(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189361
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】膜反応器における未利用ガスの再利用方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20221215BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097904
(22)【出願日】2021-06-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】西川 祐太
(72)【発明者】
【氏名】紫垣 伸行
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA25
4D006JA58A
4D006KA01
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006KA72
4D006KB12
4D006KB18
4D006KB30
4D006MA02
4D006MA09
4D006MB15
4D006MB16
4D006MC01
4D006PA04
4D006PB18
4D006PB32
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4D006PC69
(57)【要約】
【課題】分離膜を透過し膜反応器から流出したH
2ガスを再利用することによって、目的生成物の製造コストを低減可能な、膜反応器における未利用ガスの再利用方法を提供する。
【解決手段】分離膜と、触媒が充填された非透過側の第1空間と、透過側の第2空間とを備える膜反応器の第1空間に、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスの少なくとも一方のガスと水素ガスとを含む原料ガスを導入することで反応生成物と水蒸気とを合成する、気相反応工程と、生成した反応生成物及び水蒸気の少なくとも一方が分離膜を介して第2空間に透過して分離される、生成物膜分離工程と、第2空間に掃引ガスを流通させることで第2空間に透過した水素ガスを流出させる、混合ガス流出工程と、混合ガス流出工程で流出された混合ガス中の少なくとも水素ガスを気相反応工程の原料ガス又は他プロセスの原料ガスとして利用する水素ガス再利用工程とを有する、膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜(M)と、触媒が充填された非透過側の第1空間(E1)と、透過側の第2空間(E2)とを備える膜反応器(E)の前記第1空間(E1)に、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスの少なくとも一方のガスと水素ガスとを含む原料ガスを導入することで、前記触媒の作用によって、水蒸気以外の反応生成物と水蒸気とを合成する、気相反応工程と、
前記気相反応工程によって前記第1空間(E1)に生成した水蒸気以外の反応生成物及び水蒸気の少なくとも一方の生成物が、前記分離膜(M)を介して前記第2空間(E2)に透過して分離される、生成物膜分離工程と、
前記第2空間(E2)に掃引ガスを流通させることで、前記生成物膜分離工程で分離された生成物とともに、前記分離膜(M)を介して前記第2空間(E2)に透過した原料ガスである水素ガスを、前記第2空間(E2)から流出させる、混合ガス流出工程と、
前記混合ガス流出工程で前記第2空間(E2)から流出された混合ガス中の少なくとも水素ガスを前記気相反応工程の原料ガス又は他プロセスの原料ガスとして利用する、水素ガス再利用工程と、
を有する、膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
【請求項2】
前記水素ガス再利用工程の前に、
前記混合ガス流出工程で流出された混合ガスを分離し、水素ガスの濃度を高める、混合ガス分離工程をさらに有する、請求項1に記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
【請求項3】
前記混合ガス流出工程で流出された混合ガスの少なくとも水素ガスを含む一部又は全部と、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及び水素ガスからなる群より選択される少なくとも1種のガスとを混合し、組成及び流量を調整して、前記気相反応工程の原料ガスとする、請求項1又は2に記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
【請求項4】
前記混合ガス流出工程で流出された混合ガスの一部を前記掃引ガスに混合して循環利用する、請求項1~3のいずれか1項に記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
【請求項5】
前記掃引ガスが、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及び水素ガスからなる群より選択される少なくとも1種のガスを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
【請求項6】
前記水蒸気以外の反応生成物が、メタノールである、請求項1~5のいずれか1項に記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜反応器における未利用ガスの再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出削減技術の一つとして、二酸化炭素(以下「CO2」とも言う。)ガスを水素(以下「H2」とも言う。)ガスと化学反応させ、有価物へ変換して再利用するCCU(Carbon Capture and Utilization)と呼ばれる技術の開発が検討されている。
CCU技術は、例えば化成品や燃料への変換技術があり、使われる化学反応は逆水性ガスシフト反応(式(1))と、一酸化炭素(以下「CO」とも言う)を原料としたメタノール合成(式(2))やFischer-Tropsch合成(式(3))などの既存法を組み合わせた反応が挙げられる。
CO2+H2⇔CO+H2O (1)
CO+2H2⇔CH3OH (2)
nCO+(m+n)H2⇔CnH2m+nH2O (3)
多くのCCU技術は化学反応に平衡が関与し、熱力学的上限を有する。そのため収率を高めるには、未反応ガスのリサイクルが必要である。さらに、メタノールや炭化水素等の有価物(以下「目的生成物」とも言う。)と同時に生成する水蒸気の分離設備を必要とし、設備が大型化する課題がある。
熱力学的上限を突破するためのアプローチとして、反応系から生成物の一部又は全部を分離することにより反応平衡を生成物側へシフトさせる手法がある。例えば、メタノール合成ではゼオライト膜を具えた膜反応器によって反応系から生成物を分離し、熱力学的上限を突破可能なプロセスが提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-174996号公報
【特許文献2】特開2018-008940号公報
【特許文献3】特開2020-023488号公報
【特許文献4】特開2020-132439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記プロセスにおいて使用されるH2ガスは、例えば再生可能エネルギー由来の電力を用いた水の電気分解などにより製造することができる。再生可能エネルギーには、例えば太陽光、風力、水力など様々な種類があるが、これら再生可能エネルギーから製造されるH2ガスの価格は、再生可能エネルギーの電力価格に依存するので、製造コストにH2ガス価格が大きく左右するCCU技術の実施は、再生可能エネルギーを安価に入手可能でない場所では経済的に難しい。しかし、上記文献のいずれにおいてもH2ガスの経済性については検討されていない。
H2ガスを安価に入手するため、例えば、膜反応器における反応熱と分離された水蒸気を有効利用し、H2を製造する手法が提案されている(特許文献4)。当該文献では、膜反応器で分離されたガスと熱を回収するため、一酸化炭素ガスまたは炭化水素系ガスを掃引ガスとして使用し、その後吸熱反応である水性ガスシフト反応または水蒸気改質反応で熱回収するとともにH2ガスを製造する手法が提案されている。
このようななか、本発明者らの検討から、膜反応器に具備された分離膜は特定の化合物を選択的に透過して反応系から分離するが、特定の化合物以外のガスの透過もゼロではなく、特定の化合物である目的生成物及び水蒸気の少なくともいずれか1つの他、原料ガスであるH2ガスや一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスも生成物とともに反応系から一部透過することが明らかになった。特にH2ガスは分子径が小さいため透過の抑制が難しいことが明らかになった。分離膜を透過して反応系から分離されたH2ガスは気相反応に関与せず未利用ガスとなる。
加えて、CCU技術として述べた、式(1)と式(2)の組み合わせや、式(1)と式(3)の組み合わせからなる化学反応は、上述した熱力学的な制約ゆえ高圧条件で行われる。化学量論比を考慮すると、H2ガスの物質量は少なくとも原料ガスの半分以上を占める。分離膜透過の駆動力は透過側と非透過側の分圧差であるため、このような高圧下、大量のH2ガスを含む条件は、H2ガスの透過を抑制する上で非常に不利な条件である。
以上2点の理由から、CCU技術の製造コストを大きく左右するH2ガスの利用効率は低下し、経済性が悪化する課題があった。
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、分離膜を透過し膜反応器から流出して未利用となったH2ガスを再利用することによって、膜反応器における目的生成物の製造コストを低減可能な、膜反応器における未利用ガスの再利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述のとおり、本発明者らの検討から、原料ガスである水素ガスの一部が膜反応器の分離膜を透過してしまうことが明らかになっている。本発明は該知見に基づくものであり、具体的には、以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0006】
(1) 分離膜(M)と、触媒が充填された非透過側の第1空間(E1)と、透過側の第2空間(E2)とを備える膜反応器(E)の上記第1空間(E1)に、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスの少なくとも一方のガスと水素ガスとを含む原料ガスを導入することで、上記触媒の作用によって、水蒸気以外の反応生成物と水蒸気とを合成する、気相反応工程と、
上記気相反応工程によって上記第1空間(E1)に生成した水蒸気以外の反応生成物及び水蒸気の少なくとも一方の生成物が、上記分離膜(M)を介して上記第2空間(E2)に透過して分離される、生成物膜分離工程と、
上記第2空間(E2)に掃引ガスを流通させることで、上記生成物膜分離工程で分離された生成物とともに、上記分離膜(M)を介して上記第2空間(E2)に透過した原料ガスである水素ガスを、上記第2空間(E2)から流出させる、混合ガス流出工程と、
上記混合ガス流出工程で上記第2空間(E2)から流出された混合ガス中の少なくとも水素ガスを上記気相反応工程の原料ガス又は他プロセスの原料ガスとして利用する、水素ガス再利用工程と、
を有する、膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
(2) 上記水素ガス再利用工程の前に、
上記混合ガス流出工程で流出された混合ガスを分離し、水素ガスの濃度を高める、混合ガス分離工程をさらに有する、上記(1)に記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
(3) 上記混合ガス流出工程で流出された混合ガスの少なくとも水素ガスを含む一部又は全部と、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及び水素ガスからなる群より選択される少なくとも1種のガスとを混合し、組成及び流量を調整して、上記気相反応工程の原料ガスとする、上記(1)又は(2)に記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
(4) 上記混合ガス流出工程で流出された混合ガスの一部を上記掃引ガスに混合して循環利用する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
(5) 上記掃引ガスが、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス及び水素ガスからなる群より選択される少なくとも1種のガスを含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
(6) 上記水蒸気以外の反応生成物が、メタノールである、上記(1)~(5)のいずれかに記載の膜反応器における未利用ガスの再利用方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、幅広い性能の分離膜を具えた膜反応器に対して原料ガスであるH2ガスの利用効率を高め、H2ガスを有効利用することができる。
また、本発明によれば、分離膜を透過した未利用のH2ガスを再利用できるため、従来の膜反応器プロセスよりも低コストで生成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の膜反応器における未利用ガスの再利用方法の一態様を示す図である。
【
図2】本発明の膜反応器における未利用ガスの再利用方法の一実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の膜反応器における未利用ガスの再利用方法について説明する。
なお、水素ガスを有効利用することができること、目的生成物の収率が高いことを、「本発明の効果等が優れる」とも言う。
【0010】
本発明の膜反応器における未利用ガスの再利用方法(以下、「本発明の方法」とも言う)は、
分離膜(M)と、触媒が充填された非透過側の第1空間(E1)と、透過側の第2空間(E2)とを備える膜反応器(E)の上記第1空間(E1)に、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスの少なくとも一方のガスと水素ガスとを含む原料ガスを導入することで、上記触媒の作用によって、水蒸気以外の反応生成物と水蒸気とを合成する、気相反応工程と、
上記気相反応工程によって上記第1空間(E1)に生成した水蒸気以外の反応生成物及び水蒸気の少なくとも一方の生成物が、上記分離膜(M)を介して上記第2空間(E2)に透過して分離される、生成物膜分離工程と、
上記第2空間(E2)に掃引ガスを流通させることで、上記生成物膜分離工程で分離された生成物とともに、上記分離膜(M)を介して上記第2空間(E2)に透過した原料ガスである水素ガスを、上記第2空間(E2)から流出させる、混合ガス流出工程と、
上記混合ガス流出工程で流出された混合ガス中の少なくとも水素ガスを上記気相反応工程の原料ガス又は他プロセスの原料ガスとして利用する、水素ガス再利用工程と、
を有する、膜反応器における未利用ガスの再利用方法である。
【0011】
最初に図面を用いて本発明の方法について説明する。
【0012】
[図面を用いた説明]
図1は、本発明の膜反応器における未利用ガスの再利用方法の一態様を示す図である。
図1において、膜反応器Eは、反応管10と分離管20との二重管構造を有する。反応管10と分離管20との間には第1空間E1(非透過側の第1空間E1)が区画され、分離管20の内部には第2空間E2(透過側の第2空間E2)が区画されている。ここで、分離管20は、内管25と、その反応管10側の表面に存在する分離膜Mとからなる。また、第1空間E1には触媒30が充填されている。
【0013】
まず、気相反応工程では、膜反応器Eの第1空間E1に、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスの少なくとも一方のガスと水素ガスとを含む原料ガスを導入する。これにより、触媒30の作用によって、水蒸気以外の反応生成物(目的生成物)と水蒸気とを合成する。
反応生成物および未反応ガス(反応しなかった原料ガス)のうち分離膜を透過しなかったものは、第1空間E1の出口側aから流出され、目的生成物は回収される。
【0014】
また、生成物膜分離工程では、上述した気相反応工程によって第1空間E1に生成した目的生成物及び水蒸気の少なくとも一方の生成物が、分離膜M(分離管20)を介して第2空間E2に透過して分離される。
【0015】
また、混合ガス流出工程では、第2空間E2に掃引ガスを流通させることで、生成物膜分離工程で分離された生成物とともに、分離膜M(分離管20)を介して第2空間E2に透過した原料ガスである水素ガスを、第2空間E2から流出させる。第2空間E2から流出された混合ガスは、生成物膜分離工程で分離された生成物、分離膜Mを介して第2空間E2に透過した原料である水素ガス、及び、掃引ガスを含む。
【0016】
また、水素ガス再利用工程では、混合ガス流出工程で流出した混合ガス中の少なくとも水素ガスを気相反応工程の原料ガス又は他プロセスの原料ガスとして利用する。
【0017】
次に、本発明の方法で使用される膜反応器(E)(以下、単に「膜分離器」とも言う)について詳述する。
【0018】
[膜反応器]
膜反応器は、分離膜(M)(以下、単に「分離膜」とも言う)と、触媒が充填された非透過側の第1空間(E1)(以下、単に「第1空間」とも言う)と、透過側の第2空間(E2)(以下、単に「第2空間」とも言う)とを備える。
【0019】
〔分離膜〕
分離膜は、気相反応工程によって生成した水蒸気以外の反応生成物及び水蒸気の少なくとも一方を透過して分離する膜である。
分離膜は、本発明の効果等がより優れる理由から、水蒸気を透過して分離する膜であることが好ましい。
分離膜は、反応が進行する高温高圧条件下においても化学的性質が維持できる耐久性を持つ理由から、無機膜であることが好ましく、ゼオライト膜であることがより好ましい。
ゼオライト膜としては、例えば、LTA型(A型ゼオライト)、SOD型等が挙げられ、なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、LTA型が好ましい。
なお、水素ガスは分子径が小さいため、通常、分離膜を透過してしまう。
【0020】
〔分離管〕
膜分離器は、本発明の効果等がより優れる理由から、多孔質(例えば、多孔質のアルミナ)の内管とその表面に存在する分離膜とからなる分離管を備えるのが好ましい。
なお、分離膜自体が分離管として機能するのでもよい。
【0021】
〔第1空間〕
第1空間は、分離膜の非透過側の空間である。
通常、膜分離管は、反応管(外管)と分離管との二重構造を有する。この場合、第1空間は、反応管と分離管との間の空間である。
【0022】
<触媒>
上述のとおり、第1空間には触媒が充填されている。
触媒は、後述する気相反応の触媒であれば特に制限されない。
触媒は、本発明の効果等がより優れる理由から、金属触媒であることが好ましい。
上述した式(2)の反応の場合、触媒は、本発明の効果等がより優れる理由から、銅亜鉛系触媒であることが好ましい。
上述した式(3)の反応の場合、触媒は、本発明の効果等がより優れる理由から、鉄系触媒又はコバルト系触媒であることが好ましい。
【0023】
〔第2空間〕
第2空間は、分離膜の透過側の空間である。
上述のとおり、通常、膜分離管は、反応管(外管)と分離管との二重構造を有する。この場合、第2空間は、分離管の内部の空間である。
【0024】
次に、本発明の方法の各工程について詳述する。
【0025】
[気相反応工程]
気相反応工程は、分離膜(M)と、触媒が充填された非透過側の第1空間(E1)と、透過側の第2空間(E2)とを備える膜反応器(E)の上記第1空間(E1)に、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスの少なくとも一方のガスと水素ガスとを含む原料ガスを導入することで、上記触媒の作用によって、水蒸気以外の反応生成物(目的生成物)と水蒸気とを合成する工程である。
上記目的生成物は、式(2)および式(3)で示したように、例えばメタノールや、Fischer-Tropsch合成の生成物であるパラフィンおよびオレフィンが挙げられる。なお、原料ガスとして二酸化炭素を使用した場合にも式(1)を介して同様の目的生成物が得られる。
気相反応工程における反応生成物は、特に制限されるものではないが、反応生成物はメタノールであることが特に好ましい。反応生成物がメタノールである場合には、メタノール及び水蒸気の少なくともいずれか1つと水素が掃引ガスによって回収されるが、メタノール及び水蒸気の少なくともいずれか1つから水素ガスを分離する後述する混合ガス分離工程において、簡便かつ安価な気液分離法で水素ガス濃度を高めることができる点で、気相反応工程における目的生成物はメタノールであることが特に好ましい。
得られた目的生成物は、第1空間から流出され、回収される。
【0026】
[生成物膜分離工程]
生成物膜分離工程は、気相反応工程によって第1空間(E1)に生成した水蒸気以外の反応生成物(目的生成物)及び水蒸気の少なくとも一方の生成物が、分離膜(M)を介して第2空間(E2)に透過して分離される工程である。
生成物膜分離工程において、気相反応工程で合成された目的生成物及び水蒸気の少なくともいずれか一方が選択的に分離される。気相反応工程で合成された生成物を反応系から除去し、化学反応平衡を生成物側へシフトさせることで、気相反応が効率的に進行する。
気相反応によって第1空間に生成物が生成することで第1空間内の生成物の分圧が大きくなり、上記生成物が分離膜を介して第2空間に透過して分離される。また、後述のとおり、第2空間に掃引ガスを流通させることで、第2空間に透過して分離した生成物が掃引ガスとともに第2空間から流出されるため、第1空間内の生成物の分圧と第2空間内の生成物の分圧との差(分圧差)が保たれる。すなわち、掃引ガスの流通によって、生成物の第2空間への透過は促進される。
【0027】
[混合ガス流出工程]
混合ガス流出工程は、第2空間(E2)に掃引ガスを流通させることで、生成物膜分離工程で分離された生成物とともに、分離膜(M)を介して第2空間(E2)に透過した原料ガスである水素ガスを、第2空間(E2)から流出させる工程である。なお、第2空間から流出された混合ガスが目的生成物を含有する場合はこれを回収してもよい。
【0028】
〔掃引ガス〕
掃引ガスは、特に指定されるものではないが、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素ガスのうち少なくともいずれか1つであれば、掃引ガスと、分離膜を介して第2空間に透過した水素ガスとを分離せず、上述した気相反応工程の原料ガスとして導入できるため好ましい。
また、掃引ガスとして水素ガスを用いると、掃引ガスと分離膜を介して第2空間に透過した水素ガスとを分離せず、水素ガス再利用工程で利用できるため、掃引ガスは水素ガスであることが特に好ましい。
【0029】
掃引ガスは、第2空間(E2)から流出した水素ガスを含むガスの一部または全部を掃引ガスとして循環させ、再利用することで、掃引ガスによって回収される水素ガスの濃度が増加するとともに、掃引ガスに使用するガス総量を節約できるため、第2空間(E2)から流出した水素ガスを含むガスの一部または全部を掃引ガスとして循環利用することが好ましい。
【0030】
[水素ガス再利用工程]
水素ガス再利用工程は、混合ガス流出工程で第2空間(E2)から流出された混合ガス中の少なくとも水素ガスを気相反応工程の原料ガス又は他プロセスの原料ガスとして利用する工程である。
他プロセスの具体例としては、発電設備などが挙げられ、天然ガスや高炉ガスなど、様々な原料ガスに混合して利用することができる。
【0031】
[混合ガス分離工程]
本発明の方法は、本発明の効果等がより優れる理由から、水素ガス再利用工程の前に、混合ガス流出工程で流出された混合ガスを分離し、水素ガスの濃度を高める工程(混合ガス分離工程)をさらに有するのが好ましい。
【0032】
混合ガス分離工程における分離方法は、特に指定されるものではなく、沸点の差を利用する気液分離法や吸着材を利用する吸着法、膜分離法等のいずれも使用可能であり、掃引ガスによって回収した水素ガスを含む混合ガスの組成や水素ガス再利用工程における好適なガス組成に応じて、分離方法を選ぶことができる。
【0033】
混合ガスを、水素ガス再利用工程において気相反応工程の原料ガスとして導入する前に、原料ガスの一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスの少なくとも一方と水素ガスとの組成と流量を気相反応に好適な値に調整できれば、気相反応における水素ガス利用効率の向上が可能であることから、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素ガスのうち少なくともいずれか1つを混合することで、気相反応工程の原料ガスに使用する一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスの少なくとも一方と水素ガスの組成と流量を調整することが好ましい。
【0034】
[好適な態様]
本発明の方法は、本発明の効果等がより優れる理由から、膜反応器における分離膜が水蒸気を透過する分離膜(水蒸気分離膜)(好ましくは目的生成物を透過し難いもの)であり、混合ガス流出工程で使用される掃引ガスが水素ガスであり、水素ガス再利用工程の前に混合ガス分離工程(混合ガス流出工程で流出された混合ガス(水蒸気、水素ガス)を気液分離法によって水素ガスの濃度を高める工程)をさらに有し、混合ガス分離工程で得られたガス(水素ガスを濃縮したガス)の一部と一酸化炭素又は二酸化炭素とを混合して気相反応工程の原料ガスとし、混合ガス分離工程で得られた残りのガスを掃引ガスとして利用するのが好ましい。このような態様であると、分離膜を透過した水素ガスを再利用できるため、目的生成物(例えばメタノール)の収率がより向上する。
【実施例0035】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕
図2は本発明の方法の一実施例を示す図である。
図2において、膜反応器Eは、反応管10と分離管21との二重管構造を有する。反応管10と分離管21との間には第1空間E1(非透過側の第1空間E1)が区画され、分離管21の内部には第2空間E2(透過側の第2空間E2)が区画されている。分離管21は、多孔質のアルミナ管(内管)26とその反応管10側の表面に存在する水蒸気分離膜M1(LTA型のゼオライトを析出させたもの)とからなる。第1空間E1には、銅-亜鉛系の触媒31が充填されている。
コンプレッサー60によって第1空間E1に原料ガス(二酸化炭素ガス、水素ガス)を5MPaA、200℃で導入するともに、ブロワー80によって分離管21の内側である第2空間E2に掃引ガス(水素ガス)を常圧、160℃で導入した。
【0037】
<気相反応工程>
第1空間E1に二酸化炭素ガスと水素ガスとを含む原料ガスを導入した。第1空間E1に上記原料ガスを導入することで、触媒31の作用によって、メタノール(水蒸気以外の反応生成物)(目的生成物)と水蒸気とが合成された。
なお、未反応ガス(反応しなかった原料ガス)及び生成物(メタノール、水蒸気)のうち分離膜を透過せず第1空間E1に残ったものは、第1空間E1の出口側aから流出され、メタノールは回収された。
【0038】
<生成物膜分離工程>
気相反応工程によって第1空間に生成した生成物のうち水蒸気が、水蒸気分離膜M1を介して第2空間E2に透過して分離された。
【0039】
<混合ガス流出工程>
第2空間E2に掃引ガス(水素ガス)を流通させた。これにより、生成物膜分離工程で分離された水蒸気とともに、水蒸気分離膜M1を介して第2空間E2に透過した原料ガスである水素ガスを、第2空間E2から流出させた。なお、掃引ガスには1NL/min(分)の水素ガスを用いた。混合ガス流出工程で第2空間E2から流出された混合ガスは、生成物膜分離工程で分離された水蒸気、水蒸気分離膜M1を介して第2空間E2に透過した原料ガスである水素ガス、及び、掃引ガスである水素ガスを含む。
【0040】
<混合ガス分離工程>
混合ガス流出工程で流出された混合ガスを気液分離器90によって水蒸気を分離し、水素ガスを濃縮した。
【0041】
<水素ガス再利用工程>
得られたガス(水素ガスを濃縮したガス)のうち0.25NL/minは、流量調節弁110を介して、膜反応器Eの第2空間E2に導入する1NL/minの掃引ガス(水素ガス)の一部として利用した。また、得られたガスのうち0.25NL/minを差し引いた残りのガスは、0.25NL/minの二酸化炭素ガスを混合した後、コンプレッサー60により昇圧し、膜反応器Eの第1空間E1に導入する原料ガス(上述した気相反応工程の原料ガス)として利用した。
【0042】
〔比較例1〕
上述した実施例1と同じ膜反応器Eを用いた。
コンプレッサー60によって第1空間E1に原料ガス(0.25NL/minの二酸化炭素ガス、0.75NL/minの水素ガス)を5MPaA、200℃で導入するともに、ブロワー80によって分離管21の内側である第2空間E2に掃引ガス(1NL/minの窒素ガス)を常圧、160℃で導入した。
気相反応工程及び生成物膜分離工程は上述した実施例1と同様である。
第2空間E2に掃引ガス(窒素ガス)を流通させた。これにより、生成物膜分離工程で分離された水蒸気とともに、水蒸気分離膜M1を介して第2空間E2に透過した原料ガスである水素ガスを、第2空間E2から流出させた。第2空間E2から流出された混合ガスは、生成物膜分離工程で分離された水蒸気、水蒸気分離膜M1を介して第2空間E2に透過した原料ガスである水素ガス、及び、掃引ガスである窒素ガスからなる。
混合ガス流出工程で流出された混合ガスは全て流量調節弁100から排出させ、再利用しなかった。
【0043】
なお、プロセス全体で使用している原料ガス(二酸化炭素ガス、水素ガス)は実施例1と比較例1で同じである。
【0044】
〔水素ガス流量〕
下記表1に、実施例1及び比較例1について、膜反応器Eの第1空間E1及び第2空間E2の入口と出口の水素ガス流量を示す。
【0045】
〔メタノール収率〕
下記表1に、実施例1及び比較例1のメタノール収率を示す。
ここでメタノール収率とは、原料ガスとして導入した二酸化炭素ガスの量に対する生成したメタノールの量の割合を表す。
【0046】
【0047】
表1から分かるように、実施例1のメタノール収率は73%であり、比較例1のメタノール収率は60%であった。比較例1と比較して、実施例1は、メタノール収率が高く、第2空間E2に透過した水素ガスが有効に利用されたことが分かった。比較例1では、第2空間E2から流出された混合ガスに水素ガスが未利用ガスとして残存していた。