(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189247
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー、その製造方法及び電子写真画像形成方法
(51)【国際特許分類】
G03G 9/097 20060101AFI20221215BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20221215BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G03G9/097 365
G03G9/08
G03G9/087 325
G03G9/08 384
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097733
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 達矢
(72)【発明者】
【氏名】大西 隼也
(72)【発明者】
【氏名】藤野 香
(72)【発明者】
【氏名】大浦 麗仁
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA03
2H500AA08
2H500BA12
2H500CA03
2H500CA21
2H500CA30
2H500EA13C
2H500EA33A
2H500EA34C
2H500EA36A
2H500EA36B
2H500EA39C
2H500EA42C
2H500EA44C
2H500FA10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、低温定着性に優れ、タッキングを防止し、定着画像の光沢を抑制することのできる静電荷像現像用トナー、その製造方法、及び電子写真画像形成方法を提供することである。
【解決手段】少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって得られる、前記静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量が、1.5万以上であり、かつ、前記分子量分布曲線における各ピークの面積率の対比において、前記結着樹脂が、重量平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分の非晶性材料を、前記結着樹脂の全量に対して、10~20%の面積比率の範囲内で含有することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって得られる、前記静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量が、1.5万以上であり、かつ、
前記分子量分布曲線における各ピークの面積率の対比において、前記結着樹脂が、重量平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分の非晶性材料を、前記結着樹脂の全量に対して、10~20%の面積比率の範囲内で含有する
ことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記結着樹脂が、スチレン・アクリル樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記離型剤が、エステル系ワックスである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記低分子量成分の非晶性材料に対する前記離型剤の含有量比率が、0.5~0.7の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを製造する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記トナー母体粒子を、少なくとも熟成工程を有する乳化凝集法によって製造する
ことを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項6】
前記熟成工程を、前記離型剤の融点の-5~15℃の範囲内にて行う
ことを特徴とする請求項5に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項7】
少なくとも、像保持体の帯電工程、静電潜像形成工程、静電潜像現像工程、トナー画像転写工程、トナー画像定着工程及びクリーニング工程を有する電子写真画像形成方法であって、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを用いる
ことを特徴とする電子写真画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナー、その製造方法及び電子写真画像形成方法に関する。より詳しくは、低温定着性に優れ、タッキングを防止し、定着画像の光沢を抑制することのできる静電荷像現像用トナー等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成装置の高速化、省エネルギー化に対する市場からの要求により、低温定着性に優れ、高品位な画像を提供できる静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)が求められている。
トナーにおいては、結着樹脂の溶融温度や溶融粘度を下げると低温定着化が図れる一方、トナーに含有されるワックスが画像上に染み出しやすくなり画像の光沢度が所望の範囲を超えて高くなりすぎてしまう等の問題があった。
【0003】
例えば特許文献1では、トナーの結着樹脂にシャープメルト性を有するポリエステル樹脂や結晶化状態から融点で急激に軟化する特性をもち、融点以下では耐熱保管性を確保する結晶性樹脂を用いる方法が開示されている。
しかしながら、低温定着性を追求していくと、トナーの急激な溶融粘度の低下に伴い定着画像の高光沢化が生じるという問題があった。
【0004】
また、特許文献2では、第1のポリエステル樹脂を含有するコア部と、メタフェニレン骨格の含有率の高い第2のポリエステル樹脂を含有するシェル層とからなるコア・シェル構造のトナーが、十分な低温定着性及び優れた耐熱保管性を両立し、かつ光沢度が低く抑制された定着画像を形成できることが開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載のトナーは低光沢画像を提供するものであるため、高光沢画像を得たい場合にはトナーを変更する必要があった。
【0005】
また、上記のように、特に結晶性物質を用いて結着樹脂の溶融温度や溶融粘度を下げることにより低温定着化を図ると画像形成装置の排紙トレイにてタッキングが発生することが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-174262号公報
【特許文献2】特開2015-121661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低温定着性に優れ、タッキングを防止し、定着画像の光沢を抑制することのできる静電荷像現像用トナー、その製造方法及び電子写真画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量と前記分子量分布曲線における低分子量成分の非晶性材料のピークの面積率を一定の範囲内に制御することによって上記課題を解決できることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって得られる、前記静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量が、1.5万以上であり、かつ、前記分子量分布曲線における各ピークの面積率の対比において、前記結着樹脂が、重量平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分の非晶性材料を、前記結着樹脂の全量に対して、10~20%の面積比率の範囲内で含有することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【0010】
2.前記結着樹脂が、スチレン・アクリル樹脂を含有することを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0011】
3.前記離型剤が、エステル系ワックスであることを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0012】
4.前記低分子量成分の非晶性材料に対する前記離型剤の含有量比率が、0.5~0.7の範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0013】
5.第1項から第4項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを製造する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記トナー母体粒子を、少なくとも熟成工程を有する乳化凝集法によって製造することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【0014】
6.前記熟成工程を、前記離型剤の融点の-5~15℃の範囲内にて行うことを特徴とする第5項に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【0015】
7.少なくとも、像保持体の帯電工程、静電潜像形成工程、静電潜像現像工程、トナー画像転写工程、トナー画像定着工程及びクリーニング工程を有する電子写真画像形成方法であって、第1項から第4項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを用いることを特徴とする電子写真画像形成方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、低温定着性に優れ、タッキングを防止し、定着画像の光沢を抑制することのできる静電荷像現像用トナー、その製造方法及び電子写真画像形成方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0017】
静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量が大きくなると、画像定着時の熱により結着樹脂の溶融粘度の低下が抑制でき、定着画像は平滑にならずに低光沢になると考えられることから、本発明では、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって得られる、前記静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量を、1.5万以上とすることで定着画像を低光沢とした。
また、低分子量成分は非晶性であることからタッキングを抑制することができるので、前記静電荷像現像用トナーに、添加剤として、平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分の非晶性材料を、前記分子量分布曲線における各ピークの面積率の対比において、前記結着樹脂の全量に対して、10~20%の面積比率の範囲内で含有するように導入することにより、トナーのシャープメルト性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】分子量分布曲線とピークとの関係を表す概略図
【
図2】トナーのシャープメルト性が向上することを理解するための概略図
【
図3】画像形成装置本体の内部構成の一例を示す概略断面図
【
図4】実施例におけるタッキングの評価方法を説明するための図
【
図5】実施例におけるタッキングの評価方法を説明するための図
【
図6】実施例におけるタッキングの評価方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって得られる、前記静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量が、1.5万以上であり、かつ、前記分子量分布曲線における各ピークの面積率の対比において、前記結着樹脂が、重量平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分の非晶性材料を、前記結着樹脂の全量に対して、10~20%の面積比率の範囲内で含有することを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態(態様)に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0020】
本発明の実施態様としては、前記結着樹脂が、スチレン・アクリル樹脂を含有することが熱特性及び離型剤の染み出し性、添加剤との相溶性のバランスの観点から好ましい。
【0021】
前記離型剤が、エステル系ワックスであることが、トナーのシャープメルト性向上の観点から好ましい。
【0022】
前記低分子量成分の非晶性材料に対する前記離型剤の含有量比率が、0.5~0.7の範囲内であることが画像の光沢度と低温定着性を両立させる観点から好ましい。
【0023】
前記トナー母体粒子を、少なくとも熟成工程を有する乳化凝集法によって製造することが粒径の均一性、形状の制御性、コア・シェル構造やドメイン・マトリクス構造形成の容易性の観点から好ましい。
【0024】
前記熟成工程を、前記離型剤の融点の-5~15℃の範囲内にて行うことが光沢度の抑制と定着ベルトとの離型性を確保する観点から好ましい。
【0025】
本発明の静電荷像現像用トナーは、電子写真画像形成方法(以下、「画像形成方法」ともいう。)に好適に用いられる。
【0026】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0027】
[本発明の静電荷像現像用トナーの概要]
本発明の静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)は、少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって得られる、前記静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量が、1.5万以上であり、かつ、前記分子量分布曲線における各ピークの面積率の対比において、前記結着樹脂が、重量平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分の非晶性材料を、前記結着樹脂の全量に対して、10~20%の面積比率の範囲内で含有することを特徴とする。
【0028】
(メインピークトップ)
本明細書において「メインピーク」とは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下「GPC」ともいう。)によって得られる、前記静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線が有するピークの中で最大の面積率、好ましくは、面積率50%以上のピークをいい(
図1参照。)、「メインピークトップ」とは、前記分子量分布曲線が有するメインピークにおいて縦軸の座標値が最も大きい値すなわち極大値をとる点をいう。
また、「ピーク」とは「ベースラインに対して突出した部分」を意味し、分子量分布曲線中の極大となる点を指すが、本発明においては、上記GPC測定で得られた分子量分布曲線の全体のピーク面積の3%以上の面積を有するものを、「ピーク」と定義する。
【0029】
(分子量の算出方法)
静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量は、GPCによる積分分子量分布曲線から算出した、静電荷像現像用トナーの構成成分に対するGPCによるポリスチレン換算の分子量により算出することができる。
また、結着樹脂が、重量平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分の非晶性材料の結着樹脂の全量に対する含有割合も上記と同様の手法により算出することができ、分子量分布曲線においてはサブピークやメインピークのショルダーとして現れる(
図1参照。)。
例えば、
図1中のLowと記載されている部分にピークトップが表れたものは、重量平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分を含有していると判断できることになる。
なお、「サブピーク」とは、分子量分布曲線が有するメインピーク以外のピークを表す
【0030】
(GPCによって得られる分子量分布曲線)
本発明において、静電荷像現像用トナーの構成成分のGPCで測定した分子量分布曲線は以下のようにして求める。
【0031】
静電荷像現像用トナーの全構成成分を濃度1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン(THF)中に添加し、40℃において超音波分散機を用いて15分間分散処理した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して、試料液を調製する。
GPC装置HLC-8220GPC(東ソー社製)及びカラムTSKguardcolumn+TSKgel SuperHZM-M3連(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフランを流速0.2mL/minで流す。
キャリア溶媒とともに、調製した試料液10μLをGPC装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出し、単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出する。
検量線は、分子量がそれぞれ6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106である10点のポリスチレン標準粒子(Pressure Chemical社製)を測定することにより、作成する。
このとき、データ解析において、上記フィルター起因のピークが確認された場合には、当該ピーク前の領域をベースラインとして設定した。
【0032】
また、分子量分布曲線は、上記のようにして得られる分子量分布を、X軸に分子量(対数表示)、Y軸に信号強度(ピーク面積の合計が1になる。)を取ったグラフ上に表すことにより得ることができる(
図1参照。)。
分子量分布曲線においてはそれぞれの分子量範囲に占めるピーク面積が質量分率を示す。
【0033】
(非晶性材料)
本発明に係る非晶性材料としては、例えば非晶性樹脂や熱可塑性エラストマーや低分子量天然ゴムが挙げられ、メイン樹脂とは異なる組成の添加剤を含む。
本発明に係る前記結着樹脂は、前記分子量分布曲線における各ピークの面積率の対比において、重量平均分子量が300以上1000未満である低分子量成分の非晶性材料を、前記結着樹脂の全量に対して、10~20%の面積比率の範囲内で含有する。
上記の範囲が10%未満であると、低温定着性を確保することができず、30%より大きいと画像の高光沢度化が抑制できなくなる。
【0034】
1.トナー母体粒子
本発明に係るトナー母体粒子は、結着樹脂、離型剤の他に、他の着色剤、荷電制御剤及び外添剤等その他の成分が含有されてもよい。
なお、本発明において「トナー粒子」とは、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをいい、トナー粒子の集合体を「トナー」という。
トナー母体粒子は、一般的には、そのままでもトナー粒子として用いることもできるが、本発明においては、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子として用いる。
また、以下の説明においては、トナー母体粒子とトナー粒子とを特に区別する必要がない場合、単に「トナー粒子」ともいう。
以下、本発明に係るトナー母体粒子の各構成材料の詳細について説明する。
【0035】
(1.1)結着樹脂
「結着樹脂(「バインダー樹脂」ともいう。)」とは、トナー粒子中に含有される内添剤(ワックス、電荷制御剤、顔料等)及び外添剤(シリカ、酸化チタン等)を分散・保持させるための媒体又はマトリクス(母体)として用いられ、かつトナー画像の定着処理の際に記録媒体(例えば用紙)に接着する機能を有する樹脂をいう。
【0036】
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって得られる、前記静電荷像現像用トナーの構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量が、1.5万以上であることを特徴とする。
上記メインピークは、結着樹脂に由来するものであり、本発明では、少なくとも非晶性樹脂を含有することが好ましい。
【0037】
非晶性樹脂としては、スチレン・アクリル樹脂を含有することが、熱特性及び離型剤の染み出し性、添加剤との相溶性のバランスの観点から好ましい。
また、結着樹脂が、スチレン・アクリル樹脂であり、離型剤がエステル系であると、低分子量成分の非晶性材料を含めた三者の相溶性のバランスがよく、低温定着性、タッキングの抑制及び低光沢化を実現しやすくなる。
本発明のトナーにおいては、結着樹脂として、従来公知の結着樹脂、例えば非晶性樹脂及び結晶性樹脂等を適用することができる。
【0038】
(1.1.1)非晶性樹脂
本発明に係る非晶性樹脂は、後述する結晶性を有さない樹脂である。
例えば非晶性樹脂は、非晶性樹脂又はトナー粒子の示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する樹脂である。
【0039】
なお、上記非晶性樹脂のTgは、35~80℃の範囲内であることが好ましく、特に45~65℃の範囲内であることが好ましい。
【0040】
ガラス転移温度は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418-82に規定された方法(DSC法)にしたがって測定することができる。
測定には、DSC-7示差走査カロリメーター(パーキンエルマー社製)、TAC7/DX熱分析装置コントローラ(パーキンエルマー社製)などを用いることができる。
【0041】
非晶性樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。非晶性樹脂の例には、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂及びスチレン・アクリル変性ポリエステルなどの非晶性ポリエステル樹脂が含まれる。
【0042】
本発明では、非晶性樹脂は、熱可塑性を制御しやすい観点から、ビニル樹脂を結着樹脂における主成分として含有することが好ましく、非晶性ポリエステル樹脂も含有することが好ましい。
【0043】
本発明の静電荷像現像用トナーは、その構成成分の分子量分布曲線のメインピークトップに対応する分子量が、1.5万以上であることを特徴とし、低分子量成分の非晶性材料として非晶性樹脂を用いる場合は、非晶性樹脂の重量平均分子量が300以上1000未満である。
また、メイン樹脂としての非晶性樹脂の数平均分子量(Mn)は、5000~150000の範囲内であることが好ましく、8000~70000の範囲内であることがより好ましい。
非晶性樹脂の分子量は、前述の分子量分布の測定方法と同様にして測定できる。
【0044】
(ビニル樹脂)
上記ビニル樹脂は、例えばビニル化合物の重合体であり、その例には、アクリル酸エステル樹脂、スチレン・アクリル酸エステル樹脂、及び、エチレン-酢酸ビニル樹脂が含まれる。
中でも、熱定着時の可塑性の観点から、スチレン・アクリル酸エステル樹脂(スチレン・アクリル樹脂)が好ましい。
【0045】
《スチレン・アクリル樹脂》
スチレン・アクリル樹脂は、少なくとも、スチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成される。
スチレン単量体は、CH2=CH-C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有するスチレン誘導体を含む。
【0046】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH(R1)=CHCOOR2(R1は
水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素数が1~24のアルキル基を表す)で表されるアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの他に、これらのエステルの構造中に公知の側鎖や官能基を有するアクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体を含む。
【0047】
スチレン単量体の例には、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン及びp-n-ドデシルスチレンが含まれる。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート及びフェニルアクリレートなどのアクリル酸エステル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル;が含まれる。
【0049】
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とは、「アクリル酸エステル単量体」と「メタクリル酸エステル単量体」との総称であり、それらの一方又は両方を意味する。
例えば「(メタ)アクリル酸メチル」は、「アクリル酸メチル」及び「メタクリル酸メチル」の一方又は両方を意味する。
【0050】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、一種でもそれ以上でもよい。
例えばスチレン単量体と二種以上のアクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、スチレン単量体と二種以上のメタクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、及び、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体とを併用して共重合体を形成すること、のいずれも可能である。
【0051】
上記非晶性樹脂は、上記スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の他の単量体に由来する構成単位をさらに含有していてもよい。
【0052】
《その他》
他の単量体は、多価アルコール由来のヒドロキシ基(-OH)又は多価カルボン酸由来のカルボキシ基(-COOH)とエステル結合する化合物であることが好ましい。
すなわち、非晶性樹脂は、上記スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシ基又はヒドロキシ基を有する化合物(両性化合物)がさらに重合してなる重合体であることが好ましい。
【0053】
上記両性化合物の例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等などのカルボキシ基を有する化合物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基を有する化合物;が含まれる。
【0054】
上記スチレン・アクリル樹脂は、公知の油溶性又は水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法によって合成することができる。
油溶性の重合開始剤の例には、アゾ系又はジアゾ系重合開始剤、及び、過酸化物系重合開始剤、が含まれる。
【0055】
上記アゾ系又はジアゾ系重合開始剤の例には、2,2′-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、1,1′-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2′-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル及びアゾビスイソブチロニトリルが含まれる。
【0056】
過酸化物系重合開始剤の例には、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン及びトリス-(t-ブチルパーオキシ)トリアジンが含まれる。
【0057】
また、乳化重合法でスチレン・アクリル樹脂の樹脂粒子を合成する場合には、重合開始剤として水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。
水溶性重合開始剤の例には、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸とその塩、及び、過酸化水素、が含まれる。
【0058】
本発明の静電苛像現像用トナーに含有される非晶性材料として非晶性樹脂を用いる場合、非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)を300以上1000未満とすることで、非晶性樹脂の低温定着性と低光沢化を両立させることができる。
上記Mwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布から求めることができる。
【0059】
(非晶性ポリエステル樹脂)
非晶性ポリエステル樹脂は、トナー母体粒子をコア・シェル構造とした際に、シェルに用いることが、定着性を阻害せずに耐熱性に優れる点で好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂であって、示差走査熱量測定(DSC)を行った時に、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する樹脂である。
また、非晶性ポリエステル樹脂を構成する単量体は、結晶性ポリエステル樹脂を構成する単量体とは異なるため、例えばNMR等の分析によって結晶性ポリエステル樹脂と区別することができる。
【0060】
非晶性ポリエステル樹脂は、二価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、二価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる。
具体的な非晶性ポリエステル樹脂については特に制限はなく、本技術分野における従来公知の非晶性ポリエステル樹脂が用いられ得る。
【0061】
非晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法は、特に限られるものではなく、公知のエステル化触媒を利用して、多価カルボン酸及び多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより当該樹脂を製造することができる。
【0062】
製造の際に使用可能な触媒、重縮合(エステル化)の温度、重縮合(エステル化)の時間は特に限定されるものではなく、下記結晶性ポリエステル樹脂と同様である。
【0063】
(1.1.2)結晶性樹脂
本発明において、結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。
明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
【0064】
本発明に係るトナー母体粒子には、結着樹脂として結晶性樹脂が含有されていてもよい。
トナー母体粒子に対する結晶性樹脂の含有量は、十分な低温定着性を得る観点から、1~40質量%の範囲内であることが好ましく、7~15質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0065】
当該含有量が1質量%以上である場合、十分な可塑効果が得られ、低温定着性が十分となる。
また、当該含有量が20質量以下である場合、トナーとしての熱的安定性や物理的なストレスに対する安定性が十分となる。
【0066】
結晶性樹脂としては、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリジエン系樹脂及びポリエステル系樹脂が挙げられる。
これらの中でも十分な低温定着性及び光沢均一性を得ることができ、かつ、使い易さの観点から結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0067】
また、結晶性樹脂の数平均分子量(Mn)は、2500~5000の範囲内であることが好ましく、3000~4500の範囲内であることがより好ましい。
低温定着性及び光沢度安定性の観点から、結晶性樹脂の数平均分子量(Mn)が、3000~12500の範囲内であることが好ましく、4000~11000の範囲内であることがより好ましい。また、結晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)が、10000~100000の範囲内であることが好ましく、15000~80000の範囲内であることがより好ましく、20000~50000の範囲内であることが更に好ましい。
【0068】
Mw及びMnが、上記範囲内であると、定着性と耐熱性のバランスがとりやすい。
また、定着画像において十分な強度が得られる。さらに、トナーの製造において、乳化液撹拌中に結晶性樹脂が粉砕されず、トナーのガラス転移温度Tgが一定に保たれるため、トナーの熱的安定性が保たれる。Mw及びMnは、前述のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布から求めることができる。
【0069】
(結晶性ポリエステル樹脂)
結晶性ポリエステル樹脂は、二価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、二価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる。
【0070】
《多価カルボン酸》
多価カルボン酸の例には、ジカルボン酸が含まれる。このジカルボン酸は、一種でもそれ以上でもよく、脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、芳香族ジカルボン酸をさらに含んでいてもよい。
脂肪族ジカルボン酸は、直鎖型であることが、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から好ましい。
【0071】
脂肪族ジカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、これらの低級アルキルエステル、及び、これらの酸無水物、が含まれる。
【0072】
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及び4,4′-ビフェニルジカルボン酸が含まれる。
【0073】
《多価アルコール》
多価アルコール成分の例には、ジオールが含まれる。
ジオールは、一種でもそれ以上でもよく、脂肪族ジオールであることが好ましく、それ以外のジオールをさらに含んでいてもよい。
脂肪族ジオールは、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から、直鎖型であることが好ましい。
【0074】
脂肪族ジオールの例には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール及び1,20-エイコサンジオールが含まれる。
【0075】
その他のジオールの例には、二重結合を有するジオール、及び、スルホン酸基を有するジオール、が含まれる。具体的には、二重結合を有するジオールの例には、2-ブテン-1,4-ジオール、3-ヘキセン-1,6-ジオール及び4-オクテン-1,8-ジオールが含まれる。
【0076】
結晶性ポリエステル樹脂におけるジオール由来の構成単位に対する脂肪族ジオール由来の構成単位の含有量は、トナーの低温定着性及び最終的に形成される画像の光沢性を高める観点から、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0077】
結晶性ポリエステル樹脂の単量体における上記ジオールと上記ジカルボン酸との割合は、ジオールのヒドロキシ基[OH]とジカルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]で2.0/1.0~1.0/2.0の範囲内であることが好ましく、1.5/1.0~1.0/1.5の範囲内であることがより好ましく、1.3/1.0~1.0/1.3の範囲内であることが特に好ましい。
【0078】
《その他》
結晶性ポリエステル樹脂を構成する単量体は、直鎖脂肪族単量体を50質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましい。
芳香族単量体を用いた場合には、結晶性ポリエステル樹脂の融点が高くなる傾向が高く、分岐型の脂肪族単量体を用いた場合には、結晶性が低くなる傾向が高い。
したがって、上記単量体に直鎖脂肪族単量体を用いることが好ましい。
【0079】
トナー中において結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を維持する観点から、直鎖脂肪族単量体を50質量%以上使用することが好ましく、80質量%以上使用することがより好ましい。
【0080】
結晶性ポリエステル樹脂は、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸及び多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより合成することができる。
【0081】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用可能な触媒は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどの第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;及び、アミン化合物;が含まれる。
【0082】
結晶性ポリエステル樹脂の重合温度は、150~250℃の範囲内であることが好ましい。また、重合時間は、0.5~10時間の範囲内であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0083】
本発明に係る結晶性樹脂は、一種でもよいが、二種であってもよい。
【0084】
(1.2)コア・シェル構造を有するトナー母体粒子
本発明に係る静電荷像現像用トナーは、コア・シェル構造を有するトナー母体粒子であってもよい。
ここで、「コア・シェル構造」とは、コア粒子の表面にシェル層を形成する樹脂を凝集、融着させた形態をいう。
【0085】
前記結晶性物質及び前記非晶性樹脂をコア粒子とし、前記非晶性ポリエステル樹脂又はビニル系重合セグメント及びポリエステル系重合セグメントが結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂をシェル層として、コア粒子上に配置した粒子であることが好ましい。
【0086】
なお、ビニル系重合セグメントとは、前記ビニル樹脂に由来する部分を意味する。
すなわち、前述したビニル樹脂を構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。
また、ポリエステル系重合セグメントとは、前記ポリエステル樹脂に由来する部分を意味する。
すなわち、前述したポリエステル樹脂を構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。
【0087】
シェル層は、コア粒子の全表面を被覆していなくてもよく、部分的にコア粒子が露出していてもよい。
コア・シェル構造の断面は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)等の公知の観察手段によって、確認することができる。
【0088】
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェル層でガラス転移点、融点、硬度等の特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー粒子の設計が可能である。
例えば結着樹脂、着色剤、離型剤等を含有し、ガラス転移点(Tg)が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点(Tg)が比較的高い樹脂を凝集、融着させて、シェル層を形成することが好ましい。
【0089】
コア・シェル構造を有するトナー粒子の製造方法は、特開2016-161780号公報を参照できる。
乳化凝集法によってコア・シェル構造を有するトナー粒子を得るには、まず、コア粒子用の結着樹脂微粒子と結晶性物質と着色剤とを凝集(、融着)させてコア粒子を作製し、次いで、コア粒子の分散液中にシェル部用の結着樹脂微粒子を添加して、コア粒子表面にシェル部用の結着樹脂微粒子を凝集、融着させてコア粒子表面を被覆するシェル部を形成することにより得ることができる。
【0090】
(1.3)ドメイン・マトリクス構造を有するトナー母体粒子
本発明に係る静電荷像現像用トナーは、ドメイン・マトリクス構造を有するトナー母体粒子であってもよい。
【0091】
ここで、「ドメイン・マトリクス構造」とは、「海島構造」ともいい、トナー母体粒子の連続相(マトリクス:海に相当する。)中に、閉じた界面(相と相との境界)を有する島状の分散相(ドメイン)が存在する構造のものをいう。
【0092】
本発明に係るドメイン・マトリクス構造を有するトナー母体粒子においては、非晶性樹脂中に非晶性ポリエステル樹脂、又はハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂が非相溶に導入された部分がある状態を示す。
ドメインはラメラ状結晶構造を含有していてもよい。
なお、この構造は、下記により観察することができる。
また、ドメイン中又はマトリクス中に樹脂以外に離型剤であるワックス等が添加されていることが好ましい。
【0093】
装置:電子顕微鏡「JSM-7401F」(日本電子(株)製)
試料:四酸化ルテニウム(RuO4)によって染色したトナー粒子の切片(切片の厚さ:60~100nm)
加速電圧:30kV
倍率:50000倍
観察条件:透過電子検出器、明視野像
【0094】
また、本発明に係る静電荷像現像用トナーがドメイン・マトリクス構造を有するときに、前記ドメインの平均径が、50~150nmの範囲内であることが好ましい。
当該ドメインの平均径は上記の方法によって染色されたドメインを電子顕微鏡及び画像処理解析装置(例えば「LUZEX(登録商標) AP」(株)ニレコ製)によって観察、解析することによって測定することができる。
ここでいう、ドメインの平均径とはドメインの長径の平均値をいう。
【0095】
(1.4)離型剤
本発明に係る低分子量成分の非晶性材料に対する前記離型剤の含有量比率が、0.5~0.7の範囲内であることが画像の光沢度と低温定着性を両立させる観点から好ましい。
【0096】
上記の低分子量成分の非晶性材料に対する離型剤の含有量比率が、0.7以下であることが、特に画像の光沢度の観点から好ましい。
また、前記離型剤の添加量比率が0.5以上であると、特に離型性の観点から好ましい。
例えば画像形成工程における定着ベルトとの分離が良好で、定着性が悪化することが無い。
【0097】
本発明に係るトナー母体粒子に適用可能な離型剤としては、特に限定されるものではなく、例えば公知の種々のワックスを使用することができるが、エステル系ワックスであることがトナーのシャープメルト性向上の観点から好ましい。
【0098】
(シャープメルト性)
本明細書において、「トナーのシャープメルト性」とは、例えば示差走査熱量計測定において一定昇温速度で測定されるDSC曲線における融解開始温度と融解終了温度の差が小さく、DSC曲線のピークがシャープである状態を表す。
または、トナーの動的粘弾性測定において、一定昇温速度における粘弾性(例えば複素粘度)の温度変化を観察したとき、温度変化に対する粘弾性(例えば複素粘度)の変化の度合いを表し、温度変化に対する粘弾性(複素粘度)の変化の度合いが大きいほど、トナーのシャープメルト性は大きくなる。
また、トナーのシャープメルト性が大きければ、熱に対する感度が高く、低温定着が可能となる
【0099】
本発明において、トナーのシャープメルト性が向上することを理解するための概略図を
図2に示す。
図2は、横軸にトナーの温度、縦軸にトナーの複素粘度をとったグラフである。
動的粘弾性の測定方法については、トナーについて、従来一般的に用いられている方法及び測定条件を用いることが好ましく、例えば下記方法によって測定することが好ましい。
【0100】
(測定方法)
測定サンプルとして、トナー母体粒子に外添剤が任意に添加されたトナーを一定量(例えば0.2g)計量し、圧縮成形機で一定の圧力(例えば25MPa)を印加して加圧成型を行い、上記トナーからなる一定形状(例えば、直径10mmの円柱状)のペレットを作製する。
次に、レオメーター(例えばTA instrument製:ARES G2)を使用し、上に一定直径(例えば8mm)のパラレルプレートを、下に一定直径(例えば20mm)のパラレルプレートのセットで用いて、一定周波数(例えば1Hz)の条件で昇温測定を行う。
次に、サンプルセットを一定温度(例えば100℃)にて行い、プレート間距離(ギャップ)を一度1.4mmにセットした後に、プレート間からはみ出したサンプルのかきとりを行う。
その後、一定距離(例えば1.2mm)にプレート間距離をセットし、アキシャルフォースをかけつつ測定開始温度(例えば30℃)まで降温し、アキシャルフォースを止め、前記測定開始温度(30℃)から一定温度(例えば190℃)まで一定の昇温速度(例えば3℃/min)にて複素粘度の測定を行う。
【0101】
図2を見るとわかるように、トナーへの低分子量成分の導入前と導入後を比べると例えば複素粘度1.0×10
6[Pa・s]に注目したときに、同じ複素粘度でもトナーの温度が低くなっていて、かつ60~70℃での温度変化に対する複素粘度の変化の傾き(変化率)が大きくなっていることが分かる。
よって、上記のことからトナーに低分子量成分を導入することによって、シャープメルト性が向上することがわかる。
【0102】
(エステル系ワックスの例示)
エステル系ワックスとしては、カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘニル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート等が挙げられる。
【0103】
(融点)
離型剤の融点は、60~90℃の範囲内であることが好ましい。
これにより、耐熱保管性と定着性のバランスと、トナー製造性が確保できる。
【0104】
(1.5)着色剤
本発明に係るトナー母体粒子においては、着色剤として一般に知られている染料及び顔料を組み合わせて、着色剤として使用することができる。
【0105】
本発明に係る着色剤は、一種でもそれ以上でもよい。
典型的な着色剤の例には、マゼンタ、イエロー、シアン及びブラックの各色用の着色剤が含まれる。
【0106】
マゼンタ用の着色剤の例には、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同6、同7、同15、同16、同48:1、同53:1、同57:1、同60、同63、同64、同68、同81、同83、同87、同88、同89、同90、同112、同114、同122、同123、同139、同144、同149、同150、同163、同166、同170、同177、同178、同184、同202、同206、同207、同209、同222、同238及び同269が含まれる。
【0107】
イエロー用の着色剤の例には、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー12、同14、同15、同17、同74、同83、同93、同94、同138、同155、同162、同180及び同185が含まれる。
【0108】
シアン用の着色剤の例には、C.I.ピグメントブルー2、同3、同15、同15:2、同15:3、同15:4、同16、同17、同60、同62、同66及びC.I.ピグメントグリーン7が含まれる。
【0109】
ブラック用の着色剤の例には、カーボンブラック及び磁性体粒子が含まれる。
カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びランプブラックが含まれる。
磁性体粒子の磁性体の例には、鉄、ニッケル、コバルトなどの強磁性金属;これらの金属を含む合金、フェライト、マグネタイトなどの強磁性金属の化合物;二酸化クロム;及び、強磁性金属を含まないが熱処理することにより強磁性を示す合金;が含まれる。
熱処理により強磁性を示す合金の例には、マンガン-銅-アルミニウム、マンガン-銅-スズなどのホイスラー合金が含まれる。
【0110】
上記トナー母体粒子中における上記着色剤の含有量は、適宜に、そして独立して決めることができ、例えば画像の色再現性を確保する観点から、1~30質量%の範囲内であることが好ましく、2~20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0111】
また、着色剤の粒子の大きさは、体積平均粒径で、例えば10~1000nmの範囲内であることが好ましく、50~500nmの範囲内であることがより好ましく、80~300nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0112】
当該体積平均粒径は、カタログ値であってもよく、また、例えば着色剤の体積平均粒径(体積基準のメディアン径)は、「UPA-150」(マイクロトラック・ベル株式会社製)によって測定することができる。
【0113】
(1.6)荷電制御剤
本発明に係るトナー母体粒子に適用可能な荷電制御剤としては、特に制限はなく、例えばニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩など、公知の種々の化合物を用いることができる。
【0114】
荷電制御剤の添加量は、最終的に得られるトナー母体粒子100質量%に対して通常0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%の範囲内となる量である。
【0115】
荷電制御剤粒子の大きさとしては、数平均一次粒子径で10~1000nm、50~500nmが好ましく、さらには80~300nmの範囲内が好ましい。
【0116】
(1.7)外添剤
トナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するため、流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤で処理されていてもよい。
【0117】
外添剤としては、例えばシリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子等の無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子等の無機ステアリン酸化合物微粒子、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛等の無機チタン酸化合物微粒子等が挙げられる。
これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0118】
これら無機粒子は、耐熱保管性及び環境安定性の向上の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイル等によって、表面処理が行われていることが好ましい。
【0119】
外添剤の添加量(複数の外添剤を用いる場合はその合計の添加量)は、トナー母体粒子100質量部に対して0.05~5質量部の範囲内であることが好ましく、0.1~3質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0120】
2.静電荷像現像用トナーの物性
(トナー粒子の粒径)
トナー粒子の平均粒径としては、体積基準のメディアン径(d50)が3~15μmの範囲内にあることが好ましく、4~8μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0121】
上記範囲内にあれば、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像であっても高い再現性が得られる。
【0122】
なお、トナー粒子の平均粒径は、製造時に使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成等によって制御することができる。
【0123】
トナー粒子の体積基準のメディアン径(d50)の測定には、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いることができる。
または、その後継機(例えばマルチサイザーIV)を用いてもよい。
【0124】
具体的には、測定試料(トナー)を、界面活性剤溶液(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を行い、トナー粒子分散液を調製する。
このトナー粒子分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。
ここで、この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。
そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmとし、測定範囲である2~60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径を体積基準のメディアン径(d50)として得る。
【0125】
(トナー粒子の平均円形度)
トナー粒子は、帯電特性の安定性及び低温定着性を高める観点から、平均円形度が0.930~1.000の範囲内にあることが好ましく、0.950~0.995の範囲内にあることがより好ましい。
【0126】
平均円形度が上記範囲内にあれば、個々のトナー粒子が破砕しにくくなる。
これにより、摩擦帯電付与部材の汚染を抑制してトナーの帯電性を安定させることができるとともに、形成される画像の画質を高めることができる。
【0127】
トナー粒子の平均円形度は、FPIA-3000(Sysmex社製)を用いて測定することができる。
【0128】
具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にて馴染ませ、超音波分散処理を1分間行って分散させる。
その後、FPIA-3000(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の適正濃度で撮影を行う。
HPF検出数が上記の範囲内であれば、再現性のある測定値を得ることができる。
撮影した粒子像から、個々のトナー粒子の円形度を下記式(I)に従って算出し、各トナー粒子の円形度を加算して全トナー粒子数で除することにより、平均円形度を得る。
【0129】
式(I):トナー粒子の円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0130】
3.現像剤
本発明に係る静電荷像現像用トナーは、磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。
【0131】
また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散した分散型キャリア等用いてもよい。
【0132】
キャリアの体積基準のメディアン径(d50)としては、20~100μmの範囲内であることが好ましく、25~80μmの範囲内であることがより好ましい。
【0133】
キャリアの体積基準のメディアン径(d50)は、例えば湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置ヘロス(HELOS)(SYMPATEC社製)により測定することができる。
【0134】
[静電荷像現像用トナーの製造方法]
本発明の静電荷像現像用トナーは、前記トナー母体粒子を、少なくとも熟成工程を有する乳化凝集法によって製造することが粒径の均一性、形状の制御性、コア・シェル構造やドメイン・マトリクス構造形成の容易性の観点から好ましい。
また、前記熟成工程を、前記離型剤の融点の-5~15℃の範囲内にて行うことが光沢度を抑制する観点から好ましい。
【0135】
乳化凝集時の前記熟成工程を、前記離型剤の融点の-5℃以上にて行えば、ワックスは結晶化し低分子量成分の非晶性材料と非相溶で存在しなくなるので、トナー中のワックス量は処方時の添加量より少なくなり、トナー中で多く存在しなくなるため、画像上へのワックスの染み出し量が多くならず高光沢となることを抑制できる。
【0136】
一方、乳化凝集時の前記熟成工程を、前記離型剤の融点よりも15℃より低く設定した温度にて行えば、トナー中のワックスが融解し近傍にある低分子量成分の非晶性材料と相溶することがなく、トナー中に結晶として存在するワックス量が減少せず、例えば画像形成時の定着ベルトとトナーとの分離不良が発生せず、定着性の悪化や、低光沢となることを抑制できる。
【0137】
以上のことから、乳化凝集時の前記熟成工程を、前記離型剤の融点の-5~15℃の範囲内にて行うことで、ワックスと添加剤の相溶度を所望の範囲内に制御することができ、トナー定着時の画像へのワックス染み出しを抑制し、光沢度を所望の範囲内に制御することができる。
【0138】
本発明の静電荷像現像用トナーを製造する方法としては、上記の乳化凝集法以外にも、例えば混練粉砕法、懸濁重合法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法及びその他の公知の方法等を挙げることができる。
以下、乳化凝集法について説明する。
【0139】
4.乳化凝集法
乳化凝集法による本発明に係るトナー粒子の製造方法としては、例えば結晶性物質の水系分散液と、非晶性ビニル樹脂粒子の水系分散液と、非晶性ポリエステル樹脂粒子又はハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液と、着色剤粒子の水系分散液と、を混合し、非晶性樹脂粒子、非晶性ポリエステル樹脂粒子又はハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子及び着色剤粒子を凝集させることにより、トナー粒子を形成する方法である。
【0140】
乳化凝集法は、界面活性剤や分散安定剤によって分散された樹脂の微粒子(以下、「樹脂微粒子」ともいう)の分散液を、着色剤の微粒子などのトナー粒子構成成分の分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望のトナーの粒径となるまで凝集させ、その後又は凝集と同時に、樹脂微粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー粒子を形成する方法である。
【0141】
ここで、樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなるコア・シェル構造を有するトナー粒子や、ドメイン・マトリクス構造を有する複数層で形成された複合粒子とすることができる。
【0142】
樹脂微粒子は、例えば乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などにより製造、又はいくつかの製法を組み合わせて製造することができる。
樹脂微粒子に離型剤を含有させる場合には、中でもミニエマルション重合法を用いることが好ましい。
【0143】
本発明に係るトナー粒子中に、離型剤を含有させる際には、樹脂微粒子が離型剤を含有したものとしてもよく、また、別途離型剤のみよりなる離型剤微粒子の分散液を調製し、当該離型剤微粒子を、樹脂微粒子を凝集させる際に、共に凝集させてもよい。
【0144】
また、乳化凝集法によってはドメイン・マトリクス構造を有するトナー粒子を得ることもでき、具体的にドメイン・マトリクス構造を有するトナー粒子は、まず、マトリクス粒子用の結着樹脂微粒子と着色剤とを凝集(、融着)させてマトリクス粒子を作製しながら、次いで、マトリクス粒子の分散液中にドメイン用の結着樹脂微粒子を添加して、マトリクス粒子内部から表面にかけてドメイン用の結着樹脂微粒子を凝集、融着させてマトリクス粒子にドメインを形成することにより得ることができる。
【0145】
以下、乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程の一例を説明する。
【0146】
(4.1)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(1)
工程(1)では、結晶性樹脂粒子の分散液として、結晶性樹脂粒子の水系分散液を調製する。
【0147】
具体的には、結晶性樹脂を合成し、有機溶媒中に溶解又は分散させて油相液を調製し、この油相液を転相乳化して水系媒体中に結晶性樹脂の粒子を分散させる。
油滴の粒径を所望の粒径に制御した後、有機溶媒を除去することにより、結晶性樹脂の水系分散液を得ることができる。
【0148】
油相液に使用する有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ水への溶解性が低いものが好ましい。
具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0149】
有機溶媒の使用量は、結晶性樹脂100質量部に対して、通常1~300質量部の範囲内である。
【0150】
油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。
【0151】
(4.2)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(2)
工程(2)では、非晶性樹脂の分散液として、非晶性ビニル樹脂粒子の水系分散液を調製する。
この段階で、非晶性ビニル樹脂粒子に離型剤を含有させることが好ましい。
【0152】
具体的には、非晶性ビニル樹脂を水系で合成し、非晶性ビニル樹脂の水系分散液を得ることができる。
【0153】
(4.3)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(3)
工程(3)では、非晶性ポリエステル樹脂粒子又はハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の水系分散液を調製する。
【0154】
非晶性ポリエステル樹脂粒子又はハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液は、上記と同様にして調製することができる。
【0155】
非晶性ポリエステル樹脂粒子又はハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子の平均粒径は、体積基準のメディアン径(d50)で30~400nmの範囲内にあることが好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂粒子の体積基準のメディアン径(d50)は、マイクロトラックUPA-150(日機装社製)を用いて測定することができる。
【0156】
(4.4)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(4)
工程(4)では、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて、着色剤粒子の水系分散液を調製する。
【0157】
着色剤粒子の水系分散液は、界面活性剤を臨界ミセル濃度(CMC)以上に添加した水系媒体中に着色剤を分散させることにより得ることができる。
【0158】
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、使用する分散機としては、特に限定されないが、好ましくは超音波分散機、機械的ホモジナイザー、マントンゴーリンや圧力式ホモジナイザー等の加圧分散機、サンドグラインダー、ゲッツマンミルやダイヤモンドファインミル等の媒体型分散機が挙げられる。
【0159】
水系分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメディアン径(d50)が10~300nmの範囲内であることが好ましく、100~200nmの範囲内であることがより好ましく、100~150nmの範囲内であることが特に好ましい。
【0160】
着色剤粒子の体積基準のメディアン径(d50)は、マイクロトラックUPA-150(日機装社製)を用いて測定することができる。
【0161】
(4.5)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(5)
工程(5)では、結晶性物質の粒子、非晶性ビニル樹脂粒子、非晶性ポリエステル樹脂粒子、着色剤粒子及びその他のトナー構成成分の粒子を凝集させて、トナー粒子を形成する。
【0162】
具体的には、水系媒体と各粒子の水系分散液を混合した系に、臨界凝集濃度以上の凝集剤を加え、非晶性樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)以上の温度にすることによって、凝集させる。
【0163】
(凝集剤)
凝集剤としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等の金属塩から選択されるものが好適に使用される。
金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等の一価の金属塩、カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅等の二価の金属塩、鉄、アルミニウム等の三価の金属塩等が挙げられる。
具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン等を挙げることができ、これらの中で、より安定に凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。
これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0164】
(4.6)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(6)
工程(6)では、工程(5)により形成したトナー粒子の熟成処理を行い、所望の形状に制御する。工程(6)は、必要に応じて行うことができる。
【0165】
具体的には、工程(5)において得られたトナー粒子の分散液を加熱撹拌し、トナー粒子が所望の円形度になるように、加熱温度、撹拌速度、加熱時間等を調整する。
【0166】
<乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(5B)>
工程(5B)では、工程(5)又は(6)で得られたトナー粒子をマトリクス粒子として、マトリクス粒子の内部から表面にかけて少なくとも一部にドメインを形成してもよい。
工程(5B)は、ドメイン・マトリクス構造のトナー粒子を形成する場合に行えばよい。
【0167】
ドメイン・マトリクス構造のトナー粒子を形成する場合、ドメインを構成する樹脂を水系媒体中に分散させて、ドメインの樹脂粒子の分散液を調製し、マトリクス粒子の内部から表面にかけてドメインの樹脂粒子を凝集、融着させる。
これにより、ドメイン・マトリクス構造を有するトナー粒子の分散液を得ることができる。
【0168】
マトリクス粒子にドメインの樹脂粒子をより強固に凝集、融着させるため、加熱処理工程を行うことができる。
加熱処理は、目的の円形度のトナー粒子が得られるまで行えばよい。
【0169】
(4.7)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(7)
工程(7)では、トナー粒子の分散液を冷却処理する。
冷却処理の条件としては、1~20℃/minの冷却速度で冷却することが好ましい。
冷却処理の具体的な方法としては、特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法等を例示することができる。
【0170】
(4.8)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(8)
工程(8)では、冷却したトナー粒子の分散液から当該トナー粒子を固液分離し、固液分離によって得られたトナーケーキ(ケーキ状に成形されたウェット状態にあるトナー粒子)から界面活性剤や凝集剤等の付着物を除去して洗浄する。
【0171】
固液分離は、特に限定されず、遠心分離法、ヌッチェ等を使用して行う減圧濾過法、フィルタープレス等を使用して行う濾過法等を用いることができる。
また、洗浄においては、スラリーの電気伝導度が10μS/cmになるまで水洗浄することが好ましい。
【0172】
(4.9)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(9)
工程(9)では、洗浄後のトナーケーキを乾燥する。
トナーケーキの乾燥には、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機等を挙げることができ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機等を使用することが好ましい。
【0173】
乾燥後のトナー粒子の水分は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0174】
なお、乾燥後のトナー粒子同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、その凝集体を解砕処理してもよい。
解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサー等の機械式の解砕装置を使用することができる。
【0175】
(4.10)乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程(10)
工程(10)では、トナー粒子に対して外添剤を添加する。
工程(10)は、必要に応じて行うことができる。
【0176】
外添剤の添加には、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル等の機械式の混合装置を使用することができる。
5.電子写真画像形成方法
以下に、本発明の静電荷像現像用トナーを用いることができる電子写真画像形成方法における各工程を説明する。
前記画像形成における工程は、帯電する工程、静電潜像を形成する工程、現像する工程、定着工程、クリーニングする工程など、一般的な電子写真画像形成方法で使用される工程で行うことが好ましい。
【0177】
(帯電する工程)
本工程では、電子写真感光体を帯電させる。
帯電させる方法は、特に限定されず、例えば帯電ローラーによって電子写真感光体の帯電が行われる帯電ローラー方式など、公知の方法でよい。
【0178】
(静電潜像を形成する工程)
本工程では、電子写真感光体(静電潜像担持体)上に静電潜像を形成する。
電子写真感光体としては、特に限定されるものではないが、例えばポリシラン又はフタロポリメチンなどの有機感光体よりなるドラム状のものが挙げられる。
【0179】
静電潜像の形成は、例えば電子写真感光体の表面を帯電手段により一様に帯電させ、露光手段により電子写真感光体の表面を像様に露光することにより行われる。
なお、「静電潜像」とは、このような帯電手段によって電子写真感光体の表面に形成される像である。
【0180】
帯電手段及び露光手段としては、特に限定されず、電子写真方式において一般的に使用されているものを用いることができる。
【0181】
(現像する工程)
現像する工程は、静電潜像を、トナー(一般的には、トナーを含む乾式現像剤)により現像してトナー像を形成する工程である。
トナー像の形成は、例えばトナーを含む乾式現像剤を用いて、トナーを摩擦撹拌させて帯電させる撹拌器と、回転可能なマグネットローラーとからなる現像手段を用いて行われる。
【0182】
具体的には、現像手段においては、例えばトナーとキャリアとが混合撹拌され、その際の摩擦によりトナーが帯電し、回転するマグネットローラーの表面に保持され、磁気ブラシが形成される。
マグネットローラーは、電子写真感光体近傍に配置されているため、マグネットローラーの表面に形成された磁気ブラシを構成するトナーの一部は、電気的な吸引力によって電子写真感光体の表面に移動する。
その結果、静電潜像がトナーにより現像されて電子写真感光体の表面にトナー像が形成される。
【0183】
(転写する工程)
本工程では、記録媒体へのトナー像の転写をする。
トナー像の転写材への転写は、トナー像を転写材に剥離帯電することにより行われる。
【0184】
転写手段としては、例えばコロナ放電によるコロナ転写器、転写ベルト、転写ローラーなどを用いることができる。
【0185】
また、転写する工程は、例えば中間転写体を用い、中間転写体上にトナー像を一次転写した後、このトナー像を転写材上に二次転写する態様の他、電子写真感光体上に形成されたトナー像を直接転写材に転写する態様などによって行うこともできる。
【0186】
(定着する工程)
本発明に係る定着工程では、トナーを用いて形成された未定着画像(トナー像)が転写された転写材を、加熱された定着ベルト又は定着ローラーと、加圧部材である加圧ローラーとの間を通過させることにより、当該未定着画像を当該転写材に定着させる工程を有する。
【0187】
定着工程の方式としては、前述のとおり、定着回転体としての定着ベルト又は定着ローラーと、当該定着ベルト又は定着ローラーに定着ニップ部が形成されるよう圧接された状態で設けられた加圧部材としての加圧ローラーとにより構成されてなるベルト定着方式又はローラー定着方式のものが挙げられる。
【0188】
また、本発明に係る定着工程では、定着されたトナー画像のトナー付着量が2.0g/m2以下の領域を有することが、中間調のドット再現性が良好である点で好ましい。
【0189】
(クリーニングする工程)
本工程では、感光体、中間転写体などの現像剤担持体上には、画像形成に使用されなかった又は転写されずに残った現像剤を現像剤担持体上から除去する。
【0190】
クリーニングの方法は、特に限定されないが、先端が感光体等のクリーニング対象に当接して設けられた、感光体表面を擦過するブレードが用いられる方法であることが好ましい。
【0191】
6.電子写真画像形成装置
本発明の画像形成装置は、本発明の静電荷像現像用トナーを使用して転写材にトナー画像を形成する画像形成部と、前記転写材の上面に対向する定着部材と、前記定着部材と対向して定着ニップを形成する加圧部材と、前記定着部材と前記加圧部材のそれぞれを駆動する駆動源と、前記定着部材と前記加圧部材の各表面速度を制御する駆動制御部とを有する。
【0192】
本発明の画像形成装置の一例として、定着部材及び加圧部材を備えたカラータンデム方式の画像形成装置100の概略構成の一例を、
図3を用いて説明する。
この画像形成装置は、スキャナー、コピー、プリンターなどの機能を備えた複合機であって、MFP(Multi Function Peripheral又はMulti Function Printer)と呼ばれるものである。
【0193】
図3に示すとおり、画像形成装置100は、本体ケーシング101内のほぼ中央に、二個のローラー102、106に巻回された周方向に移動する環状の中間転写ベルト108を備えている。
【0194】
二個のローラー102、106のうち、一方のローラー102は
図3において左側に配置され、他方のローラー106は
図3において右側に配置されている。
中間転写ベルト108は、これらのローラー102、106によって支持されて矢印X方向に回転駆動される。
【0195】
中間転写ベルト108の下方には、
図3において左側から順に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色トナーに対応する画像形成セグメント110Y、110M、110C、110Kが並べて配置されている。
【0196】
各画像形成セグメント110Y、110M、110C、110Kは、それらが取り扱うトナー色の違いを除いて互いに同様に構成されている。
【0197】
例えばイエローの画像形成セグメント110Yは、感光体ドラム190と、帯電装置191と、露光装置192と、トナーを用いて現像を行う現像装置193と、クリーナー装置195とを一体にして構成されている。
【0198】
中間転写ベルト108を挟んで感光体ドラム190と対向する位置に、一次転写ローラー194が設けられている。
【0199】
画像形成時には、まず帯電装置191によって感光体ドラム190の表面が一様に帯電され、続いて、露光装置192によって感光体ドラム190の表面が露光されて、そこに潜像が形成される。
次に、現像装置193によって、感光体ドラム190の表面上の潜像が現像されてトナー画像となる。
このトナー画像は、感光体ドラム190と一次転写ローラー194との間の電圧印加によって、中間転写ベルト108に転写される。
感光体ドラム190の表面上の転写残トナーは、クリーナー装置195によってクリーニングされる。
【0200】
中間転写ベルト108が矢印X方向に移動するに伴って、各画像形成セグメント110Y、110M、110C、110Kによって中間転写ベルト108上に出力画像として4色のトナー画像が重ねて形成される。
【0201】
中間転写ベルト108の左側には、中間転写ベルト108の表面から残留トナーを取り除くクリーニング装置125と、クリーニング装置125によって取り除かれたトナーを回収するトナー回収ボックス126とが設けられている。
【0202】
中間転写ベルト108の右側には、転写材のための搬送路124を挟んで二次転写ローラー112が設けられている。
搬送路124のうち二次転写ローラー112の上流側に相当する位置に、搬送ローラー120が設けられている。
中間転写ベルト108上のトナーパターンを検出するための光学式濃度センサー115が設けられている。
【0203】
本体ケーシング101内の右上部には、トナーを転写材に定着させる定着装置130が設けられている。
【0204】
定着装置130は、
図3において紙面に対して垂直に延在する一対の定着部材である定着ローラー及び加圧部材である加圧ローラーを備えている。
図3では、定着ローラーとして加熱ローラー132があり、他方は加圧ローラー131である。
【0205】
加熱ローラー132と加圧ローラー131は、それぞれ駆動部(不図示)及び駆動制御部(
図3では制御部200)を有し、回転駆動する加熱ローラー132と加圧ローラー131の表面速度を制御する。
【0206】
加熱ローラー132は、ヒーター133によって所定の目標温度(例えば180~200℃の範囲内の定着温度)に加熱される。
加圧ローラー131は、図示しない、ばねによって加熱ローラー132へ向かって付勢されている。
これにより、加圧ローラー131と加熱ローラー132とは定着のためのニップ部を形成している。
【0207】
トナー像が転写された転写材90がこのニップ部を通ることにより、その転写材90にトナー画像が定着される。
加圧ローラー131と加熱ローラー132の温度は、それぞれ温度センサー135、136によって検出される。
【0208】
本体ケーシング101の下部には、転写材90を収容するための給紙カセット116A、116Bが2段に設けられている。
図3では、給紙カセット116Aにのみ転写材90が収容された状態を示している。
【0209】
給紙カセット116A、116Bにはそれぞれ、転写材を送り出すための給紙ローラー118と、送り出された転写材を検出する給紙センサー117とが設けられている。
【0210】
本体ケーシング101内には、この画像形成装置全体の動作を制御するCPU(中央演算処理装置)からなる制御部200が設けられている。
制御部200は、前記駆動源の回転駆動を制御する機能も有し、前記定着部材と前記加圧部材で挟持し画像を定着する際の、前記定着部材の表面速度と前記加圧部材の表面速度との差を、あらかじめ条件を入力することで変更する。
【0211】
画像形成時には、制御部200による制御によって、転写材90は給紙ローラー118によって給紙カセット116Aから搬送路124へ一枚ずつ送り出される。
搬送路124に送り出された転写材90は、レジストセンサー114によってタイミングをとって、搬送ローラー120によって中間転写ベルト108と二次転写ローラー112との間のトナー転写位置へ送り込まれる。
【0212】
一方、上記のように、各画像形成セグメント110Y、110M、110C、110Kによって中間転写ベルト108上に4色のトナー画像が重ねて形成されており、トナー転写位置に送り込まれた転写材90に、中間転写ベルト108上の4色のトナー画像が二次転写ローラー112によって転写される。
【0213】
トナー像が転写された転写材90は、定着装置130の加圧ローラー131と加熱ローラー132とが作るニップ部を通して搬送され加熱及び加圧を受ける。
これにより、その転写材90にトナー画像が定着される。
【0214】
最終的に、トナー画像が定着された転写材90は、排紙ローラー121によって排紙路127を通して本体ケーシング101の上面に設けられた排紙トレイ部122へ排出される。
【0215】
なお、画像形成装置100では、両面印刷の場合に転写材90を再びトナー転写位置へ送り込むためのスイッチバック搬送路128が設けられている。
【0216】
上記のとおり、加圧ローラー131は定着ローラーの一方を構成しており、ここではシリコーンゴム製ローラーが用いられる。
【0217】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0218】
また、上述の説明では、定着部材として加熱ローラー、加圧部材として加圧ローラーの場合を例にして説明したが、従来公知の定着ベルト方式も同様に製造し、使用することができる。
また、本明細書でいう定着ベルトは、画像形成装置において、トナーを転写材に定着させる際に用いられるシリコーンゴムで形成された定着ベルトである。
【0219】
具体的には、例えば特開2017-194550号公報、特開2017-173445号公報、特開2017-97187号公報等に記載された、定着装置内で用いられる公知の定着ベルトを指す。
【実施例0220】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0221】
《トナーの作製》
[トナー1の作製]
<スチレン・アクリル樹脂(1)の微粒子分散液(A1)の調製>
(1)第1段重合(「樹脂微粒子(a1)」分散液の調製)
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2.0質量部をイオン交換水2900質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤を仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」9.0質量部を添加し、内温を78℃とさせた後、以下の組成の単量体溶液(1)を3時間かけて滴下し、滴下終了後、78℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合(第1段重合)を行い「樹脂微粒子(a1)」の分散液を調製した。
【0222】
(単量体溶液(1))
スチレン 540質量部
n-ブチルアクリレート 270質量部
メタクリル酸 65質量部
n-オクチルメルカプタン 17質量部
【0223】
(2)第2段重合:中間層の形成(「樹脂微粒子(a11)」の分散液の調製)
撹拌装置を取り付けたフラスコ内において、以下の組成の単量体溶液(2)に、離型剤としてエステルワックス(日油株式会社製、WEP-3、融点:77℃)57質量部を添加し、非晶性材料として不均化ロジンエステル(荒川化学社製、A-100)90質量部を添加し、85℃に加温して溶解させて単量体溶液(2)を調製した。
【0224】
(単量体溶液(2))
スチレン 225質量部
n-ブチルアクリレート 42.2質量部
2-エチルヘキシルアクリレート 42.2質量部
メタクリル酸 31.4質量部
n-オクチルメルカプタン 5質量部
【0225】
一方、アニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2質量部をイオン交換水1100質量部に溶解させた界面活性剤溶液を90℃に加温し、この界面活性剤溶液に「樹脂微粒子(a1)」の分散液を、「樹脂微粒子(a1)」の固形分換算で40質量部添加した後、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス」(エム・テクニック社製)により、上記単量体溶液(2)を60分間混合・分散させ、分散粒子径350nmの乳化粒子を含有する分散液を調製した。
【0226】
この分散液に重合開始剤「KPS」4.9質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、この系を90℃において2時間にわたって加熱・撹拌することによって重合(第2段重合)を行って「樹脂微粒子(a11)」の分散液を調製した。
【0227】
(3)第3段重合:外層の形成(スチレン・アクリル樹脂(1)の微粒子分散液(A1))の調製
上記の「樹脂微粒子(a11)」の分散液に、重合開始剤「KPS」5.7質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、80℃の温度条件下において、以下の組成の単量体溶液(3)を2時間かけて滴下した。
【0228】
(単量体溶液(3))
スチレン 355質量部
n-ブチルアクリレート 151質量部
メタクリル酸 44質量部
n-オクチルメルカプタン 9質量部
【0229】
滴下終了後、1時間にわたって加熱・撹拌することによって重合(第3段重合)を行った。
その後、28℃まで冷却し、アニオン性界面活性剤溶液中にスチレン・アクリル樹脂(1)の微粒子(体積平均粒径;232nm)が分散した「スチレン・アクリル樹脂(1)の微粒子分散液(A1)」を調製した。
このスチレン・アクリル樹脂(1)のDSC(「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製))により上記方法で測定されたガラス転移温度は40℃であった。
【0230】
<着色剤(カーボンブラック)粒子分散液〔Bk〕の調製>
ドデシル硫酸ナトリウム90gをイオン交換水1600gに撹拌溶解し、この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック(ファーネスブラック)「リーガル(登録商標)330R」(キャボット社製)420gを徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス(登録商標)」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子〔Bk〕が分散されてなる着色剤粒子分散液〔Bk〕を調製した。
【0231】
着色剤粒子分散液〔Bk〕における着色剤粒子〔Bk〕の体積基準のメディアン径を電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定したところ、120nmであった。
【0232】
<トナー母体粒子1の作製>
(1)凝集・融着工程
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、結着樹脂微粒子分散液として「スチレン・アクリル樹脂(1)の微粒子分散液(A1)」を固形分換算で126質量部、イオン交換水100質量部を投入後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10、液温度を20℃に調整した。
さらに、「着色剤(カーボンブラック)粒子分散液〔Bk〕」を固形分換算で11質量部投入し、水酸化ナトリウム水溶液により再びpHを10に調整した。
次いで、塩化マグネシウム12.8質量部をイオン交換水12.8質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、20℃において10分間かけて添加した。
その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分かけて70℃まで昇温し、70℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。
この状態で「マルチサイザー4」(ベックマン・コールター社製)にて会合粒子(トナー母体粒子前駆体)の粒径を測定し、体積基準におけるメディアン径(D50%径)が6.2μmになった時点で撹拌数をあげ粒子成長を停止させた。
その後、さらに、昇温を行い、82℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.950になった時点で30℃に冷却し、「トナー母体粒子1の分散液」を得た。
【0233】
(2)洗浄・乾燥工程
凝集・融着工程にて作製した「トナー母体粒子1の分散液」を遠心分離機で固液分離して粗大粒子や微細粒子を除き、トナー母体粒子1のウェットケーキを形成した。
該ウェットケーキを、10倍量のイオン交換水でのスラリーの電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後、「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥して「トナー母体粒子1」を作製した。
【0234】
(3)外添剤処理工程
上記の「トナー母体粒子1」に、トナー母体粒子1の100質量部に対して、外添剤として、疎水性シリカ粒子(HMDSにより表面修飾されたシリカ粒子、個数平均一次粒子径=120nm)2.5質量部、疎水性シリカ粒子(HMDSにより表面修飾されたシリカ粒子、個数平均一次粒子径=12nm)を1.0質量部、及び疎水性チタニア粒子(個数平均一次粒子径=20nm)0.6質量部を添加し、ヘンシェルミキサーにより混合して、「トナー1」を作製した。
【0235】
[トナー2の作製]
トナー1の作製において、(2)第2段重合の離型剤を122.4質量部、非晶性材料を204質量部としたこと以外は同様にしてトナー2を作製した。
【0236】
[トナー3の作製]
トナー1の作製において、トナー母体粒子作製の過程における粒子成長後の熟成温度を72℃としたこと以外は同様にしてトナー3を作製した。
[トナー4の作製]
トナー1の作製において、トナー母体粒子作製の過程における粒子成長後に昇温せず70℃維持したこと以外は同様にしてトナー4を作製した。
[トナー5の作製]
トナー1の作製において、(2)第2段重合の離型剤を、炭化水素系離型剤としてHNP-51(融点:77℃)としたこと以外は同様にしてトナー5を作製した。
【0237】
[トナー6の作製]
トナー1の作製において、(2)第2段重合の離型剤を37質量部、非晶性材料を98質量部としたこと以外は同様にしてトナー6を作製した。
【0238】
[トナー7の作製]
トナー1の作製において、(2)第2段重合の離型剤を67質量部、非晶性材料を86質量部としたこと以外は同様にしてトナー7を作製した。
【0239】
[トナー8の作製]
トナー1の作製において、(2)第2段重合の非晶性材料を添加しなかったこと以外は同様にしてトナー8を作製した。
【0240】
[トナー9の作製]
トナー1の作製において、(2)第2段重合の離型剤を142.8質量部、非晶性材料を238質量部としたこと以外は同様にしてトナー9を作製した。
【0241】
[トナー10の作製]
単量体溶液(2)のn-オクチルメルカプタンを7.5質量部、単量体溶液(3)のn-オクチルメルカプタンを13.5質量部としたこと以外は同様にしてトナー10を作製した。
【0242】
[トナー11の作製]
トナー1の作製において、非晶性材料のかわりに、下記結晶性ポリエステル樹脂[C1]を添加したこと以外は同様にしてトナー11を作製した。
【0243】
(結晶性ポリエステル樹脂の合成)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、多価カルボン酸化合物:セバシン酸(分子量202.25)300質量部と、多価アルコール化合物:1,6-ヘキサンジオール(分子量118.17)170質量部とを仕込み、この系を撹拌しながら1時間かけて内温を190℃にまで昇温させ、均一に撹拌された状態であることを確認した後、触媒としてTi(OBu)4を、多価カルボン酸化合物の仕込み量に対して0.003質量%の量で投入した。
その後、生成する水を留去しながら、4時間かけて内温を190℃から240℃まで昇温させ、さらに温度240℃の条件で6時間かけて脱水縮合反応を継続して重合を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂〔C1〕を得た。
得られた結晶性ポリエステル樹脂〔C1〕は、融点(Tm)が77℃であり、数平均分子量が5,000であった。
【0244】
《現像剤の作製》
上記のようにして作製したトナー1~11について、シクロヘキシルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合樹脂(単量体質量比=1:1)を被覆した体積平均粒径40μmのフェライトキャリアを用い、トナー濃度が6質量%となるようにして混合して現像剤1~11を作製した。
混合機は、V型混合機を用いて、30分間混合した。
【0245】
[各評価方法と評価基準]
各評価方法と評価基準は以下に示す方法と基準にて行った。結果は表Iに示すとおりである。
【0246】
【0247】
(1)低温定着性
(評価方法)
画像形成装置として、市販のフルカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタ社製)を、定着上ベルトの表面温度を変更可能に改造したものを用いた。
黒色の二成分現像剤として、それぞれ現像剤1~11を搭載し、記録材「NPi上質紙128g/m2」(日本製紙製)上に、黒色トナー付着量11.3g/m2のベタ画像(黒色)を、定着速度300mm/secで出力する試験を、定着上ベルトの温度200℃から5℃刻みで減少させるよう変更しながら、アンダーオフセットが発生するまで繰り返し行った。
【0248】
なお、ここでいう「アンダーオフセット」とは、定着機を通過する際に与えられた熱によるトナーのベタ画像の溶融が不十分であるために、記録紙等の転写材から剥離してしまう画像欠陥をいう。
【0249】
アンダーオフセットが発生しなかった最低の定着上ベルトの表面温度を調査し、これを定着下限温度として低温定着性を評価した。
各試験において、定着温度とは定着上ベルトの表面温度をいい、定着下ローラーの表面温度は、70℃に設定した。
低温定着性の評価は、以下の評価基準に従って行った。
【0250】
(評価基準)
定着下限温度(アンダーオフセットが発生するまでの温度)が低いほど低温定着性に優れることを示す。
本評価においては、以下のように125℃以下である場合を合格とした。
○ 定着下限温度が125℃以下。
× 定着下限温度125℃より高い。
【0251】
(2)タッキング性
(評価方法)
画像形成装置として、市販のフルカラー複合機「bizhub PRESS C1070」(コニカミノルタ社製)を用い、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下でHAMMERMILL社製のA4のHAMMERMILL Laser Print24lb(坪量90g/m
2)の上に、
図4に示す画像(トナー付着量10.0g/m
2)を形成した。
次に、定着装置の加圧ローラーの表面温度を100℃に設定し、加熱ローラーの表面温度を低温定着性の試験により定着オフセットによる画像汚れが目視で確認されない状態となったときの温度+25℃に設定して定着を2枚分行った。
図5のように、重り(201)とアルミ板(202)、挟み込み用紙(203)、熱電対(204)をセットする。
なお、挟み込み用紙(203)は、A4のHAMMERMILL Laser Print24lbを5枚重ね、その端部をテープ(205)で止めた。
また、熱電対(204)は、挟み込み用紙(203)の上から3枚目と4枚目の間に挿入し挟み込む。
ADVANTEC社製のオーブン「DRM420DD」に、セットした挟み込み冶具を入れ、加熱する。
目標温度より高めの温度設定にて2時間予熱を行った後に、設定温度に合わせる。
設定温度で安定していることを確認したところでオーブンを開け、
図6のように、2枚の定着画像(206),(206)の画像部同士が重なるように互いに重ね合わせ、挟み込み冶具で挟みオーブンを閉めて放置する。
オーブン内の温度が再び設定温度で安定したのを確認したところから1分間放置する。
その後重ね合わせた定着画像(206),(206)を取り出し、画像同士が貼り付いてしまうかを評価した。
【0252】
(評価基準)
無:タッキングが発生しなかった。
有:タッキングが発生した。
【0253】
(3)光沢度
(評価方法)
画像形成装置として、市販のフルカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタ社製)を改造し、転写材「PODグロスコート紙128g/m2」(王子製紙製)上に、トナー付着量を4.5g/m2のベタ画像パッチ(2.5cm×4cm)を紙の長手方向に3か所、幅手方向の中央の画像を標準の温度条件にて定着した。
得られた画像を光沢計(60°ガードナー社製)で測定し、3か所の平均値を求めた。
【0254】
(評価基準)
○:光沢度が15°以下。
×:光沢度が15°より大きい。
【0255】
(4)静電苛像現像用トナー構成成分の分子量分布曲線における、結着樹脂の全量に対する低分子量成分の非晶性材料の面積率(表I中においては、非晶性材料GPC面積率と表記する。)
【0256】
(評価方法)
静電苛像現像用トナー構成成分の分子量分布曲線における、結着樹脂の全量に対する低分子量成分の非晶性材料の面積率の算出方法(評価方法)については、前述したので省略する。
【0257】
(評価基準)
○:GPC面積率が10~20%の範囲内。
×:GPC面積率が10~20%の範囲外。
【0258】
表Iから明らかなように、実施例の方が比較例より優れていることが分かる。