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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189170
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】診断システム
(51)【国際特許分類】
   B66B 27/00 20060101AFI20221215BHJP
   B66B 31/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B66B27/00 C
B66B31/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097590
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 慶大
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】溝口 崇子
(72)【発明者】
【氏名】松井 一真
(72)【発明者】
【氏名】森下 真年
(72)【発明者】
【氏名】竹本 啓輔
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA02
3F321EA07
3F321EB07
3F321EC06
(57)【要約】
【課題】運転速度が変化する状況においても、診断用センサ検出値の検出位置を精度良く推定することができる、診断システムの提供。
【解決手段】診断システム1000は、少なくとも磁気センサ251を含む1以上の診断用センサを備える診断用ステップ1aと、診断用ステップ1aが一循環する間のエスカレータにおける位置と磁気センサ251の検出値との相関関係である磁気マップMを生成する磁気マップ生成部511と、磁気マップMと循環移動時の磁気センサ251の検出値とに基づいて、エスカレータにおける音センサ252の検出値が検出された位置を推定する自己位置推定部512と、音センサ252の検出値に基づいて異常診断を行う異常推定部521と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結された複数のステップを循環移動させて乗客を搬送する乗客コンベアの、異常を診断する診断システムであって、
前記複数のステップに含まれ、少なくとも磁気センサを含む1以上の診断用センサを備える診断用ステップと、
前記診断用ステップが一循環する間の前記乗客コンベアにおける位置と前記磁気センサの検出値との相関関係である磁気マップを生成する磁気マップ生成部と、
前記磁気マップと循環移動時の前記磁気センサの検出値とに基づいて、前記乗客コンベアにおける前記診断用センサの検出値が検出された位置を推定する位置推定部と、
前記診断用センサの検出値に基づいて異常診断を行う異常診断部と、を備える診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の診断システムにおいて、
前記診断用ステップは、前記診断用センサとして、循環移動する前記診断用ステップの前記乗客コンベアにおける位置を特定できる位置特定用センサを備え、
前記磁気マップ生成部は、前記位置特定用センサで特定した位置を基準位置として、前記磁気マップを生成する、診断システム。
【請求項3】
請求項2に記載の診断システムにおいて、
前記診断用ステップは前記位置特定用センサとして加速度センサを備え、
前記磁気マップ生成部は、前記加速度センサのセンサ出力に基づいて前記診断用ステップの姿勢が反転するタイミングを推定し、前記タイミングにおける前記診断用ステップの位置を基準位置として前記磁気マップを生成する、診断システム。
【請求項4】
請求項1に記載の診断システムにおいて、
前記乗客コンベアは磁化を有する磁化部品を含み、
前記磁気マップ生成部は、前記磁気センサが前記磁化部品の磁化を検出したときの前記診断用ステップの位置を基準位置として、前記磁気マップを生成する、診断システム。
【請求項5】
請求項2に記載の診断システムにおいて、
前記位置推定部は、前記磁気マップと循環移動時の前記磁気センサおよび前記位置特定用センサの検出値とに基づいて、前記診断用センサの検出値が検出された位置を推定する、診断システム。
【請求項6】
請求項1に記載の診断システムにおいて、
前記乗客コンベアには磁化を有する磁化部品が設けられ、
前記磁化部品の磁化に基づいて前記磁気センサの出力誤差を補正する補正部をさらに備える、診断システム。
【請求項7】
請求項1に記載の診断システムにおいて、
前記異常診断部は、前記位置推定部により推定された位置と前記診断用センサの検出データとに基づいて、異常部品を推定する、診断システム。
【請求項8】
請求項1に記載の診断システムにおいて、
複数の前記ステップを循環移動させる駆動装置が配置される前記乗客コンベアの固定部または前記診断用ステップに設けられる通信装置と、
前記通信装置と通信によりデータの受送信が行われ、前記位置推定部および前記異常診断部が設けられる遠隔監視部と、をさらに備え、
前記診断用センサの検出データを、前記通信装置により前記遠隔監視部に送信する、診断システム。
【請求項9】
請求項8に記載の診断システムにおいて、
前記通信装置は前記乗客コンベアの前記固定部に設けられ、
前記診断用ステップは、前記診断用センサの検出データを前記固定部に設けられた前記通信装置に無線通信により送信する無線通信装置をさらに備え、
前記通信装置は、前記診断用ステップから送信された前記検出データを前記遠隔監視部に送信する、診断システム。
【請求項10】
請求項1に記載の診断システムにおいて、
前記位置推定部および前記異常診断部は、複数の前記ステップを循環移動させる駆動装置が配置される前記乗客コンベアの固定部または前記診断用ステップに設けられ、
前記乗客コンベアの前記固定部または前記診断用ステップに設けられる通信装置と、
前記通信装置と通信によりデータの受送信を行う遠隔監視部と、をさらに備え、
前記異常診断部の診断結果を、前記通信装置により前記遠隔監視部に送信する、診断システム。
【請求項11】
請求項1に記載の診断システムにおいて、
複数の前記ステップを循環移動させる駆動装置が配置される前記乗客コンベアの固定部または前記診断用ステップは、
前記診断用センサの検出データを蓄積するデータ記憶部をさらに備える、診断システム。
【請求項12】
請求項1に記載の診断システムにおいて、
前記位置推定部および前記異常診断部は、複数の前記ステップを循環移動させる駆動装置が配置される前記乗客コンベアの固定部または前記診断用ステップに設けられ、
前記位置推定部および前記異常診断部が設けられた前記固定部または前記診断用ステップは、前記異常診断部の診断結果を記憶する診断結果記憶部をさらに備える、診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、診断用ステップの内部空間にセンサを搭載し、診断用ステップをエスカレータ内で循環させることでエスカレータ内部の測定を行う構成が記載されている。例えば、定期検査時に通常のステップを診断用ステップと入れ替え、定期点検の効率化を図っている。診断用ステップはエスカレータ内を循環するため、データが得られた時刻とそのときの診断用ステップの位置を対応づける必要がある。特許文献1では、加速度センサを用いて診断用ステップがエスカレータ裏側に引き込まれ反転するタイミングを取得し、反転からの経過時間でステップ位置を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-76729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、エスカレータが定速運転していることを前提としているため、例えば、乗客がいないときに運転速度を低下させ節電するエスカレータなどには、適用が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様による診断システムは、無端状に連結された複数のステップを循環移動させて乗客を搬送する乗客コンベアの、異常を診断する診断システムであって、前記複数のステップに含まれ、少なくとも磁気センサを含む1以上の診断用センサを備える診断用ステップと、前記診断用ステップが一循環する間の前記乗客コンベアにおける位置と前記磁気センサの検出値との相関関係である磁気マップを生成する磁気マップ生成部と、前記磁気マップと循環移動時の前記磁気センサの検出値とに基づいて、前記乗客コンベアにおける前記診断用センサの検出値が検出された位置を推定する位置推定部と、前記診断用センサの検出値に基づいて異常診断を行う異常診断部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、運転速度が変化する状況においても、診断用センサ検出値の検出位置を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、エスカレータの概略構成を示す模式図である。
図2図2は、診断用ステップの概略構成を示す斜視図である。
図3図3は、診断システムの機能ブロック図である。
図4図4は、ノイズ低減処理の一例を説明する図である。
図5図5は、診断用ステップの位置決めの一例を説明する図である。
図6図6は、ノイズ低減処理後の時系列磁気検出データの一例を示す図である。
図7図7は、位置対応付けの第2の方法を説明する図である。
図8図8は、自己位置推定処理の一例を説明する図である。
図9図9は、異常検出動作の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、異常発生判定および異常予兆判定の一例を説明する図である。
図11図11は、診断システムの構成の変形例1を示すブロック図である。
図12図12は、診断システムの構成の変形例2を示すブロック図である。
図13図13は、診断システムの構成の変形例3を示すブロック図である。
図14図14は、診断システムの構成の変形例4を示すブロック図である。
図15図15は、診断システムの構成の変形例5を示すブロック図である。
図16図16は、診断システムの構成の変形例6を示すブロック図である。
図17図17は、診断システムの構成の変形例7を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0009】
図1は、本発明に係る診断システムの診断対象である乗客コンベアの一例を示す図である。本実施の形態では乗客コンベアはエスカレータであり、図1は、エスカレータ100の概略構成を示す模式図である。エスカレータ100は、ステップ1,1a、チェーン2、筐体フレーム3、ターミナルギヤ4、駆動モータ6、下部ターミナルギヤ9、ハンドレール8、案内レール11a,11b、制御装置12、上部乗降口床板13aおよび下部乗降口床板13b等を備えている。ターミナルギヤ4、駆動モータ6、下部ターミナルギヤ9および制御装置12等は、筐体フレーム3内に設けられている。
【0010】
エスカレータ100においては、複数のステップ1と1つの診断用ステップ1aとが、ループ状のチェーン2によって無端状に連結されている。エスカレータ100は、無端状に連結された複数のステップ1と診断用ステップ1aとを循環移動させることで、乗客を搬送する。なお、図1では、診断用ステップ1aにハッチングを施した。上部乗降口床板13aは、エスカレータ100の上部乗降口の床面を構成する鋼板である。下部乗降口床板13bは、エスカレータ100の下部乗降口の床面を構成する鋼板である。
【0011】
上部乗降口床板13aの下側の筐体フレーム3内には、チェーン2が噛み合っているターミナルギヤ4が設けられている。このターミナルギヤ4によりチェーン2を駆動すると、チェーン2に連結された各ステップ1,1aが、上部乗降口床板13aと下部乗降口床板13bとの間を循環移動する。また、チェーン2と同期して、ハンドレール8が周回する。ターミナルギヤ4は、駆動ギヤ5を有する駆動モータ6により駆動される。駆動モータ6は制御装置12によって制御される。駆動ギヤ5とターミナルギヤ4とには、駆動チェーンベルト7が装架されている。下部乗降口床板13bの下側の筐体フレーム3内には、下部ターミナルギヤ9が設けられている。チェーン2は、この下部ターミナルギヤ9に噛み合っている。
【0012】
各ステップ1,1aは、側部が略扇形状に形成されている。各ステップ1,1aは、前部案内ローラ10aと後部案内ローラ10bとが設けられている。前部案内ローラ10aおよび後部案内ローラ10bは、各ステップ1,1aの左右すなわち紙面表裏方向に1対ずつ設けられている。筐体フレーム3内には、前部案内ローラ10aが走行する案内レール11aと、後部案内ローラ10bが走行する案内レール11bとが設けられている。案内レール11a,11bは、筐体フレーム3内の上下に一対ずつ設けられている。
【0013】
ステップ1,1aが下部ターミナルギヤ9からターミナルギヤ4へと移動する際には、前部案内ローラ10aおよび後部案内ローラ10bは、上側の案内レール11a,11bを走行する。ターミナルギヤ4に到達したステップ1,1aは、ターミナルギヤ4に沿って移動する。ステップ1,1aが、ターミナルギヤ4に沿ってターミナルギヤ4の図示上側から図示下側に移動すると、ステップ1,1aの姿勢が反転する。反転したステップ1,1aの前部案内ローラ10aおよび後部案内ローラ10bは、下側の案内レール11a,11bに乗り移る。ステップ1,1aがターミナルギヤ4から下部ターミナルギヤ9へと移動する際には、前部案内ローラ10aおよび後部案内ローラ10bは、下側の案内レール11a,11bを走行する。下部ターミナルギヤ9に到達したステップ1,1aは、下部ターミナルギヤ9に沿って移動し、再び姿勢が反転する。反転したステップ1,1aの前部案内ローラ10aおよび後部案内ローラ10bは、上側の案内レール11a,11bに乗り移る。
【0014】
図2は、診断用ステップ1aの概略構成を示す斜視図である。診断用ステップ1aは、乗客が乗る踏面部21と、踏面部21に連続する蹴上げ部22と、一対の側面部23を有する。各側面部23には、前部案内ローラ10aおよび後部案内ローラ10bが設けられている。診断用ステップ1a内には、センサ端末24が設けられている。センサ端末24内には、センサ部25と制御部26と無線通信部27とが設けられている。なお、ステップ1も構造は診断用ステップ1aと同様であるが、センサ端末24を備えていない点が診断用ステップ1aと異なる。
【0015】
図3は、本実施の形態における診断システムの機能構成を示す機能ブロック図である。診断システム1000は、エスカレータ100に設けられた診断用ステップ1aおよび制御装置12と、遠隔において診断処理を行う監視センタ50の位置推定装置51、異常診断装置52および通信装置53とを含む。データ収集装置30は、ネットワーク40を介して監視センタ50との間でデータの送受信を行う。
【0016】
上述したように、診断用ステップ1a内にはセンサ端末24が設けられている。センサ端末24は、センサ部25と制御部26と無線通信部27とが設けられている。センサ部25には、診断用センサとして磁気センサ251、音センサ252および加速度センサ253が設けられている。エスカレータ100の筐体フレーム3内に備えられた制御装置12には、データ記憶部301および通信部302を備えるデータ収集装置30が設けられている。磁気センサ251の磁気検出データ、音センサ252の音検出データおよび加速度センサ253の加速度検出データは、無線通信部27によりデータ収集装置30へ送信される。無線通信部27には低電力消費で低価格な短距離無線が用いられる。センサ端末24の電力源としては電池が用いられ、例えば、定期点検の際に、必要であれば電池交換をする。
【0017】
データ収集の方法としては、例えば、診断用ステップ1aが一巡する間の時系列検出データを、制御部26が備えるメモリ(不図示)に一旦保持する。そして、メモリ内に複数周回分の時系列検出データが溜まった時点で、その複数周回分の時系列検出データを無線通信部27により送信する。以下では、複数周回分の時系列検出データを、時系列検出データ群と呼ぶことにする。無線通信部27によるデータの送信は、所定の時間間隔で繰り返し行われる。データ収集装置30は、通信部302により受信した時系列検出データ群をデータ記憶部301に記憶する。
【0018】
データ記憶部301に蓄積された複数の時系列検出データ群は、所定時間毎に監視センタ50へ送信される。この送信は、監視センタ50からの送信指令により実行される。例えば、24時間毎に、監視センタ50から時系列検出データ群の送信指令が出力される。データ収集装置30は、監視センタ50から送信指令を受信すると、データ記憶部301に蓄積された24時間分の時系列検出データ群を監視センタ50へ送信する。通信部302から送信された複数の時系列検出データ群は、ネットワーク40を介して監視センタ50の通信装置53により受信される。
【0019】
監視センタ50は、位置推定装置51、異常診断装置52および通信装置53を備えている。位置推定装置51は、磁気マップ生成部511、自己位置推定部512、ノイズ低減部513および記憶部514を備えている。ノイズ低減部513は、磁気マップ生成時に用いる時系列検出データ(磁気検出データ、音検出データおよび加速度検出データ)に含まれているノイズの低減処理を行う。ノイズ低減処理の詳細については後述する。
【0020】
磁気マップ生成部511では、ノイズ低減処理後の時系列磁気検出データに基づいて磁気マップを生成する。具体的には、1周回分の時系列磁気検出データに対して、各時刻の検出値とエスカレータ100における位置との対応付けを行うことで、磁気マップを生成する。磁気マップ生成処理については後述する。磁気マップ生成処理は、エスカレータ100に診断用ステップ1aを設置した際の初期動作として行われる。生成された磁気マップは、記憶部514に記憶される。
【0021】
自己位置推定部512は、後述するように、時系列磁気検出データと磁気マップとに基づいて、異常診断に用いられる時系列音検出データおよび時系列加速度検出データの各検出値と、エスカレータ100における各位置との対応付けを行う。自己位置推定処理を行うことにより、磁気検出データの内の特定のデータと同時に検出された音検出データおよび加速度検出データが、エスカレータ100のどの位置において検出されたものであるかが分かる。自己位置推定部512における自己位置推定処理の詳細は後述する。
【0022】
異常診断装置52は、磁気マップと診断用センサの検出データとに基づいて、エスカレータ100の異常診断を行う。異常診断装置52は、異常推定部521,ノイズ低減部522,記憶部523および報知部524を備えている。異常推定部521は、自己位置推定部512により自己位置推定処理された後の音検出データに基づいて、後述する異常推定処理を行う。ノイズ低減部522は、異常診断に用いる時系列検出データ群に対してノイズ低減処理を行う。報知部524は、異常推定部521で異常と判定されると報知動作を行う。報知動作による異常報知を受けて、作業員によるエスカレータ100の点検作業が実施される。記憶部523には、異常診断に使用する判定基準データや、データ収集装置30から取得された時系列検出データ群などが格納される。
【0023】
(ノイズ低減処理)
図4は、ノイズ低減部513,522におけるノイズ低減処理の一例を説明する図である。ここでは、時系列検出データ群に含まれる時系列磁気検出データを例に説明する。図4は、診断用ステップ1aを一定速度で周回させた場合の時系列磁気検出データを示したものである。図4において、縦軸は検出値を表し、横軸は時間を表す。時系列磁気検出データD1は1周目のデータであり、時系列磁気検出データD2は2周目のデータであり、時系列磁気検出データD3は3周目のデータである。時系列磁気検出データD2は、時系列磁気検出データD1に対して縦軸に沿ってΔだけずらして示した。同様に、時系列磁気検出データD3は、時系列磁気検出データD2に対して縦軸に沿ってΔだけずらして示した。Tは循環移動の1周に要する時間、すなわち周期である。
【0024】
図4に示す例では、時系列磁気検出データD1にはノイズn1が生じており、時系列磁気検出データD2にはノイズn2が生じており、時系列磁気検出データD3にはノイズn3が生じている。ノイズ低減部513,522では、例えば、複数周回の時系列磁気検出データD1~D3の同一タイミングの検出値の平均を取ることで、各ノイズn1~n3が発生している部分の検出値を低減させる。10周回分の時系列磁気検出データを用いて平均処理を行う場合、ノイズが1周回分のみにしか発生していない場合には、平均処理によりノイズ部分の検出値は1/10に低減される。この平均処理後の時系列磁気検出データを、ノイズ低減処理後の時系列磁気検出データとして用いる。なお、時系列音検出データおよび時系列加速度検出データに関するノイズ低減処理も、上述した時系列磁気検出データの場合と同様に行われる。
【0025】
(磁気マップ生成処理)
磁気マップ生成部511は、ノイズ低減部513でノイズ低減処理した1周回分の時系列磁気検出データに対して、各時刻の磁気検出値とエスカレータ100における位置との対応付けを行うことで、磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成する。対応付けの処理方法としては種々の方法があるが、以下では、3種類の処理方法について説明する。
【0026】
第1の方法について説明する。まず、診断用ステップ1aの移動開始位置を、所定の位置に位置決めする。そして、その位置から診断用ステップ1aを一定速度で複数回以上周回させて、図4に示すような複数の時系列磁気検出データを取得する。ここでは、上述したようなノイズ低減処理を考慮して、周回数が複数回以上の場合を例に説明する。しかし、1周回分の検出データでノイズ低減が可能なノイズ低減処理を採用するならば、周回数は1であっても構わない。
【0027】
診断用ステップ1aの移動開始位置の所定の位置への位置決めは、例えば、次のように行う。作業員が診断用ステップ1aを目視で観察しながら、制御装置12を手動操作して診断用ステップ1aの位置を調整する。そのような調整を行うことで、図5に示すように、診断用ステップ1aを下部乗降口床板13bから繰り出された位置(以下では、この位置を基準位置Aと呼ぶことにする)に位置決めする。
【0028】
取得された複数の時系列磁気検出データは、監視センタ50へ送信され、位置推定装置51のノイズ低減部513で、上述したノイズ低減処理が行われる。その結果、図6に示すようなノイズ低減処理後の時系列磁気検出データDが得られる。横軸は、診断用ステップ1aが基準位置Aを通過してからの経過時間である。原点O(t=0)が、図5に示した基準位置Aに対応する。時系列磁気検出データDは、診断用ステップ1aが一巡する間の診断用ステップ1aの周辺の磁気、すなわち、エスカレータ100の部品の磁化の様子を表している。循環移動する診断用ステップ1aは、周期Tごとに基準位置Aとなり、検出値Daが磁気センサ251により検出される。図6のt=tb,tc,te,tfの各時刻において、診断用ステップ1aの位置はそれぞれ図5のB,C,E,Fとなる。そして、t=taにおいて基準位置Aに戻ることになる。
【0029】
磁気マップ生成部511は、診断用ステップ1aの移動速度と基準位置Aからの経過時間とに基づいて、時系列磁気検出データDとエスカレータ100の各位置とを対応付けた磁気マップを生成する。すなわち、診断用ステップ1aの1周回の磁気マップMは、データ群(Da、A),・・・,(Db、B),・・・,(Dc、C),・・・,(De、E),・・・,(Df、F),・・・,(Da、A)のように(磁気検出値、位置)のデータの集まりで表される。すなわち、磁気マップMはM(磁気検出値、位置)のように表現することができる。
【0030】
第2の方法について説明する。第2の方法では、センサ部25に設けられた加速度センサ253の検出値を利用して磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成する。図7は、時系列磁気検出データD1と時系列加速度検出データD10とを示す図である。符号A~Fは、図5に示すエスカレータ100の位置A~Fに対応している。図5に示す例では、診断用ステップ1aの姿勢を見ると、位置Eから位置Fまでの第2の姿勢は、位置Aから位置Bまでの第1の姿勢と上下逆転している。診断用ステップ1aが位置Bから位置Eまで移動する間に、診断用ステップ1aの姿勢は第1の姿勢から第2の姿勢へと徐々に変化する。一方、診断用ステップ1aが位置Fから位置Aまで移動する間に、診断用ステップ1aの姿勢は第2の姿勢から第1の姿勢へと徐々に変化する。
【0031】
診断用ステップ1a内に設けられた加速度センサ253の検出値は、診断用ステップ1aの移動によって変化する。加速度センサ253で検出される加速度には、重力に起因するものと、加速度センサ253の振動に起因するものとが含まれる。時系列加速度検出データD10を示すラインの概略の形状は、重力に起因する加速度によって決まる。加速度センサ253の振動に起因する加速度は、ライン上の微小な振動として現れる。
【0032】
図7に示す時系列加速度検出データD10においては、第1の姿勢では検出値は+dとなり、第2の姿勢では検出値は-dとなる。そして、診断用ステップ1aが位置Bから位置Eまで移動する間に検出値は+dから-dへと徐々に変化し、位置P1において検出値がプラスからマイナスへと反転する。また、診断用ステップ1aが位置Fから位置Aまで移動する間に検出値は-dから+dへと徐々に変化し、位置P2において検出値がマイナスからプラスへと反転する。この検出値が反転するタイミングを、磁気マップ生成における基準位置とすることができる。例えば、反転位置P1を基準位置に設定した場合、反転位置P1から次の反転位置P1までが、周回の1周期である。
【0033】
磁気マップ生成部511は、診断用ステップ1aの移動速度と基準位置P1からの経過時間とに基づいて、時系列磁気検出データDとエスカレータ100の各位置とを対応付けた磁気マップを生成する。すなわち、診断用ステップ1aの1周回の磁気マップM(磁気検出値、位置)は、データ群(Dp、P1),・・・,(De、E),・・・,(Df、F),・・・,(Da、A),・・・,(Db、B),・・・,(Dp、P1)のように(磁気検出値、位置)のデータの集まりで表される。このように、第2の方法では、加速度センサ253の検出値に現れる反転位置P1を、磁気マップ生成時の基準位置に利用する。その結果、磁気マップ生成動作の自動化および高精度化を図ることができる。
【0034】
なお、加速度センサ253の検出値の代わりに、音センサ252の検出値を利用してエスカレータ100における基準位置を設定しても良い。診断用ステップ1aが一巡する間で最も大きな音を検出する位置(部位)が予め分かっていれば、最大検出値が検出されるタイミングを基準位置とすることができる。例えば、診断用ステップ1aが図5の位置Cの時に、最大検出値として駆動モータ6のモータ音を検出したとする。その場合には、図6の検出値Dcが検出される位置Cを基準位置に設定する。そして、診断用ステップ1aの移動速度と基準位置Cからの経過時間とに基づいて、磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成する。診断用ステップ1aの1周回の磁気マップM(磁気検出値、位置)は、データ群(Dc、C),・・・,(De、E),・・・,(Df、F),・・・,(Da、A),・・・,(Db、B),・・・,(Dc、C)のように(磁気検出値、位置)のデータの集まりで表される。
【0035】
第3の方法について説明する。第3の方法では、エスカレータ100に設けられている部品の内で、磁化されている部品の磁化を検出したときの診断用ステップ1aの位置を基準位置とする。例えば、診断用ステップ1aが図5の位置Cの時に、最大検出値として駆動モータ6の磁気を検出したとする。その場合には、図6の検出値Dcが検出される位置Cを基準位置に設定し、診断用ステップ1aの移動速度と基準位置Cからの経過時間とに基づいて、磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成する。診断用ステップ1aの1周回の磁気マップM(磁気検出値、位置)は、データ群(Dc、C),・・・,(De、E),・・・,(Df、F),・・・,(Da、A),・・・,(Db、B),・・・,(Dc、C)のように(磁気検出値、位置)のデータの集まりで表される。このように、磁化されている部品の磁化を検出したときの診断用ステップ1aの位置を基準位置とすることで、第2の方法のように基準位置を特定するためのセンサ(加速度センサ253)を追加で設ける必要がない。そのため、コスト低減を図ることができる。
【0036】
(自己位置推定処理)
図8は、自己位置推定処理の一例を説明する図である。図8において、符号Mで示すラインは磁気マップM(磁気検出値、位置)を表しており、図6に示した時系列磁気検出データDと同じ形状のラインである。符号Sで示すラインは音センサ252の時系列音検出データである。図8では、縦軸は磁気センサ251および音センサ252の検出値を表し、横軸はエスカレータ100における位置を表す。
【0037】
ここで、磁気センサ251の検出値としてDbが検出された場合を考える。この検出値を磁気マップM(磁気検出値、位置)にフィッティングすると、位置Bが得られる。図8の磁気マップM(磁気検出値、位置)では値Dbの個所は位置B以外にもあるので、フィッティングを行う際には検出値Dbの前後の検出値も参考にして検出値Dbの位置が位置Bであると決定する。すなわち、磁気センサ251の検出値Dbが検出されたときの診断用ステップ1aの位置は、位置Bであることが分かる。
【0038】
そして、検出値Dbと同タイミングで検出された音センサ252の検出値Sbは、診断用ステップ1aが位置Bの時に検出された音検出データであると推定される。すなわち、自己位置推定とは、検出値Sbが検出されたときの、診断用ステップ1aのエスカレータ100における位置を推定することである。このような自己位置推定処理を行うことにより、時系列音検出データSの各検出値が、エスカレータ100のどこで検出されたものであるかが分かる。
【0039】
図9は、異常診断装置52における異常検出動作の一例を示すフローチャートである。監視センタ50は、データ送信指令をデータ収集装置30へ送信することで、複数の時系列検出データ群がデータ収集装置30から取得される。そして、取得された複数の時系列検出データ群に対して順に異常診断処理を行う。図9に示すフローチャートは、一回のデータ送信指令による処理を示したものであり、所定時間間隔で繰り返し実行される。
【0040】
ステップS90では、データ送信指令をデータ収集装置30へ送信して、データ記憶部301に蓄積された複数の時系列検出データ群を収集する。時系列検出データ群は、センサ部25に設けられている各センサ対応する複数種類の時系列検出データ群が含まれている。図3に示す例では、センサ部25には磁気センサ251、音センサ252および加速度センサ253が設けられているので、時系列検出データ群には、時系列磁気検出データ群、時系列音検出データ群および時系列加速度検出データ群が含まれている。ステップS91では、複数の時系列検出データ群の内の最初の時系列検出データ群に関して、ノイズ低減部522によるノイズ低減処理を行わせる。
【0041】
ステップS92では、ノイズ低減処理後の時系列音検出データおよび時系列加速度検出データに基づいて、異常が発生しているか否かの判定を異常推定部521により行わせる。ステップS92において、異常発生あり(YES)と判定された場合にはステップS94へ進み、異常発生なし(NO)と判定された場合にはステップS93へ進む。ステップS93では、ノイズ低減処理後の時系列音検出データおよび時系列加速度検出データに基づいて、異常予兆があるか否かの判定を異常推定部521により行わせる。ステップS93において、異常予兆あり(YES)と判定された場合にはステップS94へ進み、異常予兆なし(NO)と判定された場合にはステップS97へ進む。
【0042】
図10は、ステップS92の異常発生判定およびステップS93の異常予兆判定の一例を説明する図である。異常発生判定および異常予兆判定では、ノイズ低減処理後の時系列音検出データおよび時系列加速度検出データを判定基準データと比較して判定する。なお、判定基準データは記憶部523に記憶されている。診断用ステップ1aの設置後に磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成する初期動作時には、時系列検出データ群がデータ収集装置30から取得される。記憶部523には、その時系列検出データ群をノイズ低減処理した後の時系列検出データが判定基準データとして記憶される。時系列検出データは、時系列磁気検出データ、時系列音検出データおよび時系列加速度検出データを含む。
【0043】
図10は、ノイズ低減処理によって得られた時系列音検出データS11,S12と、判定基準データとしての時系列音検出データS0とを示す図である。横軸は時間tである。ラインS1は、判定基準データS0の各値をα1倍して得られる第1判定ラインである。また、ラインS2は、判定基準データS0の各値をα2(>α1)倍して得られる第2判定ラインである。異常発生判定には、第2判定ラインS2が用いられる。異常予兆判定には、第1判定ラインS1が用いられる。
【0044】
図10に示す例では、時系列音検出データS11のラインは、時間tc付近において第1判定ラインS1を越えている。この場合、異常推定部521は、エスカレータ100のいずれかの部品に異常の予兆がみられると、すなわち、異常予兆ありと判定する。時系列音検出データS12は、時系列音検出データS11を取得してからさらに時間が経過したときのラインである。時系列音検出データS12のラインは、t=tc付近において第2判定ラインS2を越えている。この場合、異常推定部521は、エスカレータ100のいずれかの部品に異常が発生したと、すなわち、異常発生ありと判定する。
【0045】
なお、図10では、時系列音検出データの時間的変化から異常発生または異常予兆の判定について説明したが、時系列加速度検出データを用いた異常発生または異常予兆の判定も同様に行われる。時系列音検出データおよび時系列加速度検出データの少なくとも一方において異常発生ありと判定されると、ステップS92において異常発生ありと判定される。同様に、時系列音検出データおよび時系列加速度検出データの少なくとも一方において異常予兆ありと判定されると、ステップS93において異常予兆ありと判定される。
【0046】
図9のフローチャートに戻って、ステップS94では、異常発生または異常予兆が起こっている位置が、エスカレータ100のどの位置であるかを推定する処理を行う。上述したステップS91のノイズ低減処理では、ノイズ低減処理された時系列磁気検出データ、時系列音検出データおよび時系列加速度検出データが得られる。図10において、時系列音検出データS11,S12のt=tcにおける検出値は、時系列音検出データS11の場合にはSc1であり、時系列音検出データS12の場合にはSc2である。また、t=tcにおける時系列磁気検出データの検出値は、図6に示したようにDcである。
【0047】
異常診断装置52は、時系列磁気検出データの検出値がDcとなる位置を、自己位置推定部512に自己位置推定処理を行わせることで取得する。自己位置推定処理では、検出値Dcを磁気マップM(磁気検出値、位置)にフィッティングすることで位置Cが得られる(図8参照)。その結果、検出値Dcと同じタイミングで検出された検出値Sc1は、診断用ステップ1aが位置Cに位置するときに得られた検出値であることが分かる。すなわち、位置Cの付近に配置されている部品に、異常の予兆が発生していることが分かる。検出値Sc2についても同様の処理を行うことで、位置Cの付近に配置されている部品に異常が発生していることが分かる。
【0048】
ステップS94では、異常予兆または異常が発生している位置の推定を行った。さらに、ステップS95では、異常予兆または異常が発生している部品の推定を行う。図5に示すように、エスカレータ100の位置Cの付近には、チェーン2、ターミナルギヤ4、駆動ギヤ5、駆動モータ6等が設けられている。異常推定部521では、異常な位置の推定に加えて、異常な部品の推定も行う。異常発生の推定だけでなく、異常部品の推定も行うことで、異常発生時に素早くかつ適切に対処することができる。
【0049】
チェーン2、ターミナルギヤ4、駆動ギヤ5、駆動モータ6に異常が発生した場合、それぞれの部品に特徴的な異音や異常振動が発生する。時系列音検出データおよび時系列加速度検出データには、音および振動の大きさだけでなく、音や振動の周波数も含まれている。また、記憶部523には、部品毎および故障の種類毎に、異音の周波数および異常振動の周波数をリスト化した故障判別用データが予め記憶されている。異常推定部521は、位置Cにおける音の周波数および振動の周波数に基づいて、異常または異常予兆が発生している部品や故障内容の推定を行う。
【0050】
ステップS96では、異常または異常予兆が発生していることを報知部524によって報知する。報知情報としては、異常または異常予兆の発生、異常または異常予兆が発生している位置、部品および故障内容の少なくとも一つが含まれる。ステップS96の処理が終了したならば、ステップS97へ進む。ステップS97では、ノイズ低減処理と異常発生または異常予兆の判定処理とが、複数の時系列検出データ群の全てに対して終了したか否かを判定する。ステップS94において、終了していない(NO)と判定されるとステップS91へ戻り、終了した(YES)と判定されると一連の診断処理を終了する。
【0051】
上述したように、本実施の形態の診断システムでは、磁気センサ251を含む診断用センサが設けられた診断用ステップ1aを導入した際に、診断用ステップ1aを循環移動させて磁気マップM(磁気検出値、位置)を作成する。この磁気マップM(磁気検出値、位置)は、エスカレータ100内の各位置における磁気状態を表すマップである。そのため、エスカレータ運用時に取得される診断用センサ検出値の検出位置を、その検出値と同タイミングで検出された磁気検出値を磁気マップM(磁気検出値、位置)と照らし合わせることで取得することができる。すなわち、運転速度が変化する状況においても、診断用センサ検出値の検出位置を精度良く推定することができ、常時診断を行うことが可能となる。
【0052】
さらに、本実施の形態では、図3に示すように、診断用ステップ1a内のセンサ部25で検出したデータを、通信により、位置推定装置51および異常診断装置52が設けられた遠隔地の監視センタ50に送信するようにしている。そのため、エスカレータ100の状況を、遠隔地で常時監視することができる。さらに、監視センタ50において、複数のエスカレータの常時監視を容易に行うことができる。
【0053】
なお、上述したように、診断用ステップ1aの位置推定では、磁気センサ251の検出値を磁気マップM(磁気検出値、位置)と照らし合わせて検出位置を推定している。そのため、位置推定を精度良く行うためには、磁気センサ251の出力が安定していることが好ましい。そこで、本実施の形態では、エスカレータ100に設けられた部品の磁化を利用して、磁気センサ251のオフセットやドリフトを補正するようにした。
【0054】
例えば、駆動モータ6の磁化は安定しているので、駆動モータ6に近い位置Cにおける磁気センサ251の検出値を補正の基準値とする。そして、位置Cの検出値を基準として、すなわち、位置Cの検出値が常に一定となるようにその他の位置の検出値を補正する。例えば、位置Cの検出値が初期の値に対してβ倍になった場合、すべての位置における検出値を(1/β)倍することで補正を行う。その結果、磁気センサ251の出力変化の影響を除去でき、自己位置推定精度の悪化を防止することができる。この補正動作は、センサ端末24に設けられた制御部26、データ収集装置30、位置推定装置51、異常診断装置52のいずれで行っても良い。
【0055】
上述した実施の形態では、磁気センサ251の検出データと生成した磁気マップM(磁気検出値、位置)とに基づいて、音検出データとエスカレータ100における位置とを対応付ける自己位置推定処理を行った。さらに、加速度センサ253の検出データにおける反転タイミングも併用して、自己位置推定処理を行うようにしても良い。反転タイミングは、診断用ステップ1aがエスカレータ100の特定の位置に移動したときに生じる。そのため、この反転タイミングも利用することで、自己位置推定精度の向上を図ることができ、精度良く異常診断を行うことができる。なお、加速度センサ253以外の診断用センサを利用しても良い。例えば、高度センサ等を診断用センサとしてさらに追加し、その検出データを併用しても良い。
【0056】
なお、診断システム1000の構成は、図3のブロック図に示した構成に限定されない。
【0057】
(診断システム構成の変形例1)
図11は、診断システム1000の構成の変形例1を示すブロック図である。図3の診断システム1000では、データ記憶部301に記憶された複数の時系列検出データ群を、通信部302により、ネットワーク40を介して監視センタ50の通信装置53へ送信する構成とした。一方、図11に示す診断システム1000Aでは、制御装置12の通信部302と監視センタ50の通信装置53とを省略した。診断システム1000Aでは、データ記憶部301に記憶された複数の時系列検出データ群は、定期点検時に作業員によってデータ回収され、監視センタ50へと送られるシステムが採用される。データ回収には、例えば、USBフラッシュドライブ(USB flash drive)やポータブル・ハードディスクドライブ等の携帯用記憶媒体が用いられる。通信部302と通信装置53とが不要となるため、通信システムに関するコスト低減を図ることができる。
【0058】
(診断システム構成の変形例2)
図12は、診断システム1000の構成の変形例2を示すブロック図である。変形例2の診断システム1000Bでは、制御装置12に設けられていたデータ記憶部301および通信部302を、診断用ステップ1a内に設けるようにした。データ記憶部301に記憶された複数の時系列検出データ群は、診断用ステップ1a内に設けられた通信部302からネットワーク40を介して監視センタ50の通信装置53へ送信される。
【0059】
(診断システム構成の変形例3)
図13は、診断システム1000の構成の変形例3を示すブロック図である。変形例3の診断システム1000Cは、図12の診断システム1000Bに設けられていた通信部302と通信装置53とを省略したものである。データ記憶部301に記憶された複数の時系列検出データ群は、定期点検時に作業員によってデータ回収され、監視センタ50へと送られる。監視センタ50の位置推定装置51および異常診断装置52では、回収された時系列検出データ群に基づいて磁気マップM(磁気検出値、位置)の作成および診断処理が行われる。
【0060】
(診断システム構成の変形例4)
図14は、診断システム1000の構成の変形例4を示すブロック図である。変形例4の診断システム1000Dでは、図3の診断システム1000において監視センタ50に設けられていた位置推定装置51および異常診断装置52を、エスカレータ200の制御装置12内に設けるようにした。ただし、図3の異常診断装置52に設けられていた報知部524については、監視センタ50に配置される。
【0061】
診断システム1000Dにおいては、磁気マップM(磁気検出値、位置)の生成と記憶、および、図9に示した診断処理の内でステップS96の処理を除く診断処理は、制御装置12に設けられた位置推定装置51および異常診断装置52によって行われる。診断処理の結果、異常または異常予兆が発生している場合には、報知情報が通信部302からネットワーク40を介して監視センタ50の通信装置53へ送信される。そして、報知部524によって報知情報が提示される。もちろん、監視センタ50は、時系列検出データ群の送信指令を制御装置12に送信することで、データ収集装置30のデータ記憶部301に記憶されている時系列検出データ群を取得することもできる。
【0062】
(診断システム構成の変形例5)
図15は、診断システム1000の構成の変形例5を示すブロック図である。変形例5の診断システム1000Eは、図14に示した診断システム1000Dにおいて、データ収集装置30の通信部302を短距離通信用の無線通信部302Aに置き換え、監視センタ50の通信装置53を省略し、監視センタ50の報知部524に代えてパーソナルコンピュータ等の情報処理装置54を配置したものである。無線通信部302Aは、診断用ステップ1aに設けられた無線通信部27から、センサ251~253の検出データを受信する。
【0063】
制御装置12に設けられた位置推定装置51および異常診断装置52による診断処理の結果、生成された磁気マップM(磁気検出値、位置)およびデータ記憶部301に記憶されている時系列検出データ群等は、定期点検時に作業員によってデータ回収され、監視センタ50へと送られる。監視センタ50では、情報処理装置54によって診断処理結果や磁気マップM(磁気検出値、位置)を確認することができる。また、情報処理装置54により、回収された時系列検出データ群の確認および分析等を行うこともできる。
【0064】
なお、図15に示す構成では、異常診断装置52に報知部524が設けられていないが、異常診断装置52に報知部524を設ける構成としても良い。報知部524を設けることにより、定期点検時に作業員が異常状態を確認することができ、その場で異常に対処することができる。もちろん、報知部524が設けられない構成であっても、記憶部523に保持されている診断結果をパソコン等により読み出すことにより、診断結果を確認することができる。
【0065】
(診断システム構成の変形例6)
図16は、診断システム1000の構成の変形例6を示すブロック図である。変形例6の診断システム1000Fは、図14の診断システム1000Dにおいて制御装置12に設けられていたデータ記憶部301,通信部302,位置推定装置51および異常診断装置52を診断用ステップ1a内に配置し、診断用ステップ1aに設けられていた無線通信部27を省略したものである。
【0066】
診断システム1000Fでは、センサ部25で検出された検出データの記憶、検出データに基づく磁気マップM(磁気検出値、位置)の生成、検出データおよび磁気マップM(磁気検出値、位置)に基づく診断処理の全てが、診断用ステップ1a内に設けられたデータ記憶部301,位置推定装置51および異常診断装置52によって行われる。診断結果は、通信部302からネットワーク40を介して監視センタ50の通信装置53へ送信される。監視センタ50では、受信した診断結果に基づいて報知部524による報知を行う。もちろん、監視センタ50は、時系列検出データ群の送信指令を制御装置12に送信することで、データ記憶部301に記憶されている時系列検出データ群を取得することもできる。
【0067】
(診断システム構成の変形例7)
図17は、診断システム1000の構成の変形例7を示すブロック図である。変形例7の診断システム1000Gは、図16に示した診断システム1000Fにおいて、診断用ステップ1aに設けられた通信部302を省略し、監視センタ50の通信装置53を省略し、監視センタ50の報知部524に代えてパーソナルコンピュータ等の情報処理装置54を配置したものである。
【0068】
診断用ステップ1aに設けられた位置推定装置51および異常診断装置52による診断処理の結果、生成された磁気マップM(磁気検出値、位置)およびデータ記憶部301に記憶されている時系列検出データ群等は、定期点検時に作業員によってデータ回収され、監視センタ50へと送られる。監視センタ50では、情報処理装置54によって診断処理結果や磁気マップM(磁気検出値、位置)を確認することができる。また、情報処理装置54により、回収された時系列検出データ群の確認および分析等を行うこともできる。さらに、変形例5の場合と同様に、定期点検時に作業員が記憶部523に保持されている診断結果をパソコン等により読み出すことにより、診断結果を確認することができ、その場で異常に対処することができる。また、報知部524を設けるようにしても良い。
【0069】
なお、図3,11~17に示すブロック図において、構成における機能部、例えば、位置推定装置51および異常診断装置52における各機能部は、電気回路、電子回路、論理回路、およびそれらを内蔵した集積回路のほか、マイコン、プロセッサ、及びこれらに類する演算装置と、ROM、RAM、フラッシュメモリ、ハードディスク、SSD、メモリカード、光ディスク及びこれらに類する記憶装置と、バス、ネットワーク及びこれらに類する通信装置、及び周辺の諸装置の組み合わせによって実行されるプログラムによって実現してもよく、いずれの実現態様でも本発明は成立し得る。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0070】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0071】
(C1)図1,3に示すように、診断システム1000は、無端状に連結された複数のステップ1,1aを循環移動させて乗客を搬送する乗客コンベアであるエスカレータ100の、異常を診断する診断システム1000であって、複数のステップ1,1aに含まれ、少なくとも磁気センサ251を含む1以上の診断用センサを備える診断用ステップ1aと、診断用ステップ1aが一循環する間のエスカレータ100における位置と磁気センサ251の検出値との相関関係である磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成する磁気マップ生成部511と、磁気マップM(磁気検出値、位置)と循環移動時の磁気センサ251の検出値とに基づいて、エスカレータ100における音センサ252の検出値が検出された位置を推定する自己位置推定部512と、音センサ252の検出値に基づいて異常診断を行う異常推定部521と、を備える。
【0072】
図8に示すように、磁気マップM(磁気検出値、位置)は、診断用ステップ1aが一循環する間のエスカレータ100における位置と磁気センサ251の検出値との相関関係を表している。そして、その磁気マップM(磁気検出値、位置)と循環移動時の磁気センサ251の検出値とに基づいて、エスカレータ100における音センサ252の検出値が検出された位置を推定する。そのため、エスカレータ運用時に運転速度が変化する状況においても、診断用センサ検出値の検出位置を精度良く推定することができ、常時診断を行うことが可能となる。
【0073】
(C2)図5,7に示すように、診断用ステップ1aは、診断用センサとして、循環移動する診断用ステップ1aのエスカレータ100における位置を特定できる位置特定用センサとしての加速度センサ253や音センサ252を備え、磁気マップ生成部511は、位置特定用センサで特定した位置(例えば、反転位置P1)を基準位置として、磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成しても良い。位置特定用センサで特定した位置を、磁気マップ生成時の基準位置に利用することで、磁気マップ生成動作の自動化および高精度化を図ることができる。
【0074】
(C3)また、診断用ステップ1aは位置特定用センサとして加速度センサ253を備え、磁気マップ生成部511は、加速度センサ253のセンサ出力に基づいて診断用ステップ1aの姿勢が反転するタイミングを推定し、そのタイミングにおける診断用ステップ1aの反転位置P1を基準位置として磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成するようにしても良い。加速度センサ253による反転位置P1の検出は、容易に高精度に行うことができる。
【0075】
(C4)図5,6に示すように、エスカレータ100は磁化を有する磁化部品(例えば、駆動モータ6)を含み、磁気マップ生成部511は、磁気センサ251が磁化部品の磁化を検出したときの診断用ステップ1aの位置Cを基準位置として、磁気マップM(磁気検出値、位置)を生成するようにしても良い。磁化されている部品の磁化を検出したときの診断用ステップ1aの位置を基準位置とすることで、基準位置を特定するためのセンサ(加速度センサ253)を追加で設ける必要がない。そのため、コスト低減を図ることができる。
【0076】
(C5)図5,7に示すように、自己位置推定部512は、磁気マップM(磁気検出値、位置)と循環移動時の磁気センサ251および位置特定用センサとしての加速度センサ253の検出値(例えば、反転位置P1)とに基づいて、診断用センサとしての音センサ252の検出値が検出された位置を推定するようにしても良い。加速度センサ253で検出される反転位置P1は、診断用ステップ1aがエスカレータ100の特定の位置に移動したときに生じる。そのため、この反転位置P1も自己位置推定に用いることで、自己位置推定精度の向上を図ることができ、精度良く異常診断を行うことができる。
【0077】
(C6)さらに、エスカレータ100には磁化を有する磁化部品(例えば、駆動モータ6)が設けられ、磁化部品の磁化に基づいて磁気センサ251の出力誤差を補正するようにしても良い。例えば、制御部26やデータ収集装置30で補正処理を行う。その結果、磁気センサ251の出力変化の影響を除去でき、自己位置推定精度の悪化を防止することができる。
【0078】
(C7)図9のステップS95の処理のように、異常推定部521は、自己位置推定部512により推定された位置と診断用センサ(例えば、音センサ252)の検出データとに基づいて、異常部品を推定する。異常発生だけでなく、異常部品の推定も行うことで、異常発生時に素早くかつ適切に対処することができる。
【0079】
(C8)図3,12に示すように、診断システムは、複数のステップ1,1aを循環移動させる駆動モータ6が配置されるエスカレータ100の筐体フレーム3または診断用ステップ1aに設けられる通信部302と、通信部302と通信によりデータの受送信が行われ、自己位置推定部512および異常診断装置52が設けられる遠隔監視部としての監視センタ50と、をさらに備え、診断用センサの検出データを、通信部302により監視センタ50に送信する。よって、常時、エスカレータ100を遠隔監視することができる。
【0080】
(C9)さらに、図3に示すように、通信部302はエスカレータ100の筐体フレーム3に設けられ、診断用ステップ1aは、診断用センサの検出データを筐体フレーム3に設けられた通信部302に無線通信により送信する無線通信部27をさらに備え、通信部302は、診断用ステップ1aから送信された検出データを監視センタ50に送信するようにしても良い。無線通信部27には電力消費の少ない近距離無線装置を用いることができ、診断用ステップ1aに配置する電源として、電池のような小容量の電源を用いることができる。
【0081】
(C10)図14,16に示すように、自己位置推定部512および異常推定部521は、複数のステップ1,1aを循環移動させる駆動モータ6が配置されるエスカレータ100の筐体フレーム3または診断用ステップ1aに設けられ、筐体フレーム3または診断用ステップ1aに設けられる通信部302と、通信部302と通信によりデータの受送信を行う監視センタ50と、をさらに備え、異常推定部521の診断結果を、通信部302により監視センタ50に送信する。
【0082】
このような構成の場合、監視センタ50は検査結果を受信できる装置を用意すれば良いので、例えば、インターネットを介してパソコンやモバイルフォン等の情報端末により診断結果を受信することが可能となる。そのため、大掛かりな監視センタを設けなくても、作業員が情報端末により診断結果を受信し、異常のあるエスカレータ100を点検するという形態が可能となる。
【0083】
(C11)図11,13,15,17に示すように、複数のステップ1,1aを循環移動させる駆動モータ6が配置されるエスカレータ100の筐体フレーム3または診断用ステップ1aは、センサ部25の検出データを蓄積するデータ記憶部301をさらに備える。この場合、データ記憶部301に蓄積された検出データを作業員が回収して、自己位置推定部512および異常推定部521により検出データのデータ解析を行うことで、通信装置を設ける必要がない。
【0084】
(C12)図15,17に示すように、自己位置推定部512および異常推定部521は、複数のステップ1,1aを循環移動させる駆動モータ6が配置されるエスカレータ100の筐体フレーム3または診断用ステップ1aに設けられ、自己位置推定部512および異常推定部521が設けられた筐体フレーム3または診断用ステップ1aは、異常推定部521の診断結果を記憶する記憶部523をさらに備える。この場合、定期点検時に作業員が記憶部523に保持されている診断結果をパソコン等により読み出すことにより、診断結果を確認することができ、その場で異常に対処することができる。
【0085】
以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。例えば、本発明は、エスカレータ以外の乗客コンベアに対しても適用できる。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1…ステップ、1a…診断用ステップ、2…チェーン、3…筐体フレーム、4…ターミナルギヤ、6…駆動モータ、9…下部ターミナルギヤ、12…制御装置、24…センサ端末、25…センサ部、26…制御部、27…無線通信部、30…データ収集装置、50…監視センタ、51…位置推定装置、52…異常診断装置、53…通信装置、54…情報処理装置、251…磁気センサ、252…音センサ、253…加速度センサ、301…データ記憶部、302…通信部、511…磁気マップ生成部、512…自己位置推定部、513,522…ノイズ低減部、514,523…記憶部、521…異常推定部、524…報知部、1000,1000A~1000G…診断システム
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