IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サントリーホールディングス株式会社の特許一覧

特開2022-18935焙煎コーヒー豆の製造方法及び焙煎コーヒー豆
<>
  • 特開-焙煎コーヒー豆の製造方法及び焙煎コーヒー豆 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018935
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】焙煎コーヒー豆の製造方法及び焙煎コーヒー豆
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/04 20060101AFI20220120BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A23F5/04
A23F5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122392
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智典
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】三橋 守男
(72)【発明者】
【氏名】山田 光一郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬田 玄通
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB21
4B027FB24
4B027FC01
4B027FC02
4B027FQ02
4B027FR04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】焙煎コーヒー豆の風味改善に有効な、新規焙煎方法を含む製造方法の提供。
【解決手段】コーヒー豆の焙煎工程を含み、ここで、焙煎前後のコーヒー豆の明度の比率(明度比率)が0.65以上で、焙煎温度の昇温速度を-0.15℃/秒~0.15℃/秒で保持する、焙煎コーヒー豆の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎コーヒー豆の製造方法であって、
コーヒー豆の焙煎工程を含み、ここで、以下の式(I)で表されるコーヒー豆の明度の比率(明度比率):
【数1】
が0.65以上で、焙煎温度の昇温速度を-0.15℃/秒~0.15℃/秒で保持する、前記焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項2】
前記昇温速度を60秒~720秒間保持する、請求項1に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項3】
前記昇温速度を60秒~720秒間保持した後、昇温速度を0.2℃/秒以上で保持する、請求項1又は2に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項4】
前記明度比率が0.8以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項5】
コーヒー生豆を前記焙煎工程に供する、請求項1~4のいずれか1項に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる焙煎コーヒー豆。
【請求項7】
請求項6に記載の焙煎コーヒー豆を溶媒で抽出することを含む、コーヒー抽出物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法によって得られるコーヒー抽出物。
【請求項9】
請求項8に記載のコーヒー抽出物を含んでなるコーヒー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎コーヒー豆の製造方法及び該製造方法により得られる焙煎コーヒー豆に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは人々に広く親しまれている飲料の一つである。市場には多数のコーヒー飲料が流通しており、その風味は様々である。焙煎コーヒー豆は、コーヒー飲料の主な原料である。焙煎コーヒー豆は、コーヒー生豆を焙煎することによって得られる。焙煎条件は、焙煎コーヒー豆の特徴又は品質を決定づけ、ひいてはコーヒー飲料の特徴又は品質に影響する。従来より、様々な目的で、コーヒー豆の焙煎条件を工夫する試みが行われてきた。
【0003】
特許文献1には、迅速焙煎条件によって得られるコーヒー豆は抽出効率が高いことが利点であるが、コーヒーに特徴的なアロマないしフレーバーの生成に改善の余地があることが開示されている。この問題に対処するため、コーヒー豆の焙煎色ないし温度を指標にして焙煎を2段階で行い、焙煎豆の新鮮香に寄与するメタンチオール(メチルメルカプタン)を増強することが報告されている。
【0004】
特許文献2には、容器詰めコーヒー飲料が、加温状態での長期保存によって、好ましい風味(コーヒーらしい苦味や渋味、並びに好ましい呈味)を顕著に劣化させることが開示されている。そして、この問題に対処するために呈味改善剤を提供することが開示されている。該呈味改善剤は、コーヒー生豆を焙煎機に投入してから2ハゼ開始までの積算温度、1ハゼ開始から2ハゼ開始までの積算温度、1ハゼ開始から焼き上がりまでの焙煎時間、及びコーヒー生豆を投入してから焼き上がりまでの焙煎時間に着目した焙煎方法によって製造される。
【0005】
特許文献3には、コーヒー豆の焙煎によって生成するアクリルアミドを低減しつつ、コーヒーの風味特性を維持することのできる、コーヒー豆の焙煎方法が開示されている。該焙煎方法は、コーヒー豆の温度が160℃~220℃になるまで、高い昇温速度(20℃/分~40℃/分)で急激に加熱するステップと、低い昇温速度(1℃/分~10℃/分)で緩やかに加熱するステップを有することに特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-300180号公報
【特許文献2】特開2018-186736号公報
【特許文献3】特表2018-536408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、焙煎コーヒー豆の風味改善に有効な新規焙煎方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、コーヒー豆の焙煎に関する諸条件と焙煎コーヒー豆の風味との関連性に着目して検討を行った。その結果、焙煎前のコーヒー豆に対する焙煎中のコーヒー豆の明度の比率を指標にして焙煎を行うことによって、焙煎コーヒー豆の風味が改善されることを見出した。該知見に基づき、本発明者らは発明を完成させた。
【0009】
本発明により、以下が提供される。但し、これに限定されるものではない。
(1)焙煎コーヒー豆の製造方法であって、
コーヒー豆の焙煎工程を含み、ここで、以下の式(I)で表されるコーヒー豆の明度の比率(明度比率):
【0010】
【数1】
【0011】
が0.65以上で、焙煎温度の昇温速度を-0.15℃/秒~0.15℃/秒で保持する、前記焙煎コーヒー豆の製造方法。
(2)前記昇温速度を60秒~720秒間保持する、(1)に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
(3)前記昇温速度を60秒~720秒間保持した後、昇温速度を0.2℃/秒以上で保持する、(1)又は(2)に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
(4)前記明度比率が0.8以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
(5)コーヒー生豆を前記焙煎工程に供する、(1)~(4)のいずれかに記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法によって得られる焙煎コーヒー豆。
(7)(6)に記載の焙煎コーヒー豆を溶媒で抽出することを含む、コーヒー抽出物の製造方法。
(8)(7)に記載の製造方法によって得られるコーヒー抽出物。
(9)(8)に記載のコーヒー抽出物を含んでなるコーヒー製品。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、各サンプル(1~6)の官能評価結果を示す。トップの香り、ミドルからラストにかけての香り、質の良い酸味、及びクリーンネスのそれぞれについて、スコア化した。1:比較例1、2:実施例1、3:実施例2、4:実施例3、5:実施例4、6:比較例2。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、数値範囲に言及がある場合、特に記載のない限り、該数値範囲は上限値及び/又は下限値の端点を含むものとする。例えば、「昇温速度-0.15℃/秒~0.15℃/秒」との記載は、-0.15/秒及び0.15℃/秒を包含する。
<焙煎コーヒー豆の製造方法>
本発明により、焙煎コーヒー豆の製造方法が提供される。該製造方法は、コーヒー豆を焙煎する工程を含んでなる。焙煎工程に供するコーヒー豆はいずれのものであってもよい。例えば、コーヒー豆について、品種(アラビカ種及びカネフォラ種等)、生産地、保存期間、及び等級などは特に限定されない。また、コーヒー豆の入手手段も特に限定されない。これらについて、当業者は適宜選択することができる。焙煎工程に供するコーヒー豆は、生豆及び焙煎豆のいずれであってもよいが、好ましくはコーヒー生豆を用いる。また、焙煎するコーヒー豆の量は、生産規模や生産物(焙煎コーヒー豆)の必要量などに応じて適宜設定することができる。
【0014】
コーヒー豆の焙煎は、焙煎手段の違いによって、大まかに3つ(直火式、熱風式、及び半熱風式)に分類することができる。直火式は、コーヒー豆に火を直接当てて焙煎する方式である。熱風式は、コーヒー豆に熱風を当てて焙煎する方式である。半熱風式は、直火式と熱風式の中間的な方式である。本発明においては、いずれの方式で焙煎を行ってもよい。そして、コーヒー豆の焙煎は、焙煎機を用いて行うことができる。焙煎機は、大量かつ効率的に焙煎コーヒー豆を製造する上で便利である。また、焙煎機は、焙煎温度の制御手段を備えることが好ましい。焙煎機は、市販されているものであってもよく、具体的な使用態様に適応できるように個別に設計されたものであってもよい。
【0015】
コーヒー豆の焙煎工程を開始する前に、焙煎室を予熱してもよい。本明細書において、「焙煎室」とは、コーヒー豆の焙煎が行われる場ないし空間を意味する。
コーヒー豆の焙煎工程においては、開始時の温度は任意に設定することができる。限定されないが、100℃~300℃で焙煎を開始することができる。焙煎工程においては、コーヒー豆の明度の比率(「明度比率」ともいう。)を指標として焙煎温度を制御する。ここで、明度比率とは、焙煎開始前(即ち、焙煎時間0秒)のコーヒー豆の明度に対する焙煎開始後のある時点でのコーヒー豆の明度の比である。そして、コーヒー豆の明度とは、コーヒー豆の焙煎の程度を色の明るさで表現したものである。より詳細には、コーヒー豆の明度は、焙煎の程度が高い程低くなる。コーヒー豆の明度は、限定されないが、カラレット(colorlette)値及びL値などによって表すことができる。明度比率は以下の式(I)により表すことができる。
【0016】
【数2】
【0017】
以下では、明度としてL値を用いた場合を例にして説明する。当業者であれば、以下の説明を、明度の他の態様(カラレット等)に置き換えても本発明が実施可能であることを理解する。コーヒー豆のL値とは、コーヒー豆の焙煎の程度(焙煎度ともいう)を色で表したものであり、白色のL値は100、黒色のL値は0とする。即ち、L値が小さい程コーヒー豆の焙煎が進んでおり、焙煎度が高いことを意味する。そして、焙煎開始後のある時点におけるコーヒー豆のL値(LT1)は、焙煎開始前のコーヒー豆のL値(LT0)以下になることも理解できる。但し、焙煎初期において、僅かではあるが、LT1値がLT0値より高くなることがある。これは、焙煎初期に生豆の水分が抜けると色味が明るくなる場合があるためであると推察される。焙煎開始前のコーヒー豆のL値(LT0)は一般的には50~80程度又は65~70程度であるが、これに限定されるものではない。コーヒー豆のL値は、色差計によって測定することができる。一般的にはコーヒー豆を粉砕し、粉砕したコーヒー豆のL値を測定する。但し、機器の使用説明書等で特定の測定方法が示されている場合は、それに従ってもよい。粉砕においては公知の粉砕機、グラインダーを用いることができる。本明細書においては、別段の記載がなければ、該方法によりL値を測定するものとする。
【0018】
焙煎工程において、L値比率(LT1/LT0)が特定値より低くなる前に、焙煎温度の昇温速度(第1の昇温速度)を特定範囲で保持する(第1の温度条件)。そのようなL値比率は0.65以上であればよいが、好ましくは0.8以上である。L値比率0.65以上の要件を満たさずに焙煎温度の昇温速度の保持を開始しても、焙煎コーヒー豆の風味改善効果が十分に得られない。焙煎開始後にコーヒー豆をサンプリングし、そのL値を測定すれば、L値比率を得ることができる。あるいは、予備検討により焙煎中のL値の変化を事前に把握しておけば、焙煎開始後にコーヒー豆をサンプリングしなくても、所望の明度比率で昇温速度の保持を開始できる。
【0019】
そして、焙煎温度の昇温速度(第1の昇温速度)は、焙煎温度を実質的に維持又は緩やかに上昇させるものであればよい。例えば、該昇温速度は、-0.15℃/秒~0.15℃/秒、好ましくは-0.1℃/秒~0.1℃/秒、より好ましくは-0.05℃/秒~0.05℃/秒、さらに好ましくは0℃/秒~0.05℃/秒である。焙煎温度の昇温速度がこの範囲で保持されないと焙煎コーヒー豆の風味改善効果が十分に得られない場合がある。焙煎温度の昇温速度(第1の昇温速度)の保持時間は60秒~720秒であり、好ましくは120秒~600秒である。本明細書において、「焙煎温度」とは、焙煎室内の温度をいう。焙煎温度は、温度計や温度センサー等の公知の手段によって計測することができる。このように計測された焙煎温度に基づいて、昇温速度を制御することができる。
【0020】
さらに、焙煎温度の昇温速度(第1の昇温速度)を上記のように保持した条件(第1の温度条件)でコーヒー豆を焙煎した後、温度条件を変えて(第2の温度条件)コーヒー豆を焙煎することができる。第2の温度条件では、昇温速度を変化させることができる(第2の昇温速度)。そのような昇温速度(第2の昇温速度)は第1の昇温速度よりも高く設定すればよい。例えば、第2の昇温速度は、0.2℃/秒以上で保持すればよいが、好ましくは0.4℃/秒以上で保持する。当業者は、焙煎を行う周囲の環境(焙煎方式、焙煎機の能力、その他の条件)との関係上、許容される昇温速度に上限があることを理解する。従って、昇温速度の上限は、その明記がなくても当業者は理解可能であり、かつ適宜設定可能である。
【0021】
その他、本発明の方法は、上記の工程に加えて、関連技術分野で公知の工程を更に含んでもよい。例えば、コーヒー豆の焙煎を停止する工程を行うことができる。該工程は、冷却工程として知られている。冷却工程により、焙煎コーヒー豆の温度を低下させ、焙煎が進まないようにすることができる。焙煎コーヒー豆の温度を低下させる手段は、特に限定されない。該手段は、例えば、焙煎コーヒー豆を、水、空気、又はその組み合わせ等と接触させることにより行うことができる。冷却工程によって、焙煎コーヒー豆の温度を、例えば、60℃以下又は50℃以下に下げ、最終的に室温に下げることができる。
【0022】
上記の製造方法によって得られる焙煎コーヒー豆も、本発明の対象である。該焙煎コーヒー豆は、L値が30~10、好ましくは25~15であってよいが、これに限定されない。本発明の焙煎コーヒー豆は風味が改善され得る。該焙煎コーヒー豆は、通常の焙煎方法(焙煎工程の全体を通して、ほぼ一定の昇温速度で焙煎温度を上昇させる方法)によって得られる焙煎コーヒー豆に比べて改善された風味を有する。本明細書において、風味は、トップの香り、ミドルからラストの香り、質の良い酸味、及びクリーンネスを指標として評価する。ここで、クリーンネスとは、雑味(ネガティブな香り及び/又はネガティブな呈味(エグ味、苦味等)に起因する)が少ないことをいう。トップの香り、ミドルからラストの香り、質の良い酸味、及びクリーンネスは、以下の実施例に示されるような方法で、官能評価することができる。
【0023】
<コーヒー抽出物の製造方法及びコーヒー製品等>
本発明はコーヒー抽出物の製造方法を提供する。該製造方法は、上記した本発明の焙煎コーヒー豆を溶媒で抽出する工程を含んでなる。ここで、該抽出工程の前に、焙煎コーヒー豆を粉砕する工程を行ってもよい。抽出に用いる溶媒は、水、緩衝液(リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等)、有機溶媒(アルコール等)が例示できる。好ましい溶媒は水であるが、これに限定されない。そして、該製造方法は、該抽出工程に加え、公知の工程を更に含んでもよい。例えば、該抽出工程に続いて、抽出液の希釈、濃縮、乾燥、成型、混合、pH調整、及び他の成分の添加等からなる群から選ばれる少なくとも1つの工程を行うことができる。当業者は、抽出物がとるべき最終形態又は仕様等に応じて、これらの公知の工程を適宜採用することができる。
【0024】
上記した製造方法によって得られるコーヒー抽出物も、本発明の対象である。該コーヒー抽出物は、液体、固体、及び半固体等、いずれの形態であってもよい。液体のコーヒー抽出物としては、焙煎コーヒー豆の溶媒抽出液、及び該抽出液の希釈液又は濃縮液等が例示されるが、これらに限定されない。好ましい一態様は、焙煎コーヒー豆の水抽出液である。固体のコーヒー抽出物としては、凍結物、粉末、顆粒、カプセル、及び錠剤等が例示される。半固体のコーヒー抽出物としては、ペースト及びゲル等が挙げられる。
【0025】
本発明は、上記のコーヒー抽出物を含有するコーヒー製品をさらに提供する。該コーヒー製品は、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、pH調整剤、甘味料、酸味剤、保存剤、乳化剤等が挙げられるが、これに限定されない。また、コーヒー製品は容器詰めとすることができる。該容器は、限定されないが、缶(スチール製、アルミニウム製等)、ボトル(プラスチック製、ガラス製等)、パック(紙等)等が例示できる。
【0026】
本発明のコーヒー抽出物ないしコーヒー製品は、上記した焙煎コーヒー豆との関係で説明したものと同様の風味改善を達成し得ることが理解できる。即ち、本発明のコーヒー抽出物ないしコーヒー製品は、通常のコーヒー抽出物ないしコーヒー製品に比べて、トップの香り、ミドルからラストの香り、質の良い酸味、及びクリーンネスが改善している。ここで、該通常のコーヒー抽出物ないしコーヒー製品とは、通常の方法(焙煎工程の全体を通して、ほぼ一定の昇温速度で焙煎温度を上昇させる方法を意味する)によって得られる焙煎コーヒー豆の抽出物ないし該抽出物を含有するコーヒー製品を意味する。
【実施例0027】
以下、実施例を示して発明をより詳細に説明する。但し、本実施例は、発明の理解を目的として提供されるものであり、発明の範囲を限定することを意図するものではない。
[実施例1~4]
<コーヒー豆の焙煎>
熱風型焙煎機(Neotec社製)を用い、焙煎釜内を135℃で1分以上保持し、暖機運転した後、ブラジル産コーヒー生豆(アラビカ種、L値67.6)を投入した。投入後は、昇温速度0.2℃/秒で豆を焙煎し、明度比率(焙煎開始前のコーヒー豆のL値(LT0)に対する焙煎開始後の時間Tでのコーヒー豆のL値(LT1)の比率(LT1/LT0))が表1に示す値に達した時点で、表1に示すように、第一の温度条件に設定した。これに続けて、第二の温度条件に設定し、最終明度比率が0.3に達した時点で焙煎を終了し、焙煎コーヒー豆を得た(サンプル2~6)。なお、焙煎機にコーヒー生豆を投入した後、昇温速度を一定(0.2℃/秒)にして焙煎を行って得られた焙煎豆(サンプル1)を比較例1とした。
【0028】
【表1】
【0029】
なお、明度比率を算出するためのL値は、次の手順で測定した。焙煎工程の開始前及び焙煎工程中にサンプリングしたコーヒー豆を粉砕機(ZM200/Retsch社製)にて粉砕後、明度測定機(Colorette4/Probat社製)を用いてL値を測定した。
【0030】
このようにして得られた焙煎コーヒー豆を用いて以降の試験を行った。
<官能評価>
上記で得られた焙煎コーヒー豆を用い、以下に示す条件によりコーヒー抽出液を得た。該コーヒー抽出液を官能評価用のサンプルとした。
・焙煎豆の使用量:30g
・焙煎豆の粉砕
Kalita(カリタ)業務用電動コーヒーミル ハイカットミル61005(株式会社カリタ)
粉砕ダイアル設定:7
・抽出条件
抽出機:ハリオ スマートセブン コーヒーメーカーV60オートプアオーバーEVS-70B(ハリオ株式会社)
湯温度:90℃
抽出時間:6分19秒
給湯量:350ml
【0031】
訓練された専門パネラー6名により、評価の基準をすり合わせた上で、下記それぞれの指標について3段階で評価を行った。各パネラーが出した評価について平均を算出し、官能評価結果とした。
・3段階評価
1点:感じない
2点:感じる
3点:強く感じる
【0032】
・官能評価項目
トップの香り:口に含んだ瞬間に感じる香り
ミドルからラストの香り:口に含んだ後、余韻で感じる香り
質の良い酸味:果物のような明るい酸味
クリーンネス:焦げ臭やエグ味、苦味に起因する雑味などが少ないこと
【0033】
【表2】
【0034】
サンプル2~5(実施例1~4)は、全ての項目(トップの香り、ミドルからラストにかけての香り、質の良い酸味、及びクリーンネス)について、サンプル1及び6(比較例1及び2)に比べて、高く評価された。
【0035】
サンプル2~5は、焙煎工程において、特定の明度比率(0.65以上)を指標として、第一の温度条件(穏やかな昇温速度)で焙煎し、続いて第二の温度条件(より高い昇温速度)で焙煎を行った方法によって得られたものである。一方、サンプル1は、該第一の温度条件での焙煎を行わない方法によって得られたものである。また、サンプル6は、明度比率が0.6になった時点で第一の温度条件での焙煎を行った方法によって得られたものである。このことから、焙煎工程において、特定の明度比率(0.65以上)を指標として、第一の温度条件(昇温速度:-0.15℃/秒~0.15℃/秒)で焙煎し、これに続いて第二の温度条件(昇温速度:0.2℃/秒以上)で焙煎を行うことは、焙煎コーヒー豆及びコーヒー抽出液の風味改善に有効であったことが理解できる。
【0036】
そして、サンプル2とサンプル3の官能評価結果の比較から、第一の昇温速度の保持時間を長く(8分(480秒)程度)すると、より効果的に風味が改善できることが示された。
【0037】
サンプル2とサンプル4の官能評価結果の比較から、第二の昇温速度を高めることによって、一層効果的に風味が改善できることが示された。
また、サンプル4とサンプル5の官能評価結果の比較から、明度比率が高い時点で第一の温度条件での焙煎を始めることによって、より効果的に風味が改善できることが示された。
図1