(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189249
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】T細胞増殖促進ペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20221215BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C07K14/00
C40B40/10 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097735
(22)【出願日】2021-06-11
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、創薬基盤推進研究事業、「重症GVHD治療に向けたCD25中和抗体代替ペプチド製剤の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】門之園 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 科江
(72)【発明者】
【氏名】牛木 隆志
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA18
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安価なT細胞の増殖因子を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列において、N末端にP、RP、若しくはERPを含むか、及び/又は、C末端にT、TG、TGQ、TGQK、若しくはTGQKPを含むペプチドによる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列における15~17番の位置に任意のアミノ酸を含むペプチド、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列における13番及び20番の位置に任意のアミノ酸を含むペプチド。
【請求項2】
配列番号1又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、N末端にP、RP、若しくはERPを含むか、及び/又はC末端にT、TG、TGQ、TGQK、若しくはTGQKPを含む請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドを含むペプチドライブラリー。
【請求項4】
配列番号3~62で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド。
【請求項5】
配列番号3~62で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列において、N末端にP、RP、若しくはERPを含むか、及び/又はC末端にT、TG、TGQ、TGQK、若しくはTGQKPを含む請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
前記アミノ酸配列が、配列番号5、6、又は33で表されるアミノ酸配列である請求項4又は5に記載のペプチド。
【請求項7】
T細胞増殖用である、請求項4~6のいずれか一項に記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞増殖促進ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者のT細胞を利用したがん治療法の開発が進んでいる。例えば、B細胞性急性リンパ芽球性白血病、又はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療薬キムリアが認可されている。キムリアは、患者から採取した健常T細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させたCAR-T細胞とよばれる遺伝子組換え細胞を用い、患者に投与することによって抗原発現がん細胞を選択的に攻撃し、消滅させることができる。このCAR-T細胞療法においては、CAR遺伝子をT細胞に導入したのちに、細胞を増殖させる必要がある。
【0003】
T細胞及びCAR-T細胞を試験管内で増殖させるためには、培養液にCD3結合抗体、CD28結合抗体、サイトカインIL-2などを添加する必要があった(非特許文献1)。これらのタンパク質はいずれもアミノ酸長が114以上あるため、化学合成で安価に合成できず、高額な組換えタンパク質が利用されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「モリキュラー・セラピー(Molecular Therapy)」2020年、(米国)第28巻、p2379-2393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
T細胞及びCAR-T細胞の試験管内での増殖において、安価なT細胞の増殖因子があれば、CAR-T細胞の製造コストを下げることが可能である。また、基礎研究においてもT細胞を用いる実験のコストを下げることが可能になる。
従って、本発明の目的は、安価なT細胞の増殖因子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、安価なT細胞の増殖因子について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、30アミノ酸程度の、短い特定のペプチドが強力なT細胞の増殖活性を有することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]配列番号1で表されるアミノ酸配列における15~17番の位置に任意のアミノ酸を含むペプチド、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列における13番及び20番の位置に任意のアミノ酸を含むペプチド、
[2]配列番号1又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、N末端にP、RP、若しくはERPを含むか、及び/又はC末端にT、TG、TGQ、TGQK、若しくはTGQKPを含む[1]に記載のペプチド、
[3][1]又は[2]に記載のペプチドを含むペプチドライブラリー、
[4]配列番号3~62で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、
[5]配列番号3~62で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列において、N末端にP、RP、若しくはERPを含むか、及び/又はC末端にT、TG、TGQ、TGQK、若しくはTGQKPを含む[4]に記載のペプチド、
[6]前記アミノ酸配列が、配列番号5、6、又は33で表されるアミノ酸配列である[4]又は[5]に記載のペプチド、及び
[7]T細胞増殖用である、[4]~[6]のいずれかに記載のペプチド、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のペプチドによれば、T細胞の増殖を効率的に促進することができる。本発明のペプチドは、30アミノ酸程度のアミノ酸鎖長であり、化学合成可能であるため安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ペプチドライブラリー1のCD25との結合で濃縮されたペプチドのアミノ酸配列である。
【
図2】ペプチドライブラリー2のCD25との結合で濃縮されたペプチドのアミノ酸配列である。
【
図3】本発明のペプチド1~3の添加によりヒト末梢血単核細胞の増殖が促進されたことをMTTアッセイで測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]ペプチドライブラリー
本発明のペプチドライブラリーは、配列番号1で表されるアミノ酸配列における15~17番の位置に任意のアミノ酸を含むペプチド、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列における13番及び20番の位置に任意のアミノ酸を含むペプチドを含む。前記ペプチドは、配列番号1又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、N末端にP、RP、若しくはERPを含むか、及び/又はC末端にT、TG、TGQ、TGQK、若しくはTGQKPを含んでもよい。
【0010】
本発明のペプチドライブラリーに用いるペプチド(以下、ライブラリーペプチドと称することがある)は、足場タンパク質にCD25に対するモノクローナル抗体のCDR-H3の部分配列を組み込んだペプチドである。CD25は、IL-2受容体を構成する3つのサブユニットのうちの1つであり、αサブユニットと称される。本発明者らは、IL-2受容体の3つのサブユニットからαサブユニット(CD25)を選択し、そしてCD25に対するモノクローナル抗体の6つの相補性決定領域(complementarity determining region)であるCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3からCDR-H3を選択し、CDR-H3の部分配列を足場タンパク質に組み込んだものである。
【0011】
前記足場タンパク質としては、特願2020-206671号に記載の
YACX1X2X3X4CX5X6X7FX8X9X10X11X12X13X14RHIRIH(配列番号63)を含む足場タンパク質を用いた。この足場タンパク質にCDR-H3の部分タンパク質を組み込んだ。作製したライブラリーペプチドは、
(1)YACPVESCGGVFDYXXXLTRHIRIH(配列番号1)、及び
(2)YACPVESCDRRFXGGGVLTXHIRIH(配列番号2)、を含むペプチドのライブラリーである。
用いたCDR-H3のアミノ酸配列は、「GGGVFDY(配列番号64)」である。前記ライブラリーペプチド(1)は、前記足場タンパク質の「X5X6X7FX8X9」の領域に、CDR-H3の部分ペプチドである「GGVFDY(配列番号65)」を組み込んだペプチドである。そして、足場タンパク質の「X10X11X12」の領域に任意のアミノ酸を含むペプチドである。
一方、前記ライブラリーペプチド(2)は、前記足場タンパク質の足場タンパク質の「X9X10X11X12」の領域に、CDR-H3の部分ペプチドである「GGGV(配列番号66)」を組み込んだペプチドである。そして、足場タンパク質の「X8」及び「R」の位置に任意のアミノ酸を含むペプチドである。
【0012】
本発明のライブラリーペプチドは、前記ライブラリーペプチド(1)又はライブラリーペプチド(2)のN末端にP、RP、若しくはERPを含むか、及び/又はC末端にT、TG、TGQ、TGQK、若しくはTGQKPを含んでもよい。従って、N末端はアミノ酸が付加されない態様を含めて4種の末端があり、C末端もアミノ酸が付加されない態様を含めて6種類の末端がある。従って、ライブラリーペプチド(1)又はライブラリーペプチド(2)のN末端及びC末端の組み合わせの態様は、24種類の組み合わせの態様がある。これらのいずれの態様においても、本発明のライブラリーのペプチドとして用いることができる。具体的には、前記25アミノ酸長のライブラリーペプチド(1)又はライブラリーペプチド(2)は、安定してCDR-H3の部分ペプチドを提示することが可能である。更に、N末及び/又はC末に前記のアミノ酸が付加された態様の26~33アミノ酸長の24種類のライブラリーペプチドも安定してCDR-H3の部分ペプチドを提示することが可能である。
例えば、ライブラリーペプチド(1)又はライブラリーペプチド(2)のN末端に「ERP」が付加され、そしてC末端に「TGQKP」が付加されたライブラリーペプチドは、それぞれ33アミノ酸長の
(3)ERPYACPVESCGGVFDYXXXLTRHIRIHTGQKP(配列番号67)、及び
(4)ERPYACPVESCDRRFXGGGVLTXHIRIHTGQKP(配列番号68)、である。
【0013】
前記25アミノ酸長のライブラリーペプチド(1)又はライブラリーペプチド(2)は安定してCDR-H3の部分ペプチド及び「X」の任意のアミノ酸を提示することができる。この25アミノ酸長のライブラリーペプチド(1)又はライブラリーペプチド(2)が安定であるため、これらのライブラリーペプチド(1)又はライブラリーペプチド(2)を含む、26~33アミノ酸長のライブラリーペプチドも、安定してCDR-H3の部分ペプチド及び「X」の任意のアミノ酸を提示することができる。更に、前記33アミノ酸長のライブラリーペプチド(3)及びライブラリーペプチド(4)のN末端及び/又はC末端に1又は複数のアミノ酸が付加されたライブラリーペプチドも、本発明のライブラリーペプチドとして、有効に用いることができる。付加されるアミノ酸の数は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~15個(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15)、より好ましくは1~10個、更に好ましくは1~5個、更により好ましくは1~3個である。付加されるアミノ酸も特に限定されるものではないが、後述の「X」の任意のアミノ酸が挙げられる。
【0014】
前記ライブラリーペプチドに含まれる「X」の任意のアミノ酸は、特に限定されるものではないが、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、又はヒスチジンの生体内のタンパク質を構成する20種のα-アミノ酸が挙げられる。生体内のタンパク質を構成するα-アミノ酸は基本的にL型であるが、前記「X」のアミノ酸は、D型アミノ酸を含んでもよい。
【0015】
また、限定されるものではないが、前記「X」の任意のアミノ酸としては、前記20種のアミノ酸以外のアミノ酸を用いることができる。すなわち、スクリーニングの目的に応じて、組み込むアミノ酸を選択することができる。具体的なアミノ酸としては、2,3-ジアミノプロピオン酸、α-アミノイソ酪酸、ε-アミノヘキサン酸、δ-アミノ吉草酸、N-メチルグリシンまたはサルコシン、オルニチン、シトルリン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、ノルロイシン、ナフチルアラニン、2-クロロフェニルアラニン、3-クロロフェニルアラニン、4-クロロフェニルアラニン、2-フルオロフェニルアラニン、3-フルオロフェニルアラニン、4-フルオロフェニルアラニン、2-ブロモフェニルアラニン、3-ブロモフェニルアラニン、4-ブロモフェニルアラニン、2-メチルフェニルアラニン、3-メチルフェニルアラニン、4-メチルフェニルアラニン、2-ニトロフェニルアラニン、3-ニトロフェニルアラニン、4-ニトロフェニルアラニン、2-シアノフェニルアラニン、3-シアノフェニルアラニン、4-シアノフェニルアラニン、2-トリフルオロメチルフェニルアラニン、3-トリフルオロメチルフェニルアラニン、4-トリフルオロメチルフェニルアラニン、4-アミノフェニルアラニン、4-ヨードフェニルアラニン、4-アミノメチルフェニルアラニン、2,4-ジクロロフェニルアラニン、3,4-ジクロロフェニルアラニン、2,4-ジフルオロフェニルアラニン、3,4-ジフルオロフェニルアラニン、ピリド-2-イルアラニン、ピリド-3-イルアラニン、ピリド-4-イルアラニン、ナフト-1-イルアラニン、ナフト-2-イルアラニン、チアゾリルアラニン、ベンゾチエニルアラニン、チエニルアラニン、フリルアラニン、ホモフェニルアラニン、ホモチロシン、ホモトリプトファン、ペンタフルオロフェニルアラニン、スチリルアラニン、アウトリルアラニン、3,3-ジフェニルアラニン、3-アミノ-5-フェニルペンタン酸、ペニシラミン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸、β-2-チエニルアラニン、メチオニンスルホキシド、N(w)-ニトロアルギニン、ホモリジン、ホスホノメチルフェニルアラニン、ホスホセリン、ホスホトレオニン、ホモアスパラギン酸、ホモグルタミン酸、1-アミノシクロペンタ-(2または3)-エン-4カルボン酸;ピペコリン酸、アゼチジン-3-カルボン酸、1-アミノシクロペンタン-3-カルボン酸;アリルグリシン、プロパルギルグリシン、ホモアラニン、ノルバリン、ホモロイシン、ホモバリン、ホモイソロイシン、ホモアルギニン、N-アセチルリジン、2,4-ジアミノ酪酸、2,3-ジアミノ酪酸、N-メチルバリン、ホモシステイン、ホモセリン、ヒドロキシプロリン、およびホモプロリンが挙げられる。前記アミノ酸は、好ましくはαアミノ酸である。αアミノ酸が、その構造から、本発明のライブラリーペプチドの構造を安定させることができるからである。しかしながら、βアミノ酸が数個(例えば4個以下、3個以下、2個以下、又は1個)含まれていても、本発明の足場ペプチドの構造は安定である。
【0016】
本発明のライブラリーペプチドを用いることによって、T細胞のIL-2受容体への優れた結合能を示すペプチドをスクリーニングすることができる。すなわち、本発明のライブラリーペプチドは、CDR-H3の部分ペプチドを含んでいるため、IL-2受容体のαサブユニット(CD25)にある程度の親和性を有すると考えられるが、スクリーニングにより、結合に最適なアミノ酸「X」を選択できるため、T細胞のIL-2受容体への優れた結合能を有するペプチドを選択できると考えられる。
【0017】
本発明のペプチドライブラリーは、本発明のライブラリーペプチドを用いることを除いては、本分野の公知のライブラリーに関する技術を用いることができる。ペプチドライブラリーを構築するために、ライブラリーペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。
ポリヌクレオチドは、本発明のライブラリーペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、ライブラリーペプチドポリヌクレオチドと称することがある)である。ライブラリーペプチドポリヌクレオチドは、リンカーポリペプチドをコードするヌクレオチドを含んでもよい。
ライブラリーに組込む遺伝子は、公知の方法で調整することができる。例えば、「X」の任意のアミノ酸をコードするNNKコドン(NはA、G、C、Tのいずれかの塩基、KはGもしくはTのいずれかの塩基)を任意のアミノ酸をコードするコドンと部位特異的に置換する。置換には当該領域を含むオリゴDNAを化学合成し、制限酵素を利用して組込む、あるいはPCRを用いてベクター全長を複製する方法が用いられる。
【0018】
前記ポリヌクレオチドは、限定されるものではないが、ベクターに組み込むことによって、容易に増幅させることができる。また、ライブラリーペプチドとして、容易に発現させることができる。
前記ポリヌクレオチドを組込むベクターとしては、宿主細胞において複製可能である限り、プラスミド、ファージ、又はウイルス等のいかなるベクターも用いることができる。例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pKC30、pCFM536等の大腸菌プラスミド、pUB110等の枯草菌プラスミド、pG-1、YEp13、YCp50等の酵母プラスミド、λgt110、λZAPII等のファージのDNA等が挙げられ、哺乳類細胞用のベクターとしては、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス等のウイルスDNA、SV40とその誘導体等が挙げられる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
【0019】
本明細書において「宿主」とは、前記ベクターが組込まれ、ライブラリーペプチドを発現できる限りにおいて、限定されるものでない。例えば、ファージベクターの宿主としては、M13ファージ、fdファージ、又はT7ファージを挙げることができる。
また、細菌のベクターの宿主としては、大腸菌、ストレプトミセス、又は枯草菌を挙げることができる。更に、酵母ベクターの宿主としては、パン酵母、又はメタノール資化性酵母を挙げることができる。昆虫細胞ベクターの宿主としては、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9を挙げることができる。更に、動物細胞ベクターの宿主としては、CHO、COS、BHK、3T3、C127を挙げることができる。
【0020】
ファージの表面タンパク質としては、限定されるものではないが、M13ファージのg3p、g8p、又はT7ファージのG10を挙げることができる。
細菌の表面タンパク質、例えば大腸菌の表面タンパク質としては、限定されるものではないが、OmpAを挙げることができる。
酵母の表面タンパク質としては、限定されるものではないが、Flo1、αアグルチニン、又はAGA2を挙げることができる。
動物細胞の表面タンパク質としては、限定されるものではないが、human Toll-like receptor 4、EGFR、LDL receptor、angiotensin II receptor、又はPDGFRを挙げることができる。
【0021】
従って、本発明のペプチドライブラリーを用いて、目的ペプチドのアフィニティーセレクション(スクリーニング)を行う場合、容易に目的ペプチドの濃縮を行うことができる。
スクリーニング方法は、(1)CD25及びペプチドライブラリーを接触させる工程、(2)CD25に結合した宿主を回収する工程、を含み、好ましくは(3)前記回収した宿主を増幅する工程を更に含む。前記スクリーニング方法は、前記接触工程(1)、宿主回収工程(2)及び増幅工程(3)を繰り返し、CD25に結合するペプチドを濃縮することが好ましい。前記接触工程(1)におけるCD25及びペプチドライブラリーの接触は、標的分子を不溶性担体(例えば、ウエル又はディッシュ)に固相化して行うことができる。
前記スクリーニング方法は、本発明のペプチドライブラリーを用いる以外は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、宿主としてファージを用いたファージライブラリーのスクリーニングは、以下のようにことができる。プレートなどに、固相化した標的分子と、ファージライブラリーとを接触させることにより反応させる。洗浄によって標的分子と結合しなかったファージを除去する。標的分子に結合したファージを回収し、大腸菌に感染させ、溶菌、そして増殖させる。溶菌後の培養上清、又は精製したファージを、更に固相化した標的分子と反応させる(パンニングさせる)ことによって、標的分子に特異的な結合分子を提示したファージを濃縮する。最終的にファージをクローン化し、提示ペプチドをシークエンスにより同定する。
得られたペプチドは、CD25と結合することができるペプチドである。前記スクリーニング方法では、ペプチドが前記足場タンパク質に提示されているため、ペプチドの構造が安定し、CD25に特異性の高いペプチドをスクリーニングすることができる。
【0022】
[2]T細胞増殖用ペプチド
本発明のペプチドは、配列番号3~62で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド(以下、T細胞増殖ペプチドと称することがある)であり、CD25に高い親和性を示し、T細胞の増殖作用を有する。配列番号3~62で表されるアミノ酸配列のT細胞増殖配列を表1及び2に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
本発明のT細胞増殖ペプチドは、配列番号3~62で表されるアミノ酸配列において、N末端にP、RP、若しくはERPを含むか、及び/又はC末端にT、TG、TGQ、TGQK、若しくはTGQKPを含んでもよい。従って、N末端はアミノ酸が付加されない態様を含めて4種の末端があり、C末端もアミノ酸が付加されない態様を含めて6種類の末端がある。従って、T細胞増殖ペプチドのN末端及びC末端の組み合わせの態様は、24種類の組み合わせの態様がある。これらのいずれの態様においても、本発明のT細胞増殖ペプチドとして用いることができる。具体的には、前記25アミノ酸長のT細胞増殖ペプチドは、安定してCD25に高い親和性を示し、T細胞の増殖作用を示す。更に、N末及び/又はC末に前記のアミノ酸が付加された態様の26~33アミノ酸長の24種類のライブラリーペプチドも安定してCD25に高い親和性を示し、T細胞の増殖作用を示す。
【0026】
例えば、T細胞増殖ペプチドのN末端に「ERP」が付加され、そしてC末端に「TGQKP」が付加されたT細胞増殖ペプチドとして、それぞれ33アミノ酸長の
ペプチド1:ERPYACPVESCGGVFDYHIGLTRHIRIHTGQKP(配列番号69)、
ペプチド2:ERPYACPVESCGGVFDYKVQLTRHIRIHTGQKP(配列番号70)、又は
ペプチド3:ERPYACPVESCDRRFTGGGVLTAHIRIHTGQKP(配列番号71)、が挙げられる。
【0027】
前記25アミノ酸長のT細胞増殖ペプチドは安定して安定してCD25に高い親和性を示し、T細胞の増殖作用を示す。この25アミノ酸長のT細胞増殖ペプチドが安定であるため、これらのT細胞増殖ペプチドを含む、26~33アミノ酸長のT細胞増殖ペプチドも、安定してCD25に高い親和性を示し、T細胞の増殖作用を示す。更に、前記33アミノ酸長のT細胞増殖ペプチドのN末端及び/又はC末端に1又は複数のアミノ酸が付加されたライブラリーペプチドも、本発明のライブラリーペプチドとして、有効に用いることができる。付加されるアミノ酸の数は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~15個(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15)、より好ましくは1~10個、更に好ましくは1~5個、更により好ましくは1~3個である。
【0028】
本発明のT細胞増殖ペプチドの平衡解離定数(KD)は、特に限定されるものではないが、例えば0.001~10000KD(nM)であり、ある態様では、0.01~100KD(nM)であり、ある態様では1~100KD(nM)であり、ある態様では10~80KD(nM)であり、ある態様では20~60KD(nM)である。平衡解離定数が前記範囲であることによって、CD25に効率的に結合し、T細胞を増殖させることができる。
【0029】
《作用》
本発明のT細胞増殖ペプチドは、分子サイズが小さく、かつ分子内ジスルフィド結合を持たないため、容易に化学合成で調製できる。
【実施例0030】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
《実施例1》
本実施例では、足場ペプチドにCD25に対するモノクローナル抗体のCDR-H3の部分ペプチドを組み込んだ下記の2種類のアミノ酸配列を有するペプチドライブラリーを構築した。
ペプチドライブラリー1:
ERPYACPVESCGGVFDYXXXLTRHIRIHTGQKP(配列番号67)
ペプチドライブラリー2:
ERPYACPVESCDRRFXGGGVLTXHIRIHTGQKP(配列番号68)
ペプチドライブラリー1は、足場ペプチド(ERPYACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIHTGQKP:配列番号72)の12~20番のアミノ酸「DRRFSRSDE」を「GGVFDYXXX」に置き換えた。ペプチドライブラリー2は、16~23番のアミノ酸「SRSDELTR」を「XGGGVLTX」に置き換えた。前記足場ペプチドをコードする核酸を含むベクターを鋳型に、それぞれ「ERPYACPVESCGGVFDYXXXLTRHIRIHTGQKP」又は「ERPYACPVESCDRRFXGGGVLTXHIRIHTGQKP」をコードするヌクレオチドをPCRで合成した。Xのアミノ酸は、20個の任意のアミノ酸をコードするNNKコドン(NはA、G、C、Tのいずれかの塩基、KはGもしくはTのいずれかの塩基)となるように、ヌクレオチド(プライマー)を合成し、反応に用いた。
得られたヌクレオチドを制限酵素EcoRI及びXhoIで切り出し、レンチウイルスベクターに組み込み、ペプチドライブラリー1及び2を得た。
【0032】
《実施例2》
本実施例では、実施例1で構築したペプチドライブラリー1及び2を用いて、CD25との結合によりスクリーニング(濃縮)を行った。
まず、CD25を恒常発現するK562細胞株を樹立し、さらに、実施例1で得られたライブラリーペプチドを細胞膜上に共発現させた。この中から、CD25とペプチドが結合している細胞群を回収してゲノムを抽出し、ライブラリーペプチドをコードする遺伝子配列を次世代シーケンサーで解析した。
ペプチドライブラリー1の上位30のペプチド配列を
図1に、ペプチドライブラリー2の上位30のペプチド配列を
図2に示す。これらのペプチドは、CD25との結合によって、濃縮されたペプチドであり、優れたCD25との親和性を示す。
【0033】
《実施例3》
本実施例では、実施例2で得られたペプチドを化学合成し、CD25との結合との結合力をバイオレイヤー干渉法により測定した。下記のペプチド1~3を化学合成した。
ペプチド1:ERPYACPVESCGGVFDYHIGLTRHIRIHTGQKP(配列番号69)
ペプチド2:ERPYACPVESCGGVFDYKVQLTRHIRIHTGQKP(配列番号70)
ペプチド3:ERPYACPVESCDRRFTGGGVLTAHIRIHTGQKP(配列番号71)
ペプチドのN末端にビオチンを修飾し、100nMとなるように緩衝液(0.1% BSA、0.002% Tween-20を含むTBS緩衝液、pH=7.4)で調製し、ストレプトアビジンバイオセンサーの表面に300 秒間ロードした。バイオセンサーを30秒間洗浄、および60秒間平衡化した後、バイオセンサーに固定したペプチドへのCD25-Fcの結合を300秒間測定した。続いて、バイオセンサーを緩衝液に浸し、CD25-Fcの解離を300秒間測定した。得られた結合曲線を解析し、平衡解離定数KDを求めた。
表3に示すように、ペプチド1~3は優れた平衡解離定数を示した。
【0034】
【0035】
《実施例4》
本実施例では、前記ペプチド1~3を用いて、ヒトT細胞に対する増殖作用を検討した。
ボランティアより採血した血液から、Lymphoprepを用いて抹消単核球を分離した。5x10
5個のヒト末梢血単核細胞を培養し、培養液に前記プチド1~3(10μg/mL)を添加した。陽性コントロールとしてIL-2(200U/mL)を、そして陰性コントロールとして足場ペプチド(10μg/mL:下記にアミノ酸配列を示す)を添加した。
足場ペプチド:ERPYACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIHTGQKP(配列番号72)
7日間培養後に細胞数をMTTアッセイにより測定した(n=3)。
図3に示すように、ペプチド1、2、3を添加した場合に、有意に細胞数が増加した。この細胞増殖効果は、IL-2よりも強かった。