(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189217
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】アスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20221215BHJP
【FI】
G01N21/3563
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097683
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000226482
【氏名又は名称】日工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下田 勝
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059CC01
2G059CC12
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE11
2G059HH01
2G059HH06
2G059MM05
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】 アスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率を安全に、また比較的容易かつ短時間にて推定可能とする推定方法を提供する。
【解決手段】 アスファルト含有率が既知の標準試料に対し、アスファルト及び炭酸カルシウム共通の吸収バンドである第一の赤外光と、炭酸カルシウム固有の吸収バンドである第二の赤外光とを照射し、それぞれの拡散反射光を受光して第一及び第二の吸光度を検出する。次いで、各標準試料毎に検出した前記第一及び第二の吸光度と、各標準試料のアスファルト含有率とから線形重回帰分析により重回帰式を求める。そして、アスファルト含有率が未知の試料に対して前記第一及び第二の赤外光を照射し、それぞれの拡散反射光を受光して第一及び第二の吸光度を検出し、これら第一及び第二の吸光度と前記重回帰式とに基づいてアスファルト含有率を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト含有率が既知の複数のアスファルト舗装廃材の標準試料に対し、アスファルト舗装廃材に含まれるアスファルト及び炭酸カルシウム共通の吸収バンドである第一の赤外光と、炭酸カルシウム固有の吸収バンドである第二の赤外光とを照射し、前記第一及び第二の赤外光を照射された前記標準試料からの各拡散反射光を受光してそれぞれの吸光度である第一及び第二の吸光度を検出し、前記各標準試料毎に検出した前記第一及び第二の吸光度と、各標準試料のアスファルト含有率とから線形重回帰分析により重回帰式を求めておき、アスファルト含有率が未知のアスファルト舗装廃材の試料に対して前記第一及び第二の赤外光を照射し、前記第一及び第二の赤外光を照射された前記試料からの各拡散反射光を受光してそれぞれの吸光度である第一及び第二の吸光度を検出し、この検出した第一及び第二の吸光度と前記重回帰式とに基づいてアスファルト含有率を推定することを特徴とするアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法。
【請求項2】
前記第一の赤外光の波長は3.44μmであると共に、前記第二の赤外光の波長は3.97μmであることを特徴とする請求項1記載のアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路工事などによって掘り起こされるアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路工事等によって掘り起こされたアスファルト舗装廃材(以下「廃材」という)の再利用を図るために、破砕処理した廃材を約160℃程度に加熱再生し、この加熱再生した廃材、新規骨材及び溶融アスファルト等を所定割合で混合してアスファルト混合物を製造している。
【0003】
廃材には、各種粒径の骨材、石粉、及びアスファルト等が含まれているが、このうちアスファルトは道路として供用中の経年劣化により、前記加熱処理のみではアスファルトの本来の粘度が回復しないため、例えば、アスファルトの粘度を改善する効果を有する再生用添加剤を、廃材中に含まれるアスファルトの劣化度合いやその含有量等に応じて加減調整した上で添加・混合し、アスファルト混合物を製造するといったことが行われている(特許文献1、2参照)。
【0004】
なお、廃材中に含まれるアスファルトの含有量(含有率)を測定する手法としては、廃材中のアスファルトを溶剤によって溶解・抽出し、抽出したアスファルト量を測定する、例えば、ソックスレー抽出法が一般に知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-112724号公報
【特許文献2】特開平11-71710号公報
【特許文献3】実開昭63-35046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記ソックスレー抽出法では、使用する溶剤として可燃性、毒性を有するものも少なくなく、環境負荷が高い上、その取扱には十分な注意を要すると共に、測定にもそれなりに手間や時間(数時間程度)を要していた。一方、廃材は様々な工事現場から回収されるため、アスファルト含有率がばらつくことも珍しくなく、廃材を再利用したアスファルト混合物を製造する際に適正量の添加剤を添加・混合しようとした場合、本来であれば各バッチ毎にサンプルを採取して前記ソックスレー抽出法にてアスファルト含有率を都度確認するようにすればよいが、その手間や時間的な制約等から現実的ではないというのが実状であった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑み、アスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率を安全に、また比較的容易かつ短時間にて推定可能とする推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者は検討を重ね、例えば、赤外分光法を用いれば比較的容易に廃材中のアスファルト含有率を推定できるのではないかと考えた。赤外分光法は、測定対象の物質に赤外光(近赤外光または中赤外光)を照射して、その透過光、或いは反射光を分光してスペクトルを得て、各波長毎の吸光度を検出することで対象物の定性や定量を行う手法である。
【0009】
ここで、廃材に含まれるアスファルトは、分子間結合としてC-H(炭素-水素)結合を有しており、このC-H結合の吸収バンドである、例えば3.44μm付近の波長の赤外光(中赤外光)を測定対象の廃材に照射し、そのときの廃材からの透過光、或いは反射光の吸光度を検出するようにすれば、廃材中のアスファルト含有率を低環境負荷で安全に、また比較的容易かつ短時間にて推定できるのではないかと考えたのである。
【0010】
そして、赤外分光法には、拡散反射法やATR法、或いは透過法等、種々の方法があるが、その中でも、拡散反射法と呼ばれる手法であれば、他のATR法や透過法等において必須となる前処理(測定対象物質を事前に数μm粒径以下に微粉化処理)が不要であるため、容易かつ短時間でのアスファルト含有率の推定ということを目的とする場合には特に有効であると予想した。
【0011】
しかしながら、上記予想の下、アスファルト含有率が既知の複数の廃材の標準試料に対し、アスファルトの吸収バンドである前記3.44μmの赤外光を照射し、前記拡散反射法を用いて、前記標準試料からの拡散反射光(標準試料中のアスファルトに吸収されず、かつ標準試料の表面で反射される正反射光を除いた反射光)を受光してその吸光度を検出し、前記各標準試料毎に検出した前記吸光度と、各標準試料のアスファルト含有率(真値)とに基づいて検量線を作成したところ、予想に反して前記吸光度とアスファルト含有率との相関性は低い結果となった。
【0012】
そのため、本発明者はその原因究明に努めたところ、アスファルトの吸収バンドと炭酸カルシウムの吸収バンドとが前記3.44μm付近で一部重複していることを突き止めた。炭酸カルシウムは、廃材(アスファルト混合物)の素材の一つである石粉の主成分であるが、廃材中の石粉含有率も廃材の採取現場によって大きなバラツキがあるため、これがアスファルトの吸収バンドと重なることにより、前記吸光度とアスファルト含有率との相関性を低下させていると考えた(例えば、アスファルト含有率が同じでも、炭酸カルシウム含有率が異なれば、前記3.44μm付近の吸光度も変動する可能性がある。)。
【0013】
なお、これは拡散反射法だけに限ったものではなく、ATR法や透過法等にあっても同様の現象が生じると考えられるものの、ATR法や透過法等にあっては、3.44μm付近に現れる炭酸カルシウムの吸光度は(無視できる程度に)ごく微弱であるため、アスファルトの吸光度にほとんど影響を及ぼさないものと予想される。一方、拡散反射法にあっては、前記3.44μm付近に炭酸カルシウムの吸光度が比較的強く現れる特性があるため、同じ波長域のアスファルトの吸光度に対して大きく影響を及ぼす可能性がある。
【0014】
そこで、本発明者は更に鋭意検討を重ねたところ、アスファルト固有の(廃材中の他の成分の吸収バンドと重複しない)吸収バンドは結局見いだせなかったものの、炭酸カルシウム固有の吸収バンド(例えば、3.97μm付近)を見いだすことができた。それであれば、アスファルト含有率が既知の複数の標準試料に対し、前記アスファルト及び炭酸カルシウム共通の吸収バンドである3.44μmの第一の赤外光と、炭酸カルシウム固有の吸収バンドである3.97μmの第二の赤外光とを照射し、拡散反射法を用いて、前記第一及び第二の赤外光を照射された標準試料からの各拡散反射光の吸光度である第一及び第二の吸光度を検出し、前記各標準試料毎に検出した前記第一及び第二の吸光度と、各標準試料のアスファルト含有率とから相関性の高い検量線を作成できると考え、本発明を成すに至ったものである。
【0015】
即ち、上記課題を解決するために、本発明に係る請求項1記載のアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法では、アスファルト含有率が既知の複数のアスファルト舗装廃材の標準試料に対し、アスファルト舗装廃材に含まれるアスファルト及び炭酸カルシウム共通の吸収バンドである第一の赤外光と、炭酸カルシウム固有の吸収バンドである第二の赤外光とを照射し、前記第一及び第二の赤外光を照射された前記標準試料からの各拡散反射光を受光してそれぞれの吸光度である第一及び第二の吸光度を検出し、前記各標準試料毎に検出した前記第一及び第二の吸光度と、各標準試料のアスファルト含有率とから線形重回帰分析により重回帰式を求めておき、アスファルト含有率が未知のアスファルト舗装廃材の試料に対して前記第一及び第二の赤外光を照射し、前記第一及び第二の赤外光を照射された前記試料からの各拡散反射光を受光してそれぞれの吸光度である第一及び第二の吸光度を検出し、この検出した第一及び第二の吸光度と前記重回帰式とに基づいてアスファルト含有率を推定することを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る請求項2記載のアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法では、前記第一の赤外光の波長は3.44μmであると共に、前記第二の赤外光の波長は3.97μmであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法によれば、溶剤を不要として環境負荷も低く安全に処理できると共に、比較的容易かつ短時間にてアスファルト含有率を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法を説明するフローチャートである。
【
図2】本発明に係るアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法を用いて推定した試料中のアスファルト含有率の推定値と、実測値との相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るアスファルト舗装廃材中のアスファルト含有率推定方法にあっては、アスファルト含有率が異なり、かつアスファルト含有率が既知の複数の廃材の標準試料に対し、廃材に含まれるアスファルト(C-H結合)及び炭酸カルシウム共通の吸収バンドである、例えば波長が3.44μmの第一の赤外光と、炭酸カルシウム固有の吸収バンドである、例えば波長が3.97μmの第二の赤外光とを照射し、拡散反射法を用いて、前記第一及び第二の赤外光を照射された前記標準試料からの各拡散反射光を受光してそれぞれの吸光度である第一及び第二の吸光度を検出する。
【0020】
次いで、前記各標準試料毎に検出した前記第一及び第二の吸光度と、各標準試料のアスファルト含有率とから線形重回帰分析により、前記第一及び第二の吸光度とアスファルト含有率との関係をあらわす線形の重回帰式を予め求めておく。前記線形重回帰分析は、第一の吸光度x1、及び第二の吸光度x2を説明変数とし、アスファルト含有率yを目的変数として、直線の関係式y=ax1+bx2+c…(1)(ただし、a、bは回帰係数、cは切片)を求めるものである。
【0021】
そして、アスファルト含有率が未知の廃材の試料に対し、例えば波長が3.44μmの第一の赤外光と、波長が3.97μmの第二の赤外光とを照射し、前記拡散反射法を用いて、前記第一及び第二の赤外光を照射された前記試料からの各拡散反射光を受光してそれぞれの吸光度である第一及び第二の吸光度x1、x2を検出する。そして、この検出した第一及び第二の吸光度x1、x2と、予め求めておいた前記重回帰式(1)とに基づき、前記試料中に含まれるアスファルト含有率yを推定する。
【0022】
このとき、従来のソックスレー抽出法のような溶剤を使用する必要もないため、環境負荷も低く安全に処理できると共に、廃材の試料に対して所定波長の赤外光を照射するだけなので、比較的容易にかつ短時間(瞬時)にてアスファルト含有率を推定できる。これにより、例えば、廃材を再利用したアスファルト混合物を製造する際に、各バッチ毎にアスファルト含有率を都度確認することもでき、廃材中に含まれるアスファルト含有率に応じた適正量の添加剤を過不足なく添加・混合するといったことも可能となり、品質面・コスト面等において好適なものとなる。
【0023】
また、本発明で利用している拡散反射法は、廃材の微粉化処理等の前処理を不要とする利点がある一方、その特性により、廃材中に含まれるアスファルトの含有率の検出を、同様に廃材中に含まれる炭酸カルシウム(石粉)が阻害する可能性があるものの、本発明の推定方法にあっては、炭酸カルシウムの影響分を適当に補正しながらアスファルト含有率を精度よく推定することが可能となる。
【実施例0024】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明の廃材中のアスファルト含有率推定方法を説明するフローチャートであって、図中のS1~S13は各手順のステップをあらわしている。
【0026】
先ず、予め、例えば従来のソックスレー抽出法等を用いてアスファルト含有率を実測した、複数の廃材の標準試料を用意しておく。そして、初期設定として、アスファルト含有率(真値)が既知の前記標準試料に対し、廃材に含まれるアスファルト(C-H結合)及び炭酸カルシウム共通の吸収バンドである所定波長、例えば3.44μmの第一の赤外光(中赤外光)を照射すると共に(S1)、炭酸カルシウム固有の吸収バンドである所定波長、例えば3.97μmの第二の赤外光(中赤外光)を照射する(S2)。
【0027】
次いで、拡散反射法を用いて、前記第一及び第二の赤外光を照射された前記標準試料からの各拡散反射光を受光し(S3)、前記各拡散反射光の吸光度である第一及び第二の吸光度をそれぞれ検出する(S4)。なお、前記拡散反射光の吸光度の検出手段としては、例えば適宜の赤外分光光度計等を用いることができる。
【0028】
次いで、前記各標準試料毎に検出した前記第一及び第二の吸光度と、各標準試料のアスファルト含有率とから線形重回帰分析により、前記第一及び第二の吸光度とアスファルト含有率との関係をあらわす線形の重回帰式(1)を求める(S5)。
【0029】
なお、前記重回帰式(1)は、前記第一の吸光度x1、及び第二の吸光度x2を説明変数とし、アスファルト含有率yを目的変数として、直線の関係式y=ax1+bx2+c…(1)(ただし、a、bは回帰係数、cは切片)であらわされるが、前記各回帰係数a、bや切片cは、必ずしも一定では無く、例えば、測定機器や測定条件等によって変動する。
【0030】
そして、前記重回帰式(1)の算出を終了するか否かを確認し(S6)、終了する場合はENDに進んで初期設定を終了する一方、続行する場合にはステップ1に戻って再度設定し直す。
【0031】
そして、アスファルト含有率が未知の廃材の試料のアスファルト含有率を推定する場合には、先ず、予め算出した前記重回帰式(1)を読み込む(S7)。次いで、アスファルト含有率が未知の廃材の試料に対し、前記標準試料に対して照射したものと同じ波長の、廃材に含まれるアスファルト(C-H結合)及び炭酸カルシウム共通の吸収バンドである3.44μmの第一の赤外光(中赤外光)を照射すると共に(S8)、炭酸カルシウム固有の吸収バンドである3.97μmの第二の赤外光(中赤外光)を照射する(S9)。
【0032】
次いで、前記同様に拡散反射法を用いて、前記第一及び第二の赤外光を照射された前記試料からの各拡散反射光を受光し(S10)、前記各拡散反射光の吸光度である第一及び第二の吸光度x1、x2をそれぞれ検出する(S11)。
【0033】
そして、検出した前記第一及び第二の吸光度x1、x2と、予め求めいておいた前記重回帰式(1)とに基づき、前記試料中に含まれるアスファルト含有率yを推定する(S12)。そして、廃材中のアスファルト含有率の推定を終了するか否かを判断し(S13)、終了する場合はENDに進んで終了する一方、続行する場合(別の廃材試料中のアスファルト含有率を推定する場合)にはステップ8に戻り、前記した一連の工程を繰り返す。
【0034】
図2は、本発明の前記推定方法を用いて推定した、複数の廃材試料中のアスファルト含有率(%)の推定値と、ソックスレー抽出法を用いて測定した実測値(真値)との相関性を示すグラフである。
【0035】
図2のグラフからも見て取れるように、本発明の推定方法を用いて推定した複数の推定値と実測値とから最小二乗法を用いて近似直線を引いたところ、相関係数R=0.9422、決定係数R2=0.8878となっており、強い相関性が認められる結果が得られた。