(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189188
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20221215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221215BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20221215BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20221215BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20221215BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20221215BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20221215BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20221215BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
C12N5/10
C12N5/077
A61K35/32
A61K35/28
A61P19/08
A61L27/38 112
A61L27/38 300
A61P19/04
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097618
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和雅
(72)【発明者】
【氏名】馬場 静
(72)【発明者】
【氏名】小西 敦
(72)【発明者】
【氏名】池谷 真
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BB23
4B065BB32
4B065BB34
4B065BC41
4B065CA44
4C081AB02
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB46
4C087BB64
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZA96
(57)【要約】
【課題】間葉系幹細胞を効率よく製造するための、培地組成物、間葉系幹細胞の製造方法、軟骨組織を修復するための薬剤等の提供。
【解決手段】基礎培地及び副腎皮質ホルモンを含有する、神経堤細胞から間葉系幹細胞を誘導するための培地組成物であって、培地組成物中の副腎皮質ホルモンの換算濃度が1.25
μM以上である培地組成物、及び該培地中で神経堤細胞を培養して間葉系幹細胞を誘導する工程を含む、間葉系幹細胞の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎培地及び副腎皮質ホルモンを含有する、神経堤細胞から間葉系幹細胞を誘導するための培地組成物であって、培地組成物中の副腎皮質ホルモンの換算濃度が1.25 μM以上である培地組成物。
【請求項2】
副腎皮質ホルモンが、糖質コルチコイドあるいはその誘導体である、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項3】
糖質コルチコイドあるいはその誘導体が、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンから成る群から選択される、少なくとも1種である、請求項2に記載の培地組成物。
【請求項4】
糖質コルチコイドあるいはその誘導体が、デキサメタゾンである、請求項2又は3に記載の培地組成物。
【請求項5】
培地組成物中の副腎皮質ホルモンの換算濃度が300 μM以下である請求項1~4のいず
れか1項に記載の培地組成物。
【請求項6】
培地組成物中のデキサメタゾンの濃度が10 μM以下である請求項4に記載の培地組成物。
【請求項7】
基礎培地が無血清培地である、請求項1~6のいずれか1項に記載の培地組成物。
【請求項8】
神経堤細胞が多能性幹細胞由来である、請求項1~7のいずれか1項に記載の培地組成物。
【請求項9】
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、請求項8に記載の培地組成物。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の培地組成物中で神経堤細胞を培養して間葉系幹細胞を誘導する工程(工程1)を含む、間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項11】
神経堤細胞が多能性幹細胞由来である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程1の前に以下の工程を実施する、請求項10~12のいずれか1項に記載の製造方法:
(工程A)神経堤細胞を含む細胞集団を得る工程、及び
(工程B)工程Aで得られた細胞集団を、細胞外マトリックスを足場として用いて拡大培養する工程。
【請求項14】
細胞外マトリックスが、ラミニンまたはフィブロネクチンである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
ラミニンが、全長ラミニン、α2鎖を有するラミニン又はラミニン211である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
工程Bで得られた細胞集団が、神経堤細胞を70%以上含む細胞集団である、請求項13~
15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
神経堤細胞を含む細胞集団から間葉系幹細胞を製造する製造方法であって、
前記神経堤細胞は、多能性幹細胞から分化誘導された細胞であり、
前記細胞集団は、前記神経堤細胞を70%以上含む細胞集団であり、
前記細胞集団を、1.25 μM以上300 μM以下の換算濃度の副腎皮質ホルモンの存在下で培
養する工程を含む、
神経堤細胞を含む細胞集団から間葉系幹細胞を製造する製造方法。
【請求項18】
副腎皮質ホルモンが、糖質コルチコイドあるいはその誘導体である、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
糖質コルチコイドあるいはその誘導体が、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンから成る群から選択される、少なくとも1種である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
糖質コルチコイドあるいはその誘導体が、デキサメタゾンである、請求項18又は19に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項10~20のいずれか1項に記載の製造方法により得られた間葉系幹細胞又はその培養物。
【請求項22】
間葉系幹細胞が軟骨細胞への高分化能を特徴とする、請求項21に記載の間葉系幹細胞又はその培養物。
【請求項23】
以下の工程を含む、軟骨細胞の製造方法:
(工程D)請求項10~20のいずれか1項に記載の製造方法により間葉系幹細胞を含む
細胞集団を得る工程、
(工程E)前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を軟骨誘導培地中で培養して軟骨細胞を含む
細胞集団を得る工程。
【請求項24】
請求項23に記載の製造方法により得られた軟骨細胞又はその培養物。
【請求項25】
請求項24に記載の軟骨細胞又はその培養物を含有する、軟骨組織を修復するための薬剤。
【請求項26】
軟骨細胞を含有する、軟骨組織を修復するための薬剤の製造方法であって、以下の工程を含む、方法:
(工程D)請求項10~20のいずれか1項に記載の製造方法により間葉系幹細胞を含む
細胞集団を得る工程、
(工程E)前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を軟骨誘導培地中で培養して軟骨細胞を含む
細胞集団を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の製造方法等に関し、詳細には、基礎培地及び副腎皮質ホルモンを含有する培地組成物を用いた間葉系幹細胞の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell; MSC)は、生体の骨髄等に存在する体性幹細胞の一種であり、骨、軟骨、脂肪細胞への分化能を有する接着性の細胞と定義される。間葉系幹細胞は癌化の危険性が極めて少ないと考えられており、再生医療に用いられる細胞材料として、大いに有望視されている。また、間葉系幹細胞は組織傷害部位に集積し、様々な液性因子やエクソソームを放出して免疫反応や抗炎症作用を制御する機能を有し、組織修復・恒常性の維持に重要な役割を果たしていることが知られている。従って、間葉系幹細胞自体としての、免疫疾患や炎症性疾患等を治療するための細胞製剤としても有望である。
【0003】
しかしながら、間葉系幹細胞は由来する組織等によって異なった分化能や増殖/機能特性を有しているため、目的に応じて有用な性質を示す間葉系幹細胞を効率的に製造することが求められていた。
【0004】
神経堤細胞は脊椎動物に特有の細胞であり、発生初期に神経管と予定表皮外胚葉間に一過的に生じ、胚の体内を移動し、末梢神経系の細胞や頭部組織の細胞、色素細胞等の多種多様な細胞に分化する細胞である。神経堤細胞が特許文献1及び非特許文献1に開示されている方法によって製造できること、及びこれから間葉系幹細胞の分化を誘導できること(非特許文献2)は知られていたが、間葉系幹細胞をより効率的に製造する方法が研究されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Fukuta M. et al., PLoS One. 2014 Dec 2;9(12):e 112291.
【非特許文献2】Zhao C. and Ikeya M., Stem Cells Int. 2018 Jul 31; Article ID 9601623
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、間葉系幹細胞を効率よく製造するための、培地組成物、間葉系幹細胞の製造方法等の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、副腎皮質ホルモンを含有する培地組成物を用いることで、神経堤細胞から間葉系幹細胞を効率よく誘導することができること、さらに培地組成物中の副腎皮質ホルモンの好適な濃度を見出した。さらに、かかる培地組成物中で神経堤細胞を培養することにより得られた間葉系幹細胞が軟骨細胞への分化能が高く、軟骨組織を修復するための薬剤の製造に有用であることを見出して、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 基礎培地及び副腎皮質ホルモンを含有する、神経堤細胞から間葉系幹細胞を誘導するための培地組成物であって、培地組成物中の副腎皮質ホルモンの換算濃度が1.25 μM以上である培地組成物。
[2] 副腎皮質ホルモンが、糖質コルチコイドあるいはその誘導体である、[1]に記載の培地組成物。
[3] 糖質コルチコイドあるいはその誘導体が、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンから成る群から選択される、少なくとも1種である、[2]に記載の培地組成物。
[4] 糖質コルチコイドあるいはその誘導体が、デキサメタゾンである、[2]又は[3]に記載の培地組成物。
[5] 培地組成物中の副腎皮質ホルモンの換算濃度が300 μM以下である[1]に記載
の培地組成物。
[6] 培地組成物中のデキサメタゾンの濃度が10 μM以下である[4]に記載の培地組成物。
[7] 基礎培地が無血清培地である、[1]~[6]のいずれかに記載の培地組成物。[8] 神経堤細胞が多能性幹細胞由来である、[1]~[7]のいずれかに記載の培地組成物。
[9] 多能性幹細胞が人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、[8]に記載の培地組成
物。
[10] [1]~[7]のいずれかに記載の培地組成物中で神経堤細胞を培養して間葉系幹細胞を誘導する工程(工程1)を含む、間葉系幹細胞の製造方法。
[11] 神経堤細胞が多能性幹細胞由来である、[10]に記載の製造方法。
[12] 多能性幹細胞が人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、[11]に記載の製造
方法。
[13] 工程1の前に以下の工程を実施する、[10]~[12]のいずれかに記載の製造方法:
(工程A)神経堤細胞を含む細胞集団を得る工程、及び
(工程B)工程Aで得られた細胞集団を、細胞外マトリックスを足場として用いて拡大培養する工程。
[14] 細胞外マトリックスが、ラミニンまたはフィブロネクチンである、[13]に記載の製造方法。
[15] ラミニンが、全長ラミニン、α2鎖を有するラミニン又はラミニン211である、[14]に記載の製造方法。
[16] 工程Bで得られた細胞集団が、神経堤細胞を70%以上含む細胞集団である、[13]~[15]のいずれかに記載の製造方法。
[17] 神経堤細胞を含む細胞集団から間葉系幹細胞を製造する製造方法であって、
前記神経堤細胞は、多能性幹細胞から分化誘導された細胞であり、
前記細胞集団は、前記神経堤細胞を70%以上含む細胞集団であり、
前記細胞集団を、1.25 μM以上300 μM以下の換算濃度の副腎皮質ホルモンの存在下で培
養する工程を含む、
神経堤細胞を含む細胞集団から間葉系幹細胞を製造する製造方法。
[18] 副腎皮質ホルモンが、糖質コルチコイドあるいはその誘導体である、[17]に記載の製造方法。
[19] 糖質コルチコイドあるいはその誘導体が、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンから成る群から選択される、少なくとも1種である、[18]に記載の製造方法。
[20] 糖質コルチコイドあるいはその誘導体が、デキサメタゾンである、[18]又
は[19]に記載の製造方法。
[21] [10]~[20]のいずれかに記載の製造方法により得られた間葉系幹細胞又はその培養物。
[22] 間葉系幹細胞が軟骨細胞への高分化能を特徴とする、[21]に記載の間葉系幹細胞又はその培養物。
[23] 以下の工程を含む、軟骨細胞の製造方法:
(工程D)[10]~[20]のいずれかに記載の製造方法により間葉系幹細胞を含む細
胞集団を得る工程、
(工程E)前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を軟骨誘導培地中で培養して軟骨細胞を含む
細胞集団を得る工程。
[24] [23]に記載の製造方法により得られた軟骨細胞又はその培養物。
[25] [24]に記載の軟骨細胞又はその培養物を含有する、軟骨組織を修復するための薬剤。
[26] 軟骨細胞を含有する、軟骨組織を修復するための薬剤の製造方法であって、以下の工程を含む、方法:
(工程D)[10]~[20]のいずれかに記載の製造方法により間葉系幹細胞を含む細
胞集団を得る工程、
(工程E)前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を軟骨誘導培地中で培養して軟骨細胞を含む
細胞集団を得る工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、神経堤細胞から間葉系幹細胞を効率的に誘導するための培地組成物を提供することができる。また、本発明によれば、効率的な間葉系幹細胞の製造方法、軟骨細胞の製造方法、該間葉系幹細胞を有効成分として含有する、軟骨組織を修復するための薬剤、軟骨組織の修復方法、軟骨組織を修復するための薬剤の製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は分化誘導中の細胞増殖曲線を示したグラフである。
【
図2】
図2は、本発明の培地組成物で分化誘導を開始したiNCCの位相差顕微鏡イメージである。
【
図3】
図3は、本発明の培地組成物で分化誘導を開始したiNCCにおける、MSCマーカーの発現量の経時的変化を表すグラフである。縦軸は、iPS細胞における発現量を1とした場合の相対値を表す。横軸に記載した数値は、MSCへの分化誘導を開始してからの日数を表す。
【
図4】
図4は、本発明の培地組成物で分化誘導を開始したiNCCの細胞増殖曲線を示すグラフである。縦軸は総分裂回数、横軸はMSCへの分化誘導を開始してからの日数を表す。
【
図5】
図5は、本発明の培地組成物で分化誘導して得られたiMSCの、軟骨細胞への分化能の高さを示すデータである。イメージは、iMSCを軟骨細胞へと分化誘導してから14日後のアルシアンブルー染色結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
1.培地組成物
本発明は、基礎培地及び副腎皮質ホルモンを含有する、神経堤細胞から間葉系幹細胞を誘導するための培地組成物であって、培地組成物中の副腎皮質ホルモンの換算濃度が1.25
μM以上である培地組成物(以下、本発明の培地組成物とも称する)を提供する。
【0014】
本発明の、培地組成物が含有する基礎培地には、自体公知の基礎培地を用いることができ、神経堤細胞から間葉系幹細胞への誘導を阻害しない限り特に限定されない。当該基礎培地には、例えば、IMDM培地、Medium199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地
、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、StemFit(登録商標)、MCDB201培地及びこれらの混合培地などが包含される。本工程において、
好ましくは、StemFit(登録商標)培地が用いられる。培地には、血清が含有されていても
よいし、或いは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラ
ーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなど
の1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化
剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。
【0015】
前記培地は、副腎皮質ホルモンを含む。副腎皮質ホルモンとしては、例えば、糖質コルチコイド及びその誘導体などが挙げられ、該糖質コルチコイド及びその誘導体としては、例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンが挙げられる。これらのうち、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾンが好ましく、なかでも、デキサメタゾンが好ましい。培地に添加される副腎皮質ホルモンは1種又は2種以上であってもよいが、好ましくは1種である。
【0016】
デキサメタゾン(CAS番号:50-02-2、CA index名:Pregna-1,4-diene-3,20-dione,9-fluoro-11,17,21-trihydroxy-16-methyl-,(11β,16α)-)は、下式
【0017】
【0018】
で表される構造を有する公知の合成副腎皮質ホルモンである。デキサメタゾンは市販されているので、かかる市販品を本発明に使用することもできる。デキサメタゾンを用いることによって神経堤細胞から間葉系幹細胞への分化が誘導されるため、本発明の培地組成物中で神経堤細胞を培養することにより、高い効率で、間葉系幹細胞を製造することができる。
【0019】
培地組成物中に含まれる副腎皮質ホルモンの濃度は、神経堤細胞から間葉系幹細胞への分化を促進しうる濃度であれば特に限定されないが、例えば、デキサメタゾンを1種単独
で使用する場合、50 nM以上(又は50 nM超)、55 nM以上(又は55 nM超)、60 nM以上(
又は60 nM超)、65 nM以上(又は65 nM超)、70 nM以上(又は70 nM超)、75 nM以上(又は75 nM超)、80 nM以上(又は80 nM超)、85 nM以上(又は85 nM超)、90 nM以上(又は90 nM超)、95 nM以上(又は95 nM超)、100 nM以上(又は100 nM超)、150 nM以上(又
は150 nM超)、200 nM以上(又は200 nM超)、250 nM以上(又は250 nM超)、300 nM以上(又は300 nM超)、350 nM以上(又は350 nM超)、400 nM以上(又は400 nM超)、450 nM以上(又は450 nM超)、500 nM以上(又は500 nM超)、550 nM以上(又は550 nM超)、600 nM以上(又は600 nM超)、650 nM以上(又は650 nM超)、700 nM以上(又は700 nM超)、750 nM以上(又は750 nM超)、800 nM以上(又は800 nM超)、850 nM以上(又は850 nM超)、900 nM以上(又は900 nM超)、950 nM以上(又は950 nM超)であり、10 μM以下(又は10 μM未満)、9 μM以下(又は9 μM未満)、8 μM以下(又は8 μM未満)、7 μM
以下(又は7 μM未満)、6 μM以下(又は6 μM未満)、5 μM以下(又は5 μM未満)、4
μM以下(又は4 μM未満)、3 μM以下(又は3 μM未満)、2 μM以下(又は2 μM未満
)、1 μM以下(又は1 μM未満)である。デキサメタゾン以外の副腎皮質ホルモンを使用する場合、前記濃度のデキサメタゾンと同等の糖質コルチコイドとしての力価を示す濃度で用いられることが望ましい。培地中の副腎皮質ホルモン濃度が低すぎると培養の維持や間葉系幹細胞の誘導を促進するのに十分ではなくなる可能性があり、一方副腎皮質ホルモン濃度が高すぎると、細胞増殖を抑制し、効率的に間葉系幹細胞が得られない。例えば、ヒト間葉系幹細胞への分化を誘導する場合には、培地組成物中に含まれる副腎皮質ホルモンの濃度は、デキサメタゾンを1種単独で使用する場合、例えば50 nM~10 μM(又は50 nM以上10 μM未満、50 nM超10 μM以下、若しくは50 nM超10 μM未満)、好ましくは60 nM~5 μM(又は60 nM以上5 μM未満、60 nM超5 μM以下、若しくは60 nM超5 μM未満)、
より好ましくは70 nM~2 μM(又は70 nM以上2 μM未満、70 nM超2 μM以下、若しくは70
nM超2 μM未満)、更により好ましくは100 nM~1 μM(又は100 nM以上1 μM未満、100 nM超1 μM以下、若しくは100 nM超1 μM未満)である。
【0020】
副腎皮質ホルモンの糖質コルチコイドとしての力価は、ヒドロコルチゾンを1としたと
き、コルチゾンが0.8、プレドニゾロンが4、メチルプレドニゾロンが5、トリアムシノロ
ンが5、パラメタゾンが10、デキサメタゾンが25~30、ベタメタゾンが25~30である。各
副腎皮質ホルモンの糖質コルチコイドとしての力価が製造元や保存状態によって上記値と異なる可能性がある場合は、事前に試験的に確認しておき、力価が上記値となる、品質及び保存状態が良好なものを用いることが望ましい。
【0021】
また、ベタメタゾンを1種単独で使用する場合、培地組成物中に含まれるベタメタゾン
の濃度は、神経堤細胞から間葉系幹細胞への分化を促進しうる濃度であれば特に限定されないが、例えば、50 nM以上(又は50 nM超)、55 nM以上(又は55 nM超)、60 nM以上(
又は60 nM超)、65 nM以上(又は65 nM超)、70 nM以上(又は70 nM超)、75 nM以上(又は75 nM超)、80 nM以上(又は80 nM超)、85 nM以上(又は85 nM超)、90 nM以上(又は90 nM超)、95 nM以上(又は95 nM超)、100 nM以上(又は100 nM超)、150 nM以上(又
は150 nM超)、200 nM以上(又は200 nM超)、250 nM以上(又は250 nM超)、300 nM以上(又は300 nM超)、350 nM以上(又は350 nM超)、400 nM以上(又は400 nM超)、450 nM以上(又は450 nM超)、500 nM以上(又は500 nM超)、550 nM以上(又は550 nM超)、600 nM以上(又は600 nM超)、650 nM以上(又は650 nM超)、700 nM以上(又は700 nM超)、750 nM以上(又は750 nM超)、800 nM以上(又は800 nM超)、850 nM以上(又は850 nM超)、900 nM以上(又は900 nM超)、950 nM以上(又は950 nM超)であり、10 μM以下(又は10 μM未満)、9 μM以下(又は9 μM未満)、8 μM以下(又は8 μM未満)、7 μM
以下(又は7 μM未満)、6 μM以下(又は6 μM未満)、5 μM以下(又は5 μM未満)、4
μM以下(又は4 μM未満)、3 μM以下(又は3 μM未満)、2 μM以下(又は2 μM未満
)、1 μM以下(又は1 μM未満)である。培地中のベタメタゾン濃度が低すぎると培養の維持や間葉系幹細胞の誘導を促進するのに十分ではなくなる可能性があり、一方ベタメタゾン濃度が高すぎると、細胞増殖を抑制し、効率的に間葉系幹細胞が得られない。例えば、ヒト間葉系幹細胞への分化を誘導する場合には、培地組成物中に含まれるベタメタゾンの濃度は、例えば50 nM~10 μM(又は50 nM以上10 μM未満、50 nM超10 μM以下、若し
くは50 nM超10 μM未満)、好ましくは60 nM~5 μM(又は60 nM以上5 μM未満、60 nM超
5 μM以下、若しくは60 nM超5 μM未満)、より好ましくは70 nM~2 μM(又は70 nM以上2 μM未満、70 nM超2 μM以下、若しくは70 nM超2 μM未満)、更により好ましくは100 nM~1 μM(又は100 nM以上1 μM未満、100 nM超1 μM以下、若しくは100 nM超1 μM未満
)である。
【0022】
また、プレドニゾロンを1種単独で使用する場合、培地組成物中に含まれるプレドニゾ
ロンの濃度は、神経堤細胞から間葉系幹細胞への分化を促進しうる濃度であれば特に限定されないが、例えば、300 nM以上(又は300 nM超)、330 nM以上(又は330 nM超)、360 nM以上(又は360 nM超)、390 nM以上(又は390 nM超)、420 nM以上(又は420 nM超)、450 nM以上(又は450 nM超)、480 nM以上(又は480 nM超)、510 nM以上(又は510 nM超)、540 nM以上(又は540 nM超)、570 nM以上(又は570 nM超)、600 nM以上(又は600 nM超)、900 nM以上(又は900 nM超)、1.2 μM以上(又は1.2 μM超)、1.5 μM以上(
又は1.5 μM超)、1.8 μM以上(又は1.8 μM超)、2.1μM以上(又は2.1μM超)、2.4
μM以上(又は2.4 μM超)、2.7 μM以上(又は2.7 μM超)、3 μM以上(又は3 μM超)、3.3 μM以上(又は3.3 μM超)、3.6 μM以上(又は3.6 μM超)、3.9 μM以上(又は3.9 μM超)、4.2 μM以上(又は4.2 μM超)、4.5 μM以上(又は4.5 μM超)、4.8 μM
以上(又は4.8 μM超)、5.1 μM以上(又は5.1 μM超)、5.4 μM以上(又は5.4 μM超
)、5.7 μM以上(又は5.7 μM超)であり、70 μM以下(又は70 μM未満)、63 μM以下(又は63 μM未満)、56 μM以下(又は56 μM未満)、49 μM以下(又は49 μM未満)、42 μM以下(又は42 μM未満)、35 μM以下(又は35 μM未満)、28 μM以下(又は28
μM未満)、21 μM以下(又は21 μM未満)、14 μM以下(又は14 μM未満)、7 μM以下(又は7 μM未満)である。培地中のプレドニゾロン濃度が低すぎると培養の維持や間葉
系幹細胞の誘導を促進するのに十分ではなくなる可能性があり、一方プレドニゾロン濃度が高すぎると、細胞増殖を抑制し、効率的に間葉系幹細胞が得られない。例えば、ヒト間葉系幹細胞への分化を誘導する場合には、培地組成物中に含まれるプレドニゾロンの濃度は、例えば300 nM~70 μM(又は300 nM以上70 μM未満、300 nM超70 μM以下、若しくは300 nM超70 μM未満)、好ましくは360 nM~35 μM(又は360 nM以上35 μM未満、360 nM超35 μM以下、若しくは360 nM超35 μM未満)、より好ましくは420 nM~14 μM(又は420 nM以上14 μM未満、420 nM超14 μM以下、若しくは420 nM超14 μM未満)、更により好ましくは600 nM~7 μM(又は600 nM以上7 μM未満、600 nM超7 μM以下、若しくは600 nM超7 μM未満)である。
【0023】
一態様において、培地組成物中に含まれる副腎皮質ホルモンの濃度は、それぞれを1種
単独で使用する場合、デキサメタゾン又はベタメタゾンは50 nM以上10 μM以下(又は50 nM以上10 μM未満、50 nM超10 μM以下、若しくは50 nM超10 μM未満)であり、パラメタゾンは100 nM以上30 μM以下(又は100 nM以上30 μM未満、100 nM超30 μM以下、若しくは100 nM超30 μM未満)であり、トリアムシノロン又はメチルプレドニゾロンは250 nM以上60 μM以下(又は250 nM以上60 μM未満、250 nM超60 μM以下、若しくは250 nM超60
μM未満)であり、プレドニゾロンは300 nM以上70 μM以下(又は300 nM以上70 μM未満
、300 nM超70 μM以下、若しくは300 nM超70 μM未満)であり、コルチゾンは1.50 μM以上375 μM以下(又は1.50 μM以上375 μM未満、1.50 μM超375 μM以下、若しくは1.50 μM超375 μM未満)であり、ヒドロコルチゾンは1.250 μM以上300 μM以下(又は1.250 μM以上300 μM未満、1.250 μM超300 μM以下、若しくは1.250 μM超300 μM未満)である。
【0024】
一態様において、培地組成物中に含まれる副腎皮質ホルモンの濃度は、それぞれを1種
単独で使用する場合、50 nM以上375 μM以下(又は50 nM以上375 μM未満、50 nM超375
μM以下、若しくは50 nM超375 μM未満)である。
【0025】
一態様において、副腎皮質ホルモンを1種以上用いる場合は、当該副腎皮質ホルモンの
濃度に糖質コルチコイドとしての力価を乗じて換算し、且つそれを合計した濃度を、1種
以上の副腎皮質ホルモンの換算濃度と定義し、該換算濃度は、例えば、1.25 μM以上(又は1.25 μM超)、1.375 μM以上(又は1.375 μM超)、1.5 μM以上(又は1.5 μM超)、1.625 μM以上(又は1.625 μM超)、1.75 μM以上(又は1.75 μM超)、1.875 μM以上
(又は1.875 μM超)、2 μM以上(又は2 μM超)、2.125 μM以上(又は2.125 μM超)
、2.25 μM以上(又は2.25 μM超)、2.375 μM以上(又は2.375 μM超)、2.5 μM以上
(又は2.5 μM超)、3.75 μM以上(又は3.75 μM超)、5 μM以上(又は5 μM超)、6.25 μM以上(又は6.25 μM超)、7.5 μM以上(又は7.5 μM以上超)、8.75 μM以上(又
は8.75 μM超)、10 μM以上(又は10 μM超)、11.25 μM以上(又は11.25 μM超)、12.5 μM以上(又は12.5 μM超)、13.75 μM以上(又は13.75 μM超)、15 μM以上(又は15 μM超)、16.25 μM以上(又は16.25 μM超)、17.5 μM以上(又は17.5 μM超)、18.75 μM以上(又は18.75 μM超)、20 μM以上(又は20 μM超)、21.25 μM以上(又は21.25 μM超)、22.5 μM以上(又は22.5 μM超)、23.75 μM以上(又は23.75 μM超)であり、300 μM以下(又は300 μM未満)、270 μM以下(又は270 μM未満)、240 μM以
下(又は240 μM未満)、210 μM以下(又は210 μM未満)、180 μM以下(又は180 μM
未満)、150 μM以下(又は150 μM未満)、120 μM以下(又は120 μM未満)、90 μM以下(又は90 μM未満)、60 μM以下(又は60 μM未満)、30 μM以下(又は30 μM未満)である。例えば、副腎皮質ホルモンを1種以上用いる場合は、副腎皮質ホルモンの換算濃
度は、1.25 μM~300 μM(又は1.25 μM以上300 μM未満、1.25 μM超300 μM以下、若
しくは1.25 μM超300 μM未満)、好ましくは1.5 μM~150μM(又は1.5 μM以上150μM
未満、1.5 μM超150μM以下、若しくは1.5 μM超150μM未満)、より好ましくは17.5 μM~60 μM(又は17.5 μM以上60 μM未満、17.5 μM超60 μM以下、若しくは17.5 μM以上60 μM未満)、更により好ましくは2.5 μM~30 μM(又は2.5 μM以上30 μM未満、2.5 μM超30 μM以下、若しくは2.5 μM超30 μM未満)である。
【0026】
本発明の培地組成物には、血清が含まれていてもよい。血清としては、動物由来の血清であれば、間葉系幹細胞の誘導を阻害するものでない限り特に限定されないが、好ましくは哺乳動物由来の血清(例えばウシ胎仔血清、ヒト血清等)である。血清の濃度は、自体公知の濃度範囲内であればよい。更に、培養後の間葉系幹細胞を医療目的で使用する場合、他の動物由来成分は血液媒介病原菌の感染源や異種抗原となる可能性があるため、血清を含まない培地も好適に使用し得る。血清を含まない場合、血清の代替添加物(例えばKnockout Serum Replacement (KSR) (Invitrogen)、Chemically-defined Lipid concentrated (Gibco) 等) を用いてもよい。
【0027】
本発明の培地組成物により誘導され培養された間葉系幹細胞を細胞医療等の医療目的で使用する場合、病原菌の感染を起こしたり、異種抗原となったりする可能性があるため、本発明の培地には非ヒト動物由来成分が含まれないことがより好ましい。
【0028】
「幹細胞」とは、自己複製能及び分化/増殖能を有する未熟な細胞を意味する。幹細胞には、分化能力に応じて、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)、複能性幹細胞(multipotent stem cell)、単能性幹細胞(unipotent stem cell)等の亜集団が含まれる。
多能性幹細胞とは、生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。複能性幹細胞とは、全ての種類ではないが、複数種の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。単能性幹細胞とは、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。
【0029】
本発明において対象とする間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、肝細胞、神経細胞等に分化可能な複能性幹細胞の一種であり、生体に移植した際に腫瘍を形成する可能性が低い細胞として知られている。本発明における間葉系幹細胞は、好ましくは、1以上の間葉系幹細胞マーカー(例えば、CD90、CD44、CD73、CD105等)陽性であり得
、より好ましくは、該マーカー陽性であり、かつ、間葉系幹細胞で発現が認められない分子の発現が陰性であり得る。間葉系幹細胞で発現が認められない分子の例としては、CD34、CD45、CD14、CD11b、CD79、CD19、HLA-DR等が挙げられる。
【0030】
本発明の培地組成物は、いずれの動物由来の間葉系幹細胞の誘導にも好適に使用することができる。本発明の培地組成物を使用して誘導され、培養され得る間葉系幹細胞は、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等由来の間葉系幹細胞であり、好ましくは、ヒト由来の間葉系幹細胞である。
【0031】
本発明の培地組成物は、間葉系幹細胞の分化を誘導する因子(例えば、グルココルチコイド、トランスフォーミング成長因子-βファミリーと呼ばれる因子、例えば骨形態形成
タンパク質(望ましくはBMP-2或いはBMP-4)、塩基性繊維芽細胞成長因子 (bFGF)、イン
ヒビンA或いは軟骨形成刺激活性因子 (CSA)、I型コラーゲン(とりわけゲル形態にあるもの)などのコラーゲン性細胞外基質、及びレチノイン酸などのビタミンA類似体)を含み得るが好ましくは間葉系幹細胞の分化(例えば軟骨への分化)を誘導しない濃度で含み得る。一実施形態においては、該培地は、副腎皮質ホルモン以外の、間葉系幹細胞の分化を誘導する因子を含まなくてもよい。一実施形態においては、該培地は、デキサメタゾン以外の、間葉系幹細胞の分化を誘導する因子を含まなくてもよい。
【0032】
本発明の培地組成物は、足場成分を含んでもよい。該足場成分としては、ラミニン[ラ
ミニンα5β1γ1(以下、ラミニン511)、ラミニンα1β1γ1(以下、ラミニン111)等及びラミニン断片(ラミニン511E8等)を含む]、エンタクチン、フィブロネクチン、ゼラチン、ビトロネクチン、シンセマックス(コーニング社)、マトリゲル等の細胞外マトリクス等が挙げられ、好ましくは、ラミニン511である。これらの足場成分は、一般的には、0.001 μg/ml~1000 μg/ml、好ましくは0.01 μg/ml~100 μg/ml、より好ましくは0.1
μg/ml~10 μg/ml、より好ましくは0.1 μg/ml~1 μg/ml、最も好ましくは0.2 μg/ml
で培地に添加する。
【0033】
本発明の培地組成物は、神経堤細胞を間葉系幹細胞へと分化誘導するために用いられる。
「神経堤細胞(Neural Crest Cell:「NCC」とも称される)」とは、脊椎動物の初期発生において表皮外胚葉と神経板の間に一時的に形成される神経堤という構造から脱上皮化し、上皮から間葉への転換後に胚体内の様々な部位に誘導される細胞を意味する。本明細書における用語「神経堤細胞」には、生体より採取された細胞のみならず、多能性幹細胞由来の神経堤細胞や、それらを継代した細胞も含まれる。本発明において、神経堤細胞の由来は特に限定されず、いかなる脊椎動物のものであってもよいが、哺乳動物由来の神経堤細胞が好ましい。かかる哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、及びヒトが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくはヒトである。
【0034】
神経堤細胞は、生体由来の神経堤細胞を用いてもよく、例えば、生体における神経堤由来の組織(例えば、骨髄、脊髄後根神経節、心臓、角膜、虹彩、歯髄、及び嗅粘膜等)から製造することができる。また、多能性幹細胞由来の神経堤細胞も好適に用いることができる。多能性幹細胞から神経堤細胞を得る方法としては、自体公知の方法を用いることができ、一例としては、TGFβ阻害剤及びGSK-3β阻害剤を含有する培養液中で多能性幹細胞を培養して分化誘導する方法が例示される。このように、自体公知の方法を用いることにより、神経堤細胞、より詳細には神経堤細胞を含む細胞集団を容易に得ることが可能である。
【0035】
かくして得られた細胞集団に神経堤細胞が含まれるか否かは、TFAP2a、SOX9、SOX10、TWISTI、PAX3等の神経堤細胞特異的マーカー遺伝子の1以上の発現を自体公知の方法により確認すればよい。また、CD271タンパク質(「p75(NTR)」とも称される)等の神経堤細胞
の細胞表面に存在するタンパク質を神経堤細胞特異的マーカーとして用いることもできる。本発明において神経堤細胞は、多能性幹細胞由来であることが好ましく、iPS細胞由来
であることがより好ましい。
【0036】
尚、本発明において多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ中間中胚葉細胞に誘導される任意の細胞が包含される。多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(GS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞
(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、製造工程において胚、卵子等の破壊をしないで入手可能であるという観点から、iPS細胞であり、より好ましくはヒトiPS細胞である。
【0037】
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入するこ
とによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3又はGlis1等の
遺伝子又は遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et
al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, etal. (2008), Nat. Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat. Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotechnol., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0038】
体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、及び成熟した健全な若しくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、及び株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造
血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細
胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋
肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞及び脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0039】
体細胞を採取する由来となる哺乳動物は特に限定されないが、好ましくはヒトである。
【0040】
本発明は、副腎皮質ホルモンを含む、間葉系幹細胞の分化促進剤を提供し得る。該分化促進剤を含む培地を用いて、神経堤細胞を培養することにより、間葉系幹細胞への誘導効率を上昇させることが可能である。
【0041】
本発明の分化促進剤は、副腎皮質ホルモンのみからなっていてもよいが、更に生理学的に許容される担体(例えば、生理的な等張液(生理食塩水、上述の基礎培地、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)を含む等張液等)、賦形剤、防腐剤、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、結合剤、溶解補助剤、非イオン性界面活性剤、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、保存剤、酸化防止剤、上述の添加物など)を含む組成物として提供することもできる。
【0042】
本発明の分化促進剤に含まれる副腎皮質ホルモンの含有量は、本発明の分化促進剤が培地に添加されるなどして用いられた場合に、該培地中の副腎皮質ホルモン濃度が、間葉系幹細胞の誘導を促進するのに十分な濃度含まれるように構成されていることが好ましい。
【0043】
本発明の分化促進剤は、等張な水溶液、或いは粉末等の状態で、培地に添加されるなどして用いられる。
【0044】
上記の通り、副腎皮質ホルモンを基礎培地に添加することにより本発明の培地組成物を製造することができるが、副腎皮質ホルモンと、基礎培地とを含有するキットの形態で使用することもできる。即ち、副腎皮質ホルモンと、基礎培地とを別々に組み合わせてキットの形態で供給し、使用者が使用時に副腎皮質ホルモンを基礎培地に添加することにより、本発明の培地組成物を調製して使用することができる。
【0045】
当該キットにおいては、基礎培地を構成する成分とそれ以外の成分が別々に提供されていてもよい。両成分は同一又は異なって液体又は粉末であり、各成分が単独で別々に提供されていてもよいし、いくつかの成分が混合された状態で提供されてもよい。また、キット中には、必ずしも本発明の培地組成物の全成分が含まれていなくてもよく、水等の極めて容易に入手できる成分は、省略されていてもよい。成分が粉末の場合、所望により用時緩衝液等で溶解して使用することができる。
【0046】
2.間葉系幹細胞の製造方法
本発明は、本発明の培地組成物中で神経堤細胞を培養して間葉系幹細胞を誘導する工程(工程1)を含む、間葉系幹細胞の製造方法(以下、本発明の製造方法とも称する)を提供する。本発明の製造方法においては、基礎培地及び副腎皮質ホルモンを含む培地組成物中で神経堤細胞を培養することにより、間葉系幹細胞への分化が誘導される。本発明の製造方法によれば、効率よく間葉系幹細胞を製造することが可能である。副腎皮質ホルモンを含む培地中で神経堤細胞を培養することにより、神経堤細胞を間葉系幹細胞としての能力を保持する細胞に効率よく分化させることが可能となる。
【0047】
工程1における培養は、浮遊培養若しくは接着培養又はそれらの組合せであり得る。本発明における「浮遊培養」は、細胞(又は細胞の凝集塊)が培養液に浮遊して存在する状態を維持しつつ培養することを言う。「接着培養」は、細胞(又は細胞の凝集塊)を培養器材等に接着させる条件で行う培養をいう。この場合、細胞が接着するとは、細胞又は細胞の凝集塊と培養器材の間に、強固な細胞-基質間結合(cell-substratum junction)が
できることをいう。より詳細には、浮遊培養とは、細胞又は細胞の凝集塊と培養器材等との間に強固な細胞-基質間結合を作らせない条件での培養をいい、接着培養とは、細胞又
は細胞の凝集塊と培養器材等との間に強固な細胞-基質間結合を作らせる条件での培養を
いう。
【0048】
浮遊培養を行う際に用いられる培養器は、浮遊培養することが可能なものであれば特に限定されず、当業者であれば適宜決定することが可能である。このような培養器としては、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、培養皿(ディッシュ)、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マイクロポア、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、三角フラスコ、スピナーフラスコ又はローラーボトルが挙げられる。これらの培養器は、浮遊培養を可能とするために、細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を低下させる目的で人工的に処理(例えば、MPCポリマー等の超親水性処理、タンパク低吸着処
理等)されたもの等を使用できる。スピナーフラスコやローラーボトル等を用いて回転培養してもよい。培養器の培養面は、平底でもよいし、凹凸があってもよい。
【0049】
接着培養を行う際に用いられる培養器は、接着培養することが可能なものであれば特に限定されず、当業者であれば適宜培養のスケール、培養条件及び培養期間に応じた培養器を選択することが可能である。このような培養器としては、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、培養皿(ディッシュ)、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、マイクロキャリア、ビーズ、スタックプレート、スピナーフラスコ又はローラーボトルが挙げられる。これらの培養器は、接着培養を可能とするために、細胞接着性であることが好ましい。細胞接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理された培養器が挙げられ、具体的には表面加工された培養器、又は、内部がコーティング剤で被覆された培養器が挙げられる。表面加工された培養器としては、正電荷処理等の表面加工された培養容器が挙げられる。コーティング剤としては、例えば、ラミニン[ラミニンα5β1γ1(以下、ラミニン511)、ラミニンα1β1γ1(以下、ラミニン111)等及びラミニン
断片(ラミニン511E8等)を含む]、エンタクチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ビトロネクチン、シンセマックス(コーニング社)、マトリゲル等の細胞外マトリクス等、又は、ポリリジン、ポリオルニチン等の高分子等が挙げられる。
【0050】
工程1で用いることができる神経堤細胞は、1.培地組成物において記載した通り、生体由来または多能性幹細胞由来のいずれであってもよい。多能性幹細胞由来の神経堤細胞を用いる場合には、神経堤細胞に分化した直後の細胞を使用してもよく、後述するように、さらに純化したもの、または純化と拡大培養を経たものを使用してもよい。
ここで純化とは、細胞集団(例えば、神経堤細胞を含む細胞集団)中の特定の種類の細胞(例えば、神経堤細胞)の割合を増加させることをいう。
培養する神経提細胞の濃度は、一態様において、約1×102~約1×107細胞/cm2、好ま
しくは約3×102~約5×106細胞/cm2、より好ましくは約4×102~約2×105細胞/cm2、更に好ましくは、約4×102~約1×105細胞/cm2、更により好ましくは、約3×103~約1×104細胞/cm2とすることができる。
他の態様において、培養する神経堤細胞の濃度は、約1×102~約1×107細胞/cm2、好
ましくは約3×102~約5×106細胞/cm2、より好ましくは約4×102~約2×105細胞/cm2、更に好ましくは、約4×102~約1×105細胞/cm2、更により好ましくは、約1.5×104~約3×104細胞/cm2とすることができる。
【0051】
培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30℃から約40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1%から約10%、好ましくは約5%である。
【0052】
間葉系幹細胞の公知のマーカーの例として、CD90、CD44、CD73及びCD105が挙げられる
。従って、上記方法によって得られる間葉系幹細胞の細胞集団は、その大部分(例えば、細胞組成物中の60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%の細胞)が、CD90、CD44、CD73及びCD105いずれか1つ、好
ましくはいずれか2つの組合せ、より好ましくは3つの組み合わせ、最も好ましくは全てのマーカーに陽性であることが好ましい。更に、本発明の細胞組成物は、間葉系幹細胞では発現が認められない分子を発現していないことがより好ましい。間葉系幹細胞で発現が認められない分子としては、例えば、CD34(造血幹細胞において発現する)、CD45(造血幹細胞において発現する)、CD14(単球、マクロファージにおいて発現する)、CD11b(単
球、マクロファージ、NK細胞、顆粒球において発現する)、CD79(B細胞において発現す
る)、CD19(B細胞において発現する)及びHLA-DR(樹状細胞、B細胞、単球、マクロファージにおいて発現する)などが挙げられる。よって、好ましい態様において、本発明の細胞組成物は、その大部分(例えば、細胞組成物中の60%、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、更により好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の細胞)が、間葉系幹細胞で発現が認められない分子の発現陰性である。
【0053】
一実施形態においては、工程1の前に以下の工程:
(工程A)神経堤細胞を含む細胞集団を得る工程、及び
(工程B)工程Aで得られた細胞集団を、細胞外マトリックスを足場として用いて拡大培養する工程、が実施されてもよい。
【0054】
工程Aにおいては、1.培地組成物において記載したように、自体公知の方法によって
神経堤細胞を含む細胞集団を得ることができる。一般に、神経堤細胞を含む細胞集団は、採取した組織や分化誘導条件により、神経堤細胞の割合が大きく変化し得る。本発明の一態様において、神経堤細胞を含む細胞集団における神経堤細胞の割合は、例えば、1~95%、1~90%、1~85%、1~80%、1~75%、1~70%、1~65%、1~60%、1~55%、1~50%、1~45%、1~40%、1~35%、1~30%、1~25%、1~20%、1~15%、又は1~10%であり得るが、これらに限定されない。また、別の一態様において、神経堤細胞を含む細胞集団における神経堤細胞の割合は、例えば、25~95%、25~90%、25~85%、25~80%、25~75%、25~70%、25~65%、25~60%、25~55%、25~50%、25~45%、25~40%、又は25~35%であり得るが、これ
らに限定されない。また、別の一態様において、神経堤細胞を含む細胞集団における神経堤細胞の割合は、例えば、50~95%、50~90%、50~85%、50~80%、50~75%、50~70%、50~65%、又は50~60%であり得るが、これらに限定されない。また、別の一態様において、神経堤細胞を含む細胞集団における神経堤細胞の割合は、例えば、70%以上、75~95%、75~90%、又は75~85%であり得るが、これらに限定されない。
【0055】
工程Aにおいて得られた神経堤細胞を含む細胞集団は、その後、神経堤細胞を純化する
工程に供してもよく、さらに、(該純化された神経堤細胞を)拡大培養する工程に供してもよい。すなわち、工程Bは、神経堤細胞を純化および拡大培養する工程ということもで
きる。本明細書において「拡大培養」とは、所望の細胞を維持及び/又は増殖させる培養
を包含する概念であり、好ましくは、所望の細胞を増殖させる培養であり得る。
【0056】
神経堤細胞を純化する方法としては、特に限定されることはなく、例えば、シングルセル化や、蛍光標識された神経堤細胞特異的抗体を用いたセルソーターによるソーティング、前記抗体を結合させた磁気ビーズによるソーティング、及び前記抗体を固層化したアフィニティカラムによるソーティング等のソーティング処理が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
シングルセル化によって純化する方法では、必要に応じて、細胞に対し、力学的な分散
処理、コラゲナーゼやトリプシン等の酵素による分散処理、及び/又はEDTA等のキレート剤による分散処理等を行い、シングルセルの状態としてもよい。その際には、細胞死を抑制する目的でROCK阻害剤を添加してもよい。ROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されず、例えば、Y-27632、Fasudil/HA1077、H-1152、Wf-536、及びそれらの誘導体等が挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の公知の低分子化合物も使用できる(例えば、米国特許出願公開第2005/0209261号、同第2005/0192304号、同第2004/0014755号、同第2004/0002508号、同第2004/0002507号、同第2003/0125344号、同第2003/0087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。
前記ソーティング処理によって純化する方法では、前記神経堤細胞特異的抗体として、例えば、CD271特異的抗体を使用することができる。
【0058】
工程Bにおける拡大培養では、神経堤細胞の維持及び/又は増殖に適した培養条件が用いられ得る。
【0059】
神経堤細胞を拡大培養するための培養条件は、神経堤細胞が拡大培養できる限り特に限定されず、自体公知の培養条件を用いることができる。一例としては、TGFβ阻害剤、EGF(epidermal growth factor)及びFGF2(fibroblast growth factor 2)を含有する培養液中
で培養する方法が例示される。
【0060】
神経堤細胞の拡大培養に用いる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's
Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、StemFit(登録商標)AK03N培地、及びこれらの混合培地などが包含される。本工程において、好ましくは、StemFit(登録商標)培地が用いられる。培
地には、血清が含有されていてもよいし、或いは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ
酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質
も含有し得る。
【0061】
本発明において、TGFβ阻害剤は、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、又はALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質である限り特に限定されない。本発明において、TGFβ阻害剤は、例えば、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、 NPC30345 、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、 LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A-83-01(WO 2009/146408) 及びこれらの誘導体などが例示される。神経堤細胞の拡大培養に使用されるTGFβ阻害剤は、好ましくは、SB431542であり得る。
【0062】
培養液中におけるSB431542などのTGFβ阻害剤の濃度は、ALK5を阻害する濃度であれば
特に限定されないが、1 nM~50 μMが好ましく、例えば、1 nM、10 nM、50 nM、100 nM、500 nM、750 nM、1 μM、2 μM、3 μM、4 μM、5 μM、6 μM、7 μM、8 μM、9 μM、10 μM、15 μM、20 μM、25 μM、30 μM、40 μM、50 μMであるがこれらに限定されな
い。より好ましくは、10 μMである。
【0063】
また、培地中のEGFの濃度は、1 ng/ml~100 ng/mlが好ましく、例えば、1 ng/ml、5 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、20 ng/mlである。
【0064】
また、培地中のFGF2の濃度は、1 ng/ml~100 ng/mlが好ましく、例えば、1 ng/ml、5 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、20 ng/ml
である。
【0065】
また、神経堤細胞の拡大培養が達成され得る限り、培地中に上記以外の成分を添加することもできる。
【0066】
工程Bにおける神経堤細胞の拡大培養は、接着培養及び浮遊培養のいずれであってもよ
いが、好ましくは接着培養によって行われる。
【0067】
工程Bにおいては、神経堤細胞の純化を達成するために細胞外マトリックスを足場とし
て用いることを特徴とする。
【0068】
本明細書において、「足場」とは、(i)細胞接着性の培養器、その材料物質、細胞接着性の培養器の表面に存在し、接着部位を構成する物質、及び/又は(ii)細胞培地中に溶解、分散若しくは懸濁していて、該細胞培地中で3次元ネットワークを形成する物質であり、細胞が、該ネットワークに接着し得る、物質を指す。
かかる細胞接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理された培養器が挙げられ、具体的には表面加工された培養器、又は、内部がコーティング剤で被覆された培養器が挙げられる。表面加工された培養器としては、正電荷処理等の表面加工された培養容器が挙げられる。
かかる足場には、培養容器の表面にコーティングする物質も含まれる。コーティングする物質には、ラミニン[ラミニンα5β1γ1(ラミニン511)、ラミニンα2β1γ1(ラミニン211)、ラミニンα1β1γ1(ラミニン111)等及びラミニン断片(ラミニン511E8等)を含む]、エンタクチン、コラーゲン、ゼラチン、ビトロネクチン(Vitronectin)、シンセマックス(コーニング社)、マトリゲル等の細胞外マトリクス等、又は、ポリリジン、ポリオルニチン等の高分子等が含まれる。
かかる細胞培地中で3次元ネットワークを形成する物質は、液体培地中で、細胞及び/又は組織を均一に浮遊させる効果を示すものである。より詳細には、低分子化合物や高分子化合物が共有結合やイオン結合、静電相互作用や疎水性相互作用、ファンデルワールス力などを介して集合及び自己組織化し液体培地中でナノファイバーを形成したもの、あるいは、高分子化合物からなる比較的大きな繊維構造体を高圧処理などにより微細化することにより得られたナノファイバー等が、本発明の培地組成物中に含まれるナノファイバーとして挙げられる。理論には拘束されないが、本発明の培地組成物においては、ナノファイバーが三次元のネットワークを形成し、これが細胞や組織を支えることにより、細胞や組織の浮遊状態が維持される。
【0069】
工程Bにおいては、神経堤細胞の純化を達成するために足場として用いられる細胞外マ
トリックスとしては、ラミニンまたはフィブロネクチンが挙げられ、特にラミニンは全長ラミニン、α2鎖を有するラミニンまたはラミニン211であり得る。
【0070】
ラミニンは基底膜の主要な構成分子である糖タンパク質である。ラミニンは、細胞接着
、細胞増殖、転移、分化等の様々な細胞機能に関与することが知られている。ラミニンは、α、β、及びγサブユニット鎖をそれぞれ1本ずつ有するヘテロ3量体で構成される。現在5種類のαサブユニット鎖(α1、α2、α3、α4、α5)、3種類のβサブユニット鎖(β1、β2、β3)、及び3種類のγサブユニット鎖(γ1、γ2、γ3)が存在することが知られており、これらのサブユニット鎖の組み合わせに応じて、現在ヒトにおいては15種類のラミニンアイソフォームの存在が確認されている。工程Bに用いられ得るラミニン211は、α2
鎖、β1鎖、γ1鎖のサブユニット鎖から構成されるラミニンであり得る。ラミニンの由来は神経堤細胞が由来する生物と一致させることが好ましい(例えば、ヒト由来の神経堤細胞を用いる場合は、ヒト由来のラミニン211を用いることが好ましい)。尚、ラミニンは
インテグリン結合部位のみから構成されるラミニンE8断片の方が、全長ラミニンよりも細胞接着活性が強いことが知られているが(Miyazaki T. et al., Nat Commun. 2012;3:1236参照)、工程Bで用いられ得るラミニン211は、断片ではなくラミニン211全長タンパク質であり得る。ラミニン211は自体公知の遺伝子組み換え技術を用いて調製してもよいし、市
販されているものを用いてもよい。
【0071】
工程Bにおいて、細胞集団を浮遊培養において拡大培養する場合は、例えば、ラミニン211を培地中に含有させ、浮遊している細胞がこれを足場として利用して凝集塊を形成することで、3次元浮遊培養ができるようにすればよい。浮遊培養は、自体公知の方法により実施することができる。一例としては、スピナーフラスコ等を用いて培地を撹拌しながら、ラミニン211を添加した培地中で細胞集団を浮遊培養において拡大培養する方法が挙げ
られる。或いは、培地に添加することで細胞を浮遊させる効果を有する多糖類(例えば、メチルセルロース、キサンタンガム、ジェランガム等)とラミニン211を併用することで
、細胞集団を浮遊培養において拡大培養することもできる。当該態様では、細胞が三次元的な広がりをもって分散し、ナノファイバーに付着した状態、或いはスフェアの状態で増殖する。細胞がナノファイバーに付着し、そこを足場として強力に増殖し、その結果、増殖した細胞や細胞塊(スフェア等)が、ぶどうの房状にナノファイバー上に連なる状態となる。そのため、細胞の浮遊培養が可能となる。ラミニンを添加する濃度等は細胞集団の播種密度や併用する多糖類の濃度等の各種条件を考慮の上、適宜設定すればよい。尚、本明細書において、浮遊培養とは、細胞が培養容器の表面に細胞接着することなく行われる培養方法を意味する。浮遊培養は、物理的な撹拌を伴ってもよいし、伴わなくてもよい。また、培養される細胞が培地中に均一に分散していてもよいし、不均一に分散していてもよい。
【0072】
工程Bにおいて、細胞集団を接着培養において拡大培養する場合は、例えば、ラミニン211を培養容器の表面にコーティングする。ラミニン211のコーティング量は、本発明の所
望の効果が得られる限り特に限定されず、通常推奨されるコーティング量を用いればよい。一例としては、ラミニン211のコーティング量は、0.1 ng/cm2~1000 ng/cm2、好ましくは0.5 ng/cm2~500 ng/cm2、より好ましくは1 ng/cm2~250 ng/cm2、更に好ましくは2 ng/cm2~100 ng/cm2であるが、これらに限定されない。
【0073】
また、工程Bにおける培養期間は、培養条件、培養方法、細胞集団に含まれる神経堤細
胞の割合などにより変動し得るものの、比較的短期間で神経堤細胞の純化が達成される。培養期間の一例としては、1~21日間、1~20日間、1~19日間、1~18日間、1~17日間、1~16日間、1~15日間、1~14日間、1~13日間、1~12日間、1~11日間、1~10日間、1~9日間、1~8日間、1~7日間、1~6日間、1~5日間、1~4日間、又は1~3日間であるが、これらに限定されない。
【0074】
工程Bにおける培養温度としては、神経堤細胞が培養できる限り特に限定されないが、30~40℃、好ましくは約37℃である。また、工程Bにおける培養時のCO2濃度としては、神
経堤細胞が培養できる限り特に限定されないが、2~5%、好ましくは約5%である。
【0075】
一実施形態においては、工程1の前に以下の工程:
(工程A)神経堤細胞を含む細胞集団を得る工程、及び
(工程C)工程Aで得られた細胞集団を、フィブロネクチンを足場として用いて拡大培養する工程、が実施される。
【0076】
工程Aにおいては、1.培地組成物において記載したように神経堤細胞を得ることがで
きる。神経堤細胞は、製造に用いられた細胞集団中に生じ得る。神経堤細胞を含む細胞集団は、採取した組織や分化誘導条件により、神経堤細胞の割合が大きく変化し得る。本発明の一態様において、神経堤細胞を含む細胞集団における神経堤細胞の割合は、例えば、1~95%、1~90%、1~85%、1~80%、1~75%、1~70%、1~65%、1~60%、1~55%、1~50%、1~45%、1~40%、1~35%、1~30%、1~25%、1~20%、1~15%、又は1~10%であり得るが、これらに限定されない。また、別の一態様において、神経堤細胞を含む細胞集団における神経堤細胞の割合は、例えば、25~95%、25~90%、25~85%、25~80%、25~75%、25~70%、25~65%、25~60%、25~55%、25~50%、25~45%、25~40%、又は25~35%であり得るが、これらに限定されない。また、別の一態様において、神経堤細胞を含む細胞集団における神経堤細胞の割合は、例えば、50~95%、50~90%、50~85%、50~80%、50~75%、50~70%、50~65%、又は50~60%であり得るが、これらに限定されない。また、別の一態様において、神経堤細胞を含む細胞集団における神経堤細胞の割合は、60%以上、70%以上、80%以上であり得、例えば、75~95%、75~90%、又は75~85%であり得るが、これらに限定されない。
【0077】
一実施形態においては、工程1の間、適宜細胞の継代が行われる。継代は、例えば播種後2~8日毎、又は3~7日毎に行われる。継代間隔は、細胞凝集塊の拡大に十分な期間であって、かつ細胞凝集塊が大きくなりすぎて酸素や栄養素が細胞凝集塊内部の細胞に到達し難くなると考えられる期間よりも短い期間で行われることが好ましい。
【0078】
工程1の間の継代の回数としては、例えば、0~20回(0回、1回、2回、3回、4回、5回
、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、20回)が挙げられ、1~10回が好ましく、より好ましくは2~8回である。適切な回数の継代後に細胞集団の一部が凍結ストックとして保存されてもよい。
【0079】
一実施形態においては、工程B又はCの間、適宜細胞の継代が行われる。継代は、例えば播種後2~8日毎、又は3~7日毎に行われる。継代間隔は、細胞凝集塊の拡大に十分な期間であって、かつ細胞凝集塊が大きくなりすぎて酸素や栄養素が細胞凝集塊内部の細胞に到達し難くなると考えられる期間よりも短い期間で行われることが好ましい。
【0080】
工程B又はCの間の継代の回数としては、例えば、2~8回(2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回)が挙げられ、3~7回が好ましく、より好ましくは4~6回である。適切な回数の
継代後に細胞集団の一部が凍結ストックとして保存されてもよい。
【0081】
工程B又はCから工程1への移行は、培養培地を本発明の培地組成物に交換することにより行われる。交換時期は適切な回数の継代後であってもよいし、又は工程Cの最後の回の
継代の途中であってもよい。例えば、工程B又はCの最後の回の継代の終了6時間前が挙げ
られる。
【0082】
一態様において、本発明は、神経堤細胞を含む細胞集団から間葉系幹細胞を製造する製造方法であって、
前記神経堤細胞は、多能性幹細胞から分化誘導された細胞であり、
前記細胞集団は、前記神経堤細胞を70%以上含む細胞集団であり、
前記細胞集団を、1.25 μM以上300 μM以下(1.25 μM~300 μM、又は1.25 μM以上300 μM未満、1.25 μM超300 μM以下、若しくは1.25 μM超300 μM未満)の換算濃度の副腎
皮質ホルモンの存在下で培養する工程を含む、
神経堤細胞を含む細胞集団から間葉系幹細胞を製造する製造方法を提供する。
【0083】
3.間葉系幹細胞
上述のように、副腎皮質ホルモンを含む培地組成物中で神経堤細胞を培養することにより、間葉系幹細胞が製造される。本発明は、かくして製造された間葉系幹細胞及びその培養物も提供する(以下、本発明の間葉系幹細胞、その培養物とも称する)。「培養物」とは、本発明の製造方法において細胞/細胞集団を培養することにより得られる結果物をいい、細胞、培地、場合によっては細胞分泌性成分等が含まれる。
【0084】
4.軟骨細胞の製造方法。
本発明は、以下の工程を含む、軟骨細胞の製造方法を提供する。
(工程D)本発明の間葉系幹細胞の製造方法により間葉系幹細胞を含む細胞集団を得る工
程、
(工程E)前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を軟骨誘導培地中で培養して軟骨細胞を含む
細胞集団を得る工程。
【0085】
軟骨細胞とは、コラーゲンなど軟骨を構成する細胞外マトリックスを産生する細胞、または、このような細胞となる前駆細胞を意味する。本願においては、軟骨細胞の分化特性は、アルシアンブルー染色によって確認される。アルシアンブルーはフタロシアニン系色素に属する塩基性の色素であり、シアル化されたムコ物質(シアロムチン)、硫酸基を有するムコ物質(スルホムチン)、軟骨や線維性結合織に含まれるコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸のような酸性ムコ多糖類などといった酸性多糖類を染色する。
【0086】
工程Dは、本発明の間葉系幹細胞の製造方法として上記した様に行うことができる。
【0087】
工程Eにおいて使用する培地は、哺乳動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地とし
て調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、α MEM培地、DMEM培地、ハム培地、Ham’s F-12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、哺乳動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0088】
一態様において、工程Eにおいて使用する培地は、無血清培地である。無血清培地とは
、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味する。精製された血液由来成分や動物組織由来成分を含有する培地は無血清培地に該当するものとする。
【0089】
工程Eにおいて使用する培地は、血清代替物を含有していてもよい。血清代替物は、例
えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。かかる血清代替物は、例えば、WO98/30679記載の方法により調製できる。また、本発明の作製方法をより簡便に実施するために、血清代替物は市販のものを利用できる。かかる市販の血清代替物としては、例えば、KSR(knockout serum replacement)(Invitrogen社製)、Chemically-defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutamax(Gibco社製)が挙げられる。
【0090】
工程Eにおいて使用する培地は、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化の方向付けが損なわ
れない範囲で、他の添加物を含むことができる。添加物としては、例えば、インスリン、
鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL-グルタミン等)、還元剤(例えば2-メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d-ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
工程Eにおいて使用する培地は、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、IL-1β及びIL-17等の、
間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化を阻害する物質を含まないことが好ましい。
【0091】
工程Eにおいて、細胞の培養に用いられる培養器は、細胞の培養が可能なものであれば
特に限定されないが、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、及びローラーボトルなどが挙げられる。
【0092】
工程Eにおいて、細胞の培養に用いられる培養器は、細胞接着性であることが好ましい
。間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化の方向付けが損なわれない限り、細胞接着性の培養器は、培養器の表面の細胞との接着性を向上させる等の目的のために、親水性を付与されたものであってもよく、細胞外マトリックス(ECM)等の任意の細胞支持用基質又はそれら
の機能をミミックする人工物でコーティングされていてもよい。
間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化の方向付けが損なわれない限り限定されるものではないが、培養器をコートするECMとしては、フィブロネクチン、コラーゲン等が挙げられ、
フィブロネクチンが好ましい。
【0093】
工程Eにおいて、間葉系幹細胞は、接着培養、浮遊培養、組織培養などの自体公知の方
法により培養可能であるが、接着培養されることが好ましい。
【0094】
その他の培養条件は、適宜設定できる。例えば、培養温度は、所望の効果を達成し得る限り特に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、約1~10%、好ましくは約2~5%である。酸素濃度は、通常1~40%であるが、培養条件などにより適宜選択される。
【0095】
本発明の間葉系幹細胞は、軟骨細胞への分化能が高いという特徴を有する。軟骨細胞への分化能が高いとは、本発明の間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化を誘導した結果、生じた軟骨細胞の数が、他の間葉系幹細胞、具体的には生体由来の間葉系幹細胞、特に骨髄由来の間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化を誘導した結果、生じた軟骨細胞の数と比較して、多いことを意味する。より詳細には、軟骨細胞への分化能が高いとは、他の間葉系幹細胞を、軟骨細胞への分化誘導培地中で同様(好ましくは、同一)の培養条件で分化誘導した結果、生じた軟骨細胞の数よりも、1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍
以上、4倍以上、4.5倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上
、50倍以上、又は100倍以上高いことを意味する。
【0096】
5.軟骨組織を修復するための薬剤
更に、本発明は、本発明の軟骨細胞又はその培養物を含有する、軟骨組織を修復するための薬剤も提供する。「培養物」とは、本発明の製造方法において細胞/細胞集団を培養することにより得られる結果物をいい、細胞、培地、場合によっては細胞分泌性成分等が含まれる。
【0097】
軟骨組織とは、軟骨基質及び軟骨細胞により構成される結合組織である。軟骨は、軟骨基質の性質により、硝子軟骨(関節軟骨、骨端板、肋軟骨、気管軟骨、喉頭軟骨など)、
線維軟骨(仙腸関節、顎関節、胸鎖関節、椎間円板、恥骨結合、関節半月、関節円板など)及び弾性軟骨(外耳道、耳管、耳介軟骨、喉頭蓋軟骨など)に分類される。本発明の薬剤は、硝子軟骨、線維軟骨、弾性軟骨のいずれの修復においても有用に用いることができる。
【0098】
本明細書中、軟骨組織を修復するための薬剤とは、軟骨組織の修復(再生)のために使用される薬剤を意味する。本発明の軟骨組織を修復するための薬剤を、軟骨組織の修復(再生)の所望される生体内の部位に投与すると、投与された部位に軟骨組織が局所的に形成され、軟骨組織の修復(再生)が達成される。
【0099】
本発明で得られた軟骨細胞は、それ自体が移植材料になる。したがって、該軟骨細胞を細胞製剤として患者に移植することもできる。
【0100】
また、本発明で得られた間葉系細胞を、生分解性のファイバー等の人工材料からなる基材(スキャフォールド)上で培養して軟骨細胞への分化を誘導して移植材を形成し、移植することができる。
【0101】
スキャフォールドの細胞接触面の単位表面積あたりに播種される、工程1で得た細胞の量は、例えば1×104~1×107細胞/cm2、2×104~5×105細胞/cm2、5×104~2×105個/cm2であり得る。
【0102】
スキャフォールド存在下での工程Eにおける細胞の培養時間は、通常、6時間以上、好ましくは12時間以上、より好ましくは18時間以上である。培養時間の上限については特に制限されるものではないが、通常は72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは30時間以下である。
【0103】
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤は、他の化合物、例えば、抗生物質、抗炎症剤、免疫抑制剤、サイトカイン、防腐剤、鎮痛剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、他の治療剤等を更に含んでもよい。
【0104】
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤は、医療従事者、ガイドラインに沿った適切な移植方法に従って移植される。例えば、膝関節に本発明の軟骨組織を修復するための薬剤を移植する場合、関節の移植部位にメス等で切れ目を入れ、関節腔を開いて空洞を作り、該関節腔に本発明の軟骨組織を修復するための薬剤を投与することにより、移植することができる。
【0105】
治療上有効量の本発明の軟骨組織を修復するための薬剤を、軟骨組織修復を必要とする部位に移植すると、移植した細胞が軟骨細胞へと分化し、該軟骨細胞及び該軟骨細胞により産生される軟骨基質が欠損部位を補うことにより、軟骨が修復され治療効果が達成される。
【0106】
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤は、軟骨組織修復を必要とする部位に直接投与することができる。例えば、軟骨組織修復を必要とする部位が関節軟骨である場合、本発明の薬剤は、関節軟骨の関節腔に直接投与することができる。
【0107】
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤は、軟骨損傷の治療用移植材料として好適である。本明細書中、軟骨損傷とは、スポーツや事故等による物理的な軟骨の欠損/変性/損傷、並びに関節リウマチ、変形性膝関節症、変形性股関節症、骨肉腫、大腿骨頭壊死症、臼蓋形成不全、半月板損傷、外傷性関節炎等の疾患に起因する軟骨の欠損/変性/損傷を包含する意味で用いられる。
【0108】
軟骨組織修復を必要とする部位としては、例えば、軟骨組織の欠損/変性/損傷を有する、関節軟骨、骨端板、肋軟骨、気管軟骨、喉頭軟骨、仙腸関節、顎関節、胸鎖関節、椎間円板、恥骨結合、関節半月、関節円板、外耳道、耳管、耳介軟骨及び喉頭蓋軟骨等が挙げられる。
【0109】
6.軟骨組織の修復方法
本発明は、哺乳動物の、軟骨組織修復を必要とする部位に、治療上有効量の上記軟骨細胞及び/又は本発明の軟骨組織を修復するための薬剤を移植する工程を含む、軟骨損傷の治療方法を提供する。
【0110】
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤は、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等への移植用として用いることができる。本発明の軟骨組織を修復するための薬剤は、好ましくは霊長類又はげっ歯類への移植用であり、より好ましくはヒトへの移植用である。
【0111】
本明細書中、「有効量」とは、所望の効果を生み出す活性成分の量を意味する。本明細書中使用される「治療上有効量」とは、対象に投与される時、所望の治療効果をもたらす活性成分の量を意味する。治療上有効量は、一度に投与(移植)されてもよく、複数回に分けて投与(移植)されてもよい。移植の適用回数は疾患に応じて医療従事者、ガイドラインに従って決定される。また複数回移植を行う場合、インターバルは特に限定されないが、数日~数週間の期間を置いても良い。
【0112】
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤の適用可能な疾患部位の範囲は、対象疾患、投与対象の動物種、年齢、性別、体重、症状などに依存して適宜選択される。
【0113】
7.軟骨組織を修復するための薬剤の製造方法
本発明は、軟骨細胞を含有する、軟骨組織を修復するための薬剤の製造方法であって、以下の工程を含む、方法を提供する。
(工程D)本発明の間葉系幹細胞の製造方法により間葉系幹細胞を含む細胞集団を得る工
程、
(工程E)前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を軟骨誘導培地中で培養して軟骨細胞を含む
細胞集団を得る工程。
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤の製造方法における工程D及びEは、本発明の間葉系幹細胞の製造方法及び/又は本発明の軟骨細胞の製造方法として上記した様に行うことができる。
【0114】
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤の製造方法において、間葉系幹細胞へと分化誘導される神経堤細胞、神経堤細胞が多能性幹細胞由来である場合はその多能性幹細胞、多能性幹細胞がiPS細胞である場合はそのiPS細胞へと誘導される体細胞のソースとなる個体は特に制限されないが、例えば、軟骨組織の修復を必要とする動物への投与のため、本発明の薬剤を作製する場合、これらの細胞は、ドナーの細胞に由来する間葉系幹細胞がレシピエントに生着可能である程度に組織適合性を有するものであり得る。
【0115】
例えば、本発明の軟骨組織を修復するための薬剤を、ヒトにおける軟骨組織の修復に使用する場合、移植片拒絶及び/又はGvHDを予防するという観点から、これらの細胞は、患者本人の細胞であるか、あるいは患者のHLA型と同一又は実質的に同一であるHLA型を有する他人から採取されたものであり得る。本明細書中使用される「実質的に同一であるHLA
型」とは、ドナーのHLA型が、免疫抑制剤等の使用を伴う患者に移植した場合に、ドナー
の細胞に由来する間葉系幹細胞が生着可能である程度に、患者のものと一致することを意味する。例えば、主たるHLA(HLA-A、HLA-B及びHLA-DRの主要な3遺伝子座、あるいはさらにHLA-Cwを含む4遺伝子座)が同一であるHLA型等が挙げられる。
【0116】
本発明の軟骨組織を修復するための薬剤は、他の化合物、例えば、抗生物質、抗炎症剤、免疫抑制剤、サイトカイン、防腐剤、鎮痛剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、他の治療剤等を更に含んでもよい。
【0117】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0118】
実施例1:iNCC(iPS細胞由来の神経提細胞)からiMSC(iPS細胞由来の間葉系幹細胞)への分化誘導
1.iPS細胞から神経堤細胞(iNCC)への分化誘導
iPS細胞株として201B7(iPS portal)を用いた。ラミニン511-E8フラグメント(iMatrix511、Nippi)でコートした6ウェルプレートに、iPS細胞を6500細胞/ウェルとなるように播種し、StemFit(登録商標)AK03N(味の素(株))培地中で、37℃、5%CO2下、5日間培養した。次いで、培地をStemFit AK03N(A液+B液)にSB431542(Stemgent, Inc.、10μM)およびCHIR99021(Wako、0.3μM(条件1)または0.9μM(条件2))を添加した培地中にて、37℃、5%CO2下
で、14日間神経堤細胞への分化誘導を行った。誘導終了時の神経堤細胞の割合はCD271タ
ンパク質高発現細胞の割合を、FACSを用いて決定することにより算出した。加えて、神経堤細胞マーカーの遺伝子発現状況はRT-PCR法にて調べた。尚、RT-PCR法に用いたプライマーを以下に示す。
【0119】
マーカー遺伝子 Primer ID Taqman Cat.No.
TFAP2a Hs00271528_CE A15629
SOX9 Hs01001343_g1 4331182
TWIST1 Hs01675818_s1 4331182
(βactinをレファレンス遺伝子として使用(Hs01101944_s1、4331182))
【0120】
2.神経堤細胞(iNCC)の純化と拡大培養
上記1.で製造した神経堤細胞を含む細胞集団をTrypLE Select(Thermo Fisher)を用いてシングルセル化した。シングルセル化した細胞集団を、足場材でコートした6ウェルプ
レート上に播種し、神経堤細胞の拡大培養に適した培養条件において培養した。より具体的には、StemFit AK03N(A液+B液)にSB431542(10μM)、Epithelium growth factor(Sigma
Chemical、20 ng/mL)およびStemFit AK03N C液(味の素(株)、0.08%)を添加した培地で、37℃、5%CO2下、9~10日間培養した。9~10日間培養後、コンフルエンシーが約90%とな
った時点で、足場材で培養した細胞集団の神経堤細胞の割合および神経堤細胞遺伝子マーカーの発現状況を上記1.と同様の方法により決定した。
【0121】
足場材はラミニン211(Biolamina、6.3 ng/cm2および62.5 ng/cm2)を用いた。
尚、足場材は、培養培地に直接懸濁することにより6ウェルプレート表面上にコーティ
ングした。
【0122】
3. iNCCからiMSCへの分化誘導
得られたiNCC(iPSC由来NCC)を、1.5 μg/cm2の密度でビトロネクチン-N(Thermo Fisher Scientific)コーティングした6ウェルプレートに5.0×103細胞/ウェルの密度で播種し、下記の分化用培地(T3
培地)を用いて、37℃、5% CO2条件下で13日間培養し、iMSC(iPSC由来MSC)を誘導した。
T3培地:StemFit(登録商標) For Mesenchymal Stem Cells(味の素(株)), 90 nM Dexamethasone(Sigma-Aldrich)
誘導したiMSCに関して、FACSを用いて、MSCポジティブマーカーを3種類(CD90、CD44、CD73)、ネガティブマーカーを1種類(CD34)の表面抗原解析を実施した。表1に解析結果を示す。
【0123】
【0124】
得られた細胞は、CD90、CD44、CD73がポジティブ、CD34はネガティブであり、iMSC誘導が確認された。
【0125】
実施例2:Dexamethasone濃度検討
iNCCを、1.5 μg/cm
2の密度でビトロネクチン-Nコーティングした6ウェルプレートに3.0×10
4細胞/ウェルの密度で播種し、StemFit(登録商標) For Mesenchymal Stem Cellsに50 nM、100 nM、1 μM、10 μM、50 μMのDexamethasoneを添加して、37℃、5% CO
2条件下でiMSCを誘導した。
図1に分化誘導中の細胞増殖曲線を示す。50 μMのDexamethasoneを添加した群は、13日目以降細胞の増殖が止まった。
【0126】
実施例3:副腎皮質ホルモンの種類の検討
100 nM Dexamethasone(デキサメタゾン)、100 nM ベタメタゾン、100 nM プレドニゾロン、666 nM プレドニゾロンを用いた以外は、実施例1に従ってiMSCを誘導した。
誘導したiMSCに関して、FACSを用いて、MSC陽性マーカーを4種類(CD90、CD44、CD73、CD105)、NCC陽性マーカー(MSC微陽性マーカー)を1種類(CD271)、MSC陰性マーカーを2種類(CD45、CD34)の表面抗原解析を実施した。表2に解析結果を示す。
【0127】
【0128】
プレドニゾロンはデキサメタゾンと同様に100nM添加しても効果が限定的であったが、
糖質コルチコイドとしての力価を揃えて666nMにすると分化促進の効果があった。
【0129】
実施例4:iNCCからiMSCへの分化誘導及び該iMSCの軟骨細胞への分化誘導
1.iPS細胞からiNCCへの分化誘導
ヒトiPSC(1231A3株)を、ラミニン511-E8フラグメント(iMatrix-511、(株)ニッピ)
でコーティングしたプレートまたはディッシュに3.6×103細胞/ cm2の密度で播種し、StemFit AK03N培地中で4日間培養した。 その後、培地を10μM SB431542(FUJIFILM Wako)
および1μM CHIR99021(Axon Medchem、Reston、VA、USA)を含むStemFit Basic03(bFGFを含まないAK03N、Ajinomoto、Tokyo、Japan)に変えて10日間培養することにより、前記細胞をiNCCへと分化誘導した。細胞数は、Countess II FL(Thermo Fisher Scientific)を使用してカウントした。培地は、iNCCへの分化誘導開始から0日目(培地交換当日)か
ら6日目までは2日ごとに、7日目から10日目までは毎日交換した。
【0130】
2.iNCCの純化と拡大培養
1.で得られた細胞をFACS解析に供し、CD271high陽性細胞をフィブロネクチンコーテ
ィングプレートに1×104細胞/ cm2の密度で播種し、10μM SB431542、20 ng / mL EGF(FUJIFILM Wako)、およびFGF2(FUJIFILM Wako)を添加したBasic03培地中で培養した。培地は3日ごとに交換した。継代の際には、細胞をAccutase(Innovative Cell Technologies、San Diego、CA、USA)で剥離し、1×104細胞/ cm2の密度でフィブロネクチンコーティングプレートに再播種した。 2回の継代培養を行って細胞数を十分に増やした後、5×105個のiNCCを500 μlのSTEM-CELL BANKER GMPグレード(タカラ、草津、日本)に懸濁し、BICELL冷凍コンテナ(日本冷凍庫、東京、日本)を使用して冷凍して、純化されたiNCCの
凍結ストックを作製した。
【0131】
3.iNCCからiMSCへの分化誘導
2.で得られた凍結ストックを解凍し、1×104細胞 / cm2の密度でフィブロネクチンコーティングプレートに播種し、10 μM SB431542、20 ng / mL EGF、およびFGF2を添加したBasic03中で培養した。最初の継代を行う6時間前に培地をT1培地に交換し、以降同培地中で培養してMSCへと分化誘導した。継代は、1×104細胞 / cm2の密度でAccutaseを使用して4日ごとに行った。コントロールとして、これまでiNCCからiMSCへの分化誘導に汎用されているPRIME-EV MSC Expansion medium(FUJIFILM Irvine Scientific社製、東京
日本)を用いた。
【0132】
分化誘導培地に交換後の細胞について、2回の継代毎(8日毎)の位相差顕微鏡イメージを
図2に示す。上段はT1培地、下段はコントロール培地を用いた結果である。
図2より、T1培地、コントロール培地のいずれを用いた場合にも、分化誘導から約4日後には細胞の
形態が変化し始め、8日後には間葉系幹細胞様の形態となり、以降その形態は維持された
。
【0133】
図3に、分化誘導培地に交換後の細胞数を経時的に計測した結果を示す。コントロール培地で分化誘導した群では、細胞増殖の立ち上がりが遅く、分化誘導開始から3日後までは細胞数の増加がほとんど認められなかった。これに対し、T1培地で分化誘導した群では初期から指数関数的に増殖し、以降も順調に増殖し続けた。その結果、計測を行った全期間(分化誘導開始から35日後まで)において、T1培地で分化誘導した群の方がコントロール培地で分化誘導した群よりも常に細胞数が多かった。
【0134】
次に、分化誘導開始後の細胞におけるヒトMSCマーカー(CD44、CD73、CD90、およびCD105)の発現量の経時的変化を、定量的RT-PCR(Thunderbird SYBR qPCR Mix(TOYOBO、大阪、日本)を使用したQuantStudio 7 FlexリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems、Forester City、CA、USA))を用いて解析した。
T1培地:StemFit(登録商標) For Mesenchymal Stem Cells(味の素(株)), 90 nM Dexamethasone(Sigma-Aldrich), 0.2 μg/mL iMatrix-511((株)ニッピ)
使用したプライマー配列を表3に、定量的PCRの結果を
図4にそれぞれ示す。
【0135】
【0136】
図3に示される通り、T1培地を用いて分化誘導したiMSCにおけるCD44、CD73、CD105の
発現量はいずれも、コントロール培地を用いて分化誘導したiMSCと同程度であった。
【0137】
以上の結果より、T1培地を用いることで、従来と同様に、iNCCからiMSCが分化誘導できることが確認された。さらに、汎用の培地を用いた場合よりも多くのiMSCが得られ得ることも明らかになった。
【0138】
4.iMSCの軟骨細胞への分化誘導
3.で得られた1.5×10
5個のiMSCを5 μlの軟骨誘導培地((DMEM / F12、Thermo Fish
er Scientific)、1%(v / v)ITS +premix(Corning、Corning、NY、USA)、0.17 mM AA2P(Sigma, St. Louis, MO, USA)、0.35 mM プロリン(Sigma)、0.1 μMデキサメタゾン(Sigma)、0.15%(v / v)グルコース(Sigma)、1 mMピルビン酸ナトリウム(Thermo Fisher Scientific)、および2 mM GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)に、10 ng /mLTGF-β3(WAKO)、100 ng / ml BMP7(WAKO)、および1%(v / v)FBS(Thermo Fisher Scientific)を追加した培地)で懸濁後に、フィブロネクチンコートされた24ウェルプレートに移した。 1時間後に合計1 mLになるように前記軟骨誘導培地を加え、その後、2日毎に培地交換しながら14日間培養した。細胞の分化特性は、アルシアンブルー染色によって確認した。当該染色は、細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)(FUJIFILM Wako)で30分間固定し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)ですすいだ後、アルシアンブルー溶液(1%アルシアンブルー(MUTO PURE CHEMICAL CO.、LTD、Tokyo、Japan))で25℃で1時間処理することで行った。染色結果を
図5に示す。
【0139】
図5に示される通り、T1培地で分化させたiMSCを軟骨誘導した場合の方が(
図5左イメージ)、コントロール培地で分化させたiMSCを軟骨誘導した場合(
図5右イメージ)と比べて、アルシアンブルーで非常に顕著に濃染された。
よって、iNCCをT1培地を用いてiMSCに分化誘導すると、軟骨細胞への分化能に優れるiMSCが得られることが示された。
【0140】
なお、本実施例中のデキサメタゾン50 nM、90 nM、100 nM、1 μM、10 μM、50 μMの
換算濃度は、それぞれ1.333 μM 2.3994 μM、2.666 μM、26.66 μM、266.6 μM、1333 μMである(デキサメタゾンの力価を26.66として換算)。
本実施例中のプレドニゾロン100 nM、666 nMの換算濃度は、それぞれ400 nM、2.664 μMである(プレドニゾロンの力価を4として換算)。本実施例中のベタメタゾン100 nMの換算濃度は、2.666 μMである(ベタメタゾンの力価を26.66として換算)。
本発明によれば、神経堤細胞から間葉系幹細胞を効率的に誘導するための培地組成物を提供することができる。また、本発明によれば、効率的な間葉系幹細胞の製造方法、軟骨細胞の製造方法、該間葉系幹細胞を有効成分として含有する、軟骨組織を修復するための薬剤、軟骨組織の修復方法、軟骨組織を修復するための薬剤の製造方法等を提供することができる。従って、本発明は例えば医療分野において極めて有用である。