、R2、R3、・・・の平均値を算出することにより、「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)」を決定する。
【0034】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電された状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0035】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0036】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0037】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0038】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0039】
負極活物質が黒鉛を含有する場合、負極活物質層に含まれる全ての負極活物質に対する黒鉛の含有量の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。負極活物質層に含まれる負極活物質が実質的に黒鉛のみからなっていてもよい。このような場合、黒鉛の利点を十分に発揮することができる。一方、黒鉛の含有量が多い場合、負極活物質層の膨張率が高くなるため、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大が抑制されるという効果がより顕著に表れる。
【0040】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。上記黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素等の炭素材料も導電性を有するが、負極活物質層においては導電剤には含まない。上記炭素材料以外の導電剤としては、例えば、他の炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。他の炭素質材料としては、他の非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。他の非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0041】
負極活物質層に導電剤が含有されている場合、導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0042】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0043】
負極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0044】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0045】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0046】
上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差の上限は、0.6μmであり、0.58μmが好ましく、0.55μmがより好ましい。当該蓄電素子においては、上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が上記上限以下であるため、高温での圧縮下における厚さの変化量が大きいセパレータを用いても、充放電に伴って負極活物質層が膨張することによるセパレータの圧縮が生じにくい。従って、当該蓄電素子によれば、高電流密度で充放電が繰り返されても、セパレータの空孔において電解液の枯渇が生じにくくなるため、抵抗の増大を抑制できる。また、上記負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差の下限は、特に限定されないが、蓄電素子の容量の確保の観点から、例えば0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましい。なお、負極活物質層の厚さは、正極活物質層と対向している領域における厚さとする。また、負極基材の両面に負極活物質層が配されている場合、負極活物質層の厚さは、いずれか一方の片面における厚さとする。
負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差は、負極活物質の種類、負極の充電深度、負極活物質層の塗布質量、負極活物質層の厚さ、負極活物質層の多孔度等によって調整することが可能である。
【0047】
負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差は、以下の手順で算出する。
(1)充電状態、放電状態の負極の作製
0.5Cの電流で、充電率(SOC)0%まで定電流放電を行った後、SOC0%の電圧で定電圧放電を行い、放電状態とする。なお、放電の終了条件は定電圧放電時間が2時間となるまでとする。この蓄電素子を解体して正極及び負極を取り出す。取り出した負極を放電状態の負極とする。次に、取り出した正極と負極とを用いて試験電池を組み立て、0.5mA/cm2相当の電流で、元の蓄電素子のSOC100%となる電圧まで定電流充電を行った後、元の蓄電素子のSOC100%となる電圧で定電圧充電を行い、充電状態とする。なお、充電の終了条件は総充電時間が4時間となるまでとする。この充電状態の試験電池を解体して、取り出した負極を充電状態の負極とする。
(2)負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差の算出
充電状態の負極板及び放電状態の負極から正極活物質層と対向していた領域を無作為にそれぞれ2cm×2cmの大きさで10枚ずつ採取し、それぞれの中央部付近1点の厚さを測定して負極の厚さとする。この負極の厚さから負極基材の厚さを除いた厚さをそれぞれ充電状態の負極活物質層の厚さ、放電状態の負極活物質層の厚さとする。このとき、負極基材のいずれか一方の片面に負極活物質層が配されている場合は、得られた値を負極活物質層の厚さとし、負極基材の両面に負極活物質層が配されている場合は、得られた値をさらに2で除した値を負極活物質層の厚さとする。放電状態及び充電状態の負極活物質層の厚さの平均値をそれぞれ求めた後に、下記式により、負極活物質層の充電状態と放電状態との厚さの差を算出する。
負極活物質層の充電状態と放電状態との厚さの差[μm]=
(充電状態の負極活物質層厚さの平均値)-(放電状態の負極活物質層厚さの平均値)
【0048】
負極の充電深度の上限は、高率充電時の安全性の観点から、0.8が好ましく、0.7がより好ましい。また、負極の充電深度の下限は、蓄電素子の容量を十分に確保する観点から、0.3が好ましく、0.4がより好ましい。なお、負極の充電深度とは、黒鉛の質量あたりの理論容量に対する充電状態における黒鉛の質量あたりの充電電気量の割合をいう。「理論容量」とは、想定される電気化学反応において単位質量の活物質が蓄えることができる最大の電気量のことをいい、本明細書において黒鉛の理論容量は372mAh/gとする。
【0049】
負極活物質層の塗布質量(単位面積当たりの質量)の下限としては、蓄電素子の容量を十分に確保する観点から、0.15g/100cm2が好ましく、0.2g/100cm2がより好ましい。一方、負極活物質層の塗布質量の上限としては、安全性の観点から、1g/100cm2が好ましく、0.9g/100cm2がより好ましい。
【0050】
負極活物質層の多孔度の下限としては、30%が好ましく、35%がより好ましい。負極活物質層の多孔度の上限としては、60%が好ましく、55%がより好ましい。負極活物質層の多孔度が上記範囲であることで、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大の抑制効果をより高めることができるとともに、蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる。
【0051】
中間層は、負極基材と負極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0052】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記負極で例示した構成から選択することができる。
【0053】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0054】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0055】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記負極で例示した材料から選択できる。なお、正極活物質層においては、黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素等の炭素材料も導電剤に含む。
【0056】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0057】
上記正極活物質としては、充放電サイクル性能、エネルギー密度等の点から、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物及びポリアニオン化合物が好ましく、ニッケル、マンガン及びコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物及びLiFePO4がより好ましい。
【0058】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0059】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記負極で例示した方法から選択できる。
【0060】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0061】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0062】
(セパレータ)
セパレータは、上記負極活物質層の表面に重ねられる。上記セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。
【0063】
上記セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量の下限は、2μmであり、2.5μmが好ましく、3.0μmがより好ましい。65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が上記下限以上のセパレータは、出力特性が優れるという利点があるが、ハイブリッド自動車等の高電流密度で充放電が繰り返される電源として用いた場合等において、通常、充電の際のセパレータの厚さ方向への圧縮が生じやすくなる。従って、65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が上記下限以上のセパレータを備える蓄電素子においては、セパレータの圧縮を抑制し、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大を抑制するという効果がより顕著に表れる。一方、上記セパレータにおける厚さの変化量の上限としては、5μmであってもよく、6μmであってもよい。セパレータの65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量は、セパレータの製造方法、材質、透気度、空孔率、厚さ等によって調整することができる。
【0064】
上記セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量は、乾燥状態のセパレータに対し、以下の方法により測定した値とする。30mm×30mmのサイズに切断したセパレータを300枚重ね合わせ、この状態で以下の条件で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の変位を測定し、得られた値を300で除することにより、セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量を算出する。
装置:マイズ試験機社製ロードセル式クリープ試験機525-L
温度:65℃
圧縮応力:2MPa
圧縮面積:φ50mm
圧縮時間:60秒
【0065】
セパレータの基材層は、多孔質樹脂フィルムであってよい。上記セパレータにおける65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上のセパレータである場合、セパレータの基材層は、織布、不織布等であってもよい。セパレータの基材層の材料としては、電池使用時の安全性の観点から、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。基材層は、2層以上で構成されていてもよい。
【0066】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0067】
セパレータの透気度の上限としては、150秒/100cm3が好ましく、130秒/100cm3がより好ましい。セパレータの透気度が上記上限以下であることで、高電流密度での充放電サイクル後の容量維持率の低下に対する抑制効果を高めることができる。一方、セパレータの透気度の下限としては、セパレータの強度維持の観点から10秒/100cm3が好ましく、50秒/100cm3がより好ましい。
【0068】
セパレータの空孔率の上限としては、セパレータの強度維持の観点から70体積%が好ましく、65体積%がより好ましい。一方、セパレータの空孔率の下限としては、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大の抑制効果をより高める観点から、55体積%が好ましく、56体積%がより好ましい。
【0069】
セパレータの平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記平均厚さの上限としては、40μmが好ましく、30μmがより好ましい。上記セパレータの平均厚さを上記下限以上とすることで、十分な機械強度を得ることができる。また、上記セパレータの平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子としての抵抗が減少するため十分な出力性能を得ることができる。上記セパレータの平均厚さは、任意の10点の厚さを測定した平均値である。
【0070】
(非水電解液)
非水電解液としては、公知の非水電解液の中から適宜選択できる。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0071】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0072】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0073】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0074】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0075】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0076】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0077】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0078】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0079】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0080】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、通常、角型電池である。
図1に角型電池の一例としての蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0081】
本実施形態の蓄電素子は、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大が抑制されている。このため、本実施形態の蓄電素子は、高電流密度で充放電が行われる用途、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源等に好適に用いられ、中でもHEV用電源に特に好適に用いられる。また、本実施形態の蓄電素子は、6mA/cm2以上、さらには7mA/cm2以上の電流密度で充放電される用途で好適に用いられる。本実施形態の蓄電素子を充放電する場合の電流密度の上限としては、例えば20mA/cm2であってもよく、10mA/cm2であってもよい。
【0082】
<蓄電装置>
本実施形態の蓄電素子は、EV、HEV、PHEV等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)を備える蓄電装置として搭載することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0083】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る蓄電装置100は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子1と、この蓄電素子1の充放電の制御を行う制御部102とを備えている。具体的には、蓄電装置100は、複数の蓄電素子1を有する蓄電ユニット101と、蓄電素子1の充放電の制御を行う制御部102とを備えている。
【0084】
制御部102は、蓄電素子1を高電流密度で充放電するように制御する。具体的には、制御部102により制御される蓄電素子1における充放電の最大電流密度は6mA/cm2以上である。上記最大電流密度は、7mA/cm2以上であってもよい。上記最大電流密度の上限は特に制限されないが、20mA/cm2であってもよく、10mA/cm2であってもよい。蓄電装置100は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子1を備えるため、6mA/cm2以上の高い電流密度で充放電が繰り返し行われる場合であっても、抵抗の増大が抑制される。蓄電装置100は、6mA/cm2以上の最大電流密度で蓄電素子1が充放電可能であればよい。すなわち、蓄電装置100においては、6mA/cm2未満の電流密度で蓄電素子1を充放電するときがあってもよい。
【0085】
蓄電装置100は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電装置100は、一以上の蓄電素子1の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0086】
この蓄電装置100を車両110に搭載した場合には、
図2に示すように、制御部102と、エンジンやモーター、駆動系、電装系等を制御する車両制御装置111とが、車載LAN、CANなどの車載用の通信網により通信可能に接続されている。制御部102と車両制御装置111とが通信を行い、その通信から得られる情報をもとに蓄電装置100が制御される。これにより、例えば車両の減速時に駆動エネルギーが回生エネルギーとなって蓄電素子1に充電される。蓄電装置100は、EV、HEV、PHEV等の自動車用電源として搭載することができる。
【0087】
<蓄電素子の製造方法>
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。上記製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解液を準備することと、電極体及び非水電解液を容器に収容することとを備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を重ねる又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。正極、負極、セパレータ及び容器の具体的態様は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子の構成部材として上記した通りである。
【0088】
負極を準備することは、例えば負極基材に直接又は中間層を介して、負極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。乾燥後、必要に応じてプレス等を行ってもよい。負極合剤ペーストには、負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤等、負極活物質層を構成する各成分が含まれる。負極合剤ペーストには、通常さらに分散媒が含まれる。
【0089】
非水電解液を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0090】
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0091】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な非水電解液二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【実施例0092】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0093】
[実施例1から実施例6、比較例1から比較例4及び参考例1から参考例3]
(正極の作製)
正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び分散媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極合剤ペーストを調製した。なお、正極活物質、AB及びPVDFの質量比率は90:5:5(固形分換算)とした。正極基材としてのアルミニウム箔の両面に正極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、正極を得た。
【0094】
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛(Gr)、バインダであるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)、及び分散媒である水を混合して負極合剤ペーストを調製した。なお、Gr、SBR及びCMCの質量比率は98:1:1(固形分換算)とした。負極基材としての銅箔の両面に負極合剤ペーストを表1に記載の塗布質量で塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、負極を得た。表1に、得られた実施例1から実施例6、比較例1から比較例4及び参考例1から参考例3の負極及び負極活物質層の厚さを示す。
【0095】
(電解液)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを1:1:1の体積比率で混合した溶媒に、1.2mol/dm3の濃度でLiPF6を溶解させ、電解液を得た。
【0096】
(セパレータ)
表1に記載の材料、厚さ、透気度、空孔率、及び65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量のセパレータを用いた。なお、表1中、PEはポリエチレン、PPはポリプロピレンを示す。PP/PE/PPは、PPとPEとPPとがこの順に積層された3層構造の基材層であることを示す。
【0097】
(電池の組み立て)
上記正極と負極とセパレータとを用いて扁平状の巻回型の電極体を得た。電極体を角型容器に収容し、電解液を注入して封口した。これにより、実施例1から実施例6、比較例1から比較例4及び参考例1から参考例3の充放電前の蓄電素子を得た。
【0098】
(初期充放電)
得られた各充放電前の蓄電素子について、25℃にて、1Cの電流で定電流充電した後、定電圧充電を行った。充電の終了条件は電流が0.05Cとなるまでとした。充電上限電圧は、負極の充電深度が表1に記載の値となる電圧とした。この状態をSOC100%とした。10分の休止の後、1Cの電流で3Vまで定電流放電した。この状態をSOC0%とした。上記の充電及び放電の工程を1サイクルとして、2サイクルの初期充放電を実施することにより、実施例1から実施例6、比較例1から比較例4及び参考例1から参考例3の蓄電素子を得た。
【0099】
[評価]
(負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差)
上記の手順で、実施例1から実施例6、比較例1から比較例4及び参考例1から参考例3の充電状態の負極と放電状態の負極を採取し、負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差を測定した。測定結果を表1に示す。
【0100】
(高電流密度での充放電サイクル後の直流抵抗(DCR)増加率)
実施例、比較例及び参考例の各蓄電素子について、以下の方法により高電流密度での充放電サイクル後の直流抵抗(DCR)増加率を測定した。
(1)高電流密度での充放電サイクル試験
60℃において、充電電流10Cで、SOC80%まで定電流充電した後、休止を挟まずに放電電流10CでSOC20%まで定電流放電する操作を1サイクルとして、このサイクルを250時間行った。上記サイクルにおける充電及び放電の電流密度は、表1に記載の通りであった。
(2)25℃及び-10℃における直流抵抗(DCR)増加率
25℃における直流抵抗(DCR)は、以下の方法により求めた。初期充放電後及び高電流密度での充放電サイクル試験後の蓄電素子について、25℃にて充電電流1CでSOC50%に調整し、25℃の恒温槽に4時間保管した後、5C、10C、15C、20C又は25Cの定電流でそれぞれ30秒間放電した。各放電終了後には、1Cの電流で定電流充電を行い、SOCを50%にした。放電開始10秒後の電圧を縦軸に、放電電流を横軸にプロットし、得られた直線の勾配から25℃における直流抵抗(DCR)を求めた。
-10℃における直流抵抗(DCR)は、以下の方法により求めた。初期充放電後及び高電流密度での充放電サイクル試験後の蓄電素子について、25℃にて充電電流1CでSOC50%に調整し、-10℃の恒温槽に4時間保管した後、5C、10C、15C、20C又は25Cの定電流でそれぞれ30秒間放電した。各放電終了後には、1Cの電流で定電流充電を行い、SOCを50%にした。放電開始10秒後の電圧を縦軸に、放電電流を横軸にプロットし、得られた直線の勾配から-10℃における直流抵抗(DCR)を求めた。
そして、下記式により、25℃及び-10℃それぞれにおける高電流密度での充放電サイクル後の直流抵抗(DCR)増加率[%]を算出した。
高電流密度での充放電サイクル後の直流抵抗(DCR)増加率[%]=(高電流密度での充放電サイクル試験後のDCR-充放電サイクル試験前のDCR)×100
評価結果を表1に示す。
【0101】
【0102】
表1の実施例1から実施例6及び比較例1から比較例4に示されるように、65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上であるセパレータを備える蓄電素子においては、負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が0.6μm以下であることで、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大が抑制できることがわかる。
なお、65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm未満であるセパレータを備える参考例1から参考例3の蓄電素子においては、負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差によらず、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大は小さかった。高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大は、65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上であるセパレータを備える蓄電素子における特有の課題であることがわかる。
【0103】
以上の結果、当該蓄電素子においては、負極活物質層における充電状態と放電状態との厚さの差が0.6μm以下であることで、65℃の温度下で2MPaの荷重を60秒間掛けた前後の厚さの変化量が2μm以上であるセパレータを用いても、高電流密度での充放電サイクル後の抵抗の増大が抑制できることが示された。