(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189370
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】角層内における結合水増強用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20221215BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61K8/34
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097916
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 志緒
(72)【発明者】
【氏名】関谷 匡俊
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA032
4C083AA122
4C083AA162
4C083AB032
4C083AB172
4C083AC102
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC352
4C083AC402
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC582
4C083AD042
4C083AD092
4C083AD111
4C083AD112
4C083AD152
4C083AD162
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4C083AD332
4C083AD392
4C083AD492
4C083AD662
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD33
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE12
4C083EE13
(57)【要約】
【課題】 角層内における結合水を増強できる技術を提供すること。
【解決手段】 成分(A)グリセリン、及び、(B)ポリグリセリンを含有する、角層内における結合水増強用組成物、又は、角層内における水分蒸散抑制用組成物。 また、さらに、好適には、前記成分(B)が、ポリグリセリン-3である。 また、さらに、好適には、前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合が、前記組成物中、1:0.01~0.5である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)グリセリン及び成分(B)ポリグリセリンを含有する、角層内における結合水増強用組成物又は角層内における水分蒸散抑制用組成物。
【請求項2】
前記成分(B)が、ポリグリセリン-3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合が、前記組成物中、1:0.01~0.5である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記成分(B)が、前記組成物中、5質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、化粧料又は皮膚外用剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
低湿度環境下で使用する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
成分(A)グリセリン及び成分(B)ポリグリセリンを含有する、組成物に配合するために用いられる、角層内における結合水増強剤又は角層内における水分蒸散抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、角層内における結合水増強用組成物、及び角層内における水分蒸散抑制用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、主として表皮、真皮、及び皮下組織に分けられており、当該表皮は、さらに表面から順に皮脂膜、角層、顆粒層、有棘層及び基底層に分かれている。
【0003】
皮膚の最外層に位置する角層は、約80%がケラチンタンパク質で構成される死細胞で、乾燥や紫外線、大気汚染物質などの外的刺激から、皮膚を守るバリア機能の役割を担っている。
角層は、硬いケラチンタンパク質でできた角層細胞が層状に重なって形成されており、体内の水分や体液を漏れ出さないように緻密になっている。角層の水分量は、外界の環境湿度又は角層保湿機能に大きく依存するとされている。角層の水分量が変化したときには、おもに角層細胞中のケラチン繊維とNMFに水分子が蓄えられ、角層の柔軟性に影響を及ぼしているとされている。
【0004】
さらに、加齢、疾病、ストレス、ホルモン異常等の内的要因、及び、乾燥、紫外線等の外的要因が、皮膚組織から水分や細胞外マトリックス(コラーゲン、ヒアルロン酸等)を減少させたり、皮膚の表皮や真皮の機能を低下させたりする。皮膚機能の低下は、例えば、皮膚のしわ、弾力低下(たるみ)、肌荒れ等といった状態になって現れることがある。
【0005】
そして、皮膚を美しく保つためのスキンケアとして、角層に水分や油分を補うことが一般的に行われている。例えば、リンゴ幼果抽出物を有効成分とする、表皮及び/又は角層の水分保持能改善剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】芋川玄繭,油化学,44,10,51-66(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、スキンケアにおいて角層内における自由水の蒸散を検討していたが、本発明者らは角層内における結合水に着目することとした。しかし、ケラチン等の角層内に存在する成分と強く結合している結合水の量をさらに増強させるのに、どのような成分が適しているのか等、角層内における結合水を増強できる成分に関して、未だ十分な知見が得られていないのが実情であった。
【0009】
本発明は、角層内における結合水を増強できる技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、角層内における結合水を増強できる成分について、多大な試行錯誤を行った結果、多価アルコールのなかから特定の成分の組み合わせをすることで、単独成分とほぼ同じ濃度であっても、単独成分によって対照と比較し増量された角層内の結合水量よりも、相乗的に角層内の結合水量を増強できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
本発明は、成分(A)グリセリン及び成分(B)ポリグリセリンを含有する、角層内における結合水増強用組成物、又は角層内における水分蒸散抑制用組成物を提供する。
また、本発明は、成分(A)グリセリン、及び、成分(B)ポリグリセリンを含有する、組成物に配合するために用いられる、角層内における結合水増強剤、又は角層内における水分蒸散抑制剤を提供する。
【0012】
前記成分(B)が、ポリグリセリン-3であってもよい。
前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合又は使用質量割合が、1:0.01~0.5であってもよい。
前記成分(B)が、前記組成物中、5質量%以下であってもよい。
前記組成物が、化粧料又は皮膚外用剤であってもよい。
前記組成物が低湿度環境下で使用されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、角層内における結合水を増強できる技術を提供することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。また、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。また、各数値範囲(~)の上限値(以下)と下限値(以上)は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0015】
1.本発明に係る第一実施形態
本第一実施形態は、成分(A)グリセリン及び成分(B)ポリグリセリンを含有する、組成物、より好適には、角層内における結合水増強用組成物、又は角層内における水分蒸散抑制用組成物を提供することができる。
本第一実施形態の組成物は、表皮中の角層内における結合水増強用又は水分蒸散抑制用であってもよく、また、表皮内における結合水増強用又は水分蒸散抑制用であってもよい。
また、本第一実施形態は、前記(B)ポリグリセリンは、ポリグリセリン-3が好適である。また、本第一実施形態の組成物は、化粧料又は皮膚外用剤であることが好適である。
【0016】
1-1.成分(A)グリセリン
本第一実施形態に用いられる成分(A)は、グリセリンであることが好適である。成分(A)グリセリンは、三価アルコールの一種であり、グリセロール(HO-CH2-CH(OH)-CH2-OH))とも呼ばれ、市販品を用いてもよく、公知の製造方法にて製造したものを用いてもよい。
【0017】
1-2.成分(B)ポリグリセリン
本第一実施形態に用いられる成分(B)は、ポリグリセリンであることが好適である。ポリグリセリン(例えば、トリグリセリン)は、多価アルコールの1種であり、分子内に複数のグリセリン単位を含むもの(HO-(CH2-CH(OH)-CH2-O)n-H)であり、市販品を用いてもよく、公知の製造方法にて製造したものを用いてもよい。
ポリグリセリンの重合度(「ポリ」の数)は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点から、好ましくは2~20、より好ましくは2~10、さらに好ましくは2~5、さらにより好ましくは2~4、より好ましくは3である。また、ポリグリセリンとして、例えば、ポリグリセリン-2(ジグリセリンともいう)、ポリグリセリン-3(トリグリセリンともいう)、ポリグリセリン-4(テトラグリセリンともいう)、ポリグリセリン-5(ペンタグリセリンともいう)等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができ、このうち、ポリグリセリン-3(トリグリセリン)が好ましい。
【0018】
ポリグリセリンの分子量は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点から、好ましくは100~2000、より好ましくは100~800、さらに好ましくは150~400、さらにより好ましくは150~300である。
分子量は、GPC分析にて求めることができる。
【0019】
ポリグリセリンのIOB値は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点から、好ましくは0.5~5.0、より好ましくは1.0~5.0、さらに好ましくは2.0~4.0、さらにより好ましくは3.0~4.0である。例えば、トリグリセリン(IOB=3.0)、ジグリセリン(IOB=3.5)などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種が好ましい。
本発明におけるIOB値は、有機概念図(藤田穆、有機化合物の予測と有機概念図、化学の領域VOL).11,No.10(1957)719-715)に基づき、求めることができる。より詳しくは、この有機概念図では、化合物の物理化学的物性について、主にファンデルワールス(Van Der Waals)力による物性の程度を「有機性」、主に電気的親和力による物性の程度を「無機性」と定義して表現する値である。IOB値は、無機性(inorganic)と有機性(organic)のバランスを示す指標であり、IOB値=無機性値/有機性値として表される。
【0020】
1-3.本第一実施形態における組成物中の成分(A)及び成分(B)の含有質量割合(使用質量割合)
【0021】
前記組成物中の成分(A)グリセリン及び成分(B)ポリグリセリンの含有質量割合(使用質量割合)は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点から、前記成分(A)グリセリンの質量を1としたときに、前記成分(B)の好適な下限値として、前記組成物中、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.02以上、さらにより好ましくは0.03以上、より好ましくは0.04以上であり、前記成分(B)の好適な上限値として、前記組成物中、好ましくは1以下、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下、さらにより好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下である。前記成分(A):前記成分(B)は、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点さらにべたつき感抑制の観点より、前記組成物中、より好ましくは1:0.005~1、さらに好ましくは1:0.01~0.5、さらにより好ましくは1:0.02~0.1である。
【0022】
前記組成物中の成分(A)グリセリン及び成分(B)トリグリセリンの含有質量割合(使用質量割合)は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点から、前記成分(A)グリセリンの質量を1としたときに、前記成分(B)トリグリセリンの好適な下限値として、前記組成物中、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.02以上、さらにより好ましくは0.03以上、より好ましくは0.04以上であり、前記成分(B)トリグリセリンの好適な上限値として、前記組成物中、好ましくは1以下、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下、さらにより好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下である。前記成分(A)グリセリン:前記成分(B)トリグリセリンは、角層内の結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点さらにべたつき感抑制の観点より、前記組成物中、より好ましくは1:0.005~1、さらに好ましくは1:0.01~0.5、さらにより好ましくは1:0.02~0.1である。
【0023】
1-4.本第一実施形態における組成物中の成分(A)及び成分(B)の合計の含有量
前記組成物中の成分(A)グリセリン及び成分(B)ポリグリセリンの合計の含有量は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点より、より好適な下限値として、前記組成物中、好ましくは0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらにより好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、好適な上限値として、前記組成物中、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、さらにより好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下である。前記剤中の成分(A)及び成分(B)の合計含有量のより好適な数値範囲は、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点さらにべたつき感抑制の観点より、前記組成物中、より好ましくは2.5~25質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0024】
前記組成物中の成分(A)グリセリン及び成分(B)トリグリセリンの合計の含有量は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点より、より好適な下限値として、前記組成物中、好ましくは0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらにより好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、好適な上限値として、前記組成物中、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、さらにより好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下である。前記剤中の成分(A)グリセリン及び成分(B)トリグリセリンの合計の含有量のより好適な数値範囲は、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点さらにべたつき感抑制の観点より、前記組成物中、より好ましくは2.5~25質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0025】
1-5.本第一実施形態における組成物中の成分(A)の含有量
【0026】
前記組成物中の成分(A)グリセリンの含有量は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点より、より好適な下限値として、前記組成物中、好ましくは0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらにより好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、好適な上限値として、前記組成物中、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、さらにより好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下である。前記剤中の成分(A)グリセリンの含有量のより好適な数値範囲は、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点さらにべたつき感抑制の観点より、前記組成物中、より好ましくは2.5~25質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0027】
1-6.本第一実施形態における組成物中の成分(B)の含有量
前記組成物中の成分(B)ポリグリセリンの含有量は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点より、好適な下限値として、前記組成物中、好ましくは0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上、さらにより好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上であり、また、好適な上限値として、前記組成物中、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3.5質量%以下、さらにより好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。前記剤中の成分(B)の含有量のより好適な数値範囲は、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点さらにべたつき感抑制の観点より、前記組成物中、より好ましくは0.2~3.5質量%、さらに好ましくは0.3~1.5質量%である。
【0028】
前記組成物中の成分(B)トリグリセリンの含有量は、特に限定されないが、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点より、好適な下限値として、前記組成物中、好ましくは0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上、さらにより好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上であり、また、好適な上限値として、前記組成物中、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3.5質量%以下、さらにより好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、さらにより好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。前記剤中の成分(B)トリグリセリンの含有量のより好適な数値範囲は、角層内における結合水増強向上や水分蒸散抑制向上等の観点さらにべたつき感抑制の観点より、前記組成物中、より好ましくは0.2~3.5質量%、さらに好ましくは0.3~1.5質量%である。
【0029】
1-7.本第一実施形態における用途
前記成分(A)及び前記成分(B)、又はこれら併用若しくはこれら混合物は、角層内における結合水増強作用もしくは結合水増量作用、角層内における水分蒸散抑制作用、及び当該結合水増強による水分蒸散抑制作用、並びに、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても、角層内における結合水増強作用もしくは結合水増量作用、角層内における水分蒸散抑制作用、及び当該結合水増強による水分蒸散抑制作用等を有する。また、前記成分(A)及び前記成分(B)の併用又は混合物は、角層、表皮、表皮中の角層からなる群から選択される1種又は2種におけるこれら各種作用を発揮し得、また、表皮内及び/又は角層内のこれら各種作用も発揮し得る。なお、角層内における結合水の増強とは、コントロール(対照)の角層内の結合水量と比較して、角層内の結合水量を増量できることを少なくともいう。例えば、対照としては、成分無添加のときに生じる角層内の結合水量等が挙げられる。より優れた角層内における結合水の増強として、前記成分(A)及び前記成分(B)を用いることによって、単独成分添加のときに生じる角層内における結合水量と比較して、角層内における結合水量が増量できること等が挙げられる。
【0030】
従って、本発明は、前記成分(A)及び前記成分(B)、又はこれら併用若しくはこれら混合物を含有する若しくは配合しうる、角層内における結合水増強、角層内における水分蒸散抑制、当該結合水増強による水分蒸散抑制、並びに低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下における角層内における結合水増強、角層内における水分蒸散抑制、当該結合水増強による水分蒸散抑制等に用いるための各種組成物を提供することができる。また、本発明は、前記成分(A)及び前記成分(B)、又はこれら併用若しくはこれら混合物を含有する若しくは配合しうる、組成物、より好適には化粧料又は皮膚外用剤を提供することも可能である。当該併用は、製品キットの形態を採用してもよく、例えば、前記成分(A)を含有する製品と、前記成分(B)を含有する製品とから構成される製品キットでもよい。
【0031】
また、前記成分(A)及び前記成分(B)、又はこれら併用若しくはこれら混合物は、組成物に添加、配合又は含有することを目的とする、角層内における結合水増強剤、角層内における水分蒸散抑制剤、当該結合水増強による水分蒸散抑制剤、並びに低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても使用可能な各種剤等の第三実施形態の剤として提供することもできる。当該剤を添加等する組成物として、化粧料又は皮膚外用剤等が挙げられ、第三実施形態の剤を組成物に配合することによって、第一実施形態の組成物を得ることができる。
【0032】
ここで、角層における水の性状、水分子の運動性及び機能から、水を結合水と自由水とに区別することができる。自由水は、角層内成分に弱い力で吸着している水であり、自由に動き回ることができるため、乾燥と共に蒸発しやすい水である。一方、角層内の結合水は、共存成分の親水性部分との相互作用により運動性に制約ができるため、ケラチンなどの角層内に存在する成分と強く結合している水であり、乾燥状態でも揮発しにくい水とされている。これら自由水と結合水は、示差熱分析などの熱力学的方法、或いは近赤外スペクトル分析などの分光学的方法により区別して検出することができる。
【0033】
角層は、水分を結合水の形で約33%を保持して、角層細胞間脂質は、角層のうち約13%の結合水を保持していることが報告されている(非特許文献1)。しかし、ケラチン等の角層内に存在する成分と強く結合している結合水の量をより増強させるのに、どのような成分が適しているのか等、角層内における結合水を増強できる成分に関して、未だ十分な知見が得られていないのが実情であった。
【0034】
しかしながら、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、前記成分(A)及び前記成分(B)という特定の組み合わせをすることで、単独成分とほぼ同じ濃度であっても、単独成分により生じた角層内の結合水量よりも、相乗的に角層内の結合水量を増強できることを新たに見出した。より好適には、前記成分(A)1質量部に対して、前記成分(B)を0.02~0.1質量部程度といった少量混合しても、相乗的に角層内の結合水量を増強できることも新たに見出した。さらに、角層内の結合水は乾燥状態であっても揮発しにくい水であるので、前記成分(A)及び前記成分(B)によって角層内の結合水量が増強されることで、本実施形態であれば、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても、より良好な保湿効果又はスキンケア効果、肌トラブルの予防や改善、より良好な肌状態の維持等が期待できる。また、後記〔実施例〕に示すように、前記成分(A)及び前記成分(B)という特定の組み合わせをすることで、本実施形態であれば、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下でのヒト試験においても、効果及びその持続性について非常に良好な水分蒸散抑制結果を得ることができることが確認されている。
【0035】
これにより、前記成分(A)及び前記成分(B)、又はこれら併用若しくはこれら混合物、前記第一実施形態の組成物は、肌トラブルを予防、改善、又は治療すること;スキンケアを提供すること;肌を良好な状態に維持若しくは改善すること;肌を保湿させること;特異的に保湿機能を向上させること;外的要因(例えば低湿度環境下、湿度環境変化下)にて、健常肌が水分不足になり乾燥している状態又は肌疾患の1つである肌乾燥を予防、改善、又は治療すること等ができ、また、肌に潤いを与えたり、肌の潤いを維持したりすることができる。肌トラブルとして、肌の乾燥化、肌の潤いの減少、肌乾燥等が挙げられる。本実施形態において対象とする肌は、健常肌であっても、肌疾患の肌(敏感肌、乾燥肌等)であっても、よい。
前記成分(A)及び前記成分(B)、又はこれら併用若しくはこれら混合物、本第一実施形態の組成物は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下で使用することがより好適であり、例えば低湿度環境下で保湿やスキンケア等で使用することが挙げられ、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても、肌に潤いを与えたり、肌の潤いを維持したりすること等が可能である。よって、本第一実施形態の組成物は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下で使用するための組成物であってもよい。
【0036】
ところで、一般的に、肌に適切な相対湿度として50~60%RHとされ、これを下回る低湿度(50%RH未満)では、例えば40%RH以下では肌の乾燥を感じやすくなり、30%RH以下になると健常肌であっても肌トラブルが起こりやすいといわれている。一般的に、例えば、季節、地域環境等による気候状況等によって、低湿度環境下になりやすい。また、近年では、エアーコンディショナー、ストーブ、扇風機等の冷房用、暖房用、空調用、換気用等の機器や設備を室内で使用することで、室内が季節を問わず低湿度環境下になっている場合もある。このように環境調整する場合には、一般的に、4~40℃、10~30℃又は20~30℃程度の室温になるように設定している。機器や設備の使用の際に外気が低湿度環境の場合には、この低湿度の外気よりも室内がさらに低湿度環境下になっている場合もある。
【0037】
また、マスクをつけた状態から外した状態等によって、マスクをつけていたその一部分にのみ局所的な湿度環境変化が生じたり浴室から浴室外に出た際等の場所や領域によって高湿度~低湿度と差があるため湿度環境変化が体全体又は体の部分的に生じたりすることがある。そして、高湿度から低湿度へといった湿度環境が変化する下では、より水分量が低下し乾燥することが知られている(参考文献3:Sato J et al, Arch Dermatol Res (2001) 293:477-480参照)。このように湿度環境変化下によって肌からの水分の蒸散が進みやすいため、湿度環境変化が肌トラブル等の原因になっている場合もある。
【0038】
このため、ユーザは、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても、上述した肌トラブルの予防等やより良好なスキンケア等が可能な化粧料や皮膚外用剤等を要望していたが、この要望を未だ十分に達成できているとはいえない実情であった。しかしながら、本実施形態であれば、このような低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下でも良好に使用することができ、しかも本実施形態における成分(A)及び成分(B)の特定の組み合わせの構成及びその効果は、本発明者らでも全く意外な新たな発見であった。
【0039】
本実施形態における低湿度環境下とは、相対湿度50~60%RHよりも低い環境下であることが好適であり、当該相対湿度の好適な上限値として、より好ましくは45%RH以下、さらに好ましくは40%RH以下、より好ましくは35%RH以下、より好ましくは30%RH以下であり、また、好適な下限値として、好ましくは10%RH以上、より好ましくは15%RH以上、さらに好ましくは20%RH以上であり、本実施形態の効果が発揮可能なより好適な範囲として、好ましくは5~40%RHであり、より好ましくは10~35%RHである。当該低湿度環境下であれば、本実施形態を用いたときにユーザの期待する上述のような効果を得やすい。
【0040】
なお、低湿度環境下における本実施形態の効果を評価する場合、後記〔実施例〕の<試験例10~12>の<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価方法>に従って、「初期水分量に対する各経過時間の水分量比率(%)」を用いて評価を行うことができる。対照は、未塗布の場合が望ましい。このとき、試料10質量%水溶液50μLをパッチテスターのパット部分に滴下し、この滴下したパッチテスターを、被験者の皮膚(好適には前腕内側)に貼付を行うことが好適であり、貼付の時間は、10~20分間(より好適15分間)が好適である。被験者数は、特に限定されないが、3名以上が好適であり、例えば5~10名程度等が挙げられる。低湿度環境下における評価の場合には、パッチテスター剥離時を測定開始(0分)とし、測定時間は、剥離後の10分、30分、60分であることが好適であり、このとき、低湿度環境下の温度及び相対湿度を変動がない又は変動差が少ないように所定範囲内(例えば±1又は±3%RHなど)に設定することが好適である。また、低湿度環境下における相対湿度(%RH)及び/又は温度(例えば20~30℃、22℃等)を、適宜設定してもよい。
【0041】
初期水分量に対する各時間の水分量比率(%)={(各時間における水分量の平均値)/(試料塗布前の素肌の水分量の平均値)}×100
「試料塗布前の素肌の水分量の平均値」とは、各被験者の「試料塗布前の素肌の水分量」の合計値を、総被験者で割った平均値である。「各時間における水分量の平均値」とは、各被験者の「各時間における水分量の平均値」のそれぞれの合計値を、総被験者で割った平均値である。
【0042】
本実施形態における湿度環境変化下とは、少なくとも高湿度環境下の1期間と低湿度環境下の1期間とを含み、高湿度環境から低湿度環境へ等といった湿度環境が変化する下であること等が挙げられるが特に限定されず、例えばマスクの着脱により生じる肌や顔の局所的な湿度環境変化等であってもよいし、浴室から浴室外に出た際等の異なる湿度環境への移動や変化等により体全体的な又は部分的な(例えば顔や頭皮等)の湿度環境変化等であってもよい。本実施形態であれば、マスク着脱、移動、気流の変化等により短期間で湿度環境が変化するような場面でも、また「高湿度環境下→低湿度環境下」又は「低湿度環境下→高湿度環境下」のような変化が、組み合わさって生じたり、複数繰り返し生じる場合でも、また、湿度環境変化下中における低湿度環境下においても、ユーザの期待する上述のような本実施形態の効果を得やすい。また、本実施形態における湿度環境変化下は、同一又は異なる「高湿度環境下の1期間」の単数又は複数と、同一又は異なる「低湿度環境下の1期間」の単数又は複数とを含んでもよい。当該高湿度環境下の1期間は、特に限定されないが、好適な下限値として好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上、また好適な上限値として180分以下、より好ましくは120分以下、80分以下、又は30分以下である。また、当該低湿度環境下の1期間は特に限定されないが、好適な下限値として好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上、また、好適な上限値として好ましくは300分以下、より好ましくは260分以下、さらに好ましくは200分以下、より好ましくは180分以下、120分以下又は60分以下である。少なくとも当該期間内であれば、本実施形態の効果をより良好に発揮又は維持させることができる。
【0043】
また、湿度環境変化の差(%RH)の算出は、「相対湿度(高湿度)-相対湿度(低湿度)」にて行うことができる。湿度環境変化下に、同一又は異なる「高湿度環境下の1期間」の単数又は複数と同一又は異なる「低湿度環境下の1期間」の単数又は複数とが含まれる場合には、隣接する「高湿度環境下の1期間」と「低湿度環境下の1期間」であって「高湿度環境下」から「低湿度環境下」に下がるときの湿度環境変化の差(%RH)を求め、これらに基づき得られた平均値を湿度環境変化の差(%RH)としてもよい(例えば、後記<試験例10~12><湿度環境変化下における水分蒸散抑制作用の評価方法><測定方法>参照)。湿度環境変化における「低湿度」は、上記「低湿度環境下」での「低湿度」の説明を適宜採用することができる。また、湿度環境変化における「高湿度」とは、前記「低湿度」を基準にして前記「低湿度」よりも高い湿度のことをいうことが好適であり、相対湿度50~60%RHが含まれていてもよい。
【0044】
また、湿度環境変化の差(%RH)の算出は、「相対湿度(高湿度)-相対湿度(低湿度)」にて行うことができ、「高湿度環境下の期間と低湿度環境下の期間」の1セットが複数ある場合には、各高湿度環境下の期間から高湿度の平均値と、各低湿度環境下の期間から低湿度の平均値とを求め、これら平均値の差であってもよい。湿度環境変化における「低湿度」は、上記「低湿度環境下」での「低湿度」の説明を適宜採用することができる。また、湿度環境変化における「高湿度」とは、前記「低湿度」を基準にして前記「低湿度」よりも高い湿度のことをいうことが好適であり、相対湿度50~60%RHが含まれていてもよい。
【0045】
本実施形態における湿度環境変化下における湿度環境の変化差の好適な下限値として、好ましくは5%RH以上、より好ましくは10%RH以上、さらに好ましくは15%RH以上であり、また、好適な上限値として、好ましくは60%RH以下、より好ましくは50%RH以下、さらに好ましくは40%RH以下、より好ましくは30%RH以下、より好ましくは25%RH以下であり、湿度環境の変化差のより好適な範囲として、好ましくは10~30%RH、より好ましくは15~25%RHである。当該湿度環境変化下における湿度環境の変化差における低湿度の設定は、30%RHであることがより好適であり、又は、高湿度の設定は、50%RHであることがより好適である。当該湿度環境変化下であれば、本実施形態を用いたときにユーザの期待する効果を得やすい。
【0046】
なお、湿度環境変化下における本実施形態の効果を評価する場合、後記〔実施例〕の<試験例10~12>の<湿度環境変化における水分蒸散抑制作用の評価方法>に従って「初期水分量に対する各経過時間の水分量比率(%)」を用いて評価を行うことができる。対照は、未塗布の場合が望ましい。このとき、パッチテスターの貼付や貼付の時間、被験者数は、上記「低湿度環境下における本実施形態の評価をする場合」の説明を採用することができる。
湿度環境変化下における本実施形態の効果を評価する場合には、「高湿度環境下→低湿度環境下」にて、「低湿度環境下→高湿度環境下」にて、又は、例えば「低湿度環境下→高湿度環境下→低湿度環境下」といったこれらの組み合わせにて或いはこれらを繰り返しにて、評価することが望ましく、これら各環境下の期間をそれぞれ所定期間を設けることが好ましく、当該各期間としては、好ましくは10~240分間、より好ましくは10~200分間であり、高湿度環境下の期間としては好ましくは10~120分間、また低湿度環境下の期間としては好ましくは1~200分間、より好ましくは30~200分間である。また、湿度環境変化下に含まれる低湿度環境下のときに、所定の部分の肌の水分量を測定することが、湿度環境変化下中の低湿度環境下における角層内の水分蒸散作用や結合水増強作用等の評価しやすいので望ましい。例えば、第一高湿度環境下で存在する被験者を、第一低湿度環境下で5~20分間(好適には馴化期間として)存在させること;さらに第一低湿度環境下で、パッチテスターを、10~20分間、被験者の肌(好適には前腕内側)に貼り付けること;当該パッチテスターの剥離時を開始時0分とし、第一低湿度環境下で0分~60分(好適には測定期間として)、第一高湿度環境下で60~165分(好適には馴化期間として)、第二低湿度環境下で165~360分(好適には馴化期間10~20分間次いで測定期間175~185分間)被験者を存在させること;パッチテスターにて試料を接触させていた部分の被験者の肌の水分量の測定を行うこと;を含むことにより、試料の評価を行うことが望ましく、当該評価期間は、開始時0分から360分までである。より好適な具体的な評価手順として、第一低湿度環境下で被験者の肌を15分間馴化し、第一低湿度環境下で試料の肌への接触期間10~20分間、第一低温環境下で0~60分間(測定時間は例えば0分、30分、60分等)の肌の水分量の測定を行い、次いで第一高湿度環境下で被験者の肌を100~110分間馴化し、第二低湿度環境下で被験者の肌を10~20分間馴化し、馴化後に第二低湿度環境下で0~180分間(測定時間は例えば0分、60分、90分、180分等)の肌の水分量の測定を行うことがより望ましい。
なお、本発明における湿度環境変化下の評価において、パッチテスター剥離時から高湿度環境下で馴化させた後に、低湿度環境下へ湿度環境を変化させてもよいし、パッチテスター剥離時から、低湿度環境下で馴化させ、その後高湿度環境下でさらに馴化した後に、低湿度環境下へ湿度環境を変化させてもよい。また、高湿度環境下を22℃、50%RH、低湿度環境下を22℃、30%RHに設定して評価してもよく、この温度条件や湿度条件を適宜変更してもよい。
【0047】
また、本第一実施形態の別の側面として、前記成分(A)を含有する組成物を含む製品及び前記成分(B)を含有する組成物を含む製品とから構成される製品キット、前記成分(A)を含有する製品及び前記成分(B)を含有する製品を同時又は別々に用いることで、前記成分(A)及び前記成分(B)の併用としてもよい。また、当該製品キットに含まれる前記成分(A)及び前記成分(B)を同時又は別々に混合させることで本第一実施形態の組成物を調製してもよいし、このような調製が可能な当該製品キットを提供してもよい。例えば、施術者又はエンドユーザが、使用前に前記成分(A)及び前記成分(B)を混合し、これらの混合物を肌に塗布してもよいし、前記成分(A)及び前記成分(B)を同時又は別々に肌上に塗布し、これらを肌上で混合することで本第一実施形態の組成物を調製してもよい。
【0048】
また、本第一実施形態の別の側面としては、上述した、表皮内の及び/又は角層内の結合水増強、水分蒸散抑制、当該結合水増強による水分蒸散抑制、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下での肌への使用等の目的のために用いる、前記成分(A)及び前記成分(B)、これらの併用、前記成分(A)及び前記成分(B)の混合物、又は前記成分(A)及び前記成分(B)を含有する剤、又はこれらの使用を提供することができ、これらを各種剤又は組成物に含有若しくは配合し得ることができる。
【0049】
また、本第一実施形態の別の側面として、前記成分(A)及び前記成分(B)、又はこれら併用若しくはこれら混合物、本第一実施形態の組成物は、上述した表皮内の及び/又は角層内の結合水増強方法、水分蒸散抑制方法、当該結合水増強による水分蒸散抑制方法等に、又はこれら方法の有効成分として用いることができる。
【0050】
また、本第一実施形態の別の側面として、前記成分(A)及び前記成分(B)は、若しくは、本第三実施形態の剤は、上述した表皮内の及び/又は角層内の結合水増強作用、水分蒸散抑制作用、並びに低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下におけるこれらの作用等を有する各種剤又は各種組成物等の製造のために使用することができ、また、上述した、表皮内の及び/又は角層内の結合水増強、水分蒸散抑制、並びに低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下の表皮内の及び/又は角層内の結合水増強、水分蒸散抑制等の使用目的のための各種剤又は各種組成物等の製造のために使用することができる。
【0051】
また、本実施形態は、治療目的の使用であっても、非治療目的の使用であってもよい。「非治療目的」とは、医療行為(例えば、医師が行う行為)、すなわち、治療による人体への処置行為を含まない概念である。非治療目的として、例えば、美容、マッサージ等が挙げられる。
【0052】
また、本実施形態において、「予防」とは、適用対象における症状若しくは疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象における症状若しくは疾患の発症の危険性を低下させること等をいう。本技術において、「改善」とは、適用対象における疾患、症状又は状態の好転又は維持;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0053】
また、本実施形態は、対象として、ヒト、及び非ヒト動物(例えば、ペット、家畜、非ヒト哺乳動物等)等に適用することができる。このうち、ヒト及びペットが好ましく、より好ましくはヒトである。
【0054】
<任意成分>
また、前記成分(A)及び前記成分(B)、前記成分(A)及び前記成分(B)を含む剤若しくは組成物には、必要に応じて本技術の効果を損なわない範囲で、通常、化粧料や医薬部外品、医薬品等の皮膚外用剤等の種々の製剤に使用される成分を任意成分として含有させる又は配合しうることができる。当該成分として、例えば、防腐剤、細胞賦活剤、抗酸化剤、保湿剤、紫外線防止剤、溶剤(水、アルコール類等)、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、乳化剤、安定化剤、着色剤、光沢剤、矯味剤、矯臭剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、香料等が挙げられる。これらから適宜1種又は2種以上選択して使用することができる。また、本実施形態の剤の形態は、特に限定されず、液状、ペースト状、ゲル状、固形状、粉末状等のいずれの形態でもよい。
【0055】
また、本実施形態の組成物は、公知の製法によって得ることができる。
本実施形態の化粧料及び皮膚外用剤等として、具体的には、例えば、水中油型乳化物、油中水型乳化物、乳液、クリーム、化粧水、パック化粧料、リキッドファンデーション、美容液、パック、オールインワンジェル、日焼け止め、洗浄料などの基礎化粧料;メイク下地、BBクリーム、ファンデーション、頬紅、口紅等のメイクアップ化粧料;養毛料、ヘアトニック、シャンプー、リンス等の頭髪用化粧料;分散液、軟膏、液剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等のいずれの形態であってもよい。保湿効果やエモリエント効果等を期待するような、肌に使用する化粧料及び皮膚外用剤が好ましい。
【0056】
2.本発明に係る第二実施形態
【0057】
本第二実施形態は、前記成分(A)及び前記成分(B)、又はこれら併用若しくはこれら混合物、本第一実施形態の組成物等を、肌に使用する、表皮内の及び/又は角層内の結合水増強方法や水分蒸散抑制方法、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても表皮内の及び/又は角層内の結合水増強方法や水分蒸散抑制方法等を提供することができる。
前記使用は、特に限定されないが、肌に対する、塗布、塗擦、マッサージ、噴霧等によることが好適である。肌の適用部位は、皮膚であれば特に限定されないが、全身、頭皮、顔、腕、脚、手等から選択される1種又は2種以上が好適である。また、使用者は、マッサージ師、エステシャン、美容師等の業として行う施術者であっても、一般的なユーザやエンドユーザであってもよい。
前記成分(A)及び前記成分(B)の使用質量割合は、1:0.01~0.5であることが好適である。
また、前記成分(A)の対象に対する使用量又は塗布量は、特に限定されないが、前記成分(A)及び前記成分(B)の10%水溶液を調製し当該水溶液1gを使用又は塗布した場合、0.067~0.099gが好ましく、0.070~0.090gがより好ましく、0.086~0.090gがさらに好ましい。また、前記成分(B)の対象に対する使用量又は塗布量は、特に限定されないが、前記成分(A)及び前記成分(B)の10%水溶液を調整し当該水溶液1gを塗布した場合、0.001~0.033gが好ましく、0.010~0.030gがより好ましく、0.010~0.014gがさらに好ましい。
【0058】
本第二実施形態の方法における説明において、上記「1.本発明に係る第一実施形態」及び下記「3.本発明に係る第三実施形態」の説明と重複する、成分(A)、成分(B)、各含有量、各含有質量割合、製造方法、各構成、各方法、各用語などの説明については適宜省略するが、上記「1.本発明に係る第一実施形態」及び下記「2.本発明に係る第三実施形態」の説明が、本第二実施形態にも当てはまり、適宜採用することができる。含有量、含有質量割合を、使用量、使用質量割合としてもよい。
【0059】
3.本発明に係る第三実施形態
本第三実施形態は、組成物に配合するために用いられる、結合水増強剤若しくは水分蒸散抑制剤、及び、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下における結合水増強剤若しくは水分蒸散抑制剤を提供することができる。
また、本第二実施形態の剤は、(A)グリセリン及び(B)ポリグリセリンを含有してもよい。前記(B)ポリグリセリンは、ポリグリセリン-3が好適である。
前記成分(A)及び前記成分(B)の使用質量割合が、前記剤中、1:0.01~0.5であることが好適である。前記成分(B)が、前記組成物中、5質量%以下になるように添加することが好適である。前記成分(A)及び前記成分(B)の合計量が、組成物中、2.5~25質量%になるように添加することが好適である。
【0060】
本第三実施形態の剤における説明において、上述した「1.本発明に係る第一実施形態」「2.本発明に係る第二実施形態」の説明と重複する、成分(A)、成分(B)、各含有量、各含有質量割合、製造方法、各構成、各方法、各用語などの説明については適宜省略するが、上述した「1.本発明に係る第一実施形態」「2.本発明に係る第二実施形態」の説明が、本第三実施形態にも当てはまり、適宜採用することができる。含有量、含有質量割合を、使用量、使用質量割合としてもよい。
また、本第三実施形態の剤を含有する組成物、好適には当該組成物が化粧料又は皮膚外用剤を提供することができる。本第三施形態の剤を、「1.本発明に係る第一実施形態」で説明した前記組成物中の成分(A)及び成分(B)の含有量、含有質量割合になるように含有又は配合することが好適である。
【0061】
また、本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
・〔1〕 成分(A)グリセリン及び成分(B)ポリグリセリンを含有する、組成物。
前記組成物は、角層内における結合水増強用組成物、又は角層内における水分蒸散抑制用組成物が好適である。当該組成物は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下で使用するための組成物がより好適であり、当該低湿度として、相対湿度50~60%RHよりも低い相対湿度であることが好適であり、さらに、相対湿度20~40%RH以下が好適であり、室温程度(例えば、4℃~40℃)での使用がより好適である。
・〔2〕 前記成分(B)ポリグリセリンが、ポリグリセリン-3である、前記〔1〕に記載の組成物。
・〔3〕 前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合が、前記組成物中、1:0.01~0.5である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
・〔4〕前記組成物は、化粧料又は皮膚外用剤が好適である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の組成物。
・〔5〕前記組成物が、表皮内及び/若しくは角層内の結合水を増強するため、又は、表皮内及び/若しくは角層内の水分蒸散を抑制するため等に用いる、前記〔4〕に記載の組成物。
・〔6〕 低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下で用いる、前記〔5〕に記載の組成物。
・〔7〕 前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合が、前記組成物中、1:0.01~0.5である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の組成物。
・〔8〕 前記成分(B)が、前記組成物中、5質量%以下である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の組成物。
・〔9〕 成分(A)グリセリン及び成分(B)ポリグリセリンを含有する、組成物に配合するために用いられる、角層内における結合水増強剤、又は角層内における水分蒸散抑制剤。当該剤を含有する組成物、当該組成物は化粧料又は皮膚外用剤が好適である。
・〔10〕 (i)成分(A)グリセリンを含有する組成物を含む製品及び(ii)成分(B)ポリグリセリンを含有する組成物を含む製品から構成される製品キット。当該(i)組成物及び当該(ii)組成物を混合して肌に用いることが好適である。
・〔11〕 低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下で使用するための、より好適には低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下で保湿又はスキンケアに使用するための、前記〔1〕~〔9〕のいずれか1つに記載の組成物又は前記〔10〕記載の製品キット。
・〔12〕 前記保湿又はスキンケアが、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下において肌に潤いを与えるため若しくは肌の潤いを維持するため、低湿度環境下における健常肌の乾燥化を予防又は改善する低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下における乾燥肌を、予防、改善、又は治療に用いる、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の組成物又は前記〔9〕記載の製品キット。当該製品は、組成物収容用等の容器、組成物含浸用等のシート、包装フィルム等を使用してもよい。
【0062】
・〔13〕 表皮内及び/若しくは角層内の結合水増強のために用いる、又は表皮内及び/若しくは角層内における水分蒸散抑制のために用いる、(A)グリセリン及び(B)ポリグリセリン。好適には、当該成分(A)はグリセリン、及び/又は、当該成分(B)はポリグリセリン-3である。さらに、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下で用いることがより好適である。
・〔14〕 表皮内及び/若しくは角層内の結合水増強用、又は表皮内及び/若しくは角層内における水分蒸散抑制用の、剤又は組成物を製造するための、
成分(A)グリセリン、及び、成分(B)ポリグリセリン、又はこれらの使用。当該組成物が、化粧料、皮膚外用剤がより好適である。当該剤又は組成物が、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下にて使用する剤又は組成物がより好適である。
・〔15〕 前記〔1〕~〔12〕のいずれか1つ記載の組成物、製品キット若しくは前記〔9〕記載の剤を使用する、又は、成分(A)グリセリン、及び、成分(B)ポリグリセリンを使用する、表皮内及び/若しくは角層内の結合水増強方法若しくは当該水分蒸散抑制方法。当該方法が、より好適には、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下にて使用することを特徴とする方法である。
【実施例0063】
以下、実施例等に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例等は、本技術の代表的な実施例等の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0064】
<試験例1~9>
【0065】
試験例1~9の各試料及び下記<角層内の結合水量の測定方法>に従って求めた角層内の結合水量(mg)は、表1に示す。
【0066】
原料
グリセリン:ECOCEROL(ECOGREEN OLEOCHMICALS社製)
ポリグリセリン-3(トリグリセリン):PGL-S(阪本薬品工業社製)。ポリグリセリン-3は、上述したGPC分析により分子量240、上述したIOB値の求め方によりIOB値3.0であった。
ジプロピレングリコール(ADEKA社製)
1,3-ブチレングリコール(ダイセル社製)
【0067】
角層シートとして以下のものを使用した。
ヒト角層シート(BIOPREDIC International社製、製品番号:STR002 製品名:ヒト角質層 概要:腹部由来)
なお、試験例1のように試料無添加の角層シートを対照とし、これを100%とし、この対照と比較して結合水増強の判断を行う場合には、ヒト皮膚から角層を剥離したものを公知の方法にて、培養し調製したシート(例えば、二次元角層シート、三次元角層シート等)を使用してもよい。
【0068】
<DSC装置>
DSC装置:DSC7020(日立ハイテクサイエンス社製)
サンプルパン:ALクロメート処理簡易密封容器
測定モード:なし
【0069】
<角層内の結合水量の測定方法>
市販品のヒト角層シートを、1cm×1cmに調製し、乾燥状態の角層シートを得た。各水溶液は、表1に示すように、試験例2~9のようになるように調製し、これを各試験例の溶液とした。例えば、試験例7の「9.5%グリセリン+0.5%トリグリセリン含有水溶液」は、グリセリン9.5g、トリグリセリン0.5g及び残り水にて総量100gとし、これらを混合することにより得ることができる。
各試験例の各水溶液を滅菌済みシャーレ(直径10cm)内の約8割まで添加し、このシャーレ内に角層シートを入れ密封後、20分間浸漬した。浸漬後、板の上に置き、角層シート表面の水分を、キムワイプ(日本製紙クレシア社製)1枚で挟み込み、人差し指で3秒間押し付けることにて、拭き取った。
拭き取った角層シートをパン(Alクロメート処理簡易密封容器)に入れ、DSC測定装置及びDSC解析ソフトを用いて、下記に示す、第一DSC測定次いで第二DSC測定を行った。第一DSC測定にて、試料を含ませた角層シート中の凍結水量(質量:mg)を求め、第二DSC測定にて、試料を含ませた角層シート中の完全に水が蒸発した状態の角層シートの質量(mg)を求めた。試験例1~9の各試料について、順次、DSC測定を行った。
DSC測定装置を用いて得られた昇温過程の融解エンタルピーから凍結水量(自由水)(mg)を算出し、角層シート内の全ての水の量(mg)から凍結水量(mg)を差し引くことで、不凍水量(結合水量)(mg)を算出した(参考文献1:OKA T et al, Polymer 41(16):6055-6059及び参考文献2:Imokawa G et al, Exogenous Dermatology 3(2):81-98)。
【0070】
<第一DSC測定:凍結水量を求める測定>
本試験では、角層シート内に含まれる自由水は、角層内成分(主に角層細胞)にて弱く結合しているため、凍結水となるため、凍結水量(mg)を自由水量(mg)とした。測定温度範囲:25℃から-60℃に冷却した後に-60℃から25℃に昇温する温度設定、走査速度:5℃/minにてDSC測定し、下記の式から角層シート内に存在する凍結水量を求め、これを「凍結水量(mg)」とした。
凍結水量(mg)={融解ピーク面積(mJ/mg)×試料処理後の角層シート質量(mg)}/水の標準ΔH(mJ/mg)
なお、角層シート中の凍結水量(mg)は、得られたDSCチャートである、昇温過程の水の融解ピーク面積(融解エンタルピー)に基づき、DSC解析ソフト(Standard analysis)を用いて、求めた。このときの水の標準融解エンタルピー:333.1(mJ/mg)である。また、試料処理後の角層シート質量(mg)は、各試験例の各水溶液を20分間浸漬し、拭き取った後の角層シートの質量(mg)から、処理前の乾燥状態の角層シートの質量(mg)を差し引いた値である。
【0071】
<第ニDSC測定:角層シート中の全ての水の量を求める方法>
第一DSC測定Aの測定終了後、サンプルパンの上部に針で数カ所の穴をあけ、サンプルパンをDSCにセットし、温度範囲:25℃から120℃まで昇温、走査速度:5℃/minで測定し、測定により角層シートから蒸発した全ての水の量を求め、これを「角層内水量(mg)」とした。
【0072】
<DSCによる不凍水の算出方法>
本試験では、角層シート内に含まれる結合水は、角層内成分(角層細胞、細胞間脂質)や角層内に浸透した表1の試料物質に強く結合しているため、不凍水となるため、不凍水量(mg)を結合水量(mg)とした。
(1)凍結水を上記第一DSC測定にて求めた。凍結水量(mg)={融解ピーク面積(mJ/mg)×処理後の角層シートの重量(mg)}/水の標準ΔH(mJ/mg)
(2)角層内水量を上記第二DSC測定にて求めた。
(3)不凍水を下記にて求めた。不凍水量(mg)=角層内水量(mg)-凍結水量(mg)
一例として、第一DSC測定にて求められた、凍結水量は0.146mgであり、第二DSC測定から求められた角層中の全ての水の量が0.371mgであり、ここから0.371mg-0.146mg=0.225mgが不凍水量とした。なお、第二DSC測定にて求められた角層中の全ての水の量(0.371mg)は、〔試料処理後の角層シート質量0.825mg〕-〔第二DSC測定の昇温にて完全に全ての水が蒸発した状態の角層シート質量(mg)0.454mg〕から算出された値である。
【0073】
【0074】
<結果>
各試験例2~9は、試験例1の水(試料無添加)を対照として比較した場合、角層内の結合水はいずれも増強されていた。このなかでも、グリセリンとトリグリセリンの2成分を併用している、試験例5の9.5%グリセリン+0.5%トリグリセリンを含む水溶液が、試験例1の水のみ使用との対比において結合水増強率は1.8倍以上もあり、格別顕著な効果となっていた。さらに、試験例5のトリグリセリン添加と、試験例2のトリグリセリン無添加とを対比においても、試験例5の結合水増強率は試験例2の結合水増強率の約1.4倍もあり、格別顕著な効果があった。すなわち、10%グリセリンに、少量のトリグリセリンを添加した混合水溶液を用いることで、グリセリン単独の倍量以上に不凍水量になることが示唆された。
そして、角層内にある結合水は角層内と強く結合しているため凍らない水とすることができるので、得られた角層内の不凍水量を角層内における結合水量とすることができる。
よって、グリセリンに、少量のトリグリセリンを添加した混合水溶液を用いることで、グリセリン単独の倍量以上に、角層内の結合水量を増強又は増量することができることが示唆された。
【0075】
また、試験例5、試験例7及び試験例9の水溶液は、試験例2の10%グリセリン含有水溶液と比較して、べたつき感のなさが、ほぼ同じであった。一方、試験例3の24%グリセリン含有水溶液は、試験例2の10%グリセリン含有水溶液と比較して、べたつき感のなさが、悪く、べたつき感があった。試験例5から、トリグリセリン等のポリグリセリンをグリセリンと併用することで、べたつき感のなさを維持しつつ、非常に優れた角層内の結合水の増強効果があることが見出された。本実施形態におけるべたつき感のなさは、専門パネル1名にて、手の甲に試料0.5mLを塗擦したとき、10%グリセリン含有水溶液を基準にして、「10%グリセリン含有水溶液と比較して、べたつき感が、ある、同じ、ない」の3段階評価で、行った。
なお、本実施形態におけるべたつき感のなさの絶対的評価を行う場合には、特開2018-39789号公報に記載の〔実施例〕の試験方法3:べたつき感のなさに準じて行うことができる。
【0076】
<試験例10~12>
試験例11の試料として、10質量%グリセリン含有水溶液、試験例12の試料として、9.5質量%グリセリン+0.5質量%トリグリセリン水溶液を用い、それぞれについて、下記に示す<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価>及び<湿度環境変化下における水分蒸散抑制作用の評価>を行った。なお、対照の試験例10は、未塗布とした。これら評価の結果を表2及び表3に示した。
【0077】
<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価>
試験例10~12の各試料及び下記<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価方法>に従って求めた初期水分量に対する各時間の水分量比率(%)を表2に示す。
【0078】
<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価方法>
試験例10の未塗布及び試験例11~12の各基礎組成物(各試料)を用いて、低湿度環境下における水分蒸散抑制作用を確認した。低湿度環境下は、日本関東の冬のように外気が相対湿度50~60%RHよりも乾燥しさらにエアーコンディショナーで室内温度(約20~30℃)を管理している状態を想定し、22℃相対湿度30%RHでの測定を行った。さらに前記低湿度環境下に長時間いた場合を想定し、この長時間いたときの評価として測定時間は60分間と設定し、日本人男女9名(20~40代)の被験者に対して測定を行った。
【0079】
<測定方法>
被験者の測定部位である前腕内側を固形石鹸で洗浄し、22℃、30%RH環境下にて15分間馴化を行った後に、試験例11,12の各試料を塗布前の素肌の初期水分量を測定した。次に、パッチテスター(鳥居薬品株式会社製)のパット部分に試験例11及び試験例12の各試料を50μL滴下した。そして、この各試験例11,12を含むパッチテスターを被験者の前腕内側に15分間貼付を行い、試験例10は何も貼付ない状態(未塗布)で15分間放置した。15分経過後に各試料を含むパッチテスター(試験例10~12)を剥離し、剥離後から10分後、30分後、60分後の前腕内側にある各試料のパット部分と接触していた各部分(測定部位)の肌の水分量を、SKICON(株式会社ヤヨイ社製:定圧センサープローブ接触、高周波コンダクタンス変換方式)を用いて測定した。初期水分量に対する各時間の水分量の割合から、水分蒸散抑制作用を評価した。
ここで、初期水分量に対する各時間の水分量比率(%)は下記にて算出した。
初期水分量に対する各時間の水分量比率(%)={(各時間における水分量の平均値)/(試料塗布前の素肌の水分量の平均値)}×100
各時間における水分量の平均値とは、各被験者の各時間における水分量をそれぞれ合計し、各時間における水分量の各総量を、それぞれ総被験者の人数で割った平均値である。本試験例の総被験者の人数は、9名であった。
試料塗布前の素肌の水分量の平均値とは、各被験者の試料塗布前の素肌の水分量を合計し、総被験者の人数で割った平均値である。本試験例の総被験者の人数は、9名であった。
なお、総被験者は、少なくとも3名以上が望ましい。
【0080】
【0081】
表2:<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価>に示すように、試料を塗布しない試験例10においては、時間経過によらず初期値水分量からの変化は±10%に留まったのに対し、試験例11及び12は各時間において試験例10よりも高い水分量を示した。さらに、試験例11と12を比較すると、10%グリセリンに少量のトリグリセリンを含む試験例12の方が各時間において初期値に対する水分量が高く、低湿度環境下であっても、長時間にわたり水分の蒸散を抑制することが示唆され、より強く水分蒸散抑制作用を発揮することが確認された。
【0082】
<湿度環境変化下における水分蒸散抑制作用の評価>
また、湿度変化と水分量の関係性が研究されており、高湿度から低湿度への環境変化下において、より水分量が低下(乾燥)することが知られている(参考文献3:Sato J et al, Arch Dermatol Res (2001) 293:477-480参照)。そこで、試験例10~12の試料を用いて下記<湿度環境変化における水分蒸散抑制作用の評価方法>に従って求めた湿度環境変化下における初期水分量に対する各時間の水分量比率(%)を表3に示す。
【0083】
<湿度環境変化下における水分蒸散抑制作用の評価方法>
上述した<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価>を行った後に、試験例10の未塗布及び試験例11~12の基礎組成物を用いた肌部分について、下記<測定方法>に従って、さらに湿度環境変化下における水分蒸散抑制作用を確認した。高湿度から低湿度への湿度環境の変化は、特に限定されるものではないが、マスクをつけた状態から外した状態や浴室から浴室外に出た際の、実際に乾燥を感じる状況を想定し、22℃相対湿度50%RHから22℃相対湿度30%RHへの湿度環境変化での測定を行った。さらに実生活における湿度変化を想定し、湿度変化後の測定時間は180分間とし、日本人男女9名(20~40代)の被験者に対して測定を行った。
【0084】
<測定方法>
上述した<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価方法>において、22℃相対湿度30%RHの低湿度環境下で60分間測定後に、引き続き22℃、50%RH環境下にて105分間馴化を行った。その後、湿度変化直後に測定した場合、全体の水分量が高めに測定される可能性を考慮し、22℃、30%RH環境下にて15分間馴化を行った後、馴化後から0分後、60分後、90分後、180分後の前腕内側にある上記<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価方法>で水分量を測定した測定部位と同じ部分の肌の水分量を、SKICON(株式会社ヤヨイ社製)を用いて測定した。初期水分量に対する各時間の水分量の割合から、水分蒸散抑制作用を評価した。なお、初期水分量とは、上述した<低湿度環境下における水分蒸散抑制作用の評価方法>に記載の、被験者の測定部位である前腕内側を固形石鹸で洗浄し、22℃、30%RH環境下にて15分間馴化を行った後に、試験例11,12の各試料を塗布前の素肌の初期水分量である。
ここで、初期水分量に対する各時間の水分量比率(%)は上述した方法にて算出した。
また、このときの湿度環境変化下が、第一低湿度環境下が30%RH、第一高湿度環境下が50%RH、第二低湿度環境下が30%RHであり、隣接する「高湿度環境下の1期間」と「低湿度環境下の1期間」であって「高湿度環境下」から「低湿度環境下」に下がるときの湿度環境変化の差を求める場合、第一高湿度環境下の50%RH-第二低湿度環境下30%RHから、湿度環境変化の差は20%RHとなる。なお、仮に引き続き第二高湿度環境下60%RH次いで第三低湿度環境下20%RHの場合には、第二高湿度環境下60%RH-第三低湿度環境下20%RHから差「40%RH」となり、これらの平均は(「20%RH」+「40%RH」)/2から「30%RH」となり、本実施形態の効果が発揮し得る湿度環境変化の差の範囲は20~40%RHとしてもよい。
【0085】
【0086】
表3:<湿度環境変化下における水分蒸散抑制作用の評価>に示すように、試料を塗布しない試験例10においては、時間経過によらず初期水分量からの変化は±10%に留まったのに対し、試験例11及び12は各時間において試験例10よりも高い水分量を示した。さらに、試験例11及び12を比較すると、10%グリセリンに少量のトリグリセリンを含む試験例12の方が各時間において初期値に対する水分量が高く、高湿度から低湿度への湿度環境変化においても、さらに塗布後3~6時間という経過期間が長い場合であっても、より強く水分蒸散抑制作用を持続的に発揮することが確認された。
【0087】
このことから、角層内における結合水増強作用を有する成分は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても、非常に優れた角層内の水分蒸散抑制作用を有していることが確認できた。これにより、角層内における結合水増強作用を有する成分、すなわち、成分(A)グリセリン並びに成分(B)ポリグリセリン(好適にはポリグリセリン-3)、これら併用、又はこれら混合物は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下においても非常に優れた保湿又はスキンケア作用を有していること、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下における健常肌の乾燥化をより良好に予防又は改善できることを、確認できた。
【0088】
本発明者等は、多価アルコールのなかから、このような特定の組み合わせをすることで、単独成分よりも相乗効果的に角層内の結合水量の増強ができるとともに、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても水分蒸散抑制ができ、さらに低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下であっても保湿又はスキンケア効果(特に、健常肌の乾燥化の予防又は改善)が非常に優れていることを見出した。従来、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下における保湿又はスキンケアが十分にできているとはいえなかったことを、多価アルコールのなかからの特定の成分の組み合わせにて解決し得たことは、予想外の効果といえる。
【0089】
以下に、本実施形態における処方例を挙げるが、これにより本技術が狭く限定されることはない。本実施形態の各処方例の組成物は、前記成分(A)及び前記成分(B)により、より良好な角層内における結合水増強作用又は角層内における水分蒸散抑制作用を有することができ、また、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下で用いるための組成物とすることができる。
【0090】
処方例1:乳液(水中油型) 質量%
1.精製水 残量
2.グリセリン (成分(A)) 5
3.トリグリセリン (成分(B)) 1
4.エタノール 5
5.1,3-ブチレングリコール 5
6.メチルグルセスー10 2
7.ジメチコン 25℃における動粘度100mm2/s 5
8.エチルヘキサン酸セチル 2
9.トコフェロール 0.02
10.PEG-9ジメチコン 0.3
11.PEG-11メチルエーテルジメチコン 0.3
12.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー 0.2
13.水酸化Na 0.06
14.フェノキシエタノール 0.3
15.温泉水 1
16.セリン 0.117.トレオニン 0.01
18.ヒアルロン酸Na 0.1
【0091】
(製造方法)
A:室温にて成分(1)~(6)を均一に混合する。
B:Aに成分(12)~(13)を添加し、均一に混合攪拌する。
C:Bに成分(7)~(11)を添加し、均一に混合攪拌する。
D:Cに成分(14)~(18)を添加し、混合攪拌することで乳液(水中油型)を得た。
前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合は、前記乳液中、1:0.2であった。以上のようにして得られた処方例1の乳液(水中油型)は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下での結合水量増強、水分蒸散の抑制ができる。
【0092】
処方例2:クリーム(水中油型) 質量%
1.精製水 残量
2.グリセリン (成分(A)) 8
3.トリグリセリン (成分(B)) 0.2
4.エタノール 5
5.1,3-ブチレングリコール 5
6.メチルグルセスー10 2
7.マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル 3
8.オレイン酸フィトステリル 1
9.メドウフォーム油 5
10.PEG-10水添ヒマシ油 0.5
11.ポリソルベート80 0.1
12.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー 0.3
13.水酸化Na 0.09
14.フェノキシエタノール 0.3
15.温泉水 1
16.セリン 0.1
17.トレオニン 0.01
18.ヒアルロン酸Na 0.1
19.シリカ 0.5
【0093】
(製造方法)
A:室温にて成分(1)~(6)を均一に混合する。
B:Aに成分(12)~(13)を添加し、均一に混合攪拌する。
C:Bに成分(7)~(11)を添加し、均一に混合攪拌する。
D:Cに成分(14)~(19)を添加し、混合攪拌することでクリーム(水中油型)を得た。
前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合は、前記クリーム中、1:0.025であった。以上のようにして得られた処方例2のクリーム(水中油型)は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下での結合水量増強、水分蒸散の抑制ができる。
【0094】
処方例3:美容液 質量%
1.精製水 残量
2.グリセリン (成分(A)) 8
3.トリグリセリン (成分(B)) 3.2
4.エタノール 5
5.1,3-ブチレングリコール 5
6.PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン 6
7.ジカプリン酸PG 3
8.ジメチコン(25℃における動粘度100mm2/s) 5
9.(ジメチコン/ビニルジメチコン)/クロスポリマー 2
10.PEG-10水添ヒマシ油 0.5
11.ポリソルベート80 0.1
12.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー 0.2
13.水酸化Na 0.06
14.フェノキシエタノール 0.3
15.温泉水 1
16.セリン 0.1
17.トレオニン 0.01
18.ヒアルロン酸Na 0.1
19. アウレオバシジウムプルランス培養物 5
【0095】
(製造方法)
A:室温にて成分(1)~(6)を均一に混合する。
B:Aに成分(12)~(13)を添加し、均一に混合攪拌する。
C:Bに成分(7)~(11)を添加し、均一に混合攪拌する。
D:Cに成分(14)~(19)を添加し、混合攪拌することで美容液を得た。
前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合は、前記美容液中、1:0.4であった。以上のようにして得られた美容液は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下での結合水量増強、水分蒸散の抑制ができる。
【0096】
処方例4:化粧水 質量%
1.精製水 残り
2.グリセリン (成分(A)) 15
3.トリグリセリン (成分(B)) 0.75
4.1,3-ブチレングリコール 5
5.エタノール 1
6.イソステアリン酸PEG-50水添ヒマシ油 0.2
7.香料 0.1
8.シクロヘキサンー1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール 0.1
9.フェノキシエタノール 0.3
【0097】
(製造方法)
A:室温にて成分(1)~(4)を均一に混合する。
B:室温にて成分(5)~(9)を均一に混合する。
C:AにBを添加し、均一に混合攪拌することで化粧水を得た。
前記成分(A)及び前記成分(B)の含有質量割合は、前記化粧水中、1:0.05であった。以上のようにして得られた化粧水は、低湿度環境下及び/又は湿度環境変化下での結合水量増強、水分蒸散の抑制ができる。