IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社の特許一覧

特開2022-189277繊維強化樹脂材料、成形品および繊維強化樹脂材料の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189277
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂材料、成形品および繊維強化樹脂材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/10 20060101AFI20221215BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20221215BHJP
   B29B 9/14 20060101ALI20221215BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221215BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20221215BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20221215BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20221215BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221215BHJP
【FI】
C08J5/10 CFG
C08J3/22
B29B9/14
C08L101/00
C08K7/04
C08K5/098
C08L77/00
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097776
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智則
(72)【発明者】
【氏名】薄田 健一郎
【テーマコード(参考)】
4F070
4F072
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA54
4F070AB09
4F070AB11
4F070AC29
4F070AC42
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB03
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC06
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB14
4F072AF26
4F072AG03
4F072AG05
4F072AH04
4F072AH13
4F072AH18
4F072AH46
4F072AJ34
4F072AJ40
4F072AK02
4F072AK15
4F072AL01
4F072AL11
4F201AA29
4F201AB25
4F201AD16
4F201AR12
4F201BA02
4F201BL06
4F201BL44
4J002AA011
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BG061
4J002BK001
4J002CB001
4J002CF001
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CG001
4J002CH071
4J002CK021
4J002CL001
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002CM041
4J002CN011
4J002CN031
4J002DA016
4J002DL006
4J002EG017
4J002EG027
4J002EG037
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD160
4J002GB00
4J002GG00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 熱可塑性樹脂の長繊維への含浸時に長繊維が破断しにくく、効率的に製造できる繊維強化樹脂材料、ならびに、前記繊維強化樹脂材料を用いた成形品、および、繊維強化樹脂材料の製造方法の提供。
【解決手段】 熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、数平均繊維長が3mm以上の無機繊維65~170質量部を含み、熱可塑性樹脂成分100質量部中、酢酸金属塩の少なくとも1種を0.05~0.50質量部含む、繊維強化樹脂材料。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、数平均繊維長が3mm以上の無機繊維65~170質量部を含み、
前記熱可塑性樹脂成分100質量部中、酢酸金属塩の少なくとも1種を0.05~0.50質量部含む、繊維強化樹脂材料。
【請求項2】
前記酢酸金属塩が、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、および、酢酸マグネシウムから選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項3】
前記無機繊維が、ガラス繊維および/または炭素繊維を含む、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項4】
前記無機繊維が、ガラス繊維を含む、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂成分が、ポリアミド樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、請求項5に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項7】
前記無機繊維の数平均繊維長が10mm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項8】
前記無機繊維の数平均繊維長が2cm以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項9】
前記繊維強化樹脂材料がペレットである、請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項10】
前記繊維強化樹脂材料がUDテープ(一方向テープ)である、請求項1~6および8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料から形成された成形品。
【請求項12】
熱可塑性樹脂成分100質量部中に酢酸金属塩の少なくとも1種を0.05~0.50質量部含む熱可塑性樹脂成分100質量部を、数平均繊維長が2cm以上の無機繊維65~170質量部に含浸させることを含む、繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項13】
前記酢酸金属塩を熱可塑性樹脂にて、マスターバッチ化した後、その他の成分とブレンドして前記熱可塑性樹脂成分を得ることを含む、請求項12に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項14】
前記ブレンドはドライブレンドである、請求項13に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項15】
前記繊維強化樹脂材料が請求項1~10のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料である、請求項12~14のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂材料、成形品および繊維強化樹脂材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂から形成される成形品の機械的強度を向上させるため、熱可塑性樹脂に強化繊維を配合した繊維強化樹脂材料が検討されている。
特に、成形品の機械的強度を高めるため、長繊維を用いた繊維強化樹脂材料が検討されている(特許文献1、特許文献2)。また、特許文献2には、このような繊維強化樹脂材料を製造するにあたり、ガラス繊維ロービングを、溶融状態のポリアミド樹脂組成物が充満する含浸ダイのクロスヘッドに導入して、樹脂含浸ガラス繊維ロービング束を得ている。さらに、得られた樹脂含浸ガラス繊維ロービング束を紡口より連続的に引き取り、1本のストランドを得ている。さらに、このストランドを、水冷バス中で冷却固化し、ストランドをペレタイザーによりペレットとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-168287号公報
【特許文献2】特開2017-082028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように、熱可塑性樹脂をガラス繊維ロービング等の長繊維に含浸させる際、熱可塑性樹脂が増粘してしまい、長繊維を破断させてしまうことがある。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、熱可塑性樹脂の長繊維への含浸時に長繊維が破断しにくく、効率的に製造できる繊維強化樹脂材料、ならびに、前記繊維強化樹脂材料を用いた成形品、および、繊維強化樹脂材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、熱可塑性樹脂成分に、酢酸金属塩を所定量配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、数平均繊維長が3mm以上の無機繊維65~170質量部を含み、前記熱可塑性樹脂成分100質量部中、酢酸金属塩の少なくとも1種を0.05~0.50質量部含む、繊維強化樹脂材料。
<2>前記酢酸金属塩が、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、および、酢酸マグネシウムから選択される少なくとも1種を含む、<1>に記載の繊維強化樹脂材料。
<3>前記無機繊維が、ガラス繊維および/または炭素繊維を含む、<1>または<2>に記載の繊維強化樹脂材料。
<4>前記無機繊維が、ガラス繊維を含む、<1>または<2>に記載の繊維強化樹脂材料。
<5>前記熱可塑性樹脂成分が、ポリアミド樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂材料。
<6>前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、<5>に記載の繊維強化樹脂材料。
<7>前記無機繊維の数平均繊維長が10mm以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂材料。
<8>前記無機繊維の数平均繊維長が2cm以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂材料。
<9>前記繊維強化樹脂材料がペレットである、<1>~<7>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂材料。
<10>前記繊維強化樹脂材料がUDテープ(一方向テープ)である、<1>~<6>および<8>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂材料。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂材料から形成された成形品。
<12>熱可塑性樹脂成分100質量部中に酢酸金属塩の少なくとも1種を0.05~0.50質量部含む熱可塑性樹脂成分100質量部を、数平均繊維長が2cm以上の無機繊維65~170質量部に含浸させることを含む、繊維強化樹脂材料の製造方法。
<13>前記酢酸金属塩を熱可塑性樹脂にて、マスターバッチ化した後、その他の成分とブレンドして前記熱可塑性樹脂成分を得ることを含む、<12>に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
<14>前記ブレンドはドライブレンドである、<13>に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
<15>前記繊維強化樹脂材料が<1>~<10>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂材料である、<12>~<14>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、熱可塑性樹脂の長繊維への含浸時に長繊維が破断しにくく、効率的に製造できる繊維強化樹脂材料、ならびに、前記繊維強化樹脂材料を用いた成形品、および、繊維強化樹脂材料の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0008】
本実施形態の繊維強化樹脂材料は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、数平均繊維長が3mm以上の無機繊維65~170質量部を含み、前記熱可塑性樹脂成分100質量部中、酢酸金属塩の少なくとも1種を0.05~0.50質量部含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、繊維強化材料の製造工程において、長繊維の破断を効果的に抑制でき、効率的に繊維強化樹脂材料が得られる。
すなわち、熱可塑性樹脂成分に酢酸金属塩を配合することにより、含浸ダイ内での樹脂の粘度の上昇を抑制し、長繊維(例えば、ガラス繊維ロービング)の破断を抑制することにより、生産性を大幅に改善できる。
この理由は、以下の点にあると推測される。まず、熱可塑性樹脂は酸性下では重合が進行する傾向にある。本実施形態では、酢酸金属塩を配合して塩基性条件とすることにより、分子量の上昇を抑制できたと推測される。一方、酢酸金属塩の配合量が多すぎると、含浸は効率的に進むが、極端な粘度低下により灰分率が低下し、得られる繊維強化樹脂材料から成形される成形品の機械的強度が劣る傾向にあると推測された。本実施形態では、酢酸金属塩の配合量を調整することにより、上記課題を解決できたと推測される。
【0009】
本実施形態の繊維強化樹脂材料は、熱可塑性樹脂成分を含む。熱可塑性樹脂成分は、熱可塑性樹脂に加え、酢酸金属塩を含む。さらに、他の樹脂添加剤を含んでいてもよい。
【0010】
前記熱可塑性樹脂成分に含まれる熱可塑性樹脂は、特に定めるものではなく、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;スチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状シクロオレフィン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂;等が好ましく例示され、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリアセタール樹脂の少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリアミド樹脂を含むことがより好ましい。
【0011】
本実施形態における熱可塑性樹脂は、重縮合反応によって得られる熱可塑性樹脂に特に好適である。これは、塩基性条件下により重合反応を抑制できるためであると推測される。
本実施形態における熱可塑性樹脂は、また、結晶性熱可塑性樹脂であることが好ましい。結晶性熱可塑性樹脂において、製造安定化の効果がより効果的に発揮される。結晶性熱可塑性樹脂は、示差走査熱量計に従って測定したとき、明確な発熱ピークを示すものをいう。
本実施形態では、特に、ポリアミド樹脂が好ましい。長繊維へのポリアミド樹脂の含浸は、過酷な加熱温度で行われるが、この際に、ポリアミド樹脂は分解が始まり、末端基濃度が高くなり、長繊維の表面処理剤などと反応し、より粘度が高くなる傾向にあるためである。
【0012】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、その種類を特に定めるものではなく、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66が挙げられ、ポリアミド66が好ましい。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂を含むことが好ましい。例えば、本実施形態における熱可塑性樹脂成分に含まれるポリアミド樹脂の90質量%以上が半芳香族ポリアミド樹脂であることがより好ましい。ここで、半芳香族ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の20~80モル%が芳香環を含む構成単位であることをいう。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる成形品の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、テレフタル酸系ポリアミド樹脂(ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T)、後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂などが例示される。
【0013】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、少なくとも1種が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来することが好ましい。以下、このようなポリアミド樹脂を、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂ということがある。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは85モル%以上、より一層好ましくは90モル%以上、さらに一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
【0014】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸がより好ましく、アジピン酸がさらに好ましい。
【0016】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0017】
本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の0~100モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~0モル%がメタキシリレンジアミンに由来することが好ましく、0~70モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~30モル%がメタキシリレンジアミンに由来することがより好ましく、0~50モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~50モル%がメタキシリレンジアミンに由来することがさらに好ましく、0~20モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~80モル%がメタキシリレンジアミンに由来することが一層好ましい。
また、本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がセバシン酸および/またはアジピン酸(好ましくはアジピン酸)に由来するものが好ましい。
なお、上記いずれの実施形態においても、ジアミン由来の構成単位の合計が100モル%を超えることは無く、ジカルボン酸由来の構成単位の合計も100モル%を超えることはない。
【0018】
なお、上記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、98質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0019】
熱可塑性樹脂成分における熱可塑性樹脂のブレンド形態の一例は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂80~100質量部と、脂肪族ポリアミド樹脂(好ましくはポリアミド66)20~0質量部のブレンド物であり、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂85~99質量部と、脂肪族ポリアミド樹脂15~1質量部のブレンド物であることが好ましい。
【0020】
前記熱可塑性樹脂成分における熱可塑性樹脂(好ましくはポリアミド樹脂)の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形品の機械的強度が向上する傾向にある。熱可塑性樹脂成分における熱可塑性樹脂の含有量の上限値は、熱可塑性樹脂と酢酸金属塩の合計が100質量%となる値である。
なお、後述する通り、熱可塑性樹脂成分に含まれる一部の成分をマスターバッチ化する場合、かかるマスターバッチ化するための熱可塑性樹脂も含めた量を上記熱可塑性樹脂の含有量とする。
本実施形態における熱可塑性樹脂成分は、各熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
一方、本実施形態においては、熱可塑性樹脂成分100質量部中、酢酸金属塩の少なくとも1種を0.05~0.50質量部含む。酢酸金属塩を0.05質量部以上の割合で含むことにより、熱可塑性樹脂成分の増粘を抑制し、長繊維への熱可塑性樹脂成分の含浸を効果的に進めることができる。この結果、長繊維が切れにくくなり、繊維強化樹脂材料の生産性が向上する。一方、酢酸金属塩の含有量を熱可塑性樹脂成分100質量部中、0.50質量部以下とすることにより、得られる繊維強化樹脂材料、さらには前記繊維強化樹脂材料から得られる成形品の機械的強度を高くすることができる。
本実施形態の繊維強化樹脂材料は、酢酸金属塩を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となる。
【0022】
酢酸金属塩は、酢酸のアルカリ金属塩および酢酸のアルカリ土類金属塩が好ましく、酢酸のアルカリ金属塩が好ましい。本明細書において、アルカリ金属とは、リチウム・ナトリウム・カリウム・ルビジウム・セシウム・フランシウムを意味し、ナトリウムおよびカリウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。本明細書において、アルカリ土類金属とは、ベリリウム・マグネシウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウム・ラジウムを意味し、マグネシウムおよびカルシウムが好ましい。
本実施形態において、酢酸金属塩は、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、および、酢酸マグネシウムから選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酢酸ナトリウムを含むことがより好ましい。
【0023】
本実施形態における熱可塑性樹脂成分は、熱可塑性樹脂および酢酸金属塩に加えて、他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、核剤、離型剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、難燃剤、難燃助剤、強化充填剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0024】
核剤は、タルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。
核剤の平均粒径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。核剤の平均粒径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。
核剤の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部中、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
熱可塑性樹脂成分は、核剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0025】
熱可塑性樹脂成分は、成形時の離型性を向上させるため、離型剤を配合することが好ましい。離型剤としては、例えば、カルボン酸アミド系ワックスやビスアミド系ワックス、長鎖脂肪酸金属塩等が挙げられ、長鎖脂肪酸金属塩が好ましい。
【0026】
長鎖脂肪酸金属塩とは、炭素数16~36の長鎖脂肪酸の金属塩で、例えば、ステアリン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム等が挙げられる。
その他、離型剤としては、特開2012-132027号公報の段落0060~0063の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0027】
離型剤の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部中、0.001~1.0質量部であることが好ましく、0.005~0.7質量部であることがより好ましい。含有量を前記下限値以上とすることにより、十分な離型効果を発揮し成形性を高めることができ、上記上限値以下とすることにより、得られる繊維強化樹脂材料、さらには前記繊維強化樹脂材料から成形される成形品の機械的強度を高く維持することが可能になる。
【0028】
また、本実施形態における熱可塑性樹脂成分は、強化材を、実質的に含まないことが好ましい。熱可塑性樹脂成分が強化材を実質的に含まないことにより、熱可塑性樹脂成分の流動性をより向上させることができる。ここで、実質的に含まないとは、強化材の含有量が、熱可塑性樹脂成分の5質量%以下であることをいい、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
次に、熱可塑性樹脂成分を含浸させる無機繊維について説明する。
本実施形態で用いる無機繊維は、数平均繊維長が3mm以上のいわゆる長繊維である。長繊維を用いる場合に、生産性の低下が起こりやすいが、本実施形態では酢酸金属塩を用いることにより、この点を効果的に回避している。
本実施形態の繊維強化樹脂材料に含まれる無機繊維の例としては、炭素繊維および/またはガラス繊維であり、ガラス繊維が好ましい。
【0030】
本実施形態における無機繊維とは、繊維状の無機材料を意味し、より具体的には、1,000~10,000本の無機繊維を集束し、所定の長さにカットされたチョップド形状が好ましい。
本実施形態における無機繊維は、数平均繊維長が3mm以上のいわゆる長繊維であるが、その長さは、用途等に応じて適宜定めることができる。
本実施形態における無機繊維は、数平均繊維長が5mm以上であることが好ましく、用途に応じては、2cm以上であることがより好ましく、さらには10cm以上であることがさらに好ましく、1m以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の機械的強度をより向上させることができる。
また、前記無機繊維の数平均繊維長は、通常、10000m以下であるが、用途に応じては、10mm以下であることがより好ましい。
特に、無機繊維の数平均繊維長が10mm以下(好ましくは4~10mm、より好ましくは5~10mm)である場合、繊維強化樹脂材料がペレットであることが好ましい。
また、無機繊維の数平均繊維長が2cm以上(好ましくは10cm以上、また、好ましくは10000m以下)である場合、繊維強化樹脂材料がUDテープ(一方向テープ)、クロス材(織物)であることが好ましく、UDテープ(一方向テープ)であることが好ましい。
数平均繊維長は光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象の無機繊維をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値から数平均繊維長を算出する。観察の倍率は20倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。概ね、カット長に相当する。
また、無機繊維の断面は、円形、楕円形、長円形、長方形、長方形の両短辺に半円を合わせた形状、まゆ型等いずれの形状であってもよいが、円形が好ましい。ここでの円形は、数学的な意味での円形に加え、本発明の技術分野において通常円形と称されるものを含む趣旨である。
無機繊維の数平均繊維径は、下限が、4.0μm以上であることが好ましく、4.5μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。無機繊維の数平均繊維径の上限は、30.0μm以下であることが好ましく、25.0μm以下であることがより好ましく、20.0μm以下であることがさらに好ましい。なお、無機繊維の数平均繊維径は、電子顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維径を測定する対象のガラス繊維をランダムに抽出し、中央部に近いところで繊維径を測定し、得られた測定値から算出する。観察の倍率は1,000倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。円形以外の断面を有するガラス繊維の数平均繊維径は、断面の面積と同じ面積の円に換算したときの数平均繊維径とする。
【0031】
次に、本実施形態において好ましく用いられるガラス繊維について説明する。
ガラス繊維は、一般的に供給されるEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス(Dガラス、Mガラス、および耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本発明では、Eガラスを含むことが好ましい。
前記ガラス繊維は、表面処理剤で処理されていてもよい。
【0032】
ガラス繊維は市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子社製、ER2400T-423N、日東紡社製、RS2400QR-843、重慶国際複合材料有限公司(CPIC)社製 ER4301H-2400等が挙げられる。
【0033】
本実施形態における繊維強化樹脂材料における無機繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、65質量部以上であり、70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることがさらに好ましく、110質量部以上であることが一層好ましく、115質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる繊維強化樹脂材料、さらには、前記繊維強化樹脂材料から得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。
また、本実施形態における繊維強化樹脂材料における無機繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、170質量部以下であり、165質量部以下であることが好ましく、160質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることがさらに好ましく、140質量部以下であることが一層好ましく、130質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、繊維強化樹脂材料の製造がより安定する傾向にある。
本実施形態の繊維強化樹脂材料は、無機繊維を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0034】
本実施形態の繊維強化樹脂材料は、熱可塑性樹脂と無機繊維の合計量が、繊維強化樹脂材料の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
【0035】
次に、本実施形態の繊維強化樹脂材料の製造方法について説明する。
本実施形態の繊維強化樹脂材料の製造方法は、熱可塑性樹脂成分100質量部中に酢酸金属塩の少なくとも1種を0.05~0.50質量部含む熱可塑性樹脂成分100質量部を、数平均繊維長が2cm以上の無機繊維65~170質量部に含浸させることを含む。このような方法を採用することにより、製造工程中に無機繊維が破断せず、効率的に繊維強化樹脂材料を製造することができる。
本実施形態の繊維強化樹脂材料の製造方法においては、前記酢酸金属塩を熱可塑性樹脂にて、マスターバッチ化した後、その他の成分とブレンドして前記熱可塑性樹脂成分を得ることが好ましい。酢酸金属塩をマスターバッチ化することにより、マスターバッチ化工程での酢酸揮発による塩基性を促進し、繊維強化樹脂材料製造時の無機繊維の破断、酢酸臭をより効果的に抑制できる。ここで、その他の成分とは、熱可塑性樹脂や繊維強化樹脂材料に配合してもよい他の成分であり、上記繊維強化樹脂材料の所で述べた熱可塑性樹脂、他の成分と同義であり、好ましい範囲やその配合比率なども同様である。
マスターバッチ化する樹脂は、繊維強化樹脂材料を構成する熱可塑性樹脂となるものであり、例えば、繊維強化樹脂材料に含まれる熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂である場合、マスターバッチ化する熱可塑性樹脂もポリアミド樹脂であることが好ましい。本実施形態における熱可塑性樹脂成分に含まれる熱可塑性樹脂は特に述べない限り、マスターバッチ化に用いた熱可塑性樹脂も含めたものを意味する。
マスターバッチにおける酢酸金属塩の濃度は、0.50質量%以上であることが好ましく、1.00質量%以上であることがより好ましく、1.50質量%以上であることがさらに好ましく、2.00質量%以上であってもよい。また、前記マスターバッチにおける酢酸金属塩の濃度は、4.50質量%以下であることが好ましく、4.00質量%以下であることがより好ましく、3.50質量%以下であることがさらに好ましく、3.00質量%以下であってもよい。
前記マスターバッチは、酢酸金属塩を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0036】
酢酸金属塩をマスターバッチ化した場合、熱可塑性樹脂や必要に応じ配合される他の成分とブレンドされることが好ましい。前記ブレンドは、ドライブレンドであっても、メルトブレンドであってもよいが、ドライブレンドであることが好ましい。ドライブレンドとすることにより、余計な熱履歴を与えず熱可塑性樹脂の分解を効果的に抑制できる。
【0037】
本実施形態の繊維強化樹脂材料は、通常、溶融した熱可塑性樹脂成分を無機繊維に含浸させて製造する。
例えば、繊維強化樹脂材料がペレットの場合、無機繊維として、ロービング繊維を用い、無機繊維を開繊しながら、前記無機繊維に熱可塑性樹脂成分の溶融物を含浸させた後、ストランドとして引き取り、所望のペレット長となるようにカットすることが挙げられる。
この時のカット長が、無機繊維の数平均繊維長となる。従って、カット長の好ましい範囲は、上記無機繊維の数平均繊維長と同様である。
【0038】
また、繊維強化樹脂材料がUDテープ(一方向テープ)である場合、無機繊維として、ロービング繊維を用い、ロービング繊維を等間隔に並べ、ロービング繊維を広げた後、無機繊維を、含浸ダイを通過させる。この際に、熱可塑性樹脂成分の溶融物を供給し、含浸ダイ中で、無機繊維に熱可塑性樹脂成分を含浸させる。このような工程によって、UDテープを得ることができる。含浸ダイは、含浸ロールを備えていることが好ましい。含浸ロールによって、無機繊維内に熱可塑性樹脂成分を効率的に含浸させることができる。
また、繊維強化樹脂材料がUDテープ(一方向テープ)である場合の別の製造例として、無機繊維として、一方向または二方向以上に並列した無機繊維を用い、押出機でフィルム状に押し出し一対の含浸ロール間を通過させる方法や、熱可塑性樹脂成分から構成されたフィルムと重ねて熱プレスすることも例示される。このとき、一方向または二方向以上に並列した無機繊維の一例は、無機繊維の織物である。また、熱可塑性樹脂成分から構成された2枚のフィルムで、無機繊維の織物を挟んだ状態で熱プレスすることが好ましい。
【0039】
また、無機繊維として、無機繊維の不織布を用い、熱可塑性樹脂成分から構成されたフィルムと重ねて熱プレスした繊維強化樹脂材料も例示される。
【0040】
次に、本実施形態の繊維強化樹脂材料から形成される成形品について説明する。
本実施形態の繊維強化樹脂材料から形成される成形品の種類は特に制限されない。また、前記成形品は、最終製品に限らず、各種部品も含む趣旨である。本実施形態における成形品は、構造部材の部品や、携帯電子機器部品、車両および医療機器の部品や、その他の電気回路を含む電子部品、食品および医薬品の容器、ならびに、これらを形成するための複合材料として用いることが好ましい。
【実施例0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0042】
1.原料
MXD6:メタキシリレンジアミンとアジピン酸から合成されたポリアミド樹脂、三菱ガス化学社製、#6000
PA66:ポリアミド66、デュポン社製、Zytel 101NC-10
タルク:MSタルク、日本タルク社製
StCa:ステアリン酸カルシウム、日東化成工業社製
AcNa:酢酸ナトリウム(無水)、大東化学社製
ガラス繊維:ガラス繊維ロービング、重慶国際複合材料有限公司(CPIC)社製、ER4301H-2400(モノフィラメントの数平均繊維径:17μm、TEX数:2400TEX)
【0043】
<マスターバッチの製造>
酢酸ナトリウムのマスターバッチ(マスターバッチ濃度2.60質量%)は以下の通り製造した。
ポリアミドMXD6 #6000を5000gと酢酸ナトリウム135gをドライブレンドした後、二軸押出機(商品名:TEM26SS、芝浦機械社製)におけるトップフィード口より供給し、シリンダー設定温度260℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、酢酸ナトリウムのマスターバッチを得た。
【0044】
2.実施例1~4、比較例1~3
<樹脂ペレットの製造方法>
表1に記載の成分のうち、ガラス繊維を除く成分をドライブレンドした後、二軸押出機(商品名:TEM26SS、芝浦機械社製)におけるトップフィード口より、下記表1に示す割合(単位:質量部)で供給し、シリンダー設定温度をポリアミド樹脂の融点+40℃、スクリュー回転数200rpmで、溶融混練して、樹脂成分の溶融物を含浸槽内に導入した。含浸槽内の温度をポリアミド樹脂の融点+80℃とし、4本のガラス繊維ロービングをプレヒーター温度200℃に加熱したのちクロスヘッドを通して、樹脂含浸用ロールを備えた含浸槽内に導入した。ガラス繊維ロービングを開繊して引きながら、上記で得られた樹脂成分の溶融物に含浸させた後、内径1.9mmのノズルよりストランドとして引取速度10m/分で引取り、6mmの長さにカットしてペレットを得た。カット長とペレット中のガラス繊維の繊維長は、同じ長さであった。
【0045】
<長繊維生産性>
10時間の生産を行い、生産開始からロービング破断に至るまでの時間を観察した。4本中1本でも破断を生じたら破断と判断した。
【0046】
<灰分(ペレット)>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、磁性坩堝に秤量し、650℃に保持した電気炉で2時間灰化処理を行い、灰化処理前後の質量より灰分(単位:質量%)を算出した。
【0047】
<比重>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(芝浦機械社製、「EC75SX」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。得られた成形体をISO1183に準拠し、アルキメデス法により、比重を測定した。
【0048】
<結晶化温度(Tcc)の測定方法>
結晶化温度の測定は、JIS K7121およびK7122に準じて行った。
具体的には、示差走査熱量計を用い、ポリアミド樹脂を、示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて、30~300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で3分保持した後、降温速度10℃/分にて降温した際に観測される発熱ピークのピーク温度を測定して、降温時結晶化温度(Tcc、単位:℃)を求めた。
示差走査熱量計としては、SIIナノテクノロジー(株)製「DSC7020 AUTO」を用いた。
【0049】
<曲げ強さおよび曲げ弾性率>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(芝浦機械社製、「EC75SX」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。
【0050】
<シャルピー衝撃強さ>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(芝浦機械社製、「EC75SX」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO179規格に従い、ノッチ有シャルピー衝撃強さの測定を行った。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
上記結果から明らかなとおり、本発明(実施例1~4)においては、長繊維の破断を効果的に抑制でき、効率的に繊維強化樹脂材料(樹脂ペレット)を製造できた。また、前記繊維強化樹脂材料から得られた成形品も高い機械的強度を有していた。酢酸金属塩を含まない場合(比較例1、2)、製造途中でロービング繊維が切れてしまい、生産性が低かった。一方、酢酸金属塩を熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、0.50質量部超の割合で配合したとき(比較例3)、効率的に繊維強化樹脂材料(樹脂ペレット)を製造できたが、前記繊維強化樹脂材料から得られた成形品の機械的強度が劣っていた。