(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189364
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】水浸入検出装置及びベアリング保護装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/02 20120101AFI20221215BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20221215BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20221215BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20221215BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
F16H57/02
F16H61/02
F16C41/00
F16C19/06
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097907
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和昭
【テーマコード(参考)】
3J063
3J217
3J552
3J701
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB01
3J063AB53
3J063BB15
3J063CA01
3J063CD02
3J063CD43
3J217JA02
3J217JA16
3J217JA17
3J217JB23
3J217JB63
3J217JB88
3J552MA05
3J552MA13
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA61
3J552UA07
3J552UA10
3J552VA47W
3J552VB01W
3J552VE03Z
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA80
3J701FA22
3J701FA26
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】簡単かつ安価な構成で、車両が備えるクラッチのクラッチケース内に水が浸入したことを検出できる水浸入検出装置、及びクラッチケース内に水が浸入したときにクラッチケース内のベアリングを腐食から保護することができるベアリング保護装置を提供すること。
【解決手段】車両が備えるクラッチ(C1,C2)のクラッチケース(CC)内に水が浸入したことを検出する水浸入検出装置であって、クラッチケース(CC)内の下部に設けられてクラッチケース(CC)内の温度を検出する第一温度センサ(36)と、クラッチケース(CC)内に水が浸入したことを判断する水浸入判断部(10)と、を備え、水浸入判断部(10)は、第一温度センサ(36)の検出温度の変化が所定の閾値よりも大きいか否かに基づいてクラッチケース(CC)内に水が浸入したこと判断する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が備えるクラッチのクラッチケース内に水が浸入したことを検出する水浸入検出装置であって、
前記クラッチケース内の下部に設けられて該クラッチケース内の温度を検出する第一温度センサと、
前記クラッチケース内に水が浸入したことを判断する水浸入判断部と、を備え、
前記水浸入判断部は、前記第一温度センサの検出温度の変化が所定の閾値よりも大きいか否かに基づいて前記クラッチケース内に水が浸入したこと判断する
ことを特徴とするクラッチケースの水浸入検出装置。
【請求項2】
前記クラッチケースの外部の温度を検出する第二温度センサを備え、
前記水浸入判断部は、前記第一温度センサの検出温度が前記第二温度センサの検出温度よりも低いか否かに基づいて前記クラッチケース内に水が浸入したことを判断する
ことを特徴とする請求項1に記載のクラッチケースの水浸入検出装置。
【請求項3】
前記クラッチは、変速機が備えるクラッチであり、
前記第二温度センサは、前記変速機の作動油の温度を検出する作動油温度センサ、外気温を検出する外気温度センサ、前記クラッチケース内に吸入される吸入空気温度を検出する吸入空気温度センサの少なくともいずれかである
ことを特徴とする請求項2に記載のクラッチケースの水浸入検出装置。
【請求項4】
車両が有するクラッチのクラッチケース内に設けられたベアリングを保護するベアリング保護装置であって、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載されたクラッチケースの水浸入検出装置と、
前記ベアリングを乾燥させる乾燥手段に対して該ベアリングを乾燥させるための動作を指示する乾燥動作指示部と、を備え、
前記乾燥動作指示部は、前記水浸入検出装置により前記クラッチケース内に水が浸入したと判断された場合、前記乾燥手段に対して前記ベアリングを乾燥させるための動作を指示する
ことを特徴とするベアリング保護装置。
【請求項5】
前記クラッチに回転を伝達する回転軸と、
前記回転軸に駆動力を付与するエンジンと、を備え、
前記乾燥動作指示部は、前記エンジンが駆動している場合、前記ベアリングの乾燥動作が必要と判断し、前記乾燥手段に対して前記ベアリングを乾燥させるための動作を指示する
ことを特徴とする請求項4に記載のベアリング保護装置。
【請求項6】
前記車両の車速を検出する車速検出手段を備え、
前記乾燥動作指示部は、前記車速検出手段で検出した車速が所定車速以上の場合、前記ベアリングの乾燥動作が必要と判断し、前記乾燥手段に対して前記ベアリングを乾燥させるための動作を指示する
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のベアリング保護装置。
【請求項7】
前記乾燥動作指示部は、前記ベアリングを乾燥させるための動作の指示として、前記エンジンの駆動を所定時間継続する指示を行う
ことを特徴とする請求項5又は6に記載のベアリング保護装置。
【請求項8】
前記第一温度センサの検出温度を時間積分してその累積温度を算出する累積温度算出部をさらに備え、
前記累積温度算出部は、前記乾燥動作指示部により前記ベアリングの乾燥動作が必要と判断された場合、前記累積温度の算出を開始し、
前記乾燥動作指示部は、前記累積温度算出部で算出された前記累積温度が所定値に達するまで前記エンジンの駆動を継続するよう指示する
ことを特徴とする請求項7に記載のベアリング保護装置。
【請求項9】
前記所定値は、前記ベアリング内に入り込んだ水が蒸発するために必要な総熱量に基づいて決定される
ことを特徴とする請求項8に記載のベアリング保護装置。
【請求項10】
前記車両の運転者に対して情報を通知する通知手段をさらに備え、
前記通知手段は、前記累積温度が前記所定値に達する前に前記エンジンの駆動が停止された場合、車両を点検に出すことを促す情報を通知する
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のベアリング保護装置。
【請求項11】
前記通知手段は、前記乾燥動作指示部により前記ベアリングの乾燥動作が必要と判断された場合、前記車両の運転者に対して警告の情報を通知する
ことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか1項に記載のベアリング保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が備えるクラッチのクラッチケース内に水が浸入したことを検出する水浸入検出装置、及びクラッチケース内に設けられたベアリングを保護するベアリング保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異常気象の影響による長雨や集中豪雨などが頻発しており、それによって道路や街が冠水する事態が増え、冠水したアンダーパスなどを自動車などの車両が走行する場合が増えている。
【0003】
水位が所定レベル以上の冠水路を車両が走行すると、車両のエンジンルーム内に設置された変速機が備えるクラッチケース内に水が浸入するおそれがある。クラッチケース内に水が浸入する具体例としては、下記のような事例がある。すなわち、クラッチ板を収容するクラッチケースには換気のための連通孔が設けられており、クラッチケースが水没すると、連通孔からクラッチケースの内部に水が浸入する。また、クラッチケースには、結露等によって内側に溜まった水を外側に排出するために、排水通路が形成されている。この排水通路は、内燃機関とトランスミッションとが車両(自動車)に搭載された状態で最下部となる位置に形成されている。例えば、特許文献1に開示される排水通路は、直線形状である。このような構造では、自動車が水溜りを走行したときなどでは、下から上に向かって跳ね上げられた泥水等が排水通路を通ってクラッチケース内に入り込むことが考えられる。
【0004】
また、特許文献2には、外側から泥水などの異物が内側に入り込むことを防止するよう構成された排水通路を備えたクラッチケースが開示されている。特許文献2の排水通路を採用したクラッチケースであっても、排水通路を介したクラッチケース内部への水の浸入を避けることができない。
【0005】
上記のようにしてクラッチケースの内部に浸入した水は、車両の走行条件によって、クラッチケース内のベアリングの内部にも入り込む。車両を冠水路から退避させると、クラッチケース内に浸入した水の多くは、クラッチケースに設けられた排水路から流出する。しかしながら、ベアリングの内部に入り込んだ水を完全に除去することは難しい。ベアリング内部に残留した水は、ベアリング内部を腐食させる(錆びさせる)。ベアリング内部に生じた錆は、ベアリングからの異音の発生やベアリングの作動不良の原因となる。
【0006】
特許文献3には、車両に設けられた電子ユニットの水没を検知する水没検知回路が開示されている。当該水没検知回路は、電子ユニットのプリント基板に設けられた1対の水没検知用センサ電極を備え、これら電極間の抵抗変化に基づいて電子ユニットの水没を検知する。しかしながら、特許文献3に開示された水没検知回路のような電極タイプでは、水以外の導電材がセンサに接触した場合に水没と誤判定するが虞がある。
【0007】
また、クラッチケース内への水の浸入は、電極タイプのほかに、光学センサ等のセンサでも検出可能である。しかしながら、クラッチケース内はクラッチプレートの摩擦による熱で温度が高くなるので、光学センサは、温度上昇を考慮した構成とすることが必要である。そのため、高価であったり、構成が複雑になったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-098615号公報
【特許文献2】特開2013-053730号公報
【特許文献3】特開2000-315446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単かつ安価な構成で、車両が備えるクラッチのクラッチケース内に水が浸入したことを検出できる水浸入検出装置、及びクラッチケース内に水が浸入したときにクラッチケース内のベアリングを腐食から保護することができるベアリング保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、車両が備えるクラッチ(C1,C2)のクラッチケース(CC)内に水が浸入したことを検出する水浸入検出装置であって、クラッチケース(CC)内の下部に設けられて該クラッチケース(CC)内の温度を検出する第一温度センサ(36)と、クラッチケース(CC)内に水が浸入したことを判断する水浸入判断部(10)と、を備え、水浸入判断部(10)は、第一温度センサ(36)の検出温度の変化が所定の閾値よりも大きいか否かに基づいてクラッチケース(CC)内に水が浸入したこと判断することを特徴とする。
【0011】
第一温度センサで測定されるクラッチケース内の温度は、車両の通常走行中にほぼ安定した値となるが、クラッチケース内に水が浸入すると急激に低下する。水浸入判断部は、第一温度センサの検出温度の変化が所定の閾値よりも大きいか否かに基づいて、クラッチケース内の温度変化が水没に起因する急激なものかを判定することで、クラッチケース内に水が浸入したことを判断する。したがって、本発明にかかる水浸入検出装置によれば、従来の電極タイプや光学タイプの水没を検出するセンサに比べ、安価で簡単な構成でありながら、より迅速にクラッチケース内に水が浸入したことを検出できる。また、導電材が接触した場合に電極タイプのセンサでは誤検出の問題が生ずるおそれがあるところ、本発明の水浸入検出装置が備える温度センサではそのような誤検出のおそれが格段に少ない。
【0012】
また、この水浸入検出装置では、クラッチケース(CC)の外部の温度を検出する第二温度センサ(37)を備え、水浸入判断部(10)は、第一温度センサ(36)の検出温度が第二温度センサ(37)の検出温度よりも低いか否かに基づいてクラッチケース(CC)内に水が浸入したこと判断することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、水浸入判断部がクラッチケースの内部の温度とクラッチケースの外部の温度とを比較し、その判定をクラッチケース内の温度変化に基づく判定に加味することによって、クラッチケースへの水の浸入をさらに正確に検出できる。
【0014】
またこの場合、クラッチ(C1,C2)は、変速機(4)が備えるクラッチであり、第二温度センサは、変速機(4)の作動油の温度を検出する作動油温度センサ(37)、外気温を検出する外気温度センサ(38)、クラッチケース(CC)内に吸入される吸入空気温度を検出する吸入空気温度センサ(39)の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0015】
車両は、通常、変速機の作動油の温度、外気温度、およびクラッチケースの吸入空気温度など複数の温度を検出するための温度センサを備えている。ここでは、このような車両が通常備えている温度センサを第二温度センサとして用いることで、水浸入検出装置のコストアップを抑制しながらも、クラッチケースへの水の浸入を検出する精度をさらに高めることが可能となる。
【0016】
また、本発明は、車両が有するクラッチ(C1,C2)のクラッチケース(CC)内に設けられたベアリング(110,120,130)を保護するベアリング保護装置であって、本発明にかかる上記いずれかの構成の水浸入検出装置と、ベアリング(110,120,130)を乾燥させる乾燥手段(2)に対して該ベアリング(110,120,130)を乾燥させるための動作を指示する乾燥動作指示部(10)と、を備え、乾燥動作指示部(10)は、水浸入検出装置によりクラッチケース(CC)内に水が浸入したと判断された場合、乾燥手段(2)に対してベアリング(110,120,130)を乾燥させるための動作を指示することを特徴とする。
【0017】
クラッチケース内に設けられたベアリングは、水濡れしたときに水が抜け難い構造である。したがって、クラッチケース内に水が浸入したときに、ベアリング内に水が入り込むと、入り込んだ水がベアリング内に残留し、該ベアリングを腐食させる可能性が高い。これに対して、本発明にかかるベアリング保護装置によれば、比較的に安価な温度センサを用いた簡単な構成の水浸入検出装置がクラッチケース内への水の浸入を迅速に検出し、乾燥動作指示部の指示に基づいてベアリング内に浸入した水を蒸発させることができるので、ベアリングの腐食を効果的に防止してベアリングの保護を図ることができる。
【0018】
また、このベアリング保護装置では、クラッチ(C1,C2)に回転を伝達する回転軸と、回転軸に駆動力を付与するエンジン(2)と、を備え、乾燥動作指示部(10)は、エンジン(2)が駆動している場合、ベアリング(110,120,130)の乾燥動作が必要と判断し、乾燥手段(2)に対してベアリング(110,120,130)を乾燥させるための動作を指示することが好ましい。
【0019】
エンジンが駆動し、ベアリング、クラッチが回転することによって、クラッチケース内に気流が発生し、クラッチに付着又は接触した水がベアリング内に誘導されて入り込む場合がある。一方、エンジンの停止中(EV走行中を含む)は、ベアリング、クラッチが回転しないため、ベアリング内に水が入り込むおそれがない。そのためここでは、乾燥動作指示部はエンジンが駆動しているか否かをさらに判定することで、エンジンが駆動していると判断した場合に、乾燥手段に対してベアリングを乾燥させるための動作を指示する。これにより、必要な場合にベアリングを保護するための動作を確実に実行できる。
【0020】
また、このベアリング保護装置では、車両の車速(V)を検出する車速検出手段(34)を備え、乾燥動作指示部(10)は、車速検出手段(34)で検出した車速(V)が所定車速以上の場合、ベアリング(110,120,130)の乾燥動作が必要と判断し、乾燥手段(2)に対してベアリング(110,120,130)を乾燥させるための動作を指示することが好ましい。
【0021】
車両が所定以上の車速で冠水路を走行すると、クラッチを含む変速機の上部に水が掛かり、掛かった水の一部が変速機の上部からクラッチケースの内部に浸入するおそれがある。クラッチケースの内部に浸入した水は、上記のとおり、エンジンが駆動しているとベアリング内に誘導されて入り込む場合がある。そのためここでは、乾燥動作指示部は車速が所定車速以上であるか否かをさらに判定することで、車速が所定車速以上であると判断した場合に、乾燥手段に対してベアリングを乾燥させるための動作を指示する。これにより、必要な場合にベアリングを保護するための動作を確実に実行できる。
【0022】
また、このベアリング保護装置では、乾燥動作指示部(10)は、ベアリング(110,120,130)を乾燥させるための動作の指示として、エンジン(2)の駆動を所定時間継続する指示を行うことが好ましい。
【0023】
エンジンの駆動を継続することによってクラッチなどクラッチケース内の部材に熱が発生し、発生した熱がベアリングを加熱し、ベアリング内に入り込んだ水を蒸発させることができる。また、エンジンからケースを伝わる熱もベアリング内に入り込んだ水を蒸発させることに寄与し得る。したがって、ベアリング内に入り込んだ水を蒸発させるための乾燥手段としてエンジンを用いることで、ベアリング内に入り込んだ水を蒸発させるための別途の加熱手段や送風手段が不要となり、これらを設置することによる重量増を回避でき、かつこれらを設置するためのスペースも省くことができる。
【0024】
また、このベアリング保護装置では、第一温度センサ(36)の検出温度を時間積分してその累積温度を算出する累積温度算出部(10)をさらに備え、累積温度算出部(10)は、乾燥動作指示部(10)によりベアリング(110,120,130)の乾燥動作が必要と判断された場合、累積温度の算出を開始し、乾燥動作指示部(10)は、累積温度算出部(10)で算出された累積温度が所定値に達するまでエンジン(2)の駆動を継続するよう指示することが好ましい。
【0025】
ここでいう累積温度は、クラッチケース内部の温度総熱量に相当する。したがって、この累積温度をベアリング内の水を蒸発させるための動作パラメータとして用いることで、ベアリング内の水を蒸発させるための動作をより簡便に制御することができる。
【0026】
またこの場合、所定値は、ベアリング(110,120,130)内に入り込んだ水が蒸発するために必要な総熱量に基づいて決定されることが好ましい。
【0027】
ベアリング内に入り込んだ水を蒸発させるための乾燥手段としてエンジンを用いる場合、累積温度がベアリング内の水を蒸発させるために必要な総熱量に達するまでエンジンの動作を継続することによって、ベアリング内の水をより確実に蒸発させることができる。したがって、ベアリングのより効果的な保護が可能となる。
【0028】
また、このベアリング保護装置では、車両の運転者に対して情報を通知する通知手段(41)をさらに備え、通知手段(41)は、累積温度が所定値に達する前にエンジン(2)の駆動が停止された場合、車両を点検に出すことを促す情報を通知することが好ましい。
【0029】
ベアリング内に入り込んだ水を蒸発させるための手段としてエンジンを用いる場合、ベアリング内の水の蒸発が完了する前に、車両の運転者がエンジンを停止すると、ベアリング内に水が残留し、残留した水がベアリングを腐食させる虞がある。したがって、累積温度がベアリング内の水を蒸発するために必要な総熱量に達成する前にエンジンが停止された場合、通知手段が車両の運転者に対して該車両の点検を促す情報を通知する。点検を促す通知を受けた車両の運転者が業者に点検を依頼することによって、ベアリングの腐食を防止すること(ベアリングを保護すること)ができる。
【0030】
また、このベアリング保護装置では、通知手段(41)は、乾燥動作指示部(10)によりベアリング(110,120,130)の乾燥動作が必要と判断された場合、車両の運転者に対して警告の情報を通知することが好ましい。
【0031】
この構成によれば、ベアリングに水が入り込んだこと、およびベアリング保護装置が動作することを車両の運転者に予告し、注意を喚起することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る水浸入検出装置によれば、簡単かつ安価な構成で、車両が備えるクラッチのクラッチケース内に水が浸入したことを検出できる。また、本発明に係るベアリング保護装置によれば、クラッチケース内に水が浸入したときにクラッチケース内のベアリングを腐食から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるベアリング保護装置を備えた車両の駆動装置の概略図である。
【
図2】駆動装置の一部の外観構成を示す斜視図である。
【
図5】水浸入検出制御及びベアリング保護制御の手順を示すフローチャートである。
【
図6】クラッチケース内に水が浸入する場合における変速機の入力軸の回転数、車速、クラッチケース内の温度の経時変化を示すグラフである。
【
図7】ベアリング保護制御を実施した場合のクラッチケース内の温度の経時変化を示すグラフである。
【
図8】クラッチケース内のベアリングに入り込んだ水の残留量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかるベアリング保護装置を備えた車両の駆動装置の概略図である。
【0035】
本実施形態の駆動装置1は、駆動源としての内燃機関2及び電動機3を備えたハイブリッド自動車の車両に搭載される駆動装置1であって、さらに、電動機3を制御するためのインバータ(電動機制御手段)20と、バッテリ(蓄電装置)30と、トランスミッション(変速機)4と、ディファレンシャル機構5と、左右のドライブシャフト6R,6Lと、左右の駆動輪WR,WLとを備える。ここで、電動機3は、モータでありモータジェネレータを含み、バッテリ30は、蓄電器でありキャパシタを含む。また、内燃機関2は、エンジンであり、ディーゼルエンジンやターボエンジンなどを含む。内燃機関(以下、「エンジン」と記す。)2と電動機(以下、「モータ」と記す。)3の回転駆動力は、変速機4、ディファレンシャル機構5およびドライブシャフト6R,6Lを介して左右の駆動輪WR,WLに伝達される。
【0036】
変速機4は、モータ3に接続されると共に第一クラッチ(奇数段クラッチ)C1を介して選択的にエンジン2のクランク軸2aに接続される第一入力軸(後述する内側メインシャフト)IMSと、第二クラッチ(偶数段クラッチ)C2を介して選択的にエンジン2のクランク軸2aに接続される第二入力軸(後述する外側メインシャフト又はセカンダリシャフト)OMS(SS)と、駆動輪WR,WL側に動力を出力する出力軸CSと、第一入力軸IMSと出力軸CSとの間に配置されて最低変速段から奇数番目に属する複数の変速段(1,3,5速段など)を設定可能な第一変速機構G1と、第二入力軸OMS(SS)と出力軸CSとの間に配置されて最低変速段から偶数番目に属する複数の変速段(2,4,6速段など)を設定可能な第二変速機構G2とを備えて構成されている。なお、
図1では、変速機4の構成を簡略化したものを示しているが、変速機4の詳細な構成及び説明は、例えば、特開2019-1179号公報などに示されている。
【0037】
また、車両は、エンジン2、モータ3、変速機4、ディファレンシャル機構5、インバータ(電動機制御手段)20およびバッテリ30をそれぞれ制御するためのECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)10を備える。ECU10は、1つのユニットとして構成されるだけでなく、例えばエンジン2を制御するためのエンジンECU、モータ3やインバータ20を制御するためのモータジェネレータECU、バッテリ30を制御するためのバッテリECU、変速機4を制御するためのAT-ECUなど複数のECUから構成されてもよい。本実施形態のECU10は、エンジン2を制御するとともに、モータ3やバッテリ30、変速機4を制御する。
【0038】
ECU10は、各種の運転条件に応じて、モータ3のみを動力源とするモータ単独走行(EV走行)をするように制御したり、エンジン2のみを動力源とするエンジン単独走行をするように制御したり、エンジン2とモータ3の両方を動力源として併用する協働走行(HEV走行)をするように制御する。また、ECU10は、公知の各種の制御パラメータに従って、後述するモータ3のストール状態におけるインバータ20の保護制御や、その他の各種の運転に必要な制御を行う。
【0039】
また、ECU10には、制御パラメータとして、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセルペダル開度センサ31からのアクセルペダル開度、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキペダルセンサ32からのブレーキペダル開度、ギヤ段(変速段)を検出するシフトポジションセンサ33からのシフト位置、車速を検出する車速センサ(車速検出手段)34からの車速、バッテリ30の残容量(SOC)を測定する残容量検出器35からの残容量などの各種信号が入力されるようになっている。また、ECU10には、後述するクラッチケースCC(
図2乃至
図4参照)内の温度を検出するケース内温度センサ36からの検出温度、変速機4の作動油であるATF(Automatic transmission fluid)の温度を検出するATF温度センサ37からの検出温度、外気温を検出する外気温度センサ38からの検出温度、クラッチケースCC内に吸入される吸入空気温度を検出する吸入空気温度センサ39の検出温度などの信号も入力されるようになっている。
【0040】
また、ECU10は、車両の運転席の近傍などに設けられたディスプレイなどの表示装置(通知手段)41に対して所定の警告に関する情報などの信号を出力すると共に、車両の室内に設けられたスピーカなどの音声出力装置42に対しても所定の警告に関する情報などの信号を出力するようになっている。なお、ここでいう所定の警告に関する情報とは、例えば、後述する車両を点検に出すことを促す情報や、車両の運転者に対する(ベアリング110,120,130の乾燥動作を行っている旨の)警告の情報などが含まれる。
【0041】
なお、ECU10は、本発明にかかる水浸入検出装置の構成要素であり、後述するクラッチケースCC内に水か浸入したことを判断する水浸入判断部として機能すると共に、本発明にかかるベアリング保護装置の構成要素として、後述するベアリング110,120,130を乾燥させる乾燥手段(エンジン2)に対して該ベアリング110,120,130を乾燥させるための動作を指示する乾燥動作指示部や、ケース内温度センサ36の検出温度を時間積分してその累積温度を算出する累積温度算出部などとしても機能する。
【0042】
エンジン2は、燃料を空気と混合して燃焼することにより車両1を走行させるための駆動力を発生する内燃機関である。モータ3は、エンジン2とモータ3との協働走行やモータ3のみの単独走行の際には、バッテリ30の電気エネルギーを利用して車両1を走行させるための駆動力を発生するモータとして機能するとともに、車両1の減速時には、回生により電力を発電する発電機(ジェネレータ)として機能する。モータ3の回生時には、バッテリ30は、モータ3により発電された電力(回生エネルギー)により充電される。
【0043】
図2は、駆動装置の一部の外観構成を示す斜視図であり、
図3は、
図2のA方向から見た矢視図、
図4は、
図3のX-X断面図である。駆動装置1の筐体は、軸方向に沿って
図3の左側から、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が収容されたクラッチケースCCと、変速機4の構成部品が収容されたトランスミッションケースTCと、モータ3の一方の側面を覆うサイドカバーSCとで構成されており、これらクラッチケースCCとトランスミッションケースTCとサイドカバーSCとが一体に接合されている。ここで、クラッチケースCC内とトランスミッションケースTC内とは、互いがクラッチケースCC及びトランスミッションケースTCによって仕切られた空間となっている。そして、
図4に示すように、クラッチケースCC内には、第一クラッチC1及び第二クラッチC2に加えて、これら第一クラッチC1と第二クラッチC2とを覆うクラッチカバーCVが収容されている。また、クラッチケースCC内には、第一クラッチC1を回転自在に支持する第一ベアリング110と、第二クラッチC2を回転自在に支持する第二ベアリング120と、クラッチカバーCVを回転自在に支持する第3ベアリング130とが設けられている。これら第一、第二、第3ベアリング(以下、単に「ベアリング」と記す。)110,120,130はいずれもボールベアリングである。また、
図2~
図4に示すように、クラッチケースCC内の温度を検出するためのケース内温度センサ36は、クラッチケースCC内の下部に設けられている。
【0044】
また、いずれも図示は省略するが、クラッチケースCCの下部(底部)には、クラッチケースCC内に溜まった結露水等を排出するための水抜き穴が設けられており、クラッチケースCCの上部には、クラッチケースCC内外で空気が行き来できるよう連通孔が設けられている。クラッチケースCCが水没すると、これら水抜き穴や連通孔からクラッチケースCC内に水が浸入するおそれがある。また、トランスミッションケースTCに水が掛かると、掛かった水が、トランスミッションケースTCとその上に配置された構成部品(
図2を参照。)との連結部などを介して、クラッチケースCC内に浸入するおそれがある。このようにしクラッチケースCC内に浸入した水は、水位の上昇または水の跳ね上がりにより、ベアリング110,120,130の内部に入り込むおそれがある。また、連通孔から浸入した水は、クラッチケースCC内の部品を伝わりクラッチケースCCの下部に到るが、その一部がベアリング110,120,130の内部に入り込むおそれがある。
【0045】
そのため、本実施形態の駆動装置1及びその制御装置は、車両の走行中にクラッチケースCC内に水が浸入したことを検出するための水浸入検出制御を行うようになっている。さらに、本実施形態の駆動装置1及びその制御装置は、クラッチケースCC内に水が浸入した場合にベアリング110,120,130を腐食から保護するためのベアリング保護制御を行うようになっている。以下、これら水検出制御及びベアリング保護制御の内容を詳細に説明する。
【0046】
上記の水浸入検出制御では、ケース内温度センサ36の検出温度の変化が所定の閾値よりも大きいか否かに基づいて、クラッチケースCC内に水が浸入したことを判断するようになっている。また、この水浸入検出制御では、上記のケース内温度センサ36の検出温度の変化が所定の閾値よりも大きいか否かの判断に加えて、ケース内温度センサ36の検出温度がクラッチケースCCの外部の温度よりも低いか否かに基づいてクラッチケースCC内に水が浸入したことを判断するようになっている。なお、ここではクラッチケースCCの外部の温度の例として、ATF温度センサ37の検出温度を用いるほか、外気温を検出する外気温度センサ38の検出温度や、吸入空気温度センサ39の検出温度などを用いることもできる。
【0047】
また、上記のベアリング保護制御を実施するための条件として、クラッチケースCC内に浸入した水がベアリング110,120,130内に入り込んだと判断されることを要件としている。ここでの水がベアリング110,120,130内に入り込んだとの判断は、車両の車速が所定車速以上であることと、エンジン2が駆動していることに基づいて判断される。車速が所定車速以上であることに基づいて判断する理由は、車速が所定車速未満の低車速の場合には、通常、ベアリング110,120,130内に水が入り込まないためである。また、エンジン2が駆動していることに基づいて判断する理由は、通常、エンジン2の停止中はベアリング110,120,130内に水が入り込まないためである。
【0048】
図4に示すように、ケース内温度センサ36は、ベアリング110,120,130の直下(真下の位置)であるクラッチケースCCの内の底部に設けられる。後述するように、クラッチケースCCが水没するなどして、クラッチケースCC内に水が浸入した場合、浸入した水によってクラッチケースCC内の温度が低下する。したがって、ケース内温度センサ36による検出温度の変化(低下)が所定の閾値以上である(すなわち、急激な温度低下である)場合には、クラッチケースCC内に水が浸入したと判断することができる。
【0049】
図5は、水浸入検出制御及びベアリング保護制御の手順を示すフローチャートである。同図のフローチャートにおけるST1~ST3のステップは、クラッチケースCC内に水が浸入したことを検出する水浸入検出制御の手順である。また、ST6~ST12のステップは、クラッチケースCC内のベアリング110,120,130を腐食から保護するためのベアリング保護制御の手順である。
【0050】
クラッチケースCC内に水が浸入したことは、上述のとおり、ケース内温度センサ36が検出するクラッチケースCC内の温度の変化が所定の閾値以上であるか否かに基づいて検出することができる。ECU10は、車両の通常走行中に、ケース内温度センサ36で検出されたクラッチケースCC内の温度TCの単位時間当たりの変化ΔTCが閾値Tth以上(ΔTC≧Tth)であるか否かを判定する(ST1)。その結果、ΔTCが閾値Tth以上ではない場合(ST1の判定がNOの場合)、通常走行が継続される。一方、ΔTCが閾値Tth以上である場合(ST1の判定がYESの場合)、ECU10は、続けて、ケース内温度センサ36で検出された温度TCがATF温度センサ37で検出されたATFの温度(クラッチケースCCの外部の温度)である温度TATFよりも低い(TATF>TC)か否かをさらに判定する(ST2)。その結果、温度TCが温度TATF以上の場合(ST2の判定がNOの場合)は、通常走行が継続される。一方、温度TCが温度TATFよりも低い場合(ST2の判定がYESの場合)は、クラッチケースCC内に水が浸入した旨の判定(水浸入判定)を行う(ST3)。
【0051】
ここで、
図6を用いて、上記の水浸入検出制御の具体例を説明する。
図6は、クラッチケースCC内に水が浸入する場合における変速機4の入力軸(すなわち、エンジン2の出力軸2a)の回転数N
in、車速V、ケース内温度センサ36により検出されるクラッチケースCC内の温度T
Cの経時変化を示すグラフである。エンジン2が駆動する前のクラッチケースCC内の温度T
Cは、T
C=T
0である。時間t
10において、エンジン2が始動する。その後、車速Vが上がっていく過程で、第一クラッチC1および第二クラッチC2は摩擦熱を発生し、当該摩擦熱によって温度T
Cが上昇する。時間t
11において、車速Vが所定の到達速度に達した後、その到達速度が維持される。到達速度が維持されている間は、温度T
CはT
C=T
1でほぼ一定である。ところが、時間t
12においてクラッチケースCC内に水が浸入すると、それ以降、温度T
Cは急激に低下する。温度T
Cは、経過時間t
13においてT
C=T
2に下がる。ここで、時間t
12から時間t
13までの間(Δt)の温度T
Cの変化ΔT
C=T
1-T
2であるため、単位時間あたりの温度変化ΔT
C/Δt=(T
1-T
2)/(t
13-t
12)である。したがって、この単位時間あたりの温度変化ΔT
C/Δtが所定の閾値T
thよりも大きい(ΔT
C/Δt>T
th)ことをもって、時間t
12においてクラッチケースCC内に水が浸入したと判断する。
【0052】
図5のフローチャートに戻り、先のST3で水浸入判定がされると、続けて、ECU10は、車速Vが所定値V
thより大きい(V>V
th)か否かをさらに判定する(ST4)。その結果、車速Vが所定値V
th以下の場合(ST4の判定がNOの場合)、通常走行が継続される。一方、車速Vが所定値V
thより大きい場合(ST4の判定がYESの場合)、続けて、ECU10は、エンジン2が駆動しているか(駆動中であるか)否かをさらに判定する(ST5)。その結果、エンジン2が停止中である場合(ST5の判定がNOの場合)は、通常走行が継続される。一方、エンジン2が駆動中である場合(ST5の判定がYESの場合)、次のST6以降のベアリング保護制御に移行する。
【0053】
ベアリング保護制御では、ECU10は、ベアリング110,120,130内に水が入り込んだと判断するとともに(ST6)、ベアリング110,120,130内に水が入り込んだ旨の警告の情報を表示装置41に対して送信することで、表示装置41に水浸入の警告を表示する(ST7)。これにより、運転者に対してベアリング110,120,130内に水が入り込んだことを知らせることができる。
【0054】
次に、ECU10は、ケース内温度センサ36の検出温度Tcを時間積分し、クラッチケースCC内の累積温度の算出を行う(ST8)。次いで、ECU10は、車両の運転が継続されているかを判定する(ST9)。その結果、車両の運転が継続されていない場合(ST9の判定がNOの場合)、車両の点検を促す旨の情報を表示装置41に対して送信し、表示装置41に点検を促す旨の表示をする(ST10)。一方、車両の運転が継続されている場合(ST9の判定がYESの場合)、ECU10は、算出した累積温度が所定値に達したか否かをさらに判定する(ST11)。ここでいう所定値は、ベアリング110,120,130内に入り込んだ水が蒸発するために必要な総熱量に相当するものとして予め設定され、ECU10が備える図示しない記憶手段(記憶部)などに記憶されている。その結果、ECU10は、算出した累積温度が所定値に達していない場合(ST11の判定がNOの場合)、ST8に戻って、さらに累積温度の算出を続ける。一方、累積温度が所定値に達した場合(ST11の判定がYESの場合)、先のST7において表示装置41に表示させた警告の表示を消灯する(ST12)。
【0055】
図7は、上記のベアリング保護制御を実施した場合のクラッチケース内の温度の経時変化を示すグラフである。同図のグラフでは、時間t
21にクラッチケースCC内に水が浸入し、時間t
22に水浸入が判断される。その後、ベアリング乾燥動作として、クラッチケースCC内温度の積算が行われる(ST8)と共に、エンジン2の駆動(アイドル運転)の継続が指示される(ST9)。これらクラッチケースCC内温度の積算とエンジン2の駆動(アイドル運転)は時間t
23まで継続される。時刻t
23において累積温度が乾燥する温度(所定値)に達していなければ、さらにこれらクラッチケースCC内温度の積算とエンジン2の駆動(アイドル運転)を継続する。
【0056】
図8は、典型的な市街地モードで車両が走行したときのベアリング120,130に入り込んだ水の残留量の経時変化を示している。同図のグラフに示す場合では、走行時間がt
C2のときにベアリング120内の乾燥が完了し、走行時間がt
Coのときにベアリング130の乾燥が完了する。したがって、あらかじめ典型的な市街地モードで走行した場合について、ベアリング120,130が乾燥するまでに要する走行時間を実測しておき、当該実測値に基づいて、ST11における所定値を設定することができる。なお、上記はベアリング110についても同様である。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の水浸入検出装置は、クラッチケースCC内の下部に設けられてクラッチケースCC内の温度を検出する第一温度センサであるケース内温度センサ36と、クラッチケースCC内に水か浸入したことを判断する水浸入判断部として機能する10と、を備え、ECU10は、ケース内温度センサ36の検出温度の変化が所定の閾値よりも大きいか否かに基づいてクラッチケースCC内に水が浸入したこと判断する。
【0058】
ケース内温度センサ36で検出されるクラッチケースCC内の温度は、車両の通常走行中ほぼ安定した値となるが、クラッチケースCC内に水が浸入すると急激に低下する。そこで、ケース内温度センサ36の検出温度の変化が所定の閾値よりも大きいか否かに基づいて、クラッチケースCC内の温度変化が水没に起因する急激なものかを判定することで、クラッチケースCC内に水が浸入したこと判断する。したがって、本実施形態の水浸入検出装置によれば、従来の電極タイプや光学タイプの水没を検出するセンサに比べ、安価で簡単な構成により迅速にクラッチケースCC内に水が浸入したことを検出できる。また、導電材が接触した場合に電極タイプのセンサでは誤検出の問題が生ずるおそれがあるところ、本実施形態の水浸入検出装置が備えるケース内温度センサ36ではそのような誤検出のおそれが格段に少ない。
【0059】
また、本実施形態の水浸入検出装置では、クラッチケースCCの外部の温度を検出する第二温度センサであるATF温度センサ37を備え、ケース内温度センサ36の検出温度がATF温度センサ37の検出温度よりも低いか否かに基づいてクラッチケースCC内に水が浸入したこと判断する。
【0060】
この構成によれば、クラッチケースCCの内部の温度とクラッチケースCCの外部の温度とを比較し、その判定をクラッチケースCC内の温度変化に基づく判定に加味することによって、クラッチケースCCへの水の浸入をさらに正確に検出できる。
【0061】
またこの場合、本発明の第二温度センサは、上記のATF温度センサ37以外にも、クラッチケースCCの外部の温度を検出できる温度センサであれば、外気温を検出する外気温度センサ38、クラッチケースCC内に吸入される吸入空気温度を検出する吸入空気温度センサ39などを用いることもできる。
【0062】
車両は、通常、変速機4の作動油の温度、外気温度、およびクラッチケースCCの吸入空気温度など複数の温度を検出するための温度センサを備えている。ここでは、このような車両が通常備えている温度センサを第二温度センサとして用いることで、水浸入検出装置のコストアップを抑制しながらも、クラッチケースCCへの水の浸入を検出する精度をさらに高めることが可能となる。
【0063】
また、本実施形態は、車両が有するクラッチC1,C2のクラッチケースCC内に設けられたベアリングを保護するベアリング保護装置であって、本実施形態の水浸入検出装置と、ベアリング110,120,130を乾燥させる乾燥手段であるエンジン2に対して該ベアリング110,120,130を乾燥させるための動作を指示する乾燥動作指示部として機能するECU10と、を備え、ECU10は、水浸入検出装置によりクラッチケースCC内に水が浸入したと判断された場合、乾燥手段であるエンジン2に対してベアリング110,120,130を乾燥させるための動作(具体的には、該エンジン2の駆動を継続する動作)を指示する。
【0064】
クラッチケースCC内のベアリング110,120,130は、内部に水が入り込んだときに水が抜け難い構造である。したがって、クラッチケースCC内に水が浸入したときに、ベアリング110,120,130内に水が入り込むと、入り込んだ水がベアリング110,120,130内に残留し、ベアリング110,120,130を腐食させる可能性が高い。これに対して、本実施形態のベアリング保護装置によれば、比較的に安価な温度センサを用いた簡単な構成の水浸入検出装置がクラッチケースCC内への水の浸入を迅速に検出し、乾燥動作指示部であるECU10の指示に基づいてベアリング110,120,130内に浸入した水を蒸発させることができるので、ベアリング110,120,130の腐食を効果的に防止してベアリングの保護を図ることができる。
【0065】
また、本実施形態では、乾燥動作指示部として機能するECU10は、エンジン2が駆動している場合、ベアリング110,120,130の乾燥動作が必要と判断し、エンジン2に対してベアリング110,120,130を乾燥させるための動作(具体的にはエンジン2の駆動を継続する動作)を指示する。
【0066】
エンジン2が駆動し、ベアリング120、クラッチC1,C2が回転することによって、クラッチケースCC内に気流が発生し、クラッチC1,C2に付着又は接触した水がベアリング120内に誘導されて入り込む場合がある。一方、エンジン2の停止中(EV走行中を含む)は、ベアリング120、クラッチC1,C2が回転しないため、ベアリング120内に水が入り込むおそれがない。そのためここでは、ECU10はエンジン2が駆動しているか否かをさらに判定することで、エンジン2が駆動していると判断した場合に、エンジン2に対してベアリング110,120,130を乾燥させるための動作を指示する。これにより、必要な場合にベアリング110,120,130を保護するための動作を確実に実行できる。
【0067】
また、本実施形態では、車両の車速を検出する車速検出手段である車速センサ34を備え、乾燥動作指示部であるECU10は、車速センサ34で検出した車速Vが所定車速Vth以上の場合、ベアリング110,120,130の乾燥動作が必要と判断し、エンジン2に対してベアリング110,120,130を乾燥させるための動作(具体的にはエンジン2の駆動を継続する動作)を指示するようになっている。
【0068】
車速Vが所定車速Vth以上で冠水路を走行すると、クラッチC1,C2を含む変速機4の上部に水が掛かり、掛かった水の一部が変速機4の上部からクラッチケースCCの内部に浸入するおそれがある。クラッチケースCCの内部に浸入した水は、既述のように、エンジン2が駆動しているとベアリング120内に誘導されて入り込む場合がある。そのためここでは、車速Vが所定車速Vth以上であるか否かをさらに判定することで、車速Vが所定車速Vth以上であると判断した場合に、エンジン2に対してベアリング110,120,130を乾燥させるための動作を指示する。これにより、必要な場合にベアリング110,120,130を保護するための動作を確実に実行できる。
【0069】
また、本実施形態では、乾燥動作指示部であるECU10は、ベアリング110,120,130を乾燥させるための動作の指示として、エンジン2の駆動を所定時間継続する指示を行う。
【0070】
本実施形態では、エンジン2の駆動を継続することによってクラッチC1,C2に熱が発生し、発生した熱がベアリング110,120,130を加熱し、ベアリング110,120,130内に入り込んだ水を蒸発させることができる。そのため、ベアリング110,120,130の乾燥手段としてエンジン2を用いることで、ベアリング110,120,130内に入り込んだ水を蒸発させるための別途の加熱手段や送風手段が不要となり、これらを設置することによる重量増を回避でき、かつこれらを設置するためのスペースも省くことができる。
【0071】
また、本実施形態では、ECU10は、ケース内温度センサ36の検出温度を時間積分してその累積温度を算出する累積温度算出手段としても機能する。そして、累積温度算出手段は、乾燥動作指示部によりベアリングの乾燥動作が必要と判断された場合、累積温度の算出を開始し、乾燥動作指示部は、累積温度算出手段で算出された累積温度が所定値に達するまでエンジン2の駆動を継続するよう指示する。
【0072】
また、ここでいう累積温度は、クラッチケースCC内の温度総熱量に相当する。したがって、この累積温度をベアリング110,120,130内に入り込んだ水を蒸発させるための動作パラメータとして用いることで、ベアリング110,120,130内に入り込んだ水を蒸発させるための動作をより簡便に制御することができる。
【0073】
またこの場合、上記の所定値は、ベアリング110,120,130内に浸入した水が蒸発するために必要な総熱量に基づいて決定されるものである。
【0074】
ベアリング110,120,130内に入り込んだ水を蒸発させるための乾燥手段としてエンジン2を用いる場合、累積温度がベアリング110,120,130内に入り込んだ水を蒸発させるために必要な総熱量に達するまでエンジン2の動作を継続することによって、ベアリング110,120,130内に入り込んだ水をより確実に蒸発させることができる。したがって、ベアリング110,120,130のより効果的な保護が可能となる。
【0075】
また、本実施形態では、車両の運転者に対して情報を通知する通知手段である表示装置41をさらに備え、この表示装置41は、累積温度が所定値に達する前にエンジン2の駆動が停止された場合、車両を点検に出すことを促す情報を表示するようになっている。
【0076】
ベアリング110,120,130内に入り込んだ水を蒸発させるための手段としてエンジン2を用いる場合、ベアリング110,120,130内に入り込んだ水の蒸発が完了する前に、車両の運転者がエンジン2を停止すると、ベアリング110,120,130の内部に水が残留し、残留した水がベアリング110,120,130を腐食させる虞がある。したがって、累積温度がベアリング110,120,130内に入り込んだ水を蒸発するために必要な総熱量に達する前にエンジン2が停止された場合は、車両の運転者に対して該車両の点検を促す情報を表示装置41に表示する。これによれば、点検を促す通知を受けた車両の運転者が業者に点検を依頼することによって、ベアリング110,120,130の腐食を防止してベアリング110,120,130を保護することができる。
【0077】
また、本実施形態では、表示装置41は、ベアリング110,120,130の乾燥動作が必要と判断された場合、車両の運転者に対して警告の情報を表示するようになっている。
【0078】
この構成によれば、ベアリング110,120,130に水が入り込んだこと、および水が入り込んだことによりベアリング保護装置が動作することを車両の運転者に予告し、注意を喚起することができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、および明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【0080】
例えば、ケース内温度センサ36の設置位置は、上記実施形態に示すクラッチケースCC内の下部(底部)には限らず、クラッチケースCCの内壁形状、ベアリング110,120,130の位置、水抜き穴の位置、または水の浸入を防止する手段の設置位置に応じて他の位置に設置することも可能である。クラッチケースCCが水没した場合、水はクラッチケースCC上部の連通孔(不図示)からも浸入し得るので、当該連通孔からベアリング110,120,130に至る水の経路上に追加の温度センサを設けることもできる。クラッチケースCC内の温度管理のための温度センサが既に車両に設けられている場合、当該温度センサは、水没を検出するための追加の温度センサとして用いてもよい。また、ケース内温度センサ36をクラッチケースCC内の温度管理にも用いてもよい。
【0081】
本発明の乾燥手段は、加熱手段や送風手段などベアリング110,120,130内に浸入した水を蒸発させる手段をさらに有してもよい。このように構成することによって、ベアリング110,120,130の乾燥に要する時間の短縮化を図ることができる。
【0082】
また、上記実施形態では、車両の運転者に対して情報を通知する通知手段がディスプレイなどの表示装置41である場合を説明したが、本発明の通知手段は、車両の運転者に対して情報を通知するものであれば、これ以外にも、例えば車両の車室内に設置したスピーカなどの音声出力装置42を通知手段として用いてもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、変速機4が乾式のツインクラッチ式変速機(デュアルクラッチトランスミッション)であるハイブリッド車両を例示して説明したが、本願発明のベアリング保護装置及び水浸入検知装置は、ハイブリッド車両に限らず、クラッチケースに収容されたクラッチを有する変速機を備える種々の車両に適用できる。
【符号の説明】
【0084】
1 駆動装置
2 内燃機関(エンジン:乾燥手段)
2a クランク軸(出力軸)
3 電動機(モータ)
4 変速機
5 ディファレンシャル機構
6R,6L ドライブシャフト
10 ECU(水浸入判断部、乾燥動作指示部、累積温度算出部)
20 インバータ
30 バッテリ
31 アクセルペダル開度センサ
32 ブレーキペダルセンサ
33 シフトポジションセンサ
34 車速センサ
35 残容量検出器
36 ケース内温度センサ(第一温度センサ)
37 ATF温度センサ(第二温度センサ)
38 外気温度センサ
39 吸入空気温度センサ
41 表示装置(通知手段)
42 音声出力装置(通知手段)
110 第一ベアリング
120 第二ベアリング
130 第三ベアリング
C1 第一クラッチ
C2 第二クラッチ
CC クラッチケース
CS 出力軸
CV クラッチカバー
SC サイドカバー
TC トランスミッションケース
WR,WL 駆動輪
G1 第一変速機構
G2 第二変速機構
IMS 第一入力軸
OMS 第二入力軸