(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189150
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】熱交換装置
(51)【国際特許分類】
F25B 17/08 20060101AFI20221215BHJP
F28D 21/00 20060101ALI20221215BHJP
F24F 3/14 20060101ALI20221215BHJP
F24F 3/147 20060101ALI20221215BHJP
F24F 3/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
F25B17/08 Z
F28D21/00 B
F24F3/14
F24F3/147
F24F3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097558
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】曽根 和樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】宮原 護
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 亜美
【テーマコード(参考)】
3L053
3L093
【Fターム(参考)】
3L053BC01
3L093NN03
3L093PP01
3L093RR01
(57)【要約】
【課題】小型化が可能であり、エネルギーの消費効率の向上が可能な空調装置を提供する。
【解決手段】熱交換装置は、弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能であり、かつ、膨張して媒体を吸着可能であるナノ多孔質体と、媒体を透過可能であり、ナノ多孔質体の表面に隣接する多孔質部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能であり、かつ、膨張して媒体を吸着可能であるナノ多孔質体と、
前記ナノ多孔質体に応力を印加して前記ナノ多孔質体を収縮させる動作と、印加された前記応力を解放して前記ナノ多孔質体を膨張させる動作とを行う応力付与部と、
前記媒体を透過可能であり、前記ナノ多孔質体の表面に隣接する多孔質部と、
前記ナノ多孔質体、前記多孔質部及び前記媒体を収容する収容部と、を備える熱交換装置。
【請求項2】
前記ナノ多孔質体は、前記応力が印加又は解放されることによって細孔径が変化し、細孔に取り込まれる前記媒体を可逆的に気液相転移させる、請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
前記多孔質部は、前記応力付与部と前記ナノ多孔質体との間、前記ナノ多孔質体を挟んで前記応力付与部の反対側、及び、前記ナノ多孔質体の側面のうち、1か所以上に配置されている、請求項1又は2に記載の熱交換装置。
【請求項4】
前記多孔質部は、前記ナノ多孔質体を覆っている、請求項1又は2に記載の熱交換装置。
【請求項5】
前記ナノ多孔質体と直接又は間接的に接触して、前記ナノ多孔質体の熱を伝導する熱伝導部、をさらに備え、
前記熱伝導部は、前記収容部から延出する延出部を有し、前記延出部で熱交換を行う請求項1から4のいずれか1項に記載の熱交換装置。
【請求項6】
前記熱伝導部の両面に前記ナノ多孔質体が設けられている、請求項5に記載の熱交換装置。
【請求項7】
前記熱伝導部は前記ナノ多孔質体を挟持している、請求項5に記載の熱交換装置。
【請求項8】
前記応力付与部は前記収容部内に配置されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の熱交換装置。
【請求項9】
前記ナノ多孔質体を複数備え、
前記複数のナノ多孔質体は一方向に積層されて積層構造体を構成しており、
前記積層構造体の層間に前記多孔質部が配置されている、請求項1又は2に記載の熱交換装置。
【請求項10】
前記積層構造体は平面上に並んで配置されている、請求項9に記載の熱交換装置。
【請求項11】
前記ナノ多孔質体を複数備え、
前記複数のナノ多孔質体は平面上に並んで配置されている、請求項1又は2に記載の熱交換装置。
【請求項12】
前記多孔質部を複数備え、
前記ナノ多孔質と前記多孔質部は、前記平面上で交互に並んで配置されている、請求項11に記載の熱交換装置。
【請求項13】
前記複数のナノ多孔質体のうち、隣り合う一方のナノ多孔質体と他方のナノ多孔質体との間に隙間が設けられている、請求項11に記載の熱交換装置。
【請求項14】
前記ナノ多孔質体は、
第1ナノ多孔質体と、
前記第1ナノ多孔質体と向かい合う第2ナノ多孔質体と、
前記第1ナノ多孔質体と前記第2ナノ多孔質体との間に配置された熱伝導体と、を有し、
前記熱伝導体は、前記第1ナノ多孔質体及び前記第2ナノ多孔質体よりも熱伝導率が高い、請求項1から13のいずれか1項に記載の熱交換装置。
【請求項15】
前記熱伝導体はメッシュ状の構造を有する、請求項14に記載の熱交換装置。
【請求項16】
前記ナノ多孔質体は、金属の粉体を含む、請求項1から15のいずれか1項に記載の熱交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着式ヒートポンプ(デシカント空調器)が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の吸着式ヒートポンプ(デシカント空調器)では、多孔質体中の冷媒分子の移動速度が遅い。このため、冷媒分子が蒸発する(すなわち、吸熱する)際に、冷媒分子の蒸発速度が遅く、単位時間内に十分な吸熱量を得ることが難しい。冷媒分子の蒸発を促すために、多孔質体の温度を上昇させる方法が考えられるが、この方法では入熱用のヒータが必要となるため装置の大型化を招く。また、ヒータを稼働させるためのエネルギーが必要となるため、エネルギーの消費効率が低下する。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、小型化が可能であり、エネルギーの消費効率を向上させることが可能な熱交換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る熱交換装置は、弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能であり、かつ、膨張して媒体を吸着可能であるナノ多孔質体と、媒体を透過可能であり、ナノ多孔質体の表面に隣接する多孔質部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、小型化が可能であり、エネルギーの消費効率の向上が可能な熱交換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係る熱交換装置の構成例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態1に係る熱交換装置の収容部の内部を立体的に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態2に係る熱交換装置の構成例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態2に係る熱交換装置の変形例1を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態2に係る熱交換装置の変形例2を示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態3に係る熱交換装置の構成例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態3に係る熱交換装置の変形例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態4に係る積層構造体の構成例を立体的に示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態4に係る積層構造体の配置例を立体的に示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態5に係るナノ多孔質体及び多孔質部の配置例を立体的に示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態6に係るナノ多孔質体の構成例を立体的に示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態7に係るナノ多孔質体の形状及び配置例を立体的に示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施例に係る積層構造体を示す断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の比較例に係る積層構造体を示す断面図である。
【
図16】
図16は、発熱時(応力解放時)の温度変化の測定結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、発熱時(応力解放時)の温度変化の測定結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、吸熱時(応力印加時)の温度変化の測定結果を示すグラフである。
【
図19】
図19は、吸熱時(応力印加時)の温度変化の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で参照する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0009】
<実施形態1>
(熱交換装置)
図1は、本発明の実施形態1に係る熱交換装置100の構成例を示す断面図である。
図2は、本発明の実施形態1に係る熱交換装置100の収容部32A、32Bの内部を立体的に示す図である。
図1及び
図2に示す熱交換装置100は、例えば、自動車の室内(内気)を冷却するカーエアコン(冷房)に適用することができる装置である。
【0010】
熱交換装置100は、ナノ多孔質体20に応力を印加及び解放することにより、機械的に変形させて、媒体の脱離及び吸着を行う。例えば、熱交換装置100は、媒体の脱離時に発生する蒸発潜熱から得た冷熱を利用して対象(例えば、空気)を冷却する。また、熱交換装置100は、媒体の吸着時に発生する凝縮潜熱から得た排熱を利用して、空気を加熱することも可能である。熱交換装置100は、冷却した空気と加熱した空気とを混合して、空気を所望の温度に調整することも可能である。なお、ナノ多孔質体20から脱離又は吸着する媒体を、冷媒と言い換えてもよい。また、気化した媒体を、媒体蒸気、冷媒蒸気、または、ゲスト分子と言い換えてもよい。
【0011】
図1に示すように、熱交換装置100は、第1熱交換部30A及び第2熱交換部30Bと、装置全体の動作を制御する制御部40と、を備える。制御部40は、第1熱交換部30A及び第2熱交換部30Bのうち一方の動作モードが脱離モードである間は他方の動作モードが吸着モードになるようにスイング運転する。これにより、脱離モードの第1熱交換部30A及び第2熱交換部30Bにおいて連続的に冷熱を生成することが可能となる。ここで、「脱離モード」とは、媒体をナノ多孔質体20から脱離させる動作モードである。また、「吸着モード」とは、媒体をナノ多孔質体20に吸着させる動作モードである。
【0012】
熱交換装置100は、第1収容部32Aと第2収容部32Bとの間を媒体蒸気(ゲスト分子)27が移動可能に連通する配管50と、配管50の連通状態と遮断状態とを切り替えるバルブ51と、を有する。バルブ51を開くと配管50は連通状態となり、バルブ51を閉じると配管50は遮断状態となる。
【0013】
(熱交換部)
図1に示すように、第1熱交換部30Aは、第1ナノ多孔質体20Aと、第1多孔質部25Aと、第1応力付与部31Aと、第1収容部32Aと、第1空気調節部33Aと、を有する。同様に、第2熱交換部30Bは、第2ナノ多孔質体20Bと、第2多孔質部25Bと、第2応力付与部31Bと、第2収容部32Bと、空気調節部33Bと、を有する。
【0014】
第1熱交換部30A及び第2熱交換部30Bは、同様の構成を有する。以下の説明では、第1熱交換部30A及び第2熱交換部30Bを総称して「熱交換部30A、30B」と称する。同様に、第1応力付与部31A及び第2応力付与部31Bを総称して「応力付与部31A、31B」と称する。また、第1収容部32A及び第2収容部32Bを総称して「収容部32A、32B」と称する。また、第1空気調節部33A及び第2空気調節部33Bを総称して「空気調節部33A、33B」と称する。また、第1ナノ多孔質体20A及び第2ナノ多孔質体20Bを総称して「ナノ多孔質体20」と称する。第1多孔質部25A及び第2多孔質部25Bを総称して「多孔質部25」と称する。
【0015】
(ナノ多孔質体)
ナノ多孔質体20は、弾性を有し、収縮して媒体を脱離可能で、かつ、膨張して媒体を吸着可能なナノ多孔質の材料を含む構造体から構成される。例えば、ナノ多孔質体20は、複数の粒子と、複数の粒子同士を結合するバインダとを含み、複数の粒子の各々がナノ多孔質である(すなわち、複数のナノレベルの細孔を有する)構造体であってもよい。
図2に示すように、ナノ多孔質体20は、応力付与部31A、31Bから応力を印加されて収縮して媒体を脱離し、応力を解放すると自由膨張して媒体を吸着する。
【0016】
ここで、「弾性」とは、応力付与部31A、31Bによって外部から応力が印加されて収縮しても、応力が解放されることによって、可逆的に大きく変形してほぼ元の形状に回復する性質を意味する。ナノ多孔質体20の弾性限度は、媒体を脱離するために必要な応力印加よりも大きくなるように設計されている。ナノ多孔質体20の弾性限度は、熱交換装置100の適用対象の冷却規模等に応じて適宜設計することが好ましい。
【0017】
また、「ナノ多孔質」とは、複数のナノレベルの細孔を有することを意味する。ナノレベルの細孔とは、好ましくは直径0.5~100nmであり、より好ましくは直径0.7~50nmであり、さらに好ましくは直径0.7~6nmのミクロ孔またはメソ孔である。なお、IUPAC(国際純正及び応用化学連合)では、直径2nm以下の細孔をミクロ孔(micropore)、直径2~50nmの細孔をメソ孔(mesopore)、直径50nm以上の細孔をマクロ孔(macropore)と定義している。
【0018】
媒体は、ナノ多孔質体20に吸着すると気体から液体へ相変化し、脱離すると液体から気体へ相変化する。ナノ多孔質体20の細孔壁に吸着された細孔内部の液体密度の媒体は、飽和蒸気圧よりも低い圧力の蒸気と平衡状態となっている。すなわち、ナノ多孔質体20の細孔壁に吸着された気体は、飽和蒸気圧よりも低い圧力で液体の状態となっている。
【0019】
ナノ多孔質体20に応力が印加されると、ナノ多孔質体20の細孔が収縮し、細孔壁に吸着していた媒体は脱離する。このとき、液体の密度で吸着された媒体は、気体としてナノ多孔質体20の外部に放出される。熱交換装置100は、この脱離の際の蒸発潜熱を冷熱として利用することによって、対象(例えば、空気)を冷却することができる。
【0020】
また、ナノ多孔質体20に印加された応力が解放されると、ナノ多孔質体20は自由膨張して細孔が元の大きさに戻り、媒体を再び吸着させる。上述したように、媒体は、ナノ多孔質体20へ吸着される際に、気体から液体へ相変化して、凝縮潜熱を発生する。熱交換装置100は、この吸着の際の凝縮潜熱を温熱として利用することができる。
【0021】
ナノ多孔質の材料として、グラフェンメソスポンジ(Graphene MesoSponge:GMS)、又は、ゼオライトテンプレートカーボン(Zeorite Template Carbon:ZTC)が挙げられる。GMS及びZTCは、いずれも単層グラフェン骨格からなり、流体冷媒の脱離及び吸着に必要な多孔性及び弾性特性を有している。
【0022】
GMSは、細孔壁の大部分が単層グラフェンから構成され、約6nm程度の微小な細孔を有するスポンジ状のメソ多孔体であり、活性炭に匹敵する極めて高いBET比表面積(約2000m2/g)を有している。その一方で、活性炭やカーボンブラックとは異なり腐食の原因となるグラフェンの端部をほとんど含んでいないことから、優れた耐食性(酸化耐性)も備えている。また、柔軟かつ強靭であるというグラフェンの性質に起因して、GMSは柔軟性及び弾性に優れ、細孔の直径が約5.8nmから約0.7nmになるまで可逆的に弾性変形することができる。GMSの製造方法については、Nishihara, H. et al., Advanced Functional Materials, Vol. 26, 2016, 6418-6427.に記載されている。
【0023】
ZTCは、単層のグラフェンシートにより構成される。また、均一な細孔(直径約1.2nm)が三次元的に規則配列し、相互に連結しており、極めて高いBET比表面積と細孔容積を有する(最大でBET比表面積が4100m2/g、細孔容積が1.8cc/g)ことが知られている。ZTCの製造方法については、Nishihara, H. et al., Chemistry-European Journal 15, 5355 (2009)等に記載されている。
【0024】
なお、本発明において、ナノ多孔質の材料は、GMS又はZTCに限定されない。ナノ多孔質の材料は、弾性を有し、収縮して流体媒体を脱離可能で、かつ、膨張して流体媒体を吸着可能な材料であれば、他の材料を用いてもよい。このような例として、球状のメソ孔を有する炭素メソスポンジ(CMS;Carbon MesoSponge)が挙げられる。
【0025】
(媒体)
媒体として、例えば、水又はアルコールが挙げられる。アルコールの一例として、メタノール又はエタノールが挙げられる。流体とは、液体又は気体、もしくは液体と気体とが混合したものを意味する。
【0026】
(応力付与部)
応力付与部31A、31Bは、ナノ多孔質体20に応力を印加して収縮させる動作と、印加した応力を解放してナノ多孔質体20を自由膨張させる。これにより、応力付与部31A、31Bは、ナノ多孔質体20の細孔径を外部からの応力で制御することができる。ナノ多孔質体20は、応力が印加又は解放されることによって細孔径が変化し、細孔にゲスト分子27として取り込まれる媒体を可逆的に気液相転移させる。
応力付与部31A、31Bは、ナノ多孔質体20に対して接近離反する方向に往復運動してナノ多孔質体20に応力を印加及び解放することができる限りにおいてその構成は特に限定されない。応力付与部31A、31Bとしては、例えば、モーターの回転運動を利用した機械式プレス機や油圧等の流体圧を利用した液圧式プレス機などを使用することができる。
【0027】
(多孔質部)
多孔質部25は、例えば、ナノ多孔質体20を覆うように配置されている。ゲスト分子27は、多孔質部25を透過可能である。多孔質部25の細孔径はナノ多孔質体20の細孔径よりも大きく、ゲスト分子27の出入りを阻害しないようになっている。また、多孔質部25は、弾性を有し、かつ、ナノ多孔質体20よりも固い。これにより、応力付与部31A、31Bは、多孔質部25を介して、ナノ多孔質体20に応力を付与することが可能である。
多孔質部25は、ナノ多孔質体20を覆うことによって、ナノ多孔質体20を側面から支えることができるので、ナノ多孔質体20の型崩れを抑制することができる。
多孔質部25は、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル等の樹脂で構成されている。多孔質部25は、糸状の樹脂で構成されていてもよく、糸状の樹脂が二重織、朱子織、綾織されて濾布状に構成されたものであってもよい。
【0028】
(収容部)
収容部32A、32Bは、内部にナノ多孔質体20及び多孔質部25を収容する空間を有する容器である。収容部32A、32Bの内部は、真空または真空に近い低圧に保たれている。このため、媒体は、比較的低い温度において液体から気体へ相変化することができる。
収容部32A、32Bは、熱伝導性に優れた材料で構成されていることが好ましく、例えばアルミニウム(Al)又は銅(Cu)等の金属で構成されていることが好ましい。これにより、熱交換装置100は、収容部32A、32Bを介して、対象(例えば、空気)と効率よく熱交換することができる。
【0029】
(空気調節部)
空気調節部33A、33Bは、収容部32A、32Bと接する空気の流量を調節することによって、冷熱又は排熱を熱交換部30A、30Bから取り出す。例えば、収容部32Aは、第1ナノ多孔質体20Aが膨張して排熱状態にある。収容部32Bは、第2ナノ多孔質体20Bが収縮して冷却状態にある。空気調節部33A、33Bは、排熱状態にある収容部32Aと接する空気の室内への流量を減らすとともに、冷却状態にある収容部32Bと接する空気の室内への流量を増やすことによって、室内に低温の空気を供給することができる。
【0030】
(制御部)
制御部40は、例えば、図示しないCPU(中央演算装置)、RAM(Random Access Memory)及び記録媒体等から構成されている。記録媒体に記録されたプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行する。これにより、制御部40は、第1熱交換部30A及び第2熱交換部30Bのうち一方の動作モードを脱離モードとし、他方の動作モードを吸着モードとするような、スイング運転を行う。
【0031】
(実施形態1の効果)
以上説明したように、実施形態1に係る熱交換装置100は、弾性を有し、収縮して媒体蒸気(ゲスト分子)27を脱離可能であり、かつ、膨張してゲスト分子27を吸着可能であるナノ多孔質体20と、ナノ多孔質体20に応力を印加してナノ多孔質体20を収縮させる動作と、印加された応力を解放してナノ多孔質体20を膨張させる動作とを行う応力付与部13と、ゲスト分子27を透過可能であり、ナノ多孔質体20の表面に隣接する多孔質部25と、ナノ多孔質体20、多孔質部25及びゲスト分子27を収容する収容部32と、を備える。
【0032】
例えば、多孔質部25は、応力付与部13とナノ多孔質体20との間、ナノ多孔質体20を挟んで応力付与部13の反対側、及び、ナノ多孔質体20の側面のうち、1か所以上に配置されている。一例として、多孔質部25は、ナノ多孔質体20を覆っている。
【0033】
これによれば、熱交換装置100は、ゲスト分子27の相変化によって吸熱又は発熱するナノ多孔質体20を熱源として、収容部32外に存在する物質(例えば、空気)と熱交換することができる。熱交換装置100では、ヒータによる入熱ではなく、応力付与部によるプレスが入力エネルギーとなる。このため、熱交換装置100は、エネルギーの消費効率(COP:Coefficint Of Performance)を向上させることができる。また、熱交換装置100は、入熱用のヒータは不要であるため、小型化が可能である。
【0034】
また、例えば、ナノ多孔質体20と他の部材(例えば、応力付与部13や、収容部32の内壁等)との間に多孔質部25が介在することによって、ナノ多孔質体20の表面に通気性を確保することができ、ナノ多孔質体20へゲスト分子27を輸送し易くなるので、熱交換性能を高めることが可能である。
【0035】
<実施形態2>
上記の実施形態1では、収容部32が熱伝導性に優れた金属等で構成されており、収容部32自体が対象(例えば、空気)と熱交換することを説明した。しかしながら、本発明の実施形態はこれに限定されない。本発明の実施形態に係る熱交換装置は、収容部32の内部から外部に延出された熱伝導部(延出部)を有し、延出部で空気と熱交換を行ってもよい。
図3は、本発明の実施形態2に係る熱交換装置100Aの構成例を示す断面図である。
図3に示すように、熱交換装置100Aは、ナノ多孔質体20と直接又は間接的に接触して、ナノ多孔質体20の熱を伝導する熱伝導部29を備える。熱伝導部29の両面にナノ多孔質体20が設けられている。
【0036】
例えば、熱伝導部29は、収容部32に収容されてナノ多孔質体20と直接又は間接的に接触する接触部291と、接触部291に接続し収容部32から延出された延出部292と、を有する。延出部292をフィン部と言い換えてもよい。接触部291と延出部292は1枚の金属板で一体に形成されている。接触部291は収容部32内に存在するナノ多孔質体20と熱交換を行い、延出部292は収容部32外に存在する対象(例えば、空気)と熱交換を行う。
【0037】
また、熱交換装置100Aにおいて、応力付与部31は、第1プレス板131Aと、第1プレス板131Aと向かい合うように配置された第2プレス板131Bと、を有する。第1プレス板131Aと、第2プレス板131Bは、収容部32の外側に配置されている。第1プレス板131Aと第2プレス板131Bとの間に、多孔質部25で覆われたナノ多孔質体20が配置されている。
【0038】
第1プレス板131Aと第2プレス板131Bは、互いに近づく方向に移動することによって、ナノ多孔質体20に応力を加える(すなわち、プレスする)。また、第1プレス板131Aと第2プレス板131Bは、互いに離れる方向に移動することによって、ナノ多孔質体20に加えられた応力を解放する。
【0039】
実施形態2に係る熱交換装置100Aは、実施形態1に係る熱交換装置100と同様に、エネルギーの消費効率(COP)を向上させることができ、小型化が可能である。熱伝導部29の両面にナノ多孔質体20が設けられており、熱伝導部29とナノ多孔質体20との接触面積が2倍になるため、熱交換の効率をさらに高めることができる。また、多孔質部25は、複数のナノ多孔質体20の表面に通気性を確保することができ、ナノ多孔質体20へゲスト分子を輸送し易くなるので、熱交換性能をさらに高めることが可能である。
【0040】
(変形例1)
図4は、本発明の実施形態2に係る熱交換装置100Aの変形例1を示す断面図である。
図4に示すように、熱交換装置100Aにおいて、第1プレス板131Aと第2プレス板131Bは、収容部32内に配置されていてもよい。これによれば、第1プレス板131Aと第2プレス板131Bは、収容部32を挟まずにナノ多孔質体20をプレスすることができるので、収容部32の変形を防ぐことができる。これにより、収容部32の耐久性の向上が可能である。また、収容部32の耐荷重を考慮しないで済むので、収容部32の部品コストを低減できる可能性がある。
【0041】
(変形例2)
図5は、本発明の実施形態2に係る熱交換装置100Aの変形例2を示す断面図である。
図5に示すように、熱交換装置100Aにおいて、ナノ多孔質体は、複数のナノ多孔質体20が一方向に積層された積層構造体200であってもよい。一方向は、第1プレス板131A(または、第2プレス板131B)と対向する方向である。積層構造体200の層間(すなわち、隣り合う一方のナノ多孔質体20と他方のナノ多孔質体20との間)には、多孔質部25が配置されていてもよい。すなわち、積層構造体200は、ナノ多孔質体20を通気性の高い多孔質部25で挟んだ構造であってもよい。積層構造体200は、ナノ多孔質体20と多孔質部25とが交互に積層された構造を有してもよい。
【0042】
このような構成であれば、多孔質部25は、ナノ多孔質体20とゲスト分子との接触面積を増やすことができる。ナノ多孔質体20の厚さ方向(
図5では、左右方向)及び奥行方向(
図5では、紙面の垂直方向)へゲスト分子を輸送し易くなるので、熱交換性能をさらに高めることが可能である。
【0043】
<実施形態3>
図6は、本発明の実施形態3に係る熱交換装置100Bの構成例を示す断面図である。
図6に示すように、熱交換装置100Bは、複数の熱伝導部29を備える。複数の熱伝導部29の各々は、収容部32に収容されてナノ多孔質体20と直接又は間接的に接触する接触部291と、接触部291に接続し収容部32から延出された延出部292と、を有する。第1プレス板131Aと第2プレス板131Bと向かい合う方向(すなわち、プレスする方向)において、互いに隣り合う一方の熱伝導部29の接触部291と他方の熱伝導部29の接触部291との間に、多孔質部25で覆われたナノ多孔質体20が配置されている。熱伝導部29は、ナノ多孔質体20を挟持している。
このような構成であれば、熱交換装置100Bは、ナノ多孔質体20と熱伝導部29の接触部291との接触面積と、熱伝導部29の延出部292と対象(例えば、空気)との接触面積とをそれぞれ増やすことができるので、熱交換性能を高めることが可能である。
【0044】
(変形例)
実施形態2の変形例2の構成は、実施形態3に適用してもよい。
図7は、本発明の実施形態3に係る熱交換装置100Bの変形例を示す断面図である。
図7に示すように、熱交換装置100Bのナノ多孔質体は、複数のナノ多孔質体20が一方向に積層された積層構造体200であってもよい。また、積層構造体200の層間に多孔質部25が配置されていてもよい。すなわち、ナノ多孔質体20と多孔質部25とが交互に積層されて構成されていてもよい。これによれば、実施形態2の変形例2と同様に、ナノ多孔質体20へゲスト分子を輸送し易くなるので、熱交換性能をさらに高めることが可能である。
【0045】
<実施形態4>
図8は、本発明の実施形態4に係る積層構造体200Aの構成例を立体的に示す図である。
図8に示すように、積層構造体200Aは、上記の積層構造体200と同様に、複数のナノ多孔質体20が一方向に積層されるとともに、その層間に多孔質部25が配置された構造を有する。すなわち、積層構造体200Aは、ナノ多孔質体20と多孔質部25とが交互に積層された構造を有する。また、積層構造体200Aは、積層方向に長い柱状に形成されている。
図8では、積層構造体200Aが円柱状に形成されている場合を示しているが、積層構造体200Aの形状は円柱状に限定されるものではなく、多角柱状(例えば、四角柱状、六角柱状、八角柱状など)であってもよい。
【0046】
図9は、本発明の実施形態4に係る積層構造体200Aの配置例を立体的に示す図である。
図9に示すように、複数の積層構造体200Aは、熱伝導部29の接触部291の一方の面29a(本発明の「平面」の一例)上に並んで配置されている。例えば、積層構造体200Aは、一方の面29aに平行なX軸方向と、一方の面29aに平行でかつX軸方向と直交するY軸方向とにそれぞれ並んで配置されている。X軸方向及びY軸方向において、積層構造体200Aは互いに接していてもよいし、離れていてもよい。
【0047】
積層構造体200Aの積層方向は一方の面と直交するZ軸方向である。積層構造体200Aは、応力付与部13(例えば、
図5参照)によって、Z軸方向から応力が印加される。このような構成であれば、実施形態2の変形例2と同様に、ナノ多孔質体20へゲスト分子を輸送し易くなるので、熱交換性能をさらに高めることが可能である。
【0048】
(変形例)
ナノ多孔質体20は、金属(例えば、Al,Cu)の粉体を含んでもよい。これによれば、熱伝導率の低いナノ多孔質体の内部の熱伝導性を高めることができる。ナノ多孔質体20の厚さ方向及び奥行方向への熱伝導性の向上が可能である。
【0049】
<実施形態5>
図10は、本発明の実施形態5に係るナノ多孔質体20及び多孔質部25の配置例を立体的に示す図である。
図10に示すように、複数のナノ多孔質体20と複数の多孔質部25とがそれぞれ熱伝導部29の接触部291の一方の面20a上に並んで配置されている。一方の面20aと直交する方向(例えば、Z軸)からの平面視で、ナノ多孔質体20は、格子を構成する点の位置に配置されている。また、Z軸方向からの平面視で、ナノ多孔質体20を仮想線で結んで構成される格子の内側に多孔質部25が配置されている。
【0050】
すなわち、ナノ多孔質体20と多孔質部25は、一方の面29a上で、一方向(例えば、X軸方向)に向けて交互に並んで配置されている。また、ナノ多孔質体20と多孔質部25は、一方の面29a上で、一方向と交差する他方向(例えば、Y軸方向)に向けて交互に並んで配置されている。
【0051】
図10では、ナノ多孔質体20の側面と多孔質部25の側面とが互いに接している場合を示しているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、互いに離れていてもよい。また、
図10では、ナノ多孔質体20と多孔質部25とがそれぞれ円柱状に形成されている場合を示しているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、多角柱状(例えば、四角柱状、六角柱状、八角柱状など)であってもよい。
【0052】
このような構成であれば、多孔質部25は、複数のナノ多孔質体20の側面に通気性を確保することができ、ナノ多孔質体20とゲスト分子との接触面積を増やすことができる。ナノ多孔質体20の厚さ方向及び奥行方向にゲスト分子を輸送し易くなるので、熱交換性能をさらに高めることが可能である。
また、ナノ多孔質体は、応力付与部13(例えば、
図5参照)によって、Z軸方向から応力が印加されるが、この応力印加の際に、多孔質部25はナノ多孔質体20を側面の側から支える。これにより、ナノ多孔質体の20の位置ずれ等を防ぐ効果も期待できる。
【0053】
<実施形態6>
図11は、本発明の実施形態6に係るナノ多孔質体20Cの構成例を立体的に示す図である。
図11に示すように、ナノ多孔質体20Cは、第1ナノ多孔質体201と、第1ナノ多孔質体201と向かい合う第2ナノ多孔質体202と、第1ナノ多孔質体201と第2ナノ多孔質体202との間に配置された熱伝導体203と、を有する。第1ナノ多孔質体201及び第2ナノ多孔質体202が、熱伝導体203を挟んでいる。熱伝導体203は、第1ナノ多孔質体201及び第2ナノ多孔質体202よりも熱伝導率が高い。
【0054】
例えば、第1ナノ多孔質体201と、第2ナノ多孔質体202は、上記のナノ多孔質体20と同様に、GMS、ZTC又はCMS等で構成されている。熱伝導体203は、アルミニウム(Al)又は銅(Cu)等で構成されている。このような構成であれば、熱伝導体203を挟む第1ナノ多孔質体201と第2ナノ多孔質体202との間で、熱伝導を効率よく行うことができる。
図11に示すナノ多孔質体20Cは、
図9に示した積層構造体200Aのナノ多孔質体20と置き換えて使用してもよい。また、
図11に示す積層構造体200Bを
図10に示したナノ多孔質体20と置き換えて使用してもよい。
【0055】
(変形例)
熱伝導体203は、メッシュ状の構造を有してもよい。例えば、熱伝導体203は、Alメッシュ、又は、Cuメッシュであってもよい。これによれば、ゲスト分子の通気性を増加させるとともに、熱容量を減少させることができるので、吸発熱の出力を向上させることができる。また、ナノ多孔質体20Cの厚さ方向及び奥行方向にゲスト分子を輸送し易くなるので、熱交換性能をさらに高めることが可能である。
【0056】
<実施形態7>
図12は、本発明の実施形態7に係るナノ多孔質体20Dの形状及び配置例を立体的に示す図である。
図12に示すように、ナノ多孔質体20Dは、ライン状に形成されていてもよい。ライン状に形成された複数のナノ多孔質体20Dが、ナノ多孔質体20Dの長手方向と交差する方向に、隙間Sを設けて並んで配置されている。複数のナノ多孔質体20Dのうち、隣り合う一方のナノ多孔質体20Dと他方のナノ多孔質体Dとの間に隙間Sが設けられている。また、図示しないが、ナノ多孔質体20C上に多孔質部25(例えば、
図7参照)が配置されている。このような構成であれば、ナノ多孔質体20D間の隙間Sと多孔質部25とを介してナノ多孔質体20Dにゲスト分子を輸送することができるので、熱交換性能をさらに高めることが可能である。
【0057】
<実験及びその結果>
次に、本発明者が行った実験とその結果について説明する。
図13は、本発明の実施例に係る積層構造体200Bを示す断面図である。
図14は、本発明の比較例に係る積層構造体を示す断面図である。
図13に示すように、実施例に係る積層構造体200Bは、熱伝導体203の両側に第1ナノ多孔質体201及び第2ナノ多孔質体202が設けられ、その両側に多孔質部25が設けられ、さらに、その両側に熱伝導部29が設けられた構造を有する。
図14に示す比較例に係る積層構造体200´は、熱伝導体203の両側に第1ナノ多孔質体201及び第2ナノ多孔質体202が設けられ、その両側に熱伝導部29が設けられた構造を有する。実施例に係る積層構造体200Bと、比較例に係る積層構造体200´との違いは、多孔質部25の有無である。
【0058】
この実験では、熱伝導体203として、厚さが12μmのAl箔を用いた。第1ナノ多孔質体201、第2ナノ多孔質体202として、ナノ多孔質の材料であるCMSに5wt%のPTFEを混合して作製した厚さが160μmの薄膜を用いた。多孔質部25として、細孔径がナノ多孔質体の細孔径よりも大きい多孔体を用いた。
【0059】
図15は、実験装置300の構成を模式的に示す図である。
図15に示すように、実験装置300は、真空を維持できる程度に密閉可能な試料容器301と、メタノールを保持するメタノール容器302と、試料容器301とメタノール容器302とを接続する管部303と、管部303に設けられた開閉バルブ304と、試料容器301内を真空引きするポンプ305と、試料容器301内のステージ306上に配置されたサンプルの温度を測定する温度測定装置307と、を備える。ステージ306上に配置されるサンプルは、
図13に示した実施例に係る積層構造体200Bと、
図14に示した比較例に係る積層構造体200´である。温度測定装置307は、熱電対を用いた温度センサである。積層構造体200B、200´の各々において、熱電対の一方は第1ナノ多孔質体201に接続され、熱電対の他方は第2ナノ多孔質体202に接続される。
この実験では、積層構造体200B、200´に応力を印加する代わりに、試料容器内の気圧を利用して、積層構造体200B、200´に応力を印加した状態を疑似的に作り出した。
【0060】
具体的には、まずはじめに、ポンプ305を動作させて試料容器内およびメタノール容器302を真空状態にした。次に、ポンプ305を止め、開閉バルブ304を開いて、真空状態の試料容器301を真空状態のメタノール容器302と連通させた。真空状態の試料容器301とメタノール容器302とを連通させることで、メタノール分子(ゲスト分子)が試料容器301内に導入され、サンプルのCMS薄膜に吸着する。メタノール分子は吸着することにより発熱し、CMS薄膜の温度が上昇した。このように、試料容器301内にメタノール分子を導入してCMS薄膜に吸着させることで、応力解放の状態を疑似的に作り出した。
【0061】
次に、開閉バルブ304を閉じて、試料容器301とメタノール容器302との間を遮断する。この状態で、ポンプ305を動作させて、試料容器301内を真空状態にする。これにより、サンプルのCMS薄膜に吸着していたメタノール分子が脱離する。メタノール分子は脱離することにより吸熱し、CMS薄膜の温度が低下した。このように、試料容器301内を真空状態にし、メタノール分子をCMS薄膜から脱離させることで、応力印加の状態を疑似的に作り出した。
【0062】
図16及び
図17は、発熱時(応力解放時)の温度変化の測定結果を示すグラフである。
図16の横軸はメタノール分子の吸着を開始してから経過時間(s)を示し、縦軸は経過時間0(s)からの温度変化ΔT(K)を示している。
図17の温度変化速度Vt(K/s)は、メタノール分子の吸着を開始した直後の、単位時間当たりの温度変化である。
図16及び
図17において、「多孔質部あり」は実施例のデータを示し、「多孔質部なし」は比較例のデータを示している。
図16及び
図17に示すように、多孔質部がない場合(比較例)よりも、多孔質部を有する場合(実施例)の方が、発熱時の温度変化ΔT及び温度変化速度Vtが向上していることが確認された。
【0063】
図18及び
図19は、吸熱時(応力印加時)の温度変化の測定結果を示すグラフである。
図18の横軸はメタノール分子の脱離を開始してからの経過時間(s)を示し、縦軸は経過時間0(s)からの温度変化ΔT(K)を示している。
図19の温度変化速度Vt(K/s)は、メタノール分子の脱離を開始した直後の、単位時間当たりの温度変化である。
図18及び
図19において、「多孔質部あり」は実施例のデータを示し、「多孔質部なし」は比較例のデータを示している。
図18及び
図19に示すように、多孔質部がない場合(比較例)よりも、多孔質部を有する場合(実施例)の方が、吸熱時の温度変化ΔT及び温度変化速度Vtが向上していることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
13…応力付与部、20、20C…ナノ多孔質体、20a、29a…一方の面、20A…(第1)ナノ多孔質体、20B…(第2)ナノ多孔質体、25…多孔質部、25A…(第1)多孔質部、25B…(第2)多孔質部、27…媒体蒸気(ゲスト分子)、29…熱伝導部、30A…(第1)熱交換部、30B…(第2)熱交換部、31…応力付与部、31A…(第1)応力付与部、31B…(第2)応力付与部、32…収容部、32A…(第1)収容部、32B…(第2)収容部、33A…(第1)空気調節部、33B…(第2)空気調節部、40…制御部、50…配管、51…バルブ、100、100A、100B…熱交換装置、131A…第1プレス板、131B…第2プレス板、200、200A、200B、200C…積層構造体、201…第1ナノ多孔質体、202…第2ナノ多孔質体、203…熱伝導体、291…接触部、292…延出部、300…実験装置、301…試料容器、302…メタノール容器、303…管部、304…開閉バルブ、305…ポンプ、306…ステージ、307…温度測定装置