(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189261
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】コラーゲン産生促進剤、MMP阻害剤、ヒアルロン酸産生促進剤及び内用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20221215BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20221215BHJP
A61K 36/61 20060101ALI20221215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221215BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20221215BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20221215BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/08
A61K36/61
A61P43/00 111
A61P17/16
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097754
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀場 大生
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 寿
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE03
4B018MD07
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4B018MD61
4B018ME14
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4C083AA082
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4C083AC432
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4C088ZC52
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用及びヒアルロン酸産生促進作用に優れた新規な外用剤又は内用剤を提供する。
【解決手段】ギンバイカの抽出物を含有する、コラーゲン産生促進剤、MMP阻害剤、ヒアルロン酸産生促進剤、またはシワ改善剤である。ギンバイカの抽出物は、美容分野だけでなく、老化による機能低下の抑制、ガンの予防、治療等の医療分野にも利用でき、化粧品、食品、医薬部外品及び医薬品等へ応用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするMMP阻害剤。
【請求項3】
ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項4】
ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするシワ改善剤。
【請求項5】
ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするMMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防改善用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン産生促進剤、MMP阻害剤、ヒアルロン酸産生促進剤及び内用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
真皮には線維芽細胞やコラーゲンが存在し、I型コラーゲンが全体の80%を占める。I型コラーゲンの他には、III、V、XII及びXIV型コラーゲンの存在が知られている。シワやたるみの原因の一つとして、I型コラーゲンの減少が挙げられる。従って、I型コラーゲンの産生を促進させることがシワやたるみの予防・改善に有効であると考えられる。また、I型コラーゲンの産生促進は皮膚の創傷治癒の改善にも有効である。
【0003】
また、皮膚は紫外線の他、乾燥、寒冷、熱、薬物等の様々な物理的及び化学的ストレスに日々曝されている。その結果、皮膚の機能低下が引き起こされ、様々な皮膚の老化現象が顕在化する。皮膚の老化現象の一つにシワがある。シワには、表皮性のシワと、真皮性のシワの二種類が存在することが知られている。表皮性のシワは小ジワと呼ばれ、皮膚の乾燥により、表皮角質中の水分量が低下することによって一時的に生じるシワである。一方、真皮性のシワは、太陽光線に含まれる紫外線や加齢によって形成されるシワである。その形成メカニズムとしては、紫外線や加齢による真皮線維芽細胞におけるコラーゲン合成能の低下や、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の増加によるコラーゲンの分解促進が挙げられる。
【0004】
乾燥に起因する表皮性のシワと真皮性のシワでは、組織学的形態、発症メカニズム、治療方法が異なり、紫外線や加齢により生じる真皮性のシワは、保湿効果を有する化粧品の使用によって改善することは困難である。
【0005】
これまでに、紫外線によって生じる真皮性のシワを改善することを目的として、加水分解アーモンドを有効成分とする皮膚のシワ形成防止・改善剤(特許文献1)、ジョチョウケイ、テンキシ及びキセンソウの抽出物を有効成分とする紫外線照射に起因するシワの改善剤(特許文献2)が報告されている。
【0006】
また、コラーゲンは、哺乳動物組織の約1/3を占める主要な構造タンパク質であり、軟骨、骨、腱、及び皮膚等の、多くのマトリックス組織の必須な成分である。MMPに属するコラゲナーゼ(MMP-1)により一箇所を切断されると、通常の組織内では安定なコラーゲン分子は、変性して一本鎖のゼラチンとなり、他の様々なプロテアーゼにより分解されるようになる。その結果、マトリックス組織の構造の完全性が失われてしまう。
【0007】
コラゲナーゼの阻害活性を有する素材として、例えば、カカオ豆皮であるカカオハスク抽出物(特許文献3)、バラ科オニイチゴ抽出物(特許文献4)、ラクトフェリン(特許文献5)等が提案されている。皮膚老化や口腔衛生にますます関心が高まっている状況下で、副作用がなく、安全性が高い、コラゲナーゼ活性阻害作用の優れた素材を見出すことが求められている。
【0008】
MMPに属するゼラチナーゼ(MMP-2)は、線維芽細胞や内皮細胞、ガン細胞等が産生する酵素であり、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン(動脈、腱、皮膚等の弾性組織の特殊成分をなす構造タンパク質)等の基質を分解する。従って、ゼラチナーゼに対して阻害活性を有する物質は、ガン組織における血管新生やガンの転移を抑制する効果が期待され、ガン疾患の予防、治療に有用であると考えられる。さらにMMPの阻害はガン疾患のみならず、潰瘍形成、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、歯周炎等、MMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防、治療及び改善に有用である。
【0009】
また、線維芽細胞はコラーゲン等のタンパク質及びヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンを産生して真皮結合組織を形成し、皮膚のハリを保っている。この結合組織が収縮力を失い、さらに弾性力を失う結果として、皮膚のシワやたるみが発生すると考えられている。
【0010】
特にヒアルロン酸は結合組織に広く分布する高分子多糖体として知られており、真皮中でゲル状の形態を呈し、肌の弾力を維持している。従って、ヒアルロン酸の変質や減少が皮膚老化において重要であると考えられている。また、ヒアルロン酸は高分子であるため、それを含有した化粧料を皮膚に直接塗布しても吸収されにくいという問題があった。そこで、これまで、線維芽細胞を活性化することで、細胞自らのコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進させることができる皮膚外用剤が模索されてきた(特許文献6)。
【0011】
また、ヒアルロン酸は関節にも存在しており、関節の荷重の衝撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりする機能を果たしていることが知られている。正常人間関節液中のヒアルロン酸濃度は約2.3mg/mLであるが、慢性関節リウマチの場合、関節液中のヒアルロン酸濃度は約1.2mg/mLと低下し、同時に関節液の粘度も著しく低下する(非特許文献1)。また、化膿性関節炎や痛風性関節炎等でも、慢性関節リウマチの場合と同様、ヒアルロン酸含量の低下が起こることが知られている(非特許文献2)。上記疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆・保護、疼痛抑制及び病的関節液の改善のために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが考えられる。例えば、慢性関節リウマチの患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入法を行うと、上記の症状の改善が認められることが知られている(非特許文献3)。しかしながら、上記疾患の治療は長期に渡る。従って、日常生活の中で手軽に予防や治療等ができるように、ヒアルロン酸産生促進剤を含有させた皮膚外用剤や食品、医薬品が望まれている。
【0012】
飛蚊症とは、視界内に糸くずや蚊のように見える薄い影が現れる症状で、目の内部を満たす硝子体内の混濁が網膜上に影を落とすことで発生する。飛蚊症は大きく2種類に分けることができ、加齢や紫外線、活性酸素等の影響で発症する生理的飛蚊症と、網膜剥離、網膜裂孔、硝子体出血、ぶどう膜炎等の疾患の一症状として現れる病的飛蚊症がある。生理的飛蚊症は、硝子体の主要成分であるヒアルロン酸の減少による液状化と、それに伴うコラーゲン線維の分解で硝子体内が混濁することで生じる。治療法として、硝子体切除手術やレーザー治療があるが、これらの施術は安全性の観点から日本ではあまり行われていないという実情があり、海外で治療を行うには多額の費用が必要となる。そのため、生理的飛蚊症を予防改善するためには日常的に利用可能なヒアルロン酸産生促進剤を含有させた食品や医薬品が望まれている。
【0013】
ギンバイカ(学名:Myrtus communis)は、フトモモ科ギンバイカ属に属する常緑低木樹である。これまで、ギンバイカの葉及び/又は果実の抽出物がメラニンの生成を抑制し、脱色素活性を有すること(特許文献7)、ギンバイカの精油が脂肪組織に直接作用することで脂肪の蓄積を促進する効果を有すること(特許文献8)、ギンバイカの抽出物がセラミダーゼ阻害効果を有し、セラミド量調整剤として使用できること(特許文献9)が知られている。しかしながら、ギンバイカの抽出物がコラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用及びヒアルロン酸産生促進作用を有することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000-119125号公報
【特許文献2】特開2006-199611号公報
【特許文献3】特開平3-44331号公報
【特許文献4】特開2003-137801号公報
【特許文献5】特開平5-186368号公報
【特許文献6】特開2007-1924号公報
【特許文献7】特開2009-275025号公報
【特許文献8】特開2005-187431号公報
【特許文献9】特開2017-124984号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】“Arthritis Rheumatism“,vol.10,pp 357,1967
【非特許文献2】「結合組成」、金原出版、481項、1984年
【非特許文献3】「炎症」、日本炎症学会、11巻、16項、1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
安全で安定性に優れ、コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用及びヒアルロン酸産生促進作用に優れた素材が望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような事情により、本発明者らは鋭意検討した結果、ギンバイカの抽出物が優れたコラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用及びヒアルロン酸産生促進作用を持ち、安定性においても優れていることを見出した。さらに、その抽出物を含有する外用剤又は内用剤が、安全で安定であり、コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用及びヒアルロン酸産生促進作用に優れており、多機能性美容・健康用素材、医薬品と成り得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
(2)ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするMMP阻害剤。
(3)ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
(4)ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするシワ改善剤。
(5)ギンバイカの抽出物を含有することを特徴とするMMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防改善用食品組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ギンバイカの抽出物を有効成分として含有するコラーゲン産生促進剤、MMP阻害剤及びヒアルロン酸産生促進剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に用いるギンバイカ(学名:Myrtus communis)は、フトモモ科ギンバイカ属に属する、地中海沿岸原産の常緑低木樹である。本発明において、ギンバイカの抽出物は、その花、果実、種子、葉、枝、根等の植物体の一部又は植物体全体(全草)、あるいはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用するものは、全草が好ましい。また、抽出には、植物体をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。
【0021】
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、又は水と有機溶媒の混合溶媒を用い、撹拌又はカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。特に好ましい抽出溶媒としては、水、水-エタノールの混合極性溶媒又は水-1,3-ブチレングリコールの混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えばギンバイカの全草(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であれば良いが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0022】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いても良い。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0023】
本発明は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていても良い。
【0024】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。
【0025】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。さらに、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を超えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0026】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。さらに、20mg~2gが最も好ましい。
【0027】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例に示す%とは重量%を、処方例に示す含有量の部とは重量部を示す。
【実施例0028】
ギンバイカの抽出物の製造例
ギンバイカの抽出物を以下の通り製造した。製造例1~4において、抽出材料にはギンバイカの全草を用いた。
【0029】
(製造例1)ギンバイカの熱水抽出物の調製
ギンバイカの乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してギンバイカの熱水抽出物を2.3g得た。
【0030】
(製造例2)ギンバイカの50%エタノール抽出物の調製
ギンバイカの乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してギンバイカの50%エタノール抽出物を1.2g得た。
【0031】
(製造例3)ギンバイカのエタノール抽出物の調製
ギンバイカの乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してギンバイカのエタノール抽出物を0.5g得た。
【0032】
(製造例4)ギンバイカの1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
ギンバイカの乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過して、ギンバイカの1,3-ブチレングリコール抽出物を192g得た。