(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189315
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】トナー、トナーカートリッジ、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20221215BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097839
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 巧
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA08
2H500CA06
2H500CA30
2H500EA14B
2H500EA39B
2H500EA42B
2H500EA42C
2H500EA45B
(57)【要約】
【課題】耐低温オフセット性及び耐高温オフセット性に優れ、ロングライフ性にも優れるトナー;前記トナーが収容されたトナーカートリッジ及び画像形成装置を提供することである。
【解決手段】実施形態のトナーは結晶性ポリエステル樹脂と、融解温度が99~108℃の非結晶性ポリエステル樹脂Aと、融解温度が140~150℃の非結晶性ポリエステル樹脂Bと、エステルワックスと、着色剤とを持つ。結晶性ポリエステル樹脂の割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計Tに対して5~15質量%である。非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合は、前記合計Tに対して50~60質量%である。非結晶性ポリエステル樹脂Bの割合は、前記合計Tに対して20~30質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステル樹脂と、融解温度が99~108℃である非結晶性ポリエステル樹脂Aと、融解温度が140~150℃である非結晶性ポリエステル樹脂Bと、エステルワックスと着色剤とを含み、
前記結晶性ポリエステル樹脂の割合が、前記結晶性ポリエステル樹脂、前記非結晶性ポリエステル樹脂A、前記非結晶性ポリエステル樹脂B、前記エステルワックス及び前記着色剤の合計100質量%に対して5~15質量%であり、
前記非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合が、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、前記結晶性ポリエステル樹脂、前記非結晶性ポリエステル樹脂A、前記非結晶性ポリエステル樹脂B、前記エステルワックス及び前記着色剤の合計100質量%に対して50~60質量%であり、
前記非結晶性ポリエステル樹脂Bの割合が、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、前記結晶性ポリエステル樹脂、前記非結晶性ポリエステル樹脂A、前記非結晶性ポリエステル樹脂B、前記エステルワックス及び前記着色剤の合計100質量%に対して20~30質量%である、トナー。
【請求項2】
下式で算出されるエステルワックス残存率が、75~95%である、請求項1に記載のトナー。
エステルワックス残存率(%)=(W1/W0)×100
式中、W0は、前記トナーについて示差走査熱量計を用いて測定される吸熱量(J/g)であり;W1は、前記トナーと水と界面活性剤とを含む分散液を50℃で1時間加熱した後、室温に下がるまで静置し、次いで、前記分散液の上澄み液を除去して得られる固形分を乾燥した後の粒子について示差走査熱量計を用いて測定される吸熱量(J/g)である。
【請求項3】
前記エステルワックスの割合が、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、前記結晶性ポリエステル樹脂、前記非結晶性ポリエステル樹脂A、前記非結晶性ポリエステル樹脂B、前記エステルワックス及び前記着色剤の合計100質量%に対して3~10質量%である、請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のトナーが収容された、トナーカートリッジ。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のトナーが収容された、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、トナー、トナーカートリッジ、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーは、低温定着性に優れた低温定着トナーとして使用されることがある(例えば、特許文献1)。低温定着トナーは低温定着性に優れる。また、低温オフセットが起きにくい。一方で、低温定着トナーには高温オフセットが起きやすいという問題がある。
加えて、低温定着トナーは耐熱性が不充分である。そのため低温定着トナーは、画像形成装置等の機体内で熱変化しやすい。結果、低温定着トナーを長期間使用すると機体内のトナー飛散量が多くなる。そのため、低温定着トナーは、ロングライフ性に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、耐低温オフセット性及び耐高温オフセット性に優れ、ロングライフ性にも優れるトナー;前記トナーが収容されたトナーカートリッジ及び画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のトナーは、結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂Aと非結晶性ポリエステル樹脂Bとエステルワックスと着色剤とを持つ。
非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度は、99~108℃である。非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して50~60質量%である。
非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度は、140~150℃である。非結晶性ポリエステル樹脂Bの割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して20~30質量%である。
結晶性ポリエステル樹脂の割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して5~15質量%である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態の画像形成装置の概略構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態のトナーについて説明する。
実施形態のトナーは、結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂Aと非結晶性ポリエステル樹脂Bとエステルワックスと着色剤とを含む。
【0008】
結晶性ポリエステル樹脂について説明する。
結晶性ポリエステル樹脂はバインダー樹脂として機能する。結晶性ポリエステル樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
実施形態においては、軟化温度と融解温度との比(軟化温度/融解温度)が0.8~1.2であるポリエステル樹脂を「結晶性ポリエステル樹脂」とする。また、軟化温度と融解温度との比(軟化温度/融解温度)が0.8未満であるか、1.2超であるポリエステル樹脂を「非結晶性ポリエステル樹脂」とする。
【0009】
結晶性ポリエステル樹脂としては、例えば、2価以上のアルコールと2価以上のカルボン酸との縮合重合物が挙げられる。
2価以上のアルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン、グリセリン、ペンタエリストール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。2価以上のアルコールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
2価以上のカルボン酸としては、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、アルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、これらの酸無水物又はこれらのエステル等が挙げられる。
アルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸としては、炭素数2~20のアルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸が挙げられる。例えば、n-ドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸等が挙げられる。2価以上のカルボン酸としては、フマル酸が好ましい。
ただし、結晶性ポリエステル樹脂はここで例示した2価以上のアルコールと2価以上のカルボン酸との縮合重合物に限定されない。結晶性ポリエステル樹脂は、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0010】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、60~120℃が好ましく、70~115℃がより好ましく、80~110℃がさらに好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点が前記下限値以上であると、トナーがロングライフ性にさらに優れる。結晶性ポリエステル樹脂の融点が前記上限値以下であると、低温定着性がさらに向上する。
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、例えば、示差走査熱量計(DSC)による最大吸熱ピーク温度として測定できる。
【0011】
結晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量は、6×103~1.8×104が好ましく、8×103~1.4×104がより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量が前記下限値以上であると、低温定着性がさらに向上する。結晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量が前記上限値以下であると、耐低温オフセット性がさらに優れる。
結晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の値である。
【0012】
非結晶性ポリエステル樹脂Aについて説明する。
非結晶性ポリエステル樹脂Aはバインダー樹脂として機能する。非結晶性ポリエステル樹脂Aは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度は、99~108℃である。非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度が99℃以上であるため、実施形態のトナーは耐高温オフセット性に優れる。また、非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度が108℃以下であるため、実施形態のトナーは耐低温オフセット性に優れる。
非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度は、例えば、定試験力押出形細管式レオメータ(フローテスタ)により測定できる。
【0014】
非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度は、102~105℃が好ましい。非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度が前記数値範囲の下限値以上であると、耐高温オフセット性がさらに優れる。また、非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度が前記数値範囲の上限値以下であると、耐低温オフセット性がさらに優れる。
【0015】
非結晶性ポリエステル樹脂Aの質量平均分子量は、9.0×103~1.5×104が好ましく、1.0×104~1.4×104がより好ましく、1.1×104~1.3×104がさらに好ましい。非結晶性ポリエステル樹脂Aの質量平均分子量が前記数値範囲内であると、融解温度が99~108℃となりやすい。
また、非結晶性ポリエステル樹脂Aの質量平均分子量が前記下限値以上であると、定着時のトナーの粘度が高くなり、耐高温オフセット性がさらに優れる。非結晶性ポリエステル樹脂Aの質量平均分子量が前記上限値以下であると、定着時のトナーの粘度が低くなる。そのため、トナーが定着時にローラに付着しにくく、耐低温オフセット性がさらに優れる。
非結晶性ポリエステル樹脂Aの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算の値である。
【0016】
非結晶性ポリエステル樹脂Aとしては、例えば、2価以上のカルボン酸と2価以上のアルコールとの縮合重合物が挙げられる。
2価以上のカルボン酸としては、2価以上のカルボン酸、2価以上のカルボン酸の酸無水物、2価以上のカルボン酸のエステル等が挙げられる。2価以上のカルボン酸のエステルとしては、2価以上のカルボン酸の低級アルキル(炭素数1~12)エステルが挙げられる。
【0017】
2価のカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、アルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸等が挙げられる。ただし、2価のカルボン酸はこれらの例示に限定されない。
前記アルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸としては、炭素数2~20のアルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸が挙げられる。例えば、n-ドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸等が挙げられる。また、前記2価のカルボン酸の酸無水物又は前記2価のカルボン酸のエステルが用いられてもよい。
2価のカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、炭素数2~20のアルケニル基で置換されたコハク酸が好ましい。
2価のカルボン酸は、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0018】
3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸、これらの酸無水物又はこれらのエステル等が挙げられる。ただし、3価以上のカルボン酸はこれらの例示に限定されない。
3価以上のカルボン酸としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、その酸無水物又はその低級アルキル(炭素数1~12)エステルが好ましい。
3価以上のカルボン酸は、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0019】
2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。ただし、2価のアルコールはこれらの例示に限定されない。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物としては、ビスフェノールAに、炭素数2~3のアルキレンオキシドを平均1~10モル付加した化合物が挙げられる。ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物としては、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)-ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
2価のアルコールとしては、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物が好ましい。2価のアルコールは、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0020】
3価以上のアルコールとしては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。ただし、3価以上のアルコールはこれらの例示に限定されない。
3価以上のアルコールとしては、ソルビトール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパンが好ましい。
3価以上のアルコールは、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0021】
これらの2価以上のカルボン酸、2価以上のアルコールのなかから、非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度が99~108℃となるようにカルボン酸、アルコールが選択される。
非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度、質量平均分子量は、例えば、2価以上のカルボン酸、2価以上のアルコールの種類及びこれらの組成の選択、重合時間の変更により調整できる。
【0022】
2価以上のアルコールと2価以上のカルボン酸とを縮合重合する際には、反応を促進させるため、通常使用されている触媒が用いられてもよい。触媒としては、例えば、酸化ジブチル錫、チタン化合物、ジアルコキシ錫(II)、酸化錫(II)、脂肪酸錫(II)、ジオクタン酸錫(II)、ジステアリン酸錫(II)等が挙げられる。
【0023】
非結晶性ポリエステル樹脂Bについて説明する。
非結晶性ポリエステル樹脂Bはバインダー樹脂として機能する。非結晶性ポリエステル樹脂Bは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度は、140~150℃である。非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度が140℃以上であるため、実施形態のトナーは、耐高温オフセット性に優れ、ロングライフ性にも優れる。また、非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度が150℃以下であるため、実施形態のトナーは耐低温オフセット性に優れる。
非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度は、例えば、定試験力押出形細管式レオメータ(フローテスタ)により測定できる。
【0025】
非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度は、142~148℃が好ましい。非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度が前記数値範囲の下限値以上であると、耐高温オフセット性、ロングライフ性がさらに優れる。また、非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度が前記数値範囲の上限値以下であると、耐低温オフセット性がさらに優れる。
【0026】
非結晶性ポリエステル樹脂Bの質量平均分子量は、2.5×104~3.4×104が好ましく、2.6×104~3.3×104がより好ましく、2.7×104~3.1×104がさらに好ましい。非結晶性ポリエステル樹脂Bの質量平均分子量が前記数値範囲内であると、融解温度が140~150℃となりやすい。
また、非結晶性ポリエステル樹脂Bの質量平均分子量が前記下限値以上であると、定着時のトナーの粘度が高くなり、耐高温オフセット性がさらに優れる。非結晶性ポリエステル樹脂Bの質量平均分子量が前記上限値以下であると、定着時のトナーの粘度が低くなり、耐低温オフセット性がさらに優れる。
非結晶性ポリエステル樹脂Bの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算の値である。
【0027】
非結晶性ポリエステル樹脂Bとしては、例えば、2価以上のカルボン酸と2価以上のアルコールとの縮合重合物が挙げられる。
2価以上のカルボン酸、2価以上のアルコールとしては、例えば、非結晶性ポリエステル樹脂Aについて説明したものと同様のものが挙げられる。これらの2価以上のカルボン酸、2価以上のアルコールのなかから、融解温度が100℃以上となるようにカルボン酸、アルコールが選択される。
非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度、質量平均分子量は、例えば、2価以上のカルボン酸、2価以上のアルコールの種類及びこれらの組成の選択、重合時間の変更により調整できる。
【0028】
実施形態のトナーは、耐低温オフセット性、耐高温オフセット性、ロングライフ性の点から、非結晶性ポリエステル樹脂A及び非結晶性ポリエステル樹脂B以外の他の非結晶性ポリエステル樹脂を含まないことが好ましい。他の非結晶性ポリエステル樹脂とは、融解温度が99℃未満である非結晶性ポリエステル樹脂、融解温度が108℃超140℃未満である非結晶性ポリエステル樹脂、及び融解温度が150℃超である非結晶性ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。
【0029】
エステルワックスについて説明する。
エステルワックスは離型剤として機能するエステル化合物である。エステルワックスとしては、トナーの耐熱性、ロングライフ性の点から、下記の特定のエステルワックスαが好ましい。
エステルワックスα:少なくとも3種類以上のカルボン酸からなる第1のモノマー群と、少なくとも2種類以上のアルコールからなる第2のモノマー群との縮合重合物。
エステルワックスαは、炭素数の異なる2種類以上のエステル化合物からなる。
【0030】
エステルワックスαに関し、第1のモノマー群について説明する。
第1のモノマー群のカルボン酸の種類数は、エステルワックスαの入手が容易である点から、7種類以下が好ましく、5種類以下がより好ましく、4種類以下がさらに好ましい。
ここで、第1のモノマー群中における含有量が最大であるカルボン酸の炭素数をCnとする。炭素数Cnは19~28が好ましく、19~24がより好ましく、20~24がさらに好ましい。炭素数Cnが前記下限値以上であると、エステルワックスαの耐熱性が向上する。炭素数Cnが前記上限値以下であると、トナーの低温定着性がさらに向上する。
【0031】
最大含有量である炭素数Cnのカルボン酸の割合は、第1のモノマー群100質量%に対して70~95質量%が好ましく、80~95質量%がより好ましく、85~95質量%がさらに好ましい。炭素数Cnのカルボン酸の割合が前記下限値以上であると、エステルワックスαの炭素数分布の極大ピークが高炭素数側に位置しやすい。そのため、トナーの耐熱性が向上する。炭素数Cnのカルボン酸の割合が前記上限値以下であると、エステルワックスαの入手が容易である。
【0032】
第1のモノマー群中の炭素数18以下のカルボン酸の割合は、第1のモノマー群100質量%に対して0~5質量%が好ましく、0~1質量%がより好ましい。炭素数18以下のカルボン酸の割合が前記下限値以上であると、エステルワックスαの入手が容易である。炭素数18以下のカルボン酸の割合が前記上限値以下であると、エステルワックスαにおいて相対的に分子量が低いエステル化合物の割合が少なくなる。その結果、トナーの耐熱性が向上する。
第1のモノマー群における各炭素数のカルボン酸の含有量は、例えば、エステルワックスαをメタノリシス反応後の生成物についてFD-MS(Field Desorption Mass Spectrometry)による質量分析で測定できる。
【0033】
第1のモノマー群におけるカルボン酸としては、エステルワックスαの入手が容易である点から長鎖カルボン酸が好ましく、長鎖アルキルカルボン酸が好ましい。長鎖カルボン酸は、エステルワックスαに求められる特性、性能等に応じて適宜選択される。
長鎖カルボン酸としては、炭素数19~28の長鎖カルボン酸が好ましく、炭素数20~24の長鎖カルボン酸がより好ましい。長鎖カルボン酸の炭素数が前記下限値以上であると、エステルワックスαの耐熱性が向上する。長鎖カルボン酸の炭素数が前記上限値以下であると、トナーの低温定着性がさらに向上する。
長鎖アルキルカルボン酸として、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキデン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸等が挙げられる。
【0034】
エステルワックスαに関し、第2のモノマー群について説明する。
第2のモノマー群のアルコールの種類数は、エステルワックスαの入手が容易である点から、5種類以下が好ましく、4種類以下がより好ましく、3種類以下がさらに好ましい。
ここで、第2のモノマー群中における含有量が最大であるアルコールの炭素数をCmとする。炭素数Cmは19~28が好ましく、20~24がより好ましく、20~22がさらに好ましい。炭素数Cmが前記下限値以上であると、エステルワックスαの耐熱性が向上する。炭素数Cmが前記上限値以下であると、トナーの低温定着性が向上する。
【0035】
最大含有量である炭素数Cmのアルコールの割合は、第2のモノマー群100質量%に対して70~90質量%が好ましく、80~90質量%がより好ましく、85~90質量%がさらに好ましい。炭素数Cmのアルコールの割合が前記下限値以上であると、エステルワックスαの炭素数分布の極大ピークが高炭素数側に位置しやすい。そのため、トナーの耐熱性が向上する。炭素数Cmのアルコールの割合が前記上限値以下であると、エステルワックスαの入手が容易である。
【0036】
第2のモノマー群中の炭素数18以下のアルコールの割合は、第2のモノマー群100質量%に対して20質量%以下が好ましく、10~20質量%がより好ましく、15~20質量%がさらに好ましい。炭素数18以下のアルコールの割合が前記下限値以上であると、エステルワックスαの入手が容易である。炭素数18以下のアルコールの割合が前記上限値以下であると、エステルワックスαにおいて相対的に分子量が低いエステル化合物の割合が少なくなる。そのため、トナーの耐熱性が向上する。
第2のモノマー群における各炭素数のアルコールの含有量は、例えば、エステルワックスαをメタノリシス反応後の生成物についてFD-MSによる質量分析で測定できる。
【0037】
第2のモノマー群におけるアルコールとしては、エステルワックスαの入手が容易である点から長鎖アルコールが好ましく、長鎖アルキルアルコールがより好ましい。長鎖アルコールは、エステルワックスαに求められる特性、性能等に応じて適宜選択される。
長鎖アルコールとしては、炭素数19~28の長鎖アルコールが好ましく、炭素数20~22の長鎖アルコールがより好ましい。長鎖アルコールの炭素数が前記下限値以上であると、エステルワックスαの耐熱性が向上する。長鎖アルコールの炭素数が前記上限値以下であると、トナーの低温定着性が向上する。
長鎖アルキルアルコールとしては、例えば、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキデルアルコール、ベヘニルアルコール、リグノセリルアルコール、セリルアルコール、モンタニルアルコールが挙げられる。
【0038】
エステルワックスαにおいては、エステルワックスαを構成するエステル化合物のうち最大含有量である炭素数Clのエステル化合物が存在することが好ましい。炭素数Clは、43以上が好ましく、43~56がより好ましく、43~52がさらに好ましく、44~46が特に好ましく、44が最も好ましい。炭素数Clが前記下限値以上であると、トナーの耐熱性が向上する。炭素数Clが前記上限値以下であると、エステルワックスαの入手が容易である。
【0039】
炭素数Clのエステル化合物は、下式(I)で表される。
R1COOR2 ・・・(I)
式(I)中のR1及びR2はアルキル基である。R1とR2の炭素数の合計は42以上が好ましく、42~55がより好ましく、42~51がさらに好ましく、43~45が特に好ましく、43が最も好ましい。R1とR2の炭素数の合計が前記下限値以上であると、トナーの耐熱性が向上する。R1とR2の炭素数の合計が前記上限値以下であると、エステルワックスαの入手が容易である。R1の炭素数は、例えば、炭素数Cnのカルボン酸の炭素数Cnを調整することで制御できる。R2の炭素数は、例えば、炭素数Cmのアルコールの炭素数Cmを調整することで制御できる。
【0040】
炭素数Clのエステル化合物の割合は、エステルワックスα100質量%に対して65質量%以上が好ましく、65~90質量%がより好ましく、70~90質量%がさらに好ましく、80~90質量%が特に好ましい。炭素数Clのエステル化合物の割合が前記下限値以上であると、エステルワックスαの炭素数分布の極大ピークが充分高くなる。その結果、トナーの耐熱性が向上する。
炭素数Clのエステル化合物の割合が前記上限値以下であると、エステルワックスαの入手が容易である。
【0041】
エステルワックスαの炭素数分布は、炭素数43以上の領域に極大ピークを1つだけ有することが好ましい。この場合、相対的に分子量が低いエステル化合物の割合が少なくなる。その結果、トナーの耐熱性が向上する。
エステルワックスαの炭素数分布において、極大ピークの位置は、炭素数43~56の領域が好ましく、炭素数44~52の領域がより好ましく、炭素数44~46の領域がさらに好ましく、炭素数44が最も好ましい。極大ピークの位置が前記下限値以上の炭素数の領域にあると、トナーの耐熱性が向上する。極大ピークの位置が前記上限値以下の炭素数の領域にあると、エステルワックスαの入手が容易である。
エステルワックスαにおける各炭素数のエステル化合物の含有量は、例えば、FD-MSによる質量分析で測定できる。
【0042】
エステルワックスαの融点は、60~85℃が好ましく、65~80℃がより好ましく、65~75℃がさらに好ましい。エステルワックスαの融点が前記下限値以上であると、トナーの耐熱性が向上する。また、高温環境下でオフセットが起きにくい。エステルワックスαの融点が前記上限値以下であると、トナーの低温定着性が向上する。
エステルワックスαの融点は、例えば、DSCによる最大吸熱ピーク温度として測定できる。
【0043】
エステルワックスαは、例えば、長鎖カルボン酸と長鎖アルコールとをエステル化反応させることで合成できる。エステル化反応においては、少なくとも3種類以上の長鎖アルキルカルボン酸と少なくとも2種類以上の長鎖アルキルアルコールを使用することが好ましい。長鎖アルキルカルボン酸、長鎖アルキルアルコールの各炭素数、各使用量の調整により、エステルワックスαに含まれるエステル化合物の炭素数分布を調整できる。
エステル化反応は、例えば、窒素気流下で加熱しながら行うことができる。エステル化反応物は、エタノール、トルエン等を含む溶媒により溶解し、さらに、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液を添加し、有機層と水層に分離して精製してもよい。水層を除去することで、エステルワックスαが得られる。精製操作は、複数回繰り返すことが好ましい。
【0044】
着色剤について説明する。
着色剤は特に限定されない。例えば、カーボンブラック、シアン、イエロー、マゼンタ系の顔料、染料等が挙げられる。
カーボンブラックとしては、アニリンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
顔料、染料としては、例えば、ファーストイエローG、ベンジジンイエロー、クロムイエロー、キノリンイエロー、インドファストオレンジ、イルガジンレッド、カーミンFB、パーマネントボルドーFRR、ピグメントオレンジR、リソールレッド2G、レーキレッドC、ローダミンFB、ローダミンBレーキ、デュポンオイルレッド、フタロシアニンブルー、ピグメントブルー、アニリンブルー、カルコイルブルー、ウルトラマリンブルー、ブリリアントグリーンB、フタロシアニングリーン、マラカイトグリーンオキサレート、メチレンブルークロライド、ローズベンガル、キナクリドン等が挙げられる。
着色剤としては、カラーインデックスナンバーによる表記で、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6、7、C.I.ピグメントイエロー1、12、14、17、34、74、83、97、155、180、185、C.I.ピグメントオレンジ48、49、C.I.ピグメントレッド5、12、31、48、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49、53、53:1、53:2、53:3、57、57:1、81、81:4、122、146、150、177、185、202、206、207、209、238、269、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、75、76、79、C.I.ピグメントグリーン1、7、8、36、42、58、C.I.ピグメントバイオレット1、19、42、C.I.アシッドレッド52等が挙げられる。
【0045】
他の成分について説明する。
実施形態のトナーは、実施形態に開示の効果が得られる範囲内であれば、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤以外の他の成分をさらに含んでもよい。
他の成分としては、他のバインダー樹脂、荷電制御剤、界面活性剤、塩基性化合物、凝集剤、pH調整剤、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。ただし、添加剤は、これらの例示に限定されない。添加剤は、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0046】
他のバインダー樹脂について説明する。
他のバインダー樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A及び非結晶性ポリエステル樹脂B以外のバインダー樹脂である。他のバインダー樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アリルフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、マレイン酸系樹脂が挙げられる。ただし、他のバインダー樹脂は、これらの例示に限定されない。
他のバインダー樹脂は、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0047】
スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アリルフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、マレイン酸系樹脂は、例えば、ビニル重合性単量体を単独で又は複数種で重合することにより得られる。
ビニル重合性単量体としては、例えば、芳香族系ビニル単量体、エステル系単量体、カルボン酸含有単量体、アミン系単量体が挙げられる。
芳香族系ビニル単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、フェニルスチレン、クロロスチレン、これらの誘導体が挙げられる。
エステル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、これらの誘導体が挙げられる。
カルボン酸含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、これらの誘導体が挙げられる。
アミン系単量体としては、例えば、アミノアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、これらの誘導体が挙げられる。
【0048】
他のバインダー樹脂は、アルコール成分とカルボン酸成分とからなる重合性単量体成分の重縮合によって得てもよい。重合性単量体成分の重縮合に際しては、連鎖移動剤、架橋剤、重合開始剤、界面活性剤、凝集剤、pH調整剤、消泡剤等の種々の助剤を用いてもよい。
【0049】
荷電制御剤について説明する。
トナーが荷電制御剤を含有する場合、トナーが紙等の記録媒体上に転写されやすくなる。荷電制御剤としては、含金属アゾ化合物、含金属サリチル酸誘導体化合物、金属酸化物疎水化処理物、ポリサッカライドの包接化合物等が挙げられる。含金属アゾ化合物としては、金属が鉄、コバルトもしくはクロムである錯体又は錯塩、これらの混合物が好ましい。含金属サリチル酸誘導体化合物、金属酸化物疎水化処理物としては、金属がジルコニウム、亜鉛、クロムもしくはボロンの錯体又は錯塩、これらの混合物が好ましい。ポリサッカライドの包接化合物としては、アルミニウム(Al)とマグネシウム(Mg)を含むポリサッカライドの包接化合物が好ましい。
【0050】
トナーの各成分の割合について説明する。
結晶性ポリエステル樹脂の割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して5~15質量%である。結晶性ポリエステル樹脂の割合が前記数値範囲の下限値以上であるため、実施形態のトナーは耐低温オフセット性に優れる。また、結晶性ポリエステル樹脂の割合が前記数値範囲の上限値以下であるため、実施形態のトナーはロングライフ性に優れる。
これらの点から結晶性ポリエステル樹脂の割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して5~15質量%が好ましく、7~13質量%がより好ましい。
【0051】
非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して50~60質量%である。非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合が前記数値範囲の下限値以上であるため、実施形態のトナーは耐低温オフセット性に優れる。また、非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合が前記数値範囲の上限値以下であるため、実施形態のトナーは耐高温オフセット性に優れる。
これらの点から非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して52~58質量%が好ましく、53~57質量%がより好ましい。
【0052】
非結晶性ポリエステル樹脂Bの割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して20~30質量%である。非結晶性ポリエステル樹脂Bの割合が前記数値範囲の下限値以上であるため、実施形態のトナーは耐高温オフセット性に優れる。また、非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合が前記数値範囲の上限値以下であるため、実施形態のトナーは耐低温オフセット性に優れる。
これらの点から非結晶性ポリエステル樹脂Bの割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して22~28質量%が好ましく、23~27質量%がより好ましい。
【0053】
エステルワックスの割合は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して3~10質量%が好ましく、4~9質量%がより好ましく、5~8質量%がさらに好ましい。エステルワックスの含有量が前記下限値以上であると、耐低温オフセット性がさらに優れる。エステルワックスの割合が前記上限値以下であると、ロングライフ性がさらに優れる。
【0054】
着色剤の含有量は、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対して3~10質量%が好ましく、4~8質量%がより好ましい。着色剤の含有量が前記下限値以上であると、トナーが色再現性に優れる。また、着色剤の含有量が前記上限値以下であると、着色剤の分散性が向上し、トナーが低温定着性にさらに優れる。また、トナーの帯電量の制御が容易である。
【0055】
トナーのエステルワックス残存率について説明する。
エステルワックス残存率は、ロングライフ性の指標として機能する。エステルワックス残存率は、下式で算出される。
エステルワックス残存率(%)=(W1/W0)×100
式中、W0は、前記トナーについてDSCを用いて測定される吸熱量(J/g)であり;W1は、前記トナーと水と界面活性剤とを含む分散液を50℃で1時間加熱した後、室温に下がるまで静置し、次いで、前記分散液の上澄み液を除去して得られる固形分を乾燥した後の粒子についてDSCを用いて測定される吸熱量(J/g)である。ここで、界面活性剤は特に限定されない。カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤のいずれも使用され得る。
【0056】
実施形態のトナーは非結晶性ポリエステル樹脂B等の高分子量成分を含むことから、エステルワックスの分散性が悪化しやすい。結果、トナーの粒子表面にエステルワックスが露出しやすく、ロングライフ性が低下しやすい。
エステルワックス残存率は、75~95%が好ましく、78%~92%がより好ましく、81%~89%がさらに好ましい。エステルワックス残存率が前記下限値以上であると、ロングライフ性がさらに優れる。
【0057】
トナー母粒子について説明する。
実施形態のトナーは、トナー母粒子を有してもよい。トナー母粒子は、結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂Aと非結晶性ポリエステル樹脂Bとエステルワックスと着色剤とを含む。
【0058】
結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計の割合は、実施形態に開示の効果が得られる範囲内であれば特に制限されない。例えば、トナー母粒子100質量%に対し97~100質量%が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0059】
トナーが他の成分を含む場合、耐低温オフセット性、耐高温オフセット性及びロングライフ性の点から、他の成分の割合はトナー母粒子100質量%に対して0.1~3質量%が好ましく、0質量%がより好ましい。
【0060】
外添剤について説明する。
実施形態のトナーは、トナー母粒子と外添剤とを有してもよい。外添剤はトナー母粒子の表面に付着している。
外添剤としては、無機酸化物からなる粒子が挙げられる。無機酸化物からなる粒子は、安定性が向上する点から、疎水化剤で表面処理されてもよい。
無機酸化物としては、シリカ、チタニア、アルミナ、チタン酸ストロンチウム、酸化チタン、酸化錫等が挙げられる。
外添剤は、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0061】
シリカは、二酸化ケイ素の粒子である。シリカは特に限定されない。例えば、湿式シリカ、焼成シリカ、疎水性シリカが挙げられるが、これらの例示の他にも種々のシリカを使用できる。
湿式シリカは、例えば、珪砂を原料とする珪酸ソーダを原料とし、珪酸ソーダを含む水溶液を中和してシリカを析出し、ろ過、乾燥する方法(液相法)で製造できる。これに対し、焼成シリカ(乾式シリカ)は、四塩化珪素を高温の炎の中で反応させて得られる。
疎水性シリカの疎水化度は、例えば、下記の方法で測定できる。イオン交換水50ml、試料0.2gをビーカーに入れ、マグネティックスターラーで攪拌しながらビュレットからメタノールを滴下する。次にビーカー内のメタノール濃度が増加するにつれ粉体は徐々に沈降していき、その全量が沈んだ終点におけるメタノールとイオン交換水の混合溶液中のメタノールの容量%を疎水化度(%)とする。
【0062】
外添剤の含有量は、トナー母粒子100質量部に対して、2~15質量部が好ましく、4~10質量部がより好ましく、4~8質量部がさらに好ましい。外添剤の含有量が前記下限値以上であると、トナーの帯電量を充分に確保しやすい。外添剤の含有量が前記上限値以下であると、トナーの帯電量が過剰に高くなりくい。そのため、トナーの帯電量が適度に維持されやすい。
【0063】
トナーの製造方法について説明する。
トナーは、例えば、混錬粉砕法、ケミカル法によって製造できる。
【0064】
混練粉砕法について説明する。
混練粉砕法としては、例えば、下記の混合工程と混練工程と粉砕工程を含む製造方法が挙げられる。混練粉砕法は、下記の分級工程を必要に応じてさらに含んでもよい。
・混合工程:少なくとも結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂Aと非結晶性ポリエステル樹脂Bとエステルワックスと着色剤とを混合して混合物を得る工程。
・混練工程:前記混合物を溶融混練して混練物を得る工程。
・粉砕工程:前記混練物を粉砕して粉砕物を得る工程。
・分級工程:前記粉砕物を分級する工程。
【0065】
混合工程では、トナーの原料が混合されて混合物が得られる。混合工程では混合機が用いられてもよい。混合機は特に限定されない。混合工程では、他のバインダー樹脂、他の成分が必要に応じて使用されてもよい。
混練工程では、混合工程で得られた混合物が溶融混練されて混練物が得られる。混練工程は混練機が用いられてもよい。混練機は特に限定されない。
粉砕工程では、混練工程で得られた混練物が粉砕されて粉砕物が得られる。粉砕工程では粉砕機が用いられてもよい。粉砕機としては、ハンマーミル等の種々の粉砕機を用いることができる。また、粉砕機で得られた粉砕物はさらに微粉砕されてもよい。粉砕物をさらに微粉砕する粉砕機としては、種々の粉砕機を用いることができる。粉砕工程で得られた粉砕物は、このままトナー母粒子とされてもよく、必要に応じて分級工程を経てトナー母粒子とされてもよい。
分級工程では、粉砕工程で得られた粉砕物が分級される。分級工程では分級機が用いられてもよい。分級機は特に限定されない。
【0066】
ケミカル法について説明する。
ケミカル法では、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス、着色剤、必要に応じて他のバインダー樹脂、他の成分を混合して混合物を得る。次に混合物を溶融混練して混練物を得る。次に混練物を粉砕して粗く粒状化された中砕粒子を得る。次に中砕粒子を水系媒体と混合して混合液を調製する。次に混合液を機械的せん断に供して微粒子分散液を得る。最後に微粒子分散液中で微粒子を凝集させてトナー母粒子とする。
【0067】
外添剤の混合方法について説明する。
外添剤は、例えば、混合機によりトナー母粒子と混合される。混合機は特に限定されない。外添剤とトナー母粒子との混合により、外添剤はトナー母粒子の表面に付着する。
外添剤は、必要に応じて篩い装置により篩分けされてもよい。篩い装置は特に限定されない。種々の篩い装置を用いることができる。
【0068】
以上述べた少なくともひとつの実施形態のトナーは、耐低温オフセット性及び耐高温オフセット性に優れ、ロングライフ性にも優れる。
【0069】
実施形態のトナーカートリッジについて説明する。
実施形態のトナーカートリッジは、上述の実施形態のトナーが収容されている。例えば、トナーカートリッジは、容器を有し、前記容器に実施形態のトナーが収容されている。容器は特に限定されず、画像形成装置に適用可能な種々の容器を用いることができる。
実施形態のトナーは一成分現像剤として用いてもよく、キャリアと組み合わせて二成分現像剤として用いてもよい。
【0070】
以下、実施形態の画像形成装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態の画像形成装置の概略構造の一例を示す図である。
実施形態の画像形成装置20は、画像形成ユニット17Aと、定着装置21とを備えた装置本体を有する。定着装置21は、画像形成ユニット17Aの下流に設けられている。
【0071】
画像形成ユニット17Aは、感光体ドラム1a、クリーニング装置16a、帯電装置2a、露光装置3a、現像器4a、転写ローラ10を有する。クリーニング装置16a、帯電装置2a、露光装置3a、現像器4a、転写ローラ10は、感光体ドラム1aの回転方向に沿ってこの順に設けられている。
現像器4a内には、上述の実施形態のトナーが収容されている。画像形成装置20において、トナーはトナーカートリッジ5から供給され得る。
【0072】
定着装置21は、画像形成ユニット17Aの下流に設けられている。定着装置21は、互いに対向するように配置されたヒートローラ11とプレスローラ12とを有する。定着装置21は、トナー像を記録媒体に定着させるための装置である。ヒートローラ11とプレスローラ12によって加熱及び加圧されることで、トナー像が紙に定着される。
【0073】
画像形成装置20により、例えば以下のようにして画像形成が行われる。
まず、帯電装置2aにより、感光体ドラム1aを一様に帯電させる。次に、露光装置3aにより露光を行い、感光体ドラム1aに静電潜像を形成する。次に、現像器4aから供給される実施形態のトナーにて現像を行い、感光体ドラム1a上にトナー像を得る。次に、トナー像が感光体1aから記録媒体に転写ローラ10によって直接転写され、画像が形成される。感光体1aに残ったトナーはクリーニング装置16aにより除去される。
【0074】
図1に示す画像形成装置は、トナー像を定着させる形態である。ただし、実施形態の画像形成装置はこの形態に限定されない。他の実施形態に係る画像形成装置は、例えば、インクジェット式の形態であってもよい。
【実施例0075】
以下、実施例を示し、実施形態をより具体的に説明する。
【0076】
各例で使用された非結晶性ポリエステル樹脂Aの融解温度(TmA)、質量平均分子量(Mw)は、以下の通りである。
・非結晶性ポリエステル樹脂A1(TmA:104℃、Mw:1.2×104)
・非結晶性ポリエステル樹脂A2(TmA:99℃、Mw:9.2×103)
・非結晶性ポリエステル樹脂A3(TmA:108℃、Mw:1.4×104)
・非結晶性ポリエステル樹脂A4(TmA:98℃、Mw:8.7×103)
・非結晶性ポリエステル樹脂A5(TmA:110℃、Mw:1.6×104)
【0077】
各例で使用された非結晶性ポリエステル樹脂Bの融解温度(TmB)、質量平均分子量(Mw)は、以下の通りである。
・非結晶性ポリエステル樹脂B1(TmB:145℃、Mw:2.9×104)
・非結晶性ポリエステル樹脂B2(TmB:140℃、Mw:3.2×104)
・非結晶性ポリエステル樹脂B3(TmB:150℃、Mw:2.6×104)
・非結晶性ポリエステル樹脂B4(TmB:138℃、Mw:3.4×104)
・非結晶性ポリエステル樹脂B5(TmB:152℃、Mw:2.4×104)
・非結晶性ポリエステル樹脂B6(TmB:132℃、Mw:9.0×104)
【0078】
非結晶性ポリエステル樹脂A、Bの融解温度(Tm)の測定方法について説明する。
各例のトナーを応圧機で圧力をかけ、ペレット状に成形した。このペレットについてフローテスタ「CFT-500D 株式会社島津製作所製)」を用いて、以下の条件で非晶性ポリエステル樹脂A、Bの融解温度(Tm)を測定した。
測定開始温度:30℃
測定終了温度:200℃
荷重:10kgf
昇温速度:10℃/min
フローテスタにおいて、溶融流出が始まる流出開始温度と、試料の全てが溶融流出する流出終了温度との中点(1/2)に相当する温度を、融解温度(Tm)とした。
【0079】
各例で使用された結晶性ポリエステル樹脂の融点は101℃であり、質量平均分子量(Mw)は9.5×103である。
【0080】
エステルワックス、結晶性ポリエステル樹脂の融点の測定方法について説明する。
エステルワックスの融点は、DSC「DSC Q2000(ティー・エイ・インスツルメント製)」により測定された。測定条件は、以下のとおりである。
試料量:5mg。
蓋及びパン:アルミナ。
昇温速度:10℃/min。
測定方法:試料を20℃から200℃まで昇温する。その後、試料を20℃以下まで冷却する。再度、試料を加熱して55~80℃付近の温度範囲において測定される最大吸熱ピーク温度を融点とした。
結晶性ポリエステル樹脂の融点も上記と同様に測定した。ただし、再度、試料を加熱して75~120℃付近の温度範囲において測定される最大吸熱ピーク温度を結晶性ポリエステル樹脂の融点とした。
【0081】
実施例で使用されたエステルワックスの調製について説明する。
攪拌器、熱電対、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコに、少なくとも3種類以上の長鎖アルキルカルボン酸80質量部と、少なくとも2種類以上の長鎖アルキルアルコール20質量部を投入した。窒素気流下、220℃でエステル化反応を行い、反応物を得た。得られた反応物をトルエン及びエタノールの混合溶媒を添加して反応物を溶解した。さらに、フラスコに水酸化ナトリウム水溶液を添加し、70℃で30分間撹拌した。さらに30分間静置し、フラスコの内容物を有機層と水層に分離し、内容物から水層を除去した。その後、フラスコにイオン交換水を添加して、70℃で30分間撹拌した。フラスコを30分間静置し、フラスコ内の内容物を水層と有機層とに分離し、内容物から水層を除去した。この操作を5回繰り返した。フラスコ内の内容物の有機層から減圧条件下で溶媒を留去しエステルワックスを得た。
【0082】
使用した長鎖アルキルカルボン酸は、以下の通りである。
・パルミチン酸 (C16H32O2)
・ステアリン酸 (C18H36O2)
・アラキデン酸 (C20H40O2)
・ベヘニン酸 (C22H44O2)
・リグノセリン酸 (C24H48O2)
・セロチン酸 (C26H52O2)
・モンタン酸 (C28H56O2)
【0083】
使用した長鎖アルキルアルコールは、以下の通りである。
・パルミチルアルコール (C16H34O)
・ステアリルアルコール (C18H38O)
・アラキデルアルコール (C20H42O)
・ベヘニルアルコール (C22H46O)
・リグノセリルアルコール(C24H50O)
・セリルアルコール (C26H54O)
・モンタニルアルコール (C28H58O)
【0084】
エステルワックスを構成するエステル化合物の炭素数分布(各炭素数のエステル化合物の割合)の測定方法について説明する。
各例のトナーを0.5g秤量し、三角フラスコに収容した。次に、三角フラスコに塩化メチレン2mLを添加してトナーを溶解した。さらに、三角フラスコに、ヘキサン4mlを添加して混合液とした。混合液をろ過し、ろ液と不溶物とに分離した。窒素気流下で前記ろ液から溶媒を留去し、析出物を得た。この析出物について、トナーから抽出したエステルワックス中のエステル化合物の炭素数分布を測定した。
【0085】
各炭素数のエステル化合物の割合は、FD-MS「JMS-T100GC(日本電子株式会社製)」により測定された。測定条件は、以下の通りである。
試料濃度:1mg/ml(溶媒、クロロホルム)。
カソード電圧:-10kv。
スペクトル記録間隔:0.4s。
測定質量範囲(m/z):10~2000。
【0086】
測定で得られた各炭素数のエステル化合物のイオン強度の合計を100とした。合計に対する各炭素数のエステル化合物のイオン強度の相対値を求めた。相対値を、エステルワックス中の各炭素数のエステル化合物の割合とした。また、相対値が最大となる炭素数のエステル化合物における炭素数をClとした。
【0087】
第1のモノマー群、第2のモノマー群の分析方法について説明する。
各エステルワックス1gを温度70℃、3時間の条件下でメタノリシス反応を行った。メタノリシス反応後の生成物について、FD-MSによる質量分析を行い、各炭素数の長鎖アルキルカルボン酸の含有量、各炭素数の長鎖アルキルアルコールの含有量を求めた。
【0088】
第1のモノマー群を構成するカルボン酸の炭素数分布(各炭素数のカルボン酸の割合)の測定方法について説明する。
各炭素数のカルボン酸の割合は、FD-MS「JMS-T100GC(日本電子株式会社製)」により測定された。測定条件は、以下の通りである。
試料濃度:1mg/ml(溶媒、クロロホルム)。
カソード電圧:-10kv。
スペクトル記録間隔:0.4s。
測定質量範囲(m/z):10~2000。
【0089】
測定で得られた各炭素数のカルボン酸のイオン強度の合計を100とした。合計に対する各炭素数のカルボン酸のイオン強度の相対値を求めた。相対値を、エステルワックス中の各炭素数のカルボン酸の割合とした。また、相対値が最大となる炭素数のカルボン酸における炭素数をCnとした。
【0090】
第2のモノマー群を構成するアルコールの炭素数分布(各炭素数のアルコールの割合)の測定方法について説明する。
各炭素数のアルコールの割合は、FD-MS「JMS-T100GC(日本電子株式会社製)」により測定された。測定条件は、以下の通りである。
試料濃度:1mg/ml(溶媒、クロロホルム)。
カソード電圧:-10kv。
スペクトル記録間隔:0.4s。
測定質量範囲(m/z):10~2000。
【0091】
測定で得られた各炭素数のアルコールのイオン強度の合計を100とした。合計に対する各炭素数のアルコールのイオン強度の相対値を求めた。相対値を、エステルワックス中の各炭素数のアルコールの割合とした。また、相対値が最大となる炭素数のアルコールにおける炭素数をCmとした。
【0092】
実施例で使用されたエステルワックスの最大含有量であるエステル化合物の炭素数Clは、44であった。エステルワックス100質量%に対する炭素数Clのエステル化合物の割合は、70質量%であった。
第1のモノマー群中のカルボン酸の種類の数は4個であった。第1のモノマー群中の最大含有量であるカルボン酸の炭素数Cnは22であった。第1のモノマー群100質量%に対する炭素数Cnのカルボン酸の割合は70質量%であった。第1のモノマー群100質量%に対する炭素数18以下のカルボン酸の合計割合は3質量%であった。
第2のモノマー群中のアルコールの種類の数は3個であった。第2のモノマー群中の最大含有量であるアルコールの炭素数Cmは22であった。第2のモノマー群100質量%に対する炭素数Cmのアルコールの割合は70質量%であった。第2のモノマー群100質量%に対する炭素数18以下のアルコールの合計割合は15質量%であった。
実施例で使用されたエステルワックスの炭素数分布は、炭素数43以上の領域に極大ピークを1つだけ有していた。
【0093】
各例で使用された着色剤は、カーボンブラック(三菱化学 #44)である。
【0094】
実施例1のトナーを以下のように製造した。
まず、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)に、下記のトナー母粒子の原料を入れて混合した。さらに、トナー母粒子の原料の混合物を二軸押し出し機で溶融混練した。この溶融混練物を冷却した後、ハンマーミルで粗粉砕した。この粗粉砕物を、ジェット粉砕機で微粉砕した。この微粉砕物を分級してトナー母粒子を得た。トナー母粒子の体積平均径は8.5μmであった。トナー母粒子の体積平均径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製(SALD7000))によって測定された。
トナー母粒子の原料の組成を下記に示す。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 55質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 25質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0095】
次に、実施例1のトナー母粒子100質量部に対し、ヘンシェルミキサーを用いて下記の組成の外添剤を混合し、実施例1のトナーを製造した。
疎水性シリカ粒子 1.5質量部
酸化チタン 0.4質量部
【0096】
実施例2のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、実施例2のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A2 55質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B2 25質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0097】
実施例3のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、実施例3のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A3 55質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B3 25質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0098】
実施例4のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、実施例4のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 50質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 30質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0099】
実施例5のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例5のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、実施例5のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 60質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 20質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0100】
実施例6のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例6のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、実施例6のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 58質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 27質量部
結晶性ポリエステル樹脂 5質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0101】
実施例7のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例7のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、実施例7のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 52質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 23質量部
結晶性ポリエステル樹脂 15質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0102】
比較例1のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、比較例1のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A4 55質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B4 25質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0103】
比較例2のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、比較例2のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A5 55質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B5 25質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0104】
比較例3のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例3のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、比較例3のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 65質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 15質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0105】
比較例4のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例4のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、比較例4のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 45質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 35質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0106】
比較例5のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例5のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、比較例5のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 40質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B6 40質量部
結晶性ポリエステル樹脂 10質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0107】
比較例6のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例6のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、比較例6のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 60質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 27質量部
結晶性ポリエステル樹脂 3質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0108】
比較例7のトナーを以下のように製造した。
まず、トナー母粒子の原料の組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例7のトナー母粒子を製造した。次いで実施例1と同様にしてトナー母粒子と外添剤を混合し、比較例7のトナーを製造した。
非結晶性ポリエステル樹脂A1 50質量部
非結晶性ポリエステル樹脂B1 23質量部
結晶性ポリエステル樹脂 17質量部
エステルワックス 5質量部
カーボンブラック 5質量部
【0109】
エステルワックス残存率の測定方法について説明する。
エステルワックス残存率は下式によって求めた。
エステルワックス残存率(%)=(W1/W0)×100
W0は、各例のトナーについてDSCを用いて測定される吸熱量(J/g)とした。W1は、各例トナーについて、下記の処理(1)を施した後の粒子についてDSCを用いて測定される吸熱量(J/g)とした。W0、W1の測定に際して、DSCとして「DSC Q2000(ティー・エイ・インスツルメント製)」を使用した。
【0110】
処理(1)について説明する。
100mlビーカーにトナー11g、イオン交換水56.8g、界面活性剤12.8gを加え、マグネティックスターラーを用いて、液面にトナー層が無くなるまで攪拌した。次いで、100mlビーカーを50℃のオイルバス中で1時間加熱してエステルワックスを脱離させた後、室温に下がるまで静置した。その後、ビーカーの上澄み液をデカンテーションで取り除き、脱離したエステルワックスを分離した。脱離したエステルワックスを分離したトナー粒子にイオン交換水100mlを加え、ろ紙を用いてろ過した。ろ紙はADVANTEC GC90を用いた。ろ紙で分離したトナー粒子を8時間真空乾燥し、得られた粒子を用いて吸熱量W1(J/g)を測定した。
た。
【0111】
実施例の現像剤について説明する。
フェライトキャリア100質量部に対し各例のトナー8質量部をターブラミキサーで撹拌し、各例の現像剤を得た。
【0112】
耐低温オフセット性の評価方法について説明する。
市販されているe-studio5018A(東芝テック製)を改造し、定着温度を100℃から220℃まで1℃刻みで変更して設定できるようにした。この改造したe-studio5018Aを用い、初期の定着温度を150℃に設定し、トナー付着量が1.0mg/cm2のベタ画像を10枚取得した。これら10枚のベタ画像のすべてにおいて、オフセット、未定着による画像剥がれが生じなかった場合、定着温度を徐々に下げ、同様のベタ画像を10枚取得する操作を繰り返した。ベタ画像にオフセットや画像剥がれがわずかでも生じたとき、この操作を止めた。ベタ画像にオフセットや画像剥がれが生じない定着温度の下限の温度をトナーの最低定着温度とした。この最低定着温度に基づいて、耐低温オフセット性を下記の基準にて評価した。最低定着温度は低いほど良好である。
◎:最低定着温度が120℃以下である。
○:最低定着温度が120℃超130℃以下である。
×:最低定着温度が130℃超である。
【0113】
耐高温オフセット性の評価方法について説明する。
市販されているe-studio5018A(東芝テック製)を改造し、定着温度を100℃から220℃まで1℃刻みで変更して設定できるようにした。この改造したe-studio5018Aを用い、初期の定着温度を150℃に設定し、トナー付着量が1.0mg/cm2のベタ画像を10枚取得した。これら10枚のベタ画像のすべてにおいて、オフセット、未定着による画像剥がれが生じなかった場合、定着温度を徐々に上げ、同様のベタ画像を10枚取得する操作を繰り返した。ベタ画像にオフセットや画像剥がれがわずかでも生じたとき、この操作を止めた。ベタ画像にオフセットや画像剥がれが生じない定着温度の上限の温度をトナーの最高定着温度とした。この最高定着温度に基づいて、耐高温オフセット性を下記の基準にて評価した。最高定着温度は高いほど良好である。
◎:最高定着温度が200℃以上である。
○:最高定着温度が190℃以上200℃未満である。
×:最高定着温度が190℃未満である。
【0114】
ロングライフ性の評価方法について説明する。
市販されているe-studio5018A(東芝テック製)を使用し、印字率8.0%の原稿をA4用紙に連続的に200,000枚コピーした。その後、現像器のマグネットローラの下側に堆積したトナーを掃除機で吸引し、堆積したトナー量をトナー飛散量として測定した。このトナー飛散量に基づいて、ロングライフ性を下記の基準にて評価した。
○:トナー飛散量が170mg以下である。
×:トナー飛散量が170mg超である。
【0115】
実施例1のトナーの最低定着温度は125℃であり、最高定着温度は195℃であり、トナー飛散量は130mgであった。
実施例2のトナーの最低定着温度は118℃であり、最高定着温度は195℃であり、トナー飛散量は120mgであった。
実施例3のトナーの最低定着温度は128℃であり、最高定着温度は210℃であり、トナー飛散量は160mgであった。
実施例4のトナーの最低定着温度は125℃であり、最高定着温度は205℃であり、トナー飛散量は130mgであった。
実施例5のトナーの最低定着温度は118℃であり、最高定着温度は192℃であり、トナー飛散量は140mgであった。
実施例6のトナーの最低定着温度は128℃であり、最高定着温度は194℃であり、トナー飛散量は100mgであった。
実施例7のトナーの最低定着温度は114℃であり、最高定着温度は196℃であり、トナー飛散量は160mgであった。
【0116】
比較例1のトナーの最低定着温度は128℃であり、最高定着温度は178℃であり、トナー飛散量は160mgであった。
比較例2のトナーの最低定着温度は138℃であり、最高定着温度は204℃であり、トナー飛散量は160mgであった。
比較例3のトナーの最低定着温度は118℃であり、最高定着温度は188℃であり、トナー飛散量は120mgであった。
比較例4のトナーの最低定着温度は135℃であり、最高定着温度は197℃であり、トナー飛散量は190mgであった。
比較例5のトナーの最低定着温度は128℃であり、最高定着温度は192℃であり、トナー飛散量は120mgであった。
比較例6のトナーの最低定着温度は139℃であり、最高定着温度は196℃であり、トナー飛散量は140mgであった。
比較例7のトナーの最低定着温度は119℃であり、最高定着温度は191℃であり、トナー飛散量は230mgであった。
【0117】
各例のトナーの耐低温オフセット性、耐高温オフセット性、ロングライフ性の評価結果を表1に示した。
【0118】
【0119】
表1中、aは、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に対する非結晶性ポリエステル樹脂Aの割合である。また、bは、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に100質量%に対する非結晶性ポリエステル樹脂Bの割合である。そして、cは、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂A、非結晶性ポリエステル樹脂B、エステルワックス及び着色剤の合計100質量%に100質量%に対する結晶性ポリエステル樹脂の割合である。
【0120】
実施例1~7のトナーは、耐低温オフセット性及び耐高温オフセット性に優れ、ロングライフ性にも優れていた。
これに対して比較例1~7のトナーは、耐低温オフセット性、耐高温オフセット性、ロングライフ性のすべてが同時に合格基準に達することはなかった。特に比較例4、57では、エステルワックス残存率が75%未満であった。そのため、遊離したエステルワックスがキャリアを汚染し、トナーの帯電量が低下したと考えられる。結果、トナー飛散量が増加し、ロングライフ性に劣る結果となった。
【0121】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
1a…感光体ドラム、2a…帯電装置、3a…露光装置、4a…現像器、10…転写ローラ、11…ヒートローラ、12…プレスローラ、16a…クリーニング装置、17A…画像形成ユニット、20…画像形成装置、21…定着装置。