(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189207
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】紡績機
(51)【国際特許分類】
D01H 1/36 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
D01H1/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097664
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】目片 努
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056AA01
4L056BE05
4L056CA06
4L056CA13
(57)【要約】
【課題】糸の分断が生じた場合に、パッケージ側の糸の糸端の捕捉を容易にする。
【解決手段】紡績機において、糸貯留装置23は、紡績装置22と巻取装置25との間に形成される糸経路の途中に配置される。糸貯留装置23は、糸貯留ローラ51及び糸掛け部材53を備える。巻取装置25の巻き取り中断動作において、紡績装置22による紡績を停止し、パッケージ7の巻取制御を行うときに、糸貯留ローラ51に紡績糸5が残っている状態で、糸掛け部材53によって紡績糸5にテンションを付与しながら、トラバース装置73によって、巻取中断動作の開始前よりも短縮されたトラバース幅W2で紡績糸5のトラバースを行う。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の紡績ユニットを備え、
それぞれの紡績ユニットは、
繊維束を紡績することで糸を生成し、当該糸を供給可能な紡績装置と、
前記紡績装置から供給された糸をトラバースしながら巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、
前記紡績装置と前記巻取装置との間に形成される糸走行経路の途中に配置される糸貯留装置と、
を備え、
前記糸貯留装置は、
糸を外周に巻き付けて貯留可能な糸貯留ローラと、
回転可能に構成され、前記糸貯留ローラから解舒される糸に掛かることで当該糸にテンションを付与する糸掛け部材と、
を備え、
それぞれの前記紡績ユニットの前記巻取装置は、
紡績ユニット毎に独立して駆動され、パッケージを回転させるパッケージ回転装置と、
紡績ユニット毎に独立して駆動され、前記パッケージに巻かれる糸をトラバースするトラバース装置と、
を備え、
前記巻取装置の巻取中断動作において、前記紡績装置による紡績を停止し、前記パッケージの巻取停止制御を行うときに、前記糸貯留ローラと前記パッケージとの間で糸が繋がっている状態で、前記糸掛け部材によって当該糸にテンションを付与しながら、前記トラバース装置によって、巻取中断動作の開始前よりも短縮されたトラバース幅で糸のトラバースを行うことを特徴とする紡績機。
【請求項2】
請求項1に記載の紡績機であって、
前記短縮後のトラバース幅は、前記トラバース装置が糸をトラバース可能な最大幅の1/2以下であることを特徴とする紡績機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡績機であって、
前記短縮後のトラバース幅は10mm以下であることを特徴とする紡績機。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記巻取装置の巻取中断動作において、前記トラバース装置は、前記紡績装置による紡績の停止と同時に、又は紡績の停止の直後に、前記トラバース幅の短縮を開始することを特徴とする紡績機。
【請求項5】
請求項1から3までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記巻取装置の巻取中断動作において、前記トラバース装置は、前記紡績装置による紡績が停止した後、前記糸貯留ローラの糸貯留量が所定量以下になったタイミングで前記トラバース幅の短縮を開始することを特徴とする紡績機。
【請求項6】
請求項5に記載の紡績機であって、
前記糸貯留ローラの糸貯留量を検出する糸貯留量センサを備えることを特徴とする紡績機。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記巻取装置の巻取中断動作において、前記トラバース装置のトラバース幅の短縮は、前記パッケージの回転速度の減速とともに行われることを特徴とする紡績機。
【請求項8】
請求項7に記載の紡績機であって、
前記巻取装置の巻取中断動作において、前記パッケージの回転速度が減速するのに伴って、前記トラバース装置のトラバース速度が減速することを特徴とする紡績機。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記巻取装置の巻取中断動作において、前記巻取装置は、前記パッケージ側の糸の糸端が前記パッケージの表面に位置するように、前記パッケージの回転を停止することを特徴とする紡績機。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記紡績装置と前記巻取装置との間で糸が分断された場合に、前記紡績装置側の糸と前記パッケージ側の糸との糸継ぎを行う糸継装置と、
前記紡績装置と前記巻取装置との間で糸が分断された場合に前記パッケージ側の糸を捕捉して前記糸継装置へ案内可能な捕捉案内装置と、
を備え、
前記巻取装置は、パッケージに糸を巻き取るためのボビンを保持可能なクレードルを備え、
前記トラバース装置のトラバース方向において、前記捕捉案内装置の先端の幅は、前記クレードルの幅よりも小さいことを特徴とする紡績機。
【請求項11】
請求項10に記載の紡績機であって、
前記捕捉案内装置の先端の幅は、前記クレードルの幅の1/2以下であることを特徴とする紡績機。
【請求項12】
請求項1から11までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記紡績装置と前記巻取装置との間で糸が分断された場合に、前記パッケージ側の糸を捕捉可能であり、前記糸走行経路に対して設けられた捕捉装置を備え、
前記捕捉装置は、前記糸貯留装置よりも糸走行方向下流側、かつ、前記巻取装置よりも糸走行方向上流側で糸を捕捉することを特徴とする紡績機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紡績された糸に糸欠陥が検出された場合等に、糸の紡績及び巻取りを中断する紡績機が知られている。特許文献1は、この種の精紡機を開示する。
【0003】
特許文献1の精紡機は、給糸部と、糸貯留装置と、巻取部と、を備える。この精紡機は、糸の巻取りの中断時において、糸が分断された後であって糸端がパッケージに巻き取られる前に、パッケージの回転を停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、パッケージの糸端を捕捉する捕捉案内装置が糸端の捕捉に失敗することによる生産性の低下を、別のアプローチで解決しようとするものである。従って、特許文献1は、捕捉案内装置による糸端の捕捉を容易にする構成ではない。
【0006】
本発明の目的は、糸の分断が生じた場合に、パッケージ側の糸の糸端の捕捉を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成の紡績機が提供される。即ち、紡績機は、複数の紡績ユニットを備える。それぞれの紡績ユニットは、紡績装置と、巻取装置と、糸貯留装置と、を備える。前記紡績装置は、繊維束を紡績することで糸を生成し、当該糸を供給可能である。前記巻取装置は、前記紡績装置から供給された糸をトラバースしながら巻き取ってパッケージを形成する。前記糸貯留装置は、前記紡績装置と前記巻取装置との間に形成される糸走行経路の途中に配置される。前記糸貯留装置は、糸貯留ローラと、糸掛け部材と、を備える。前記糸貯留ローラは、糸を外周に巻き付けて貯留可能である。前記糸掛け部材は、回転可能に構成され、前記糸貯留ローラから解舒される糸に掛かることで当該糸にテンションを付与する。それぞれの前記紡績ユニットの前記巻取装置は、パッケージ回転装置と、トラバース装置と、を備える。前記パッケージ回転装置は、紡績ユニット毎に独立して駆動され、パッケージを回転させる。前記トラバース装置は、紡績ユニット毎に独立して駆動され、前記パッケージに巻かれる糸をトラバースする。前記巻取装置の巻取中断動作において、前記紡績装置による紡績を停止し、前記パッケージの巻取停止制御を行うときに、前記糸貯留ローラと前記パッケージとの間で糸が繋がっている状態で、前記糸掛け部材によって当該糸にテンションを付与しながら、前記トラバース装置によって、巻取中断動作の開始前よりも短縮されたトラバース幅で糸のトラバースを行う。
【0008】
これにより、パッケージの回転を停止した状態で、パッケージ側の糸の糸端の位置を、短縮されたトラバース幅に相当する領域に制限することができる。従って、パッケージの回転停止後において糸端の捕捉を容易に行うことができる。また、紡績を停止した後において、短縮されたトラバース幅で糸のトラバースを行っている間も糸掛け部材によって糸にテンションが付与されているため、当該期間に巻き取られた部分のパッケージの品質も紡績停止前と同等程度に維持できる。従って、パッケージの品質を向上させることもできる。
【0009】
前記の紡績機においては、前記短縮後のトラバース幅は、前記トラバース装置が糸をトラバース可能な最大幅の1/2以下であることが好ましい。また、前記短縮後のトラバース幅は10mm以下であることが好ましい。
【0010】
これにより、糸端の捕捉が容易になる。
【0011】
前記の紡績機においては、前記巻取装置の巻取中断動作において、前記トラバース装置は、前記紡績装置による紡績の停止と同時に、又は紡績の停止の直後に、前記トラバース幅の短縮を開始することが好ましい。
【0012】
これにより、ある程度の長さの糸について、トラバース幅の短縮を行うことができる。
【0013】
前記の紡績機においては、前記巻取装置の巻取中断動作において、前記トラバース装置は、前記紡績装置による紡績が停止した後、前記糸貯留ローラの糸貯留量が所定量以下になったタイミングで前記トラバース幅の短縮を開始することが好ましい。
【0014】
これにより、トラバース幅の短縮がパッケージの形状に与える影響を少なくすることができる。
【0015】
前記の紡績機においては、前記糸貯留ローラの糸貯留量を検出する糸貯留量センサを備えることが好ましい。
【0016】
これにより、糸貯留量センサの検出結果に基づいて、トラバース幅の短縮を正確なタイミングで行うことができる。
【0017】
前記の紡績機においては、前記巻取装置の巻取中断動作において、前記トラバース装置のトラバース幅の短縮は、前記パッケージの回転速度の減速とともに行われることが好ましい。
【0018】
パッケージの回転速度が減速すると、糸貯留ローラとパッケージとの間の糸のテンションが不安定となる傾向がある。従って、仮にトラバース幅が変化しない場合は、糸がパッケージの巻幅を外れた位置に巻かれることが想定される。しかし、上記のように、トラバース幅の短縮と、パッケージの回転速度の減速を行うことにより、糸がパッケージの巻幅を外れた位置に巻かれることを効果的に防止することができる。従って、パッケージの品質を向上させることができる。
【0019】
前記の紡績機においては、前記巻取装置の巻取中断動作において、前記パッケージの回転速度が減速するのに伴って、前記トラバース装置のトラバース速度が減速することが好ましい。
【0020】
これにより、パッケージに糸が巻き取られる綾角が、パッケージの回転速度の減速によって急激に変化することを防止できる。
【0021】
前記の紡績機においては、前記巻取装置の巻取中断動作において、前記巻取装置は、前記パッケージ側の糸の糸端が前記パッケージの表面に位置するように、前記パッケージの回転を停止することが好ましい。
【0022】
これにより、パッケージの表面に位置する糸端を容易に捕捉することができる。
【0023】
前記の紡績機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、紡績機は、糸継装置と、捕捉案内装置と、を備える。前記糸継装置は、前記紡績装置と前記巻取装置との間で糸が分断された場合に、前記紡績装置側の糸と前記パッケージ側の糸との糸継ぎを行う。前記捕捉案内装置は、前記紡績装置と前記巻取装置との間で糸が分断された場合に前記パッケージ側の糸を捕捉して前記糸継装置へ案内可能である。前記巻取装置は、パッケージに糸を巻き取るためのボビンを保持可能なクレードルを備える。前記トラバース装置のトラバース方向において、前記捕捉案内装置の先端の幅は、前記クレードルの幅よりも小さい。例えば、前記捕捉案内装置の先端の幅は、前記クレードルの幅の1/2以下とすることができる。
【0024】
これにより、捕捉案内装置の小型化を実現できる。
【0025】
前記の紡績機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、紡績機は、前記紡績装置と前記巻取装置との間で糸が分断された場合に、前記パッケージ側の糸を捕捉可能であり、前記糸走行経路に対して設けられた捕捉装置を備える。前記捕捉装置は、前記糸貯留装置よりも糸走行方向下流側、かつ、前記巻取装置よりも糸走行方向上流側で糸を捕捉する。
【0026】
これにより、簡素な構成の装置によって、パッケージ側の糸を捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の全体的な構成を示す正面図。
【
図3】紡績ユニットにおいて紡績糸の分断が発生した状態を示す側面図。
【
図4】パッケージ側の紡績糸の糸端が糸貯留ローラから抜け、パッケージの回転が停止した状態を示す側面図。
【
図5】
図3の状態でトラバース装置が紡績糸をトラバースするトラバース幅を説明する正面図。
【
図6】
図4の状態から、パッケージ側の紡績糸が糸継台車のサクションマウスによって捕捉され、紡績装置側の紡績糸がサクションパイプによって捕捉され、何れも糸継装置に案内される様子を示す側面図。
【
図7】糸継装置での糸継ぎが行われる様子を示す側面図。
【
図8】変形例の紡績機における紡績ユニットを示す側面図。
【
図9】変形例において、パッケージ側の紡績糸が吸引装置によって捕捉される様子を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態に係る紡績機(糸巻取機)1について、図面を参照して説明する。以下の説明において、「上流側」及び「下流側」とは、それぞれ、紡績糸(糸)5の巻取時における当該紡績糸5、スライバ4a又は繊維束4bの走行方向(糸走行方向)における上流側及び下流側を意味する。
【0029】
図1に示すように、紡績機1は、ブロアボックス111と、制御ボックス112と、複数の紡績ユニット2と、糸継台車(作業台車)80と、を備える。複数の紡績ユニット2は、所定の方向に並べて配置されている。各紡績ユニット2(紡績機1)は、後述の紡績装置22等を用いて紡績を行う。本実施形態において、紡績機1は、空気紡績機として構成されている。
【0030】
ブロアボックス111内には、負圧源として機能するブロア113等が配置されている。
【0031】
制御ボックス112には、中央制御装置115と、表示部116と、操作部117と、が配置されている。
【0032】
中央制御装置115は、紡績機1の各部を集中的に管理及び制御する。中央制御装置115は、各紡績ユニット2が
図2のように備えるユニット制御部(制御部)15に、図略の信号線を介して接続されている。本実施形態では、それぞれの紡績ユニット2がユニット制御部15を備えているが、所定数(例えば、2つ又は4つ)の紡績ユニット2が1つのユニット制御部15を共用しても良い。
【0033】
表示部116は、紡績ユニット2に対する設定内容、及び/又は、各紡績ユニット2の状態に関する情報等を表示することができる。操作部117は、オペレータが紡績機1の設定を行うために、及び/又は、表示部116に表示する情報の選択を行うために操作される。表示部116と操作部117は、タッチパネルディスプレイにより構成されていても良い。
【0034】
図2に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置21と、紡績装置(給糸装置)22と、糸貯留装置23と、巻取装置25と、を備える。これらの装置は、紡績糸5等の走行方向において上流側から下流側へ向かって順に配置されている。
【0035】
糸継台車80は、各紡績ユニット2に対して移動可能に設けられている。糸継台車80は、複数の紡績ユニット2に対して1つ備えられている。
図1では1台の糸継台車80が図示されているが、紡績機1は、複数台の糸継台車80を備えていても良い。
【0036】
ドラフト装置21は、紡績ユニット2(紡績機1)の上部に設けられている。ドラフト装置21は、複数のドラフトローラ対を備える。それぞれのドラフトローラ対は、2つのドラフトローラによって構成される。
【0037】
具体的には、ドラフト装置21は、4つのドラフトローラ対を備える。4つのドラフトローラ対は、上流側から下流側へ向かって順に配置された、バックローラ対41、サードローラ対42、ミドルローラ対43、及びフロントローラ対44である。ミドルローラ対43の各ドラフトローラには、エプロンベルト45が設けられている。
【0038】
4つのドラフトローラ対のそれぞれは、互いに対向する駆動ローラ及び従動ローラを有している。4つのドラフトローラ対に関して、それぞれの駆動ローラに、図略のモータ等の駆動源が設けられている。それぞれの駆動ローラは、駆動源によって当該駆動ローラの軸線を中心に回転駆動される。各ドラフトローラ対の従動ローラは、図略の軸受等を介して、当該従動ローラの軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0039】
ドラフト装置21は、スライバ供給部20から供給されるスライバ4aを、各ドラフトローラ対のドラフトローラ同士の間(駆動ローラと従動ローラとの間)で挟み込んで搬送することによって、所定の繊維量(又は太さ)となるまで引き伸ばして(ドラフトして)、繊維束4bを生成する。ドラフト装置21で生成された繊維束4bは、紡績装置22に供給される。
【0040】
スライバ供給部20は、ドラフト装置21の上流側に配置されている。スライバ供給部20には、スライバ4aが収容される容器であるケンスが配置される。
【0041】
紡績装置22は、本実施形態では空気紡績装置として構成されている。紡績装置22は、ドラフト装置21で生成された繊維束4b(ドラフトされたスライバ4a)に旋回空気流を作用させることにより、撚りを加えて紡績糸5を生成する。紡績装置22は、ドラフト装置21の下流側に配置されている。
【0042】
紡績ユニット2(紡績機1)において、紡績装置22からなる給糸装置は、紡績糸5を供給する。給糸装置で生成された紡績糸5は、給糸装置から巻取装置25に向かって走行し、巻取装置25によって巻き取られる。給糸装置と巻取装置25との間には、紡績糸5が走行する糸経路が形成される。
【0043】
糸貯留装置23は、紡績装置22で生成された紡績糸5を引き出して一時的に貯留する。糸貯留装置23は、給糸装置と巻取装置25との間に形成される糸経路の途中に配置されている。具体的には、糸貯留装置23は、紡績装置22よりも下流側に配置されている。
【0044】
糸貯留装置23は、糸貯留ローラ51と、電動モータ52と、糸掛け部材53と、ガイド54と、糸貯留量検知センサ(糸貯留量センサ)56と、を備える。
【0045】
糸貯留ローラ51は、電動モータ52により回転駆動される。糸貯留ローラ51は、その外周面に紡績糸5を巻き付けて一時的に貯留する。糸貯留ローラ51は、外周面に紡績糸5を巻き付けた状態で所定の回転速度で回転することによって、紡績装置22から紡績糸5を所定の速度で引き出すことができる。
【0046】
糸掛け部材53は、紡績糸5を引っ掛けることができる。糸掛け部材53は、紡績糸5を引っ掛けた状態で糸貯留ローラ51と一体的に回転することで、当該糸貯留ローラ51の外周面に紡績糸5を案内する。
【0047】
ガイド54は、糸貯留ローラ51の下流側に配置されている。ガイド54は、回転する糸掛け部材53によって振り回される紡績糸5の軌道を規制し、紡績糸5が走行する糸経路のうち当該ガイド54よりも下流側(巻取装置25側)の糸経路を安定させて紡績糸5を案内する。
【0048】
糸貯留量検知センサ56は、糸貯留ローラ51の糸貯留量を検知することができる。糸貯留量検知センサ56は、糸貯留ローラ51の外周面の適宜の位置に対向するように配置されている。糸貯留量検知センサ56は、この位置における紡績糸5の有無を検出する。糸貯留量検知センサ56は、検出した検出信号をユニット制御部15へ送信する。ユニット制御部15は、この検出信号に基づいて、糸貯留量が所定量以上であるか否かを検知することができる。
【0049】
糸貯留装置23は、糸貯留ローラ51の外周面に紡績糸5を一時的に貯留することができるので、紡績糸5の一種のバッファとして機能する。これにより、紡績装置22における紡績速度と、巻取速度(後述のパッケージ7に巻き取られる紡績糸5の走行速度)と、が何らかの理由により一致しないことによる不具合(例えば、紡績糸5の弛み等)を解消することができる。
【0050】
紡績装置22と糸貯留装置23との間には、糸監視装置47が設けられている。糸監視装置47は、糸貯留装置23よりも上流側(給糸装置側)で紡績糸5の状態を検知する。紡績装置22で生成された紡績糸5は、糸貯留装置23で貯留される前に糸監視装置47を通過する。
【0051】
糸監視装置47は、走行する紡績糸5の品質を光センサによって監視し、紡績糸5に含まれる糸欠陥を検出する。糸欠陥としては、例えば、紡績糸5の太さの異常、及び/又は、紡績糸5に含まれる異物等がある。糸監視装置47は、紡績糸5の糸欠陥を検出した場合、ユニット制御部15へ糸欠陥検出信号を送信する。糸監視装置47は、光センサの代わりに、例えば静電容量式のセンサを用いて紡績糸5の品質を監視しても良い。糸監視装置47は、これらの糸欠陥に代えて、或いは、これらの糸欠陥に加えて、紡績糸5のテンションの異常を検出するように構成されていても良い。
【0052】
糸品質を維持するために、糸欠陥及び異常箇所を除去することが好ましい。ユニット制御部15は、糸監視装置47の検出結果に基づいて、紡績糸5を切断するか否かを判断する。紡績糸5の切断は、ユニット制御部15が、紡績装置22による紡績を停止するように制御することで実現される。紡績糸5の切断は、ドラフト装置21によるドラフト(例えば、バックローラ対41の回転)を停止することによって実現されても良い。紡績装置22が紡績を停止する場合でも、ドラフト装置21から紡績装置22への繊維束の供給が停止される場合でも、紡績装置22による紡績は実質的に中断されることになる。紡績ユニット2にカッタを備え、ユニット制御部15がカッタにより紡績糸5の切断を行っても良い。カッタによって紡績糸5が切断される場合でも、ユニット制御部15は、紡績装置22による紡績が実質的に中断するように制御する。
【0053】
巻取装置25は、糸貯留装置23を通過した紡績糸5を巻き取ってパッケージ7を形成する。巻取装置25は、糸貯留装置23よりも下流側に配置されている。
【0054】
巻取装置25は、クレードル71と、パッケージ回転装置72と、トラバース装置73と、を備える。
【0055】
クレードル71は、1対のクレードルアーム74を備える。クレードル71は、紡績糸5を巻き取るためのボビン7a(ひいてはパッケージ7)を、1対のクレードルアーム74の間で回転可能に支持することができる。クレードルアーム74は、支軸75を中心として回転することができる。
【0056】
パッケージ回転装置72は、巻取ドラム76と、ドラム駆動モータ77と、を備える。巻取ドラム76は、ボビン7a又はパッケージ7の外周面に接触することができる。ドラム駆動モータ77の出力軸は、適宜の手段で巻取ドラム76に連結されている。ドラム駆動モータ77によって巻取ドラム76を駆動することで、パッケージ7を巻取方向に回転させることができる。ドラム駆動モータ77は正逆回転可能に構成されている。従って、パッケージ7を巻取方向と逆方向に回転させることもできる。
【0057】
トラバース装置73は、糸ガイド78と、トラバース駆動モータ79と、を備える。糸ガイド78は、パッケージ7に巻き取られる紡績糸5を引っ掛けることができる。糸ガイド78は、パッケージ7の巻幅方向に往復動することができる。トラバース駆動モータ79の出力軸は、適宜の手段(例えばベルト等)で糸ガイド78に連結されている。糸ガイド78が紡績糸5を保持した状態で、トラバース駆動モータ79によって糸ガイド78を往復駆動することで、パッケージ7に巻き取られる紡績糸5をトラバースすることができる。
【0058】
巻取装置25は、トラバース装置73の糸ガイド78を往復動させながら、パッケージ回転装置72の巻取ドラム76を回転させる。これにより、巻取装置25は、紡績糸5を綾振りしつつ、紡績糸5をパッケージ7に巻き取る。
【0059】
本実施形態において、各紡績ユニット2に対して単独のドラム駆動モータ77が設けられている。また、各紡績ユニット2に対して単独のトラバース駆動モータ79が設けられている。従って、巻取ドラム76及び糸ガイド78は、他の紡績ユニット2の巻取ドラム76及び糸ガイド78に対して独立して動作することができる。
【0060】
図1に示すように、紡績機1には、レール101が設けられている。レール101は、複数の紡績ユニット2が並ぶ方向に沿って延びるように配置されている。糸継台車80は、レール101の上を走行可能に構成されている。これにより、糸継台車80は、複数の紡績ユニット2に対して移動することができる。糸継台車80は、紡績糸5の分断が発生した紡績ユニット2に対応する作業位置まで走行して、当該紡績ユニット2において糸継処理を行う。
【0061】
糸継台車80は、走行車輪81と、糸継装置82と、サクションパイプ83と、サクションマウス(捕捉案内装置)84と、台車制御部85と、を備える。
【0062】
走行車輪81は、図略の駆動手段(例えばモータ)によって回転駆動可能に構成されている。走行車輪81が駆動されることによって、糸継台車80が複数の紡績ユニット2のそれぞれに対して走行することができる。
【0063】
サクションパイプ83は、パイプ状の部分を有する部材である。サクションパイプ83の先端88には開口が形成されている。サクションパイプ83は適宜の負圧源(例えばブロア113)に接続されている。従って、サクションパイプ83の先端88に吸引空気流を発生させることができる。サクションパイプ83は回転可能に支持されている。サクションパイプ83が回転することにより、その先端88を、紡績装置22に対して接近した位置(捕捉位置)又は退避した位置(待機位置)に移動させることができる。紡績糸5に分断が発生した場合に、サクションパイプ83は、紡績装置22に接近した位置で、紡績装置22側の紡績糸5を吸い込んで捕捉することができる。
【0064】
サクションマウス84は、パイプ状の部分を有する部材である。サクションマウス84の先端89には開口が形成されている。サクションマウス84は適宜の負圧源(例えばブロア113)に接続されている。従って、サクションマウス84の先端89の開口に吸引空気流を発生させることができる。サクションマウス84は回転可能に支持されている。サクションマウス84が回転することにより、その先端89の開口を、巻取装置25に対して接近又は退避させることができる。紡績糸5に分断が発生した場合に、サクションマウス84は、巻取装置25に接近した位置で、巻取装置25側(パッケージ7側)の紡績糸5を先端89から吸い込んで捕捉することができる。
【0065】
サクションパイプ83が一側に回転することにより、その先端88が紡績装置22に近づく方向に移動し、紡績装置22に接近した状態で紡績糸5の糸端を捕捉する。サクションパイプ83は、その後、他側に回転する。これにより、サクションパイプ83の先端88が紡績装置22から離れる方向に移動する。
【0066】
サクションマウス84が一側に回転することにより、その先端89が巻取装置25に近づく方向に移動し、巻取装置25に接近した位置で当該紡績糸5を捕捉する。サクションマウス84は、その後、他側に回転する。これにより、サクションマウス84の先端89が巻取装置25から離れる方向に移動する。
【0067】
糸継装置82は、紡績糸5の分断の発生後に、サクションパイプ83によって捕捉された紡績装置22側の紡績糸5と、サクションマウス84により捕捉されたパッケージ7側の紡績糸5と、の糸継ぎを行う。本実施形態において、糸継装置82は、旋回空気流により糸端同士を撚り合わせるスプライサ装置である。糸継装置82は、前記のスプライサ装置に限定せず、例えば機械式のノッタ等とすることもできる。
【0068】
台車制御部85は、図示しないCPU、ROM、RAM等を有する公知のコンピュータとして構成されている。台車制御部85は、糸継台車80が備える各部の動作を制御することによって、糸継台車80が行う糸継処理を制御する。
【0069】
糸継台車80は、通常、レール101上の適宜の位置で待機している。何れかの紡績ユニット2において紡績糸5の分断が発生すると、糸継台車80は、紡績糸5の分断が発生した紡績ユニット2へ移動する。
【0070】
次に、
図2の状態で紡績糸5の分断が発生して紡績を中断し、糸継装置82により糸継ぎが行われるときの各部の動作について説明する。この過程で、巻取装置25は、パッケージ7の回転を停止する巻取中断動作を行う。以下では、糸監視装置47の検出結果に基づき紡績糸5が切断された場合を例として説明する。
【0071】
まず、ユニット制御部15が、糸監視装置47から入力される糸欠陥検出信号に基づいて、給糸装置(紡績装置22)による給糸を停止させる。給糸装置による給糸の停止により、紡績糸5が切断される。これにより、
図3に示すように、紡績糸5の分断が発生する。糸監視装置47により検出された糸欠陥は、パッケージ7側の紡績糸5に含まれる。
【0072】
ユニット制御部15は、糸監視装置47が糸欠陥を検出した後の適宜のタイミングで、糸継要求信号を台車制御部85に送信する。糸継要求信号を受信した台車制御部85は、紡績糸5の分断が発生した対象の紡績ユニット2まで糸継台車80を走行させた後、停止させる。
【0073】
糸監視装置47が糸欠陥を検出して紡績装置22が紡績を中断した
図3の時点では、通常、パッケージ7は高速で回転している。パッケージ7の回転に伴って糸貯留ローラ51から紡績糸5が引き出され、糸貯留量が減少していく。糸貯留量がゼロになると、パッケージ7側の紡績糸5の糸端が糸貯留ローラ51から抜ける。パッケージ7の回転が更に継続されることにより、当該糸端がパッケージ7に到達する。
【0074】
本実施形態では、パッケージ7側の紡績糸5の糸端がパッケージ7の外周面に接触するのと実質的に同時に、パッケージ7の巻取方向の回転が停止するように制御する。
図4には、パッケージ7の回転が停止された状態が示されている。これにより、パッケージ7側の紡績糸5の糸端が、パッケージ7の外周面に巻き取られる勢いを殆どなくすことができるので、糸端がパッケージ7の外周面の紡績糸5から離れ易くなる。従って、その後、サクションマウス84によって糸端を容易に捕捉することができる。
【0075】
また、上記の制御により、パッケージ7の回転が停止した時点で、パッケージ7側の紡績糸5の糸端の位置を、パッケージ7の周方向で概ね一定とすることができる。従って、サクションマウス84の先端89をパッケージ7の外周面の所定位置にピンポイント的に近づけるだけで、パッケージ7側の紡績糸5の糸端を捕捉することができる。言い換えれば、パッケージ7の外周面全体にサクションマウス84の吸引流を作用させるためにパッケージ7を逆回転する必要がない。従って、パッケージ7側の紡績糸5の捕捉を短時間で実現することができる。
【0076】
本実施形態の紡績ユニット2では、巻取装置25が糸経路の下端部に位置する。この構成では、パッケージ7側の紡績糸5の糸端がパッケージ7に到達する少し前のタイミングで、パッケージ7の回転を停止させても良い。この場合、パッケージ7の回転停止後に、パッケージ7の紡績糸5の糸端は重力によってパッケージ7の外周面又は近傍に落下する。
【0077】
前述のとおり、糸貯留装置23は、糸貯留ローラ51の糸貯留量を検知するための糸貯留量検知センサ56を備える。パッケージ7側の紡績糸5の糸端がパッケージ7に到達するタイミングは、糸貯留ローラ51の糸貯留量が所定量以下になったことを糸貯留量検知センサ56が検知したタイミングに基づいて、計算により求めることができる。
【0078】
本実施形態では、紡績装置22が紡績を中断してから、パッケージ7側の紡績糸5がパッケージ7に完全に巻き取られる前に、パッケージ7の回転を減速するように制御する。減速開始のタイミングは、紡績装置22が紡績を中断するのと同時でも良いし、紡績中断から適宜の時間が経過した後でも良い。事前にパッケージ7の回転速度をある程度減速させることで、パッケージ7側の紡績糸5の糸端がパッケージ7に到達した正確なタイミングで、パッケージ7の回転を停止することが容易になる。
【0079】
ユニット制御部15は、パッケージ7の回転の減速制御に伴って、トラバース装置73のトラバース幅を通常よりも狭めるように制御する。トラバース幅は、非連続的に短縮されても良いし、時間の経過とともに緩やかに短縮されても良い。
【0080】
上述のようにパッケージ7の回転速度を減速する制御を行う場合は、糸貯留ローラ51とパッケージ7との間で、紡績糸5のテンションが不安定になる。従って、糸ガイド78によって紡績糸5がパッケージ7の外周面に導かれる位置が不安定になり易い。これを考慮すると、上記のようにトラバース幅を短縮することが、紡績糸5がパッケージ7の巻幅を外れた位置に巻かれること(以下、端面落ちと呼ぶ)を回避するために好ましい。トラバース幅の短縮は、パッケージ7の回転の減速よりも前に開始されても良い。
【0081】
パッケージ7側の紡績糸5が糸貯留ローラ51及び糸掛け部材53から離れた後は、紡績糸5のテンションが失われるため、パッケージ7側の紡績糸5の位置を糸ガイド78で案内しにくくなる。従って、トラバース装置73のトラバース幅の短縮は、パッケージ7側の紡績糸5の糸端が糸貯留ローラ51から外れる前に、実質的に完了していることが好ましい。本実施形態の構成は、紡績糸5の分断が発生した場合に、ある程度の長さの紡績糸5が糸貯留ローラ51に巻かれた状態であれば、トラバース幅を短縮する時間的な機会を確保し易い。
【0082】
図5には、通常のトラバース幅W1と、短縮後のトラバース幅W2と、が示されている。紡績時のトラバース幅W1は、前述の操作部117によって設定されるパッケージ巻幅に基づいて定められる。
図5では、トラバース幅W1は1つの幅として図示されており、トラバース幅W2も1つの幅として図示されている。しかし、トラバース幅W1とW2は、ある範囲内で可変であっても良い。例えば、トラバース装置73は、トラバース幅W1を脈動的に変化させるクリーピング制御を行っても良い。或いは、トラバース装置73は、パッケージ7の巻取りに伴って、トラバース幅W1を狭めても良い。また、トラバース装置73は、トラバース幅W2が狭まっていくように糸ガイド78を往復動させても良い。
【0083】
短縮されたトラバース幅W2での紡績糸5のトラバースは、パッケージ7の巻取方向の回転が停止するまで継続される。これにより、パッケージ7側の紡績糸5の糸端の位置が巻幅方向でバラつきにくくなる。従って、その後、サクションマウス84によって糸端を容易に捕捉することができる。なお、
図5では、トラバース幅W2の中心と、トラバース幅W1の中心とが一致するように図示されているが、これらの中心は必ずしも一致していなくても良い。言い換えると、トラバース幅W2は、パッケージ7の何れかの端部に近くなるように、偏って形成されていても良い。
【0084】
短縮されたトラバース幅W2での紡績糸5のトラバースは、パッケージ7の巻取方向の回転が停止する前に終了させても良い。この場合、パッケージ7の巻取方向の回転が停止する所定時間前に、パッケージ7を巻取ドラム76から離間させ、糸ガイド78から紡績糸5を外させる。その結果、短縮されたトラバース幅W2で紡績糸5が巻かれた糸層の上に、トラバース幅が更に短縮された糸層(棒巻き)が形成される。糸ガイド78から紡績糸5を外す手法は、上記の例に限定されない。
【0085】
短縮された後のトラバース幅W2は、トラバース装置73がトラバース可能な最大幅に対して1/2以下であることが好ましく、また、10ミリメートル以下とすることが好ましい。仮に全くトラバースを行わない場合、例えば、1周前に巻かれた紡績糸5の内側に紡績糸5が入ってしまい、解舒が困難になる現象が生じることがある。10mm以下の小さな往復ストロークでも、トラバースを行うことで、そのような現象を防止することができる。
【0086】
図1に示すように、本実施形態のサクションマウス84の先端89の幅W3は、パッケージ7の巻幅の全てに吸引空気流を作用させることができるように、大きく形成されている。しかしながら、上記のようにパッケージ7側の紡績糸5の糸端の位置を制限することで、サクションマウス84の先端89の幅W3を短縮できる余地がある。サクションマウス84の先端89の幅W3は、例えば、クレードル71の幅W4よりも小さくすることができ、また、クレードル71の幅W4の1/2以下とすることができる。
【0087】
このように、トラバース幅を短縮した場合、短縮後のトラバース幅W2に相当する部分にだけ吸引空気流を作用させることができれば十分である。従って、サクションマウス84の小型化を実現できる。また、先端89の吸引口を小型化できるため、負圧源の省エネルギーを実現できる。
【0088】
ユニット制御部15は、パッケージ7の回転の減速制御に伴って、トラバース装置73のトラバース速度を通常よりも減速させるように制御する。これにより、パッケージ7に紡績糸5が巻き取られる綾角が大きく変化するのを防止することができる。
【0089】
その後、ユニット制御部15は、当該紡績ユニット2に糸継台車80が到着したか否かを判定し、未到着の場合は到着するまで待機する。
図4には、糸継台車80が到着した状態が示されている。
【0090】
糸継台車80は、紡績ユニット2に対する作業位置まで到着すると、サクションマウス84を、
図6の鎖線で示すように巻取装置25へ接近させる。これにより、サクションマウス84がパッケージ7側の紡績糸5を捕捉することができる。
【0091】
この状態で、紡績ユニット2は、巻取装置25によって、パッケージ7を逆方向に回転させる。パッケージ7の逆方向の回転は、パッケージ7側の紡績糸5のうち糸欠陥を含む部分がすべてサクションマウス84に吸引されるまで継続される。短縮されたトラバース幅W2で巻かれた紡績糸5は、この逆回転によってパッケージ7から全て解舒される場合もあるし、一部がパッケージ7に残る場合もある。
【0092】
サクションマウス84は、その後、巻取装置25から退避する。この結果、パッケージ7側の紡績糸5が、糸継装置82まで案内される。この時点までに、パッケージ7の逆回転は停止している。
【0093】
何らかの理由で、サクションマウス84が紡績糸5を捕捉できない場合も考えられる。この場合、ユニット制御部15は、パッケージ7が小さな角度の逆転及び正転を交互に行うように制御することが好ましい。これにより、紡績糸5の捕捉の成功率を上げることができる。サクションマウス84が紡績糸5を捕捉したか否かは、例えば、サクションマウス84の内部の紡績糸5をセンサによって検知することで判定することができる。
【0094】
台車制御部85は糸継台車80を制御して、サクションパイプ83を、
図6の鎖線で示すように、紡績装置22側の紡績糸5を捕捉できる位置へ移動させる。これと殆ど同時に、ユニット制御部15は、給糸装置からの紡績糸5の供給を再開する。
【0095】
台車制御部85は、サクションパイプ83により捕捉された紡績装置22側の紡績糸5を、
図6の実線で示すように、下方の糸継装置82まで案内させる。これに伴って、紡績装置22から引き出された紡績糸5が糸掛け部材53に掛けられ、回転する糸掛け部材53によって紡績糸5が
図5に示すように糸貯留ローラ51に巻かれていく。
【0096】
糸貯留ローラ51における紡績糸5の貯留量がある程度増大した
図7のタイミングで、台車制御部85は糸継装置82を動作させ、サクションマウス84により吸引された巻取装置25側の紡績糸5と、紡績装置22側の紡績糸5と、の糸継ぎを行わせる。糸継ぎ中に給糸装置からは連続的に紡績糸5が供給されるが、この紡績糸5は糸貯留装置23によって貯留される。
【0097】
糸継ぎにおいて、余分な紡績糸5は糸継装置82において切断される。この切断により、パッケージ7側の紡績糸5から、糸監視装置47で検出された糸欠陥の部分が切り離される。切断された余分な紡績糸5は、サクションパイプ83又はサクションマウス84に吸い込まれて廃棄される。
【0098】
糸継ぎの完了とほぼ同時に、巻取装置25の駆動が開始されて、巻取装置25によるパッケージ7の巻取りが再開される。このようにして、紡績ユニット2は
図2の通常状態に戻る。
【0099】
糸継装置82において余分な紡績糸5が切断されたものの、何らかの理由で糸継ミスが生じて糸継ぎができなかった場合も考えられる。この場合、ユニット制御部15は、パッケージ7を巻取方向に回転させることで、パッケージ7側の紡績糸5の糸端をパッケージ7に到達させる。前述と同様に、パッケージ7側の紡績糸5の糸端がパッケージ7の外周面に接触するのと実質的に同時に、又は、少し前のタイミングで、パッケージ7の巻取方向の回転が停止するように制御することが好ましい。また、パッケージ7に巻き取られる紡績糸5は、トラバース装置73により、通常よりも狭いトラバース幅W2でトラバースされることが好ましい。その後、再び、サクションマウス84による紡績糸5の糸端の捕捉、パッケージ7の逆転、サクションマウス84による紡績糸5の糸継装置82への案内が行われる。
【0100】
糸継ミスは、糸継台車80が備える、図略の監視センサによって検出することができる。監視センサは、糸継装置82のすぐ下流側に設けられている。監視センサに紡績糸5を導くために、糸継台車80に、紡績糸5を積極的に移動させる図略の糸移動装置が設けられても良い。糸移動装置は、例えば、紡績糸5に圧縮空気を吹き付けて移動させるノズル装置として構成することができる。これにより、監視センサが糸継ミスを早期に検出することができる。
【0101】
以上に説明したように、本実施形態の紡績機1は、複数の紡績ユニット2を備える。それぞれの紡績ユニット2は、紡績装置22と、巻取装置25と、糸貯留装置23と、を備える。紡績装置22は、繊維束4bを紡績することで紡績糸5を生成し、紡績糸5を供給可能である。巻取装置25は、紡績装置22から供給された紡績糸5をトラバースしながら巻き取ってパッケージ7を形成する。糸貯留装置23は、紡績装置22と巻取装置25との間に形成される糸走行経路の途中に配置される。糸貯留装置23は、糸貯留ローラ51と、糸掛け部材53と、を備える。糸貯留ローラ51は、紡績糸5を外周に巻き付けて貯留可能である。糸掛け部材53は、回転可能に構成され、糸貯留ローラ51から解舒される紡績糸5に掛かることで紡績糸5にテンションを付与する。それぞれの紡績ユニット2の巻取装置25は、パッケージ回転装置72と、トラバース装置73と、を備える。パッケージ回転装置72は、紡績ユニット2毎に独立して駆動され、パッケージ7を回転させる。トラバース装置73は、紡績ユニット2毎に独立して駆動され、パッケージ7に巻かれる紡績糸5をトラバースする。巻取装置25の巻取中断動作において、紡績装置22による紡績を停止し、パッケージ7の巻取停止制御を行うときに、糸貯留ローラ51とパッケージ7との間で紡績糸5が繋がっている状態で、糸掛け部材53によって紡績糸5にテンションを付与しながら、トラバース装置73によって、巻取中断動作の開始前よりも短縮されたトラバース幅W2で紡績糸5のトラバースを行う。
【0102】
これにより、パッケージ7の回転を停止した状態で、パッケージ7側の紡績糸5の糸端の位置を、短縮されたトラバース幅W2に相当する領域に制限することができる。従って、パッケージ7の回転停止後において糸端の捕捉を容易に行うことができる。また、紡績を停止した後において、短縮されたトラバース幅W2で紡績糸5のトラバースを行っている間も糸掛け部材53によって紡績糸5にテンションが付与されているため、当該期間に巻き取られた部分のパッケージ7の品質も紡績停止前と同等程度に維持できる。従って、パッケージ7の品質を向上させることもできる。
【0103】
本実施形態の紡績機1において、短縮後のトラバース幅W2は、トラバース装置73が紡績糸5をトラバース可能な最大幅の1/2以下とすることができる。また、短縮後のトラバース幅W2は10mm以下とすることができる。
【0104】
これにより、糸端の捕捉が容易になる。
【0105】
本実施形態の紡績機1では、巻取装置25の巻取中断動作において、トラバース装置73は、紡績装置22による紡績の停止と同時に、又は紡績の停止の直後に、トラバース幅の短縮を開始することができる。
【0106】
これにより、ある程度の長さの紡績糸5について、トラバース幅の短縮を行うことができる。
【0107】
巻取装置25の巻取中断動作において、トラバース装置73は、紡績装置22による紡績が停止した後、糸貯留ローラ51の糸貯留量が所定量以下になったタイミングで、トラバース幅の短縮を開始することもできる。
【0108】
この場合、トラバース幅の短縮がパッケージ7の形状に与える影響を少なくすることができる。
【0109】
本実施形態の紡績機1は、糸貯留ローラ51の糸貯留量を検出する糸貯留量検知センサ56を備える。
【0110】
これにより、糸貯留量検知センサ56の検出結果に基づいて、トラバース幅の短縮を正確なタイミングで行うことができる。
【0111】
本実施形態の紡績機1では、巻取装置25の巻取中断動作において、トラバース装置73のトラバース幅の短縮は、パッケージ7の回転速度の減速とともに行われる。
【0112】
パッケージ7の回転速度が減速すると、糸貯留ローラ51とパッケージ7との間の紡績糸5のテンションが不安定となる傾向がある。従って、仮にトラバース幅が変化しない場合は、端面落ちが想定される。しかし、上記のように、トラバース幅の短縮と、パッケージ7の回転速度の減速を行うことにより、紡績糸5がパッケージ7の巻幅を外れた位置に巻かれることを効果的に防止することができる。従って、パッケージ7の品質を向上させることができる。
【0113】
本実施形態の紡績機1では、巻取装置25の巻取中断動作において、パッケージ7の回転速度が減速するのに伴って、トラバース装置73のトラバース速度が減速する。
【0114】
これにより、パッケージ7に紡績糸5が巻き取られる綾角が、パッケージ7の回転速度の減速によって急激に変化することを防止できる。
【0115】
本実施形態の紡績機1において、巻取装置25の巻取中断動作において、巻取装置25は、パッケージ7側の紡績糸5の糸端がパッケージ7の表面に位置するように、パッケージ7の回転を停止する。
【0116】
これにより、パッケージ7の表面に位置する糸端を容易に捕捉することができる。
【0117】
本実施形態の紡績機1は、糸継装置82と、サクションマウス84と、を備える。糸継装置82は、紡績装置22と巻取装置25との間で紡績糸5が分断された場合に、紡績装置22側の紡績糸5とパッケージ7側の紡績糸5との糸継ぎを行う。サクションマウス84は、紡績装置22と巻取装置25との間で紡績糸5が分断された場合にパッケージ7側の紡績糸5を捕捉して糸継装置82へ案内可能である。巻取装置25は、パッケージ7に紡績糸5を巻き取るためのボビン7aを保持可能なクレードル71を備える。前述のトラバース幅の短縮により、トラバース装置73のトラバース方向において、サクションマウス84の先端89の幅W3を小型化でき、例えば、クレードル71の幅W4よりも小さくすることができる(W3<W4)。例えば、サクションマウス84の先端89の幅W3は、クレードル71の幅W4の1/2以下とすることができる(W3≦W4/2)。
【0118】
これにより、サクションマウス84の小型化を実現できる。
【0119】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0120】
図8に示す本変形例の紡績機において、それぞれの紡績ユニット2は、吸引装置(捕捉装置)24を備える。この紡績機は、紡績の中断により紡績装置22と糸貯留ローラ51の間で紡績糸5が分断された場合に、パッケージ7側の紡績糸5を吸引装置24によって捕捉することができる。
【0121】
吸引装置24は、紡績装置22と巻取装置25の間で紡績糸5が分断された場合に、パッケージ7側の紡績糸5を吸引することができる。吸引装置24は、糸貯留装置23と巻取装置25との間に設けられている。本変形例では、吸引装置24は固定的に設けられているが、多少移動可能に設けられていても良い。例えば、吸引装置24は、糸経路に対して少しだけ接近及び退避する方向に移動可能に設けられていても良い。言い換えると、吸引装置24は、サクションマウス84ほどは移動しないように設けられている。
【0122】
吸引装置24は、吸引パイプ61を備える。吸引パイプ61の先端(長手方向一端)に吸引口62が形成されている。吸引口62は、紡績ユニット2に形成される前述の糸経路の途中部に向かって開口している。吸引パイプ61は、配管等を介して、ブロア113等の負圧源に接続されている。これにより、吸引口62(吸引パイプ61内)に吸引空気流を発生させることができる。サクションマウス84とは異なり、吸引パイプ61は紡績ユニット2に固定的に設けられている。従って、吸引口62の位置は一定である。
【0123】
吸引装置24は、シャッタ63を備える。吸引装置24の状態は、シャッタ63により、吸引状態と吸引停止状態との間で変更される。シャッタ63は、例えば、吸引口62と、吸引装置24のうち空気が流れる方向で当該吸引口62よりも下流側の部分と、の間に配置される。シャッタ63は、例えば、板状部材を有する開閉機構により構成することができる。シャッタ63は、ユニット制御部15の制御により開閉することができる。必要な場合にだけシャッタ63を開くことで、紡績機1における省エネルギーを実現することができる。なお、吸引装置24においてシャッタ63を省略することもできる。
【0124】
糸継台車80が当該紡績ユニット2に対して作業を行うとき、吸引装置24は、糸継台車80が備える糸継装置82よりも上流側に位置する。吸引装置24は、紡績糸5の分断が発生した場合に、巻取装置25側、言い換えればパッケージ7側の紡績糸5を、糸継装置82よりも上流側で捕捉することができる。
【0125】
本変形例では、パッケージ7側の紡績糸5を、糸継台車80のサクションマウス84によって捕捉することもできる。パッケージ7側の紡績糸5を捕捉するために吸引装置24及びサクションマウス84のうち何れを用いるかについては、ユニット制御部15が適宜選択することができる。従って、本変形例では、紡績糸5の分断が発生した場合の糸継ぎに関連して、上述の実施形態と比較して柔軟な動作が可能になる。
【0126】
図8には、紡績糸5が分断された直後の状態が示されている。吸引装置24によってパッケージ7側の紡績糸5を捕捉する場合、ユニット制御部15は、適宜の速度でパッケージ7の回転を継続する。パッケージ7の回転に伴って糸貯留ローラ51から紡績糸5が引き出され、糸貯留量が減少していく。
【0127】
ユニット制御部15は、紡績糸5が糸貯留装置23から外れる少し前のタイミングで、閉じられていたシャッタ63を開いて、吸引装置24による吸引を開始させる。このタイミングは、例えば、紡績糸5の貯留量が所定量以下となったことを糸貯留量検知センサ56が検知してから所定時間だけ巻取りを継続したタイミングとすることができる。
【0128】
その後、パッケージ7側の紡績糸5がパッケージ7に巻き取られる過程で、当該紡績糸5の糸端が吸引装置24により捕捉可能な領域に位置するタイミングで、ユニット制御部15は、巻取装置25による巻取りを停止させる。巻取装置25による巻取りの停止タイミングは、例えば、糸貯留ローラ51に残っていた紡績糸5の糸端が糸貯留ローラ51から外れてガイド54を抜けるのと殆ど同じタイミングとすることができる。
【0129】
この結果、
図9に示すように、パッケージ7側の紡績糸5を吸引装置24により吸引口62から吸い込んで捕捉することができる。
図9には糸継台車80は示されていないが、この状態の紡績ユニット2に糸継台車80が到着すると、吸引装置24によって保持されているパッケージ7側の紡績糸5は、糸継台車80の糸継装置82と対面する状態になる。
【0130】
糸継台車80は、紡績装置22から供給された紡績糸5をサクションパイプ83によって捕捉し、糸継装置82へ案内する。この動作は前述の実施形態と実質的に同様であるので、説明を省略する。その後、糸継装置82は、吸引装置24により吸引された巻取装置25側の紡績糸5と、紡績装置22側の紡績糸5と、の糸継ぎを行う。
【0131】
本変形例においても、
図9のようにパッケージ7の回転が停止する前の適宜のタイミングで、パッケージ7の回転が減速される。これにより、パッケージ7側の紡績糸5の糸端が吸引装置24の吸引口62を通過する速度が低くなるので、当該紡績糸5を吸引装置24によって容易に捕捉することができる。加えて、パッケージ7の回転の減速に伴ってトラバース幅が短縮される。これにより、上述の端面落ちを防止することができる。
【0132】
以上に説明したように、本変形例の紡績機1は、紡績装置22と巻取装置25との間で紡績糸5が分断された場合に、パッケージ7側の紡績糸5を捕捉可能であり、糸走行経路に対して設けられた吸引装置24を備える。吸引装置24は、糸貯留装置23よりも糸走行方向下流側、かつ、巻取装置25よりも糸走行方向上流側で紡績糸5を捕捉する。
【0133】
これにより、簡素な構成の吸引装置24によって、パッケージ7側の紡績糸5を捕捉することができる。
【0134】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。変更は単独で行われても良いし、複数の変更が任意に組み合わせて行われても良い。
【0135】
トラバース幅の短縮は、トラバース方向の一側と他側とで短縮距離が等しくなるように対称的に行われても良いし、非対称的に行われても良い。
【0136】
図4のようにパッケージ7の回転を停止させた状態におけるパッケージ7側の紡績糸5の糸端の位置が、サクションマウス84を巻取装置25側に接近させたときの先端89の位置に対して、パッケージ7の周方向で常にズレる場合も考えられる。この場合、巻取装置25がパッケージ7を少し回転させて、糸端の位置を調整しても良い。
【0137】
紡績装置22と糸貯留ローラ51の間に、紡績糸5を挟んで送るデリベリローラが配置されても良い。
【0138】
紡績機1が糸継台車80を備えずに、各紡績ユニット2が糸継装置82と、サクションパイプ83と、サクションマウス84と、を備えていても良い。紡績機1はオープンエンド紡績機であっても良い。
【符号の説明】
【0139】
1 紡績機
2 紡績ユニット
4b 繊維束
5 紡績糸(糸)
7 パッケージ
22 紡績装置
23 糸貯留装置
24 吸引装置(捕捉装置)
25 巻取装置
51 糸貯留ローラ
53 糸掛け部材
56 糸貯留量検知センサ(糸貯留量センサ)
71 クレードル
72 パッケージ回転装置
73 トラバース装置
82 糸継装置
84 サクションマウス(捕捉案内装置)
89 先端
W1 トラバース幅
W2 トラバース幅